台本概要
245 views
タイトル | バカンス300時間 【1:1:1】 -法外宙域ローヴァーゲイル #3 |
---|---|
作者名 | ろくしょうるり (@ruri6syo) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 3人用台本(男1、女1、不問1) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
人類の惑星間移民が始まって200。 母星地球を中心に惑星間物流も活発に行われるようになり、多くの『宙運船』が行き交う宇宙。 そんな宙運航路と積み荷の安全を守る、宙運私警団、人呼んで『アブサード』 フウガ役に軽微な兼ね役(エキストラ)あり このシナリオはシリーズシナリオですが<どのシナリオからも読むことができます。 使ってくださったらツイートなどしていただけたら嬉しいです 245 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
リリ | 女 | 94 | 10歳少女。 暗い過去を持つが記憶がない。 トラのぬいぐるみを抱いている |
ロジー | 男 | 122 | 26歳男性。 宙運私警団 調査班所属 |
フウガ | 不問 | 100 | 高性能なAI 途中、エキストラのセリフあり |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
ロジー:16時間前、おれたちの元に舞い込んだスクランブル。大型貨物母船が海賊に襲撃されている、と
ロジー:おれは相棒のAI、フウガと共に…配属されたばかりの幼女…リリを連れて現場に急行
フウガ:敵船確認。小型のアサルトタイプ…5機
ロジー:5機?!
フウガ:多すぎます。普通ではありませんね
ロジー:くそ、あいつら寄ってたかって…タグコンテナがバラバラじゃないか!
リリ:リ・レイ・アチャ・ノウラ 終わらぬ雨よ降り注げ…白閃(ひゃくせん)のもと 天矢(あまや)よ集え…
リリ:ホーミング・アロー!
0:
ロジー:リリとトラのぬいぐるみ、『トラちゃん』の放ったよくわからん砲撃が全てを破壊し、
ロジー:保護した貨物母船の乗員15名と共に、おれたちは基地に帰還したのであった
ロジー:その後おれたちがメイヤード総括にどやされたのは言うまでもなく…
0:
ロジー:喜べ、二人とも。久しぶりの休暇だ!
リリ:きゅうか?わたし、きのうチームに入ったばっかり
ロジー:ほーら、総括がおれたちにいいものを渡してくれたぞ。これだ
リリ:なにこれ。…パス? えーと、エ…デ ン?
フウガ:リリ、それは惑星エデン行きのチケットですね
ロジー:他の惑星、行ったことがないだろ?良かったなー、エデンはいい所だぞ?自然がいっぱいだ!
フウガ:おめでとう、ロジー、あなたには本当に久しぶりの休暇です
ロジー:あー、久しぶりに羽が伸ばせそうだ なにせ300時間もあるんだからな!
0:
0:
リリ:『法外宙域ローヴァーゲイル』
フウガ:『バカンス、300時間』
0:
0:
フウガ:では、私は一人で留守番ですね。いい機会です。久しぶりにドックに戻ってじっくりとメンテナンスでもしていただきましょうかね
ロジー:それなんだがな、フウガ。 お前も一緒だ
フウガ:おや。私は待機ではないのですか
ロジー:まあな …ふぅ
リリ:どうしたの?ロジー
フウガ:ははあ、これはどうやら、ただの停職処分ではないようですね
0:
0:
0:
リリ:- 惑星エデン衛星圏宙域 -
リリ:- 宙運私警団 ファースト・フロンティア本部基地 -
リリ:- 数時間前 -
0:
ロジー:で…リリのまとめておいてくれた巡視班からのデータログも見たが…はあ、本当に厄介だよ、今回のこの事件は
フウガ:ええ
リリ:おかしいところ、たくさんあるね
ロジー:だな
フウガ:不自然に派手な襲撃、散らばった積み荷に偽装された機雷、エンジン部に搭載されていたと思われる大容量の火器 …これだけでも充分厄介だらけですが
ロジー:でもそれだけじゃない…昨日スクラップになった貨物母船の所属!
フウガ:ビオバイアス・グループの船、ですね。確かにこれは… 今頃、総括も頭を抱えていることでしょう
ロジー:そ! はあぁー、なんてこったよ
リリ:どうしたの?ビオバイアスのふね、なにかたいへん、なの?
ロジー:(なげやり)フウガ、説明頼んだ
フウガ:了解。ビオバイアスは、地球、ファーストフロンティア、セカンドフロンティア、3つの星系にまたがり幅広く事業を展開する巨大企業グループです
フウガ:独自の流通システムを持ち、宇宙軍の艦船および装備品をほぼ一手に引き受けています
フウガ:そのため、『広域宙運業事業者連合(こういき ちゅううんぎょう じぎょうしゃ れんごう)』に所属していません
リリ:『ちゅううんれん』に、はいって…ない船?
フウガ:ええ。そうです
リリ:わたし、ふねも、にもつも、ぜんぶこわしちゃった… ビオバイアス、おこるよね…
ロジー:そうだな。でもそれがダメだったわけじゃない。
ロジー:おれたちは、例え宙運連に入ってない船でも、航路上でトラブってれば対処する。他の船も危ないからな
フウガ:ええ、今回のリリの対処はあの場では最適でした。おかげで航行上の被害をゼロに抑えられたのですから、我々の仕事としては上々ですよ
ロジー:ああ、そうだぞ。リリが気に病む事は無い。ただ
フウガ:メイヤード総括の仕事が増えました
ロジー:そうそう、メイヤード総括の仕事が増えただけ …って!何言ってんのフウガ?!
フウガ:違いましたか?
ロジー:…いや、違わない。あー、まあその結果、ビオバイアスに対して体面上の処分が追加されるだろうなってことさ
リリ:うう… ごめん…なさい
フウガ:リリ、悪いのは、ビオバイアスの船です。彼らは明らかに、我々に対し悪い目的を持っています。そういうことですね、ロジー
ロジー:ああ。俺もそう思う
リリ:どうして?
ロジー:えー、…と ほら、資料の…ここ見てみろ。ビオバイアスの母船を襲った5機のアサルト機の形、見覚えが無いか?
リリ:あっ、色はちがうけど、宇宙軍でつかってるのと、おなじ
ロジー:ああ、って事はこれは
リリ:ビオバイアスが、つくったふね?
ロジー:そういうことだ。相手が本当に海賊ならただの略奪にこの機体は使わない。リスクだけでメリットが薄い。なぜなら
リリ:そっか…
リリ:せいのうと、じゃくてん… かいぞうできるはんい…よくしってるあいてには… むかない。
リリ:それに、うちゅうぐんとおなじかたのふねにするなら …いろもおなじにする、よね
ロジー:ほー。さすが総括が目をかけた天才少女だな
フウガ:そもそもですが、この事件に海賊は存在していませんでした。わざわざ別のカラーで逆偽装している、という見解が最も可能性が高いですね
ロジー:ああ、保護した15名は、全員乗組員だった。5機のアサルトタイプのうち1機が母船に突入していたにも関わらず、だ
フウガ:私のデータでも実際に保護した乗組員とスキャニングで確認できた船内の人数は一致しています。
フウガ:そこに海賊がいたとしたら、船内には入らず船外に漂っていた、ということになりますが…
リリ:わたしとトラちゃんも、そんなひとは、みつけられなかったよ。ね、トラちゃん
ロジー:つまりこの事件は、十中八九ビオバイアスの自作自演
フウガ:事件を起こして宙運連合に対処させることが目的と推測できますね
ロジー:ああ。何ともきな臭くて厄介な事態だよ。こりゃ。 向こうが糾弾する材料から何かを引っ張るつもりだ。それは… …あ
ロジー:…っと、連絡来た。
フウガ:メイヤード総括からですね。いってらっしゃい
ロジー:はぁ、ついに処分が言い渡されるのか
リリ:ロジー、こわくないといいね
フウガ:頑張ってください、ロジー
0:
0:
0:
フウガ:で、ロジー。私までエデン行きとはどういういきさつですか?
