台本概要

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タイトル この思い出を花束とともに
作者名 雨宮水ノ  (@donar0731)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 魔法が存在する現代に、魔人と呼ばれるヒトとはかけ離れた存在のバケモノが人間を拾って育てた話。

*使用するにあたり*

セリフの改変、キャラの性別の変更など声劇するにあたり役者の都合がわるいものの本文の変更は、演じられるかたに一任いたします。ご自由にお読みください。作者からなにか縛りを設けるつもりはありません。

登場人物【バケモノ】の性別は不問とし、【ルカ】の性別は役者あるいは読み手の想像にお任せします。
女性の場合は[幼少期]と[青少年期]を最後まで一人で演じられてもかまわないし、男性の場合は[幼少期]を若い声が出せる方が演じ、[青少年期]をまた別の方が演じる、などのように使い分けることができるように執筆いたしました。

本文中にある[タイトルコール]を読み上げる人物は例に【ルカ(青少年期)】としていますが、あくまでも一例ですので、基本読まれる方は自由で構いません。ほかに読みたい方がいらっしゃれば人を変えていただいて結構です。不必要とおもえば読み上げないことにしても大丈夫です。



お手にとっていただき誠に感謝いたします。
本文をお楽しみいただけたら幸いです。
雨宮水ノより


ファンタジー/現代/差別/バケモノ/ヒューマンドラマ/雨宮水ノ

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
バケモノ 不問 126 自身を祀る祠に捨てられた子供を拾い育てた魔人。人間に友好的。
ルカ 不問 - (幼少期)暫定5才から15才ほどまでの幼少期のルカをさす。自身の生まれや他の人との違いに、かなり思い悩んでいる。 (青少年期):暫定15才からそれ以降の青少年期のルカをさす。以前よりかなり生き上手になり、これからも上手く生きようと大人になっていく過程にある。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
 :  バケモノ:……おや。珍しい。私の祠に、人間が大きいものを抱えてきた。  :   :  ルカ(青少年期):この思い出を花束とともに(タイトルコール)  :   :   :  ルカ(幼少期):ただいま! ヨセフ バケモノ:おかえり。怪我はないね ルカ(幼少期):うん。元気だよ。ほらみて! ちゃんと買ってきたよ バケモノ:えらいね。どれ。……(買ってきたものを見ている) バケモノ:ハハ、すごい、こんなにパンを買ってきたのかい。そんなにお金が余ったかな ルカ(幼少期):ううん。大人の人がくれたの。「買い物えらいね」って。ヨセフ、一緒にたべよ? バケモノ:ああ、今夜はごちそうだ ルカ(幼少期):今日は何をたべるの? バケモノ:今日は鹿肉のシチューだ ルカ(幼少期):やった! バケモノ:手を洗ってきなさい ルカ(幼少期):もう洗った! ねえヨセフ、お腹すいた! バケモノ:早いなあ。そうだな、ちょっと手伝ってもらおうか。台所の番はできるね? シチューはもう少し煮なくちゃいけないからこれを見ていてほしい。私は外に置いてる薪をもってこよう ルカ(幼少期):はーい!  :  ルカ(幼少期):ヨセフって変だなぁ。こんなの、魔法でチョイッとやっちゃえばいいのに。物を運ぶのも、火を起こすのも、明かりをつけるのも、料理も全部。だって、ヨセフは全部できるよ。でもしないの。へんなの ルカ(幼少期):そういえば昔ヨセフが寝る前に話してくれたお話のなかに「火に寄り添う妖精のはなし」って言うのがあったな。人の家に住みついた妖精が、目にはみえないけれど、人に尽くしてくれた話。うちにもいるのかなぁ。ご飯が焦げないように火加減を調節して、家が寒くならないようにずっと暖かくしてくれる妖精。 ルカ(幼少期):この家も、夏は涼しくて冬は暖かいもんね。本当にいるのかな。僕にはみえないけれど、ヨセフならみえるかな。だってヨセフは、人間じゃないから。 ルカ(幼少期):ドアよりもおおきい体に、泥で作った大きい五本指、骨の背中、変な形の足…… ルカ(幼少期):ヨセフは、妖精なのかな。僕のまえにしか現れない妖精。 ルカ(幼少期):ヒヒ、それって、ちょっとかっこいい  :  バケモノ:ただいまルカ。大丈夫だった? ルカ(幼少期):おかえり! 大丈夫だったよ。早く食べよう! バケモノ:そうだな。ルカ、買ってきたパンをプレートにならべてくれ。私はシチューをよそう ルカ(幼少期):沢山のせちゃおー! いっこ、にこ、さんこ、よんこ バケモノ:食べ過ぎて夜寝られなくなってもしらないぞ ルカ(幼少期):いいもん! 今日もヨセフとたくさんお話するから! バケモノ:そうかそうか。ほらルカ、シチューだ ルカ(幼少期):わー!! たべていい? バケモノ:ああ ルカ(幼少期):(食べる) ルカ(幼少期):おいしい! バケモノ:それはよかった ルカ(幼少期):あ、ヨセフ聞いてきいて、あのね__  :   :   :  0:月日は経つ。ルカは小学校に入学した。そこからまた数年経っている。 ルカ(幼少期):ただいま。ヨセフ バケモノ:おかえり、ルカ。どうしたその顔は、今日も学校は楽しくなかったか ルカ(幼少期):うん。 ルカ(幼少期):ねえヨセフ。【マジシャン】って、なに バケモノ:…… ルカ(幼少期):昨日、転校してきた女の子に言われたんだ。「あの子、マジシャンじゃん」って。それで、みんな笑ってた バケモノ:……マジシャンとは、魔女や、魔法使いのように、毎日魔法をつかって生活をしている人のことをいう。悪口として ルカ(幼少期):魔法って、つかっちゃいけないの? バケモノ:つかっていい。みんな使えるものだ。ただ、むずかしい事情があるんだよ ルカ(幼少期):むずかしい事情? バケモノ:人間界では、肌が白かったり、黒かったりするだけで差別をされる。信じている神や経典がちがうだけで差別をされる。それと一緒なんだ。いまだ理屈は誰もしらない【魔法】をつかって生活をする人、日々進化しつづける人類の英知【科学】をつかって生活をする人、たったそれだけの違いでその人の性格を決めつけて嫌っている。人間はいまだ人を差別せずにはいられない ルカ(幼少期):…… バケモノ:この地域は、たまたま魔法派を差別する人ばかりだった。それだけだ。魔法を使う事は悪い事じゃない。 ルカ(幼少期):……わるいことじゃないの? バケモノ:もちろん ルカ(幼少期):そっか。よかった バケモノ:でも外ではあんまり魔法は使わないように ルカ(幼少期):どうして? 悪い事じゃないのに バケモノ:人には持ってる魔力量が違うんだ。私とルカでは、魔法がつかえる時間とか、できることがちがうだろ? 友達もそうなんだ。できないことを笑う人にならないように、魔法は生活の便利さのために使うんじゃなくて、人を救うために使いなさい ルカ(幼少期):……わかった バケモノ:そうだ。