台本概要
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タイトル | アサギマダラの処方箋 |
---|---|
作者名 | 真野ショウタ (@eda2812) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
アサギマダラ、藤袴。 【利用規約】(こまかいところ) https://note.com/otetsudai_s/n/nd62bdc5b1067 237 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
フジ | 男 | 97 | 藤川徹。地方の産婦人科医。シニカル |
マキ | 女 | 97 | 浅葱真姫。娼婦。頭がいい。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
フジ:毒の匂いがした。
フジ:甘く、軽やかな鱗粉の匂いだ。
フジ:彼女は、アサギマダラの匂いがした。
【タイトルコール】アサギマダラの処方箋
(読まずとも構いません)
0:〇診察室・フジ、患者を見送る。
フジ:「お大事に。無理しないようにね」
フジ:「……はあ」
マキ:「何、ため息ついてるの? センセ」
フジ:「……診察室には呼ばれるまで入ってきちゃいけないんだよ」
マキ:「勝手に入らなきゃ、先生、サボってるでしょ」
フジ:「ひと息、淹れるだけさ」
マキ:「じゃあ問題ないわね。私はヒスって騒がしくしないから」
フジ:「君だけを特別扱いはできない」
マキ:「今日、最後のオキャクサンよ。どう足掻いても特別なのは変わらないわ」
0:フジ、待合室を覗く。
フジ:「……本当に最後みたいだね」
マキ:「先生。私もコーヒー欲しい」
フジ:「ここは喫茶店じゃないんだ」
マキ:「あら。お礼のつもりなんだけど? 私との食事は普通はお金がかかるんだから」
0:フジ、コーヒーを淹れる
フジ:「…………不合理だね」
マキ:「ありがと。ここのコーヒーが一番好きよ、マスター」
フジ:「インスタントなんだ、自分で買って淹れるのをオススメするよ」
マキ:「私はヌく方が得意だからね、淹れるのは先生にしてもらうの」
フジ:「まさか上手いことを言ったつもりかい?」
マキ:「オジサンたちには大受けなのよ」
フジ:「なら、僕がオジサンじゃない証明ができたわけだね。ありがと」
マキ:「どういたしまして」
フジ:「体調に変わりはないかい?」
マキ:「先生はどうなの?」
フジ:「僕は健康さ」
マキ:「それは嘘よ。医者なんだから」
フジ:「医者の不養生?」
マキ:「そうそれ」
フジ:「僕はヤブ医者だから健康なんだ」
マキ:「ブラックジャックみたいね、ふふふ…」
フジ:「免許なら持ってるよ。それにブラックジャックは名医だろ」
マキ:「先生のそれを命題にして対偶をとると、ブラックジャックは不健康になちゃうわ」
フジ:「ん? ……いや、そもそも命題に取れないだろうに」
マキ:「考えるのが面倒だからって投げないでほしいわ」
フジ:「頭がいいのをひけらかされる方の身にもなるといい」
マキ:「そのせいなのかしらね。私、陰口言われてるみたいなの」
フジ:「へぇ……」
マキ:「……」
フジ:「……」
マキ:「ねえ、仕事何時に終わるの?」
フジ:「君が帰ったら終わるさ」
0:マキ、立ち上がる。
マキ:「帰る」
フジ:「えっ」
マキ:「……ふふっ。怒ったと思った?」
フジ:「うん」
マキ:「どう?」
フジ:「怖かったよ」
マキ:「そう。じゃあ、許してあげる」
フジ:「それは良かった。ありがとう」
マキ:「ただとは言ってないよ」
フジ:「えっ」
マキ:「ふふっ、その顔。怖がらないでよ。ちょっと遊びに行くだけよ」
0:〇カラオケ
マキ:「はい。何歌う?」
