台本概要
465 views
タイトル | ムギとミケ―呪われた野良猫の優しい嘘― |
---|---|
作者名 | 芥川ドラ之介 |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
有料無料に関わらず全て自由にお使いください。 過度のアドリブ、内容や性別、役名の改編も好きにしてください。 わたしへの連絡や、作者名の表記なども特に必要ありません。 465 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ムギ | 男 | 73 | 野良猫の先輩 |
ミケ | 女 | 77 | 野良猫の後輩 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
ミケ:(M)なんでもない日の、なんでもないゴミ捨て場で、私は、彼と出会った。
ムギ:「よぉ」
ミケ:「こっ、こんにちは」
ムギ:「ここらじゃ見ない顔だな。お前も、野良猫か?」
ミケ:「はい。多分・・・」
ムギ:「多分?」
ミケ:「色んな人間が、私に名前を付けて呼ぶものだから、もしかしたら、野良猫じゃないのかもって思ったんです」
ムギ:「ほぉん・・・。まだ、ちびっころだから、人間たちから可愛がられてんだな」
ミケ:「はい。頭を撫でられたり、餌をもらえることもあります」
ムギ:「で、そいつらは、お前を家に入れてくれたのか?」
ミケ:「いいえ。まだ家に入れてもらえたことはありません」
ムギ:「だったら、お前は、野良猫だ」
ミケ:「野良猫・・・」
ムギ:「特定の飼い主がいない猫は、野良猫なのさ」
ミケ:「・・・」
ムギ:「どうした?なんで、そんな悲しそうな顔をするんだ?」
ミケ:「・・・私には、どこにも居場所がないんだなって」
ムギ:「居場所?」
ミケ:「はい」
ムギ:「・・・もしかして、居場所は、飼い主が用意してくれるモノだと思っているのか?」
ミケ:「違うんですか?」
ムギ:「ハッハッハ。違うな。居場所は、自分で作るモノだ」
ミケ:「自分で作る?」
ムギ:「別に、おまんまをくれる人間がいる場所、帰る場所だけが居場所じゃない。『居心地が良い場所』が居場所だ」
ミケ:「居心地が良い場所が、居場所?」
ムギ:「そうだ。そして、それは、自分で作ることができる」
ミケ:「・・・私も居場所を作ることができるってことですか?」
ムギ:「そうだ」
ミケ:「どうすれば?」
ムギ:「どうすれば、か・・・。自分の目でよく見て、耳でよく聴いて、心でよく感じれば良い」
ミケ:「それって、普段通りに生活するってことですか?」
ムギ:「普段通りとは違う。『よく』見て、『よく』聞いて、『よく』感じることが大事なんだ。『欲』を出して、手を伸ばさなければ、ほしいモノは手に入らない」
ミケ:「欲を出して、手を伸ばす・・・」
ムギ:「実はな。俺も、自分の居場所を探していた時代があってだな」
ミケ:「それで、居場所は見つかったんですか?」
ムギ:「・・・たくさん見つかったさ」
ミケ:「たくさん?」
ムギ:「あぁ。昼寝を邪魔されない日当たりの良い縁側(えんがわ)に、残飯を奪い合う相手がいないゴミ捨て場。そして、今は亡き飼い主の膝の上」
ミケ:「すごいなぁ。私も、自分の居場所を見つけることができると思いますか?」
ムギ:「できるさ。『欲』を出して、手を伸ばせばな」
ミケ:「・・・じゃあ、旅をすることにします。自分の居場所を見つける旅」
ムギ:「それは、面白そうだな。でも、旅に危険は付きものだ。命だけは落とさないようにな」
ミケ:「はい。気を付けます」
