台本概要
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タイトル | 至高の一杯 |
---|---|
作者名 | 煮成 焼也(ニルナリヤクナリ) (@nalinirunali) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 3人用台本(男1、不問2) ※兼役あり |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
◎コメディー台本 ◎10~15分程度 ☆約束☆ ・配信でご使用する際は許可を取る必要はありません。ご自由にご使用ください。 ・番組名や説明欄にタイトルを書いて頂けたら助かります。 ・演じられた後、コメントなどに演じた場所?(URLなど)教えて頂けたら嬉しいです。(覗きに行きたいので…) ・話口調を男性寄り、女性寄りに変更していただいても大丈夫です。アドリブとかも入れていただいて構いませんが、他の演者様が困るような事や結末を変えるなどはお控えください。 ・みんなで楽しく声劇をしましょう!! 165 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
コウ | 不問 | 56 | ボケ |
ヒロ | 不問 | 76 | ツッコミ |
ナレーター | 男 | 5 | 高みの見物をして楽しんでください。 |
登山客 | 男 | 13 | 登山客は初老の男性感でお願いします。 |
マスター | 男 | 27 | マスターは初老の男性感でお願いします。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
ヒロ:えっと…つまり、その伝説のコーヒー、至高の一杯を飲みたい、その為に、僕は呼ばれたと。
コウ:その通りだ、ヒロ。
ヒロ:うん、深夜の3時に鬼電鬼家凸(いえとつ)してきた野郎の態度ではないよな?
コウ:まぁ待て落ち着け、振り上げた拳はポッケにないないするんだ。落ち着いて話し合おう。
ヒロ:こちとら、明日から一限に出なきゃ行けないのに夜中に叩き起されてんだよ、いま、お前がサンドバッグに見えるくらいイラついてるわ。
コウ:まぁ、聞けって。この時間になったのにも理由があるんだよ。
ヒロ:ほう?聞かせてみろ。
コウ:まず、その至高の一杯を飲むには山の頂上にある喫茶店「きわみ」に行く必要がある。だが、めちゃくちゃ早朝に開き、昼前には閉まる、幻の喫茶店なんだ!
ヒロ:めちゃくちゃ短いな。
コウ:そうなんだよ。でも、伝説と謳(うた)われるほどのコーヒーなんだぜ?飲むっきゃないだろ!
ヒロ:お前、そんなにコーヒー好きだったっけ?
コウ:おう!好きだぜ!この前、魅力を知った!
ヒロ:…例えば?
コウ:苦い!
ヒロ:ハマった奴の感想とは思えないくらい薄いな、おい。まぁ、そこに行きたいのは分かった。で…、なんだ、その山男装備は。
コウ:その店、山の頂上にあるからさ、念の為だよ。
ヒロ:僕のは?
コウ:…なんとかなるサ☆
ヒロ:山なめんな。
コウ:あ、これはヒロの分もあるぞ。ほら、軍手。
ヒロ:よし、それ貸せ。いまからその軍手が真っ赤になるまで、お前を殴る。
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ナレーター:というわけで、なんやかんやあり、彼らは至高の一杯を求め、山を登った。時には激流の川を昇り…!
コウ:うおおおおおお!!流される!流されるうううう!!!!
ヒロ:あばばばばばばばばば!!!!
ナレーター:崖から落ちてくる落石を避け…!!
コウ:ヒロ!上から岩が!
ヒロ:あぶね!!めちゃくちゃ危険じゃねぇか!!なんだ、この道のり!
ナレーター:また、ある時は、わんこそばの給仕さんに囲まれ…!!!
コウ:はい、どんどん…はい、じゃんじゃん…
ヒロ:なんで、山道にわんこそばの給仕さん達が…うっぷ、もうけっこうです。横腹に来る…。
ナレーター:(バカにする感じで)なんとか着きましたとさ。はい、お疲れさん。
コウ:やっと着いたな。ん?どうした?ヒロ。
ヒロ:いや、なんか、無性に腹が立ったっていうか、なんて言うか…なんだろう。誰かに、この苦労を軽く見られた気がして…。こう、イラッと。
コウ:変なやつだな。ほら、あれが幻の喫茶店「きわみ」だ。
ナレーター:山頂に建つ木造のボロ屋には入口に「きわみ」と下手(へった)な字で書かれているのであった。
ヒロ:なんか、土砂崩れと一緒に流れてきそうな店だな。
コウ:味があるんだよ。わかんねぇかな、素人には。
ヒロ:少なくとも、コーヒーを苦いしか言えねぇ奴に言われたくねぇわ。
登山客:おや、君達もここのコーヒーを飲みに来たのかい?しかも、こんな早い時間に。
コウ:はい!飲みに来ました!
