台本概要

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タイトル 九十九堂の日常其ノ一~黒田家の盗人探し~
作者名 幸重  (@yukie80508241)
ジャンル ファンタジー
演者人数 3人用台本(男2、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 九十九神(つくもがみ)を顕現する能力を持つ千早が営む古道具屋九十九堂(つくもどう)。風鈴の九十九神である鈴麗と話していると、鳴時が厄介事を持ち込んできたようで…?


九十九神、それは道具が魂を宿し、人と喋れるようになった存在。何故かそんな九十九神を顕現させる力を持つ千早と、風鈴の九十九神である鈴麗、そして厄介事を持ち込んでくる鳴時の三人が織りなす和風ファンタジーです。


演者様の性別は不問です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
千早 70 ちはや。九十九堂(つくもどう)の店主。
鈴麗 46 りんれい。風鈴の九十九神(つくもがみ)。九十九堂でも古株で千早と仲が良い。人(?)の姿は大層美人。
鳴時 53 なるとき。九十九堂の常連(?)。事件をよく持ち込むため千早には少し煙たがられている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:*九十九堂《つくもどう》の*日常《にちじょう》*其ノ一《そのいち》【*黒田家《くろだけ》の*盗人《ぬすっと》*探《さが》し】 : : : 0:登場人物紹介 : 千早:ちはや。*九十九堂《つくもどう》の*店主《てんしゅ》。 : 鳴時:なるとき。*九十九堂《つくもどう》の*常連《じょうれん》(?)。*事件《じけん》をよく*持《も》ち*込《こ》むため*千早《ちはや》には*少《すこ》し*煙《けむ》たがられている。 : 鈴麗:りんれい。*風鈴《ふうりん》の*九十九神《つくもがみ》。*九十九堂《つくもどう》でも*古株《ふるかぶ》で*千早《ちはや》と*仲《なか》が*良《よ》い。*人《ひと》(?)の*姿《すがた》は*大層《たいそう》*美人《びじん》。 : : : : : 0:ここから本編です : : : : : : : 千早:ううん、*今日《きょう》は*良《よ》い*天気《てんき》さね。さあて、せっかくお*天道様《てんとうさま》がご*機嫌《きげん》なんだ。*虫干《むしぼ》しでもしようかねぇ。 : : 鈴麗:ならば*妾《わらわ》もおんもに*出《だ》して*風《かぜ》に*当《あ》てておくれ。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》。*貴女《あなた》の*音《おと》は*大層《たいそう》*美《うつく》しくて*素晴《すば》らしいものであれど、この*時期《じき》に*風鈴《ふうりん》の*音《おと》を*響《ひび》かせるのは*風流《ふうりゅう》にあらず。 千早:*優美《ゆうび》さや*雅《みやび》であることを*尊《とうと》ぶ*貴女《あなた》の*意《い》に*沿《そ》うことではなかろう? : : 鈴麗:ふぅむ、さようであるな。されど*夏《なつ》の*間《あいだ》しか*音《おと》を*響《ひび》かせられないのはちと*退屈《たいくつ》なものよ。 鈴麗:*涼《すず》しくともただ*妾《わらわ》の*音《ね》に*耳《みみ》を*傾《かたむ》けてもよかろうに。*人《ひと》の*世《よ》は*赴《おもむ》きもあれど、*窮屈《きゅうくつ》なものであるな。 : : 鳴時:まあまあ、そう*言《い》ってくれるな*鈴麗《りんれい》*殿《どの》。*麗《うるわ》しい*貴女《あなた》からかように*人《ひと》の*世《よ》の*有様《ありさま》を*語《かた》られては*私《わたし》の*心《こころ》も*憂《うれ》いてしまうよ。 : : 千早:*鳴時《なるとき》。こんな*時《とき》*分《わ》から*訪《おとず》れるなぞ*珍《めずら》しいこともあるものだな。 : : 鈴麗:ほんに。*稀有《けう》なことよ。 : : 鳴時:*言葉《ことば》が*過《す》ぎるのではあらんか?*私《わたし》とて*朝《あさ》から*散策《さんさく》したりもするわ。 : : 千早:ああいや、*妙《みょう》な*事柄《ことがら》でも*持《も》ち*込《こ》んだのではないかと*危惧《きぐ》したのだ。ただの*散策《さんさく》で*訪《おとず》れたのであらば*歓迎《かんげい》しよう。 : : 鳴時:その*言《い》い*分《ぶん》ではまるで*私《わたし》がいつも*妙《みょう》な*事柄《ことがら》を*持《も》ち*込《こ》んでいるようではあらんか。 : : 鈴麗:*事実《じじつ》であろう? : : 鳴時:そんなことは… : : 千早:ある。かように*構《かま》えてしまう*程《ほど》にはな。 千早:*先日《せんじつ》*訪《おとず》れた*折《おり》にも「この*茶碗《ちゃわん》を*割《わ》った*犯人《はんにん》を*教《おし》えてくれ」とか*無茶《むちゃ》な*事《こと》を*言《い》うてきたではないか。 千早:ここはただの*古道具屋《ふるどうぐや》だ。*無茶《むちゃ》なことを*言《い》うてくれるな。 : : 鳴時:*何《なに》を*言《い》うておるのだ。*九十九神《つくもがみ》と*意思疎通《いしそつう》できる*貴重《きちょう》な*能力《のうりょく》、*使《つか》わねば*宝《たから》の*持《も》ち*腐《ぐさ》れではあらんか。 鳴時:その*力《ちから》、もっと*広《ひろ》めようとせぬのがまこと*勿体《もったい》なきことよ。こんなこじんまりと*収《おさ》まりおってからに。 : : 千早:くどい。このままで…いいや、このままが*良《よ》いのだ。 千早:*確《たし》かに*九十九神《つくもがみ》と*意思疎通《いしそつう》できる*存在《そんざい》は*貴重《きちょう》さね。 千早:*九十九神《つくもがみ》であるからこそ*知《し》りえることもあろうし、*九十九神《つくもがみ》であるからこそ*出来《でき》ることもあろう。 千早:されど。*鈴麗《りんれい》たち*九十九神《つくもがみ》には*穏《おだ》やかにあってほしいのだ。 : : 鈴麗:*千早《ちはや》。*汝《なんじ》が*穏《おだ》やかに*過《す》ごしたい、という*望《のぞ》みが*抜《ぬ》けておるぞ。さように*妾達《わらわたち》を*案《あん》じてくれているのも*事実《じじつ》ではあろうがの。 鈴麗:*鳴時《なるとき》、*諦《あきら》めるがよい。*千早《ちはや》は*流《なが》されやすいようでいて、*頑《かたく》なな*所《ところ》もあるものよ。この*件《けん》については*梃子《てこ》でも*動《うご》かぬ。 : : 鳴時:*全《まった》く、まことに*勿体無《もったいな》きことよ。*私《わたし》にその*力《ちから》があったなら…いいや、*言《い》うても*詮無《せんな》きことであるな。*千早《ちはや》なればこそ、その*力《ちから》を*持《も》ちえたのであろうし。 : : 鈴麗:さようであるな。*千早《ちはや》なればこそ、じゃ。 鈴麗:*鳴時《なるとき》のような*者《もの》が*力《ちから》を*持《も》っていたらと*思《おも》うとぞっとするわ。どれほどこき*使《つか》われることか。 : : 鳴時:*鈴麗《りんれい》*殿《どの》。*強《あなが》ち*否定《ひてい》できないところではあるが、そうも*言《い》われてしまうとさすがに*気《き》が*沈《しず》む。 鳴時:*言《い》うてそう*悪《わる》いようには*扱《あつか》わぬよ。*九十九神《つくもがみ》を*敬《うやま》い、*物《もの》を*大事《だいじ》にする。*良《よ》いことであろう? : : 鈴麗:どうじゃろうな。*本音《ほんね》を*申《もう》せば*妾《わらわ》はお*主《ぬし》をさして*信用《しんよう》しておらぬゆえ。 : : 鳴時:*実《じつ》に*私《わたし》の*扱《あつか》いが*雑《ざつ》であるな、*鈴麗《りんれい》*殿《どの》。さすがの*私《わたし》も*傷心《しょうしん》であるよ。 鳴時:*私《わたし》は*鈴麗《りんれい》*殿《どの》に*酷《ひど》い*扱《あつか》いをしたことがあろうか?*否《いな》、*無《な》い*筈《はず》。であるのに、かように*信用《しんよう》がないのは*何《なに》ゆえであろうか。 : : 鈴麗:お*主《ぬし》は*胡散臭《うさんくさ》いのじゃ。*信用《しんよう》できない*訳《わけ》としては*十分《じゅうぶん》であろう。 : : 鳴時:*鈴麗《りんれい》*殿《どの》は*手厳《てきび》しい。*千早《ちはや》、*傍観《ぼうかん》せずに*私《わたし》の*味方《みかた》をしてくれてもよかろうよ。*薄情《はくじょう》ではあらんか。 : : 千早:いいや、*鈴麗《りんれい》に*同調《どうちょう》せずにいたことを*有難《ありがた》く*感《かん》じてほしいものさね。 : : 鳴時:*私《わたし》の*味方《みかた》はおらぬか。*私《わたし》はそう*厄介《やっかい》な*扱《あつか》いを*受《う》けるほど*悪《あ》しき*者《もの》ではなかろうに。ああ…。 : : 鈴麗:うむ、*胡散臭《うさんくさ》いのぅ。 : : 千早:まことに。さ、*鳴時《なるとき》。*冷《ひ》やかしであるならばそろそろお*暇《いとま》を。*折角《せっかく》お*天道様《おてんとうさま》の*機嫌《きげん》が*良《よ》いのでな。すべきことが*山《やま》とある。 : : 鳴時:いやいや、これからが*本題《ほんだい》でな。