台本概要

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タイトル 青い翅
作者名 彼方  (@kanata_nozomu)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 作品及び世界観を大切にしてくれる方が演じてください。

自己解釈あり。

性別指定ありますが、作品を壊さないのであれば、性別に固執しなくて構いません。

非商用利用時は連絡不ですが作者のモチベーションに繋がるので連絡していただけると喜びます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
碧生 74 声を掛けられた少年
瑠生 74 声を掛けた少女
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
瑠生:「そこから落ちるつもり?」 碧生:「っ、誰」 瑠生:「んー、強いて言うなら通りすがりの女子高生?」 瑠生: 瑠生:「君は?自殺志望の男子生徒くん」 碧生:「…」 瑠生:「答えてくれない?ま、いいけど。私には無理やり個人情報を聞きだすような趣味はないし、そこら辺にいる偽善者どものような崇高な思考も持ち合わせていないから、君がそのまま後ろに倒れようが、手を伸ばすつもりはない」 碧生:「っ、だったら、」 瑠生:「でも、ここに来た瞬間、君に興味がわいてしまってね。だからね、これはただの〝忠告"だよ。もし、君がそこから手を離して飛び降りた時、この下を運よく車が通れば、君はその車とぶつかって、望み通り死を迎えられるかもしれない。だけどここは、車通りどころか人通りすらも少ない。だからきっと、車との衝突は難しいだろうね。それに、関係ない人を巻き込むのは、君としても不本意だろう?」 碧生:「…」 瑠生:「次に、今すぐ君がここから飛び降りた場合だけど、その場合、高確率で君が死ぬことはない。なんでって顔してるけどよく考えればわかるはずだよ?ここは三階建ての廃棄ビルの屋上。こんなところから飛び降りたってせいぜい複雑骨折とか、そんなところが関の山だよ。だからさ、一度こちらに戻っておいでよ。進んで痛い思いをしたいというのならまぁ、話は別だけどね」 瑠生: 瑠生:「いやぁ、邪魔しちゃってごめんね?お帰り、名もなき自殺志望の男子生徒くん。」 碧生:「…さっきから、その呼び方やめて。」 瑠生:「んーじゃあなんて呼べばいい?村人Bとか?」 碧生:「普通に名前で、っ、」 瑠生:「名前?」 碧生:「…碧生(あおい)」 瑠生:「うん、碧生か。いい名前だね」 碧生:「君は?」 瑠生:「私?」 碧生:「僕だけ教えるのは、不公平だと思う。」 瑠生:「なるほど、確かに。では、改めまして、私は瑠生(るい)だよ。よろしくね、碧生」 碧生:「…どうして僕を止めたの」 瑠生:「さっきも言ったろ?碧生に興味がわいた。ただそれだけだよ。」 碧生:「なんでここに来たの」 瑠生:「来たかったから?」 碧生:「…ここは、さっき君が言ったように車どころか人も通らない廃ビルで、最寄駅でも徒歩20分以上は歩かないといけないはず。君のその制服、街中の学校だよね。わざわざこんなところに来る用事があったの?」 瑠生:「いいや、ないよ」 碧生:「それに、」 瑠生:「それに?」 碧生:「…それに、ここから落ちたらどうなるか、なんでそんなに詳しく知ってるの。まるで見たこと、いや、体験したことでもあるみたいに」 碧生: 碧生:「答えて。君もそのためにここに来たの?」 瑠生:「へぇ、碧生は凄いね。1から10を見抜くとはまさにこのことかな?」 