明日は学校をやすもう。明日は教科書を一緒に読んで、ふたりで勉強をする日にするんだ ルカ(幼少期):……いいの? バケモノ:もちろん。嫌なことがあったら逃げてもいいんだ。でも約束、明後日は学校へいくこと。いいかい? ルカ(幼少期):……うん バケモノ:いい子だ  :   :   :  バケモノ:小学校卒業おめでとう、ルカ ルカ(幼少期):ありがとうヨセフ。 バケモノ:まだ日が出ているうちに帰ってきてよかったのかい。友人と最後につもる話でもあったでしょう ルカ(幼少期):ううん、よかったの。最後じゃないから。多分、またあえるもん バケモノ:そうか ルカ(幼少期):…… ルカ(幼少期):あーあ。くやしいけど、楽しかったな、学校。 バケモノ:それならよかった。 ルカ(幼少期):うん。またどこかでみんなと会いたい バケモノ:会えるとも ルカ(幼少期):そうかな バケモノ:ほら、いつまでそこにいるんだ。荷物はもう降ろして、家でゆっくりしよう。晩ご飯までまだ時間がある。私と学校の思い出話でもしようじゃないか ルカ(幼少期):ヨセフはいっつもそれだよなー。うん。いいよ。友人の面白い話してあげる  :   :   :  0:ルカは成長した。小学校を卒業し、中学一年生も終盤に差し掛かっている。 バケモノ:……ルカ? なぜここにいる。中学校はどうした。この時間は学校にいるはずだろう ルカ(幼少期):……僕いかない バケモノ:じゃあ明日は? 明日はいってくれるだろうな? ルカ(幼少期):しらない バケモノ:おい、おいルカ! ルカ(幼少期):いやだ! いきたくないからいきたくないの!! バケモノ:いきなさい! 学校のなにが気にくわなかったんだ? ただ行ってきて、勉強して、帰ってくるだけじゃないか。道のりがながいか? 歩くのがめんどくさいか。それとも授業に追いつけないのか? 私ならなんとかしてやれるだろう。ほら、いってみなさい。いつもみたいに、 ルカ(幼少期):ちがう、ちがうよヨセフ、そんなんじゃないんだ バケモノ:じゃあどうして ルカ(幼少期):……なんでヨセフはいっつも学校、がっこうって、勉強ってそんなに大事なの? 学校って、辛い思いしてまで行かなきゃいけないの? バケモノ:つらい? ルカ(幼少期):ねえ、ヨセフ、僕ってどうしてここで生活してるの? バケモノ:…… ルカ(幼少期):僕は、どうしてここで、一人で暮らしてるの? 僕の、おかあさんとおとうさんって、どこにいっちゃったの? どうして僕は、人間なの? ねえなんで ルカ(幼少期):そもそも僕ってほんとうに人間なの? 僕って、何者なの ルカ(幼少期):ヨセフならなんでも知ってるだろ! なあ! なんで黙るの! バケモノ:それは…… ルカ(幼少期):ヨセフは魔人なんでしょ、人間じゃない。ほら、なんでも喋ってよ。ずっと生きてるんでしょ。いつもみたいにお話してよ、ねえ、僕、ぼく ルカ(幼少期):……もうわかんない、なんにもわかんないんだ バケモノ:…… ルカ(幼少期):……もう放っておいて、バケモノ バケモノ:ルカ、どこへいくんだ、 ルカ(幼少期):どっか。ついてこないで 0:そうしてルカはどこかへいってしまった。 0:バケモノは追わなかった。これからどうすればいいだろう。頭を垂れて、うなだれた。そしてしばらくそこにいて、日が落ちたころに二人の家に帰った。もちろんそこにルカはいなかった。  :  バケモノ:学校でなにかあったんだろう。嫌だから行きたくなくなったんだ。嫌なのに私がそれを押し付けようとしてしまったから癇癪(かんしゃく)を起こして、爆発した。 バケモノ:悩みの内訳を察するに、人間関係がうまくいってない可能性がたかい。小学校もそうだった。そうだ、集団生活をする動物はそこに馴染めない動物を排除する傾向にある。とりわけ人間、それも子供はとくに残酷だ。なぜなら本人たちは【なぜそれが悪いことなのかわからない】ことが多いからだ。【周りの人が悪いというから一緒に悪いと言う】子がおおい。そして生物が集団で暮らすにおいて【悪を用意する】というのはとても都合がいい。統率が取りやすくなるからだ。 バケモノ:きっとルカはちょうどよかった。そして餌食にされ、ルカは傷心した。 バケモノ:癒してやりたいが、人間ではない私が癒したところで、人間に対する嫌悪感をどうにかできると思えない。人間が付けた傷は、人間が癒さねばなるまい。でなければ傷はただウんでいくだけ。 バケモノ:私はルカに人として生きてほしいんだ、もらった命をただ後悔がないように使ってほしいだけなのに。 バケモノ:ああ、どうしよう……困ったな……  :  0:同日、夜も遅くなり月や星が完全に出てくる時間にルカは帰ってきた。 バケモノ:ルカ? ルカ! おかえり、外は寒かっただろう。暖炉をつけている。こちらへ ルカ(幼少期):…… バケモノ:ルカ? ルカ(幼少期):……なんでもない 0:ルカは言われた通り暖炉に寄った。ヨセフが椅子を指さすので、そこに座った。 バケモノ:学校で、なにかあったか ルカ(幼少期):…… バケモノ:何かあったんだな。 バケモノ:どうか私に、学校でなにが起きてるか教えてくれないか。話せば楽になるだろう。それに、私だって、あまりに酷いようだったらなにかしてやれる。 ルカ(幼少期):…… バケモノ:どうだ ルカ(幼少期):…… ルカ(幼少期):「親なし、家無し、お金なし」だって、言われた。それで、マジシャンだってみんな虐めるんだ。「おまえ国民の人間じゃないんだろ」、「ホームレスなんだろ」って、…… ルカ(幼少期):それでみんな言うんだ。「お前は変だ」……どうしてヘンって言われなくちゃいけないの。僕、ふつうに生活してるだけなのに。 バケモノ:…… ルカ(幼少期):ぼく、いままでヨセフのこと、親だと思ってた。でも町にいる人はみんな「お父さん」と「お母さん」がいる。物心ついてからこの家にいて、ヨセフと一緒に暮らして、ヨセフはやさしくて、ここで暮らすのはすごく楽しい。だけど、町に下りてみんなと一緒にいると、なんか、変だって思うんだ。だって、変だ。僕、いろんなところがみんなと違う…… ルカ(幼少期):ねえヨセフ、ぼくって本当に人間なの? ウソついてない? バケモノ:嘘はついていない。ルカは立派な人間だ ルカ(幼少期):ヨセフが作ったツチ人形とかじゃないの? バケモノ:ちがう ルカ(幼少期):じゃあどうして僕には両親がいないの? バケモノ:…… 0:ルカはじっとバケモノを見た。バケモノは言い淀んでいるようだった。 バケモノ:……いまから、話をしよう バケモノ:私は魔人だ。魔人にはたいてい、その住みついた土地に祠を作ってもらう話はしたな? ルカ(幼少期):う、うん。祠を作ることでその対象になる魔人をあがめる文化でしょ バケモノ:そうだ。私の祠は森の出口にある。いつも見ているな ルカ(幼少期):うん バケモノ:むかし、人間が一人その祠にやってきた。大きいものを抱えていた。……祠につくと、それを置いて立ち去って行ったんだ。おいていかれたのは生まれたばかりの人間だった。 