台本概要
29 views
タイトル | インディゴ=ノート #08 |
---|---|
作者名 | 蒼山熾音 (@Shinon_Aoyama) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
【内容説明】 時は現代、少しだけ違う世界。 信託と称し、古代文明『アライア・イシェド』の末裔ラ=ヴィオラが諸手で抱えていた、20冊を超える古文書、その全てが群青に染まった預言書、神からの啓示が詰められた福音書。 インディゴ=ノート。 その裏には近代イタリアが画策した怨嗟の鎖が蠢いていた。 2編の古文書が世界をひっくり返す。 その中に、抗おうとする5人の賊がいた。 【注意事項】 アレンジ・アドリブありあり(ただし他の演者さんと連携が取れなくなるような無茶ブリは禁止) 性別変更あり(オカマちゃん可) 本編は変更しませんが、適宜説明については変更していきます。 また、キャライメージをそれぞれに書いておりますが、こちらはガン無視していただいて結構です。 と言いますのも自分がイメージ持って書きやすいように記載しているものですので、言ってしまえば作者のメモです。 したがっておひとりおひとり自己主張多めでバチバチキャラクターを作り替えていただき、ご自身の感じたイメージをぶつけていただきたいです。よろしくお願い致します。 蓼原(たではら) 34歳。無精髭標準装備のおっさん。基本気だるげ。イメージはPSYCHO-PASSの狡噛慎也やFateの衛宮切嗣、紺 蓮池(はすいけ) 24歳。好青年イケメン。デキるビジネスマン風。イメージはPSYCHO-PASSのミハイルやエヴァンゲリオンの加持、青 桐谷(きりたに) 21歳。正統派ツンデレ。シナリオによってはツンツンツンくらい。イメージはエヴァンゲリオンのアスカ、赤 柳沼(やぎぬま) 29歳。クールビューティー。大人のオンナで色気たっぷり。イメージはPSYCHO-PASSの唐之森やSAOの(冷静な時の)シノン、紫 桜庭(さくらば) 33歳。闇深い狼。でも悪ではなく単に闇なだけでちゃんといい人。イメージはエヴァンゲリオンのカヲルや(セリフ回しだけは)呪術廻戦の五条悟、モノ 樺倉(かばくら) (回想登場キャラクター)3年前に20歳。陰キャ、非モテだけど顔は悪くないし数学が得意でパソコンをゼロから作れる。イメージはカノ借りの木ノ下和也、緑 29 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
蓼原 | 男 | 91 | 34歳。無精髭標準装備のおっさん。基本気だるげ。イメージはPSYCHO-PASSの狡噛慎也やFateの衛宮切嗣、紺 |
樺倉 | 男 | 61 | (回想登場キャラクター)3年前に20歳。陰キャ、非モテだけど顔は悪くないし数学が得意でパソコンをゼロから作れる。イメージはカノ借りの木ノ下和也、緑 |
桐谷 | 女 | 67 | 21歳。正統派ツンデレ。シナリオによってはツンツンツンくらい。イメージはエヴァンゲリオンのアスカ、赤 |
柳沼 | 女 | 68 | 29歳。クールビューティー。大人のオンナで色気たっぷり。イメージはPSYCHO-PASSの唐之森やSAOの(冷静な時の)シノン、紫 |
桜庭 | 男 | 65 | 33歳。闇深い狼。でも悪ではなく単に闇なだけでちゃんといい人。イメージはエヴァンゲリオンのカヲルや(セリフ回しだけは)呪術廻戦の五条悟、モノ |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
:
0:(回想)
0:(7話の3年半前)
0:(カイロ空港付近のカジノ併設ホテル)
:
0:(室内には蓼原、桐谷、柳沼がいる)
0:(蓼原、銃の手入れをしている)
0:(桐谷、ヘッドホンで耳を塞ぎ、パソコンから流れてくる音声を黙って聞いている)
0:(柳沼、パソコンを叩きホテルの見取り図やセキュリティシステムの配備状況を確認している)
:
蓼原:暇だな
蓼原:柳沼、酒飲んでいいか
:
柳沼:いいわよお
柳沼:私も後で
:
蓼原:お前とサシ飲みか
蓼原:久しぶりにゆっくり酒が楽しめそうだ
:
柳沼:聞こえてなくてよかったわね
:
蓼原:聞かれたら困るからこのタイミングなんだ
蓼原:(グラスにウイスキーを注ぎだす)
:
桐谷:ちょ、くさい
:
蓼原:ああ、済まん
:
桐谷:引っ込んで
桐谷:どうせしばらくは待ちなんだから
桐谷:樺倉の音声聞いてるのも退屈なの
桐谷:どうせなら代わってよ、腰痛い
:
蓼原:ああ、分かった
蓼原:(酒を握ったまま席を代わろうとする)
:
桐谷:引っ込んで、って言ったでしょ
:
蓼原:そう噛みつくな
:
桐谷:持ってけ、タデさん
桐谷:(パソコンを押し付ける)
桐谷:(ヘッドホンを蓼原の頭にかぶせる)
:
蓼原:乱暴だな
蓼原:これでも一応の特注品だぞ
:
桐谷:うっさい、あっち行け
桐谷:(蓼原を奥の手狭な部屋へ押し込む)
:
柳沼:(軽いため息)
柳沼:あなたねぇ
:
桐谷:何、ですか
:
柳沼:タデちゃんにホの字なのは結構だけど
柳沼:あまりにあからさまなんじゃなくて
:
桐谷:柳沼さん、いつも言ってますけど
桐谷:あたしそんなんじゃありません
:
柳沼:(短い間)
柳沼:いいけど
:
桐谷:というかいい加減、やめてください
桐谷:認めてないのに勝手にラブコメさせるの
:
柳沼:あら、認めてないってことは
柳沼:自認している気持ちはあるのね
:
桐谷:(図星を突かれた顔をする)
桐谷:バカを、言わないでください
:
柳沼:あれぇー、これはー、見当違いかしらー
:
桐谷:ええそうです見当違いです
桐谷:大体歳を考えてくださいよ
桐谷:どうしてピチピチの10代女子が
桐谷:しおれかけのオジサンに恋するんですか
:
柳沼:あら、あたしは22のときよ
:
桐谷:え、何がですか
:
柳沼:22のとき、あなたよりはマシだけど
柳沼:私も昏い(くらい)闇から救い出されたの
柳沼:(短い間)
柳沼:私はとある組織に飼われていた
柳沼:ある日大学の同窓生に呼び出され
柳沼:初めて行くクラブで2時まで飲んだ
柳沼:騒ぎ疲れてソファに横になったところで
柳沼:記憶を手放してしまってるくらいにね
:
桐谷:へえ、そんな頃もあったんですね
桐谷:ただのお堅いお姉さんかと思ってました
:
柳沼:あらごめんなさい、私ただのビッチよ?
:
桐谷:(驚きのあまり呼吸をミスしむせる)
:
柳沼:あらあら、ちょっと刺激強かったかしら
柳沼:ほら、水飲んで
柳沼:(手元のグラスに水を注ぎ手渡す)
:
桐谷:ありがとうござ…
桐谷:(グラスに酒が残っていることに気づく)
桐谷:いや、くさいんでいいです
:
柳沼:え、残ってないわよ
:
桐谷:いや、敏感なんですよ
桐谷:いろいろありましたから
:
柳沼:…ああ、そうよね
柳沼:いいから、ちょっと落ち着きなさいな
:
桐谷:それで
:
柳沼:んー、そうね
柳沼:また驚かせちゃってあたふたしたくないし
柳沼:この続きはまたにしましょう
:
桐谷:子ども扱いですか
:
柳沼:ええ、そうね
柳沼:それに、まだ知らないほうがいいことも
柳沼:まだ教えてはいけないことも沢山あるし
柳沼:ゆっくりじっくり行きましょ?
