台本概要

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タイトル 運転代行
作者名 大輝宇宙@ひろきうちゅう  (@hiro55308671)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 運転代行の松島は、海辺に停められた車の回収に向かう。
しかし駐車場に着くと、車の持ち主がおり、一緒に乗っていくと言われ
仕方なく男を乗せることにする。

男性と性別不問のサシ劇です。

ご利用時連絡は不要ですが、
枠、概要欄には作者名、台本タイトルの明記をお願いします。
その他はXの固定ポストの利用規約を必ずお読みになり、ご理解頂いたうえでお楽しみ下さい。

軽微な語尾の変更などは可能です。

作者名→大輝宇宙@ひろきうちゅう(大輝宇宙のみでも可)

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
木下 86 明るい。後先考えない。コミュ力あり。家族思い。サーフィンが趣味。
松島 不問 88 運転代行会社の運転手。冷静。コミュ力は実は高く、思ったことは結構言う。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
松島:乗っていかれるんですか? 0:砂浜沿いの駐車場。運転代行サービスに勤める松島は、車に乗せてきてくれた相棒と別れ、目的の車に乗り込もうとしていた。そこで20代後半の車の主と遭遇する。 木下:うん。乗せてって? 松島:奥様からは車だけを引き取ってくるように言われているのですが・・。 木下:いやいやいや!俺車持ってかれたら帰れないし。人乗せて運転もできるんでしょ? 松島:そうですね。飲んだ帰りに、自分の車で帰りたい方なんかもいますので。むしろ人を乗せて走る方が多いですよ。 木下:あ、俺が本当に旦那かどうか疑ってる? 松島:いえ、そういうわけでは・・ 木下:ほら、車のキー。キーホルダーまで同じ。(ポケットから車のキーを出す) 松島:そうですね。 木下:さぁ、帰ろう帰ろう。 0:後部座席に乗り込む車の主。 松島:かしこまりました。(運転席に乗る) 木下:明日香(あすか)・・嫁、怒ってた? 松島:・・こんな海が荒れてる日にサーフィンなんてって、仰ってました。 木下:だろうねぇ。それで車だけ引き取って来いって? 松島:ええ。 木下:そりゃあんまりだ。車がないんじゃ帰れないじゃん。 松島:・・困らせてみたかったんでしょうかね。 木下:ま、嫁の言うこと聞かず遊んでる旦那なんて困ってしまえってことかぁ。自業自得で文句も言えねぇ。それにしったってなぁ・・あいつ(笑う)。代行さんは結婚してるの? 松島:いえ、私は独り身です。 木下:そう。独りもいいよなー。 松島:そうですか? 木下:ああ、自由じゃん。遊びに行くのも金も。 松島:まあ、そうですね。好きな時にご飯を食べたり、出かけたりできますし。 木下:そうだよなー。でも、自分の自由がなくなっても、家族がいるってのもまたいいんだよ。 松島:憧れはあります。 木下:お、そうなの?・・ああ、ごめん。代行さん、何ていうか独りでも生きていけそうな雰囲気あるし、結婚とか興味ない系の人なのかと思って。 松島:出会って10分で・・。でも、人が感じる第一印象って結構当たってると言いますし、実際私はあまり恋愛や結婚に興味はありません。でも、あたたかい暮らしへの憧れくらいは人並みに持っているんですよ。ただ面倒くさいが勝って(まさって)しまって。 木下:分かる。俺は嫁と付き合ってはいたんだけど、結婚ってなると面倒なステージに駒を進めちゃうって感じで足踏みしてたんだよね。 松島:でも、結婚されたのは? 木下:あるあるだけど、子供が出来たから。 松島:授かり婚ですか。 木下:そ、デキ婚。これはダラダラしてらんねぇなって。籍入れて、写真だけの式挙げて・・って結婚した。