台本概要
335 views
タイトル | ラスト・ドライブ |
---|---|
作者名 | 青太郎。 (@a_waiiro) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) ※兼役あり |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
それぞれの― 「目的地」に向かって 車は走り出す――― ※男女サシ劇台本です。 (役になりきって頂ければ性別不問です。) ※兼役あり、となっていますが 実際のところ2人向けの台本です。 (本編参照。伴って、前読みオススメします。) 読みやすいよう、語尾やアドリブ改変 演者様のセンスでお任せします。 ―車の運転は、好きですか? ―夜の高速道路が好きです。 作/青太郎。 335 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
男 | 男 | 99 | 運転席の男 |
女 | 女 | 92 | 助手席の女 |
優人 | 男 | 44 | 葵を愛している |
葵 | 女 | 39 | 優人を愛している |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:ラスト・ドライブ―――
0:
0:
優人: (男役の方は、予めチェック必須)
葵: (女役の方は、予めチェック必須)
0:
0:
0:目的地に向かい車を走らせる男
0:
0:
男:ごめん!お待たせ
女:ああー!やっと来た!
男:やっとってなんだよ
男:俺はね、これでも安全運転で尚且つ急いで――
女:(遮る)あーもう、わかったわかった、わかったから
男:ちょ、おまえなあ…
女:いくよ?
女:これでも安全運転で尚且つ急いでー
女:それでも法定速度を守りながら、来てくれてどうもー!!
女:…でしょ?
男:う・・・
女:どう?大正解なんじゃない?
男:…相変わらず、俺の言いたいことはお見通しなのか
女:ははっ!当たり前じゃないのー
女:何年の付き合いだと思ってるの?
男:まあ、そうだな
女:うーん、でもねえ。今日は遅れてほしくなかったな
男:まあ、うん。ですよね…
女:はい!そこの君!
女:今日は何の日でしょうか!
男:・・・誕生日だろ
女:声が小さい、もう一度!
男:だーかーら!あなた様の誕生日でございます!
男:…これでいいだろ
女:そう!そうだよー!やれば出来るじゃないかー!
男:馬鹿にされてる気しかしないんだが
女:ははっ!馬鹿になんてしてないよー…
女:…ちょっとからかっただけ
男:それを馬鹿にしてるって言うんだろうが
女:(いたずらっぽく笑う)えへへっ!
男:―…
男:はあ…えーとじゃあ、やり直させて
女:お?おお?そうだなあーじゃあいいよ!どうぞ!
男:お前のそういうところ、本当に変わらないのな
女:あーもう!いいから、さあ!早く早く!
男:だあーもう!!
男:…―えっと、誕生日という大事な日に遅れてしまって、
男:大変申し訳ございません…でした!!
女:わあ!さっすが私の彼氏様!気分がいいもんだね!
男:お前なあ…
女:はい!じゃあ気を取り直して
女:私の誕生日ドライブ、出発だよー!!
男:はいはい、行きますよ
男:―…
男:あ、
女:ん?なあに?
男:シートベルト
女:あー、はいはい…っと
男:うん。よしそれじゃあ…
男:(棒読み)はーい行きますよー。楽しみだな楽しみだなあー
女:その棒読み、どうにかなりませんかねえー
男:何を今更。俺はもともとこんなんだよ
女:だめー。今日は、だめ
男:(ため息)行きましょうか、お姫様
女:お?!いいねえ!ふふ、本当に相変わらずだね。君も
男:お前だけには言われたくないけどな
女:ははっ!まあまあ、行きましょう!
0:しばらくドライブする二人
0:
0:
0: ・・・――
女:…うん。そっか
女:私たち二人が訪れた場所…
女:たくさん巡ってくれてるんだね
男:あ、バレた?
女:え?いやいや、逆にバレないと思ったの?
男:もー…恥ずかしいなぁ
男:そこはさ、
男:敢えて気付かないフリしてくれてもいいんじゃないか
女:ははっ!私がそんなに気の利くやつだと思っているのかな?
男:あーそうでした、そうでしたよ!
男:ほんっと、変わらないよお前は
女:そりゃどうもー!!
女:―…
女:はあ・・・
女:それにしても懐かしいね
男:んー?
女:君の「助手席」
女:ハンドル握る手とか、癖とか、横顔とかさ
女:そういうの見ながら景色も見たりして…
女:なんか…すごく落ち着くんだよねー
女:あ、好きな音楽流したりもしたよね!!
男:そうだなあ…懐かしいな
男:せっかく好きな音楽流してるのに、
男:お前ずっと話しかけてくるからさ
男:ほとんど曲が耳に入ってこなかったけどね
女:あはっ!それはそれは、すみませんね!ふふ
男:…まあ、でも
女:ん?
男:お前が話してると、なんかラジオ流してるみたいでさ
男:全然、飽きなかった
女:むぅ…?
女:それは、褒められてるのかどうか、難しいところだね
男:あれ、伝わらない?どう考えても褒めてるだろ
女:んんー…本当に、相変わらず変わってるなあ
0:他愛もない会話と、ドライブは続く
0:
0:
0:…いつの間にか夕暮れ時に
0:
男:随分、走ったなー
女:うん!ありがとう
男:思い出の場所巡り、だいだい終わったな
男:まあ、車内から景色見るだけだったけどさ
女:いいの、それで!
