台本概要

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タイトル わたしのいらないもの 【2:1:1】 -法外宙域ローヴァーゲイル #4
作者名 ろくしょうるり  (@ruri6syo)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(男2、女1、不問1)
時間 60 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 人類の惑星間移民が始まって200。
母星地球を中心に惑星間物流も活発に行われるようになり、多くの『宙運船』が行き交う宇宙。
そんな宙運航路と積み荷の安全を守る、宙運私警団、人呼んで『アブサード』

フウガ役に軽微な兼ね役(エキストラ)あり

このシナリオはシリーズシナリオですが<どのシナリオからも読むことができます。
使ってくださったらツイートなどしていただけたら嬉しいです

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
リリ 119 10歳少女。 暗い過去を持つが記憶がない。 トラのぬいぐるみを抱いている
ロジー 146 26歳男性。 宙運私警団 調査班所属
フウガ 不問 102 高性能なAI  途中、エキストラのセリフあり  
メイヤード 47 52歳男性。 宙運私警団 総括(そうかつ)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0: 法外宙域ローヴァーゲイル #4 0: 『わたしのいらないもの』 60分 0:  0:  0:  メイヤード:人類の宇宙進出において最も大きな功績は、地上にはない新しい物質の獲得といえる メイヤード:中でも、莫大なエネルギーを内包する固体・『エナジーマテリアル』は人類の宇宙活動に大きな発展をもたらした メイヤード:時空を超える高速航行、疑似グラビティ、広域通信機能、そして量子変換ドライブ メイヤード:これらを実現したのは『エナジーマテリアル』と呼ばれる物質のたまものだ メイヤード:その中でひときわ大きなエネルギーを保有する結晶 メイヤード:いや、厳密には結晶ではない メイヤード:固化した光。『光子アモルファス』と呼ばれるその物質群は、これまでのエナジーマテリアルとは比較にならないという メイヤード:その中の一つ 『トラウィス』 0:  0:  メイヤード:若い頃私が偶然発見し、わけもわからず金に換えたそれは、今再び私の手に戻ってきた メイヤード:リリという少女と共に 0:  0:  メイヤード:なぜこの少女の手に渡ったのか メイヤード:実用どころか未だ研究段階であるそれを、どうして自在に扱えるのか メイヤード:そのカギを握るやもしれん言葉はただひとつ 0:  メイヤード:『ローヴァーゲイルは、死ね』 0:  0:  0:  0:  ロジー:法外宙域ローヴァーゲイル リリ:『わたしのいらないもの』 0:  0:  0:  0:  リリ:(すすり泣くリリ)ごめんなさい… ごめんなさい… ロジー:何やってる、お前 リリ:ごめんなさい… ごめんなさい… フウガ:何をさせてもろくでもない ロジー:こっちに来い リリ:(小さな悲鳴)あう… ごめんなさい… もうしません… フウガ:そこに立つんだよ 手は後ろ ロジー:言うことも!まともに!聞けやしないのか リリ:(痛がる悲鳴)…や! …や! ロジー:この役立たずめ リリ:パパ… ママ… ゆるして…  フウガ:ガキが ペッ 泣きゃあいいと思って リリ:(痛がる悲鳴)…いや! あう… ごめんなさ… ロジー:ごめんなさい? だからなんなんだ? フウガ:そんなのは聞き飽きたよ この恩知らずの役たたず リリ:(痛がる悲鳴)! …! リリ:(すすり泣き、小さく)うう… ラド…ル… たすけて… ラドル… フウガ:んん? ラドル? くっ、あのクソガキ! ロジー:その名前出すんじゃねえよ! ムカつく リリ:ぐふっ… ごほごほ フウガ:くくっ、いくら呼んだってあいつらは来ないよ 来るわけないだろ リリ:はぁ… はぁ… ううっ… ロジー:ふふっ、ああ、そうだ。