台本概要
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タイトル | 俺が一目惚れした彼女(男性一人読み用) |
---|---|
作者名 | くま@甘党 |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男2) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
初恋シリーズの女性版のスピンオフ的な台本です。元々あった短編台本に肉付けした台本になります。わかりやすくセリフを役で分けてありますが、全て一人で読む台本です。元の短編台本には①~⑩の番号を振ってあります。
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
颯人 | 男 | 8 | |
颯人M | 男 | 66 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
「俺が一目惚れした彼女」
0:
①:「良い匂いだなぁ…」
①:疲れ切っていた俺は
①:つい甘い匂いに誘われ そのカフェに入った
①:レジ奥の厨房で 真っ先に目に入った彼女は
①:ガトーショコラを焼いていた
①:思わず見入ってしまう程
①:幸せそうにカットしている彼女に
①:俺は一目惚れした
①:注文は迷わずコーヒーとガトーショコラ
①:俺が一目惚れした彼女は
①:カフェでアルバイトをしていた
0:
颯人:「このガトーショコラ…本当に美味いな。」
颯人M:俺は藤沢颯人。
颯人M:仕事に疲れ甘いものを欲していた俺は、吸い込まれるようにこのカフェに導かれた。
颯人M:店内に入るとガラス張りの厨房の奥で、焼きたてのガトーショコラを取り出す彼女を見かけた。
颯人M:なんとも幸せそうな笑顔で匂いを嗅ぐ彼女は、本当に天使のように見えた。
颯人M:席に座りタッチパネルで商品を見ていると、ガトーショコラが目に入った。
颯人M:俺は迷わずそれを選び、一緒にコーヒーも頼む。
颯人M:この時既に、彼女が頭から離れなくなっていた。
颯人M:いわゆる一目惚れってやつ。
颯人M:今まで生きてきて、一目惚れというものをした事が無かった俺は、新鮮な気持ちでガトーショコラを食べ進めた。
颯人:きっとこれ…、彼女が焼いてくれたんだろうな。
颯人M:なんて…彼女の手料理を食べられているのかと、少し怪しい妄想までしてしまっている。
颯人M:コーヒーの味も申し分無し。
颯人M:俺はこの日から、仕事の合間や仕事終わり、とにかく時間ができたらカフェに足を運んでいた。
颯人M:彼女が居ない日も、頼むものは変わらずコーヒーとガトーショコラ。
颯人M:それ以外のメニューには目もくれず、タッチパネルも最小限の操作でオーダーを済ます。
颯人M:いつの間にか俺のリフレッシュは、このカフェでのコーヒータイムとなった。
0:
②:今日は休日
②:気分転換に髪を切り
②:いつものカフェへ向かう
②:あれからすっかり常連になり
②:ガトーショコラの虜になっている
②:そして彼女に会いたい気持ちも
②:日に日に増していくのを感じている
②:でもシャイで奥手な俺が
②:話し掛けられる訳がない
②:ただ働いている姿を見るだけで
②:勝手に癒されて満足している
②:俺が一目惚れした彼女は
②:今日も天使の様な笑顔で接客してくれる
0:
颯人M:今日も美味しかったな。
颯人M:毎回そう思いながら帰路に着くが、未だ話し掛けらない自分がいる。
颯人M:そう、俺は人見知りだ。
颯人M:今まで彼女が居た事がない訳ではないが、初めて話す異性とは打ち解けるのにかなりの時間を要する。
颯人M:特にトラウマがある訳でもないが…これは生まれ持った性格だろう。
颯人M:もっと俺に社交性があれば…。
颯人M:そんな事を考えても結局無い物ねだりで、好きになった女の子に 自分から話し掛ける勇気など湧いてこない。
颯人M:仕事では会話もスムーズなのに、何故プライベートではこんなに緊張するのか…。
0:
③:ある日のこと
③:会計時に彼女が話しかけてきた
③:俺はびっくりして 思考が停止した
③:極度の人見知りな俺は
