台本概要
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タイトル | 母の日の旅立ち |
---|---|
作者名 | 椿 麗華 (@Tsubaki_Reika) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 1人用台本(不問1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
母の日の悲しいお別れのお話です。 登場人物の台詞は少ないのでひとりで読んでいただく形となりますが、複数でもどうぞ。 ひとり読み・朗読用 所要時間 8~10分程度 性別不問です *配信アプリ、動画サイト、ディスコード、ツイキャス等でのご使用にあたって、個別の連絡は不要ですが、必ず「作者名」「作品名」の表記をお願い致します。 78 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
私 | 不問 | 1 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:お母さん。
0:
0:あなたがこの世を去ってから、もうどれくらい経つのでしょうか。
0:
0:あなたと初めて会ったのは、友和と結婚をすると決めてから、間もなくのことでした。
0:
0:両家の初顔合わせの日に、初めて見たあなたの顔が、なぜだか仏のように見えて。
0:
0:ふくよかで、穏やかそうで、優しそうで。
0:
0:私がこれから結婚する人のお母さんはこの人なんだ、と
0:緊張しながらあなたを見ていた自分がいました。
0:
0:私の父親がひとりで喋っている間
0:あなたはニコニコしながら相槌を打ち
0:ほとんど話すこともなく、ただそこに座っていましたね。
0:
0:
0:あなたの一人息子である友和と結婚して三年後
0:まわりから「子供はまだか」などと言われるようになった時、あなたは
0:
母:あのね、私、正直言うとね、孫はいらないのよ。
母:うちは大した家柄じゃないから跡継ぎの心配なんていらないの。
母:あなたも三十を過ぎて、友和も四十を過ぎているのだから二人で好きに生きていいの。
母:私はね、あなたたち二人が仲良くしていてくれたら、それが一番嬉しいんだから。
0:
0:と、優しく話しかけてくれたことを、今でもはっきりと覚えています。
0:
0:
0:それから間もなく、あなたは体調を崩し、そして末期がんの宣告を受け
0:医師から余命三か月の診断を下されました。
0:
0:膵臓癌(すいぞうがん)は進行が早く、日を追うごとに体が弱ってくる。
0:
0:入院してからは癌との壮絶な闘いが始まり
0:それを見ていた私は食事も喉を通らなくなり
0:いつしか笑うことを忘れていました。
0:
0:一番辛いのは、お母さんなのに。
0:
0:
0:死へのカウントダウンが始まったある日の昼下がりに、ベッドの上で
0:
母:短い間だったけど、楽しかった。
母:私には娘がいなかったから、あなたが友和のお嫁さんになってくれた時、何だか娘ができたみたいで。
母:うちはお父さんも友和も無口で、男ばかりで淋しかったのよ。
母:あなたは自慢の娘なの。
0:
0:私の手を取ると、
0:
母:人生はね、ケセラセラ。なるようになる。
母:小さなことでクヨクヨしなさんな。時間が勿体ない。
0:
0:あなたはにっこりと微笑んだ。
0:
0:その翌日あたりから、相当に痛みが激しくなってきたのだろう。
0:我慢強いあなたの目からこぼれた涙が、その頬を伝う回数が増え
0:これ以上苦しむ姿を見たくはなかった。
0:
0:「そろそろモルヒネを打ちましょうか」と
0:淡々と話す医師の言葉に、反対する者はいなかった。
0:
0:ついにモルヒネの投与が開始される。
0:
0:モルヒネは痛みを自覚させないかわりに、意識を奪ってゆく。
0:
0:そして、もう会話すらできなくなった。
0:
0:
0:ゴールデンウィークの最後の休日に、その日は訪れた。
0:
0:前日まで病院の廊下まで響き渡っていた、声の混じる荒々しい呼吸音が
0:徐々に、徐々に小さくなり、それでも何かを言いたそうに、時々目を開けようとする。
0:
0:看護師が私たちに声をかける。
0:
看護師:意識がなくても、声は聞こえるんですよ。
看護師:みんなで声をかけてあげてください。きっと聞こえてますよ!
0:
0:お父さんも、友和も私も、必死で声をかけ続ける。
0:
0:やがて、心拍数がゼロになった。
0:
0:「ご臨終です。立派な最期でした」
0:医師の声が聞こえた。
0:
父:・・・なんだよ。お前・・・。先に逝っちまって。馬鹿野郎だな・・・。
父:よりによって何で今日なんだよ・・・。娘が死んだ日に・・・!
父:同じ日に死ぬ奴がいるかよ・・・!
0:
0:傍でお父さんが肩を震わせていた。
0:
私:娘って・・・?
