声劇台本置き場

0：寝室。セリアが息子のローソンにお話を聞かせる。 セリア：むかしむかし、あるところに貧しい少女がいました。 セリア：野心があった少女は魔法使いに弟子入りして、沢山の魔法を覚えました。 セリア：空を飛ぶ魔法、炎や水の操り方、毒リンゴや惚れ薬の作り方。 セリア：少女が美しく成長した頃、魔法使いに「もうお前に教えることは何もない」と言われました。 セリア：それから間もなく、魔法使いは死にました。 セリア：その後、少女は王子様と婚約しました。 セリア：王子様を惚れされるのは簡単でした。 セリア：父である国王や国民は突然の婚約に驚き、反対しました。 セリア：少女は二人の婚約を羨み、恨み、妬む心を集めて毒リンゴを作りました。 セリア：ある日、突然、王様が死にました。 セリア：王子様は王様となり、二人に世継ぎの王子が産まれた頃には、国民は少女に服従するようになりました。 セリア：ある日、突然、王様が死にました。 セリア：女王となった少女は国を支配し、世継ぎの王子と幸せに暮らしました。 セリア：めでたしめでたし。 ローソン：お母様、このお話は「めでたしめでたし」なの？ セリア：そうよ。だって、今、私は幸せだもの。 0：翌日。ヒヤク王国（キングダム）、玉座の間。 0：縄で縛られた女王セリアと、その前にいる将軍ダイソーと部下ワッツ。 0：その周りを数十人の兵士が取り囲んでいる。 ダイソー：ご機嫌はいかがですか、セリア様。 セリア：まあまあよ。たまには縛られるのも悪くないわね。いつもは縛るばかりだから。 ダイソー：今、縄を解きます。窮屈な思いをさせて申し訳ありませんでした。 セリア：あら、自由にしてくれるの？ ダイソー：女性を縛る趣味はありません。 ダイソー：ワッツ、縄を解け。 ワッツ：よろしいのですか？ ワッツ：女王陛下は魔法を使えるという噂もございますが。 ダイソー：構わん。本当に魔法が使えるならこうも容易く捕まえることは出来んだろう。 ダイソー：セリア様は魔法使いの弟子であったにも関わらず、魔法は一切使えんのだ。 セリア：ダイソー将軍は女性を縛る趣味はなくとも、大勢の男達で取り囲む趣味はあるのね。 ダイソー：セリア様が何かを出来るとは思えませんが、念の為です。 ワッツ：（縄を解いて）よっと。はい、解けましたよ。 セリア：（溜め息）やっと楽になったわ。きつく縛りすぎなのよ。次はもっと優しく縛ってちょうだい。 ワッツ：わかりました。今度、もしそんな機会がありましたら、俺が優しく縛ってさしあげます。 ダイソー：セリア様に次の機会などありません。 セリア：そうねぇ。今度縛られるならワッツがいいわ。お前になら縛られるのも悪くない。 ワッツ：ほ、本当ですか！？ ワッツ：（下品な笑い）ダメですよ。俺には妻がいますから。 ワッツ：でもセリア様がそれを望まれるのでしたら、やぶさかでないんですが。 ダイソー：私の部下を誘惑しないでいただきたい。 セリア：少なくとも、ダイソー将軍みたいなむさ苦しい男に縛られるよりはよっぽどいいわ。 ワッツ：ダイソー将軍に勝ったー！ ダイソー：勝った負けたじゃねぇんだよ！ セリア：（笑） ダイソー：無駄口はそれぐらいにしていただきましょうか。 セリア：それで、ダイソー将軍。女王である私をこんな目にあわせて、いったいどういうつもりなのかしら。 ダイソー：心当たりがおありでしょう。 セリア：何一つないわね。 ダイソー：セリア様がこれまでに行った悪事の数々はローソン王子から全て伺いました。 セリア：悪事？ セリア：本当に何も心当たりがないのだけれど、お前はローソンから何を聞いたの？ ダイソー：とぼけるのはおやめ下さい。 