台本概要

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タイトル 愛を望んでるみたいだ
作者名 瀬川こゆ  (@hiina_segawa)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 この学校には、王子様が居る。
旧華族の出身だとか、だから家が物凄くお金持ちだとか。
勉強が出来て、運動も得意で。
そんな絵に描いたような、王子様が居る。

だけどそんな事はどうでもいい。
私が興味があるのは、そう。
彼の整った顔だけなのだから。


※自殺を示唆するようなセリフや性的虐待めいた事を言う場面が多々あるので、メンタル不調の時にやらない方がいいです。
結末はハッピーエンドですが、その過程が重いので苦手な方は回れ右を。

非商用時は連絡不要ですが、投げ銭機能のある配信媒体等で記録が残る場合はご一報と、概要欄等にクレジット表記をお願いします。

過度なアドリブ、改変、無許可での男女表記のあるキャラの性別変更は御遠慮ください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
124 (まき)。 学校の王子様と呼ばれている男の子。フルネームは本条 慎(ほんじょう まき)
奈緒 124 (なお) いじめを苦に自殺をしようとしている女の子。フルネームは有澤 奈緒(ありさわ なお)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
慎:(M) 慎:今日、悲しい時は昨日の自分のせいにする。 慎:明日、苦しい時は明後日の自分に押し付ける。 慎:  慎:さよならが言えない別れと、ありがとうばかりの出会い。 慎:  慎:初めて触れた自分以外の他人の身体は、 慎:びっくりするくらいに柔らかくて、生暖かくて、 慎:……気持ち悪かった。 0:一拍。 奈緒:(M) 奈緒:この学校には、王子様が居る。 奈緒:旧華族の出身だとか、だから家が物凄くお金持ちだとか。 奈緒:勉強が出来て、運動も得意で。 奈緒:そんな絵に描いたような、王子様が居る。 奈緒:だけどそんな事はどうでもいい。 奈緒:私が興味があるのは、そう。 奈緒:彼の整った顔だけなのだから。 奈緒:  奈緒:私達は噂が好きだ。 奈緒:人の不幸は蜜の味。 奈緒:自分に関係のない傷を、鑑賞するのが大好きなのだ。 奈緒:単調な教師の言葉より、詰め込まなきゃいけない授業より、 奈緒:縛りと解放を連れて来るチャイムの規則的な音よりも、 奈緒:誰かの不幸せが好きなのだ。 0:一拍。 奈緒:…………。 慎:あ………。 奈緒:っっ!? 0:一拍。 奈緒:(M) 奈緒:だからこれから私がする事は、 慎:(M) 慎:だからこれから僕がする事は、 奈緒:(M) 奈緒:時に誰かの甘い蜜として、 慎:(M) 慎:啜られてしまうのかもしれない。 0:間。 0:屋上。 奈緒:…………王子。 慎:? 慎:嗚呼、有澤さん、だっけ? 奈緒:あ………はい、そう。 慎:こんな所で何してるの? 奈緒:いえ……別に何とは、 慎:…………。 奈緒:………邪魔だったら離れる、よ? 慎:いいよ、でも内緒にしてて。 奈緒:分かった……あ、分かりました。 慎:なんで敬語? 奈緒:え? 慎:同級生なのに。 奈緒:いや、それは。 慎:変に敬語使おうとして、 慎:言葉遣いがおかしくなるよりかは、 慎:普通に話してくれた方が、 慎:僕としてはいいんだけどな。 奈緒:あ……分かりました、あ、違う。 奈緒:分かった。 慎:うん。 奈緒:王子……いや、本条くんは、 奈緒:なんでここに? 慎:開いてたから。 奈緒:はぁ? 慎:今時、屋上が開いてるなんて珍しいからね。 奈緒:確かに。 