バケモノ:それが、お前だよ。ルカ ルカ(幼少期):…… バケモノ:人間は夜にやってきた。年若い人間のようだった。今ならわかる、あれは、大人じゃなかった。事情があっておまえを産み、そして事情があって育てられなかったんだろう。だから人里離れた私の祠に人間を捨てたんだ。私はその日、この生まれたばかりの人間を育てようと思った ルカ(幼少期):どうして?  バケモノ:…… バケモノ:ほんの、好奇心だ。 バケモノ:私は人間が大好きだった。いまでもよく覚えている。大昔、全身に毛を生やした動物が、興味津々に私をみつめ、たより、ともに集落を築いたあの日々を ルカ(幼少期):え? バケモノ:あの種族には文字がなかった。理性もあまりなく、それは死ねばそのままだ。まさに動物と変わらない暮らしをしていた。しかし頭がよかったんだろう。あったものを組み合わせて道具を作り、上手に生きていた。私は不思議な動物がいると思って、ずっと観察していたんだ。 バケモノ:ずっとその種族を観察していると、あっという間に月日がたち時代が変わった。その種族は進化を繰り返し、やがて文字を覚え考えを持ち、規律や思想を重んじ始めた。後になってそれに人間という名前がついた。私は、素晴らしいと思った。この種族の繁栄を見届けたいと思ったんだ。 ルカ(幼少期):…… バケモノ:そこから私は生きてきた。人の世では戦争は何度も起こったし、そのたびに平和が訪れた。私はまた人の世を観察している、今が平和の時だ。そしてルカを拾った。 バケモノ:私は、人間は好きでも、生まれてきた人間すべてを救おうとは思わない。それはあまりにも愚かな行為だ。私たちは神様ではない。私たちはただこの世界に意思をもって生まれ、明日を気ままに暮らしている旅人にすぎない。魔人は世界の秩序に干渉できる能力をもっていない。でも、せっかく生まれたのに祠に捨てられて、抗う事なくただ消えるしかない人間に、なにもしないほど卑怯には、私はなれなかった。おまえを初めて抱いたとき、どうにかしてやりたいと思った ルカ(幼少期):……ころさな、かったの バケモノ:いきたいんじゃないかな、と思った。私が拾って、祠を管理する人間に渡してしまえばいいとも思った。でも、捨てられた人間をすぐに人の世に降ろしていいのかわからなかった。捨ててきた人間が罪に問われるんじゃないかとおもったんだ。それか、私が人を攫ったとして攻撃されるとも思った。でもそれ以上に、人間を育ててみたいとも思った。だから祠の管理者には報告と、戸籍だけ用意した。私がわがままをいってお前をここに置いてるんだ ルカ(幼少期):…… バケモノ:……やはり、人間と暮らしたいか ルカ(幼少期):…… バケモノ:私から管理者に掛け合おう。あの家はさいわい、私にかなり友好的だ。おまえのことも知っている。訳を話せば、うまくやってくれるだろう ルカ(幼少期):……ぼく、ここにいる バケモノ:……そうか ルカ(幼少期):さっきはごめんなさい。バケモノなんて言って バケモノ:事実だ、おまえと私とじゃなにもかも違う。でも、一緒にいきていける。そして、おまえはここまで頑張って育ってきた。私はそれがうれしいよ バケモノ:悩み事は解決しそうか ルカ(幼少期):……。なんか、どうでもよくなっちゃった バケモノ:そうなのか? ルカ(幼少期):それより、もっとお話してよ。ヨセフがそんなに長生きしてるなんて知らなかったから、もっと沢山話をききたい。なにがあったとか、いままでどんなことがおきたとか。そうだ、仲間の魔人とかいないの? いろんなこと知りたい バケモノ:そうか、いいだろう。 バケモノ:それよりお腹が空いているんじゃないか、夜遅いが、今からポタージュを入れてきてやろう ルカ(幼少期):うん バケモノ:パンはいるか? 前に一緒に焼いたものがまだある ルカ(幼少期):うん。食べる バケモノ:そうか。座って、まってていなさい ルカ(幼少期):……ありがとう。ヨセフ  :   :   :  0:月日が経過した。ルカは高校生になった。 ルカ(青少年期):ヨセフ。ただいま。……また寝てるの? おーい。帰ったよ バケモノ:……ああ、おかえり、ルカ ルカ(青少年期):最近ずっと寝てるね。生き続けて疲れちゃった? でもそういうの魔人にあるのかな。ねえヨセフ、今日なにからやればいい? ご飯? まき割り? 掃除? バケモノ:アア……、まき割りをお願いしよう。それと、家のなかにある薪ももうないから、外からすこしもってきてほしい。家事は私がやろう ルカ(青少年期):大丈夫? できる? バケモノ:まかせなさい。今晩は何が食べたい ルカ(青少年期):シチュー! バケモノ:お前は毎日それだな ルカ(青少年期):大好きなんだ。ヨセフのシチュー バケモノ:それは、よかった  :  0:食事中である。ルカはいつもどおり食べているが、バケモノは以前に比べ動きが鈍い。 ルカ(青少年期):……ねえヨセフ。僕になんか隠し事してない? バケモノ:隠し事? ルカ(青少年期):そう バケモノ:隠し事は……ないな ルカ(青少年期):本当? ルカ(青少年期):ならいいんだけど  :   :   :  ルカ(青少年期):ただいま、ヨセフ。……ヨセフ、また寝てるの?  :  ルカ(青少年期):ただいま! ヨセフ、遅くなっちゃって、……寝てるの? もう夜中だよ。夜中だからか ルカ(青少年期):え、ご飯の準備、してない。ていうか皿とか暖炉とか朝からなにも変わってない。……ずっと寝てたの?  :  ルカ(青少年期):……。(そっと家に帰ってくる) ルカ(青少年期):ただいまー。(小声) ルカ(青少年期):やっぱり寝てる。  :  ルカ(青少年期):ただいまー。  :  ルカ(青少年期):たーっだいまー。……、まだ寝てる。  :  バケモノ:……? ルカ(青少年期):あ、 バケモノ:……ルカ? ルカ(青少年期):お、おはよう、ヨセフ バケモノ:おは、よう? ルカ(青少年期):ヨセフ、知らないかもしれないけど、今回丸3日寝てたんだよ バケモノ:…… ルカ(青少年期):なぁに、最近ほんとに眠そうだね。魔人だから、魔力不足? 僕がわけてあげようか。でも分け方しらね。ヘヘ バケモノ:…… ルカ(青少年期):ねえ、やっぱり、なんかあるんでしょ。話してよ バケモノ:……ただ、眠いだけだ ルカ(青少年期):そう? そうだ、久々に起きたんだから僕の話聞いてよ。あのね、最近始業式があって、2年生になったんだ。友達とクラスは離れちゃったんだけど。昨日さ、移動教室で隣の席の子と仲良くなって__  :   :   :  0:月日は経過した。 バケモノ:…… ルカ(青少年期):ヨセフ、おはよう バケモノ:……おはよう。ルカ ルカ(青少年期):久々に声きいた。そんな声だったっけ バケモノ:おまえも、ずいぶん大人しい声になったな ルカ(青少年期):えーそう? 変わんないとおもうけどなぁ。でもうれしいよ ルカ(青少年期):ねえヨセフ。 