③:美味しかったですの一言も言えず
③:ただ会釈して店を後にした
③:こんな男が自分を好きだなんて知ったら
③:きっと彼女は嫌がるだろうな…
③:俺が一目惚れした彼女は
③:俺の事をどう思ったんだろう…
0:
颯人M:帰り道、俺はずっと後悔していた。
颯人M:せっかく彼女が話し掛けてきてくれたのに、何をやっているんだ俺は…と、自分を責め続けた。
颯人M:まともに会話すらできない。
颯人M:無愛想な男ほど残念な事はない。
颯人M:きっと向こうも「感じの悪い人だ」と思ったに違いない…。
颯人M:このままではせっかく出逢えた彼女にも、あの美味しいガトーショコラも、
颯人M:全てが無くなってしまう…。
颯人M:こんな事ではダメだ。
颯人M:俺は自分を奮い立たせた。
0:
④:店内に急に彼女の声が響いた
④:どうやらオーダーを間違えたようだ
④:こんな時に優しくフォローできたら
④:どんなに心強い存在になれるか
④:同僚ではなく ただの客という立場がはがゆい
④:会計時に彼女が来たが
④:やっぱり話し掛けられない
④:こんな奥手な自分に 嫌気がさす
④:俺が一目惚れした彼女は
④:落ち込んだ顔で 見送ってくれた
0:
颯人M:ダメだった……。
颯人:「大丈夫だよ」「頑張ってね」
颯人M:たった一言、そんな言葉を掛けられたら、きっと彼女も安心しただろうに…。
颯人M:俺は何をやっているんだろう…。
颯人M:何も変わっていないじゃないか。
颯人M:次に行った時は…。
颯人M:次こそ会えた日には…。
颯人M:そう思いカフェに通うが、タイミング悪くなかなか会えない事が続いた。
颯人M:そして月日が流れ、会社で予期せぬ出来事が起きた。
0:
⑤:急遽言い渡された「3ヶ月の出張」
⑤:仕事柄 急な出張があるのは前からだが
⑤:今はあのカフェに行けなくなるのが
⑤:何より残念でならない
⑤:出張先でも 空いた時間はカフェに行くが
⑤:やはり彼女の居ないカフェは
⑤:何を食べても味気ない
⑤:あのガトーショコラの味が恋しい
⑤:俺が一目惚れした彼女は
⑤:今頃元気でやっているだろうか…
0:
颯人M:はぁ…。まさかこのタイミングで出張を言い渡されるとは…。
颯人M:1年に1、2回程出張に行く事があるが、この時期では珍しい。
颯人M:すっかり油断していた俺は、泣く泣く会社の指示に従い飛行機へ乗った。
颯人M:たまたま機内食のデザートがガトーショコラだった事で、余計に名残惜しくなってしまった。
颯人M:1ヶ月程経った頃、多少の時間の余裕ができ、地元のカフェに行ってみることにした。
颯人M:だが、やはりあのお店と比べてしまい、コーヒーの味も、食べ物の味も、何も美味しいと思えなかった。
颯人M:何より店内を見回しても、あの笑顔が無い。
颯人M:それが1番俺を切なくさせた。
颯人M:そして3ヶ月、過酷な労働を余儀なくされた俺は、ボロボロになりながらもなんとかやり遂げた。
颯人M:慣れない環境での夜。
颯人M:なかなか寝付けない夜に夢を見た。
颯人M:あのカフェの前で立ちすくむ俺。
颯人M:店内では彼女がガトーショコラを切っている…。
颯人M:どうやら俺は、夢に見る程あの時間を求めているようだ。
0:
⑥:やっと、やっと帰ってこれた
⑥:俺はすぐに念願の 彼女の居るカフェに来た
⑥:そして商品を届けてくれた彼女が
⑥:「お久しぶりですね」と話し掛けてくれた
⑥:初めてこのカフェに来た日よりも
⑥:何倍も疲れているせいか
⑥:何も考えずに 自然と答えられた
⑥:俺が一目惚れした彼女は
⑥:しっかり俺を認識してくれていた
0:
颯人M:家に帰ってきて、改めて今日を振り返る。
颯人M:今日は空港から真っ直ぐ家に帰り荷物を置き、着替えるとすぐにまた家を出た。
颯人M:そして向かうは勿論、あのカフェだ。
颯人M:店内に入ると、嗅ぎ慣れた懐かしい匂い。
颯人M:変わらない従業員、そして彼女も居た。
颯人M:安堵した。
颯人M:俺は心が救われたような感覚になった。
颯人M:疲れているせいか、半分意識がない状態でコーヒーとガトーショコラを受け取る。
彼女:「お久しぶりですね」
颯人M:彼女から声を掛けられた。
颯人:「…あぁ、ちょっと出張に行ってて」
颯人M:俺は答えた。