実際結婚したら、足踏みしてたのが馬鹿みたいに何も変わらなかった。 松島:へぇー。 木下:娘がさ、もう可愛くて可愛くて・・。 松島:ああ、先程車のキーを受け取る時に、お会いしましたよ。 木下:嫁に似て可愛かったろ? 松島:ええ。奥様の後ろに隠れて、恥ずかしそうにチラチラ見ていました。 木下:最近ちょっと人見知りなんだよ。 松島:それは、他人と、家族や友人との線引ができてるってことじゃないですか?分かってる証拠ですよ。 木下:え?あ・・そうか。えー代行さんいいこと言う! 松島:ははは。 木下:子供好きなの? 松島:いや、そういうわけじゃ・・。年の離れた妹がいるので、妹の成長を思い返して言ってるだけです。 木下:そうか。兄弟もなー。なぁ!むつみ、妹ほしいかな? 松島:むつみちゃんの気持ちは分かりませんよ。ただ、私は妹が今でも可愛いですけど。 木下:だよなー。俺も弟と喧嘩ばっかしてたけど、大人になってから何だかんだで心強いしなー。 松島:心強いですか? 木下:俺と弟、2個しか違わないんだわ。んで、弟嫁と、うちの嫁は仲良くしてるし、娘と姪っ子も仲良く遊べるし、なんかあった時にさ、きっと支え合えるだろうなって思ってるんだよね。 松島:なるほど。・・・それはいいですね。 木下:うん。だから、むつみにも弟か妹がいた方がいいよなー。 松島:そうかもしれませんね。 木下:明日香(あすか)に話さなきゃな。 松島:・・・。海がお好きなんですか?サーフィンも長いんですか? 木下:おっ。代行さん俺に興味持ってくれた? 松島:いえ。まだご自宅までは1時間位かかりますし、木下様はお話が好きそうでしたので。 木下:そんなふくれないでよ。せっかくだから話して帰ろう。海入ってすぐに大荒れでサーフィンどころじゃなかったし、もうフラストレーションがすごいからさ。楽しくおしゃべりしていこうぜ。 松島:はぁ。 木下:海はね、大好きだよ。 松島:サーフィンにもよく来られてたんですか? 木下:うん・・・まぁ〜明日香にはよく怒られてるけどな! 松島:今日も怒ってらっしゃいました・・。 木下:むつみの面倒も見ずに、また波乗りか!ってねぇ。・・でもやめられねぇ。 松島:波が俺を呼んでいるってやつですか? 木下:あんた、面白いこと言うね!うん、そうだな・・そんな感じ!いつもいつも同じ波は来ないんだよ。それって、人生のめぐり合わせと同じだよな〜とか思ったりもしてさ。そんな日々変わる波を乗りこなせてると、何でもうまくやれそうな気がしてくるんだよ。 松島:人生と重ねるの面白いですね。 木下:代行さん、サーフィンは? 松島:やりません。今まで一度もやったことないです。あの板に立てる気もしません。 木下:ははっそっか。そうなんだよな、あのちょっとテクニックがいるところもいいんだよな。下世話な言い方するけどさ、みんながみんなできることじゃないから、出来るってうれしくねぇ? 松島:そうですね、その感覚は分かります。 木下:だろ?代行さんがそれを感じられるのは何?特技は? 松島:そうですね・・私は、話せる人が多いことでしょうか。 木下:?そんなコミュニケーションが上手そう(うまそう)には見えないけど? 松島:英語が話せる人は日本語しか話せない人よりも話ができる人口は増えますよね。手話ができるのも同様に話せる人が多いと言えるでしょう。 木下:代行さん手話できるの? 松島:・・まぁ、そんなところです。なので、私は他の人より多くの人とコミュニケーションが取れていることに若干優越感を覚えていると思います。 木下:ふーん。そりゃすごいや。仕事でも役に立つ・・あ、運転してたら手話できないか。 松島:ははは 0:窓の外に目をやる木下 木下:わ。 松島:?どうしました? 木下:今、瓦がいくつか落ちてる屋根があった。 松島:一昨日の強風でやられたのかもしれませんね。 木下:風強かったもんなー・・ 松島:ええ。 木下:そりゃ嫁も怒るよなー・・。 