ヒロ:先客いるんだ…。
登山客:そうかそうか、私も早く飲みたくて、こんな時間に来てしまったよ。
ヒロ:そんなに?
登山客:ああ。かれこれ4年になるかな。
ヒロ:いや、長っ!?オリンピックじゃん!?コウ、それ知ってたのか!?
コウ:知らんかった。(笑)
ヒロ:いや、調べとけよ!?あと少しで無駄足になるとこじゃねぇか!!
登山客:はっはっは、知らずに開店日に来るとは、君達、とてもツいているんだね。ここのコーヒーは言葉に表せないくらい美味くてね。早く飲みたくて飲みたくて、前乗りしてる間に娘、結婚しちゃった。
ヒロ:いやいやいや!並んでる場合じゃないでしょ!?娘の晴れ舞台になにやってんの!?
登山客:いまでは孫もいるとか、いないとか…
ヒロ:なおさら、下山しよ!?並んでる場合じゃないって!!
コウ:へ〜、すごいっすね。
ヒロ:いや、お前もそんな一言で終わらせてやるなよ!?もっとこうなんかあるだろ!?
登山客:おや、そろそろお店が開くかな?それじゃ、お先に。
コウ:じゃ、俺達も入るか!
登山客:あ、ここは一組ずつしか入れないから。
ヒロ:え、なんて不便な。
登山客:はっはっは、マスターのこだわりでね、相手と向き合いながらコーヒーを淹れたいそうだよ。
コウ:なんて、こだわりなんだ!これは期待できる!!行ってらっしゃい!!
登山客:あぁ。行ってくるよ。
コウ:やべえな!職人感がやばいよな!楽しみだな!ヒロ!
ヒロ:…なぁ、昼までしか開かないのに、一組ずつってやばくないか?僕ら入れるのか?
コウ:なんとかなるだろ。いけるいける!
ヒロ:いや、その自身はどこから来るんだよ。
登山客:……。
コウ:あ、もう飲んだんっすか?早かったっすね。
ヒロ:え、まだ入って1分くらいしか…。
登山客:(ダンディに)マンデム…。
ヒロ:へ?ど、どうしました?
登山客:ん〜〜、マンデム。
コウ:な、なんだ、心なしか、めちゃくちゃダンディになってる気がする…。
登山客:マンデム。ん〜、マンデム。
ヒロ:恐らく、空いたから入れって言ってるんだろうけど、なんだ、マンデムでしか会話してないぞ、この人!
コウ:…ヒロ、行こう。
ヒロ:え、正気か、お前。
コウ:人を変えてしまうほどのコーヒーだぞ。人生で二度と味わえないかもしれない。なら、この経験、いましないでいつやるんだ!!なぁ!そうだろ!ヒロ!!
ヒロ:いや、人変えるどころか、人格、言語まで変わってんだけど。
コウ:さぁ!!行こう!!
コウ:おじゃましまあす!!
ヒロ:店におじゃましますって言うやつ初めて見たわ。
マスター:いらっしゃい。2人かい?
コウ:そうです!!
マスター:メニューはそこにあるから、決まったら教えて。
ヒロ:じゃあ…
コウ:アイスティーください!
ヒロ:いや、なにアイスティー頼んでんの!?コーヒーは!?
コウ:いや、山登って疲れちゃって、冷たいの飲みたいじゃん?
ヒロ:お前、いまその努力を無駄にしようとしてんのわかってる!?
マスター:はいよ、アイスティーだよ。
コウ:いただきます!!…こ、このアイスティーは、なんて芳醇(ほうじゅん)な香りなんだ。飲むと同時に香りを楽しめる。
ヒロ:急に語りだしてんな、おい。
マスター:これを入れると美味しいよ。
コウ:ま、マスター、こ、これは…
マスター:シロップだよ。
ヒロ:見てわかるだろ。
コウ:では、シロップを入れて…こ、これは!!