慎:なんで屋上に入れなくなったか知ってる? 奈緒:知ってる。 奈緒:自殺………防止。 慎:正解。 慎:屋上を閉め切ったところで、 慎:その気になれば死ぬ方法なんか、 慎:いくらでもあるのにね。 奈緒:……そうだね。 慎:僕はこう考えてるんだ。 奈緒:? 慎:閉鎖された屋上は、 慎:生徒の命を守る為じゃなくて、 慎:学校の名誉を守る為なんだって。 奈緒:…………。 慎:現に管理はずさんだ。 慎:君がピッキングで開けられるくらいにはね? 奈緒:どうしてそれを。 慎:状況証拠とか、 慎:最もらしい理由言いたかったけど。 慎:単純に見てただけだよ。 奈緒:いつから? 慎:一昨日から。 奈緒:………そっか。 慎:次からもう少し周りを見た方がいいかも。 慎:まぁ、君は次なんて望んでなさそうだけど。 奈緒:? 慎:死にたいんだろう。 慎:一昨日から君は、ここに死ににきては、 慎:躊躇してやめた。 慎:違う? 奈緒:…………なんで。 慎:濡れた上履き。 慎:屋上にまで持ってきてるカバン。 慎:今は授業中なのに、 慎:君がここに居ても誰も探しに来やしない。 奈緒:…………。 慎:いじめ? 奈緒:…………うん。 慎:そう、いじめを苦にした自殺ね。 慎:遺書はちゃんと用意して、 慎:最も信頼出来る人に渡すんだよ? 奈緒:…………。 慎:なに? 奈緒:止めないの? 慎:どうして? 奈緒:だいたいの人は、 奈緒:死のうとしてる人が居たら、 奈緒:止めると思うから。 慎:止めて欲しいの? 奈緒:ううん。 慎:ならいいじゃないか。 慎:死にたいなら死ねばいい。 慎:君の人生を、 慎:唯一奪う権利がある者を挙げるとしたら、 慎:それは君自身だけだよ、有澤さん。 奈緒:…………そっか。 慎:なんて偉そうな事言ったけどね。 奈緒:うん。 慎:僕も死にたいんだよ。 奈緒:本条くんが? 慎:どうして?って顔だね。 奈緒:そりゃあ、 慎:絵に描いたような幸せな人生を歩んでるのに、何故?って? 奈緒:あ………うん。 慎:あは、素直だね。 慎:幸せほど個人の価値観に左右されるものは無い。 奈緒:価値観? 慎:君や誰かにとっては、 慎:僕は物凄く恵まれてるのかもしれないけれど。 奈緒:うん。 慎:僕自身は僕が幸せだと思った事なんて、 慎:ただの一度も無いんだから。 奈緒:うん。 慎:そうなると僕は果たして幸せ?不幸せ? 奈緒:不幸せ、かなぁ。 慎:ね。 慎:だから僕は今不幸せだから、 慎:君と同じように死にたいんだよ。 奈緒:そっか。 慎:有澤さんは、 奈緒:なに? 慎:どうして躊躇してしまったの? 奈緒:それは、 慎:言いたくないならいいよ? 奈緒:………思いのほかね。 慎:うん。 奈緒:高くて、足が竦んじゃって。 慎:うん。 奈緒:昨日はあそこまで立ってみたの。 奈緒:でも風の感触とか、 奈緒:何気ない授業中の音だとか。 奈緒:そんな物が急に怖くなってしまって。 慎:それで躊躇した、と。 奈緒:うん。 奈緒:でも死にたくない訳じゃないの。 奈緒:覚悟も何も無いのに、 奈緒:死のうとするのは、 奈緒:やっぱり間違ってるよね………。 慎:そうでも無いと思うよ? 奈緒:え? 慎:今まで当たり前に機能していたものを、 慎:いざ手放すってなったら、 慎:誰だって躊躇するものだよ。 慎:どれだけ追い込まれてようがね。 奈緒:うん。 慎:生存本能って言うのが、 慎:生き物には存在するから。 奈緒:臆病だと笑わない? 慎:笑わないさ。 慎:少なくとも君はピッキングまでして、 慎:ここに一昨日から来てるんだから。 奈緒:そっか。 慎:うん…………そうだな。 奈緒:? 慎:まだしばらく戸惑うつもりなら、 慎:いっそ僕と結託しない? 奈緒:どう言う事? 慎:一番綺麗な瞬間に、 慎:一番望んだ瞬間に。 慎:僕と共に死なないか? 奈緒:それは……。 