台本概要
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タイトル | ブラック・ボックス |
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作者名 | るでぃあ (@Rdia_JPN) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 4人用台本(男3、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
193X年、第一次世界大戦終結後のイギリスでは 今も尚、戦争による爪痕が色濃く残っていた… 人々の心は疲弊し、不満は募るばかり 欲求は呼応するかのように加速して、 国を内側から蝕んで行く やがて肥大化した欲望の波は、 正常な世界にまで影響を及ぼす 非合法麻薬"レッド・ハート" 人智を超えた力を得る代わりに 赤い血の花を咲かせるという 恐怖の超人薬が、 世間を脅かしているのだった これは、自由に見放された 1羽の鴉の物語――― 【掲載元サイト】 https://rdiajp.wixsite.com/the-hideaway/blackbox 350 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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レイヴン | 男 | 97 | 鋭い目つきと近寄り難い雰囲気を持つ今作の主人公 冷静な判断力、行動力を兼ね備えた漢 愛煙家であり、常にオイルライターを所持している 性格は皮肉屋で不愛想だが決して悪人ではない ギャバジン生地の黒いトレンチコートがトレードマーク 武器はOMEN/V2リボルバーとハンティングナイフ |
ラッシュ | 男 | 79 | レイヴンの古い友人で、元同業者 明るく、気さくな性格のムードメーカー 現在は郊外でひっそりとBARを営んでいるが 持ち前の軽口が災いしてか、 "一部の客層"を除いてあまり人気がないようだ レイヴンにとって頼れる相棒的存在 ネイビー色のダッフルコートを愛用している 武器はウィリーピート試作型発煙手榴弾 |
ボロス | 男 | 45 | 圧倒的なカリスマ性を持つ"レッドバロン"のリーダー 革手袋とキャメルのチェスターフィールドコートに ロングマフラーを垂らして着用するザ・マフィア 長身で引き締まった肉体と威圧感を持ち、隙が無く その眼はまるで泥のように濁っている ※一・二人称、口調変更可(声真似等はご自由に) |
リサ | 女 | 67 | 灰色のコートを着た黒髪の東洋人 容姿端麗で眉目秀麗だが無鉄砲な性格 冒頭で"何らかの理由"によりボロスに追われ レイヴン達の居るBARに逃げ込んでくる 今作のヒロインにして、 物語の"カギ"を握る重要なキーパーソン |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:雨が降りしきる夜のイギリス
0:首都郊外にあるBARの扉が開き
0:備え付けられたベルが鳴る
ラッシュ:「お、いらっしゃ…なんだお前か
ラッシュ:いつものヤツかい?"レイヴン"?」
レイヴン:「…ああ、頼む」
ラッシュ:「はいはい、飽きないねぇ」
レイヴン:「お互い様だ、"ラッシュ"…
レイヴン:お前にBARのマスターは似合わない」
0:カウンター席に腰掛けるレイヴン
0:ジッポライターを取り出し、
0:タバコに火を点ける
ラッシュ:「(鼻歌)」
0:酒を注ぐラッシュ、すると
0:勢いよく扉が開き、そして閉まる
0:入り口にはずぶ濡れの女
ラッシュ:「いらっしゃい♪」
レイヴン:「……(目もくれずタバコを吹かす)」
0:カウンター席に座る女
リサ:(息を切らしながら)
リサ:「つ、強いの…貰える…?」
ラッシュ:「あー強いのね
ラッシュ:ちょっと待ってて下さい?
ラッシュ:確か、奥に…」
0:と言いつつ裏に引っ込むラッシュ
0:女は取り出したタバコに
0:火を点けようとする、が
0:雨に濡れたせいか、点かない
レイヴン:「(タバコとライターの火を貸す)」
リサ:「…ありがと…」
0:振るえる手でタバコを受け取り、吸う女
リサ:「アナタもしかして…殺し屋?」
レイヴン:「…刑事かもな?なぜそう思う」
リサ:「コートの下にガンホルダーが見えたの、
リサ:それに刑事にしては、
リサ:随分雰囲気が違うから…」
レイヴン:「とんだ名探偵だな」
リサ:「ねぇお願い、かくまって」
レイヴン:「断る」
リサ:「報酬なら払うわ!
リサ:今手元に無いけど…千ドルは持ってる、
リサ:それで―――」
レイヴン:「何度も言わせるな
レイヴン:ソイツを吸ったら、さっさと出ていけ
レイヴン:"出口"は通路の先だ」
0:出入口ではなく、裏口を顎で指すレイヴン
リサ:「……わかったわ」
0:灰皿にタバコを押し付け、立ち上がる
ラッシュ:「あれ?お酒、お持ちしましたよ?」
リサ:「ごめんなさい、急用ができたの」
0:そう言い残し、裏口から急ぎ出ていく女
ラッシュ:「…良いのか?美女を放っといて」
レイヴン:「"こんな所"にいるよりはな
レイヴン:それに、俺と関わると
レイヴン:碌(ろく)な事は無い」
ラッシュ:「そんなもんかねぇ…
ラッシュ:っておいおい!
ラッシュ:"こんな所"ってなん―――」
0:扉がまた勢いよく開き、複数の男達と、
0:オーバーコートを羽織った男が入って来る
ラッシュ:「いらっしゃ~…んん?」
0:歩み出るオーバーコートの男
ボロス:「―――此処(ここ)に、
ボロス:"女"が来なかったか?」
ラッシュ:「さぁね?お客は沢山来るもんで」
レイヴン:「嘘つけ(呟く)」
ボロス:「東洋人だ…灰色のコートを着た、
ボロス:反抗的で、忌々しい、"女狐"だ…」
0:ラッシュに詰め寄る男
ラッシュ:「知りませんって…
ラッシュ:お客さん、落ち着いて―――」
レイヴン:「…失せろ、
レイヴン:この場の酸素が無駄になる」
0:静寂、睨み合うレイヴンと男
ボロス:「ほぉ…
ボロス:それは、悪かったなぁ?
ボロス:バーテン、その酒を寄越せ」
ラッシュ:「あちょっと―――」
0:酒を奪い取り
0:テーブルに金を置くと
0:男は指で栓を抜き
ボロス:「釣りはいらん…
ボロス:"床"を汚してしまったからな?」
0:ドボドボとレイヴンに酒を浴びせる
ラッシュ:「うわっちゃぁ~…」
ボロス:「これは、私の、奢(おご)りだ」
レイヴン:「…」
ボロス:「邪魔したな?行くぞ…」
0:オーバーコートを翻し、
0:付き人達と共に去って行く男
ラッシュ:「あー…大丈夫?はい、タオル」
0:タオルを受け取り、顔を拭くレイヴン
レイヴン:「なぁに…
レイヴン:浴びる程酒を飲むのも悪くない」
ラッシュ:「またまた、
ラッシュ:けど、アレはヤバいね~
ラッシュ:レッドバロンの"ボロス"だ」
レイヴン:「知っているのか?」
ラッシュ:「勿論、ここいらじゃ有名なワルさ?
ラッシュ:泣く子も黙る"赤紳士"…知らない?」
レイヴン:「知らんな、興味も無い」
ラッシュ:「最近頭角を現してきたマフィアのボスさ
ラッシュ:前に、この街を仕切ってた武装集団を
ラッシュ:力でねじ伏せたって話だ
ラッシュ:しかも"たった一人"で…
ラッシュ:いやはやまったく、おっかないねぇ~」
レイヴン:「そんな風には見えなかったが…」
ラッシュ:「人は見掛けによらないのかもよ~?
ラッシュ:案外、武術の達人だったりして!」
0:アチョ~!とジェスチャーするラッシュ
レイヴン:「…帰って寝る」
0:チップを置いて席を立つレイヴン
ラッシュ:「おいおい冗談だって―――
ラッシュ:あ、でもそれは良いかもな?
ラッシュ:酔い覚ましにシャワー浴びたら?