ロジー:予想通りビオバイアスが動いた。どうやら地球では大騒ぎらしいぜ。宙運私警団がビオバイアスの貨物船を攻撃、破壊したってな
ロジー:向こうの主張は『訓練』ってことにしたらしいぜ? 他の航行船舶に通達なしの航路上で? はっ!言い訳にしてもどうかしてるよ
リリ:… うう…
フウガ:訓練と仮定したとしても今回のビオバイアス側の行動は問題点が多すぎます。それに元々、あの船はリリが破壊しなくてもメインエンジンに偽装した爆破装置があったでしょう
リリ:そっか… わたしがこわさなくても、ぼせん、ばくはつしてた…
ロジー:向こうさん、回収班が持ち帰った母船とコンテナ、アサルト機の残骸を未調査で返還しろってさ
フウガ:調べられると困るでしょうしね。あちらも、まさかリリが吹き飛ばしたとは思ってないでしょう。それで、メイヤード総括の選択は?
ロジー:勿論、未調査返還に応じるしかないさ。ただし、これだけは例外だ
リリ:きれい… きらきらしたかけら…それは、なに?
フウガ:識別チップですね?
ロジー:ああ。船籍と船体番号、乗船者、航路航行情報が入ってる。メイヤード総括はこの『チップ』の返還だけは断固拒否した。こいつを持ってエデンに降りる。おれたちは向こうの矛先だからな
フウガ:なるほど、停職かと思いましたが、このチームをエデンへ退避させるということですね?
ロジー:そういうこと。実質、停職処分の名目はビオバイアス向きってわけだ。だけど… あー、なんだ。…フウガにはひとつ、我慢してもらいたいことがある
フウガ:なんですか?
ロジー:…フウガ機の凍結
リリ:えっ… フウガを…とうけつ?
フウガ:わたしの機体を300時間凍結させる、ということでしたら、特に問題はありません。二人にわざわざチケットを渡したのです。私の機体で退避するつもりはないのでしょう
ロジー:いや、 …っあー、 この先もずーっと?
フウガ:どういうことです?
ロジー:メイヤード総括の出した、チップの …交換条件? 『フウガ機』を差し出すことで合意に持ち込んだっていうわけ
リリ:えっ、フウガ、とられちゃうの?
フウガ:ははあ。そういうことですか。で、それをロジー、あなたも合意してきた、と
ロジー:フウガ、怒らないでくれよ。向こうが納得するだけの『人質』がほしい、だろ?
ロジー:『フウガ機』は高い出力を出せる量子変換ドライブを積んではいるが、そんな大火力を装備できるタイプじゃない
ロジー:小回りの利くスピード型。ばらまかれた機雷やアサルト機を殲滅するための機体だ
ロジー:向こうが母船の破壊をフウガ機の火力のせいにしようとしたところで、逆に世間的にそれが証明されるだろ
フウガ:確かに。この機体であの大型母船を吹き飛ばすような火器はバランス的に不可能です
ロジー:こっちはそれをうまく使う魂胆さ。機体はAIユニット無し、内部データもなし、本当にカラの状態で引き渡す
フウガ:なるほど?
ロジー:引き渡し作業開始は1時間後、それまでにおれとリリは中のもの片付け。ドックに機体移送の準備が終わり次第フウガを連れてエデン降りる。まずはそういう手はずだ
フウガ:はあ、わかりました。この機体にも馴染んで、ずいぶん愛着も出てきたところだったのですが、仕方がありませんね
リリ:つぎは、もっといいふねにのせてもらえるかも
フウガ:そうですね。期待します。やれやれ、仕方ありません。早速私は移動の準備に入りましょうか… スリープモードを実行します
リリ:あれっ、フウガ、 …フウガ? ロジー、フウガ、動かなくなっちゃったよ?
ロジー:大丈夫だ。フウガは全ての機器の動体連結を切って本体に戻ったんだよ。中に引きこもって移動する準備に入ったのさ
リリ:ふぅん
ロジー:じゃあおれたちも準備だ。急いで『空っぽのフウガ機』を準備するぞ!
0:
0:- フウガ機格納ゲート -
0:
リリ:ロジー、じゅんびできたよ。ふふっ、ほかのわくせいにおりるの、たのしみ! トラちゃんもたのしみだって!
ロジー:ええと?認証コード… っと…よし開いた… これか…
リリ:? ロジー、なにしてるの?
ロジー:お、ちょうど良かった。リリ、これを受け取ってくれ。落とすなよ
リリ:わっ、なに? おへやのカギ?のペンダント?
ロジー:『フウガ』だってさ
リリ:フウガ…?えっ、このカギが?
ロジー:(頷く)あのフウガがこんな小さいカギとはね。AIキーって言うらしいぜ。こいつをAIユニットに刺すとフウガが起動するんだってさ
リリ:ふぅん、すごいね
ロジー:で、メイヤード総括からの伝言。リリ、フウガを頼んだ。だ、そうだ
リリ:えっ、わたし…?
ロジー:ああ。総括命令だ。フウガはお前に預ける
リリ:…うん、わかった。がんばる
ロジー:滅多な事がない限り大丈夫だ。エデンに着くまでの間だからな。よし、つけてやる
リリ:はい
ロジー:よし。キーは服の中にいれとけよ。じゃ、そろそろ …ん?
0:技術スタッフが入ってくる
フウガ:(技術スタッフ)準備はできたか
ロジー:ああ。これから出る所だ
フウガ:(技術スタッフ)AIユニットはどうなっている
ロジー:…?
リリ:フウガは…
ロジー:(遮って)AIユニット?あー、とりあえずおれたちは指示通りやったよ。最終確認はそっちでしてくれ
フウガ:(技術スタッフ)了解した。それから
ロジー:リリ、急ぐぞ …じゃ、後はよろしくお願いしまーす
フウガ:(技術スタッフ)待て、まだ話は… っくそ、ロックしやがって!おい!開けろ!
リリ:ロジー、いいの?
ロジー:本部の技術スタッフなら即開けて出てくるさ。なあリリ、フウガのことは念のため秘密にしとこう
リリ:…わかった。あの人でてこない、ってことは
ロジー:まあ、そういう可能性もあるな っと、おいリリ、隠れろ
0:通路を数人が通り過ぎる
ロジー:はー、できれば誰とも会わずにゲートまでたどり着きたいんだが…
リリ:ビオバイアスとつながってるひとがいるかも、ってことだよね
ロジー:ああ。仮定に過ぎないがリスクはなるだけ避ける方がいい
ロジー:お、そうだリリ。あの瞬間移動みたいなやつ、あれできるか? お前だけでもゲートに
リリ:わかった。でも、ロジーもいっしょだよ
ロジー:できるのか?
リリ:うん。…トラちゃん…おねがい… ロジーもいっしょに
ロジー:うおっ!トラのぬいぐるみが浮き上がった?! うわ!
リリ:ここでいい?
ロジー:あ、ああ… ここだ。エデン行きのゲートロビー ふー、本当にどうなってるんだよ、このトラのぬいぐるみチャンは
リリ:ふふっ、ひみつ。ロジー、はやくいこう!
ロジー:ああ。渡したチケットは持ってるな。あの改札を通ってゲート内に入ればもうこっちのもんだ。誰かに見つかる前に行くぞ
リリ:うん!
フウガ:(ゲートアナウンス)チケットコード認証。エデン行きアクティブパスゲート、起動します
リリ:へえ…パスゲートでつながってるんだ… ふねにのるのかとおもってた
ロジー:ああ。驚いただろ。チケットに指定された行き先へアクティブパスが開かれる。本部の周りにある他の小惑星施設とも繋がってるぞ
フウガ:パスゲート、クローズ。お疲れ様でした。惑星エデン、ガブリエラに到着致しました
リリ:ふぅん… ね、もうついたの?
ロジー:ああ。本部基地はこのエデンと疑似Gを合わせてるからあまり違いを感じないが、この扉の向こうは、もう惑星エデンだ
リリ:あのひとたち、もうおいかけてこない?
