台本概要

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タイトル 空の青さを知る者たちは
作者名 さくまとかげ
ジャンル ファンタジー
演者人数 3人用台本(男3)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 あの日の空の色を覚えているだろうか。
それぞれの戦場で生きた、3人の男たちの話。

30~40分。

以前あげていた台本の再編です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
オースティン 72 カエルレウス王国騎士団長(回想では団員)
イーサン 45 ルベル帝国軍人。元カエルレウス王国騎士団員。
ブレンダン 48 カエルレウス王国諜報部所属。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:登場人物 : オースティン:カエルレウス王国騎士団長(回想では団員) イーサン:ルベル帝国軍人。元カエルレウス王国騎士団員。 ブレンダン:カエルレウス王国諜報部所属。 : 0:カエルレウス王国・騎士団長私室。 : オースティン:……何をこそこそしている、ブレンダン・ベインズ。 ブレンダン:おっと、すぐ気が付いたな。さすが騎士団長様。感覚が鋭敏でおられる。 オースティン:ふ……それは煽り(あおり)言葉か?それとも褒め言葉か? オースティン:まあいい、何の用だ?よもや命を取りに来たわけでもあるまい。 ブレンダン:いやなに、ただ幼馴染に会いに来ただけよ。 ブレンダン:25回目の誕生日と、騎士団長就任おめでとう。オースティン・フォン・アーヴィング。 オースティン:……わざわざそれを言いに? ブレンダン:ああ。おかしいかい? オースティン:いや。珍しいなと思っただけだ。 ブレンダン:そうかい?友の誕生日はおめでたいものさ。 ブレンダン:僕も君も、いつまで生きているかわからないから。伝えられるうちにね。 オースティン:ふ、確かにな。 ブレンダン:それにしても25才で騎士団長とは……随分と先に行かれてしまったものだ。 オースティン:私よりも上の人間が、先の戦争で斃れて(たおれて)しまっただけさ。それに、アーヴィングの家名の影響もある。実力ではないよ。 ブレンダン:それでも君が、選ばれたんだ、誇りに思え。 ブレンダン:あの戦争を生き延びたこと。現在騎士団長であること。 ブレンダン:……相手が友であろうと、剣を鈍らせなかったこと。 オースティン:……。 ブレンダン:あの日も確か――空はこんな鈍色だったね。 : 0:窓の外に視線を向ける二人。 : 0:回想・ある夜 : : オースティン:……イーサンが、ルベル帝国へ? ブレンダン:ああ。つい先日戦争が始まったばかりのこのタイミングで、ね。 : 0:愕然とした様子のオースティン。淡々と事実を伝えるブレンダン。 : オースティン:その情報は確かなんだな?勘違いとか、そういうことは…… ブレンダン:僕の仕事が信用できないかい? オースティン:いや……それでは、イーサンは。 ブレンダン:亡命者扱いになる。つまり、僕の暗殺対象だ。 オースティン:ブレンダン! ブレンダン:仕方ないだろう?それが僕の仕事なんだから。 ブレンダン:相手が誰であろうと、それを疎かには出来ない。アーヴィング家の人間とはいえ、現時点での機密情報漏らしてやってるだけ、有難いと思ってくれ。 オースティン:何故だ、よりによってお前が何故…… オースティン:……ブレンダン。お前は、イーサンの足取りを掴んでいるのか。 ブレンダン:そりゃね。それも仕事の一部だし。 ブレンダン:ただ、これ以上は何も言えないよ。僕が処罰されちゃう。わかってくれるよね? オースティン:……わかった。ここから先は、自力で調べよう。 オースティン:イーサン……何を考えているんだ。 : : 0:回想・戦場 : : オースティン:ようやく見えたな(まみえたな)!イーサン・ボールドウィン! イーサン:……あぁ、オースティンか。久しいな。 イーサン:ブレンダンは元気か?……はは、そういえば先日返り討ちにしたっけ。 : 0:回想・ブレンダン帰還 : 0:地に倒れ、体を引きずりながら進み、オースティンの部屋の窓を叩くブレンダン。 : : ブレンダン:……オース、ティン…… オースティン:……!ブレンダン!何があった!傷だらけじゃないか……!一体誰がこんなことを! ブレンダン:……イーサン、だ。 オースティン:……は? ブレンダン:あぁ、なんていうか、仕事、だったんだ。