0:一拍。 奈緒:(M) 奈緒:毎日学校に行くのが嫌だった。 奈緒:朝起きると死にたくなった。 奈緒:自分が世界にひとりぼっちなのだと、そう実感しては泣きたくなった。 奈緒:私達はどうして息をするのだろう? 奈緒:どうして死んではいけないのだろう? 奈緒:生について沢山の疑問を持つ中で、本条くんは初めて出来た同志だった。 奈緒:  奈緒:口に出してはいけない。 奈緒:あなたの顔が好き。 奈緒:あなたの顔だけが好き。 奈緒:他はどうでもいい。 奈緒:今も、この先も。 0:一拍。 慎:(M) 慎:雁字搦めの鎖に繋がれた、僕は飼い殺される犬である。 慎:侵入禁止のロープが張られた、芸術作品のひとつである。 慎:どうして人を殺してはいけないの? 慎:そんな疑問は道徳の名の元に、あっさり仕舞い込まれてしまうから。 慎:僕は胸の内でうるさく鳴り響く鼓動の一部を、取り出してしまいたいと思っていた。 慎:  慎:君が僕の表面にしか興味がないのなんて、僕は初めから気付いていたんだよ。 0:少し間を空ける。 0:屋上。 奈緒:痛いのは、やっぱり嫌だな。 慎:そうだね。 奈緒:苦し過ぎるのと汚いのも。 慎:なら首吊りは外そう。 奈緒:この世で一番綺麗な死に方ってなに? 慎:そんな事を聞くの? 奈緒:なんとなく。 慎:そうだな………老衰かな。 奈緒:どうして? 奈緒:老いぼれて死ぬののどこが綺麗なの? 慎:老衰は自分の寿命を全て使い果たした感じがして、 慎:僕は美しいと思うけど? 奈緒:その理論なら私達がしようとしてる事は、 奈緒:全部汚くなっちゃうよ。 慎:そうだね。 慎:でも自死は美学では無いとは、 慎:僕は思ってはいるよ。 奈緒:美学ではない? 慎:最大級に勇気のある。 慎:最大級に醜い方法。 慎:それが自殺だと、僕はそう思う。 奈緒:そっか。 慎:あとはそうだな。 慎:誰もに残された、 慎:一番大きな逃げ道かな。 奈緒:それは分かるかな。 慎:逃げる事は悪い事じゃないって、 慎:世の中には知らない人が多すぎる。 奈緒:うん。 慎:僕はね、有澤さん。 奈緒:なに? 慎:汚く醜く、薄汚れたいんだ。 奈緒:どうして? 慎:僕がそうなる事が、 慎:あの人への最大級の仕返しだからだよ。 奈緒:あの人? 慎:……………。 奈緒:あ…………。 奈緒:そ、そうだ。 慎:? 奈緒:あの、これ。 奈緒:これあげるよ、本条くんに。 慎:マフィン? 奈緒:今日調理実習で。 慎:嗚呼、だから今日は特に見られてたのかな。 奈緒:いっぱい貰ってると思うんだけど。 慎:いいや、これが初めてかな。 奈緒:なんで? 慎:さあ? 慎:でもいつもそうだよ。 慎:だいたい昼休みか放課後だから。 奈緒:あー。 慎:まぁいいや、ありがとう。 慎:大切に食べるよ。 奈緒:うん。 0:一拍。 奈緒:(M) 奈緒:後で知った。 奈緒:本条くんは、プレゼントの類を受け取らないって。 奈緒:手紙の一枚すらも、やんわり断られるんだと。 奈緒:それなのにどうして、受け取ってくれたのか。 奈緒:その理由が分からないまま、突然本条くんは学校に来なくなった。 0:少し間を空ける。 0:ベットの上で嘔吐く慎。 慎:うっ……うぇっっ……ごほごほごほ。 慎:最悪、最悪、最悪最悪最悪最悪!! 慎:死ね………死ねよ……死ねばいい。 0:一拍。 慎:(M) 慎:香水の匂いが嫌いだ。 慎:柔らかすぎる女の身体が嫌いだ。 慎:気持ち悪くて、吐き気がして。 慎:  慎:僕を見るあの目が嫌いだ。 慎:瞳孔の中の自分が、獲物なのだと嫌でも分かるから。 慎:  慎:愛を囁く甘ったるい声が嫌いだ。 慎:お前が愛してるのは僕ではなくて、自分自身だろうに。 0:一拍。 慎:死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね………。 