台本概要
192 views
タイトル | 「或る復讐者擬きの焔恨」 |
---|---|
作者名 | アール/ドラゴス (@Dragoss_R) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 1人用台本(不問1) ※兼役あり |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
あるふくしゅうしゃもどきのえんこん。 過去に執着することしかできないわたしが、 或る決意を抱くお話。 192 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
わたし | 不問 | - | 過去が大好きで、夢見がちで。 そしてなにより、自分勝手なわたし。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:「或る復讐者擬きの焔恨」
:
0:
:夢を見た。
:
:ソレは過去。現在(イマ)を生きる人類にとって、二度取り戻せない夢想(トロイメライ)。
:
:朧げなる一夜限りの夢。輝かしき『あの日々』(いつか)の記憶。
:
:何もかもが煌めいて視えたあの日、愚かしくもわたしは信じた。
:
:「きっと終わらない。」「終わるはずがない。」
:
:盟友たちと過ごす愛おしい日常。
:
:目の前の課題に一直線に駆け抜けて。笑って、泣いて、企てて。
:
:永遠。久遠。そう、無邪気にも信じていた。そしてその願いは、現在(イマ)もわたしの胸の内に――――。
:
:―――いいや。終わった。終わったよ。終わったとも。
:
:終わってしまったんだ。
:
:あの時、何よりも愛していた、紛れもない盟友たちの手によって。
:
:真実であったはずのモノは、いつしか二度と手にすることのない幻影に変わっていた。
:
:そう。わたしは裏切られた。
:
:もっとも、きっと彼らは裏切ったなんて思っていないだろう。
:
:嗚呼。そうとも。彼らはただ生きただけだ。
:
:それでも、わたしは裏切られた。
:
:時として共に過ごす仲間を、盟友と呼ぶべき者を替えるのが我ら人類だ。
:
:この性質は人間の愚かしさであり、浅ましき美徳でもあるだろう。
:
:この在り方は実に理にかなっている。
:
:心惹かれる者。共鳴(シンパシー)を宿しているであろう者。若(も)しくは、自身の糧となり得る者。骨の髄まで利用できる者。
:
:誰がどのような意志を以て誰と寄り添い歩くのか。
:
:そんなものは知らない。知る由もない。わたしはわたし以外の誰でもないのだから。
:
:だが。結末を知った今ならば。彼らが何故、わたしと接触し、わたしと歩んだのか。解る。推測だが、断言できよう。
:
:つまるにわたしは、使い捨てられたのだ。
:
:一時の悦楽の為に。
:
:一時の友情をわたしと。
:
:驚くことではない。悲しむことでもない。理解っている。
:
:人と人との繋がりなど、それこそ夢幻(ゆめまぼろし)だ。
:
:わたしが想っていても、相手が想っていない、なんて。普通のことだ。
:
:そう。先ほども述べたが、それが世の常。端から見れば、狂っているのはわたしの方だろう。
:
:でも。だけど。それでも。
:
:わたしは受け入れられなかった。
:
:いとも容易く、長い日々培ってきた日常を切り捨てる、彼らの。世界の在り方が。
:
:確かにわたしとあなたたちの間に友情は芽生えていたはずだ。
:
:わたしは、それをかけがえのないものと思っていた。
:
:誰一人欠けることなく。このままずっと、苦楽を共にし、成長して、いつまでも共に過ごすものと、信じていたんだ。
:
:だからこそ。我儘(エゴ)でしかないと理解していながらも。
:
:わたしは叫ぶ。わたしは咽ぶ。わたしは尊ぶ。
:
:あの日々はなんだったんだ!
:
:記憶の彼方に隠れようと、わたしの網膜に焼き付いた景色は、わたしの海馬は忘れはしない!
:
:わたしと君たちの世界に芽生えた友情は、確かに存在していた!
:
:あの日、あの時、あの時間!わたしたちの間に、友情は確かに成立していた!
:
:嘘偽りではない!君たちと共に笑った一瞬は確かに実在した!君たちと共に流した悔し涙は確かに頬を伝った!