あいつらは死ぬんだ。 ほら、消えないように書いてやっただろ …お前の背中に ロジー:『ローヴァーゲイルは、死ね』 リリ:! ロジー:あいつらは死んだよ、お前のせいで死んだんだよ ふふっ、はははは! フウガ:ははははは! リリ:ラドル… (泣く)ごめんなさい… ごめんなさい… 0:  0:  リリ:(深夜。ベッドの中で目を覚ます)…! リリ: …はあ… はあ… わたし… ゆめ… みてた? リリ:ううっ… どきどきする… すごく…いやなかんじ リリ:トラちゃん… ううん、 だいじょうぶ リリ:ロジーとフウガは、パパとママじゃ…ない 0:  0:  0:  0: 宙運私警団 ロジー班の居住スペース 0:  ロジー:ふぁ~あ フウガ:おはようございます、ロジー ロジー:っあー! 久しぶりによく寝たなー! っととっ! フウガ:ロジー、何してるんですか。そんなところにトランクを出しっぱなしにして ロジー:いやフウガ、おれじゃないって! 誰だ?ったく… ん 0:ガタッ … ガタタッ … ロジー:な、なんだ?! フウガ:動いています。ロジー、警戒を。爆発物かもしれません ロジー:…っ 0:ゴト… ゴト ロジー:・・・・ フウガ:ロジー、距離をとって ロジー:あ、ああ 0:ガタン! ロジー:! リリ: …ん… んん… ふぅ… おはよ、 ロジー、フウガ…  ロジー:あ? リリ:ふぁ…  …ん… どうしたの? かくれん、ぼ…? ロジー:んな! リリ?! フウガ:・・・・・ふ、ふふっ ロジー:だああ! フウガ?! お前なあっ! リリ:(目をこすりながら)…どう、したの? ロジー… フウガ:おはようございます、リリ。 すみませんロジー、悪ふざけが過ぎたようです ロジー:ったくもー… フウガ? AIとして優秀過ぎるのもちょっと考えものだぞ? あー、不審物にお前が気がつかないわけないもんなあ! フウガ:肯定。もちろんですとも。お褒めいただきありがとうございます ロジー:褒めてないっての! で、リリもリリでなんでトランクから出てくるわけなの リリ:あ… う、ご、ごめんなさ… ロジー:あー、いや 怒ってない。怒ってない。ただ驚いただけ ロジー:いや、一体いつから隠れてたんだよ フウガ:リリは入眠から2時間後、起き出してきてここに入りました。そのまま再び睡眠状態になったことを感知しています ロジー:寝る所なの?ここ! リリ:うん… ベッドふわふわでねごこちがいい、けど …でも、こっちのほうが、いい 0:  リリ:だれも、いたくしないから 0:  ロジー:そうか。触られると痛いんだよな。はー、つまりはその中なら、誰かにうっかり触られることもない、と リリ:うん…  リリ:ゆうべは、おぼえてないけど …いたくて、どきどきして… めがさめて… たぶん・・・ゆめ、みてた フウガ:確かに、起き出す前、リリはうなされていたようでしたね リリ:ここでねむったのは、ごめん…なさい… ロジー、これ、おへやにもっていっても …いい? ロジー:あ、ああ フウガ:さあ。ではこの話はここまでです。今朝はお二人が揃ったら総括室に出頭するように連絡が来ています ロジー:ええ?! また? おれたち、最近何かしたっけ? フウガ:さあ どうでしょうか 0:  0:  0:  0:  0: 総括室 0:  0:  メイヤード:来たか ロジー:ロジー班、出頭しました! えーと、俺らまたなんかやらかしました? メイヤード:ふむ。 まあ心当たりが多すぎるだろうからな、お前達は ロジー:いやいや! 無いから訊いてるんですよ! 最近は宙運船の小規模事故の案件をいくつか処理しただけで、特に何もしてませんて メイヤード:今日はその、小規模事故の案件とやらのことだ ロジー:え メイヤード:お前達、最近の事故をどう感じる ロジー:はあ、脅かさないでくださいよ、総括。 そうですね。ここんとこ、宙運船同士のニアミス事故が増えてます。大きな衝突事故には至りませんが フウガ:船体に僅かな傷がつく程度のごく軽い接触がほとんどですね フウガ:高速航路ではほぼ全ての船がAI制御による自動航行を選択し、現在調査中の接触事故も全ての宙運船で航行はAI制御下にあったことを確認しています ロジー:互いにAI制御の船同士、普通はぶつからない。