颯人M:…答えたはずだ。
颯人M:正直今、その時の記憶が曖昧になっている。
颯人M:何も考えずに、
颯人M:ただただ此処に来たくて、
颯人M:此処に来れただけで満足で、
颯人M:それ以外何も感じていなかった。
0:
⑦:俺…会話したんだよな この前
⑦:未だに信じられない
⑦:今日は勇気を出して自分から話し掛けてみよう
⑦:この選択が間違いだった…
⑦:彼女を呼び止めた瞬間 店内に裏返った彼女の声が響いた
⑦:は…恥ずかし過ぎて帰りたい…
⑦:こんな奴に話し掛けられたら そりゃ驚くのも当然だ…
⑦:俺が一目惚れした彼女は
⑦:調子に乗った俺を 避けるようになった気がした
0:
颯人M:やってしまった…。
颯人M:遂にやってしまった……。
颯人M:この前会話した事で変に自信を持ってしまった。
颯人M:バカだった…。
颯人M:きっと今頃…警戒しているだろう。
颯人M:会話っていっても、たった一言だけ言葉を交わしただけじゃないか…何を血迷ったんだ俺は…。
颯人M:そんな事を考えていると、付けっぱなしのテレビから
颯人:「男は多少勘違いするくらいアホなのが丁度良い!それで上手くいく場合もある!コミュ障の男達、もっとポジティブに!女の子は受け身の子が多いんだ。自分からいかなきゃ、進展はないぞー!」
颯人M:そんな言葉が流れてきた。
颯人M:……いや、ポジティブにいって泣きを見るのがオチだろ…。
颯人M:あの日会計すらしてくれなかったんだ、俺にもう脈は無い。
颯人M:…とはいえ、簡単に諦められるようなものでもない。
0:
⑧:性懲りも無く 俺は彼女に会いに
⑧:このカフェに通っている
⑧:あれからも彼女は 俺に何か一言言葉を掛けてきてくれる
⑧:どうやら避けられているのは 勘違いだったようだ
⑧:しかしもう 俺から話し掛ける事は難しい
⑧:あんな羞恥心…2度目は耐えられない
⑧:だけど……
⑧:俺が一目惚れした彼女は
⑧:今日も可愛い 見ているだけでは
⑧:もう満足できなくなってきた
0:
颯人M:何か…奇跡は起きないか。
颯人M:いや、俺が起こさないと…でも……。
颯人M:俺は店に通うのみで、彼女に対して何も行動を起こせないでいる。
颯人M:このままただ店に通っているだけじゃ、何も変わらないのはわかっている。
颯人M:だけどこの前みたいに、急に話し掛けて驚かれたら…警戒されたらと考えると、勇気が出ない。
颯人M:ある日、彼女と接する場面を意図的に増やそうと、2個目のガトーショコラを注文した時もある。
颯人M:しかしその時は空振り。
颯人M:別の店員さんが来て、
店員:「おかわりされるの珍しいですね。」
颯人M:と話し掛けられた。
颯人M:そして今日も、何事も無く店を後にした。
颯人M:そんな「ただの常連」のまま、月日が流れた。
0:
⑨:衝撃が走った
⑨:彼女が同僚に 今月で辞めると言った
⑨:今日から1週間 俺は仕事三昧で
⑨:もしかしたら 今月中に会えるのは今日だけかもしれない…
⑨:奥手 人見知り シャイ
⑨:そんな事を言っている場合じゃない
⑨:当たって砕けろ
⑨:やらずの後悔より やって後悔する
⑨:そう自分に言い聞かせながら 俺はペンを走らせる
⑨:俺が一目惚れした彼女は
⑨:俺の連絡先を受け取ってくれた
0:
颯人M:今日は25日。
颯人M:毎月、最後の週は忙しい。
颯人M:残業も多く、とてもカフェには来れない期間だ。
颯人M:そして彼女は、今月でカフェを辞める。
颯人M:盗み聞きした訳ではないが、彼女の話に耳を向けた。
颯人M:どうやら内定をもらえたそうだ。
颯人M:お祝いしてあげたい。
颯人M:応援してあげたい。
颯人M:力になりたい。
颯人M:それよりも、何よりも、
颯人M:もう会えなくなるなんて、そんな未来は絶対に嫌だ。
颯人M:何も行動しなければ、奇跡は起きない。
颯人M:今までの期間でそれは身に染みてる。
颯人M:ここで動かなければ、俺は俺を許せない。
颯人M:俺は無我夢中で、メモ帳に連絡先を書いた。
颯人M:それをビリッと破って会計に向かう。
颯人M:もちろん彼女がレジ付近に居るのを見計らって。
颯人:「これ。良かったら…。」
颯人M:彼女は驚いた様子でメモを手にした。
颯人M:よし、渡せた!
