台本概要

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タイトル 片喰竜胆退魔行 第1話「物の怪退治は声劇で」
作者名 熊野むっち  (@mucchi_0908)
ジャンル ホラー
演者人数 3人用台本(男1、女1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【声劇配信時の規約】
・配信時に作者名および作品名を記載
※上記一点のみ必ずご対応くだされば、作者への連絡は不要です。
(投げ銭の有無、有償無償に関わらず)

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
竜胆 不問 57 片喰竜胆(かたばみ りんどう) 不動明王の真言を操り、禍津日(マガツヒ)と呼ばれる物の怪を退治する退魔師。声劇配信に出没する禍津日を追うために、協力者を探している。
万作 74 一富士万作(いちふじ まんさく) 声劇配信にドハマり中の青年。 ただ自分が声劇にハマっている事を同棲中の恋人には秘密にしている。
19 万作の彼女。同棲して7年目。 最近万作の様子が少し変な事を心配している。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0: : :タイトル : 【片喰竜胆退魔行(かたばみ りんどう たいまこう】 : 【第1話「物の怪退治は声劇で」】作・くまのムッチ : :登場人物 : 竜胆: 竜胆:(配役が決まったらここをタップしてください) 竜胆:片喰 竜胆 竜胆:兼ね役(不気味な声役)があります。 : 不気味な声: 不気味な声:マガツヒの声 不気味な声:(竜胆役の方はここをタップしてください) : 万作: 万作:(配役が決まったらここをタップしてください) 万作:一富士 万作(いちふじ まんさく) : 菫:(配役が決まったらここをタップしてください) 菫:菫(すみれ) 菫:兼ね役(女配信者役、マガツヒ役)があります。 : 女配信者: 女配信者:変死事件の被害者 女配信者:(菫役の方はここをタップしてください) : マガツヒ: マガツヒ:禍津日 マガツヒ:(菫役の方はここをタップしてください) : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:場所はアパートの一室。 0:ヘッドホンを身に着けた男が、何やらマイクに向かって喋っている。 : : 万作:皆さん、こんにちは、こんばんは、おはようございまーす!万作でーす! 万作:万作がお送りする、豊年満作シアター、今日も楽しく声劇配信していきたいと思いまーす! 万作: 万作:まずは、しっかり声出ししていこうという事で、外郎売りに挑戦したいと思います!パチパチー! 万作:頑張っていきますんで、リスナーの皆さんもコメントで盛り上げてってくださいねー!! 万作: 万作:それじゃあ間もなく開演です!万作の外郎売りまで5秒前、3、2、1、アクト! 万作: 万作:拙者(親方と申すはお立合いのうちに) : : 0:万作が外郎売りを始めようとした瞬間、玄関のドアが開く。 : : 菫:ただいまー。 : 万作:ノワー!! 万作:(咄嗟に人と通話しているフリをして)…はい、はい、そうですね。承知しました。 万作:では、次回の打ち合わせは来週月曜という事で。 万作:はい、それでは失礼致しますー。はい。はい。どうもー。 万作: 万作:(わざとらしく振り返って)ああ、どうしたの? : 菫:あ、ごめん、会議中だった? : 万作:ああ、いいよいいよ。今終わったとこだから。 : 菫:そっか。なら良かった。 菫:でも何か、玄関からおっきい声してたよ。「拙者」とかなんとか…。 : 万作:えっ!拙者!?拙者なんて言ってないよ!やだなあ! : 菫:え、でも確かにそう聞こえたような…。 : 万作:それきっと「よっしゃ!」って言ったんだよ!大事な打ち合わせだったから気合入ってたんじゃないかな、多分。 : 菫:えー、そうかな? : 万作:そうそう!そうだよ!そうに決まってる!(深いため息)ハァ…。 : 万作:(モノローグ) 万作:僕の名前は一富士万作(いちふじ まんさく)。どこにでもいる、しがないサラリーマンの僕がリモートワーク中にハマったのがこの配信アプリ。 万作: 万作:喋ったり、歌ったりするのは今までも見た事あったけど、声で劇して、それを配信するなんてめちゃ画期的! 万作:なんて思って始めたら案の定ドハマり…したのは良いんだけど、そんな僕にもひとつだけ悩みがあって…。 : 菫:どうしたの万作、さっきからブツブツ独り言言って… : 万作:わあ!聞かれてた!モノローグ聞かれてた! : 菫:ねえ、万作、最近なんかヘンだよ。時々急にボーっとしたり、何言っても上の空だったり、ブツブツ独り言言ったり。 : 万作:そんな事ないよ! : 菫:ねえ、なんか私に隠してる事ない? : 万作:そんなのある訳ないじゃん!俺たち、付き合ってもう7年だよ! 万作:7年も一緒にいたら、逆に隠し事する方が難しいくらいだよ~! : 菫:そう、ならいいけど…。 : 万作:(モノローグ) 万作:彼女の事は大切だけど、声劇にハマってるのは僕だけの秘密。 万作:ハァー!誰にも気を遣わずに、思いっきりでっかい声出してえー!! 万作: 万作:とか思ってた僕の声劇ライフは、アイツとの出会いによって、文字通り悪夢へと変わるのだった…。 万作: 万作:(タイトルコール) 万作:【片喰竜胆退魔行(かたばみ りんどう たいまこう)第1話「物の怪退治は声劇で」】 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:場所はショッピングセンターの駐車場。 0:車内にはヘッドセットを身に着けた万作がいる。 : : 万作:皆さん、こんにちは、こんばんは、おはようございまーす!万作でーす! 万作:万作がお送りする、豊年満作シアターの時間でっす! 万作: 万作:えーっと、さっきの配信聞いてくださってた方、大変申し訳ございませーん。 万作:ちょっとその、親フラグならぬ同居人フラグで配信中断しちゃいまして…。今度こそ楽しく声劇配信しちゃいたいと思いまーす。 万作: 万作:…実はいま車の中で配信しちゃってます!