:
桐谷:ああもう、いいですよこの際
桐谷:二人きりの時にからかうだけなら
桐谷:その代わりタデさんに(かぶる/言ったら)
:
柳沼:(かぶせて)ぶち抜かれちゃうのかしら
:
桐谷:ええ、そうです
桐谷:言っておきますけど本気ですよ
:
柳沼:ええ、分かってるわ
柳沼:こんな乙女の美しい恋を邪魔しちゃ悪いわ
:
桐谷:だから恋じゃありません
:
柳沼:いいことじゃないの、私は応援するわ
柳沼:半年でここまで回復できたんだもの
柳沼:女らしいこと、少しはなさいな
:
桐谷:無理です、あたしは
桐谷:タデさんにそんな迷惑(かぶる/かける)
:
柳沼:うっとうしい好意には銃声で答えるのが彼よ
柳沼:半年粘ってるんだから脈はあるわ
柳沼:お姉さんも、力貸したげるから
:
桐谷:(あからさまに困る)
:
柳沼:(笑う)
柳沼:やっぱりかわいいところ、あるじゃない
:
桐谷:(微笑む)
:
柳沼:うん、かわいい
柳沼:せめて笑ってなさい
柳沼:笑える女はカッコいいのよ
:
桐谷:カッコいい、か
桐谷:あたしも、そうなれるかな
:
柳沼:なれるわよ
柳沼:タデちゃんがきっと
柳沼:モテる女にしてくれるわ
:
桐谷:あくまでも、タデさんなんですね
:
柳沼:当たり前じゃない
柳沼:樺倉君は頼りないから守りたいキャラ
柳沼:桜庭は恋愛に興味ないし
:
桐谷:それならタデさんも(かぶる/興味ない)
:
柳沼:タデちゃん、実は元妻帯者よ
:
桐谷:え、うそ
:
柳沼:ホント
柳沼:幼馴染を仕事で救った件で仲良くなって
柳沼:結婚したのよ一応ね
:
桐谷:じゃあ、別れたんですか
:
柳沼:うん
柳沼:まあ、そんなところね
:
桐谷:(身構える)
桐谷:どうしましたか
:
柳沼:何でもないわ
柳沼:綺麗な、百合みたいな人だったなって
:
桐谷:ふーん
:
柳沼:その点、今のあなたはまだまだね
柳沼:路傍(ろぼう)のタンポポかしら
柳沼:存在感はあっても可憐ではない
柳沼:健気に自らに気づいてもらうために
柳沼:花びらを振って種を飛ばして
柳沼:誰かのために咲きたいと願う、そんな
柳沼:…そんな強さと脆さが可愛らしい
:
桐谷:やめてください
:
柳沼:ごめんねぇ、つい
柳沼:(笑う)
柳沼:思わずからかいたくなっちゃうのよ
:
桐谷:はいはい、分かりました
:
0:(桜庭、戻ってくる)
:
桜庭:やあ、お疲れ様
桜庭:…タデは
:
柳沼:いるわよ、そこの部屋
柳沼:この子が奥に押し込んじゃって
:
桜庭:相変わらずぬるいな、タデってば
:
桐谷:水、取ってきます
桐谷:(去る)
:
柳沼:はあい、いってらっしゃい
柳沼:(ため息)
柳沼:サク、あなた何したのよ
:
桜庭:何も
桜庭:強いて言えば、2度命を救った程度だよ
:
柳沼:ドンパチだけでああも嫌われるものかしら
:
桜庭:仕方ないさ、僕は昔から子供に嫌われる
:
柳沼:その点では私はかなり特殊だったのかしら
:
桜庭:そうだね
桜庭:口説いたわけでもないのについてきて
桜庭:今やタデや僕のサポーターとして
桜庭:名を知られる存在にまでなっちゃって
:
柳沼:約束と違う、って駄々こねてもいいかしら
:
桜庭:よしてくれよ、とばっちりだ
:
柳沼:まあ、色男に囲まれて悪い気はしないけど
:
桜庭:(笑う)(嗤うのも可)
桜庭:確かに顔だけは悪くないからね、僕たち
:
柳沼:自分で言っちゃうところが罪よね
:
桜庭:いつものことだろう、いい加減慣れてくれ
:
柳沼:はいはい、仰せのままに
:
桜庭:それより、ちょっと重要な情報が
:
柳沼:でしょうね
柳沼:明らかに何か摑んで帰ってきた顔してた
:
桜庭:助かるよ
桜庭:今回はブツの場所を仕入れてきた
桜庭:スタッフの子を少し酔わせたら、ね
:
柳沼:結構よ、抱いた話は聞き飽きたから
柳沼:さっさと結果を教えてちょうだい
:
桜庭:へそ曲げるなよいい加減
桜庭:まあそれで報告なんだけど
桜庭:このホテルで抱えてる倉庫にあるらしい
:
柳沼:へえ、そう
柳沼:もしかして、だけど
:
桜庭:8th Compartment(同時に)
桜庭:(エイスコンパートメント)
柳沼:8th Compartment(同時に)
柳沼:(エイスコンパートメント)
:
桜庭:さすが気づいてたか
:
柳沼:いや、倉庫と言われてピンと来ただけ
柳沼:不自然に警備が厚いんだもの
:
桜庭:スタッフ側でも第8区画の存在は
桜庭:深く知られていないらしい
桜庭:複数名に声をかけてみたが
桜庭:第8区画については知らない子もいた
:
柳沼:ふうん、あり得そうね
:
桜庭:基本的に立ち入りが許されているのは
桜庭:業務長と一部のカジノ客、しかもVIP
:
柳沼:そのようね
柳沼:しかも極めつけよ
柳沼:(画面を見せる)
柳沼:第1から第7までは3ダースだけど
柳沼:第8区画だけは同じ3ダースでも
柳沼:不自然な空間が見受けられるの
柳沼:ほら、少し下にある第4区画を見て
柳沼:階段の下に配置されている点は同じだけど
:
桜庭:明らかなズレがあるね
桜庭:幻のベイカーズダズンか、怪しい限りだ
桜庭:杜撰(ずさん)すぎて笑えてくるよ
:
柳沼:そ、恐らくここに13列目が存在するわ
:
蓼原:(戻ってくる)
蓼原:朗報だ、お前ら
蓼原:樺倉がパスを持って帰ってくる
蓼原:3分後に玄関で落ち合うぞ
:
桜庭:おお、来たか
桜庭:ただし落ち合う場所は変更だ
桜庭:彼に連絡を
:
柳沼:任せて
:
桐谷:(戻る)
桐谷:聞いてたわ、あたしが行く
:
桜庭:(少しだけ見つめる)
桜庭:そう
:
柳沼:いいのよ別に
柳沼:通信は可能だから
:
桐谷:さっき聞いてた時に環境音に音がしました
桐谷:電波方向探知機の音が
桐谷:あまりはっきりとは聞き取れてないけど
桐谷:間違いないです、あの頃散々聞いた音
:
蓼原:ほう
:
桜庭:ふぅん
:
柳沼:あら
:
桐谷:何、ですか
:
蓼原:でかした、連れてきてよかったよ
蓼原:お前ら、まずは廊下でドンパチだ
:
柳沼:任せるわね
:
桜庭:うーん、面白くないなあ
:
蓼原:ぶつくさ言うな
蓼原:分かってると思うが、お前はとにかく走れ
蓼原:小型のレシーバを渡しておくから
蓼原:環境音と反響音から位置を割り出せ
蓼原:あとは各自流れで撃破
蓼原:異論は
:
柳沼:いつも通りまとまらない指示ね
:
桜庭:これで伝わるからいいんだよ
:
柳沼:私は脳筋語を学んでないの
柳沼:ともかく引っ込んでるから絶対終わらせて
:
蓼原:いいだろう、任せておけ
蓼原:(ドアに手をかける)
蓼原:2、1、ゴー
:
0:(蓼原、ドアを開け放つ)
0:(蓼原、桐谷、桜庭、飛び出す)
0:(3人に対し弾幕が張られ、滑り込むように桐谷が走り抜け離脱する)
0:(蓼原、桜庭、互いに背を向け勝手に撃破していく)
:
柳沼:いやー、これは壮観ね
柳沼:私には到底やれないわ
柳沼:(笑う)
:
:~転換~
:
0:(舞台が変わり、カイロの戦闘の数日後)
0:(7話のパリにある閉店後のバー)
0:(蓼原、桜庭がカウンターに座っている)
:
桜庭:で、何か聞いてるのかい
:
蓼原:いや、柳沼は特に知らないそうだ
:
桜庭:そっか、それならサブリナからじゃないか
:
蓼原:まあ樺倉のことだ、また面白いネタだろ
:
桜庭:骨があるといいね、奴らはぬるすぎた
:
0:(樺倉、入ってくる)
:
樺倉:お疲れ様でーす
樺倉:すみません、お呼び立てして
:
蓼原:構わん、俺らは酒のアテを待ってただけだ
:
桜庭:今回はどんな話なのかな
桜庭:どうせオフィシャルじゃないんだろう?
:
樺倉:そっすね、指示書はないです
樺倉:ただ、多分
樺倉:(黙る)
樺倉:コンフィデンシャルで飛んできます
:
蓼原:(眉を動かす)
:
桜庭:へえ、特ダネかな
:
蓼原:いいだろう、酒が回りきる前に終われるか
:
樺倉:お二人の飲みっぷりなら大丈夫でしょう
:
桜庭:おお、嫌味だね今日は
:
樺倉:まあ、これはまだ独自情報なんですが
樺倉:世界各所に同時多発した陰謀論的なもので
:
蓼原:陰謀論、ね
蓼原:気になる言い回しだな
:
樺倉:言ってしまえば、なんですけどね
樺倉:お二人がこれまで相手してきた組織が
樺倉:最近になってから再編、統合されて
樺倉:新規に組織化されているケースが複数
樺倉:それ以外にも現地の過激派ゲリラが
樺倉:明確に組織としてランクアップするケースも
樺倉:2件は報告されてます
:
桜庭:具体的にはどこかな
桜庭:あたりがなければ言い切れないだろう
:
樺倉:申し訳ありません、読めないですね
樺倉:複数の組織が集合してて
樺倉:生き残り達が寄り集められたその成立背景、
樺倉:しぶとく牙を研いでるような印象のせいで
樺倉:明確な全容は何とも把握しきれません
:
桜庭:じゃあ候補は
:
樺倉:間違ってても恨まないでくださいよ
:
蓼原:ほう、情報の間違いを知りながら
蓼原:堂々と売りつけるつもりだな貴様
:
樺倉:そんなことをすればピラミッドに
樺倉:磔(はりつけ)にされるのがオチです
:
蓼原:諦めろ、俺らにジョークでかなうとでも
:
樺倉:はいはい、思い上がってました
樺倉:(短い間)
樺倉:少なくとも、お二人が潰したものは全てです
樺倉:候補としてマドリード、サンフランシスコ、
樺倉:リオデジャネイロ、ローマなど十数都市あります
樺倉:これ以外にも複数あるとはいえど、
樺倉:数が多すぎる点と指揮系統が見えない点で
樺倉:いまいちはっきりしないってとこです
:
蓼原:結論、全体をどのくらい信頼できるんだ
:
樺倉:主観ですが、80パーセントくらいは
:
桜庭:なら120パーセントだね
:
樺倉:だから(かぶる/確定した情報では)
:
桜庭:(かぶせて)確度は高いがやりにくそうだ
:
蓼原:間違いないな、どこから攻める
:
桜庭:そうだね、(かぶる/池袋なんて)
:
樺倉:(かぶせて)待ってくださいよ
樺倉:確証はないと申し上げたはずです
:
桜庭:ああ、言われたよ
:
蓼原:ただそんな顔をさせる事態はそうそうない
蓼原:本気で焦ってるなら動いて損はないだろう
:
桜庭:珍しいものを見られたお礼に動いてみよう
桜庭:池袋が最初だよね、そんな真剣な目
:
樺倉:(息を呑む)
樺倉:思い出させないでくださいよ
樺倉:あれが初仕事だったなんて不運です、全く
:
桜庭:まあ、そう言わないで
桜庭:骨のある仕事を経験できたことを
桜庭:うらやむ奴もいるはずだよ
:
蓼原:だからと言って『アレ』が良かったのか
蓼原:未だに疑問を(かぶる/抱えているが)
:
柳沼:(入ってくる)
柳沼:(かぶせて)ハァイ、男子ども
:
樺倉:どうしたんですか、珍しいですね
:
柳沼:いいじゃないたまには
柳沼:むさくるしい中に花が咲いたのよ
柳沼:少しは喜びなさいな
:
樺倉:それはどうもお心遣い痛み入りますー
:
柳沼:何よ、伝わらないわね感謝の気持ち
:
樺倉:ええ、元々ありません
:
柳沼:あらそう、じゃあ『木馬』、入れとく?
:
樺倉:どうぞどうぞ、7.5秒で消し炭にします
:
蓼原:はいはい、パソコン人間は勝手に戦え
:
桜庭:酷いねタデ、もう少し(かぶる/レディを)
:
桐谷:(入ってくる)
桐谷:(かぶせて)いやっほー!エブリワン!