颯人M:他に言葉が出てこなかった。
颯人M:めちゃくちゃ緊張した。
颯人M:他の店員にも見られていた…。
颯人M:だけど、それでも、どうしても渡したかった。
颯人M:これで連絡が来なくても、悔いは無い。
颯人M:俺は家までの帰り道、仕事より何倍もやりきった感を感じながら歩いた。
颯人M:一目惚れから始まったこの数ヶ月間、俺は一皮剥けたかもしれない。
颯人M:あれだけ人見知りだった俺が、まさか連絡先を渡すなんて。
颯人M:そして家に着き、携帯を見てみる。
颯人M:まだ何の連絡もない。
颯人:「…風呂でも入ろう」
颯人M:俺は服を脱ぎ、風呂のドアを開けた時、通知音が聞こえた。
颯人M:急いでリビングに戻り、メールを見る。
颯人M:知らないアドレスを見て確信した。
颯人M:彼女からのメールだ。
颯人:「私は初めてあなたがお店に来た日から、ずっと会えるのを楽しみに働いていました。私の名前は永野彩希です。私がバイトを辞めた後も、あなたに会いたいです。」
颯人M:本文を読んだ瞬間、俺は力いっぱいガッツポーズをした。
颯人M:普段、感情を出さない訳では無いが、ここまであからさまに喜ぶ事もなかなか無い。
颯人M:それくらい嬉しさが込み上げた。
颯人M:すぐに返信を打ち、風呂の事なんて忘れてやりとりを続けた結果、風邪を引いたのは内緒の話だ。
0:
⑩:俺が一目惚れした彼女は
⑩:カフェでアルバイトをしていた
⑩:天使のような彼女の笑顔は
⑩:いつも俺の心を癒してくれた
⑩:連絡先を交換した日に
⑩:彼女から両想いだった事がわかるメールが届いた
⑩:それからは一気に距離が縮まり
⑩:今では愛する奥さんに
⑩:俺が一目惚れした彼女は
⑩:今日も家で
⑩:ガトーショコラを焼いてくれている
「俺が一目惚れした彼女」
0:
①:「良い匂いだなぁ…」
①:疲れ切っていた俺は
①:つい甘い匂いに誘われ そのカフェに入った
①:レジ奥の厨房で 真っ先に目に入った彼女は
①:ガトーショコラを焼いていた
①:思わず見入ってしまう程
①:幸せそうにカットしている彼女に
①:俺は一目惚れした
①:注文は迷わずコーヒーとガトーショコラ
①:俺が一目惚れした彼女は
①:カフェでアルバイトをしていた
0:
颯人:「このガトーショコラ…本当に美味いな。」
颯人M:俺は藤沢颯人。
颯人M:仕事に疲れ甘いものを欲していた俺は、吸い込まれるようにこのカフェに導かれた。
颯人M:店内に入るとガラス張りの厨房の奥で、焼きたてのガトーショコラを取り出す彼女を見かけた。
颯人M:なんとも幸せそうな笑顔で匂いを嗅ぐ彼女は、本当に天使のように見えた。
颯人M:席に座りタッチパネルで商品を見ていると、ガトーショコラが目に入った。
颯人M:俺は迷わずそれを選び、一緒にコーヒーも頼む。
颯人M:この時既に、彼女が頭から離れなくなっていた。
颯人M:いわゆる一目惚れってやつ。
颯人M:今まで生きてきて、一目惚れというものをした事が無かった俺は、新鮮な気持ちでガトーショコラを食べ進めた。
颯人:きっとこれ…、彼女が焼いてくれたんだろうな。
颯人M:なんて…彼女の手料理を食べられているのかと、少し怪しい妄想までしてしまっている。
颯人M:コーヒーの味も申し分無し。
颯人M:俺はこの日から、仕事の合間や仕事終わり、とにかく時間ができたらカフェに足を運んでいた。
颯人M:彼女が居ない日も、頼むものは変わらずコーヒーとガトーショコラ。
颯人M:それ以外のメニューには目もくれず、タッチパネルも最小限の操作でオーダーを済ます。
颯人M:いつの間にか俺のリフレッシュは、このカフェでのコーヒータイムとなった。
0:
②:今日は休日
②:気分転換に髪を切り
②:いつものカフェへ向かう
②:あれからすっかり常連になり
②:ガトーショコラの虜になっている