ヒロ:オーバーリアクション過ぎだろ。
コウ:なんて甘美な味わいなんだ!さっきまでとは違い、舌の上で茶葉の旨みが踊っている!!こんなアイスティー初めてだ!!
マスター:これも入れたら美味しいよ。
コウ:ま、マスター、そ、その白い液体はいったい…
ヒロ:ミルクだろ。
マスター:ミルクだよ。
コウ:み、み、み、ミルク!?
ヒロ:いや、わかるだろ。紅茶初心者か、お前は。
コウ:アイスティーにミルク?はっはっは、騙されませんよ?マスター。そんなの美味いわけが…
ヒロ:ミルクティーって知ってる?
コウ:う、美味い…!!
ヒロ:でしょうね。
コウ:茶葉の香りにミルクのコクが絶妙にマッチしている…!!これは世紀の大発見だ!!!!
ヒロ:何世紀も前に発見されてんだよ。
マスター:お連れさんは?何にする?
ヒロ:え、じゃあ、至高の一杯とやらを…
マスター:至高の…あぁ、コーヒーね。ちょっと待ってて。
コウ:ヒロ、これは期待出来るぞ。なんせ、アイスティーでこれだ。コーヒーは、これの倍は来るぞ。覚悟しとけよ。
ヒロ:なんで、コーヒーに対して覚悟がいるんだよ。
マスター:さっきのアイスティー、出来合いのだったから、お代は100円でいいよ。
ヒロ:出来合い?
マスター:市販の紅茶パックで作ったから。
ヒロ:どこでも飲めるやつ!!
コウ:いや、何か淹(い)れ方にコツが…
マスター:紅茶パックにお湯入れて冷やしておいたよ。
ヒロ:誰でも出来るやつ!!
マスター:はい、お連れさんのコーヒーだよ。
ヒロ:あ、いただきます。(コーヒーを飲む)…美味い。
コウ:本当か!
ヒロ:いままで飲んだコーヒーの中でも上位に入るくらい美味い。
コウ:そんなにか!ちょっとだけくれ!
ヒロ:お、おう。飲んでみ、やばいぞ。
コウ:(コーヒーを飲む)
ヒロ:どうだ?
コウ:苦(にげ)ぇ。
ヒロ:いや、ひと言だけ!?お前、さっきはあんなに饒舌(じょうぜつ)だったじゃねぇか!
マスター:コーヒーは…苦いからね。
ヒロ:いや、そうなんだろうけども!!さっきよりも感想雑じゃん!
マスター:まぁまぁ、落ち着きなさいな。たった一杯のコーヒーにそこまで言ってくれて私は嬉しいよ。
ヒロ:マスター。
マスター:こんなボロ小屋でくたびれたジジイが淹れたコーヒーにそこまで言ってくれてるんだから。
ヒロ:マスター、あなたはすごいですよ。こんな美味いコーヒーを淹れるのにどれだけ努力したのか、想像できないですもん。
マスター:ははは、大した努力はしてないよ。それじゃ、コーヒーのお代だけど…
ヒロ:あ、いくらですか?
マスター:8万円になります。
ヒロ:いや、高っ!!え!?8万!?この人、謙虚(けんきょ)かと思ったら自己肯定感めちゃくちゃ高いじゃねぇか!!焦るわ!さっきまで、めちゃくちゃ自分の努力は見せません的な!?細々やってて頑張ってるオーラ凄かったのに、急に、ぼったくりバーみたいになってんじゃねぇか!!やべぇよ、この人!!さっきまで笑顔が優しげな初老の男性だったのに、その笑顔すら怪しさに満ちてるわ!!
マスター:どうしたんだい?ガキと負け犬はよく泣くというが、君はどっちかな?
ヒロ:いやいやいや、急に煽(あお)ってきてんだけど!?
コウ:マスター、アイスティーおかわり。
ヒロ:お前もこの状況でよくそんな事言えるな!
マスター:はいよ、アイスティー2万だよ。
ヒロ:この数分で茶葉高騰(こうとう)したんか!?