:
柳沼:ちょっとあなた、どうしたの
:
蓼原:誰だ、飲ませたのは
:
樺倉:うわ、酒くさ
:
桐谷:(かぶせて)きもちいいー
桐谷:(勝手に踊る)
:
桜庭:埃が舞うからやめてほしいんだけど
:
樺倉:ああもう危ない、酒瓶が
樺倉:(踊りのせいで揺れる酒瓶を避難させる)
:
蓼原:というか柳沼、お前だろう
蓼原:あれだけ酒は隠せと(かぶる/言った)
:
柳沼:(かぶせて)嫌よタデちゃん
柳沼:私の酒を飲んだ証拠はないもの
:
樺倉:うぅ、きっつ
:
蓼原:ザルの樺倉がへばるのはラムだけだ
蓼原:知ってるよなウワバミビッチ
:
柳沼:うげ、いじわるー
:
桐谷:(同時に)(えづく)
樺倉:(同時に)(えづく)
:
柳沼:ちょっと、二人とも!
柳沼:(桐谷に駆け寄る)
:
蓼原:待て待て落ち着け!
蓼原:(樺倉に駆け寄る)
:
桜庭:あーあー、これは悲惨だ
:
蓼原:貴様少しは(かぶる/手伝え)
:
桜庭:(かぶせて)嫌だね
桜庭:楽しい酒の席でやってられないよ
:
蓼原:分かったから樺倉は貴様にやろう
蓼原:(樺倉を押して桜庭に託す)
:
桜庭:ちょっとタデ(かぶる/酒の席で)
:
蓼原:(かぶせて)嫌なこった
蓼原:楽しい酒の席でやってられるか
蓼原:(笑う)
:
桜庭:恨むよ、タデ
:
0:(樺倉、桜庭、共に去る)
:
柳沼:ちょっと、タデちゃん
柳沼:空いたんならこっち手伝ってよ
:
蓼原:女の世話なんてやってられるか
蓼原:大体お前が飲ませた酒の始末はお前がしろよ
:
柳沼:言うと思ったわ
柳沼:くれぐれも、一人でぶっ倒れるのはよしてよね
:
蓼原:ガキ扱いするんじゃない、それじゃあるまいし
:
桐谷:(再度えづく)
:
蓼原:ほら、時間もないぞ
:
柳沼:ああもう忙しいわね全く!
:
0:(桐谷、柳沼、共に去る)
:
蓼原:(ため息)
蓼原:静かになったか
:
蓼原:(モノローグ)
蓼原:(独自情報とはいえ、ほぼ確定か)
蓼原:(俺たちへの復讐の機会を狙ってるのか)
蓼原:(少なくともヨーロッパは危険だな)
蓼原:(パリは安全だと思うが、国外に出れば)
蓼原:(一巻の終わりとまではいかないにしても)
蓼原:(それなりに手間を食うものと覚悟しよう)
:
0:(樺倉、桜庭、戻る)
:
蓼原:よう、三文芝居の感想を聞かせてくれるか
:
桜庭:分かっててやらせるんじゃないよ全く
:
樺倉:僕はちょっと楽しかったですよ
:
桜庭:(短いため息)
桜庭:にしても、なぜ柳沼を避けた
:
樺倉:ごめんなさい、そこまで話せてなかったですね
樺倉:(一瞬言葉にするか迷う)
樺倉:今回は、サブリナが若干怪しいんです
:
0:(場が凍る)
:
桜庭:派手に出たね
:
蓼原:おい、滅多なことを言うな
蓼原:俺たちは常にサブリナの(かぶる/監視下に)
:
樺倉:(かぶせて)構いませんよ
樺倉:どう考えても、流れ上サブリナに疑惑が集まる
樺倉:ことの全容をお話ししますね
樺倉:掴んでいる分だけ(かぶる/にはなりますが)
:
桜庭:(かぶせて)その前にだ
桜庭:柳沼にはそれ、伝えないのかい
:
樺倉:言えませんよ、彼女はまだ日が浅いので
樺倉:僕らが掻き乱すとミスを呼びかねません
:
桜庭:そうかい
桜庭:ちょっとはエージェントらしくなってきた
桜庭:(笑う)
桜庭:鼻が高いよ
:
樺倉:サクさんが素直に褒めてくるなんて
樺倉:明日は札束の雨が降るんでしょうか
:
蓼原:悪くないジョークだ
蓼原:ただ、時間の問題もある
蓼原:手早く済ませよう
:
樺倉:すみません、内容としては次の通りです
樺倉:言いましたけど、これはマユツバな陰謀論です
樺倉:どこそこで持ち上がっているようで、
樺倉:組織という建物が僕らによって壊された後、
樺倉:その場に散らばっているガラクタを集めるように
樺倉:別の組織が傘下に置く形でネットワーク化してて
樺倉:正直言って頭も尻尾もどこにあるのか
樺倉:まるでサッパリという感じなんですよ
:
蓼原:再編や改組(かいそ)もだな、その様子は
:
樺倉:そうっすね、既に壊滅させた組織のインフラが
樺倉:今も元気にやりとりを続けてたり
樺倉:小康状態の組織で使われてる無線周波数を
樺倉:関わりがなかったはずの組織が共用してたりと
樺倉:結構意味の分からない動きが観測できるんですが
樺倉:これに関してサブリナが全くのノーアラートで
樺倉:まるで『意図して見逃している』というか、
樺倉:『秘密裏に動けるよう協力している』印象です
:
蓼原:きな臭い、どころではないなそれは
:
樺倉:現状、まだどこにも出回ってませんし
樺倉:僕たちにバレないよう動いてるつもりでしょうけど
樺倉:情報屋の中では結構話題になってますし
樺倉:売り込みにも稀に来るんですけど
樺倉:(ため息)
:
桜庭:なるほど、消されたか
:
樺倉:ええ、昨日セーヌ川に浮かんだそうで
:
蓼原:仕事が早いな、急ごしらえにしては
:
樺倉:でも一方では『駒を集めている』だけかもでして
:
桜庭:駒?
:
樺倉:ええ、ターゲットとして最も有力なのは僕らでも
樺倉:それだけじゃどうにも説明がつかないんですよ
:
蓼原:俺や桜庭、柳沼への接触が少なすぎる
蓼原:サブリナが情報屋に後れ(おくれ)を取っている
:
桜庭:なるほどね、僕は(かぶる/気づけなかった)
:
蓼原:(かぶせて)来る者皆殺しの貴様は
蓼原:知る由(よし)もないだろうよ
:
桜庭:(笑う)
桜庭:ご名答、タデのそういうところ
桜庭:僕は本当に大好きだよ
:
樺倉:はいはい、仲がよろしいようで
樺倉:巷で有名なボーイズラブとやらはよそでどうぞ
:
蓼原:よしよし、それならそのボーイズラブとやらを
蓼原:貴様も体験したかろう
蓼原:今なら出血大サービスでそのための穴を
蓼原:無料で3つに増やしてやろうじゃないか
:
樺倉:血の気の多いのは勘弁してください
:
桜庭:血の気というか性欲じゃないかな
:
樺倉:まあともかくとしてです
樺倉:あなた方二人が関わって消された数々の組織が
樺倉:何者かの恣意(しい)によって雑多に集められ
樺倉:僕たちに牙を剥く可能性が高いとみてます
樺倉:ここ数ヶ月で急激に動きが活発化していますし
樺倉:余談を許さないと言っても過言ではない、ですね
:
桜庭:気になってくるんだけど、元締めの拠点は?
桜庭:そこを叩けば早いんじゃないのかな
:
樺倉:分かってたら苦労しませんよサクさん
樺倉:僕も洗ってみてはいるんです
樺倉:さっきも言いましたけど、頭も尻尾も見えなくて
樺倉:まるで同時進行で複数の組織が我先にと
樺倉:手柄を狙うような感じなんですよ
樺倉:僕一人ではなかなか情報収集が追いつかなくて
樺倉:仕方ないのでお二方にご協力を仰いでます
:
桜庭:分かった、手伝おう
桜庭:ちょうどひと山終わったところで
桜庭:タイミングもいいしね
:
蓼原:俺はできればパスしたいんだがな
蓼原:少しは休日をもらいたいものだ
:
桜庭:おいおい、慕ってくれている後輩に向かって
桜庭:背中を見せて自分の大事な袋を守るような
桜庭:みっともない男だったとは思わなかったよ、タデ
:
蓼原:面白い冗談だ、受けて立とう
:
桜庭:ならば男らしく飲み比べと洒落込もうか
:
樺倉:男同士の清々しい友情は素晴らしいんですが
樺倉:蓼原さんにも手伝っていただけないと
樺倉:ちょっと厄介な予感がするんですよ
:
蓼原:ん、何だ
蓼原:もう既に、これだけ突拍子もない話の後だ
蓼原:驚くこともないだろうが一応聞こう
:
樺倉:僕が通信を追いきれたうちの一つに
樺倉:『あの子』の故郷があったんですけどね
樺倉:サンクトペテルブルクのマフィアの周波数に
樺倉:東京都内からアクセスしてる瞬間を見つけまして
:
桜庭:ああ、初出場の
:
蓼原:余計な口を挟むな貴様
:
樺倉:ええ、そうです初出場です
樺倉:盛大に3打席ノーヒットでしたけどね
樺倉:(間)
樺倉:その中に出てきたんですよ
樺倉:『インディゴ=ノート』
樺倉:しかも、4回
:
桜庭:(深いため息)
:
蓼原:何というか、面白くないなそれは
:
樺倉:だから蓼原さん抜きではこのヤマ、無理なんです
樺倉:『貴方が、必要です』
:
蓼原:プロポーズでもしているのか、貴様
蓼原:やけに声が湿っぽいぞ、気色が悪い
:
樺倉:土竜の本領を発揮してもらうために
樺倉:できる限り心地よくなっていただかないと
樺倉:今後に障ります(さわります)からね
:
桜庭:さて、久しぶりに男3人の気ままな珍道中だよ
桜庭:前祝いに2、3本空けようか
:
樺倉:構いませんけど僕は程々にしときます
樺倉:時差の関係上、ここで寝ておいて
樺倉:またサンクトペテルブルクと
樺倉:サバンナを監視しておかないと
:
桜庭:ふぅん、サバンナはまたどうしてだい
:
樺倉:貿易のやりとりが盛んになったのは
樺倉:全くもっていいことではあるんでしょうけど、
樺倉:その裏でやけに密輸額が急増してるんです
樺倉:『インディゴ』って話もありましたし
樺倉:ちょっと気になる、って程度の勘ですよ
:
桜庭:(勘づく)
桜庭:うん、なるほど
桜庭:樺倉、君は漫画家の素質があるかもしれないよ
桜庭:上手くすれば全米で大人気のヒーローマンガが
桜庭:君の手によって生み出されるかもしれないね
:
樺倉:まあ、こういうのはお二人には及びませんけど
:
蓼原:まあいい、その辺りは好きにやれ
蓼原:出発は
:
樺倉:10時間を切ってます
:
桜庭:おお、いつもながら強行スケジュールだね
:
樺倉:すみません、別案件の指示書が来ちゃう前に
樺倉:『お仕事中』ってはねつけられるように
樺倉:前もって大義名分を準備しておきたいんです
:
桜庭:構わないよ、移動は君に任せていいんだよね
:
樺倉:というか、僕に担当させてください
樺倉:この前も危うく爆発させかけたじゃないですか
:
桜庭:あれー、そんなのあったっけ
:
樺倉:戦闘以外は全く気になさらないんですから
樺倉:(笑う)
樺倉:全く、困りものですよ
:
蓼原:惜しいぞ樺倉
蓼原:正確に言えば戦闘と『お気に入り』だ
:
桜庭:もう、いい加減からかわないでよタデ
:
蓼原:からかわれてもにこやかに済ませる貴様自身、
蓼原:満更でもないと言外(げんがい)に
蓼原:語りたくて仕方がない様子だがな
:
桜庭:はいはい、何とでも言えばいいさ
:
樺倉:ではサクさん、蓼原さん
樺倉:首尾は追って機内でお伝えしますが、
樺倉:まずは熱いうちにピザを頬張りに向かいましょう
:
:〜転換〜
:
0:(同じバーのお手洗い)
0:(桐谷、気分が悪そうにしゃがんでいる)
0:(柳沼、桐谷の背をさすっている)
:
柳沼:ちょっと、ホント大丈夫?