0:一拍。 慎:(M) 慎:僕は汚くなりたい。 慎:醜くなりたい。 慎:惨めな人間になって、この女に仕返しをしてやりたい。 0:少し間を空ける。 0:深夜の公園。 0:少しだけ離れた所で対峙する二人。 奈緒:あ、本条く……ん。 慎:何、してるの? 奈緒:散歩。 慎:僕の家の近くで? 奈緒:あ………。 慎:ストーカー?悪趣味だなぁ。 慎:別にいいけど。 奈緒:ちが、ただ心配で! 奈緒:最近学校来てないから、 慎:だから夜の公園で待ち伏せしてた? 奈緒:違う。 慎:はぁ………いいよ。 慎:君は僕の顔だけが好き。 奈緒:っっ。 慎:だけど今の僕を見れば、 慎:君はそうも思えない筈だよ。 0:奈緒、近付いてきたキスマークだらけでボロボロの慎の姿を見て驚く。 奈緒:なんで?っっ?! 慎:この痣(あざ)みたいなの何か分かる? 慎:キスマークって言うんだよ。 慎:所有印。 慎:自分の物って意味。 奈緒:誰が……こんな事。 慎:教えてあげようか? 慎:母親だよ、実の。 奈緒:っっ?! 慎:僕は亡くなった父にそっくりなんだ。 慎:母は父を愛してた。 慎:だから父が亡くなって、 慎:母はおかしくなってしまった。 奈緒:…………。 慎:毎日毎日毎日毎日泣き暮らして、 慎:ある日自分の息子を見て思ったんだ。 奈緒:…………。 慎:「あらアナタ、ここに居たのね?」って。 0:セリフを被せるようにして、慎を抱き締める奈緒。 奈緒:本条くん! 慎:僕を苗字で呼ばないでくれ!! 奈緒:慎……くん。 慎:そうだよ僕はとっくに汚れていたんだよ。 慎:身体の奥の奥まで汚れきって、 慎:洗っても洗っても綺麗にならないんだ!! 奈緒:そんな事ないよ!! 慎:君に僕の何が分かるんだ!! 奈緒:分かんないよ!!!! 慎:っっ?! 奈緒:分かんないよ……。 奈緒:分かんないけど、 奈緒:傍には居られるよ……。 慎:君が傍に居て……何になるんだ? 奈緒:なんにもなれないよ。 奈緒:だけど慎くんが押し殺して来た物を、 奈緒:吐き出すゴミ箱にはなれるよ。 慎:っっ!? 奈緒:慎くん。 0:一拍。 0:慎、奈緒を抱き締め返して少しずつ吐き出す。 慎:……ね。 奈緒:うん。 慎:死ね。 奈緒:うん。 慎:死ねばいい。 奈緒:うん。 慎:お前なんか死ね。 奈緒:うん。 慎:僕の中から出ていけ。 奈緒:うん。 慎:出ていけ……。 奈緒:うん。 0:一拍。 慎:…………もう、許してよ。 慎:…………母さん。 奈緒:うん。 慎:…………。 奈緒:………今じゃないかな? 慎:? 奈緒:死ぬの。 奈緒:今じゃないかな。 慎:あ、嗚呼……そうだね。 奈緒:何がいいかな。 慎:百合の花に、 奈緒:うん。 慎:大量の百合の花に囲まれると、 慎:眠るように死ねるんだ。 奈緒:どうして? 慎:酸欠になるから。 奈緒:そうなの? 慎:でもそこまでの百合は入手出来ないから、 慎:非現実的な方法だね。 奈緒:分かった。 慎:? 奈緒:じゃあそれにしよう。 奈緒:私達の死に方は。 慎:ほとんど実現不可能だよ? 奈緒:だから何年も掛けよう。 奈緒:付き合うから。 奈緒:ずっとずっと、付き合うから。 慎:…………。 奈緒:それまで慎くんは私が守るから、 奈緒:私の事は、 慎:僕が守るよ。 奈緒:っっ!? 奈緒:……………うん。 奈緒:…………警察行こっか。 慎:………分かった。 慎:付いてきてくれる? 奈緒:もちろん。 慎:君は僕の表面にしか興味が無いはずなのに、 慎:僕の全部が好きみたいじゃないか。 奈緒:慎くんがそう望むなら、そうするよ。 慎:それじゃまるで、 慎:僕が君に、 慎:愛を望んでるみたいだ。 0:少し間を空ける。 奈緒:やっぱ綺麗だなぁ。 慎:奈緒?また子供見てるの? 奈緒:慎くんに似て可愛いなぁって思って。 慎:僕はむしろ奈緒の方にそっくりだと思うけど。 