台本概要
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タイトル | インディゴ=ノート #10 |
---|---|
作者名 | 蒼山熾音 (@Shinon_Aoyama) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
【内容説明】 時は現代、少しだけ違う世界。 信託と称し、古代文明『アライア・イシェド』の末裔ラ=ヴィオラが諸手で抱えていた、20冊を超える古文書、その全てが群青に染まった預言書、神からの啓示が詰められた福音書。 インディゴ=ノート。 その裏には近代イタリアが画策した怨嗟の鎖が蠢いていた。 2編の古文書が世界をひっくり返す。 その中に、抗おうとする5人の賊がいた。 【注意事項】 アレンジ・アドリブありあり(ただし他の演者さんと連携が取れなくなるような無茶ブリは禁止) 性別変更あり(オカマちゃん可) 本編は変更しませんが、適宜説明については変更していきます。 また、キャライメージをそれぞれに書いておりますが、こちらはガン無視していただいて結構です。 と言いますのも自分がイメージ持って書きやすいように記載しているものですので、言ってしまえば作者のメモです。 したがっておひとりおひとり自己主張多めでバチバチキャラクターを作り替えていただき、ご自身の感じたイメージをぶつけていただきたいです。よろしくお願い致します。 蓼原(たではら) 34歳。無精髭標準装備のおっさん。基本気だるげ。イメージはPSYCHO-PASSの狡噛慎也やFateの衛宮切嗣、紺 蓮池(はすいけ) 24歳。好青年イケメン。デキるビジネスマン風。イメージはPSYCHO-PASSのミハイルやエヴァンゲリオンの加持、青 桐谷(きりたに) 21歳。正統派ツンデレ。シナリオによってはツンツンツンくらい。イメージはエヴァンゲリオンのアスカ、赤 柳沼(やぎぬま) 29歳。クールビューティー。大人のオンナで色気たっぷり。イメージはPSYCHO-PASSの唐之森やSAOの(冷静な時の)シノン、紫 桜庭(さくらば) 33歳。闇深い狼。でも悪ではなく単に闇なだけでちゃんといい人。イメージはエヴァンゲリオンのカヲルや(セリフ回しだけは)呪術廻戦の五条悟、モノ 樺倉(かばくら) (回想登場キャラクター)3年前に20歳。陰キャ、非モテだけど顔は悪くないし数学が得意でパソコンをゼロから作れる。イメージはカノ借りの木ノ下和也、緑 38 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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蓼原 | 男 | 66 | 34歳。無精髭標準装備のおっさん。基本気だるげ。イメージはPSYCHO-PASSの狡噛慎也やFateの衛宮切嗣、紺 |
蓮池 | 男 | 63 | 24歳。好青年イケメン。デキるビジネスマン風。イメージはPSYCHO-PASSのミハイルやエヴァンゲリオンの加持、青 |
桐谷 | 女 | 53 | 21歳。正統派ツンデレ。シナリオによってはツンツンツンくらい。イメージはエヴァンゲリオンのアスカ、赤 |
柳沼 | 女 | 53 | 29歳。クールビューティー。大人のオンナで色気たっぷり。イメージはPSYCHO-PASSの唐之森やSAOの(冷静な時の)シノン、紫 |
桜庭 | 男 | 71 | 33歳。闇深い狼。でも悪ではなく単に闇なだけでちゃんといい人。イメージはエヴァンゲリオンのカヲルや(セリフ回しだけは)呪術廻戦の五条悟、モノ |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
:
0:(9話後半と同日)
0:(蓼原に電話がくる直前)
0:(洋上、小型クルーザーにて)
0:(蓮池、ラム酒を飲んでいる)
:
蓮池:(通信を受ける)
蓮池:はい、こちら絶賛バカンス中の蓮池です
:
桜庭:楽しんでいるようで何よりだ
桜庭:今回の件について変更があったから連絡だ
:
蓮池:そうでしょうね
蓮池:蓼原さんと動いている最中に連絡してきた
蓮池:つまりは急を要する話とお見受けしますが
:
桜庭:今、どこら辺なんだい
:
蓮池:現在はインド洋です
蓮池:といっても、外洋にようやく出るところですが
:
桜庭:おお、それはよかった
桜庭:直ちに航路を変更したまえ
桜庭:行き先は任せるが、ついに恐れていた事態だ
:
蓮池:サブリナが、解体されましたか
:
桜庭:(微笑み、少し息を漏らす)
:
蓮池:予想はしていました
蓮池:とはいえ、早かったですね
:
桜庭:では、武運を祈るよ
:
蓮池:承知しました
:
0:(通信が終わる)
:
蓮池:んー、思った通りとは何事も運ばないか
蓮池:サブリナの解体、ねえ
蓮池:このままだと連中が次に狙うなら
蓮池:(水平線を眺める)
蓮池:やっぱり、『ノート』だよな
:
:〜転換〜
:
0:(9話の電話の直後)
0:(暗く狭い空間)
0:(桐谷、柳沼の二人)
0:(桐谷、スマートフォンを脛当ての裏に仕舞う)
:
柳沼:なかなかオツなことするわね、あなた
:
桐谷:タデさんの受け売りよ
:
柳沼:それで、タデちゃんは何て?
:
桐谷:気をしっかり、だってさ
:
柳沼:タデちゃん、そういうとこソツがないわね
柳沼:やっぱりあの時抱かせにかかるべきだったわ
柳沼:一生の不覚よ、もう
:
桐谷:これ以上仲間内で湿った関係増やさないで
桐谷:ただでさえ色々と混み合ってるんだから
:
柳沼:今回は守りたい、んじゃなくて?
:
桐谷:うっさいわね
:
柳沼:ま、それはいいとして緊張感持ちましょ
柳沼:何せ私たち、今は囚われのプリンセスだし
:
桐谷:プリンセスと継母でしょ
:
柳沼:歳の話は持ち出さないでね?
:
桐谷:まあまず間違いないのは船に乗せられてることよ
桐谷:あたし達はもともとカイロにいたんだし
桐谷:そんなに離れてないとは思うけど
:
柳沼:徒手戦闘なんてお姉さん慣れてないのよねえ
柳沼:蓮池くんの戦術も把握できてないし
柳沼:強いて言えば、鋼線ってくらいしか
:
桐谷:血の気の多さじゃ負けないつもりだけどさ
桐谷:アンタのこと守りながらやりあうのは
桐谷:ちょっとハードル高すぎるわ
:
柳沼:ちょっと
柳沼:敵が複数だったら私回されちゃうじゃないの
柳沼:フラットな時なら興奮するんだけどなあ
:
桐谷:一人よ、ほぼ間違いなく
:
柳沼:ちょっと、イノシシ姫の直感で
柳沼:痛い目見るのは勘弁だわ
柳沼:もう少し慎重に(かぶる/状況を)
:
桐谷:(かぶせて)足音、聞いてた?
桐谷:波の音がしない、船底に入れられてる
桐谷:船上の動きがなさすぎる、少数
桐谷:加えて駆動音、明らかに小型船
桐谷:そして何より、これ
桐谷:(壁際を見るように柳沼を促す)
:
柳沼:水?
:
桐谷:そう、飲料水
桐谷:海を移動するなら、基本的に水が必須
桐谷:あくまで、あたしの話としてだけど
桐谷:あたしの場合は海上移動の時間の3倍、
桐谷:例えば5時間の移動を予定する場合は
桐谷:15時間分の飲料水を準備してる
:
柳沼:え、そんなに?
:
桐谷:一般家庭で利用する飲用可能な水の量
桐谷:つまりは水道水ね
桐谷:200リットルらしいわよ、一人当たり
:
柳沼:私も?そんなに使ってる?
:
桐谷:知らないわよ
桐谷:それでも、カイロから海を渡るなら
桐谷:北へ向かってヨーロッパか、
桐谷:西に進んで南米か、南に行って極地かよ
桐谷:他の目的地なら陸路の方が安全かつ確実
:
柳沼:戦闘センスも、こうなるとバカにならないわね
:
桐谷:年がら年中パソコンしてるアンタとは
桐谷:戦闘も移動も場数が違うのよ
:
柳沼:おみそれしました、お姫さま
:
桐谷:これは単なる予想だけど、行き先は西ね
桐谷:ヨーロッパを目指すならもっと早い段階で
桐谷:あたし達をタデさん達から引き離せた
桐谷:それこそ手負いだったから今より楽にね
:
柳沼:そうね、私も警戒してなかったし
柳沼:あのときなら油断しちゃってたかもね
:
桐谷:まあ、単に?
桐谷:パリが近かったとか、時間がなかったとか、
桐谷:そういうくだらない理由だった可能性もあるけど
:
柳沼:それを言うなら(かぶる/タデちゃんがいた)
:
桐谷:(かぶせて)タデさんも手負いよ?
桐谷:ましてやあの土竜と鬣犬を敵に回して
桐谷:優雅にクルージングしてるってことは
桐谷:あの二人が来ても最悪自分が優位を取れると
桐谷:ある程度の自信を持ってる証拠ね
:
柳沼:総合すると、得意なフィールドである南米か
:
桐谷:そういうこと
桐谷:それにおそらく、飛び道具が仇になるような
桐谷:こういう狭い場所での戦闘にかなり慣れてる
:
柳沼:万が一船の上でも迎撃できる準備、か
:
桐谷:鋼線なんでしょ?唯一の情報
桐谷:そしたらまず思いつくのは小癪な搦め手よ
:
柳沼:正体もわからない、対処もわからない
柳沼:あなたもこれはお手上げなの?
:
桐谷:ええ、そうね
桐谷:普通なら
:
柳沼:あら、勝機があるなら乗るわよ
:
桐谷:そーぉ?
桐谷:ならねえ…
桐谷:(笑う)
:
:〜転換〜
:
0:(運転中の車内)
0:(蓼原、助手席でパソコンを操作している)
0:(桜庭、運転席でタバコを片手にハンドルを握っている)
:
蓼原:GPSが追いきれんな、もう2時間だ
蓼原:意図的に電波を遮断しているか
:
桜庭:可能性は高いだろうね
:
蓼原:定石としては地下・半地下に追いやるか、
蓼原:電波が元から届きにくい環境に置くか、
蓼原:ジャミング機器を利用するか、
蓼原:そもそもの通信機器やGPS機器を奪うか
:
桜庭:そうだね
桜庭:彼が取りそうな方法を聞きたいんだろう?
