台本概要

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タイトル ムギとミケ―呪われた野良猫の優しい嘘―
作者名 芥川ドラ之介
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 有料無料に関わらず全て自由にお使いください。
過度のアドリブ、内容や性別、役名の改編も好きにしてください。
わたしへの連絡や、作者名の表記なども特に必要ありません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ムギ 73 野良猫の先輩
ミケ 77 野良猫の後輩
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ミケ:(M)なんでもない日の、なんでもないゴミ捨て場で、私は、彼と出会った。 ムギ:「よぉ」 ミケ:「こっ、こんにちは」 ムギ:「ここらじゃ見ない顔だな。お前も、野良猫か?」 ミケ:「はい。多分・・・」 ムギ:「多分?」 ミケ:「色んな人間が、私に名前を付けて呼ぶものだから、もしかしたら、野良猫じゃないのかもって思ったんです」 ムギ:「ほぉん・・・。まだ、ちびっころだから、人間たちから可愛がられてんだな」 ミケ:「はい。頭を撫でられたり、餌をもらえることもあります」 ムギ:「で、そいつらは、お前を家に入れてくれたのか?」 ミケ:「いいえ。まだ家に入れてもらえたことはありません」 ムギ:「だったら、お前は、野良猫だ」 ミケ:「野良猫・・・」 ムギ:「特定の飼い主がいない猫は、野良猫なのさ」 ミケ:「・・・」 ムギ:「どうした?なんで、そんな悲しそうな顔をするんだ?」 ミケ:「・・・私には、どこにも居場所がないんだなって」 ムギ:「居場所?」 ミケ:「はい」 ムギ:「・・・もしかして、居場所は、飼い主が用意してくれるモノだと思っているのか?」 ミケ:「違うんですか?」 ムギ:「ハッハッハ。違うな。居場所は、自分で作るモノだ」 ミケ:「自分で作る?」 ムギ:「別に、おまんまをくれる人間がいる場所、帰る場所だけが居場所じゃない。『居心地が良い場所』が居場所だ」 ミケ:「居心地が良い場所が、居場所?」 ムギ:「そうだ。そして、それは、自分で作ることができる」 ミケ:「・・・私も居場所を作ることができるってことですか?」 ムギ:「そうだ」 ミケ:「どうすれば?」 ムギ:「どうすれば、か・・・。自分の目でよく見て、耳でよく聴いて、心でよく感じれば良い」 ミケ:「それって、普段通りに生活するってことですか?」 ムギ:「普段通りとは違う。『よく』見て、『よく』聞いて、『よく』感じることが大事なんだ。『欲』を出して、手を伸ばさなければ、ほしいモノは手に入らない」 ミケ:「欲を出して、手を伸ばす・・・」 ムギ:「実はな。俺も、自分の居場所を探していた時代があってだな」 ミケ:「それで、居場所は見つかったんですか?」 ムギ:「・・・たくさん見つかったさ」 ミケ:「たくさん?」 ムギ:「あぁ。昼寝を邪魔されない日当たりの良い縁側(えんがわ)に、残飯を奪い合う相手がいないゴミ捨て場。そして、今は亡き飼い主の膝の上」 ミケ:「すごいなぁ。私も、自分の居場所を見つけることができると思いますか?」 ムギ:「できるさ。『欲』を出して、手を伸ばせばな」 ミケ:「・・・じゃあ、旅をすることにします。自分の居場所を見つける旅」 ムギ:「それは、面白そうだな。でも、旅に危険は付きものだ。命だけは落とさないようにな」 ミケ:「はい。