:
:なのに、何故。何故だ!何故、斯くも簡単に切り捨てられるのか!?
:
:わたしは君たちを愛していた。君たちもわたしを愛してくれていた。
:
:虚偽はない。欺瞞はない。真実の情熱が、其処には在った。わたしたちは、共に生命(いのち)を燃やしていた。
:
:だというのに。君たちは、君たちは。
:
:―――どうして、わたしを捨てたんだ……。
:
:答えはない。応えはない。とうに彼らは、新たなる道を、新たなる者たちと歩み出しているのだから。
:
:どんな人間も、『依怙贔屓』(えこひいき)はする。
:
:不平等。それが世界の在り方だ。だから、優先順位が下がった者が切り捨てられることは、摂理なのだ。
:
:何度も言おう。理解っている。心の奥底では。
:
:だけど。
:
:すまない。
:
:わたしは、過去に執着する在り方しかできないんだ。
:
:懐古こそ、わたしの胸に空いた虚ろを埋めるモノ。
:
:追想こそ、わたしの人生を突き動かすモノ。
:
:この肉体はこの言の葉を紡ぐ現在(イマ)も未来に向かって突き進んでいるけれど。
:
:わたしの意志(ココロ)は、今も後ろを振り返り続けている。
:
:過去の栄光がなくなってしまったら。
:
:イマを生きるわたしなんて、がらんどうに過ぎないのだから。
:
:時の流れは残酷だ。時代の移ろいは喪失を心に遺し、生を重ねるほどに追憶は増える。
:
:瞼の裏の暗闇で視界を覆い、いつかのわたしに思いを馳せても、煌めいていた日々は「靄」(もや)が―――、
:
:いいや。表現がわたしらしくないので言い換えよう。
:
:楽しかった日々は、「霞」に魅入られた朧月(おぼろづき)のように、今も増えゆく無為な日常に染められ、掻き消されていく。
:
:怖い。
:
:これ以上忘れていくのが。
:
:辛い。
:
:わたしを忘れられるのが。
:
:時折、想像することがある。有り得ざるifを。喪ったわたしに二度と戻らない日々を。
:
:いつかに戻って、やり直せたら。
:
:もし、今も彼らが、わたしに話しかけてくれていたら。
:
:楽観的な妄想に浸る一瞬は、わたしに圧(の)し掛(か)かる、なにもかもを忘れさせてくれる。
:
:でも。
:
:やがて泡沫(うたかた)の夢から醒めたとき、わたしの胸に残るのは感傷の痛みだけ。
:
:空虚。自慰にも似たノスタルジアの残響が、何者にもなれないわたしに、現実という名の苦痛をジクジクと知らせるのみ。
:
:其処には、何もない。
:
:確かにココロを穿つのは、強烈に襲い来る孤独だけ。
:
:何かに縋らないと、生きていけない。
:
:弱虫で愚かで、プライドだけは一丁前の、どうしようもないわたし。
:
:いつしか、誰かがわたしに言った。
:
:「お前は優しすぎるんだ。」
:
:黙れ。お前はわたしの何を知っている?