フジ:「僕が歌を歌うように見える?」
マキ:「馬鹿言わないで。職業なら知ってるわよ?」
フジ:「そう。僕は君が思ってるより馬鹿だから許してくれるかな?」
マキ:「自分のことを馬鹿だって言う人嫌い」
フジ:「どうして?」
マキ:「大抵は本当に馬鹿なんじゃなくて、面倒くさがってるだけだから。『馬鹿だから分かんない』じゃなくて、『面倒だから無視するね』だから」
フジ:「ふーん」
マキ:「私って面倒くさい女?」
フジ:「そのセリフは面倒くさいね。手前の意見は面白かったよ」
マキ:「よかった」
フジ:「……歌ってあげようか?」
マキ:「え!? 歌えるの?」
フジ:「僕も日本国民だ。ドラえもんくらいなら歌えると思う」
マキ:「あっははは、いいね。一緒に歌おう!」
0:フジ、ひとしきり歌い終える。
マキ:「アハハハ」
フジ:「ご機嫌だね」
マキ:「サイコー」
フジ:「僕のドラえもんはそんなに良かった?」
マキ:「うん。毎週歌ってね」
フジ:「流石に主題歌に選ばれるのは遠慮したいかな」
マキ:「ね。ドラえもんのひみつ道具、何がほしい?」
フジ:「とりよせバッグ」
マキ:「お。即答」
フジ:「整頓の必要がなくなるからね」
マキ:「倉庫を借りて物は全部その中に放り込んでおくんでしょ?」
フジ:「部屋がスッキリするね」
マキ:「でも倉庫まで返すのが面倒くさそう。四次元ポケットでいいじゃん。ポケットだけだけど」
フジ:「四次元ポケットの中身は整頓が必要だから却下だね」
マキ:「そんなに整頓苦手なの? 意外かも」
フジ:「病院のカルテを全部電子データにしてもらったくらいには苦手だよ」
マキ:「紙のカルテは?」
フジ:「秘密」
マキ:「いいことね。最近の患者のデータとかってブロックチェーンで消えないようになってるんでしょ?」
フジ:「そんないいもの導入してないよ」
マキ:「高いの?」
フジ:「知らない。まだ日本では使ってないんじゃない? 僕の所のカルテは月2万円くらいのサービスを使ってる」
マキ:「いい値段するね」
フジ:「安い方だよ。君は?」
マキ:「5万円かな」
フジ:「ひみつ道具」
マキ:「面白くなかった?」
フジ:「君ならそのジョークで笑う?」
マキ:「仕事ならね。これ系のジョークは言ってる方は楽しいね」
フジ:「聞いてる身はつまらない」
マキ:「知ってる。私はねタケコプター」
フジ:「どこでもドアじゃなくて?」
マキ:「うん。道中楽しみたい旅人でして」
フジ:「国土交通省に飛行許可を取るのが、面倒くさそうだね」
マキ:「当然低空飛行でこっそり飛ぶことにする。もちろんジーンズで」
フジ:「なんでジーンズ?」
マキ:「カッコイイでしょ」
フジ:「ふーん」
マキ:「嘘でも似合いそうって言ってほしい」
フジ:「お似合いだね」
マキ:「ありがと。ちょっと助かる」
フジ:「……」
マキ:「ねえ、膝枕させて」
フジ:「どういうこと?」
マキ:「先生の膝を貸してってこと」
フジ:「……」
マキ:「変なことしないから〜」
フジ:「……元気?」
マキ:「はい?」
フジ:「いや、なんでもない。片膝なら貸すから聞き流しといて」
0:マキ、フジの膝に頭をのせる。
マキ:「はーい。よっと」
フジ:「お酒飲んでたっけ?」
マキ:「私、お酒飲まない主義なんだよね」
フジ:「僕もだ」
マキ:「気が合うね〜」
フジ:「そうだね」
マキ:「あ。先生もそう思ってくれてる?」
フジ:「まあ、それなりには」
マキ:「趣味とかさ。話が面白いとか、どれだけ互いを知ってるかとかじゃないんだよね。欲しいのは」
フジ:「ほう」
マキ:「先生と私、いつも中身のない会話しかしてないでしょ」
フジ:「そうだね」
マキ:「この空虚が好き」
フジ:「中身のない話をするユーチューバーが好きみたいなものかな」
マキ:「違うよ。無駄な話は無駄」
フジ:「さっぱり違いがわからないよ」