ムギ:「・・・。それと・・・」
ミケ:「ん?どうしたんですか?」
ムギ:「・・・この世界には、『呪い』というモノがあってだな」
ミケ:「呪い?」
ムギ:「愛を知ると死ぬ呪いに、嘘をつくと死ぬ呪い。そして・・・」
ミケ:「・・・そして?」
ムギ:「俺も、その、なんらかの呪いにかかっているわけだ」
ミケ:「そうなんですか?それは、どんな呪いなんですか?」
ムギ:「それは、『今は』言えないことになっている。だから・・・」
ミケ:「・・・だから?」
ムギ:「お前が、居場所を探し出すのを見届けるまで、そばにいても、その、構わないか?」
ミケ:「構わないですけど、逆に良いんですか?」
ムギ:「良いんだ。俺がそうしたいから、そうするんだし、それが呪いに関係してるんだからさ」
ミケ:「わかりました。ちなみに、私には、『まだ』名前がないんですけど、あなたの名前を教えていただけますか?なんて呼べばいいですか?」
ムギ:「・・・。俺は、ムギ。『ムギ』と呼んでくれたらいい。お前、色んな人間に名前を付けてもらっていたんじゃないのか?」
ミケ:「はい。だけど、どの名前も、なんだか、しっくり来なくて・・・。だから、まだ『何猫』でもないので、『お前』と呼んでくれたら良いです」
ムギ:「お前、か・・・」
ミケ:「はい」
ムギ:「わかった」
0:
ミケ:(M)こうして、私が居場所を見つける旅に、ムギが付き合ってくれることになった。
0:
0:【間】
0:
ミケ:(M)ある日の朝・・・。
ムギ:「ちょっと出てくる」
ミケ:(M)そう言って、ムギは、私のそばを離れてから、夕方、ボロボロの体を引きずりながら、戻ってきた。
ミケ:
ミケ:「どうしたんですか?その傷・・・」
ムギ:「ちょっとな・・・。ほれっ。新鮮な魚だ。うまそうだろ?喰え」
ミケ:「え?」
ミケ:
ミケ:(M)ムギは、私に、新鮮なサンマをプレゼントしてくれた。
0:
ムギ:「遠慮すんな。喰え!」
ミケ:「もしかして、この魚を手に入れるために、人間に叩かれたんじゃないんですか?」
ムギ:「フフッ。俺は、『人間に叩かれたら死ぬ』ような呪いには、かかっていないから、大丈夫だ」
ミケ:「そうなんですか?」
ムギ:「あぁ。だから、喰ってくれよ。お前に喜んでもらいたくて、盗ってきたんだからさ」
ミケ:「魚が食べられるのは、嬉しいですけど、ムギが傷つくのは、それ以上に悲しいです」
ムギ:「そうなのか?」
ミケ:「そうです」
ムギ:「・・・わかった。これからは、もっと上手くやるさ」
ミケ:「上手くやるとかの話じゃなくて、ムギが危険な目に遭うのが、嫌なんです」
ムギ:「危険じゃないさ」
ミケ:「どの口が言っているんですか?現に、ボロボロに傷ついてるじゃないですか?」
ムギ:「でも、死んでない」
ミケ:「・・・。とにかく!これからは、危ないことをして食べ物を取ってくるのは、絶対にやめて下さい!」
ムギ:「嫌だと言ったら?」
ミケ:「私は、ムギのそばを離れます」
ムギ:「・・・。わかった。もう、危ないことはしない。『約束』する」
ミケ:「はい」
ミケ:
ミケ:(M)それからは、ムギが危険を冒してまで食べ物を取ってくることはなくなった。
0:
0:【間】
0:
ミケ:(M)飼い猫の平均寿命が14歳なのに対し、野良猫の平均寿命は、2~3年とされている。それは・・・。
ムギ:「なぁ、寒くないか?」
ミケ:「寒くないです。ムギが、私の壁になって、雪を凌(しの)いでくれているから」
ムギ:「そうか・・・。それなら、良かった」
ミケ:「良くないです!そこをどいて下さい!このままだと、ムギは、死んでしまいますよ?」