ロジー:大丈夫だ。エデン行きは総括と二人だけで話し合ったことだからな。誰も知らないはず
リリ:よかった
ロジー:じゃ、出るか。エデンの主要都市、ガブリエラだ。あー、おれにはよくわからないが、昔の地球と似てるらしい
リリ:わぁ…風がふいてるね、きもちいい…
ロジー:ああ。そうだな。地上は風が吹いてる。…さて、次はレールウェイに乗る。ええと、駅は…こっちか
リリ:ふふっ。なんだかおでかけみたい。たのしいね! ね、ロジーはエデンによくくるの?
ロジー:いいや?これで2回目
0:
0:
0:明るい邸宅にたどり着くロジーとリリ。何やら機材をセットアップしている
0:
フウガ:パーソナリティ・ナンバー AI-68CBC フウガ。環境適応完了。…おはようございます…おや。この端末はラボのものですね
フウガ:随分と…ええ、懐かしい、という感覚なのでしょうかね。これは
ロジー:おはよう、フウガ。それはよかった
リリ:フウガ、おかえりなさい。せまくない?
フウガ:ええ、大丈夫ですよ。管理する機器が微少でむしろのびのびです。それで、ここはどこですか?この端末では位置情報を取得できません
ロジー:エデン、ガブリエラからレールウェイ乗り継いだ田舎だよ。グリーンプラントっていうのか?外は見渡す限りの森と畑
リリ:すてきなおやしき。おにわもひろくて、おへやもいっぱいあるの!
フウガ:位置情報を入力。なるほど。しかしここは宙運連の関連施設ではありませんね
ロジー:ああ。そりゃな。宙運連の関連施設じゃ辿られやすいだろ
フウガ:了解。で、ここはどういった場所なのでしょう?そんな都合のいい物件がすぐに見つかるとも思えませんが?
ロジー:あー、色々説明しにくいんだが…どういうわけだかここ、おれんちなんだよね
リリ:えっ、ここ、そうなの? すごい
フウガ:冗談でしょう。ロジー…
フウガ:ああ。そうですね、失礼。ロジー・ガーウィン様
フウガ:そういえばあなたは地球圏ではビオバイアスに並ぶ財団、ガーウィンの名を持つお方でした。納得。
リリ:えっ、ロジー、えらいひとなの?
ロジー:いやいや、そんなんじゃないって。あー、だからさっきも言っただろ、色々説明しにくいって!その辺は詮索なしな!
フウガ:承知致しました。しかしガーウィン家のつてであることは間違いないのでしょう?
ロジー:あぁ。まあ
フウガ:であるなら、ビオバイアスもそうそう軽はずみなことはできませんね
ロジー:(頷く)だからここでできる限りのことをしておこう。フウガはチップの解析を始めてくれ
フウガ:了解。識別チップのスキャンを開始します
ロジー:リリ、おれたちは貨物母船内から救助した15人について調べるぞ。なぜあの人達は貨物母船に乗せられたのか
リリ:? のせられた? あのひとたち、クルーじゃないの?
ロジー:それは … そうだな、自分で考えてみたほうがいい、か… 俺は隣の部屋にいる
リリ:ウン…わかった
ロジー:なに、ゆっくり考えればいいさ。自分で書いた報告書、もう一度よく読んでみるといいぞ
0:
リリ:…ふぅ
フウガ:リリ、がんばって。あなたにならすぐにわかると、私は思いますよ
リリ:ありがとう、フウガ。わたし、がんばるね! んーっと… わたしがかいたほうこくしょ…
フウガ:お付き合いしますよ、リリ
リリ:えっ、でもフウガのおしごと、じゃましちゃう…
フウガ:チップの解析は私の一部がきちんとこなしています。私は人とは違うので、何の問題もありませんよ、リリ
0:
0:
ロジー:・・・・やっぱり、船乗りじゃないな…
ロジー:この人もだ… ライセンスリストには照合無し… 次は…
ロジー:ヒット、だが …エデン宙域のパスゲートに履歴があるのは随分前だ。ここ何年も宙(そら)には上がってない
ロジー:…この人も、こっちも…
ロジー:結局ライセンス持ちはさっきの一人、あとは雑用係しかできない人員。とてもクルーとは呼べない奴らばっかりだ
ロジー:あとは…4機のアサルト機のパイロットだが… こっちは殲滅しちまったからなぁ…
ロジー:だとすると、こいつらの本当の所属は…どこだ?
ロジー:ふー…
ロジー:んあ、もうこんな時間か… フウガ機の引き渡しが終わった頃だな
0:
0:
フウガ:リリ、そこです。そこをもう一度読んでください
リリ:えっ、ここ?
リリ:「ぼかんのこうぶにつんでいた、メインエンジンにみせかけた巨大ばくだんも…」
フウガ:そうです、リリ。そこを読んで、何か思い当たりませんか?
リリ:えっと… このふね、ばくはつするところだった
フウガ:そうですね。この船はリリが後ろ方面に吹き飛ばさなければ、爆破されていたんです
リリ:…あっ
0:
リリ:(部屋に駆け込む)ロジー、わかった!あのひとたち、ころされちゃうところだったんだね!
ロジー:…なんだって?! で、今彼らはどこに… くそっ、さすがに無理か
リリ:どうしたの?!ロジー、なんかあった?
ロジー:リリ…、そうだ、リリ! 貨物母船のクルー達の居場所、わかるか?!
リリ:えっ? えっ? う、ウン、わかるよ。みんな、ついせきマークをつけたから、トラちゃんとついせき、できるよ
ロジー:よしっ、すぐに始めてくれ!
リリ:ウン、わかった… トラちゃん…おねがい…
フウガ:どうしたんですか、ロジー。何かありましたか?
ロジー:フウガ機と一緒にクルーがビオバイアスに『返還』された!
フウガ:なんですって? それでは皆さんが
ロジー:ああ、命が危ない
リリ:わかった! みんな、この上だよ! そらのうえの、おおきなふねのなか! たぶん、ビオバイアスの!
ロジー:よし、本部に連絡、早く救助に向かわせないと
フウガ:待ってください、ロジー。それこそビオバイアスの思うつぼでは? 今度こそ、宙運私警団がビオバイアスの船を、しかも宙運私警団との交渉員の船を襲撃する形になりますよ
ロジー:っあーー! そうかぁー! くっそ…ならどうすりゃいいんだよ!
リリ:ロジー、わたし、とべるよ! いこう、ロジー!
ロジー:飛べるって… 上までか?!
リリ:ウン! マークした人たちがいるから、正確にパスをひらける。フウガがアクティブパスをあけたみたいに、わたしとトラちゃんがみんなの所までアクティブパスをつなげるよ!
フウガ:リリ、あなたはそんなことまでできるのですか
ロジー:驚かない…おれはもう驚かないぞ…
フウガ:思いっきり驚いてる顔ですよ、ロジー。 わかりました。リリ、確認します。パスを空けていられる時間はどのくらいですか?
リリ:わたしとトラちゃんが、いどうするまでのあいだ
フウガ:なるほど。では、パスロードだけを開けることはできますか?
リリ:パスロードだけ、あける?
フウガ:そのまま皆さんをここに避難させることができればという可能性です
リリ:・・・・わかった。ためしてみる。そうしたら、わたしはトラちゃんとここにいなきゃ
ロジー:それでいい。リリが穴を開けといてくれりゃ、おれが乗り込んでみんなを誘導する
フウガ:わかりました。それでは、私に少し考えがあります。リリ、船の内部を見ることは? 昨日あなたは貨物母船内部までスキャンできていました。大雑把でかまいません
リリ:とおいけど…がんばる トラちゃん…
ロジー:見えたら絵かなんかに描いてくれ
フウガ:恐らく、船体後部にAIユニットがあるはずです
ロジー:フウガ、お前まさか
フウガ:ええ、私はちょっと …暴れたい気分です
0:
0:
0:
リリ:じゃ、やるよ
フウガ:ええ。頼みましたよ、リリ。ロジーも頑張って
ロジー:まって。エネルギーパックがクッソ重いんだが?!