バケモノ:…… ルカ(青少年期):ヨセフは、死んじゃうの? バケモノ:……魔人は、死なない ルカ(青少年期):じゃあ最近どうしたの? ヨセフ、知らないみたいだから言うけど、今回半月くらい寝てたんだよ バケモノ:そんなに? ルカ(青少年期):そんなに ルカ(青少年期):ねえ、ヨセフの体に何が起きてるか、そろそろ教えてくれない? バケモノ:……  :  バケモノ:ルカは、学校で、魔法生物学についてどれくらい習った ルカ(青少年期):魔法生物学は古代の授業だね。僕は現代を主にやってるから、古代の選択授業は取れない バケモノ:そうか バケモノ:魔人と、人間をはじめとする生き物の主な違いは、己がこの世界で生き続けるための力をどれほどもっているかになる。私は、魔力ではないこの【生きたい力】を、生命エネルギーと呼ぶことにした。 バケモノ:動物は、生命エネルギーが魔力に比べてかなり多い。それに対して魔人はその逆だ。生命エネルギーはどの動物に比べても限りなく少ない。ただしその保有量は魔人の生い立ちに左右される。私は、魔人のなかでも多く蓄えられるほうだ ルカ(青少年期):それで? バケモノ:私が蓄えている生命エネルギーが、もうほとんどないんだ。毎日飯を喰って、運動して、寝れば少しは回復するが、慰め程度のものでしかない ルカ(青少年期):……どうにか、ならないの? バケモノ:難しいな。魔力とは勝手が違う。使うときに消えるものじゃない。生きていると消えるものだ ルカ(青少年期):……ヨセフは死んじゃうってこと? バケモノ:魔人は死なない ルカ(青少年期):…… バケモノ:いま、昼か。学校はどうした ルカ(青少年期):ああ、いま、長期休みで、学校はないよ バケモノ:そうだったのか。そうか バケモノ:どれ、ひさびさに起きたことだし、なにかしよう。お菓子はどうだ。クッキーを作ってやろう ルカ(青少年期):うん。ありがとう、ヨセフ  :  ルカ(青少年期):魔人は、死なない ルカ(青少年期):ほんとうに?  :   :   :  バケモノ:……アア ルカ(青少年期):ヨセフ? バケモノ:……ルカ ルカ(青少年期):あ、おは、よう、ちょっとまってて バケモノ:…… ルカ(青少年期):はい、これ バケモノ:花? なにか、めでたいことでもあったか ルカ(青少年期):過ぎたけど、バレンタインのプレゼント。知ってる? 人間には一年のうちに誕生日とクリスマス以外のめでたい日をつくって祝うんだ。バレンタインっていうのもその一つで、簡単にいうと好きな人に贈り物をする日なんだけど バケモノ:……そんな日があったのか ルカ(青少年期):うん。だから花、あげる。あとこれも バケモノ:本か? ルカ(青少年期):そう、僕のいままでの思い出を、思いつく限り書いたんだ。これもあげる バケモノ:どうした? なん、なにかあったか ルカ(青少年期):なにかあるのはヨセフだよ。もう長くないでしょ バケモノ:??? ルカ(青少年期):だって! 今回3か月も寝てたんだよ? ずっとひとりで過ごした僕の気持ちわかる!? ルカ(青少年期):心配した。ほんとに、二度と目を覚まさないんじゃないかって バケモノ:…… ルカ(青少年期):もう長くないんでしょ。だから、プレゼント、これ、もらって。ヨセフの欲しいものがわからなかったから、いままでの僕の思い出を書いたんだ。これ、あとで一緒に読もう バケモノ:……魔人は、死なないぞ? ルカ(青少年期):嘘ばっかり。寿命でしょ。生命エネルギーがなくなってきてるって前いってたじゃんか バケモノ:私たち魔人が存在し続けるのにつかっているのは生命エネルギーじゃない。どの動物にもない【コア】と呼ばれるものだ。これが破壊されない限り死なない ルカ(青少年期):ハァ? バケモノ:生命エネルギーが枯渇すると、動物で言う冬眠のような期間に入る。生命活動をやめてエネルギーがある程度補填(ほてん)されるまで眠るんだ ルカ(青少年期):……  :  ルカ(青少年期):バカ!!!!! ヨセフのバカ!!!!! もうしらない!!!!! 僕がこの数年間どんな思いで暮らしてたかも知らないくせに!!!!!! バケモノ:ルカ!? どこいくんだ!!!! ルカ(青少年期):家出!!!!!!!!!!  :  バケモノ:あ、お、おかえりルカ。どうした忘れ物か ルカ(青少年期):せっかくヨセフが起きたのにまた喧嘩するの嫌だとおもって帰ってきた。 ルカ(青少年期):お腹すいてない? ずっっっと寝てるから僕はいっっっつも一人分のごはんしか用意してないけど、僕ってやさしいから、いまから作ってあげるよ バケモノ:ありがとう。……ルカ、学校は?? ルカ(青少年期):卒業したからもうないの!!!!! バケモノ:進学は? ルカ(青少年期):就職するからしないの!!!!! バケモノ:そうか……  :   :   :  0:月日は経った。ルカは大人になった。 バケモノ:……ルカ、おかえり ルカ(青少年期):ただいま。よかった。今日も起きてた バケモノ:今日発つんだろう ルカ(青少年期):そんでヨセフは今日なんでしょ バケモノ:ああ、もう思い切ってやったほうがいいとおもってな ルカ(青少年期):…… バケモノ:おまえが大きくなるまで待てるとおもってたんだ。親が大人になるまでにいなくなるのは、つらいとおもって。高校のときは毎日たのしそうだったから、黙ったほうがいいとおもってたが……、重荷になったようだな。いままで迷惑かけた ルカ(青少年期):…… ルカ(青少年期):ハハ、やっとかよ。あーあ、待ちくたびれた バケモノ:待たせたか ルカ(青少年期):嘘。今日なんて来なきゃいいって思ってた ルカ(青少年期):ヨセフ、僕が前にあげたのは持った? 日記と、造花と、あとであげた写真 バケモノ:ああ、もっているよ ルカ(青少年期):写真がダメにならないようにしたんだからちゃんともっててよね。それで、僕のこと、ずっと忘れないでね。だって、今回はヨセフが先に寝ちゃうけど、次に起きるころには僕はいないんだよ? ヨセフが死ぬまで続く人生のちょっとしたときに、バケモノに拾われて救われた子供がいたってこと、覚えていてほしいんだ バケモノ:…… ルカ(青少年期):それで、どこで寝るの? 祠のなか? 森の奥? バケモノ:この家だ。この家のなかで眠りたい ルカ(青少年期):……うん。わかった。わかりやすくていいね バケモノ:……この20年あまり、あっというまだった ルカ(青少年期):ヨセフ、ずっとそればっか バケモノ:思い出を噛みしめているんだ ルカ(青少年期):うー、も、もうつらいだろ。さっさと寝ちゃいなよ バケモノ:こころ残りはおまえの今後だ ルカ(青少年期):…… バケモノ:辛くなったら帰ってきていい。私は起きてないが、この家で暮らしたっていいんだ。どうやらお前は、人間にいじめられやすいみたいだから ルカ(青少年期):そんなことないよ。僕のこころが弱かっただけだ。ヨセフのおかげでこれからも人間として生きていける。知らないかもしれないけど、僕って人気者なんだよ。友達沢山いるし、勉強頑張ったから頭もいいんだ。 ルカ(青少年期):てか、ほんと僕のこと好きだよねぇ。僕もう就職してるんだよ? 働いて何年だとおもってるの。しかも去年、職場にちかいところに住むっていって引っ越したじゃないか。