台本概要

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タイトル 「或る復讐者擬きの焔恨」
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(不問1) ※兼役あり
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 あるふくしゅうしゃもどきのえんこん。


過去に執着することしかできないわたしが、
或る決意を抱くお話。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
わたし 不問 - 過去が大好きで、夢見がちで。 そしてなにより、自分勝手なわたし。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:「或る復讐者擬きの焔恨」 : 0: :夢を見た。 : :ソレは過去。現在(イマ)を生きる人類にとって、二度取り戻せない夢想(トロイメライ)。 : :朧げなる一夜限りの夢。輝かしき『あの日々』(いつか)の記憶。 : :何もかもが煌めいて視えたあの日、愚かしくもわたしは信じた。 : :「きっと終わらない。」「終わるはずがない。」 : :盟友たちと過ごす愛おしい日常。 : :目の前の課題に一直線に駆け抜けて。笑って、泣いて、企てて。 : :永遠。久遠。そう、無邪気にも信じていた。そしてその願いは、現在(イマ)もわたしの胸の内に――――。 : :―――いいや。終わった。終わったよ。終わったとも。 : :終わってしまったんだ。 : :あの時、何よりも愛していた、紛れもない盟友たちの手によって。 : :真実であったはずのモノは、いつしか二度と手にすることのない幻影に変わっていた。 : :そう。わたしは裏切られた。 : :もっとも、きっと彼らは裏切ったなんて思っていないだろう。 : :嗚呼。そうとも。彼らはただ生きただけだ。 : :それでも、わたしは裏切られた。 : :時として共に過ごす仲間を、盟友と呼ぶべき者を替えるのが我ら人類だ。 : :この性質は人間の愚かしさであり、浅ましき美徳でもあるだろう。 : :この在り方は実に理にかなっている。 : :心惹かれる者。共鳴(シンパシー)を宿しているであろう者。若(も)しくは、自身の糧となり得る者。骨の髄まで利用できる者。 : :誰がどのような意志を以て誰と寄り添い歩くのか。 : :そんなものは知らない。知る由もない。わたしはわたし以外の誰でもないのだから。 : :だが。結末を知った今ならば。彼らが何故、わたしと接触し、わたしと歩んだのか。解る。推測だが、断言できよう。 : :つまるにわたしは、使い捨てられたのだ。 : :一時の悦楽の為に。 : :一時の友情をわたしと。 : :驚くことではない。悲しむことでもない。理解っている。 : :人と人との繋がりなど、それこそ夢幻(ゆめまぼろし)だ。 : :わたしが想っていても、相手が想っていない、なんて。普通のことだ。 : :そう。先ほども述べたが、それが世の常。端から見れば、狂っているのはわたしの方だろう。 : :でも。だけど。それでも。 : :わたしは受け入れられなかった。 : :いとも容易く、長い日々培ってきた日常を切り捨てる、彼らの。世界の在り方が。 : :確かにわたしとあなたたちの間に友情は芽生えていたはずだ。 : :わたしは、それをかけがえのないものと思っていた。 : :誰一人欠けることなく。このままずっと、苦楽を共にし、成長して、いつまでも共に過ごすものと、信じていたんだ。 : :だからこそ。我儘(エゴ)でしかないと理解していながらも。 : :わたしは叫ぶ。わたしは咽ぶ。わたしは尊ぶ。 : :あの日々はなんだったんだ! : :記憶の彼方に隠れようと、わたしの網膜に焼き付いた景色は、わたしの海馬は忘れはしない! : :わたしと君たちの世界に芽生えた友情は、確かに存在していた! : :あの日、あの時、あの時間!わたしたちの間に、友情は確かに成立していた! : :嘘偽りではない!君たちと共に笑った一瞬は確かに実在した!君たちと共に流した悔し涙は確かに頬を伝った! : :なのに、何故。何故だ!何故、斯くも簡単に切り捨てられるのか!? : :わたしは君たちを愛していた。君たちもわたしを愛してくれていた。 : :虚偽はない。欺瞞はない。真実の情熱が、其処には在った。