マキ:「ユーチューバー始めてみる?」
フジ:「仕事の延長でも流石に嫌かな」
マキ:「私はユーチューバーやってみたいかな。旅チューバー」
フジ:「似合いそうだね」
マキ:「今も転々虫[テンテンムシ]してるからね。もう少しでまた何処かに行っちゃうよ」
フジ:「やっぱり、そろそろ行くつもりだったんだ」
マキ:「お? そんなこと思ってたの? 寂しい?」
フジ:「急に僕を誘い出したのも、地方の思い出を一つ作りたかったんだろう?」
マキ:「違うよ。いや、違くはないけど」
フジ:「どっちなのか」
マキ:「……中身のある話をしちゃうぞ?」
フジ:「するのは構わないよ。期待はされても困るけどね」
マキ:「この仕事、疲れたなあって」
フジ:「仕事は、みんな疲れるものだよ」
マキ:「私もそう思ってた。私なら割り切ってしまえると思ってた。私、頭いいからね」
フジ:「頭いいと君の周りではイジメられそうだね」
マキ:「悪いフリくらいちゃんとできてたよ『頭悪いからわかんなーい』って。そんな上辺が何枚も重ねられててさ。重たいなあって」
フジ:「何枚か数えてご覧よ」
マキ:「整形した顔。豊胸したおっぱい。エロ味の高い服。無駄に高い啼き声。匂いを作るアメニティ。部屋に並べるぬいぐるみ」
フジ:「ぬいぐるみ?」
マキ:「女の子の部屋を演出するグッズ」
フジ:「なるほど」
マキ:「重た〜い」
フジ:「メイクのしすぎで肌荒れしたみたいな感じかな」
マキ:「まさにそんな感じ。そりゃ、いろんな感覚がイカれるに決まってる」
フジ:「どんな感覚?」
マキ:「品性が落ちに落ちたね。下着が面倒くさい。あとギャグセンも落ちた。つまらないギャグも口から駄々漏れ」
フジ:「それなりに面白いギャグも言ってたよ」
マキ:「先生といるときは多少はマシよ。仕事中は酔っぱらいババアみたいね」
フジ:「老けたんだね」
マキ:「それが一番大きいかも」
フジ:「……老けたから、落ち込んでるの?」
マキ:「まさか。でも、老けたみたいに疲れてしまってる。周りの泡嬢と同じみたいに」
フジ:「なるほど」
マキ:「自分はあんなふうにならない自身があった。あっさり稼いで好きなことをして、地方を転々と遊び回るの。資格も取りながら程々の貯金をしておいて、程々のタイミングでリタイア」
フジ:「理想的だね」
マキ:「でも、最近はすごく重たい。心みたいなものかな。すごく重たい。毒を溜め込みすぎた」
フジ:「毒……ね」
マキ:「うん。身体もいじってるし、ますます、重たい。出てくる声もなんだか変な色してる気がする」
フジ:「……そんなことはないよ。無色だ」
マキ:「あー。無職になりたい」
フジ:「君さぁ……」
マキ:「ほら、ギャグセン落ちてるから」
フジ:「……そ。まあ、いいけど」
マキ:「ありがと」
フジ:「……隣の芝は青いって言うよね。……やっぱり何でもない」
マキ:「あ、ギャグセン伝播した」
フジ:「慰めようとしたんだけどな」
マキ:「慰めるなら私の身体触ってみてよ」
フジ:「どういう理屈、それ?」
マキ:「私に触れてほしいの。私の体に届いて欲しい」
フジ:「詩人みたいだね」
0:マキ、フジの目を見つめる。
マキ:「ただのギャグのつもりはないよ」
フジ:「そう」
マキ:「今から外に出ると、先生は気がつくの。夜の色がこびりついていている私は、とても汚いだろうからね。そしたら、あなたも私を可愛そうだと思うから、ほんの少し、情が湧いて一晩くらいは幸せにしてあげたいと思うの」
フジ:「君は、汚い」
マキ:「なら、あなたが洗って」
0:〇フジ自宅・ベッド
フジ:彼女は、綺麗だった。
フジ:夜、彼女は声を上げなかった。
フジ:静かに啼いただけだった。
マキ:「ルックスでもないし、優しさでもないし、テクニックでもないの。空気が好き。先生の空気。だから、先生とは浅い会話しかしたくない。不純物の情報を入れたくない。情を混ぜたくない」