ボケちゃった? ルカ(青少年期):…… バケモノ:…… ルカ(青少年期):もう、ねむい? バケモノ:ああ ルカ(青少年期):おやすみ、ヨセフ。いままで育ててくれてありがとう。ヨセフのもとに生まれてこれてよかった。 ルカ(青少年期):愛してるよ。 バケモノ:……フ 0:さいごにバケモノはわらった。  :   :   :  ルカ(青少年期):そこからヨセフは、もとからそこにあった置物のようになった。体じゅうにつけた土くれは重力にしたがって落ちた。魔力で支えていたから、その力もなくなってしまったんだろう。まるで、教科書で見た動物の化石のような姿だった。 ルカ(青少年期):僕はしばらくヨセフを見つめていた。見つめて、涙がこぼれた。泣いて、泣き終わるころに家を出た。走るように町に向かった。でないと、また足が止まって、今度は倒れると思ったから。 ルカ(青少年期):これが僕の人生だ。これでよかった。これがよかった。ヨセフからいろんなものをもらった。溢れるほどもらったんだ ルカ(青少年期):僕は幸せものだ。  :   :   :   :   :  0:贈  : 

 :  バケモノ:……おや。珍しい。私の祠に、人間が大きいものを抱えてきた。  :   :  ルカ(青少年期):この思い出を花束とともに(タイトルコール)  :   :   :  ルカ(幼少期):ただいま! ヨセフ バケモノ:おかえり。怪我はないね ルカ(幼少期):うん。元気だよ。ほらみて! ちゃんと買ってきたよ バケモノ:えらいね。どれ。……(買ってきたものを見ている) バケモノ:ハハ、すごい、こんなにパンを買ってきたのかい。そんなにお金が余ったかな ルカ(幼少期):ううん。大人の人がくれたの。「買い物えらいね」って。ヨセフ、一緒にたべよ? バケモノ:ああ、今夜はごちそうだ ルカ(幼少期):今日は何をたべるの? バケモノ:今日は鹿肉のシチューだ ルカ(幼少期):やった! バケモノ:手を洗ってきなさい ルカ(幼少期):もう洗った! ねえヨセフ、お腹すいた! バケモノ:早いなあ。そうだな、ちょっと手伝ってもらおうか。台所の番はできるね? シチューはもう少し煮なくちゃいけないからこれを見ていてほしい。私は外に置いてる薪をもってこよう ルカ(幼少期):はーい!  :  ルカ(幼少期):ヨセフって変だなぁ。こんなの、魔法でチョイッとやっちゃえばいいのに。物を運ぶのも、火を起こすのも、明かりをつけるのも、料理も全部。だって、ヨセフは全部できるよ。でもしないの。へんなの ルカ(幼少期):そういえば昔ヨセフが寝る前に話してくれたお話のなかに「火に寄り添う妖精のはなし」って言うのがあったな。人の家に住みついた妖精が、目にはみえないけれど、人に尽くしてくれた話。うちにもいるのかなぁ。ご飯が焦げないように火加減を調節して、家が寒くならないようにずっと暖かくしてくれる妖精。 ルカ(幼少期):この家も、夏は涼しくて冬は暖かいもんね。本当にいるのかな。僕にはみえないけれど、ヨセフならみえるかな。だってヨセフは、人間じゃないから。 ルカ(幼少期):ドアよりもおおきい体に、泥で作った大きい五本指、骨の背中、変な形の足…… ルカ(幼少期):ヨセフは、妖精なのかな。僕のまえにしか現れない妖精。 ルカ(幼少期):ヒヒ、それって、ちょっとかっこいい  :  バケモノ:ただいまルカ。大丈夫だった? ルカ(幼少期):おかえり! 大丈夫だったよ。早く食べよう! バケモノ:そうだな。ルカ、買ってきたパンをプレートにならべてくれ。私はシチューをよそう ルカ(幼少期):沢山のせちゃおー! いっこ、にこ、さんこ、よんこ バケモノ:食べ過ぎて夜寝られなくなってもしらないぞ ルカ(幼少期):いいもん! 今日もヨセフとたくさんお話するから! バケモノ:そうかそうか。ほらルカ、シチューだ ルカ(幼少期):わー!! たべていい? バケモノ:ああ ルカ(幼少期):(食べる) ルカ(幼少期):おいしい! バケモノ:それはよかった ルカ(幼少期):あ、ヨセフ聞いてきいて、あのね__  :   :   :  0:月日は経つ。ルカは小学校に入学した。そこからまた数年経っている。 ルカ(幼少期):ただいま。ヨセフ バケモノ:おかえり、ルカ。どうしたその顔は、今日も学校は楽しくなかったか ルカ(幼少期):うん。 ルカ(幼少期):ねえヨセフ。【マジシャン】って、なに バケモノ:…… ルカ(幼少期):昨日、転校してきた女の子に言われたんだ。「あの子、マジシャンじゃん」って。それで、みんな笑ってた バケモノ:……マジシャンとは、魔女や、魔法使いのように、毎日魔法をつかって生活をしている人のことをいう。悪口として ルカ(幼少期):魔法って、つかっちゃいけないの? バケモノ:つかっていい。みんな使えるものだ。ただ、むずかしい事情があるんだよ ルカ(幼少期):むずかしい事情? バケモノ:人間界では、肌が白かったり、黒かったりするだけで差別をされる。信じている神や経典がちがうだけで差別をされる。それと一緒なんだ。いまだ理屈は誰もしらない【魔法】をつかって生活をする人、日々進化しつづける人類の英知【科学】をつかって生活をする人、たったそれだけの違いでその人の性格を決めつけて嫌っている。人間はいまだ人を差別せずにはいられない ルカ(幼少期):…… バケモノ:この地域は、たまたま魔法派を差別する人ばかりだった。それだけだ。魔法を使う事は悪い事じゃない。 ルカ(幼少期):……わるいことじゃないの? バケモノ:もちろん ルカ(幼少期):そっか。よかった バケモノ:でも外ではあんまり魔法は使わないように ルカ(幼少期):どうして? 悪い事じゃないのに バケモノ:人には持ってる魔力量が違うんだ。私とルカでは、魔法がつかえる時間とか、できることがちがうだろ? 友達もそうなんだ。できないことを笑う人にならないように、魔法は生活の便利さのために使うんじゃなくて、人を救うために使いなさい ルカ(幼少期):……わかった バケモノ:そうだ。明日は学校をやすもう。明日は教科書を一緒に読んで、ふたりで勉強をする日にするんだ ルカ(幼少期):……いいの? バケモノ:もちろん。嫌なことがあったら逃げてもいいんだ。でも約束、明後日は学校へいくこと。いいかい? ルカ(幼少期):……うん バケモノ:いい子だ  :   :   :  バケモノ:小学校卒業おめでとう、ルカ ルカ(幼少期):ありがとうヨセフ。 バケモノ:まだ日が出ているうちに帰ってきてよかったのかい。友人と最後につもる話でもあったでしょう ルカ(幼少期):ううん、よかったの。最後じゃないから。多分、またあえるもん バケモノ:そうか ルカ(幼少期):…… ルカ(幼少期):あーあ。くやしいけど、楽しかったな、学校。 バケモノ:それならよかった。 ルカ(幼少期):うん。またどこかでみんなと会いたい バケモノ:会えるとも ルカ(幼少期):そうかな バケモノ:ほら、いつまでそこにいるんだ。荷物はもう降ろして、家でゆっくりしよう。晩ご飯までまだ時間がある。私と学校の思い出話でもしようじゃないか ルカ(幼少期):ヨセフはいっつもそれだよなー。