:
蓼原:ああ、わざわざ言わせるな
:
桜庭:一番はやっぱり電波の届きにくい環境かな
桜庭:彼は基本的に面倒ごとを少しでも減らしたがる
桜庭:だから彼の戦闘スタイルは基本闇討ちだよ
桜庭:僕よりもよほどタチが悪い
:
蓼原:貴様も出会い頭だろうが
蓼原:襲われる側からすれば大差なく貴様も厄介だ
:
桜庭:でも僕は真正面からちゃんと向き合って
桜庭:敬意を持って刈ってるよ?
:
蓼原:(ため息)
蓼原:まあいい、それで?
:
桜庭:彼女達はカイロでしょ?
桜庭:8C37(エイトシーサーティーセブン)、
桜庭:樺倉の置き土産と忘れ形見を探しに
:
蓼原:ああ、柳沼からは手がかりになるだろう男の
蓼原:居所を追いかけてるところだと報告されたが
:
桜庭:ふーん、やっぱり彼女は仕事が早いね
桜庭:でも、あの『お荷物』どうして呼び出したの?
:
蓼原:現地の武装組織との交戦が予測されるってな
蓼原:お姉さんはインアクティヴなの、だそうだ
:
桜庭:とはいえ、ヘルシンキじゃそれなりに
桜庭:バッチリこなしてたって事後書類で見たよ?
:
蓼原:だからだよ
蓼原:(黙る)
:
桜庭:(続きを待つ)
:
蓼原:待とうが吐かんぞ
:
桜庭:相変わらずおカタいねえ、タデ
:
蓼原:悪かったな、女の秘密は女に訊け
蓼原:男がバラしてもムードがない
:
桜庭:タデって抱く時にそんなこと考えてるの?
:
蓼原:当たり前だろう、貴様と違って
蓼原:俺は抱く前に女を選んでるんだ
:
桜庭:そんなあ、節操ないみたいに言わないでよ
桜庭:僕だって必要ない女は抱かないよ
:
蓼原:その点、ヤツはどうなんだ
:
桜庭:え?
桜庭:いや、いくら何でも僕が世話してたとはいえ
桜庭:手下のセックスは知らないよ
:
蓼原:ああ…あー
蓼原:(頭を抱える)
蓼原:それはまあ追々聞くが今は真面目な話だ
蓼原:『奴にアイツらは必要なのか?』
:
桜庭:(暫し沈黙し考える)
:
蓼原:(待つ)
:
桜庭:一言でいえば、わからない
:
蓼原:考えてそれ、か
蓼原:何とも締まらんな
:
桜庭:可能性の範ちゅうなんだよ
:
蓼原:と言うと?
:
桜庭:まず柳沼
桜庭:彼女はもちろんサブリナと最も近い
桜庭:併せて蓮池の助力を得て奥深く潜ろうとしてた
桜庭:その過程で余計なことを見つけて消したいとか
:
蓼原:余計なこと
蓼原:(息を吐く)
:
桜庭:うん、可能性はあるよ
桜庭:例えば、本来こちら側にあるはずのサブリナが
桜庭:反旗を翻した決定的証拠とかね
:
蓼原:まあ、それはちゃんと予想できてる
蓼原:しかしそうなると別の問題だ
:
桜庭:(笑う)
桜庭:そうなんだよ
:
蓼原:どうにも腑に落ちん
蓼原:それならどうして手負いを狙わん
蓼原:主に正面切っていく血の気の多いのが
蓼原:揃いも揃って使えん時に手を下すものだろう
:
桜庭:そこが妙だから「わからない」って言ったの
桜庭:ただ、別の可能性としてだ
桜庭:わざわざ『待ってた』かもしれないんだ
:
蓼原:どういうことだ?
蓼原:ああ見えて逆境に燃えるタイプなんだ、とか
蓼原:下らない冗談を言うなよ
:
桜庭:ああもう、先に言っちゃうのはダメだよタデ
桜庭:こういうのはちゃんと一旦受け止めてくれないと
:
蓼原:(ため息)
蓼原:だから困るんだ、貴様がハンドルを握ると
蓼原:自分の優位をいいことに好き勝手ぺちゃくちゃと
:
桜庭:(笑う)
桜庭:ごめんごめん、真面目な話だったね
桜庭:(落ち着く)
桜庭:で、その可能性だけど
桜庭:「『わざと』調べさせた」かもしれないってね
:
蓼原:意味はわかった
蓼原:何をだ、それで
:
桜庭:ここ最近でサブリナから情報を持ち出した件
桜庭:ざっと10件弱だったっけ
桜庭:その全てがヒドゥン=セクレタリに流れている
桜庭:そう仮定して話を進めよう
:
蓼原:ああ、いいだろう
蓼原:まずはローマ、マドリードか
:
桜庭:時系列ならね
桜庭:そこを例に出すなら、だけど
桜庭:あれってどんな結末だったかな?
:
蓼原:おい、いいから(かぶる/結論から)
:
桜庭:(かぶせて)結論だよ?
桜庭:ほらほら、早く
:
蓼原:そんなもの、蜂起したデボー聖堂の完敗だろ
:
桜庭:そう、その時の対立構図は宗教戦争だった
桜庭:まあ全世界的に広がってないから大袈裟だけど
:
蓼原:そりゃそうだ、マドリードだけで収めれば
蓼原:目をつけられる前に被害を抑えられたはずだ
蓼原:彼奴等も余計なことをしたもんだ
:
桜庭:カトリックが勝った
:
蓼原:ん?
:
桜庭:全案件いずれも、参戦したタイミングは違えど
桜庭:しっかりカトリックが参戦した方が勝ってる
:
蓼原:ん…
蓼原:(考え込む)
:
桜庭:憶えてないかい?
桜庭:4年前のロス、樺倉が襲撃を受けただろう
桜庭:あの時、襲撃犯の大多数がクロスを持ってた
桜庭:若い男ばかりだったからファッションとか
桜庭:仲間内の団結を形にした可能性もあるけど
桜庭:それにしても20名近くいたほぼ全員が
桜庭:銀色のクロスを持ってるなんて異様だ
桜庭:どんな敬虔(けいけん)な信徒でも
桜庭:自らが戦闘に赴くのにクロスに祈るような正義を
桜庭:大手を振ってのたまうのはためらうはずさ
:
蓼原:言いたいことはわかる(かぶる/、だがしかし)
:
桜庭:じゃあ、仏教徒の多い国にしよう
桜庭:6年前の池袋だ、印象は深いだろう
桜庭:何せタデがやり合ったんだからね
:
蓼原:ああ、あの時は確か2箇所だったな
蓼原:貴様に本拠地になるクラブを任せた
:
桜庭:タデは雑司ヶ谷の教会から程近いオフィスビル
桜庭:血に濡れた部屋にはたくさんの肖像画
:
蓼原:ルター、だったか
:
桜庭:ああ、キリスト教の三大宗派の2番目、
桜庭:プロテスタントの礎を築いた偉人だ
:
蓼原:言ってたな
蓼原:だがそうなるとカトリックとは違うだろう
:
桜庭:ああ、ただ飾ってあるだけだったらね
桜庭:しかし、決定的におかしいんだ
:
蓼原:どういうことだ
:
桜庭:君が血まみれにしてくれちゃったあの絨毯
桜庭:何が書いてあったか、覚えてるかい?
:
蓼原:あ、いや、知らんな
:
桜庭:まあ責める気はないから安心してね
桜庭:(笑う)
桜庭:Even if I knew that tomorrow
桜庭:the world would go to pieces,
桜庭:I would still plant my apple tree.
:
蓼原:聞いたことがあるかもしれんな
:
桜庭:そ、それはよかった
桜庭:『たとえ明日世界が滅亡しようとも、
桜庭:今日私はリンゴの木を植える』
桜庭:まあ彼の有名な言葉なんだけどね
:
蓼原:ますますカトリックから遠のいたじゃないか
:
桜庭:そう、要素だけならね
桜庭:しかしそこは日本だ、これが面白くない
桜庭:過去日本では、キリスト教は異教とされた
桜庭:弾圧を受けたのは知ってるだろう?さすがに
:
蓼原:まあ、それくらいならな
:
桜庭:その弾圧の一つの手段、踏み絵
桜庭:あれと全く同じ構図になるんだ
:
蓼原:じゃあ、アイツらは信仰の対象ではなく
蓼原:踏みつけることで団結の対象にしていたわけか
:
桜庭:そう、その証拠に襲撃を受けた彼らは
桜庭:全員室内にも関わらず靴を履いてた
:
蓼原:確かにな
蓼原:俺も掃除に戻った時には違和感があったもんだ
:
桜庭:そして何より、サブリナから得た情報に
桜庭:こんな画像データがあった
桜庭:(スマートフォンの画面を蓼原に見せる)
:
蓼原:ん、これがどうしたんだ
:
桜庭:おそらく決起前日とかだろうと思われるけど
桜庭:メンバーではなく背景を見てほしい
:
蓼原:ん、小さいな
:
桜庭:ちょっと、老眼にはまださすがに早いよ?
:
蓼原:茶化すな、こんなに小さくて分かるか
:
桜庭:もう、拡大くらい自分でしてよ
桜庭:(スマートフォンを蓼原に投げ渡す)
:
蓼原:っと、物を投げるなナイフじゃあるまいし
:
桜庭:ナイフを投げるものだと理解して疑わない僕ら、
桜庭:世間から見たら完全に狂ってるよねえ
桜庭:ふと気づいちゃって面白くなっちゃった
:
蓼原:拡大、拡大…
:
桜庭:ほら、そこだよそこ
:
蓼原:お、おう
:
桜庭:はい、よろしく
桜庭:(笑う)
:
蓼原:逆さに、飾られてる?