:
:慰めなら要らない。蔑みたいなら幾らでも。
:
:どちらにせよ、わたしはお前を恨むだけ。
:
:知ったような口を利くな。反吐が出る。吐き気がする。彼らでもないのにわたしを騙(かた)るな。
:
:優しくなんかない。ただ、執着しているだけ。
:
:過去の景色に固執して、イマになって後悔している、タチの悪い懐古厨。
:
:彼らは正常だ。世界(しゃかい)の在り方は正しい。間違っているのは、キレイゴトを謳うわたしなんだ。
:
:納得できない。だからわたしは此処に居る。
:
:過去に固執し、忘れたくないともがく。無駄な抵抗だ。
:
:いつか、何処かで目にした言葉。
:
:「忘れ征くからこそ、儚いからこそ人生は美しい。」
:
:正しい。
:
:どうしようもなく。正しい。
:
:「人」の「夢」と書いて「儚い」。
:
:記憶というものは夢に似ている。
:
:この儚さを受け入れ、享受することこそ、人間の美徳なのだろう。
:
:否。それでも納得できない。わたしは拒む。足掻いて藻掻く。
:
:無駄と知っていながら。
:
:そうでもしないと、首でも吊ってしまいそうなのだ。
:
:現在(イマ)のわたしに価値なんてないから。
:
:かつてのわたし。誉れのわたし。
:
:わたしが、喪った過去(わたし)。
:
:過去に祈りは届かない。過去に願いは果たされない。
:
:それが、『わたし』という人間が歩んだ、歩んでしまった道ならば。
:
:引き返せない。一方通行の路(みち)。
:
:振り返って、振り返って。
:
:来る日も来る日も振り返って、前なんて見ないで。
:
:そうしてやがて、わたしは気づく。
:
:いいや。既に気づいていた。だからこそ、再認識という表現が相応しかろう。
:
:真に記憶に抗いたいと想うのならば。
:
:真に過去に報いたいと謂うのならば。
:
:
:「現在であり未来」を妬き尽くす、復讐鬼と変貌(か)えろ。
:
:
:怠惰。それが今のわたし。
:
:過去に縛られて、何もかもを蔑ろにした愚の骨頂たるわたし。
:
:この在り方は変えられない。変えられるはずがない。
:
:これはわたしを形容(カタチヅク)る最も重要な柱だから。
:
:抱いたのは未練であり、覚悟であり、“怨念の焔”だ。
:
:美しきいつかをわたしが捨てることはない。この身はとうに狂い果てているゆえに。
:
:そう。怨嗟(えんさ)を纏う醜き焔は、夙(つと)に我が胸を焦がしていた。
:
:振り返ることは辞めない。だが、今のままでは「終われない」。
:
:彼らはわたしを捨てて、未来へと向かって、更なる幸福(しあわせ)を手にしたのだ。
:
:なんて妬ましいのだろうか。
:
:そして、なのに、どうして。何故、わたしは足踏み「しか」していない?
:
:抗っていた?違う。わたしは浸っていただけだ。
:
:追憶は甘露だが、「何も生まない」。
:
:嗚呼、そうとも。
:
:過去に執着する在り方は、まるで復讐のようだ。
:
:独り善がりで、誰も幸せにならず、何を生み出すこともない。
:
:本当に?
:
:贋物(がんぶつ)の復讐など、「美しさ」の欠片もなかろうに!
:
:史実に語られる彼らは、若しくは物語に綴られる彼らは、内なる焔に突き動かされるままに。
:
:命の煌めきを恩讐の果てに燃やし尽くして見せた。
:
:彼らの人生(モノガタリ)が放つ闇は悍(おぞ)ましいほどに深い。だが、それと同時に美しい光を纏う。
:
:何故か?
:
:それは当然。文字通り、血の滲むような努力を積み重ねて見せたからだ。
:
:なら今のわたしを言い表す言葉は?