*九十九堂《つくもどう》の*店主《てんしゅ》に*頼《たの》みたいことが… : : 千早:お*引取《ひきと》りを。 : : 鳴時:せめて*話《はなし》に*耳《みみ》を*貸《か》すくらいの*心《こころ》の*広《ひろ》さを*見《み》せてはくれんか? : : 鈴麗:ふぅむ。*確《たし》かに*退屈《たいくつ》ではあったところじゃ。*話《はな》してみせるがよい。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》。こやつにそのようなことを*言《い》っては… : : 鳴時:さすがは*鈴麗《りんれい》*殿《どの》!*千早《ちはや》とは*一味《ひとあじ》も*二味《ふたあじ》も*違《ちが》う!ではではここでは*人《ひと》の*往来《おうらい》もあることであるし、*中《なか》で*話《はな》そうではないか。 : : 千早:(ため息)*結局《けっきょく》は*面倒《めんどう》ごとを*持《も》ち*込《こ》むのさなぁ。…*茶《ちゃ》くらいは*出《だ》そうぞ。*奥《おく》へ*通《とお》るがよい。 : : 鈴麗:*結局《けっきょく》は*話《はなし》を*聞《き》いてやるのではないか。*千早《ちはや》はほんに*流《なが》されやすいこと。 : : 千早:*人《ひと》がいい、とは*言《い》うてくれんのなぁ。*鈴麗《りんれい》らしい、と*言《い》うてしまえばそれまでか。 : : 鳴時:ははは。*鈴麗《りんれい》*殿《どの》は*相《あい》も*変《か》わらず*千早《ちはや》にも*容赦《ようしゃ》*無《な》しであるな。 鳴時:では*有難《ありがた》く*奥《おく》へと*通《とお》させてもらうとしよう。*邪魔《じゃま》をする。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》、*鳴時《なるとき》を*見張《みは》っといとくれ。さすがに*悪《わる》さはしないと*思《おも》いたいが*念《ねん》には*念《ねん》を、というやつさね。 : : 鈴麗:*別《べつ》に*構《かま》わぬが。お*主《ぬし》はどうするのじゃ? : : 千早:*言《い》うたろう?*茶《ちゃ》を*淹《い》れてくる。 : : 鈴麗:*信用《しんよう》できぬような*輩《やから》ならば*茶《ちゃ》など*用意《ようい》せんでもよかろうに。 : : 千早:*鳴時《なるとき》の*話《はなし》の*長《なが》さは*知《し》っておるだろう?*茶《ちゃ》でも*用意《ようい》せねば*付《つ》き*合《あ》いきれぬよ。 : : 鈴麗:そこまで*思《おも》っていながら*話《はなし》には*付《つ》き*合《あ》うとは…ほんに*不思議《ふしぎ》な*間柄《あいだがら》よ。 : : 千早:*鳴時《なるとき》の*持《も》ってくる*事柄《ことがら》は、*無碍《むげ》に*出来《でき》るようなことではないのさねぇ。ほんに*困《こま》ったことよのぅ。 : : 鈴麗:ほ、ほ。わかっておる。*安心《あんしん》して*茶《ちゃ》を*淹《い》れてくるがよい。*見張《みは》りついでに*軽《かる》く*相手《あいて》をしておいてやろうぞ。 : : 千早:ありがとう、*鈴麗《りんれい》。 : : 鈴麗:*礼《れい》には*及《およ》ばぬが、その*言葉《ことば》は*受《う》け*取《と》っておこう。 : : : : : 0:間 : : : : : 千早:*待《ま》たせたな、*茶《ちゃ》だ。そんなに*上等《じょうとう》なものではないが。 : : 鳴時:ああ、*有難《ありがた》くいただくとしよう。…うむ、うまい。*上等《じょうとう》な*葉《は》を*使《つか》わずともここまでの*味《あじ》を*出《だ》せるのはまこと*見事《みごと》なものであるな。 : : 千早:*褒《ほ》めても*何《なに》も*出《で》ぬぞ。 : : 鳴時:*茶《ちゃ》が*出《で》ているであろう。かようにうまい*茶《ちゃ》を*飲《の》めるのであればそれで*十分《じゅうぶん》。 : : 鈴麗:*言葉《ことば》*遊《あそ》びはそのくらいにして、*本題《ほんだい》に*入《はい》ったらどうじゃ? 鈴麗:お*主《ぬし》らのやり*取《と》りを*眺《なが》めるのも*悪《わる》くはない。が、*千早《ちはや》は*話《はなし》なぞささと*済《す》まして*店《みせ》のことをしたいのではないかの? : : 千早:ああ、そうさな。*鳴時《なるとき》、*話《はなし》は*聞《き》こう。だが、*手短《てみじか》にな。 : : 鳴時:あいわかった。*訪《おとず》れる*客《きゃく》も*私《わたし》*以外《いがい》になく、さほど*忙《いそが》しいようにも*見《み》えぬがまあそう*言《い》うのであれば…ああ、そう*睨《にら》むな。 鳴時:さあさ、*本題《ほんだい》である。 鳴時:*外《はず》れにある*屋敷《やしき》をご*存知《ぞんじ》であろうか?そう、*黒田家《くろだけ》の*屋敷《やしき》であるよ。 鳴時:そのお*屋敷《やしき》に*大層《たいそう》*立派《りっぱ》な*蔵《くら》があるのもご*存知《ぞんじ》か?…そうそう、*庭《にわ》にあるあの*大《おおき》きな*蔵《くら》のことよ。 鳴時:その*蔵《くら》には*黒田家《くろだけ》が*代々《だいだい》*集《あつ》めてきた*貴重《きちょう》な*品々《しなじな》が*並《なら》ぶという*話《はなし》である。*入《い》り*口《ぐち》には*立派《りっぱ》な*錠《じょう》にて*閉《と》ざされ、*屋敷《やしき》の*門《もん》には*常《つね》に*見張《みは》りがおり、そうそう*外部《がいぶ》の*者《もの》が*近《ちか》づけるような*場所《ばしょ》ではない。 鳴時:されどある*日《ひ》、かの*蔵《くら》に*並《なら》んでいた*大事《だいじ》なお*宝《たから》のひとつが*無《な》くなっていたそうな。 鳴時:*厳重《げんじゅう》に*守《まも》られた*場所《ばしょ》であるが*故《ゆえ》、*屋敷《やしき》で*働《はたら》く*者《もの》が*疑《うたが》われてしまっておるのだ。 鳴時:このままでは*罪《つみ》もなき*者《もの》が*罪人《ざいにん》に*仕立《した》て*上《あ》げられてしまいかねぬと*女中《じょちゅう》のひとりに*泣《な》きつかれてだな… : : 千早:まあ*待《ま》て。*言《い》いたいことは*山《やま》のようにあるがまあそこにはひとまず*目《め》を*瞑《つむ》ろう。 千早:まずは*聞《き》きたいことが3つある。 千早:ひとつ。お*前《まえ》と*女中《じょちゅう》はただの*知《し》り*合《あ》いか? 千早:ふたつ。お*主《ぬし》と*黒田家《くろだけ》との*関係《かんけい》は? 千早:みっつ。*何故《なにゆえ》わざわざこの*話《はなし》をここへ*持《も》ってきた? : : 鳴時:はは、いつものこととはいえ、ずけずけと*切《き》り*込《こ》んでくる。 鳴時:ああ、ちゃんとひとつずつ*答《こた》えよう。 鳴時:まずはふたつめから*答《こた》えようか。*元《もと》より*黒田家《くろだけ》と*私《わたし》は*縁《えん》があってね。*親《した》しい…といってよいかどうかはさておき、*話《はなし》を*通《とお》すことができるくらいには*面識《めんしき》がある。*問題《もんだい》の*蔵《くら》の*中《なか》を*見《み》せてもらうことも*可能《かのう》だとも。 鳴時:*次《つぎ》にひとつめに*戻《もど》って。*女中《じょちゅう》は*以前《いぜん》*外《そと》で*具合《ぐあい》を*悪《わる》くしているところを*屋敷《やしき》まで*送《おく》っていったことがあってな。それ*以来《いらい》*外《そと》で*会《あ》えば*軽《かる》く*言葉《ことば》を*交《か》わす*程度《ていど》には*仲良《なかよ》くしておったよ。まあ、*他《ほか》に*頼《たよ》れる*者《もの》もなかったのであろう。 鳴時:*最後《さいご》にみっつめ。*今更《いまさら》であろう?*千早《ちはや》、*他《ほか》でもないお*主《ぬし》の*力《ちから》を*借《か》りたかったからに*決《き》まっておろう。*道具《どうぐ》に*宿《やど》りし*九十九《つくも》の*神《かみ》を*呼《よ》び*出《だ》し、*言葉《ことば》を*交《か》わすことが*出来《でき》るその*力《ちから》を。 : : 千早:その*力《ちから》を*用《もち》いることを*好《この》んでいないことも*知《し》っておろう? : : 鈴麗:*不思議《ふしぎ》に*思《おも》っておったのじゃ。*何故《なにゆえ》そなたは*九十九神《つくもがみ》を*呼《よ》ぶことを*躊躇《ためら》うのじゃ?*妾《わらわ》*達《たち》のことを*疎《うと》んでいるわけでもあるまいに。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》、その*話《はなし》はまた*別《べつ》のときに… : : 鳴時:いいや、その*話《はなし》、*私《わたし》にも*聞《き》かせてもらいたいものであるな。*理由《りゆう》*如何《いかん》によってはこうして*助力《じょりょく》を*請《こ》うことも*控《ひか》えよう。 鳴時:*力《ちから》を*使《つか》う*為《ため》に*何《なに》かを*要《よう》するのであるか?*物《もの》は*特《とく》に*用《もち》いているようには*見《み》えなんだが。まさかその*実《じつ》、*体《からだ》に*何《なん》ぞ*害《がい》でもあったりするのであろうか? 鳴時:さようであるならばまことに*悪《わる》いことをしてしまったものだ。 : : 千早:いやいやいやいや。*事実無根《じじつむこん》な*話《はなし》を*勝手《かって》に*進《すす》めるでない。