台本概要

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タイトル インディゴ=ノート #09
作者名 蒼山熾音  (@Shinon_Aoyama)
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 【内容説明】
時は現代、少しだけ違う世界。

信託と称し、古代文明『アライア・イシェド』の末裔ラ=ヴィオラが諸手で抱えていた、20冊を超える古文書、その全てが群青に染まった預言書、神からの啓示が詰められた福音書。

インディゴ=ノート。

その裏には近代イタリアが画策した怨嗟の鎖が蠢いていた。

2編の古文書が世界をひっくり返す。
その中に、抗おうとする5人の賊がいた。

【注意事項】
アレンジ・アドリブありあり(ただし他の演者さんと連携が取れなくなるような無茶ブリは禁止)
性別変更あり(オカマちゃん可)

本編は変更しませんが、適宜説明については変更していきます。
また、キャライメージをそれぞれに書いておりますが、こちらはガン無視していただいて結構です。
と言いますのも自分がイメージ持って書きやすいように記載しているものですので、言ってしまえば作者のメモです。
したがっておひとりおひとり自己主張多めでバチバチキャラクターを作り替えていただき、ご自身の感じたイメージをぶつけていただきたいです。よろしくお願い致します。

蓼原(たではら)
34歳。無精髭標準装備のおっさん。基本気だるげ。イメージはPSYCHO-PASSの狡噛慎也やFateの衛宮切嗣、紺

蓮池(はすいけ)
24歳。好青年イケメン。デキるビジネスマン風。イメージはPSYCHO-PASSのミハイルやエヴァンゲリオンの加持、青

桐谷(きりたに)
21歳。正統派ツンデレ。シナリオによってはツンツンツンくらい。イメージはエヴァンゲリオンのアスカ、赤

柳沼(やぎぬま)
29歳。クールビューティー。大人のオンナで色気たっぷり。イメージはPSYCHO-PASSの唐之森やSAOの(冷静な時の)シノン、紫

桜庭(さくらば)
33歳。闇深い狼。でも悪ではなく単に闇なだけでちゃんといい人。イメージはエヴァンゲリオンのカヲルや(セリフ回しだけは)呪術廻戦の五条悟、モノ

樺倉(かばくら)
(回想登場キャラクター)3年前に20歳。陰キャ、非モテだけど顔は悪くないし数学が得意でパソコンをゼロから作れる。イメージはカノ借りの木ノ下和也、緑