イーサンの、暗殺。 ブレンダン:あっけなく、返り討ちに、されてしまったよ……はは、やっぱりイーサンは、強いな…… ブレンダン:げほっ、げほっ、がはっ! : 0:咳き込み、吐血するブレンダン。 : オースティン:もう喋るな!すぐに医者を呼ぶ! ブレンダン:……いや、それよりも、やらなきゃならないことが、ある。 オースティン:まずは傷を癒さねば何もできまい! ブレンダン:それは、べつに、報告した後でいくらでも、できるから。 ブレンダン:大事な、ことなんだ。……君にも、頼めない。僕が、やらないと。 オースティン:ブレンダン……! ブレンダン:ここ、とおると、はやいんだよね……許してよ。……ああ、そうだ。 オースティン:なんだ! ブレンダン:オースティン……イーサンは、裏切って、ないよ。それだけ、知ってて。 オースティン:……それは、どういう。 ブレンダン:はぁ……諜報部の人間が、私情(しじょう)を挟むなんて…… ブレンダン:まだまだ僕も、甘いな……げほっ、げほっ! オースティン:ブレンダン!しっかりしろ!おい! オースティン:そこに誰かいるか!……お前がいてくれたか、セバスチャン! オースティン:誰にも悟られぬよう、優秀な医師をここへ呼べ!……ああ、急ぎだ!騒ぎにはしたくない! : 0:荒い呼吸と咳を繰り返すブレンダン。 : オースティン:死なせはしないぞ、ブレンダン……! : : 0:戦場の回想へ戻る。 : : オースティン:まさか、本当にお前がブレンダンを……ブレンダンはお前は裏切っていないと言っていたのに。 イーサン:ブレンダンがそんなことを?変だなぁ、そんなこと言いそうにないと思ってたのに。まぁでも、間違ってないか。 オースティン:間違ってない? イーサン:俺は、確かに裏切ってはないよ。 オースティン:お前が着ているのは、帝国軍の緋き軍装(あかきぐんそう)だ! イーサン:ああ、そうだな。お前たちの蒼とは似ても似つかない色だろう。 オースティン:その姿が裏切りではないというならば、いったい何だというのだ! イーサン:簡単な事さ。俺は、初めからルベルの人間なんだよ。 オースティン:……何? イーサン:お前は、俺の父親を知っているな。 オースティン:あ、ああ。何度もあったことがある。それがどうした? イーサン:父はルベル帝国の軍家に連なる人間だ。ボールドウィンだって本名じゃない。俺の本名は、イーサン・エッジワース。 イーサン:つまり俺は!初めからカエルレウスの、お前たちの敵だったんだ。 イーサン:お前と仲良くなったのも軍略のうち。まぁ、それなりに楽しませてもらったよ。 オースティン:そんな……そんな話は信じられない! オースティン:お前と私は、そしてブレンダンは!幼い頃から共に歩んできた!将来の話もした! オースティン:騎士団の入団試験に合格したときは、手を取り合って喜んだ!それなのに……! オースティン:私たちのこれまでの想い出全てが、偽物だというのか! : : 0:回想・入団試験後のシーン : : オースティン:おーい、ブレンダン! ブレンダン:お、その感じだとお前も合格かい? オースティン:ああ!お前も、ということは…… イーサン:ブレンダンも俺も、合格だよ。 オースティン:イーサン!そうか、やったな! オースティン:これで私たちの目標に一つ近付いたぞ! ブレンダン:大げさだな、いうなればまだ入り口を叩いただけだってのに。 イーサン:でも、確実に一歩進んだ。俺達が目指す、平和な世の中に向かって。 ブレンダン:まぁな。もう後には退けないよ。途中で逃げ出すような男ではないと思っているけど。 オースティン:逃げ出すものか!私は何があっても騎士であり続けよう! オースティン:この国を守るために、まずは騎士団長を目指さねばなるまい!立ち止まる時間などないぞ! ブレンダン:熱いねぇ。そういうとこ、君らしいっていうかなんていうか。 イーサン:だな。じゃあ俺は、オースティンを陰から支える参謀でも目指そうかな? ブレンダン:イーサンは参謀ってタイプじゃないでしょ、どっちかっていうと特攻隊長? イーサン:お、言ってくれるなぁ。まあ確かに、頭のいい役回りはブレンダンに任せた方がよさそうだ。 ブレンダン:ま、二人に比べれば非力だし……僕は違う道から君たちを追いかけることにするさ。 オースティン:どのような道を巡ろうと、辿りつく場所は同じだ。 オースティン:私たちは、あの日の誓いを忘れない!共に太平の世(たいへいのよ)を目指そう! ブレンダン:その暑苦しい感じ、まぁ嫌いじゃないよ僕。 イーサン:ははは、俺も。オースティンはこうじゃなきゃ。 