気を付けます」 ムギ:「・・・。それと・・・」 ミケ:「ん?どうしたんですか?」 ムギ:「・・・この世界には、『呪い』というモノがあってだな」 ミケ:「呪い?」 ムギ:「愛を知ると死ぬ呪いに、嘘をつくと死ぬ呪い。そして・・・」 ミケ:「・・・そして?」 ムギ:「俺も、その、なんらかの呪いにかかっているわけだ」 ミケ:「そうなんですか?それは、どんな呪いなんですか?」 ムギ:「それは、『今は』言えないことになっている。だから・・・」 ミケ:「・・・だから?」 ムギ:「お前が、居場所を探し出すのを見届けるまで、そばにいても、その、構わないか?」 ミケ:「構わないですけど、逆に良いんですか?」 ムギ:「良いんだ。俺がそうしたいから、そうするんだし、それが呪いに関係してるんだからさ」 ミケ:「わかりました。ちなみに、私には、『まだ』名前がないんですけど、あなたの名前を教えていただけますか?なんて呼べばいいですか?」 ムギ:「・・・。俺は、ムギ。『ムギ』と呼んでくれたらいい。お前、色んな人間に名前を付けてもらっていたんじゃないのか?」 ミケ:「はい。だけど、どの名前も、なんだか、しっくり来なくて・・・。だから、まだ『何猫』でもないので、『お前』と呼んでくれたら良いです」 ムギ:「お前、か・・・」 ミケ:「はい」 ムギ:「わかった」 0: ミケ:(M)こうして、私が居場所を見つける旅に、ムギが付き合ってくれることになった。 0: 0:【間】 0: ミケ:(M)ある日の朝・・・。 ムギ:「ちょっと出てくる」 ミケ:(M)そう言って、ムギは、私のそばを離れてから、夕方、ボロボロの体を引きずりながら、戻ってきた。 ミケ: ミケ:「どうしたんですか?その傷・・・」 ムギ:「ちょっとな・・・。ほれっ。新鮮な魚だ。うまそうだろ?喰え」 ミケ:「え?」 ミケ: ミケ:(M)ムギは、私に、新鮮なサンマをプレゼントしてくれた。 0: ムギ:「遠慮すんな。喰え!」 ミケ:「もしかして、この魚を手に入れるために、人間に叩かれたんじゃないんですか?」 ムギ:「フフッ。俺は、『人間に叩かれたら死ぬ』ような呪いには、かかっていないから、大丈夫だ」 ミケ:「そうなんですか?」 ムギ:「あぁ。だから、喰ってくれよ。お前に喜んでもらいたくて、盗ってきたんだからさ」 ミケ:「魚が食べられるのは、嬉しいですけど、ムギが傷つくのは、それ以上に悲しいです」 ムギ:「そうなのか?」 ミケ:「そうです」 ムギ:「・・・わかった。これからは、もっと上手くやるさ」 ミケ:「上手くやるとかの話じゃなくて、ムギが危険な目に遭うのが、嫌なんです」 ムギ:「危険じゃないさ」 ミケ:「どの口が言っているんですか?現に、ボロボロに傷ついてるじゃないですか?」 ムギ:「でも、死んでない」 ミケ:「・・・。とにかく!これからは、危ないことをして食べ物を取ってくるのは、絶対にやめて下さい!」 ムギ:「嫌だと言ったら?」 ミケ:「私は、ムギのそばを離れます」 ムギ:「・・・。わかった。もう、危ないことはしない。『約束』する」 ミケ:「はい」 ミケ: ミケ:(M)それからは、ムギが危険を冒してまで食べ物を取ってくることはなくなった。 0: 0:【間】 0: ミケ:(M)飼い猫の平均寿命が14歳なのに対し、野良猫の平均寿命は、2~3年とされている。それは・・・。 ムギ:「なぁ、寒くないか?」 ミケ:「寒くないです。ムギが、私の壁になって、雪を凌(しの)いでくれているから」 ムギ:「そうか・・・。それなら、良かった」 ミケ:「良くないです!そこをどいて下さい!このままだと、ムギは、死んでしまいますよ?」 