碧生:「じゃあ、やっぱり」 瑠生:「君の想像の通りだよ。そして私の想像通りだ。碧生、やっぱり君は面白いね。ねぇ、他には?何か気付いたこととか、聞きたいことはないのかい?」 碧生:「そんな事言われても、」 瑠生:「じゃあ私から質問しよう。碧生、君は何故あそこに立った」 碧生:「…」 瑠生:「君はどうして、命を絶とうと思ったんだい?」 碧生:「…僕は、異物だから」 瑠生:「異物?」 碧生:「そう、異物。世間一般とは異なる、排除される側の人間。」 瑠生:「へぇ、君ほどの人間が排除される側か」 碧生:「そうだよ。まぁでも、それはただの建前。実際はただ何もかもめんどくさくなっただけ」 瑠生:「めんどくさくなった?」 碧生:「そう、理解されずに苦しむのも、否定されるのも馬鹿にされるのも、傷付くのも、全部、面倒くさい」 瑠生:「なら、世間なんて気にしなければいいじゃないか」 碧生:「気にしなくても、疲れるでしょ」 瑠生:「まぁ、そうだね」 碧生:「…僕さ、可愛いものが好きなんだよね」 瑠生:「可愛いもの?」 碧生:「そう、可愛いもの。もふもふの人形とか、キラキラのビーズとか、レースたっぷりのスカートとか、そういう、女の子が好きになるようなものが、好きなんだ。」 瑠生:「じゃあ、こういうのも好きかい?(碧生に前髪クリップをつける)」 碧生:「え、ちょ、なに、っ」 瑠生:「うん、似合ってる。やっぱり碧生は目を出したほうが可愛いんじゃない?あ、はい鏡。」 碧生:「っな、んで、」 瑠生:「なんで、か。強いて言うなら、君に使われたほうがその子は喜ぶと思うから、かな?あ、そういう訳だからその前髪クリップはあげるね。」 碧生:「いや、こんなの、貰えないよ、」 瑠生:「別に、君がこれをつけなくたって構わないよ。いらないなら捨てるなり誰かに譲るなりしてくれても構わない。だから、貰ってくれないかい?」 碧生:「どうして、?」 瑠生:「碧生に貰ってほしいから。理由なんてそれで十分なんじゃないかい?」 碧生:「そう、なのかな。」 瑠生:「私は、そう思うよ」 碧生:「…」 瑠生:「それじゃ、私はそろそろ行くね。碧生と話せて楽しかったよ。」 碧生:「…まってよ」 瑠生:「これは驚いた。私はてっきり君に嫌われているのだとばかり思っていたよ、碧生」 碧生:「…僕だけは不公平だと思う。」 瑠生:「君が話したから私にも話せって?これはまた、随分とわがままだねぇ」 碧生:「(さえぎって)だったら、僕は今から全部話す。聞きたくないならこの手を振り払って行っていいよ。僕は昔から、可愛い女の子たちが着ているような服が着たくて、メイクもしたくて、髪も伸ばしたくて。めいいっぱいおしゃれして、インスタに乗ってるようなスイーツ食べに行きたくて。でもそういうの全部否定されてきて。何回も否定されたら怖くなって、段々好きって思う事すらダメなんじゃないかって思えてきて。自分を自分で完全に否定するくらいなら、もういっそのこと、って思った。でも、今日、君がこれをつけてくれて、可愛いって初めて言われて。『あぁ、このままでもいいんだ、好きでいていいんだ』って思えた。許された気がした。単純かもしれないけど、君が言ったその一言で、今まで言われてきた言葉がどうでもよくなるくらい、そのくらい、嬉しかった。だから、そんな言葉をくれた君のことが、もっと知りたい。君が何を好きだと思うのか、何を怖いと思うのか、もっと、知りたい。」 瑠生:「…随分と熱烈だねぇ、」 碧生:「しょうがないじゃん、君の一言で僕の世界は180°変わったんだから。だからさ、責任取ってよ、瑠生」 瑠生:「!、やっぱり、碧生は凄いね。」 瑠生: 瑠生:「私の負けだよ。いいよ、何でも聞いてくれ。