わたしたちは、共に生命(いのち)を燃やしていた。 : :だというのに。君たちは、君たちは。 : :―――どうして、わたしを捨てたんだ……。 : :答えはない。応えはない。とうに彼らは、新たなる道を、新たなる者たちと歩み出しているのだから。 : :どんな人間も、『依怙贔屓』(えこひいき)はする。 : :不平等。それが世界の在り方だ。だから、優先順位が下がった者が切り捨てられることは、摂理なのだ。 : :何度も言おう。理解っている。心の奥底では。 : :だけど。 : :すまない。 : :わたしは、過去に執着する在り方しかできないんだ。 : :懐古こそ、わたしの胸に空いた虚ろを埋めるモノ。 : :追想こそ、わたしの人生を突き動かすモノ。 : :この肉体はこの言の葉を紡ぐ現在(イマ)も未来に向かって突き進んでいるけれど。 : :わたしの意志(ココロ)は、今も後ろを振り返り続けている。 : :過去の栄光がなくなってしまったら。 : :イマを生きるわたしなんて、がらんどうに過ぎないのだから。 : :時の流れは残酷だ。時代の移ろいは喪失を心に遺し、生を重ねるほどに追憶は増える。 : :瞼の裏の暗闇で視界を覆い、いつかのわたしに思いを馳せても、煌めいていた日々は「靄」(もや)が―――、 : :いいや。表現がわたしらしくないので言い換えよう。 : :楽しかった日々は、「霞」に魅入られた朧月(おぼろづき)のように、今も増えゆく無為な日常に染められ、掻き消されていく。 : :怖い。 : :これ以上忘れていくのが。 : :辛い。 : :わたしを忘れられるのが。 : :時折、想像することがある。有り得ざるifを。喪ったわたしに二度と戻らない日々を。 : :いつかに戻って、やり直せたら。 : :もし、今も彼らが、わたしに話しかけてくれていたら。 : :楽観的な妄想に浸る一瞬は、わたしに圧(の)し掛(か)かる、なにもかもを忘れさせてくれる。 : :でも。 : :やがて泡沫(うたかた)の夢から醒めたとき、わたしの胸に残るのは感傷の痛みだけ。 : :空虚。自慰にも似たノスタルジアの残響が、何者にもなれないわたしに、現実という名の苦痛をジクジクと知らせるのみ。 : :其処には、何もない。 : :確かにココロを穿つのは、強烈に襲い来る孤独だけ。 : :何かに縋らないと、生きていけない。 : :弱虫で愚かで、プライドだけは一丁前の、どうしようもないわたし。 : :いつしか、誰かがわたしに言った。 : :「お前は優しすぎるんだ。」 : :黙れ。お前はわたしの何を知っている? : :慰めなら要らない。蔑みたいなら幾らでも。 : :どちらにせよ、わたしはお前を恨むだけ。 : :知ったような口を利くな。反吐が出る。吐き気がする。彼らでもないのにわたしを騙(かた)るな。 : :優しくなんかない。ただ、執着しているだけ。 : :過去の景色に固執して、イマになって後悔している、タチの悪い懐古厨。 : :彼らは正常だ。世界(しゃかい)の在り方は正しい。間違っているのは、キレイゴトを謳うわたしなんだ。 : :納得できない。だからわたしは此処に居る。 : :過去に固執し、忘れたくないともがく。無駄な抵抗だ。 : :いつか、何処かで目にした言葉。 : :「忘れ征くからこそ、儚いからこそ人生は美しい。」 : :正しい。 : :どうしようもなく。正しい。 : :「人」の「夢」と書いて「儚い」。 : :記憶というものは夢に似ている。 : :この儚さを受け入れ、享受することこそ、人間の美徳なのだろう。 : :否。それでも納得できない。わたしは拒む。足掻いて藻掻く。 : :無駄と知っていながら。 : :そうでもしないと、首でも吊ってしまいそうなのだ。 : :現在(イマ)のわたしに価値なんてないから。 : :かつてのわたし。誉れのわたし。 : :わたしが、喪った過去(わたし)。 : :過去に祈りは届かない。過去に願いは果たされない。 : :それが、『わたし』という人間が歩んだ、歩んでしまった道ならば。 : :引き返せない。一方通行の路(みち)。 : :振り返って、振り返って。 : :来る日も来る日も振り返って、前なんて見ないで。 : :そうしてやがて、わたしは気づく。 : :いいや。既に気づいていた。だからこそ、再認識という表現が相応しかろう。 : :真に記憶に抗いたいと想うのならば。 : :真に過去に報いたいと謂うのならば。 : : :「現在であり未来」を妬き尽くす、復讐鬼と変貌(か)えろ。 : : :怠惰。それが今のわたし。 : :過去に縛られて、何もかもを蔑ろにした愚の骨頂たるわたし。 : :この在り方は変えられない。変えられるはずがない。 : :これはわたしを形容(カタチヅク)る最も重要な柱だから。 : :抱いたのは未練であり、覚悟であり、“怨念の焔”だ。 : :美しきいつかをわたしが捨てることはない。この身はとうに狂い果てているゆえに。 : :そう。怨嗟(えんさ)を纏う醜き焔は、夙(つと)に我が胸を焦がしていた。 : :振り返ることは辞めない。だが、今のままでは「終われない」。 : :彼らはわたしを捨てて、未来へと向かって、更なる幸福(しあわせ)を手にしたのだ。 : :なんて妬ましいのだろうか。 : :そして、なのに、どうして。何故、わたしは足踏み「しか」していない? : :抗っていた?違う。わたしは浸っていただけだ。 : :追憶は甘露だが、「何も生まない」。 : :嗚呼、そうとも。 : :過去に執着する在り方は、まるで復讐のようだ。 : :独り善がりで、誰も幸せにならず、何を生み出すこともない。 : :本当に? : :贋物(がんぶつ)の復讐など、「美しさ」の欠片もなかろうに! : :史実に語られる彼らは、若しくは物語に綴られる彼らは、内なる焔に突き動かされるままに。 : :命の煌めきを恩讐の果てに燃やし尽くして見せた。 : :彼らの人生(モノガタリ)が放つ闇は悍(おぞ)ましいほどに深い。だが、それと同時に美しい光を纏う。 : :何故か? : :それは当然。文字通り、血の滲むような努力を積み重ねて見せたからだ。 : :なら今のわたしを言い表す言葉は? : :「滑稽」。 : :怠惰なリヴェンジャーほど痛ましいものはない。 : :わたしは過去を追い求める狂乱者。 : :それでいて、今まさに、わたしが歩む道のりを書き換えんと奔走する復讐者(アヴェンジャー)だ。 : :己の抱いた「夢想」(カコ)を、残酷に針を進める「日々」(イマ)を、暗雲蠢く「人生」(ミライ)を。 : :わたしは恨む。恨み尽くす。嫉妬と、悲哀を抱いて。 : :怨念。それは復讐の原動力。人間を、生命をいともたやすく「復讐者」へと変貌させ得る、禁断の果実。果てに潜むは蜜の味。 : :狂おしき恍惚を憶えるほどに甘露で、臓腑を竦(すく)ませる恐怖を憶えるほどに絶大。 : :Grudge(グラッジ)。Avenge(アヴェンジ)。その裏にあるものが必ずしもMalice(マリス)とは限らない。 : :さあ、今こそ怨念の刃を振るえ。復讐に駆られ、身を委ねて。 : :誰でもない、「自分自身」(カレ/カノジョ)に牙を突き立てろ。灰燼(かいじん)に帰すまで、燃やし尽くそう。 : :「今まで」をやるせなく愛し続けろ。「今まで」をどうしようもなく恨み続けろ。 : :わたしはこれでいい。 : :煌々と。眩いほどに光り輝く生命(いのち)の灯(ともしび)で、「これから」を照らし、歩む。 : :わたしを蔑んだ「自分」(モノ)に、わたしを哀れんだ「誰か」(モノ)に、わたしを裏切った「いつかの友」(モノタチ)に。 : :怨念の焔を見せつけてやるんだ。 : :喩え、いつかこの身が悪意に飲まれたとしても。 : :わたしはわたしの旅路(じんせい)を往く。 : :美しき旅路を逝った“彼ら”のように、大それたものではない、ちっぽけな復讐だけど。 : :これはわたしの人生(モノガタリ)。 : :誰もが慕う大英雄になることなんざ、最初(ハナ)から望んではいないから。 : :心臓がドクドクと音を立てて、心の高揚を伝える。 : :それは希望。新たな世界に踏み出す一歩。 : :それは不安。怠惰なわたしの造り出す精神重圧。 : :だが、この高揚感の正体は、きっとこのどちらでもない。 : :―――焔が、燻っている。 : :わたしが挑むのは、「何かを生み出す復讐」。「幸せになるための復讐」。 : :大言壮語。そんなものは復讐の在り方ではない。 : :だからきっと、復讐なんて言葉はいつもの大見得で、実際はちっぽけな決意に過ぎないのだけど。 : :わたしは、過去を呪って、怨んで、憎みつくして。 : :それでも愛して。 : :何もかもが間違って、狂い切って、独り善がりが大好きなわたしの報復を始めようじゃないか。 : :きっとこれ以上何を綴っても仕方あるまい。 : :ならば、締め括りはこの言葉が相応しいだろう。 : :『Where is thy lustre now?』 :(お前の光は、今、何処にある?) : 0:This Flame is Eternal.