②:そして彼女に会いたい気持ちも
②:日に日に増していくのを感じている
②:でもシャイで奥手な俺が
②:話し掛けられる訳がない
②:ただ働いている姿を見るだけで
②:勝手に癒されて満足している
②:俺が一目惚れした彼女は
②:今日も天使の様な笑顔で接客してくれる
0:
颯人M:今日も美味しかったな。
颯人M:毎回そう思いながら帰路に着くが、未だ話し掛けらない自分がいる。
颯人M:そう、俺は人見知りだ。
颯人M:今まで彼女が居た事がない訳ではないが、初めて話す異性とは打ち解けるのにかなりの時間を要する。
颯人M:特にトラウマがある訳でもないが…これは生まれ持った性格だろう。
颯人M:もっと俺に社交性があれば…。
颯人M:そんな事を考えても結局無い物ねだりで、好きになった女の子に 自分から話し掛ける勇気など湧いてこない。
颯人M:仕事では会話もスムーズなのに、何故プライベートではこんなに緊張するのか…。
0:
③:ある日のこと
③:会計時に彼女が話しかけてきた
③:俺はびっくりして 思考が停止した
③:極度の人見知りな俺は
③:美味しかったですの一言も言えず
③:ただ会釈して店を後にした
③:こんな男が自分を好きだなんて知ったら
③:きっと彼女は嫌がるだろうな…
③:俺が一目惚れした彼女は
③:俺の事をどう思ったんだろう…
0:
颯人M:帰り道、俺はずっと後悔していた。
颯人M:せっかく彼女が話し掛けてきてくれたのに、何をやっているんだ俺は…と、自分を責め続けた。
颯人M:まともに会話すらできない。
颯人M:無愛想な男ほど残念な事はない。
颯人M:きっと向こうも「感じの悪い人だ」と思ったに違いない…。
颯人M:このままではせっかく出逢えた彼女にも、あの美味しいガトーショコラも、
颯人M:全てが無くなってしまう…。
颯人M:こんな事ではダメだ。
颯人M:俺は自分を奮い立たせた。
0:
④:店内に急に彼女の声が響いた
④:どうやらオーダーを間違えたようだ
④:こんな時に優しくフォローできたら
④:どんなに心強い存在になれるか
④:同僚ではなく ただの客という立場がはがゆい
④:会計時に彼女が来たが
④:やっぱり話し掛けられない
④:こんな奥手な自分に 嫌気がさす
④:俺が一目惚れした彼女は
④:落ち込んだ顔で 見送ってくれた
0:
颯人M:ダメだった……。
颯人:「大丈夫だよ」「頑張ってね」
颯人M:たった一言、そんな言葉を掛けられたら、きっと彼女も安心しただろうに…。
颯人M:俺は何をやっているんだろう…。
颯人M:何も変わっていないじゃないか。
颯人M:次に行った時は…。
颯人M:次こそ会えた日には…。
颯人M:そう思いカフェに通うが、タイミング悪くなかなか会えない事が続いた。
颯人M:そして月日が流れ、会社で予期せぬ出来事が起きた。
0:
⑤:急遽言い渡された「3ヶ月の出張」
⑤:仕事柄 急な出張があるのは前からだが
⑤:今はあのカフェに行けなくなるのが
⑤:何より残念でならない
⑤:出張先でも 空いた時間はカフェに行くが
⑤:やはり彼女の居ないカフェは
⑤:何を食べても味気ない
⑤:あのガトーショコラの味が恋しい
⑤:俺が一目惚れした彼女は
⑤:今頃元気でやっているだろうか…
0:
颯人M:はぁ…。まさかこのタイミングで出張を言い渡されるとは…。
颯人M:1年に1、2回程出張に行く事があるが、この時期では珍しい。
颯人M:すっかり油断していた俺は、泣く泣く会社の指示に従い飛行機へ乗った。
颯人M:たまたま機内食のデザートがガトーショコラだった事で、余計に名残惜しくなってしまった。
颯人M:1ヶ月程経った頃、多少の時間の余裕ができ、地元のカフェに行ってみることにした。
颯人M:だが、やはりあのお店と比べてしまい、コーヒーの味も、食べ物の味も、何も美味しいと思えなかった。