ラッシュ:臭うよ?」
レイヴン:「お前はいつも一言余計だ」
0:店を出るとまたタバコを吹かし
0:トレンチコートの襟を立てて
0:雨の中を歩いて行く、すると
レイヴン:「…ん?」
0:路地裏で蹲っている人影を発見
0:それは先程BARで見かけた女
0:撃たれたのか手傷を負っている
リサ:「助…けて…」
0:そのまま倒れる女
レイヴン:「お前…」
0:女を見下ろすレイヴン
0:雨が、激しさを増していた―――
0:
0:【場面転換】アジト内部
0:女が目覚めた場所はベッドの上
0:そこは赤レンガと草臥れた家具が
0:無造作に置かれた無骨な部屋だった
0:所々塗装は剥がれ、床は傷んでいる
リサ:「…此処は―――」
レイヴン:「目が覚めたか」
リサ:「!…ア、アナタは!」
0:近くのソファに腰掛けていたレイヴンを
0:敵でも見るかのように警戒する女
レイヴン:「助けを求めておいてその反応か?
レイヴン:…やれやれだな」
リサ:「私に何をしたの」
レイヴン:「お前が考えているような事は
レイヴン:何も無い」
ラッシュ:「そうだよ~?お嬢さん」
0:部屋の奥、台所のカウンターに居たのは
0:やはりBARのマスター、ラッシュ
リサ:「どうして…」
ラッシュ:「怪我をした君を彼が助けた
ラッシュ:彼が君を手当してベッドに寝かせた
ラッシュ:その後、彼は俺に助けを求めた
ラッシュ:だから今、俺と君は此処に居る♪」
レイヴン:「食料調達を頼んだだけだ」
ラッシュ:「あ~正確には
ラッシュ:"猫"を拾ったって言われた」
レイヴン:「うるさいぞ」
リサ:「…フフ、おかしな人達」
0:キョトンとする二人
ラッシュ:「回復したようで何より、
ラッシュ:そうだ珈琲飲む?
ラッシュ:ウチの"裏メニュー"
ラッシュ:オリジナルブレンドで自信作なんだ」
リサ:「頂くわ?」
レイヴン:「"また"持ってきたのか」
ラッシュ:「良いだろ?減るもんじゃないし」
レイヴン:「…好きにしろ」
0:用意されたのは深みのある
0:色の濃いブラックコーヒー
0:一口飲んでみる
0:酷く…マズイ
0:とてつもなく苦いのだ
リサ:「苦い…紅茶の方が好き」
ラッシュ:「この苦味が良いんだよ~!
ラッシュ:けど、合う合わないはあるかぁ
ラッシュ:砂糖、持ってくるよ」
0:台所に走るラッシュ
リサ:「アナタも、こう言うのが好き?」
レイヴン:「…ああ(肯定)、
レイヴン:世間と一緒で目が覚める」
リサ:「ふぅ~ん、そ?
リサ:私は"リサ"、アナタは?」
レイヴン:「名は棄(す)てた」
ラッシュ:「おいおい、そりゃないだろレイヴン?
ラッシュ:せっかく助けた女の子じゃないか」
0:砂糖の瓶を持って戻ってきたラッシュ
レイヴン:「ただの気まぐれだ」
リサ:「レイヴンって、言うのね?」
レイヴン:「…好きに呼べ」
ラッシュ:「つれないなぁ?
ラッシュ:あ、俺の名前はラッシュ!
ラッシュ:よろしくな、リサさん?」
0:握手を求めるラッシュ
リサ:「え、ええ(肯定)
リサ:…よろしく」
0:握手を交わすリサ
ラッシュ:「なんで追われてたの?
ラッシュ:奴等ヤバい連中だろ?
ラッシュ:…何かあった?」
リサ:「私を追ってたのはマフィアよ
リサ:レッドバロンって言う…
リサ:アイツ等の事、知ってるの?」
ラッシュ:「全然?」
レイヴン:「おい」
リサ:「…どうかした?」
0:訝しむリサ
ラッシュ:「いや?なんにも?
ラッシュ:マフィアに追い駆けられるなんて
ラッシュ:リサさんは災難だったな~
ラッシュ:で、なにやったの?
ラッシュ:警察にも言えないワケがあったんだろ?」
0:押し黙るリサ
0:徐に黒い小箱を取り出し
0:二人に中を見せる
リサ:「…"コレ"よ
リサ:私はコレを取り返しただけ」
ラッシュ:「ん?ナニコレ」
リサ:「―――"レッド・ハート"…」
ラッシュ:「え?今、噂になってる?」
レイヴン:「…(目を細める)」
リサ:「聞いたことが?」
ラッシュ:「世間じゃコイツの話題で持ち切りさ!
ラッシュ:犯罪絡みってなるとほぼ関わってる…
ラッシュ:信じられない"力"を引き出す代わりに、
ラッシュ:使用者には赤い血の花が咲くっていう
ラッシュ:裏世界の超人薬―――」
リサ:「詳しいのね…」
ラッシュ:「"お客さん"から、ちょっとね!
ラッシュ:でもどうして君が?」
リサ:「…殺された私の父が作った物なの
リサ:病気や怪我で弱っている人を助けるんだって
リサ:枯れた花が、息を吹き返すようにって…」
ラッシュ:「死んだ肉体を、蘇らせる"薬"…」
リサ:「父の研究は細胞の活性化を
リサ:促(うなが)す物だったの…
リサ:純粋に、生きる為の力になればと
リサ:毎日、夜遅くまで研究室に籠って」
レイヴン:「だが出来上がった物は、
レイヴン:"毒"だった…か」
リサ:「人聞きの悪い事言わないで!?
リサ:確かに、副作用はあるわ…
リサ:でも、私が知ったのは
リサ:中毒性があるって事だけ!」
レイヴン:「現に人が死んでるんだぞ」
リサ:「…ッ!それは…!」
ラッシュ:「レイヴン…彼女のせいじゃない
ラッシュ:それに、"変"だ…
ラッシュ:聞いてたのとはだいぶ色見が違う
ラッシュ:噂になってるのはもっとどす黒いんだ
ラッシュ:コイツはどっちかっていうと真紅に近い
ラッシュ:言っちゃなんだけど、"綺麗"だ
ラッシュ:とても同じ物とは思えない…
ラッシュ:出回ってる物が複製品か
ラッシュ:あるいは―――」
レイヴン:「"偽物"、か」
リサ:「偽物…そうよ!アイツ等だわ!」
0:立ち上がって訴えかけるリサ
リサ:「アイツ等は私の父を殺して
リサ:コレを奪った後、量産を計った…
リサ:でも、コレは父が何年もかけて
リサ:ようやく完成させた"新薬"
リサ:成分を解析しようにも、
リサ:その複雑な配合で文字通り
リサ:"ブラックボックス"と化してたんだわ
リサ:だから簡単には真似できない…
リサ:偽物を作る事しかできないのよ!」
0:荷物をまとめ、コートを羽織るリサ
リサ:「私、その証拠を掴んでみせるわ」
ラッシュ:「無茶だ!相手はマフィアだぞ?!
ラッシュ:殺されるのがオチだ!」
リサ:「これは私の家族の問題よ
リサ:それにもう、
リサ:誰かが傷つくのは…見たくないの
リサ:…珈琲、ありがとう」
0:そう言って出て行くリサ
ラッシュ:「おい!リサさん!」
レイヴン:「止めてやるな、ラッシュ」
ラッシュ:「でもよレイヴン!
ラッシュ:泣いてたぜ…彼女」
レイヴン:「…そうだな」
ラッシュ:「か弱い女の子だぞ!
ラッシュ:すぐに捕まるに決まってる!
ラッシュ:それを黙って見てろってのか?!
ラッシュ:ソレが"正しい事"なのか!?」
0:詰め寄るラッシュ
レイヴン:「俺は自分が正しいと思った事など
レイヴン:一度も無い…
レイヴン:重要なのは、納得しているかどうかだ
レイヴン:俺達には"やるべき事"がある
レイヴン:…そうだろ?」
0:机の上の箱を見るレイヴン
ラッシュ:「レッド・ハート!?
ラッシュ:…きっと俺達に託したんだ
ラッシュ:捕まる事を、承知で…
ラッシュ:そんな事じゃ、何も解決しないのに!」
レイヴン:「"ノブレス・オブリージュ"…」
0:箱を手に取るレイヴン
ラッシュ:「レイヴン…」
レイヴン:「…場所は分かるか」
ラッシュ:「廃工場、第13番倉庫だ
ラッシュ:奴等は今そこに居る」
レイヴン:「相変わらず頼りになるな、情報屋」
ラッシュ:「"元"だよ…
ラッシュ:俺も準備をしたらすぐ向かう
ラッシュ:けど、何があるか分からない
ラッシュ:気を付けろよ、レイヴン」
レイヴン:「…だろうな
レイヴン:あの泥のように濁った眼、
レイヴン:一筋縄では行かないだろう」
ラッシュ:「"元刑事"の勘か?」
レイヴン:「…"経験"だ」
0:鴉は、敵地へと向かう―――
0:
0:【場面転換】廃工場第13番倉庫 地下
0:薄暗い地下倉庫
0:部屋の中央、二つの人影が
0:電球の下で揺らめいている
0:縛られたリサと
0:対面するボロス
ボロス:「驚いたぞ?まさか、
ボロス:のこのこ戻って来るとはなぁ?