松島:そうですねぇ・・。 木下:はぁー・・今日は許してくれねぇかもなぁ。 松島:・・・・・。 木下:ねぇ!落ち込んでんだから何か言ってよ! 松島:・・ご夫婦のお話ですので。 木下:はぁー・・そりゃそうだけどさー。 松島:伝えるだけ、伝えてみたらいいんじゃないでしょうか。相手が許す、許さないにしろ、自分の謝りたい気持ちは伝えていいと思います。 木下:うん、俺もそう思う。でもさぁー・・ 松島:なんですか? 木下:「あなたは謝って自分がスッキリしたいだけでしょう?わたしが許さなかったら、私が悪いみたいになるじゃん!自分の為の謝罪なんていらないっ」て超怒られたことがあってさ。 松島:・・ぐぅの音も出ませんね・・それ。 木下:だろう?だからさぁ、謝るってのもさー・・。 松島:でも、悪いと思っていることは言わないと伝わらないですからね。その後許してくれるのを急ぎすぎてたんじゃないですか? 木下:え? 松島:ああ・・っと。 木下:どうゆうこと?代行さん。 松島:木下様も出会って10分で私を結婚とか興味なさそうと判断されましたので、私も木下様にどんな印象を持ったかという話になりますが・・ 木下:なになに!?気になる! 松島:・・・ずっと謝り倒したりしてません? 木下:え・・・ 松島:奥様が仰ってる「許さなかったら私が悪いみたいになる」というのは、木下様が、奥様が許してくれるまで繰り返し繰り返し、しつこいくらいに謝り倒しているのではないかと・・想像したんです。 木下:うん・・・?それ・・・駄目なの・・??? 松島:駄目だと思います・・・。 木下:えええ!!?な・・なんで?何で?! 松島:だって、謝られてもすぐに許せるわけじゃないこともあるでしょうし、相手の謝罪を受け取って、そのうえで自分の気持を整理して段々と許すことのほうが多いと思うんです。それなのに、その気持の整理の暇(いとま)を与えないっていうか・・。 木下:謝り倒してるってことは、それだけ反省してるってことだろ!? 松島:そこだと思うんですよ、奥様が言っている「自分のための謝罪」というのは。相手の気持ちを考えていない謝罪になってしまってると言いたいんだと思いますよ。謝るなって話ではなくて。 木下:・・・・。 松島:・・すみません。 木下:・・っなるほどなぁぁ・・・。はぁ〜代行さん、俺もっと早くあんたと知り合いたかったわ。そうしたら、あの日も、あの日も、明日香を怒らせずに済んだんだろうなぁ・・。はぁ〜・・・。俺、謝ってる自分をアピールしてるだけだって言われてたってことね? 松島:そういうことですね、おそらく。 木下:あああ〜・・そう言われたら、本当に俺許してくれるまで謝ってたし・・まじで強制してたわ。 松島:謝る気持ちは十分に伝わってたと思いますよ? 木下:うん・・フォローありがとね。 木下:今回のサーフィンのことも謝んないとなぁ・・。でも、まぁ許してもらえなくてもいいやくらいの気持ちでいないとな。 松島:木下様、あなたは・・・ 木下:お、市内にまで来たんだな。 松島:はい。もう10分もしないでご自宅ですよ。 木下:うん。 松島:・・・。 木下:あ、なぁなぁ、あそこのラーメン屋行ったことある? 松島:いま右手にあったとこですか? 木下:そうそう 松島:ありませんけど、会社の同僚がクソまずいって言ってましたよ? 木下:あー!その同僚さん、きっとラーメン頼んだんだろう! 松島:さぁ?でも、ラーメン長山田(ながやまだ)ですから、ラーメンだったんじゃ・・ 木下:違うんだよ!あそこで食うべきは肉玉定食! 松島:なんですか?それ。 木下:きくらげのデッカイのと、豚バラと玉ねぎとキャベツをふんわりした卵と一緒に炒めてあるオカズ。 松島:へぇー美味しそうですね。 木下:人参も入ってたかもしれない・・ま、これがとにかく旨い! 松島:食べたくなりますね。 木下:うん。ぜってぇ食ってほしい!んでもって、ラーメンは絶対にやめておけ。醤油をただお湯で割ったようなスープにコシが全然ない麺が浸かってる。 