ムギ:「大丈夫だ。俺は、『寒さで死ぬ』ような呪いには、かかっていないからな」 ミケ:「それでも、心配です。私は、ムギに死んでほしくないです」 ムギ:「だから、死なないって!」 ミケ:「死ぬ死なないの話じゃなくて、私だけ安全な場所にいることが、ムギと対等じゃないことが、とても苦しくて、とても悲しくて、居心地が悪いんです!」 ムギ:「居心地が悪い?」 ミケ:「はい・・・。私にとって、ムギの隣は、とても居心地が悪いです」 ムギ:「そう、か・・・。そう、なのか・・・。わかった・・・」 ミケ:「・・・ん?」 ミケ: ミケ:(M)そして、ムギは、どれだけ話しかけても、何も言葉を返してくれなくなり、雪が止むまで、ただ黙って、そこに、いた・・・。 0: 0:【間】 0: ムギ:「雪が・・・止んだな・・・」 ミケ:「はい。だから、いい加減に、そこをどいて下さい」 ムギ:「わかった。・・・っ」 ミケ:「・・・よい、しょっと!ふぁーっ!やっと出られた!」 ムギ:「・・・なぁ」 ミケ:「・・・はい?あぁ!ありがとうございます。雪から、冬の寒さから、私を守ってくれて」 ムギ:「お礼なんていらない。俺がそうしたいから、そうしただけだ。お前を、守りたかった。それだけだ」 ミケ:「・・・はい」 ムギ:「・・・なぁ」 ミケ:「・・・はい?なんですか?」 ムギ:「・・・お別れだ」 ミケ:「お別れ?どうして急に、そんなことを言うんですか?」 ムギ:「・・・『呪い』があるから」 ミケ:「呪い?呪いって、なんなんですか?」 ムギ:「俺の呪いは、『居場所を失うと死ぬ』呪いだ。もう、お前のそばに、俺の居場所はなくなった。だから、お別れだ」 ミケ:「・・・。私が、『ムギの隣は居心地が悪い』と言ったせいですか?」 ムギ:「・・・」 ミケ:「そうなんですか?」 ムギ:「そうだ。俺は、お前の人生にとって、不要な存在なんだ」 ミケ:「そんなことないです!」 ムギ:「そんなことない?」 ミケ:「私は、ムギと、ずっと一緒にいたい!」 ムギ:「居心地が悪いのにか?」 ミケ:「居心地が良いように、これから作り変えるんです!」 ムギ:「作り変える?」 ミケ:「ご飯は、片方だけが取りに行くのではなく、一緒に取りに行きましょう」 ムギ:「だが、お前は、まだ野良猫になったばかりで」 ミケ:「いつまでも私を、新人扱いしないで下さい!冬も越したベテランの野良猫ですから!」 ムギ:「・・・」 ミケ:「そして、今年の冬は、ムギだけが寒い想いをするのではなく、一緒に温め合って、助け合って乗り越えて行きましょう!」 ムギ:「・・・」 ミケ:「どうです?私は、自分の居場所がほしいから、はっきり言いたいことを伝えてみました。『欲』を出して、手を伸ばしてみました」 ムギ:「・・・前に、俺が言ったことか?」 ミケ:「そうですよ」 ムギ:「・・・。俺は、お前のそばにいても良いのか?」 ミケ:「もちろんです!私の隣が、ムギにとって居心地の悪い場所でなければ」 ムギ:「お前の隣は、とても居心地が良い」 ミケ:「そうですか!それなら、良かった!これからも、ずっと一緒にいて下さい!」 ムギ:「・・・。ミケ・・・『ミケ』なんて、どうだ?」 ミケ:「ミケ?」 ムギ:「お前の名前だ。俺だけ名前を呼ばれるのも、対等じゃないだろ?」 ミケ:「確かに・・・。それに、ミケ・・・。なんだか、とても、しっくりくる名前です!」 ムギ:「そうか・・・。それは、良かった。これからもよろしくな。ミケ」 ミケ:「はい。よろしくお願いします。ムギ」 0: 0:【間】 0: ミケ:「ちなみになんですけど・・・」 ムギ:「ん?」 ミケ:「居場所を失うと死ぬ呪いなんて、本当にあるんですか?」 ムギ:「・・・っ。アレは・・・その・・・。嘘だ。あの日、ミケに一目惚れして、ミケを守りたい、もっと一緒にいたいと思ったから、『呪い』なんて嘘をついた。・・・ごめん」 ミケ:「そうですか・・・。それは、なんというか・・・」 ムギ:「ん?」 ミケ:「実に、ムギらしい、『優しい嘘』ですね」 0: 0:―了―