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
蓼原 40 34歳。無精髭標準装備のおっさん。基本気だるげ。イメージはPSYCHO-PASSの狡噛慎也やFateの衛宮切嗣、紺
蓮池 36 24歳。好青年イケメン。デキるビジネスマン風。イメージはPSYCHO-PASSのミハイルやエヴァンゲリオンの加持、青
桐谷 55 21歳。正統派ツンデレ。シナリオによってはツンツンツンくらい。イメージはエヴァンゲリオンのアスカ、赤
柳沼 40 29歳。クールビューティー。大人のオンナで色気たっぷり。イメージはPSYCHO-PASSの唐之森やSAOの(冷静な時の)シノン、紫
桜庭 56 33歳。闇深い狼。でも悪ではなく単に闇なだけでちゃんといい人。イメージはエヴァンゲリオンのカヲルや(セリフ回しだけは)呪術廻戦の五条悟、モノ
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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  : 0:(7話の数週間後) 0:(何かの大型施設の跡地、少し遠くに大きい業務用倉庫が見える) 0:(蓮池、電話を取っている)  : 蓮池:ええ、彼らは既にカイロとパリです 蓮池:数週間経ちますが、目立った動きはないですね 蓮池:(電話の向こうの人物の発言に笑う) 蓮池:もちろんでしょう、彼ら4名のうち 蓮池:既に3名は手傷を負っていて 蓮池:そのうちの更に2名は外科的処置が必要でした 蓮池:そんな状態でここまで派手に暴れられれば 蓮池:こちらとしても無視はできない 蓮池:彼らが調子を取り戻す前に、決着をつける 蓮池:元々はそれが我々の動く理由でしたでしょうに 蓮池:はい、構いませんよ…大丈夫です 蓮池:そろそろ布石を増やしておかねば 蓮池:彼らの動きに後れを取ってしまうでしょう 蓮池:そちらも、首尾良くお願いしますね 蓮池:…うん、結構です…それでは 蓮池:(電話を切る)  : 蓮池:(手に握っていたコーヒーを多めにふた口煽る) 蓮池:さあて、『火種』を増やしておきますか  : 0:(蓮池、微笑みつつどこかへ向かう)  :  :~転換~  : 0:(蓮池の電話の3日前) 0:(パリ、準備中のバー) 0:(蓼原、銃の手入れをしている) 0:(桜庭、ロッキングチェアでくつろいでいる)  : 桜庭:で、悪くはないんだけどね 桜庭:どうしてこうもタデは気が長いんだ  : 蓼原:言うだろうと思った 蓼原:決まってるだろう、集めるためだ  : 桜庭:主戦力はこちらに集まっていると聞いてるけど  : 蓼原:ああ、もちろんだ 蓼原:だがそれぞれ独立して動いてる 蓼原:パリ市内に散らばってる彼奴ら(きゃつら)を 蓼原:ちまちま潰すのも面白くないからな 蓼原:どうせなら一網打尽にしてしまおうと 蓼原:俺たちの情報が伝わるタイミングを 蓼原:待っているんだ、鬣犬(ハイエナ)のようにな  : 桜庭:おお、趣味が悪い喩え(たとえ)を  : 蓼原:何だ、傷ついたとでも泣き喚く気か  : 桜庭:まさか、そんなつもりないよ  : 蓼原:それとも、またいつものあれか  : 桜庭:ん?  : 蓼原:『そんなこと言ってるとタデ』 蓼原:『君への誓いは反故にしていいとするよ』  : 桜庭:(笑う)  : 蓼原:もう既にほぼ守られてないがな  : 桜庭:ごめんよタデ、僕はタデと違って 桜庭:義賊という単語が全く似合わないのさ 桜庭:ただ薄ら笑いと感情の制御が得意ってだけの 桜庭:ニヒルなエゴイズムを抱えるリアリストだよ  : 蓼原:そのリアリズムに自分を組み込んで欲しいものだ  : 桜庭:もうとっくに組み込んであるさ 桜庭:そのうえでの僕の行動に文句があるかい  : 蓼原:大体人を義賊呼ばわりするが 蓼原:貴様のほうが正しく(まさしく)義賊だろう  : 桜庭:ああそうだよ、形式上は義賊さ 桜庭:とはいえ似合わなさすぎて 桜庭:地に足がつかないから弱っていてね  : 蓼原:おいおい冗談は止せ(よせ) 蓼原:貴様に地に足のついたためしがあるか 蓼原:貴様の足は殺した血で浮いているんだからな  : 桜庭:(ため息) 桜庭:もっと他にも楽しく喋れる相手がいるはずなのに 桜庭:何で僕にだけこういう言葉遊びを仕掛けるかな  : 蓼原:うるさいぞ、桜庭 蓼原:貴様に観察されていると妙に寒気がする  : 桜庭:あれー?殺気は仕舞っているはずなんだけど  : 蓼原:分かった分かった 蓼原:ハイエナににらまれたらモグラは終わりだ 蓼原:大人しく穴ぐらに帰るさ  : 桜庭:おいおい、つれないなあ  : 蓼原:(銃の手入れをやめる) 蓼原:ともかく、貴様は暇になったことをいいことに 蓼原:あれこれと嗅ぎまわるんだろう、どうせ 蓼原:主戦力の28名のうち、25名が今夜集まる 蓼原:地区がまだ絞り込めてないから候補を見張れ  : 桜庭:了解  : 蓼原:俺はしばらく寝かせてもらうぞ 蓼原:ちょっと頭痛がするんだ 蓼原:(カウンターのバックヤードに向かう)  : 桜庭:(笑う) 桜庭:はいはい、ゆっくり治しなよー  : 0:(蓼原、下がる)  : 桜庭:(間) 桜庭:(ため息) 桜庭:もう、タデはバカだなあ 桜庭:頭痛がするなら、いつも薬が先でしょ君は 桜庭:素直に行きたいって言えばいいのにね  : 0:(蓮池、音もなく窓から入ってくる)  : 蓮池:おはようございます  : 桜庭:ああ、おはよう  : 蓮池:蓼原さんは相変わらずですね  : 桜庭:うん、全くだよ 桜庭:(笑う) 桜庭:僕と一緒に行けば面倒もなく会いに行けるのにね  : 蓮池:(少しだけ黙ってしまう) 蓮池:…なぜ、しないんですかね  : 桜庭:分かりきったことだろう? 桜庭:(間) 桜庭:タデは大きな責任を感じている 桜庭:僕より感じ方は強いんじゃないかな  : 蓮池:そう、ですか  : 桜庭:自分がもっと手を出していれば 桜庭:自分がもっと気にかけてやっていれば 桜庭:そんなことを静かに悩んでいるんだよ  : 蓮池:そんなこと考えても、変わらないでしょうに  : 桜庭:まあね  : 蓮池:私はそんなことに時間を遣うよりもっと、 蓮池:(息を細く吐く) 蓮池:…自らが守るべきものと果たすべき借りを 蓮池:数え続けるほうが有益だと思いますけどね  : 桜庭:それがタデの人間臭くて不器用な 桜庭:愛される所以(ゆえん)だよ  : 蓮池:そう言いながら心から笑っている貴方が 蓮池:僕からすればただの怪物なんですよ  : 桜庭:あれ?