松島:え・・・ 木下:うちのむつみは、これを食べて泣いた。 松島:あははははは! 木下:いやいやマジなんだってば! 松島:そんな酷い味って聞くと逆に食べてみたい気もしますけどね。 木下:あんた、人の忠告をなぁ! 松島:あはははは!・・・着きますよ、木下様。 0:ゆっくりガレージに車を入れる松島。停車。 松島:はい、お疲れ様でした。 木下:うん。ありがとう、代行さん。 松島:降りないんですか? 木下:・・降りるよ?でも、少しいいか? 松島:はい。 木下:俺を連れて帰ってきてくれて、ありがとう。 松島:いいえ。・・まだあそこにいらっしゃるとは思いませんでした。 木下:うん。(苦笑して)ずっと何故か車に乗れなくて困ってた。 松島:そうでしたか。 木下:溺れた記憶はあったから、すぐに状況は分かったけど。 松島:・・・。私は、木下様はご自身の状況に気づいていないんじゃないかと思ってお話していました。 木下:俺は、代行さんが俺が幽霊だって気づいてないんじゃないかって思ってた。 松島:・・・奥様からお話は伺っていましたので。 木下:そっか。それで車を取りに行ってくれって言われてたんだもんな。 松島:はい。昨日木下様のお体は見つかったそうで。 木下:そっか。じゃあ、明日香に変な望みを持たせないで済んだんだな。・・・良かった。 松島:・・・・。 木下:代行さんが言ってた、話せる人が多いって俺みたいな幽霊とってことか。 松島:今気づいたんですか? 木下:うん。そっか・・たしかにすごい能力だ。 松島:恐れ入ります。 木下:・・明日香に伝えてくれる? 松島:信じていただけなくても、お伝えしますよ。 木下:うん。まず、ごめんって。とうとう本当に馬鹿やって・・・ごめんって・・。むつみのこともごめんって・・。俺、明日香にいつもいつも心配されて、あの日も嵐だから行くなって・・なのに俺・・。 松島:・・・・・。 木下:一生許さなくていいから。一生俺のこと許さなくていいから、嫌いになっても当然だから。・・でも俺はもう生きてないから、一生って言えないかもしれないけど、俺は一生お前とむつみを愛してる・・って。 松島:かしこまりました。 木下:・・・ありがとう。代行が、あんたで良かった。あと・・あと・・。はは・・やっぱり馬鹿でごめんって・・。愛してるって・・幸せにって・・。 松島:はい・・! 木下:・・うん。ありがと・・代行さん。・・あ、肉玉定食ぜってぇ食ってね!(消えかかる) 松島:はい・・・ラーメンも。 0:木下は空気に溶け込むように後部座席から消える。息を整え松島は車から降り、玄関へと歩き出す。 0: 0:おわり

松島:乗っていかれるんですか? 0:砂浜沿いの駐車場。運転代行サービスに勤める松島は、車に乗せてきてくれた相棒と別れ、目的の車に乗り込もうとしていた。そこで20代後半の車の主と遭遇する。 木下:うん。乗せてって? 松島:奥様からは車だけを引き取ってくるように言われているのですが・・。 木下:いやいやいや!俺車持ってかれたら帰れないし。人乗せて運転もできるんでしょ? 松島:そうですね。飲んだ帰りに、自分の車で帰りたい方なんかもいますので。むしろ人を乗せて走る方が多いですよ。 木下:あ、俺が本当に旦那かどうか疑ってる? 松島:いえ、そういうわけでは・・ 木下:ほら、車のキー。キーホルダーまで同じ。(ポケットから車のキーを出す) 松島:そうですね。 木下:さぁ、帰ろう帰ろう。 0:後部座席に乗り込む車の主。 松島:かしこまりました。(運転席に乗る) 木下:明日香(あすか)・・嫁、怒ってた? 松島:・・こんな海が荒れてる日にサーフィンなんてって、仰ってました。 木下:だろうねぇ。それで車だけ引き取って来いって? 松島:ええ。 木下:そりゃあんまりだ。車がないんじゃ帰れないじゃん。 松島:・・困らせてみたかったんでしょうかね。 木下:ま、嫁の言うこと聞かず遊んでる旦那なんて困ってしまえってことかぁ。