マスター:(豹変した感じで)やかましい!ここで稼ぐにはこうするしかないんだ!
ヒロ:いや、山の麓(ふもと)とかでやれよ!きっと繁盛(はんじょう)するって!!
マスター:繁盛したら、その分働かないといけんだろうが!!こちとら楽して稼ぎたいんじゃ!!
ヒロ:だからと言って8万は高すぎんだろ!!高級豆でも使ってんのか!?
マスター:市販の小分けパック800円ですが、なにか?
ヒロ:よし、決めた!こいつ殴る!絶対殴る!
マスター:待て待て待て、暴力は良くないなぁ!ブレイク、ブレイク。コーヒーだけに、コーヒーブレイクってね。
ヒロ:むきーーーーーーーっ!!
コウ:…なぁ、ヒロ。
ヒロ:なんだよ、いまおかわり貰ってる場合じゃ…
コウ:いや、なんか店、ミシミシ言ってない?
ヒロ:…ミシミシ?
コウ:ヒロ、外の景色が新幹線で見た時と同じような感じなんだけど。
ヒロ:それって…
コウ:ヒロ、店、山から落ちてない?
ヒロ:なんで!?
マスター:やはり、ガタが来ていたか。
ヒロ:やはりって…
マスター:前からなんか、傾いてるなぁって思ってたんだけど、その時が来ちゃった(笑)
ヒロ:アホか、こいつ!直しとけよ!
マスター:業者呼ぶと、お金かかるじゃん?
ヒロ:命より金取りやがった!
コウ:ヒロ、どうする?
ヒロ:いや、どうするもこうするも…
コウ:マスターはもう逃げたし…
ヒロ:え!?さっきまでいたよな!?逃げ足早っ!
コウ:いや〜、死ぬ前に至高の一杯、飲みたかったなぁ…。
ヒロ:言ってる場合かーーーーーーーー!!!!
コウ:こうして、山小屋ごと下山した俺達は無事、家に帰ることができました。え?本当に無事かって?たまたま山小屋が大木に引っかかって、なんとか無事だったよ。ヒロも一限に間に合ったみたいだし、マスターは消息不明だけど、風の噂で海上でコーヒーやってるって聞いた。至高の一杯ってのも市販の物だったらしいけど、コーヒーそれぞれの味とか、その場の雰囲気で変わるらしいし、結局、至高の一杯ってのは、その人が1番美味いと感じたのが、至高の一杯って事でいいんじゃないかと俺は思うわけよ。じゃ、そろそろ話も終わるらしいし、俺もコーヒー飲んで帰ろうかな。(コーヒーを飲む)うん、苦(にげ)ぇ!!
ヒロ:えっと…つまり、その伝説のコーヒー、至高の一杯を飲みたい、その為に、僕は呼ばれたと。
コウ:その通りだ、ヒロ。
ヒロ:うん、深夜の3時に鬼電鬼家凸(いえとつ)してきた野郎の態度ではないよな?
コウ:まぁ待て落ち着け、振り上げた拳はポッケにないないするんだ。落ち着いて話し合おう。
ヒロ:こちとら、明日から一限に出なきゃ行けないのに夜中に叩き起されてんだよ、いま、お前がサンドバッグに見えるくらいイラついてるわ。
コウ:まぁ、聞けって。この時間になったのにも理由があるんだよ。
ヒロ:ほう?聞かせてみろ。
コウ:まず、その至高の一杯を飲むには山の頂上にある喫茶店「きわみ」に行く必要がある。だが、めちゃくちゃ早朝に開き、昼前には閉まる、幻の喫茶店なんだ!
ヒロ:めちゃくちゃ短いな。
コウ:そうなんだよ。でも、伝説と謳(うた)われるほどのコーヒーなんだぜ?飲むっきゃないだろ!
ヒロ:お前、そんなにコーヒー好きだったっけ?
コウ:おう!好きだぜ!この前、魅力を知った!
ヒロ:…例えば?
コウ:苦い!
ヒロ:ハマった奴の感想とは思えないくらい薄いな、おい。まぁ、そこに行きたいのは分かった。で…、なんだ、その山男装備は。
コウ:その店、山の頂上にあるからさ、念の為だよ。
ヒロ:僕のは?