なのになぜかニアミスを起こす。原因はまださっぱりですよ。おれが気になるのはこんなとこですかね メイヤード:リリ、お前はどうだ リリ:・・・・・ ロジー:ん、どうした? リリ。なんだかボーッとしてるな リリ:! …ごめんなさい メイヤード:ふぅむ。まあいい メイヤード:この事態については宙運連からも色々と報告が上がってきていてな。みなの意見を聞いていたんだ。お前達のところもやはり同じか ロジー:ですね。他の班も同じ違和感を抱いてると思いますよ。じゃあリリ、仕切り直しだ。最近のニアミス事故調査をまとめてみてわかったこと、総括に教えてやってくれ リリ:あっ えっと…はい!(深呼吸) リリ:えと、あの、あのね、じこをおこしてるふね、ぜんぶ『かもつ』 りょかくせんは、いっけんも、なし… リリ:じこちてんは、ばらばらだけど… かならず『ちきゅうでかもつをおろす』よていだった、ふね メイヤード:なるほど。で、その後貨物はどうなった フウガ:船体の擦り傷程度の事故ですから、問題なく荷下ろしされています リリ:あと… メイヤード:うん? リリ:・・・・ メイヤード:どうした リリ:ううん、まちがい メイヤード:そうか …ふぅむ ロジー:あれ、総括のその感じ。事故以上に何かあるっぽいですね 宙運連からですか? メイヤード:うむ ロジー:やっぱり リリ:うん フウガ:ええ。これで私たちの仮説に一つ確信が得られましたね メイヤード:ほう? どういうことだ ロジー:はい。おれたちが思うに、このニアミス事故の増加は地球エリアを中心に起きている。ここだけじゃなくセカンドやサードフロンティア便でも ロジー:積み荷はひとまず正常にポートに搬入される、が、その後にも何らかの問題が起きてて、そのことで宙運連から何か言われてるんじゃないですか? メイヤード:ほう、なぜそう思った ロジー:事故の起き方が明らかにおかしい。どうやってそんな事をやってのけるのかはわかりませんが ロジー:ニアミスは何者かに意図的に起こされている。『地球で荷下ろしする貨物』しか起こさない事故が、たまたまって範疇を超えた頻度で偶発するわけがない ロジー:で、事故を起こした船の下ろした『貨物』のほうに、何か問題が起きてるんじゃないか。と、おれたちはそう踏んでるわけです メイヤード:なるほど リリ:だけど…それだと、『たいちかんさぶ(対地監査部)』から、ほうこくがある、はず。だから、まだかくしょうが、もてない…  リリ:ね、ロジー、『ちゅううんれん』からほうこくがきてるとしたら メイヤード:ふぅむ? リリ:かもつじゃなくて… もんだいがおきてるのは、ふねのほう… でも、こうろをみまわってくれてるみんなが、もんだいにきがつかなくて… ちゅううんれんにれんらくがいくこと… ロジー:っ、まさか為替…か? メイヤード:ほほう(拍手) いや驚いたな メイヤード:そう。宙運連からの話はまさにそれだ。荷下ろしをした宙運業者に、為替情報が入らない事態が起きている ロジー:ええ?! システムエラーでなく? メイヤード:ああ。システムには問題ないことは確認済みだ。ではこの件はお前達任せるか。何が起きているのか調べてくれ。頼んだぞ ロジー:了解! 0:  0:  0:  0:  0:  リリ:(N)じこせんのちょうさにいったとき、なんだかへんなかんじがした。あたまがくらくらするような、おかしなかんじ… リリ:(N)じこせんの、どのふねのなかも、おなじかんじかしたの 0:  0:  メイヤード:リリは 0:  0: (間) 0:  ロジー:どうした メイヤード:なぜ答えない フウガ:わからないんですか? 0:  0: (間) 0:  ロジー:こんなことも答えられないのか フウガ:やれやれです メイヤード:もういい 0:  0:  リリ:… ごめんなさい 0:  0:  0:  0: 総括室を出たロジー班・現場フロアに向かう通路 0:  リリ:(ため息) ロジー:ふー、やっぱ緊張するよなー、総括室は! フウガ:あなたはとてもそんな風には見えませんでしたよ? ロジー ロジー:そうかあ? そうでもないんだけどなあ フウガ:はあ。そうですか。それはそうとリリ リリ:! フウガ:先ほどのあなたは、とても素晴らしかったです リリ:・・・・・! え、っ …わた、し? フウガ:ええ。