台本概要
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タイトル | 君のバリアが破れない |
---|---|
作者名 | 遠野太陽 (@10nonbsun) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
居酒屋の日常会話なワンシチュエーション・ラブストーリー。
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
光芳 | 男 | 155 | みつよし。映画監督を目指している。 |
華 | 女 | 154 | はな。営業職の会社員。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:居酒屋で席に座る二人。
光芳:あ、とりあえず生2つで。いいよね?
華:うん。
光芳:この店来るの久し振りだわ。
華:私も。
光芳:前来た時はタッチパネルじゃなかったもん。最近の居酒屋ってメニュー無いよね?
華:そんなことないけど、3ヶ月くらい前に来た時はもうタッチパネルだったよ。
光芳:誰と来たんだよ?
華:えー、友達。
光芳:男?
華:女。あ、そこ気にするの?
光芳:いや、例の男かなって。
華:レイノオトコ。
光芳:あっくんだっけ?
華:そうそう。
光芳:そいつとは来たことないの?
華:あっくんと飲む時は、もうちょっと高い店に行くし。
光芳:俺と飲む時は安い店でも気にしないってことな。
華:懐に優しいでしょ。それに背伸びする必要もないし。ってか、あんた相手に背伸びしたくないし。背伸びする価値もないし。
光芳:お互い様だろ。
光芳:じゃあ、あっくんとはどこ行くんだよイ?
華:ちょっと高い居酒屋。
光芳:結局居酒屋じゃねぇか。
華:そこまで背伸びしても仕方ないでしょ。つきあいたての彼氏彼女でもないんだから。
光芳:あ、思い出した。俺の友達でさ、彼女とのデートにファミレス連れてく奴がいるんだけどさ。
光芳:そいつ、背伸びした自分じゃなくて、ありのままの自分を好きになって欲しいから、とか言うんだけど、それどう思う?
華:ありの〜〜♪
光芳:歌わなくていいから。そしてもう古いわ。
華:正直に言うと、ちょっと嫌。その人は彼女がデートにスッピンで来ても気にしないの?
華:たぶんそうじゃないでしょ。
光芳:だよな。
華:私のためにちょっと背伸びしてくれてるってのが嬉しいのに。
光芳:わかる。そしてごめん。俺、お前に背伸びしてないかも。
光芳:あ、いや、出る前に鼻毛切ってきたわ。
華:それは背伸びって言わない。
光芳:やっぱり?
華:たまには背伸びしてくれてもいいんだぜ。
華:ここを奢ってくれてもいいんだぜ。
光芳:さっき俺には背伸びしないって言ったくせに不公平だろうが。
華:あ、わかった。それ、友達の話って言いながら自分の話っていうパターンでしょ。
華:ファミレス連れてく男って、あんたのことなんじゃないの?
光芳:ちげーよ、四ノ宮だよ。あ、お前知らねぇか。
0:店員が生ビールを持ってくる。
光芳:ああ、すいません。
華:ありがとうございます。
光芳:はい、じゃ、とりあえず乾杯。
華:乾杯。いえーい。
光芳:うえーい。
華:なんに乾杯だったの?
光芳:世界平和に。
華:あー、世界平和に。
華:それなんの映画だっけ?
光芳:え、知ってるの?
光芳:「恋はデジャ・ブ」。ビル・マーレイの。
華:それだね。けっこう面白かった。
光芳:へぇぇ、古い映画なのによく知ってんな。
華:その映画、前に私に教えてくれたこと忘れてるでしょ?
光芳:俺? そっか俺か。言ったの覚えてないけど。
華:これでもあんたがオススメする映画の5本に1本くらいは観てるから。
光芳:打率低いな。俺がオススメしてる奴は全部面白いだろ。
華:(メニューを見て)なに頼もっかぁ。とりあえず、だし巻き卵とミモザサラダと……焼き鳥セットと梅おにぎり……。
光芳:聞けよ、無視すんな。俺が教えたの全部観ろよ。
華:あんたは何頼む?
光芳:あー、じゃあポテトのチーズ焼き。
華:それ絶対頼むと思った。いつも頼んでるから。
光芳:これは外せないよ。好きでしょ?
華:うん。いいよ。じゃあそれ頼むね。
華:(操作して)はい、注文オッケー。
光芳:あのさ、俺のオススメした映画で、観るのと観ないのの判断基準はなんなの?
華:面白そうだったら観るし、そうでもなさそうだったら観ない。
光芳:つまり俺のプレゼン次第ってこと?
華:そうなるかな。
光芳:わかった。今度からもっと全力でプレゼンするわ。
華:しなくていいから。めんどくさいから。
光芳:それで?
華:ん、何が?
光芳:どうなの?
華:なんの話?
光芳:あっくんだよ。今、どんな感じ?
華:もうそれ話すの? 早くない?
光芳:今日の議題はそれでしょ?
華:もうちょっと雑談に花が咲いて、お酒も入って、小一時間経ったくらいでいよいよ話す内容だよね?
光芳:面倒くせぇわ。そういう関係でもねぇだろ。さっさと話せ。
華:じゃあもうちょっと飲んだら。
光芳:おう、飲め飲め。
華:(飲んで)……ふぅ。
華:先にそっちから話してよ。
光芳:俺は別に話すほどのことはないし。
華:ユカちゃんとはどうなったの?