オースティン:よくわからんがありがとう! ブレンダン:わかってないんかよ。……お。さて、そろそろ行かないと。入団式に遅れてしまう。 イーサン:そうだね。行こう!第一歩目から躓くわけにはいかないよ! : : 0:再び戦場の回想に戻る。 : : イーサン:……あぁ、そんなこともあったような気がするなぁ。何だ、そんなものに縋っているのか? イーサン:思い出がなんだというのだ。今俺とお前は敵同士。あるのは、その事実だけだ。 オースティン:イーサン……! イーサン:剣を構えろオースティン。ここは戦場だ。俺かお前、どちらかが斃れる(たおれる)まで終わらないぞ。 : 0:剣を構えるイーサン。躊躇いながらも同じく構えるオースティン。 : オースティン:君は本当に私と戦うつもりなのか、イーサン!これが君の本心からの行為なのか! イーサン:そんな言葉よりも簡単に伝わるものがあるぞ。これまでも何かあれば……こうして! オースティン:ぐ……っ! イーサン:互いにぶつかり合ってきたじゃあないか!そうだろう! オースティン:本気の剣……っ、それしか、道はないのか! : 0:打ち合いが続く。実力は互角、いや、イーサンの方がわずかに上手。 : イーサン:道は前にしかない!後戻りなどできん!気を抜くな、前を見ろ、その足でしっかりと踏みしめて歩け!はぁっ! オースティン:そんなことは……言われなくとも、わかっている!ふんっ! イーサン:ほぉ!しばらく合わないうちに腕をあげたじゃあないか! オースティン:当たり前だ!あの日の誓いの為、私は!いつ何時(なんどき)も鍛錬を欠かさなかった! イーサン:それでこそだ、オースティン!だが……まだ届かないぞ!だぁぁ!! オースティン:ぐっ、この……! : 0:イーサンは何処かこの戦いを楽しんでいるように見える。 :オースティンはイーサンの動きについていくのに必死になっている。 : オースティン:私は!まだ!終わるわけにはいかんのだ!うおおお! イーサン:その程度か、オースティン!お前ならもっとやれるはずだ!はぁっ! オースティン:ぐぅっ!……無論!この程度で斃れて(たおれて)は、太平の世など夢のまた夢! オースティン:この戦いが致し方なしというのならば……私は!かつての友だろうと打ち倒し、その命も背負って未来へと進もう!おおお! イーサン:ぐあっ!……ははは!お前に背負えるか、俺の命が! オースティン:背負えるかどうかではない!背負うのだ!それが、命への責任だ! イーサン:言うようになったじゃあないか、オースティン!! オースティン:イィィィィサァァァァン!! : ブレンダン:(M)僕が辿りつくころには、多くの者たちがひしめき合う戦場で、彼らは二人だけの世界を作り上げていた。 ブレンダン:(M)その瞬間、彼らの世界は光り輝いていた。互いがいれば、それだけで十分だったのだろう。 ブレンダン:(M)凄まじい光景。あれは、あの激突は、戦争ではなかった。言うなれば、友との語らいだろうか。 ブレンダン:(M)互いから流れる血が大地を、服を、肌を汚していくことすら厭わず(いとわず)駆け抜けた二人の姿は、恐ろしくも美しかった。 ブレンダン:(M)ああ、僕は、彼らと共に過ごしたこの生が誇らしい。 ブレンダン:(M)あの語らいの時を、僕は死したとて忘れないだろう。 : オースティン:はぁ……!はぁ……! オースティン:そろそろ……終わりの時だ!わかっているだろうイーサン! イーサン:……っ、ふぅ、そうだな、これが……最後、そう最後だ。 イーサン:来い、オースティン!俺は俺の未来を……掴み取る! オースティン:それは……私とて、同じことだぁぁぁ!!! : 0:打ち合いが何度か続く。 : ブレンダン:(M)オースティンの剣と、イーサンの剣。二つの刃は何度もぶつかり合い…… : イーサン:……ぐぅっ!! オースティン:な……っ! : ブレンダン:(M)やがてオースティンの剣がイーサンの緋(あか)を切り裂いたことで止まった。 : オースティン:な……何故だ!何故剣をおろしたイーサン! イーサン:はは……何言ってんるだ。剣は、はじかれたんだ……げほっ! : 0:崩れ落ちたイーサンを抱えるオースティン。 : オースティン:そんなわけがあるか……!お前の一撃は最後まで重たいままだった! オースティン:あのまま続ければ、はじかれるのは俺の剣であったはずだ! イーサン:実際、はじかれたんだから……仕方ないだろ…… オースティン:イーサン、俺は……! イーサン:どうした、口調が乱れているぞ、オースティン……お父上に知られたら大目玉だったろう。 オースティン:俺の話なんて今はどうでもいい!