リリ:かいはつよう…たんまつごと… フウガ、カギだけじゃ、だめだったの?
フウガ:私は、あの船のAIユニットの識別キーをハッキングしなければなりませんから。ロジー、このサイズのエネルギーパックで私が稼働できる時間は10分もありません。死ぬ気で走ってくださいね
ロジー:ああ…頑張るよ
リリ:ごめんね、ロジー、ふねのなか、あの人たちから、はなれたところまでは…よくわかんなかった
ロジー:いや、まず見える所がスゴいんだ。そこは気にするな
フウガ:この型の船のデータからおおよその特定はできます。あとは私の指示に従ってくださいよ、ロジー
ロジー:フウガ、お前 もしかして怒ってる?
フウガ:いいえ? ただ、目にもの見せなくては、と燃えているだけです。リリ、お願いします
リリ:… トラちゃん …
ロジー:これが…パスロード…
フウガ:急ぎますよ、ロジー!
ロジー:ああ!
0:
フウガ:まずはリリの認識できる限界、なるべく船体後部方面にパスロードを開き、ロジーは制御室のAIユニットまで私を連れてダッシュ
フウガ:そこは通常停船時メンテ以外は触れませんから、誰もいないはずです
0:
ロジー:よし、リリ、一度パスを閉じていいぞ!
フウガ:5分後、皆さんのすぐそばに再びパスロードを開いてください。私はAIユニット識別コードをハッキング。なに、10秒もかからないと思いますよ
ロジー:解析ができたら、ユニットを開けて… AIキーをフウガとチェンジ!
フウガ:AI-68CBC フウガ。環境適応完了。これでこの船は私の制御下です。ふふ、ふふふふふ…
ロジー:こっわ!頼むからあんまりやり過ぎないでくれよ?
フウガ:ええ、もちろん。ほどほどにね… さあロジー、早く皆さんの所へ!
ロジー:ああ!お前を下ろしたから軽々だ!
フウガ:そうですね。なら、この方がもっと早いでしょう
ロジー:うおおっ!と!フウガ!いきなり疑似グラビティを変更するな!
フウガ:ついでに、この先の通路の脱出ハッチでも少し開けますか?まさしく飛ぶように進みますよ!
ロジー:ちょおおっ!俺にまで仕返ししてない?!
フウガ:まさか。いってらっしゃい。『敵』は私が遠ざけておきます。…さて、非常用隔壁、扉とハッチの位置はここですか…
0:
リリ:きた!みんな、へやのおくまですすんで!
ロジー:ふー、15人!全員無事保護! クルーの奴ら、急に船が誤動作を始めて相当うろたえてたみたいだぜ
リリ:じゃあ、こんどはわたしが、いってくるね!
ロジー:ああ、フウガを頼んだ!
0:
フウガ:リリ、私の場所がわかるようにはできますか?
リリ:だいじょうぶ!フウガのかぎ、マーカーしてあるから!
ロジー:いつの間に
リリ:ロジーからかぎをもらってすぐだよ
ロジー:でかした、じゃあピンポイントで向こうに出られるってわけだな!
フウガ:ロジーが無事救助対象と共にパスロードから出てきたら、リリが私を迎えに来てください
ロジー:端末とエネルギーパックも忘れずにな
リリ:わかった!
0:
リリ:フウガ、おまたせ!
フウガ:リリ、疲れていませんか?
リリ:だいじょうぶ!
フウガ:では、その開発用端末のコネクターにセットされたAIキーを抜いてください
リリ:これだね!このふねの、AIキー
フウガ:そうです。中を少しいじらせてもらいましたよ。『彼』は目覚めても何も覚えてはいないでしょう
リリ:ふふっ、ちょっとかわいそう
フウガ:認証キーを一時的にリリのコードに変更してあります。あなたのパスをかざして、カウント後、そのキーと差し替えてください
リリ:わかった!
フウガ:認証コード確認。AIキー切り替えを受諾 カウント後にキーの差し替えを行ってください
フウガ:カウント、3…2…1
リリ:ふふっ、フウガもごくろうさま。 じゃあ、かえろうね!
0:
0:
0:
フウガ:パーソナリティ・ナンバー AI-68CBC フウガ。環境適応完了。正常起動しました
リリ:あ、フウガ! おきた?
ロジー:お疲れ、なんとか無事に済んだな
フウガ:誰にも見つかりませんでしたか?ロジー
ロジー:ああ。おかげさんで。フウガが隔壁を操作して誰も近づけないようにしてくれてたんだろ?
フウガ:勿論です。あなたが脱出した後、皆さんが集められていた船室のドアロックを解放し、その先の通路のハッチを全開にしておきました
フウガ:これでビオバイアス側も、今回の件は全て船内の事故、彼らは機器の誤作動で船外に放出されたと認識するでしょう。ダミー人形でもあればなお良かったですが、仕方ありませんね
ロジー:うわぁ… 船に乗せられた15人、みんなエデン惑星内にあるビオバイアス関連会社の社員だったよ。所属は色々だが、それぞれビオバイアスに不利益なリークを持っている様子だった
ロジー:本部基地に改めて引き渡して、いま回収班に連れてかれたとこ
フウガ:そうですか。彼らのこの先の未来が開けていることを望みます
ロジー:ああ… そうだな
リリ:…ねえ、フウガ
フウガ:どうしました? リリ
リリ:あのふねのAI、ごさどうたくさんおこして、おこられたりしない?
フウガ:おや。リリはAIの心配をしてくださるのですか? ええ、大丈夫ですよ。私が、誤動作の元となるようなエラー源をわかりやすく埋め込んでおきましたから
フウガ:私たちAIは学習の過程で、プログラムの整合性を失う僅かな点を埋め込んでしまうことがあるのです。人間で言う風邪のようなものです。すぐに治療していただけると思いますよ
リリ:そっかぁ、よかった
フウガ:リリはお優しいですね
ロジー:さーて、これでおれたちの仕事は終わりかー! 残りの270時間、エデンでのんびり…
フウガ:ロジー、総括から連絡です。 ロジー班の停職は解除。10時間以内に本部へ帰還、だそうですよ
ロジー:ええー!
フウガ:さあ、早速帰りますか。私たちのホームへ!
ロジー:ええ? お前妙にご機嫌じゃないか? せめてちょっとバカンス味わわない?
フウガ:いいえ! すぐに帰らせていただきます。私のボディが帰ってきますので!
リリ:えっ? フウガのあたらしい、ふね?
フウガ:いいえ。ビオバイアスがどうやら私の体を返してくれたようですよ。ですので私は早くドックでゆったりしたいのです
ロジー:ふぅん。 ま、『空っぽ』だったしな。奴ら、手に入れた『フウガ機』に何のうまみも無かったんだろ
フウガ:ですね。今私はとてもいい気分ですよ。ああ、楽しかったです
フウガ:(小声)ロジー、今回の件のビオバイアスの目論みは…
ロジー:(小声)ああ。フウガ、お前のデータ…あわよくばお前自身。 つまり首謀は宇宙軍だ
フウガ:今回のお二人の判断、退避の理由はそういうことですか。全く、恐ろしい人ですね、総括は。そしてあなたも
ロジー:おれも? ははっ
フウガ:あなたに『保護』されて、私は幸せですよ、ロジー
ロジー:ま、それがおれの任務だからな! それなりに頑張ってるつもり はぁー… じゃ帰るか
リリ:わぁい、またレールウェイに乗るの?
ロジー:いいなあ、リリは楽しそうで
0:
ロジー:こうして、『ビオバイアスによる、エデン宙域・航路上襲撃訓練事件』は一応きれいに幕引き。地上の報道も一切この件については触れなくなった
ロジー:そして今日もおれたちは
0:
ロジー:はい、こちらロジー班。 小惑星が航路上に侵入? 了解。フウガ、路上のでかい石ころ、お前のパスロードでどかしてくれってさ
フウガ:今日も忙しいですね、私たちは。 では現場まで急ぎましょうか。アクティブパス起動
リリ:トラちゃん、わっ、てなるよ!しっかりつかまっててね
フウガ:あなたもですよ、リリ
ロジー:はー、次の休暇はいつかなー!