これならフラグ気にせず思いっきり声出せますからね! 万作:それでは早速リベンジしていきまーす!! : : 0:配信枠に【片喰】という名前のリスナーから【こんにちは】とコメントが書き込まれる。 : : 万作:えーっと「こんにちは」。あっ、こんにちはー!コメント有難うございます、えーっと(片喰が読めない)かた、かた…なんて読んだらいいのかな…。えー「かたなんとかさん」良かったらゆっくりしてってくださいねー。 万作: 万作:実は今日は某ショッピングセンターの駐車場から配信してまーす。 万作:家だとご近所さんとかが気になっちゃって気兼ねなくおっきい声って出しづらいんですよねー。 万作:どっかに、いつでも、どれだけデッカイ声で声劇配信しても平気な場所とかないかなーつって。はは。そんなのある訳ないかー! : : 0:突如、万作の乗っている車のドアがガチャリと開いて、ヌッと人が入って来る。 : : 竜胆:配信中悪い、邪魔するぞ。 : 万作:(唐突な出来事に混乱して)わー!なに!?えっ、ちょ、あんた!誰!? 万作:何、人の車に勝手に入ってきてんの!?えっ、わー!わー! : 竜胆:片喰(かたばみ)だ。 : 万作:ちょちょちょちょ、警察呼びますよー!うわー!うわー!助けてー! 万作:……え……なに? : 竜胆:「片割れの【片】に、くちへんに食う(喰)」で片喰(かたばみ)。 竜胆:片喰と読む。 : 万作:……え? : 竜胆:さっき、コメントで挨拶したろう。(これは)私だ。 : 万作:ええーー!?!? : 竜胆:片喰竜胆(かたばみりんどう)だ。よろしく頼む。万作くん。 : 万作:よろしく…って、いやいやいや!それ全然説明になってないから!いきなり人の車に入って来る理由になってないから! : 竜胆:万作くん、さっき言ってただろ? 竜胆:いつでも、どれだけ大きい声で配信しても構わない場所が欲しいと。 : 万作:えっ、 : 竜胆:その願いを叶えてやる。いいから車を出せ。詳しい話はその後だ。 : 万作:いやいやいや!だから何なんだよアンタはー!! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:場所はマンションの一室。竜胆と万作のふたりがいる。 0:室内には高価な配信用の機材がズラリと並んでいる。 : 竜胆:さあ、ゆっくり寛いでいってくれたまえ。 : 万作:え!?うわあ…!すご!これ全部、配信用の機材ですか? : 竜胆:ああ。用途によって使い分け出来るように、ダイナミックマイクとコンデンサーマイクの両方を用意してある。 竜胆: 竜胆:ダイナミックマイクは透き通る音質が特徴の、ナレーションに最も適したメーカーを採用している。 竜胆:そしてコンデンサーマイクは指向性切替式(しこうせいきりかえしき)で、歪みない音圧処理を可能にした逸品だ。 : 万作:すげ…どっちもめちゃくちゃ高いやつじゃん…。 : 竜胆:そしてヘッドホンは原音に極めて忠実なサウンドを出力する事を可能にした、スタジオモニターヘッドホン。 竜胆:高い遮音性能と快適な装着感を実現している。 : 万作:うわ…これもプロ仕様のやつだ…。 : 竜胆:オーディオインターフェースは、ボタン操作で複数のDSPエフェクトを切替え出来るものを採用していて、ボタンひとつで、歌配信用(うたはいしんよう)のエコーだけじゃなく、電話の通話音声や、無線機の様なノイズたっぷりの音声なんかも再現できる。 : 万作:すげえ。 : 竜胆:さらに16のパッドを装備したサンプラーで効果音も自由自在。 竜胆:もちろん配信に適したパソコンも複数台用意しているから、音声編集やキャス配信も問題なくおこなえる。 : 万作:す、すごすぎます!片喰(かたばみ)さん! : 竜胆:竜胆(りんどう)で良い。 竜胆:ああ、言い忘れていたが、この室内の壁は全て吸音材(きゅうおんざい)が取り付けられている。だから深夜の配信もなんのそのだ。 : 万作:竜胆さん、こんなすごいところ、ほんとに僕なんかがお借りしてもいいんですか? : 竜胆:ああ、勿論だ。 竜胆:…ただ、ほんの少しだけ、私からも万作くんにお願いがあってね。 : 万作:ええっ、僕に、ですか?…一体どんな? : 竜胆:まずひとつめは、私に声劇というものを教えて欲しい。 : 万作:えっ、声劇ですか? : 竜胆:実は私はこういった配信カルチャーにあまり明るくなくてね。私に一から声劇のなんたるかをレクチャーしてくれる人を探していたところなんだ。 : 万作:え?そうなんですか? 万作:でも、こんなにすごい機材が揃ってるのに、今まで配信にご興味なかったんですか? : 竜胆:これは先行投資さ。 : 万作:先行投資? : 竜胆:そう。優れた機材を使って良質な配信を行い、首尾よく仕事を進めるためのね。 : 万作:仕事? : 竜胆:いや、まあ、それはこっちの話だ。 竜胆:とにかく、万作くんには私に声劇配信の手ほどきをお願いしたい。 : 万作:はあ、まあ、それくらいだったら僕にもなんとか。 : 竜胆:続いて、ふたつめの条件なんだが。 : 万作:ああ、そっか、もうひとつ、あるんでしたよね。 : 竜胆:定期的に、私の指定するシナリオを、私の指示通りに演じてもらいたいんだ。 : 万作:え!?それってどういう事ですか?ちょっと言ってる意味がよくわかんないんですけど。 : 竜胆:これについては少々説明するのが厄介なんだが…。 竜胆: 竜胆:ならちょうど良い。早速今から私の指定するシナリオを万作くんに読んでもらう事にしよう。 竜胆:案ずるより産むが易し。習うより慣れろだ。 : 万作:えっ、今からですか? : 竜胆:これから君に読んでもらいたいのは「アネモネ」という人が書いた「深淵」というシナリオだ。 竜胆:実は公にはされていないんだが、最近このシナリオを上演した配信者が、次々と変死体で見つかるという事件が相次いでいてね。 : 万作:ええ!? : 竜胆:ちょうど私の手元に調査報告書と事件発生時の音源がある。 竜胆:参考に君も聞いてみると良い。 : : 0:竜胆、手に持ったスマートフォンを操作すると、室内の複数のスピーカーから音源が再生される。 0:神妙な面持ちでそれに耳を傾ける万作。 : : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:(回想シーン)場面は変わり、とある部屋の一室。 