*何《なに》かを*用《もち》いるわけでも、*体《からだ》に*不都合《ふつごう》が*起《お》こるわけでもない。ただ… : : 鳴時:ただ?では*何《なに》が*問題《もんだい》であるのかの? : : 千早:*呼《よ》ぶことはできても、*還《かえ》すことはできない。 : : 鈴麗:ほう。そんなことを*気《き》にしておったのか。 : : 千早:そんなこと、で*済《す》ましていいことではなかろう。 : : 鈴麗:*妾《わらわ》にとってはそんなこと、じゃな。なんじゃ*千早《ちはや》、*九十九神《つくもがみ》に*恨《うら》まれたことでも? : : 千早:まだ、ない、が… : : 鈴麗:ならば*今後《こんご》ともない、とは*言《い》い*切《き》れぬやもしれぬが*稀有《けう》であろうよ。さような*憂《うれ》いなど*捨《す》ててしまうがよい。 : : 千早:*呼《よ》んだからこそ…*顕現《けんげん》すればこそ*生《しょう》じる*煩《わずら》わしさもあろう? : : 鈴麗:まあのぅ。ないとは*言《い》わぬ。ただ*道具《どうぐ》としておった*頃《ころ》には*退屈《たいくつ》さなど*感《かん》じなかったしな。 : : 千早:…やはり、ただの*道具《どうぐ》に*戻《もど》りたいと : : 鈴麗:*思《おも》わぬ。*千早《ちはや》、お*主《ぬし》と*言葉《ことば》を*交《か》わし、*人《ひと》の*世《よ》を*見《み》て*過《す》ごすのは*煩《わずら》わしさよりも*楽《たの》しさを*多《おお》く*齎《もたら》すものぞ。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》…。それでも、この*力《ちから》は*軽々《かるがる》しく*使《つか》うものではないのだ。 : : 鈴麗:ふぅむ。まあ、それが*千早《ちはや》の*言《い》い*分《ぶん》であると。*妾《わらわ》ももうこれ*以上《いじょう》は*言《い》うまい。 鈴麗:ただな。*胸《むね》を*張《は》れ、*千早《ちはや》。その*力《ちから》は*誇《ほこ》ってよいものぞ。 : : 鳴時:さようであるよ。*千早《ちはや》、その*力《ちから》はもっと*誇《ほこ》るべきもの。あまりにも*軽々《かるがる》しく*用《もち》いることは*悪《あ》しきことやもしれぬが、*用《もち》いることそのものをかように*忌避《きひ》することもあるまいて。 鳴時:ましてや*世《よ》のため*人《ひと》のために*使《つか》うのであるぞ?そう*渋《しぶ》ることこそ*悪《あ》しきことではあらぬか? : : 千早:そうであろうか…いや、しかし… : : 鈴麗:*千早《ちはや》!お*主《ぬし》の*力《ちから》は*九十九神《つくもがみ》に*不幸《ふこう》を*齎《もたら》すものではあらぬ!もちろん*人《ひと》にも、じゃ。*信《しん》じよ! 鈴麗:それとも*妾《わらわ》が*言《い》うことを*信《しん》じられぬか? 鈴麗:*千早《ちはや》、お*主《ぬし》が*己《おのれ》を*信《しん》じられないのであればそれはそれでかまわぬ。*妾《わらわ》が*信《しん》じるお*主《ぬし》を*信《しん》じよ! : : 鳴時:ああ、*私《わたし》も*千早《ちはや》を*信《しん》じているよ。*千早《ちはや》は*己《おのれ》を*過小評価《かしょうひょうか》しすぎている。そして*人《ひと》や*九十九神《つくもがみ》*達《たち》の*強《つよ》さも、ね。 : : 千早:*強《つよ》さ…? : : 鈴麗:ほぅ。*珍《めずら》しくよいことを*言《い》うではないか、お*主《ぬし》。 : : 鳴時:*珍《めずら》しく、は*余計《よけい》であるよ、*鈴麗《りんれい》*殿《どの》。 鳴時:(咳払い)*千早《ちはや》、*人《ひと》はそれぞれが*己《おのれ》の*足《あし》で*立《た》ち、*己《おのれ》の*頭《あたま》で*考《かんが》え、*過《す》ごしておるのだ。 鳴時:もちろん*世《よ》の*中《なか》*悪《わる》いやつはいる。*人《ひと》に*不幸《ふこう》を*齎《もたら》す*者《もの》もいるのは*事実《じじつ》である。 鳴時:だがな?お*主《ぬし》は*違《ちが》う。*人《ひと》に*不幸《ふこう》を*齎《もたら》すために*行動《こうどう》するものではあらぬ。 鳴時:そもそも*人《ひと》はそれぞれ*自《おのず》ずから*幸《しあわ》せを*掴《つか》みとっていくものなのだ。それを*手助《てだす》けする*者《もの》もあれば、*邪魔《じゃま》するものもあろう。その*中《なか》で*己《おのれ》の*頭《あたま》で*考《かんが》え、*己《おのれ》の*足《あし》で*進《すす》み、*己《おのれ》の*手《て》で*掴《つか》みとっていくものだ。 鳴時:*千早《ちはや》、*信《しん》じよ。*人《ひと》の*強《つよ》さを。*万《まん》に*一《ひと》つでもお*主《ぬし》の*力《ちから》が*誰《だれ》かを*不幸《ふしあわ》せへと*導《みちび》いてしまう*時《とき》があったとしても、その*者《もの》が、*私達《わたしたち》が、その*流《なが》れを*変《か》えてみせると。 鳴時:人だけでなく、九十九神達もそうであると。 : : 鈴麗:そうじゃ。*妾達《わらわたち》もまた、ただ*不幸《ふこう》に*嘆《なげ》くものにあらず。*自《みずか》ら*楽《たの》しみを、*幸福《こうふく》を*招《まね》くものぞ。 : : 千早:*鳴時《なるとき》。*鈴麗《りんれい》。 : : 鳴時:ある*意味《いみ》*千早《ちはや》は*自意識過剰《じいしきかじょう》であるな。*誰《だれ》かを*不幸《ふこう》に*引《ひ》きずり*込《こ》んでしまう*力《ちから》があるとな。 鳴時:ははは、そんな*目《め》をするでない。*案《あん》ずるよりも*生《う》むが*易《やす》し、と*言《い》うであろう。 鳴時:*忌避《きひ》するのではなく、*考慮《こうりょ》した上でその*力《ちから》を*用《もち》いればよいのだ。 鳴時:*無理《むり》になかったことにするのではなく、その*力《ちから》を*有《ゆう》することに*意味《いみ》を*見出《みい》すのだ。 : : 鈴麗:そうじゃぞ。*千早《ちはや》、そなたが*力《ちから》を*否定《ひてい》することは*妾《わらわ》を*否定《ひてい》することと*等《ひと》しきものと*思《おも》うがよい。 鈴麗:ああ、*悲《かな》しいのぅ。*千早《ちはや》は*妾《わらわ》の*在《あ》りようを*否定《ひてい》するのじゃな。 : : 千早:*違《ちが》う!そんなことあろうはずがない! 千早:ああもう、*参《まい》った。*降参《こうさん》だ。この*力《ちから》を、*己《おのれ》を*卑下《ひげ》せぬ。*必要《ひつよう》とあらば*用《もち》いる。ひとまずそれで*手打《てう》ちとしてくれぬか。 : : 鈴麗:うむ、ひとまずはそれでよしとしようぞ。 : : 鳴時:そうさな。 鳴時:さて、*随分《ずいぶん》と*話《はなし》が*逸《そ》れてしまったものよ。 鳴時:そうそう。それで、*共《とも》に*件《くだん》の*蔵《くら》に*行《い》き、*盗《と》られてしまった*品物《しなもの》を*取《と》り*戻《もど》すための*手助《てだす》けを*願《ねが》いたいのだ。 鳴時:お*主《ぬし》の*力《ちから》を*用《もち》いれば*犯人《はんにん》などすぐに*判明《はんめい》しよう?*犯人《はんにん》が*分《わ》かれば*取《と》り*戻《もど》すことも*容易《ようい》となろう。な、*千早《ちはや》、*頼《たの》む。 : : 千早:はぁ、わかった。*力《ちから》を*貸《か》せばよいのであろう? 千早:だが、*黒田家《くろだけ》の*方《ほう》へきちんと*話《はなし》を*通《とお》すのを*忘《わす》れぬようにな。*調《しら》べているうちに*不審者《ふしんしゃ》*扱《あつか》いされるのは*御免《ごめん》であるぞ。 : : 鳴時:ああ、わかっておる。*実《じつ》はもう*話《はなし》は*通《かよ》っていてな。*今《いま》から*訪《おとず》れても*問題《もんだい》ない。 : : 千早:…*言《い》いたいことが*色々《いろいろ》あるような*気《き》もするがこたびは*置《お》いておこう。*支度《したく》をする*故《ゆえ》、しばし*待《ま》つがいい。 : : 鳴時:*有難《ありがた》い。のんびり*茶《ちゃ》を*啜《すす》りながら*待《ま》たせてもらうぞ。 : : : : : 0:黒田家、蔵内部にて : : : : : 千早:ここがそうなのだな。 千早:しかし、*付《つ》き*添《そ》いがお*主《ぬし》だけとは、*随分《ずいぶん》と*信用《しんよう》されておるものよ。 : : 鳴時:まあ、*私《わたし》も*色々《いろいろ》あってな。それに*千早《ちはや》はなるべく*人《ひと》がいない*方《ほう》がよいのであろう? : : 千早:*確《たし》かにその*方《ほう》が*助《たす》かるのは*事実《じじつ》さね。 : : 鈴麗:ここが*不自然《ふしぜん》に*空《あ》いておるな。ここに*置《お》いてあったものが*盗《と》られた*物《もの》かの? : : 鳴時:さようであるよ。*簪《かんざし》が*置《お》いてあったそうな。 : : 鈴麗:ほぅ、*簪《かんざし》とな。 : : 千早:ふむ、*簪《かんざし》か…。 : : 鳴時:*盗《ぬす》まれたのは*一昨日《おととい》から*昨日《きのう》にかけてのことだ。*毎日《まいにち》*決《き》まった*時間《じかん》に*掃除《そうじ》が*入《はい》るのだが、*一昨日《おととい》*掃除《そうじ》したときにはあったのに*昨日《きのう》*掃除《そうじ》に*入《はい》ったときには*既《すで》になかったとのことであるよ。 : : 千早:ふぅむ。 : : 鳴時:さあ、どれに*話《はなし》を*聞《き》くのであるかな?やはりこのすぐ*隣《となり》に*並《なら》んでいる*小道具入《こどうぐい》れであろうか?それとも*逆隣《ぎゃくどなり》の*壷《つぼ》であるか? : : 千早:…*鳴時《なるとき》。あそこにあるのは : : 鳴時:ん?ああ、*風通《かざとお》しのための*通風口《つうふうこう》であるな。しかしあんな*高《たか》く、*狭《せま》い*場所《ばしょ》では*盗人《ぬすっと》など*通《とお》れなかろう? : : 千早:いつも*開《あ》いておるのか? : : 鳴時:*盗《ぬす》まれたことがわかってからは*何《なに》もしていないはずである。*少《すく》なくとも*事件《じけん》*当時《とうじ》は*開《あ》いておったのであろうな。 : : 千早:ふむ。なるほど、な。 : : 鈴麗:おや、*千早《ちはや》。なんぞわかったのかえ? : : 千早:ああ、おそらく、だが。 千早:*鳴時《なるとき》、*家《いえ》の*者《もの》に*庭《にわ》で*待《ま》たせてもらえるよう*頼《たの》んできてはくれぬか。 : : 鳴時:うむ?*九十九神《つくもがみ》に*話《はなし》を*聞《き》かぬのか? : : 千早:ここにおるものを*呼《よ》べば、*話《はなし》*相手《あいて》もなく*寂《さび》しい*想《おも》いをすることになろう。 千早:*今《いま》はまだ、その*時《とき》ではない。*案《あん》ずるな、*必要《ひつよう》とあらば*躊躇《ためら》わぬ。 : : 鳴時:ふむ、*解決《かいけつ》するのであればまあよい、か。あいわかった、しばし*待《ま》たれよ。*話《はなし》をつけてくる。 : : : : : 0:黒田家、庭にて : : : : : 鳴時:で、いつまでこうして*過《す》ごせばよいのであるか? : : 鈴麗:ただ*時《とき》が*過《す》ぎるに*任《まか》せるというのは*存外《ぞんがい》*退屈《たいくつ》であることよ。 : : 千早:*運《うん》がよければそのうち…ああ、*来《き》たな : : 鈴麗:あれは…*烏《からす》であるな。 : : 鳴時:*烏《からす》?…まさか : : 千早:うむ、ここまでは*予想通《よそうどお》りであるのだが…*問題《もんだい》はここからよ。 : : 鳴時:*追《お》うのであるか?あれを? : : 千早:*近《ちか》くであればよいのだが…。 : : 鈴麗:なぁに、*妾《わらわ》が*力《ちから》となろうぞ。 : : 鳴時:いかに*鈴麗《りんれい》*殿《どの》が*地面《じめん》に*足《あし》をつける*必要《ひつよう》がないといえども*本体《ほんとう》である*風鈴《ふうりん》からさほど*離《はな》れることはできないのであろう? : : 鈴麗:*烏《からす》が*飛《と》び*立《た》ち*次第《しだい》*妾《わらわ》を*鳴《な》らすがよい。*決《けっ》して*音《おと》を*途切《とぎ》れさせるでないぞ。 : : 千早:…なるほど。しかし*鈴麗《りんれい》、いささか*危険《きけん》なのでは… : : 鈴麗:む、*飛《と》び*立《た》ったな。*行《い》くぞ! : : 千早:*鈴麗《りんれい》!*無理《むり》はしてくれるなよ!(風鈴を鳴らし始める) : : 鈴麗:わかっておる!そんなこと*言《い》う*暇《ひま》があるならばさっさとついてくるがよい! : : 千早:*鳴時《なるとき》、*行《い》くぞ!(走り出す) : : 鳴時:*鈴麗《りんれい》*殿《どの》が*風鈴《ふうりん》からあんなに*離《はな》れて…?あくまで*本体《ほんたい》は*風鈴《ふうりん》であるからあんなに*離《はな》れることはできないはずでは…(走りながら) : : 千早:ああ、その*通《とお》り。*本来《ほんらい》ならばいかに*人型《ひとがた》をとっていようと*本体《ほんたい》である*物《もの》からさして*離《はな》れることはできない。 : : 鳴時:ならば*何故《なぜ》! : : 千早:*鈴麗《りんれい》が*風鈴《ふうりん》の*九十九神《つくもがみ》だからだ。*風鈴《ふうりん》の*音《おと》の*響《ひび》く*範囲《はんい》を*領域《りょういき》として*移動《いどう》することができる。 : : 鳴時:なんと!*実《じつ》に*素晴《すば》らしい*能力《のうりょく》であるな! : : 千早:だが、*音《おと》の*響《ひび》く*範囲《はんい》は*無限《むげん》ではない。 : : 鳴時:さようであるな? : : 千早:*音《おと》が*途切《とぎ》れたときに*離《はな》れた*場所《ばしょ》にいたら。*領域《りょういき》から*遠《とお》く*離《はな》れた*場所《ばしょ》にいて*人型《ひとがた》も*本体《ほんたい》も*無事《ぶじ》でいれるものなのか、わからぬのだ! 千早:それにこうして*走《はし》りながら*風鈴《ふうりん》を*鳴《な》らすなど、いつこんな*無茶《むちゃ》な*扱《あつか》いに*本体《ほんたい》が*損《そん》じてしまわぬとも*限《かぎ》らぬ。そうなれば*鈴麗《りんれい》は…! : : 鳴時:…*鈴麗《りんれい》*殿《どの》は*承知《しょうち》の*上《うえ》でかような*無茶《むちゃ》を : : 千早:そうだ!く、まだか…*烏《からす》の*巣《す》にはまだ*遠《とお》いのか… : : 鳴時:…!*鈴麗《りんれい》殿《どの》が*止《と》まったぞ! : : 千早:*少《すこ》し*高《たか》い*位置《いち》だが、*木《き》の*枝間《えだま》を*覗《のぞ》き*込《こ》んでいるようだな。*無事《ぶじ》に*巣《す》まで*追《お》いつけたようであるな。 : : 鈴麗:うむ、*確《たし》かに*巣《す》の*中《なか》に*簪《かんざし》があったぞ。さすがにこの*身《み》では*触《ふ》れられぬでな。 : : 千早:ああ、わかっておるよ。*有難《ありがと》う、*鈴麗《りんれい》。 : : 鈴麗:*妾《わらわ》もさすがに*少々《しょうしょう》*疲《つか》れてもうた。ゆっくり*休《やす》ませてもらうとしよう。 : : 千早:ああ、ゆっくり*休《やす》んでおくれ。(風鈴を大切に布にくるんで懐へしまう) : : 鳴時:…*千早《ちはや》よ。 : : 千早:なんぞ? : : 鳴時:*誰《だれ》が*簪《かんざし》を*取《と》ってくるのであるか? : : 千早:お*主《ぬし》であるな。 : : 鳴時:やはりそうであるか… : : : : : 0:数日後。九十九堂にて。 : : : : : 鳴時:まあそんなわけで*黒田家《くろだけ》からお*礼《れい》をいただいたのでな、*受《う》け*取《と》るがよい。 : : 千早:…*有難《ありがた》く*受《う》け*取《と》っておくとしよう。 : : 鈴麗:ほほ。そんな*複雑《ふくざつ》な*顔《かお》をするものでない。*人《ひと》の*世《よ》は*何《なに》かと*入用《いりよう》じゃ。*貰《もら》えるものは*貰《もら》っておくが*吉《きち》じゃぞ。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》の*活躍《かつやく》のおかげであるに…。 : : 鈴麗:そう*気《き》にするでない。*千早《ちはや》の*暮《く》らしぶりが*良《よ》くなれば*妾《わらわ》も*嬉《うれ》しい。*気《き》になるのであれば*妾《わらわ》の*手入《てい》れにかける*時間《じかん》を*増《ふ》やしてくれればそれで*良《よ》い。 : : 千早:そうさせてもらおう。 : : 鳴時:*落《お》としどころが*見《み》つかって*何《なに》よりであるな。 鳴時:まあしかし*犯人《はんにん》が*烏《からす》とはなぁ!なんとこの*世《よ》の*面白《おもしろ》きことよ。 鳴時:*新《あら》たな*九十九神《つくもがみ》を*見《み》ることができぬのは*残念《ざんねん》ではあったが*貴重《きちょう》な*体験《たいけん》をしたものよ。 鳴時:まさか*私《わたし》が*木登《きのぼ》りなぞすることになろうとは…。 : : 千早:ほう、それが*本音《ほんね》であるか。 : : 鳴時:い、いや*千早《ちはや》!*勘違《かんちが》いするでないぞ!*人助《ひとだす》けとなったことに*違《ちが》いはなかろう!? : : 千早:*鳴時《なるとき》がやたらと*力《ちから》を*使《つか》わせたがっていることにも*違《ちが》いはないようであるな。 : : 鈴麗:*鳴時《なるとき》なぞさっさと*追《お》い*出《だ》して*店《みせ》の*掃除《そうじ》でもしてはどうかの。 : : 千早:さようであるな。*鳴時《なるとき》、*疾《と》くお*暇《いとま》を。 : : 鳴時:*酷《ひど》い*扱《あつか》いであるな。まあ、*用《よう》も*済《す》んだことだし*大人《おとな》しく*退散《たいさん》することとしよう。(店から出ていく) : : 鈴麗:…*妾《わらわ》としては、*仲間《なかま》が*増《ふ》えるのは*歓迎《かんげい》ではあるのじゃがな。*話相手《はなしあいて》が*増《ふ》えるのは*嬉《うれ》しいことよ。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》… : : 鈴麗:ああ、*勘違《かんちが》いするでないぞ。*別《べつ》に*催促《さいそっく》しているわけではあらん。 鈴麗:*千早《ちはや》、そなたにはそなたのあり*方《かた》がある。それでよいのじゃ。 鈴麗:ただ、*意固地《いこじ》にならずに*時《とき》には*流《なが》れに*身《み》を*任《まか》せよ。*新《あら》たな*九十九神《つくもがみ》が*顕現《けんげん》するのであれば*妾《わらわ》は*歓迎《かんげい》しよう。それだけの*話《はなし》じゃ、 鈴麗:*千早《ちはや》、そなたが*思《おも》い*悩《なや》むことなど*何《なに》もない。ただ、*日々《ひび》を*過《す》ごす*中《なか》に*答《こた》えがあろうよ。 鈴麗:さ、せっかくお*天道様《てんとうさま》の*機嫌《きげん》が*良《よ》いのじゃ。*今《いま》のうちに*出来《でき》ることをするがよい。 : : 千早:…そうさね。じゃ、*虫干《むしぼ》しでもしようかねぇ。 : : : : : 0:終