:
:「滑稽」。
:
:怠惰なリヴェンジャーほど痛ましいものはない。
:
:わたしは過去を追い求める狂乱者。
:
:それでいて、今まさに、わたしが歩む道のりを書き換えんと奔走する復讐者(アヴェンジャー)だ。
:
:己の抱いた「夢想」(カコ)を、残酷に針を進める「日々」(イマ)を、暗雲蠢く「人生」(ミライ)を。
:
:わたしは恨む。恨み尽くす。嫉妬と、悲哀を抱いて。
:
:怨念。それは復讐の原動力。人間を、生命をいともたやすく「復讐者」へと変貌させ得る、禁断の果実。果てに潜むは蜜の味。
:
:狂おしき恍惚を憶えるほどに甘露で、臓腑を竦(すく)ませる恐怖を憶えるほどに絶大。
:
:Grudge(グラッジ)。Avenge(アヴェンジ)。その裏にあるものが必ずしもMalice(マリス)とは限らない。
:
:さあ、今こそ怨念の刃を振るえ。復讐に駆られ、身を委ねて。
:
:誰でもない、「自分自身」(カレ/カノジョ)に牙を突き立てろ。灰燼(かいじん)に帰すまで、燃やし尽くそう。
:
:「今まで」をやるせなく愛し続けろ。「今まで」をどうしようもなく恨み続けろ。
:
:わたしはこれでいい。
:
:煌々と。眩いほどに光り輝く生命(いのち)の灯(ともしび)で、「これから」を照らし、歩む。
:
:わたしを蔑んだ「自分」(モノ)に、わたしを哀れんだ「誰か」(モノ)に、わたしを裏切った「いつかの友」(モノタチ)に。
:
:怨念の焔を見せつけてやるんだ。
:
:喩え、いつかこの身が悪意に飲まれたとしても。
:
:わたしはわたしの旅路(じんせい)を往く。
:
:美しき旅路を逝った“彼ら”のように、大それたものではない、ちっぽけな復讐だけど。
:
:これはわたしの人生(モノガタリ)。
:
:誰もが慕う大英雄になることなんざ、最初(ハナ)から望んではいないから。
:
:心臓がドクドクと音を立てて、心の高揚を伝える。
:
:それは希望。新たな世界に踏み出す一歩。
:
:それは不安。怠惰なわたしの造り出す精神重圧。
:
:だが、この高揚感の正体は、きっとこのどちらでもない。
:
:―――焔が、燻っている。
:
:わたしが挑むのは、「何かを生み出す復讐」。「幸せになるための復讐」。
:
:大言壮語。そんなものは復讐の在り方ではない。
:
:だからきっと、復讐なんて言葉はいつもの大見得で、実際はちっぽけな決意に過ぎないのだけど。
:
:わたしは、過去を呪って、怨んで、憎みつくして。
:
:それでも愛して。
:
:何もかもが間違って、狂い切って、独り善がりが大好きなわたしの報復を始めようじゃないか。
:
:きっとこれ以上何を綴っても仕方あるまい。
:
:ならば、締め括りはこの言葉が相応しいだろう。
:
:『Where is thy lustre now?』
:(お前の光は、今、何処にある?)
:
0:This Flame is Eternal.
0:「或る復讐者擬きの焔恨」
:
0:
:夢を見た。
:
:ソレは過去。現在(イマ)を生きる人類にとって、二度取り戻せない夢想(トロイメライ)。
:
:朧げなる一夜限りの夢。輝かしき『あの日々』(いつか)の記憶。
:
:何もかもが煌めいて視えたあの日、愚かしくもわたしは信じた。
:
:「きっと終わらない。」「終わるはずがない。」
:
:盟友たちと過ごす愛おしい日常。
:
:目の前の課題に一直線に駆け抜けて。笑って、泣いて、企てて。
:
:永遠。久遠。そう、無邪気にも信じていた。そしてその願いは、現在(イマ)もわたしの胸の内に――――。
:
:―――いいや。終わった。終わったよ。終わったとも。
:
:終わってしまったんだ。
:
:あの時、何よりも愛していた、紛れもない盟友たちの手によって。
:
:真実であったはずのモノは、いつしか二度と手にすることのない幻影に変わっていた。
:
:そう。わたしは裏切られた。
:
:もっとも、きっと彼らは裏切ったなんて思っていないだろう。
:
:嗚呼。そうとも。彼らはただ生きただけだ。
:
:それでも、わたしは裏切られた。
:
:時として共に過ごす仲間を、盟友と呼ぶべき者を替えるのが我ら人類だ。
:
:この性質は人間の愚かしさであり、浅ましき美徳でもあるだろう。
:
:この在り方は実に理にかなっている。
:
:心惹かれる者。共鳴(シンパシー)を宿しているであろう者。若(も)しくは、自身の糧となり得る者。骨の髄まで利用できる者。
:
:誰がどのような意志を以て誰と寄り添い歩くのか。
:
:そんなものは知らない。知る由もない。わたしはわたし以外の誰でもないのだから。
:
:だが。結末を知った今ならば。彼らが何故、わたしと接触し、わたしと歩んだのか。解る。推測だが、断言できよう。
:
:つまるにわたしは、使い捨てられたのだ。
:
:一時の悦楽の為に。
:
:一時の友情をわたしと。
:
:驚くことではない。悲しむことでもない。理解っている。
:
:人と人との繋がりなど、それこそ夢幻(ゆめまぼろし)だ。
:
:わたしが想っていても、相手が想っていない、なんて。普通のことだ。
:
:そう。先ほども述べたが、それが世の常。端から見れば、狂っているのはわたしの方だろう。
:
:でも。だけど。それでも。
:
:わたしは受け入れられなかった。
:
:いとも容易く、長い日々培ってきた日常を切り捨てる、彼らの。世界の在り方が。
:
:確かにわたしとあなたたちの間に友情は芽生えていたはずだ。
:
:わたしは、それをかけがえのないものと思っていた。
:
:誰一人欠けることなく。このままずっと、苦楽を共にし、成長して、いつまでも共に過ごすものと、信じていたんだ。
:
:だからこそ。我儘(エゴ)でしかないと理解していながらも。
:
:わたしは叫ぶ。わたしは咽ぶ。わたしは尊ぶ。
:
:あの日々はなんだったんだ!
:
:記憶の彼方に隠れようと、わたしの網膜に焼き付いた景色は、わたしの海馬は忘れはしない!
:
:わたしと君たちの世界に芽生えた友情は、確かに存在していた!
:
:あの日、あの時、あの時間!わたしたちの間に、友情は確かに成立していた!
:
:嘘偽りではない!君たちと共に笑った一瞬は確かに実在した!君たちと共に流した悔し涙は確かに頬を伝った!
:
:なのに、何故。何故だ!何故、斯くも簡単に切り捨てられるのか!?
:
:わたしは君たちを愛していた。君たちもわたしを愛してくれていた。
:
:虚偽はない。欺瞞はない。真実の情熱が、其処には在った。わたしたちは、共に生命(いのち)を燃やしていた。
:
:だというのに。君たちは、君たちは。
:
:―――どうして、わたしを捨てたんだ……。
:
:答えはない。応えはない。とうに彼らは、新たなる道を、新たなる者たちと歩み出しているのだから。
:
:どんな人間も、『依怙贔屓』(えこひいき)はする。
:
:不平等。それが世界の在り方だ。だから、優先順位が下がった者が切り捨てられることは、摂理なのだ。
:
:何度も言おう。理解っている。心の奥底では。
:
:だけど。
:
:すまない。
:
:わたしは、過去に執着する在り方しかできないんだ。
:
:懐古こそ、わたしの胸に空いた虚ろを埋めるモノ。
:
:追想こそ、わたしの人生を突き動かすモノ。
:
:この肉体はこの言の葉を紡ぐ現在(イマ)も未来に向かって突き進んでいるけれど。
:
:わたしの意志(ココロ)は、今も後ろを振り返り続けている。
:
:過去の栄光がなくなってしまったら。
:
:イマを生きるわたしなんて、がらんどうに過ぎないのだから。
:
:時の流れは残酷だ。時代の移ろいは喪失を心に遺し、生を重ねるほどに追憶は増える。
:
:瞼の裏の暗闇で視界を覆い、いつかのわたしに思いを馳せても、煌めいていた日々は「靄」(もや)が―――、
:
:いいや。表現がわたしらしくないので言い換えよう。
:
:楽しかった日々は、「霞」に魅入られた朧月(おぼろづき)のように、今も増えゆく無為な日常に染められ、掻き消されていく。
:
:怖い。
:
:これ以上忘れていくのが。
:
:辛い。
:
:わたしを忘れられるのが。
:
:時折、想像することがある。有り得ざるifを。喪ったわたしに二度と戻らない日々を。
:
:いつかに戻って、やり直せたら。
:
:もし、今も彼らが、わたしに話しかけてくれていたら。
:
:楽観的な妄想に浸る一瞬は、わたしに圧(の)し掛(か)かる、なにもかもを忘れさせてくれる。
:
:でも。
:
:やがて泡沫(うたかた)の夢から醒めたとき、わたしの胸に残るのは感傷の痛みだけ。
:
:空虚。自慰にも似たノスタルジアの残響が、何者にもなれないわたしに、現実という名の苦痛をジクジクと知らせるのみ。
:
:其処には、何もない。
:
:確かにココロを穿つのは、強烈に襲い来る孤独だけ。
:
:何かに縋らないと、生きていけない。
:
:弱虫で愚かで、プライドだけは一丁前の、どうしようもないわたし。
:
:いつしか、誰かがわたしに言った。
:
:「お前は優しすぎるんだ。」
:
:黙れ。お前はわたしの何を知っている?