よく気がつきましたね。問題が起きていたのは貨物ではなく船だということに ロジー:おおっ、そうだぞリリ。おかげで為替のことに行き着けた リリ:え… え… ? ロジー:ほんと、よくやったよ リリ:・・・・・・・ フウガ:では、私たちはこれから宙運連本部に向かいますか ロジー:そうだな。問題が起きた船の識別チップのデータ、集めないとな フウガ:了解 リリ:ロジー ロジー:ん? リリ:ちゅううんぎょうしゃは、にもつをおろすと、ふねの『しきべつチップ』に、とりひきじょうほうが、かきこまれるんだよね? ロジー:ん? あ、ああ 0:  メイヤード:(男の声)でしゃばるなよ、ガキが 0:  リリ:…えっ 0:  ロジー:ん リリ:えっと… あの、あのね? ロジー:リリ、今日なんかおかしいぞ? リリ:ううん、だいじょうぶ… ロジー:ほんとかぁ? フウガ:無理はいけませんよ、リリ。良くない夢のせいかもしれませんが、今日のあなたには元気がない ロジー:そうかぁ、夢のせいか。話すとすっきりするんじゃないか? どれ、どんな夢だったんだ? リリ:だいじょうぶ。それに、ゆめ、おぼえて、ない… ロジー:あー、覚えてないんじゃ仕方ないか リリ:うん、だいじょうぶ… ロジー:そうか? じゃ ロジー:宙運船はポートの搬入ゲートを出入りするとき、船体重量と取引品の重量、取引先の荷受け情報とが照らし合わされて、自動でチップに書き込まれるようになってる 0:  メイヤード:(男の声)余計な口を挟むんじゃねえよ、クソガキが 0:  リリ:う… 0:  フウガ:運行中の取引情報は、その都度宙運船の売上金として入力されます。逆に、補給物資など購入したものがあればそこから差し引かれます。それが『為替情報』です 0:  メイヤード:(男の声)痛い目見たいのか? 0:  リリ:あ…の… じ、じゃあ、にもつをはこんだおかねが、はいらない、ってこと? 0:  メイヤード:(男の声)お前は黙って言うとおりにしてりゃいいんだ リリ:(女の声)役ただすのくせに 0:  リリ:・・・・あ… あ… (震え出す) 0:  ロジー:ああそうだ。許せないよな。しかしそれだと識別チップの情報が盗まれてるか乗っ取られてるかって事になるよな 0:  リリ:はぁ … はぁ … う… 0:  フウガ:となれば、これはとても大きな問題です。現状、それは限りなく不可能な技術です 0:  リリ:…や …や… (荒い息) 0:  ロジー:そうなんだよなあー! 一体どんなカラクリなんだか、おれにはサッパリわからん! 0:  リリ:や… パ…パ… マ…   …マ… (荒い息) 0:  フウガ:では、識別チップのシステムを制作したラボにも … リリ? どうかしましたか ロジー:ん? リリ:はぁ… はぁ… ロジー:うわっ、どうしたリリ、真っ青だぞ リリ:あ… あ… !  フウガ:リリのバイタルが異常です、このままでは リリ:;はぁ、はぁ… ロジー:おぁっ!リリ、倒れ…! フウガ:ロジー、触れては駄目です! 私が ロジー:! ・・・・・ふー、サンキュ、フウガ。 リリ、しっかりしろ!大丈夫か?! フウガ:リリは意識を失いました。クリニックルームへ運びましょう ロジー:ああ。しかしフウガのそのボディじゃそこまでは運べないし、俺は直接触れないし、どうすりゃいいんだ… あ フウガ:どうしたんですかロジー、ジャケットを脱いで ロジー:いいか悪いかわからないが、ひとまず肌に触れないようにこうやって包んで俺が抱いていく。フウガ、リリは一体どうしちまったんだ? フウガ:わかりません。ですが状態から分析するところ、心因性のショックである可能性が高いです ロジー:心因性ショック フウガ:リリにとっては大きく環境も変わりましたし、疲れていたのかもしれませんね ロジー:そうか。頑張ってたもんなーリリ。結局ろくな休みも無かったし、確かに子供にはきつかったかも 0:  0:  リリ:(なに…? なんだか、あったかい…) 0:  リリ:(ラドル … ラドル、 … なの?) 0:  リリ:(それとも … トラ … ちゃん …?) 