:
桜庭:そう、背景に見える左隅と右手の2枚
桜庭:見える範囲だけだから決めつけられないけど
:
蓼原:1枚ならまだしも複数枚がひっくり返ってたら
蓼原:この十数人が全員気づかないことはないか
:
桜庭:そこまで馬鹿じゃないだろうし、何より
桜庭:『信仰の対象なら』普段から目にして
桜庭:気づいたら即座に直すはずだ
:
蓼原:確かに、そうだな
蓼原:しかし、さっき三大宗派と言ったろう
蓼原:もう一つの可能性はないのか
:
桜庭:ああ、モルモン教のことか
桜庭:確かに否定はしきれないよ?
桜庭:でも状況的にはカトリックだと考えるほうが
桜庭:幾分か自然なんだ、立地も含めてね
:
蓼原:というと?
:
桜庭:(押し黙る)
桜庭:ねえ、タデ
桜庭:さっきから質問してばかりじゃない?
:
蓼原:それは仕方なかろう
蓼原:貴様の講釈を聞いてるんだ、質問は当然だ
:
桜庭:まあいいんだけどさあ
桜庭:もう少し自分で考えて答え出してほしいなって
:
蓼原:知らん、それどころじゃない
:
桜庭:それでいて、僕のジョークには
桜庭:ちゃんと反応してくれるんだもんね
桜庭:愛が溢れてて嬉しいよタデ、今度お酒奢るね
:
蓼原:何だと?
蓼原:珍しいこともあるものだ、貴様からそんなことを
:
桜庭:ただし、『この一件』を無事に片付けたらね
:
蓼原:ああ、分かってる
:
桜庭:まあ、さっきの質問に対してだけど
桜庭:モルモン教に関してはプロテスタントへの
桜庭:これほど強いヘイトは持ち得ないはずなんだ
桜庭:成立背景からしても、あくまで新宗派として
桜庭:19世紀にアメリカで興った(おこった)
桜庭:キリスト教の別流派みたいなものだし
:
蓼原:そういうものか、難しいな
:
桜庭:そういうもの、そういうもの
桜庭:それに、豊島区内にはモルモン教の施設は
桜庭:確か存在しないはずだ、少なくともあの頃は
桜庭:近いところでは、確か中野区じゃないかな
桜庭:根付き方も段違いだからやっぱり可能性は
桜庭:どうしたってカトリックに傾くと思うよ
:
蓼原:まあ、そういうことならそうなんだろう
:
桜庭:まあこういう学はあんまり得意じゃないでしょ
:
蓼原:ああ、神に祈るくらいなら銃に祈る
蓼原:そのほうが性に合うんでな
:
桜庭:タデは本当に変わらないね
桜庭:15年前も、今も、多分これからも
:
蓼原:おい、変わったぞ俺は
:
桜庭:(笑う)
桜庭:確かにそうかもね、あの頃はもっと怖かった
桜庭:射殺しそうな(いころしそうな)目つきで
桜庭:通るもの皆脅して回るような雰囲気だったね
:
蓼原:だろう?
蓼原:人を進歩しない雑魚のように言ってくれるな
:
桜庭:それに、あの頃は多分銃には祈ってなかった
桜庭:『拳に祈る』だっただろうね
:
蓼原:おい、物騒な表現なままじゃないか
:
桜庭:(笑う)
桜庭:そりゃそうだよ
桜庭:刃(やいば)をわざと毀した(こぼした)
桜庭:傷口を轢き潰すかのごとく剥き出しの一匹狼
桜庭:不穏当な言葉しか浮かばないのは
桜庭:僕に限ったことじゃないよ、残念だったね
:
蓼原:(舌打ち)
蓼原:吐かせ(ぬかせ)、全く
:
桜庭:(大笑いする)
:
蓼原:(遮るように)やかましいぞ、車は響く
:
桜庭:ごめんよタデ
桜庭:まあカトリックの関与がかなり色濃いなか
桜庭:いずれも蜂起した側が勝ち残った一件は
桜庭:僕らが関わったなかに存在しない
:
蓼原:いや待て、一つあるだろう
:
桜庭:ん?
:
蓼原:情報を取ってきたもので言えば、
蓼原:それこそルーアンはどうなんだ
:
桜庭:ああ、確かに
桜庭:あれは異質だったね、この中では
:
蓼原:あの時俺らが押し入ったのは
蓼原:それこそカトリックの聖人とされてる
蓼原:ジャンヌ・ダルク教会だぞ
:
桜庭:よく知ってるね、驚いた
:
蓼原:あれは印象が強いからな
:
桜庭:(黙る)
桜庭:まあ、そうだろうね
:
蓼原:あれほど厳かに出来上がった空間は、
蓼原:いくら何でも銃を抜くのにためらいを感じたさ
:
桜庭:(微笑む)
桜庭:そうだね、やっぱり
桜庭:(ハンドルを握り直す)
桜庭:『タデは、変わらないね』
:
:〜転換〜
:
0:(洋上、小型船の船室)
0:(蓮池、冒頭で飲んでいたラム酒を引き続き楽しんでいる)
0:(桐谷、椅子に座っており蓮池の様子を注意深く観察している)
0:(柳沼、同じく椅子に座っており蓮池を睨め付けている)
:
柳沼:それで、何ですって?
:
蓮池:ですから、お二方にはこれ以降しばらく私と
蓮池:行動を共にしていただきたいと考えています
:
柳沼:いつ背後から刺されるかもわからない
柳沼:裏切り者のあなたに付き従えというの?
:
蓮池:ご安心ください、柳沼さん
蓮池:私が贈った黄色いチューリップ、あの意味は
蓮池:しっかり伝わっていると信じていますよ?
:
柳沼:冗談はよしてちょうだい、蓮池くん
柳沼:あなたが逆立ちしても彼には敵わないわ
:
蓮池:そうですか、残念です
:
柳沼:身体でさえ、預けるのは勘弁してほしいものね
:
蓮池:まあ、その話は追々続きができるでしょう
蓮池:いわば協力の要請なんですが、いかがですか?
:
桐谷:まあ、手懐けるのに楽だから、とか
桐谷:チームを組むなら色情狂がいいから、とか
桐谷:そんな生温い(なまぬるい)理由で
桐谷:あたし達を選んだわけじゃないわよね
:
蓮池:ほう、珍しく頭脳戦ですか…8650
蓮池:立場が逆転しているのはどうしてでしょうね
:
桐谷:あたしが頭使ってないような言い方ね
:
蓮池:貴女の戦闘パターンはよく存じてます
蓮池:直情径行、敵とあらば容赦なく消し去り、
蓮池:徒手格闘と間合いの短い銃を得意としている
蓮池:小柄な体格を活かして間合いを強引に詰めて
蓮池:一方的に蹂躙していくのがお好みでしょう?
:
桐谷:まあ、そんなところね
桐谷:もちろんアンタの体格を考えれば
桐谷:こういう環境じゃあたしに有利ってことよ
:
蓮池:そうでしょうね、通常なら挑みません
蓮池:しかし、私が無策だと決めつけるのは
蓮池:いささか尚早だと言わざるを得ませんね
:
桐谷:そうね、全くその通りだわ
桐谷:この微かに聞こえる一定間隔の接触音
桐谷:駆動するエンジン音に紛れてはいても
桐谷:ごまかせないわよ、あたしの身体は
:
蓮池:いやはや、さすがだ
蓮池:数々の死線を渡り歩いてきただけはある
:
桐谷:のらりくらりするのはいいけどさあ
桐谷:一体あたし達に何をさせたいわけ?
:
蓮池:ことを急ぎすぎないでください
蓮池:私にも準備というものがあるんです
:
桐谷:準備?爆薬の?
:
蓮池:(笑う)
蓮池:ご冗談を
:
柳沼:爆薬?!
柳沼:あなた、こんな狭いところで自爆する気?!
:
蓮池:(さらに腹を抱えて笑う)
蓮池:まさか、まさかそんなこと!
蓮池:どんな思いで貴女方をお連れしたとお思いで?
:
桐谷:だからそれを聞こうってんじゃないの
:
蓮池:(ため息)
蓮池:全く、お二方ともせっかちですね
蓮池:気を急く(せく)男は嫌われるとは聞きますが
蓮池:短気な女も頭を抱えてしまいますね、本当
:
柳沼:短気にもなるわ、あなたの真意が見えないもの
:
蓮池:そうですか、これは失敬
蓮池:ではまず順を追って、ですかね
:
0:(間)
:
蓮池:(落ち着けるように息を吐く)
蓮池:まずはお二方をお連れした理由ですが、
蓮池:端的に言うならば『プロだから』です
:
桐谷:プロ、ねえ
:
蓮池:ええ、そうです
蓮池:柳沼さん、覚えておいでですか
蓮池:トップコンフィデンシャルの指示書、その中身
:
柳沼:え、もちろんだけど
:
蓮池:第8区画37番貨物
蓮池:そこでは過去、人も殺しも麻薬も武器も、
蓮池:それこそ『闇(やみ)』なる取引が行われました
蓮池:そのほとんどを取り仕切っていたのは
蓮池:あのホテルの主(あるじ)でした
蓮池:4年ほど前、あの城を皆さんが落としたことで、
蓮池:私たちは大きな損害を受けたのです
:
桐谷:城、とはまた大層な話ね
桐谷:城は城でも、砂上の楼閣でしょ?あんなの
:
蓮池:ほほう、そんな難しい言葉をどこで覚えましたか
蓮池:これは言葉遊びができそうで楽しみです
:
桐谷:下らないこと(かぶる/言ってないで)
:
蓮池:(かぶせて)口を慎んでください
蓮池:自由が約束されている楽観的環境でないことは
蓮池:貴女が最もよくお分かりでしょう?
:
桐谷:(舌打ち)
桐谷:邪魔臭いことこの上ないわね
:
柳沼:それでもこの狭い船室で爆発を起こせば、
柳沼:あなたも無事では済まないと思うんだけど
:
蓮池:この状態でも私の心配をしてくださるとは
蓮池:恐れ入りました、さすが私の見込んだ方だ
:
柳沼:馬鹿言わないで?
柳沼:私の可愛い姫と私自身の身の危険が優先よ
:
蓮池:(乾いた笑い声をあげる)
蓮池:まあ、その点は問題ありませんよ
蓮池:モンローノイマン効果、ご存知でしょう?