ただ、その代わりといっては何だが、お互い改めて自己紹介をしよう。君が私を知りたいと言ってくれたように、私も碧生を知りたいからね。」 碧生:「じゃあ、僕から。改めて、僕は碧生。碧眼(へきがん)の碧に生きるで碧生。今年17で青蘭(せいらん)高の二年。趣味はカフェ巡りと、これから可愛いものを集めようと思ってる。その第一号はこれ」 瑠生:「気に入ってもらえてよかったよ。それにカフェ巡りは私も好きだよ。どちらもいい趣味だね。今度一緒に行こうか。」 碧生:「うん、そうだね、行こう」 瑠生:「じゃあ、次は私かな?改めて、私は瑠生。瑠璃(るり)の瑠に君と同じ生きるで瑠生だよ。今年で18の桜桃(おうとう)高校三年生。趣味は読書と写真を撮ることかな」 碧生:「先輩だったんだ」 瑠生:「もし気にしているのであれば言っておくけど、今更敬語はいらないよ?」 碧生:「使うつもりあったらとっくに使ってるよ」 瑠生:「それは確かに」 碧生:「写真、今度見せてよ」 瑠生:「もちろん、喜んで。」 碧生:「おすすめの小説も」 瑠生:「興味を持ってもらえて嬉しいよ。今度持ってくるね」 碧生:「うん、待ってる」 瑠生:「さ、自己紹介は終わり。本題に入ろう。碧生、君の知りたいことは?」 碧生:「じゃあ瑠生は、…」 瑠生:「何でも聞いて、って言ったはずだよ?君の誘いに乗ったのは私なんだから、今更遠慮なんてしなくていいんだよ?」 碧生:「うん、」 瑠生:「じゃあ、碧生の考えがまとまる前に私から質問。碧生はさ、この世界が〝創られているもの"だったらどう思う?」 碧生:「創られているって、もうちょっと具体的に教えてくれないと、」 瑠生:「んー、そうだねぇ、じゃあ例えば、私たちが生きているこの世界。私たちは普段から、自身の考えや行動をその瞬間ごとに選択しているだろう?だけど本当は、読む前の小説のように、初めから全てが決められている。もしも、この世界の仕組みがそんなものだったら、君は何を思う?」 碧生:「つまり、僕たちが小説の中の登場人物で、作者が書いたようにしか動いてなかったら、ってこと?」 瑠生:「そういうこと。碧生はかしこいから助かるよ」 碧生:「…僕は、世界がそんなんでも、いいと思う」 瑠生:「それは、また、どうして?」 碧生:「どうしてって言われても、それは、難しいけど、もし、この世界が誰かの創造の中のものだったとして、そこには少なからず創った人の想いが込められていていると思う。想いのこもったモノって、どんなモノでも素敵じゃないかなって僕は思う。それに、もしここが小説の中の世界だったら、僕はその登場人物の一人として作者の想いを人に届けるのに必要とされてるってことでしょ?こんな僕でも、誰かに必要とされてるって思えるから、別に、嫌じゃない。それに、君に出逢えたしね。」 瑠生:「!、やっぱり、碧生は凄いね。人の想いが込められているから素敵、かぁ。その答えは、初めて聞いたなぁ。」 碧生:「瑠生だったら、なんて思うの」 瑠生:「さぁ、なんて思うんだろうね」 碧生:「…あのさ、さっき聞けなかった事、聞いてもいい?」 瑠生:「もちろん」 碧生:「君がここに来たのは、この世界に、絶望したから、?」 瑠生:「絶望、か。ある意味、そうなのかもしれない。相手は世界なんて大それたものなんかじゃないけどね」 碧生:「じゃあ、自分自身に?」 瑠生:「君は本当に察しが良いね。いや、最初から分かっていて敢えて外したのかな?」 碧生:「流石に買いかぶりすぎだよ、僕はそんなに凄くない」 瑠生:「そうかい?そうかもしれない。君が言っていることも、その通りの様で、やっぱり実は少し違うのかもしれない。だって、私は絶望しているわけではないから」 碧生:「じゃあ、なんでそんなに、」 瑠生:「私はね、嫌いなんだ。