女:いやあーそれにしても…思い出の場所巡りかあ
女:海沿いの星が綺麗だった場所も、
女:二人でいつまでも話し込んだ公園も…―
女:―…初めて大喧嘩した居酒屋も
男:居酒屋のエピソードは今いらないだろ
女:あはっ!ごめんて!
女:だってさあ、どれも私にとっては、最高の思い出なんだもん
男:そっか・・・
女:うん、そう。最高の、思い出
男:―…あ、ちょっとコンビニ寄っていい?何か飲む?
女:ふふん、私が何を飲むかは、
女:君が一番よく知ってるはずだよね?
男:やはりそう来ましたか
女:そりゃそうだよー!
男:わかった、じゃあ車で待ってて、すぐ戻る
女:はーい!
0:足早に買い物に向かう男
女:・・・車で待ってて、か
女:くるまで、まってて・・・
女:なんてね
0:買い物を済ませた男が戻る
男:おまたせー!はいっ(飲み物を渡す)
女:わっ!ありがとう!
男:お前が好きなのは、それだよなあ
女:うんうん!ホットココアだね、さっすが!!
男:いつもそればかり飲んでるんだから、誰でもわかるだろ
女:まあ、そうかも知れないけど…
女:君が買ってきてくれたから嬉しいんだよ?
男:へぇ?可愛いとこあるじゃん
女:いつも可愛いですけど?という訳で、いただきまーす!
男:はいはい、どうぞ。俺はコーヒー飲む
女:あ、じゃあ乾杯する?
男:か、乾杯ってお前…でも
女:しようよー!だって私、誕生日だよ?
男:でも、お前っ――
女:(食い気味で)お願い!
男:・・・ったく、じゃあ、せーので
女:!!…うんっ!!!
男:いくよ?せーのっ
女:かんぱーーーーーーい!!!
男:(遅れて)んぱい…
女:ちょっ!タイミング合わせてよー!!
女:それに何?『んぱい』って。あははっ!
男:お前の元気が良すぎるんだよ
女:んー…まあ、そういう事にしておいてあげましょう
男:・・・
男:なあ、こんな誕生日でいいの?
女:え?何言ってんの、最高だよ?
女:あ!そうだ、ココアも温かいうちに飲んじゃおー
男:火傷するぞ
女:だってさー…本当に、楽しいんだもん
男:そっか…うん。俺も
女:ははっ!もうー!可愛いんだからあー!(覗き込む)
男:わっ!やめろっ!ほら、運転するぞ!!
0:二人を乗せた車は、再び走り出す
0:
0:
0:すっかり夜になっていた
0:夜景が綺麗で、綺麗で…
0:なんて、皮肉なのだろうか
0:
0:
男:もう、だいぶ走ったな
男:…なあ、今日が終わる前に、行きたいところとかあるか?
女:えー……まだドライブしてたいのに
男:日付変わっちゃうだろ、誕生日はどうするんだよ
女:あ、そっか
男:ぷっ…ははは!あほか!
女:あ…やっと笑った
男:え?
女:あれ?まさか無自覚?
女:あのねえー!
女:せっかく可愛い彼女の誕生日だというのに、
女:ずっと仏頂面だったんだよ?
男:あ、え…ごめん
女:いや、そこは真面目に謝られても、反応に困る。ふふっ
男:~なんだよ、もう!
女:ふふ。うーん、そっかあ、行きたいところかあ…
男:ああ、そうそう。どこでもいいよ
女:どこでもいいんだ?
男:お、おう…
女:なら君の家だね!
男:はああ!?
男:いやいやお前なあ、
男:こんな夜中にいきなり連れて行ったら、親がびっくりするだろ!
女:どれくらい、びっくりするかな?
男:想像出来ないくらい、びっくりするだろうな
女:あはは!そうだよね
女:…ちょっと久しぶりに、ご挨拶でもって思ったんだけどね
男:それは大丈夫だから…(ため息)
男:こんな突拍子もないことを言ってたって事は、ちゃんと伝えておく
女:ちょっと!?それ私の印象悪くならないように頼むよ?
男:はいはい
:
男:・・・で、どうする?
女:うーん、そうだねえー……
女:あっ!!!
男:お?どこか行きたいところ見つかった?
女:うん!花屋!お花屋さんに行きたい!!
男:また突拍子もなく…
女:だってだって!私、誕生日なのにまだお花もらってないんだよ?
男:だって、それは…
女:あのねえ、
女:君が毎年くれる花は、センスの欠片(かけら)もないんだよ
男:はいはい、すみませんね。センスの欠片もない花を!
女:うむ。だから今年は私が選ぶ
男:…は?
女:聞こえなかった?私が選ぶの
男:それは…
女:いいから!さあさあ!!お花屋さんに出発だー!
男:(ため息)…一度言い出したら、ほんっと聞かないよなあ…
男:わかった、ちょっと待って。
男:この時間にやってる花屋スマホで探すから
女:おお!さすが頼りになる彼氏様!!
男:またそうやって、からかって
女:からかってません!からかってませんー!!
男:はいはい
男:・・・
女:・・・どう?ありそう?
男:あ、ここギリギリ!
男:もうすぐ閉まっちゃうから早く行こう!
女:やったあー!!お花お花ー!!
男:ほら!シートベルト!
女:あ、はいはい…っと!さあ行こうー!!
男:ほんっと…元気だなあ
0:
0:花屋へと車は走り出す
0:
0:
男:よし、ギリギリセーフ
男:さあ着きましたよ、お姫様
女:うんうん!素晴らしい!