0:  リリ:(あったかい … なぁ …) 0:  0:  0:  0:  0:  メイヤード:リリが倒れた  メイヤード:そうか。何か異変のようなことはあったか? … いや、ならいい メイヤード:わかった。ああ、採血できたか。では検査結果が出たらこちらに回してくれ メイヤード:で、原因は …なるほど。 …ああ、ありがとう。これからもよろしく頼む 0:  メイヤード:…ふぅ 0:  メイヤード:彼女の中で何らかのフラッシュバックが起きた可能性…か。 メイヤード:リリを私の元へ引き取って約2年、今までそのようなことは起きていない  メイヤード:『ローヴァーゲイル・キャラバン』の生き残り、ロジーとの関わりの中で何かが引き起こされたか メイヤード:むう…考えすぎか。いやしかし… メイヤード:ふぅむ 0:  0:  0:  0:  0:  リリ:…ん… リリ:(ここ、どこ?) リリ:(パパと… ママは…?) リリ:(おうち… じゃない) リリ:(… おうち?) リリ:(ここは、『ちゅううんしけいだん』 『エデン ほんぶ』 …)  リリ:! ロジー、フウガ! …いない  リリ:トラちゃん… わたし、おいてかれちゃった…? 0:  0:  0:  0:  0: ロジーとフウガが入ってくる 0:  ロジー:お、リリ。起きたか フウガ:調子はどうですか? リリ:ロジー! フウガ! ロジー:おはよう、リリ リリ:おは、よう? ロジー:リリ、めし、ちゃんと食った? リリ:…ウン ロジー:いつ リリ:メイヤードのところに、いく、まえ… ロジー:総括に貰ったお前の資料に書いてあったからまあ、その、今まで黙ってたんだが… リリ、お前が何か食ってる所、見たことないんだよな リリ:それは… ロジー:はぁ、ほら リリ:わ ロジー:パンと牛乳! ドクターに食べなすぎだって言われたぞ? ったく  リリ:…ごめんなさい リリ:・・・・・ リリ:たべて、いいの? ロジー:当たり前だろ、てか、食べろ リリ:・・・・・ フウガ:私たちはゲート使用手続きをしていますから、リリはゆっくり食べて。その後はこの通路の先のゲートロビーで待っていてください。さあロジー、行きますよ ロジー:お、おお。フウガ、押すなって フウガ:リリ、そのパンの袋と牛乳パックはあとで回収します。きちんと残さず食べてくださいね 0:  0:  0:  0:  0:  メイヤード:5年前。宙運キャラバン・ローヴァーゲイル・キャラバン・ファミリー、セカンドフロンティア航路船が何者かに襲撃される メイヤード:その後相次いでファーストフロンティア航路船、サードフロンティア航路開拓船が襲撃を受けキャラバンは壊滅 メイヤード:キャラバンはその数ヶ月前、地球、ナリタ・ステイション・ポートで積み荷の盗難被害に遭っている メイヤード:盗難犯として逮捕されたのはヤマモト・ヨウジ、ヤマモト・ユウ。海賊どもに積み荷情報を流す『ホシ屋』だった。 …リリの両親 メイヤード:盗難されたのはセカンドフロンティア、エルーシオ産のレアマテリアル1.26kg。そして…E57シリンダパーツが1つ。これはありふれた機械部品だが… メイヤード:この盗難事件がきっかけとなり、ローヴァーゲイル・キャラバンは殲滅されたとみていいだろう、が メイヤード:そのレアマテリアルがキャラバン・ファミリーが所持する全ての貨物母船を襲撃する理由たり得るとは思えん。エルーシオ便なら同じ積み荷を扱う船はいくらでもある メイヤード:そしてシリンダパーツ。なぜ、こんなものを 0:  0:  0:  0: 宙運連本部・聞き取りを終えたロジー班 0: 差し止められた被害船が並ぶ格納ドック内 0:  ロジー:がはぁー! 疲れた! リリ:ちゅううんれんほんぶのおじさん、すごくおこってた ロジー:まあ、ピリピリするのはわかるよ。事態が事態だからな フウガ:識別チップを解析する技術が海賊に流出しているとしたら、現行の物流システムを根底から揺るがす大問題です。一時的とはいえ為替情報の入力システムを全面停止した宙運連の措置は正しいと思いますよ ロジー:しかし猶予は2日かあ。全く無茶言いなさんなっての リリ:でもおかげで、ひがいにあったふね、ぜんぶうんこうがとまってて、よかったね ロジー:メイヤード総括の指示だろうなー、運行差し止めは。