光芳:別に。この前、俺の部屋に料理作りに来たけど。
華:(驚く)うえへへへぇ!?
光芳:どんな声出してんだよ。
華:なになに、どういうこと?
光芳:風邪ひいて寝込んでる時にメール来て、「死にそう」って返信したら部屋まで来てくれて鍋焼きうどん作ってくれた。
華:やったの?
光芳:やってねぇよ!
華:ホントはやったでしょ?
光芳:やってねぇって言ってんだろ!
華:風邪ひいてるのにそんな元気ないか。
光芳:いや、逆にけっこう元気だったんだけどさ。
華:え、そういうもんなの?
光芳:本能的なものでさ、体がヤバい時って、未来に種を残すために、そういう部分は逆に元気になるらしいよ。もうビンビン。
0:店員がサラダを持ってくる。
華:あ、サラダ来た。ありがとうございます。
華:おかわりは?
光芳:まだ大丈夫。
光芳:(店員を見送って)……てか、さっきの会話、店員さんに聞かれてた?
華:ドン引きしてたよ。
光芳:うわ、恥ずかし。もうあの店員さんの目を見れない。
華:まあまあ、どのテーブルも似たような話をしてるんじゃないの?
光芳:そりゃそうか。もうちょっと高い居酒屋だったらわかんないけど。
華:それで。元気だったのに我慢したの?
光芳:まあ、風邪うつしちゃ悪いし。
光芳:それに……。
光芳:期待させるのも悪いと思って。
華:据え膳だったのにもったいない。
光芳:やっぱそう思う?
華:思う。ユカちゃんも「せめてキスくらいは」って思ってたんじゃないかな。
光芳:だよなぁ。
華:もったいない。
光芳:俺もちょっともったいないって思った。
華:そんな風に思うなら、やっちゃえばよかったのに。
光芳:ええぇ……。
華:下半身は正直だったんでしょ?
光芳:うるせぇ。本能より理性が勝った俺を褒めろ。これ据え膳だよなぁって思いながら、全然それに気づかないふりしてたんだから。
華:ユカちゃんが可哀想だよ。そんなにアピールしてるのに、手を出してくれないなんて。
光芳:まあこれで諦めてくれたんじゃないかなぁ。
華:いやぁ、聞いてる限りじゃそれくらいで諦める女じゃないと思うよ。
光芳:会ったことないだろ。
華:会わなくてもわかるよ。
華:いつかあんたがユカちゃんに落とされる未来が視える。
光芳:ないって。
光芳:っつうかさ。
華:ん?
光芳:ユカちゃん見てると、なんか辛くなるんだよ。
華:どうして?
光芳:好きな相手が自分のこと好きじゃないってわかってるのに、好きな気持ちを止められないっていうのがさ。
光芳:なんて言うか……。
華:うん。
光芳:自分を見てるみたいで、なんか……。
華:……そっか。
光芳:……うん。
華:……私もなんとなくわかる。
光芳:そう?
華:なんかさ、どこまで行っても、いい友達のままなんだよね。
華:あ、あっくんのことね。
光芳:わかってるよ。
華:「私とはいい友達のままでいたい」って気持ちがガンガン伝わってくるのよ。
光芳:告白すればいいじゃん。
華:させない雰囲気を作ってくるのよね。
華:なんだかんだ事あるごとにアピールしてるから、私から告白される気配を察してると思う。
華:でも告白されて、それを断って今の友達関係が終わってしまうのが嫌だから、私が告白しないようにバリアを張ってる。みたいな。
光芳:そんなテクニック使ってるの?
光芳:凄ぇな、あっくん。
華:あんただってユカちゃんに似たようなことしてるんでしょ。
光芳:ええ? ああ、してるか。
光芳:一回、キスされそうになって逃げたことある。
華:ひどっ。キスぐらいしてあげればよかったのに。
光芳:バカ、キスだけで済まなくなったらどうすんだよ。
華:望むところじゃん。
華:下半身に正直に生きようよ。
光芳:ダメだって。俺はそういうの嫌なの。
華:私ならしちゃうな。
華:あー、キスしたい。フレンチなやつでいいからキスしたい。
光芳:痴女だ。痴女がここにいる。
光芳:フレンチキスって軽いキスじゃねぇぞ。ディープなキスのことだからな。
華:そうだっけ?
光芳:「フレンチ・キス」の時のメグ・ライアンも超ディープなキスしてるから。
華:洋画のキスシーンってなんであんなにエロいんだろうね。
光芳:邦画でもエロいのあるよ。教えてやろうか。
華:いいよ別に。スイッチ入れないで。お願い。
華:あ、フレンチじゃなかった。バードキス。チュッチュするやつ。あれやりたい。
光芳:そっちもエロいだろ。
華:バードは爽やかでしょ。
光芳:もうどっちでもいいよ。
光芳:それにしても、あっくんの何がそんなにいいのかねぇ。
華:何がよかったんだろうねぇ。
光芳:わかんねぇのかよ。
光芳:あれ、え、過去形?
華:うん。もういいんだ。
光芳:諦めんの?
華:今日ね。あんたと二人っきりで飲むこと、あっくんに話したのよ。
光芳:なんて言ったの?