うん。いいよ。友人の面白い話してあげる  :   :   :  0:ルカは成長した。小学校を卒業し、中学一年生も終盤に差し掛かっている。 バケモノ:……ルカ? なぜここにいる。中学校はどうした。この時間は学校にいるはずだろう ルカ(幼少期):……僕いかない バケモノ:じゃあ明日は? 明日はいってくれるだろうな? ルカ(幼少期):しらない バケモノ:おい、おいルカ! ルカ(幼少期):いやだ! いきたくないからいきたくないの!! バケモノ:いきなさい! 学校のなにが気にくわなかったんだ? ただ行ってきて、勉強して、帰ってくるだけじゃないか。道のりがながいか? 歩くのがめんどくさいか。それとも授業に追いつけないのか? 私ならなんとかしてやれるだろう。ほら、いってみなさい。いつもみたいに、 ルカ(幼少期):ちがう、ちがうよヨセフ、そんなんじゃないんだ バケモノ:じゃあどうして ルカ(幼少期):……なんでヨセフはいっつも学校、がっこうって、勉強ってそんなに大事なの? 学校って、辛い思いしてまで行かなきゃいけないの? バケモノ:つらい? ルカ(幼少期):ねえ、ヨセフ、僕ってどうしてここで生活してるの? バケモノ:…… ルカ(幼少期):僕は、どうしてここで、一人で暮らしてるの? 僕の、おかあさんとおとうさんって、どこにいっちゃったの? どうして僕は、人間なの? ねえなんで ルカ(幼少期):そもそも僕ってほんとうに人間なの? 僕って、何者なの ルカ(幼少期):ヨセフならなんでも知ってるだろ! なあ! なんで黙るの! バケモノ:それは…… ルカ(幼少期):ヨセフは魔人なんでしょ、人間じゃない。ほら、なんでも喋ってよ。ずっと生きてるんでしょ。いつもみたいにお話してよ、ねえ、僕、ぼく ルカ(幼少期):……もうわかんない、なんにもわかんないんだ バケモノ:…… ルカ(幼少期):……もう放っておいて、バケモノ バケモノ:ルカ、どこへいくんだ、 ルカ(幼少期):どっか。ついてこないで 0:そうしてルカはどこかへいってしまった。 0:バケモノは追わなかった。これからどうすればいいだろう。頭を垂れて、うなだれた。そしてしばらくそこにいて、日が落ちたころに二人の家に帰った。もちろんそこにルカはいなかった。  :  バケモノ:学校でなにかあったんだろう。嫌だから行きたくなくなったんだ。嫌なのに私がそれを押し付けようとしてしまったから癇癪(かんしゃく)を起こして、爆発した。 バケモノ:悩みの内訳を察するに、人間関係がうまくいってない可能性がたかい。小学校もそうだった。そうだ、集団生活をする動物はそこに馴染めない動物を排除する傾向にある。とりわけ人間、それも子供はとくに残酷だ。なぜなら本人たちは【なぜそれが悪いことなのかわからない】ことが多いからだ。【周りの人が悪いというから一緒に悪いと言う】子がおおい。そして生物が集団で暮らすにおいて【悪を用意する】というのはとても都合がいい。統率が取りやすくなるからだ。 バケモノ:きっとルカはちょうどよかった。そして餌食にされ、ルカは傷心した。 バケモノ:癒してやりたいが、人間ではない私が癒したところで、人間に対する嫌悪感をどうにかできると思えない。人間が付けた傷は、人間が癒さねばなるまい。でなければ傷はただウんでいくだけ。 バケモノ:私はルカに人として生きてほしいんだ、もらった命をただ後悔がないように使ってほしいだけなのに。 バケモノ:ああ、どうしよう……困ったな……  :  0:同日、夜も遅くなり月や星が完全に出てくる時間にルカは帰ってきた。 バケモノ:ルカ? ルカ! おかえり、外は寒かっただろう。暖炉をつけている。こちらへ ルカ(幼少期):…… バケモノ:ルカ? ルカ(幼少期):……なんでもない 0:ルカは言われた通り暖炉に寄った。ヨセフが椅子を指さすので、そこに座った。 バケモノ:学校で、なにかあったか ルカ(幼少期):…… バケモノ:何かあったんだな。 バケモノ:どうか私に、学校でなにが起きてるか教えてくれないか。話せば楽になるだろう。それに、私だって、あまりに酷いようだったらなにかしてやれる。 ルカ(幼少期):…… バケモノ:どうだ ルカ(幼少期):…… ルカ(幼少期):「親なし、家無し、お金なし」だって、言われた。それで、マジシャンだってみんな虐めるんだ。「おまえ国民の人間じゃないんだろ」、「ホームレスなんだろ」って、…… ルカ(幼少期):それでみんな言うんだ。「お前は変だ」……どうしてヘンって言われなくちゃいけないの。僕、ふつうに生活してるだけなのに。 バケモノ:…… ルカ(幼少期):ぼく、いままでヨセフのこと、親だと思ってた。でも町にいる人はみんな「お父さん」と「お母さん」がいる。物心ついてからこの家にいて、ヨセフと一緒に暮らして、ヨセフはやさしくて、ここで暮らすのはすごく楽しい。だけど、町に下りてみんなと一緒にいると、なんか、変だって思うんだ。だって、変だ。僕、いろんなところがみんなと違う…… ルカ(幼少期):ねえヨセフ、ぼくって本当に人間なの? ウソついてない? バケモノ:嘘はついていない。ルカは立派な人間だ ルカ(幼少期):ヨセフが作ったツチ人形とかじゃないの? バケモノ:ちがう ルカ(幼少期):じゃあどうして僕には両親がいないの? バケモノ:…… 0:ルカはじっとバケモノを見た。バケモノは言い淀んでいるようだった。 バケモノ:……いまから、話をしよう バケモノ:私は魔人だ。魔人にはたいてい、その住みついた土地に祠を作ってもらう話はしたな? ルカ(幼少期):う、うん。祠を作ることでその対象になる魔人をあがめる文化でしょ バケモノ:そうだ。私の祠は森の出口にある。いつも見ているな ルカ(幼少期):うん バケモノ:むかし、人間が一人その祠にやってきた。大きいものを抱えていた。……祠につくと、それを置いて立ち去って行ったんだ。おいていかれたのは生まれたばかりの人間だった。 バケモノ:それが、お前だよ。ルカ ルカ(幼少期):…… バケモノ:人間は夜にやってきた。年若い人間のようだった。今ならわかる、あれは、大人じゃなかった。事情があっておまえを産み、そして事情があって育てられなかったんだろう。だから人里離れた私の祠に人間を捨てたんだ。私はその日、この生まれたばかりの人間を育てようと思った ルカ(幼少期):どうして?  バケモノ:…… バケモノ:ほんの、好奇心だ。 バケモノ:私は人間が大好きだった。いまでもよく覚えている。大昔、全身に毛を生やした動物が、興味津々に私をみつめ、たより、ともに集落を築いたあの日々を ルカ(幼少期):え? バケモノ:あの種族には文字がなかった。理性もあまりなく、それは死ねばそのままだ。まさに動物と変わらない暮らしをしていた。しかし頭がよかったんだろう。あったものを組み合わせて道具を作り、上手に生きていた。私は不思議な動物がいると思って、ずっと観察していたんだ。 バケモノ:ずっとその種族を観察していると、あっという間に月日がたち時代が変わった。その種族は進化を繰り返し、やがて文字を覚え考えを持ち、規律や思想を重んじ始めた。