ほんと、現場をわかってらっしゃる。こうして被害船に直接、識別チップを調べに来られる。フウガ、頼んだぞ フウガ:はい。お任せください。ここに並んだ14隻、片っ端から調べていきますよ ロジー:AIユニットで、船のAIキーとお前のAIキーを差し替えればいいんだな? 個人業者の専用AIを抜き差しするなんてかなり反則っぽい気もするが フウガ:いいえ。外から解析するより直接見た方が早いですし、同時にAIの挙動ログにもアクセスできますから、これが最適解と判断しました ロジー:はぁー…、前回の件で悪いこと覚えたよなあ、フウガ フウガ:ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと始めてください、ロジー ロジー:はいはい リリ:・・・・ ロジー:ん、リリ。何か気になるのか? リリ:ロジー、このふね、このまえじこをおこして、わたしたちがはいった、ふねだよね? ロジー:ああ。そうだな リリ:… ううん、きのせい、かも 0:  0:  0: 数時間後 0:  0:  ロジー:くあぁー! 次の船で最後だあー! フウガ:はあ。なぜあなたが疲れているんですか。あなたはキーを抜き差ししているだけでしょう? ロジー ロジー:そうだけど、なんか疲れるんだよ。単調すぎて フウガ:要するに暇で疲れている、と。それはさておき、今までの所、為替情報が書き込まれると同時に、AIがその為替をゼロに戻している、という痕跡が一致しています ロジー:つまり、一度はちゃんと入っている。で、AIがそれをゼロに…ということは、その為替情報分の買い入れ取引がされているって事か フウガ:そういうことになりますね。しかし、買い入れ情報は入力されていません ロジー:ふぅん? フウガ:詳細を入力されない送金、というほうが正しいかもしれません。ということは識別チップの信号を乗っ取り、直接盗みられている可能性は低くなりました ロジー:最後の船は、荷下ろし後に入力システムが停止されたって船か。ニアミスを起こしたのは昨日。荷下ろしはちょうどおれたちが総括室にいた頃で、その後すぐ為替入力システムが停止した、って話だが フウガ:為替情報が入る前の状態、AIに仕掛けの痕跡が残っているかもしれませんね。そしてリリは、ずっと難しい顔をしている。やはり何か気になりますか? リリ リリ:あっ、ううん? どのふねも、じこしょりのときのかんじと、ちがうなあって ロジー:違うって? リリ:じこしょりにはいったとき、どのふねも… なんかへんなかんじが…したの。あたまがぽわんって、くらくらするみたいな ロジー:それはリリ、お前貧血でめまいでも起こしてたんじゃないか? さっきドクターに注意されてたろ。食べなすぎだって リリ:う、それは… そう、かも フウガ:今回はしっかり、パンと牛乳が入りましたからね。では最後の船、何が出るのでしょうか ロジー:何かしらカラクリがわかるといいな リリ:ウン …あっ ロジー:どうした リリ:この、感じ… そう。 ロジー、フウガ、このかんじ、だよ。ね、トラちゃん フウガ:ロジー、あなたは何か感じていますか? ロジー:え、いや、何も フウガ:このボディには異物を検知する機能はありません。が、ロジー、試してみてください。リリと同じ目線にかがんで ロジー:なるほど。それならこの高さあたりのエアを採取してみるか フウガ:お願いします。逆にリリは高い所に登ってみてください リリ:あ、へんなのが、ちょっとよくなった …みたい フウガ:吸い込んでしまったので、すぐには回復しないでしょう。エアの中に何かしらの物質があるとして、それも今回の件と関係しているかもしれませんね ロジー:ああ。リリがいなきゃわからなかったな。これは。さて、AIユニットは、と フウガ:待ってください。わたしは… なに、か … おか …い ・・で ロジー:フウガ?! リリ:フウガ、どうしたの?! ロジー:一旦出るぞ、フウガ、歩けるか リリ:フウガ、ふらふらしてる フウガ:すみ せ… ん わ、し… … す、 かん … ま …た ロジー:何言ってるかわからん! とにかくヤバいことはわかったから、なんとか早く船外に出てくれ リリ:えっと、えっと… トラちゃん! 