0:
0:私は友和をじっと見つめた。
0:
友和:・・・実は僕には、妹がいるはずだった。死産だったんだ。
友和:お袋、そのことをずっと悔やんでてさ。自分を責めて・・・。
友和:次は女の子が欲しいって楽しみにしてたから。
友和:だから余計お前のことを、娘みたく思っていたのかもしれない。
友和:ごめん。隠してて。
友和:妹が死んで産まれてきたのが、今日と同じ日。母の日だったんだ。
0:
0:友和は私の手を握った。
0:
0:私は真っ白な病室の天井を見つめることしかできなかった。
0:
0:お母さんは、やっと本当の娘さんのところに行けるのだ。
0:
0:
0:母の日に、会いたかった娘さんの元へと旅立ったお母さん。
0:
0:
0:きっと天国では、ニコニコしながら娘さんの手を引いて
0:たくさん、たくさん、抱きしめているのかな。
0:
0:私は・・・これからも、あなたの娘でいても、いいですか。
0:
0:私を可愛がってくれてありがとう。
0:
0:たくさんの愛情を、ありがとう。
0:
0:お母さん。
0:
0:
0:(終わり)
0:
0:お母さん。
0:
0:あなたがこの世を去ってから、もうどれくらい経つのでしょうか。
0:
0:あなたと初めて会ったのは、友和と結婚をすると決めてから、間もなくのことでした。
0:
0:両家の初顔合わせの日に、初めて見たあなたの顔が、なぜだか仏のように見えて。
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0:ふくよかで、穏やかそうで、優しそうで。
0:
0:私がこれから結婚する人のお母さんはこの人なんだ、と
0:緊張しながらあなたを見ていた自分がいました。
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0:私の父親がひとりで喋っている間
0:あなたはニコニコしながら相槌を打ち
0:ほとんど話すこともなく、ただそこに座っていましたね。
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0:あなたの一人息子である友和と結婚して三年後
0:まわりから「子供はまだか」などと言われるようになった時、あなたは
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母:あのね、私、正直言うとね、孫はいらないのよ。
母:うちは大した家柄じゃないから跡継ぎの心配なんていらないの。
母:あなたも三十を過ぎて、友和も四十を過ぎているのだから二人で好きに生きていいの。
母:私はね、あなたたち二人が仲良くしていてくれたら、それが一番嬉しいんだから。
0:
0:と、優しく話しかけてくれたことを、今でもはっきりと覚えています。
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0:
0:それから間もなく、あなたは体調を崩し、そして末期がんの宣告を受け
0:医師から余命三か月の診断を下されました。
0:
0:膵臓癌(すいぞうがん)は進行が早く、日を追うごとに体が弱ってくる。
0:
0:入院してからは癌との壮絶な闘いが始まり
0:それを見ていた私は食事も喉を通らなくなり
0:いつしか笑うことを忘れていました。
0:
0:一番辛いのは、お母さんなのに。
0:
0:
0:死へのカウントダウンが始まったある日の昼下がりに、ベッドの上で
0:
母:短い間だったけど、楽しかった。
母:私には娘がいなかったから、あなたが友和のお嫁さんになってくれた時、何だか娘ができたみたいで。
母:うちはお父さんも友和も無口で、男ばかりで淋しかったのよ。
母:あなたは自慢の娘なの。
0:
0:私の手を取ると、
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母:人生はね、ケセラセラ。なるようになる。
母:小さなことでクヨクヨしなさんな。時間が勿体ない。
0:
0:あなたはにっこりと微笑んだ。
0:
0:その翌日あたりから、相当に痛みが激しくなってきたのだろう。
0:我慢強いあなたの目からこぼれた涙が、その頬を伝う回数が増え
0:これ以上苦しむ姿を見たくはなかった。
0:
0:「そろそろモルヒネを打ちましょうか」と
0:淡々と話す医師の言葉に、反対する者はいなかった。
0:
0:ついにモルヒネの投与が開始される。
0:
0:モルヒネは痛みを自覚させないかわりに、意識を奪ってゆく。
0:
0:そして、もう会話すらできなくなった。
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0:ゴールデンウィークの最後の休日に、その日は訪れた。
0:
0:前日まで病院の廊下まで響き渡っていた、声の混じる荒々しい呼吸音が
0:徐々に、徐々に小さくなり、それでも何かを言いたそうに、時々目を開けようとする。
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0:看護師が私たちに声をかける。
0:
看護師:意識がなくても、声は聞こえるんですよ。
看護師:みんなで声をかけてあげてください。きっと聞こえてますよ!
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0:お父さんも、友和も私も、必死で声をかけ続ける。
0:
0:やがて、心拍数がゼロになった。
0:
0:「ご臨終です。立派な最期でした」
0:医師の声が聞こえた。
0:
父:・・・なんだよ。お前・・・。先に逝っちまって。馬鹿野郎だな・・・。
父:よりによって何で今日なんだよ・・・。娘が死んだ日に・・・!
父:同じ日に死ぬ奴がいるかよ・・・!
0:
0:傍でお父さんが肩を震わせていた。
0:
私:娘って・・・?
0:
0:私は友和をじっと見つめた。
0:
友和:・・・実は僕には、妹がいるはずだった。死産だったんだ。
友和:お袋、そのことをずっと悔やんでてさ。自分を責めて・・・。
友和:次は女の子が欲しいって楽しみにしてたから。
友和:だから余計お前のことを、娘みたく思っていたのかもしれない。
友和:ごめん。隠してて。
友和:妹が死んで産まれてきたのが、今日と同じ日。母の日だったんだ。
0:
0:友和は私の手を握った。
0:
0:私は真っ白な病室の天井を見つめることしかできなかった。
0:
0:お母さんは、やっと本当の娘さんのところに行けるのだ。
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0:
0:母の日に、会いたかった娘さんの元へと旅立ったお母さん。
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0:
0:きっと天国では、ニコニコしながら娘さんの手を引いて
0:たくさん、たくさん、抱きしめているのかな。
0:
0:私は・・・これからも、あなたの娘でいても、いいですか。
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0:私を可愛がってくれてありがとう。
0:
0:たくさんの愛情を、ありがとう。
0:
0:お母さん。
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0:
0:(終わり)