:
桐谷:はい、少しはマシになりました
:
柳沼:まったく、無茶しないでちょうだい
柳沼:まだ本調子でもない体に(かぶる/無理を)
:
桐谷:(かぶせて)見て、みたかったんです
:
柳沼:(間)
柳沼:どういう、ことかしら
:
桐谷:あたしを使う男達は、みんなみんな
桐谷:どこかしらで酒を飲んで汚い口で
桐谷:あたしを罵りながらあたしを『使って』いた
桐谷:酒を飲んで見える景色がそうさせるなら
桐谷:あたしも全てを見下せるかなって
桐谷:使われるだけで終わらなくて済むかなって
:
柳沼:いいのよ
柳沼:もう、使わせないわ
柳沼:あなたの居場所はここにある
柳沼:タデちゃんも、私も
柳沼:あなたの居場所になってあげるわ
:
桐谷:(何度も頷く)
桐谷:ありがとう、柳沼さん
:
柳沼:どういたしまして
柳沼:(微笑みかける)
柳沼:お姉さんに任せなさいな
:
0:(柳沼、桐谷の背をさすりつづける)
:
:〜転換〜
:
0:(バーから少し離れたモーテル、蓼原の居室)
0:(蓼原、窓際で煙草を吸っている)
0:(蓼原、ノックされる)
:
蓼原:誰だ
:
樺倉:ハイネケン
:
蓼原:いいぞ
:
樺倉:(入ってくる)
樺倉:お疲れ様です
樺倉:ちょっと先ほどの件で進展があって
樺倉:(パソコンの画面を見せる)
:
蓼原:(パソコンの画面を覗き込む)
蓼原:ん、何だこれは
:
0:(画面上には61〜79の数字、時折2E、6A、6B、6C、6D、6E、6F、7Aの文字が並んでいる)
0:(等間隔に並べられているが、不自然にところどころ空白が空けられている)
0:(ところどころ改行されているが、いずれの改行の直前も2Eで終えられており、次の行が始まっている)
:
蓼原:悪いがこういう類は専門外だ
蓼原:何とは言わずに柳沼に頼んだらどうだ
:
樺倉:仮に解読できたらありがたいですけど
樺倉:もしそれがサブリナの存在を揺るがしそうな
樺倉:危険な内容が含まれている可能性を
樺倉:排除できていない以上は巻き込めません
:
蓼原:それもそうか
蓼原:しかし、こういうものはお前と柳沼に
蓼原:任せきりにしてきたからな
蓼原:知恵で言えば桜庭なら答えに近いんじゃないか
:
樺倉:ええ、既にサクさんには聞きました
樺倉:頑張れ、というエールを受けましたよ
:
蓼原:匙を完全に投げたか、あの野郎
:
樺倉:手伝ってくれそうにはありません
樺倉:というか、多分到着後のシミュレートに
樺倉:忙しいんでしょうね、サクさんは
:
蓼原:(深いため息)
蓼原:しかし手詰まりか、これは
:
樺倉:掴みきれないんですよね
樺倉:数学的アルゴリズムで暗号化されていたので
樺倉:そこの突破は何とかなったんですけど
樺倉:その先の数字と英語の羅列が面倒で
:
蓼原:(笑う)
蓼原:これは英語とは呼ばんぞ
蓼原:英語にするには少なくとも単語でなければ
:
樺倉:もともと英語を使わない人生を歩むつもりで
樺倉:高校まではのんびりしてきたんです
樺倉:アルファベットも英語の一部です、僕には
:
蓼原:英語圏の人間に(怒られる)
蓼原:(勘づく)
蓼原:待て、英語か
:
樺倉:ええ、英語です
樺倉:アルファベットも発音記号があるように
樺倉:立派な(かぶる/英語なんですよ蓼原さん)
:
蓼原:(かぶせて)違う、これは英語なんだ
蓼原:樺倉、Unicodeを表示してみてくれ
蓼原:確か頭が00番台なのがアルファベットだ
:
樺倉:え、わかりました
樺倉:(パソコン搭載の文字コード表を呼出す)
:
蓼原:ビンゴ、これは16進数で表された英語だ
蓼原:その証拠に各改行の直前は2Eで終わる
:
樺倉:そういうことですか、ピリオドですね
樺倉:ちょっと待ってください、すぐ組みます
樺倉:(操作し数字の羅列を変換していく)
樺倉:(数秒で操作が完了する)
樺倉:できました、が読めません
:
蓼原:貸せ
蓼原:(読み進める)
蓼原:A・L・A、I・A、I・S・H・E・D
蓼原:気になるな
:
樺倉:アライア・イシェド、ですかね
樺倉:綴りからしても恐らく間違いないと思います
樺倉:それぞれアライアとはハワイの現地語で
樺倉:原住民が昔利用したサーフボードで、
樺倉:イシェドとはエジプト神話で登場する神トートが
樺倉:王の名を書き留める為に用いた木らしいです
樺倉:正確にはイシェドの木の葉を使うっぽいですね
:
蓼原:ハワイとエジプト?
蓼原:どちらも歴史的な背景のある単語とはいえ
蓼原:あまりに交流というか、かけ離れてないか
:
樺倉:ええ、気になりますね
樺倉:ちょっとこちらについても調べてみましょう
樺倉:サクさんはさっき出かけてくるって言ってたので
樺倉:呼んできます、もう少し起きててくださいね
:
0:(樺倉、去る)
:
蓼原:案外俺も捨てたものじゃない、か
蓼原:(パソコンの画面をスクロールする)
蓼原:(気づいてスクロールをやめる)
蓼原:8、6、…50、あった
蓼原:桐、か
蓼原:いい漢字じゃないか
:
:〜転換〜
:
0:(モーテルの屋根)
0:(桐谷、屋根の頂点で腰掛けている)
0:(蓼原、桐谷の視界のちょうど真正面にあたる屋根の縁から手をかけて勢いよく飛び出してくる)
:
桐谷:(驚く)
桐谷:タデさん、ど、どうしたの急に
:
蓼原:おお済まない、真正面だったか
蓼原:あのビッチからお前がここだと聞いてな
:
桐谷:柳沼さんか、了解
桐谷:で、いきなり乙女の秘密の時間に現れて
桐谷:何をしでかすつもりなのタデさん
:
蓼原:人聞きの悪い話だな、全く
蓼原:その、何だ
蓼原:(言い淀む)
:
桐谷:何よ、もじもじしちゃって
桐谷:もしかして、あたしに惚れちゃった?
桐谷:ふふーんだ、やっぱり美少女は得ね
桐谷:こうやって沢山のファンに囲まれるのも
桐谷:悪くないんじゃないかと(かぶる/思えて)
:
蓼原:(かぶせて)約束を、果たそうと思ってな
:
桐谷:約束、って
桐谷:ああ、名前ね
:
蓼原:そうだ
:
桐谷:やだ、覚えてくれてると
桐谷:思わなかったじゃん
桐谷:(顔を背ける)
桐谷:それにしても、だ、だいぶかかったわね
:
蓼原:済まない、待たせたな
:
桐谷:(顔を背けたまま動けない)
桐谷:へ、変な名前だったらお断りよ
:
蓼原:ああ、もちろんだ
蓼原:今回はなかなかの自信作だからな
:
桐谷:(顔を正面に戻す)
桐谷:(しかし見つめられず俯く)
桐谷:いつも卵焼き失敗して
桐谷:スクランブルエッグにしちゃうのに
桐谷:名前なんて考えられるのかしら
:
蓼原:おう、お姫様はヤケにへそが曲がってるらしい
蓼原:これはまたの(かぶる/機会にする)
:
桐谷:(かぶせて)待って!
桐谷:い、一応、これだけ待たせたんだし
桐谷:聞かせてもらっておいてあげるわ
:
蓼原:(笑う)
:
桐谷:何よ
:
蓼原:(笑いが込み上げるが喋り出す)
蓼原:いや、何でもない
蓼原:年頃の女ってやつはこういうものかと思い知ってな
:
桐谷:(むくれる)
桐谷:何、どうせ考えついてなかったってオチでしょ
:
蓼原:待て待て焦るな
蓼原:俺が考えてきたのはな、『桐谷』だ
:
桐谷:きり、たに…
:
蓼原:ああ、お前が持ってたあのドッグタグ
蓼原:6850はUnicodeってので
蓼原:桐という漢字に当てはめられていてな
蓼原:何か合いそうな漢字がないか探してたんだ
蓼原:そしたらぴったりのものがあってな
:
桐谷:(ほくそ笑んでしまう)
桐谷:ふーん、そう
:
蓼原:エイスコンパートメント、覚えてるか
:
桐谷:うん、数日前じゃない
:
蓼原:貨物番号はどうだ?