女:早く行こうと言いつつも、
女:法定速度をちゃんと守るのが実に君らしかったよ!
男:俺は安全運転なの!
女:わかってるって!ほら、早くしないとお店閉まっちゃうよ
男:ああ、えーと…車から花見える?
女:うーん…あ、見える見える!
男:良かった、どんな花がいいの?
女:えーと、そうだなあ・・・―
女:あっ!あの花束になってるやつがいい!
男:ん?どれ?
女:あれあれ、あの右手前の、ほら
男:え?…どれだ?
女:ほら、ピンクとかオレンジとかの・・・
女:明るい色が花束になってるやつ!!
男:・・あーあれか…あれはちょっと違――
女:(遮る)あれがいいの!!
女:明るくて楽しくて元気が出る花束…絶対あれがいい!
男:でも…―え?
男:俺が毎年あげてる花、そんなに嫌だった…?
女:だから、センスがないと言ったはずだよ
男:う……まあ確かに、あの明るい花束とは真逆だったかもな
女:でしょう?わかればよろしい!
女:―ささっ!早く早く、お店閉まっちゃうんでしょ
男:ああ、うん。すぐ買ってくるからちょっと待ってて
女:はーい!!
0:閉店ギリギリで花束を買いに行く男
0:その様子は、どこか気恥ずかしそうで
0:
0:そんな男を、優しく見つめる瞳
0:
男:はい、お待たせ。どうぞ(花束を渡す)
女:わあ・・・っ!
男:誕生日おめでとう。今年のプレゼントは、その花束ですよ
女:ありがとう…
女:明るくてすごく元気をもらえる花束だね!…嬉しい
男:…買うの、ちょっと恥ずかしかった
女:知ってる!ふふ、ありがとう本当に
女:今日一日、私のわがままに付き合ってくれて
男:いや、俺も楽しんでたからさ
男:やっぱりあれだな…助手席は少しやかましいくらいがいいな
女:やかましいって何よ、やかましいって
男:何というか、いい意味でだよ
女:ふうん?
男:・・・
男:…じゃあ、そろそろ行くか
女:うん。日付変わっちゃうもんね
男:よし任せろ。
男:安全運転で、尚且つ法定速度を守りながら向かいますね
女:うん!頼みましたよー!よし、出発だー!
0:「目的地」へと、車を走らす
0:
0:
0:二人の「目的地」とは
0:
0:車が止まる
0:
男:・・・着いたよ
男:少し、歩きながら話そうか
0:ゆっくりと歩き出す
男:お前のお願いとは言え、
男:今日は本当に一日中運転してた気がするよ
男:しばらく運転なんてしてなかったから、
男:久しぶりにドライブなんてしたなあ…
男:助手席にはやかましい奴がいて、なんか俺、本当に楽しかった
0:ジャリジャリと足音が響く
男:俺さ、もう車の運転なんて出来ないと思ってたから
男:―…あの日、俺の車で出かける途中だっけ。
男:俺、思わずハンドル左に切ったのにさ…なんで…
男:俺のほうだけ助かっちゃったんだろうな
男:あの日はお前の誕生日で、最高の一日にするはずだったのに…
男:まさか、目の前から車が突っ込んでくるなんて、あんまりだよな
0:
男:なあ…葵。
0:
男:病院で目が覚めて、葵が即死だったって聞いて…
男:俺しばらく頭の中真っ白になっちゃってさ。
男:―だってさっきまで笑ってたんだよ葵は、俺の中で。
男:そんなの信じろっていうほうが無理だろ?
男:葵がいなくなったなんて思えなかったし、実感なんて全然わかなくて…
男:なのに、車に乗るたびに考えちゃうんだよ
男:なんで…俺の助手席はこんなに静かなんだろうって…
男:やかましい葵の声が聞きたいなあって
男:そしたら、だんだん運転するのも怖くなっちゃってさ…
男:本当、情けないよな
男:―…もう運転なんて、出来ないんだって思ってたのに…
男:葵にはわかってたんだな。
男:だから今日、わざわざドライブなんて行きたがったんだよな
男:俺が運転することから逃げないように・・・
男:葵の死から、現実から逃げないように
男:ちゃんと、前に進んで欲しかったんだよな・・・―
0:葵のお墓の前に着く
0:
男:葵、着いたよ。花、ここに置くよ
男:――…なあ、そろそろ返事してくれよ…
0:
葵:ばか優人
優人:葵…
0:悲しく微笑む葵と、優人と、静寂
0:
0:
0:
0:・・・
葵:ははっ…優人にはやっぱり、全部お見通しかあ
葵:さすが優人だね、花のセンスはないけど
優人:葵…っ
葵:もう!またそんな暗い顔して。
葵:優人さ、いつも私の命日にお花と一緒に来てくれるけどね
葵:お花も優人も…なんだか辛気臭いの
優人:だって、それは…!
葵:優人。確かに命日だけど、私の大事な誕生日でもあるんだよ
優人:・・・っ!
葵:それにあの事故は、優人は何も悪くない。
葵:だって優人だって被害者なんだよ?
葵:なのに自分の事ばかり責めて、いつも暗い顔してさ
優人:―…ごめん、ごめんな、葵
葵:ほら!また謝った!