自業自得で文句も言えねぇ。それにしったってなぁ・・あいつ(笑う)。代行さんは結婚してるの? 松島:いえ、私は独り身です。 木下:そう。独りもいいよなー。 松島:そうですか? 木下:ああ、自由じゃん。遊びに行くのも金も。 松島:まあ、そうですね。好きな時にご飯を食べたり、出かけたりできますし。 木下:そうだよなー。でも、自分の自由がなくなっても、家族がいるってのもまたいいんだよ。 松島:憧れはあります。 木下:お、そうなの?・・ああ、ごめん。代行さん、何ていうか独りでも生きていけそうな雰囲気あるし、結婚とか興味ない系の人なのかと思って。 松島:出会って10分で・・。でも、人が感じる第一印象って結構当たってると言いますし、実際私はあまり恋愛や結婚に興味はありません。でも、あたたかい暮らしへの憧れくらいは人並みに持っているんですよ。ただ面倒くさいが勝って(まさって)しまって。 木下:分かる。俺は嫁と付き合ってはいたんだけど、結婚ってなると面倒なステージに駒を進めちゃうって感じで足踏みしてたんだよね。 松島:でも、結婚されたのは? 木下:あるあるだけど、子供が出来たから。 松島:授かり婚ですか。 木下:そ、デキ婚。これはダラダラしてらんねぇなって。籍入れて、写真だけの式挙げて・・って結婚した。実際結婚したら、足踏みしてたのが馬鹿みたいに何も変わらなかった。 松島:へぇー。 木下:娘がさ、もう可愛くて可愛くて・・。 松島:ああ、先程車のキーを受け取る時に、お会いしましたよ。 木下:嫁に似て可愛かったろ? 松島:ええ。奥様の後ろに隠れて、恥ずかしそうにチラチラ見ていました。 木下:最近ちょっと人見知りなんだよ。 松島:それは、他人と、家族や友人との線引ができてるってことじゃないですか?分かってる証拠ですよ。 木下:え?あ・・そうか。えー代行さんいいこと言う! 松島:ははは。 木下:子供好きなの? 松島:いや、そういうわけじゃ・・。年の離れた妹がいるので、妹の成長を思い返して言ってるだけです。 木下:そうか。兄弟もなー。なぁ!むつみ、妹ほしいかな? 松島:むつみちゃんの気持ちは分かりませんよ。ただ、私は妹が今でも可愛いですけど。 木下:だよなー。俺も弟と喧嘩ばっかしてたけど、大人になってから何だかんだで心強いしなー。 松島:心強いですか? 木下:俺と弟、2個しか違わないんだわ。んで、弟嫁と、うちの嫁は仲良くしてるし、娘と姪っ子も仲良く遊べるし、なんかあった時にさ、きっと支え合えるだろうなって思ってるんだよね。 松島:なるほど。・・・それはいいですね。 木下:うん。だから、むつみにも弟か妹がいた方がいいよなー。 松島:そうかもしれませんね。 木下:明日香(あすか)に話さなきゃな。 松島:・・・。海がお好きなんですか?サーフィンも長いんですか? 木下:おっ。代行さん俺に興味持ってくれた? 松島:いえ。まだご自宅までは1時間位かかりますし、木下様はお話が好きそうでしたので。 木下:そんなふくれないでよ。せっかくだから話して帰ろう。海入ってすぐに大荒れでサーフィンどころじゃなかったし、もうフラストレーションがすごいからさ。楽しくおしゃべりしていこうぜ。 松島:はぁ。 木下:海はね、大好きだよ。 松島:サーフィンにもよく来られてたんですか? 木下:うん・・・まぁ〜明日香にはよく怒られてるけどな! 松島:今日も怒ってらっしゃいました・・。 木下:むつみの面倒も見ずに、また波乗りか!ってねぇ。・・でもやめられねぇ。 松島:波が俺を呼んでいるってやつですか? 木下:あんた、面白いこと言うね!うん、そうだな・・そんな感じ!いつもいつも同じ波は来ないんだよ。それって、人生のめぐり合わせと同じだよな〜とか思ったりもしてさ。そんな日々変わる波を乗りこなせてると、何でもうまくやれそうな気がしてくるんだよ。 松島:人生と重ねるの面白いですね。 木下:代行さん、サーフィンは? 松島:やりません。