颯人M:何より店内を見回しても、あの笑顔が無い。
颯人M:それが1番俺を切なくさせた。
颯人M:そして3ヶ月、過酷な労働を余儀なくされた俺は、ボロボロになりながらもなんとかやり遂げた。
颯人M:慣れない環境での夜。
颯人M:なかなか寝付けない夜に夢を見た。
颯人M:あのカフェの前で立ちすくむ俺。
颯人M:店内では彼女がガトーショコラを切っている…。
颯人M:どうやら俺は、夢に見る程あの時間を求めているようだ。
0:
⑥:やっと、やっと帰ってこれた
⑥:俺はすぐに念願の 彼女の居るカフェに来た
⑥:そして商品を届けてくれた彼女が
⑥:「お久しぶりですね」と話し掛けてくれた
⑥:初めてこのカフェに来た日よりも
⑥:何倍も疲れているせいか
⑥:何も考えずに 自然と答えられた
⑥:俺が一目惚れした彼女は
⑥:しっかり俺を認識してくれていた
0:
颯人M:家に帰ってきて、改めて今日を振り返る。
颯人M:今日は空港から真っ直ぐ家に帰り荷物を置き、着替えるとすぐにまた家を出た。
颯人M:そして向かうは勿論、あのカフェだ。
颯人M:店内に入ると、嗅ぎ慣れた懐かしい匂い。
颯人M:変わらない従業員、そして彼女も居た。
颯人M:安堵した。
颯人M:俺は心が救われたような感覚になった。
颯人M:疲れているせいか、半分意識がない状態でコーヒーとガトーショコラを受け取る。
彼女:「お久しぶりですね」
颯人M:彼女から声を掛けられた。
颯人:「…あぁ、ちょっと出張に行ってて」
颯人M:俺は答えた。
颯人M:…答えたはずだ。
颯人M:正直今、その時の記憶が曖昧になっている。
颯人M:何も考えずに、
颯人M:ただただ此処に来たくて、
颯人M:此処に来れただけで満足で、
颯人M:それ以外何も感じていなかった。
0:
⑦:俺…会話したんだよな この前
⑦:未だに信じられない
⑦:今日は勇気を出して自分から話し掛けてみよう
⑦:この選択が間違いだった…
⑦:彼女を呼び止めた瞬間 店内に裏返った彼女の声が響いた
⑦:は…恥ずかし過ぎて帰りたい…
⑦:こんな奴に話し掛けられたら そりゃ驚くのも当然だ…
⑦:俺が一目惚れした彼女は
⑦:調子に乗った俺を 避けるようになった気がした
0:
颯人M:やってしまった…。
颯人M:遂にやってしまった……。
颯人M:この前会話した事で変に自信を持ってしまった。
颯人M:バカだった…。
颯人M:きっと今頃…警戒しているだろう。
颯人M:会話っていっても、たった一言だけ言葉を交わしただけじゃないか…何を血迷ったんだ俺は…。
颯人M:そんな事を考えていると、付けっぱなしのテレビから
颯人:「男は多少勘違いするくらいアホなのが丁度良い!それで上手くいく場合もある!コミュ障の男達、もっとポジティブに!女の子は受け身の子が多いんだ。自分からいかなきゃ、進展はないぞー!」
颯人M:そんな言葉が流れてきた。
颯人M:……いや、ポジティブにいって泣きを見るのがオチだろ…。
颯人M:あの日会計すらしてくれなかったんだ、俺にもう脈は無い。
颯人M:…とはいえ、簡単に諦められるようなものでもない。
0:
⑧:性懲りも無く 俺は彼女に会いに
⑧:このカフェに通っている
⑧:あれからも彼女は 俺に何か一言言葉を掛けてきてくれる
⑧:どうやら避けられているのは 勘違いだったようだ
⑧:しかしもう 俺から話し掛ける事は難しい
⑧:あんな羞恥心…2度目は耐えられない
⑧:だけど……
⑧:俺が一目惚れした彼女は
⑧:今日も可愛い 見ているだけでは
⑧:もう満足できなくなってきた
0:
颯人M:何か…奇跡は起きないか。
颯人M:いや、俺が起こさないと…でも……。
颯人M:俺は店に通うのみで、彼女に対して何も行動を起こせないでいる。