:
桐谷:えっと、37番
:
蓼原:そう、第8区画37番貨物
蓼原:それをホテルじゃこう呼んでたらしい
:
蓼原:8C37
蓼原:(エイトシーサーティーセブン)
:
桐谷:そう
:
蓼原:同じようにUnicodeでいくと
蓼原:谷、という漢字になる
:
桐谷:そっか
:
蓼原:お前が背負ってきて最後まで縋ったあの数字
蓼原:お前の活躍で無事に完了できたあの仕事
蓼原:その二つがあるから、俺はお前に名を贈れる
:
桐谷:(さらに深く俯く)
桐谷:うん
:
蓼原:(焦る)
蓼原:あ、気に入らないか
蓼原:やっぱりそうだな、済まない
蓼原:もっと(かぶる/マシな名前を)
:
桐谷:(かぶせて)ありがと
桐谷:名前、大事にするね
:
蓼原:(呆気に取られる)
蓼原:そ、そうか
:
桐谷:ありがと、タデさん
桐谷:後で書き方、教えてね
:
蓼原:おう、任せろ
蓼原:誰より綺麗に描けるように教えてやるよ
:
桐谷:え、でも
桐谷:(泣き出すが隠すように笑う)
桐谷:樺倉さん、読めないって言ってるよいつも
:
蓼原:(顔をしかめる)
蓼原:だ、大丈夫だ
蓼原:綺麗に書く方法は知ってるんだ
蓼原:面倒だからやらないだけだ
:
桐谷:あっそ
桐谷:(笑っているが泣き声が徐々に強くなる)
:
蓼原:俺は、先に戻るぞ
蓼原:(屋上を降りる)
:
桐谷:(モノローグ)
桐谷:(タデさん、ありがとね)
桐谷:(大事な人がくれた)
桐谷:(あたしのためのあたしの名前)
桐谷:(これからいっぱい使うんだから)
桐谷:(大好きな人がくれた)
桐谷:(あたしを表すたったひとつのプレゼント)
桐谷:(絶対手放さないからね)
:
桐谷:タデさん、大好きだよ
:
0:(続)
:
0:(回想)
0:(7話の3年半前)
0:(カイロ空港付近のカジノ併設ホテル)
:
0:(室内には蓼原、桐谷、柳沼がいる)
0:(蓼原、銃の手入れをしている)
0:(桐谷、ヘッドホンで耳を塞ぎ、パソコンから流れてくる音声を黙って聞いている)
0:(柳沼、パソコンを叩きホテルの見取り図やセキュリティシステムの配備状況を確認している)
:
蓼原:暇だな
蓼原:柳沼、酒飲んでいいか
:
柳沼:いいわよお
柳沼:私も後で
:
蓼原:お前とサシ飲みか
蓼原:久しぶりにゆっくり酒が楽しめそうだ
:
柳沼:聞こえてなくてよかったわね
:
蓼原:聞かれたら困るからこのタイミングなんだ
蓼原:(グラスにウイスキーを注ぎだす)
:
桐谷:ちょ、くさい
:
蓼原:ああ、済まん
:
桐谷:引っ込んで
桐谷:どうせしばらくは待ちなんだから
桐谷:樺倉の音声聞いてるのも退屈なの
桐谷:どうせなら代わってよ、腰痛い
:
蓼原:ああ、分かった
蓼原:(酒を握ったまま席を代わろうとする)
:
桐谷:引っ込んで、って言ったでしょ
:
蓼原:そう噛みつくな
:
桐谷:持ってけ、タデさん
桐谷:(パソコンを押し付ける)
桐谷:(ヘッドホンを蓼原の頭にかぶせる)
:
蓼原:乱暴だな
蓼原:これでも一応の特注品だぞ
:
桐谷:うっさい、あっち行け
桐谷:(蓼原を奥の手狭な部屋へ押し込む)
:
柳沼:(軽いため息)
柳沼:あなたねぇ
:
桐谷:何、ですか
:
柳沼:タデちゃんにホの字なのは結構だけど
柳沼:あまりにあからさまなんじゃなくて
:
桐谷:柳沼さん、いつも言ってますけど
桐谷:あたしそんなんじゃありません
:
柳沼:(短い間)
柳沼:いいけど
:
桐谷:というかいい加減、やめてください
桐谷:認めてないのに勝手にラブコメさせるの
:
柳沼:あら、認めてないってことは
柳沼:自認している気持ちはあるのね
:
桐谷:(図星を突かれた顔をする)
桐谷:バカを、言わないでください
:
柳沼:あれぇー、これはー、見当違いかしらー
:
桐谷:ええそうです見当違いです
桐谷:大体歳を考えてくださいよ
桐谷:どうしてピチピチの10代女子が
桐谷:しおれかけのオジサンに恋するんですか
:
柳沼:あら、あたしは22のときよ
:
桐谷:え、何がですか
:
柳沼:22のとき、あなたよりはマシだけど
柳沼:私も昏い(くらい)闇から救い出されたの
柳沼:(短い間)
柳沼:私はとある組織に飼われていた
柳沼:ある日大学の同窓生に呼び出され
柳沼:初めて行くクラブで2時まで飲んだ
柳沼:騒ぎ疲れてソファに横になったところで
柳沼:記憶を手放してしまってるくらいにね
:
桐谷:へえ、そんな頃もあったんですね
桐谷:ただのお堅いお姉さんかと思ってました
:
柳沼:あらごめんなさい、私ただのビッチよ?
:
桐谷:(驚きのあまり呼吸をミスしむせる)
:
柳沼:あらあら、ちょっと刺激強かったかしら
柳沼:ほら、水飲んで
柳沼:(手元のグラスに水を注ぎ手渡す)
:
桐谷:ありがとうござ…
桐谷:(グラスに酒が残っていることに気づく)
桐谷:いや、くさいんでいいです
:
柳沼:え、残ってないわよ
:
桐谷:いや、敏感なんですよ
桐谷:いろいろありましたから
:
柳沼:…ああ、そうよね
柳沼:いいから、ちょっと落ち着きなさいな
:
桐谷:それで
:
柳沼:んー、そうね
柳沼:また驚かせちゃってあたふたしたくないし
柳沼:この続きはまたにしましょう
:
桐谷:子ども扱いですか
:
柳沼:ええ、そうね
柳沼:それに、まだ知らないほうがいいことも
柳沼:まだ教えてはいけないことも沢山あるし
柳沼:ゆっくりじっくり行きましょ?
:
桐谷:ああもう、いいですよこの際
桐谷:二人きりの時にからかうだけなら
桐谷:その代わりタデさんに(かぶる/言ったら)
:
柳沼:(かぶせて)ぶち抜かれちゃうのかしら
:
桐谷:ええ、そうです
桐谷:言っておきますけど本気ですよ
:
柳沼:ええ、分かってるわ
柳沼:こんな乙女の美しい恋を邪魔しちゃ悪いわ
:
桐谷:だから恋じゃありません
:
柳沼:いいことじゃないの、私は応援するわ
柳沼:半年でここまで回復できたんだもの
柳沼:女らしいこと、少しはなさいな
:
桐谷:無理です、あたしは
桐谷:タデさんにそんな迷惑(かぶる/かける)
:
柳沼:うっとうしい好意には銃声で答えるのが彼よ
柳沼:半年粘ってるんだから脈はあるわ
柳沼:お姉さんも、力貸したげるから
:
桐谷:(あからさまに困る)
:
柳沼:(笑う)
柳沼:やっぱりかわいいところ、あるじゃない
:
桐谷:(微笑む)
:
柳沼:うん、かわいい
柳沼:せめて笑ってなさい
柳沼:笑える女はカッコいいのよ
:
桐谷:カッコいい、か
桐谷:あたしも、そうなれるかな
:
柳沼:なれるわよ
柳沼:タデちゃんがきっと
柳沼:モテる女にしてくれるわ
:
桐谷:あくまでも、タデさんなんですね
:
柳沼:当たり前じゃない
柳沼:樺倉君は頼りないから守りたいキャラ
柳沼:桜庭は恋愛に興味ないし
:
桐谷:それならタデさんも(かぶる/興味ない)
:
柳沼:タデちゃん、実は元妻帯者よ
:
桐谷:え、うそ
:
柳沼:ホント
柳沼:幼馴染を仕事で救った件で仲良くなって
柳沼:結婚したのよ一応ね
:
桐谷:じゃあ、別れたんですか
:
柳沼:うん
柳沼:まあ、そんなところね
:
桐谷:(身構える)
桐谷:どうしましたか
:
柳沼:何でもないわ
柳沼:綺麗な、百合みたいな人だったなって
:
桐谷:ふーん
:
柳沼:その点、今のあなたはまだまだね
柳沼:路傍(ろぼう)のタンポポかしら
柳沼:存在感はあっても可憐ではない
柳沼:健気に自らに気づいてもらうために
柳沼:花びらを振って種を飛ばして
柳沼:誰かのために咲きたいと願う、そんな
柳沼:…そんな強さと脆さが可愛らしい
:
桐谷:やめてください
:
柳沼:ごめんねぇ、つい
柳沼:(笑う)
柳沼:思わずからかいたくなっちゃうのよ
:
桐谷:はいはい、分かりました
:
0:(桜庭、戻ってくる)
:
桜庭:やあ、お疲れ様
桜庭:…タデは
:
柳沼:いるわよ、そこの部屋
柳沼:この子が奥に押し込んじゃって
:
桜庭:相変わらずぬるいな、タデってば
:
桐谷:水、取ってきます
桐谷:(去る)
:
柳沼:はあい、いってらっしゃい
柳沼:(ため息)
柳沼:サク、あなた何したのよ
:
桜庭:何も
桜庭:強いて言えば、2度命を救った程度だよ
:
柳沼:ドンパチだけでああも嫌われるものかしら
:
桜庭:仕方ないさ、僕は昔から子供に嫌われる
:
柳沼:その点では私はかなり特殊だったのかしら
:
桜庭:そうだね
桜庭:口説いたわけでもないのについてきて
桜庭:今やタデや僕のサポーターとして
桜庭:名を知られる存在にまでなっちゃって
:
柳沼:約束と違う、って駄々こねてもいいかしら
:
桜庭:よしてくれよ、とばっちりだ
:
柳沼:まあ、色男に囲まれて悪い気はしないけど
:
桜庭:(笑う)(嗤うのも可)
桜庭:確かに顔だけは悪くないからね、僕たち
:
柳沼:自分で言っちゃうところが罪よね
:
桜庭:いつものことだろう、いい加減慣れてくれ
:
柳沼:はいはい、仰せのままに
:
桜庭:それより、ちょっと重要な情報が
:
柳沼:でしょうね
柳沼:明らかに何か摑んで帰ってきた顔してた
:
桜庭:助かるよ
桜庭:今回はブツの場所を仕入れてきた
桜庭:スタッフの子を少し酔わせたら、ね
:
柳沼:結構よ、抱いた話は聞き飽きたから