コウ:…なんとかなるサ☆
ヒロ:山なめんな。
コウ:あ、これはヒロの分もあるぞ。ほら、軍手。
ヒロ:よし、それ貸せ。いまからその軍手が真っ赤になるまで、お前を殴る。
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ナレーター:というわけで、なんやかんやあり、彼らは至高の一杯を求め、山を登った。時には激流の川を昇り…!
コウ:うおおおおおお!!流される!流されるうううう!!!!
ヒロ:あばばばばばばばばば!!!!
ナレーター:崖から落ちてくる落石を避け…!!
コウ:ヒロ!上から岩が!
ヒロ:あぶね!!めちゃくちゃ危険じゃねぇか!!なんだ、この道のり!
ナレーター:また、ある時は、わんこそばの給仕さんに囲まれ…!!!
コウ:はい、どんどん…はい、じゃんじゃん…
ヒロ:なんで、山道にわんこそばの給仕さん達が…うっぷ、もうけっこうです。横腹に来る…。
ナレーター:(バカにする感じで)なんとか着きましたとさ。はい、お疲れさん。
コウ:やっと着いたな。ん?どうした?ヒロ。
ヒロ:いや、なんか、無性に腹が立ったっていうか、なんて言うか…なんだろう。誰かに、この苦労を軽く見られた気がして…。こう、イラッと。
コウ:変なやつだな。ほら、あれが幻の喫茶店「きわみ」だ。
ナレーター:山頂に建つ木造のボロ屋には入口に「きわみ」と下手(へった)な字で書かれているのであった。
ヒロ:なんか、土砂崩れと一緒に流れてきそうな店だな。
コウ:味があるんだよ。わかんねぇかな、素人には。
ヒロ:少なくとも、コーヒーを苦いしか言えねぇ奴に言われたくねぇわ。
登山客:おや、君達もここのコーヒーを飲みに来たのかい?しかも、こんな早い時間に。
コウ:はい!飲みに来ました!
ヒロ:先客いるんだ…。
登山客:そうかそうか、私も早く飲みたくて、こんな時間に来てしまったよ。
ヒロ:そんなに?
登山客:ああ。かれこれ4年になるかな。
ヒロ:いや、長っ!?オリンピックじゃん!?コウ、それ知ってたのか!?
コウ:知らんかった。(笑)
ヒロ:いや、調べとけよ!?あと少しで無駄足になるとこじゃねぇか!!
登山客:はっはっは、知らずに開店日に来るとは、君達、とてもツいているんだね。ここのコーヒーは言葉に表せないくらい美味くてね。早く飲みたくて飲みたくて、前乗りしてる間に娘、結婚しちゃった。
ヒロ:いやいやいや!並んでる場合じゃないでしょ!?娘の晴れ舞台になにやってんの!?
登山客:いまでは孫もいるとか、いないとか…
ヒロ:なおさら、下山しよ!?並んでる場合じゃないって!!
コウ:へ〜、すごいっすね。
ヒロ:いや、お前もそんな一言で終わらせてやるなよ!?もっとこうなんかあるだろ!?
登山客:おや、そろそろお店が開くかな?それじゃ、お先に。
コウ:じゃ、俺達も入るか!
登山客:あ、ここは一組ずつしか入れないから。
ヒロ:え、なんて不便な。
登山客:はっはっは、マスターのこだわりでね、相手と向き合いながらコーヒーを淹れたいそうだよ。
コウ:なんて、こだわりなんだ!これは期待できる!!行ってらっしゃい!!
登山客:あぁ。行ってくるよ。
コウ:やべえな!職人感がやばいよな!楽しみだな!ヒロ!
ヒロ:…なぁ、昼までしか開かないのに、一組ずつってやばくないか?僕ら入れるのか?
コウ:なんとかなるだろ。いけるいける!
ヒロ:いや、その自身はどこから来るんだよ。
登山客:……。
コウ:あ、もう飲んだんっすか?早かったっすね。
ヒロ:え、まだ入って1分くらいしか…。
登山客:(ダンディに)マンデム…。
ヒロ:へ?ど、どうしました?
登山客:ん〜〜、マンデム。
コウ:な、なんだ、心なしか、めちゃくちゃダンディになってる気がする…。
登山客:マンデム。ん〜、マンデム。
ヒロ:恐らく、空いたから入れって言ってるんだろうけど、なんだ、マンデムでしか会話してないぞ、この人!
コウ:…ヒロ、行こう。
ヒロ:え、正気か、お前。
コウ:人を変えてしまうほどのコーヒーだぞ。人生で二度と味わえないかもしれない。なら、この経験、いましないでいつやるんだ!!なぁ!そうだろ!ヒロ!!
ヒロ:いや、人変えるどころか、人格、言語まで変わってんだけど。
コウ:さぁ!!行こう!!
コウ:おじゃましまあす!!
ヒロ:店におじゃましますって言うやつ初めて見たわ。
マスター:いらっしゃい。2人かい?
コウ:そうです!!
マスター:メニューはそこにあるから、決まったら教えて。
ヒロ:じゃあ…
コウ:アイスティーください!
ヒロ:いや、なにアイスティー頼んでんの!?コーヒーは!?
コウ:いや、山登って疲れちゃって、冷たいの飲みたいじゃん?
ヒロ:お前、いまその努力を無駄にしようとしてんのわかってる!?
マスター:はいよ、アイスティーだよ。
コウ:いただきます!!…こ、このアイスティーは、なんて芳醇(ほうじゅん)な香りなんだ。飲むと同時に香りを楽しめる。
ヒロ:急に語りだしてんな、おい。
マスター:これを入れると美味しいよ。
コウ:ま、マスター、こ、これは…
マスター:シロップだよ。
ヒロ:見てわかるだろ。
コウ:では、シロップを入れて…こ、これは!!
ヒロ:オーバーリアクション過ぎだろ。
コウ:なんて甘美な味わいなんだ!さっきまでとは違い、舌の上で茶葉の旨みが踊っている!!こんなアイスティー初めてだ!!
マスター:これも入れたら美味しいよ。
コウ:ま、マスター、そ、その白い液体はいったい…
ヒロ:ミルクだろ。
マスター:ミルクだよ。
コウ:み、み、み、ミルク!?
ヒロ:いや、わかるだろ。紅茶初心者か、お前は。
コウ:アイスティーにミルク?はっはっは、騙されませんよ?マスター。そんなの美味いわけが…
ヒロ:ミルクティーって知ってる?
コウ:う、美味い…!!
ヒロ:でしょうね。
コウ:茶葉の香りにミルクのコクが絶妙にマッチしている…!!これは世紀の大発見だ!!!!
ヒロ:何世紀も前に発見されてんだよ。
マスター:お連れさんは?何にする?
ヒロ:え、じゃあ、至高の一杯とやらを…
マスター:至高の…あぁ、コーヒーね。ちょっと待ってて。
コウ:ヒロ、これは期待出来るぞ。なんせ、アイスティーでこれだ。コーヒーは、これの倍は来るぞ。覚悟しとけよ。
ヒロ:なんで、コーヒーに対して覚悟がいるんだよ。
マスター:さっきのアイスティー、出来合いのだったから、お代は100円でいいよ。
ヒロ:出来合い?
マスター:市販の紅茶パックで作ったから。
ヒロ:どこでも飲めるやつ!!
コウ:いや、何か淹(い)れ方にコツが…
マスター:紅茶パックにお湯入れて冷やしておいたよ。
ヒロ:誰でも出来るやつ!!
マスター:はい、お連れさんのコーヒーだよ。
ヒロ:あ、いただきます。(コーヒーを飲む)…美味い。
コウ:本当か!
ヒロ:いままで飲んだコーヒーの中でも上位に入るくらい美味い。
コウ:そんなにか!ちょっとだけくれ!
ヒロ:お、おう。飲んでみ、やばいぞ。
コウ:(コーヒーを飲む)
ヒロ:どうだ?
コウ:苦(にげ)ぇ。
ヒロ:いや、ひと言だけ!?お前、さっきはあんなに饒舌(じょうぜつ)だったじゃねぇか!
マスター:コーヒーは…苦いからね。
ヒロ:いや、そうなんだろうけども!!さっきよりも感想雑じゃん!