フジ:彼女は破綻していた。
フジ:それがわからないくらいには。
フジ:「……僕を洗剤だと勘違いしてる?」
マキ:「優しくしてって言ってるでしょ?」
フジ:翌朝、彼女は消えた。
フジ:僕なりに優しくはしたつもりだ。
フジ:僕の手が、彼女に届いたかは分からないけど、
フジ:彼女の匂いの大半は、僕の部屋に落としていった。
フジ:僕の心を過ぎ去らぬままに。
フジ:毒の匂いがした。
フジ:甘く、軽やかな鱗粉の匂いだ。
フジ:彼女は、アサギマダラの匂いがした。
【タイトルコール】アサギマダラの処方箋
(読まずとも構いません)
0:〇診察室・フジ、患者を見送る。
フジ:「お大事に。無理しないようにね」
フジ:「……はあ」
マキ:「何、ため息ついてるの? センセ」
フジ:「……診察室には呼ばれるまで入ってきちゃいけないんだよ」
マキ:「勝手に入らなきゃ、先生、サボってるでしょ」
フジ:「ひと息、淹れるだけさ」
マキ:「じゃあ問題ないわね。私はヒスって騒がしくしないから」
フジ:「君だけを特別扱いはできない」
マキ:「今日、最後のオキャクサンよ。どう足掻いても特別なのは変わらないわ」
0:フジ、待合室を覗く。
フジ:「……本当に最後みたいだね」
マキ:「先生。私もコーヒー欲しい」
フジ:「ここは喫茶店じゃないんだ」
マキ:「あら。お礼のつもりなんだけど? 私との食事は普通はお金がかかるんだから」
0:フジ、コーヒーを淹れる
フジ:「…………不合理だね」
マキ:「ありがと。ここのコーヒーが一番好きよ、マスター」
フジ:「インスタントなんだ、自分で買って淹れるのをオススメするよ」
マキ:「私はヌく方が得意だからね、淹れるのは先生にしてもらうの」
フジ:「まさか上手いことを言ったつもりかい?」
マキ:「オジサンたちには大受けなのよ」
フジ:「なら、僕がオジサンじゃない証明ができたわけだね。ありがと」
マキ:「どういたしまして」
フジ:「体調に変わりはないかい?」
マキ:「先生はどうなの?」
フジ:「僕は健康さ」
マキ:「それは嘘よ。医者なんだから」
フジ:「医者の不養生?」
マキ:「そうそれ」
フジ:「僕はヤブ医者だから健康なんだ」
マキ:「ブラックジャックみたいね、ふふふ…」
フジ:「免許なら持ってるよ。それにブラックジャックは名医だろ」
マキ:「先生のそれを命題にして対偶をとると、ブラックジャックは不健康になちゃうわ」
フジ:「ん? ……いや、そもそも命題に取れないだろうに」
マキ:「考えるのが面倒だからって投げないでほしいわ」
フジ:「頭がいいのをひけらかされる方の身にもなるといい」
マキ:「そのせいなのかしらね。私、陰口言われてるみたいなの」
フジ:「へぇ……」
マキ:「……」
フジ:「……」
マキ:「ねえ、仕事何時に終わるの?」
フジ:「君が帰ったら終わるさ」
0:マキ、立ち上がる。
マキ:「帰る」
フジ:「えっ」
マキ:「……ふふっ。怒ったと思った?」
フジ:「うん」
マキ:「どう?」
フジ:「怖かったよ」
マキ:「そう。じゃあ、許してあげる」
フジ:「それは良かった。ありがとう」
マキ:「ただとは言ってないよ」
フジ:「えっ」
マキ:「ふふっ、その顔。怖がらないでよ。ちょっと遊びに行くだけよ」
0:〇カラオケ
マキ:「はい。何歌う?」
フジ:「僕が歌を歌うように見える?」
マキ:「馬鹿言わないで。職業なら知ってるわよ?」
フジ:「そう。僕は君が思ってるより馬鹿だから許してくれるかな?」
マキ:「自分のことを馬鹿だって言う人嫌い」
フジ:「どうして?」
マキ:「大抵は本当に馬鹿なんじゃなくて、面倒くさがってるだけだから。『馬鹿だから分かんない』じゃなくて、『面倒だから無視するね』だから」
フジ:「ふーん」
マキ:「私って面倒くさい女?」