僕はただの人畜無害なハイエナだよ?  : 蓮池:ハイエナが墓荒らしとは  : 桜庭:何だって言うんだい、蓮池  : 蓮池:いえいえ、生物の進化は侮れないなと思いまして  : 桜庭:人間がこれまでどんな文明の利器をも 桜庭:最終的に殺戮のためにしか利用できないのか 桜庭:君は真剣に考えたことがあるかい  : 蓮池:不毛な議論です  : 桜庭:人間はとてつもなく馬鹿でどうしようもない、 桜庭:そんな利己的で救いようのない害獣だからだよ  : 蓮池:獣が獣を獣と呼ぶ、この陶酔的な言い回し 蓮池:まれに果てしなく壊したい衝動に駆られますね  : 桜庭:やれるならやってみればいいさ  : 蓮池:やめておきますよ 蓮池:本調子じゃない相手に勝っても、誇れません  : 桜庭:そりゃ仏様より慈悲深い御心(みこころ)だね 桜庭:(短い間) 桜庭:ところで、君はもう済ませたのかい  : 蓮池:え? 蓮池:(察する) 蓮池:(ため息) 蓮池:桜庭さん、貴方は(かぶる/どうして)  : 桜庭:(かぶせて)結構結構、驚いたろう 桜庭:まさかそこまで知られているとは考えないよね  : 蓮池:どうして、ご存知なんですか  : 桜庭:そりゃあ分かるさ、君は僕の『弟子』だ 桜庭:下につけるならそれなりに調べるからね  : 蓮池:(深いため息) 蓮池:底が知れないとは思っていましたが 蓮池:ここまでされると自分の甘さが恨めしいです  : 桜庭:(大笑いする) 桜庭:3年前は、申し訳なかったね  : 蓮池:いえ、元はと言えば彼が悪いんです 蓮池:(長めの間) 蓮池:私があと少し早く気づけてれば、 蓮池:彼の異変を察してやれてれば、 蓮池:きっと(かぶる/助けられたんです)  : 桜庭:(かぶせて)死んでいたよ  : 蓮池:そんなことはありません 蓮池:あいつはもう覚悟を決めてしまっていた 蓮池:その最後の瞬間に俺は立ち会いました 蓮池:一歩踏み出したその時を、俺は 蓮池:無知なまま見過ごしたんです! 蓮池:あいつが全てを投げ出すことは分かったはずだ 蓮池:それでも俺は違和感を飲み干した! 蓮池:違和感は違和感、俺の考えすぎだ、 蓮池:そうやってあいつの目を見ただけだった! 蓮池:見つめていなかった、見届けなかった! 蓮池:俺は、涙を流すことすら、許されない 蓮池:(拳を握りしめる) 蓮池:声をかけるなど、言語道断だ!!  : 桜庭:(かぶせるように)そこまでだ 桜庭:そうやって自分を責めて楽しいかい 桜庭:側から見ている僕からすれば、酷く滑稽だ 桜庭:面白いようにポロポロ出てきたね 桜庭:『俺は悪くない』『誰か可哀想な俺を助けて』 桜庭:『俺は頑張ってるんだ』『褒めてくれよ』 桜庭:(数秒、蓮池を咎めるように見つめる) 桜庭:あーあー、汚いね、本当におぞましい 桜庭:だから人間は害獣だって言ったんだ  : 蓮池:…何を言いたいんですか  : 桜庭:君のマゾヒズムに付き合う気はないよ 桜庭:文句がいくらあろうが僕には関係ない 桜庭:君のその駄々に、生産性があるなら 桜庭:僕は喜んで腰を据えて聞いてあげよう  : 蓮池:虫唾が走りますね、その言い方は  : 桜庭:なら今、ここを発ちたまえ(たちたまえ) 桜庭:君の仕事は既にここにはないだろう 桜庭:君はその指示を受け取りに来たんじゃない?  : 蓮池:ええ、その通りですよ 蓮池:(意識を切り替える) 蓮池:今回はおっしゃっていたように 蓮池:敢えて証拠を残していいんですね  : 桜庭:ああ、通信手段も一つだけ残しておいてやれ 桜庭:そうじゃないと、状況を掴ませてやれない 桜庭:本来狙うべき標的に確実に接触させるには 桜庭:君の動きを追う構図が最も刺激しやすい 桜庭:このくらいは、そのマゾいナルシズムにも 桜庭:十分に理解させてあげられると踏んでるけど  : 蓮池:(ため息) 蓮池:ええ、存分に理解していますよ 蓮池:…気が狂いそうだ  : 桜庭:安心しろ、僕らはもう既に狂っている 桜庭:『あの日』、君の友を見捨てた瞬間からね  : 蓮池:一緒にしないでいただきたい  : 桜庭:君にも届いていたようで何よりだよ 桜庭:哀れな指揮者(コンダクター)くん  :  :~転換~  : 0:(遡り、7話の直後) 0:(蓼原、コーヒーを飲んでいる) 0:(桐谷、ホットドッグを頬張っている)  : 蓼原:おい、もう何本目だ  : 桐谷:(さらに口に入れる) 桐谷:ん、ほっほんへよ  : 蓼原:食いすぎじゃないか?相変わらず  : 桐谷:(飲み込む) 桐谷:育ち盛りよ、このくらい必要なの  : 蓼原:おいおい、もうティーンを過ぎたら 蓼原:育つのは体じゃなく腹だろう  : 桐谷:ちょっとタデさん、女子にそんな事言ったら 桐谷:今どきセクハラで即警察沙汰よ  : 蓼原:素っ裸見せられておいて今更言われてもな 蓼原:もう4年経つだろ、パリから  : 桐谷:そうね、未だにふと思い出すけど 桐谷:もうだいぶ薄れてるわ  : 蓼原:何よりだ  : 桐谷:誰かさんのおかげよ、ありがとねタデさん  : 蓼原:ああ、どういたしまして  : 桐谷:それにしても、あたしとビッチが組むって 桐谷:何気に珍しいわよね  : 蓼原:そうだな 蓼原:それこそヘルシンキ以来じゃないか  : 桐谷:あ、そうね確かに  : 蓼原:お前ら二人となると、どうしてもな  : 桐谷:ちょっとタデさん 桐谷:暗い顔しないでよ、もう  : 蓼原:いや 蓼原:(短い間) 蓼原:済まない  : 桐谷:あの時は、なんだかんだ言って 桐谷:あたしも楽しかったんだ  : 蓼原:そうだな、確かに生き生きしてたよ  : 桐谷:樺倉が話題出して、あたしがからかって、 桐谷:柳沼が調子乗って、桜庭も乗っかって、 桐谷:タデさんは囲まれて頭抱えて  : 蓼原:おいおい、分かってた(かぶる/んなら)  : 桐谷:(かぶせて)あの時は、まだ楽しかったのよ  : 蓼原:(黙る)  : 桐谷:桜庭も、あの時はまだまともだった 桐谷:イカレてはいたけど、血まみれだったけど  : 蓼原:今ごろヤツはくしゃみで空を飛んでるな  : 桐谷:(笑う) 桐谷:それいいわね  : 蓼原:傑作だろう?  : 桐谷:うん 桐谷:あんな時間、もう来ないんだろうね  : 蓼原:まあそう悲観するな 蓼原:もろもろ片づけたら少しはゆっくりできるさ  : 桐谷:そうだと、いいんだけどね  : 0:(心地よいが重く垂れ込む間)  : 蓼原:(深いため息) 蓼原:(ライターで煙草に火を灯す)  :  :~転換~  : 0:(冒頭の蓮池の電話の前々日) 0:(カイロ、カイロ国際空港国際線発着ロビー) 0:(柳沼、車のキーで遊びつつ誰かを待っている)  : 柳沼:遅いわねぇ 柳沼:あのイノシシちゃん、迷ってないといいけど  : 0:(柳沼、桜庭から着信を受ける)  : 柳沼:あらあら、これは予想外ね 柳沼:(電話を取る) 柳沼:はいはぁい、どしたのサク  : 桜庭:いや、改めて謝っておこうかと思ってね  : 柳沼:そう、何だか気味悪いことし出したわね  : 桜庭:まあね 桜庭:ただ、『分かってくれよ』  : 柳沼:(ため息) 柳沼:あら、仕方ないわね 柳沼:で、『どうしたらいいのかしら』  : 桜庭:うん、『いい子だ』  : 柳沼:(息を呑む)  : 桜庭:…どうした、返事はできないのか  : 柳沼:(落ち着く) 柳沼:そういうこと  : 桜庭:…返事をしろと言ったよね  : 柳沼:(言い淀む)  : 桜庭:返事だ  : 柳沼:…『ごめんなさい、悪い子で』  : 桜庭:(鼻を鳴らす) 桜庭:いいや、大丈夫 桜庭:『ご褒美は何がいい』  : 柳沼:…『ご褒美は』ツタンカーメンの置物がいいわ  : 桜庭:『分かった』よ  : 柳沼:ねえサク(、あなたどうして) 柳沼:(電話を切られる) 柳沼:待ってよ、サク 柳沼:あなた、それは酷いじゃない… 柳沼:こんなお別れ、できるわけないじゃない  : 0:(桐谷、駆け寄ってくる)  : 桐谷:おぉーい、ビッチー  : 柳沼:(目を拭う)  : 桐谷:ちょっと、こっちから呼んでんのに 桐谷:さっきから真っ青な顔して気づかないし 桐谷:どーしたのよ、血相変えて  : 柳沼:(涙を隠しきれていると思い込んでいる) 柳沼:いいえ、ちょっと知り合いのパーツ屋が 柳沼:とっ捕まったって聞いちゃってね 柳沼:教えてくれた弟子の男の子が思わず 柳沼:可愛くって襲いたくなっちゃったから 柳沼:泣ける映画を漁ってたのよ  : 桐谷:へぇー、あんたも涙なんて流すのね 桐谷:鬼より渇いてると思ってたわ  : 柳沼:失礼ね、怒るわよ  : 桐谷:はいはい、どーもおねいさん  : 柳沼:もう、これだからあなたは 柳沼:(笑う)  : 0:(柳沼、席を立ち桐谷を待たずに歩き出す)  : 桐谷:あーあ、『お子様』はまた置いてけぼりね 桐谷:あたしだってそれなりに、人は見るのよ 桐谷:…ばーか  : 0:(桐谷、キャリーケースを引き後を追う)  :  :~転換~  : 0:(4日後の朝、パリ、準備中のバー) 0:(蓼原、水を飲んでいる) 0:(桜庭、マガジンの補充をしている)  : 蓼原:(コップの水を飲み干す)  : 桜庭:目覚めはコーヒーじゃなかったっけ  : 蓼原:ん、ああ 蓼原:今日は少し嫌な予感がしてな 蓼原:こういう日はコーヒーも上手く楽しめん  : 桜庭:じゃあ僕が代わりに挽いてあげたのに  : 蓼原:構わん、コーヒーを飲まない日は 蓼原:オフにすると決めているんだ  : 桜庭:へぇ、それはそれは 桜庭:ここに指示書があるとしてもかい  : 蓼原:ああ、屁理屈でも空論でも使って 蓼原:丸一日オフにしてやる  : 桜庭:そうかい、徹底してるね 桜庭:僕はそういうジンクス、面倒だからなあ  : 蓼原:貴様は血を見ることが生きがいだろうが  : 桜庭:(笑う) 桜庭:失敬な 桜庭:語弊がある点について、訂正を求めるよ  : 蓼原:勝手にしろ、俺はこれまで貴様との仕事の場で 蓼原:赤い景色しか見た覚えがないんだから仕方ないな  : 桜庭:言ってくれるね 桜庭:タデだって(途中まで/僕と同じように)  : 蓼原:(電話が入り、応答する) 蓼原:どうした?  : 桜庭:(伸びをする)  : 蓼原:(電話)何だと? 蓼原:(電話)だからこそ緊急の衛星回線からか 蓼原:(電話)了解だ、向かう、ああ 蓼原:(電話)無音なら600秒で切断される 蓼原:(電話)任せろ、あとはこちらで辿っておく 蓼原:(電話)気をしっかりな、待ってろ 蓼原:(電話を切る)  : 桜庭:タデ  : 蓼原:(深呼吸する) 蓼原:おい、桜庭  : 桜庭:うん  : 蓼原:コーヒー、残ってるか  : 桜庭:(短く息をつく) 桜庭:ぬるいよ 桜庭:僕の部屋だ  : 蓼原:分かった  : 0:(蓼原、奥に下がり桜庭の部屋へ向かう)  : 桜庭:うん、これでいい 桜庭:黒幕は、僕だからね  :  :~転換~  : 0:(前日の昼、カイロ) 0:(3年半前のホテル付近) 0:(桐谷、ハンバーガーを頬張っている) 0:(柳沼、トロピカルな見た目のドリンクを握っている)  : 柳沼:うん、悪くないわね  : 桐谷:(飲み下す) 桐谷:何だかピカピカしすぎて不味そう  : 柳沼:あら嫌だ、せっかく盛大なお礼をしてあげたのに 柳沼:返す言葉がそれじゃあ面白くないわねぇ  : 桐谷:うっさいなあ 桐谷:ただの感想じゃない  : 柳沼:あなたからはV.S.O.P.も貰ってないし  : 桐谷:ぼったくりに引っかかってやるほど 桐谷:あたしは脳みそ軽くないのよ  : 柳沼:あらあら、元気になって早々 柳沼:減らない口だこと  : 桐谷:ビッチに何言われようが毛ほども気にならないわ 桐谷:…それより、今回あのハイエナは何て?  : 柳沼:んー、詳しい指示はもらってないけど 柳沼:おそらく8C37ってことはココよねぇ  : 桐谷:それはいいのよ 桐谷:どうしてあたしの思い出巡りなんてさせるのよ 桐谷:遺書でも書いておけってことかしら  : 柳沼:ああ、もしかすると近いかもね  : 桐谷:え  : 柳沼:彼、そういうダークな話大好きだから  : 桐谷:ちょっとやめてよね、いくらなんでも 桐谷:そんなバカな話、洒落にならないわ  : 柳沼:まあそうカリカリしなさんなって 柳沼:若いうちからシワが増えちゃうわよ  : 桐谷:ならアンタの顔に一生消せないシワを 桐谷:ナイフとフォークで刻みつけてやろうかしら  : 柳沼:もう、相変わらず血の気が多いんだから  : 0:(桐谷、柳沼、メールを受信する)  : 桐谷:ん、指示書か  : 柳沼:あらあら、トップコンフィデンシャルとは 柳沼:随分とお役人様がお怒りのようね  : 桐谷:あたしらって今、一応除籍扱いじゃないの?  : 柳沼:一応ね 柳沼:それでもオフィシャル超えてきた案件は 柳沼:解決の実績を考慮して外注のテイで 柳沼:私たちに依頼する場合があるのよ  : 桐谷:人遣い荒いのね、おたく  : 柳沼:多分、桜庭の手配ね 柳沼:そつがなくてびっくりよ、全く  : 桐谷:で、今回は例の倉庫らしいわね  : 柳沼:タデちゃんからは動きがある様子だとは 柳沼:さらっと聞いてはいたんだけどね 柳沼:こんな高位の指示書で叩きに行くほど 柳沼:大きい話になってるなんて知らなかったわ  : 桐谷:ごめん、話に出しちゃっていいのかわからないけど 桐谷:蓮池さんってどんな人なの  : 柳沼:ん?どうしたのよ急に  : 桐谷:いや、サブリナについて色々協力させてたんでしょ  : 柳沼:ええ、まあ  : 桐谷:それなら何かしら裏切りの理由とか、 桐谷:抱えてた問題とか、そういうの知ってるのかなって  : 柳沼:なあに?タデちゃん一筋じゃなかったの?  : 桐谷:ち、ちょっと! 桐谷:そういう話じゃなくて、仲間としてよ  : 柳沼:ふぅーん、まあそういうことにしておいて 柳沼:何が気になるのよ  : 桐谷:内心、透けてるわよ 桐谷:下世話はベッドだけで済ませておいてよね  : 柳沼:下世話じゃないわ、シモの世話よ  : 桐谷:あーもう、アンタ相手はマジで疲れる! 桐谷:もういいわ、聞いても無駄みたいだし  : 柳沼:(身悶えする) 柳沼:んー、相変わらず可愛いわねぇ姫  : 桐谷:うーっさいっつの!!  : 0:(桐谷、ハンバーガーの包みを丸め、ゴミ箱に放り込む)  : 柳沼:ワァオ、ナイスイン  : 桐谷:アンタは?  : 柳沼:いいわ、朝は食べないの  : 桐谷:あっそ、あたしコーラ  : 柳沼:はいはい  : 0:(桐谷、コーラを買いに席を立つ)  : 柳沼:(モノローグ) 柳沼:(うーん、蓮池くんねぇ) 柳沼:(分かれば苦労はないんだけど) 柳沼:(何というか、見えないというか) 柳沼:(いくつも顔がありそうで) 柳沼:(怖いのは事実よね)  : 桐谷:(遠くから)ねーえー? 桐谷:アンタいつも通りー?  : 柳沼:(頷く) 柳沼:(遠くへ)しばらく遊んでなさーい 柳沼:(遠くへ)終われば声をかけるわー  : 桐谷:(遠くから)りょーかーい 桐谷:(遠くから)早くしてよー、日焼け止めー 桐谷:(遠くから)こっち売ってないのー  : 柳沼:(遠くへ)はーい  : 0:(桐谷、去る)  : 柳沼:さてと、ここからは悠々自適なサーフィンね 柳沼:(ラップトップを取り出す) 柳沼:まずは流通ルートからねー?  :  :~転換~  : 0:(桐谷に視点が移る) 0:(数時間後のカイロ市街)  : 桐谷:んー美味しそ、ただなあ…太っちゃうかなあ 桐谷:あ、スパイスのいい匂いも… 桐谷:もう、またお腹すいてきたなあ… 桐谷:やっぱりこういう露店街っていいわね 桐谷:…ちょっとくらい食べてもどうせ運動するし 桐谷:いいかな、ちょっとだけ…いいよね 桐谷:でもタデさんに太ったとこ見られるのは…  : 桐谷:(ふと気づく) 桐谷:あれ、何でカイロに呼ばれてすぐ 桐谷:指示書が飛んできたのかしら… 桐谷:これもサブリナのせいかな 桐谷:(忘れようと伸びをする) 桐谷:あーあ、ファンが多いのも考えものね  : 0:(蓮池、現れる)  : 蓮池:お久しぶりです、桐谷さん  : 桐谷:え、何でアンタが(かぶる/ここに)  : 蓮池:(かぶせて)今、おっしゃってたでしょう 蓮池:カイロに呼ばれてすぐ、指示書が届いたって 蓮池:その理由はただ一つです 蓮池:あなた方にカイロへ留まっていただくためです  : 桐谷:何よ、それ  : 蓮池:カイロに来ていただいたのも理由はありますが 蓮池:まずはじっくり『お話』をいたしましょう  : 桐谷:話す、ねえ 桐谷:すっぱ抜く、の間違いじゃないの?  : 蓮池:そんな人聞きの悪いことをおっしゃらないで 蓮池:ゆっくり腰を落ち着けましょうよ 蓮池:ついでに言えば、ここで銃を抜くのは 蓮池:得策とは言えませんよ、8650  : 桐谷:(睨みつける) 桐谷:じゃああたしはここでさよならするわ 桐谷:柳沼が気になるし離れてるほうがよっぽど危険よ  : 蓮池:ああ、でしたら尚更ついてきていただかないと 蓮池:(携帯の画面で柳沼の写真を見せる) 蓮池:柳沼さんは既にくつろいでいただいてます 蓮池:どう、なさいますか?  : 桐谷:アンタ、いったい何考えてんの 桐谷:報酬?  : 蓮池:ああ、悪くありませんね 蓮池:余生はゆっくりできそうです 蓮池:桜庭さんにもアタカマでの事業を相談されましたし 蓮池:案外いい考えかもしれません  : 桐谷:何でもいいわ、アンタのこと信じたあたしが 桐谷:心底みっともなくていたたまれないわ  : 蓮池:では、お連れしましょう 蓮池:改めて、仲良くしていただけると有難いのですが  : 桐谷:一つ、いいかしら  : 蓮池:何でしょう  : 桐谷:飼い主を噛み殺したブラッディ・ハウンド 桐谷:その行き場は闇もためらう虚無の隙間だけ 桐谷:それを分かってて踏み入れた修羅だとでも 桐谷:自分を売り込みたいわけ?アンタは  : 蓮池:いえいえ、そんなご大層な理由ではありません 蓮池:ただ、ひとつだけ言えることは 蓮池:僕が単なる私利私欲のためだけに 蓮池:あなた方全員を敵に回したということです 蓮池:そう、『ヒドゥン・セクレタリの名の下に』  : 桐谷:(息を呑む)  : 蓮池:さて、お連れしますよ 蓮池:(瞬間、近づいて鳩尾へ肘打ちする)  : 桐谷:(うめく)  : 0:(蓮池、桐谷を両腕で抱え裏路地へ向かう)  : 蓮池:(進んでいる) 蓮池:まずは第1フェーズ、と  : 0:(蓮池、ジープに桐谷を放り込む) 0:(蓮池、既に届いていたメールを確認する)  : 蓮池:(笑う) 蓮池:あとは海路任せだし酒でも買い込んでおこう、か 蓮池:(少しの間) 蓮池:『楽しく』なりそうですよ、全く  : 0:(続)