0:「或る復讐者擬きの焔恨」 : 0: :夢を見た。 : :ソレは過去。現在(イマ)を生きる人類にとって、二度取り戻せない夢想(トロイメライ)。 : :朧げなる一夜限りの夢。輝かしき『あの日々』(いつか)の記憶。 : :何もかもが煌めいて視えたあの日、愚かしくもわたしは信じた。 : :「きっと終わらない。」「終わるはずがない。」 : :盟友たちと過ごす愛おしい日常。 : :目の前の課題に一直線に駆け抜けて。笑って、泣いて、企てて。 : :永遠。久遠。そう、無邪気にも信じていた。そしてその願いは、現在(イマ)もわたしの胸の内に――――。 : :―――いいや。終わった。終わったよ。終わったとも。 : :終わってしまったんだ。 : :あの時、何よりも愛していた、紛れもない盟友たちの手によって。 : :真実であったはずのモノは、いつしか二度と手にすることのない幻影に変わっていた。 : :そう。わたしは裏切られた。 : :もっとも、きっと彼らは裏切ったなんて思っていないだろう。 : :嗚呼。そうとも。彼らはただ生きただけだ。 : :それでも、わたしは裏切られた。 : :時として共に過ごす仲間を、盟友と呼ぶべき者を替えるのが我ら人類だ。 : :この性質は人間の愚かしさであり、浅ましき美徳でもあるだろう。 : :この在り方は実に理にかなっている。 : :心惹かれる者。共鳴(シンパシー)を宿しているであろう者。若(も)しくは、自身の糧となり得る者。骨の髄まで利用できる者。 : :誰がどのような意志を以て誰と寄り添い歩くのか。 : :そんなものは知らない。知る由もない。わたしはわたし以外の誰でもないのだから。 : :だが。結末を知った今ならば。彼らが何故、わたしと接触し、わたしと歩んだのか。解る。推測だが、断言できよう。 : :つまるにわたしは、使い捨てられたのだ。 : :一時の悦楽の為に。 : :一時の友情をわたしと。 : :驚くことではない。悲しむことでもない。理解っている。 : :人と人との繋がりなど、それこそ夢幻(ゆめまぼろし)だ。 : :わたしが想っていても、相手が想っていない、なんて。普通のことだ。 : :そう。先ほども述べたが、それが世の常。端から見れば、狂っているのはわたしの方だろう。 : :でも。だけど。それでも。 : :わたしは受け入れられなかった。 : :いとも容易く、長い日々培ってきた日常を切り捨てる、彼らの。世界の在り方が。 : :確かにわたしとあなたたちの間に友情は芽生えていたはずだ。 : :わたしは、それをかけがえのないものと思っていた。 : :誰一人欠けることなく。このままずっと、苦楽を共にし、成長して、いつまでも共に過ごすものと、信じていたんだ。 : :だからこそ。我儘(エゴ)でしかないと理解していながらも。 : :わたしは叫ぶ。わたしは咽ぶ。わたしは尊ぶ。 : :あの日々はなんだったんだ! : :記憶の彼方に隠れようと、わたしの網膜に焼き付いた景色は、わたしの海馬は忘れはしない! : :わたしと君たちの世界に芽生えた友情は、確かに存在していた! : :あの日、あの時、あの時間!わたしたちの間に、友情は確かに成立していた! : :嘘偽りではない!君たちと共に笑った一瞬は確かに実在した!君たちと共に流した悔し涙は確かに頬を伝った! : :なのに、何故。何故だ!何故、斯くも簡単に切り捨てられるのか!? : :わたしは君たちを愛していた。君たちもわたしを愛してくれていた。 : :虚偽はない。欺瞞はない。真実の情熱が、其処には在った。わたしたちは、共に生命(いのち)を燃やしていた。 : :だというのに。君たちは、君たちは。 : :―――どうして、わたしを捨てたんだ……。 : :答えはない。応えはない。とうに彼らは、新たなる道を、新たなる者たちと歩み出しているのだから。 : :どんな人間も、『依怙贔屓』(えこひいき)はする。 : :不平等。それが世界の在り方だ。だから、優先順位が下がった者が切り捨てられることは、摂理なのだ。 : :何度も言おう。理解っている。心の奥底では。 : :だけど。 : :すまない。 : :わたしは、過去に執着する在り方しかできないんだ。 : :懐古こそ、わたしの胸に空いた虚ろを埋めるモノ。 : :追想こそ、わたしの人生を突き動かすモノ。 : :この肉体はこの言の葉を紡ぐ現在(イマ)も未来に向かって突き進んでいるけれど。 : :わたしの意志(ココロ)は、今も後ろを振り返り続けている。 : :過去の栄光がなくなってしまったら。 : :イマを生きるわたしなんて、がらんどうに過ぎないのだから。 : :時の流れは残酷だ。時代の移ろいは喪失を心に遺し、生を重ねるほどに追憶は増える。 : :瞼の裏の暗闇で視界を覆い、いつかのわたしに思いを馳せても、煌めいていた日々は「靄」(もや)が―――、 : :いいや。表現がわたしらしくないので言い換えよう。 : :楽しかった日々は、「霞」に魅入られた朧月(おぼろづき)のように、今も増えゆく無為な日常に染められ、掻き消されていく。 : :怖い。 : :これ以上忘れていくのが。 : :辛い。 : :わたしを忘れられるのが。 : :時折、想像することがある。有り得ざるifを。喪ったわたしに二度と戻らない日々を。 : :いつかに戻って、やり直せたら。 : :もし、今も彼らが、わたしに話しかけてくれていたら。 : :楽観的な妄想に浸る一瞬は、わたしに圧(の)し掛(か)かる、なにもかもを忘れさせてくれる。 : :でも。 : :やがて泡沫(うたかた)の夢から醒めたとき、わたしの胸に残るのは感傷の痛みだけ。 : :空虚。自慰にも似たノスタルジアの残響が、何者にもなれないわたしに、現実という名の苦痛をジクジクと知らせるのみ。 : :其処には、何もない。 : :確かにココロを穿つのは、強烈に襲い来る孤独だけ。 : :何かに縋らないと、生きていけない。 : :弱虫で愚かで、プライドだけは一丁前の、どうしようもないわたし。 : :いつしか、誰かがわたしに言った。 : :「お前は優しすぎるんだ。」 : :黙れ。お前はわたしの何を知っている? : :慰めなら要らない。蔑みたいなら幾らでも。 : :どちらにせよ、わたしはお前を恨むだけ。 : :知ったような口を利くな。反吐が出る。吐き気がする。彼らでもないのにわたしを騙(かた)るな。 : :優しくなんかない。ただ、執着しているだけ。 : :過去の景色に固執して、イマになって後悔している、タチの悪い懐古厨。 : :彼らは正常だ。世界(しゃかい)の在り方は正しい。間違っているのは、キレイゴトを謳うわたしなんだ。 : :納得できない。だからわたしは此処に居る。 : :過去に固執し、忘れたくないともがく。無駄な抵抗だ。 : :いつか、何処かで目にした言葉。 : :「忘れ征くからこそ、儚いからこそ人生は美しい。」 : :正しい。 : :どうしようもなく。正しい。 : :「人」の「夢」と書いて「儚い」。 : :記憶というものは夢に似ている。 : :この儚さを受け入れ、享受することこそ、人間の美徳なのだろう。 : :否。それでも納得できない。わたしは拒む。足掻いて藻掻く。 : :無駄と知っていながら。 : :そうでもしないと、首でも吊ってしまいそうなのだ。 : :現在(イマ)のわたしに価値なんてないから。 : :かつてのわたし。誉れのわたし。 : :わたしが、喪った過去(わたし)。 : :過去に祈りは届かない。過去に願いは果たされない。 : :それが、『わたし』という人間が歩んだ、歩んでしまった道ならば。 : :引き返せない。一方通行の路(みち)。 : :振り返って、振り返って。 : :来る日も来る日も振り返って、前なんて見ないで。 : :そうしてやがて、わたしは気づく。 : :いいや。既に気づいていた。だからこそ、再認識という表現が相応しかろう。 : :真に記憶に抗いたいと想うのならば。 : :真に過去に報いたいと謂うのならば。 : : :「現在であり未来」を妬き尽くす、復讐鬼と変貌(か)えろ。 : : :怠惰。それが今のわたし。 : :過去に縛られて、何もかもを蔑ろにした愚の骨頂たるわたし。 : :この在り方は変えられない。変えられるはずがない。 : :これはわたしを形容(カタチヅク)る最も重要な柱だから。 : :抱いたのは未練であり、覚悟であり、“怨念の焔”だ。 : :美しきいつかをわたしが捨てることはない。この身はとうに狂い果てているゆえに。 : :そう。怨嗟(えんさ)を纏う醜き焔は、夙(つと)に我が胸を焦がしていた。 : :振り返ることは辞めない。だが、今のままでは「終われない」。 : :彼らはわたしを捨てて、未来へと向かって、更なる幸福(しあわせ)を手にしたのだ。 : :なんて妬ましいのだろうか。 : :そして、なのに、どうして。何故、わたしは足踏み「しか」していない? : :抗っていた?違う。わたしは浸っていただけだ。 : :追憶は甘露だが、「何も生まない」。 : :嗚呼、そうとも。 : :過去に執着する在り方は、まるで復讐のようだ。 : :独り善がりで、誰も幸せにならず、何を生み出すこともない。 : :本当に? : :贋物(がんぶつ)の復讐など、「美しさ」の欠片もなかろうに! : :史実に語られる彼らは、若しくは物語に綴られる彼らは、内なる焔に突き動かされるままに。 : :命の煌めきを恩讐の果てに燃やし尽くして見せた。 : :彼らの人生(モノガタリ)が放つ闇は悍(おぞ)ましいほどに深い。だが、それと同時に美しい光を纏う。 : :何故か? : :それは当然。文字通り、血の滲むような努力を積み重ねて見せたからだ。 : :なら今のわたしを言い表す言葉は? : :「滑稽」。 : :怠惰なリヴェンジャーほど痛ましいものはない。 : :わたしは過去を追い求める狂乱者。 : :それでいて、今まさに、わたしが歩む道のりを書き換えんと奔走する復讐者(アヴェンジャー)だ。 : :己の抱いた「夢想」(カコ)を、残酷に針を進める「日々」(イマ)を、暗雲蠢く「人生」(ミライ)を。 : :わたしは恨む。恨み尽くす。嫉妬と、悲哀を抱いて。 : :怨念。それは復讐の原動力。人間を、生命をいともたやすく「復讐者」へと変貌させ得る、禁断の果実。果てに潜むは蜜の味。 : :狂おしき恍惚を憶えるほどに甘露で、臓腑を竦(すく)ませる恐怖を憶えるほどに絶大。 : :Grudge(グラッジ)。Avenge(アヴェンジ)。その裏にあるものが必ずしもMalice(マリス)とは限らない。 : :さあ、今こそ怨念の刃を振るえ。復讐に駆られ、身を委ねて。 : :誰でもない、「自分自身」(カレ/カノジョ)に牙を突き立てろ。灰燼(かいじん)に帰すまで、燃やし尽くそう。 : :「今まで」をやるせなく愛し続けろ。「今まで」をどうしようもなく恨み続けろ。 : :わたしはこれでいい。 : :煌々と。眩いほどに光り輝く生命(いのち)の灯(ともしび)で、「これから」を照らし、歩む。 : :わたしを蔑んだ「自分」(モノ)に、わたしを哀れんだ「誰か」(モノ)に、わたしを裏切った「いつかの友」(モノタチ)に。 : :怨念の焔を見せつけてやるんだ。 : :喩え、いつかこの身が悪意に飲まれたとしても。 : :わたしはわたしの旅路(じんせい)を往く。 : :美しき旅路を逝った“彼ら”のように、大それたものではない、ちっぽけな復讐だけど。 : :これはわたしの人生(モノガタリ)。 : :誰もが慕う大英雄になることなんざ、最初(ハナ)から望んではいないから。 : :心臓がドクドクと音を立てて、心の高揚を伝える。 : :それは希望。新たな世界に踏み出す一歩。 : :それは不安。怠惰なわたしの造り出す精神重圧。 : :だが、この高揚感の正体は、きっとこのどちらでもない。 : :―――焔が、燻っている。 : :わたしが挑むのは、「何かを生み出す復讐」。「幸せになるための復讐」。 : :大言壮語。そんなものは復讐の在り方ではない。 : :だからきっと、復讐なんて言葉はいつもの大見得で、実際はちっぽけな決意に過ぎないのだけど。 : :わたしは、過去を呪って、怨んで、憎みつくして。 : :それでも愛して。 : :何もかもが間違って、狂い切って、独り善がりが大好きなわたしの報復を始めようじゃないか。 : :きっとこれ以上何を綴っても仕方あるまい。 : :ならば、締め括りはこの言葉が相応しいだろう。 : :『Where is thy lustre now?』 :(お前の光は、今、何処にある?) : 0:This Flame is Eternal.