0:*九十九堂《つくもどう》の*日常《にちじょう》*其ノ一《そのいち》【*黒田家《くろだけ》の*盗人《ぬすっと》*探《さが》し】 : : : 0:登場人物紹介 : 千早:ちはや。*九十九堂《つくもどう》の*店主《てんしゅ》。 : 鳴時:なるとき。*九十九堂《つくもどう》の*常連《じょうれん》(?)。*事件《じけん》をよく*持《も》ち*込《こ》むため*千早《ちはや》には*少《すこ》し*煙《けむ》たがられている。 : 鈴麗:りんれい。*風鈴《ふうりん》の*九十九神《つくもがみ》。*九十九堂《つくもどう》でも*古株《ふるかぶ》で*千早《ちはや》と*仲《なか》が*良《よ》い。*人《ひと》(?)の*姿《すがた》は*大層《たいそう》*美人《びじん》。 : : : : : 0:ここから本編です : : : : : : : 千早:ううん、*今日《きょう》は*良《よ》い*天気《てんき》さね。さあて、せっかくお*天道様《てんとうさま》がご*機嫌《きげん》なんだ。*虫干《むしぼ》しでもしようかねぇ。 : : 鈴麗:ならば*妾《わらわ》もおんもに*出《だ》して*風《かぜ》に*当《あ》てておくれ。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》。*貴女《あなた》の*音《おと》は*大層《たいそう》*美《うつく》しくて*素晴《すば》らしいものであれど、この*時期《じき》に*風鈴《ふうりん》の*音《おと》を*響《ひび》かせるのは*風流《ふうりゅう》にあらず。 千早:*優美《ゆうび》さや*雅《みやび》であることを*尊《とうと》ぶ*貴女《あなた》の*意《い》に*沿《そ》うことではなかろう? : : 鈴麗:ふぅむ、さようであるな。されど*夏《なつ》の*間《あいだ》しか*音《おと》を*響《ひび》かせられないのはちと*退屈《たいくつ》なものよ。 鈴麗:*涼《すず》しくともただ*妾《わらわ》の*音《ね》に*耳《みみ》を*傾《かたむ》けてもよかろうに。*人《ひと》の*世《よ》は*赴《おもむ》きもあれど、*窮屈《きゅうくつ》なものであるな。 : : 鳴時:まあまあ、そう*言《い》ってくれるな*鈴麗《りんれい》*殿《どの》。*麗《うるわ》しい*貴女《あなた》からかように*人《ひと》の*世《よ》の*有様《ありさま》を*語《かた》られては*私《わたし》の*心《こころ》も*憂《うれ》いてしまうよ。 : : 千早:*鳴時《なるとき》。こんな*時《とき》*分《わ》から*訪《おとず》れるなぞ*珍《めずら》しいこともあるものだな。 : : 鈴麗:ほんに。*稀有《けう》なことよ。 : : 鳴時:*言葉《ことば》が*過《す》ぎるのではあらんか?*私《わたし》とて*朝《あさ》から*散策《さんさく》したりもするわ。 : : 千早:ああいや、*妙《みょう》な*事柄《ことがら》でも*持《も》ち*込《こ》んだのではないかと*危惧《きぐ》したのだ。ただの*散策《さんさく》で*訪《おとず》れたのであらば*歓迎《かんげい》しよう。 : : 鳴時:その*言《い》い*分《ぶん》ではまるで*私《わたし》がいつも*妙《みょう》な*事柄《ことがら》を*持《も》ち*込《こ》んでいるようではあらんか。 : : 鈴麗:*事実《じじつ》であろう? : : 鳴時:そんなことは… : : 千早:ある。かように*構《かま》えてしまう*程《ほど》にはな。 千早:*先日《せんじつ》*訪《おとず》れた*折《おり》にも「この*茶碗《ちゃわん》を*割《わ》った*犯人《はんにん》を*教《おし》えてくれ」とか*無茶《むちゃ》な*事《こと》を*言《い》うてきたではないか。 千早:ここはただの*古道具屋《ふるどうぐや》だ。*無茶《むちゃ》なことを*言《い》うてくれるな。 : : 鳴時:*何《なに》を*言《い》うておるのだ。*九十九神《つくもがみ》と*意思疎通《いしそつう》できる*貴重《きちょう》な*能力《のうりょく》、*使《つか》わねば*宝《たから》の*持《も》ち*腐《ぐさ》れではあらんか。 鳴時:その*力《ちから》、もっと*広《ひろ》めようとせぬのがまこと*勿体《もったい》なきことよ。こんなこじんまりと*収《おさ》まりおってからに。 : : 千早:くどい。このままで…いいや、このままが*良《よ》いのだ。 千早:*確《たし》かに*九十九神《つくもがみ》と*意思疎通《いしそつう》できる*存在《そんざい》は*貴重《きちょう》さね。 千早:*九十九神《つくもがみ》であるからこそ*知《し》りえることもあろうし、*九十九神《つくもがみ》であるからこそ*出来《でき》ることもあろう。 千早:されど。*鈴麗《りんれい》たち*九十九神《つくもがみ》には*穏《おだ》やかにあってほしいのだ。 : : 鈴麗:*千早《ちはや》。*汝《なんじ》が*穏《おだ》やかに*過《す》ごしたい、という*望《のぞ》みが*抜《ぬ》けておるぞ。さように*妾達《わらわたち》を*案《あん》じてくれているのも*事実《じじつ》ではあろうがの。 鈴麗:*鳴時《なるとき》、*諦《あきら》めるがよい。*千早《ちはや》は*流《なが》されやすいようでいて、*頑《かたく》なな*所《ところ》もあるものよ。この*件《けん》については*梃子《てこ》でも*動《うご》かぬ。 : : 鳴時:*全《まった》く、まことに*勿体無《もったいな》きことよ。*私《わたし》にその*力《ちから》があったなら…いいや、*言《い》うても*詮無《せんな》きことであるな。*千早《ちはや》なればこそ、その*力《ちから》を*持《も》ちえたのであろうし。 : : 鈴麗:さようであるな。*千早《ちはや》なればこそ、じゃ。 鈴麗:*鳴時《なるとき》のような*者《もの》が*力《ちから》を*持《も》っていたらと*思《おも》うとぞっとするわ。どれほどこき*使《つか》われることか。 : : 鳴時:*鈴麗《りんれい》*殿《どの》。*強《あなが》ち*否定《ひてい》できないところではあるが、そうも*言《い》われてしまうとさすがに*気《き》が*沈《しず》む。 鳴時:*言《い》うてそう*悪《わる》いようには*扱《あつか》わぬよ。*九十九神《つくもがみ》を*敬《うやま》い、*物《もの》を*大事《だいじ》にする。*良《よ》いことであろう? : : 鈴麗:どうじゃろうな。*本音《ほんね》を*申《もう》せば*妾《わらわ》はお*主《ぬし》をさして*信用《しんよう》しておらぬゆえ。 : : 鳴時:*実《じつ》に*私《わたし》の*扱《あつか》いが*雑《ざつ》であるな、*鈴麗《りんれい》*殿《どの》。さすがの*私《わたし》も*傷心《しょうしん》であるよ。 鳴時:*私《わたし》は*鈴麗《りんれい》*殿《どの》に*酷《ひど》い*扱《あつか》いをしたことがあろうか?*否《いな》、*無《な》い*筈《はず》。であるのに、かように*信用《しんよう》がないのは*何《なに》ゆえであろうか。 : : 鈴麗:お*主《ぬし》は*胡散臭《うさんくさ》いのじゃ。*信用《しんよう》できない*訳《わけ》としては*十分《じゅうぶん》であろう。 : : 鳴時:*鈴麗《りんれい》*殿《どの》は*手厳《てきび》しい。*千早《ちはや》、*傍観《ぼうかん》せずに*私《わたし》の*味方《みかた》をしてくれてもよかろうよ。*薄情《はくじょう》ではあらんか。 : : 千早:いいや、*鈴麗《りんれい》に*同調《どうちょう》せずにいたことを*有難《ありがた》く*感《かん》じてほしいものさね。 : : 鳴時:*私《わたし》の*味方《みかた》はおらぬか。*私《わたし》はそう*厄介《やっかい》な*扱《あつか》いを*受《う》けるほど*悪《あ》しき*者《もの》ではなかろうに。ああ…。 : : 鈴麗:うむ、*胡散臭《うさんくさ》いのぅ。 : : 千早:まことに。さ、*鳴時《なるとき》。*冷《ひ》やかしであるならばそろそろお*暇《いとま》を。*折角《せっかく》お*天道様《おてんとうさま》の*機嫌《きげん》が*良《よ》いのでな。すべきことが*山《やま》とある。 : : 鳴時:いやいや、これからが*本題《ほんだい》でな。*九十九堂《つくもどう》の*店主《てんしゅ》に*頼《たの》みたいことが… : : 千早:お*引取《ひきと》りを。 : : 鳴時:せめて*話《はなし》に*耳《みみ》を*貸《か》すくらいの*心《こころ》の*広《ひろ》さを*見《み》せてはくれんか? : : 鈴麗:ふぅむ。*確《たし》かに*退屈《たいくつ》ではあったところじゃ。*話《はな》してみせるがよい。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》。こやつにそのようなことを*言《い》っては… : : 鳴時:さすがは*鈴麗《りんれい》*殿《どの》!*千早《ちはや》とは*一味《ひとあじ》も*二味《ふたあじ》も*違《ちが》う!