奈緒:そうかなぁ。 慎:うん。 奈緒:いっぱい食べて、 奈緒:いっぱい寝て。 奈緒:大きくなるんだぞ~。 慎:ふふ、にしても僕達はいつ死ぬのかな。 慎:結婚して子供まで生まれちゃって。 慎:育児に追われて、 慎:百合の花にまで手は回せないし。 奈緒:さぁ? 奈緒:でも100年後には死んでるんじゃない? 慎:抜け駆け禁止だよ? 奈緒:どう言う事? 慎:先に死ぬなって事。 奈緒:慎くんの方こそ。 慎:ふふっっ。 奈緒:あははっっ。 慎:僕が言ったプロポーズの言葉覚えてる? 奈緒:忘れた事なんてないよ? 奈緒:でも、もう一回言って? 慎:分かった。 0:一拍。 慎:僕が考えるこの世で一番綺麗な死に方で、 慎:僕と一緒に死んでくれませんか? 奈緒:あはは、喜んで。

慎:(M) 慎:今日、悲しい時は昨日の自分のせいにする。 慎:明日、苦しい時は明後日の自分に押し付ける。 慎:  慎:さよならが言えない別れと、ありがとうばかりの出会い。 慎:  慎:初めて触れた自分以外の他人の身体は、 慎:びっくりするくらいに柔らかくて、生暖かくて、 慎:……気持ち悪かった。 0:一拍。 奈緒:(M) 奈緒:この学校には、王子様が居る。 奈緒:旧華族の出身だとか、だから家が物凄くお金持ちだとか。 奈緒:勉強が出来て、運動も得意で。 奈緒:そんな絵に描いたような、王子様が居る。 奈緒:だけどそんな事はどうでもいい。 奈緒:私が興味があるのは、そう。 奈緒:彼の整った顔だけなのだから。 奈緒:  奈緒:私達は噂が好きだ。 奈緒:人の不幸は蜜の味。 奈緒:自分に関係のない傷を、鑑賞するのが大好きなのだ。 奈緒:単調な教師の言葉より、詰め込まなきゃいけない授業より、 奈緒:縛りと解放を連れて来るチャイムの規則的な音よりも、 奈緒:誰かの不幸せが好きなのだ。 0:一拍。 奈緒:…………。 慎:あ………。 奈緒:っっ!? 0:一拍。 奈緒:(M) 奈緒:だからこれから私がする事は、 慎:(M) 慎:だからこれから僕がする事は、 奈緒:(M) 奈緒:時に誰かの甘い蜜として、 慎:(M) 慎:啜られてしまうのかもしれない。 0:間。 0:屋上。 奈緒:…………王子。 慎:? 慎:嗚呼、有澤さん、だっけ? 奈緒:あ………はい、そう。 慎:こんな所で何してるの? 奈緒:いえ……別に何とは、 慎:…………。 奈緒:………邪魔だったら離れる、よ? 慎:いいよ、でも内緒にしてて。 奈緒:分かった……あ、分かりました。 慎:なんで敬語? 奈緒:え? 慎:同級生なのに。 奈緒:いや、それは。 慎:変に敬語使おうとして、 慎:言葉遣いがおかしくなるよりかは、 慎:普通に話してくれた方が、 慎:僕としてはいいんだけどな。 奈緒:あ……分かりました、あ、違う。 奈緒:分かった。 慎:うん。 奈緒:王子……いや、本条くんは、 奈緒:なんでここに? 慎:開いてたから。 奈緒:はぁ? 慎:今時、屋上が開いてるなんて珍しいからね。 奈緒:確かに。 慎:なんで屋上に入れなくなったか知ってる? 奈緒:知ってる。 奈緒:自殺………防止。 慎:正解。 慎:屋上を閉め切ったところで、 慎:その気になれば死ぬ方法なんか、 慎:いくらでもあるのにね。 奈緒:……そうだね。 慎:僕はこう考えてるんだ。 奈緒:? 慎:閉鎖された屋上は、 慎:生徒の命を守る為じゃなくて、 慎:学校の名誉を守る為なんだって。 奈緒:…………。 慎:現に管理はずさんだ。 慎:君がピッキングで開けられるくらいにはね? 奈緒:どうしてそれを。 慎:状況証拠とか、 慎:最もらしい理由言いたかったけど。 慎:単純に見てただけだよ。 奈緒:いつから? 慎:一昨日から。 奈緒:………そっか。 慎:次からもう少し周りを見た方がいいかも。 慎:まぁ、君は次なんて望んでなさそうだけど。 