後になってそれに人間という名前がついた。私は、素晴らしいと思った。この種族の繁栄を見届けたいと思ったんだ。 ルカ(幼少期):…… バケモノ:そこから私は生きてきた。人の世では戦争は何度も起こったし、そのたびに平和が訪れた。私はまた人の世を観察している、今が平和の時だ。そしてルカを拾った。 バケモノ:私は、人間は好きでも、生まれてきた人間すべてを救おうとは思わない。それはあまりにも愚かな行為だ。私たちは神様ではない。私たちはただこの世界に意思をもって生まれ、明日を気ままに暮らしている旅人にすぎない。魔人は世界の秩序に干渉できる能力をもっていない。でも、せっかく生まれたのに祠に捨てられて、抗う事なくただ消えるしかない人間に、なにもしないほど卑怯には、私はなれなかった。おまえを初めて抱いたとき、どうにかしてやりたいと思った ルカ(幼少期):……ころさな、かったの バケモノ:いきたいんじゃないかな、と思った。私が拾って、祠を管理する人間に渡してしまえばいいとも思った。でも、捨てられた人間をすぐに人の世に降ろしていいのかわからなかった。捨ててきた人間が罪に問われるんじゃないかとおもったんだ。それか、私が人を攫ったとして攻撃されるとも思った。でもそれ以上に、人間を育ててみたいとも思った。だから祠の管理者には報告と、戸籍だけ用意した。私がわがままをいってお前をここに置いてるんだ ルカ(幼少期):…… バケモノ:……やはり、人間と暮らしたいか ルカ(幼少期):…… バケモノ:私から管理者に掛け合おう。あの家はさいわい、私にかなり友好的だ。おまえのことも知っている。訳を話せば、うまくやってくれるだろう ルカ(幼少期):……ぼく、ここにいる バケモノ:……そうか ルカ(幼少期):さっきはごめんなさい。バケモノなんて言って バケモノ:事実だ、おまえと私とじゃなにもかも違う。でも、一緒にいきていける。そして、おまえはここまで頑張って育ってきた。私はそれがうれしいよ バケモノ:悩み事は解決しそうか ルカ(幼少期):……。なんか、どうでもよくなっちゃった バケモノ:そうなのか? ルカ(幼少期):それより、もっとお話してよ。ヨセフがそんなに長生きしてるなんて知らなかったから、もっと沢山話をききたい。なにがあったとか、いままでどんなことがおきたとか。そうだ、仲間の魔人とかいないの? いろんなこと知りたい バケモノ:そうか、いいだろう。 バケモノ:それよりお腹が空いているんじゃないか、夜遅いが、今からポタージュを入れてきてやろう ルカ(幼少期):うん バケモノ:パンはいるか? 前に一緒に焼いたものがまだある ルカ(幼少期):うん。食べる バケモノ:そうか。座って、まってていなさい ルカ(幼少期):……ありがとう。ヨセフ  :   :   :  0:月日が経過した。ルカは高校生になった。 ルカ(青少年期):ヨセフ。ただいま。……また寝てるの? おーい。帰ったよ バケモノ:……ああ、おかえり、ルカ ルカ(青少年期):最近ずっと寝てるね。生き続けて疲れちゃった? でもそういうの魔人にあるのかな。ねえヨセフ、今日なにからやればいい? ご飯? まき割り? 掃除? バケモノ:アア……、まき割りをお願いしよう。それと、家のなかにある薪ももうないから、外からすこしもってきてほしい。家事は私がやろう ルカ(青少年期):大丈夫? できる? バケモノ:まかせなさい。今晩は何が食べたい ルカ(青少年期):シチュー! バケモノ:お前は毎日それだな ルカ(青少年期):大好きなんだ。ヨセフのシチュー バケモノ:それは、よかった  :  0:食事中である。ルカはいつもどおり食べているが、バケモノは以前に比べ動きが鈍い。 ルカ(青少年期):……ねえヨセフ。僕になんか隠し事してない? バケモノ:隠し事? ルカ(青少年期):そう バケモノ:隠し事は……ないな ルカ(青少年期):本当? ルカ(青少年期):ならいいんだけど  :   :   :  ルカ(青少年期):ただいま、ヨセフ。……ヨセフ、また寝てるの?  :  ルカ(青少年期):ただいま! ヨセフ、遅くなっちゃって、……寝てるの? もう夜中だよ。夜中だからか ルカ(青少年期):え、ご飯の準備、してない。ていうか皿とか暖炉とか朝からなにも変わってない。……ずっと寝てたの?  :  ルカ(青少年期):……。(そっと家に帰ってくる) ルカ(青少年期):ただいまー。(小声) ルカ(青少年期):やっぱり寝てる。  :  ルカ(青少年期):ただいまー。  :  ルカ(青少年期):たーっだいまー。……、まだ寝てる。  :  バケモノ:……? ルカ(青少年期):あ、 バケモノ:……ルカ? ルカ(青少年期):お、おはよう、ヨセフ バケモノ:おは、よう? ルカ(青少年期):ヨセフ、知らないかもしれないけど、今回丸3日寝てたんだよ バケモノ:…… ルカ(青少年期):なぁに、最近ほんとに眠そうだね。魔人だから、魔力不足? 僕がわけてあげようか。でも分け方しらね。ヘヘ バケモノ:…… ルカ(青少年期):ねえ、やっぱり、なんかあるんでしょ。話してよ バケモノ:……ただ、眠いだけだ ルカ(青少年期):そう? そうだ、久々に起きたんだから僕の話聞いてよ。あのね、最近始業式があって、2年生になったんだ。友達とクラスは離れちゃったんだけど。昨日さ、移動教室で隣の席の子と仲良くなって__  :   :   :  0:月日は経過した。 バケモノ:…… ルカ(青少年期):ヨセフ、おはよう バケモノ:……おはよう。ルカ ルカ(青少年期):久々に声きいた。そんな声だったっけ バケモノ:おまえも、ずいぶん大人しい声になったな ルカ(青少年期):えーそう? 変わんないとおもうけどなぁ。でもうれしいよ ルカ(青少年期):ねえヨセフ。 バケモノ:…… ルカ(青少年期):ヨセフは、死んじゃうの? バケモノ:……魔人は、死なない ルカ(青少年期):じゃあ最近どうしたの? ヨセフ、知らないみたいだから言うけど、今回半月くらい寝てたんだよ バケモノ:そんなに? ルカ(青少年期):そんなに ルカ(青少年期):ねえ、ヨセフの体に何が起きてるか、そろそろ教えてくれない? バケモノ:……  :  バケモノ:ルカは、学校で、魔法生物学についてどれくらい習った ルカ(青少年期):魔法生物学は古代の授業だね。僕は現代を主にやってるから、古代の選択授業は取れない バケモノ:そうか バケモノ:魔人と、人間をはじめとする生き物の主な違いは、己がこの世界で生き続けるための力をどれほどもっているかになる。私は、魔力ではないこの【生きたい力】を、生命エネルギーと呼ぶことにした。 バケモノ:動物は、生命エネルギーが魔力に比べてかなり多い。それに対して魔人はその逆だ。生命エネルギーはどの動物に比べても限りなく少ない。ただしその保有量は魔人の生い立ちに左右される。私は、魔人のなかでも多く蓄えられるほうだ ルカ(青少年期):それで? バケモノ:私が蓄えている生命エネルギーが、もうほとんどないんだ。毎日飯を喰って、運動して、寝れば少しは回復するが、慰め程度のものでしかない ルカ(青少年期):……どうにか、ならないの? バケモノ:難しいな。