ミケ:(M)なんでもない日の、なんでもないゴミ捨て場で、私は、彼と出会った。 ムギ:「よぉ」 ミケ:「こっ、こんにちは」 ムギ:「ここらじゃ見ない顔だな。お前も、野良猫か?」 ミケ:「はい。多分・・・」 ムギ:「多分?」 ミケ:「色んな人間が、私に名前を付けて呼ぶものだから、もしかしたら、野良猫じゃないのかもって思ったんです」 ムギ:「ほぉん・・・。まだ、ちびっころだから、人間たちから可愛がられてんだな」 ミケ:「はい。頭を撫でられたり、餌をもらえることもあります」 ムギ:「で、そいつらは、お前を家に入れてくれたのか?」 ミケ:「いいえ。まだ家に入れてもらえたことはありません」 ムギ:「だったら、お前は、野良猫だ」 ミケ:「野良猫・・・」 ムギ:「特定の飼い主がいない猫は、野良猫なのさ」 ミケ:「・・・」 ムギ:「どうした?なんで、そんな悲しそうな顔をするんだ?」 ミケ:「・・・私には、どこにも居場所がないんだなって」 ムギ:「居場所?」 ミケ:「はい」 ムギ:「・・・もしかして、居場所は、飼い主が用意してくれるモノだと思っているのか?」 ミケ:「違うんですか?」 ムギ:「ハッハッハ。違うな。居場所は、自分で作るモノだ」 ミケ:「自分で作る?」 ムギ:「別に、おまんまをくれる人間がいる場所、帰る場所だけが居場所じゃない。『居心地が良い場所』が居場所だ」 ミケ:「居心地が良い場所が、居場所?」 ムギ:「そうだ。そして、それは、自分で作ることができる」 ミケ:「・・・私も居場所を作ることができるってことですか?」 ムギ:「そうだ」 ミケ:「どうすれば?」 ムギ:「どうすれば、か・・・。自分の目でよく見て、耳でよく聴いて、心でよく感じれば良い」 ミケ:「それって、普段通りに生活するってことですか?」 ムギ:「普段通りとは違う。『よく』見て、『よく』聞いて、『よく』感じることが大事なんだ。『欲』を出して、手を伸ばさなければ、ほしいモノは手に入らない」 ミケ:「欲を出して、手を伸ばす・・・」 ムギ:「実はな。俺も、自分の居場所を探していた時代があってだな」 ミケ:「それで、居場所は見つかったんですか?」 ムギ:「・・・たくさん見つかったさ」 ミケ:「たくさん?」 ムギ:「あぁ。昼寝を邪魔されない日当たりの良い縁側(えんがわ)に、残飯を奪い合う相手がいないゴミ捨て場。そして、今は亡き飼い主の膝の上」 ミケ:「すごいなぁ。私も、自分の居場所を見つけることができると思いますか?」 ムギ:「できるさ。『欲』を出して、手を伸ばせばな」 ミケ:「・・・じゃあ、旅をすることにします。自分の居場所を見つける旅」 ムギ:「それは、面白そうだな。でも、旅に危険は付きものだ。命だけは落とさないようにな」 ミケ:「はい。気を付けます」 ムギ:「・・・。それと・・・」 ミケ:「ん?どうしたんですか?」 ムギ:「・・・この世界には、『呪い』というモノがあってだな」 ミケ:「呪い?」 ムギ:「愛を知ると死ぬ呪いに、嘘をつくと死ぬ呪い。そして・・・」 ミケ:「・・・そして?」 ムギ:「俺も、その、なんらかの呪いにかかっているわけだ」 ミケ:「そうなんですか?それは、どんな呪いなんですか?」 