ダイソー：あなたが寝物語にローソン王子に語った、ご自身の半生についてですよ。 セリア：（笑）ローソンはまだ年端もいかぬ子供。 セリア：その子供の言うことを真に受けて、このような事をしでかすとは。 セリア：正気の沙汰とは思えんな。 ワッツ：え、やっぱり嘘なんですか？ ワッツ：ダイソー将軍、だから言ったのに。 ワッツ：セリア様はそんな人じゃありませんって。 ワッツ：もうちょっと考えてから行動しないと。 セリア：将軍は単純で素直なお方じゃのう。 ワッツ：ええ。即断即決がダイソー将軍の座右の銘ですから。 ダイソー：黙れワッツ。 ダイソー：ローソン王子は幼いながらも、亡き国王陛下、キャンドゥ様に似て聡明なお方です。 ダイソー：そのローソン王子が私に助けを求めてまいりました。 ダイソー：どうかお母様に過ちを認めさせてほしいと。 セリア：（笑）ダイソー将軍、お前は自分の子供に寝物語をしてやったことはないのか？ ダイソー：私は独り身です。子供はおりません。 セリア：そうであったか。 セリア：ワッツ、お前はどうだ？ ワッツ：あります。あります。 ワッツ：息子が喜んでくれるのが楽しくて、ついつい話を盛っちゃうんですよね。 ワッツ：テンション上がって息子と一緒に大笑いして、それを妻に聞かれて、『寝かしつけてるのに、なんで一緒に騒いでるの』って、よく怒られたもんです。 セリア：そうであろうな。あのような話を真に受けるとは、ローソンもまだまだ子供よのう。 ダイソー：ではローソン王子に語った全ては空想の話だと？ セリア：そうは言っておらん。 セリア：ローソンに語ったことは全て本当じゃ。 ダイソー：・・・今の言葉に間違いはございませんか？ セリア：ああ。なにひとつ嘘は言っておらん。 ダイソー：であるならば、私は貴方を処刑せねばなりません。 ワッツ：しょ、処刑しちゃうんですか！？ ダイソー：そうだ。 セリア：罪状は？ ダイソー：キャンドゥ様、及び先代の国王陛下、王妃殿下殺害の罪です。 セリア：ローソンは私に過ちを認めて欲しいと言ったそうではないか。 セリア：殺せとは言わなかったのではないか？ ダイソー：貴方を生かしたまま過ちを認めさせることは無理だと判断しました。 ダイソー：自らの命をもって、その罪を償っていただきたい。 ワッツ：ダイソー将軍、そんなことしたら、ローソン王子に怒られませんか？ ダイソー：確かにローソン王子は殺せとは言わなかったが、心中では殺して欲しいと願っていたはずだ。 ワッツ：そうですかねぇ。 セリア：ローソンは今、何をしておる？ ダイソー：私の邸宅に。 セリア：不自由な思いはさせておらんだろうな。 ダイソー：もちろんです。ローソン王子は次の国王になられるお方。 セリア：ローソンはまだ幼い。私が死ねば代わりに政（まつりごと）を行う者が必要となろうな。 ダイソー：そうなりましょうな。 セリア：お前にそれが出来るか？ ダイソー：それが出来るとしたら、だんぜんダイソー、この私以外にはおりません。 セリア：国が荒れるぞ。 ダイソー：私が治めてみせましょう。 セリア：なるほどのう。己の野心を満たすためか。 ワッツ：ちょ、ちょっと待って下さい！ ダイソー：なんだワッツ？ ワッツ：ダイソー将軍はご自分の野心のために、ローソン王子の話を信じたってことですか？ ダイソー：だとしたらなんだと言うのだ？ ワッツ：えええぇ。ちょっと幻滅しちゃいました。 ワッツ：将軍ともあろうお方が、そんなセコいこと考えてるなんて。 ワッツ：ひょっとして、ローソン王子を殺して自分が次の国王になろうとか考えてんじゃないですか？ ワッツ：もしそうなら、俺は許しませんよ。 