台本概要

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タイトル カエルの肉は、鶏肉の味がするらしい
作者名 激舌ノ鯖
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 カエルとヘビの話。

ご自由に。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ヘビ  80 キャバ嬢。
カエル 78 客。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
カエルの肉は、鶏肉の味がするらしい 本編 ヘビ :私、龍になりたいのよ。 カエル:へえ。 ヘビ :そのためには、あなたが必要なの。 カエル:へえ。 ヘビ :あなたのたった一言で、私は卑しいヘビから龍になれるのよ。あなたは私にとって恩人になれるわけ。 カエル:へえ。 ヘビ :…………。 ヘビ :…いい加減にしなさいよ!! ヘビ :ムダ知識ばっかり教えてくれる昔の番組のスイッチみたいな返事して!!アンタココに何しにきたわけ?!ココ何処かわかってんの?! カエル:ここ?どこだっけ。 ヘビ :キャバクラよ!!指名するだけして水しか飲まずで、もうすぐ閉店なんだけど?!何してんの?! カエル:へへ、今日も元気だねぇ。 ヘビ :ひとをよく吠える犬みたいに言わないでくれる…? カエル:ヘビより犬のがいいんじゃない? ヘビ :いやよ。だって犬じゃ龍にはなれないじゃない。 カエル:犬なら狛犬になれるんじゃない?獅子みたいでカッコイイ。 ヘビ :獅子ってライオンでしょ?犬じゃないんじゃ…。 ヘビ :ていうかそういう問題じゃなくて!あと一本!あと一本シャンパン入れてくれたら!私はトップになれるの!龍になれるのよ!そしてもう閉店間近!あなたしかいないのよ!! カエル:「ビックリ」マークがいっぱいだねぇ。 ヘビ :もう…!あとちょっとなのに…! カエル:そうなの? ヘビ :だからさっきからそう言ってるでしょう…? カエル:頼んでもいいけど…まずはお友達からかなぁ。 ヘビ :な、何よそれ?! カエル:友達でもない人にお酒奢るのはちょっと。 ヘビ :あなたホント何しにきたの…? カエル:お友達になったら教えます。 ヘビ :…わかった。わかったわ、お友達ね。なればいいんでしょ。今日からあなたと私はお友達。これでいいかしら?! カエル:投げやりだなぁ。 ヘビ :じゃあどうすればいいのよ…。 カエル:へへ、冗談だよ、冗談。 ヘビ :はぁ…。 カエル:そういえば、どうして龍になりたいんだい? ヘビ :えっと、、飛んでみたいのよ、、 カエル:へえ。 ヘビ :聞いてきたんだから興味持ちなさいよ!!! カエル:飛んで何になるっていうんだ? ヘビ :そういうあんたもよく跳んでるじゃない! カエル:それが僕の仕事ですから。 ヘビ :そういうあんたは…なりたいものは無いの? カエル:なりたいもの…かぁ。へへ、秘密。うん、まだ秘密にしておこーっと。 ヘビ :秘密ねぇ〜。……どうせ私に教える気は無いんでしょ。 カエル:ちゃんと教えるってば!…その時がきたらね。しいて言うなら跳び飽きたんだよ。 ヘビ :あなたの口から、跳び飽きたって言葉が出るなんてね。私、今日傘持ってきたかしら。 カエル:傘は嵩張《かさば》るもんね。 ヘビ :そこは皮肉よ、返さなくていいわ。 カエル:もう一度聞くよ。飛んで何になるっていうんだ? ヘビ :あなたは秘密ばっかりの癖に……まぁいいわ、秘密にするほどの事じゃない。 ヘビ :……この店、入口の通路に飾ってある沢山の顔写真があるじゃない。