ではではここでは*人《ひと》の*往来《おうらい》もあることであるし、*中《なか》で*話《はな》そうではないか。 : : 千早:(ため息)*結局《けっきょく》は*面倒《めんどう》ごとを*持《も》ち*込《こ》むのさなぁ。…*茶《ちゃ》くらいは*出《だ》そうぞ。*奥《おく》へ*通《とお》るがよい。 : : 鈴麗:*結局《けっきょく》は*話《はなし》を*聞《き》いてやるのではないか。*千早《ちはや》はほんに*流《なが》されやすいこと。 : : 千早:*人《ひと》がいい、とは*言《い》うてくれんのなぁ。*鈴麗《りんれい》らしい、と*言《い》うてしまえばそれまでか。 : : 鳴時:ははは。*鈴麗《りんれい》*殿《どの》は*相《あい》も*変《か》わらず*千早《ちはや》にも*容赦《ようしゃ》*無《な》しであるな。 鳴時:では*有難《ありがた》く*奥《おく》へと*通《とお》させてもらうとしよう。*邪魔《じゃま》をする。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》、*鳴時《なるとき》を*見張《みは》っといとくれ。さすがに*悪《わる》さはしないと*思《おも》いたいが*念《ねん》には*念《ねん》を、というやつさね。 : : 鈴麗:*別《べつ》に*構《かま》わぬが。お*主《ぬし》はどうするのじゃ? : : 千早:*言《い》うたろう?*茶《ちゃ》を*淹《い》れてくる。 : : 鈴麗:*信用《しんよう》できぬような*輩《やから》ならば*茶《ちゃ》など*用意《ようい》せんでもよかろうに。 : : 千早:*鳴時《なるとき》の*話《はなし》の*長《なが》さは*知《し》っておるだろう?*茶《ちゃ》でも*用意《ようい》せねば*付《つ》き*合《あ》いきれぬよ。 : : 鈴麗:そこまで*思《おも》っていながら*話《はなし》には*付《つ》き*合《あ》うとは…ほんに*不思議《ふしぎ》な*間柄《あいだがら》よ。 : : 千早:*鳴時《なるとき》の*持《も》ってくる*事柄《ことがら》は、*無碍《むげ》に*出来《でき》るようなことではないのさねぇ。ほんに*困《こま》ったことよのぅ。 : : 鈴麗:ほ、ほ。わかっておる。*安心《あんしん》して*茶《ちゃ》を*淹《い》れてくるがよい。*見張《みは》りついでに*軽《かる》く*相手《あいて》をしておいてやろうぞ。 : : 千早:ありがとう、*鈴麗《りんれい》。 : : 鈴麗:*礼《れい》には*及《およ》ばぬが、その*言葉《ことば》は*受《う》け*取《と》っておこう。 : : : : : 0:間 : : : : : 千早:*待《ま》たせたな、*茶《ちゃ》だ。そんなに*上等《じょうとう》なものではないが。 : : 鳴時:ああ、*有難《ありがた》くいただくとしよう。…うむ、うまい。*上等《じょうとう》な*葉《は》を*使《つか》わずともここまでの*味《あじ》を*出《だ》せるのはまこと*見事《みごと》なものであるな。 : : 千早:*褒《ほ》めても*何《なに》も*出《で》ぬぞ。 : : 鳴時:*茶《ちゃ》が*出《で》ているであろう。かようにうまい*茶《ちゃ》を*飲《の》めるのであればそれで*十分《じゅうぶん》。 : : 鈴麗:*言葉《ことば》*遊《あそ》びはそのくらいにして、*本題《ほんだい》に*入《はい》ったらどうじゃ? 鈴麗:お*主《ぬし》らのやり*取《と》りを*眺《なが》めるのも*悪《わる》くはない。が、*千早《ちはや》は*話《はなし》なぞささと*済《す》まして*店《みせ》のことをしたいのではないかの? : : 千早:ああ、そうさな。*鳴時《なるとき》、*話《はなし》は*聞《き》こう。だが、*手短《てみじか》にな。 : : 鳴時:あいわかった。*訪《おとず》れる*客《きゃく》も*私《わたし》*以外《いがい》になく、さほど*忙《いそが》しいようにも*見《み》えぬがまあそう*言《い》うのであれば…ああ、そう*睨《にら》むな。 鳴時:さあさ、*本題《ほんだい》である。 鳴時:*外《はず》れにある*屋敷《やしき》をご*存知《ぞんじ》であろうか?そう、*黒田家《くろだけ》の*屋敷《やしき》であるよ。 鳴時:そのお*屋敷《やしき》に*大層《たいそう》*立派《りっぱ》な*蔵《くら》があるのもご*存知《ぞんじ》か?…そうそう、*庭《にわ》にあるあの*大《おおき》きな*蔵《くら》のことよ。 鳴時:その*蔵《くら》には*黒田家《くろだけ》が*代々《だいだい》*集《あつ》めてきた*貴重《きちょう》な*品々《しなじな》が*並《なら》ぶという*話《はなし》である。*入《い》り*口《ぐち》には*立派《りっぱ》な*錠《じょう》にて*閉《と》ざされ、*屋敷《やしき》の*門《もん》には*常《つね》に*見張《みは》りがおり、そうそう*外部《がいぶ》の*者《もの》が*近《ちか》づけるような*場所《ばしょ》ではない。 鳴時:されどある*日《ひ》、かの*蔵《くら》に*並《なら》んでいた*大事《だいじ》なお*宝《たから》のひとつが*無《な》くなっていたそうな。 鳴時:*厳重《げんじゅう》に*守《まも》られた*場所《ばしょ》であるが*故《ゆえ》、*屋敷《やしき》で*働《はたら》く*者《もの》が*疑《うたが》われてしまっておるのだ。 鳴時:このままでは*罪《つみ》もなき*者《もの》が*罪人《ざいにん》に*仕立《した》て*上《あ》げられてしまいかねぬと*女中《じょちゅう》のひとりに*泣《な》きつかれてだな… : : 千早:まあ*待《ま》て。*言《い》いたいことは*山《やま》のようにあるがまあそこにはひとまず*目《め》を*瞑《つむ》ろう。 千早:まずは*聞《き》きたいことが3つある。 千早:ひとつ。お*前《まえ》と*女中《じょちゅう》はただの*知《し》り*合《あ》いか? 千早:ふたつ。お*主《ぬし》と*黒田家《くろだけ》との*関係《かんけい》は? 千早:みっつ。*何故《なにゆえ》わざわざこの*話《はなし》をここへ*持《も》ってきた? : : 鳴時:はは、いつものこととはいえ、ずけずけと*切《き》り*込《こ》んでくる。 鳴時:ああ、ちゃんとひとつずつ*答《こた》えよう。 鳴時:まずはふたつめから*答《こた》えようか。*元《もと》より*黒田家《くろだけ》と*私《わたし》は*縁《えん》があってね。*親《した》しい…といってよいかどうかはさておき、*話《はなし》を*通《とお》すことができるくらいには*面識《めんしき》がある。*問題《もんだい》の*蔵《くら》の*中《なか》を*見《み》せてもらうことも*可能《かのう》だとも。 鳴時:*次《つぎ》にひとつめに*戻《もど》って。*女中《じょちゅう》は*以前《いぜん》*外《そと》で*具合《ぐあい》を*悪《わる》くしているところを*屋敷《やしき》まで*送《おく》っていったことがあってな。それ*以来《いらい》*外《そと》で*会《あ》えば*軽《かる》く*言葉《ことば》を*交《か》わす*程度《ていど》には*仲良《なかよ》くしておったよ。まあ、*他《ほか》に*頼《たよ》れる*者《もの》もなかったのであろう。 鳴時:*最後《さいご》にみっつめ。*今更《いまさら》であろう?*千早《ちはや》、*他《ほか》でもないお*主《ぬし》の*力《ちから》を*借《か》りたかったからに*決《き》まっておろう。*道具《どうぐ》に*宿《やど》りし*九十九《つくも》の*神《かみ》を*呼《よ》び*出《だ》し、*言葉《ことば》を*交《か》わすことが*出来《でき》るその*力《ちから》を。 : : 千早:その*力《ちから》を*用《もち》いることを*好《この》んでいないことも*知《し》っておろう? : : 鈴麗:*不思議《ふしぎ》に*思《おも》っておったのじゃ。*何故《なにゆえ》そなたは*九十九神《つくもがみ》を*呼《よ》ぶことを*躊躇《ためら》うのじゃ?*妾《わらわ》*達《たち》のことを*疎《うと》んでいるわけでもあるまいに。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》、その*話《はなし》はまた*別《べつ》のときに… : : 鳴時:いいや、その*話《はなし》、*私《わたし》にも*聞《き》かせてもらいたいものであるな。*理由《りゆう》*如何《いかん》によってはこうして*助力《じょりょく》を*請《こ》うことも*控《ひか》えよう。 鳴時:*力《ちから》を*使《つか》う*為《ため》に*何《なに》かを*要《よう》するのであるか?*物《もの》は*特《とく》に*用《もち》いているようには*見《み》えなんだが。まさかその*実《じつ》、*体《からだ》に*何《なん》ぞ*害《がい》でもあったりするのであろうか? 鳴時:さようであるならばまことに*悪《わる》いことをしてしまったものだ。 : : 千早:いやいやいやいや。*事実無根《じじつむこん》な*話《はなし》を*勝手《かって》に*進《すす》めるでない。*何《なに》かを*用《もち》いるわけでも、*体《からだ》に*不都合《ふつごう》が*起《お》こるわけでもない。ただ… : : 鳴時:ただ?では*何《なに》が*問題《もんだい》であるのかの? : : 千早:*呼《よ》ぶことはできても、*還《かえ》すことはできない。 : : 鈴麗:ほう。そんなことを*気《き》にしておったのか。 : : 千早:そんなこと、で*済《す》ましていいことではなかろう。 : : 鈴麗:*妾《わらわ》にとってはそんなこと、じゃな。