0:深夜に女性配信者が配信をしている。 : : 女配信者:今日はこれからアネモネ?さんの書いた… 女配信者:えーっと(【深淵】の漢字が読めない)ふか、ふかい、なんだろ?まあいいや、これを読みまーす。 女配信者: 女配信者:この台本は男女サシみたいなんだけど、今日は一人二役で読んでみたいと思います。 女配信者:どんなお話かというと…… 女配信者:それは私にもまだわかりません!キャハハ!だってまだ読んでないもーん。 女配信者: : : 0:気ままに配信を楽しむ女性のヘッドフォンから、ふいに何者かの声が聞こえる。 0:しかしその声は、ハッキリと聞きとる事は出来ない。 : : 不気味な声:(呻く様な声) : : 女配信者:……え? 女配信者:やだ…なに?……バグ? : 不気味な声:……。 : 女配信者:まあいいや、開演までまだちょっと時間あるから、台本の紹介でも読んでいこっかな。 女配信者: 女配信者:(シナリオに書かれた説明文を読む) 女配信者:えーっと「このシナリオは男女のサシ台本です」 女配信者: 女配信者:「上演の際は、決められた人数を絶対に守ってください」 女配信者:「上演の際は、絶対に前読みをしてください」 女配信者:「上演の際は、絶対に性別の変更をしないでください」 女配信者:「上演の際は、絶対にアドリブをしないでください」 女配信者:「上演の際は、絶対に読めない漢字を調べてください」 女配信者: 女配信者:(説明文を読んでいるうちに次第に恐ろしくなって) 女配信者:……やだ、なにこれ、こわ…。 : : 0:再びヘッドフォンから「バチッ」という奇怪な音がする。 : : 女配信者:(物音に驚いて)ヒッ…! 女配信者:やだ…こわいんですけど… : 不気味な声:…(ふ)ざけるな… : 女配信者:え? : 不気味な声:ふざけるな…ふざけるな… : 女配信者:ヒイッ!何なの!? : 不気味な声:…どんな思いで書いたと思う? : 女配信者:(恐怖で声がうまく声が出せない)…。 : 不気味な声:私が、どれだけの時間をかけて、作品を作り上げたと思ってる? : 女配信者:…え? : 不気味な声:私はな「てにをは」ひとつにだって、魂を込めてるんだ… : 女配信者:あ…ああ… : 不気味な声:ふざけるな…許せない…許せない…! : 女配信者:ギャー! : : 0:女性配信者は、まるで命を搾り取られたかのような悲鳴をあげて絶命する。 0:もがき苦しんだ時に外れたヘッドフォンには、ベットリとした血液が付着している。 0:そして徐々に周囲が暗転していく。(回想終わり) 0: 0:場所は再びマンションの一室。音源を聞き終えた万作の顔が恐怖で引きつっている。 : : 竜胆:この音源が記録された時間のおよそ2時間後、都内で女性の変死体が見つかった。 竜胆:死因は窒息死。ところが、死亡女性は自分自身の手で、首を絞めて亡くなっていたそうだ。 : 万作:ヒィッ! : 竜胆:そこでだ、今回万作くんには、この亡くなった女性の配信を再現して、声劇してもらいたいと考えている。 : 万作:いやいやいや!無理無理無理ー!無理です!! : 竜胆:まあ、そう言わずに。 : 万作:いやだって、そんな事したらさっきの恐ろしいのがブワー!って出てきて僕がウワー!ってなっちゃうでしょう!? : 竜胆:勿論それが目的だ。 : 万作:はあ!?なんで!?なんのために!? 万作:なんで僕がそんな危ない目にあわなきゃなんないんですかっ!? : 竜胆:安心しろ。君には決して危害が及ばない様、配慮するつもりだ。 : 万作:そんな事言ったって、あんなワケわかんないのに襲われて、どうやって助けるって言うんですか!バカ言わないでください! : 竜胆:私の頼みさえ聞いてくれれば、最高の機材で思う存分、声劇ができるんだぞ? 竜胆:さっきまで君も随分と乗り気だったじゃないか。 : 万作:そんな事言ったって!命あっての物種です! 万作:自分の命と引き換えじゃ、割に合いません! : 竜胆:だったら、万作くん、こうしよう。 竜胆:君が私の頼みを聞いてくれる度に、ここにある機材のうち、どれかひとつを君に差し上げよう。これでどうだ? : 万作:……え? : : 0:万作、ゆっくりと室内の配信機材を見渡す。 : : 万作:…ほ、本当ですか? : 竜胆:勿論だ。最初は何をご所望かな? 竜胆:この【ナウマン】のマイクなんてオススメだぞ? : 万作:(モノローグ) 万作:マジか!?ほんとに【ナウマン】のマイクが僕の物に? 万作:こんな高いマイク、僕の給料じゃ来世になっても買えないレベルだぞ…。 万作: 万作:(しぶしぶ、を装い)…今回だけ…ですからね…。 万作:あ、あと!さっきの恐ろしい奴が出てきたら僕はすぐに逃げますからね!? : 竜胆:交渉成立だ!では早速、声劇配信といこうか! : 万作:もうこうなったら、破れかぶれだー!! : : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 万作:皆さん、こんにちは、こんばんは、おはようございます…。万作です…。 万作:万作がお送りする、豊年満作シアター、今日も楽しく声劇配信していきたいと思います…。 万作: 万作:えっと、ほほ、本日はですね、アネモネさん作の「深淵」というシナリオに、ちょ、挑戦していきたいと思います。 万作:えと、このシナリオは、ほんとは男女ふたりのサシ台本なんだけど、今日は特別に僕ひとりで読んでみたいと思います…。 : 竜胆:おい、そんな意気消沈とした配信があるか。 竜胆:もっと腹から声を出すんだ。 : 万作:は!はい! 万作:え、えーっと!一人二役でやるの、たた、楽しみだなー!! 万作:えーっと、女の子の声うまく出せるかなあ。 万作:(咳払いをして裏声で話し始める)ハーハー!ウフフ、アタシ、頑張っちゃうー!キャワワ。 万作: 万作:えと、今日はすげえ調子良いんでアドリブもバンッバン入れていこっかなー!なんつって! : 竜胆:よし、いいぞ。もっとやれ。 : 万作:じゃあ、今日は新作のこ、声真似を披露しちゃおっかな~!? 万作:(声真似で)ちょ待てよ!ちょ待てよ!(次第にノッてくる)ちょ、待てよっ!! : : 0:突如、ブーンというノイズ音が室内の全てのスピーカーから鳴り始める。 : : 万作:あ、あれ? : マガツヒ:(呻く様な声) : 万作:で、で、でたー! : : 0:室内にボウッと暗い影のようなものが浮かび上がる。 0:その影は、髪の長い女性の様にも見え、不気味な舌をちらつかせる大蛇のようにも見える。 : : 竜胆:ようやくお出ましのようだな。 竜胆:蟒蛇(うわばみ)か…想像以上に禍々しいな。 竜胆:でかしたぞ万作くん!さあ!すぐにこっちに来たまえ。 : 万作:動けません…。 : 竜胆:!?…一体どうした? : 万作:腰が…抜けました…。 : 竜胆:……。 : マガツヒ:ふざけるな…ふざけるな…! : 万作:ヒイー!お助けー! : マガツヒ:あなたも私の作品を、勝手に、汚して、傷つけるのね…。 マガツヒ:許さない…許さない…許さない!! : 0:大蛇の影が万作の体にゆっくりと纏わり付く。 : : 万作:わわわわ!なんだこれ!?体が、体が締め付けられる! : マガツヒ:お願い。私の愛する作品を、あの人も愛してくれた作品を、汚さないで。 マガツヒ:私と、あの人との【繋がり】を汚されたら私…。 マガツヒ: マガツヒ:…きっと気が狂ってしまうから。 : : 0:大蛇の影が、万作の全身を締め上げる。 : : 万作:グワ…ぐるじい…。もう、ダメ…。 : 竜胆:(手で印を組んで真言を唱える) 竜胆:ノウマク・サンマンダ・バサラ・ダン・カン! : : 0:竜胆が呪文のようなものを唱えると、大蛇の影が青色の炎に包まれる。 : : マガツヒ:グワー!…な、なんだ!? : : 0:炎に包まれた拍子に、大蛇の影が、スッと万作の体から離れていく。 : : 万作:わー!父ちゃん!母ちゃん!菫(すみれ)ー!(大蛇の影が離れた事に気付き)…あ、あれ? : 竜胆:はは。驚かせてすまなかったね。万作くん。 竜胆:君が私の指示通りに声劇をしてくれたおかげで、お目当ての禍津日(マガツヒ)が、まんまと釣れたようだね。 : 万作:ま、マガツヒ!? : 竜胆:強烈な苦しみや、恨み、嫉妬で、その精神だけでなく、肉体までも「穢れ(ケガレ)」に支配された者、それがマガツヒだ。 : マガツヒ:あなた……一体何者なの!? : 竜胆:お前らマガツヒを、残らず始末するために来た。片喰竜胆(かたばみりんどう)。退魔師(たいまし)だ。 : 万作:退魔師…片喰竜胆(かたばみりんどう)!? : 竜胆:さあ、おしゃべりはここまでだ。(再び手で印を組んで) 竜胆: 竜胆:迦楼羅の羽!穿つ倶利伽羅!奈落の業火に命ず! 竜胆:(かるらのはね うがつくりから ならくのごうかにめいず) 竜胆:ノウマク・サンマンダ・バサラ・ダン・カン! : : 0:巨大な炎が大蛇を覆う。 : : マガツヒ:ギャアアアァァア!!! : : 0:メラメラと燃えた大蛇の影は次第に、長い髪の女性の姿へと形を変え、やがて朽ち果てていく。 : : 竜胆:己の書いた作品を愛する余りか、はたまた絶望を繰り返し穢(けが)れに落ちたか…。 竜胆: 竜胆:ともあれ万作くん、お手柄だったな! : 万作:……。 : : 0:万作、ブクブクと泡を吹いて気絶している。 : : 竜胆:おや、気絶している。 : : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:万作が住むアパートの一室。 0:気を失った万作がベッドに横たわっている。 : : 万作:う、うーん…。あれ?ここは…僕の部屋。 万作:じゃあ、昨日の出来事は全部夢だったっていうの?これってまさか、夢オチ的なやつ? : 竜胆:(ヌッと現れて)さすがにそれは無いな。 : 万作:わあ!やっぱり夢じゃなかった! : 竜胆:君のおかげで無事にマガツヒを退治する事が出来た。礼を言おう。 竜胆:最も、私の退魔師としての卓抜(たくばつ)した技術があってこそ、だがな。 : 万作:…。(怒りのあまり言葉が出ない) : 竜胆:これからも私のビジネスパートナーとして存分に活躍してくれたまえ。 : 万作:いい加減にしてくれ!アンタのおかげで僕は!危うく死ぬとこだったんだぞ! 万作:アンタ、決して危害が及ばないようにするって言ってたよな!約束が違うじゃないかー! : 竜胆:危害が及ばないように【配慮する】と私は言ったのだ。 竜胆:現に五体満足で、君はここにいるじゃないか。 : 万作:うるさーい!いいからアンタは一刻も早くここから出てってくれ! 万作:(思い出して)あ!【ナウマン】のマイク!約束だからねー!ナウマンのマイクだけは絶対に貰うからねー! 万作:くそー!マイクよこせ!今すぐナウマンのマイクよこせー!! : 菫:どうしたの万作?さっきからマイクマイク大騒ぎして… : 万作:わー!わー!菫!?どうしてここに!? : 菫:何言ってんの?どうしてってここは私の家よ。 菫:今日はお休みだって、昨日も言ったじゃない。 菫:はい、片喰(かたばみ)さん、お茶入れてきました。 : 竜胆:あーいや、お構いなく。 : 菫:これぐらいさせてください。酔いつぶれた万作を介抱して、こうやって家まで連れてきてくださったんですから。 : 万作:酔いつぶれた!?ちょ、おま… : 菫:ところで、片喰さんと万作は一体どういったご関係なんですか? : 竜胆:菫(すみれ)さん、竜胆で結構です。 竜胆:万作さんとは、【共通の趣味】を通じて、親しくなりましてね…。 : 菫:共通の趣味?あーさっき、マイクがどうとか言ってた、あれの事? : 竜胆:そうなんです、実は… : 万作:(すぐに遮って)わー!わー!わー! 万作:違うよ!マイクなんて言ってない!バイク!バイクって言ったの!僕と竜胆さんは、バイクが趣味の、ツーリング仲間だから! : 菫:え、でも万作、バイクの免許持ってたっけ? : 万作:持ってないよ!これから取るの!免許取る前に欲しいバイクを決めてといてモチベーションあげていこうって話なの! : 菫:(万作の勢いに押されて)そ、そうなんだ…。 : 万作:ね!?竜胆さん!? : 竜胆:(含みを持たせて)ええ、そうです。私もこれから万作さんには、ご教授願いたい事がたくさんありましてね。 竜胆:共通の趣味を通じた、長い関係になる、そんな予感がしています。 : 万作:ぐぎぎぎぎ…。この野郎。 : 竜胆:では今日はこの辺でお暇します。菫さん、美味しいお茶を頂き、有難うございました。 : 菫:いえ、お構いもしませんで。 : 竜胆:(万作に聞こえるように耳元で) 竜胆:万作くん、君はこれからは、あの部屋に自由に出入りしてもらって構わんよ。 竜胆:思う存分、声劇を楽しむといい。 竜胆: 竜胆:それでは失礼する。 : : 0:立ち去る竜胆。 : : 菫:…なんか不思議な人だったね。竜胆さん。 : 万作:う、うん…。 万作:(モノローグ) 万作:これが僕とアイツ、片喰竜胆との出会いだった。だけどこれは、僕の長く続く悪夢の始まりにしか過ぎなかったのだ…。 : 竜胆:(ヌッと現れて)どうした?何をブツブツ言っている? : 万作:わあ!モノローグ聞かれてた!またモノローグ聞かれてた! : : : : : 0:(終わり)