キャバ嬢の顔写真。 カエル:あるね。 ヘビ :一番上にある大きな額縁には龍が彫ってあるの。売り上げのトップになったら、そのトップの子の顔写真がそこに入ることになるわ。 ヘビ :それを私たちの中では龍になるって言うの。 カエル:それだけ? ヘビ :そっ!それだけ。……今、その一番上の写真の枠は空いているの。龍だった子が辞めちゃったからね。 ヘビ :……私、いっつも底辺から空の龍を見てた。 ヘビ : だからなおさら憧れた。龍になった子たちが言うの。空からの景色は違うんだって、輝いて見えるんだって、世界が違って見えるんだって。 カエル:売り上げトップになったら、今見てる景色が変わるの? ヘビ :知らないわよ。私もあなたみたいにバカにしてたこともある。龍になったら、景色が違って見えるなんて、オカルトにもほどがあるってね。あとほんの少しで龍になれると思ったら、私もバカね。 ヘビ :……見たくなっちゃった。 カエル:そういうもんか。 ヘビ :そういうもんよ。だから一度でも見てみたいのよ、その一番上の、空の景色ってやつを。でもダメね。今回でダメだったら、もう無理よ。 カエル:なんでだい? 今も龍に迫るまでに人気があるんだろ? ヘビ :周囲を見てみなさいよ。魅力ある後輩が沢山いるわ。店の売り上げも右肩上がりよ。それに引き換え私の人気は右肩下がり。……私、次の龍をかけた売り上げレースには、候補にすら上がらないでしょうね。 カエル:そんなこと……。 ヘビ :そんなことがあるのよ。この世界は若い子の方が人気があるの。 カエル:へぇ、そういうもんなんだ。 ヘビ :あなたもどうせお酌するなら若い子の方がいいでしょ。 ヘビ :私じゃ、水しか飲まないんだしね。 カエル:それは、どうだろうね。 ヘビ :なにが、どうだろうね〜よ。今日は水しか飲んでないじゃない。 ヘビ :それともなに、嫌がらせ? カエル:嫌がらせ、嫌がらせ…か。 カエル:それなら君は、僕に何かしてくれたの? ヘビ :毎回私を指名してくれて、前の月ではピンクのドンペリを二つも頼んでくれたわね。今日のあなたは変よ。 ヘビ :今日あなたと何をやったかしら……。 ヘビ :ムンクの叫びは自然が叫んでるだけで、中心の人は叫んでない、とか、あなたの無駄知識も沢山ニコニコと聞いてあげたわ。 ヘビ :そして友達にもなった。 カエル:そうだそうだ、友達になったね。 カエル:ただ待って、鼻詰まりは反対の脇にペットボトルを挟むと解消する。これは無駄知識じゃなかったでしょ? ヘビ :私、花粉症じゃないの。無駄知識よ。 カエル:花粉症なんていつなるかわかんないよ。明日なるかもだし。かみすぎて鼻真っ赤にした龍なんて格好つかないでしょ ヘビ :あなたが龍にさせてくれるの? そうしたら、その無駄知識、少しは役に立つかも知れないわね。 カエル:僕この前、調子に乗って高いお酒頼んだじゃん。それで気づいたの僕がゲコだって。 ヘビ :お酒飲めなかったの? カエル:その時、初めてお酒飲んだよ。無駄知識が一つ増えたね。 ヘビ :そうね。 カエル:あとシャンパン一つで龍になるんでしょ。じゃ龍になった後のことを教えてよ。 ヘビ :教えてあげたら、ドンペリでも頼んでくれるの? カエル:うん、面白ければね。 ヘビ :ふっ、なにそれ。考えてないじゃいけない? カエル:それで僕の『がま口財布』が開くと思ってる? ヘビ :本当に考えてないのよ。ずっと上を見ながら仕事してきたわ。下を見ても、景色は変わらないのに、龍になったらと夢想して、仮想の空を眺めても、私にはわからない。 ヘビ :龍になった後なんて想像もつかない。あなたは想像できる? 井の中の蛙が、砂漠の景色なんて想像できないでしょ。 