ムギ:「大丈夫だ。俺は、『寒さで死ぬ』ような呪いには、かかっていないからな」
ミケ:「それでも、心配です。私は、ムギに死んでほしくないです」
ムギ:「だから、死なないって!」
ミケ:「死ぬ死なないの話じゃなくて、私だけ安全な場所にいることが、ムギと対等じゃないことが、とても苦しくて、とても悲しくて、居心地が悪いんです!」
ムギ:「居心地が悪い?」
ミケ:「はい・・・。私にとって、ムギの隣は、とても居心地が悪いです」
ムギ:「そう、か・・・。そう、なのか・・・。わかった・・・」
ミケ:「・・・ん?」
ミケ:
ミケ:(M)そして、ムギは、どれだけ話しかけても、何も言葉を返してくれなくなり、雪が止むまで、ただ黙って、そこに、いた・・・。
0:
0:【間】
0:
ムギ:「雪が・・・止んだな・・・」
ミケ:「はい。だから、いい加減に、そこをどいて下さい」
ムギ:「わかった。・・・っ」
ミケ:「・・・よい、しょっと!ふぁーっ!やっと出られた!」
ムギ:「・・・なぁ」
ミケ:「・・・はい?あぁ!ありがとうございます。雪から、冬の寒さから、私を守ってくれて」
ムギ:「お礼なんていらない。俺がそうしたいから、そうしただけだ。お前を、守りたかった。それだけだ」
ミケ:「・・・はい」
ムギ:「・・・なぁ」
ミケ:「・・・はい?なんですか?」
ムギ:「・・・お別れだ」
ミケ:「お別れ?どうして急に、そんなことを言うんですか?」
ムギ:「・・・『呪い』があるから」
ミケ:「呪い?呪いって、なんなんですか?」
ムギ:「俺の呪いは、『居場所を失うと死ぬ』呪いだ。もう、お前のそばに、俺の居場所はなくなった。だから、お別れだ」
ミケ:「・・・。私が、『ムギの隣は居心地が悪い』と言ったせいですか?」
ムギ:「・・・」
ミケ:「そうなんですか?」
ムギ:「そうだ。俺は、お前の人生にとって、不要な存在なんだ」
ミケ:「そんなことないです!」
ムギ:「そんなことない?」
ミケ:「私は、ムギと、ずっと一緒にいたい!」
ムギ:「居心地が悪いのにか?」
ミケ:「居心地が良いように、これから作り変えるんです!」
ムギ:「作り変える?」
ミケ:「ご飯は、片方だけが取りに行くのではなく、一緒に取りに行きましょう」
ムギ:「だが、お前は、まだ野良猫になったばかりで」
ミケ:「いつまでも私を、新人扱いしないで下さい!冬も越したベテランの野良猫ですから!」
ムギ:「・・・」
ミケ:「そして、今年の冬は、ムギだけが寒い想いをするのではなく、一緒に温め合って、助け合って乗り越えて行きましょう!」
ムギ:「・・・」
ミケ:「どうです?私は、自分の居場所がほしいから、はっきり言いたいことを伝えてみました。『欲』を出して、手を伸ばしてみました」
ムギ:「・・・前に、俺が言ったことか?」
ミケ:「そうですよ」
ムギ:「・・・。俺は、お前のそばにいても良いのか?」
ミケ:「もちろんです!私の隣が、ムギにとって居心地の悪い場所でなければ」
ムギ:「お前の隣は、とても居心地が良い」
ミケ:「そうですか!それなら、良かった!これからも、ずっと一緒にいて下さい!」
ムギ:「・・・。ミケ・・・『ミケ』なんて、どうだ?」
ミケ:「ミケ?」
ムギ:「お前の名前だ。俺だけ名前を呼ばれるのも、対等じゃないだろ?」
ミケ:「確かに・・・。それに、ミケ・・・。なんだか、とても、しっくりくる名前です!」
ムギ:「そうか・・・。それは、良かった。これからもよろしくな。ミケ」
ミケ:「はい。よろしくお願いします。ムギ」
0:
0:【間】
0:
ミケ:「ちなみになんですけど・・・」
ムギ:「ん?」