なんじゃ*千早《ちはや》、*九十九神《つくもがみ》に*恨《うら》まれたことでも? : : 千早:まだ、ない、が… : : 鈴麗:ならば*今後《こんご》ともない、とは*言《い》い*切《き》れぬやもしれぬが*稀有《けう》であろうよ。さような*憂《うれ》いなど*捨《す》ててしまうがよい。 : : 千早:*呼《よ》んだからこそ…*顕現《けんげん》すればこそ*生《しょう》じる*煩《わずら》わしさもあろう? : : 鈴麗:まあのぅ。ないとは*言《い》わぬ。ただ*道具《どうぐ》としておった*頃《ころ》には*退屈《たいくつ》さなど*感《かん》じなかったしな。 : : 千早:…やはり、ただの*道具《どうぐ》に*戻《もど》りたいと : : 鈴麗:*思《おも》わぬ。*千早《ちはや》、お*主《ぬし》と*言葉《ことば》を*交《か》わし、*人《ひと》の*世《よ》を*見《み》て*過《す》ごすのは*煩《わずら》わしさよりも*楽《たの》しさを*多《おお》く*齎《もたら》すものぞ。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》…。それでも、この*力《ちから》は*軽々《かるがる》しく*使《つか》うものではないのだ。 : : 鈴麗:ふぅむ。まあ、それが*千早《ちはや》の*言《い》い*分《ぶん》であると。*妾《わらわ》ももうこれ*以上《いじょう》は*言《い》うまい。 鈴麗:ただな。*胸《むね》を*張《は》れ、*千早《ちはや》。その*力《ちから》は*誇《ほこ》ってよいものぞ。 : : 鳴時:さようであるよ。*千早《ちはや》、その*力《ちから》はもっと*誇《ほこ》るべきもの。あまりにも*軽々《かるがる》しく*用《もち》いることは*悪《あ》しきことやもしれぬが、*用《もち》いることそのものをかように*忌避《きひ》することもあるまいて。 鳴時:ましてや*世《よ》のため*人《ひと》のために*使《つか》うのであるぞ?そう*渋《しぶ》ることこそ*悪《あ》しきことではあらぬか? : : 千早:そうであろうか…いや、しかし… : : 鈴麗:*千早《ちはや》!お*主《ぬし》の*力《ちから》は*九十九神《つくもがみ》に*不幸《ふこう》を*齎《もたら》すものではあらぬ!もちろん*人《ひと》にも、じゃ。*信《しん》じよ! 鈴麗:それとも*妾《わらわ》が*言《い》うことを*信《しん》じられぬか? 鈴麗:*千早《ちはや》、お*主《ぬし》が*己《おのれ》を*信《しん》じられないのであればそれはそれでかまわぬ。*妾《わらわ》が*信《しん》じるお*主《ぬし》を*信《しん》じよ! : : 鳴時:ああ、*私《わたし》も*千早《ちはや》を*信《しん》じているよ。*千早《ちはや》は*己《おのれ》を*過小評価《かしょうひょうか》しすぎている。そして*人《ひと》や*九十九神《つくもがみ》*達《たち》の*強《つよ》さも、ね。 : : 千早:*強《つよ》さ…? : : 鈴麗:ほぅ。*珍《めずら》しくよいことを*言《い》うではないか、お*主《ぬし》。 : : 鳴時:*珍《めずら》しく、は*余計《よけい》であるよ、*鈴麗《りんれい》*殿《どの》。 鳴時:(咳払い)*千早《ちはや》、*人《ひと》はそれぞれが*己《おのれ》の*足《あし》で*立《た》ち、*己《おのれ》の*頭《あたま》で*考《かんが》え、*過《す》ごしておるのだ。 鳴時:もちろん*世《よ》の*中《なか》*悪《わる》いやつはいる。*人《ひと》に*不幸《ふこう》を*齎《もたら》す*者《もの》もいるのは*事実《じじつ》である。 鳴時:だがな?お*主《ぬし》は*違《ちが》う。*人《ひと》に*不幸《ふこう》を*齎《もたら》すために*行動《こうどう》するものではあらぬ。 鳴時:そもそも*人《ひと》はそれぞれ*自《おのず》ずから*幸《しあわ》せを*掴《つか》みとっていくものなのだ。それを*手助《てだす》けする*者《もの》もあれば、*邪魔《じゃま》するものもあろう。その*中《なか》で*己《おのれ》の*頭《あたま》で*考《かんが》え、*己《おのれ》の*足《あし》で*進《すす》み、*己《おのれ》の*手《て》で*掴《つか》みとっていくものだ。 鳴時:*千早《ちはや》、*信《しん》じよ。*人《ひと》の*強《つよ》さを。*万《まん》に*一《ひと》つでもお*主《ぬし》の*力《ちから》が*誰《だれ》かを*不幸《ふしあわ》せへと*導《みちび》いてしまう*時《とき》があったとしても、その*者《もの》が、*私達《わたしたち》が、その*流《なが》れを*変《か》えてみせると。 鳴時:人だけでなく、九十九神達もそうであると。 : : 鈴麗:そうじゃ。*妾達《わらわたち》もまた、ただ*不幸《ふこう》に*嘆《なげ》くものにあらず。*自《みずか》ら*楽《たの》しみを、*幸福《こうふく》を*招《まね》くものぞ。 : : 千早:*鳴時《なるとき》。*鈴麗《りんれい》。 : : 鳴時:ある*意味《いみ》*千早《ちはや》は*自意識過剰《じいしきかじょう》であるな。*誰《だれ》かを*不幸《ふこう》に*引《ひ》きずり*込《こ》んでしまう*力《ちから》があるとな。 鳴時:ははは、そんな*目《め》をするでない。*案《あん》ずるよりも*生《う》むが*易《やす》し、と*言《い》うであろう。 鳴時:*忌避《きひ》するのではなく、*考慮《こうりょ》した上でその*力《ちから》を*用《もち》いればよいのだ。 鳴時:*無理《むり》になかったことにするのではなく、その*力《ちから》を*有《ゆう》することに*意味《いみ》を*見出《みい》すのだ。 : : 鈴麗:そうじゃぞ。*千早《ちはや》、そなたが*力《ちから》を*否定《ひてい》することは*妾《わらわ》を*否定《ひてい》することと*等《ひと》しきものと*思《おも》うがよい。 鈴麗:ああ、*悲《かな》しいのぅ。*千早《ちはや》は*妾《わらわ》の*在《あ》りようを*否定《ひてい》するのじゃな。 : : 千早:*違《ちが》う!そんなことあろうはずがない! 千早:ああもう、*参《まい》った。*降参《こうさん》だ。この*力《ちから》を、*己《おのれ》を*卑下《ひげ》せぬ。*必要《ひつよう》とあらば*用《もち》いる。ひとまずそれで*手打《てう》ちとしてくれぬか。 : : 鈴麗:うむ、ひとまずはそれでよしとしようぞ。 : : 鳴時:そうさな。 鳴時:さて、*随分《ずいぶん》と*話《はなし》が*逸《そ》れてしまったものよ。 鳴時:そうそう。それで、*共《とも》に*件《くだん》の*蔵《くら》に*行《い》き、*盗《と》られてしまった*品物《しなもの》を*取《と》り*戻《もど》すための*手助《てだす》けを*願《ねが》いたいのだ。 鳴時:お*主《ぬし》の*力《ちから》を*用《もち》いれば*犯人《はんにん》などすぐに*判明《はんめい》しよう?*犯人《はんにん》が*分《わ》かれば*取《と》り*戻《もど》すことも*容易《ようい》となろう。な、*千早《ちはや》、*頼《たの》む。 : : 千早:はぁ、わかった。*力《ちから》を*貸《か》せばよいのであろう? 千早:だが、*黒田家《くろだけ》の*方《ほう》へきちんと*話《はなし》を*通《とお》すのを*忘《わす》れぬようにな。*調《しら》べているうちに*不審者《ふしんしゃ》*扱《あつか》いされるのは*御免《ごめん》であるぞ。 : : 鳴時:ああ、わかっておる。*実《じつ》はもう*話《はなし》は*通《かよ》っていてな。*今《いま》から*訪《おとず》れても*問題《もんだい》ない。 : : 千早:…*言《い》いたいことが*色々《いろいろ》あるような*気《き》もするがこたびは*置《お》いておこう。*支度《したく》をする*故《ゆえ》、しばし*待《ま》つがいい。 : : 鳴時:*有難《ありがた》い。のんびり*茶《ちゃ》を*啜《すす》りながら*待《ま》たせてもらうぞ。 : : : : : 0:黒田家、蔵内部にて : : : : : 千早:ここがそうなのだな。 千早:しかし、*付《つ》き*添《そ》いがお*主《ぬし》だけとは、*随分《ずいぶん》と*信用《しんよう》されておるものよ。 : : 鳴時:まあ、*私《わたし》も*色々《いろいろ》あってな。それに*千早《ちはや》はなるべく*人《ひと》がいない*方《ほう》がよいのであろう? : : 千早:*確《たし》かにその*方《ほう》が*助《たす》かるのは*事実《じじつ》さね。 : : 鈴麗:ここが*不自然《ふしぜん》に*空《あ》いておるな。ここに*置《お》いてあったものが*盗《と》られた*物《もの》かの? : : 鳴時:さようであるよ。*簪《かんざし》が*置《お》いてあったそうな。 : : 鈴麗:ほぅ、*簪《かんざし》とな。 : : 千早:ふむ、*簪《かんざし》か…。 : : 鳴時:*盗《ぬす》まれたのは*一昨日《おととい》から*昨日《きのう》にかけてのことだ。*毎日《まいにち》*決《き》まった*時間《じかん》に*掃除《そうじ》が*入《はい》るのだが、*一昨日《おととい》*掃除《そうじ》したときにはあったのに*昨日《きのう》*掃除《そうじ》に*入《はい》ったときには*既《すで》になかったとのことであるよ。 : : 千早:ふぅむ。 : : 鳴時:さあ、どれに*話《はなし》を*聞《き》くのであるかな?やはりこのすぐ*隣《となり》に*並《なら》んでいる*小道具入《こどうぐい》れであろうか?それとも*逆隣《ぎゃくどなり》の*壷《つぼ》であるか? : : 千早:…*鳴時《なるとき》。あそこにあるのは : : 鳴時:ん?ああ、*風通《かざとお》しのための*通風口《つうふうこう》であるな。