マスター:まぁまぁ、落ち着きなさいな。たった一杯のコーヒーにそこまで言ってくれて私は嬉しいよ。
ヒロ:マスター。
マスター:こんなボロ小屋でくたびれたジジイが淹れたコーヒーにそこまで言ってくれてるんだから。
ヒロ:マスター、あなたはすごいですよ。こんな美味いコーヒーを淹れるのにどれだけ努力したのか、想像できないですもん。
マスター:ははは、大した努力はしてないよ。それじゃ、コーヒーのお代だけど…
ヒロ:あ、いくらですか?
マスター:8万円になります。
ヒロ:いや、高っ!!え!?8万!?この人、謙虚(けんきょ)かと思ったら自己肯定感めちゃくちゃ高いじゃねぇか!!焦るわ!さっきまで、めちゃくちゃ自分の努力は見せません的な!?細々やってて頑張ってるオーラ凄かったのに、急に、ぼったくりバーみたいになってんじゃねぇか!!やべぇよ、この人!!さっきまで笑顔が優しげな初老の男性だったのに、その笑顔すら怪しさに満ちてるわ!!
マスター:どうしたんだい?ガキと負け犬はよく泣くというが、君はどっちかな?
ヒロ:いやいやいや、急に煽(あお)ってきてんだけど!?
コウ:マスター、アイスティーおかわり。
ヒロ:お前もこの状況でよくそんな事言えるな!
マスター:はいよ、アイスティー2万だよ。
ヒロ:この数分で茶葉高騰(こうとう)したんか!?
マスター:(豹変した感じで)やかましい!ここで稼ぐにはこうするしかないんだ!
ヒロ:いや、山の麓(ふもと)とかでやれよ!きっと繁盛(はんじょう)するって!!
マスター:繁盛したら、その分働かないといけんだろうが!!こちとら楽して稼ぎたいんじゃ!!
ヒロ:だからと言って8万は高すぎんだろ!!高級豆でも使ってんのか!?
マスター:市販の小分けパック800円ですが、なにか?
ヒロ:よし、決めた!こいつ殴る!絶対殴る!
マスター:待て待て待て、暴力は良くないなぁ!ブレイク、ブレイク。コーヒーだけに、コーヒーブレイクってね。
ヒロ:むきーーーーーーーっ!!
コウ:…なぁ、ヒロ。
ヒロ:なんだよ、いまおかわり貰ってる場合じゃ…
コウ:いや、なんか店、ミシミシ言ってない?
ヒロ:…ミシミシ?
コウ:ヒロ、外の景色が新幹線で見た時と同じような感じなんだけど。
ヒロ:それって…
コウ:ヒロ、店、山から落ちてない?
ヒロ:なんで!?
マスター:やはり、ガタが来ていたか。
ヒロ:やはりって…
マスター:前からなんか、傾いてるなぁって思ってたんだけど、その時が来ちゃった(笑)
ヒロ:アホか、こいつ!直しとけよ!
マスター:業者呼ぶと、お金かかるじゃん?
ヒロ:命より金取りやがった!
コウ:ヒロ、どうする?
ヒロ:いや、どうするもこうするも…
コウ:マスターはもう逃げたし…
ヒロ:え!?さっきまでいたよな!?逃げ足早っ!
コウ:いや〜、死ぬ前に至高の一杯、飲みたかったなぁ…。
ヒロ:言ってる場合かーーーーーーーー!!!!
コウ:こうして、山小屋ごと下山した俺達は無事、家に帰ることができました。え?本当に無事かって?たまたま山小屋が大木に引っかかって、なんとか無事だったよ。ヒロも一限に間に合ったみたいだし、マスターは消息不明だけど、風の噂で海上でコーヒーやってるって聞いた。至高の一杯ってのも市販の物だったらしいけど、コーヒーそれぞれの味とか、その場の雰囲気で変わるらしいし、結局、至高の一杯ってのは、その人が1番美味いと感じたのが、至高の一杯って事でいいんじゃないかと俺は思うわけよ。じゃ、そろそろ話も終わるらしいし、俺もコーヒー飲んで帰ろうかな。(コーヒーを飲む)うん、苦(にげ)ぇ!!