華:「仲良しの男友達と二人っきりで飲んでくるんだ〜」って。
華:そしたら、「へぇぇ、楽しそうだね」って。
華:平気な顔してるのにムカついて、あっくんに嫉妬してほしくて、あんたのことを「超イケメンだ」って嘘ついて。
光芳:嘘?
光芳:それ嘘なの?
華:うん。
光芳:あ、俺、超イケメンじゃなくて普通のイケメンだから。そっかそっかぁ。
光芳:おい、哀れむような視線をやめろ!
華:あんたがそう思いたいなら、それでいいんじゃない?
光芳:うるせぇ。それで、あっくんはなんて言ったの?
華:そしたら「応援する」とか「うまくいくといいね」って。
華:ホントにこの人は私に興味ないんだなって思って、悔しくて……。
光芳:……。
華:それで……。
光芳:それで?
華:告白した。
華:「私が好きなのは、あっくんなんだよ」って。
光芳:……で?
華:……バリア、破れなかったよ。
華:全力でぶつかったのにな。
光芳:玉砕したか。
華:あーあ。
光芳:ちょっと頭貸せ。
華:なに?
光芳:ヨシヨシしてやる。
華:して。ヨシヨシ。
光芳:(頭を撫でて)ヨシヨシ。よく頑張ったな。偉いぞ。
華:もっと言って。
光芳:ヨシヨシ。可愛いな。お前はいい女だな。こんないい女を振るなんて、あっくんは見る目ないな。アホだな。最低だな。
華:ちょっと。あっくんを悪く言わないでよ。
光芳:(舌打ち)……ヨシヨシ。お前が可愛いすぎるから、あっくんが引け目を感じたのかもしれないな。お前が可愛いすぎたのが今回の敗因だな。
光芳:よし、切り替えていこう。次は絶対うまくいくから。
華:ん、ありがと。元気出た。
光芳:そりゃよかった。
華:まあ、とっくに切り替えてはいるんだけどね。
光芳:そんなにダメージ受けてるようには見えないもんな。
華:無傷ってわけじゃないけど、あんたに聞いてもらったらなんかスッキリした。
華:おかわり頼んでいい?
光芳:俺も頼むわ。2つで。
華:はーい。
0:店員が料理を運んでくる。
光芳:あ、来た来た。ポテトチーズ美味しそう。
光芳:(鉄板に触れて)あっち!
光芳:あ、大丈夫です。ありがとうございます。
華:食べよ、食べよ。
光芳:おう。いただきまーす。
0:時間経過。
華:それで映画のほうはどうなの?
光芳:助監督ってホントにただの使いっぱしりなんだよ。あれ買ってこい、早くそれ持ってこい、さっさと片付けろ。そればっかりだ。
華:女優さんに会えるんでしょ?
光芳:うん。まだ顔合わせと下読みでクランクインしてないから内緒だけど。
華:可愛いの?
光芳:うん。すっげぇ可愛い。なるべく見ないようにしてる。見ちゃったら、目を離せなくなるから。
華:へぇぇ、楽しそう。
光芳:楽しいよ。早く撮影始まってほしい。沢山撮ってる監督だから、始まってないのに色々勉強になってる。いい経験させてもらってるよ。
華:羨ましい。
光芳:そっちの仕事はどうなの?
華:うん……。
光芳:どうした?
華:私、仕事辞める。
光芳:え、マジで?
華:うん。田舎帰ることにした。
光芳:は?
華:だから、あんたと飲むのもこれが最後。
光芳:聞いてねぇよ!
華:今、言ってるじゃん。
光芳:男にフラれたから仕事辞めんのかよ。
華:そんなんじゃないよ。たまたま。タイミングが重なっただけ。
光芳:どんなタイミングだよ。
華:なぁんか、やる気なくなっちゃってさ。
光芳:頑張ってたじゃん?
華:そうでもないよ。そんなに今の仕事が好きってわけでもなかったし。
光芳:なんかあったの?
華:……いろいろ、ね。
光芳:なに?
華:知りたいの?
光芳:気になるし。この前までは順調そうだったから、急になんでって思うだろ、普通。
華:うーん。
光芳:俺と会うの今日で最後なんだろ。教えろよ。
華:女性向け新商品のプロジェクトチームが立ち上がった時に、リーダーに抜擢された子がいたのね。
光芳:うん。
華:いつも頑張ってて責任感も強くて、周りの助けもあって、その子は必死になってプロジェクトを成功させようって頑張ってた。
光芳:ふーん。
華:だけど、上司から紹介された激安の下請け業者との接待の時に、キモいオッサンに体を求められた。
光芳:は? なにそれ?
華:この金額でいくなら、一晩付き合えって。
華:今までの先輩もずっとそうしてきたって。
光芳:その子はどうしたの?
光芳:断ったんだよな?
華:その業者を蹴ったらテストとはいえ確実に想定の利益を下回ってしまう。
華:今まで協力してくれたチームの皆のことを思ったら、断ることなんて出来なかった。
光芳:それで?