ずっと、自分自身が嫌いでしょうがない。初めてそう思ったのは、小学生のころだったかな。自分のせいで、両親が喧嘩をした。最初は、軽い言い合いだった。でも、いつしか掴み合いの喧嘩になっていて、気づいたら父は私の家からいなくなっていた。次にそう思ったのは、私が発した言葉で同級生を傷つけてしまったとき。その子が泣いているのを見て、自分は許されないことを言ったのだと思った。その次は、中学の部活。私たちの代の、最後の試合。体調不良のせいで長らく朝練に参加できていなかった私は、チームメイトから無視をされて、その次の日には、クラスでも浮いていた。『あぁ、嫌われていたんだな。』そうどこか他人事のように思った。」 瑠生: 瑠生:「高校に入ったら、何かが変わると思った。だけど、結果は何も変わらない。仲良くしていたはずなのに、急に無視をされた。無視をされるのは、嫌われている証拠で、どこに行っても、何をしていても嫌われる。そんな自分が、心底嫌いだと思った」 碧生:「瑠生、」 瑠生:「さっき聞いたね、もしこの世界が創られた世界だとしたらどう思う?って。私はね、本当にそうなってしまえばいいと思う。だって、そうでしょ。小説の中の登場人物たちは、みんな最後には、前を向いて歩いている。決して、独りになんてならない。決して、物語の結末はバッドエンドなんかにならない、なっていない。でも、この世界はそんな風に出来ているはずはなくて。気が付けば私は、人を心の底から信じることが出来なくなってしまっていて。傷付くくらいなら、独りのほうが楽だと思っていて。でも、それでも私は、先の見えない真っ暗な未来を、独りで歩いていける程、強くなんかないから、だから、」 碧生:「(さえぎって瑠生を抱きしめる)ありがとう、話してくれて」 瑠生:「っ、なんで、」 碧生:「瑠生は凄いね、僕ならきっとそんなに頑張れてないよ」 瑠生:「そんなこと、」 碧生:「そんなことあるよ。僕には、否定された時、自分の力だけで前を向けなかった。だから、瑠生は凄いよ。」 瑠生:「…うん」 碧生:「急に抱きしめたりしてごめんね」 瑠生:「別に気にしないよ、ただ、もう少しだけ、こうしていてもいいかい?」 碧生:「僕は別にいいけど、」 瑠生:「ありがとう」 碧生:「あのさ、提案があるんだけど」 瑠生:「君の提案なら、どんなものでも面白そうだね」 碧生:「そう?ならよかった。」 瑠生:「それで?碧生が私にくれるのはどんな提案だい?」 碧生:「うん、瑠生、僕と友達になってよ」 瑠生:「は、?」 碧生:「僕と友達になろう、瑠生」 瑠生:「君は、さっきまでの話を聞いていて、それを言うの、?」 碧生:「もちろん、聞いてたよ。だからこそ、君の友達になりたいと思ったんだ」 瑠生:「変わってるね、碧生」 碧生:「よく言われる」 瑠生:「嬉しいお誘いだよ。でも、さっき言った通り私は、」 碧生:「信じられない、だっけ?でも、僕が思うにそれは瑠生が優しいだけだと思うよ。」 瑠生:「そんなこと」 碧生:「瑠生が人を信じられないのは、もちろん自分が傷つくのが怖いってのもあるだろうけど、自分が相手を傷つけないためってのもあるんじゃない?」 瑠生:「そう、なのかな、」 碧生:「そうだよ」 瑠生:「でも、じゃあ、」 碧生:「また傷つけたら、って?」 瑠生:「…」 碧生:「大丈夫だよ」 瑠生:「…」 碧生:「少なくとも、僕は君に何言われても傷付かない自信があるし、嫌いにもならない。もし、不安になったら毎回確認してくれてもいいよ」 瑠生:「なんでそこまで、」 碧生:「君が僕を否定しなかったから。理由なんてそれで十分じゃない?」 瑠生:「そんな理由で、」 碧生:「君にとっては些細な理由かもしれないけど、僕にとってはそれが死ぬほど嬉しかった。それに、もしかしたら君みたいに受け入れてくれる人だっているかもしれないって気付けた。僕の世界を広げてくれた。君は僕が前を向くきっかけをくれた。なくしたものを、僕にとってかけがえのない、大切なものを、君は見つけてくれた。失った世界の色を取り戻してくれたのは、君だよ、瑠生」 瑠生:「っ、」 碧生:「だからさ、僕と友達になってよ、瑠生」