リリ:トラちゃん、今日も平和だね、ふふっ
0:
0:法外宙域ローヴァーゲイル 『バカンス、300時間』 ~ 終 ~
0:
ロジー:16時間前、おれたちの元に舞い込んだスクランブル。大型貨物母船が海賊に襲撃されている、と
ロジー:おれは相棒のAI、フウガと共に…配属されたばかりの幼女…リリを連れて現場に急行
フウガ:敵船確認。小型のアサルトタイプ…5機
ロジー:5機?!
フウガ:多すぎます。普通ではありませんね
ロジー:くそ、あいつら寄ってたかって…タグコンテナがバラバラじゃないか!
リリ:リ・レイ・アチャ・ノウラ 終わらぬ雨よ降り注げ…白閃(ひゃくせん)のもと 天矢(あまや)よ集え…
リリ:ホーミング・アロー!
0:
ロジー:リリとトラのぬいぐるみ、『トラちゃん』の放ったよくわからん砲撃が全てを破壊し、
ロジー:保護した貨物母船の乗員15名と共に、おれたちは基地に帰還したのであった
ロジー:その後おれたちがメイヤード総括にどやされたのは言うまでもなく…
0:
ロジー:喜べ、二人とも。久しぶりの休暇だ!
リリ:きゅうか?わたし、きのうチームに入ったばっかり
ロジー:ほーら、総括がおれたちにいいものを渡してくれたぞ。これだ
リリ:なにこれ。…パス? えーと、エ…デ ン?
フウガ:リリ、それは惑星エデン行きのチケットですね
ロジー:他の惑星、行ったことがないだろ?良かったなー、エデンはいい所だぞ?自然がいっぱいだ!
フウガ:おめでとう、ロジー、あなたには本当に久しぶりの休暇です
ロジー:あー、久しぶりに羽が伸ばせそうだ なにせ300時間もあるんだからな!
0:
0:
リリ:『法外宙域ローヴァーゲイル』
フウガ:『バカンス、300時間』
0:
0:
フウガ:では、私は一人で留守番ですね。いい機会です。久しぶりにドックに戻ってじっくりとメンテナンスでもしていただきましょうかね
ロジー:それなんだがな、フウガ。 お前も一緒だ
フウガ:おや。私は待機ではないのですか
ロジー:まあな …ふぅ
リリ:どうしたの?ロジー
フウガ:ははあ、これはどうやら、ただの停職処分ではないようですね
0:
0:
0:
リリ:- 惑星エデン衛星圏宙域 -
リリ:- 宙運私警団 ファースト・フロンティア本部基地 -
リリ:- 数時間前 -
0:
ロジー:で…リリのまとめておいてくれた巡視班からのデータログも見たが…はあ、本当に厄介だよ、今回のこの事件は
フウガ:ええ
リリ:おかしいところ、たくさんあるね
ロジー:だな
フウガ:不自然に派手な襲撃、散らばった積み荷に偽装された機雷、エンジン部に搭載されていたと思われる大容量の火器 …これだけでも充分厄介だらけですが
ロジー:でもそれだけじゃない…昨日スクラップになった貨物母船の所属!
フウガ:ビオバイアス・グループの船、ですね。確かにこれは… 今頃、総括も頭を抱えていることでしょう
ロジー:そ! はあぁー、なんてこったよ
リリ:どうしたの?ビオバイアスのふね、なにかたいへん、なの?
ロジー:(なげやり)フウガ、説明頼んだ
フウガ:了解。ビオバイアスは、地球、ファーストフロンティア、セカンドフロンティア、3つの星系にまたがり幅広く事業を展開する巨大企業グループです
フウガ:独自の流通システムを持ち、宇宙軍の艦船および装備品をほぼ一手に引き受けています
フウガ:そのため、『広域宙運業事業者連合(こういき ちゅううんぎょう じぎょうしゃ れんごう)』に所属していません
リリ:『ちゅううんれん』に、はいって…ない船?
フウガ:ええ。そうです
リリ:わたし、ふねも、にもつも、ぜんぶこわしちゃった… ビオバイアス、おこるよね…
ロジー:そうだな。でもそれがダメだったわけじゃない。
ロジー:おれたちは、例え宙運連に入ってない船でも、航路上でトラブってれば対処する。他の船も危ないからな
フウガ:ええ、今回のリリの対処はあの場では最適でした。おかげで航行上の被害をゼロに抑えられたのですから、我々の仕事としては上々ですよ
ロジー:ああ、そうだぞ。リリが気に病む事は無い。ただ
フウガ:メイヤード総括の仕事が増えました
ロジー:そうそう、メイヤード総括の仕事が増えただけ …って!何言ってんのフウガ?!
フウガ:違いましたか?
ロジー:…いや、違わない。あー、まあその結果、ビオバイアスに対して体面上の処分が追加されるだろうなってことさ
リリ:うう… ごめん…なさい
フウガ:リリ、悪いのは、ビオバイアスの船です。彼らは明らかに、我々に対し悪い目的を持っています。そういうことですね、ロジー
ロジー:ああ。俺もそう思う
リリ:どうして?
ロジー:えー、…と ほら、資料の…ここ見てみろ。ビオバイアスの母船を襲った5機のアサルト機の形、見覚えが無いか?
リリ:あっ、色はちがうけど、宇宙軍でつかってるのと、おなじ
ロジー:ああ、って事はこれは
リリ:ビオバイアスが、つくったふね?
ロジー:そういうことだ。相手が本当に海賊ならただの略奪にこの機体は使わない。リスクだけでメリットが薄い。なぜなら
リリ:そっか…
リリ:せいのうと、じゃくてん… かいぞうできるはんい…よくしってるあいてには… むかない。
リリ:それに、うちゅうぐんとおなじかたのふねにするなら …いろもおなじにする、よね
ロジー:ほー。さすが総括が目をかけた天才少女だな
フウガ:そもそもですが、この事件に海賊は存在していませんでした。わざわざ別のカラーで逆偽装している、という見解が最も可能性が高いですね
ロジー:ああ、保護した15名は、全員乗組員だった。5機のアサルトタイプのうち1機が母船に突入していたにも関わらず、だ
フウガ:私のデータでも実際に保護した乗組員とスキャニングで確認できた船内の人数は一致しています。
フウガ:そこに海賊がいたとしたら、船内には入らず船外に漂っていた、ということになりますが…
リリ:わたしとトラちゃんも、そんなひとは、みつけられなかったよ。ね、トラちゃん
ロジー:つまりこの事件は、十中八九ビオバイアスの自作自演
フウガ:事件を起こして宙運連合に対処させることが目的と推測できますね
ロジー:ああ。何ともきな臭くて厄介な事態だよ。こりゃ。 向こうが糾弾する材料から何かを引っ張るつもりだ。それは… …あ
ロジー:…っと、連絡来た。
フウガ:メイヤード総括からですね。いってらっしゃい
ロジー:はぁ、ついに処分が言い渡されるのか
リリ:ロジー、こわくないといいね
フウガ:頑張ってください、ロジー
0:
0:
0:
フウガ:で、ロジー。私までエデン行きとはどういういきさつですか?
ロジー:予想通りビオバイアスが動いた。どうやら地球では大騒ぎらしいぜ。宙運私警団がビオバイアスの貨物船を攻撃、破壊したってな
ロジー:向こうの主張は『訓練』ってことにしたらしいぜ? 他の航行船舶に通達なしの航路上で? はっ!言い訳にしてもどうかしてるよ
リリ:… うう…
フウガ:訓練と仮定したとしても今回のビオバイアス側の行動は問題点が多すぎます。それに元々、あの船はリリが破壊しなくてもメインエンジンに偽装した爆破装置があったでしょう
リリ:そっか… わたしがこわさなくても、ぼせん、ばくはつしてた…
ロジー:向こうさん、回収班が持ち帰った母船とコンテナ、アサルト機の残骸を未調査で返還しろってさ
フウガ:調べられると困るでしょうしね。あちらも、まさかリリが吹き飛ばしたとは思ってないでしょう。それで、メイヤード総括の選択は?