0: : :タイトル : 【片喰竜胆退魔行(かたばみ りんどう たいまこう】 : 【第1話「物の怪退治は声劇で」】作・くまのムッチ : :登場人物 : 竜胆: 竜胆:(配役が決まったらここをタップしてください) 竜胆:片喰 竜胆 竜胆:兼ね役(不気味な声役)があります。 : 不気味な声: 不気味な声:マガツヒの声 不気味な声:(竜胆役の方はここをタップしてください) : 万作: 万作:(配役が決まったらここをタップしてください) 万作:一富士 万作(いちふじ まんさく) : 菫:(配役が決まったらここをタップしてください) 菫:菫(すみれ) 菫:兼ね役(女配信者役、マガツヒ役)があります。 : 女配信者: 女配信者:変死事件の被害者 女配信者:(菫役の方はここをタップしてください) : マガツヒ: マガツヒ:禍津日 マガツヒ:(菫役の方はここをタップしてください) : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : 0:場所はアパートの一室。 0:ヘッドホンを身に着けた男が、何やらマイクに向かって喋っている。 : : 万作:皆さん、こんにちは、こんばんは、おはようございまーす!万作でーす! 万作:万作がお送りする、豊年満作シアター、今日も楽しく声劇配信していきたいと思いまーす! 万作: 万作:まずは、しっかり声出ししていこうという事で、外郎売りに挑戦したいと思います!パチパチー! 万作:頑張っていきますんで、リスナーの皆さんもコメントで盛り上げてってくださいねー!! 万作: 万作:それじゃあ間もなく開演です!万作の外郎売りまで5秒前、3、2、1、アクト! 万作: 万作:拙者(親方と申すはお立合いのうちに) : : 0:万作が外郎売りを始めようとした瞬間、玄関のドアが開く。 : : 菫:ただいまー。 : 万作:ノワー!! 万作:(咄嗟に人と通話しているフリをして)…はい、はい、そうですね。承知しました。 万作:では、次回の打ち合わせは来週月曜という事で。 万作:はい、それでは失礼致しますー。はい。はい。どうもー。 万作: 万作:(わざとらしく振り返って)ああ、どうしたの? : 菫:あ、ごめん、会議中だった? : 万作:ああ、いいよいいよ。今終わったとこだから。 : 菫:そっか。なら良かった。 菫:でも何か、玄関からおっきい声してたよ。「拙者」とかなんとか…。 : 万作:えっ!拙者!?拙者なんて言ってないよ!やだなあ! : 菫:え、でも確かにそう聞こえたような…。 : 万作:それきっと「よっしゃ!」って言ったんだよ!大事な打ち合わせだったから気合入ってたんじゃないかな、多分。 : 菫:えー、そうかな? : 万作:そうそう!そうだよ!そうに決まってる!(深いため息)ハァ…。 : 万作:(モノローグ) 万作:僕の名前は一富士万作(いちふじ まんさく)。どこにでもいる、しがないサラリーマンの僕がリモートワーク中にハマったのがこの配信アプリ。 万作: 万作:喋ったり、歌ったりするのは今までも見た事あったけど、声で劇して、それを配信するなんてめちゃ画期的! 万作:なんて思って始めたら案の定ドハマり…したのは良いんだけど、そんな僕にもひとつだけ悩みがあって…。 : 菫:どうしたの万作、さっきからブツブツ独り言言って… : 万作:わあ!聞かれてた!モノローグ聞かれてた! : 菫:ねえ、万作、最近なんかヘンだよ。時々急にボーっとしたり、何言っても上の空だったり、ブツブツ独り言言ったり。 : 万作:そんな事ないよ! : 菫:ねえ、なんか私に隠してる事ない? : 万作:そんなのある訳ないじゃん!俺たち、付き合ってもう7年だよ! 万作:7年も一緒にいたら、逆に隠し事する方が難しいくらいだよ~! : 菫:そう、ならいいけど…。 : 万作:(モノローグ) 万作:彼女の事は大切だけど、声劇にハマってるのは僕だけの秘密。 万作:ハァー!誰にも気を遣わずに、思いっきりでっかい声出してえー!! 万作: 万作:とか思ってた僕の声劇ライフは、アイツとの出会いによって、文字通り悪夢へと変わるのだった…。 万作: 万作:(タイトルコール) 万作:【片喰竜胆退魔行(かたばみ りんどう たいまこう)第1話「物の怪退治は声劇で」】 : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:場所はショッピングセンターの駐車場。 0:車内にはヘッドセットを身に着けた万作がいる。 : : 万作:皆さん、こんにちは、こんばんは、おはようございまーす!万作でーす! 万作:万作がお送りする、豊年満作シアターの時間でっす! 万作: 万作:えーっと、さっきの配信聞いてくださってた方、大変申し訳ございませーん。 万作:ちょっとその、親フラグならぬ同居人フラグで配信中断しちゃいまして…。今度こそ楽しく声劇配信しちゃいたいと思いまーす。 万作: 万作:…実はいま車の中で配信しちゃってます!これならフラグ気にせず思いっきり声出せますからね! 万作:それでは早速リベンジしていきまーす!! : : 0:配信枠に【片喰】という名前のリスナーから【こんにちは】とコメントが書き込まれる。 : : 万作:えーっと「こんにちは」。あっ、こんにちはー!コメント有難うございます、えーっと(片喰が読めない)かた、かた…なんて読んだらいいのかな…。えー「かたなんとかさん」良かったらゆっくりしてってくださいねー。 万作: 万作:実は今日は某ショッピングセンターの駐車場から配信してまーす。 万作:家だとご近所さんとかが気になっちゃって気兼ねなくおっきい声って出しづらいんですよねー。 