瑠生:「そこから落ちるつもり?」 碧生:「っ、誰」 瑠生:「んー、強いて言うなら通りすがりの女子高生?」 瑠生: 瑠生:「君は?自殺志望の男子生徒くん」 碧生:「…」 瑠生:「答えてくれない?ま、いいけど。私には無理やり個人情報を聞きだすような趣味はないし、そこら辺にいる偽善者どものような崇高な思考も持ち合わせていないから、君がそのまま後ろに倒れようが、手を伸ばすつもりはない」 碧生:「っ、だったら、」 瑠生:「でも、ここに来た瞬間、君に興味がわいてしまってね。だからね、これはただの〝忠告"だよ。もし、君がそこから手を離して飛び降りた時、この下を運よく車が通れば、君はその車とぶつかって、望み通り死を迎えられるかもしれない。だけどここは、車通りどころか人通りすらも少ない。だからきっと、車との衝突は難しいだろうね。それに、関係ない人を巻き込むのは、君としても不本意だろう?」 碧生:「…」 瑠生:「次に、今すぐ君がここから飛び降りた場合だけど、その場合、高確率で君が死ぬことはない。なんでって顔してるけどよく考えればわかるはずだよ?ここは三階建ての廃棄ビルの屋上。こんなところから飛び降りたってせいぜい複雑骨折とか、そんなところが関の山だよ。だからさ、一度こちらに戻っておいでよ。進んで痛い思いをしたいというのならまぁ、話は別だけどね」 瑠生: 瑠生:「いやぁ、邪魔しちゃってごめんね?お帰り、名もなき自殺志望の男子生徒くん。」 碧生:「…さっきから、その呼び方やめて。」 瑠生:「んーじゃあなんて呼べばいい?村人Bとか?」 碧生:「普通に名前で、っ、」 瑠生:「名前?」 碧生:「…碧生(あおい)」 瑠生:「うん、碧生か。いい名前だね」 碧生:「君は?」 瑠生:「私?」 碧生:「僕だけ教えるのは、不公平だと思う。」 瑠生:「なるほど、確かに。では、改めまして、私は瑠生(るい)だよ。よろしくね、碧生」 碧生:「…どうして僕を止めたの」 瑠生:「さっきも言ったろ?碧生に興味がわいた。ただそれだけだよ。」 碧生:「なんでここに来たの」 瑠生:「来たかったから?」 碧生:「…ここは、さっき君が言ったように車どころか人も通らない廃ビルで、最寄駅でも徒歩20分以上は歩かないといけないはず。君のその制服、街中の学校だよね。わざわざこんなところに来る用事があったの?」 瑠生:「いいや、ないよ」 碧生:「それに、」 瑠生:「それに?」 碧生:「…それに、ここから落ちたらどうなるか、なんでそんなに詳しく知ってるの。まるで見たこと、いや、体験したことでもあるみたいに」 碧生: 碧生:「答えて。君もそのためにここに来たの?」 瑠生:「へぇ、碧生は凄いね。1から10を見抜くとはまさにこのことかな?」 碧生:「じゃあ、やっぱり」 瑠生:「君の想像の通りだよ。そして私の想像通りだ。碧生、やっぱり君は面白いね。ねぇ、他には?何か気付いたこととか、聞きたいことはないのかい?」 碧生:「そんな事言われても、」 瑠生:「じゃあ私から質問しよう。碧生、君は何故あそこに立った」 碧生:「…」 瑠生:「君はどうして、命を絶とうと思ったんだい?」 碧生:「…僕は、異物だから」 瑠生:「異物?」 碧生:「そう、異物。