華:ホテルの部屋に入るなりオッサンに抱きしめられて。
華:キスされそうになって。
華:それで我慢出来なくて、オッサン殴って帰ってきたんだって。
光芳:そっか。
光芳:今だにそんな話がリアルにあるとは思わなかった。
華:古臭くて男社会な会社だから。
華:結局、別の業者に頼むことになった。
華:顔を潰された上司は苦い顔していたけど、事が事だけに大きな問題にはならなかった。
華:でも、「会社の利益のためにそれぐらいやらなくてどうする」って思ってる人がいるのも確かなのよ。
光芳:ひどいな。
華:それ聞いて、一生懸命に仕事してるのが、なんかバカらしくなっちゃって。
光芳:その子はどうなったの?
華:お咎め無しで仕事は続けてるけど、もう出世は無理みたい。
華:それに、一度はオッサンに抱かれようとした自分が許せないみたいで……。
光芳:あのさ……。
華:ん?
光芳:その子ってもしかして……。
華:……。
光芳:あ、いや。なんでもねぇわ。
華:で、その子からそれ聞いて凹んでた時に、田舎の両親から「そろそろ帰ってこないか」って連絡があって。
華:田舎に帰って婚活イベントで男見つけて結婚するのもいいかなって。
光芳:結婚、か……。
華:うん。
光芳:……そっか。
華:止めないの?
華:田舎に帰るなって言ってくれないの?
光芳:俺が言ったらやめるのかよ。
華:試しに言ってみてよ。
光芳:(おどけて)寂しいよ〜。お前がいなかったら下ネタ話す女友達がいなくなるよ〜。だから行かないでくれ〜。
華:マジメにやって。
光芳:(真顔で)……出来ない。
華:どうして?
光芳:お前が好きだからずっと一緒にいたい。
華:(驚く)……!
光芳:なんて言えないよ。
華:……なんで?
光芳:映画監督になる夢は捨てられないし。
光芳:一人前になるには、あとどれくらいかかるかわからないし。
光芳:そんな俺についてこいなんて言えない。
光芳:俺が一人前になるまで待っててくれなんてもっと言えない。
光芳:夢を諦めてお前についていくこともできない。
光芳:それになにより、お前は俺のこと、好きじゃない。
華:どうしてそう思うの?
光芳:お前、俺に告白されないようにバリア張ってるだろ。
華:そうかな?
光芳:あっくんの話を嬉しそうに俺に話すのがもうバリアだから。
光芳:ミサイルでも突破できないATフィールド。もしくはウォールマリア。
光芳:それにさっき、俺が自分のことを好きじゃない人を好きになるのは辛いって話をした時、お前、俺に「好きな人いるの?」って聞かなかったろ。
光芳:もし聞いたら、俺は答えなきゃいけない。
光芳:「お前が好きだ」ってバカ正直に答えはしないだろうけど、お前は俺にそう答えられると困るから聞かなかったんだ。
光芳:そうだろ?
華:……。
光芳:その時に思ったよ。
光芳:お前は俺とずっと友達でいたいんだなって。
華:私ね……。
華:あんたが本気で止めてくれたら、田舎に帰るのやめる。
光芳:……重いよ。
華:私のこと好きなんでしょ?
光芳:……。
華:(効果音)ウイーン。
華:はい。今、バリア解除したから。
光芳:……。
華:言ってよ。
光芳:好きだよ。ユカちゃんが部屋に来た時、お前の顔がチラついたから我慢できた。それくらい好きだよ。
華:性欲に勝つって、私のこと相当好きってことでしょ。
光芳:好きだよ。今日、ここに来るのに電車乗ってる時、窓から観える見慣れた景色がすっげぇキレイに見えるくらい、好きだよ。
華:私に会えるの楽しみで仕方ないってこと?
華:そんなに好きなの?
光芳:好きだよ。どんだけ強力なバリア張られても、なんの武器も持ってなくても、それでもどうしようもないくらい好きだよ。大好きだよ。
華:……うん。
光芳:田舎に帰るな。俺の側にいてくれ。
華:うん。わかった。
光芳:(溜め息)……これでいいか?
華:うん。
華:なんかね。
華:今……。
光芳:なに?
華:あんたとキスしたいなぁって思った。
光芳:フレンチ? バード?
華:どっちでもいい。
光芳:……ここじゃしないよ。
華:どこでするの?
光芳:どこがいい?
華:わかんないけど。
光芳:絶対キスだけで済まなくなる。
華:……うん。
光芳:いいの?
華:……。
華:……ねぇ、オススメの映画教えてよ。
光芳:はあ!?
華:今の私たちにピッタリのやつ。
光芳:ラブロマンス?
華:ロマンチックなやつがいいな。
光芳:そうだな。とりあえず俺の部屋来る?
光芳:DVD沢山あるから。
華:うわ。そうやって女の子を部屋に誘うんだ?
光芳:こんなこと言ったのお前が初めてだよ。
華:嘘くさっ。
光芳:ホントだって。
華:ここでプレゼンしてよ。面白そうだったら、あんたの部屋でその映画一緒に観よ。
光芳:面白そうじゃなかったら?
華:残念ながら、今日は解散?
光芳:わかった。全力でプレゼンする。何がいいかな……。
華:全力はやめて。うるさいから。めんどくさいから。
光芳:って言いながら、いつかお前と一緒に観たいと思ってた映画があるんだけどさ。
華:あー、スイッチ入っちゃった。
光芳:これホントにオススメだから。
華:目が怖い。顔が近い。鼻息荒い。
華:いったん落ち着け。
華:ちゃんと聞くから。
華:お願い。
華:……で、ずーっと前から私と観たかった映画って、なに?