イーサン、頼む、しっかりしてくれ!俺を見ろ! イーサン:……いいんだ。これで、すべてうまくいく。俺は俺の未来を、掴み取った。 オースティン:な……何を言っているんだ? イーサン:ブレンダンは、無事か。 オースティン:え?……ああ、生きている。ひどい傷だったが。 イーサン:そうか……やりすぎてすまないと、伝えてくれ。 ブレンダン:もう伝わったよ、イーサン。……そうか、君は結局その道を選んだのか。 : 0:歩み寄ってくるブレンダン。オースティンは驚く。 : オースティン:ブレンダン!何故ここに!まだ療養中だと……! ブレンダン:すまない。それは偽の情報だ。……いろいろあってね。 : : 0:回想・ブレンダン帰還前 : : イーサン:ブレンダン、すまない。俺は今、お前たちとのつながりを疑われている。 イーサン:……信用が欲しくば、友を殺せと。次の戦場で、オースティンを。お前の事も、じきに調べられるだろう。 ブレンダン:そうか、それはよろしくないね。困ったことだ。 イーサン:でも、俺はお前たちを傷つけたくない……頼む。今俺を斬って、そのまま撤退してくれ。そうすれば、次の戦には出なくて済む。 ブレンダン:ふむ……いや、そうじゃない方がいい。 イーサン:何? ブレンダン:君が、僕を、斬るんだ。 イーサン:な、にを……!そんなことは! ブレンダン:君がこの屋敷での立場を守るためには、君が負けてはいけないんだ、イーサン。 イーサン:ブレンダン…… ブレンダン:わざと騒ぎを起こせ。僕を斬る瞬間を見せつけなければ。殺す気で、手加減はするな。下手に手を抜けば疑われるぞ。 ブレンダン:なぁに、虫の息程度でも命を残してくれれば、後はこちらで何とかするさ。 イーサン:……すまない。すまない、ブレンダン……! : 0:戦場の回想へ : イーサン:あのとき……俺の道は、きまった…… オースティン:何故、なぜ俺にはひとつも……! ブレンダン:……オースティン、詳しい話はまた。僕は伝令役だ。……君の母親は無事だよ、イーサン。情報も、無事に届いた。 オースティン:母、親……? イーサン:あぁ、そうか……それを聞けただけで、安心して逝けるというものだ…… オースティン:答えてくれ!いったい何の話をしているんだ、ブレンダン! ブレンダン:……オースティン。彼は君を信じて、僕を信じた。今言えるのは、それだけだ。 オースティン:信じた…… : 0:状況の掴めないオースティン。ブレンダンはそれ以上何も言わない。 : イーサン:すまない……これまで、何も話せなくて。酷なことをしたと、おもう…… イーサン:けど、よかった……最期に会えたのが、君たちで。 オースティン:お前……はじめから此処で、俺に斬られて死ぬつもりで? イーサン:さぁ、ね……げほっ、げほっ! オースティン:イーサン!すまない、俺は…っ! イーサン:はぁ……っ、オースティン。君は、歩き続けろ。俺の命も、背負ってくれるんだろう。そのまま未来へ、連れていけ。 オースティン:……イーサン…… イーサン:ブレンダン。……ひどいことをして、ごめん。 ブレンダン:なに、誇るがいい。君は一度として、あの日の誓いを違わなかった(たがわなかった)。 イーサン:そうか……そうだな。 イーサン:……あぁ、空が、蒼いなぁ。 : オースティン:(M)その一言を最後に、イーサンの堅く閉じられた瞼は二度と開かなかった。 オースティン:(M)事の詳細が私に知らされたのは、すべてが終わり、私が騎士団長になることが決まった頃だ。 オースティン:(M)もう少し時間稼ぎができれば、あの時剣を下ろさなければ、皆で生きて未来を見ることができたはずなのに。イーサンは、それを望まなかった。 オースティン:(M)それは、彼なりのけじめであり、その選択も含めたすべてが、彼の人生だったのだ。 オースティン:(M)そしてここからは、私の―― : 0:現在の時間軸。 : : ブレンダン:さ、時間だ。誕生日に任命式と就任パーティなんて、君も大変だね。 オースティン:仕方ないさ。騎士団長不在のままでは、蒼穹騎士団も困ってしまうからな。 オースティン:……なぁ、ブレンダン。 ブレンダン:うん? オースティン:……空は、今も蒼いだろうか。 ブレンダン:うーん……どうだろうね。蒼いと思うならば、空は蒼いものなんじゃないか。 オースティン:全ては自己の認識次第だと、そういうことか。 ブレンダン:君の見る空、僕の見る空……彼の見た空。すべて同じとは限らない。 ブレンダン:けれどそれでも……僕はこれからも、僕の見た空は蒼かったと語り続けるよ。 ブレンダン:イーサンがあの日見た空が、蒼かったようにさ。 オースティン:……そうか。ならば私も語り続けねばなるまい。 オースティン:あの日奴が見た空の色も、その思いも、命も……背負うと決めたのだからな。 : ブレンダン:……おや、晴れたね。綺麗な青空だ。 オースティン:ふ……これもまた人生、か。 オースティン:……さあ行くぞブレンダン!皆が待っている! ブレンダン:そうだね。行こう、どこまでも。空が続く限り、ね。 オースティン:ああ! : : 0:完