奈緒:? 慎:死にたいんだろう。 慎:一昨日から君は、ここに死ににきては、 慎:躊躇してやめた。 慎:違う? 奈緒:…………なんで。 慎:濡れた上履き。 慎:屋上にまで持ってきてるカバン。 慎:今は授業中なのに、 慎:君がここに居ても誰も探しに来やしない。 奈緒:…………。 慎:いじめ? 奈緒:…………うん。 慎:そう、いじめを苦にした自殺ね。 慎:遺書はちゃんと用意して、 慎:最も信頼出来る人に渡すんだよ? 奈緒:…………。 慎:なに? 奈緒:止めないの? 慎:どうして? 奈緒:だいたいの人は、 奈緒:死のうとしてる人が居たら、 奈緒:止めると思うから。 慎:止めて欲しいの? 奈緒:ううん。 慎:ならいいじゃないか。 慎:死にたいなら死ねばいい。 慎:君の人生を、 慎:唯一奪う権利がある者を挙げるとしたら、 慎:それは君自身だけだよ、有澤さん。 奈緒:…………そっか。 慎:なんて偉そうな事言ったけどね。 奈緒:うん。 慎:僕も死にたいんだよ。 奈緒:本条くんが? 慎:どうして?って顔だね。 奈緒:そりゃあ、 慎:絵に描いたような幸せな人生を歩んでるのに、何故?って? 奈緒:あ………うん。 慎:あは、素直だね。 慎:幸せほど個人の価値観に左右されるものは無い。 奈緒:価値観? 慎:君や誰かにとっては、 慎:僕は物凄く恵まれてるのかもしれないけれど。 奈緒:うん。 慎:僕自身は僕が幸せだと思った事なんて、 慎:ただの一度も無いんだから。 奈緒:うん。 慎:そうなると僕は果たして幸せ?不幸せ? 奈緒:不幸せ、かなぁ。 慎:ね。 慎:だから僕は今不幸せだから、 慎:君と同じように死にたいんだよ。 奈緒:そっか。 慎:有澤さんは、 奈緒:なに? 慎:どうして躊躇してしまったの? 奈緒:それは、 慎:言いたくないならいいよ? 奈緒:………思いのほかね。 慎:うん。 奈緒:高くて、足が竦んじゃって。 慎:うん。 奈緒:昨日はあそこまで立ってみたの。 奈緒:でも風の感触とか、 奈緒:何気ない授業中の音だとか。 奈緒:そんな物が急に怖くなってしまって。 慎:それで躊躇した、と。 奈緒:うん。 奈緒:でも死にたくない訳じゃないの。 奈緒:覚悟も何も無いのに、 奈緒:死のうとするのは、 奈緒:やっぱり間違ってるよね………。 慎:そうでも無いと思うよ? 奈緒:え? 慎:今まで当たり前に機能していたものを、 慎:いざ手放すってなったら、 慎:誰だって躊躇するものだよ。 慎:どれだけ追い込まれてようがね。 奈緒:うん。 慎:生存本能って言うのが、 慎:生き物には存在するから。 奈緒:臆病だと笑わない? 慎:笑わないさ。 慎:少なくとも君はピッキングまでして、 慎:ここに一昨日から来てるんだから。 奈緒:そっか。 慎:うん…………そうだな。 奈緒:? 慎:まだしばらく戸惑うつもりなら、 慎:いっそ僕と結託しない? 奈緒:どう言う事? 慎:一番綺麗な瞬間に、 慎:一番望んだ瞬間に。 慎:僕と共に死なないか? 奈緒:それは……。 0:一拍。 奈緒:(M) 奈緒:毎日学校に行くのが嫌だった。 奈緒:朝起きると死にたくなった。 奈緒:自分が世界にひとりぼっちなのだと、そう実感しては泣きたくなった。 奈緒:私達はどうして息をするのだろう? 奈緒:どうして死んではいけないのだろう? 奈緒:生について沢山の疑問を持つ中で、本条くんは初めて出来た同志だった。 奈緒:  奈緒:口に出してはいけない。 奈緒:あなたの顔が好き。 奈緒:あなたの顔だけが好き。 奈緒:他はどうでもいい。 奈緒:今も、この先も。 0:一拍。 慎:(M) 慎:雁字搦めの鎖に繋がれた、僕は飼い殺される犬である。 慎:侵入禁止のロープが張られた、芸術作品のひとつである。 慎:どうして人を殺してはいけないの? 慎:そんな疑問は道徳の名の元に、あっさり仕舞い込まれてしまうから。 