ボロス:…何をしていた?」
リサ:「なんでも良いでしょ
リサ:早く此処から出して!」
ボロス:「レッド・ハートは、何処にある」
リサ:「…知らないわ、
リサ:無くしたの」
ボロス:「隠しても無駄だ
ボロス:貴様の父親が開発した"新薬"…
ボロス:アドレナリンの大量分泌、
ボロス:心拍数の増加に伴(ともな)う、
ボロス:判断力と、反射神経の向上に加え、
ボロス:あらゆる身体強化を実現し
ボロス:その美しさから"東洋のハイビスカス"
ボロス:と名付けられた…究極の、
ボロス:"麻薬"―――」
リサ:「…違う!麻薬じゃないわ!?
リサ:父は、人の為を思って作ってた!
リサ:そんな父が作った薬が…
リサ:麻薬である筈がないわ!」
ボロス:「違わないな…
ボロス:麻酔の代わりに麻薬を使うというのは、
ボロス:この世界において、
ボロス:ごく自然な事なのだ…」
0:胸ポケットから銀色の小箱を取り出し、
0:片手で開けて見せる
0:箱の中に入っていたのは
0:赤黒い液体が詰まった小さな注射器
リサ:「な…ソレは!?」
ボロス:「我々が作った"模造品"、私はコレを
ボロス:"ブラッド・ハート"と呼んでいる…
ボロス:裏ルートで出回っているのは、
ボロス:コレを元にして作成した"粗悪品"だ
ボロス:―――だが、コレとて失敗作、
ボロス:私以外の人間が使えば、
ボロス:副作用ですぐに体が壊れてしまう
ボロス:完全な生成にはやはり、
ボロス:貴様の持つ"オリジナル"が
ボロス:どうしても、必要なのだよ」
リサ:「その為に何人の人が
リサ:犠牲になったと思ってるの!?
リサ:この、人でなし!」
ボロス:「…在処(ありか)を言わなければ、
ボロス:より多くの犠牲が出るだけだ
ボロス:貴様の父親もそれでは報われまい?」
リサ:「ッペ!(ボロスの頬に唾を吐く)」
ボロス:「ぬ…!」
リサ:「アンタは紳士じゃない、悪魔よ
リサ:血と欲に塗(まみ)れた、
リサ:醜い、悪魔…!」
0:顔に付いた唾を拭うと、
0:リサの身体に触れるボロス
ボロス:「今夜は、ゆっくり
ボロス:楽しませて貰うとしよう…」
0:リサの顎に手を添えるボロス
リサ:「クッ…殺して…」
0:その目には薄っすら涙が溢れる
ボロス:「フフフフ…む?
ボロス:何だ、この揺れは」
0:突然の地響き
0:急ぎ通信機器を使うボロス
ボロス:「…私だ、上で何があった」
レイヴン:「無駄だ、もうお前に仲間はいない」
0:振り返るボロス
0:銃を構え、歩み出るレイヴン
ボロス:「貴様は、あの時の…?
ボロス:単騎で乗り込んでくるとは
ボロス:中々、威勢の良い事だな?
ボロス:…何者だ」
リサ:「レイヴン!」
ボロス:「"レイヴン"だと…?
ボロス:そうか…貴様が―――」
レイヴン:「ハッ!(蹴る声)」
0:レイヴンの鋭い上段蹴り
0:しかし、片手で防がれる
ボロス:「ほぉ…良い踏み込みだ
ボロス:だが、そんな攻撃で私は倒せん」
レイヴン:「お前の部下は全員眠った
レイヴン:後はお前一人だけだ
レイヴン:大人しくリサを解放しろ」
ボロス:「…フフフフフ
ボロス:ハハハハハハ…!」
レイヴン:「何がおかしい」
ボロス:「…よかろう
ボロス:貴様にも見せてやる
ボロス:選ばれた者にしか手にできない、
ボロス:圧倒的な"チカラ"を…!」
レイヴン:「何?」
ボロス:「フン!」
リサ:「きゃあッ!」
0:ボロスがリサを突き飛ばし
レイヴン:「リサ!!」
0:レイヴンがリサを受け止める
0:その隙に注射器を取り出して、
0:胸に突き刺すボロス
リサ:「奴を止めて!"アレ"を使う気よ!」
ボロス:「…もう、遅い」
レイヴン:「―――ッグハ!?」
リサ:「レイヴン!」
0:勢いよく蹴り飛ばされ
0:豪快に転がるレイヴン
0:ボロスは一瞬で距離を詰めていた
0:人間ではありえない速度で
レイヴン:「クッ!」
0:堪らず銃を撃つレイヴン
ボロス:「効かんな」
0:華麗に、鮮やかに、
0:弾丸を躱していくボロス
レイヴン:「なんだこの動きは…
レイヴン:本当に人間なのか?!」
リサ:「まるで、化物…」
ボロス:「無駄だ…
ボロス:もはや私に銃は通じん」
レイヴン:「チィッ…ん!?」
ボロス:「ッ!コレは…"煙幕"?」
0:濃霧のような煙に消えるボロス
ラッシュ:「レイヴン!リサさん!こっちだ!」
0:通路からラッシュの声
レイヴン:「この隙に逃げろ、リサ」
リサ:「レイヴン…?」
ラッシュ:「何してるんだ!
ラッシュ:早く逃げないと―――」
レイヴン:「ラッシュ…リサを頼む」
0:駆け付けたラッシュだが何かを悟る
ラッシュ:「レイヴン…予備の発煙弾だ
ラッシュ:いざって時は使ってくれ
ラッシュ:…死ぬなよ」
0:発煙弾を1つ渡す
レイヴン:「…必ず戻る」
0:背を向けるレイヴン
リサ:「でもレイヴン―――」
レイヴン:「此処は俺に任せろ!
レイヴン:走れ!振り返るな!!」
リサ:「…待ってるわ」
0:煙が徐々に収まり、視界が晴れる
ボロス:「…女を逃がしたか」
レイヴン:「お前の相手はこの俺だ」
ボロス:「英雄にでもなったつもりか?
ボロス:まぁ良い…どの道、
ボロス:オリジナルが手に入れば用は無い
ボロス:すぐに後を追わせてやろう…」
レイヴン:「俺がさせない」
ボロス:「…行くぞ、レイヴン」
0:※声で攻撃と防御をしてください
0:
ボロス:「ハアッ!(など相手に攻撃)」
レイヴン:「ック!(など声に合わせて防御)」
0:※アドリブ自由、満足行くまで延長可
0:しばらく攻防が続き、一呼吸
ボロス:「ほぉ、私の攻撃をこうも耐えるか
ボロス:…大したものだな?
ボロス:流石は元陸軍航空隊、いや…
ボロス:"ロイヤルエアフォース"の一翼
ボロス:と言った所か…よく見ている」
レイヴン:「…その"過去"は捨てた」
ボロス:「捨てられんよ…
ボロス:"過去"があるから"今"がある」
レイヴン:「…何が言いたい」
ボロス:「私は、かつて"准(じゅん)将"だったのだ
ボロス:多くの者を先導してきた…
ボロス:大戦を終えた後でも、
ボロス:私は"勝利"を求め続けた
ボロス:しかしあろう事か、軍部の上層は
ボロス:束の間の平和に甘んじた…
ボロス:故に私は、自ら軍を除隊したのだ
ボロス:この世は"混沌"に飢えている…
ボロス:いずれまた、新たな戦争がやってくる!
ボロス:世界は!再び戦火に巻かれるのだ!!」
レイヴン:「そんな事はない!
レイヴン:人は歩み寄れる…
レイヴン:違いがあったとしても、
レイヴン:分かり合えるはずだ!」
ボロス:「"奪い"そして、"争う"
ボロス:それこそが人間の"本能"だ!
ボロス:…私と共に来い、レイヴン
ボロス:我々ならばできる
ボロス:このチカラで、来たるべき
ボロス:"未来"を創り上げるのだ
ボロス:それが、"運命"だ!」
レイヴン:「"運命"など無い!