0:登場人物 : オースティン:カエルレウス王国騎士団長(回想では団員) イーサン:ルベル帝国軍人。元カエルレウス王国騎士団員。 ブレンダン:カエルレウス王国諜報部所属。 : 0:カエルレウス王国・騎士団長私室。 : オースティン:……何をこそこそしている、ブレンダン・ベインズ。 ブレンダン:おっと、すぐ気が付いたな。さすが騎士団長様。感覚が鋭敏でおられる。 オースティン:ふ……それは煽り(あおり)言葉か?それとも褒め言葉か? オースティン:まあいい、何の用だ?よもや命を取りに来たわけでもあるまい。 ブレンダン:いやなに、ただ幼馴染に会いに来ただけよ。 ブレンダン:25回目の誕生日と、騎士団長就任おめでとう。オースティン・フォン・アーヴィング。 オースティン:……わざわざそれを言いに? ブレンダン:ああ。おかしいかい? オースティン:いや。珍しいなと思っただけだ。 ブレンダン:そうかい?友の誕生日はおめでたいものさ。 ブレンダン:僕も君も、いつまで生きているかわからないから。伝えられるうちにね。 オースティン:ふ、確かにな。 ブレンダン:それにしても25才で騎士団長とは……随分と先に行かれてしまったものだ。 オースティン:私よりも上の人間が、先の戦争で斃れて(たおれて)しまっただけさ。それに、アーヴィングの家名の影響もある。実力ではないよ。 ブレンダン:それでも君が、選ばれたんだ、誇りに思え。 ブレンダン:あの戦争を生き延びたこと。現在騎士団長であること。 ブレンダン:……相手が友であろうと、剣を鈍らせなかったこと。 オースティン:……。 ブレンダン:あの日も確か――空はこんな鈍色だったね。 : 0:窓の外に視線を向ける二人。 : 0:回想・ある夜 : : オースティン:……イーサンが、ルベル帝国へ? ブレンダン:ああ。つい先日戦争が始まったばかりのこのタイミングで、ね。 : 0:愕然とした様子のオースティン。淡々と事実を伝えるブレンダン。 : オースティン:その情報は確かなんだな?勘違いとか、そういうことは…… ブレンダン:僕の仕事が信用できないかい? オースティン:いや……それでは、イーサンは。 ブレンダン:亡命者扱いになる。つまり、僕の暗殺対象だ。 オースティン:ブレンダン! ブレンダン:仕方ないだろう?それが僕の仕事なんだから。 ブレンダン:相手が誰であろうと、それを疎かには出来ない。アーヴィング家の人間とはいえ、現時点での機密情報漏らしてやってるだけ、有難いと思ってくれ。 オースティン:何故だ、よりによってお前が何故…… オースティン:……ブレンダン。お前は、イーサンの足取りを掴んでいるのか。 ブレンダン:そりゃね。それも仕事の一部だし。 ブレンダン:ただ、これ以上は何も言えないよ。僕が処罰されちゃう。わかってくれるよね? オースティン:……わかった。ここから先は、自力で調べよう。 オースティン:イーサン……何を考えているんだ。 : : 0:回想・戦場 : : オースティン:ようやく見えたな(まみえたな)!イーサン・ボールドウィン! イーサン:……あぁ、オースティンか。久しいな。 イーサン:ブレンダンは元気か?……はは、そういえば先日返り討ちにしたっけ。 : 0:回想・ブレンダン帰還 : 0:地に倒れ、体を引きずりながら進み、オースティンの部屋の窓を叩くブレンダン。 : : ブレンダン:……オース、ティン…… オースティン:……!ブレンダン!何があった!傷だらけじゃないか……!一体誰がこんなことを! ブレンダン:……イーサン、だ。 オースティン:……は? ブレンダン:あぁ、なんていうか、仕事、だったんだ。イーサンの、暗殺。 ブレンダン:あっけなく、返り討ちに、されてしまったよ……はは、やっぱりイーサンは、強いな…… ブレンダン:げほっ、げほっ、がはっ! : 0:咳き込み、吐血するブレンダン。 : オースティン:もう喋るな!すぐに医者を呼ぶ! ブレンダン:……いや、それよりも、やらなきゃならないことが、ある。 オースティン:まずは傷を癒さねば何もできまい! ブレンダン:それは、べつに、報告した後でいくらでも、できるから。 