柳沼:さっさと結果を教えてちょうだい
:
桜庭:へそ曲げるなよいい加減
桜庭:まあそれで報告なんだけど
桜庭:このホテルで抱えてる倉庫にあるらしい
:
柳沼:へえ、そう
柳沼:もしかして、だけど
:
桜庭:8th Compartment(同時に)
桜庭:(エイスコンパートメント)
柳沼:8th Compartment(同時に)
柳沼:(エイスコンパートメント)
:
桜庭:さすが気づいてたか
:
柳沼:いや、倉庫と言われてピンと来ただけ
柳沼:不自然に警備が厚いんだもの
:
桜庭:スタッフ側でも第8区画の存在は
桜庭:深く知られていないらしい
桜庭:複数名に声をかけてみたが
桜庭:第8区画については知らない子もいた
:
柳沼:ふうん、あり得そうね
:
桜庭:基本的に立ち入りが許されているのは
桜庭:業務長と一部のカジノ客、しかもVIP
:
柳沼:そのようね
柳沼:しかも極めつけよ
柳沼:(画面を見せる)
柳沼:第1から第7までは3ダースだけど
柳沼:第8区画だけは同じ3ダースでも
柳沼:不自然な空間が見受けられるの
柳沼:ほら、少し下にある第4区画を見て
柳沼:階段の下に配置されている点は同じだけど
:
桜庭:明らかなズレがあるね
桜庭:幻のベイカーズダズンか、怪しい限りだ
桜庭:杜撰(ずさん)すぎて笑えてくるよ
:
柳沼:そ、恐らくここに13列目が存在するわ
:
蓼原:(戻ってくる)
蓼原:朗報だ、お前ら
蓼原:樺倉がパスを持って帰ってくる
蓼原:3分後に玄関で落ち合うぞ
:
桜庭:おお、来たか
桜庭:ただし落ち合う場所は変更だ
桜庭:彼に連絡を
:
柳沼:任せて
:
桐谷:(戻る)
桐谷:聞いてたわ、あたしが行く
:
桜庭:(少しだけ見つめる)
桜庭:そう
:
柳沼:いいのよ別に
柳沼:通信は可能だから
:
桐谷:さっき聞いてた時に環境音に音がしました
桐谷:電波方向探知機の音が
桐谷:あまりはっきりとは聞き取れてないけど
桐谷:間違いないです、あの頃散々聞いた音
:
蓼原:ほう
:
桜庭:ふぅん
:
柳沼:あら
:
桐谷:何、ですか
:
蓼原:でかした、連れてきてよかったよ
蓼原:お前ら、まずは廊下でドンパチだ
:
柳沼:任せるわね
:
桜庭:うーん、面白くないなあ
:
蓼原:ぶつくさ言うな
蓼原:分かってると思うが、お前はとにかく走れ
蓼原:小型のレシーバを渡しておくから
蓼原:環境音と反響音から位置を割り出せ
蓼原:あとは各自流れで撃破
蓼原:異論は
:
柳沼:いつも通りまとまらない指示ね
:
桜庭:これで伝わるからいいんだよ
:
柳沼:私は脳筋語を学んでないの
柳沼:ともかく引っ込んでるから絶対終わらせて
:
蓼原:いいだろう、任せておけ
蓼原:(ドアに手をかける)
蓼原:2、1、ゴー
:
0:(蓼原、ドアを開け放つ)
0:(蓼原、桐谷、桜庭、飛び出す)
0:(3人に対し弾幕が張られ、滑り込むように桐谷が走り抜け離脱する)
0:(蓼原、桜庭、互いに背を向け勝手に撃破していく)
:
柳沼:いやー、これは壮観ね
柳沼:私には到底やれないわ
柳沼:(笑う)
:
:~転換~
:
0:(舞台が変わり、カイロの戦闘の数日後)
0:(7話のパリにある閉店後のバー)
0:(蓼原、桜庭がカウンターに座っている)
:
桜庭:で、何か聞いてるのかい
:
蓼原:いや、柳沼は特に知らないそうだ
:
桜庭:そっか、それならサブリナからじゃないか
:
蓼原:まあ樺倉のことだ、また面白いネタだろ
:
桜庭:骨があるといいね、奴らはぬるすぎた
:
0:(樺倉、入ってくる)
:
樺倉:お疲れ様でーす
樺倉:すみません、お呼び立てして
:
蓼原:構わん、俺らは酒のアテを待ってただけだ
:
桜庭:今回はどんな話なのかな
桜庭:どうせオフィシャルじゃないんだろう?
:
樺倉:そっすね、指示書はないです
樺倉:ただ、多分
樺倉:(黙る)
樺倉:コンフィデンシャルで飛んできます
:
蓼原:(眉を動かす)
:
桜庭:へえ、特ダネかな
:
蓼原:いいだろう、酒が回りきる前に終われるか
:
樺倉:お二人の飲みっぷりなら大丈夫でしょう
:
桜庭:おお、嫌味だね今日は
:
樺倉:まあ、これはまだ独自情報なんですが
樺倉:世界各所に同時多発した陰謀論的なもので
:
蓼原:陰謀論、ね
蓼原:気になる言い回しだな
:
樺倉:言ってしまえば、なんですけどね
樺倉:お二人がこれまで相手してきた組織が
樺倉:最近になってから再編、統合されて
樺倉:新規に組織化されているケースが複数
樺倉:それ以外にも現地の過激派ゲリラが
樺倉:明確に組織としてランクアップするケースも
樺倉:2件は報告されてます
:
桜庭:具体的にはどこかな
桜庭:あたりがなければ言い切れないだろう
:
樺倉:申し訳ありません、読めないですね
樺倉:複数の組織が集合してて
樺倉:生き残り達が寄り集められたその成立背景、
樺倉:しぶとく牙を研いでるような印象のせいで
樺倉:明確な全容は何とも把握しきれません
:
桜庭:じゃあ候補は
:
樺倉:間違ってても恨まないでくださいよ
:
蓼原:ほう、情報の間違いを知りながら
蓼原:堂々と売りつけるつもりだな貴様
:
樺倉:そんなことをすればピラミッドに
樺倉:磔(はりつけ)にされるのがオチです
:
蓼原:諦めろ、俺らにジョークでかなうとでも
:
樺倉:はいはい、思い上がってました
樺倉:(短い間)
樺倉:少なくとも、お二人が潰したものは全てです
樺倉:候補としてマドリード、サンフランシスコ、
樺倉:リオデジャネイロ、ローマなど十数都市あります
樺倉:これ以外にも複数あるとはいえど、
樺倉:数が多すぎる点と指揮系統が見えない点で
樺倉:いまいちはっきりしないってとこです
:
蓼原:結論、全体をどのくらい信頼できるんだ
:
樺倉:主観ですが、80パーセントくらいは
:
桜庭:なら120パーセントだね
:
樺倉:だから(かぶる/確定した情報では)
:
桜庭:(かぶせて)確度は高いがやりにくそうだ
:
蓼原:間違いないな、どこから攻める
:
桜庭:そうだね、(かぶる/池袋なんて)
:
樺倉:(かぶせて)待ってくださいよ
樺倉:確証はないと申し上げたはずです
:
桜庭:ああ、言われたよ
:
蓼原:ただそんな顔をさせる事態はそうそうない
蓼原:本気で焦ってるなら動いて損はないだろう
:
桜庭:珍しいものを見られたお礼に動いてみよう
桜庭:池袋が最初だよね、そんな真剣な目
:
樺倉:(息を呑む)
樺倉:思い出させないでくださいよ
樺倉:あれが初仕事だったなんて不運です、全く
:
桜庭:まあ、そう言わないで
桜庭:骨のある仕事を経験できたことを
桜庭:うらやむ奴もいるはずだよ
:
蓼原:だからと言って『アレ』が良かったのか
蓼原:未だに疑問を(かぶる/抱えているが)
:
柳沼:(入ってくる)
柳沼:(かぶせて)ハァイ、男子ども
:
樺倉:どうしたんですか、珍しいですね
:
柳沼:いいじゃないたまには
柳沼:むさくるしい中に花が咲いたのよ
柳沼:少しは喜びなさいな
:
樺倉:それはどうもお心遣い痛み入りますー
:
柳沼:何よ、伝わらないわね感謝の気持ち
:
樺倉:ええ、元々ありません
:
柳沼:あらそう、じゃあ『木馬』、入れとく?
:
樺倉:どうぞどうぞ、7.5秒で消し炭にします
:
蓼原:はいはい、パソコン人間は勝手に戦え
:
桜庭:酷いねタデ、もう少し(かぶる/レディを)
:
桐谷:(入ってくる)
桐谷:(かぶせて)いやっほー!エブリワン!
:
柳沼:ちょっとあなた、どうしたの
:
蓼原:誰だ、飲ませたのは
:
樺倉:うわ、酒くさ
:
桐谷:(かぶせて)きもちいいー
桐谷:(勝手に踊る)
:
桜庭:埃が舞うからやめてほしいんだけど
:
樺倉:ああもう危ない、酒瓶が
樺倉:(踊りのせいで揺れる酒瓶を避難させる)
:
蓼原:というか柳沼、お前だろう
蓼原:あれだけ酒は隠せと(かぶる/言った)
:
柳沼:(かぶせて)嫌よタデちゃん
柳沼:私の酒を飲んだ証拠はないもの
:
樺倉:うぅ、きっつ
:
蓼原:ザルの樺倉がへばるのはラムだけだ
蓼原:知ってるよなウワバミビッチ
:
柳沼:うげ、いじわるー
:
桐谷:(同時に)(えづく)
樺倉:(同時に)(えづく)
:
柳沼:ちょっと、二人とも!
柳沼:(桐谷に駆け寄る)
:
蓼原:待て待て落ち着け!
蓼原:(樺倉に駆け寄る)
:
桜庭:あーあー、これは悲惨だ
:
蓼原:貴様少しは(かぶる/手伝え)
:
桜庭:(かぶせて)嫌だね
桜庭:楽しい酒の席でやってられないよ
:
蓼原:分かったから樺倉は貴様にやろう
蓼原:(樺倉を押して桜庭に託す)
:
桜庭:ちょっとタデ(かぶる/酒の席で)
:
蓼原:(かぶせて)嫌なこった
蓼原:楽しい酒の席でやってられるか
蓼原:(笑う)
:
桜庭:恨むよ、タデ
:
0:(樺倉、桜庭、共に去る)
:
柳沼:ちょっと、タデちゃん
柳沼:空いたんならこっち手伝ってよ
:
蓼原:女の世話なんてやってられるか
蓼原:大体お前が飲ませた酒の始末はお前がしろよ
:
柳沼:言うと思ったわ
柳沼:くれぐれも、一人でぶっ倒れるのはよしてよね
:
蓼原:ガキ扱いするんじゃない、それじゃあるまいし
:
桐谷:(再度えづく)
:
蓼原:ほら、時間もないぞ
:
柳沼:ああもう忙しいわね全く!