ムギ:「それは、『今は』言えないことになっている。だから・・・」 ミケ:「・・・だから?」 ムギ:「お前が、居場所を探し出すのを見届けるまで、そばにいても、その、構わないか?」 ミケ:「構わないですけど、逆に良いんですか?」 ムギ:「良いんだ。俺がそうしたいから、そうするんだし、それが呪いに関係してるんだからさ」 ミケ:「わかりました。ちなみに、私には、『まだ』名前がないんですけど、あなたの名前を教えていただけますか?なんて呼べばいいですか?」 ムギ:「・・・。俺は、ムギ。『ムギ』と呼んでくれたらいい。お前、色んな人間に名前を付けてもらっていたんじゃないのか?」 ミケ:「はい。だけど、どの名前も、なんだか、しっくり来なくて・・・。だから、まだ『何猫』でもないので、『お前』と呼んでくれたら良いです」 ムギ:「お前、か・・・」 ミケ:「はい」 ムギ:「わかった」 0: ミケ:(M)こうして、私が居場所を見つける旅に、ムギが付き合ってくれることになった。 0: 0:【間】 0: ミケ:(M)ある日の朝・・・。 ムギ:「ちょっと出てくる」 ミケ:(M)そう言って、ムギは、私のそばを離れてから、夕方、ボロボロの体を引きずりながら、戻ってきた。 ミケ: ミケ:「どうしたんですか?その傷・・・」 ムギ:「ちょっとな・・・。ほれっ。新鮮な魚だ。うまそうだろ?喰え」 ミケ:「え?」 ミケ: ミケ:(M)ムギは、私に、新鮮なサンマをプレゼントしてくれた。 0: ムギ:「遠慮すんな。喰え!」 ミケ:「もしかして、この魚を手に入れるために、人間に叩かれたんじゃないんですか?」 ムギ:「フフッ。俺は、『人間に叩かれたら死ぬ』ような呪いには、かかっていないから、大丈夫だ」 ミケ:「そうなんですか?」 ムギ:「あぁ。だから、喰ってくれよ。お前に喜んでもらいたくて、盗ってきたんだからさ」 ミケ:「魚が食べられるのは、嬉しいですけど、ムギが傷つくのは、それ以上に悲しいです」 ムギ:「そうなのか?」 ミケ:「そうです」 ムギ:「・・・わかった。これからは、もっと上手くやるさ」 ミケ:「上手くやるとかの話じゃなくて、ムギが危険な目に遭うのが、嫌なんです」 ムギ:「危険じゃないさ」 ミケ:「どの口が言っているんですか?現に、ボロボロに傷ついてるじゃないですか?」 ムギ:「でも、死んでない」 ミケ:「・・・。とにかく!これからは、危ないことをして食べ物を取ってくるのは、絶対にやめて下さい!」 ムギ:「嫌だと言ったら?」 ミケ:「私は、ムギのそばを離れます」 ムギ:「・・・。わかった。もう、危ないことはしない。『約束』する」 ミケ:「はい」 ミケ: ミケ:(M)それからは、ムギが危険を冒してまで食べ物を取ってくることはなくなった。 0: 0:【間】 0: ミケ:(M)飼い猫の平均寿命が14歳なのに対し、野良猫の平均寿命は、2~3年とされている。それは・・・。 ムギ:「なぁ、寒くないか?」 ミケ:「寒くないです。ムギが、私の壁になって、雪を凌(しの)いでくれているから」 ムギ:「そうか・・・。それなら、良かった」 ミケ:「良くないです!そこをどいて下さい!このままだと、ムギは、死んでしまいますよ?」 ムギ:「大丈夫だ。俺は、『寒さで死ぬ』ような呪いには、かかっていないからな」 ミケ:「それでも、心配です。私は、ムギに死んでほしくないです」 ムギ:「だから、死なないって!」 ミケ:「死ぬ死なないの話じゃなくて、私だけ安全な場所にいることが、ムギと対等じゃないことが、とても苦しくて、とても悲しくて、居心地が悪いんです!」 ムギ:「居心地が悪い?」 