フジ:「そのセリフは面倒くさいね。手前の意見は面白かったよ」
マキ:「よかった」
フジ:「……歌ってあげようか?」
マキ:「え!? 歌えるの?」
フジ:「僕も日本国民だ。ドラえもんくらいなら歌えると思う」
マキ:「あっははは、いいね。一緒に歌おう!」
0:フジ、ひとしきり歌い終える。
マキ:「アハハハ」
フジ:「ご機嫌だね」
マキ:「サイコー」
フジ:「僕のドラえもんはそんなに良かった?」
マキ:「うん。毎週歌ってね」
フジ:「流石に主題歌に選ばれるのは遠慮したいかな」
マキ:「ね。ドラえもんのひみつ道具、何がほしい?」
フジ:「とりよせバッグ」
マキ:「お。即答」
フジ:「整頓の必要がなくなるからね」
マキ:「倉庫を借りて物は全部その中に放り込んでおくんでしょ?」
フジ:「部屋がスッキリするね」
マキ:「でも倉庫まで返すのが面倒くさそう。四次元ポケットでいいじゃん。ポケットだけだけど」
フジ:「四次元ポケットの中身は整頓が必要だから却下だね」
マキ:「そんなに整頓苦手なの? 意外かも」
フジ:「病院のカルテを全部電子データにしてもらったくらいには苦手だよ」
マキ:「紙のカルテは?」
フジ:「秘密」
マキ:「いいことね。最近の患者のデータとかってブロックチェーンで消えないようになってるんでしょ?」
フジ:「そんないいもの導入してないよ」
マキ:「高いの?」
フジ:「知らない。まだ日本では使ってないんじゃない? 僕の所のカルテは月2万円くらいのサービスを使ってる」
マキ:「いい値段するね」
フジ:「安い方だよ。君は?」
マキ:「5万円かな」
フジ:「ひみつ道具」
マキ:「面白くなかった?」
フジ:「君ならそのジョークで笑う?」
マキ:「仕事ならね。これ系のジョークは言ってる方は楽しいね」
フジ:「聞いてる身はつまらない」
マキ:「知ってる。私はねタケコプター」
フジ:「どこでもドアじゃなくて?」
マキ:「うん。道中楽しみたい旅人でして」
フジ:「国土交通省に飛行許可を取るのが、面倒くさそうだね」
マキ:「当然低空飛行でこっそり飛ぶことにする。もちろんジーンズで」
フジ:「なんでジーンズ?」
マキ:「カッコイイでしょ」
フジ:「ふーん」
マキ:「嘘でも似合いそうって言ってほしい」
フジ:「お似合いだね」
マキ:「ありがと。ちょっと助かる」
フジ:「……」
マキ:「ねえ、膝枕させて」
フジ:「どういうこと?」
マキ:「先生の膝を貸してってこと」
フジ:「……」
マキ:「変なことしないから〜」
フジ:「……元気?」
マキ:「はい?」
フジ:「いや、なんでもない。片膝なら貸すから聞き流しといて」
0:マキ、フジの膝に頭をのせる。
マキ:「はーい。よっと」
フジ:「お酒飲んでたっけ?」
マキ:「私、お酒飲まない主義なんだよね」
フジ:「僕もだ」
マキ:「気が合うね〜」
フジ:「そうだね」
マキ:「あ。先生もそう思ってくれてる?」
フジ:「まあ、それなりには」
マキ:「趣味とかさ。話が面白いとか、どれだけ互いを知ってるかとかじゃないんだよね。欲しいのは」
フジ:「ほう」
マキ:「先生と私、いつも中身のない会話しかしてないでしょ」
フジ:「そうだね」
マキ:「この空虚が好き」
フジ:「中身のない話をするユーチューバーが好きみたいなものかな」
マキ:「違うよ。無駄な話は無駄」
フジ:「さっぱり違いがわからないよ」
マキ:「ユーチューバー始めてみる?」
フジ:「仕事の延長でも流石に嫌かな」
マキ:「私はユーチューバーやってみたいかな。旅チューバー」
フジ:「似合いそうだね」
マキ:「今も転々虫[テンテンムシ]してるからね。もう少しでまた何処かに行っちゃうよ」
フジ:「やっぱり、そろそろ行くつもりだったんだ」
マキ:「お? そんなこと思ってたの? 寂しい?」
フジ:「急に僕を誘い出したのも、地方の思い出を一つ作りたかったんだろう?」