葵:毎年毎年そんなんだから今年こそはね、
葵:優人のそんな顔見たくないなーって思ってたのに
葵:優人はさ、名前の通り、優しすぎるんだよ…
優人:…ごめん
葵:はい出た!もう謝るの禁止!…次、謝ったらもう知らないからね
優人:・・・本当に、相変わらずだな葵は
葵:優人もね!…はぁー…今年は本当に嬉しかったなあ
優人:うん
葵:久しぶりに思い出の場所巡りも出来たし
葵:…優人の隣は、やっぱり心地よかった
優人:うん…
葵:それに――…
優人:…それに?
葵:ここに置いてあるじゃん
葵:私らしく明るくて元気な花束がある
葵:それが、最高のプレゼントなの
優人:俺、本当にセンスなかったんだな
葵:ほんとだよ!私のこと、誰よりも知ってるくせに
優人:だな・・・―
優人:なあ、葵。今日の命日、本当にこれで良かったのか?
葵:…命日だけど、私の誕生日だよ
葵:私はね、優人。今、最高に幸せなんだ
優人:…うん
葵:ありがとう、本当に
優人:・・・
葵:私のわがままにたくさん付き合ってくれて、
葵:ありがとう。だから…―
葵:―…笑って?笑ってる優人でいてほしい。
葵:私ね、優人の笑顔が大好きなんだ
0:日付が変わる
0:
葵:・・・
葵:誕生日、終わっちゃったね
優人:…ん
葵:ずっとドライブが終わらなきゃ良かったのになぁ…なんてね
葵:わがままだよね。私バカだからさ、色々考えちゃった
優人:色々って、何を?
葵:―・・・助手席、優人のとなり
優人:え?
葵:私の特等席。
葵:あの「助手席」に、いつか違う子が座るのかなあって…
葵:優人はその子に、どんな顔して笑うんだろうなって考えちゃって
葵:おかしいよね…?それを望んでたはずなのに、
葵:なんか想像したら嫉妬しちゃってさ…
葵:―こんな事言ったら優人困らせちゃうのに、ほんと私バカだ―…
優人:バカじゃない!!あの助手席は葵の特等席なんだろ!?
優人:だったら俺はっ―
葵:(遮る)それじゃだめなんだって!!前に進んでよ!!
葵:私の事なんて忘れてさあ…!
葵:とっとと幸せになってよっ…!!!
優人:忘れられる訳ないだろ!?
優人:俺は車に乗るたびにっ…葵を…っ――
葵:もういないんだって!!私もう死んじゃったんだよ!
葵:…っお願いだから…!
葵:お願いだからっ!!笑ってる優人でいてよ…っ!
優人:なに、言って…
葵:…あれ、私…言ってる事めちゃくちゃだ
葵:嫉妬するとか、前に進んでとか…ごめん優人
優人:葵っ!!!
葵:っ・・・!
葵:本当は忘れてほしくなんかないよ!!!
葵:他の誰かに笑いかけてる優人なんて、いやだよ…っ!
葵:寂しいに決まってるじゃん…!
優人:っ…だから俺は!!
葵:でもっ!!…お願い。最後のわがまま聞いて…
葵:私にかっこつけさせてよ…。
葵:ほんと、ごめん、言ってる事めちゃくちゃで
葵:忘れろって言ったり、寂しいって言ったり、
葵:私ほんとバカだけどさ…
優人:…葵がバカなのは、いつもだろ
葵:ははっ…そうだったね、あのね。優人
優人:…うん
葵:ありがとう。本当に、ありがとう…幸せになってね
優人:・・・
葵:せっかくかっこつけたんだから、返事くらいしてよ
優人:…ばか
葵:っふふ…ばかなのは知ってるよ
0:
葵:――…さてと、私もしっかりしなきゃね
優人:・・・葵?
0:「覚悟」の時が二人にやってくる
0:
0:
0:
0:夜の暗さが、冷たさが、「別れ」を意識させた
0:
葵:――…もう、いくね。優人
優人:・・・
葵:私いなくても、ちゃんと笑っててね?
優人:…わかった、わかったから、もう
葵:ほんとに?ちゃんとだよ、笑っててね?
優人:葵、本当に変わらない
葵:え?
優人:…しつこい
葵:ははっ!名残惜しくなちゃって…バカだね私
葵:…でも、かっこつけるね
0:葵、深く深呼吸をする
0:
葵:―…それじゃあ、ばいばい。優人
優人:…っ!!
優人:バカなんかじゃないっ!葵はっ…
優人:ばか正直なんだよ、ばか…!!
0:葵が優しく微笑む
優人:っ…!葵っ!!葵の笑顔、俺、大好きだよ!!
優人:ずっと…っ!
0:
0:
優人:Ⅿ)葵はそれを聞くと、涙をこぼしながら
優人:Ⅿ)くしゃくしゃに笑って消えていった
0:
優人:やっぱりその笑顔反則だな…っばか…
0:
0:・・・
0:
優人:Ⅿ)車に戻ると助手席には
優人:未開封のホットココアがポツンと置かれている
優人:もうとっくに冷たくなった「ホットココア」
0:
優人:Ⅿ)俺はエンジンをかける
優人:今日、あんなにやかましかった助手席が
優人:こんなにも静まり返っている
優人:――来年は
優人:来年はどんな花にしようか
優人:葵、俺はどうすればいいだろう
0:
優人:Ⅿ)葵の言葉、一つ一つを思い出す
葵:Ⅿ)私らしく明るくて元気な花束がある
葵:Ⅿ)それが最高のプレゼントなの
優人:Ⅿ)そう、葵のような…
葵:Ⅿ)優人はさ、名前の通り、優しすぎるんだよ
優人:Ⅿ)明るくて元気な優しい花を…
葵:Ⅿ)優人の笑顔が大好きなんだ
優人:Ⅿ)そんな花束を君に届けよう
0:
0:
0:…
優人:ちゃんと笑顔で前を向くよ
優人:これからは…きっと
0:
0:
優人:「葵。ありがとう」
0:了
0:ラスト・ドライブ―――
0:
0:
優人: (男役の方は、予めチェック必須)
葵: (女役の方は、予めチェック必須)
0:
0:
0:目的地に向かい車を走らせる男
0:
0:
男:ごめん!お待たせ
女:ああー!やっと来た!