世間一般とは異なる、排除される側の人間。」 瑠生:「へぇ、君ほどの人間が排除される側か」 碧生:「そうだよ。まぁでも、それはただの建前。実際はただ何もかもめんどくさくなっただけ」 瑠生:「めんどくさくなった?」 碧生:「そう、理解されずに苦しむのも、否定されるのも馬鹿にされるのも、傷付くのも、全部、面倒くさい」 瑠生:「なら、世間なんて気にしなければいいじゃないか」 碧生:「気にしなくても、疲れるでしょ」 瑠生:「まぁ、そうだね」 碧生:「…僕さ、可愛いものが好きなんだよね」 瑠生:「可愛いもの?」 碧生:「そう、可愛いもの。もふもふの人形とか、キラキラのビーズとか、レースたっぷりのスカートとか、そういう、女の子が好きになるようなものが、好きなんだ。」 瑠生:「じゃあ、こういうのも好きかい?(碧生に前髪クリップをつける)」 碧生:「え、ちょ、なに、っ」 瑠生:「うん、似合ってる。やっぱり碧生は目を出したほうが可愛いんじゃない?あ、はい鏡。」 碧生:「っな、んで、」 瑠生:「なんで、か。強いて言うなら、君に使われたほうがその子は喜ぶと思うから、かな?あ、そういう訳だからその前髪クリップはあげるね。」 碧生:「いや、こんなの、貰えないよ、」 瑠生:「別に、君がこれをつけなくたって構わないよ。いらないなら捨てるなり誰かに譲るなりしてくれても構わない。だから、貰ってくれないかい?」 碧生:「どうして、?」 瑠生:「碧生に貰ってほしいから。理由なんてそれで十分なんじゃないかい?」 碧生:「そう、なのかな。」 瑠生:「私は、そう思うよ」 碧生:「…」 瑠生:「それじゃ、私はそろそろ行くね。碧生と話せて楽しかったよ。」 碧生:「…まってよ」 瑠生:「これは驚いた。私はてっきり君に嫌われているのだとばかり思っていたよ、碧生」 碧生:「…僕だけは不公平だと思う。」 瑠生:「君が話したから私にも話せって?これはまた、随分とわがままだねぇ」 碧生:「(さえぎって)だったら、僕は今から全部話す。聞きたくないならこの手を振り払って行っていいよ。僕は昔から、可愛い女の子たちが着ているような服が着たくて、メイクもしたくて、髪も伸ばしたくて。めいいっぱいおしゃれして、インスタに乗ってるようなスイーツ食べに行きたくて。でもそういうの全部否定されてきて。何回も否定されたら怖くなって、段々好きって思う事すらダメなんじゃないかって思えてきて。自分を自分で完全に否定するくらいなら、もういっそのこと、って思った。でも、今日、君がこれをつけてくれて、可愛いって初めて言われて。『あぁ、このままでもいいんだ、好きでいていいんだ』って思えた。許された気がした。単純かもしれないけど、君が言ったその一言で、今まで言われてきた言葉がどうでもよくなるくらい、そのくらい、嬉しかった。だから、そんな言葉をくれた君のことが、もっと知りたい。君が何を好きだと思うのか、何を怖いと思うのか、もっと、知りたい。」 瑠生:「…随分と熱烈だねぇ、」 碧生:「しょうがないじゃん、君の一言で僕の世界は180°変わったんだから。だからさ、責任取ってよ、瑠生」 瑠生:「!、やっぱり、碧生は凄いね。」 瑠生: 瑠生:「私の負けだよ。いいよ、何でも聞いてくれ。ただ、その代わりといっては何だが、お互い改めて自己紹介をしよう。君が私を知りたいと言ってくれたように、私も碧生を知りたいからね。」 碧生:「じゃあ、僕から。改めて、僕は碧生。碧眼(へきがん)の碧に生きるで碧生。今年17で青蘭(せいらん)高の二年。趣味はカフェ巡りと、これから可愛いものを集めようと思ってる。その第一号はこれ」 瑠生:「気に入ってもらえてよかったよ。それにカフェ巡りは私も好きだよ。どちらもいい趣味だね。