魔力とは勝手が違う。使うときに消えるものじゃない。生きていると消えるものだ ルカ(青少年期):……ヨセフは死んじゃうってこと? バケモノ:魔人は死なない ルカ(青少年期):…… バケモノ:いま、昼か。学校はどうした ルカ(青少年期):ああ、いま、長期休みで、学校はないよ バケモノ:そうだったのか。そうか バケモノ:どれ、ひさびさに起きたことだし、なにかしよう。お菓子はどうだ。クッキーを作ってやろう ルカ(青少年期):うん。ありがとう、ヨセフ  :  ルカ(青少年期):魔人は、死なない ルカ(青少年期):ほんとうに?  :   :   :  バケモノ:……アア ルカ(青少年期):ヨセフ? バケモノ:……ルカ ルカ(青少年期):あ、おは、よう、ちょっとまってて バケモノ:…… ルカ(青少年期):はい、これ バケモノ:花? なにか、めでたいことでもあったか ルカ(青少年期):過ぎたけど、バレンタインのプレゼント。知ってる? 人間には一年のうちに誕生日とクリスマス以外のめでたい日をつくって祝うんだ。バレンタインっていうのもその一つで、簡単にいうと好きな人に贈り物をする日なんだけど バケモノ:……そんな日があったのか ルカ(青少年期):うん。だから花、あげる。あとこれも バケモノ:本か? ルカ(青少年期):そう、僕のいままでの思い出を、思いつく限り書いたんだ。これもあげる バケモノ:どうした? なん、なにかあったか ルカ(青少年期):なにかあるのはヨセフだよ。もう長くないでしょ バケモノ:??? ルカ(青少年期):だって! 今回3か月も寝てたんだよ? ずっとひとりで過ごした僕の気持ちわかる!? ルカ(青少年期):心配した。ほんとに、二度と目を覚まさないんじゃないかって バケモノ:…… ルカ(青少年期):もう長くないんでしょ。だから、プレゼント、これ、もらって。ヨセフの欲しいものがわからなかったから、いままでの僕の思い出を書いたんだ。これ、あとで一緒に読もう バケモノ:……魔人は、死なないぞ? ルカ(青少年期):嘘ばっかり。寿命でしょ。生命エネルギーがなくなってきてるって前いってたじゃんか バケモノ:私たち魔人が存在し続けるのにつかっているのは生命エネルギーじゃない。どの動物にもない【コア】と呼ばれるものだ。これが破壊されない限り死なない ルカ(青少年期):ハァ? バケモノ:生命エネルギーが枯渇すると、動物で言う冬眠のような期間に入る。生命活動をやめてエネルギーがある程度補填(ほてん)されるまで眠るんだ ルカ(青少年期):……  :  ルカ(青少年期):バカ!!!!! ヨセフのバカ!!!!! もうしらない!!!!! 僕がこの数年間どんな思いで暮らしてたかも知らないくせに!!!!!! バケモノ:ルカ!? どこいくんだ!!!! ルカ(青少年期):家出!!!!!!!!!!  :  バケモノ:あ、お、おかえりルカ。どうした忘れ物か ルカ(青少年期):せっかくヨセフが起きたのにまた喧嘩するの嫌だとおもって帰ってきた。 ルカ(青少年期):お腹すいてない? ずっっっと寝てるから僕はいっっっつも一人分のごはんしか用意してないけど、僕ってやさしいから、いまから作ってあげるよ バケモノ:ありがとう。……ルカ、学校は?? ルカ(青少年期):卒業したからもうないの!!!!! バケモノ:進学は? ルカ(青少年期):就職するからしないの!!!!! バケモノ:そうか……  :   :   :  0:月日は経った。ルカは大人になった。 バケモノ:……ルカ、おかえり ルカ(青少年期):ただいま。よかった。今日も起きてた バケモノ:今日発つんだろう ルカ(青少年期):そんでヨセフは今日なんでしょ バケモノ:ああ、もう思い切ってやったほうがいいとおもってな ルカ(青少年期):…… バケモノ:おまえが大きくなるまで待てるとおもってたんだ。親が大人になるまでにいなくなるのは、つらいとおもって。高校のときは毎日たのしそうだったから、黙ったほうがいいとおもってたが……、重荷になったようだな。いままで迷惑かけた ルカ(青少年期):…… ルカ(青少年期):ハハ、やっとかよ。あーあ、待ちくたびれた バケモノ:待たせたか ルカ(青少年期):嘘。今日なんて来なきゃいいって思ってた ルカ(青少年期):ヨセフ、僕が前にあげたのは持った? 日記と、造花と、あとであげた写真 バケモノ:ああ、もっているよ ルカ(青少年期):写真がダメにならないようにしたんだからちゃんともっててよね。それで、僕のこと、ずっと忘れないでね。だって、今回はヨセフが先に寝ちゃうけど、次に起きるころには僕はいないんだよ? ヨセフが死ぬまで続く人生のちょっとしたときに、バケモノに拾われて救われた子供がいたってこと、覚えていてほしいんだ バケモノ:…… ルカ(青少年期):それで、どこで寝るの? 祠のなか? 森の奥? バケモノ:この家だ。この家のなかで眠りたい ルカ(青少年期):……うん。わかった。わかりやすくていいね バケモノ:……この20年あまり、あっというまだった ルカ(青少年期):ヨセフ、ずっとそればっか バケモノ:思い出を噛みしめているんだ ルカ(青少年期):うー、も、もうつらいだろ。さっさと寝ちゃいなよ バケモノ:こころ残りはおまえの今後だ ルカ(青少年期):…… バケモノ:辛くなったら帰ってきていい。私は起きてないが、この家で暮らしたっていいんだ。どうやらお前は、人間にいじめられやすいみたいだから ルカ(青少年期):そんなことないよ。僕のこころが弱かっただけだ。ヨセフのおかげでこれからも人間として生きていける。知らないかもしれないけど、僕って人気者なんだよ。友達沢山いるし、勉強頑張ったから頭もいいんだ。 ルカ(青少年期):てか、ほんと僕のこと好きだよねぇ。僕もう就職してるんだよ? 働いて何年だとおもってるの。しかも去年、職場にちかいところに住むっていって引っ越したじゃないか。ボケちゃった? ルカ(青少年期):…… バケモノ:…… ルカ(青少年期):もう、ねむい? バケモノ:ああ ルカ(青少年期):おやすみ、ヨセフ。いままで育ててくれてありがとう。ヨセフのもとに生まれてこれてよかった。 ルカ(青少年期):愛してるよ。 バケモノ:……フ 0:さいごにバケモノはわらった。  :   :   :  ルカ(青少年期):そこからヨセフは、もとからそこにあった置物のようになった。体じゅうにつけた土くれは重力にしたがって落ちた。魔力で支えていたから、その力もなくなってしまったんだろう。まるで、教科書で見た動物の化石のような姿だった。 ルカ(青少年期):僕はしばらくヨセフを見つめていた。見つめて、涙がこぼれた。泣いて、泣き終わるころに家を出た。走るように町に向かった。でないと、また足が止まって、今度は倒れると思ったから。 ルカ(青少年期):これが僕の人生だ。これでよかった。これがよかった。ヨセフからいろんなものをもらった。溢れるほどもらったんだ ルカ(青少年期):僕は幸せものだ。  :   :   :   :   :  0:贈  :