ロジー:勿論、未調査返還に応じるしかないさ。ただし、これだけは例外だ
リリ:きれい… きらきらしたかけら…それは、なに?
フウガ:識別チップですね?
ロジー:ああ。船籍と船体番号、乗船者、航路航行情報が入ってる。メイヤード総括はこの『チップ』の返還だけは断固拒否した。こいつを持ってエデンに降りる。おれたちは向こうの矛先だからな
フウガ:なるほど、停職かと思いましたが、このチームをエデンへ退避させるということですね?
ロジー:そういうこと。実質、停職処分の名目はビオバイアス向きってわけだ。だけど… あー、なんだ。…フウガにはひとつ、我慢してもらいたいことがある
フウガ:なんですか?
ロジー:…フウガ機の凍結
リリ:えっ… フウガを…とうけつ?
フウガ:わたしの機体を300時間凍結させる、ということでしたら、特に問題はありません。二人にわざわざチケットを渡したのです。私の機体で退避するつもりはないのでしょう
ロジー:いや、 …っあー、 この先もずーっと?
フウガ:どういうことです?
ロジー:メイヤード総括の出した、チップの …交換条件? 『フウガ機』を差し出すことで合意に持ち込んだっていうわけ
リリ:えっ、フウガ、とられちゃうの?
フウガ:ははあ。そういうことですか。で、それをロジー、あなたも合意してきた、と
ロジー:フウガ、怒らないでくれよ。向こうが納得するだけの『人質』がほしい、だろ?
ロジー:『フウガ機』は高い出力を出せる量子変換ドライブを積んではいるが、そんな大火力を装備できるタイプじゃない
ロジー:小回りの利くスピード型。ばらまかれた機雷やアサルト機を殲滅するための機体だ
ロジー:向こうが母船の破壊をフウガ機の火力のせいにしようとしたところで、逆に世間的にそれが証明されるだろ
フウガ:確かに。この機体であの大型母船を吹き飛ばすような火器はバランス的に不可能です
ロジー:こっちはそれをうまく使う魂胆さ。機体はAIユニット無し、内部データもなし、本当にカラの状態で引き渡す
フウガ:なるほど?
ロジー:引き渡し作業開始は1時間後、それまでにおれとリリは中のもの片付け。ドックに機体移送の準備が終わり次第フウガを連れてエデン降りる。まずはそういう手はずだ
フウガ:はあ、わかりました。この機体にも馴染んで、ずいぶん愛着も出てきたところだったのですが、仕方がありませんね
リリ:つぎは、もっといいふねにのせてもらえるかも
フウガ:そうですね。期待します。やれやれ、仕方ありません。早速私は移動の準備に入りましょうか… スリープモードを実行します
リリ:あれっ、フウガ、 …フウガ? ロジー、フウガ、動かなくなっちゃったよ?
ロジー:大丈夫だ。フウガは全ての機器の動体連結を切って本体に戻ったんだよ。中に引きこもって移動する準備に入ったのさ
リリ:ふぅん
ロジー:じゃあおれたちも準備だ。急いで『空っぽのフウガ機』を準備するぞ!
0:
0:- フウガ機格納ゲート -
0:
リリ:ロジー、じゅんびできたよ。ふふっ、ほかのわくせいにおりるの、たのしみ! トラちゃんもたのしみだって!
ロジー:ええと?認証コード… っと…よし開いた… これか…
リリ:? ロジー、なにしてるの?
ロジー:お、ちょうど良かった。リリ、これを受け取ってくれ。落とすなよ
リリ:わっ、なに? おへやのカギ?のペンダント?
ロジー:『フウガ』だってさ
リリ:フウガ…?えっ、このカギが?
ロジー:(頷く)あのフウガがこんな小さいカギとはね。AIキーって言うらしいぜ。こいつをAIユニットに刺すとフウガが起動するんだってさ
リリ:ふぅん、すごいね
ロジー:で、メイヤード総括からの伝言。リリ、フウガを頼んだ。だ、そうだ
リリ:えっ、わたし…?
ロジー:ああ。総括命令だ。フウガはお前に預ける
リリ:…うん、わかった。がんばる
ロジー:滅多な事がない限り大丈夫だ。エデンに着くまでの間だからな。よし、つけてやる
リリ:はい
ロジー:よし。キーは服の中にいれとけよ。じゃ、そろそろ …ん?
0:技術スタッフが入ってくる
フウガ:(技術スタッフ)準備はできたか
ロジー:ああ。これから出る所だ
フウガ:(技術スタッフ)AIユニットはどうなっている
ロジー:…?
リリ:フウガは…
ロジー:(遮って)AIユニット?あー、とりあえずおれたちは指示通りやったよ。最終確認はそっちでしてくれ
フウガ:(技術スタッフ)了解した。それから
ロジー:リリ、急ぐぞ …じゃ、後はよろしくお願いしまーす
フウガ:(技術スタッフ)待て、まだ話は… っくそ、ロックしやがって!おい!開けろ!
リリ:ロジー、いいの?
ロジー:本部の技術スタッフなら即開けて出てくるさ。なあリリ、フウガのことは念のため秘密にしとこう
リリ:…わかった。あの人でてこない、ってことは
ロジー:まあ、そういう可能性もあるな っと、おいリリ、隠れろ
0:通路を数人が通り過ぎる
ロジー:はー、できれば誰とも会わずにゲートまでたどり着きたいんだが…
リリ:ビオバイアスとつながってるひとがいるかも、ってことだよね
ロジー:ああ。仮定に過ぎないがリスクはなるだけ避ける方がいい
ロジー:お、そうだリリ。あの瞬間移動みたいなやつ、あれできるか? お前だけでもゲートに
リリ:わかった。でも、ロジーもいっしょだよ
ロジー:できるのか?
リリ:うん。…トラちゃん…おねがい… ロジーもいっしょに
ロジー:うおっ!トラのぬいぐるみが浮き上がった?! うわ!
リリ:ここでいい?
ロジー:あ、ああ… ここだ。エデン行きのゲートロビー ふー、本当にどうなってるんだよ、このトラのぬいぐるみチャンは
リリ:ふふっ、ひみつ。ロジー、はやくいこう!
ロジー:ああ。渡したチケットは持ってるな。あの改札を通ってゲート内に入ればもうこっちのもんだ。誰かに見つかる前に行くぞ
リリ:うん!
フウガ:(ゲートアナウンス)チケットコード認証。エデン行きアクティブパスゲート、起動します
リリ:へえ…パスゲートでつながってるんだ… ふねにのるのかとおもってた
ロジー:ああ。驚いただろ。チケットに指定された行き先へアクティブパスが開かれる。本部の周りにある他の小惑星施設とも繋がってるぞ
フウガ:パスゲート、クローズ。お疲れ様でした。惑星エデン、ガブリエラに到着致しました
リリ:ふぅん… ね、もうついたの?
ロジー:ああ。本部基地はこのエデンと疑似Gを合わせてるからあまり違いを感じないが、この扉の向こうは、もう惑星エデンだ
リリ:あのひとたち、もうおいかけてこない?
ロジー:大丈夫だ。エデン行きは総括と二人だけで話し合ったことだからな。誰も知らないはず
リリ:よかった
ロジー:じゃ、出るか。エデンの主要都市、ガブリエラだ。あー、おれにはよくわからないが、昔の地球と似てるらしい
リリ:わぁ…風がふいてるね、きもちいい…
ロジー:ああ。そうだな。地上は風が吹いてる。…さて、次はレールウェイに乗る。ええと、駅は…こっちか
リリ:ふふっ。なんだかおでかけみたい。たのしいね! ね、ロジーはエデンによくくるの?