今まで一度もやったことないです。あの板に立てる気もしません。 木下:ははっそっか。そうなんだよな、あのちょっとテクニックがいるところもいいんだよな。下世話な言い方するけどさ、みんながみんなできることじゃないから、出来るってうれしくねぇ? 松島:そうですね、その感覚は分かります。 木下:だろ?代行さんがそれを感じられるのは何?特技は? 松島:そうですね・・私は、話せる人が多いことでしょうか。 木下:?そんなコミュニケーションが上手そう(うまそう)には見えないけど? 松島:英語が話せる人は日本語しか話せない人よりも話ができる人口は増えますよね。手話ができるのも同様に話せる人が多いと言えるでしょう。 木下:代行さん手話できるの? 松島:・・まぁ、そんなところです。なので、私は他の人より多くの人とコミュニケーションが取れていることに若干優越感を覚えていると思います。 木下:ふーん。そりゃすごいや。仕事でも役に立つ・・あ、運転してたら手話できないか。 松島:ははは 0:窓の外に目をやる木下 木下:わ。 松島:?どうしました? 木下:今、瓦がいくつか落ちてる屋根があった。 松島:一昨日の強風でやられたのかもしれませんね。 木下:風強かったもんなー・・ 松島:ええ。 木下:そりゃ嫁も怒るよなー・・。 松島:そうですねぇ・・。 木下:はぁー・・今日は許してくれねぇかもなぁ。 松島:・・・・・。 木下:ねぇ!落ち込んでんだから何か言ってよ! 松島:・・ご夫婦のお話ですので。 木下:はぁー・・そりゃそうだけどさー。 松島:伝えるだけ、伝えてみたらいいんじゃないでしょうか。相手が許す、許さないにしろ、自分の謝りたい気持ちは伝えていいと思います。 木下:うん、俺もそう思う。でもさぁー・・ 松島:なんですか? 木下:「あなたは謝って自分がスッキリしたいだけでしょう?わたしが許さなかったら、私が悪いみたいになるじゃん!自分の為の謝罪なんていらないっ」て超怒られたことがあってさ。 松島:・・ぐぅの音も出ませんね・・それ。 木下:だろう?だからさぁ、謝るってのもさー・・。 松島:でも、悪いと思っていることは言わないと伝わらないですからね。その後許してくれるのを急ぎすぎてたんじゃないですか? 木下:え? 松島:ああ・・っと。 木下:どうゆうこと?代行さん。 松島:木下様も出会って10分で私を結婚とか興味なさそうと判断されましたので、私も木下様にどんな印象を持ったかという話になりますが・・ 木下:なになに!?気になる! 松島:・・・ずっと謝り倒したりしてません? 木下:え・・・ 松島:奥様が仰ってる「許さなかったら私が悪いみたいになる」というのは、木下様が、奥様が許してくれるまで繰り返し繰り返し、しつこいくらいに謝り倒しているのではないかと・・想像したんです。 木下:うん・・・?それ・・・駄目なの・・??? 松島:駄目だと思います・・・。 木下:えええ!!?な・・なんで?何で?! 松島:だって、謝られてもすぐに許せるわけじゃないこともあるでしょうし、相手の謝罪を受け取って、そのうえで自分の気持を整理して段々と許すことのほうが多いと思うんです。それなのに、その気持の整理の暇(いとま)を与えないっていうか・・。 木下:謝り倒してるってことは、それだけ反省してるってことだろ!? 松島:そこだと思うんですよ、奥様が言っている「自分のための謝罪」というのは。相手の気持ちを考えていない謝罪になってしまってると言いたいんだと思いますよ。謝るなって話ではなくて。 木下:・・・・。 松島:・・すみません。 木下:・・っなるほどなぁぁ・・・。はぁ〜代行さん、俺もっと早くあんたと知り合いたかったわ。そうしたら、あの日も、あの日も、明日香を怒らせずに済んだんだろうなぁ・・。はぁ〜・・・。俺、謝ってる自分をアピールしてるだけだって言われてたってことね? 松島:そういうことですね、おそらく。 木下:あああ〜・・そう言われたら、本当に俺許してくれるまで謝ってたし・・まじで強制してたわ。 松島:謝る気持ちは十分に伝わってたと思いますよ? 木下:うん・・フォローありがとね。 木下:今回のサーフィンのことも謝んないとなぁ・・。でも、まぁ許してもらえなくてもいいやくらいの気持ちでいないとな。 松島:木下様、あなたは・・・ 木下:お、市内にまで来たんだな。 松島:はい。もう10分もしないでご自宅ですよ。 木下:うん。 松島:・・・。 木下:あ、なぁなぁ、あそこのラーメン屋行ったことある? 松島:いま右手にあったとこですか? 木下:そうそう 松島:ありませんけど、会社の同僚がクソまずいって言ってましたよ? 木下:あー!その同僚さん、きっとラーメン頼んだんだろう! 松島:さぁ?でも、ラーメン長山田(ながやまだ)ですから、ラーメンだったんじゃ・・ 木下:違うんだよ!あそこで食うべきは肉玉定食! 松島:なんですか?それ。 木下:きくらげのデッカイのと、豚バラと玉ねぎとキャベツをふんわりした卵と一緒に炒めてあるオカズ。 松島:へぇー美味しそうですね。 木下:人参も入ってたかもしれない・・ま、これがとにかく旨い! 松島:食べたくなりますね。 木下:うん。ぜってぇ食ってほしい!んでもって、ラーメンは絶対にやめておけ。醤油をただお湯で割ったようなスープにコシが全然ない麺が浸かってる。 松島:え・・・ 木下:うちのむつみは、これを食べて泣いた。 松島:あははははは! 木下:いやいやマジなんだってば! 松島:そんな酷い味って聞くと逆に食べてみたい気もしますけどね。 木下:あんた、人の忠告をなぁ! 松島:あはははは!・・・着きますよ、木下様。 0:ゆっくりガレージに車を入れる松島。停車。 松島:はい、お疲れ様でした。 木下:うん。ありがとう、代行さん。 松島:降りないんですか? 木下:・・降りるよ?でも、少しいいか? 松島:はい。 木下:俺を連れて帰ってきてくれて、ありがとう。 松島:いいえ。・・まだあそこにいらっしゃるとは思いませんでした。 木下:うん。(苦笑して)ずっと何故か車に乗れなくて困ってた。 松島:そうでしたか。 木下:溺れた記憶はあったから、すぐに状況は分かったけど。 松島:・・・。私は、木下様はご自身の状況に気づいていないんじゃないかと思ってお話していました。 木下:俺は、代行さんが俺が幽霊だって気づいてないんじゃないかって思ってた。 松島:・・・奥様からお話は伺っていましたので。 木下:そっか。それで車を取りに行ってくれって言われてたんだもんな。 松島:はい。昨日木下様のお体は見つかったそうで。 木下:そっか。じゃあ、明日香に変な望みを持たせないで済んだんだな。・・・良かった。 松島:・・・・。 木下:代行さんが言ってた、話せる人が多いって俺みたいな幽霊とってことか。 松島:今気づいたんですか? 木下:うん。そっか・・たしかにすごい能力だ。 松島:恐れ入ります。 木下:・・明日香に伝えてくれる? 松島:信じていただけなくても、お伝えしますよ。 木下:うん。まず、ごめんって。とうとう本当に馬鹿やって・・・ごめんって・・。むつみのこともごめんって・・。俺、明日香にいつもいつも心配されて、あの日も嵐だから行くなって・・なのに俺・・。 松島:・・・・・。 木下:一生許さなくていいから。一生俺のこと許さなくていいから、嫌いになっても当然だから。・・でも俺はもう生きてないから、一生って言えないかもしれないけど、俺は一生お前とむつみを愛してる・・って。 松島:かしこまりました。 木下:・・・ありがとう。代行が、あんたで良かった。あと・・あと・・。はは・・やっぱり馬鹿でごめんって・・。愛してるって・・幸せにって・・。 松島:はい・・! 木下:・・うん。ありがと・・代行さん。・・あ、肉玉定食ぜってぇ食ってね!(消えかかる) 松島:はい・・・ラーメンも。 0:木下は空気に溶け込むように後部座席から消える。息を整え松島は車から降り、玄関へと歩き出す。 0: 0:おわり