:
0:(桐谷、柳沼、共に去る)
:
蓼原:(ため息)
蓼原:静かになったか
:
蓼原:(モノローグ)
蓼原:(独自情報とはいえ、ほぼ確定か)
蓼原:(俺たちへの復讐の機会を狙ってるのか)
蓼原:(少なくともヨーロッパは危険だな)
蓼原:(パリは安全だと思うが、国外に出れば)
蓼原:(一巻の終わりとまではいかないにしても)
蓼原:(それなりに手間を食うものと覚悟しよう)
:
0:(樺倉、桜庭、戻る)
:
蓼原:よう、三文芝居の感想を聞かせてくれるか
:
桜庭:分かっててやらせるんじゃないよ全く
:
樺倉:僕はちょっと楽しかったですよ
:
桜庭:(短いため息)
桜庭:にしても、なぜ柳沼を避けた
:
樺倉:ごめんなさい、そこまで話せてなかったですね
樺倉:(一瞬言葉にするか迷う)
樺倉:今回は、サブリナが若干怪しいんです
:
0:(場が凍る)
:
桜庭:派手に出たね
:
蓼原:おい、滅多なことを言うな
蓼原:俺たちは常にサブリナの(かぶる/監視下に)
:
樺倉:(かぶせて)構いませんよ
樺倉:どう考えても、流れ上サブリナに疑惑が集まる
樺倉:ことの全容をお話ししますね
樺倉:掴んでいる分だけ(かぶる/にはなりますが)
:
桜庭:(かぶせて)その前にだ
桜庭:柳沼にはそれ、伝えないのかい
:
樺倉:言えませんよ、彼女はまだ日が浅いので
樺倉:僕らが掻き乱すとミスを呼びかねません
:
桜庭:そうかい
桜庭:ちょっとはエージェントらしくなってきた
桜庭:(笑う)
桜庭:鼻が高いよ
:
樺倉:サクさんが素直に褒めてくるなんて
樺倉:明日は札束の雨が降るんでしょうか
:
蓼原:悪くないジョークだ
蓼原:ただ、時間の問題もある
蓼原:手早く済ませよう
:
樺倉:すみません、内容としては次の通りです
樺倉:言いましたけど、これはマユツバな陰謀論です
樺倉:どこそこで持ち上がっているようで、
樺倉:組織という建物が僕らによって壊された後、
樺倉:その場に散らばっているガラクタを集めるように
樺倉:別の組織が傘下に置く形でネットワーク化してて
樺倉:正直言って頭も尻尾もどこにあるのか
樺倉:まるでサッパリという感じなんですよ
:
蓼原:再編や改組(かいそ)もだな、その様子は
:
樺倉:そうっすね、既に壊滅させた組織のインフラが
樺倉:今も元気にやりとりを続けてたり
樺倉:小康状態の組織で使われてる無線周波数を
樺倉:関わりがなかったはずの組織が共用してたりと
樺倉:結構意味の分からない動きが観測できるんですが
樺倉:これに関してサブリナが全くのノーアラートで
樺倉:まるで『意図して見逃している』というか、
樺倉:『秘密裏に動けるよう協力している』印象です
:
蓼原:きな臭い、どころではないなそれは
:
樺倉:現状、まだどこにも出回ってませんし
樺倉:僕たちにバレないよう動いてるつもりでしょうけど
樺倉:情報屋の中では結構話題になってますし
樺倉:売り込みにも稀に来るんですけど
樺倉:(ため息)
:
桜庭:なるほど、消されたか
:
樺倉:ええ、昨日セーヌ川に浮かんだそうで
:
蓼原:仕事が早いな、急ごしらえにしては
:
樺倉:でも一方では『駒を集めている』だけかもでして
:
桜庭:駒?
:
樺倉:ええ、ターゲットとして最も有力なのは僕らでも
樺倉:それだけじゃどうにも説明がつかないんですよ
:
蓼原:俺や桜庭、柳沼への接触が少なすぎる
蓼原:サブリナが情報屋に後れ(おくれ)を取っている
:
桜庭:なるほどね、僕は(かぶる/気づけなかった)
:
蓼原:(かぶせて)来る者皆殺しの貴様は
蓼原:知る由(よし)もないだろうよ
:
桜庭:(笑う)
桜庭:ご名答、タデのそういうところ
桜庭:僕は本当に大好きだよ
:
樺倉:はいはい、仲がよろしいようで
樺倉:巷で有名なボーイズラブとやらはよそでどうぞ
:
蓼原:よしよし、それならそのボーイズラブとやらを
蓼原:貴様も体験したかろう
蓼原:今なら出血大サービスでそのための穴を
蓼原:無料で3つに増やしてやろうじゃないか
:
樺倉:血の気の多いのは勘弁してください
:
桜庭:血の気というか性欲じゃないかな
:
樺倉:まあともかくとしてです
樺倉:あなた方二人が関わって消された数々の組織が
樺倉:何者かの恣意(しい)によって雑多に集められ
樺倉:僕たちに牙を剥く可能性が高いとみてます
樺倉:ここ数ヶ月で急激に動きが活発化していますし
樺倉:余談を許さないと言っても過言ではない、ですね
:
桜庭:気になってくるんだけど、元締めの拠点は?
桜庭:そこを叩けば早いんじゃないのかな
:
樺倉:分かってたら苦労しませんよサクさん
樺倉:僕も洗ってみてはいるんです
樺倉:さっきも言いましたけど、頭も尻尾も見えなくて
樺倉:まるで同時進行で複数の組織が我先にと
樺倉:手柄を狙うような感じなんですよ
樺倉:僕一人ではなかなか情報収集が追いつかなくて
樺倉:仕方ないのでお二方にご協力を仰いでます
:
桜庭:分かった、手伝おう
桜庭:ちょうどひと山終わったところで
桜庭:タイミングもいいしね
:
蓼原:俺はできればパスしたいんだがな
蓼原:少しは休日をもらいたいものだ
:
桜庭:おいおい、慕ってくれている後輩に向かって
桜庭:背中を見せて自分の大事な袋を守るような
桜庭:みっともない男だったとは思わなかったよ、タデ
:
蓼原:面白い冗談だ、受けて立とう
:
桜庭:ならば男らしく飲み比べと洒落込もうか
:
樺倉:男同士の清々しい友情は素晴らしいんですが
樺倉:蓼原さんにも手伝っていただけないと
樺倉:ちょっと厄介な予感がするんですよ
:
蓼原:ん、何だ
蓼原:もう既に、これだけ突拍子もない話の後だ
蓼原:驚くこともないだろうが一応聞こう
:
樺倉:僕が通信を追いきれたうちの一つに
樺倉:『あの子』の故郷があったんですけどね
樺倉:サンクトペテルブルクのマフィアの周波数に
樺倉:東京都内からアクセスしてる瞬間を見つけまして
:
桜庭:ああ、初出場の
:
蓼原:余計な口を挟むな貴様
:
樺倉:ええ、そうです初出場です
樺倉:盛大に3打席ノーヒットでしたけどね
樺倉:(間)
樺倉:その中に出てきたんですよ
樺倉:『インディゴ=ノート』
樺倉:しかも、4回
:
桜庭:(深いため息)
:
蓼原:何というか、面白くないなそれは
:
樺倉:だから蓼原さん抜きではこのヤマ、無理なんです
樺倉:『貴方が、必要です』
:
蓼原:プロポーズでもしているのか、貴様
蓼原:やけに声が湿っぽいぞ、気色が悪い
:
樺倉:土竜の本領を発揮してもらうために
樺倉:できる限り心地よくなっていただかないと
樺倉:今後に障ります(さわります)からね
:
桜庭:さて、久しぶりに男3人の気ままな珍道中だよ
桜庭:前祝いに2、3本空けようか
:
樺倉:構いませんけど僕は程々にしときます
樺倉:時差の関係上、ここで寝ておいて
樺倉:またサンクトペテルブルクと
樺倉:サバンナを監視しておかないと
:
桜庭:ふぅん、サバンナはまたどうしてだい
:
樺倉:貿易のやりとりが盛んになったのは
樺倉:全くもっていいことではあるんでしょうけど、
樺倉:その裏でやけに密輸額が急増してるんです
樺倉:『インディゴ』って話もありましたし
樺倉:ちょっと気になる、って程度の勘ですよ
:
桜庭:(勘づく)
桜庭:うん、なるほど
桜庭:樺倉、君は漫画家の素質があるかもしれないよ
桜庭:上手くすれば全米で大人気のヒーローマンガが
桜庭:君の手によって生み出されるかもしれないね
:
樺倉:まあ、こういうのはお二人には及びませんけど
:
蓼原:まあいい、その辺りは好きにやれ
蓼原:出発は
:
樺倉:10時間を切ってます
:
桜庭:おお、いつもながら強行スケジュールだね
:
樺倉:すみません、別案件の指示書が来ちゃう前に
樺倉:『お仕事中』ってはねつけられるように
樺倉:前もって大義名分を準備しておきたいんです
:
桜庭:構わないよ、移動は君に任せていいんだよね
:
樺倉:というか、僕に担当させてください
樺倉:この前も危うく爆発させかけたじゃないですか
:
桜庭:あれー、そんなのあったっけ
:
樺倉:戦闘以外は全く気になさらないんですから
樺倉:(笑う)
樺倉:全く、困りものですよ
:
蓼原:惜しいぞ樺倉
蓼原:正確に言えば戦闘と『お気に入り』だ
:
桜庭:もう、いい加減からかわないでよタデ
:
蓼原:からかわれてもにこやかに済ませる貴様自身、
蓼原:満更でもないと言外(げんがい)に
蓼原:語りたくて仕方がない様子だがな
:
桜庭:はいはい、何とでも言えばいいさ
:
樺倉:ではサクさん、蓼原さん
樺倉:首尾は追って機内でお伝えしますが、
樺倉:まずは熱いうちにピザを頬張りに向かいましょう
:
:〜転換〜
:
0:(同じバーのお手洗い)
0:(桐谷、気分が悪そうにしゃがんでいる)
0:(柳沼、桐谷の背をさすっている)
:
柳沼:ちょっと、ホント大丈夫?