慎:僕は胸の内でうるさく鳴り響く鼓動の一部を、取り出してしまいたいと思っていた。 慎:  慎:君が僕の表面にしか興味がないのなんて、僕は初めから気付いていたんだよ。 0:少し間を空ける。 0:屋上。 奈緒:痛いのは、やっぱり嫌だな。 慎:そうだね。 奈緒:苦し過ぎるのと汚いのも。 慎:なら首吊りは外そう。 奈緒:この世で一番綺麗な死に方ってなに? 慎:そんな事を聞くの? 奈緒:なんとなく。 慎:そうだな………老衰かな。 奈緒:どうして? 奈緒:老いぼれて死ぬののどこが綺麗なの? 慎:老衰は自分の寿命を全て使い果たした感じがして、 慎:僕は美しいと思うけど? 奈緒:その理論なら私達がしようとしてる事は、 奈緒:全部汚くなっちゃうよ。 慎:そうだね。 慎:でも自死は美学では無いとは、 慎:僕は思ってはいるよ。 奈緒:美学ではない? 慎:最大級に勇気のある。 慎:最大級に醜い方法。 慎:それが自殺だと、僕はそう思う。 奈緒:そっか。 慎:あとはそうだな。 慎:誰もに残された、 慎:一番大きな逃げ道かな。 奈緒:それは分かるかな。 慎:逃げる事は悪い事じゃないって、 慎:世の中には知らない人が多すぎる。 奈緒:うん。 慎:僕はね、有澤さん。 奈緒:なに? 慎:汚く醜く、薄汚れたいんだ。 奈緒:どうして? 慎:僕がそうなる事が、 慎:あの人への最大級の仕返しだからだよ。 奈緒:あの人? 慎:……………。 奈緒:あ…………。 奈緒:そ、そうだ。 慎:? 奈緒:あの、これ。 奈緒:これあげるよ、本条くんに。 慎:マフィン? 奈緒:今日調理実習で。 慎:嗚呼、だから今日は特に見られてたのかな。 奈緒:いっぱい貰ってると思うんだけど。 慎:いいや、これが初めてかな。 奈緒:なんで? 慎:さあ? 慎:でもいつもそうだよ。 慎:だいたい昼休みか放課後だから。 奈緒:あー。 慎:まぁいいや、ありがとう。 慎:大切に食べるよ。 奈緒:うん。 0:一拍。 奈緒:(M) 奈緒:後で知った。 奈緒:本条くんは、プレゼントの類を受け取らないって。 奈緒:手紙の一枚すらも、やんわり断られるんだと。 奈緒:それなのにどうして、受け取ってくれたのか。 奈緒:その理由が分からないまま、突然本条くんは学校に来なくなった。 0:少し間を空ける。 0:ベットの上で嘔吐く慎。 慎:うっ……うぇっっ……ごほごほごほ。 慎:最悪、最悪、最悪最悪最悪最悪!! 慎:死ね………死ねよ……死ねばいい。 0:一拍。 慎:(M) 慎:香水の匂いが嫌いだ。 慎:柔らかすぎる女の身体が嫌いだ。 慎:気持ち悪くて、吐き気がして。 慎:  慎:僕を見るあの目が嫌いだ。 慎:瞳孔の中の自分が、獲物なのだと嫌でも分かるから。 慎:  慎:愛を囁く甘ったるい声が嫌いだ。 慎:お前が愛してるのは僕ではなくて、自分自身だろうに。 0:一拍。 慎:死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね………。 0:一拍。 慎:(M) 慎:僕は汚くなりたい。 慎:醜くなりたい。 慎:惨めな人間になって、この女に仕返しをしてやりたい。 0:少し間を空ける。 0:深夜の公園。 0:少しだけ離れた所で対峙する二人。 奈緒:あ、本条く……ん。 慎:何、してるの? 奈緒:散歩。 慎:僕の家の近くで? 奈緒:あ………。 慎:ストーカー?悪趣味だなぁ。 慎:別にいいけど。 奈緒:ちが、ただ心配で! 奈緒:最近学校来てないから、 慎:だから夜の公園で待ち伏せしてた? 奈緒:違う。 慎:はぁ………いいよ。 慎:君は僕の顔だけが好き。 奈緒:っっ。 慎:だけど今の僕を見れば、 慎:君はそうも思えない筈だよ。 0:奈緒、近付いてきたキスマークだらけでボロボロの慎の姿を見て驚く。 奈緒:なんで?