万作:どっかに、いつでも、どれだけデッカイ声で声劇配信しても平気な場所とかないかなーつって。はは。そんなのある訳ないかー! : : 0:突如、万作の乗っている車のドアがガチャリと開いて、ヌッと人が入って来る。 : : 竜胆:配信中悪い、邪魔するぞ。 : 万作:(唐突な出来事に混乱して)わー!なに!?えっ、ちょ、あんた!誰!? 万作:何、人の車に勝手に入ってきてんの!?えっ、わー!わー! : 竜胆:片喰(かたばみ)だ。 : 万作:ちょちょちょちょ、警察呼びますよー!うわー!うわー!助けてー! 万作:……え……なに? : 竜胆:「片割れの【片】に、くちへんに食う(喰)」で片喰(かたばみ)。 竜胆:片喰と読む。 : 万作:……え? : 竜胆:さっき、コメントで挨拶したろう。(これは)私だ。 : 万作:ええーー!?!? : 竜胆:片喰竜胆(かたばみりんどう)だ。よろしく頼む。万作くん。 : 万作:よろしく…って、いやいやいや!それ全然説明になってないから!いきなり人の車に入って来る理由になってないから! : 竜胆:万作くん、さっき言ってただろ? 竜胆:いつでも、どれだけ大きい声で配信しても構わない場所が欲しいと。 : 万作:えっ、 : 竜胆:その願いを叶えてやる。いいから車を出せ。詳しい話はその後だ。 : 万作:いやいやいや!だから何なんだよアンタはー!! : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:場所はマンションの一室。竜胆と万作のふたりがいる。 0:室内には高価な配信用の機材がズラリと並んでいる。 : 竜胆:さあ、ゆっくり寛いでいってくれたまえ。 : 万作:え!?うわあ…!すご!これ全部、配信用の機材ですか? : 竜胆:ああ。用途によって使い分け出来るように、ダイナミックマイクとコンデンサーマイクの両方を用意してある。 竜胆: 竜胆:ダイナミックマイクは透き通る音質が特徴の、ナレーションに最も適したメーカーを採用している。 竜胆:そしてコンデンサーマイクは指向性切替式(しこうせいきりかえしき)で、歪みない音圧処理を可能にした逸品だ。 : 万作:すげ…どっちもめちゃくちゃ高いやつじゃん…。 : 竜胆:そしてヘッドホンは原音に極めて忠実なサウンドを出力する事を可能にした、スタジオモニターヘッドホン。 竜胆:高い遮音性能と快適な装着感を実現している。 : 万作:うわ…これもプロ仕様のやつだ…。 : 竜胆:オーディオインターフェースは、ボタン操作で複数のDSPエフェクトを切替え出来るものを採用していて、ボタンひとつで、歌配信用(うたはいしんよう)のエコーだけじゃなく、電話の通話音声や、無線機の様なノイズたっぷりの音声なんかも再現できる。 : 万作:すげえ。 : 竜胆:さらに16のパッドを装備したサンプラーで効果音も自由自在。 竜胆:もちろん配信に適したパソコンも複数台用意しているから、音声編集やキャス配信も問題なくおこなえる。 : 万作:す、すごすぎます!片喰(かたばみ)さん! : 竜胆:竜胆(りんどう)で良い。 竜胆:ああ、言い忘れていたが、この室内の壁は全て吸音材(きゅうおんざい)が取り付けられている。だから深夜の配信もなんのそのだ。 : 万作:竜胆さん、こんなすごいところ、ほんとに僕なんかがお借りしてもいいんですか? : 竜胆:ああ、勿論だ。 竜胆:…ただ、ほんの少しだけ、私からも万作くんにお願いがあってね。 : 万作:ええっ、僕に、ですか?…一体どんな? : 竜胆:まずひとつめは、私に声劇というものを教えて欲しい。 : 万作:えっ、声劇ですか? : 竜胆:実は私はこういった配信カルチャーにあまり明るくなくてね。私に一から声劇のなんたるかをレクチャーしてくれる人を探していたところなんだ。 : 万作:え?そうなんですか? 万作:でも、こんなにすごい機材が揃ってるのに、今まで配信にご興味なかったんですか? : 竜胆:これは先行投資さ。 : 万作:先行投資? : 竜胆:そう。優れた機材を使って良質な配信を行い、首尾よく仕事を進めるためのね。 : 万作:仕事? : 竜胆:いや、まあ、それはこっちの話だ。 竜胆:とにかく、万作くんには私に声劇配信の手ほどきをお願いしたい。 : 万作:はあ、まあ、それくらいだったら僕にもなんとか。 : 竜胆:続いて、ふたつめの条件なんだが。 : 万作:ああ、そっか、もうひとつ、あるんでしたよね。 : 竜胆:定期的に、私の指定するシナリオを、私の指示通りに演じてもらいたいんだ。 : 万作:え!?それってどういう事ですか?ちょっと言ってる意味がよくわかんないんですけど。 : 竜胆:これについては少々説明するのが厄介なんだが…。 竜胆: 竜胆:ならちょうど良い。早速今から私の指定するシナリオを万作くんに読んでもらう事にしよう。 竜胆:案ずるより産むが易し。習うより慣れろだ。 : 万作:えっ、今からですか? : 竜胆:これから君に読んでもらいたいのは「アネモネ」という人が書いた「深淵」というシナリオだ。 竜胆:実は公にはされていないんだが、最近このシナリオを上演した配信者が、次々と変死体で見つかるという事件が相次いでいてね。 : 万作:ええ!? : 竜胆:ちょうど私の手元に調査報告書と事件発生時の音源がある。 竜胆:参考に君も聞いてみると良い。 : : 0:竜胆、手に持ったスマートフォンを操作すると、室内の複数のスピーカーから音源が再生される。 0:神妙な面持ちでそれに耳を傾ける万作。 : : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:(回想シーン)場面は変わり、とある部屋の一室。 0:深夜に女性配信者が配信をしている。 : : 女配信者:今日はこれからアネモネ?さんの書いた… 女配信者:えーっと(【深淵】の漢字が読めない)ふか、ふかい、なんだろ?まあいいや、これを読みまーす。 女配信者: 女配信者:この台本は男女サシみたいなんだけど、今日は一人二役で読んでみたいと思います。 女配信者:どんなお話かというと…… 女配信者:それは私にもまだわかりません!キャハハ!だってまだ読んでないもーん。 女配信者: : : 0:気ままに配信を楽しむ女性のヘッドフォンから、ふいに何者かの声が聞こえる。 