ロジー:いいや?これで2回目
0:
0:
0:明るい邸宅にたどり着くロジーとリリ。何やら機材をセットアップしている
0:
フウガ:パーソナリティ・ナンバー AI-68CBC フウガ。環境適応完了。…おはようございます…おや。この端末はラボのものですね
フウガ:随分と…ええ、懐かしい、という感覚なのでしょうかね。これは
ロジー:おはよう、フウガ。それはよかった
リリ:フウガ、おかえりなさい。せまくない?
フウガ:ええ、大丈夫ですよ。管理する機器が微少でむしろのびのびです。それで、ここはどこですか?この端末では位置情報を取得できません
ロジー:エデン、ガブリエラからレールウェイ乗り継いだ田舎だよ。グリーンプラントっていうのか?外は見渡す限りの森と畑
リリ:すてきなおやしき。おにわもひろくて、おへやもいっぱいあるの!
フウガ:位置情報を入力。なるほど。しかしここは宙運連の関連施設ではありませんね
ロジー:ああ。そりゃな。宙運連の関連施設じゃ辿られやすいだろ
フウガ:了解。で、ここはどういった場所なのでしょう?そんな都合のいい物件がすぐに見つかるとも思えませんが?
ロジー:あー、色々説明しにくいんだが…どういうわけだかここ、おれんちなんだよね
リリ:えっ、ここ、そうなの? すごい
フウガ:冗談でしょう。ロジー…
フウガ:ああ。そうですね、失礼。ロジー・ガーウィン様
フウガ:そういえばあなたは地球圏ではビオバイアスに並ぶ財団、ガーウィンの名を持つお方でした。納得。
リリ:えっ、ロジー、えらいひとなの?
ロジー:いやいや、そんなんじゃないって。あー、だからさっきも言っただろ、色々説明しにくいって!その辺は詮索なしな!
フウガ:承知致しました。しかしガーウィン家のつてであることは間違いないのでしょう?
ロジー:あぁ。まあ
フウガ:であるなら、ビオバイアスもそうそう軽はずみなことはできませんね
ロジー:(頷く)だからここでできる限りのことをしておこう。フウガはチップの解析を始めてくれ
フウガ:了解。識別チップのスキャンを開始します
ロジー:リリ、おれたちは貨物母船内から救助した15人について調べるぞ。なぜあの人達は貨物母船に乗せられたのか
リリ:? のせられた? あのひとたち、クルーじゃないの?
ロジー:それは … そうだな、自分で考えてみたほうがいい、か… 俺は隣の部屋にいる
リリ:ウン…わかった
ロジー:なに、ゆっくり考えればいいさ。自分で書いた報告書、もう一度よく読んでみるといいぞ
0:
リリ:…ふぅ
フウガ:リリ、がんばって。あなたにならすぐにわかると、私は思いますよ
リリ:ありがとう、フウガ。わたし、がんばるね! んーっと… わたしがかいたほうこくしょ…
フウガ:お付き合いしますよ、リリ
リリ:えっ、でもフウガのおしごと、じゃましちゃう…
フウガ:チップの解析は私の一部がきちんとこなしています。私は人とは違うので、何の問題もありませんよ、リリ
0:
0:
ロジー:・・・・やっぱり、船乗りじゃないな…
ロジー:この人もだ… ライセンスリストには照合無し… 次は…
ロジー:ヒット、だが …エデン宙域のパスゲートに履歴があるのは随分前だ。ここ何年も宙(そら)には上がってない
ロジー:…この人も、こっちも…
ロジー:結局ライセンス持ちはさっきの一人、あとは雑用係しかできない人員。とてもクルーとは呼べない奴らばっかりだ
ロジー:あとは…4機のアサルト機のパイロットだが… こっちは殲滅しちまったからなぁ…
ロジー:だとすると、こいつらの本当の所属は…どこだ?
ロジー:ふー…
ロジー:んあ、もうこんな時間か… フウガ機の引き渡しが終わった頃だな
0:
0:
フウガ:リリ、そこです。そこをもう一度読んでください
リリ:えっ、ここ?
リリ:「ぼかんのこうぶにつんでいた、メインエンジンにみせかけた巨大ばくだんも…」
フウガ:そうです、リリ。そこを読んで、何か思い当たりませんか?
リリ:えっと… このふね、ばくはつするところだった
フウガ:そうですね。この船はリリが後ろ方面に吹き飛ばさなければ、爆破されていたんです
リリ:…あっ
0:
リリ:(部屋に駆け込む)ロジー、わかった!あのひとたち、ころされちゃうところだったんだね!
ロジー:…なんだって?! で、今彼らはどこに… くそっ、さすがに無理か
リリ:どうしたの?!ロジー、なんかあった?
ロジー:リリ…、そうだ、リリ! 貨物母船のクルー達の居場所、わかるか?!
リリ:えっ? えっ? う、ウン、わかるよ。みんな、ついせきマークをつけたから、トラちゃんとついせき、できるよ
ロジー:よしっ、すぐに始めてくれ!
リリ:ウン、わかった… トラちゃん…おねがい…
フウガ:どうしたんですか、ロジー。何かありましたか?
ロジー:フウガ機と一緒にクルーがビオバイアスに『返還』された!
フウガ:なんですって? それでは皆さんが
ロジー:ああ、命が危ない
リリ:わかった! みんな、この上だよ! そらのうえの、おおきなふねのなか! たぶん、ビオバイアスの!
ロジー:よし、本部に連絡、早く救助に向かわせないと
フウガ:待ってください、ロジー。それこそビオバイアスの思うつぼでは? 今度こそ、宙運私警団がビオバイアスの船を、しかも宙運私警団との交渉員の船を襲撃する形になりますよ
ロジー:っあーー! そうかぁー! くっそ…ならどうすりゃいいんだよ!
リリ:ロジー、わたし、とべるよ! いこう、ロジー!
ロジー:飛べるって… 上までか?!
リリ:ウン! マークした人たちがいるから、正確にパスをひらける。フウガがアクティブパスをあけたみたいに、わたしとトラちゃんがみんなの所までアクティブパスをつなげるよ!
フウガ:リリ、あなたはそんなことまでできるのですか
ロジー:驚かない…おれはもう驚かないぞ…
フウガ:思いっきり驚いてる顔ですよ、ロジー。 わかりました。リリ、確認します。パスを空けていられる時間はどのくらいですか?
リリ:わたしとトラちゃんが、いどうするまでのあいだ
フウガ:なるほど。では、パスロードだけを開けることはできますか?
リリ:パスロードだけ、あける?
フウガ:そのまま皆さんをここに避難させることができればという可能性です
リリ:・・・・わかった。ためしてみる。そうしたら、わたしはトラちゃんとここにいなきゃ
ロジー:それでいい。リリが穴を開けといてくれりゃ、おれが乗り込んでみんなを誘導する
フウガ:わかりました。それでは、私に少し考えがあります。リリ、船の内部を見ることは? 昨日あなたは貨物母船内部までスキャンできていました。大雑把でかまいません
リリ:とおいけど…がんばる トラちゃん…
ロジー:見えたら絵かなんかに描いてくれ
フウガ:恐らく、船体後部にAIユニットがあるはずです
ロジー:フウガ、お前まさか
フウガ:ええ、私はちょっと …暴れたい気分です
0:
0:
0:
リリ:じゃ、やるよ
フウガ:ええ。頼みましたよ、リリ。ロジーも頑張って
ロジー:まって。エネルギーパックがクッソ重いんだが?!
リリ:かいはつよう…たんまつごと… フウガ、カギだけじゃ、だめだったの?