ミケ:「居場所を失うと死ぬ呪いなんて、本当にあるんですか?」
ムギ:「・・・っ。アレは・・・その・・・。嘘だ。あの日、ミケに一目惚れして、ミケを守りたい、もっと一緒にいたいと思ったから、『呪い』なんて嘘をついた。・・・ごめん」
ミケ:「そうですか・・・。それは、なんというか・・・」
ムギ:「ん?」
ミケ:「実に、ムギらしい、『優しい嘘』ですね」
0:
0:―了―
ミケ:(M)なんでもない日の、なんでもないゴミ捨て場で、私は、彼と出会った。
ムギ:「よぉ」
ミケ:「こっ、こんにちは」
ムギ:「ここらじゃ見ない顔だな。お前も、野良猫か?」
ミケ:「はい。多分・・・」
ムギ:「多分?」
ミケ:「色んな人間が、私に名前を付けて呼ぶものだから、もしかしたら、野良猫じゃないのかもって思ったんです」
ムギ:「ほぉん・・・。まだ、ちびっころだから、人間たちから可愛がられてんだな」
ミケ:「はい。頭を撫でられたり、餌をもらえることもあります」
ムギ:「で、そいつらは、お前を家に入れてくれたのか?」
ミケ:「いいえ。まだ家に入れてもらえたことはありません」
ムギ:「だったら、お前は、野良猫だ」
ミケ:「野良猫・・・」
ムギ:「特定の飼い主がいない猫は、野良猫なのさ」
ミケ:「・・・」
ムギ:「どうした?なんで、そんな悲しそうな顔をするんだ?」
ミケ:「・・・私には、どこにも居場所がないんだなって」
ムギ:「居場所?」
ミケ:「はい」
ムギ:「・・・もしかして、居場所は、飼い主が用意してくれるモノだと思っているのか?」
ミケ:「違うんですか?」
ムギ:「ハッハッハ。違うな。居場所は、自分で作るモノだ」
ミケ:「自分で作る?」
ムギ:「別に、おまんまをくれる人間がいる場所、帰る場所だけが居場所じゃない。『居心地が良い場所』が居場所だ」
ミケ:「居心地が良い場所が、居場所?」
ムギ:「そうだ。そして、それは、自分で作ることができる」
ミケ:「・・・私も居場所を作ることができるってことですか?」
ムギ:「そうだ」
ミケ:「どうすれば?」
ムギ:「どうすれば、か・・・。自分の目でよく見て、耳でよく聴いて、心でよく感じれば良い」
ミケ:「それって、普段通りに生活するってことですか?」
ムギ:「普段通りとは違う。『よく』見て、『よく』聞いて、『よく』感じることが大事なんだ。『欲』を出して、手を伸ばさなければ、ほしいモノは手に入らない」
ミケ:「欲を出して、手を伸ばす・・・」
ムギ:「実はな。俺も、自分の居場所を探していた時代があってだな」
ミケ:「それで、居場所は見つかったんですか?」
ムギ:「・・・たくさん見つかったさ」
ミケ:「たくさん?」
ムギ:「あぁ。昼寝を邪魔されない日当たりの良い縁側(えんがわ)に、残飯を奪い合う相手がいないゴミ捨て場。そして、今は亡き飼い主の膝の上」
ミケ:「すごいなぁ。私も、自分の居場所を見つけることができると思いますか?」
ムギ:「できるさ。『欲』を出して、手を伸ばせばな」
ミケ:「・・・じゃあ、旅をすることにします。自分の居場所を見つける旅」
ムギ:「それは、面白そうだな。でも、旅に危険は付きものだ。命だけは落とさないようにな」
ミケ:「はい。気を付けます」
ムギ:「・・・。それと・・・」
ミケ:「ん?どうしたんですか?」
ムギ:「・・・この世界には、『呪い』というモノがあってだな」
ミケ:「呪い?」
ムギ:「愛を知ると死ぬ呪いに、嘘をつくと死ぬ呪い。そして・・・」
ミケ:「・・・そして?」
ムギ:「俺も、その、なんらかの呪いにかかっているわけだ」
ミケ:「そうなんですか?それは、どんな呪いなんですか?」