ダイソー：そんなことは考えてない。 ワッツ：ホントに？ ダイソー：本当だ。 ワッツ：なら、いいんです。続けて下さい。 セリア：器の小さなことよのう。 ダイソー：ローソン王子をお助けするのが私の使命。 セリア：女王である私より、ローソンの言葉に重きを置くということか。 ダイソー：ローソン王子はキャンドゥ様の忘れ形見。 ダイソー：元の貴方は貴族でもない庶民の娘。 ダイソー：どちらを選ぶかは、わかりきったことではありませんか。 セリア：私はローソンの母じゃ。 セリア：ローソンが成人する日まで、女王としてこのヒヤク王国を預かっておる。 セリア：その私を殺そうとした罪は重いぞ。 ワッツ：ですよね。どうするんですか。大変な事をしちゃいましたよ。 ダイソー：貴方が死んだ後、貴方の犯した罪が公になれば誰も文句は言いますまい。 ワッツ：やってなくてもやったことにしちゃうんですか。腹黒いなぁ。 ダイソー：ワッツ、お前は少し黙っていろ。 セリア：ではなぜさっさと私を殺さぬ？ ダイソー：貴方にご自身の罪を認めてほしかった。 セリア：ふん。よく言うわ。 セリア：ここにいる大勢の兵士達に、己の正当性を証明したかったのであろう。 セリア：これはただの反逆ではないとな。 セリア：私が罪を認めて命乞いをするとでも思うたか？ ダイソー：そうなればよいと思っておりました。 セリア：残念じゃったのう。 ダイソー：残念？　先ほど貴方はご自身の罪をお認めになったではありませんか？ ワッツ：え、認めましたっけ？ セリア：認めてはおらぬ。 ワッツ：ですよね。 ダイソー：何を言っているのです。 ダイソー：ローソン王子に語った話は本当だと・・・。 セリア：本当だとは確かに言ったが、罪は認めておらん。私は誰も殺してはいない。 ワッツ：そうですよ。誰もそんな事は言ってません。 ダイソー：お前はさっきからどっちの味方なんだ。 ワッツ：正義の味方です。 ダイソー：正義は私にある。 ワッツ：そうですかねぇ。今のところ、ちょっと微妙ですよ。わずかにセリア様が優勢です。 ダイソー：これから私に正義があることを証明してやる。 セリア：証拠はどこにもないのではないか？ ダイソー：物的証拠は必要ありません。貴方が罪をお認めになれば、それで十分です。 セリア：だから言っておろう。私は誰も殺してはおらぬと。 セリア：ローソンを怖がらせるために、話に少し含みを持たせたからのう。 セリア：勝手に勘違いをしたのであろうな。 ワッツ：わかります。そういうのありますよねぇ。 ワッツ：子供って素直だから、ついつい調子に乗ってあることないこと喋っちゃうんですよ。 ダイソー：どういうことか、説明していただけますか。 ワッツ：子供がいないダイソー将軍にはわかんないんですよ。 ワッツ：セリア様、教えてあげてください。 セリア：仕方がないのう。 セリア：では腰を据えてゆっくり話してやろうではないか。 セリア：ローソンに語った私の半生を。 セリア：その前に、お茶を入れてくれんか。 セリア：喉が乾いてしまってのう。 ダイソー：侍女に用意させましょう。 ダイソー：しばしお待ちを。 　：　 0：間 　：　 セリア：さて、何から話したものか。 セリア：ではローソンから聞いたかもしれんが、改めて一から話すとしよう。 ダイソー：ええ。聞かせていただきます。 セリア：私は捨て子じゃった。 セリア：ある日、教会の前に捨てられていたのを、そこの牧師が見つけたそうじゃ。 セリア：教会にはそんな身寄りのない子供が何人もおった。 セリア：言葉を覚えるとすぐに街へ働きに出された。 セリア：僅かな稼ぎは全て食費に消えていった。 