:
0:おしまい。
0:居酒屋で席に座る二人。
光芳:あ、とりあえず生2つで。いいよね?
華:うん。
光芳:この店来るの久し振りだわ。
華:私も。
光芳:前来た時はタッチパネルじゃなかったもん。最近の居酒屋ってメニュー無いよね?
華:そんなことないけど、3ヶ月くらい前に来た時はもうタッチパネルだったよ。
光芳:誰と来たんだよ?
華:えー、友達。
光芳:男?
華:女。あ、そこ気にするの?
光芳:いや、例の男かなって。
華:レイノオトコ。
光芳:あっくんだっけ?
華:そうそう。
光芳:そいつとは来たことないの?
華:あっくんと飲む時は、もうちょっと高い店に行くし。
光芳:俺と飲む時は安い店でも気にしないってことな。
華:懐に優しいでしょ。それに背伸びする必要もないし。ってか、あんた相手に背伸びしたくないし。背伸びする価値もないし。
光芳:お互い様だろ。
光芳:じゃあ、あっくんとはどこ行くんだよイ?
華:ちょっと高い居酒屋。
光芳:結局居酒屋じゃねぇか。
華:そこまで背伸びしても仕方ないでしょ。つきあいたての彼氏彼女でもないんだから。
光芳:あ、思い出した。俺の友達でさ、彼女とのデートにファミレス連れてく奴がいるんだけどさ。
光芳:そいつ、背伸びした自分じゃなくて、ありのままの自分を好きになって欲しいから、とか言うんだけど、それどう思う?
華:ありの〜〜♪
光芳:歌わなくていいから。そしてもう古いわ。
華:正直に言うと、ちょっと嫌。その人は彼女がデートにスッピンで来ても気にしないの?
華:たぶんそうじゃないでしょ。
光芳:だよな。
華:私のためにちょっと背伸びしてくれてるってのが嬉しいのに。
光芳:わかる。そしてごめん。俺、お前に背伸びしてないかも。
光芳:あ、いや、出る前に鼻毛切ってきたわ。
華:それは背伸びって言わない。
光芳:やっぱり?
華:たまには背伸びしてくれてもいいんだぜ。
華:ここを奢ってくれてもいいんだぜ。
光芳:さっき俺には背伸びしないって言ったくせに不公平だろうが。
華:あ、わかった。それ、友達の話って言いながら自分の話っていうパターンでしょ。
華:ファミレス連れてく男って、あんたのことなんじゃないの?
光芳:ちげーよ、四ノ宮だよ。あ、お前知らねぇか。
0:店員が生ビールを持ってくる。
光芳:ああ、すいません。
華:ありがとうございます。
光芳:はい、じゃ、とりあえず乾杯。
華:乾杯。いえーい。
光芳:うえーい。
華:なんに乾杯だったの?
光芳:世界平和に。
華:あー、世界平和に。
華:それなんの映画だっけ?
光芳:え、知ってるの?
光芳:「恋はデジャ・ブ」。ビル・マーレイの。
華:それだね。けっこう面白かった。
光芳:へぇぇ、古い映画なのによく知ってんな。
華:その映画、前に私に教えてくれたこと忘れてるでしょ?
光芳:俺? そっか俺か。言ったの覚えてないけど。
華:これでもあんたがオススメする映画の5本に1本くらいは観てるから。
光芳:打率低いな。俺がオススメしてる奴は全部面白いだろ。
華:(メニューを見て)なに頼もっかぁ。とりあえず、だし巻き卵とミモザサラダと……焼き鳥セットと梅おにぎり……。
光芳:聞けよ、無視すんな。俺が教えたの全部観ろよ。
華:あんたは何頼む?
光芳:あー、じゃあポテトのチーズ焼き。
華:それ絶対頼むと思った。いつも頼んでるから。
光芳:これは外せないよ。好きでしょ?
華:うん。いいよ。じゃあそれ頼むね。
華:(操作して)はい、注文オッケー。
光芳:あのさ、俺のオススメした映画で、観るのと観ないのの判断基準はなんなの?
華:面白そうだったら観るし、そうでもなさそうだったら観ない。
光芳:つまり俺のプレゼン次第ってこと?
華:そうなるかな。
光芳:わかった。今度からもっと全力でプレゼンするわ。
華:しなくていいから。めんどくさいから。
光芳:それで?
華:ん、何が?
光芳:どうなの?
華:なんの話?
光芳:あっくんだよ。今、どんな感じ?
華:もうそれ話すの? 早くない?
光芳:今日の議題はそれでしょ?
華:もうちょっと雑談に花が咲いて、お酒も入って、小一時間経ったくらいでいよいよ話す内容だよね?
光芳:面倒くせぇわ。そういう関係でもねぇだろ。さっさと話せ。
華:じゃあもうちょっと飲んだら。
光芳:おう、飲め飲め。
華:(飲んで)……ふぅ。
華:先にそっちから話してよ。
光芳:俺は別に話すほどのことはないし。
華:ユカちゃんとはどうなったの?
光芳:別に。この前、俺の部屋に料理作りに来たけど。
華:(驚く)うえへへへぇ!?