ムギ:「それは、『今は』言えないことになっている。だから・・・」
ミケ:「・・・だから?」
ムギ:「お前が、居場所を探し出すのを見届けるまで、そばにいても、その、構わないか?」
ミケ:「構わないですけど、逆に良いんですか?」
ムギ:「良いんだ。俺がそうしたいから、そうするんだし、それが呪いに関係してるんだからさ」
ミケ:「わかりました。ちなみに、私には、『まだ』名前がないんですけど、あなたの名前を教えていただけますか?なんて呼べばいいですか?」
ムギ:「・・・。俺は、ムギ。『ムギ』と呼んでくれたらいい。お前、色んな人間に名前を付けてもらっていたんじゃないのか?」
ミケ:「はい。だけど、どの名前も、なんだか、しっくり来なくて・・・。だから、まだ『何猫』でもないので、『お前』と呼んでくれたら良いです」
ムギ:「お前、か・・・」
ミケ:「はい」
ムギ:「わかった」
0:
ミケ:(M)こうして、私が居場所を見つける旅に、ムギが付き合ってくれることになった。
0:
0:【間】
0:
ミケ:(M)ある日の朝・・・。
ムギ:「ちょっと出てくる」
ミケ:(M)そう言って、ムギは、私のそばを離れてから、夕方、ボロボロの体を引きずりながら、戻ってきた。
ミケ:
ミケ:「どうしたんですか?その傷・・・」
ムギ:「ちょっとな・・・。ほれっ。新鮮な魚だ。うまそうだろ?喰え」
ミケ:「え?」
ミケ:
ミケ:(M)ムギは、私に、新鮮なサンマをプレゼントしてくれた。
0:
ムギ:「遠慮すんな。喰え!」
ミケ:「もしかして、この魚を手に入れるために、人間に叩かれたんじゃないんですか?」
ムギ:「フフッ。俺は、『人間に叩かれたら死ぬ』ような呪いには、かかっていないから、大丈夫だ」
ミケ:「そうなんですか?」
ムギ:「あぁ。だから、喰ってくれよ。お前に喜んでもらいたくて、盗ってきたんだからさ」
ミケ:「魚が食べられるのは、嬉しいですけど、ムギが傷つくのは、それ以上に悲しいです」
ムギ:「そうなのか?」
ミケ:「そうです」
ムギ:「・・・わかった。これからは、もっと上手くやるさ」
ミケ:「上手くやるとかの話じゃなくて、ムギが危険な目に遭うのが、嫌なんです」
ムギ:「危険じゃないさ」
ミケ:「どの口が言っているんですか?現に、ボロボロに傷ついてるじゃないですか?」
ムギ:「でも、死んでない」
ミケ:「・・・。とにかく!これからは、危ないことをして食べ物を取ってくるのは、絶対にやめて下さい!」
ムギ:「嫌だと言ったら?」
ミケ:「私は、ムギのそばを離れます」
ムギ:「・・・。わかった。もう、危ないことはしない。『約束』する」
ミケ:「はい」
ミケ:
ミケ:(M)それからは、ムギが危険を冒してまで食べ物を取ってくることはなくなった。
0:
0:【間】
0:
ミケ:(M)飼い猫の平均寿命が14歳なのに対し、野良猫の平均寿命は、2~3年とされている。それは・・・。
ムギ:「なぁ、寒くないか?」
ミケ:「寒くないです。ムギが、私の壁になって、雪を凌(しの)いでくれているから」
ムギ:「そうか・・・。それなら、良かった」
ミケ:「良くないです!そこをどいて下さい!このままだと、ムギは、死んでしまいますよ?」
ムギ:「大丈夫だ。俺は、『寒さで死ぬ』ような呪いには、かかっていないからな」
ミケ:「それでも、心配です。私は、ムギに死んでほしくないです」
ムギ:「だから、死なないって!」
ミケ:「死ぬ死なないの話じゃなくて、私だけ安全な場所にいることが、ムギと対等じゃないことが、とても苦しくて、とても悲しくて、居心地が悪いんです!」
ムギ:「居心地が悪い?」