セリア：ある日、狩人の手伝いで森に入った時、私は道に迷ってしまってな。 セリア：真っ暗な森に一人置き去りにされてしもうた。 セリア：後ろから獣の声が聴こえた。 セリア：振り向くと私の背丈の倍以上もの熊が立っていた。 セリア：私は大声で「助けて」と叫んだ。 セリア：すると、一筋の光が熊の頭を撃ち抜いた。 セリア：偶然近くにいた魔法使いが私を助けてくれたんじゃ。 セリア：私はその魔法使いに「弟子にしてくれ」と頼んだ。 セリア：この貧しい生活を変える唯一の機会だと思ったんじゃ。 セリア：己の運命を変えたかった。 セリア：力が欲しかった。 セリア：熊よりも、大人よりも、この国よりも強い、誰にも負けない力が欲しかった。 ワッツ：それで、その魔法使いの弟子に？ セリア：そうじゃ。 ダイソー：そこで貴方は数々の魔法を教わったのですね。 セリア：師匠の持つ知識の全てを教わった。炎と氷、光と闇、中でも風を操り空を飛ぶ魔法は大好きじゃった。 セリア：弟子入りして十年が経つ頃には、私は師匠を超える魔力を持っていた。 ダイソー：しかし、貴方は全ての魔法を封じられてしまったそうですね。 セリア：「私利私欲に魔法を使うな」 セリア：その教えに背いたからじゃ。 ワッツ：何をやったんです？ セリア：人の命を助けた時に金を貰った。それだけの話じゃ。 ワッツ：たったそれだけで？ セリア：私が魔法を教わったのは私利私欲に使うためじゃ。せっかくの魔法を己のために使わずに何とする。 セリア：師匠は私が暴走して国を滅ぼしかねないと思ったんじゃろうな。 セリア：己の命を使って私の魔法を封じた。 ワッツ：死んじゃったんですか？ セリア：ああ。おかげで私は何も持たないただの人間に戻ってしまった。 ダイソー：ただの人間？ ダイソー：そうではないでしょう。 ダイソー：あなたは魔法を封じられたが、魔法使いから教わった薬学の知識だけは残っていた。 ダイソー：薬草の調合、毒リンゴや惚れ薬の作り方。 ワッツ：毒リンゴ！？　惚れ薬！？ ワッツ：凄いじゃないですか！ セリア：そんなものは何の役にも立たん。 ダイソー：果たしてそうでしょうか。 セリア：私は森の奥にある棲家で途方に暮れた。 セリア：そんなある日、運命的な出会いをした。 ダイソー：キャンドゥ様が魔法使いの家を訪れたそうですね。 ダイソー：母である王妃殿下の病を治す薬を魔法使いから受け取るためだったと聞いています。 セリア：そうじゃ。王子だったキャンドゥ様が自ら数人の従者を連れて私と魔法使いの家にやってきた。 セリア：私は魔法使いが亡くなったこと、私が薬草の調合方法を知っていることを伝え、キャンドゥ様に料理を振る舞った。 セリア：キャンドゥ様は私が作ったアップルパイをとても美味しいと言ってくれた。 セリア：そして帰り際、私を妃にしたいと申された。 セリア：その申し出を断ることなど出来ようもなかった。 ワッツ：セリア様の美しさに一目惚れしちゃったんですねぇ。 ダイソー：そしてキャンドゥ様に見初められた貴方は城に迎え入れられた。 ダイソー：思い出しますよ。森から帰ったキャンドゥ様は様子がおかしかった。 ダイソー：それまでのキャンドゥ様は色恋にうつつを抜かすお方ではなかったのに、出会ったばかりの庶民の女である貴方を溺愛していた。 セリア：キャンドゥ様は熱烈に愛の言葉をささやいてくれたわ。 セリア：私もいつしか、キャンドゥ様を愛してしまっていた。 ダイソー：信じられませんね。 ワッツ：え、違うんですか？ ダイソー：ワッツ、今の話におかしな所はなかったか？ ワッツ：いえ、別に。素敵なお話だなぁって。 ワッツ：いやぁ。運命の出会いってあるんだなぁ。 