ブレンダン:大事な、ことなんだ。……君にも、頼めない。僕が、やらないと。 オースティン:ブレンダン……! ブレンダン:ここ、とおると、はやいんだよね……許してよ。……ああ、そうだ。 オースティン:なんだ! ブレンダン:オースティン……イーサンは、裏切って、ないよ。それだけ、知ってて。 オースティン:……それは、どういう。 ブレンダン:はぁ……諜報部の人間が、私情(しじょう)を挟むなんて…… ブレンダン:まだまだ僕も、甘いな……げほっ、げほっ! オースティン:ブレンダン!しっかりしろ!おい! オースティン:そこに誰かいるか!……お前がいてくれたか、セバスチャン! オースティン:誰にも悟られぬよう、優秀な医師をここへ呼べ!……ああ、急ぎだ!騒ぎにはしたくない! : 0:荒い呼吸と咳を繰り返すブレンダン。 : オースティン:死なせはしないぞ、ブレンダン……! : : 0:戦場の回想へ戻る。 : : オースティン:まさか、本当にお前がブレンダンを……ブレンダンはお前は裏切っていないと言っていたのに。 イーサン:ブレンダンがそんなことを?変だなぁ、そんなこと言いそうにないと思ってたのに。まぁでも、間違ってないか。 オースティン:間違ってない? イーサン:俺は、確かに裏切ってはないよ。 オースティン:お前が着ているのは、帝国軍の緋き軍装(あかきぐんそう)だ! イーサン:ああ、そうだな。お前たちの蒼とは似ても似つかない色だろう。 オースティン:その姿が裏切りではないというならば、いったい何だというのだ! イーサン:簡単な事さ。俺は、初めからルベルの人間なんだよ。 オースティン:……何? イーサン:お前は、俺の父親を知っているな。 オースティン:あ、ああ。何度もあったことがある。それがどうした? イーサン:父はルベル帝国の軍家に連なる人間だ。ボールドウィンだって本名じゃない。俺の本名は、イーサン・エッジワース。 イーサン:つまり俺は!初めからカエルレウスの、お前たちの敵だったんだ。 イーサン:お前と仲良くなったのも軍略のうち。まぁ、それなりに楽しませてもらったよ。 オースティン:そんな……そんな話は信じられない! オースティン:お前と私は、そしてブレンダンは!幼い頃から共に歩んできた!将来の話もした! オースティン:騎士団の入団試験に合格したときは、手を取り合って喜んだ!それなのに……! オースティン:私たちのこれまでの想い出全てが、偽物だというのか! : : 0:回想・入団試験後のシーン : : オースティン:おーい、ブレンダン! ブレンダン:お、その感じだとお前も合格かい? オースティン:ああ!お前も、ということは…… イーサン:ブレンダンも俺も、合格だよ。 オースティン:イーサン!そうか、やったな! オースティン:これで私たちの目標に一つ近付いたぞ! ブレンダン:大げさだな、いうなればまだ入り口を叩いただけだってのに。 イーサン:でも、確実に一歩進んだ。俺達が目指す、平和な世の中に向かって。 ブレンダン:まぁな。もう後には退けないよ。途中で逃げ出すような男ではないと思っているけど。 オースティン:逃げ出すものか!私は何があっても騎士であり続けよう! オースティン:この国を守るために、まずは騎士団長を目指さねばなるまい!立ち止まる時間などないぞ! ブレンダン:熱いねぇ。そういうとこ、君らしいっていうかなんていうか。 イーサン:だな。じゃあ俺は、オースティンを陰から支える参謀でも目指そうかな? ブレンダン:イーサンは参謀ってタイプじゃないでしょ、どっちかっていうと特攻隊長? イーサン:お、言ってくれるなぁ。まあ確かに、頭のいい役回りはブレンダンに任せた方がよさそうだ。 ブレンダン:ま、二人に比べれば非力だし……僕は違う道から君たちを追いかけることにするさ。 オースティン:どのような道を巡ろうと、辿りつく場所は同じだ。 オースティン:私たちは、あの日の誓いを忘れない!共に太平の世(たいへいのよ)を目指そう! ブレンダン:その暑苦しい感じ、まぁ嫌いじゃないよ僕。 イーサン:ははは、俺も。オースティンはこうじゃなきゃ。 オースティン:よくわからんがありがとう! ブレンダン:わかってないんかよ。……お。さて、そろそろ行かないと。入団式に遅れてしまう。 イーサン:そうだね。行こう!第一歩目から躓くわけにはいかないよ! : : 0:再び戦場の回想に戻る。 : : イーサン:……あぁ、そんなこともあったような気がするなぁ。何だ、そんなものに縋っているのか? イーサン:思い出がなんだというのだ。今俺とお前は敵同士。あるのは、その事実だけだ。 