颯人M:このままただ店に通っているだけじゃ、何も変わらないのはわかっている。
颯人M:だけどこの前みたいに、急に話し掛けて驚かれたら…警戒されたらと考えると、勇気が出ない。
颯人M:ある日、彼女と接する場面を意図的に増やそうと、2個目のガトーショコラを注文した時もある。
颯人M:しかしその時は空振り。
颯人M:別の店員さんが来て、
店員:「おかわりされるの珍しいですね。」
颯人M:と話し掛けられた。
颯人M:そして今日も、何事も無く店を後にした。
颯人M:そんな「ただの常連」のまま、月日が流れた。
0:
⑨:衝撃が走った
⑨:彼女が同僚に 今月で辞めると言った
⑨:今日から1週間 俺は仕事三昧で
⑨:もしかしたら 今月中に会えるのは今日だけかもしれない…
⑨:奥手 人見知り シャイ
⑨:そんな事を言っている場合じゃない
⑨:当たって砕けろ
⑨:やらずの後悔より やって後悔する
⑨:そう自分に言い聞かせながら 俺はペンを走らせる
⑨:俺が一目惚れした彼女は
⑨:俺の連絡先を受け取ってくれた
0:
颯人M:今日は25日。
颯人M:毎月、最後の週は忙しい。
颯人M:残業も多く、とてもカフェには来れない期間だ。
颯人M:そして彼女は、今月でカフェを辞める。
颯人M:盗み聞きした訳ではないが、彼女の話に耳を向けた。
颯人M:どうやら内定をもらえたそうだ。
颯人M:お祝いしてあげたい。
颯人M:応援してあげたい。
颯人M:力になりたい。
颯人M:それよりも、何よりも、
颯人M:もう会えなくなるなんて、そんな未来は絶対に嫌だ。
颯人M:何も行動しなければ、奇跡は起きない。
颯人M:今までの期間でそれは身に染みてる。
颯人M:ここで動かなければ、俺は俺を許せない。
颯人M:俺は無我夢中で、メモ帳に連絡先を書いた。
颯人M:それをビリッと破って会計に向かう。
颯人M:もちろん彼女がレジ付近に居るのを見計らって。
颯人:「これ。良かったら…。」
颯人M:彼女は驚いた様子でメモを手にした。
颯人M:よし、渡せた!
颯人M:他に言葉が出てこなかった。
颯人M:めちゃくちゃ緊張した。
颯人M:他の店員にも見られていた…。
颯人M:だけど、それでも、どうしても渡したかった。
颯人M:これで連絡が来なくても、悔いは無い。
颯人M:俺は家までの帰り道、仕事より何倍もやりきった感を感じながら歩いた。
颯人M:一目惚れから始まったこの数ヶ月間、俺は一皮剥けたかもしれない。
颯人M:あれだけ人見知りだった俺が、まさか連絡先を渡すなんて。
颯人M:そして家に着き、携帯を見てみる。
颯人M:まだ何の連絡もない。
颯人:「…風呂でも入ろう」
颯人M:俺は服を脱ぎ、風呂のドアを開けた時、通知音が聞こえた。
颯人M:急いでリビングに戻り、メールを見る。
颯人M:知らないアドレスを見て確信した。
颯人M:彼女からのメールだ。
颯人:「私は初めてあなたがお店に来た日から、ずっと会えるのを楽しみに働いていました。私の名前は永野彩希です。私がバイトを辞めた後も、あなたに会いたいです。」
颯人M:本文を読んだ瞬間、俺は力いっぱいガッツポーズをした。
颯人M:普段、感情を出さない訳では無いが、ここまであからさまに喜ぶ事もなかなか無い。
颯人M:それくらい嬉しさが込み上げた。
颯人M:すぐに返信を打ち、風呂の事なんて忘れてやりとりを続けた結果、風邪を引いたのは内緒の話だ。
0:
⑩:俺が一目惚れした彼女は
⑩:カフェでアルバイトをしていた
⑩:天使のような彼女の笑顔は
⑩:いつも俺の心を癒してくれた
⑩:連絡先を交換した日に
⑩:彼女から両想いだった事がわかるメールが届いた
⑩:それからは一気に距離が縮まり
⑩:今では愛する奥さんに
⑩:俺が一目惚れした彼女は
⑩:今日も家で
⑩:ガトーショコラを焼いてくれている