蓮池:爆風の放射方向を綿密に計算してあります
蓮池:エンジンにも私にも、被害はほぼありません
:
柳沼:まあ、悪趣味なこと
:
桐谷:続けてよ、いいから
:
蓮池:ええ、そうしましょう
蓮池:あの城が落ちたことで私たちは機会損失、
蓮池:具体的に言えば『駒の確保』が滞りました
:
桐谷:駒?
:
柳沼:ああ、駒
柳沼:それが私が調べていたものに繋がるわけね
:
蓮池:そうです、その通り
蓮池:私たちは基本的に自らの手を汚しません
蓮池:不浄は忌事(いみごと)、我々のような
蓮池:上位の存在には不必要なものですから
蓮池:忌事を担わせる(になわせる)べく
蓮池:世界各所に点在する暗部組織との関係性を
蓮池:あの城を通して築き上げていたのです
:
桐谷:駒、か
桐谷:アンタ達、
桐谷:(怒りを鎮めるように息を吐く)
桐谷:いいわ、続けて
桐谷:言っても無駄だわ
:
蓮池:果てしなく気になりますが、まあいいでしょう
:
柳沼:私が掴めたのは、数ある取引のなかで
柳沼:直前にやり取りが行われていたもの
:
蓮池:ええ、それが重要だったんです
蓮池:我々はサブリナを通して『ノート』を監視し、
蓮池:我々の計画を阻害すると予想される指示書を
蓮池:編集、改竄(かいざん)し、駒を動かして
蓮池:秘密裏に処理してきました
蓮池:そのなかで、どうしても必要だったんですよ
蓮池:(桐谷を見やる)
:
桐谷:何よ
:
蓮池:貴女の、お仲間たちですよ…8650
:
桐谷:(息を呑む)
:
蓮池:純真かつ高潔な精神を持つ『少女兵』たち
蓮池:彼女たちは全くの疑いも恐れも持たず、
蓮池:ただ只管(ひたすら)に敵を屠る(ほふる)
蓮池:その頑強さは、我々の数多(あまた)ある
蓮池:遠大なる計画には(かぶる/不可欠な)
:
桐谷:(かぶせて)ふざけるな!!
:
0:(蓮池、桐谷の頭にラム酒のボトルを投げつける)
0:(桐谷、まともにボトルの直撃を受けボトルの破片とラム酒にまみれる)
:
桐谷:(うめく)
:
柳沼:(間髪を容れず)あなたね!!
:
蓮池:(間髪を容れず)どうぞ!!
蓮池:…お席へ、お戻りを、柳沼さん
:
柳沼:(射竦められ、浮いた腰を戻す)
:
蓮池:(桐谷を睨め付ける)
蓮池:貴女に、自由が、あるなどと
蓮池:思い上がるなと、申し上げたはずです
:
桐谷:(舌打ち)
:
蓮池:彼女らはかの英雄よろしく、華々しく凛々しい
蓮池:幾度も幾度も、我々の撒いた火種を
蓮池:これ以上ないほどに煌びやかに燃え上がらせた
蓮池:まさに絶景、至高の美しさでした
:
桐谷:(痛みを堪えている)
桐谷:アンタら、馬鹿にしないでよ
桐谷:あたし達は、疑わなかったんじゃない
桐谷:恐れなかったんでもない
桐谷:(鬼気迫る間)
桐谷:知らなかったのよ、忘れさせられたのよ
桐谷:感情の坩堝(るつぼ)を固く閉ざされて
桐谷:生殺与奪を聖女の名の下に奪われた
:
柳沼:(息を継げないなか、桐谷を見つめ続ける)
:
桐谷:時間をかけて、ゆっくりと殺された感情が
桐谷:あたしから完全に切り離されそうになる
桐谷:何度も嬲られた(なぶられた)感覚が
桐谷:あたしをヒトからモノへ変えようとする
桐谷:そんな、思い出しただけで身体が裏返って
桐谷:内臓を弾き出してしまいそうになる日々を
桐谷:あたし達は常に与えられ続けてた
桐谷:手放したくないから、モノになりたくないから
桐谷:だから闘ってたの…敵とも、あたし自身とも
:
蓮池:そうですか
:
柳沼:蓮池くん
:
蓮池:はい、何でしょうか
:
柳沼:(怒りを押し殺すように深呼吸する)
柳沼:あなた、その頃はまだ彼女たちのこと、
柳沼:知らなかったはずよね
:
蓮池:(眉を動かす)
:
柳沼:何を以て(もって)、彼女たちを評するの
:
蓮池:(一瞬の間)
蓮池:それはもちろん、数々の戦果ですよ
蓮池:我々が来たる日のために周到に練った計画を
蓮池:彼女らは着実に推し進めてくれた
蓮池:その記録は我々の中で連綿と共有され、
蓮池:今日(こんにち)に到る(いたる)まで
蓮池:我々の重要な資産として保管してありますから
:
柳沼:(蓮池に観察するような眼差しを向ける)
柳沼:…そう、分かったわ
:
蓮池:それは何よりです
:
柳沼:あなたがどうやっても救いようのない、
柳沼:正真正銘の下郎ってことがね
:
蓮池:ああやはり、ご理解いただけませんか
:
柳沼:理解なんて、できるわけないじゃない
柳沼:したくもないわ、クズが憑る(うつる)
:
蓮池:(スマートフォンへの通信がある)
蓮池:おお、いい知らせです
蓮池:聞きませんか?
:
桐谷:何、勿体ぶって面倒な
:
蓮池:今、配下から連絡がございましてね
蓮池:無事に再契約が済んだとのことでした
:
桐谷:再、契約?
:
蓮池:ええ、そうです!
蓮池:8650、喜びなさい
蓮池:…仲間に、また会えますよ
:
桐谷:(怒りを抑え込むように唸る)
:
蓮池:(ほくそ笑む)
蓮池:とはいえ、感動の再会とはなりませんでしょうが
:
桐谷:…どういう、ことよ
:
蓮池:貴女には、主に2つの協力依頼があります
蓮池:一つは、彼女ら少女兵の元締めが管理する
蓮池:『マジェンダ=ノート』への最後の鍵、
蓮池:こちらの奪還をお願いしたいのです
:
桐谷:そういうことか
桐谷:あのアジトを知り尽くしてるあたしがプロ、ね
:
蓮池:ええ、そういうことです
:
桐谷:で、もう一つは何なのよ
:
蓮池:はい
蓮池:二つ目は、鍵の奪還後に用済みになる
蓮池:少女兵らの掃討です
:
桐谷:(絶句し、怒りに震える)
:
柳沼:あなた、何を…
柳沼:何を言っているの?!!
:
蓮池:プロ、でしょう?
蓮池:貴女は少女兵として10年以上を過ごしていた
蓮池:死地を越え、死線を潜り(くぐり)、
蓮池:剰え(あまつさえ)救出されてからも
蓮池:各地で着実な戦果を挙げ続けている
蓮池:これ以上(かぶる/適任と言える)
:
柳沼:(かぶせて)それ以上口を開かないで!!
柳沼:あなたは、彼女の傷を何度抉れば!!
柳沼:あの惨状を何度呼び起こせば!!
柳沼:この子の『今』を何度壊せば気が済むの!!
:
蓮池:(ため息をつく)
蓮池:これは、私の個人の意思ではありません
蓮池:この世界の上位者たる、我々の総意です
蓮池:(席を立ち、桐谷の髪を掴みあげる)
:
桐谷:(うめく)
:
蓮池:彼女は、彼らが残してくれた遺産です
蓮池:我々が求める頑強な目的遂行意識の高さ
蓮池:加えて純粋な強さも併せ持つ
蓮池:(空いている手で柳沼を張り倒す)
:
柳沼:(うめき、椅子に倒れる)
:
蓮池:(桐谷の耳元に顔を近づける)
蓮池:(囁く)貴女に協力を要請したのは、
蓮池:(囁く)別の理由もあります
蓮池:(囁く)貴女が滞りなく完遂できれば、
蓮池:(囁く)少女兵らの生命と生活、
蓮池:(囁く)蓼原さんへの襲撃の中止を
蓮池:(囁く)ここに固く誓いましょう
:
桐谷:何に、誓うつもりよ
:
蓮池:ヒドゥン=セクレタリの名の下に、でしょうか
:
桐谷:(目だけを動かし蓮池を見る)
桐谷:…そう
:
柳沼:(起き上がる)
柳沼:めちゃくちゃなこと、言わないでくれない?
柳沼:あなたの裏切りを許せる人なんて、
柳沼:『ノート』のどこにもいないわよ
:
蓮池:許していただくため?
蓮池:何か勘違いをなさっているのではないかと
:
柳沼:それでも、あなたは協力してほしいと
柳沼:私たちに対してそう言ってくれたじゃない
:
蓮池:申し訳ありません、確かにそうでした
蓮池:言い方を変えましょう、間違いがありました
:
柳沼:言い方を変えられても私は変わらないわよ
柳沼:あなたに付き従うつもりは毛頭ない
柳沼:私は常に『ノート』の一員なの
柳沼:害悪に与する(くみする)ほど暇じゃないわ
:
蓮池:貴女方の生死は我々が握っております
蓮池:物言わぬ肉塊として後世の我々の礎となるか、
蓮池:物言わぬ兵士として我々の計画の糧となるか、
蓮池:この船室にいる内にいずれかを選んでください
:
柳沼:あなたに命を預けろって?!
柳沼:冗談言わないでちょうだい!!
:
蓮池:…ジョークなどという生易しい話に聞こえますか
:
柳沼:それに、仮にあなたがこの海の上で
柳沼:籠城戦を決め込もうにも、私は私のやり方で
柳沼:ここを抜け出して(かぶる/二人に)
:
蓮池:(かぶせて)その一人は
蓮池:(微笑む)
蓮池:既に『お別れを告げられた』のではないですか?