今度一緒に行こうか。」 碧生:「うん、そうだね、行こう」 瑠生:「じゃあ、次は私かな?改めて、私は瑠生。瑠璃(るり)の瑠に君と同じ生きるで瑠生だよ。今年で18の桜桃(おうとう)高校三年生。趣味は読書と写真を撮ることかな」 碧生:「先輩だったんだ」 瑠生:「もし気にしているのであれば言っておくけど、今更敬語はいらないよ?」 碧生:「使うつもりあったらとっくに使ってるよ」 瑠生:「それは確かに」 碧生:「写真、今度見せてよ」 瑠生:「もちろん、喜んで。」 碧生:「おすすめの小説も」 瑠生:「興味を持ってもらえて嬉しいよ。今度持ってくるね」 碧生:「うん、待ってる」 瑠生:「さ、自己紹介は終わり。本題に入ろう。碧生、君の知りたいことは?」 碧生:「じゃあ瑠生は、…」 瑠生:「何でも聞いて、って言ったはずだよ?君の誘いに乗ったのは私なんだから、今更遠慮なんてしなくていいんだよ?」 碧生:「うん、」 瑠生:「じゃあ、碧生の考えがまとまる前に私から質問。碧生はさ、この世界が〝創られているもの"だったらどう思う?」 碧生:「創られているって、もうちょっと具体的に教えてくれないと、」 瑠生:「んー、そうだねぇ、じゃあ例えば、私たちが生きているこの世界。私たちは普段から、自身の考えや行動をその瞬間ごとに選択しているだろう?だけど本当は、読む前の小説のように、初めから全てが決められている。もしも、この世界の仕組みがそんなものだったら、君は何を思う?」 碧生:「つまり、僕たちが小説の中の登場人物で、作者が書いたようにしか動いてなかったら、ってこと?」 瑠生:「そういうこと。碧生はかしこいから助かるよ」 碧生:「…僕は、世界がそんなんでも、いいと思う」 瑠生:「それは、また、どうして?」 碧生:「どうしてって言われても、それは、難しいけど、もし、この世界が誰かの創造の中のものだったとして、そこには少なからず創った人の想いが込められていていると思う。想いのこもったモノって、どんなモノでも素敵じゃないかなって僕は思う。それに、もしここが小説の中の世界だったら、僕はその登場人物の一人として作者の想いを人に届けるのに必要とされてるってことでしょ?こんな僕でも、誰かに必要とされてるって思えるから、別に、嫌じゃない。それに、君に出逢えたしね。」 瑠生:「!、やっぱり、碧生は凄いね。人の想いが込められているから素敵、かぁ。その答えは、初めて聞いたなぁ。」 碧生:「瑠生だったら、なんて思うの」 瑠生:「さぁ、なんて思うんだろうね」 碧生:「…あのさ、さっき聞けなかった事、聞いてもいい?」 瑠生:「もちろん」 碧生:「君がここに来たのは、この世界に、絶望したから、?」 瑠生:「絶望、か。ある意味、そうなのかもしれない。相手は世界なんて大それたものなんかじゃないけどね」 碧生:「じゃあ、自分自身に?」 瑠生:「君は本当に察しが良いね。いや、最初から分かっていて敢えて外したのかな?」 碧生:「流石に買いかぶりすぎだよ、僕はそんなに凄くない」 瑠生:「そうかい?そうかもしれない。君が言っていることも、その通りの様で、やっぱり実は少し違うのかもしれない。だって、私は絶望しているわけではないから」 碧生:「じゃあ、なんでそんなに、」 瑠生:「私はね、嫌いなんだ。ずっと、自分自身が嫌いでしょうがない。初めてそう思ったのは、小学生のころだったかな。自分のせいで、両親が喧嘩をした。最初は、軽い言い合いだった。でも、いつしか掴み合いの喧嘩になっていて、気づいたら父は私の家からいなくなっていた。次にそう思ったのは、私が発した言葉で同級生を傷つけてしまったとき。その子が泣いているのを見て、自分は許されないことを言ったのだと思った。