カエル : その憧れの龍になった後を考えるのも楽しくない? カエル:僕も売り上げトップに、ここで言うところの龍になったことがあって。頑張って、頑張って、頑張って、勝ち取ったトップ。嬉しかったなぁ。 カエル:それから僕は売り上げトップを取り続けた。 ヘビ :さすが、素敵、すごいですね〜。 カエル:全然思ってないね。 ヘビ :今の私に売り上げトップの自慢話をするのは、私に刺されたい自殺志望者か、心のノートをお読みになってない方、だけですよ。 カエル:僕を刺したらシャンパンが入ることはないよ? ヘビ :だから皮肉よ、ひ・に・く! カエル:ひき肉です? ヘビ :違うわよ!はぁ…もう! カエル:僕ね、跳び飽きたんだ。 ヘビ :さっきも聞いたわよ。 カエル:迷ってたんだ、なりたいもの。今の仕事を辞めて、企業しようかな〜って、でも君の龍の話を聞いて決心がついた。 ヘビ :なりたいものの、秘密をあかすタイミング。その時が急に来たわね。 ヘビ :って、跳び飽きたんでしょ。企業するならまた跳び回ることにならない? カエル:ん、だから君の言う通り、井の中の蛙は、砂漠を見てみようかなって。 ヘビ :あなたの見える景色からは、まだ砂漠は見えなかったのかしら? カエル:そう、まだね。 カエル:君の憧れの龍になった後の人生。僕に少しだけくれないかな。 ヘビ :それは……口説いてるの? ごめんなさい。ここはそういう場所しゃないの。 カエル:そこら辺のセクハラオヤジと一緒にしてもらっては困る。 ヘビ :私にはあなたの無駄知識も、セクハラオヤジと変わらないんだけど。 カエル:そんなに僕の評価低いの!? 君が欲しいのは間違いないけど、僕の企業を手伝ってくれないかっていう話。 ヘビ :私、頭良くないわよ。英語も出来ないし、どんな仕事かも分からないから知識もゼロよ。 カエル:それぐらいなら僕がカバーする。君となら売り上げが軌道に乗らなくても、楽しめちゃいそうなんだ。 ヘビ :決心したんでしょ。自分からステージを上げて、空から砂漠も見えるぐらいの大きな龍になるんじゃなかったの? 軌道に乗らないとダメじゃない。そこでもトップになるんでしょ。 カエル:ふ、そうだね。まず君を龍にしないと。 カエル:僕のこの『がま口財布』に、100万入ってる。君が龍になるまで、シャンパンをいくらでも頼んでいいよ。 ヘビ :いいの? 私、あなたの誘いを断るわよ。 カエル:それは困るな。 ヘビ :困るならテーブルに置いた『がま口財布』しまいなさい。もう私も水を頼むから乾杯しましょ。 カエル:なんで? シャンパンを奢る理由はあと一つある。 ヘビ :へ? カエル:今日龍として生まれ変わるんでしょ。僕からの誕生日プレゼント。君が100万を好きに使っていいよ。友達にもなってもらったし、君の言葉で決心もついた。 ヘビ :こんなに貰えない! カエル:僕も無駄知識の披露だけで、ちょっとは稼いだけど、君のサービスは100万でも足りないと思っているよ。ごめんね、今持ち合わせてるお金は、これだけなんだ。 ヘビ :無駄知識は本当に無駄だったけど……ど、どこに行くの? カエル:僕はここら辺で失礼しようかなってね。 ヘビ :なんでよ。乾杯しないの? カエル:僕はゲコだよ。お酒はもう飲みたくないんだよ。 ヘビ :待って…! カエル:…何? ヘビ :ゲコだかピョコだか知らないけど、、私が龍になる姿、見ていきなさいよ。 カエル:う〜ん、明日早いからな。 ヘビ :こんな時間までいて、そんな理由通るわけないわ。あなたが言っていた企業の件、もう少し居れば、私の気が変わるかもしれない。 カエル:意地悪なお嬢様だ。そういうことなら、お供しますよ。 ヘビ :最初に意地悪をやってきたのはあなたでしょ。 