男:やっとってなんだよ
男:俺はね、これでも安全運転で尚且つ急いで――
女:(遮る)あーもう、わかったわかった、わかったから
男:ちょ、おまえなあ…
女:いくよ?
女:これでも安全運転で尚且つ急いでー
女:それでも法定速度を守りながら、来てくれてどうもー!!
女:…でしょ?
男:う・・・
女:どう?大正解なんじゃない?
男:…相変わらず、俺の言いたいことはお見通しなのか
女:ははっ!当たり前じゃないのー
女:何年の付き合いだと思ってるの?
男:まあ、そうだな
女:うーん、でもねえ。今日は遅れてほしくなかったな
男:まあ、うん。ですよね…
女:はい!そこの君!
女:今日は何の日でしょうか!
男:・・・誕生日だろ
女:声が小さい、もう一度!
男:だーかーら!あなた様の誕生日でございます!
男:…これでいいだろ
女:そう!そうだよー!やれば出来るじゃないかー!
男:馬鹿にされてる気しかしないんだが
女:ははっ!馬鹿になんてしてないよー…
女:…ちょっとからかっただけ
男:それを馬鹿にしてるって言うんだろうが
女:(いたずらっぽく笑う)えへへっ!
男:―…
男:はあ…えーとじゃあ、やり直させて
女:お?おお?そうだなあーじゃあいいよ!どうぞ!
男:お前のそういうところ、本当に変わらないのな
女:あーもう!いいから、さあ!早く早く!
男:だあーもう!!
男:…―えっと、誕生日という大事な日に遅れてしまって、
男:大変申し訳ございません…でした!!
女:わあ!さっすが私の彼氏様!気分がいいもんだね!
男:お前なあ…
女:はい!じゃあ気を取り直して
女:私の誕生日ドライブ、出発だよー!!
男:はいはい、行きますよ
男:―…
男:あ、
女:ん?なあに?
男:シートベルト
女:あー、はいはい…っと
男:うん。よしそれじゃあ…
男:(棒読み)はーい行きますよー。楽しみだな楽しみだなあー
女:その棒読み、どうにかなりませんかねえー
男:何を今更。俺はもともとこんなんだよ
女:だめー。今日は、だめ
男:(ため息)行きましょうか、お姫様
女:お?!いいねえ!ふふ、本当に相変わらずだね。君も
男:お前だけには言われたくないけどな
女:ははっ!まあまあ、行きましょう!
0:しばらくドライブする二人
0:
0:
0: ・・・――
女:…うん。そっか
女:私たち二人が訪れた場所…
女:たくさん巡ってくれてるんだね
男:あ、バレた?
女:え?いやいや、逆にバレないと思ったの?
男:もー…恥ずかしいなぁ
男:そこはさ、
男:敢えて気付かないフリしてくれてもいいんじゃないか
女:ははっ!私がそんなに気の利くやつだと思っているのかな?
男:あーそうでした、そうでしたよ!
男:ほんっと、変わらないよお前は
女:そりゃどうもー!!
女:―…
女:はあ・・・
女:それにしても懐かしいね
男:んー?
女:君の「助手席」
女:ハンドル握る手とか、癖とか、横顔とかさ
女:そういうの見ながら景色も見たりして…
女:なんか…すごく落ち着くんだよねー
女:あ、好きな音楽流したりもしたよね!!
男:そうだなあ…懐かしいな
男:せっかく好きな音楽流してるのに、
男:お前ずっと話しかけてくるからさ
男:ほとんど曲が耳に入ってこなかったけどね
女:あはっ!それはそれは、すみませんね!ふふ
男:…まあ、でも
女:ん?
男:お前が話してると、なんかラジオ流してるみたいでさ
男:全然、飽きなかった
女:むぅ…?
女:それは、褒められてるのかどうか、難しいところだね
男:あれ、伝わらない?どう考えても褒めてるだろ
女:んんー…本当に、相変わらず変わってるなあ
0:他愛もない会話と、ドライブは続く
0:
0:
0:…いつの間にか夕暮れ時に
0:
男:随分、走ったなー
女:うん!ありがとう
男:思い出の場所巡り、だいだい終わったな
男:まあ、車内から景色見るだけだったけどさ
女:いいの、それで!
女:いやあーそれにしても…思い出の場所巡りかあ
女:海沿いの星が綺麗だった場所も、
女:二人でいつまでも話し込んだ公園も…―
女:―…初めて大喧嘩した居酒屋も
男:居酒屋のエピソードは今いらないだろ
女:あはっ!ごめんて!
女:だってさあ、どれも私にとっては、最高の思い出なんだもん
男:そっか・・・
女:うん、そう。最高の、思い出
男:―…あ、ちょっとコンビニ寄っていい?何か飲む?