:
桐谷:はい、少しはマシになりました
:
柳沼:まったく、無茶しないでちょうだい
柳沼:まだ本調子でもない体に(かぶる/無理を)
:
桐谷:(かぶせて)見て、みたかったんです
:
柳沼:(間)
柳沼:どういう、ことかしら
:
桐谷:あたしを使う男達は、みんなみんな
桐谷:どこかしらで酒を飲んで汚い口で
桐谷:あたしを罵りながらあたしを『使って』いた
桐谷:酒を飲んで見える景色がそうさせるなら
桐谷:あたしも全てを見下せるかなって
桐谷:使われるだけで終わらなくて済むかなって
:
柳沼:いいのよ
柳沼:もう、使わせないわ
柳沼:あなたの居場所はここにある
柳沼:タデちゃんも、私も
柳沼:あなたの居場所になってあげるわ
:
桐谷:(何度も頷く)
桐谷:ありがとう、柳沼さん
:
柳沼:どういたしまして
柳沼:(微笑みかける)
柳沼:お姉さんに任せなさいな
:
0:(柳沼、桐谷の背をさすりつづける)
:
:〜転換〜
:
0:(バーから少し離れたモーテル、蓼原の居室)
0:(蓼原、窓際で煙草を吸っている)
0:(蓼原、ノックされる)
:
蓼原:誰だ
:
樺倉:ハイネケン
:
蓼原:いいぞ
:
樺倉:(入ってくる)
樺倉:お疲れ様です
樺倉:ちょっと先ほどの件で進展があって
樺倉:(パソコンの画面を見せる)
:
蓼原:(パソコンの画面を覗き込む)
蓼原:ん、何だこれは
:
0:(画面上には61〜79の数字、時折2E、6A、6B、6C、6D、6E、6F、7Aの文字が並んでいる)
0:(等間隔に並べられているが、不自然にところどころ空白が空けられている)
0:(ところどころ改行されているが、いずれの改行の直前も2Eで終えられており、次の行が始まっている)
:
蓼原:悪いがこういう類は専門外だ
蓼原:何とは言わずに柳沼に頼んだらどうだ
:
樺倉:仮に解読できたらありがたいですけど
樺倉:もしそれがサブリナの存在を揺るがしそうな
樺倉:危険な内容が含まれている可能性を
樺倉:排除できていない以上は巻き込めません
:
蓼原:それもそうか
蓼原:しかし、こういうものはお前と柳沼に
蓼原:任せきりにしてきたからな
蓼原:知恵で言えば桜庭なら答えに近いんじゃないか
:
樺倉:ええ、既にサクさんには聞きました
樺倉:頑張れ、というエールを受けましたよ
:
蓼原:匙を完全に投げたか、あの野郎
:
樺倉:手伝ってくれそうにはありません
樺倉:というか、多分到着後のシミュレートに
樺倉:忙しいんでしょうね、サクさんは
:
蓼原:(深いため息)
蓼原:しかし手詰まりか、これは
:
樺倉:掴みきれないんですよね
樺倉:数学的アルゴリズムで暗号化されていたので
樺倉:そこの突破は何とかなったんですけど
樺倉:その先の数字と英語の羅列が面倒で
:
蓼原:(笑う)
蓼原:これは英語とは呼ばんぞ
蓼原:英語にするには少なくとも単語でなければ
:
樺倉:もともと英語を使わない人生を歩むつもりで
樺倉:高校まではのんびりしてきたんです
樺倉:アルファベットも英語の一部です、僕には
:
蓼原:英語圏の人間に(怒られる)
蓼原:(勘づく)
蓼原:待て、英語か
:
樺倉:ええ、英語です
樺倉:アルファベットも発音記号があるように
樺倉:立派な(かぶる/英語なんですよ蓼原さん)
:
蓼原:(かぶせて)違う、これは英語なんだ
蓼原:樺倉、Unicodeを表示してみてくれ
蓼原:確か頭が00番台なのがアルファベットだ
:
樺倉:え、わかりました
樺倉:(パソコン搭載の文字コード表を呼出す)
:
蓼原:ビンゴ、これは16進数で表された英語だ
蓼原:その証拠に各改行の直前は2Eで終わる
:
樺倉:そういうことですか、ピリオドですね
樺倉:ちょっと待ってください、すぐ組みます
樺倉:(操作し数字の羅列を変換していく)
樺倉:(数秒で操作が完了する)
樺倉:できました、が読めません
:
蓼原:貸せ
蓼原:(読み進める)
蓼原:A・L・A、I・A、I・S・H・E・D
蓼原:気になるな
:
樺倉:アライア・イシェド、ですかね
樺倉:綴りからしても恐らく間違いないと思います
樺倉:それぞれアライアとはハワイの現地語で
樺倉:原住民が昔利用したサーフボードで、
樺倉:イシェドとはエジプト神話で登場する神トートが
樺倉:王の名を書き留める為に用いた木らしいです
樺倉:正確にはイシェドの木の葉を使うっぽいですね
:
蓼原:ハワイとエジプト?
蓼原:どちらも歴史的な背景のある単語とはいえ
蓼原:あまりに交流というか、かけ離れてないか
:
樺倉:ええ、気になりますね
樺倉:ちょっとこちらについても調べてみましょう
樺倉:サクさんはさっき出かけてくるって言ってたので
樺倉:呼んできます、もう少し起きててくださいね
:
0:(樺倉、去る)
:
蓼原:案外俺も捨てたものじゃない、か
蓼原:(パソコンの画面をスクロールする)
蓼原:(気づいてスクロールをやめる)
蓼原:8、6、…50、あった
蓼原:桐、か
蓼原:いい漢字じゃないか
:
:〜転換〜
:
0:(モーテルの屋根)
0:(桐谷、屋根の頂点で腰掛けている)
0:(蓼原、桐谷の視界のちょうど真正面にあたる屋根の縁から手をかけて勢いよく飛び出してくる)
:
桐谷:(驚く)
桐谷:タデさん、ど、どうしたの急に
:
蓼原:おお済まない、真正面だったか
蓼原:あのビッチからお前がここだと聞いてな
:
桐谷:柳沼さんか、了解
桐谷:で、いきなり乙女の秘密の時間に現れて
桐谷:何をしでかすつもりなのタデさん
:
蓼原:人聞きの悪い話だな、全く
蓼原:その、何だ
蓼原:(言い淀む)
:
桐谷:何よ、もじもじしちゃって
桐谷:もしかして、あたしに惚れちゃった?
桐谷:ふふーんだ、やっぱり美少女は得ね
桐谷:こうやって沢山のファンに囲まれるのも
桐谷:悪くないんじゃないかと(かぶる/思えて)
:
蓼原:(かぶせて)約束を、果たそうと思ってな
:
桐谷:約束、って
桐谷:ああ、名前ね
:
蓼原:そうだ
:
桐谷:やだ、覚えてくれてると
桐谷:思わなかったじゃん
桐谷:(顔を背ける)
桐谷:それにしても、だ、だいぶかかったわね
:
蓼原:済まない、待たせたな
:
桐谷:(顔を背けたまま動けない)
桐谷:へ、変な名前だったらお断りよ
:
蓼原:ああ、もちろんだ
蓼原:今回はなかなかの自信作だからな
:
桐谷:(顔を正面に戻す)
桐谷:(しかし見つめられず俯く)
桐谷:いつも卵焼き失敗して
桐谷:スクランブルエッグにしちゃうのに
桐谷:名前なんて考えられるのかしら
:
蓼原:おう、お姫様はヤケにへそが曲がってるらしい
蓼原:これはまたの(かぶる/機会にする)
:
桐谷:(かぶせて)待って!
桐谷:い、一応、これだけ待たせたんだし
桐谷:聞かせてもらっておいてあげるわ
:
蓼原:(笑う)
:
桐谷:何よ
:
蓼原:(笑いが込み上げるが喋り出す)
蓼原:いや、何でもない
蓼原:年頃の女ってやつはこういうものかと思い知ってな
:
桐谷:(むくれる)
桐谷:何、どうせ考えついてなかったってオチでしょ
:
蓼原:待て待て焦るな
蓼原:俺が考えてきたのはな、『桐谷』だ
:
桐谷:きり、たに…
:
蓼原:ああ、お前が持ってたあのドッグタグ
蓼原:6850はUnicodeってので
蓼原:桐という漢字に当てはめられていてな
蓼原:何か合いそうな漢字がないか探してたんだ
蓼原:そしたらぴったりのものがあってな
:
桐谷:(ほくそ笑んでしまう)
桐谷:ふーん、そう
:
蓼原:エイスコンパートメント、覚えてるか
:
桐谷:うん、数日前じゃない
:
蓼原:貨物番号はどうだ?
:
桐谷:えっと、37番
:
蓼原:そう、第8区画37番貨物
蓼原:それをホテルじゃこう呼んでたらしい
:
蓼原:8C37
蓼原:(エイトシーサーティーセブン)
:
桐谷:そう
:
蓼原:同じようにUnicodeでいくと
蓼原:谷、という漢字になる
:
桐谷:そっか
:
蓼原:お前が背負ってきて最後まで縋ったあの数字
蓼原:お前の活躍で無事に完了できたあの仕事
蓼原:その二つがあるから、俺はお前に名を贈れる
:
桐谷:(さらに深く俯く)
桐谷:うん
:
蓼原:(焦る)
蓼原:あ、気に入らないか
蓼原:やっぱりそうだな、済まない
蓼原:もっと(かぶる/マシな名前を)
:
桐谷:(かぶせて)ありがと
桐谷:名前、大事にするね
:
蓼原:(呆気に取られる)
蓼原:そ、そうか
:
桐谷:ありがと、タデさん
桐谷:後で書き方、教えてね
:
蓼原:おう、任せろ
蓼原:誰より綺麗に描けるように教えてやるよ
:
桐谷:え、でも
桐谷:(泣き出すが隠すように笑う)
桐谷:樺倉さん、読めないって言ってるよいつも
:
蓼原:(顔をしかめる)
蓼原:だ、大丈夫だ
蓼原:綺麗に書く方法は知ってるんだ
蓼原:面倒だからやらないだけだ
:
桐谷:あっそ
桐谷:(笑っているが泣き声が徐々に強くなる)
:
蓼原:俺は、先に戻るぞ
蓼原:(屋上を降りる)
:
桐谷:(モノローグ)
桐谷:(タデさん、ありがとね)
桐谷:(大事な人がくれた)
桐谷:(あたしのためのあたしの名前)
桐谷:(これからいっぱい使うんだから)
桐谷:(大好きな人がくれた)
桐谷:(あたしを表すたったひとつのプレゼント)
桐谷:(絶対手放さないからね)
:
桐谷:タデさん、大好きだよ
:
0:(続)