:
柳沼:(息を詰める)
:
蓮池:本来、男女の蜜月に聞き耳を立てるのは
蓮池:マナー違反ですから避けておくべきでしたが、
蓮池:恐らく桜庭さんは貴女に何かを遺すつもりで
蓮池:連絡を取ったはずですから、そのためにも
蓮池:貴女についてきていただいておかないと
蓮池:(息をつく)
蓮池:彼自身の予測通り彼が消えたとしても、
蓮池:(桐谷を見やる)
蓮池:その後釜が厄介ごとを増やすでしょうから
:
柳沼:ウソ、よね
:
蓮池:申し訳ないのですが、存じ上げません
蓮池:真意の程は、彼に直接聞いていただけますか
:
柳沼:(モノローグ)
柳沼:(『謝る』なんて柄にもないこと言うから)
柳沼:(何か裏があるって、そう期待してた)
柳沼:(彼は、それほどまでに底知れないの?)
柳沼:(ねえ、サク)
柳沼:(また、何食わぬ顔してへらへら笑いながら)
柳沼:(戻ってきて『ただいま、待たせたね』って)
柳沼:(子供みたいに無邪気に笑うんでしょう?)
柳沼:(ぷりぷり怒る私を慰めるんでしょう?)
柳沼:(ねえ、サク)
柳沼:(また、)
:
蓮池:…と言っても、聞けるかは分かりませんが
:
柳沼:(絶望の叫びをあげる)
桐谷:(脛当てに隠していた銃で柳沼を撃つ)
:
0:(柳沼、首を撃ち抜かれ頭を垂れ下げる)
0:(桐谷、船室の窓を叩き割り柳沼を海へ放り投げる)
桐谷:…『うっさい、わね』
:
蓮池:(拍手する)
蓮池:素晴らしい、素晴らしいです!
蓮池:さすがじゃないですか、8650
蓮池:また重ねて貴女は、頭ひとつ抜けて重要度が高い
蓮池:何せ…
蓮池:(空を見上げる)
蓮池:マジェンダ=ノートを『読める』のですから
:
0:(続)
:
0:(9話後半と同日)
0:(蓼原に電話がくる直前)
0:(洋上、小型クルーザーにて)
0:(蓮池、ラム酒を飲んでいる)
:
蓮池:(通信を受ける)
蓮池:はい、こちら絶賛バカンス中の蓮池です
:
桜庭:楽しんでいるようで何よりだ
桜庭:今回の件について変更があったから連絡だ
:
蓮池:そうでしょうね
蓮池:蓼原さんと動いている最中に連絡してきた
蓮池:つまりは急を要する話とお見受けしますが
:
桜庭:今、どこら辺なんだい
:
蓮池:現在はインド洋です
蓮池:といっても、外洋にようやく出るところですが
:
桜庭:おお、それはよかった
桜庭:直ちに航路を変更したまえ
桜庭:行き先は任せるが、ついに恐れていた事態だ
:
蓮池:サブリナが、解体されましたか
:
桜庭:(微笑み、少し息を漏らす)
:
蓮池:予想はしていました
蓮池:とはいえ、早かったですね
:
桜庭:では、武運を祈るよ
:
蓮池:承知しました
:
0:(通信が終わる)
:
蓮池:んー、思った通りとは何事も運ばないか
蓮池:サブリナの解体、ねえ
蓮池:このままだと連中が次に狙うなら
蓮池:(水平線を眺める)
蓮池:やっぱり、『ノート』だよな
:
:〜転換〜
:
0:(9話の電話の直後)
0:(暗く狭い空間)
0:(桐谷、柳沼の二人)
0:(桐谷、スマートフォンを脛当ての裏に仕舞う)
:
柳沼:なかなかオツなことするわね、あなた
:
桐谷:タデさんの受け売りよ
:
柳沼:それで、タデちゃんは何て?
:
桐谷:気をしっかり、だってさ
:
柳沼:タデちゃん、そういうとこソツがないわね
柳沼:やっぱりあの時抱かせにかかるべきだったわ
柳沼:一生の不覚よ、もう
:
桐谷:これ以上仲間内で湿った関係増やさないで
桐谷:ただでさえ色々と混み合ってるんだから
:
柳沼:今回は守りたい、んじゃなくて?
:
桐谷:うっさいわね
:
柳沼:ま、それはいいとして緊張感持ちましょ
柳沼:何せ私たち、今は囚われのプリンセスだし
:
桐谷:プリンセスと継母でしょ
:
柳沼:歳の話は持ち出さないでね?
:
桐谷:まあまず間違いないのは船に乗せられてることよ
桐谷:あたし達はもともとカイロにいたんだし
桐谷:そんなに離れてないとは思うけど
:
柳沼:徒手戦闘なんてお姉さん慣れてないのよねえ
柳沼:蓮池くんの戦術も把握できてないし
柳沼:強いて言えば、鋼線ってくらいしか
:
桐谷:血の気の多さじゃ負けないつもりだけどさ
桐谷:アンタのこと守りながらやりあうのは
桐谷:ちょっとハードル高すぎるわ
:
柳沼:ちょっと
柳沼:敵が複数だったら私回されちゃうじゃないの
柳沼:フラットな時なら興奮するんだけどなあ
:
桐谷:一人よ、ほぼ間違いなく
:
柳沼:ちょっと、イノシシ姫の直感で
柳沼:痛い目見るのは勘弁だわ
柳沼:もう少し慎重に(かぶる/状況を)
:
桐谷:(かぶせて)足音、聞いてた?
桐谷:波の音がしない、船底に入れられてる
桐谷:船上の動きがなさすぎる、少数
桐谷:加えて駆動音、明らかに小型船
桐谷:そして何より、これ
桐谷:(壁際を見るように柳沼を促す)
:
柳沼:水?
:
桐谷:そう、飲料水
桐谷:海を移動するなら、基本的に水が必須
桐谷:あくまで、あたしの話としてだけど
桐谷:あたしの場合は海上移動の時間の3倍、
桐谷:例えば5時間の移動を予定する場合は
桐谷:15時間分の飲料水を準備してる
:
柳沼:え、そんなに?
:
桐谷:一般家庭で利用する飲用可能な水の量
桐谷:つまりは水道水ね
桐谷:200リットルらしいわよ、一人当たり
:
柳沼:私も?そんなに使ってる?
:
桐谷:知らないわよ
桐谷:それでも、カイロから海を渡るなら
桐谷:北へ向かってヨーロッパか、
桐谷:西に進んで南米か、南に行って極地かよ
桐谷:他の目的地なら陸路の方が安全かつ確実
:
柳沼:戦闘センスも、こうなるとバカにならないわね
:
桐谷:年がら年中パソコンしてるアンタとは
桐谷:戦闘も移動も場数が違うのよ
:
柳沼:おみそれしました、お姫さま
:
桐谷:これは単なる予想だけど、行き先は西ね
桐谷:ヨーロッパを目指すならもっと早い段階で
桐谷:あたし達をタデさん達から引き離せた
桐谷:それこそ手負いだったから今より楽にね
:
柳沼:そうね、私も警戒してなかったし
柳沼:あのときなら油断しちゃってたかもね
:
桐谷:まあ、単に?
桐谷:パリが近かったとか、時間がなかったとか、
桐谷:そういうくだらない理由だった可能性もあるけど
:
柳沼:それを言うなら(かぶる/タデちゃんがいた)
:
桐谷:(かぶせて)タデさんも手負いよ?
桐谷:ましてやあの土竜と鬣犬を敵に回して
桐谷:優雅にクルージングしてるってことは
桐谷:あの二人が来ても最悪自分が優位を取れると
桐谷:ある程度の自信を持ってる証拠ね
:
柳沼:総合すると、得意なフィールドである南米か
:
桐谷:そういうこと
桐谷:それにおそらく、飛び道具が仇になるような
桐谷:こういう狭い場所での戦闘にかなり慣れてる
:
柳沼:万が一船の上でも迎撃できる準備、か
:
桐谷:鋼線なんでしょ?唯一の情報
桐谷:そしたらまず思いつくのは小癪な搦め手よ
:
柳沼:正体もわからない、対処もわからない
柳沼:あなたもこれはお手上げなの?
:
桐谷:ええ、そうね
桐谷:普通なら
:
柳沼:あら、勝機があるなら乗るわよ
:
桐谷:そーぉ?
桐谷:ならねえ…
桐谷:(笑う)
:
:〜転換〜
:
0:(運転中の車内)
0:(蓼原、助手席でパソコンを操作している)
0:(桜庭、運転席でタバコを片手にハンドルを握っている)
:
蓼原:GPSが追いきれんな、もう2時間だ
蓼原:意図的に電波を遮断しているか
:
桜庭:可能性は高いだろうね
:
蓼原:定石としては地下・半地下に追いやるか、
蓼原:電波が元から届きにくい環境に置くか、
蓼原:ジャミング機器を利用するか、
蓼原:そもそもの通信機器やGPS機器を奪うか
:
桜庭:そうだね
桜庭:彼が取りそうな方法を聞きたいんだろう?
:
蓼原:ああ、わざわざ言わせるな
:
桜庭:一番はやっぱり電波の届きにくい環境かな
桜庭:彼は基本的に面倒ごとを少しでも減らしたがる
桜庭:だから彼の戦闘スタイルは基本闇討ちだよ
桜庭:僕よりもよほどタチが悪い
:
蓼原:貴様も出会い頭だろうが
蓼原:襲われる側からすれば大差なく貴様も厄介だ
:
桜庭:でも僕は真正面からちゃんと向き合って
桜庭:敬意を持って刈ってるよ?
:
蓼原:(ため息)
蓼原:まあいい、それで?
:
桜庭:彼女達はカイロでしょ?
桜庭:8C37(エイトシーサーティーセブン)、
桜庭:樺倉の置き土産と忘れ形見を探しに
:
蓼原:ああ、柳沼からは手がかりになるだろう男の
蓼原:居所を追いかけてるところだと報告されたが
:
桜庭:ふーん、やっぱり彼女は仕事が早いね
桜庭:でも、あの『お荷物』どうして呼び出したの?
:
蓼原:現地の武装組織との交戦が予測されるってな
蓼原:お姉さんはインアクティヴなの、だそうだ
:
桜庭:とはいえ、ヘルシンキじゃそれなりに
桜庭:バッチリこなしてたって事後書類で見たよ?