  : 0:(7話の数週間後) 0:(何かの大型施設の跡地、少し遠くに大きい業務用倉庫が見える) 0:(蓮池、電話を取っている)  : 蓮池:ええ、彼らは既にカイロとパリです 蓮池:数週間経ちますが、目立った動きはないですね 蓮池:(電話の向こうの人物の発言に笑う) 蓮池:もちろんでしょう、彼ら4名のうち 蓮池:既に3名は手傷を負っていて 蓮池:そのうちの更に2名は外科的処置が必要でした 蓮池:そんな状態でここまで派手に暴れられれば 蓮池:こちらとしても無視はできない 蓮池:彼らが調子を取り戻す前に、決着をつける 蓮池:元々はそれが我々の動く理由でしたでしょうに 蓮池:はい、構いませんよ…大丈夫です 蓮池:そろそろ布石を増やしておかねば 蓮池:彼らの動きに後れを取ってしまうでしょう 蓮池:そちらも、首尾良くお願いしますね 蓮池:…うん、結構です…それでは 蓮池:(電話を切る)  : 蓮池:(手に握っていたコーヒーを多めにふた口煽る) 蓮池:さあて、『火種』を増やしておきますか  : 0:(蓮池、微笑みつつどこかへ向かう)  :  :~転換~  : 0:(蓮池の電話の3日前) 0:(パリ、準備中のバー) 0:(蓼原、銃の手入れをしている) 0:(桜庭、ロッキングチェアでくつろいでいる)  : 桜庭:で、悪くはないんだけどね 桜庭:どうしてこうもタデは気が長いんだ  : 蓼原:言うだろうと思った 蓼原:決まってるだろう、集めるためだ  : 桜庭:主戦力はこちらに集まっていると聞いてるけど  : 蓼原:ああ、もちろんだ 蓼原:だがそれぞれ独立して動いてる 蓼原:パリ市内に散らばってる彼奴ら(きゃつら)を 蓼原:ちまちま潰すのも面白くないからな 蓼原:どうせなら一網打尽にしてしまおうと 蓼原:俺たちの情報が伝わるタイミングを 蓼原:待っているんだ、鬣犬(ハイエナ)のようにな  : 桜庭:おお、趣味が悪い喩え(たとえ)を  : 蓼原:何だ、傷ついたとでも泣き喚く気か  : 桜庭:まさか、そんなつもりないよ  : 蓼原:それとも、またいつものあれか  : 桜庭:ん?  : 蓼原:『そんなこと言ってるとタデ』 蓼原:『君への誓いは反故にしていいとするよ』  : 桜庭:(笑う)  : 蓼原:もう既にほぼ守られてないがな  : 桜庭:ごめんよタデ、僕はタデと違って 桜庭:義賊という単語が全く似合わないのさ 桜庭:ただ薄ら笑いと感情の制御が得意ってだけの 桜庭:ニヒルなエゴイズムを抱えるリアリストだよ  : 蓼原:そのリアリズムに自分を組み込んで欲しいものだ  : 桜庭:もうとっくに組み込んであるさ 桜庭:そのうえでの僕の行動に文句があるかい  : 蓼原:大体人を義賊呼ばわりするが 蓼原:貴様のほうが正しく(まさしく)義賊だろう  : 桜庭:ああそうだよ、形式上は義賊さ 桜庭:とはいえ似合わなさすぎて 桜庭:地に足がつかないから弱っていてね  : 蓼原:おいおい冗談は止せ(よせ) 蓼原:貴様に地に足のついたためしがあるか 蓼原:貴様の足は殺した血で浮いているんだからな  : 桜庭:(ため息) 桜庭:もっと他にも楽しく喋れる相手がいるはずなのに 桜庭:何で僕にだけこういう言葉遊びを仕掛けるかな  : 蓼原:うるさいぞ、桜庭 蓼原:貴様に観察されていると妙に寒気がする  : 桜庭:あれー?殺気は仕舞っているはずなんだけど  : 蓼原:分かった分かった 蓼原:ハイエナににらまれたらモグラは終わりだ 蓼原:大人しく穴ぐらに帰るさ  : 桜庭:おいおい、つれないなあ  : 蓼原:(銃の手入れをやめる) 蓼原:ともかく、貴様は暇になったことをいいことに 蓼原:あれこれと嗅ぎまわるんだろう、どうせ 蓼原:主戦力の28名のうち、25名が今夜集まる 蓼原:地区がまだ絞り込めてないから候補を見張れ  : 桜庭:了解  : 蓼原:俺はしばらく寝かせてもらうぞ 蓼原:ちょっと頭痛がするんだ 蓼原:(カウンターのバックヤードに向かう)  : 桜庭:(笑う) 桜庭:はいはい、ゆっくり治しなよー  : 0:(蓼原、下がる)  : 桜庭:(間) 桜庭:(ため息) 桜庭:もう、タデはバカだなあ 桜庭:頭痛がするなら、いつも薬が先でしょ君は 桜庭:素直に行きたいって言えばいいのにね  : 0:(蓮池、音もなく窓から入ってくる)  : 蓮池:おはようございます  : 桜庭:ああ、おはよう  : 蓮池:蓼原さんは相変わらずですね  : 桜庭:うん、全くだよ 桜庭:(笑う) 桜庭:僕と一緒に行けば面倒もなく会いに行けるのにね  : 蓮池:(少しだけ黙ってしまう) 蓮池:…なぜ、しないんですかね  : 桜庭:分かりきったことだろう? 桜庭:(間) 桜庭:タデは大きな責任を感じている 桜庭:僕より感じ方は強いんじゃないかな  : 蓮池:そう、ですか  : 桜庭:自分がもっと手を出していれば 桜庭:自分がもっと気にかけてやっていれば 桜庭:そんなことを静かに悩んでいるんだよ  : 蓮池:そんなこと考えても、変わらないでしょうに  : 桜庭:まあね  : 蓮池:私はそんなことに時間を遣うよりもっと、 蓮池:(息を細く吐く) 蓮池:…自らが守るべきものと果たすべき借りを 蓮池:数え続けるほうが有益だと思いますけどね  : 桜庭:それがタデの人間臭くて不器用な 桜庭:愛される所以(ゆえん)だよ  : 蓮池:そう言いながら心から笑っている貴方が 蓮池:僕からすればただの怪物なんですよ  : 桜庭:あれ?僕はただの人畜無害なハイエナだよ?  : 蓮池:ハイエナが墓荒らしとは  : 桜庭:何だって言うんだい、蓮池  : 蓮池:いえいえ、生物の進化は侮れないなと思いまして  : 桜庭:人間がこれまでどんな文明の利器をも 桜庭:最終的に殺戮のためにしか利用できないのか 桜庭:君は真剣に考えたことがあるかい  : 蓮池:不毛な議論です  : 桜庭:人間はとてつもなく馬鹿でどうしようもない、 桜庭:そんな利己的で救いようのない害獣だからだよ  : 蓮池:獣が獣を獣と呼ぶ、この陶酔的な言い回し 蓮池:まれに果てしなく壊したい衝動に駆られますね  : 桜庭:やれるならやってみればいいさ  : 蓮池:やめておきますよ 蓮池:本調子じゃない相手に勝っても、誇れません  : 桜庭:そりゃ仏様より慈悲深い御心(みこころ)だね 桜庭:(短い間) 桜庭:ところで、君はもう済ませたのかい  : 蓮池:え? 蓮池:(察する) 蓮池:(ため息) 蓮池:桜庭さん、貴方は(かぶる/どうして)  : 桜庭:(かぶせて)結構結構、驚いたろう 桜庭:まさかそこまで知られているとは考えないよね  : 蓮池:どうして、ご存知なんですか  : 桜庭:そりゃあ分かるさ、君は僕の『弟子』だ 桜庭:下につけるならそれなりに調べるからね  : 蓮池:(深いため息) 蓮池:底が知れないとは思っていましたが 蓮池:ここまでされると自分の甘さが恨めしいです  : 桜庭:(大笑いする) 桜庭:3年前は、申し訳なかったね  : 蓮池:いえ、元はと言えば彼が悪いんです 蓮池:(長めの間) 蓮池:私があと少し早く気づけてれば、 蓮池:彼の異変を察してやれてれば、 蓮池:きっと(かぶる/助けられたんです)  : 桜庭:(かぶせて)死んでいたよ  : 蓮池:そんなことはありません 蓮池:あいつはもう覚悟を決めてしまっていた 蓮池:その最後の瞬間に俺は立ち会いました 蓮池:一歩踏み出したその時を、俺は 蓮池:無知なまま見過ごしたんです! 蓮池:あいつが全てを投げ出すことは分かったはずだ 蓮池:それでも俺は違和感を飲み干した! 蓮池:違和感は違和感、俺の考えすぎだ、 蓮池:そうやってあいつの目を見ただけだった! 蓮池:見つめていなかった、見届けなかった! 蓮池:俺は、涙を流すことすら、許されない 蓮池:(拳を握りしめる) 蓮池:声をかけるなど、言語道断だ!!  : 桜庭:(かぶせるように)そこまでだ 桜庭:そうやって自分を責めて楽しいかい 桜庭:側から見ている僕からすれば、酷く滑稽だ 桜庭:面白いようにポロポロ出てきたね 桜庭:『俺は悪くない』『誰か可哀想な俺を助けて』 桜庭:『俺は頑張ってるんだ』『褒めてくれよ』 桜庭:(数秒、蓮池を咎めるように見つめる) 桜庭:あーあー、汚いね、本当におぞましい 桜庭:だから人間は害獣だって言ったんだ  : 蓮池:…何を言いたいんですか  : 桜庭:君のマゾヒズムに付き合う気はないよ 桜庭:文句がいくらあろうが僕には関係ない 桜庭:君のその駄々に、生産性があるなら 桜庭:僕は喜んで腰を据えて聞いてあげよう  : 蓮池:虫唾が走りますね、その言い方は  : 桜庭:なら今、ここを発ちたまえ(たちたまえ) 桜庭:君の仕事は既にここにはないだろう 桜庭:君はその指示を受け取りに来たんじゃない?  : 蓮池:ええ、その通りですよ 蓮池:(意識を切り替える) 蓮池:今回はおっしゃっていたように 蓮池:敢えて証拠を残していいんですね  : 桜庭:ああ、通信手段も一つだけ残しておいてやれ 桜庭:そうじゃないと、状況を掴ませてやれない 桜庭:本来狙うべき標的に確実に接触させるには 桜庭:君の動きを追う構図が最も刺激しやすい 桜庭:このくらいは、そのマゾいナルシズムにも 桜庭:十分に理解させてあげられると踏んでるけど  : 蓮池:(ため息) 蓮池:ええ、存分に理解していますよ 蓮池:…気が狂いそうだ  : 桜庭:安心しろ、僕らはもう既に狂っている 桜庭:『あの日』、君の友を見捨てた瞬間からね  : 蓮池:一緒にしないでいただきたい  : 桜庭:君にも届いていたようで何よりだよ 桜庭:哀れな指揮者(コンダクター)くん  :  :~転換~  : 0:(遡り、7話の直後) 0:(蓼原、コーヒーを飲んでいる) 0:(桐谷、ホットドッグを頬張っている)  : 蓼原:おい、もう何本目だ  : 桐谷:(さらに口に入れる) 桐谷:ん、ほっほんへよ  : 蓼原:食いすぎじゃないか?相変わらず  : 桐谷:(飲み込む) 桐谷:育ち盛りよ、このくらい必要なの  : 蓼原:おいおい、もうティーンを過ぎたら 蓼原:育つのは体じゃなく腹だろう  : 桐谷:ちょっとタデさん、女子にそんな事言ったら 桐谷:今どきセクハラで即警察沙汰よ  : 蓼原:素っ裸見せられておいて今更言われてもな 蓼原:もう4年経つだろ、パリから  : 桐谷:そうね、未だにふと思い出すけど 桐谷:もうだいぶ薄れてるわ  : 蓼原:何よりだ  : 桐谷:誰かさんのおかげよ、ありがとねタデさん  : 蓼原:ああ、どういたしまして  : 桐谷:それにしても、あたしとビッチが組むって 桐谷:何気に珍しいわよね  : 蓼原:そうだな 蓼原:それこそヘルシンキ以来じゃないか  : 桐谷:あ、そうね確かに  : 蓼原:お前ら二人となると、どうしてもな  : 桐谷:ちょっとタデさん 桐谷:暗い顔しないでよ、もう  : 蓼原:いや 蓼原:(短い間) 蓼原:済まない  : 桐谷:あの時は、なんだかんだ言って 桐谷:あたしも楽しかったんだ  : 蓼原:そうだな、確かに生き生きしてたよ  : 桐谷:樺倉が話題出して、あたしがからかって、 桐谷:柳沼が調子乗って、桜庭も乗っかって、 桐谷:タデさんは囲まれて頭抱えて  : 蓼原:おいおい、分かってた(かぶる/んなら)  : 桐谷:(かぶせて)あの時は、まだ楽しかったのよ  : 蓼原:(黙る)  : 桐谷:桜庭も、あの時はまだまともだった 桐谷:イカレてはいたけど、血まみれだったけど  : 蓼原:今ごろヤツはくしゃみで空を飛んでるな  : 桐谷:(笑う) 桐谷:それいいわね  : 蓼原:傑作だろう?  : 桐谷:うん 桐谷:あんな時間、もう来ないんだろうね  : 蓼原:まあそう悲観するな 蓼原:もろもろ片づけたら少しはゆっくりできるさ  : 桐谷:そうだと、いいんだけどね  : 0:(心地よいが重く垂れ込む間)  : 蓼原:(深いため息) 蓼原:(ライターで煙草に火を灯す)  :  :~転換~  : 0:(冒頭の蓮池の電話の前々日) 0:(カイロ、カイロ国際空港国際線発着ロビー) 0:(柳沼、車のキーで遊びつつ誰かを待っている)  : 柳沼:遅いわねぇ 柳沼:あのイノシシちゃん、迷ってないといいけど  : 0:(柳沼、桜庭から着信を受ける)  : 柳沼:あらあら、これは予想外ね 柳沼:(電話を取る) 柳沼:はいはぁい、どしたのサク  : 桜庭:いや、改めて謝っておこうかと思ってね  : 柳沼:そう、何だか気味悪いことし出したわね  : 桜庭:まあね 桜庭:ただ、『分かってくれよ』  : 柳沼:(ため息) 柳沼:あら、仕方ないわね 柳沼:で、『どうしたらいいのかしら』  : 桜庭:うん、『いい子だ』  : 柳沼:(息を呑む)  : 桜庭:…どうした、返事はできないのか  : 柳沼:(落ち着く) 柳沼:そういうこと  : 桜庭:…返事をしろと言ったよね  : 柳沼:(言い淀む)  : 桜庭:返事だ  : 柳沼:…『ごめんなさい、悪い子で』  : 桜庭:(鼻を鳴らす) 桜庭:いいや、大丈夫 桜庭:『ご褒美は何がいい』  : 柳沼:…『ご褒美は』ツタンカーメンの置物がいいわ  : 桜庭:『分かった』よ  : 柳沼:ねえサク(、あなたどうして) 柳沼:(電話を切られる) 柳沼:待ってよ、サク 柳沼:あなた、それは酷いじゃない… 柳沼:こんなお別れ、できるわけないじゃない  : 0:(桐谷、駆け寄ってくる)  : 桐谷:おぉーい、ビッチー  : 柳沼:(目を拭う)  : 桐谷:ちょっと、こっちから呼んでんのに 桐谷:さっきから真っ青な顔して気づかないし 桐谷:どーしたのよ、血相変えて  : 柳沼:(涙を隠しきれていると思い込んでいる) 柳沼:いいえ、ちょっと知り合いのパーツ屋が 柳沼:とっ捕まったって聞いちゃってね 柳沼:教えてくれた弟子の男の子が思わず 柳沼:可愛くって襲いたくなっちゃったから 柳沼:泣ける映画を漁ってたのよ  : 桐谷:へぇー、あんたも涙なんて流すのね 桐谷:鬼より渇いてると思ってたわ  : 柳沼:失礼ね、怒るわよ  : 桐谷:はいはい、どーもおねいさん  : 柳沼:もう、これだからあなたは 柳沼:(笑う)  : 0:(柳沼、席を立ち桐谷を待たずに歩き出す)  : 桐谷:あーあ、『お子様』はまた置いてけぼりね 桐谷:あたしだってそれなりに、人は見るのよ 桐谷:…ばーか  : 0:(桐谷、キャリーケースを引き後を追う)  :  :~転換~  : 0:(4日後の朝、パリ、準備中のバー) 0:(蓼原、水を飲んでいる) 0:(桜庭、マガジンの補充をしている)  : 蓼原:(コップの水を飲み干す)  : 桜庭:目覚めはコーヒーじゃなかったっけ  : 蓼原:ん、ああ 蓼原:今日は少し嫌な予感がしてな 蓼原:こういう日はコーヒーも上手く楽しめん  : 桜庭:じゃあ僕が代わりに挽いてあげたのに  : 蓼原:構わん、コーヒーを飲まない日は 蓼原:オフにすると決めているんだ  : 桜庭:へぇ、それはそれは 桜庭:ここに指示書があるとしてもかい  : 蓼原:ああ、屁理屈でも空論でも使って 蓼原:丸一日オフにしてやる  : 桜庭:そうかい、徹底してるね 桜庭:僕はそういうジンクス、面倒だからなあ  : 蓼原:貴様は血を見ることが生きがいだろうが  : 桜庭:(笑う) 桜庭:失敬な 桜庭:語弊がある点について、訂正を求めるよ  : 蓼原:勝手にしろ、俺はこれまで貴様との仕事の場で 蓼原:赤い景色しか見た覚えがないんだから仕方ないな  : 桜庭:言ってくれるね 桜庭:タデだって(途中まで/僕と同じように)  : 蓼原:(電話が入り、応答する) 蓼原:どうした?  : 桜庭:(伸びをする)  : 蓼原:(電話)何だと? 