オースティン:イーサン……! イーサン:剣を構えろオースティン。ここは戦場だ。俺かお前、どちらかが斃れる(たおれる)まで終わらないぞ。 : 0:剣を構えるイーサン。躊躇いながらも同じく構えるオースティン。 : オースティン:君は本当に私と戦うつもりなのか、イーサン!これが君の本心からの行為なのか! イーサン:そんな言葉よりも簡単に伝わるものがあるぞ。これまでも何かあれば……こうして! オースティン:ぐ……っ! イーサン:互いにぶつかり合ってきたじゃあないか!そうだろう! オースティン:本気の剣……っ、それしか、道はないのか! : 0:打ち合いが続く。実力は互角、いや、イーサンの方がわずかに上手。 : イーサン:道は前にしかない!後戻りなどできん!気を抜くな、前を見ろ、その足でしっかりと踏みしめて歩け!はぁっ! オースティン:そんなことは……言われなくとも、わかっている!ふんっ! イーサン:ほぉ!しばらく合わないうちに腕をあげたじゃあないか! オースティン:当たり前だ!あの日の誓いの為、私は!いつ何時(なんどき)も鍛錬を欠かさなかった! イーサン:それでこそだ、オースティン!だが……まだ届かないぞ!だぁぁ!! オースティン:ぐっ、この……! : 0:イーサンは何処かこの戦いを楽しんでいるように見える。 :オースティンはイーサンの動きについていくのに必死になっている。 : オースティン:私は!まだ!終わるわけにはいかんのだ!うおおお! イーサン:その程度か、オースティン!お前ならもっとやれるはずだ!はぁっ! オースティン:ぐぅっ!……無論!この程度で斃れて(たおれて)は、太平の世など夢のまた夢! オースティン:この戦いが致し方なしというのならば……私は!かつての友だろうと打ち倒し、その命も背負って未来へと進もう!おおお! イーサン:ぐあっ!……ははは!お前に背負えるか、俺の命が! オースティン:背負えるかどうかではない!背負うのだ!それが、命への責任だ! イーサン:言うようになったじゃあないか、オースティン!! オースティン:イィィィィサァァァァン!! : ブレンダン:(M)僕が辿りつくころには、多くの者たちがひしめき合う戦場で、彼らは二人だけの世界を作り上げていた。 ブレンダン:(M)その瞬間、彼らの世界は光り輝いていた。互いがいれば、それだけで十分だったのだろう。 ブレンダン:(M)凄まじい光景。あれは、あの激突は、戦争ではなかった。言うなれば、友との語らいだろうか。 ブレンダン:(M)互いから流れる血が大地を、服を、肌を汚していくことすら厭わず(いとわず)駆け抜けた二人の姿は、恐ろしくも美しかった。 ブレンダン:(M)ああ、僕は、彼らと共に過ごしたこの生が誇らしい。 ブレンダン:(M)あの語らいの時を、僕は死したとて忘れないだろう。 : オースティン:はぁ……!はぁ……! オースティン:そろそろ……終わりの時だ!わかっているだろうイーサン! イーサン:……っ、ふぅ、そうだな、これが……最後、そう最後だ。 イーサン:来い、オースティン!俺は俺の未来を……掴み取る! オースティン:それは……私とて、同じことだぁぁぁ!!! : 0:打ち合いが何度か続く。 : ブレンダン:(M)オースティンの剣と、イーサンの剣。二つの刃は何度もぶつかり合い…… : イーサン:……ぐぅっ!! オースティン:な……っ! : ブレンダン:(M)やがてオースティンの剣がイーサンの緋(あか)を切り裂いたことで止まった。 : オースティン:な……何故だ!何故剣をおろしたイーサン! イーサン:はは……何言ってんるだ。剣は、はじかれたんだ……げほっ! : 0:崩れ落ちたイーサンを抱えるオースティン。 : オースティン:そんなわけがあるか……!お前の一撃は最後まで重たいままだった! オースティン:あのまま続ければ、はじかれるのは俺の剣であったはずだ! イーサン:実際、はじかれたんだから……仕方ないだろ…… オースティン:イーサン、俺は……! イーサン:どうした、口調が乱れているぞ、オースティン……お父上に知られたら大目玉だったろう。 オースティン:俺の話なんて今はどうでもいい!イーサン、頼む、しっかりしてくれ!俺を見ろ! イーサン:……いいんだ。これで、すべてうまくいく。俺は俺の未来を、掴み取った。 オースティン:な……何を言っているんだ? イーサン:ブレンダンは、無事か。 オースティン:え?……ああ、生きている。ひどい傷だったが。 イーサン:そうか……やりすぎてすまないと、伝えてくれ。 ブレンダン:もう伝わったよ、イーサン。……そうか、君は結局その道を選んだのか。 : 0:歩み寄ってくるブレンダン。オースティンは驚く。 : オースティン:ブレンダン!何故ここに!まだ療養中だと……! ブレンダン:すまない。それは偽の情報だ。……いろいろあってね。 : : 0:回想・ブレンダン帰還前 : : イーサン:ブレンダン、すまない。俺は今、お前たちとのつながりを疑われている。 イーサン:……信用が欲しくば、友を殺せと。次の戦場で、オースティンを。お前の事も、じきに調べられるだろう。 ブレンダン:そうか、それはよろしくないね。困ったことだ。 イーサン:でも、俺はお前たちを傷つけたくない……頼む。今俺を斬って、そのまま撤退してくれ。そうすれば、次の戦には出なくて済む。 ブレンダン:ふむ……いや、そうじゃない方がいい。 イーサン:何? ブレンダン:君が、僕を、斬るんだ。 イーサン:な、にを……!そんなことは! ブレンダン:君がこの屋敷での立場を守るためには、君が負けてはいけないんだ、イーサン。 イーサン:ブレンダン…… ブレンダン:わざと騒ぎを起こせ。僕を斬る瞬間を見せつけなければ。殺す気で、手加減はするな。下手に手を抜けば疑われるぞ。 ブレンダン:なぁに、虫の息程度でも命を残してくれれば、後はこちらで何とかするさ。 イーサン:……すまない。すまない、ブレンダン……! : 0:戦場の回想へ : イーサン:あのとき……俺の道は、きまった…… オースティン:何故、なぜ俺にはひとつも……! ブレンダン:……オースティン、詳しい話はまた。僕は伝令役だ。……君の母親は無事だよ、イーサン。情報も、無事に届いた。 オースティン:母、親……? イーサン:あぁ、そうか……それを聞けただけで、安心して逝けるというものだ…… オースティン:答えてくれ!いったい何の話をしているんだ、ブレンダン! ブレンダン:……オースティン。彼は君を信じて、僕を信じた。今言えるのは、それだけだ。 オースティン:信じた…… : 0:状況の掴めないオースティン。ブレンダンはそれ以上何も言わない。 : イーサン:すまない……これまで、何も話せなくて。酷なことをしたと、おもう…… イーサン:けど、よかった……最期に会えたのが、君たちで。 オースティン:お前……はじめから此処で、俺に斬られて死ぬつもりで? イーサン:さぁ、ね……げほっ、げほっ! オースティン:イーサン!すまない、俺は…っ! イーサン:はぁ……っ、オースティン。君は、歩き続けろ。俺の命も、背負ってくれるんだろう。そのまま未来へ、連れていけ。 オースティン:……イーサン…… イーサン:ブレンダン。……ひどいことをして、ごめん。 ブレンダン:なに、誇るがいい。君は一度として、あの日の誓いを違わなかった(たがわなかった)。 イーサン:そうか……そうだな。 イーサン:……あぁ、空が、蒼いなぁ。 : オースティン:(M)その一言を最後に、イーサンの堅く閉じられた瞼は二度と開かなかった。 オースティン:(M)事の詳細が私に知らされたのは、すべてが終わり、私が騎士団長になることが決まった頃だ。 オースティン:(M)もう少し時間稼ぎができれば、あの時剣を下ろさなければ、皆で生きて未来を見ることができたはずなのに。イーサンは、それを望まなかった。 オースティン:(M)それは、彼なりのけじめであり、その選択も含めたすべてが、彼の人生だったのだ。 オースティン:(M)そしてここからは、私の―― : 0:現在の時間軸。 : : ブレンダン:さ、時間だ。誕生日に任命式と就任パーティなんて、君も大変だね。 オースティン:仕方ないさ。騎士団長不在のままでは、蒼穹騎士団も困ってしまうからな。 オースティン:……なぁ、ブレンダン。 ブレンダン:うん? オースティン:……空は、今も蒼いだろうか。 ブレンダン:うーん……どうだろうね。蒼いと思うならば、空は蒼いものなんじゃないか。 オースティン:全ては自己の認識次第だと、そういうことか。 ブレンダン:君の見る空、僕の見る空……彼の見た空。すべて同じとは限らない。 ブレンダン:けれどそれでも……僕はこれからも、僕の見た空は蒼かったと語り続けるよ。 ブレンダン:イーサンがあの日見た空が、蒼かったようにさ。 オースティン:……そうか。ならば私も語り続けねばなるまい。 オースティン:あの日奴が見た空の色も、その思いも、命も……背負うと決めたのだからな。 : ブレンダン:……おや、晴れたね。綺麗な青空だ。 オースティン:ふ……これもまた人生、か。 オースティン:……さあ行くぞブレンダン!皆が待っている! ブレンダン:そうだね。行こう、どこまでも。空が続く限り、ね。 オースティン:ああ! : : 0:完