しかしあんな*高《たか》く、*狭《せま》い*場所《ばしょ》では*盗人《ぬすっと》など*通《とお》れなかろう? : : 千早:いつも*開《あ》いておるのか? : : 鳴時:*盗《ぬす》まれたことがわかってからは*何《なに》もしていないはずである。*少《すく》なくとも*事件《じけん》*当時《とうじ》は*開《あ》いておったのであろうな。 : : 千早:ふむ。なるほど、な。 : : 鈴麗:おや、*千早《ちはや》。なんぞわかったのかえ? : : 千早:ああ、おそらく、だが。 千早:*鳴時《なるとき》、*家《いえ》の*者《もの》に*庭《にわ》で*待《ま》たせてもらえるよう*頼《たの》んできてはくれぬか。 : : 鳴時:うむ?*九十九神《つくもがみ》に*話《はなし》を*聞《き》かぬのか? : : 千早:ここにおるものを*呼《よ》べば、*話《はなし》*相手《あいて》もなく*寂《さび》しい*想《おも》いをすることになろう。 千早:*今《いま》はまだ、その*時《とき》ではない。*案《あん》ずるな、*必要《ひつよう》とあらば*躊躇《ためら》わぬ。 : : 鳴時:ふむ、*解決《かいけつ》するのであればまあよい、か。あいわかった、しばし*待《ま》たれよ。*話《はなし》をつけてくる。 : : : : : 0:黒田家、庭にて : : : : : 鳴時:で、いつまでこうして*過《す》ごせばよいのであるか? : : 鈴麗:ただ*時《とき》が*過《す》ぎるに*任《まか》せるというのは*存外《ぞんがい》*退屈《たいくつ》であることよ。 : : 千早:*運《うん》がよければそのうち…ああ、*来《き》たな : : 鈴麗:あれは…*烏《からす》であるな。 : : 鳴時:*烏《からす》?…まさか : : 千早:うむ、ここまでは*予想通《よそうどお》りであるのだが…*問題《もんだい》はここからよ。 : : 鳴時:*追《お》うのであるか?あれを? : : 千早:*近《ちか》くであればよいのだが…。 : : 鈴麗:なぁに、*妾《わらわ》が*力《ちから》となろうぞ。 : : 鳴時:いかに*鈴麗《りんれい》*殿《どの》が*地面《じめん》に*足《あし》をつける*必要《ひつよう》がないといえども*本体《ほんとう》である*風鈴《ふうりん》からさほど*離《はな》れることはできないのであろう? : : 鈴麗:*烏《からす》が*飛《と》び*立《た》ち*次第《しだい》*妾《わらわ》を*鳴《な》らすがよい。*決《けっ》して*音《おと》を*途切《とぎ》れさせるでないぞ。 : : 千早:…なるほど。しかし*鈴麗《りんれい》、いささか*危険《きけん》なのでは… : : 鈴麗:む、*飛《と》び*立《た》ったな。*行《い》くぞ! : : 千早:*鈴麗《りんれい》!*無理《むり》はしてくれるなよ!(風鈴を鳴らし始める) : : 鈴麗:わかっておる!そんなこと*言《い》う*暇《ひま》があるならばさっさとついてくるがよい! : : 千早:*鳴時《なるとき》、*行《い》くぞ!(走り出す) : : 鳴時:*鈴麗《りんれい》*殿《どの》が*風鈴《ふうりん》からあんなに*離《はな》れて…?あくまで*本体《ほんたい》は*風鈴《ふうりん》であるからあんなに*離《はな》れることはできないはずでは…(走りながら) : : 千早:ああ、その*通《とお》り。*本来《ほんらい》ならばいかに*人型《ひとがた》をとっていようと*本体《ほんたい》である*物《もの》からさして*離《はな》れることはできない。 : : 鳴時:ならば*何故《なぜ》! : : 千早:*鈴麗《りんれい》が*風鈴《ふうりん》の*九十九神《つくもがみ》だからだ。*風鈴《ふうりん》の*音《おと》の*響《ひび》く*範囲《はんい》を*領域《りょういき》として*移動《いどう》することができる。 : : 鳴時:なんと!*実《じつ》に*素晴《すば》らしい*能力《のうりょく》であるな! : : 千早:だが、*音《おと》の*響《ひび》く*範囲《はんい》は*無限《むげん》ではない。 : : 鳴時:さようであるな? : : 千早:*音《おと》が*途切《とぎ》れたときに*離《はな》れた*場所《ばしょ》にいたら。*領域《りょういき》から*遠《とお》く*離《はな》れた*場所《ばしょ》にいて*人型《ひとがた》も*本体《ほんたい》も*無事《ぶじ》でいれるものなのか、わからぬのだ! 千早:それにこうして*走《はし》りながら*風鈴《ふうりん》を*鳴《な》らすなど、いつこんな*無茶《むちゃ》な*扱《あつか》いに*本体《ほんたい》が*損《そん》じてしまわぬとも*限《かぎ》らぬ。そうなれば*鈴麗《りんれい》は…! : : 鳴時:…*鈴麗《りんれい》*殿《どの》は*承知《しょうち》の*上《うえ》でかような*無茶《むちゃ》を : : 千早:そうだ!く、まだか…*烏《からす》の*巣《す》にはまだ*遠《とお》いのか… : : 鳴時:…!*鈴麗《りんれい》殿《どの》が*止《と》まったぞ! : : 千早:*少《すこ》し*高《たか》い*位置《いち》だが、*木《き》の*枝間《えだま》を*覗《のぞ》き*込《こ》んでいるようだな。*無事《ぶじ》に*巣《す》まで*追《お》いつけたようであるな。 : : 鈴麗:うむ、*確《たし》かに*巣《す》の*中《なか》に*簪《かんざし》があったぞ。さすがにこの*身《み》では*触《ふ》れられぬでな。 : : 千早:ああ、わかっておるよ。*有難《ありがと》う、*鈴麗《りんれい》。 : : 鈴麗:*妾《わらわ》もさすがに*少々《しょうしょう》*疲《つか》れてもうた。ゆっくり*休《やす》ませてもらうとしよう。 : : 千早:ああ、ゆっくり*休《やす》んでおくれ。(風鈴を大切に布にくるんで懐へしまう) : : 鳴時:…*千早《ちはや》よ。 : : 千早:なんぞ? : : 鳴時:*誰《だれ》が*簪《かんざし》を*取《と》ってくるのであるか? : : 千早:お*主《ぬし》であるな。 : : 鳴時:やはりそうであるか… : : : : : 0:数日後。九十九堂にて。 : : : : : 鳴時:まあそんなわけで*黒田家《くろだけ》からお*礼《れい》をいただいたのでな、*受《う》け*取《と》るがよい。 : : 千早:…*有難《ありがた》く*受《う》け*取《と》っておくとしよう。 : : 鈴麗:ほほ。そんな*複雑《ふくざつ》な*顔《かお》をするものでない。*人《ひと》の*世《よ》は*何《なに》かと*入用《いりよう》じゃ。*貰《もら》えるものは*貰《もら》っておくが*吉《きち》じゃぞ。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》の*活躍《かつやく》のおかげであるに…。 : : 鈴麗:そう*気《き》にするでない。*千早《ちはや》の*暮《く》らしぶりが*良《よ》くなれば*妾《わらわ》も*嬉《うれ》しい。*気《き》になるのであれば*妾《わらわ》の*手入《てい》れにかける*時間《じかん》を*増《ふ》やしてくれればそれで*良《よ》い。 : : 千早:そうさせてもらおう。 : : 鳴時:*落《お》としどころが*見《み》つかって*何《なに》よりであるな。 鳴時:まあしかし*犯人《はんにん》が*烏《からす》とはなぁ!なんとこの*世《よ》の*面白《おもしろ》きことよ。 鳴時:*新《あら》たな*九十九神《つくもがみ》を*見《み》ることができぬのは*残念《ざんねん》ではあったが*貴重《きちょう》な*体験《たいけん》をしたものよ。 鳴時:まさか*私《わたし》が*木登《きのぼ》りなぞすることになろうとは…。 : : 千早:ほう、それが*本音《ほんね》であるか。 : : 鳴時:い、いや*千早《ちはや》!*勘違《かんちが》いするでないぞ!*人助《ひとだす》けとなったことに*違《ちが》いはなかろう!? : : 千早:*鳴時《なるとき》がやたらと*力《ちから》を*使《つか》わせたがっていることにも*違《ちが》いはないようであるな。 : : 鈴麗:*鳴時《なるとき》なぞさっさと*追《お》い*出《だ》して*店《みせ》の*掃除《そうじ》でもしてはどうかの。 : : 千早:さようであるな。*鳴時《なるとき》、*疾《と》くお*暇《いとま》を。 : : 鳴時:*酷《ひど》い*扱《あつか》いであるな。まあ、*用《よう》も*済《す》んだことだし*大人《おとな》しく*退散《たいさん》することとしよう。(店から出ていく) : : 鈴麗:…*妾《わらわ》としては、*仲間《なかま》が*増《ふ》えるのは*歓迎《かんげい》ではあるのじゃがな。*話相手《はなしあいて》が*増《ふ》えるのは*嬉《うれ》しいことよ。 : : 千早:*鈴麗《りんれい》… : : 鈴麗:ああ、*勘違《かんちが》いするでないぞ。*別《べつ》に*催促《さいそっく》しているわけではあらん。 鈴麗:*千早《ちはや》、そなたにはそなたのあり*方《かた》がある。それでよいのじゃ。 鈴麗:ただ、*意固地《いこじ》にならずに*時《とき》には*流《なが》れに*身《み》を*任《まか》せよ。*新《あら》たな*九十九神《つくもがみ》が*顕現《けんげん》するのであれば*妾《わらわ》は*歓迎《かんげい》しよう。それだけの*話《はなし》じゃ、 鈴麗:*千早《ちはや》、そなたが*思《おも》い*悩《なや》むことなど*何《なに》もない。ただ、*日々《ひび》を*過《す》ごす*中《なか》に*答《こた》えがあろうよ。 鈴麗:さ、せっかくお*天道様《てんとうさま》の*機嫌《きげん》が*良《よ》いのじゃ。*今《いま》のうちに*出来《でき》ることをするがよい。 : : 千早:…そうさね。じゃ、*虫干《むしぼ》しでもしようかねぇ。 : : : : : 0:終