光芳:どんな声出してんだよ。
華:なになに、どういうこと?
光芳:風邪ひいて寝込んでる時にメール来て、「死にそう」って返信したら部屋まで来てくれて鍋焼きうどん作ってくれた。
華:やったの?
光芳:やってねぇよ!
華:ホントはやったでしょ?
光芳:やってねぇって言ってんだろ!
華:風邪ひいてるのにそんな元気ないか。
光芳:いや、逆にけっこう元気だったんだけどさ。
華:え、そういうもんなの?
光芳:本能的なものでさ、体がヤバい時って、未来に種を残すために、そういう部分は逆に元気になるらしいよ。もうビンビン。
0:店員がサラダを持ってくる。
華:あ、サラダ来た。ありがとうございます。
華:おかわりは?
光芳:まだ大丈夫。
光芳:(店員を見送って)……てか、さっきの会話、店員さんに聞かれてた?
華:ドン引きしてたよ。
光芳:うわ、恥ずかし。もうあの店員さんの目を見れない。
華:まあまあ、どのテーブルも似たような話をしてるんじゃないの?
光芳:そりゃそうか。もうちょっと高い居酒屋だったらわかんないけど。
華:それで。元気だったのに我慢したの?
光芳:まあ、風邪うつしちゃ悪いし。
光芳:それに……。
光芳:期待させるのも悪いと思って。
華:据え膳だったのにもったいない。
光芳:やっぱそう思う?
華:思う。ユカちゃんも「せめてキスくらいは」って思ってたんじゃないかな。
光芳:だよなぁ。
華:もったいない。
光芳:俺もちょっともったいないって思った。
華:そんな風に思うなら、やっちゃえばよかったのに。
光芳:ええぇ……。
華:下半身は正直だったんでしょ?
光芳:うるせぇ。本能より理性が勝った俺を褒めろ。これ据え膳だよなぁって思いながら、全然それに気づかないふりしてたんだから。
華:ユカちゃんが可哀想だよ。そんなにアピールしてるのに、手を出してくれないなんて。
光芳:まあこれで諦めてくれたんじゃないかなぁ。
華:いやぁ、聞いてる限りじゃそれくらいで諦める女じゃないと思うよ。
光芳:会ったことないだろ。
華:会わなくてもわかるよ。
華:いつかあんたがユカちゃんに落とされる未来が視える。
光芳:ないって。
光芳:っつうかさ。
華:ん?
光芳:ユカちゃん見てると、なんか辛くなるんだよ。
華:どうして?
光芳:好きな相手が自分のこと好きじゃないってわかってるのに、好きな気持ちを止められないっていうのがさ。
光芳:なんて言うか……。
華:うん。
光芳:自分を見てるみたいで、なんか……。
華:……そっか。
光芳:……うん。
華:……私もなんとなくわかる。
光芳:そう?
華:なんかさ、どこまで行っても、いい友達のままなんだよね。
華:あ、あっくんのことね。
光芳:わかってるよ。
華:「私とはいい友達のままでいたい」って気持ちがガンガン伝わってくるのよ。
光芳:告白すればいいじゃん。
華:させない雰囲気を作ってくるのよね。
華:なんだかんだ事あるごとにアピールしてるから、私から告白される気配を察してると思う。
華:でも告白されて、それを断って今の友達関係が終わってしまうのが嫌だから、私が告白しないようにバリアを張ってる。みたいな。
光芳:そんなテクニック使ってるの?
光芳:凄ぇな、あっくん。
華:あんただってユカちゃんに似たようなことしてるんでしょ。
光芳:ええ? ああ、してるか。
光芳:一回、キスされそうになって逃げたことある。
華:ひどっ。キスぐらいしてあげればよかったのに。
光芳:バカ、キスだけで済まなくなったらどうすんだよ。
華:望むところじゃん。
華:下半身に正直に生きようよ。
光芳:ダメだって。俺はそういうの嫌なの。
華:私ならしちゃうな。
華:あー、キスしたい。フレンチなやつでいいからキスしたい。
光芳:痴女だ。痴女がここにいる。
光芳:フレンチキスって軽いキスじゃねぇぞ。ディープなキスのことだからな。
華:そうだっけ?
光芳:「フレンチ・キス」の時のメグ・ライアンも超ディープなキスしてるから。
華:洋画のキスシーンってなんであんなにエロいんだろうね。
光芳:邦画でもエロいのあるよ。教えてやろうか。
華:いいよ別に。スイッチ入れないで。お願い。
華:あ、フレンチじゃなかった。バードキス。チュッチュするやつ。あれやりたい。
光芳:そっちもエロいだろ。
華:バードは爽やかでしょ。
光芳:もうどっちでもいいよ。
光芳:それにしても、あっくんの何がそんなにいいのかねぇ。
華:何がよかったんだろうねぇ。
光芳:わかんねぇのかよ。
光芳:あれ、え、過去形?
華:うん。もういいんだ。
光芳:諦めんの?
華:今日ね。あんたと二人っきりで飲むこと、あっくんに話したのよ。
光芳:なんて言ったの?
華:「仲良しの男友達と二人っきりで飲んでくるんだ〜」って。
華:そしたら、「へぇぇ、楽しそうだね」って。
華:平気な顔してるのにムカついて、あっくんに嫉妬してほしくて、あんたのことを「超イケメンだ」って嘘ついて。
光芳:嘘?