:
蓼原:だからだよ
蓼原:(黙る)
:
桜庭:(続きを待つ)
:
蓼原:待とうが吐かんぞ
:
桜庭:相変わらずおカタいねえ、タデ
:
蓼原:悪かったな、女の秘密は女に訊け
蓼原:男がバラしてもムードがない
:
桜庭:タデって抱く時にそんなこと考えてるの?
:
蓼原:当たり前だろう、貴様と違って
蓼原:俺は抱く前に女を選んでるんだ
:
桜庭:そんなあ、節操ないみたいに言わないでよ
桜庭:僕だって必要ない女は抱かないよ
:
蓼原:その点、ヤツはどうなんだ
:
桜庭:え?
桜庭:いや、いくら何でも僕が世話してたとはいえ
桜庭:手下のセックスは知らないよ
:
蓼原:ああ…あー
蓼原:(頭を抱える)
蓼原:それはまあ追々聞くが今は真面目な話だ
蓼原:『奴にアイツらは必要なのか?』
:
桜庭:(暫し沈黙し考える)
:
蓼原:(待つ)
:
桜庭:一言でいえば、わからない
:
蓼原:考えてそれ、か
蓼原:何とも締まらんな
:
桜庭:可能性の範ちゅうなんだよ
:
蓼原:と言うと?
:
桜庭:まず柳沼
桜庭:彼女はもちろんサブリナと最も近い
桜庭:併せて蓮池の助力を得て奥深く潜ろうとしてた
桜庭:その過程で余計なことを見つけて消したいとか
:
蓼原:余計なこと
蓼原:(息を吐く)
:
桜庭:うん、可能性はあるよ
桜庭:例えば、本来こちら側にあるはずのサブリナが
桜庭:反旗を翻した決定的証拠とかね
:
蓼原:まあ、それはちゃんと予想できてる
蓼原:しかしそうなると別の問題だ
:
桜庭:(笑う)
桜庭:そうなんだよ
:
蓼原:どうにも腑に落ちん
蓼原:それならどうして手負いを狙わん
蓼原:主に正面切っていく血の気の多いのが
蓼原:揃いも揃って使えん時に手を下すものだろう
:
桜庭:そこが妙だから「わからない」って言ったの
桜庭:ただ、別の可能性としてだ
桜庭:わざわざ『待ってた』かもしれないんだ
:
蓼原:どういうことだ?
蓼原:ああ見えて逆境に燃えるタイプなんだ、とか
蓼原:下らない冗談を言うなよ
:
桜庭:ああもう、先に言っちゃうのはダメだよタデ
桜庭:こういうのはちゃんと一旦受け止めてくれないと
:
蓼原:(ため息)
蓼原:だから困るんだ、貴様がハンドルを握ると
蓼原:自分の優位をいいことに好き勝手ぺちゃくちゃと
:
桜庭:(笑う)
桜庭:ごめんごめん、真面目な話だったね
桜庭:(落ち着く)
桜庭:で、その可能性だけど
桜庭:「『わざと』調べさせた」かもしれないってね
:
蓼原:意味はわかった
蓼原:何をだ、それで
:
桜庭:ここ最近でサブリナから情報を持ち出した件
桜庭:ざっと10件弱だったっけ
桜庭:その全てがヒドゥン=セクレタリに流れている
桜庭:そう仮定して話を進めよう
:
蓼原:ああ、いいだろう
蓼原:まずはローマ、マドリードか
:
桜庭:時系列ならね
桜庭:そこを例に出すなら、だけど
桜庭:あれってどんな結末だったかな?
:
蓼原:おい、いいから(かぶる/結論から)
:
桜庭:(かぶせて)結論だよ?
桜庭:ほらほら、早く
:
蓼原:そんなもの、蜂起したデボー聖堂の完敗だろ
:
桜庭:そう、その時の対立構図は宗教戦争だった
桜庭:まあ全世界的に広がってないから大袈裟だけど
:
蓼原:そりゃそうだ、マドリードだけで収めれば
蓼原:目をつけられる前に被害を抑えられたはずだ
蓼原:彼奴等も余計なことをしたもんだ
:
桜庭:カトリックが勝った
:
蓼原:ん?
:
桜庭:全案件いずれも、参戦したタイミングは違えど
桜庭:しっかりカトリックが参戦した方が勝ってる
:
蓼原:ん…
蓼原:(考え込む)
:
桜庭:憶えてないかい?
桜庭:4年前のロス、樺倉が襲撃を受けただろう
桜庭:あの時、襲撃犯の大多数がクロスを持ってた
桜庭:若い男ばかりだったからファッションとか
桜庭:仲間内の団結を形にした可能性もあるけど
桜庭:それにしても20名近くいたほぼ全員が
桜庭:銀色のクロスを持ってるなんて異様だ
桜庭:どんな敬虔(けいけん)な信徒でも
桜庭:自らが戦闘に赴くのにクロスに祈るような正義を
桜庭:大手を振ってのたまうのはためらうはずさ
:
蓼原:言いたいことはわかる(かぶる/、だがしかし)
:
桜庭:じゃあ、仏教徒の多い国にしよう
桜庭:6年前の池袋だ、印象は深いだろう
桜庭:何せタデがやり合ったんだからね
:
蓼原:ああ、あの時は確か2箇所だったな
蓼原:貴様に本拠地になるクラブを任せた
:
桜庭:タデは雑司ヶ谷の教会から程近いオフィスビル
桜庭:血に濡れた部屋にはたくさんの肖像画
:
蓼原:ルター、だったか
:
桜庭:ああ、キリスト教の三大宗派の2番目、
桜庭:プロテスタントの礎を築いた偉人だ
:
蓼原:言ってたな
蓼原:だがそうなるとカトリックとは違うだろう
:
桜庭:ああ、ただ飾ってあるだけだったらね
桜庭:しかし、決定的におかしいんだ
:
蓼原:どういうことだ
:
桜庭:君が血まみれにしてくれちゃったあの絨毯
桜庭:何が書いてあったか、覚えてるかい?
:
蓼原:あ、いや、知らんな
:
桜庭:まあ責める気はないから安心してね
桜庭:(笑う)
桜庭:Even if I knew that tomorrow
桜庭:the world would go to pieces,
桜庭:I would still plant my apple tree.
:
蓼原:聞いたことがあるかもしれんな
:
桜庭:そ、それはよかった
桜庭:『たとえ明日世界が滅亡しようとも、
桜庭:今日私はリンゴの木を植える』
桜庭:まあ彼の有名な言葉なんだけどね
:
蓼原:ますますカトリックから遠のいたじゃないか
:
桜庭:そう、要素だけならね
桜庭:しかしそこは日本だ、これが面白くない
桜庭:過去日本では、キリスト教は異教とされた
桜庭:弾圧を受けたのは知ってるだろう?さすがに
:
蓼原:まあ、それくらいならな
:
桜庭:その弾圧の一つの手段、踏み絵
桜庭:あれと全く同じ構図になるんだ
:
蓼原:じゃあ、アイツらは信仰の対象ではなく
蓼原:踏みつけることで団結の対象にしていたわけか
:
桜庭:そう、その証拠に襲撃を受けた彼らは
桜庭:全員室内にも関わらず靴を履いてた
:
蓼原:確かにな
蓼原:俺も掃除に戻った時には違和感があったもんだ
:
桜庭:そして何より、サブリナから得た情報に
桜庭:こんな画像データがあった
桜庭:(スマートフォンの画面を蓼原に見せる)
:
蓼原:ん、これがどうしたんだ
:
桜庭:おそらく決起前日とかだろうと思われるけど
桜庭:メンバーではなく背景を見てほしい
:
蓼原:ん、小さいな
:
桜庭:ちょっと、老眼にはまださすがに早いよ?
:
蓼原:茶化すな、こんなに小さくて分かるか
:
桜庭:もう、拡大くらい自分でしてよ
桜庭:(スマートフォンを蓼原に投げ渡す)
:
蓼原:っと、物を投げるなナイフじゃあるまいし
:
桜庭:ナイフを投げるものだと理解して疑わない僕ら、
桜庭:世間から見たら完全に狂ってるよねえ
桜庭:ふと気づいちゃって面白くなっちゃった
:
蓼原:拡大、拡大…
:
桜庭:ほら、そこだよそこ
:
蓼原:お、おう
:
桜庭:はい、よろしく
桜庭:(笑う)
:
蓼原:逆さに、飾られてる?
:
桜庭:そう、背景に見える左隅と右手の2枚
桜庭:見える範囲だけだから決めつけられないけど
:
蓼原:1枚ならまだしも複数枚がひっくり返ってたら
蓼原:この十数人が全員気づかないことはないか
:
桜庭:そこまで馬鹿じゃないだろうし、何より
桜庭:『信仰の対象なら』普段から目にして
桜庭:気づいたら即座に直すはずだ
:
蓼原:確かに、そうだな
蓼原:しかし、さっき三大宗派と言ったろう
蓼原:もう一つの可能性はないのか
:
桜庭:ああ、モルモン教のことか
桜庭:確かに否定はしきれないよ?
桜庭:でも状況的にはカトリックだと考えるほうが
桜庭:幾分か自然なんだ、立地も含めてね
:
蓼原:というと?
:
桜庭:(押し黙る)
桜庭:ねえ、タデ
桜庭:さっきから質問してばかりじゃない?
:
蓼原:それは仕方なかろう
蓼原:貴様の講釈を聞いてるんだ、質問は当然だ
:
桜庭:まあいいんだけどさあ
桜庭:もう少し自分で考えて答え出してほしいなって
:
蓼原:知らん、それどころじゃない
:
桜庭:それでいて、僕のジョークには
桜庭:ちゃんと反応してくれるんだもんね
桜庭:愛が溢れてて嬉しいよタデ、今度お酒奢るね
:
蓼原:何だと?