:
:慰めなら要らない。蔑みたいなら幾らでも。
:
:どちらにせよ、わたしはお前を恨むだけ。
:
:知ったような口を利くな。反吐が出る。吐き気がする。彼らでもないのにわたしを騙(かた)るな。
:
:優しくなんかない。ただ、執着しているだけ。
:
:過去の景色に固執して、イマになって後悔している、タチの悪い懐古厨。
:
:彼らは正常だ。世界(しゃかい)の在り方は正しい。間違っているのは、キレイゴトを謳うわたしなんだ。
:
:納得できない。だからわたしは此処に居る。
:
:過去に固執し、忘れたくないともがく。無駄な抵抗だ。
:
:いつか、何処かで目にした言葉。
:
:「忘れ征くからこそ、儚いからこそ人生は美しい。」
:
:正しい。
:
:どうしようもなく。正しい。
:
:「人」の「夢」と書いて「儚い」。
:
:記憶というものは夢に似ている。
:
:この儚さを受け入れ、享受することこそ、人間の美徳なのだろう。
:
:否。それでも納得できない。わたしは拒む。足掻いて藻掻く。
:
:無駄と知っていながら。
:
:そうでもしないと、首でも吊ってしまいそうなのだ。
:
:現在(イマ)のわたしに価値なんてないから。
:
:かつてのわたし。誉れのわたし。
:
:わたしが、喪った過去(わたし)。
:
:過去に祈りは届かない。過去に願いは果たされない。
:
:それが、『わたし』という人間が歩んだ、歩んでしまった道ならば。
:
:引き返せない。一方通行の路(みち)。
:
:振り返って、振り返って。
:
:来る日も来る日も振り返って、前なんて見ないで。
:
:そうしてやがて、わたしは気づく。
:
:いいや。既に気づいていた。だからこそ、再認識という表現が相応しかろう。
:
:真に記憶に抗いたいと想うのならば。
:
:真に過去に報いたいと謂うのならば。
:
:
:「現在であり未来」を妬き尽くす、復讐鬼と変貌(か)えろ。
:
:
:怠惰。それが今のわたし。
:
:過去に縛られて、何もかもを蔑ろにした愚の骨頂たるわたし。
:
:この在り方は変えられない。変えられるはずがない。
:
:これはわたしを形容(カタチヅク)る最も重要な柱だから。
:
:抱いたのは未練であり、覚悟であり、“怨念の焔”だ。
:
:美しきいつかをわたしが捨てることはない。この身はとうに狂い果てているゆえに。
:
:そう。怨嗟(えんさ)を纏う醜き焔は、夙(つと)に我が胸を焦がしていた。
:
:振り返ることは辞めない。だが、今のままでは「終われない」。
:
:彼らはわたしを捨てて、未来へと向かって、更なる幸福(しあわせ)を手にしたのだ。
:
:なんて妬ましいのだろうか。
:
:そして、なのに、どうして。何故、わたしは足踏み「しか」していない?