その次は、中学の部活。私たちの代の、最後の試合。体調不良のせいで長らく朝練に参加できていなかった私は、チームメイトから無視をされて、その次の日には、クラスでも浮いていた。『あぁ、嫌われていたんだな。』そうどこか他人事のように思った。」 瑠生: 瑠生:「高校に入ったら、何かが変わると思った。だけど、結果は何も変わらない。仲良くしていたはずなのに、急に無視をされた。無視をされるのは、嫌われている証拠で、どこに行っても、何をしていても嫌われる。そんな自分が、心底嫌いだと思った」 碧生:「瑠生、」 瑠生:「さっき聞いたね、もしこの世界が創られた世界だとしたらどう思う?って。私はね、本当にそうなってしまえばいいと思う。だって、そうでしょ。小説の中の登場人物たちは、みんな最後には、前を向いて歩いている。決して、独りになんてならない。決して、物語の結末はバッドエンドなんかにならない、なっていない。でも、この世界はそんな風に出来ているはずはなくて。気が付けば私は、人を心の底から信じることが出来なくなってしまっていて。傷付くくらいなら、独りのほうが楽だと思っていて。でも、それでも私は、先の見えない真っ暗な未来を、独りで歩いていける程、強くなんかないから、だから、」 碧生:「(さえぎって瑠生を抱きしめる)ありがとう、話してくれて」 瑠生:「っ、なんで、」 碧生:「瑠生は凄いね、僕ならきっとそんなに頑張れてないよ」 瑠生:「そんなこと、」 碧生:「そんなことあるよ。僕には、否定された時、自分の力だけで前を向けなかった。だから、瑠生は凄いよ。」 瑠生:「…うん」 碧生:「急に抱きしめたりしてごめんね」 瑠生:「別に気にしないよ、ただ、もう少しだけ、こうしていてもいいかい?」 碧生:「僕は別にいいけど、」 瑠生:「ありがとう」 碧生:「あのさ、提案があるんだけど」 瑠生:「君の提案なら、どんなものでも面白そうだね」 碧生:「そう?ならよかった。」 瑠生:「それで?碧生が私にくれるのはどんな提案だい?」 碧生:「うん、瑠生、僕と友達になってよ」 瑠生:「は、?」 碧生:「僕と友達になろう、瑠生」 瑠生:「君は、さっきまでの話を聞いていて、それを言うの、?」 碧生:「もちろん、聞いてたよ。だからこそ、君の友達になりたいと思ったんだ」 瑠生:「変わってるね、碧生」 碧生:「よく言われる」 瑠生:「嬉しいお誘いだよ。でも、さっき言った通り私は、」 碧生:「信じられない、だっけ?でも、僕が思うにそれは瑠生が優しいだけだと思うよ。」 瑠生:「そんなこと」 碧生:「瑠生が人を信じられないのは、もちろん自分が傷つくのが怖いってのもあるだろうけど、自分が相手を傷つけないためってのもあるんじゃない?」 瑠生:「そう、なのかな、」 碧生:「そうだよ」 瑠生:「でも、じゃあ、」 碧生:「また傷つけたら、って?」 瑠生:「…」 碧生:「大丈夫だよ」 瑠生:「…」 碧生:「少なくとも、僕は君に何言われても傷付かない自信があるし、嫌いにもならない。もし、不安になったら毎回確認してくれてもいいよ」 瑠生:「なんでそこまで、」 碧生:「君が僕を否定しなかったから。理由なんてそれで十分じゃない?」 瑠生:「そんな理由で、」 碧生:「君にとっては些細な理由かもしれないけど、僕にとってはそれが死ぬほど嬉しかった。それに、もしかしたら君みたいに受け入れてくれる人だっているかもしれないって気付けた。僕の世界を広げてくれた。君は僕が前を向くきっかけをくれた。なくしたものを、僕にとってかけがえのない、大切なものを、君は見つけてくれた。失った世界の色を取り戻してくれたのは、君だよ、瑠生」 瑠生:「っ、」 碧生:「だからさ、僕と友達になってよ、瑠生」