光芳:それ嘘なの?
華:うん。
光芳:あ、俺、超イケメンじゃなくて普通のイケメンだから。そっかそっかぁ。
光芳:おい、哀れむような視線をやめろ!
華:あんたがそう思いたいなら、それでいいんじゃない?
光芳:うるせぇ。それで、あっくんはなんて言ったの?
華:そしたら「応援する」とか「うまくいくといいね」って。
華:ホントにこの人は私に興味ないんだなって思って、悔しくて……。
光芳:……。
華:それで……。
光芳:それで?
華:告白した。
華:「私が好きなのは、あっくんなんだよ」って。
光芳:……で?
華:……バリア、破れなかったよ。
華:全力でぶつかったのにな。
光芳:玉砕したか。
華:あーあ。
光芳:ちょっと頭貸せ。
華:なに?
光芳:ヨシヨシしてやる。
華:して。ヨシヨシ。
光芳:(頭を撫でて)ヨシヨシ。よく頑張ったな。偉いぞ。
華:もっと言って。
光芳:ヨシヨシ。可愛いな。お前はいい女だな。こんないい女を振るなんて、あっくんは見る目ないな。アホだな。最低だな。
華:ちょっと。あっくんを悪く言わないでよ。
光芳:(舌打ち)……ヨシヨシ。お前が可愛いすぎるから、あっくんが引け目を感じたのかもしれないな。お前が可愛いすぎたのが今回の敗因だな。
光芳:よし、切り替えていこう。次は絶対うまくいくから。
華:ん、ありがと。元気出た。
光芳:そりゃよかった。
華:まあ、とっくに切り替えてはいるんだけどね。
光芳:そんなにダメージ受けてるようには見えないもんな。
華:無傷ってわけじゃないけど、あんたに聞いてもらったらなんかスッキリした。
華:おかわり頼んでいい?
光芳:俺も頼むわ。2つで。
華:はーい。
0:店員が料理を運んでくる。
光芳:あ、来た来た。ポテトチーズ美味しそう。
光芳:(鉄板に触れて)あっち!
光芳:あ、大丈夫です。ありがとうございます。
華:食べよ、食べよ。
光芳:おう。いただきまーす。
0:時間経過。
華:それで映画のほうはどうなの?
光芳:助監督ってホントにただの使いっぱしりなんだよ。あれ買ってこい、早くそれ持ってこい、さっさと片付けろ。そればっかりだ。
華:女優さんに会えるんでしょ?
光芳:うん。まだ顔合わせと下読みでクランクインしてないから内緒だけど。
華:可愛いの?
光芳:うん。すっげぇ可愛い。なるべく見ないようにしてる。見ちゃったら、目を離せなくなるから。
華:へぇぇ、楽しそう。
光芳:楽しいよ。早く撮影始まってほしい。沢山撮ってる監督だから、始まってないのに色々勉強になってる。いい経験させてもらってるよ。
華:羨ましい。
光芳:そっちの仕事はどうなの?
華:うん……。
光芳:どうした?
華:私、仕事辞める。
光芳:え、マジで?
華:うん。田舎帰ることにした。
光芳:は?
華:だから、あんたと飲むのもこれが最後。
光芳:聞いてねぇよ!
華:今、言ってるじゃん。
光芳:男にフラれたから仕事辞めんのかよ。
華:そんなんじゃないよ。たまたま。タイミングが重なっただけ。
光芳:どんなタイミングだよ。
華:なぁんか、やる気なくなっちゃってさ。
光芳:頑張ってたじゃん?
華:そうでもないよ。そんなに今の仕事が好きってわけでもなかったし。
光芳:なんかあったの?
華:……いろいろ、ね。
光芳:なに?
華:知りたいの?
光芳:気になるし。この前までは順調そうだったから、急になんでって思うだろ、普通。
華:うーん。
光芳:俺と会うの今日で最後なんだろ。教えろよ。
華:女性向け新商品のプロジェクトチームが立ち上がった時に、リーダーに抜擢された子がいたのね。
光芳:うん。
華:いつも頑張ってて責任感も強くて、周りの助けもあって、その子は必死になってプロジェクトを成功させようって頑張ってた。
光芳:ふーん。
華:だけど、上司から紹介された激安の下請け業者との接待の時に、キモいオッサンに体を求められた。
光芳:は? なにそれ?
華:この金額でいくなら、一晩付き合えって。
華:今までの先輩もずっとそうしてきたって。
光芳:その子はどうしたの?
光芳:断ったんだよな?
華:その業者を蹴ったらテストとはいえ確実に想定の利益を下回ってしまう。
華:今まで協力してくれたチームの皆のことを思ったら、断ることなんて出来なかった。
光芳:それで?
華:ホテルの部屋に入るなりオッサンに抱きしめられて。
華:キスされそうになって。
華:それで我慢出来なくて、オッサン殴って帰ってきたんだって。
光芳:そっか。
光芳:今だにそんな話がリアルにあるとは思わなかった。
華:古臭くて男社会な会社だから。
華:結局、別の業者に頼むことになった。
華:顔を潰された上司は苦い顔していたけど、事が事だけに大きな問題にはならなかった。
華:でも、「会社の利益のためにそれぐらいやらなくてどうする」って思ってる人がいるのも確かなのよ。
光芳:ひどいな。
華:それ聞いて、一生懸命に仕事してるのが、なんかバカらしくなっちゃって。
光芳:その子はどうなったの?