レイヴン:あるのは過程と、その結果だけだ
レイヴン:お前のつまらん予言に興味はない」
ボロス:「貴様一人に何ができる?
ボロス:何の覚悟も、力も無い…
ボロス:地に堕ちた鴉(からす)に!」
レイヴン:「―――"チカラ"なら、ある」
ボロス:「…何?」
レイヴン:「俺には…"覚悟"が足りなかった」
0:ポケットから黒い小箱を取り出す
レイヴン:「今、できた…」
0:中にあった注射器を胸に刺すレイヴン
ボロス:「まさか…レッド・ハート!」
0:ボロスが掴みかかる
レイヴン:「―――ッ!」
0:が、レイヴンは後方に回避した
0:今までにない跳躍力と速度
0:心臓が高鳴り、
0:血液が全身を駆け巡る
0:"超人の感覚"が身体を支配していく
ボロス:「…どうやら、
ボロス:貴様を少々見くびっていたようだ
ボロス:本気で行かせてもらおう…」
0:構えるボロス
ボロス:「貴様を殺し、その血を頂く…
ボロス:そして新薬を完成させ、
ボロス:衰える事のない肉体を
ボロス:私は手に入れる…!」
レイヴン:「お前のような外道は、
レイヴン:この俺が…"狩る"」
0:トレンチコートの下から
0:大型のシースナイフを取り出すレイヴン
レイヴン:「決着を付けるぞ、ボロス!」
0:発煙弾を上空に投げる
ボロス:「また煙幕か?小賢しい真似を―――」
レイヴン:「"チェック"!」
0:ナイフを投げ付け、発煙弾に当たる
0:衝撃により発煙弾は空中で炸裂
0:至近で被弾したボロスのコートに火が着く
ボロス:「―――ッ!?グォアァ!炎がぁああ!」
0:慌ててコートを脱ぎ捨てるボロス
0:照準を合わせるレイヴンそして―――
レイヴン:「"チェック・メイト"」
0:撃ち込んだ弾丸はボロスを貫き
0:致命傷を与える
ボロス:「ゴッハァアアア!」
0:よろけ、息も絶え絶えに
0:壁に凭れ掛かるボロス
ボロス:「バカな…
ボロス:この私が敗れるとは…
ボロス:…運命に選ばれたのは
ボロス:貴様の方だったとでも言うのか…」
レイヴン:「運命など無いと言ったはずだ…
レイヴン:"未来"は自分の手で切り拓く
レイヴン:それが人の"可能性"だ」
0:徐々に力が抜けていき
0:地面に座るボロス
ボロス:「フフフフ…
ボロス:そんな甘い世界ではない
ボロス:優しいだけでは、
ボロス:生き残る事はできんぞ…」
レイヴン:「…優しくなければ、
レイヴン:生きる資格すらない」
0:眼の生気が無くなっていくボロス
ボロス:「ならば抗え、鴉よ…
ボロス:どこまでも抗うが良い…
ボロス:私が、そうしたように…
ボロス:己の…信念を……
ボロス:貫(つらぬ)いて…行、け……」
0:そう言い残すと
0:遂にボロスは力尽きた―――
レイヴン:「…お前のようには、ならないさ」
0:背を向けて、歩き出すレイヴン
0:外に出ると、ラッシュが駆け寄る
ラッシュ:「おーい!レイヴン!!」
レイヴン:「…ラッシュ」
ラッシュ:「大丈夫か!?奴は―――」
レイヴン:「死んだ…
レイヴン:リサは無事か…?」
ラッシュ:「ああ!勿論さ!アジトで待ってる!」
レイヴン:「そうか…ゴフッ」
0:崩れ落ちるレイヴン
ラッシュ:「レイヴン?おいレイヴン!
ラッシュ:…副作用か?!畜生ッ!」
レイヴン:「人はいつか死ぬ…
レイヴン:それが早いか遅いかだ…」
ラッシュ:「らしくないぞ!諦めるのか!?」
レイヴン:「いや、眠るだけだ
レイヴン:少し、疲れた…」
ラッシュ:「ダメだレイヴン!」
レイヴン:「……(目を閉じる)」
0:返事は、無かった
ラッシュ:「そんな…レイヴン…
ラッシュ:バカ野郎ぉ…!」
0:レイヴンを抱きしめ涙を流すラッシュ
0:雨音が優しく二人を包み込む
0:それまでの"罪"を
0:洗い流すかのように―――
0:
0:【場面転換】BAR店内
0:ベルが鳴り、来訪者を伝える
ラッシュ:「いらっしゃ…リサさん!」
リサ:「こんにちは、ラッシュ」
ラッシュ:「その荷物は?お出かけかい?」
リサ:「もうすぐ日本に帰るの
リサ:最後に顔を出しておきたくて…」
ラッシュ:「せっかくだし、何か飲んでく?」
リサ:「そうね…紅茶を貰うわ?」
ラッシュ:「はいはい、ちょっと待ってね」
0:紅茶を淹れるラッシュ
ラッシュ:「どうぞ」
リサ:「ありがと…
リサ:良い人だったわね、"彼"…」
ラッシュ:「……え?」
リサ:「最初は横顔だけの男かと思ってたけど
リサ:愛想も無いし、ぶっきら棒だし…」
ラッシュ:「あ~…その、リサさん?」
リサ:「あんな男、他にもいるって…でも」
ラッシュ:「いや、だからリサさん」
リサ:「私、レイヴンの事忘れない
リサ:…命の恩人だもの」
レイヴン:「…勝手に殺すな」
0:店奥の席からレイヴンの声
リサ:「レイヴン!?」
ラッシュ:「あ~言ってなかったけ?
ラッシュ:彼、生きてるよ」
リサ:「…今聞いた
リサ:でもどうして―――」
ラッシュ:「"カフェイン"だよ…
ラッシュ:珈琲に含まれる強めのカフェインが、
ラッシュ:偶然レッド・ハートを中和したんだ
ラッシュ:おそらく、もう大丈夫だよ
ラッシュ:暫(しばら)くは安静だけどね…」
リサ:「そうだったの…
リサ:連絡してくれたら良かったのに…」
ラッシュ:「付きっ切りだったんだ!
ラッシュ:本当に一度は死にかけてたんだからな?
ラッシュ:ったく、無茶しすぎだぞレイヴン…」
レイヴン:「…フン」
リサ:「また話せて、嬉しい…
リサ:あ!そうだわ…コレ
リサ:少ないけど報酬―――」
0:差し出された札束の
0:一番上だけを抜き取るレイヴン
レイヴン:「確かに」
リサ:「ぇ…一枚だけ?」
レイヴン:「…タバコ代だ」
リサ:「レイヴン…ありがとう」
ラッシュ:「あれ?リサさん、時間は?」
リサ:「いけない!飛行機の時間!
リサ:もう行かなくちゃ…」
ラッシュ:「そっか、元気でねリサさん」
レイヴン:「…転ぶなよ」
リサ:「本当にありがとう!
リサ:二人に会えて良かったわ!
リサ:じゃあ…またね!」
0:店を後にするリサ
0:その足取りは軽快で、明るい
レイヴン:「騒がしい女だ」
ラッシュ:「また、会えると良いな」
レイヴン:「…勘弁してくれ」
ラッシュ:「そういえば、
ラッシュ:"裏メニュー"なんだけど…」
レイヴン:「ん?」
ラッシュ:「リサさんの助言もあってね?
ラッシュ:ちょっと改良して…
ラッシュ:こんな風になった」
0:ラッシュがテーブルに置いたソレは
0:カクテルグラスに注がれた
0:薄っすら透き通る、黒くて四角い
0:ゼリー状の小さな"物体"
0:上には白いアイスクリームと
0:ミントの葉が一枚乗せられている
レイヴン:「…"コレ"は?」
ラッシュ:「オリジナルのブレンド珈琲を
ラッシュ:ゼラチン素材で固めて、
ラッシュ:バニラアイスを添えてみた
ラッシュ:ミントはおまけ♪
ラッシュ:はいスプーン」
レイヴン:「ふむ…」
ラッシュ:「苦いのが好きな人と
ラッシュ:そうじゃない人がいるからさ?
ラッシュ:まぁ試しに―――ってもう食べてる
ラッシュ:…どう?」
レイヴン:「悪くない」
ラッシュ:「素直じゃねぇなぁ~でも良かったよ
ラッシュ:じゃ、"コイツ"で決まりだな」
レイヴン:「珈琲は苦みが味じゃなかったのか?」
ラッシュ:「デザートは甘い物だ!
ラッシュ:そーゆーレイヴンこそ、
ラッシュ:苦手じゃなかったか?甘いの?」
レイヴン:「偶(たま)には"甘さ"も欲しくなる」
ラッシュ:「またまた…
ラッシュ:そうだ、コイツの"名前"なんだけどさ」
レイヴン:「決めてないのか?」
ラッシュ:「いや、実は決まっててな…
ラッシュ:ソレを"合言葉"にしたんだ
ラッシュ:その手の友人にも伝えてあるから
ラッシュ:近々、"客"が来るかもな?」
レイヴン:「楽しみだ…」
0:ベルが鳴り、来訪者を伝える
ラッシュ:「あっ…いらっしゃい!」
リサ:(N)扉が開き、ベルが鳴る
リサ:それはきっと、新たな物語の…
ラッシュ:「―――"ご注文"は?」
リサ:(N)はじまりを告げる『合図』―――
0:Fin.
0:雨が降りしきる夜のイギリス
0:首都郊外にあるBARの扉が開き
0:備え付けられたベルが鳴る
ラッシュ:「お、いらっしゃ…なんだお前か
ラッシュ:いつものヤツかい?"レイヴン"?」
レイヴン:「…ああ、頼む」
ラッシュ:「はいはい、飽きないねぇ」
レイヴン:「お互い様だ、"ラッシュ"…
レイヴン:お前にBARのマスターは似合わない」
0:カウンター席に腰掛けるレイヴン
0:ジッポライターを取り出し、
0:タバコに火を点ける
ラッシュ:「(鼻歌)」
0:酒を注ぐラッシュ、すると
0:勢いよく扉が開き、そして閉まる
0:入り口にはずぶ濡れの女
ラッシュ:「いらっしゃい♪」
レイヴン:「……(目もくれずタバコを吹かす)」
0:カウンター席に座る女
リサ:(息を切らしながら)
リサ:「つ、強いの…貰える…?」
ラッシュ:「あー強いのね
ラッシュ:ちょっと待ってて下さい?
ラッシュ:確か、奥に…」
0:と言いつつ裏に引っ込むラッシュ
0:女は取り出したタバコに
0:火を点けようとする、が
0:雨に濡れたせいか、点かない
レイヴン:「(タバコとライターの火を貸す)」
リサ:「…ありがと…」
0:振るえる手でタバコを受け取り、吸う女
リサ:「アナタもしかして…殺し屋?」
レイヴン:「…刑事かもな?なぜそう思う」
リサ:「コートの下にガンホルダーが見えたの、
リサ:それに刑事にしては、
リサ:随分雰囲気が違うから…」
レイヴン:「とんだ名探偵だな」
リサ:「ねぇお願い、かくまって」
レイヴン:「断る」
リサ:「報酬なら払うわ!
リサ:今手元に無いけど…千ドルは持ってる、
リサ:それで―――」
レイヴン:「何度も言わせるな
レイヴン:ソイツを吸ったら、さっさと出ていけ
レイヴン:"出口"は通路の先だ」
0:出入口ではなく、裏口を顎で指すレイヴン
リサ:「……わかったわ」
0:灰皿にタバコを押し付け、立ち上がる
ラッシュ:「あれ?お酒、お持ちしましたよ?」
リサ:「ごめんなさい、急用ができたの」
0:そう言い残し、裏口から急ぎ出ていく女
ラッシュ:「…良いのか?美女を放っといて」
レイヴン:「"こんな所"にいるよりはな
レイヴン:それに、俺と関わると
レイヴン:碌(ろく)な事は無い」
ラッシュ:「そんなもんかねぇ…
ラッシュ:っておいおい!
ラッシュ:"こんな所"ってなん―――」
0:扉がまた勢いよく開き、複数の男達と、
0:オーバーコートを羽織った男が入って来る
ラッシュ:「いらっしゃ~…んん?」
0:歩み出るオーバーコートの男
ボロス:「―――此処(ここ)に、
ボロス:"女"が来なかったか?」
ラッシュ:「さぁね?お客は沢山来るもんで」
レイヴン:「嘘つけ(呟く)」
ボロス:「東洋人だ…灰色のコートを着た、
ボロス:反抗的で、忌々しい、"女狐"だ…」
0:ラッシュに詰め寄る男
ラッシュ:「知りませんって…
ラッシュ:お客さん、落ち着いて―――」
レイヴン:「…失せろ、
レイヴン:この場の酸素が無駄になる」
0:静寂、睨み合うレイヴンと男
ボロス:「ほぉ…
ボロス:それは、悪かったなぁ?
ボロス:バーテン、その酒を寄越せ」
ラッシュ:「あちょっと―――」
0:酒を奪い取り
0:テーブルに金を置くと
0:男は指で栓を抜き
ボロス:「釣りはいらん…
ボロス:"床"を汚してしまったからな?」
0:ドボドボとレイヴンに酒を浴びせる
ラッシュ:「うわっちゃぁ~…」
ボロス:「これは、私の、奢(おご)りだ」
レイヴン:「…」
ボロス:「邪魔したな?行くぞ…」
0:オーバーコートを翻し、
0:付き人達と共に去って行く男
ラッシュ:「あー…大丈夫?はい、タオル」
0:タオルを受け取り、顔を拭くレイヴン
レイヴン:「なぁに…
レイヴン:浴びる程酒を飲むのも悪くない」
ラッシュ:「またまた、
ラッシュ:けど、アレはヤバいね~
ラッシュ:レッドバロンの"ボロス"だ」
レイヴン:「知っているのか?」
ラッシュ:「勿論、ここいらじゃ有名なワルさ?
ラッシュ:泣く子も黙る"赤紳士"…知らない?」
レイヴン:「知らんな、興味も無い」
ラッシュ:「最近頭角を現してきたマフィアのボスさ
ラッシュ:前に、この街を仕切ってた武装集団を
ラッシュ:力でねじ伏せたって話だ
ラッシュ:しかも"たった一人"で…
ラッシュ:いやはやまったく、おっかないねぇ~」
レイヴン:「そんな風には見えなかったが…」
ラッシュ:「人は見掛けによらないのかもよ~?
ラッシュ:案外、武術の達人だったりして!」
0:アチョ~!とジェスチャーするラッシュ
レイヴン:「…帰って寝る」
0:チップを置いて席を立つレイヴン
ラッシュ:「おいおい冗談だって―――
ラッシュ:あ、でもそれは良いかもな?
ラッシュ:酔い覚ましにシャワー浴びたら?
ラッシュ:臭うよ?」
レイヴン:「お前はいつも一言余計だ」
0:店を出るとまたタバコを吹かし
0:トレンチコートの襟を立てて
0:雨の中を歩いて行く、すると
レイヴン:「…ん?」
0:路地裏で蹲っている人影を発見
0:それは先程BARで見かけた女
0:撃たれたのか手傷を負っている
リサ:「助…けて…」
0:そのまま倒れる女
レイヴン:「お前…」
0:女を見下ろすレイヴン
0:雨が、激しさを増していた―――
0:
0:【場面転換】アジト内部
0:女が目覚めた場所はベッドの上
0:そこは赤レンガと草臥れた家具が
0:無造作に置かれた無骨な部屋だった
0:所々塗装は剥がれ、床は傷んでいる
リサ:「…此処は―――」
レイヴン:「目が覚めたか」
リサ:「!…ア、アナタは!」
0:近くのソファに腰掛けていたレイヴンを
0:敵でも見るかのように警戒する女
レイヴン:「助けを求めておいてその反応か?
レイヴン:…やれやれだな」
リサ:「私に何をしたの」
レイヴン:「お前が考えているような事は
レイヴン:何も無い」
ラッシュ:「そうだよ~?お嬢さん」
0:部屋の奥、台所のカウンターに居たのは
0:やはりBARのマスター、ラッシュ
リサ:「どうして…」
ラッシュ:「怪我をした君を彼が助けた
ラッシュ:彼が君を手当してベッドに寝かせた
ラッシュ:その後、彼は俺に助けを求めた
ラッシュ:だから今、俺と君は此処に居る♪」
レイヴン:「食料調達を頼んだだけだ」
ラッシュ:「あ~正確には
ラッシュ:"猫"を拾ったって言われた」
レイヴン:「うるさいぞ」
リサ:「…フフ、おかしな人達」
0:キョトンとする二人
ラッシュ:「回復したようで何より、
ラッシュ:そうだ珈琲飲む?
ラッシュ:ウチの"裏メニュー"
ラッシュ:オリジナルブレンドで自信作なんだ」
リサ:「頂くわ?」
レイヴン:「"また"持ってきたのか」
ラッシュ:「良いだろ?減るもんじゃないし」
レイヴン:「…好きにしろ」
0:用意されたのは深みのある
0:色の濃いブラックコーヒー
0:一口飲んでみる
0:酷く…マズイ
0:とてつもなく苦いのだ
リサ:「苦い…紅茶の方が好き」
ラッシュ:「この苦味が良いんだよ~!
ラッシュ:けど、合う合わないはあるかぁ
ラッシュ:砂糖、持ってくるよ」
0:台所に走るラッシュ
リサ:「アナタも、こう言うのが好き?」
レイヴン:「…ああ(肯定)、
レイヴン:世間と一緒で目が覚める」
リサ:「ふぅ~ん、そ?
リサ:私は"リサ"、アナタは?」
レイヴン:「名は棄(す)てた」
ラッシュ:「おいおい、そりゃないだろレイヴン?
ラッシュ:せっかく助けた女の子じゃないか」
0:砂糖の瓶を持って戻ってきたラッシュ
レイヴン:「ただの気まぐれだ」
リサ:「レイヴンって、言うのね?」
レイヴン:「…好きに呼べ」
ラッシュ:「つれないなぁ?
ラッシュ:あ、俺の名前はラッシュ!
ラッシュ:よろしくな、リサさん?」
0:握手を求めるラッシュ
リサ:「え、ええ(肯定)
リサ:…よろしく」
0:握手を交わすリサ
ラッシュ:「なんで追われてたの?
ラッシュ:奴等ヤバい連中だろ?
ラッシュ:…何かあった?」
リサ:「私を追ってたのはマフィアよ
リサ:レッドバロンって言う…
リサ:アイツ等の事、知ってるの?」
ラッシュ:「全然?」
レイヴン:「おい」
リサ:「…どうかした?」
0:訝しむリサ
ラッシュ:「いや?なんにも?
ラッシュ:マフィアに追い駆けられるなんて
ラッシュ:リサさんは災難だったな~
ラッシュ:で、なにやったの?
ラッシュ:警察にも言えないワケがあったんだろ?」
0:押し黙るリサ
0:徐に黒い小箱を取り出し
0:二人に中を見せる
リサ:「…"コレ"よ
リサ:私はコレを取り返しただけ」
ラッシュ:「ん?ナニコレ」
リサ:「―――"レッド・ハート"…」
ラッシュ:「え?今、噂になってる?」
レイヴン:「…(目を細める)」
リサ:「聞いたことが?」
ラッシュ:「世間じゃコイツの話題で持ち切りさ!
ラッシュ:犯罪絡みってなるとほぼ関わってる…
ラッシュ:信じられない"力"を引き出す代わりに、
ラッシュ:使用者には赤い血の花が咲くっていう
ラッシュ:裏世界の超人薬―――」
リサ:「詳しいのね…」
ラッシュ:「"お客さん"から、ちょっとね!
ラッシュ:でもどうして君が?」
リサ:「…殺された私の父が作った物なの
リサ:病気や怪我で弱っている人を助けるんだって
リサ:枯れた花が、息を吹き返すようにって…」
ラッシュ:「死んだ肉体を、蘇らせる"薬"…」
リサ:「父の研究は細胞の活性化を
リサ:促(うなが)す物だったの…
リサ:純粋に、生きる為の力になればと
リサ:毎日、夜遅くまで研究室に籠って」
レイヴン:「だが出来上がった物は、
レイヴン:"毒"だった…か」
リサ:「人聞きの悪い事言わないで!?
リサ:確かに、副作用はあるわ…
リサ:でも、私が知ったのは
リサ:中毒性があるって事だけ!」
レイヴン:「現に人が死んでるんだぞ」
リサ:「…ッ!それは…!」
ラッシュ:「レイヴン…彼女のせいじゃない
ラッシュ:それに、"変"だ…
ラッシュ:聞いてたのとはだいぶ色見が違う
ラッシュ:噂になってるのはもっとどす黒いんだ
ラッシュ:コイツはどっちかっていうと真紅に近い
ラッシュ:言っちゃなんだけど、"綺麗"だ
ラッシュ:とても同じ物とは思えない…
ラッシュ:出回ってる物が複製品か
ラッシュ:あるいは―――」
レイヴン:「"偽物"、か」
リサ:「偽物…そうよ!アイツ等だわ!」
0:立ち上がって訴えかけるリサ
リサ:「アイツ等は私の父を殺して
リサ:コレを奪った後、量産を計った…
リサ:でも、コレは父が何年もかけて
リサ:ようやく完成させた"新薬"
リサ:成分を解析しようにも、
リサ:その複雑な配合で文字通り
リサ:"ブラックボックス"と化してたんだわ
リサ:だから簡単には真似できない…
リサ:偽物を作る事しかできないのよ!」
0:荷物をまとめ、コートを羽織るリサ
リサ:「私、その証拠を掴んでみせるわ」
ラッシュ:「無茶だ!相手はマフィアだぞ?!
ラッシュ:殺されるのがオチだ!」
リサ:「これは私の家族の問題よ
リサ:それにもう、
リサ:誰かが傷つくのは…見たくないの
リサ:…珈琲、ありがとう」
0:そう言って出て行くリサ
ラッシュ:「おい!リサさん!」
レイヴン:「止めてやるな、ラッシュ」
ラッシュ:「でもよレイヴン!
ラッシュ:泣いてたぜ…彼女」
レイヴン:「…そうだな」
ラッシュ:「か弱い女の子だぞ!
ラッシュ:すぐに捕まるに決まってる!
ラッシュ:それを黙って見てろってのか?!
ラッシュ:ソレが"正しい事"なのか!?」
0:詰め寄るラッシュ
レイヴン:「俺は自分が正しいと思った事など
レイヴン:一度も無い…
レイヴン:重要なのは、納得しているかどうかだ
レイヴン:俺達には"やるべき事"がある
レイヴン:…そうだろ?」
0:机の上の箱を見るレイヴン
ラッシュ:「レッド・ハート!?
ラッシュ:…きっと俺達に託したんだ
ラッシュ:捕まる事を、承知で…
ラッシュ:そんな事じゃ、何も解決しないのに!」
レイヴン:「"ノブレス・オブリージュ"…」
0:箱を手に取るレイヴン
ラッシュ:「レイヴン…」
レイヴン:「…場所は分かるか」
ラッシュ:「廃工場、第13番倉庫だ
ラッシュ:奴等は今そこに居る」
レイヴン:「相変わらず頼りになるな、情報屋」
ラッシュ:「"元"だよ…
ラッシュ:俺も準備をしたらすぐ向かう
ラッシュ:けど、何があるか分からない
ラッシュ:気を付けろよ、レイヴン」
レイヴン:「…だろうな
レイヴン:あの泥のように濁った眼、
レイヴン:一筋縄では行かないだろう」
ラッシュ:「"元刑事"の勘か?」
レイヴン:「…"経験"だ」
0:鴉は、敵地へと向かう―――
0:
0:【場面転換】廃工場第13番倉庫 地下
0:薄暗い地下倉庫
0:部屋の中央、二つの人影が
0:電球の下で揺らめいている
0:縛られたリサと
0:対面するボロス
ボロス:「驚いたぞ?まさか、
ボロス:のこのこ戻って来るとはなぁ?
ボロス:…何をしていた?」
リサ:「なんでも良いでしょ
リサ:早く此処から出して!」
ボロス:「レッド・ハートは、何処にある」
リサ:「…知らないわ、
リサ:無くしたの」
ボロス:「隠しても無駄だ
ボロス:貴様の父親が開発した"新薬"…
ボロス:アドレナリンの大量分泌、
ボロス:心拍数の増加に伴(ともな)う、
ボロス:判断力と、反射神経の向上に加え、
ボロス:あらゆる身体強化を実現し
ボロス:その美しさから"東洋のハイビスカス"
ボロス:と名付けられた…究極の、
ボロス:"麻薬"―――」
リサ:「…違う!麻薬じゃないわ!?
リサ:父は、人の為を思って作ってた!
リサ:そんな父が作った薬が…
リサ:麻薬である筈がないわ!」
ボロス:「違わないな…
ボロス:麻酔の代わりに麻薬を使うというのは、
ボロス:この世界において、
ボロス:ごく自然な事なのだ…」
0:胸ポケットから銀色の小箱を取り出し、
0:片手で開けて見せる
0:箱の中に入っていたのは
0:赤黒い液体が詰まった小さな注射器
リサ:「な…ソレは!?」
ボロス:「我々が作った"模造品"、私はコレを
ボロス:"ブラッド・ハート"と呼んでいる…
ボロス:裏ルートで出回っているのは、
ボロス:コレを元にして作成した"粗悪品"だ
ボロス:―――だが、コレとて失敗作、
ボロス:私以外の人間が使えば、
ボロス:副作用ですぐに体が壊れてしまう
ボロス:完全な生成にはやはり、
ボロス:貴様の持つ"オリジナル"が
ボロス:どうしても、必要なのだよ」
リサ:「その為に何人の人が
リサ:犠牲になったと思ってるの!?
リサ:この、人でなし!」
ボロス:「…在処(ありか)を言わなければ、
ボロス:より多くの犠牲が出るだけだ
ボロス:貴様の父親もそれでは報われまい?」
リサ:「ッペ!(ボロスの頬に唾を吐く)」
ボロス:「ぬ…!」
リサ:「アンタは紳士じゃない、悪魔よ
リサ:血と欲に塗(まみ)れた、
リサ:醜い、悪魔…!」
0:顔に付いた唾を拭うと、
0:リサの身体に触れるボロス
ボロス:「今夜は、ゆっくり
ボロス:楽しませて貰うとしよう…」
0:リサの顎に手を添えるボロス
リサ:「クッ…殺して…」
0:その目には薄っすら涙が溢れる
ボロス:「フフフフ…む?
ボロス:何だ、この揺れは」
0:突然の地響き
0:急ぎ通信機器を使うボロス
ボロス:「…私だ、上で何があった」
レイヴン:「無駄だ、もうお前に仲間はいない」
0:振り返るボロス
0:銃を構え、歩み出るレイヴン
ボロス:「貴様は、あの時の…?
ボロス:単騎で乗り込んでくるとは
ボロス:中々、威勢の良い事だな?
ボロス:…何者だ」
リサ:「レイヴン!」
ボロス:「"レイヴン"だと…?
ボロス:そうか…貴様が―――」
レイヴン:「ハッ!(蹴る声)」
0:レイヴンの鋭い上段蹴り
0:しかし、片手で防がれる
ボロス:「ほぉ…良い踏み込みだ
ボロス:だが、そんな攻撃で私は倒せん」
レイヴン:「お前の部下は全員眠った
レイヴン:後はお前一人だけだ
レイヴン:大人しくリサを解放しろ」
ボロス:「…フフフフフ
ボロス:ハハハハハハ…!」
レイヴン:「何がおかしい」
ボロス:「…よかろう
ボロス:貴様にも見せてやる
ボロス:選ばれた者にしか手にできない、
ボロス:圧倒的な"チカラ"を…!」
レイヴン:「何?」
ボロス:「フン!」
リサ:「きゃあッ!」
0:ボロスがリサを突き飛ばし
レイヴン:「リサ!!」
0:レイヴンがリサを受け止める
0:その隙に注射器を取り出して、
0:胸に突き刺すボロス
リサ:「奴を止めて!"アレ"を使う気よ!」
ボロス:「…もう、遅い」
レイヴン:「―――ッグハ!?」
リサ:「レイヴン!」
0:勢いよく蹴り飛ばされ
0:豪快に転がるレイヴン
0:ボロスは一瞬で距離を詰めていた
0:人間ではありえない速度で
レイヴン:「クッ!」
0:堪らず銃を撃つレイヴン
ボロス:「効かんな」
0:華麗に、鮮やかに、
0:弾丸を躱していくボロス
レイヴン:「なんだこの動きは…
レイヴン:本当に人間なのか?!」
リサ:「まるで、化物…」
ボロス:「無駄だ…
ボロス:もはや私に銃は通じん」
レイヴン:「チィッ…ん!?」
ボロス:「ッ!コレは…"煙幕"?」
0:濃霧のような煙に消えるボロス
ラッシュ:「レイヴン!リサさん!こっちだ!」
0:通路からラッシュの声
レイヴン:「この隙に逃げろ、リサ」
リサ:「レイヴン…?」
ラッシュ:「何してるんだ!
ラッシュ:早く逃げないと―――」
レイヴン:「ラッシュ…リサを頼む」
0:駆け付けたラッシュだが何かを悟る
ラッシュ:「レイヴン…予備の発煙弾だ
ラッシュ:いざって時は使ってくれ
ラッシュ:…死ぬなよ」
0:発煙弾を1つ渡す
レイヴン:「…必ず戻る」
0:背を向けるレイヴン
リサ:「でもレイヴン―――」
レイヴン:「此処は俺に任せろ!
レイヴン:走れ!振り返るな!!」
リサ:「…待ってるわ」
0:煙が徐々に収まり、視界が晴れる
ボロス:「…女を逃がしたか」
レイヴン:「お前の相手はこの俺だ」
ボロス:「英雄にでもなったつもりか?
ボロス:まぁ良い…どの道、
ボロス:オリジナルが手に入れば用は無い
ボロス:すぐに後を追わせてやろう…」
レイヴン:「俺がさせない」
ボロス:「…行くぞ、レイヴン」
0:※声で攻撃と防御をしてください
0:
ボロス:「ハアッ!(など相手に攻撃)」
レイヴン:「ック!(など声に合わせて防御)」
0:※アドリブ自由、満足行くまで延長可
0:しばらく攻防が続き、一呼吸
ボロス:「ほぉ、私の攻撃をこうも耐えるか
ボロス:…大したものだな?
ボロス:流石は元陸軍航空隊、いや…
ボロス:"ロイヤルエアフォース"の一翼
ボロス:と言った所か…よく見ている」
レイヴン:「…その"過去"は捨てた」
ボロス:「捨てられんよ…
ボロス:"過去"があるから"今"がある」
レイヴン:「…何が言いたい」
ボロス:「私は、かつて"准(じゅん)将"だったのだ
ボロス:多くの者を先導してきた…
ボロス:大戦を終えた後でも、
ボロス:私は"勝利"を求め続けた
ボロス:しかしあろう事か、軍部の上層は
ボロス:束の間の平和に甘んじた…
ボロス:故に私は、自ら軍を除隊したのだ
ボロス:この世は"混沌"に飢えている…
ボロス:いずれまた、新たな戦争がやってくる!
ボロス:世界は!再び戦火に巻かれるのだ!!」
レイヴン:「そんな事はない!
レイヴン:人は歩み寄れる…
レイヴン:違いがあったとしても、
レイヴン:分かり合えるはずだ!」
ボロス:「"奪い"そして、"争う"
ボロス:それこそが人間の"本能"だ!
ボロス:…私と共に来い、レイヴン
ボロス:我々ならばできる
ボロス:このチカラで、来たるべき
ボロス:"未来"を創り上げるのだ
ボロス:それが、"運命"だ!」
レイヴン:「"運命"など無い!
レイヴン:あるのは過程と、その結果だけだ
レイヴン:お前のつまらん予言に興味はない」
ボロス:「貴様一人に何ができる?
ボロス:何の覚悟も、力も無い…
ボロス:地に堕ちた鴉(からす)に!」
レイヴン:「―――"チカラ"なら、ある」
ボロス:「…何?」
レイヴン:「俺には…"覚悟"が足りなかった」
0:ポケットから黒い小箱を取り出す
レイヴン:「今、できた…」
0:中にあった注射器を胸に刺すレイヴン
ボロス:「まさか…レッド・ハート!」
0:ボロスが掴みかかる
レイヴン:「―――ッ!」
0:が、レイヴンは後方に回避した
0:今までにない跳躍力と速度
0:心臓が高鳴り、
0:血液が全身を駆け巡る
0:"超人の感覚"が身体を支配していく
ボロス:「…どうやら、
ボロス:貴様を少々見くびっていたようだ
ボロス:本気で行かせてもらおう…」
0:構えるボロス
ボロス:「貴様を殺し、その血を頂く…
ボロス:そして新薬を完成させ、
ボロス:衰える事のない肉体を
ボロス:私は手に入れる…!」
レイヴン:「お前のような外道は、
レイヴン:この俺が…"狩る"」
0:トレンチコートの下から
0:大型のシースナイフを取り出すレイヴン
レイヴン:「決着を付けるぞ、ボロス!」
0:発煙弾を上空に投げる
ボロス:「また煙幕か?小賢しい真似を―――」
レイヴン:「"チェック"!」
0:ナイフを投げ付け、発煙弾に当たる
0:衝撃により発煙弾は空中で炸裂
0:至近で被弾したボロスのコートに火が着く
ボロス:「―――ッ!?グォアァ!炎がぁああ!」
0:慌ててコートを脱ぎ捨てるボロス
0:照準を合わせるレイヴンそして―――
レイヴン:「"チェック・メイト"」
0:撃ち込んだ弾丸はボロスを貫き
0:致命傷を与える
ボロス:「ゴッハァアアア!」
0:よろけ、息も絶え絶えに
0:壁に凭れ掛かるボロス
ボロス:「バカな…
ボロス:この私が敗れるとは…
ボロス:…運命に選ばれたのは
ボロス:貴様の方だったとでも言うのか…」
レイヴン:「運命など無いと言ったはずだ…
レイヴン:"未来"は自分の手で切り拓く
レイヴン:それが人の"可能性"だ」
0:徐々に力が抜けていき
0:地面に座るボロス
ボロス:「フフフフ…
ボロス:そんな甘い世界ではない
ボロス:優しいだけでは、
ボロス:生き残る事はできんぞ…」
レイヴン:「…優しくなければ、
レイヴン:生きる資格すらない」
0:眼の生気が無くなっていくボロス
ボロス:「ならば抗え、鴉よ…
ボロス:どこまでも抗うが良い…
ボロス:私が、そうしたように…
ボロス:己の…信念を……
ボロス:貫(つらぬ)いて…行、け……」
0:そう言い残すと
0:遂にボロスは力尽きた―――
レイヴン:「…お前のようには、ならないさ」
0:背を向けて、歩き出すレイヴン
0:外に出ると、ラッシュが駆け寄る
ラッシュ:「おーい!レイヴン!!」
レイヴン:「…ラッシュ」
ラッシュ:「大丈夫か!?奴は―――」
レイヴン:「死んだ…
レイヴン:リサは無事か…?」
ラッシュ:「ああ!勿論さ!アジトで待ってる!」
レイヴン:「そうか…ゴフッ」
0:崩れ落ちるレイヴン
ラッシュ:「レイヴン?おいレイヴン!
ラッシュ:…副作用か?!畜生ッ!」
レイヴン:「人はいつか死ぬ…
レイヴン:それが早いか遅いかだ…」
ラッシュ:「らしくないぞ!諦めるのか!?」
レイヴン:「いや、眠るだけだ
レイヴン:少し、疲れた…」
ラッシュ:「ダメだレイヴン!」
レイヴン:「……(目を閉じる)」
0:返事は、無かった
ラッシュ:「そんな…レイヴン…
ラッシュ:バカ野郎ぉ…!」
0:レイヴンを抱きしめ涙を流すラッシュ
0:雨音が優しく二人を包み込む
0:それまでの"罪"を
0:洗い流すかのように―――
0:
0:【場面転換】BAR店内
0:ベルが鳴り、来訪者を伝える
ラッシュ:「いらっしゃ…リサさん!」
リサ:「こんにちは、ラッシュ」
ラッシュ:「その荷物は?お出かけかい?」
リサ:「もうすぐ日本に帰るの
リサ:最後に顔を出しておきたくて…」
ラッシュ:「せっかくだし、何か飲んでく?」
リサ:「そうね…紅茶を貰うわ?」
ラッシュ:「はいはい、ちょっと待ってね」
0:紅茶を淹れるラッシュ
ラッシュ:「どうぞ」
リサ:「ありがと…
リサ:良い人だったわね、"彼"…」
ラッシュ:「……え?」
リサ:「最初は横顔だけの男かと思ってたけど
リサ:愛想も無いし、ぶっきら棒だし…」
ラッシュ:「あ~…その、リサさん?」
リサ:「あんな男、他にもいるって…でも」
ラッシュ:「いや、だからリサさん」
リサ:「私、レイヴンの事忘れない
リサ:…命の恩人だもの」
レイヴン:「…勝手に殺すな」
0:店奥の席からレイヴンの声
リサ:「レイヴン!?」
ラッシュ:「あ~言ってなかったけ?
ラッシュ:彼、生きてるよ」
リサ:「…今聞いた
リサ:でもどうして―――」
ラッシュ:「"カフェイン"だよ…
ラッシュ:珈琲に含まれる強めのカフェインが、
ラッシュ:偶然レッド・ハートを中和したんだ
ラッシュ:おそらく、もう大丈夫だよ
ラッシュ:暫(しばら)くは安静だけどね…」
リサ:「そうだったの…
リサ:連絡してくれたら良かったのに…」
ラッシュ:「付きっ切りだったんだ!
ラッシュ:本当に一度は死にかけてたんだからな?
ラッシュ:ったく、無茶しすぎだぞレイヴン…」
レイヴン:「…フン」
リサ:「また話せて、嬉しい…
リサ:あ!そうだわ…コレ
リサ:少ないけど報酬―――」
0:差し出された札束の
0:一番上だけを抜き取るレイヴン
レイヴン:「確かに」
リサ:「ぇ…一枚だけ?」
レイヴン:「…タバコ代だ」
リサ:「レイヴン…ありがとう」
ラッシュ:「あれ?リサさん、時間は?」
リサ:「いけない!飛行機の時間!
リサ:もう行かなくちゃ…」
ラッシュ:「そっか、元気でねリサさん」
レイヴン:「…転ぶなよ」
リサ:「本当にありがとう!
リサ:二人に会えて良かったわ!
リサ:じゃあ…またね!」
0:店を後にするリサ
0:その足取りは軽快で、明るい
レイヴン:「騒がしい女だ」
ラッシュ:「また、会えると良いな」
レイヴン:「…勘弁してくれ」
ラッシュ:「そういえば、
ラッシュ:"裏メニュー"なんだけど…」
レイヴン:「ん?」
ラッシュ:「リサさんの助言もあってね?
ラッシュ:ちょっと改良して…
ラッシュ:こんな風になった」
0:ラッシュがテーブルに置いたソレは
0:カクテルグラスに注がれた
0:薄っすら透き通る、黒くて四角い
0:ゼリー状の小さな"物体"
0:上には白いアイスクリームと
0:ミントの葉が一枚乗せられている
レイヴン:「…"コレ"は?」
ラッシュ:「オリジナルのブレンド珈琲を
ラッシュ:ゼラチン素材で固めて、
ラッシュ:バニラアイスを添えてみた
ラッシュ:ミントはおまけ♪
ラッシュ:はいスプーン」
レイヴン:「ふむ…」
ラッシュ:「苦いのが好きな人と
ラッシュ:そうじゃない人がいるからさ?
ラッシュ:まぁ試しに―――ってもう食べてる
ラッシュ:…どう?」
レイヴン:「悪くない」
ラッシュ:「素直じゃねぇなぁ~でも良かったよ
ラッシュ:じゃ、"コイツ"で決まりだな」
レイヴン:「珈琲は苦みが味じゃなかったのか?」
ラッシュ:「デザートは甘い物だ!
ラッシュ:そーゆーレイヴンこそ、
ラッシュ:苦手じゃなかったか?甘いの?」
レイヴン:「偶(たま)には"甘さ"も欲しくなる」
ラッシュ:「またまた…
ラッシュ:そうだ、コイツの"名前"なんだけどさ」
レイヴン:「決めてないのか?」
ラッシュ:「いや、実は決まっててな…
ラッシュ:ソレを"合言葉"にしたんだ
ラッシュ:その手の友人にも伝えてあるから
ラッシュ:近々、"客"が来るかもな?」
レイヴン:「楽しみだ…」
0:ベルが鳴り、来訪者を伝える
ラッシュ:「あっ…いらっしゃい!」
リサ:(N)扉が開き、ベルが鳴る
リサ:それはきっと、新たな物語の…
ラッシュ:「―――"ご注文"は?」
リサ:(N)はじまりを告げる『合図』―――
0:Fin.