女:ふふん、私が何を飲むかは、
女:君が一番よく知ってるはずだよね?
男:やはりそう来ましたか
女:そりゃそうだよー!
男:わかった、じゃあ車で待ってて、すぐ戻る
女:はーい!
0:足早に買い物に向かう男
女:・・・車で待ってて、か
女:くるまで、まってて・・・
女:なんてね
0:買い物を済ませた男が戻る
男:おまたせー!はいっ(飲み物を渡す)
女:わっ!ありがとう!
男:お前が好きなのは、それだよなあ
女:うんうん!ホットココアだね、さっすが!!
男:いつもそればかり飲んでるんだから、誰でもわかるだろ
女:まあ、そうかも知れないけど…
女:君が買ってきてくれたから嬉しいんだよ?
男:へぇ?可愛いとこあるじゃん
女:いつも可愛いですけど?という訳で、いただきまーす!
男:はいはい、どうぞ。俺はコーヒー飲む
女:あ、じゃあ乾杯する?
男:か、乾杯ってお前…でも
女:しようよー!だって私、誕生日だよ?
男:でも、お前っ――
女:(食い気味で)お願い!
男:・・・ったく、じゃあ、せーので
女:!!…うんっ!!!
男:いくよ?せーのっ
女:かんぱーーーーーーい!!!
男:(遅れて)んぱい…
女:ちょっ!タイミング合わせてよー!!
女:それに何?『んぱい』って。あははっ!
男:お前の元気が良すぎるんだよ
女:んー…まあ、そういう事にしておいてあげましょう
男:・・・
男:なあ、こんな誕生日でいいの?
女:え?何言ってんの、最高だよ?
女:あ!そうだ、ココアも温かいうちに飲んじゃおー
男:火傷するぞ
女:だってさー…本当に、楽しいんだもん
男:そっか…うん。俺も
女:ははっ!もうー!可愛いんだからあー!(覗き込む)
男:わっ!やめろっ!ほら、運転するぞ!!
0:二人を乗せた車は、再び走り出す
0:
0:
0:すっかり夜になっていた
0:夜景が綺麗で、綺麗で…
0:なんて、皮肉なのだろうか
0:
0:
男:もう、だいぶ走ったな
男:…なあ、今日が終わる前に、行きたいところとかあるか?
女:えー……まだドライブしてたいのに
男:日付変わっちゃうだろ、誕生日はどうするんだよ
女:あ、そっか
男:ぷっ…ははは!あほか!
女:あ…やっと笑った
男:え?
女:あれ?まさか無自覚?
女:あのねえー!
女:せっかく可愛い彼女の誕生日だというのに、
女:ずっと仏頂面だったんだよ?
男:あ、え…ごめん
女:いや、そこは真面目に謝られても、反応に困る。ふふっ
男:~なんだよ、もう!
女:ふふ。うーん、そっかあ、行きたいところかあ…
男:ああ、そうそう。どこでもいいよ
女:どこでもいいんだ?
男:お、おう…
女:なら君の家だね!
男:はああ!?
男:いやいやお前なあ、
男:こんな夜中にいきなり連れて行ったら、親がびっくりするだろ!
女:どれくらい、びっくりするかな?
男:想像出来ないくらい、びっくりするだろうな
女:あはは!そうだよね
女:…ちょっと久しぶりに、ご挨拶でもって思ったんだけどね
男:それは大丈夫だから…(ため息)
男:こんな突拍子もないことを言ってたって事は、ちゃんと伝えておく
女:ちょっと!?それ私の印象悪くならないように頼むよ?
男:はいはい
:
男:・・・で、どうする?
女:うーん、そうだねえー……
女:あっ!!!
男:お?どこか行きたいところ見つかった?
女:うん!花屋!お花屋さんに行きたい!!
男:また突拍子もなく…
女:だってだって!私、誕生日なのにまだお花もらってないんだよ?
男:だって、それは…
女:あのねえ、
女:君が毎年くれる花は、センスの欠片(かけら)もないんだよ
男:はいはい、すみませんね。センスの欠片もない花を!
女:うむ。だから今年は私が選ぶ
男:…は?
女:聞こえなかった?私が選ぶの
男:それは…
女:いいから!さあさあ!!お花屋さんに出発だー!
男:(ため息)…一度言い出したら、ほんっと聞かないよなあ…
男:わかった、ちょっと待って。
男:この時間にやってる花屋スマホで探すから
女:おお!さすが頼りになる彼氏様!!
男:またそうやって、からかって
女:からかってません!からかってませんー!!
男:はいはい
男:・・・
女:・・・どう?ありそう?
男:あ、ここギリギリ!
男:もうすぐ閉まっちゃうから早く行こう!
女:やったあー!!お花お花ー!!
男:ほら!シートベルト!
女:あ、はいはい…っと!さあ行こうー!!
男:ほんっと…元気だなあ
0:
0:花屋へと車は走り出す
0:
0:
男:よし、ギリギリセーフ
男:さあ着きましたよ、お姫様
女:うんうん!素晴らしい!
女:早く行こうと言いつつも、
女:法定速度をちゃんと守るのが実に君らしかったよ!
男:俺は安全運転なの!
女:わかってるって!ほら、早くしないとお店閉まっちゃうよ
男:ああ、えーと…車から花見える?
女:うーん…あ、見える見える!
男:良かった、どんな花がいいの?
女:えーと、そうだなあ・・・―
女:あっ!あの花束になってるやつがいい!