マキ:「違うよ。いや、違くはないけど」
フジ:「どっちなのか」
マキ:「……中身のある話をしちゃうぞ?」
フジ:「するのは構わないよ。期待はされても困るけどね」
マキ:「この仕事、疲れたなあって」
フジ:「仕事は、みんな疲れるものだよ」
マキ:「私もそう思ってた。私なら割り切ってしまえると思ってた。私、頭いいからね」
フジ:「頭いいと君の周りではイジメられそうだね」
マキ:「悪いフリくらいちゃんとできてたよ『頭悪いからわかんなーい』って。そんな上辺が何枚も重ねられててさ。重たいなあって」
フジ:「何枚か数えてご覧よ」
マキ:「整形した顔。豊胸したおっぱい。エロ味の高い服。無駄に高い啼き声。匂いを作るアメニティ。部屋に並べるぬいぐるみ」
フジ:「ぬいぐるみ?」
マキ:「女の子の部屋を演出するグッズ」
フジ:「なるほど」
マキ:「重た〜い」
フジ:「メイクのしすぎで肌荒れしたみたいな感じかな」
マキ:「まさにそんな感じ。そりゃ、いろんな感覚がイカれるに決まってる」
フジ:「どんな感覚?」
マキ:「品性が落ちに落ちたね。下着が面倒くさい。あとギャグセンも落ちた。つまらないギャグも口から駄々漏れ」
フジ:「それなりに面白いギャグも言ってたよ」
マキ:「先生といるときは多少はマシよ。仕事中は酔っぱらいババアみたいね」
フジ:「老けたんだね」
マキ:「それが一番大きいかも」
フジ:「……老けたから、落ち込んでるの?」
マキ:「まさか。でも、老けたみたいに疲れてしまってる。周りの泡嬢と同じみたいに」
フジ:「なるほど」
マキ:「自分はあんなふうにならない自身があった。あっさり稼いで好きなことをして、地方を転々と遊び回るの。資格も取りながら程々の貯金をしておいて、程々のタイミングでリタイア」
フジ:「理想的だね」
マキ:「でも、最近はすごく重たい。心みたいなものかな。すごく重たい。毒を溜め込みすぎた」
フジ:「毒……ね」
マキ:「うん。身体もいじってるし、ますます、重たい。出てくる声もなんだか変な色してる気がする」
フジ:「……そんなことはないよ。無色だ」
マキ:「あー。無職になりたい」
フジ:「君さぁ……」
マキ:「ほら、ギャグセン落ちてるから」
フジ:「……そ。まあ、いいけど」
マキ:「ありがと」
フジ:「……隣の芝は青いって言うよね。……やっぱり何でもない」
マキ:「あ、ギャグセン伝播した」
フジ:「慰めようとしたんだけどな」
マキ:「慰めるなら私の身体触ってみてよ」
フジ:「どういう理屈、それ?」
マキ:「私に触れてほしいの。私の体に届いて欲しい」
フジ:「詩人みたいだね」
0:マキ、フジの目を見つめる。
マキ:「ただのギャグのつもりはないよ」
フジ:「そう」
マキ:「今から外に出ると、先生は気がつくの。夜の色がこびりついていている私は、とても汚いだろうからね。そしたら、あなたも私を可愛そうだと思うから、ほんの少し、情が湧いて一晩くらいは幸せにしてあげたいと思うの」
フジ:「君は、汚い」
マキ:「なら、あなたが洗って」
0:〇フジ自宅・ベッド
フジ:彼女は、綺麗だった。
フジ:夜、彼女は声を上げなかった。
フジ:静かに啼いただけだった。
マキ:「ルックスでもないし、優しさでもないし、テクニックでもないの。空気が好き。先生の空気。だから、先生とは浅い会話しかしたくない。不純物の情報を入れたくない。情を混ぜたくない」
フジ:彼女は破綻していた。
フジ:それがわからないくらいには。
フジ:「……僕を洗剤だと勘違いしてる?」
マキ:「優しくしてって言ってるでしょ?」
フジ:翌朝、彼女は消えた。
フジ:僕なりに優しくはしたつもりだ。
フジ:僕の手が、彼女に届いたかは分からないけど、
フジ:彼女の匂いの大半は、僕の部屋に落としていった。
フジ:僕の心を過ぎ去らぬままに。