蓼原:珍しいこともあるものだ、貴様からそんなことを
:
桜庭:ただし、『この一件』を無事に片付けたらね
:
蓼原:ああ、分かってる
:
桜庭:まあ、さっきの質問に対してだけど
桜庭:モルモン教に関してはプロテスタントへの
桜庭:これほど強いヘイトは持ち得ないはずなんだ
桜庭:成立背景からしても、あくまで新宗派として
桜庭:19世紀にアメリカで興った(おこった)
桜庭:キリスト教の別流派みたいなものだし
:
蓼原:そういうものか、難しいな
:
桜庭:そういうもの、そういうもの
桜庭:それに、豊島区内にはモルモン教の施設は
桜庭:確か存在しないはずだ、少なくともあの頃は
桜庭:近いところでは、確か中野区じゃないかな
桜庭:根付き方も段違いだからやっぱり可能性は
桜庭:どうしたってカトリックに傾くと思うよ
:
蓼原:まあ、そういうことならそうなんだろう
:
桜庭:まあこういう学はあんまり得意じゃないでしょ
:
蓼原:ああ、神に祈るくらいなら銃に祈る
蓼原:そのほうが性に合うんでな
:
桜庭:タデは本当に変わらないね
桜庭:15年前も、今も、多分これからも
:
蓼原:おい、変わったぞ俺は
:
桜庭:(笑う)
桜庭:確かにそうかもね、あの頃はもっと怖かった
桜庭:射殺しそうな(いころしそうな)目つきで
桜庭:通るもの皆脅して回るような雰囲気だったね
:
蓼原:だろう?
蓼原:人を進歩しない雑魚のように言ってくれるな
:
桜庭:それに、あの頃は多分銃には祈ってなかった
桜庭:『拳に祈る』だっただろうね
:
蓼原:おい、物騒な表現なままじゃないか
:
桜庭:(笑う)
桜庭:そりゃそうだよ
桜庭:刃(やいば)をわざと毀した(こぼした)
桜庭:傷口を轢き潰すかのごとく剥き出しの一匹狼
桜庭:不穏当な言葉しか浮かばないのは
桜庭:僕に限ったことじゃないよ、残念だったね
:
蓼原:(舌打ち)
蓼原:吐かせ(ぬかせ)、全く
:
桜庭:(大笑いする)
:
蓼原:(遮るように)やかましいぞ、車は響く
:
桜庭:ごめんよタデ
桜庭:まあカトリックの関与がかなり色濃いなか
桜庭:いずれも蜂起した側が勝ち残った一件は
桜庭:僕らが関わったなかに存在しない
:
蓼原:いや待て、一つあるだろう
:
桜庭:ん?
:
蓼原:情報を取ってきたもので言えば、
蓼原:それこそルーアンはどうなんだ
:
桜庭:ああ、確かに
桜庭:あれは異質だったね、この中では
:
蓼原:あの時俺らが押し入ったのは
蓼原:それこそカトリックの聖人とされてる
蓼原:ジャンヌ・ダルク教会だぞ
:
桜庭:よく知ってるね、驚いた
:
蓼原:あれは印象が強いからな
:
桜庭:(黙る)
桜庭:まあ、そうだろうね
:
蓼原:あれほど厳かに出来上がった空間は、
蓼原:いくら何でも銃を抜くのにためらいを感じたさ
:
桜庭:(微笑む)
桜庭:そうだね、やっぱり
桜庭:(ハンドルを握り直す)
桜庭:『タデは、変わらないね』
:
:〜転換〜
:
0:(洋上、小型船の船室)
0:(蓮池、冒頭で飲んでいたラム酒を引き続き楽しんでいる)
0:(桐谷、椅子に座っており蓮池の様子を注意深く観察している)
0:(柳沼、同じく椅子に座っており蓮池を睨め付けている)
:
柳沼:それで、何ですって?
:
蓮池:ですから、お二方にはこれ以降しばらく私と
蓮池:行動を共にしていただきたいと考えています
:
柳沼:いつ背後から刺されるかもわからない
柳沼:裏切り者のあなたに付き従えというの?
:
蓮池:ご安心ください、柳沼さん
蓮池:私が贈った黄色いチューリップ、あの意味は
蓮池:しっかり伝わっていると信じていますよ?
:
柳沼:冗談はよしてちょうだい、蓮池くん
柳沼:あなたが逆立ちしても彼には敵わないわ
:
蓮池:そうですか、残念です
:
柳沼:身体でさえ、預けるのは勘弁してほしいものね
:
蓮池:まあ、その話は追々続きができるでしょう
蓮池:いわば協力の要請なんですが、いかがですか?
:
桐谷:まあ、手懐けるのに楽だから、とか
桐谷:チームを組むなら色情狂がいいから、とか
桐谷:そんな生温い(なまぬるい)理由で
桐谷:あたし達を選んだわけじゃないわよね
:
蓮池:ほう、珍しく頭脳戦ですか…8650
蓮池:立場が逆転しているのはどうしてでしょうね
:
桐谷:あたしが頭使ってないような言い方ね
:
蓮池:貴女の戦闘パターンはよく存じてます
蓮池:直情径行、敵とあらば容赦なく消し去り、
蓮池:徒手格闘と間合いの短い銃を得意としている
蓮池:小柄な体格を活かして間合いを強引に詰めて
蓮池:一方的に蹂躙していくのがお好みでしょう?
:
桐谷:まあ、そんなところね
桐谷:もちろんアンタの体格を考えれば
桐谷:こういう環境じゃあたしに有利ってことよ
:
蓮池:そうでしょうね、通常なら挑みません
蓮池:しかし、私が無策だと決めつけるのは
蓮池:いささか尚早だと言わざるを得ませんね
:
桐谷:そうね、全くその通りだわ
桐谷:この微かに聞こえる一定間隔の接触音
桐谷:駆動するエンジン音に紛れてはいても
桐谷:ごまかせないわよ、あたしの身体は
:
蓮池:いやはや、さすがだ
蓮池:数々の死線を渡り歩いてきただけはある
:
桐谷:のらりくらりするのはいいけどさあ
桐谷:一体あたし達に何をさせたいわけ?
:
蓮池:ことを急ぎすぎないでください
蓮池:私にも準備というものがあるんです
:
桐谷:準備?爆薬の?
:
蓮池:(笑う)
蓮池:ご冗談を
:
柳沼:爆薬?!
柳沼:あなた、こんな狭いところで自爆する気?!
:
蓮池:(さらに腹を抱えて笑う)
蓮池:まさか、まさかそんなこと!
蓮池:どんな思いで貴女方をお連れしたとお思いで?
:
桐谷:だからそれを聞こうってんじゃないの
:
蓮池:(ため息)
蓮池:全く、お二方ともせっかちですね
蓮池:気を急く(せく)男は嫌われるとは聞きますが
蓮池:短気な女も頭を抱えてしまいますね、本当
:
柳沼:短気にもなるわ、あなたの真意が見えないもの
:
蓮池:そうですか、これは失敬
蓮池:ではまず順を追って、ですかね
:
0:(間)
:
蓮池:(落ち着けるように息を吐く)
蓮池:まずはお二方をお連れした理由ですが、
蓮池:端的に言うならば『プロだから』です
:
桐谷:プロ、ねえ
:
蓮池:ええ、そうです
蓮池:柳沼さん、覚えておいでですか
蓮池:トップコンフィデンシャルの指示書、その中身
:
柳沼:え、もちろんだけど
:
蓮池:第8区画37番貨物
蓮池:そこでは過去、人も殺しも麻薬も武器も、
蓮池:それこそ『闇(やみ)』なる取引が行われました
蓮池:そのほとんどを取り仕切っていたのは
蓮池:あのホテルの主(あるじ)でした
蓮池:4年ほど前、あの城を皆さんが落としたことで、
蓮池:私たちは大きな損害を受けたのです
:
桐谷:城、とはまた大層な話ね
桐谷:城は城でも、砂上の楼閣でしょ?あんなの
:
蓮池:ほほう、そんな難しい言葉をどこで覚えましたか
蓮池:これは言葉遊びができそうで楽しみです
:
桐谷:下らないこと(かぶる/言ってないで)
:
蓮池:(かぶせて)口を慎んでください
蓮池:自由が約束されている楽観的環境でないことは
蓮池:貴女が最もよくお分かりでしょう?
:
桐谷:(舌打ち)
桐谷:邪魔臭いことこの上ないわね
:
柳沼:それでもこの狭い船室で爆発を起こせば、
柳沼:あなたも無事では済まないと思うんだけど
:
蓮池:この状態でも私の心配をしてくださるとは
蓮池:恐れ入りました、さすが私の見込んだ方だ
:
柳沼:馬鹿言わないで?
柳沼:私の可愛い姫と私自身の身の危険が優先よ
:
蓮池:(乾いた笑い声をあげる)
蓮池:まあ、その点は問題ありませんよ
蓮池:モンローノイマン効果、ご存知でしょう?
蓮池:爆風の放射方向を綿密に計算してあります
蓮池:エンジンにも私にも、被害はほぼありません
:
柳沼:まあ、悪趣味なこと
:
桐谷:続けてよ、いいから
:
蓮池:ええ、そうしましょう
蓮池:あの城が落ちたことで私たちは機会損失、
蓮池:具体的に言えば『駒の確保』が滞りました
:
桐谷:駒?
:
柳沼:ああ、駒
柳沼:それが私が調べていたものに繋がるわけね
:
蓮池:そうです、その通り
蓮池:私たちは基本的に自らの手を汚しません
蓮池:不浄は忌事(いみごと)、我々のような
蓮池:上位の存在には不必要なものですから
蓮池:忌事を担わせる(になわせる)べく
蓮池:世界各所に点在する暗部組織との関係性を
蓮池:あの城を通して築き上げていたのです
:
桐谷:駒、か
桐谷:アンタ達、
桐谷:(怒りを鎮めるように息を吐く)
桐谷:いいわ、続けて
桐谷:言っても無駄だわ
:
蓮池:果てしなく気になりますが、まあいいでしょう
:
柳沼:私が掴めたのは、数ある取引のなかで
柳沼:直前にやり取りが行われていたもの
:
蓮池:ええ、それが重要だったんです
蓮池:我々はサブリナを通して『ノート』を監視し、
蓮池:我々の計画を阻害すると予想される指示書を
蓮池:編集、改竄(かいざん)し、駒を動かして
蓮池:秘密裏に処理してきました
蓮池:そのなかで、どうしても必要だったんですよ
蓮池:(桐谷を見やる)
:
桐谷:何よ
:
蓮池:貴女の、お仲間たちですよ…8650
:
桐谷:(息を呑む)
:
蓮池:純真かつ高潔な精神を持つ『少女兵』たち
蓮池:彼女たちは全くの疑いも恐れも持たず、
蓮池:ただ只管(ひたすら)に敵を屠る(ほふる)
蓮池:その頑強さは、我々の数多(あまた)ある
蓮池:遠大なる計画には(かぶる/不可欠な)
:
桐谷:(かぶせて)ふざけるな!!