蓼原:(電話)だからこそ緊急の衛星回線からか 蓼原:(電話)了解だ、向かう、ああ 蓼原:(電話)無音なら600秒で切断される 蓼原:(電話)任せろ、あとはこちらで辿っておく 蓼原:(電話)気をしっかりな、待ってろ 蓼原:(電話を切る)  : 桜庭:タデ  : 蓼原:(深呼吸する) 蓼原:おい、桜庭  : 桜庭:うん  : 蓼原:コーヒー、残ってるか  : 桜庭:(短く息をつく) 桜庭:ぬるいよ 桜庭:僕の部屋だ  : 蓼原:分かった  : 0:(蓼原、奥に下がり桜庭の部屋へ向かう)  : 桜庭:うん、これでいい 桜庭:黒幕は、僕だからね  :  :~転換~  : 0:(前日の昼、カイロ) 0:(3年半前のホテル付近) 0:(桐谷、ハンバーガーを頬張っている) 0:(柳沼、トロピカルな見た目のドリンクを握っている)  : 柳沼:うん、悪くないわね  : 桐谷:(飲み下す) 桐谷:何だかピカピカしすぎて不味そう  : 柳沼:あら嫌だ、せっかく盛大なお礼をしてあげたのに 柳沼:返す言葉がそれじゃあ面白くないわねぇ  : 桐谷:うっさいなあ 桐谷:ただの感想じゃない  : 柳沼:あなたからはV.S.O.P.も貰ってないし  : 桐谷:ぼったくりに引っかかってやるほど 桐谷:あたしは脳みそ軽くないのよ  : 柳沼:あらあら、元気になって早々 柳沼:減らない口だこと  : 桐谷:ビッチに何言われようが毛ほども気にならないわ 桐谷:…それより、今回あのハイエナは何て?  : 柳沼:んー、詳しい指示はもらってないけど 柳沼:おそらく8C37ってことはココよねぇ  : 桐谷:それはいいのよ 桐谷:どうしてあたしの思い出巡りなんてさせるのよ 桐谷:遺書でも書いておけってことかしら  : 柳沼:ああ、もしかすると近いかもね  : 桐谷:え  : 柳沼:彼、そういうダークな話大好きだから  : 桐谷:ちょっとやめてよね、いくらなんでも 桐谷:そんなバカな話、洒落にならないわ  : 柳沼:まあそうカリカリしなさんなって 柳沼:若いうちからシワが増えちゃうわよ  : 桐谷:ならアンタの顔に一生消せないシワを 桐谷:ナイフとフォークで刻みつけてやろうかしら  : 柳沼:もう、相変わらず血の気が多いんだから  : 0:(桐谷、柳沼、メールを受信する)  : 桐谷:ん、指示書か  : 柳沼:あらあら、トップコンフィデンシャルとは 柳沼:随分とお役人様がお怒りのようね  : 桐谷:あたしらって今、一応除籍扱いじゃないの?  : 柳沼:一応ね 柳沼:それでもオフィシャル超えてきた案件は 柳沼:解決の実績を考慮して外注のテイで 柳沼:私たちに依頼する場合があるのよ  : 桐谷:人遣い荒いのね、おたく  : 柳沼:多分、桜庭の手配ね 柳沼:そつがなくてびっくりよ、全く  : 桐谷:で、今回は例の倉庫らしいわね  : 柳沼:タデちゃんからは動きがある様子だとは 柳沼:さらっと聞いてはいたんだけどね 柳沼:こんな高位の指示書で叩きに行くほど 柳沼:大きい話になってるなんて知らなかったわ  : 桐谷:ごめん、話に出しちゃっていいのかわからないけど 桐谷:蓮池さんってどんな人なの  : 柳沼:ん?どうしたのよ急に  : 桐谷:いや、サブリナについて色々協力させてたんでしょ  : 柳沼:ええ、まあ  : 桐谷:それなら何かしら裏切りの理由とか、 桐谷:抱えてた問題とか、そういうの知ってるのかなって  : 柳沼:なあに?タデちゃん一筋じゃなかったの?  : 桐谷:ち、ちょっと! 桐谷:そういう話じゃなくて、仲間としてよ  : 柳沼:ふぅーん、まあそういうことにしておいて 柳沼:何が気になるのよ  : 桐谷:内心、透けてるわよ 桐谷:下世話はベッドだけで済ませておいてよね  : 柳沼:下世話じゃないわ、シモの世話よ  : 桐谷:あーもう、アンタ相手はマジで疲れる! 桐谷:もういいわ、聞いても無駄みたいだし  : 柳沼:(身悶えする) 柳沼:んー、相変わらず可愛いわねぇ姫  : 桐谷:うーっさいっつの!!  : 0:(桐谷、ハンバーガーの包みを丸め、ゴミ箱に放り込む)  : 柳沼:ワァオ、ナイスイン  : 桐谷:アンタは?  : 柳沼:いいわ、朝は食べないの  : 桐谷:あっそ、あたしコーラ  : 柳沼:はいはい  : 0:(桐谷、コーラを買いに席を立つ)  : 柳沼:(モノローグ) 柳沼:(うーん、蓮池くんねぇ) 柳沼:(分かれば苦労はないんだけど) 柳沼:(何というか、見えないというか) 柳沼:(いくつも顔がありそうで) 柳沼:(怖いのは事実よね)  : 桐谷:(遠くから)ねーえー? 桐谷:アンタいつも通りー?  : 柳沼:(頷く) 柳沼:(遠くへ)しばらく遊んでなさーい 柳沼:(遠くへ)終われば声をかけるわー  : 桐谷:(遠くから)りょーかーい 桐谷:(遠くから)早くしてよー、日焼け止めー 桐谷:(遠くから)こっち売ってないのー  : 柳沼:(遠くへ)はーい  : 0:(桐谷、去る)  : 柳沼:さてと、ここからは悠々自適なサーフィンね 柳沼:(ラップトップを取り出す) 柳沼:まずは流通ルートからねー?  :  :~転換~  : 0:(桐谷に視点が移る) 0:(数時間後のカイロ市街)  : 桐谷:んー美味しそ、ただなあ…太っちゃうかなあ 桐谷:あ、スパイスのいい匂いも… 桐谷:もう、またお腹すいてきたなあ… 桐谷:やっぱりこういう露店街っていいわね 桐谷:…ちょっとくらい食べてもどうせ運動するし 桐谷:いいかな、ちょっとだけ…いいよね 桐谷:でもタデさんに太ったとこ見られるのは…  : 桐谷:(ふと気づく) 桐谷:あれ、何でカイロに呼ばれてすぐ 桐谷:指示書が飛んできたのかしら… 桐谷:これもサブリナのせいかな 桐谷:(忘れようと伸びをする) 桐谷:あーあ、ファンが多いのも考えものね  : 0:(蓮池、現れる)  : 蓮池:お久しぶりです、桐谷さん  : 桐谷:え、何でアンタが(かぶる/ここに)  : 蓮池:(かぶせて)今、おっしゃってたでしょう 蓮池:カイロに呼ばれてすぐ、指示書が届いたって 蓮池:その理由はただ一つです 蓮池:あなた方にカイロへ留まっていただくためです  : 桐谷:何よ、それ  : 蓮池:カイロに来ていただいたのも理由はありますが 蓮池:まずはじっくり『お話』をいたしましょう  : 桐谷:話す、ねえ 桐谷:すっぱ抜く、の間違いじゃないの?  : 蓮池:そんな人聞きの悪いことをおっしゃらないで 蓮池:ゆっくり腰を落ち着けましょうよ 蓮池:ついでに言えば、ここで銃を抜くのは 蓮池:得策とは言えませんよ、8650  : 桐谷:(睨みつける) 桐谷:じゃああたしはここでさよならするわ 桐谷:柳沼が気になるし離れてるほうがよっぽど危険よ  : 蓮池:ああ、でしたら尚更ついてきていただかないと 蓮池:(携帯の画面で柳沼の写真を見せる) 蓮池:柳沼さんは既にくつろいでいただいてます 蓮池:どう、なさいますか?  : 桐谷:アンタ、いったい何考えてんの 桐谷:報酬?  : 蓮池:ああ、悪くありませんね 蓮池:余生はゆっくりできそうです 蓮池:桜庭さんにもアタカマでの事業を相談されましたし 蓮池:案外いい考えかもしれません  : 桐谷:何でもいいわ、アンタのこと信じたあたしが 桐谷:心底みっともなくていたたまれないわ  : 蓮池:では、お連れしましょう 蓮池:改めて、仲良くしていただけると有難いのですが  : 桐谷:一つ、いいかしら  : 蓮池:何でしょう  : 桐谷:飼い主を噛み殺したブラッディ・ハウンド 桐谷:その行き場は闇もためらう虚無の隙間だけ 桐谷:それを分かってて踏み入れた修羅だとでも 桐谷:自分を売り込みたいわけ?アンタは  : 蓮池:いえいえ、そんなご大層な理由ではありません 蓮池:ただ、ひとつだけ言えることは 蓮池:僕が単なる私利私欲のためだけに 蓮池:あなた方全員を敵に回したということです 蓮池:そう、『ヒドゥン・セクレタリの名の下に』  : 桐谷:(息を呑む)  : 蓮池:さて、お連れしますよ 蓮池:(瞬間、近づいて鳩尾へ肘打ちする)  : 桐谷:(うめく)  : 0:(蓮池、桐谷を両腕で抱え裏路地へ向かう)  : 蓮池:(進んでいる) 蓮池:まずは第1フェーズ、と  : 0:(蓮池、ジープに桐谷を放り込む) 0:(蓮池、既に届いていたメールを確認する)  : 蓮池:(笑う) 蓮池:あとは海路任せだし酒でも買い込んでおこう、か 蓮池:(少しの間) 蓮池:『楽しく』なりそうですよ、全く  : 0:(続)