ミケ:「はい・・・。私にとって、ムギの隣は、とても居心地が悪いです」
ムギ:「そう、か・・・。そう、なのか・・・。わかった・・・」
ミケ:「・・・ん?」
ミケ:
ミケ:(M)そして、ムギは、どれだけ話しかけても、何も言葉を返してくれなくなり、雪が止むまで、ただ黙って、そこに、いた・・・。
0:
0:【間】
0:
ムギ:「雪が・・・止んだな・・・」
ミケ:「はい。だから、いい加減に、そこをどいて下さい」
ムギ:「わかった。・・・っ」
ミケ:「・・・よい、しょっと!ふぁーっ!やっと出られた!」
ムギ:「・・・なぁ」
ミケ:「・・・はい?あぁ!ありがとうございます。雪から、冬の寒さから、私を守ってくれて」
ムギ:「お礼なんていらない。俺がそうしたいから、そうしただけだ。お前を、守りたかった。それだけだ」
ミケ:「・・・はい」
ムギ:「・・・なぁ」
ミケ:「・・・はい?なんですか?」
ムギ:「・・・お別れだ」
ミケ:「お別れ?どうして急に、そんなことを言うんですか?」
ムギ:「・・・『呪い』があるから」
ミケ:「呪い?呪いって、なんなんですか?」
ムギ:「俺の呪いは、『居場所を失うと死ぬ』呪いだ。もう、お前のそばに、俺の居場所はなくなった。だから、お別れだ」
ミケ:「・・・。私が、『ムギの隣は居心地が悪い』と言ったせいですか?」
ムギ:「・・・」
ミケ:「そうなんですか?」
ムギ:「そうだ。俺は、お前の人生にとって、不要な存在なんだ」
ミケ:「そんなことないです!」
ムギ:「そんなことない?」
ミケ:「私は、ムギと、ずっと一緒にいたい!」
ムギ:「居心地が悪いのにか?」
ミケ:「居心地が良いように、これから作り変えるんです!」
ムギ:「作り変える?」
ミケ:「ご飯は、片方だけが取りに行くのではなく、一緒に取りに行きましょう」
ムギ:「だが、お前は、まだ野良猫になったばかりで」
ミケ:「いつまでも私を、新人扱いしないで下さい!冬も越したベテランの野良猫ですから!」
ムギ:「・・・」
ミケ:「そして、今年の冬は、ムギだけが寒い想いをするのではなく、一緒に温め合って、助け合って乗り越えて行きましょう!」
ムギ:「・・・」
ミケ:「どうです?私は、自分の居場所がほしいから、はっきり言いたいことを伝えてみました。『欲』を出して、手を伸ばしてみました」
ムギ:「・・・前に、俺が言ったことか?」
ミケ:「そうですよ」
ムギ:「・・・。俺は、お前のそばにいても良いのか?」
ミケ:「もちろんです!私の隣が、ムギにとって居心地の悪い場所でなければ」
ムギ:「お前の隣は、とても居心地が良い」
ミケ:「そうですか!それなら、良かった!これからも、ずっと一緒にいて下さい!」
ムギ:「・・・。ミケ・・・『ミケ』なんて、どうだ?」
ミケ:「ミケ?」
ムギ:「お前の名前だ。俺だけ名前を呼ばれるのも、対等じゃないだろ?」
ミケ:「確かに・・・。それに、ミケ・・・。なんだか、とても、しっくりくる名前です!」
ムギ:「そうか・・・。それは、良かった。これからもよろしくな。ミケ」
ミケ:「はい。よろしくお願いします。ムギ」
0:
0:【間】
0:
ミケ:「ちなみになんですけど・・・」
ムギ:「ん?」
ミケ:「居場所を失うと死ぬ呪いなんて、本当にあるんですか?」
ムギ:「・・・っ。アレは・・・その・・・。嘘だ。あの日、ミケに一目惚れして、ミケを守りたい、もっと一緒にいたいと思ったから、『呪い』なんて嘘をついた。・・・ごめん」
ミケ:「そうですか・・・。それは、なんというか・・・」
ムギ:「ん?」
ミケ:「実に、ムギらしい、『優しい嘘』ですね」
0:
0:―了―