ミケ:「はい・・・。私にとって、ムギの隣は、とても居心地が悪いです」 ムギ:「そう、か・・・。そう、なのか・・・。わかった・・・」 ミケ:「・・・ん?」 ミケ: ミケ:(M)そして、ムギは、どれだけ話しかけても、何も言葉を返してくれなくなり、雪が止むまで、ただ黙って、そこに、いた・・・。 0: 0:【間】 0: ムギ:「雪が・・・止んだな・・・」 ミケ:「はい。だから、いい加減に、そこをどいて下さい」 ムギ:「わかった。・・・っ」 ミケ:「・・・よい、しょっと!ふぁーっ!やっと出られた!」 ムギ:「・・・なぁ」 ミケ:「・・・はい?あぁ!ありがとうございます。雪から、冬の寒さから、私を守ってくれて」 ムギ:「お礼なんていらない。俺がそうしたいから、そうしただけだ。お前を、守りたかった。それだけだ」 ミケ:「・・・はい」 ムギ:「・・・なぁ」 ミケ:「・・・はい?なんですか?」 ムギ:「・・・お別れだ」 ミケ:「お別れ?どうして急に、そんなことを言うんですか?」 ムギ:「・・・『呪い』があるから」 ミケ:「呪い?呪いって、なんなんですか?」 ムギ:「俺の呪いは、『居場所を失うと死ぬ』呪いだ。もう、お前のそばに、俺の居場所はなくなった。だから、お別れだ」 ミケ:「・・・。私が、『ムギの隣は居心地が悪い』と言ったせいですか?」 ムギ:「・・・」 ミケ:「そうなんですか?」 ムギ:「そうだ。俺は、お前の人生にとって、不要な存在なんだ」 ミケ:「そんなことないです!」 ムギ:「そんなことない?」 ミケ:「私は、ムギと、ずっと一緒にいたい!」 ムギ:「居心地が悪いのにか?」 ミケ:「居心地が良いように、これから作り変えるんです!」 ムギ:「作り変える?」 ミケ:「ご飯は、片方だけが取りに行くのではなく、一緒に取りに行きましょう」 ムギ:「だが、お前は、まだ野良猫になったばかりで」 ミケ:「いつまでも私を、新人扱いしないで下さい!冬も越したベテランの野良猫ですから!」 ムギ:「・・・」 ミケ:「そして、今年の冬は、ムギだけが寒い想いをするのではなく、一緒に温め合って、助け合って乗り越えて行きましょう!」 ムギ:「・・・」 ミケ:「どうです?私は、自分の居場所がほしいから、はっきり言いたいことを伝えてみました。『欲』を出して、手を伸ばしてみました」 ムギ:「・・・前に、俺が言ったことか?」 ミケ:「そうですよ」 ムギ:「・・・。俺は、お前のそばにいても良いのか?」 ミケ:「もちろんです!私の隣が、ムギにとって居心地の悪い場所でなければ」 ムギ:「お前の隣は、とても居心地が良い」 ミケ:「そうですか!それなら、良かった!これからも、ずっと一緒にいて下さい!」 ムギ:「・・・。ミケ・・・『ミケ』なんて、どうだ?」 ミケ:「ミケ?」 ムギ:「お前の名前だ。俺だけ名前を呼ばれるのも、対等じゃないだろ?」 ミケ:「確かに・・・。それに、ミケ・・・。なんだか、とても、しっくりくる名前です!」 ムギ:「そうか・・・。それは、良かった。これからもよろしくな。ミケ」 ミケ:「はい。よろしくお願いします。ムギ」 0: 0:【間】 0: ミケ:「ちなみになんですけど・・・」 ムギ:「ん?」 ミケ:「居場所を失うと死ぬ呪いなんて、本当にあるんですか?」 ムギ:「・・・っ。アレは・・・その・・・。嘘だ。あの日、ミケに一目惚れして、ミケを守りたい、もっと一緒にいたいと思ったから、『呪い』なんて嘘をついた。・・・ごめん」 ミケ:「そうですか・・・。それは、なんというか・・・」 ムギ:「ん?」 ミケ:「実に、ムギらしい、『優しい嘘』ですね」 0: 0:―了―