華:お咎め無しで仕事は続けてるけど、もう出世は無理みたい。
華:それに、一度はオッサンに抱かれようとした自分が許せないみたいで……。
光芳:あのさ……。
華:ん?
光芳:その子ってもしかして……。
華:……。
光芳:あ、いや。なんでもねぇわ。
華:で、その子からそれ聞いて凹んでた時に、田舎の両親から「そろそろ帰ってこないか」って連絡があって。
華:田舎に帰って婚活イベントで男見つけて結婚するのもいいかなって。
光芳:結婚、か……。
華:うん。
光芳:……そっか。
華:止めないの?
華:田舎に帰るなって言ってくれないの?
光芳:俺が言ったらやめるのかよ。
華:試しに言ってみてよ。
光芳:(おどけて)寂しいよ〜。お前がいなかったら下ネタ話す女友達がいなくなるよ〜。だから行かないでくれ〜。
華:マジメにやって。
光芳:(真顔で)……出来ない。
華:どうして?
光芳:お前が好きだからずっと一緒にいたい。
華:(驚く)……!
光芳:なんて言えないよ。
華:……なんで?
光芳:映画監督になる夢は捨てられないし。
光芳:一人前になるには、あとどれくらいかかるかわからないし。
光芳:そんな俺についてこいなんて言えない。
光芳:俺が一人前になるまで待っててくれなんてもっと言えない。
光芳:夢を諦めてお前についていくこともできない。
光芳:それになにより、お前は俺のこと、好きじゃない。
華:どうしてそう思うの?
光芳:お前、俺に告白されないようにバリア張ってるだろ。
華:そうかな?
光芳:あっくんの話を嬉しそうに俺に話すのがもうバリアだから。
光芳:ミサイルでも突破できないATフィールド。もしくはウォールマリア。
光芳:それにさっき、俺が自分のことを好きじゃない人を好きになるのは辛いって話をした時、お前、俺に「好きな人いるの?」って聞かなかったろ。
光芳:もし聞いたら、俺は答えなきゃいけない。
光芳:「お前が好きだ」ってバカ正直に答えはしないだろうけど、お前は俺にそう答えられると困るから聞かなかったんだ。
光芳:そうだろ?
華:……。
光芳:その時に思ったよ。
光芳:お前は俺とずっと友達でいたいんだなって。
華:私ね……。
華:あんたが本気で止めてくれたら、田舎に帰るのやめる。
光芳:……重いよ。
華:私のこと好きなんでしょ?
光芳:……。
華:(効果音)ウイーン。
華:はい。今、バリア解除したから。
光芳:……。
華:言ってよ。
光芳:好きだよ。ユカちゃんが部屋に来た時、お前の顔がチラついたから我慢できた。それくらい好きだよ。
華:性欲に勝つって、私のこと相当好きってことでしょ。
光芳:好きだよ。今日、ここに来るのに電車乗ってる時、窓から観える見慣れた景色がすっげぇキレイに見えるくらい、好きだよ。
華:私に会えるの楽しみで仕方ないってこと?
華:そんなに好きなの?
光芳:好きだよ。どんだけ強力なバリア張られても、なんの武器も持ってなくても、それでもどうしようもないくらい好きだよ。大好きだよ。
華:……うん。
光芳:田舎に帰るな。俺の側にいてくれ。
華:うん。わかった。
光芳:(溜め息)……これでいいか?
華:うん。
華:なんかね。
華:今……。
光芳:なに?
華:あんたとキスしたいなぁって思った。
光芳:フレンチ? バード?
華:どっちでもいい。
光芳:……ここじゃしないよ。
華:どこでするの?
光芳:どこがいい?
華:わかんないけど。
光芳:絶対キスだけで済まなくなる。
華:……うん。
光芳:いいの?
華:……。
華:……ねぇ、オススメの映画教えてよ。
光芳:はあ!?
華:今の私たちにピッタリのやつ。
光芳:ラブロマンス?
華:ロマンチックなやつがいいな。
光芳:そうだな。とりあえず俺の部屋来る?
光芳:DVD沢山あるから。
華:うわ。そうやって女の子を部屋に誘うんだ?
光芳:こんなこと言ったのお前が初めてだよ。
華:嘘くさっ。
光芳:ホントだって。
華:ここでプレゼンしてよ。面白そうだったら、あんたの部屋でその映画一緒に観よ。
光芳:面白そうじゃなかったら?
華:残念ながら、今日は解散?
光芳:わかった。全力でプレゼンする。何がいいかな……。
華:全力はやめて。うるさいから。めんどくさいから。
光芳:って言いながら、いつかお前と一緒に観たいと思ってた映画があるんだけどさ。
華:あー、スイッチ入っちゃった。
光芳:これホントにオススメだから。
華:目が怖い。顔が近い。鼻息荒い。
華:いったん落ち着け。
華:ちゃんと聞くから。
華:お願い。
華:……で、ずーっと前から私と観たかった映画って、なに?
:
0:おしまい。