:
0:(蓮池、桐谷の頭にラム酒のボトルを投げつける)
0:(桐谷、まともにボトルの直撃を受けボトルの破片とラム酒にまみれる)
:
桐谷:(うめく)
:
柳沼:(間髪を容れず)あなたね!!
:
蓮池:(間髪を容れず)どうぞ!!
蓮池:…お席へ、お戻りを、柳沼さん
:
柳沼:(射竦められ、浮いた腰を戻す)
:
蓮池:(桐谷を睨め付ける)
蓮池:貴女に、自由が、あるなどと
蓮池:思い上がるなと、申し上げたはずです
:
桐谷:(舌打ち)
:
蓮池:彼女らはかの英雄よろしく、華々しく凛々しい
蓮池:幾度も幾度も、我々の撒いた火種を
蓮池:これ以上ないほどに煌びやかに燃え上がらせた
蓮池:まさに絶景、至高の美しさでした
:
桐谷:(痛みを堪えている)
桐谷:アンタら、馬鹿にしないでよ
桐谷:あたし達は、疑わなかったんじゃない
桐谷:恐れなかったんでもない
桐谷:(鬼気迫る間)
桐谷:知らなかったのよ、忘れさせられたのよ
桐谷:感情の坩堝(るつぼ)を固く閉ざされて
桐谷:生殺与奪を聖女の名の下に奪われた
:
柳沼:(息を継げないなか、桐谷を見つめ続ける)
:
桐谷:時間をかけて、ゆっくりと殺された感情が
桐谷:あたしから完全に切り離されそうになる
桐谷:何度も嬲られた(なぶられた)感覚が
桐谷:あたしをヒトからモノへ変えようとする
桐谷:そんな、思い出しただけで身体が裏返って
桐谷:内臓を弾き出してしまいそうになる日々を
桐谷:あたし達は常に与えられ続けてた
桐谷:手放したくないから、モノになりたくないから
桐谷:だから闘ってたの…敵とも、あたし自身とも
:
蓮池:そうですか
:
柳沼:蓮池くん
:
蓮池:はい、何でしょうか
:
柳沼:(怒りを押し殺すように深呼吸する)
柳沼:あなた、その頃はまだ彼女たちのこと、
柳沼:知らなかったはずよね
:
蓮池:(眉を動かす)
:
柳沼:何を以て(もって)、彼女たちを評するの
:
蓮池:(一瞬の間)
蓮池:それはもちろん、数々の戦果ですよ
蓮池:我々が来たる日のために周到に練った計画を
蓮池:彼女らは着実に推し進めてくれた
蓮池:その記録は我々の中で連綿と共有され、
蓮池:今日(こんにち)に到る(いたる)まで
蓮池:我々の重要な資産として保管してありますから
:
柳沼:(蓮池に観察するような眼差しを向ける)
柳沼:…そう、分かったわ
:
蓮池:それは何よりです
:
柳沼:あなたがどうやっても救いようのない、
柳沼:正真正銘の下郎ってことがね
:
蓮池:ああやはり、ご理解いただけませんか
:
柳沼:理解なんて、できるわけないじゃない
柳沼:したくもないわ、クズが憑る(うつる)
:
蓮池:(スマートフォンへの通信がある)
蓮池:おお、いい知らせです
蓮池:聞きませんか?
:
桐谷:何、勿体ぶって面倒な
:
蓮池:今、配下から連絡がございましてね
蓮池:無事に再契約が済んだとのことでした
:
桐谷:再、契約?
:
蓮池:ええ、そうです!
蓮池:8650、喜びなさい
蓮池:…仲間に、また会えますよ
:
桐谷:(怒りを抑え込むように唸る)
:
蓮池:(ほくそ笑む)
蓮池:とはいえ、感動の再会とはなりませんでしょうが
:
桐谷:…どういう、ことよ
:
蓮池:貴女には、主に2つの協力依頼があります
蓮池:一つは、彼女ら少女兵の元締めが管理する
蓮池:『マジェンダ=ノート』への最後の鍵、
蓮池:こちらの奪還をお願いしたいのです
:
桐谷:そういうことか
桐谷:あのアジトを知り尽くしてるあたしがプロ、ね
:
蓮池:ええ、そういうことです
:
桐谷:で、もう一つは何なのよ
:
蓮池:はい
蓮池:二つ目は、鍵の奪還後に用済みになる
蓮池:少女兵らの掃討です
:
桐谷:(絶句し、怒りに震える)
:
柳沼:あなた、何を…
柳沼:何を言っているの?!!
:
蓮池:プロ、でしょう?
蓮池:貴女は少女兵として10年以上を過ごしていた
蓮池:死地を越え、死線を潜り(くぐり)、
蓮池:剰え(あまつさえ)救出されてからも
蓮池:各地で着実な戦果を挙げ続けている
蓮池:これ以上(かぶる/適任と言える)
:
柳沼:(かぶせて)それ以上口を開かないで!!
柳沼:あなたは、彼女の傷を何度抉れば!!
柳沼:あの惨状を何度呼び起こせば!!
柳沼:この子の『今』を何度壊せば気が済むの!!
:
蓮池:(ため息をつく)
蓮池:これは、私の個人の意思ではありません
蓮池:この世界の上位者たる、我々の総意です
蓮池:(席を立ち、桐谷の髪を掴みあげる)
:
桐谷:(うめく)
:
蓮池:彼女は、彼らが残してくれた遺産です
蓮池:我々が求める頑強な目的遂行意識の高さ
蓮池:加えて純粋な強さも併せ持つ
蓮池:(空いている手で柳沼を張り倒す)
:
柳沼:(うめき、椅子に倒れる)
:
蓮池:(桐谷の耳元に顔を近づける)
蓮池:(囁く)貴女に協力を要請したのは、
蓮池:(囁く)別の理由もあります
蓮池:(囁く)貴女が滞りなく完遂できれば、
蓮池:(囁く)少女兵らの生命と生活、
蓮池:(囁く)蓼原さんへの襲撃の中止を
蓮池:(囁く)ここに固く誓いましょう
:
桐谷:何に、誓うつもりよ
:
蓮池:ヒドゥン=セクレタリの名の下に、でしょうか
:
桐谷:(目だけを動かし蓮池を見る)
桐谷:…そう
:
柳沼:(起き上がる)
柳沼:めちゃくちゃなこと、言わないでくれない?
柳沼:あなたの裏切りを許せる人なんて、
柳沼:『ノート』のどこにもいないわよ
:
蓮池:許していただくため?
蓮池:何か勘違いをなさっているのではないかと
:
柳沼:それでも、あなたは協力してほしいと
柳沼:私たちに対してそう言ってくれたじゃない
:
蓮池:申し訳ありません、確かにそうでした
蓮池:言い方を変えましょう、間違いがありました
:
柳沼:言い方を変えられても私は変わらないわよ
柳沼:あなたに付き従うつもりは毛頭ない
柳沼:私は常に『ノート』の一員なの
柳沼:害悪に与する(くみする)ほど暇じゃないわ
:
蓮池:貴女方の生死は我々が握っております
蓮池:物言わぬ肉塊として後世の我々の礎となるか、
蓮池:物言わぬ兵士として我々の計画の糧となるか、
蓮池:この船室にいる内にいずれかを選んでください
:
柳沼:あなたに命を預けろって?!
柳沼:冗談言わないでちょうだい!!
:
蓮池:…ジョークなどという生易しい話に聞こえますか
:
柳沼:それに、仮にあなたがこの海の上で
柳沼:籠城戦を決め込もうにも、私は私のやり方で
柳沼:ここを抜け出して(かぶる/二人に)
:
蓮池:(かぶせて)その一人は
蓮池:(微笑む)
蓮池:既に『お別れを告げられた』のではないですか?
:
柳沼:(息を詰める)
:
蓮池:本来、男女の蜜月に聞き耳を立てるのは
蓮池:マナー違反ですから避けておくべきでしたが、
蓮池:恐らく桜庭さんは貴女に何かを遺すつもりで
蓮池:連絡を取ったはずですから、そのためにも
蓮池:貴女についてきていただいておかないと
蓮池:(息をつく)
蓮池:彼自身の予測通り彼が消えたとしても、
蓮池:(桐谷を見やる)
蓮池:その後釜が厄介ごとを増やすでしょうから
:
柳沼:ウソ、よね
:
蓮池:申し訳ないのですが、存じ上げません
蓮池:真意の程は、彼に直接聞いていただけますか
:
柳沼:(モノローグ)
柳沼:(『謝る』なんて柄にもないこと言うから)
柳沼:(何か裏があるって、そう期待してた)
柳沼:(彼は、それほどまでに底知れないの?)
柳沼:(ねえ、サク)
柳沼:(また、何食わぬ顔してへらへら笑いながら)
柳沼:(戻ってきて『ただいま、待たせたね』って)
柳沼:(子供みたいに無邪気に笑うんでしょう?)
柳沼:(ぷりぷり怒る私を慰めるんでしょう?)
柳沼:(ねえ、サク)
柳沼:(また、)
:
蓮池:…と言っても、聞けるかは分かりませんが
:
柳沼:(絶望の叫びをあげる)
桐谷:(脛当てに隠していた銃で柳沼を撃つ)
:
0:(柳沼、首を撃ち抜かれ頭を垂れ下げる)
0:(桐谷、船室の窓を叩き割り柳沼を海へ放り投げる)
桐谷:…『うっさい、わね』
:
蓮池:(拍手する)
蓮池:素晴らしい、素晴らしいです!
蓮池:さすがじゃないですか、8650
蓮池:また重ねて貴女は、頭ひとつ抜けて重要度が高い
蓮池:何せ…
蓮池:(空を見上げる)
蓮池:マジェンダ=ノートを『読める』のですから
:
0:(続)