っっ?! 慎:この痣(あざ)みたいなの何か分かる? 慎:キスマークって言うんだよ。 慎:所有印。 慎:自分の物って意味。 奈緒:誰が……こんな事。 慎:教えてあげようか? 慎:母親だよ、実の。 奈緒:っっ?! 慎:僕は亡くなった父にそっくりなんだ。 慎:母は父を愛してた。 慎:だから父が亡くなって、 慎:母はおかしくなってしまった。 奈緒:…………。 慎:毎日毎日毎日毎日泣き暮らして、 慎:ある日自分の息子を見て思ったんだ。 奈緒:…………。 慎:「あらアナタ、ここに居たのね?」って。 0:セリフを被せるようにして、慎を抱き締める奈緒。 奈緒:本条くん! 慎:僕を苗字で呼ばないでくれ!! 奈緒:慎……くん。 慎:そうだよ僕はとっくに汚れていたんだよ。 慎:身体の奥の奥まで汚れきって、 慎:洗っても洗っても綺麗にならないんだ!! 奈緒:そんな事ないよ!! 慎:君に僕の何が分かるんだ!! 奈緒:分かんないよ!!!! 慎:っっ?! 奈緒:分かんないよ……。 奈緒:分かんないけど、 奈緒:傍には居られるよ……。 慎:君が傍に居て……何になるんだ? 奈緒:なんにもなれないよ。 奈緒:だけど慎くんが押し殺して来た物を、 奈緒:吐き出すゴミ箱にはなれるよ。 慎:っっ!? 奈緒:慎くん。 0:一拍。 0:慎、奈緒を抱き締め返して少しずつ吐き出す。 慎:……ね。 奈緒:うん。 慎:死ね。 奈緒:うん。 慎:死ねばいい。 奈緒:うん。 慎:お前なんか死ね。 奈緒:うん。 慎:僕の中から出ていけ。 奈緒:うん。 慎:出ていけ……。 奈緒:うん。 0:一拍。 慎:…………もう、許してよ。 慎:…………母さん。 奈緒:うん。 慎:…………。 奈緒:………今じゃないかな? 慎:? 奈緒:死ぬの。 奈緒:今じゃないかな。 慎:あ、嗚呼……そうだね。 奈緒:何がいいかな。 慎:百合の花に、 奈緒:うん。 慎:大量の百合の花に囲まれると、 慎:眠るように死ねるんだ。 奈緒:どうして? 慎:酸欠になるから。 奈緒:そうなの? 慎:でもそこまでの百合は入手出来ないから、 慎:非現実的な方法だね。 奈緒:分かった。 慎:? 奈緒:じゃあそれにしよう。 奈緒:私達の死に方は。 慎:ほとんど実現不可能だよ? 奈緒:だから何年も掛けよう。 奈緒:付き合うから。 奈緒:ずっとずっと、付き合うから。 慎:…………。 奈緒:それまで慎くんは私が守るから、 奈緒:私の事は、 慎:僕が守るよ。 奈緒:っっ!? 奈緒:……………うん。 奈緒:…………警察行こっか。 慎:………分かった。 慎:付いてきてくれる? 奈緒:もちろん。 慎:君は僕の表面にしか興味が無いはずなのに、 慎:僕の全部が好きみたいじゃないか。 奈緒:慎くんがそう望むなら、そうするよ。 慎:それじゃまるで、 慎:僕が君に、 慎:愛を望んでるみたいだ。 0:少し間を空ける。 奈緒:やっぱ綺麗だなぁ。 慎:奈緒?また子供見てるの? 奈緒:慎くんに似て可愛いなぁって思って。 慎:僕はむしろ奈緒の方にそっくりだと思うけど。 奈緒:そうかなぁ。 慎:うん。 奈緒:いっぱい食べて、 奈緒:いっぱい寝て。 奈緒:大きくなるんだぞ~。 慎:ふふ、にしても僕達はいつ死ぬのかな。 慎:結婚して子供まで生まれちゃって。 慎:育児に追われて、 慎:百合の花にまで手は回せないし。 奈緒:さぁ? 奈緒:でも100年後には死んでるんじゃない? 慎:抜け駆け禁止だよ? 奈緒:どう言う事? 慎:先に死ぬなって事。 奈緒:慎くんの方こそ。 慎:ふふっっ。 奈緒:あははっっ。 慎:僕が言ったプロポーズの言葉覚えてる? 奈緒:忘れた事なんてないよ? 奈緒:でも、もう一回言って? 慎:分かった。 0:一拍。 慎:僕が考えるこの世で一番綺麗な死に方で、 慎:僕と一緒に死んでくれませんか? 奈緒:あはは、喜んで。