ダイソー：バカかお前は！ ダイソー：セリア様がアップルパイに惚れ薬を盛ったとしか考えられないだろ！ ワッツ：えええええ！　何を根拠に？ ダイソー：そうとしか考えられないだろ！ ワッツ：証拠はどこにあるんですか。 ダイソー：ないけど！　でもそうに決まってる！ ワッツ：セリア様、そうなんですか？ セリア：そんなことはしておらん。 ワッツ：ほらー。 ダイソー：ほらーって、お前ね、さっきからセリア様の肩、持ちすぎじゃない？ ワッツ：セリア様が調合した薬で王妃殿下は病から回復して元気になったんです。 ワッツ：そんなお優しい方が、アップルパイに惚れ薬を盛るなんてこと、するわけないでしょう。 ダイソー：（舌打ち）まあいい。続けるぞ。 ダイソー：元気になられた王妃殿下は、セリア様を妃にしたいというキャンドゥ様の言葉に強く反対した。 セリア：そうね。キャンドゥ様のお父様、先代の国王陛下も、私達の結婚には反対だった。 ダイソー：セリア様、貴方は先代の国王陛下と王妃殿下が邪魔だった。 セリア：確かに少しはそんな気持ちもあったかもしれないわね。 セリア：でもそれは当然のことではなくて？ ワッツ：愛しあう２人の仲を引き裂こうとするなんて。 ワッツ：しかし、障害があってこそ燃え上がるのが恋！ ワッツ：例え世界中の人達が反対しても、私達は絶対に負けない。 ワッツ：だって、私達は愛しあってるんだから！ ワッツ：いいですねぇ。そういうの大好物です。 ダイソー：そういうことじゃねぇんだよ。 ダイソー：なんでそんなに盛り上がってんだよ。 セリア：私は２人に気に入られようと必死に努力したわ。 セリア：キャンドゥ様が気に入ってくれたアップルパイを、お２人が『美味しい』と言ってくれた時は本当に嬉しかった。 ダイソー：ある日、国王陛下と王妃殿下が原因不明の病で亡くなられた。 セリア：ええ。とても悲しい出来事だったわ。 ワッツ：そんなことってあるんですねぇ。 ダイソー：『そんなことってあるんですねぇ』じゃねえよ！ ダイソー：怪しいだろ！ ダイソー：またアップルパイ！ ダイソー：セリア様が毒リンゴを仕込んだに決まってるだろ！ ワッツ：証拠はどこにあるんですか。 ダイソー：ないけど！　でもそうに決まってる！ ワッツ：セリア様、そうなんですか？ セリア：そんなことはしておらん。 ワッツ：ほらー。 ダイソー：ほらーって、お前ね。なんでそんなにセリア様の言うことを信じるんだよ。 ワッツ：こんなに美しい人が嘘なんてつくわけないでしょう！ ダイソー：向いてない。お前、尋問に向いてないよ。 セリア：続けてもよいか。 ダイソー：（舌打ち）ええ。その後、王子だったキャンドゥ様は若くして国王になられた。 ダイソー：喪が開けるのを待って、セリア様との婚儀が盛大に行われました。 セリア：ダイソー将軍のように反対する者も多かったがな。 ダイソー：今でもその気持ちは変わりません。 ダイソー：どうしてキャンドゥ様はセリア様を選んでしまったのか。 セリア：しかし、その反対する声もローソンが産まれた頃には少なくなった。 セリア：世継ぎの王子じゃからのお。 セリア：ようやく皆から妃と認められた気がしたわ。 ダイソー：しかしローソン様が成長するにつれ、キャンドゥ様と言い争うことが増えたそうですね。 セリア：ダイソー将軍はそんなくだらぬ噂話を信じておるのか。 ダイソー：噂ではごさいますまい。 ダイソー：貴方とマツキヨ侯爵との仲を知らぬ者は王宮にはおりません。 ワッツ：え、知らない。 ワッツ：なんです、その噂？ ダイソー：お前が知らねーのかよ！ ダイソー：ただならぬ仲なのは公の秘密だろ！ ワッツ：セリア様と、あのマツキヨ侯爵が？ ワッツ：知らなかったー。ちょっとショックー。 ダイソー：夜毎、侯爵の家を訪れるセリア様に、キャンドゥ様はお怒りになられた。 ダイソー：そして貴方は、キャンドゥ様が邪魔になった。 セリア：侯爵の家にはローソンを連れて行ったこともある。 セリア：可愛い猫がいてのう。 セリア：私もローソンもそれと遊ぶのを楽しみにしておるのじゃ。 ワッツ：あ、なんだ、そういうことだったんですね。俺も猫大好きなんですよ。 ダイソー：表向きはそうなのでしょうな。 ダイソー：ですが、セリア様の夜遊びを知ったキャンドゥ様はお怒りになられ、精神を乱され、政務に支障をきたすようになった。 ダイソー：そんなある日、キャンドゥ様もまた、原因不明の病で亡くなられた。 セリア：ええ。よく覚えてる。あれは、私の作ったアップルパイをキャンドゥ様が食べた次の日のことだったわ。 ワッツ：不幸な出来事でした。 ワッツ：なにか遺伝的なご病気なんですかねぇ。 ダイソー：ええええ！ ダイソー：ワッツ、お前、それ本気で言ってる？ ワッツ：キャンドゥ様が亡くなったんですよ？ ワッツ：これ以上の不幸はありますか。 ワッツ：まさか、ダイソー将軍はキャンドゥ様が亡くなられて喜んでたんですか？ ダイソー：そんなわけがないだろう！ ダイソー：いい加減、気づけよ！ ワッツ：何をです？ ダイソー：セリア様の周りで人が死にすぎてるだろ。 ダイソー：それにまたアップルパイ！ ダイソー：アップルパイ、アップルパイ、アップルパイ！ ダイソー：さすがに怪しすぎるだろ。 ダイソー：セリア様がアップルパイに毒リンゴを仕込んだんだよ。 ワッツ：証拠はどこにあるんですか。 ダイソー：ないけど！　でもそうに決まってる！ ワッツ：セリア様、そうなんですか？ セリア：そんなことはしておらん。 ワッツ：ほらー。 ダイソー：ほらーって、お前ね。このくだり３回目だから！ ダイソー：いい加減にしろよ！ ワッツ：いい加減にするのはダイソー将軍です。 ワッツ：証拠もなしに推測だけでセリア様に罪を着せようとしてるのは、誰の目にも明白です！ ダイソー：お前の目は節穴かー！ ダイソー：なんでわかってくれないんだよ。 ダイソー：え、ちょっと待って。 ダイソー：（周りを取り囲む兵士に）お前はどう思ってる？ ダイソー：え、それ本気で言ってる？ ダイソー：（別の兵士に）お前は？ ダイソー：お前もかよ！ ダイソー：なに？　ここにいる全員、セリア様の味方なの？ ダイソー：どうかしてるよ！ ダイソー：なんでわかってくれないんだよ！ ダイソー：いいか、よく聞け。 ダイソー：ローソン様が成人するまでの間、セリア様は女王となることが決まった。 ダイソー：マツキヨ侯爵の後ろ盾もあり、誰にも反対はさせなかった。 ダイソー：そうしてセリア様はこの国で一番の力を手に入れたんだ！ セリア：それがなんの罪になる？ セリア：私がキャンドゥ様の妃になったのが罪か？ セリア：私が女王になったのが罪か？ セリア：それが罪になるなら、どのような罰も受けよう。 セリア：しかしそうではあるまい。 セリア：幼い頃は力が欲しいと望んだこともあった。 セリア：しかし、師匠に魔法を封じられてからはその考えを改めたのじゃ。 セリア：キャンドゥ様が私を妃にしたいと言わなければ王宮に来ることもなかった。 セリア：国王陛下や王妃殿下、キャンドゥ様が亡くならなければ、女王になることもなかった。 セリア：私は力が欲しいと願って今の地位にあるのではない。 セリア：そう。たまたまじゃ。 ダイソー：たまたまだと！？ ワッツ：たまたまではありません！ ダイソー：そうだワッツ、言ってやれ！ ワッツ：運命に導かれたのです！ ワッツ：幼い頃のご苦労がようやく報われたのです！ ダイソー：ええええええ！ セリア：捨て子であった私が女王の地位にいること、畏れ多いと思うておる。 セリア：魔法も使えん。何も持たぬただの弱い女よ。 セリア：しかしのお。ローソンが王となるその日まで、しかと役目を果たすつもりじゃ。 セリア：亡きキャンドゥ様もそれを望んでおられるだろうからな。 ワッツ：セリア様に魔法など必要ありません！ ワッツ：貴方のその美しい笑顔は、ヒヤク王国の宝なのです。 ワッツ：いつもに笑顔を！　セリア様、万歳！ セリア：ありがとうワッツ。これからも私を助けてくださいね。 セリア：貴方のような王国民の思いが、私を彩る。 ワッツ：お任せください。 ダイソー：もういい。ようやくわかった。 セリア：どうしたのじゃ？ ダイソー：ワッツも、この場にいる兵士たちも、いや、私以外の全ての国民が、貴方に操られているということを！ ワッツ：何をバカなこと言ってるんですか。 ワッツ：セリア様にそんなこと出来るわけがありませんよ。 ダイソー：出来るんだよ！ ダイソー：こいつは魔女だ！ ダイソー：こいつが全部悪いんだよ！ ダイソー：どうしてそれがわからないんだ！ ワッツ：セリア様、ご命令を！ セリア：ワッツ、いや、ワッツ将軍、ダイソーを捕えよ。 ワッツ：はっ。皆の者、女王陛下への不敬罪だ。ダイソーを捕えろ！ ダイソー：うおああああああああ！ ダイソー：こんなのやってられっかあああ！ 　：　 0：間 　：　 セリア：ワッツ、ダイソーはどうしておる？ ワッツ：牢獄で大人しくしております。 ワッツ：処分はお決まりですか。 セリア：奴の頭が冷えたら牢から出してやれ。 ワッツ：よいのですか？ セリア：構わん。少しは楽しめたからな。 セリア：牢から出す前に、特別にアップルパイを差し入れてやろう。 ワッツ：アップルパイ？ ワッツ：セリア様お手製の？ ワッツ：それは羨ましいですな。 ワッツ：ですが、ダイソー将軍は確かリンゴがお嫌いだったはず。 セリア：二、三日食事を抜けば、好き嫌いはなくなるであろうよ。 ワッツ：しかし、ダイソー将軍はなぜあのようなことを・・・。 セリア：奴はのう、健康志向などと申して水道水を飲まんそうじゃ。 セリア：そんなことをしているのは、ヒヤク王国の国民ではダイソーだけじゃ。 ワッツ：はあ、そうなんですね。 セリア：遠方のイトーヨーカ洞（どう）から湧き水を取り寄せておるらしい。 ワッツ：それが悪い水だったんでしょうねぇ。 ワッツ：ヒヤク王国の水道水はいつの頃からか、リンゴの香りがするようになりましたから。 ワッツ：俺は大好きなんですが、ダイソー将軍は口に合わなかったんでしょう。 セリア：（笑） ワッツ：それはそうと、セリア様。 セリア：なんじゃ？ ワッツ：セリア様は、本当は魔法を使えるんじゃないですか？ セリア：どうしてそう思う？ ワッツ：だって、魔法を封じられたって話は、セリア様ご自身がそう語っているだけですから。 ワッツ：魔法を封じるために師匠が死んだって話もそうです。 ワッツ：どうして師匠が亡くなったかは知りませんよ。 ワッツ：ただ、俺、見ちゃったんですよね。 セリア：何を？ ワッツ：満月の夜、セリア様が空を飛んでいるのを。 ワッツ：あれは、山にある浄水施設の方角に向かってるみたいでした。 セリア：ワッツ、貴様、ただのバカだと思っていたが、そうでもないらしいのう。 ワッツ：（笑）非才な私が将軍になれたのはセリア様のおかげです。 ワッツ：これからも絶対の忠誠をお約束しますよ。 セリア：（笑） ワッツ：（笑） 　：　 0：おしまい。