男:ん?どれ?
女:あれあれ、あの右手前の、ほら
男:え?…どれだ?
女:ほら、ピンクとかオレンジとかの・・・
女:明るい色が花束になってるやつ!!
男:・・あーあれか…あれはちょっと違――
女:(遮る)あれがいいの!!
女:明るくて楽しくて元気が出る花束…絶対あれがいい!
男:でも…―え?
男:俺が毎年あげてる花、そんなに嫌だった…?
女:だから、センスがないと言ったはずだよ
男:う……まあ確かに、あの明るい花束とは真逆だったかもな
女:でしょう?わかればよろしい!
女:―ささっ!早く早く、お店閉まっちゃうんでしょ
男:ああ、うん。すぐ買ってくるからちょっと待ってて
女:はーい!!
0:閉店ギリギリで花束を買いに行く男
0:その様子は、どこか気恥ずかしそうで
0:
0:そんな男を、優しく見つめる瞳
0:
男:はい、お待たせ。どうぞ(花束を渡す)
女:わあ・・・っ!
男:誕生日おめでとう。今年のプレゼントは、その花束ですよ
女:ありがとう…
女:明るくてすごく元気をもらえる花束だね!…嬉しい
男:…買うの、ちょっと恥ずかしかった
女:知ってる!ふふ、ありがとう本当に
女:今日一日、私のわがままに付き合ってくれて
男:いや、俺も楽しんでたからさ
男:やっぱりあれだな…助手席は少しやかましいくらいがいいな
女:やかましいって何よ、やかましいって
男:何というか、いい意味でだよ
女:ふうん?
男:・・・
男:…じゃあ、そろそろ行くか
女:うん。日付変わっちゃうもんね
男:よし任せろ。
男:安全運転で、尚且つ法定速度を守りながら向かいますね
女:うん!頼みましたよー!よし、出発だー!
0:「目的地」へと、車を走らす
0:
0:
0:二人の「目的地」とは
0:
0:車が止まる
0:
男:・・・着いたよ
男:少し、歩きながら話そうか
0:ゆっくりと歩き出す
男:お前のお願いとは言え、
男:今日は本当に一日中運転してた気がするよ
男:しばらく運転なんてしてなかったから、
男:久しぶりにドライブなんてしたなあ…
男:助手席にはやかましい奴がいて、なんか俺、本当に楽しかった
0:ジャリジャリと足音が響く
男:俺さ、もう車の運転なんて出来ないと思ってたから
男:―…あの日、俺の車で出かける途中だっけ。
男:俺、思わずハンドル左に切ったのにさ…なんで…
男:俺のほうだけ助かっちゃったんだろうな
男:あの日はお前の誕生日で、最高の一日にするはずだったのに…
男:まさか、目の前から車が突っ込んでくるなんて、あんまりだよな
0:
男:なあ…葵。
0:
男:病院で目が覚めて、葵が即死だったって聞いて…
男:俺しばらく頭の中真っ白になっちゃってさ。
男:―だってさっきまで笑ってたんだよ葵は、俺の中で。
男:そんなの信じろっていうほうが無理だろ?
男:葵がいなくなったなんて思えなかったし、実感なんて全然わかなくて…
男:なのに、車に乗るたびに考えちゃうんだよ
男:なんで…俺の助手席はこんなに静かなんだろうって…
男:やかましい葵の声が聞きたいなあって
男:そしたら、だんだん運転するのも怖くなっちゃってさ…
男:本当、情けないよな
男:―…もう運転なんて、出来ないんだって思ってたのに…
男:葵にはわかってたんだな。
男:だから今日、わざわざドライブなんて行きたがったんだよな
男:俺が運転することから逃げないように・・・
男:葵の死から、現実から逃げないように
男:ちゃんと、前に進んで欲しかったんだよな・・・―
0:葵のお墓の前に着く
0:
男:葵、着いたよ。花、ここに置くよ
男:――…なあ、そろそろ返事してくれよ…
0:
葵:ばか優人
優人:葵…
0:悲しく微笑む葵と、優人と、静寂
0:
0:
0:
0:・・・
葵:ははっ…優人にはやっぱり、全部お見通しかあ
葵:さすが優人だね、花のセンスはないけど
優人:葵…っ
葵:もう!またそんな暗い顔して。
葵:優人さ、いつも私の命日にお花と一緒に来てくれるけどね
葵:お花も優人も…なんだか辛気臭いの
優人:だって、それは…!
葵:優人。確かに命日だけど、私の大事な誕生日でもあるんだよ
優人:・・・っ!
葵:それにあの事故は、優人は何も悪くない。
葵:だって優人だって被害者なんだよ?
葵:なのに自分の事ばかり責めて、いつも暗い顔してさ
優人:―…ごめん、ごめんな、葵
葵:ほら!また謝った!
葵:毎年毎年そんなんだから今年こそはね、
葵:優人のそんな顔見たくないなーって思ってたのに
葵:優人はさ、名前の通り、優しすぎるんだよ…
優人:…ごめん
葵:はい出た!もう謝るの禁止!…次、謝ったらもう知らないからね
優人:・・・本当に、相変わらずだな葵は
葵:優人もね!…はぁー…今年は本当に嬉しかったなあ
優人:うん
葵:久しぶりに思い出の場所巡りも出来たし
葵:…優人の隣は、やっぱり心地よかった
優人:うん…
葵:それに――…
優人:…それに?