:
:抗っていた?違う。わたしは浸っていただけだ。
:
:追憶は甘露だが、「何も生まない」。
:
:嗚呼、そうとも。
:
:過去に執着する在り方は、まるで復讐のようだ。
:
:独り善がりで、誰も幸せにならず、何を生み出すこともない。
:
:本当に?
:
:贋物(がんぶつ)の復讐など、「美しさ」の欠片もなかろうに!
:
:史実に語られる彼らは、若しくは物語に綴られる彼らは、内なる焔に突き動かされるままに。
:
:命の煌めきを恩讐の果てに燃やし尽くして見せた。
:
:彼らの人生(モノガタリ)が放つ闇は悍(おぞ)ましいほどに深い。だが、それと同時に美しい光を纏う。
:
:何故か?
:
:それは当然。文字通り、血の滲むような努力を積み重ねて見せたからだ。
:
:なら今のわたしを言い表す言葉は?
:
:「滑稽」。
:
:怠惰なリヴェンジャーほど痛ましいものはない。
:
:わたしは過去を追い求める狂乱者。
:
:それでいて、今まさに、わたしが歩む道のりを書き換えんと奔走する復讐者(アヴェンジャー)だ。
:
:己の抱いた「夢想」(カコ)を、残酷に針を進める「日々」(イマ)を、暗雲蠢く「人生」(ミライ)を。
:
:わたしは恨む。恨み尽くす。嫉妬と、悲哀を抱いて。
:
:怨念。それは復讐の原動力。人間を、生命をいともたやすく「復讐者」へと変貌させ得る、禁断の果実。果てに潜むは蜜の味。
:
:狂おしき恍惚を憶えるほどに甘露で、臓腑を竦(すく)ませる恐怖を憶えるほどに絶大。
:
:Grudge(グラッジ)。Avenge(アヴェンジ)。その裏にあるものが必ずしもMalice(マリス)とは限らない。
:
:さあ、今こそ怨念の刃を振るえ。復讐に駆られ、身を委ねて。
:
:誰でもない、「自分自身」(カレ/カノジョ)に牙を突き立てろ。灰燼(かいじん)に帰すまで、燃やし尽くそう。
:
:「今まで」をやるせなく愛し続けろ。「今まで」をどうしようもなく恨み続けろ。
:
:わたしはこれでいい。
:
:煌々と。眩いほどに光り輝く生命(いのち)の灯(ともしび)で、「これから」を照らし、歩む。
:
:わたしを蔑んだ「自分」(モノ)に、わたしを哀れんだ「誰か」(モノ)に、わたしを裏切った「いつかの友」(モノタチ)に。
:
:怨念の焔を見せつけてやるんだ。
:
:喩え、いつかこの身が悪意に飲まれたとしても。
:
:わたしはわたしの旅路(じんせい)を往く。
:
:美しき旅路を逝った“彼ら”のように、大それたものではない、ちっぽけな復讐だけど。
:
:これはわたしの人生(モノガタリ)。
:
:誰もが慕う大英雄になることなんざ、最初(ハナ)から望んではいないから。
:
:心臓がドクドクと音を立てて、心の高揚を伝える。
:
:それは希望。新たな世界に踏み出す一歩。
:
:それは不安。怠惰なわたしの造り出す精神重圧。
:
:だが、この高揚感の正体は、きっとこのどちらでもない。
:
:―――焔が、燻っている。
:
:わたしが挑むのは、「何かを生み出す復讐」。「幸せになるための復讐」。
:
:大言壮語。そんなものは復讐の在り方ではない。
:
:だからきっと、復讐なんて言葉はいつもの大見得で、実際はちっぽけな決意に過ぎないのだけど。
:
:わたしは、過去を呪って、怨んで、憎みつくして。
:
:それでも愛して。
:
:何もかもが間違って、狂い切って、独り善がりが大好きなわたしの報復を始めようじゃないか。
:
:きっとこれ以上何を綴っても仕方あるまい。
:
:ならば、締め括りはこの言葉が相応しいだろう。
:
:『Where is thy lustre now?』
:(お前の光は、今、何処にある?)
:
0:This Flame is Eternal.