カエル:記憶にございません。 ヘビ :お願いしま〜す! (100万貰ったから、レッド一つ貰ってもいいかな。……うんうん、時間はないけど大丈夫) カエル:……注文終わった? ヘビ :終わったよ。   カエル:ところでさ、レッドってなに? ヘビ :高級シャンパン。 カエル:へぇ〜。でもこれで龍になれるね。 ヘビ :他の人が、シャンパンをいれなければね。 カエル:えっ! これで龍になれないとかあるの? ヘビ :そりゃそうよ。みんなトップになるために売り上げ伸ばそうと必死なんだから。 カエル:もうこんな時間だよ。順位が入れ替わるなんてないよ。 ヘビ :私たちも仕掛けた側だけどね。この時間帯だと、トップが入れ替わることなんて、まぁわりと、よくある。 カエル:へぇ〜、キャバクラの世界って凄いんだね。 ヘビ :でも今回は運が良かったわね。ラストオーダーが終わったわ。 カエル:じゃあ……。 ヘビ :そ、私が龍よ。 カエル:なんかヌルッと決まった感じだね。龍になって何か変わった? ヘビ :まだ実感も湧かないわね。でも達成感はもちろんあって。 カエル:空からの見た景色はどう? 世界が違って見える? ヘビ :それはもう、……変わらないわ。 カエル:変わらないか〜。 ヘビ :でも、龍になったことがない子に、龍になってみてどう? って聞かれたら、話を盛っちゃうかも。私も憧れて欲しいもの。 カエル:憧れて欲しいんだ? ヘビ :…当然でしょ、私だって、その、憧れてたんだから。 カエル:たぶん、その時に見える世界が変わるんじゃないかな。 ヘビ :どういう意味? カエル:どういう意味でしょ。 ヘビ :またはぐらかす。でも……ありがとう。 カエル:何に対して? ヘビ :決まってるでしょ。あなたが居なかったら私は龍になれなかった。 カエル:友達として、当然さ。で、僕の誘いを受ける気にはなったかな。 ヘビ :ふっ……ならないわ。 カエル:そうか。……君は、誰かの憧れの龍にならないといけないからね。 ヘビ :なにそれ。 カエル:僕、次に会う時は一文無しになってるかも。 ヘビ :その時は、私から奢ってあげる。 カエル:それは楽しみだ。 ヘビ :友達だから当然でしょ。またね。

カエルの肉は、鶏肉の味がするらしい 本編 ヘビ :私、龍になりたいのよ。 カエル:へえ。 ヘビ :そのためには、あなたが必要なの。 カエル:へえ。 ヘビ :あなたのたった一言で、私は卑しいヘビから龍になれるのよ。あなたは私にとって恩人になれるわけ。 カエル:へえ。 ヘビ :…………。 ヘビ :…いい加減にしなさいよ!! ヘビ :ムダ知識ばっかり教えてくれる昔の番組のスイッチみたいな返事して!!アンタココに何しにきたわけ?!ココ何処かわかってんの?! カエル:ここ?どこだっけ。 ヘビ :キャバクラよ!!指名するだけして水しか飲まずで、もうすぐ閉店なんだけど?!何してんの?! カエル:へへ、今日も元気だねぇ。 ヘビ :ひとをよく吠える犬みたいに言わないでくれる…? カエル:ヘビより犬のがいいんじゃない? ヘビ :いやよ。だって犬じゃ龍にはなれないじゃない。 カエル:犬なら狛犬になれるんじゃない?獅子みたいでカッコイイ。 ヘビ :獅子ってライオンでしょ?犬じゃないんじゃ…。 ヘビ :ていうかそういう問題じゃなくて!あと一本!あと一本シャンパン入れてくれたら!私はトップになれるの!龍になれるのよ!そしてもう閉店間近!あなたしかいないのよ!! カエル:「ビックリ」マークがいっぱいだねぇ。 ヘビ :もう…!あとちょっとなのに…! カエル:そうなの? ヘビ :だからさっきからそう言ってるでしょう…? カエル:頼んでもいいけど…まずはお友達からかなぁ。 ヘビ :な、何よそれ?! カエル:友達でもない人にお酒奢るのはちょっと。 ヘビ :あなたホント何しにきたの…? カエル:お友達になったら教えます。 ヘビ :…わかった。わかったわ、お友達ね。なればいいんでしょ。今日からあなたと私はお友達。これでいいかしら?! カエル:投げやりだなぁ。 ヘビ :じゃあどうすればいいのよ…。 カエル:へへ、冗談だよ、冗談。 ヘビ :はぁ…。 カエル:そういえば、どうして龍になりたいんだい? ヘビ :えっと、、飛んでみたいのよ、、 カエル:へえ。 ヘビ :聞いてきたんだから興味持ちなさいよ!!! カエル:飛んで何になるっていうんだ? ヘビ :そういうあんたもよく跳んでるじゃない! カエル:それが僕の仕事ですから。 ヘビ :そういうあんたは…なりたいものは無いの? カエル:なりたいもの…かぁ。へへ、秘密。うん、まだ秘密にしておこーっと。 ヘビ :秘密ねぇ〜。……どうせ私に教える気は無いんでしょ。 カエル:ちゃんと教えるってば!…その時がきたらね。しいて言うなら跳び飽きたんだよ。 ヘビ :あなたの口から、跳び飽きたって言葉が出るなんてね。私、今日傘持ってきたかしら。 カエル:傘は嵩張《かさば》るもんね。 ヘビ :そこは皮肉よ、返さなくていいわ。 カエル:もう一度聞くよ。飛んで何になるっていうんだ? ヘビ :あなたは秘密ばっかりの癖に……まぁいいわ、秘密にするほどの事じゃない。 ヘビ :……この店、入口の通路に飾ってある沢山の顔写真があるじゃない。キャバ嬢の顔写真。 カエル:あるね。 ヘビ :一番上にある大きな額縁には龍が彫ってあるの。売り上げのトップになったら、そのトップの子の顔写真がそこに入ることになるわ。 ヘビ :それを私たちの中では龍になるって言うの。 カエル:それだけ? ヘビ :そっ!それだけ。……今、その一番上の写真の枠は空いているの。龍だった子が辞めちゃったからね。 ヘビ :……私、いっつも底辺から空の龍を見てた。 ヘビ : だからなおさら憧れた。龍になった子たちが言うの。空からの景色は違うんだって、輝いて見えるんだって、世界が違って見えるんだって。 カエル:売り上げトップになったら、今見てる景色が変わるの? ヘビ :知らないわよ。私もあなたみたいにバカにしてたこともある。龍になったら、景色が違って見えるなんて、オカルトにもほどがあるってね。あとほんの少しで龍になれると思ったら、私もバカね。 ヘビ :……見たくなっちゃった。 カエル:そういうもんか。 ヘビ :そういうもんよ。だから一度でも見てみたいのよ、その一番上の、空の景色ってやつを。でもダメね。今回でダメだったら、もう無理よ。 カエル:なんでだい? 今も龍に迫るまでに人気があるんだろ? ヘビ :周囲を見てみなさいよ。魅力ある後輩が沢山いるわ。店の売り上げも右肩上がりよ。それに引き換え私の人気は右肩下がり。……私、次の龍をかけた売り上げレースには、候補にすら上がらないでしょうね。 カエル:そんなこと……。 ヘビ :そんなことがあるのよ。この世界は若い子の方が人気があるの。 カエル:へぇ、そういうもんなんだ。 ヘビ :あなたもどうせお酌するなら若い子の方がいいでしょ。 ヘビ :私じゃ、水しか飲まないんだしね。 カエル:それは、どうだろうね。 ヘビ :なにが、どうだろうね〜よ。今日は水しか飲んでないじゃない。 ヘビ :それともなに、嫌がらせ? カエル:嫌がらせ、嫌がらせ…か。 カエル:それなら君は、僕に何かしてくれたの? ヘビ :毎回私を指名してくれて、前の月ではピンクのドンペリを二つも頼んでくれたわね。今日のあなたは変よ。 ヘビ :今日あなたと何をやったかしら……。 ヘビ :ムンクの叫びは自然が叫んでるだけで、中心の人は叫んでない、とか、あなたの無駄知識も沢山ニコニコと聞いてあげたわ。 ヘビ :そして友達にもなった。 カエル:そうだそうだ、友達になったね。 カエル:ただ待って、鼻詰まりは反対の脇にペットボトルを挟むと解消する。これは無駄知識じゃなかったでしょ? ヘビ :私、花粉症じゃないの。無駄知識よ。 カエル:花粉症なんていつなるかわかんないよ。明日なるかもだし。かみすぎて鼻真っ赤にした龍なんて格好つかないでしょ ヘビ :あなたが龍にさせてくれるの? そうしたら、その無駄知識、少しは役に立つかも知れないわね。 カエル:僕この前、調子に乗って高いお酒頼んだじゃん。それで気づいたの僕がゲコだって。 ヘビ :お酒飲めなかったの? カエル:その時、初めてお酒飲んだよ。無駄知識が一つ増えたね。 ヘビ :そうね。 カエル:あとシャンパン一つで龍になるんでしょ。じゃ龍になった後のことを教えてよ。 ヘビ :教えてあげたら、ドンペリでも頼んでくれるの? カエル:うん、面白ければね。 ヘビ :ふっ、なにそれ。考えてないじゃいけない? カエル:それで僕の『がま口財布』が開くと思ってる? ヘビ :本当に考えてないのよ。ずっと上を見ながら仕事してきたわ。下を見ても、景色は変わらないのに、龍になったらと夢想して、仮想の空を眺めても、私にはわからない。 ヘビ :龍になった後なんて想像もつかない。あなたは想像できる? 井の中の蛙が、砂漠の景色なんて想像できないでしょ。 カエル : その憧れの龍になった後を考えるのも楽しくない? カエル:僕も売り上げトップに、ここで言うところの龍になったことがあって。頑張って、頑張って、頑張って、勝ち取ったトップ。嬉しかったなぁ。 カエル:それから僕は売り上げトップを取り続けた。 ヘビ :さすが、素敵、すごいですね〜。 カエル:全然思ってないね。 ヘビ :今の私に売り上げトップの自慢話をするのは、私に刺されたい自殺志望者か、心のノートをお読みになってない方、だけですよ。 カエル:僕を刺したらシャンパンが入ることはないよ? ヘビ :だから皮肉よ、ひ・に・く! カエル:ひき肉です? ヘビ :違うわよ!はぁ…もう! カエル:僕ね、跳び飽きたんだ。 ヘビ :さっきも聞いたわよ。 カエル:迷ってたんだ、なりたいもの。今の仕事を辞めて、企業しようかな〜って、でも君の龍の話を聞いて決心がついた。 ヘビ :なりたいものの、秘密をあかすタイミング。その時が急に来たわね。 ヘビ :って、跳び飽きたんでしょ。企業するならまた跳び回ることにならない? カエル:ん、だから君の言う通り、井の中の蛙は、砂漠を見てみようかなって。 ヘビ :あなたの見える景色からは、まだ砂漠は見えなかったのかしら? カエル:そう、まだね。 カエル:君の憧れの龍になった後の人生。僕に少しだけくれないかな。 ヘビ :それは……口説いてるの? ごめんなさい。ここはそういう場所しゃないの。 カエル:そこら辺のセクハラオヤジと一緒にしてもらっては困る。 ヘビ :私にはあなたの無駄知識も、セクハラオヤジと変わらないんだけど。 カエル:そんなに僕の評価低いの!? 君が欲しいのは間違いないけど、僕の企業を手伝ってくれないかっていう話。 ヘビ :私、頭良くないわよ。英語も出来ないし、どんな仕事かも分からないから知識もゼロよ。 カエル:それぐらいなら僕がカバーする。君となら売り上げが軌道に乗らなくても、楽しめちゃいそうなんだ。 ヘビ :決心したんでしょ。自分からステージを上げて、空から砂漠も見えるぐらいの大きな龍になるんじゃなかったの? 軌道に乗らないとダメじゃない。そこでもトップになるんでしょ。 カエル:ふ、そうだね。まず君を龍にしないと。 