0:しかしその声は、ハッキリと聞きとる事は出来ない。 : : 不気味な声:(呻く様な声) : : 女配信者:……え? 女配信者:やだ…なに?……バグ? : 不気味な声:……。 : 女配信者:まあいいや、開演までまだちょっと時間あるから、台本の紹介でも読んでいこっかな。 女配信者: 女配信者:(シナリオに書かれた説明文を読む) 女配信者:えーっと「このシナリオは男女のサシ台本です」 女配信者: 女配信者:「上演の際は、決められた人数を絶対に守ってください」 女配信者:「上演の際は、絶対に前読みをしてください」 女配信者:「上演の際は、絶対に性別の変更をしないでください」 女配信者:「上演の際は、絶対にアドリブをしないでください」 女配信者:「上演の際は、絶対に読めない漢字を調べてください」 女配信者: 女配信者:(説明文を読んでいるうちに次第に恐ろしくなって) 女配信者:……やだ、なにこれ、こわ…。 : : 0:再びヘッドフォンから「バチッ」という奇怪な音がする。 : : 女配信者:(物音に驚いて)ヒッ…! 女配信者:やだ…こわいんですけど… : 不気味な声:…(ふ)ざけるな… : 女配信者:え? : 不気味な声:ふざけるな…ふざけるな… : 女配信者:ヒイッ!何なの!? : 不気味な声:…どんな思いで書いたと思う? : 女配信者:(恐怖で声がうまく声が出せない)…。 : 不気味な声:私が、どれだけの時間をかけて、作品を作り上げたと思ってる? : 女配信者:…え? : 不気味な声:私はな「てにをは」ひとつにだって、魂を込めてるんだ… : 女配信者:あ…ああ… : 不気味な声:ふざけるな…許せない…許せない…! : 女配信者:ギャー! : : 0:女性配信者は、まるで命を搾り取られたかのような悲鳴をあげて絶命する。 0:もがき苦しんだ時に外れたヘッドフォンには、ベットリとした血液が付着している。 0:そして徐々に周囲が暗転していく。(回想終わり) 0: 0:場所は再びマンションの一室。音源を聞き終えた万作の顔が恐怖で引きつっている。 : : 竜胆:この音源が記録された時間のおよそ2時間後、都内で女性の変死体が見つかった。 竜胆:死因は窒息死。ところが、死亡女性は自分自身の手で、首を絞めて亡くなっていたそうだ。 : 万作:ヒィッ! : 竜胆:そこでだ、今回万作くんには、この亡くなった女性の配信を再現して、声劇してもらいたいと考えている。 : 万作:いやいやいや!無理無理無理ー!無理です!! : 竜胆:まあ、そう言わずに。 : 万作:いやだって、そんな事したらさっきの恐ろしいのがブワー!って出てきて僕がウワー!ってなっちゃうでしょう!? : 竜胆:勿論それが目的だ。 : 万作:はあ!?なんで!?なんのために!? 万作:なんで僕がそんな危ない目にあわなきゃなんないんですかっ!? : 竜胆:安心しろ。君には決して危害が及ばない様、配慮するつもりだ。 : 万作:そんな事言ったって、あんなワケわかんないのに襲われて、どうやって助けるって言うんですか!バカ言わないでください! : 竜胆:私の頼みさえ聞いてくれれば、最高の機材で思う存分、声劇ができるんだぞ? 竜胆:さっきまで君も随分と乗り気だったじゃないか。 : 万作:そんな事言ったって!命あっての物種です! 万作:自分の命と引き換えじゃ、割に合いません! : 竜胆:だったら、万作くん、こうしよう。 竜胆:君が私の頼みを聞いてくれる度に、ここにある機材のうち、どれかひとつを君に差し上げよう。これでどうだ? : 万作:……え? : : 0:万作、ゆっくりと室内の配信機材を見渡す。 : : 万作:…ほ、本当ですか? : 竜胆:勿論だ。最初は何をご所望かな? 竜胆:この【ナウマン】のマイクなんてオススメだぞ? : 万作:(モノローグ) 万作:マジか!?ほんとに【ナウマン】のマイクが僕の物に? 万作:こんな高いマイク、僕の給料じゃ来世になっても買えないレベルだぞ…。 万作: 万作:(しぶしぶ、を装い)…今回だけ…ですからね…。 万作:あ、あと!さっきの恐ろしい奴が出てきたら僕はすぐに逃げますからね!? : 竜胆:交渉成立だ!では早速、声劇配信といこうか! : 万作:もうこうなったら、破れかぶれだー!! : : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 万作:皆さん、こんにちは、こんばんは、おはようございます…。万作です…。 万作:万作がお送りする、豊年満作シアター、今日も楽しく声劇配信していきたいと思います…。 万作: 万作:えっと、ほほ、本日はですね、アネモネさん作の「深淵」というシナリオに、ちょ、挑戦していきたいと思います。 万作:えと、このシナリオは、ほんとは男女ふたりのサシ台本なんだけど、今日は特別に僕ひとりで読んでみたいと思います…。 : 竜胆:おい、そんな意気消沈とした配信があるか。 竜胆:もっと腹から声を出すんだ。 : 万作:は!はい! 万作:え、えーっと!一人二役でやるの、たた、楽しみだなー!! 万作:えーっと、女の子の声うまく出せるかなあ。 万作:(咳払いをして裏声で話し始める)ハーハー!ウフフ、アタシ、頑張っちゃうー!キャワワ。 万作: 万作:えと、今日はすげえ調子良いんでアドリブもバンッバン入れていこっかなー!なんつって! : 竜胆:よし、いいぞ。もっとやれ。 : 万作:じゃあ、今日は新作のこ、声真似を披露しちゃおっかな~!? 万作:(声真似で)ちょ待てよ!ちょ待てよ!(次第にノッてくる)ちょ、待てよっ!! : : 0:突如、ブーンというノイズ音が室内の全てのスピーカーから鳴り始める。 : : 万作:あ、あれ? : マガツヒ:(呻く様な声) : 万作:で、で、でたー! : : 0:室内にボウッと暗い影のようなものが浮かび上がる。 0:その影は、髪の長い女性の様にも見え、不気味な舌をちらつかせる大蛇のようにも見える。 : : 竜胆:ようやくお出ましのようだな。 竜胆:蟒蛇(うわばみ)か…想像以上に禍々しいな。 竜胆:でかしたぞ万作くん!さあ!すぐにこっちに来たまえ。 : 万作:動けません…。 : 竜胆:!?…一体どうした? : 万作:腰が…抜けました…。 : 竜胆:……。 : マガツヒ:ふざけるな…ふざけるな…! : 万作:ヒイー!