葵:ここに置いてあるじゃん
葵:私らしく明るくて元気な花束がある
葵:それが、最高のプレゼントなの
優人:俺、本当にセンスなかったんだな
葵:ほんとだよ!私のこと、誰よりも知ってるくせに
優人:だな・・・―
優人:なあ、葵。今日の命日、本当にこれで良かったのか?
葵:…命日だけど、私の誕生日だよ
葵:私はね、優人。今、最高に幸せなんだ
優人:…うん
葵:ありがとう、本当に
優人:・・・
葵:私のわがままにたくさん付き合ってくれて、
葵:ありがとう。だから…―
葵:―…笑って?笑ってる優人でいてほしい。
葵:私ね、優人の笑顔が大好きなんだ
0:日付が変わる
0:
葵:・・・
葵:誕生日、終わっちゃったね
優人:…ん
葵:ずっとドライブが終わらなきゃ良かったのになぁ…なんてね
葵:わがままだよね。私バカだからさ、色々考えちゃった
優人:色々って、何を?
葵:―・・・助手席、優人のとなり
優人:え?
葵:私の特等席。
葵:あの「助手席」に、いつか違う子が座るのかなあって…
葵:優人はその子に、どんな顔して笑うんだろうなって考えちゃって
葵:おかしいよね…?それを望んでたはずなのに、
葵:なんか想像したら嫉妬しちゃってさ…
葵:―こんな事言ったら優人困らせちゃうのに、ほんと私バカだ―…
優人:バカじゃない!!あの助手席は葵の特等席なんだろ!?
優人:だったら俺はっ―
葵:(遮る)それじゃだめなんだって!!前に進んでよ!!
葵:私の事なんて忘れてさあ…!
葵:とっとと幸せになってよっ…!!!
優人:忘れられる訳ないだろ!?
優人:俺は車に乗るたびにっ…葵を…っ――
葵:もういないんだって!!私もう死んじゃったんだよ!
葵:…っお願いだから…!
葵:お願いだからっ!!笑ってる優人でいてよ…っ!
優人:なに、言って…
葵:…あれ、私…言ってる事めちゃくちゃだ
葵:嫉妬するとか、前に進んでとか…ごめん優人
優人:葵っ!!!
葵:っ・・・!
葵:本当は忘れてほしくなんかないよ!!!
葵:他の誰かに笑いかけてる優人なんて、いやだよ…っ!
葵:寂しいに決まってるじゃん…!
優人:っ…だから俺は!!
葵:でもっ!!…お願い。最後のわがまま聞いて…
葵:私にかっこつけさせてよ…。
葵:ほんと、ごめん、言ってる事めちゃくちゃで
葵:忘れろって言ったり、寂しいって言ったり、
葵:私ほんとバカだけどさ…
優人:…葵がバカなのは、いつもだろ
葵:ははっ…そうだったね、あのね。優人
優人:…うん
葵:ありがとう。本当に、ありがとう…幸せになってね
優人:・・・
葵:せっかくかっこつけたんだから、返事くらいしてよ
優人:…ばか
葵:っふふ…ばかなのは知ってるよ
0:
葵:――…さてと、私もしっかりしなきゃね
優人:・・・葵?
0:「覚悟」の時が二人にやってくる
0:
0:
0:
0:夜の暗さが、冷たさが、「別れ」を意識させた
0:
葵:――…もう、いくね。優人
優人:・・・
葵:私いなくても、ちゃんと笑っててね?
優人:…わかった、わかったから、もう
葵:ほんとに?ちゃんとだよ、笑っててね?
優人:葵、本当に変わらない
葵:え?
優人:…しつこい
葵:ははっ!名残惜しくなちゃって…バカだね私
葵:…でも、かっこつけるね
0:葵、深く深呼吸をする
0:
葵:―…それじゃあ、ばいばい。優人
優人:…っ!!
優人:バカなんかじゃないっ!葵はっ…
優人:ばか正直なんだよ、ばか…!!
0:葵が優しく微笑む
優人:っ…!葵っ!!葵の笑顔、俺、大好きだよ!!
優人:ずっと…っ!
0:
0:
優人:Ⅿ)葵はそれを聞くと、涙をこぼしながら
優人:Ⅿ)くしゃくしゃに笑って消えていった
0:
優人:やっぱりその笑顔反則だな…っばか…
0:
0:・・・
0:
優人:Ⅿ)車に戻ると助手席には
優人:未開封のホットココアがポツンと置かれている
優人:もうとっくに冷たくなった「ホットココア」
0:
優人:Ⅿ)俺はエンジンをかける
優人:今日、あんなにやかましかった助手席が
優人:こんなにも静まり返っている
優人:――来年は
優人:来年はどんな花にしようか
優人:葵、俺はどうすればいいだろう
0:
優人:Ⅿ)葵の言葉、一つ一つを思い出す
葵:Ⅿ)私らしく明るくて元気な花束がある
葵:Ⅿ)それが最高のプレゼントなの
優人:Ⅿ)そう、葵のような…
葵:Ⅿ)優人はさ、名前の通り、優しすぎるんだよ
優人:Ⅿ)明るくて元気な優しい花を…
葵:Ⅿ)優人の笑顔が大好きなんだ
優人:Ⅿ)そんな花束を君に届けよう
0:
0:
0:…
優人:ちゃんと笑顔で前を向くよ
優人:これからは…きっと
0:
0:
優人:「葵。ありがとう」
0:了