カエル:僕のこの『がま口財布』に、100万入ってる。君が龍になるまで、シャンパンをいくらでも頼んでいいよ。 ヘビ :いいの? 私、あなたの誘いを断るわよ。 カエル:それは困るな。 ヘビ :困るならテーブルに置いた『がま口財布』しまいなさい。もう私も水を頼むから乾杯しましょ。 カエル:なんで? シャンパンを奢る理由はあと一つある。 ヘビ :へ? カエル:今日龍として生まれ変わるんでしょ。僕からの誕生日プレゼント。君が100万を好きに使っていいよ。友達にもなってもらったし、君の言葉で決心もついた。 ヘビ :こんなに貰えない! カエル:僕も無駄知識の披露だけで、ちょっとは稼いだけど、君のサービスは100万でも足りないと思っているよ。ごめんね、今持ち合わせてるお金は、これだけなんだ。 ヘビ :無駄知識は本当に無駄だったけど……ど、どこに行くの? カエル:僕はここら辺で失礼しようかなってね。 ヘビ :なんでよ。乾杯しないの? カエル:僕はゲコだよ。お酒はもう飲みたくないんだよ。 ヘビ :待って…! カエル:…何? ヘビ :ゲコだかピョコだか知らないけど、、私が龍になる姿、見ていきなさいよ。 カエル:う〜ん、明日早いからな。 ヘビ :こんな時間までいて、そんな理由通るわけないわ。あなたが言っていた企業の件、もう少し居れば、私の気が変わるかもしれない。 カエル:意地悪なお嬢様だ。そういうことなら、お供しますよ。 ヘビ :最初に意地悪をやってきたのはあなたでしょ。 カエル:記憶にございません。 ヘビ :お願いしま〜す! (100万貰ったから、レッド一つ貰ってもいいかな。……うんうん、時間はないけど大丈夫) カエル:……注文終わった? ヘビ :終わったよ。   カエル:ところでさ、レッドってなに? ヘビ :高級シャンパン。 カエル:へぇ〜。でもこれで龍になれるね。 ヘビ :他の人が、シャンパンをいれなければね。 カエル:えっ! これで龍になれないとかあるの? ヘビ :そりゃそうよ。みんなトップになるために売り上げ伸ばそうと必死なんだから。 カエル:もうこんな時間だよ。順位が入れ替わるなんてないよ。 ヘビ :私たちも仕掛けた側だけどね。この時間帯だと、トップが入れ替わることなんて、まぁわりと、よくある。 カエル:へぇ〜、キャバクラの世界って凄いんだね。 ヘビ :でも今回は運が良かったわね。ラストオーダーが終わったわ。 カエル:じゃあ……。 ヘビ :そ、私が龍よ。 カエル:なんかヌルッと決まった感じだね。龍になって何か変わった? ヘビ :まだ実感も湧かないわね。でも達成感はもちろんあって。 カエル:空からの見た景色はどう? 世界が違って見える? ヘビ :それはもう、……変わらないわ。 カエル:変わらないか〜。 ヘビ :でも、龍になったことがない子に、龍になってみてどう? って聞かれたら、話を盛っちゃうかも。私も憧れて欲しいもの。 カエル:憧れて欲しいんだ? ヘビ :…当然でしょ、私だって、その、憧れてたんだから。 カエル:たぶん、その時に見える世界が変わるんじゃないかな。 ヘビ :どういう意味? カエル:どういう意味でしょ。 ヘビ :またはぐらかす。でも……ありがとう。 カエル:何に対して? ヘビ :決まってるでしょ。あなたが居なかったら私は龍になれなかった。 カエル:友達として、当然さ。で、僕の誘いを受ける気にはなったかな。 ヘビ :ふっ……ならないわ。 カエル:そうか。……君は、誰かの憧れの龍にならないといけないからね。 ヘビ :なにそれ。 カエル:僕、次に会う時は一文無しになってるかも。 ヘビ :その時は、私から奢ってあげる。 カエル:それは楽しみだ。 ヘビ :友達だから当然でしょ。またね。