お助けー! : マガツヒ:あなたも私の作品を、勝手に、汚して、傷つけるのね…。 マガツヒ:許さない…許さない…許さない!! : 0:大蛇の影が万作の体にゆっくりと纏わり付く。 : : 万作:わわわわ!なんだこれ!?体が、体が締め付けられる! : マガツヒ:お願い。私の愛する作品を、あの人も愛してくれた作品を、汚さないで。 マガツヒ:私と、あの人との【繋がり】を汚されたら私…。 マガツヒ: マガツヒ:…きっと気が狂ってしまうから。 : : 0:大蛇の影が、万作の全身を締め上げる。 : : 万作:グワ…ぐるじい…。もう、ダメ…。 : 竜胆:(手で印を組んで真言を唱える) 竜胆:ノウマク・サンマンダ・バサラ・ダン・カン! : : 0:竜胆が呪文のようなものを唱えると、大蛇の影が青色の炎に包まれる。 : : マガツヒ:グワー!…な、なんだ!? : : 0:炎に包まれた拍子に、大蛇の影が、スッと万作の体から離れていく。 : : 万作:わー!父ちゃん!母ちゃん!菫(すみれ)ー!(大蛇の影が離れた事に気付き)…あ、あれ? : 竜胆:はは。驚かせてすまなかったね。万作くん。 竜胆:君が私の指示通りに声劇をしてくれたおかげで、お目当ての禍津日(マガツヒ)が、まんまと釣れたようだね。 : 万作:ま、マガツヒ!? : 竜胆:強烈な苦しみや、恨み、嫉妬で、その精神だけでなく、肉体までも「穢れ(ケガレ)」に支配された者、それがマガツヒだ。 : マガツヒ:あなた……一体何者なの!? : 竜胆:お前らマガツヒを、残らず始末するために来た。片喰竜胆(かたばみりんどう)。退魔師(たいまし)だ。 : 万作:退魔師…片喰竜胆(かたばみりんどう)!? : 竜胆:さあ、おしゃべりはここまでだ。(再び手で印を組んで) 竜胆: 竜胆:迦楼羅の羽!穿つ倶利伽羅!奈落の業火に命ず! 竜胆:(かるらのはね うがつくりから ならくのごうかにめいず) 竜胆:ノウマク・サンマンダ・バサラ・ダン・カン! : : 0:巨大な炎が大蛇を覆う。 : : マガツヒ:ギャアアアァァア!!! : : 0:メラメラと燃えた大蛇の影は次第に、長い髪の女性の姿へと形を変え、やがて朽ち果てていく。 : : 竜胆:己の書いた作品を愛する余りか、はたまた絶望を繰り返し穢(けが)れに落ちたか…。 竜胆: 竜胆:ともあれ万作くん、お手柄だったな! : 万作:……。 : : 0:万作、ブクブクと泡を吹いて気絶している。 : : 竜胆:おや、気絶している。 : : :・ : :・ : :・ : :・ : :・ : : 0:万作が住むアパートの一室。 0:気を失った万作がベッドに横たわっている。 : : 万作:う、うーん…。あれ?ここは…僕の部屋。 万作:じゃあ、昨日の出来事は全部夢だったっていうの?これってまさか、夢オチ的なやつ? : 竜胆:(ヌッと現れて)さすがにそれは無いな。 : 万作:わあ!やっぱり夢じゃなかった! : 竜胆:君のおかげで無事にマガツヒを退治する事が出来た。礼を言おう。 竜胆:最も、私の退魔師としての卓抜(たくばつ)した技術があってこそ、だがな。 : 万作:…。(怒りのあまり言葉が出ない) : 竜胆:これからも私のビジネスパートナーとして存分に活躍してくれたまえ。 : 万作:いい加減にしてくれ!アンタのおかげで僕は!危うく死ぬとこだったんだぞ! 万作:アンタ、決して危害が及ばないようにするって言ってたよな!約束が違うじゃないかー! : 竜胆:危害が及ばないように【配慮する】と私は言ったのだ。 竜胆:現に五体満足で、君はここにいるじゃないか。 : 万作:うるさーい!いいからアンタは一刻も早くここから出てってくれ! 万作:(思い出して)あ!【ナウマン】のマイク!約束だからねー!ナウマンのマイクだけは絶対に貰うからねー! 万作:くそー!マイクよこせ!今すぐナウマンのマイクよこせー!! : 菫:どうしたの万作?さっきからマイクマイク大騒ぎして… : 万作:わー!わー!菫!?どうしてここに!? : 菫:何言ってんの?どうしてってここは私の家よ。 菫:今日はお休みだって、昨日も言ったじゃない。 菫:はい、片喰(かたばみ)さん、お茶入れてきました。 : 竜胆:あーいや、お構いなく。 : 菫:これぐらいさせてください。酔いつぶれた万作を介抱して、こうやって家まで連れてきてくださったんですから。 : 万作:酔いつぶれた!?ちょ、おま… : 菫:ところで、片喰さんと万作は一体どういったご関係なんですか? : 竜胆:菫(すみれ)さん、竜胆で結構です。 竜胆:万作さんとは、【共通の趣味】を通じて、親しくなりましてね…。 : 菫:共通の趣味?あーさっき、マイクがどうとか言ってた、あれの事? : 竜胆:そうなんです、実は… : 万作:(すぐに遮って)わー!わー!わー! 万作:違うよ!マイクなんて言ってない!バイク!バイクって言ったの!僕と竜胆さんは、バイクが趣味の、ツーリング仲間だから! : 菫:え、でも万作、バイクの免許持ってたっけ? : 万作:持ってないよ!これから取るの!免許取る前に欲しいバイクを決めてといてモチベーションあげていこうって話なの! : 菫:(万作の勢いに押されて)そ、そうなんだ…。 : 万作:ね!?竜胆さん!? : 竜胆:(含みを持たせて)ええ、そうです。私もこれから万作さんには、ご教授願いたい事がたくさんありましてね。 竜胆:共通の趣味を通じた、長い関係になる、そんな予感がしています。 : 万作:ぐぎぎぎぎ…。この野郎。 : 竜胆:では今日はこの辺でお暇します。菫さん、美味しいお茶を頂き、有難うございました。 : 菫:いえ、お構いもしませんで。 : 竜胆:(万作に聞こえるように耳元で) 竜胆:万作くん、君はこれからは、あの部屋に自由に出入りしてもらって構わんよ。 竜胆:思う存分、声劇を楽しむといい。 竜胆: 竜胆:それでは失礼する。 : : 0:立ち去る竜胆。 : : 菫:…なんか不思議な人だったね。竜胆さん。 : 万作:う、うん…。 万作:(モノローグ) 万作:これが僕とアイツ、片喰竜胆との出会いだった。だけどこれは、僕の長く続く悪夢の始まりにしか過ぎなかったのだ…。 : 竜胆:(ヌッと現れて)どうした?何をブツブツ言っている? : 万作:わあ!モノローグ聞かれてた!またモノローグ聞かれてた! : : : : : 0:(終わり)