フウガ:私は、あの船のAIユニットの識別キーをハッキングしなければなりませんから。ロジー、このサイズのエネルギーパックで私が稼働できる時間は10分もありません。死ぬ気で走ってくださいね
ロジー:ああ…頑張るよ
リリ:ごめんね、ロジー、ふねのなか、あの人たちから、はなれたところまでは…よくわかんなかった
ロジー:いや、まず見える所がスゴいんだ。そこは気にするな
フウガ:この型の船のデータからおおよその特定はできます。あとは私の指示に従ってくださいよ、ロジー
ロジー:フウガ、お前 もしかして怒ってる?
フウガ:いいえ? ただ、目にもの見せなくては、と燃えているだけです。リリ、お願いします
リリ:… トラちゃん …
ロジー:これが…パスロード…
フウガ:急ぎますよ、ロジー!
ロジー:ああ!
0:
フウガ:まずはリリの認識できる限界、なるべく船体後部方面にパスロードを開き、ロジーは制御室のAIユニットまで私を連れてダッシュ
フウガ:そこは通常停船時メンテ以外は触れませんから、誰もいないはずです
0:
ロジー:よし、リリ、一度パスを閉じていいぞ!
フウガ:5分後、皆さんのすぐそばに再びパスロードを開いてください。私はAIユニット識別コードをハッキング。なに、10秒もかからないと思いますよ
ロジー:解析ができたら、ユニットを開けて… AIキーをフウガとチェンジ!
フウガ:AI-68CBC フウガ。環境適応完了。これでこの船は私の制御下です。ふふ、ふふふふふ…
ロジー:こっわ!頼むからあんまりやり過ぎないでくれよ?
フウガ:ええ、もちろん。ほどほどにね… さあロジー、早く皆さんの所へ!
ロジー:ああ!お前を下ろしたから軽々だ!
フウガ:そうですね。なら、この方がもっと早いでしょう
ロジー:うおおっ!と!フウガ!いきなり疑似グラビティを変更するな!
フウガ:ついでに、この先の通路の脱出ハッチでも少し開けますか?まさしく飛ぶように進みますよ!
ロジー:ちょおおっ!俺にまで仕返ししてない?!
フウガ:まさか。いってらっしゃい。『敵』は私が遠ざけておきます。…さて、非常用隔壁、扉とハッチの位置はここですか…
0:
リリ:きた!みんな、へやのおくまですすんで!
ロジー:ふー、15人!全員無事保護! クルーの奴ら、急に船が誤動作を始めて相当うろたえてたみたいだぜ
リリ:じゃあ、こんどはわたしが、いってくるね!
ロジー:ああ、フウガを頼んだ!
0:
フウガ:リリ、私の場所がわかるようにはできますか?
リリ:だいじょうぶ!フウガのかぎ、マーカーしてあるから!
ロジー:いつの間に
リリ:ロジーからかぎをもらってすぐだよ
ロジー:でかした、じゃあピンポイントで向こうに出られるってわけだな!
フウガ:ロジーが無事救助対象と共にパスロードから出てきたら、リリが私を迎えに来てください
ロジー:端末とエネルギーパックも忘れずにな
リリ:わかった!
0:
リリ:フウガ、おまたせ!
フウガ:リリ、疲れていませんか?
リリ:だいじょうぶ!
フウガ:では、その開発用端末のコネクターにセットされたAIキーを抜いてください
リリ:これだね!このふねの、AIキー
フウガ:そうです。中を少しいじらせてもらいましたよ。『彼』は目覚めても何も覚えてはいないでしょう
リリ:ふふっ、ちょっとかわいそう
フウガ:認証キーを一時的にリリのコードに変更してあります。あなたのパスをかざして、カウント後、そのキーと差し替えてください
リリ:わかった!
フウガ:認証コード確認。AIキー切り替えを受諾 カウント後にキーの差し替えを行ってください
フウガ:カウント、3…2…1
リリ:ふふっ、フウガもごくろうさま。 じゃあ、かえろうね!
0:
0:
0:
フウガ:パーソナリティ・ナンバー AI-68CBC フウガ。環境適応完了。正常起動しました
リリ:あ、フウガ! おきた?
ロジー:お疲れ、なんとか無事に済んだな
フウガ:誰にも見つかりませんでしたか?ロジー
ロジー:ああ。おかげさんで。フウガが隔壁を操作して誰も近づけないようにしてくれてたんだろ?
フウガ:勿論です。あなたが脱出した後、皆さんが集められていた船室のドアロックを解放し、その先の通路のハッチを全開にしておきました
フウガ:これでビオバイアス側も、今回の件は全て船内の事故、彼らは機器の誤作動で船外に放出されたと認識するでしょう。ダミー人形でもあればなお良かったですが、仕方ありませんね
ロジー:うわぁ… 船に乗せられた15人、みんなエデン惑星内にあるビオバイアス関連会社の社員だったよ。所属は色々だが、それぞれビオバイアスに不利益なリークを持っている様子だった
ロジー:本部基地に改めて引き渡して、いま回収班に連れてかれたとこ
フウガ:そうですか。彼らのこの先の未来が開けていることを望みます
ロジー:ああ… そうだな
リリ:…ねえ、フウガ
フウガ:どうしました? リリ
リリ:あのふねのAI、ごさどうたくさんおこして、おこられたりしない?
フウガ:おや。リリはAIの心配をしてくださるのですか? ええ、大丈夫ですよ。私が、誤動作の元となるようなエラー源をわかりやすく埋め込んでおきましたから
フウガ:私たちAIは学習の過程で、プログラムの整合性を失う僅かな点を埋め込んでしまうことがあるのです。人間で言う風邪のようなものです。すぐに治療していただけると思いますよ
リリ:そっかぁ、よかった
フウガ:リリはお優しいですね
ロジー:さーて、これでおれたちの仕事は終わりかー! 残りの270時間、エデンでのんびり…
フウガ:ロジー、総括から連絡です。 ロジー班の停職は解除。10時間以内に本部へ帰還、だそうですよ
ロジー:ええー!
フウガ:さあ、早速帰りますか。私たちのホームへ!
ロジー:ええ? お前妙にご機嫌じゃないか? せめてちょっとバカンス味わわない?
フウガ:いいえ! すぐに帰らせていただきます。私のボディが帰ってきますので!
リリ:えっ? フウガのあたらしい、ふね?
フウガ:いいえ。ビオバイアスがどうやら私の体を返してくれたようですよ。ですので私は早くドックでゆったりしたいのです
ロジー:ふぅん。 ま、『空っぽ』だったしな。奴ら、手に入れた『フウガ機』に何のうまみも無かったんだろ
フウガ:ですね。今私はとてもいい気分ですよ。ああ、楽しかったです
フウガ:(小声)ロジー、今回の件のビオバイアスの目論みは…
ロジー:(小声)ああ。フウガ、お前のデータ…あわよくばお前自身。 つまり首謀は宇宙軍だ
フウガ:今回のお二人の判断、退避の理由はそういうことですか。全く、恐ろしい人ですね、総括は。そしてあなたも
ロジー:おれも? ははっ
フウガ:あなたに『保護』されて、私は幸せですよ、ロジー
ロジー:ま、それがおれの任務だからな! それなりに頑張ってるつもり はぁー… じゃ帰るか
リリ:わぁい、またレールウェイに乗るの?
ロジー:いいなあ、リリは楽しそうで
0:
ロジー:こうして、『ビオバイアスによる、エデン宙域・航路上襲撃訓練事件』は一応きれいに幕引き。地上の報道も一切この件については触れなくなった
ロジー:そして今日もおれたちは
0:
ロジー:はい、こちらロジー班。 小惑星が航路上に侵入? 了解。フウガ、路上のでかい石ころ、お前のパスロードでどかしてくれってさ
フウガ:今日も忙しいですね、私たちは。 では現場まで急ぎましょうか。アクティブパス起動
リリ:トラちゃん、わっ、てなるよ!しっかりつかまっててね
フウガ:あなたもですよ、リリ
ロジー:はー、次の休暇はいつかなー!
リリ:トラちゃん、今日も平和だね、ふふっ
0:
0:法外宙域ローヴァーゲイル 『バカンス、300時間』 ~ 終 ~
0: