台本概要
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タイトル | 桜と麦 |
---|---|
作者名 | 天道司 |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 2人用台本(不問2) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
自由に演じてください
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
桜 | 不問 | 68 | 野良猫の先輩 |
麦 | 不問 | 75 | 野良猫の後輩 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
麦:僕は、野良猫。いつから野良猫になったのかは、覚えていないし、野良猫として、どう生きて行けば良いのかも分からない。だから…。
桜:「おーい!麦!むーぎー!」
麦:「桜、ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」
桜:「ぼーっとしてた?」
麦:コイツは、桜。野良猫の先輩。僕に、野良猫としての生き方を教えてくれる。
桜:「なぁ、麦、腹、減ってないか?」
麦:「いや、減ってないよ」
桜:「そうか…。じゃあ、何かしたいことはないか?」
麦:「したいこと?特に、ないかな」
桜:「麦は、趣味とか、ないのか?」
麦:「趣味は、絵を描いたり、歌うことかな」
桜:「へぇ。良い趣味だな」
麦:「そういえば、僕、猫なのに、絵を描いたり、歌うことが趣味なんて、おかしいかな?」
桜:「どうして、おかしいと思うんだ?」
麦:「だって、猫だから…」
桜:「あのなぁ!趣味とか、好きなことに、猫だからとか、人間だからとか、関係ないだろ?」
麦:「そうなの?」
桜:「あぁ。好きなモノは、いつだって、自分の心が決めるモノじゃないのか?」
麦:「そうだね。誰かに決めてもらうモノじゃないよね」
桜:「そうだ」
麦:「うん」
桜:「あっ!」
麦:「なんだい?急に声をあげて、どうしたの?」
桜:「そういえば、麦に見せたいモノがある。今から時間は、ある?」
麦:「あるけど…」
桜:「うし!じゃあ、ついてこいよ!」
麦:僕は、桜についていくことにした
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麦:桜は、紫色の家の前で立ち止まった。
桜:「よし、着いた。ここにいれば、この家の中の様子がわかる。耳を澄ましてみろ」
麦:「耳を澄ます?」
桜:「あぁ、目を閉じて、耳を澄ますんだ」
麦:僕は、桜の言う通り、目を閉じて、耳を澄ます。すると、家の中から、猫の夫婦の会話が聞こえてきた。
0:【間】
麦:「オス猫が『こんなまずい飯食えるか!』って叫んでる」
桜:「だな。それに対して、メス猫が『ごめんなさい』って謝ってる」
麦:「オス猫が『このブスが!お前なんかと結婚するんじゃなかった!最悪だ!殴ってやる!』って…」
桜:「あぁ。メス猫が『ごめんなさい。痛い!やめて!』って…」
麦:「助けにいこうかな?」
桜:「やめとけ」
麦:「なんでだよ?アレじゃ、メス猫がかわいそうだよ」
桜:「かわいそう?」
麦:「だって、オス猫に一方的に、ひどいことを言われて、暴力をふるわれて、とってもかわいそうだ」
桜:「そうか。麦は、そう思うんだな。でも、メス猫は、自分がかわいそうなヤツだなんて思っちゃいないさ」
麦:「なんで?絶対にかわいそうだと思うよ」
桜:「本当に自分がかわいそうなヤツだと理解しているなら、とっくの昔に逃げてるだろ?」
麦:「逃げてる?」
桜:「あぁ。逃げてる。逃げないのには、夫婦でいることをやめないのには、それなりの理由があるってことさ」
麦:「それなりの理由って、何だよ?」
桜:「あ・た・り・ま・え」
麦:「あたりまえ?」
桜:「そう、アレが『あたりまえ』になっちまってるんだ。一度あたりまえが決まっちまうと、他人がとやかく言っても無駄さ」
麦:「そうなの?」
桜:「あぁ、むしろ、毎日、ひどいことを言われても、暴力をふるわれても、あのメス猫は、あのオス猫と一緒にいられるだけで、幸せを感じているかもな」
麦:「僕は、嫌だな…。あんな、あたりまえは…」
桜:「それでいい。あたりまえを決めるのは、自分自身だ」
麦:「うん…」
桜:「うしっ!じゃあ、次の場所にいくぞ」
麦:「次の場所?」
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0:【間】
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麦:桜は、緑色の建物の前で立ち止まった。
麦:「この建物は?」
桜:「工場だ」
麦:「工場?」
桜:「さて、工場見学をさせてもらおう。中に入るぞ」
麦:「うっ、うん」
0:【間】
麦:僕は、桜について行き、工場の中に入り、椅子に座って、見学させてもらうことにした。
麦:「たくさんの猫が、機械のように缶詰に何かを詰め込んでるね」
桜:「そうだな。ただ、それだけの動きしかしていない」
麦:「ただ、それだけの動きを延々と…」
桜:「あぁ。だけど、それが、ここの猫たちの仕事なんだ」
麦:「退屈な仕事なんだね」
桜:「やってみたいと思うか?」
麦:「僕は、お断りさ。あんな面白くなさそうなことはね」
桜:「面白くなくても、仕事だから、ここの猫たちは続けている」
麦:「なぁ、そろそろ、ここ、出ない?」
桜:「まだだ。もうすぐだ。ヤツがくる」
麦:「ヤツ?」
桜:「そう、ヤツだ」
麦:「あっ!奥から、こげ茶色の太った猫がでてきた!」
桜:「ヤツが、ここのオーナー猫だ」
麦:「オーナー猫?一番偉い猫ってこと?」
桜:「どうだかな」
麦:「働いている猫たちは、作業をする手をいったん止めて、挨拶してるね。挨拶をしたあとは、またすぐに作業に戻ってる」
桜:「オーナー猫は、挨拶を返さない」
麦:「とても偉そうだ。感じ悪い」
桜:「なぁ、見てみろよ?オーナー猫のヤツ、なんか、七輪で魚を焼きはじめたぞ」
麦:「良いニオイだね。作業をしている猫たちは、ヨダレを垂らしてる」
桜:「あぁ、それでも、作業をする手は止めていない」
麦:「あっ!魚、すごいおいしそうだよ!良い焼き目がついてる!」
桜:「そうだな。おっ?オーナー猫のヤツ、焼き魚に豪快(ごうかい)にかぶりついたな」
麦:「うん。美味しそうだね。うわっ!あっという間に、実が全部なくなって、骨だけになった!」
桜:「そう、骨だけは、残してる。オーナー猫のヤツは、その骨を次は…」
麦:「包丁で細かく分解してる。器用だなぁ」
桜:「ふっ。そろそろだぞ」
麦:「そろそろ?ん?オーナー猫が指を鳴らした!」
桜:「あぁ。作業終了の合図だ」
麦:「ほんとだ。みんな、いっせいに作業をやめて、オーナー猫の前に一列に並んだ。って、アレ?細かく分解された小骨をもらってる?」
桜:「そうだ。それが、ここで働いている猫たちの給料さ」
麦:「えっ?あんな面白くなさそうな作業を延々と続けていたのに、給料が、たったのアレだけって、ひどくない?オーナー猫だけ、ずるくない?」
桜:「そうだな。でも、ここで働いている猫たちにとっては、アレが、あたりまえなんだ」
麦:「僕は、あんな、あたりまえは、嫌だな」
桜:「ふっ(笑)」
麦:「どうして笑うの?」
桜:「麦、次の場所に行こう」
麦:「わかった」
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0:【間】
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麦:「すべり台にブランコにジャングルジム…。ここは、公園?」
桜:「麦が、ここを公園だと思うなら、ここは、公園だ」
麦:「どうして、僕をここに連れてきたの?」
桜:「麦と話しをするためさ」
麦:「僕と話し?」
桜:「あぁ、誰かと話しをする場所としては、公園は、ちょうど良い」
麦:「そうなの?」
桜:「なぁ、麦、今、何か疑問に思っていることがあるだろ?」
麦:「うん。あるよ。どうして、あたりまえってモノが存在するのかなって…」
桜:「あたりまえっていうモノはな。先に産まれた人間、力のある人間が、自分たちにとって都合の良い世界にするために設けた仕組み。なのかも知れないし、そうじゃないのかも知れない」
麦:「どういうこと?」
桜:「そのままの意味さ」
麦:「なぁ、どうすれば、みんなのあたりまえを変えられるの?」
桜:「みんなのあたりまえを変えるのは、すごく難しいな。でも、周りからの『あたりまえ』に染まらない方法ならある」
麦:「どうすればいいのさ?」
桜:「自分を見失わないことだな」
麦:「自分を見失わない?」
桜:「あぁ。誰に何を言われても、自分が本当に好きなモノ、自分が本当にやりたいコト…」
桜:「それを忘れなければ、誰がどんな『あたりまえ』で、麦をどんな『あたりまえ』に染めようとしてきても、麦は麦の『あたりまえ』を貫くことができる」
麦:「僕だけのあたりまえ…」
桜:「そうだ。一緒に過ごす人間を変えることでも、あたりまえは変わってゆく」
麦:「どういうこと?」
桜:「そのままの意味さ。そして、今の麦にとって聞こえの良い共感の言葉でも、本当はそれは悪魔のささやきなのかも知れないし…」
桜:「ただの綺麗事に聞こえる言葉でも、その言葉を信じれば、麦は綺麗事の世界で生きてゆけるのかも知れない」
麦:「綺麗事は、やっぱり綺麗事だよ。嘘っぽく聞こえるし、信じられない。現実は、汚いモノばかりだよ。今日、実際に、汚いモノばかりを見てきたしさ」
桜:「そうだな。でも、麦には、綺麗事の世界を見ていてほしいな」
麦:「どうして?」
桜:「麦のことが好きだからさ」
麦:「僕は、桜が思ってるほど、良い猫じゃないよ?」
桜:「だな。でも、少しの間でも、付き合ってくれただろ?」
麦:「まぁ、暇だったから…。他に一緒に過ごす猫がいなかったからさ」
桜:「そう。そこなんだ」
麦:「そこ?」
桜:「他がいなければ、他の『あたりまえ』もなくせる」
麦:「でも、そんなのつまらないよ。僕は、他の猫とも遊びたいしさ」
桜:「そうだな。まだ、麦は野良猫になったばかりだもんな。仕方ない。あっ、でも、今日のことは、あたりまえについて考えたことは、これから先も、心の片隅に置いといてほしいな」
麦:「心の片隅に、ね」
桜:「それじゃあ、今日は、もう、お別れの時間だな」
麦:「だね。そろそろ帰らないと…」
桜:「またな。綺麗事の世界が見たくなったら、いつでも、ここに戻ってこいよ」
麦:「もう、戻らないよ。一度読み終えた本は、二度と開かない主義なんだ。桜と一度さよならしたら、二度とからみにゆくことはない」
桜:「なんだか、さみしいな」
麦:「仕方ないよ。それが僕のあたりまえさ」
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0:【間】
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麦:そうして、僕は、桜と別れた。
麦:僕は、野良猫。いつから野良猫になったのかは、覚えていないし、野良猫として、どう生きて行けば良いのかも分からない。だから、僕は、この目で見て、この足で確かめにゆく。
麦:世界の、真実を…。
麦:
麦:そして、決めてゆく。
麦:僕の、僕だけの、あたりまえを…。
:
0:―了―
麦:僕は、野良猫。いつから野良猫になったのかは、覚えていないし、野良猫として、どう生きて行けば良いのかも分からない。だから…。
桜:「おーい!麦!むーぎー!」
麦:「桜、ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」
桜:「ぼーっとしてた?」
麦:コイツは、桜。野良猫の先輩。僕に、野良猫としての生き方を教えてくれる。
桜:「なぁ、麦、腹、減ってないか?」
麦:「いや、減ってないよ」
桜:「そうか…。じゃあ、何かしたいことはないか?」
麦:「したいこと?特に、ないかな」
桜:「麦は、趣味とか、ないのか?」
麦:「趣味は、絵を描いたり、歌うことかな」
桜:「へぇ。良い趣味だな」
麦:「そういえば、僕、猫なのに、絵を描いたり、歌うことが趣味なんて、おかしいかな?」
桜:「どうして、おかしいと思うんだ?」
麦:「だって、猫だから…」
桜:「あのなぁ!趣味とか、好きなことに、猫だからとか、人間だからとか、関係ないだろ?」
麦:「そうなの?」
桜:「あぁ。好きなモノは、いつだって、自分の心が決めるモノじゃないのか?」
麦:「そうだね。誰かに決めてもらうモノじゃないよね」
桜:「そうだ」
麦:「うん」
桜:「あっ!」
麦:「なんだい?急に声をあげて、どうしたの?」
桜:「そういえば、麦に見せたいモノがある。今から時間は、ある?」
麦:「あるけど…」
桜:「うし!じゃあ、ついてこいよ!」
麦:僕は、桜についていくことにした
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麦:桜は、紫色の家の前で立ち止まった。
桜:「よし、着いた。ここにいれば、この家の中の様子がわかる。耳を澄ましてみろ」
麦:「耳を澄ます?」
桜:「あぁ、目を閉じて、耳を澄ますんだ」
麦:僕は、桜の言う通り、目を閉じて、耳を澄ます。すると、家の中から、猫の夫婦の会話が聞こえてきた。
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麦:「オス猫が『こんなまずい飯食えるか!』って叫んでる」
桜:「だな。それに対して、メス猫が『ごめんなさい』って謝ってる」
麦:「オス猫が『このブスが!お前なんかと結婚するんじゃなかった!最悪だ!殴ってやる!』って…」
桜:「あぁ。メス猫が『ごめんなさい。痛い!やめて!』って…」
麦:「助けにいこうかな?」
桜:「やめとけ」
麦:「なんでだよ?アレじゃ、メス猫がかわいそうだよ」
桜:「かわいそう?」
麦:「だって、オス猫に一方的に、ひどいことを言われて、暴力をふるわれて、とってもかわいそうだ」
桜:「そうか。麦は、そう思うんだな。でも、メス猫は、自分がかわいそうなヤツだなんて思っちゃいないさ」
麦:「なんで?絶対にかわいそうだと思うよ」
桜:「本当に自分がかわいそうなヤツだと理解しているなら、とっくの昔に逃げてるだろ?」
麦:「逃げてる?」
桜:「あぁ。逃げてる。逃げないのには、夫婦でいることをやめないのには、それなりの理由があるってことさ」
麦:「それなりの理由って、何だよ?」
桜:「あ・た・り・ま・え」
麦:「あたりまえ?」
桜:「そう、アレが『あたりまえ』になっちまってるんだ。一度あたりまえが決まっちまうと、他人がとやかく言っても無駄さ」
麦:「そうなの?」
桜:「あぁ、むしろ、毎日、ひどいことを言われても、暴力をふるわれても、あのメス猫は、あのオス猫と一緒にいられるだけで、幸せを感じているかもな」
麦:「僕は、嫌だな…。あんな、あたりまえは…」
桜:「それでいい。あたりまえを決めるのは、自分自身だ」
麦:「うん…」
桜:「うしっ!じゃあ、次の場所にいくぞ」
麦:「次の場所?」
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麦:桜は、緑色の建物の前で立ち止まった。
麦:「この建物は?」
桜:「工場だ」
麦:「工場?」
桜:「さて、工場見学をさせてもらおう。中に入るぞ」
麦:「うっ、うん」
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麦:僕は、桜について行き、工場の中に入り、椅子に座って、見学させてもらうことにした。
麦:「たくさんの猫が、機械のように缶詰に何かを詰め込んでるね」
桜:「そうだな。ただ、それだけの動きしかしていない」
麦:「ただ、それだけの動きを延々と…」
桜:「あぁ。だけど、それが、ここの猫たちの仕事なんだ」
麦:「退屈な仕事なんだね」
桜:「やってみたいと思うか?」
麦:「僕は、お断りさ。あんな面白くなさそうなことはね」
桜:「面白くなくても、仕事だから、ここの猫たちは続けている」
麦:「なぁ、そろそろ、ここ、出ない?」
桜:「まだだ。もうすぐだ。ヤツがくる」
麦:「ヤツ?」
桜:「そう、ヤツだ」
麦:「あっ!奥から、こげ茶色の太った猫がでてきた!」
桜:「ヤツが、ここのオーナー猫だ」
麦:「オーナー猫?一番偉い猫ってこと?」
桜:「どうだかな」
麦:「働いている猫たちは、作業をする手をいったん止めて、挨拶してるね。挨拶をしたあとは、またすぐに作業に戻ってる」
桜:「オーナー猫は、挨拶を返さない」
麦:「とても偉そうだ。感じ悪い」
桜:「なぁ、見てみろよ?オーナー猫のヤツ、なんか、七輪で魚を焼きはじめたぞ」
麦:「良いニオイだね。作業をしている猫たちは、ヨダレを垂らしてる」
桜:「あぁ、それでも、作業をする手は止めていない」
麦:「あっ!魚、すごいおいしそうだよ!良い焼き目がついてる!」
桜:「そうだな。おっ?オーナー猫のヤツ、焼き魚に豪快(ごうかい)にかぶりついたな」
麦:「うん。美味しそうだね。うわっ!あっという間に、実が全部なくなって、骨だけになった!」
桜:「そう、骨だけは、残してる。オーナー猫のヤツは、その骨を次は…」
麦:「包丁で細かく分解してる。器用だなぁ」
桜:「ふっ。そろそろだぞ」
麦:「そろそろ?ん?オーナー猫が指を鳴らした!」
桜:「あぁ。作業終了の合図だ」
麦:「ほんとだ。みんな、いっせいに作業をやめて、オーナー猫の前に一列に並んだ。って、アレ?細かく分解された小骨をもらってる?」
桜:「そうだ。それが、ここで働いている猫たちの給料さ」
麦:「えっ?あんな面白くなさそうな作業を延々と続けていたのに、給料が、たったのアレだけって、ひどくない?オーナー猫だけ、ずるくない?」
桜:「そうだな。でも、ここで働いている猫たちにとっては、アレが、あたりまえなんだ」
麦:「僕は、あんな、あたりまえは、嫌だな」
桜:「ふっ(笑)」
麦:「どうして笑うの?」
桜:「麦、次の場所に行こう」
麦:「わかった」
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麦:「すべり台にブランコにジャングルジム…。ここは、公園?」
桜:「麦が、ここを公園だと思うなら、ここは、公園だ」
麦:「どうして、僕をここに連れてきたの?」
桜:「麦と話しをするためさ」
麦:「僕と話し?」
桜:「あぁ、誰かと話しをする場所としては、公園は、ちょうど良い」
麦:「そうなの?」
桜:「なぁ、麦、今、何か疑問に思っていることがあるだろ?」
麦:「うん。あるよ。どうして、あたりまえってモノが存在するのかなって…」
桜:「あたりまえっていうモノはな。先に産まれた人間、力のある人間が、自分たちにとって都合の良い世界にするために設けた仕組み。なのかも知れないし、そうじゃないのかも知れない」
麦:「どういうこと?」
桜:「そのままの意味さ」
麦:「なぁ、どうすれば、みんなのあたりまえを変えられるの?」
桜:「みんなのあたりまえを変えるのは、すごく難しいな。でも、周りからの『あたりまえ』に染まらない方法ならある」
麦:「どうすればいいのさ?」
桜:「自分を見失わないことだな」
麦:「自分を見失わない?」
桜:「あぁ。誰に何を言われても、自分が本当に好きなモノ、自分が本当にやりたいコト…」
桜:「それを忘れなければ、誰がどんな『あたりまえ』で、麦をどんな『あたりまえ』に染めようとしてきても、麦は麦の『あたりまえ』を貫くことができる」
麦:「僕だけのあたりまえ…」
桜:「そうだ。一緒に過ごす人間を変えることでも、あたりまえは変わってゆく」
麦:「どういうこと?」
桜:「そのままの意味さ。そして、今の麦にとって聞こえの良い共感の言葉でも、本当はそれは悪魔のささやきなのかも知れないし…」
桜:「ただの綺麗事に聞こえる言葉でも、その言葉を信じれば、麦は綺麗事の世界で生きてゆけるのかも知れない」
麦:「綺麗事は、やっぱり綺麗事だよ。嘘っぽく聞こえるし、信じられない。現実は、汚いモノばかりだよ。今日、実際に、汚いモノばかりを見てきたしさ」
桜:「そうだな。でも、麦には、綺麗事の世界を見ていてほしいな」
麦:「どうして?」
桜:「麦のことが好きだからさ」
麦:「僕は、桜が思ってるほど、良い猫じゃないよ?」
桜:「だな。でも、少しの間でも、付き合ってくれただろ?」
麦:「まぁ、暇だったから…。他に一緒に過ごす猫がいなかったからさ」
桜:「そう。そこなんだ」
麦:「そこ?」
桜:「他がいなければ、他の『あたりまえ』もなくせる」
麦:「でも、そんなのつまらないよ。僕は、他の猫とも遊びたいしさ」
桜:「そうだな。まだ、麦は野良猫になったばかりだもんな。仕方ない。あっ、でも、今日のことは、あたりまえについて考えたことは、これから先も、心の片隅に置いといてほしいな」
麦:「心の片隅に、ね」
桜:「それじゃあ、今日は、もう、お別れの時間だな」
麦:「だね。そろそろ帰らないと…」
桜:「またな。綺麗事の世界が見たくなったら、いつでも、ここに戻ってこいよ」
麦:「もう、戻らないよ。一度読み終えた本は、二度と開かない主義なんだ。桜と一度さよならしたら、二度とからみにゆくことはない」
桜:「なんだか、さみしいな」
麦:「仕方ないよ。それが僕のあたりまえさ」
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麦:そうして、僕は、桜と別れた。
麦:僕は、野良猫。いつから野良猫になったのかは、覚えていないし、野良猫として、どう生きて行けば良いのかも分からない。だから、僕は、この目で見て、この足で確かめにゆく。
麦:世界の、真実を…。
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麦:そして、決めてゆく。
麦:僕の、僕だけの、あたりまえを…。
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