0:  0:  0:  0: トラウィスの力で船外に転移 0:  ロジー:はー、ありがとな、リリ リリ:フウガ、だいじょうぶ? フウガ:ずこし、おぢづいテ きまじタ ロジー:いやまだだいぶおかしいから フウガ:いいえ。ウイルスに対するワクチンが生成されました。もう大丈夫です ロジー:ウイルス? フウガ:ロジー、船内のエアを採取できましたか? ロジー:ああ。 フウガ:うかつでした。まさか物理的に感染させられるとは想定外でしたね。しかしこれでニアミスの原因と為替情報の書き換えの手口がわかりましたよ ロジー:本当か?! って… よく見たらここ、いつものおれたちの部屋じゃないか! リリ:ごめん…なさい。あわてたら、ここにもどってきちゃった フウガ:いいえ。ちょうど良かったです。リリ。まずは総括に採取した船内のエアを預けましょう。エアに混入した微物についてラボで詳しく調べられるはずです ロジー:AIウイルスがこのエアに混入してるって事か。あ、じゃあ今フウガが作ったワクチンがあれば、被害が防げるって事じゃないか? フウガ:いえ。それはまだです。現在自動生成されたウイルスは、多くのAIが持っている自己免疫機能によるものです。これまで被害に遭った全ての船は感染後、すぐにワクチンが生成され機能は回復しているはずです リリ:えっ、じゃあ、みんな、なおってるの? フウガ:いいえ。AIの動作に支障が出るプログラムは駆除されましたが、回復してはいません ロジー:どういうことだ? フウガ:私の中に書き込まれたデータが残っています。為替データ受け取り時の処理、情報の転移先、私の中にしっかりと書き込まれています ロジー:うおっ、ということは フウガ:ええ、あとは叩くだけ、です ロジー:よっしゃ! フウガ機で出るぞ 0:  0:  0:  0:  0:  フウガ:反応を補足。11時30度上方、距離4000。見えますか? ロジー:ああ。やっぱり航路の外側にいやがったのか リリ:おおきい… フウガ、あのふね? フウガ:ええ。そうです。あの船に搭載された識別チップに為替情報を移動する情報が私の中に書き込まれています ロジー:うまく回収できるといいんだがな フウガ:警告を出します。 …信号は拒否されました リリ:あっ、みて! うごきだした! フウガ:アサルト機3機出現 ロジー:交戦はやむなしか。フウガ、頼んだ フウガ:了解です。アサルト機A、B、C、ラベリング完了。さて、インフィニティ型駆逐船・フウガの実力をようやくリリにお披露目できますね! ロジー:たはは。地味に気にしてたんだ。がんばれー、フウガ リリ:わっ、おっきいふねから小さい粒がいっぱい飛んできてる! ロジー:粒状機雷! まるで散弾だな、しかし フウガ:私には通用しませんよ! 疑似グラビティを船外に展開。機雷を弾きます リリ:すごい… よーしわたしも! トラちゃん… あの機雷をまとめて… ロジー:リリチャン、トラチャンと何する気?! 今までの予想からしておれ微妙に怖い予感がするんだけど?! リリ:えっと…えっと… あそこにする! リリ:ブリッジのすぐうしろ! きらい、まとめてどかどかどかーん! ロジー:わひー! フウガ:メインセンサー部を狙うとは考えましたね リリ:ふふっ あっ、フウガ、うえ! フウガ:承知していますよ、さあ。罠へようこそ リリ:えっ、きえた フウガ:死角になる部分は狙われやすいですからね。パスゲートを準備しておきました。そして、出口は ロジー:フウガの主砲の正面 フウガ:電子砲、ゼロ距離射撃です ロジー:アサルト機A機能停止、1機撃破っと! リリ:あれっ、あたったのに、むきず? フウガ:ええ。この主砲は真空を進む電子波形ですが、エアのある空洞に到達すると特殊な音波に変換され電子機器に甚大な損傷を与えます。あくまでも相手の船の動力を奪うのが目的なのですよ リリ:ふぅん ロジー:中の奴らは拿捕しないといけないしな。リリも気をつけてやってくれよ? リリ:わかった! フウガ:次も逃がしません。スピードで私に敵うと思ったら大間違いです。ロジー、C機が後方より接近、そちらは頼みましたよ ロジー:よーし。砲手は任せろ! おりゃあああ! フウガ:さすがです。アサルト機B、C、機能停止 ロジー:へへっ。どうだリリ、ちゃんと見てたか? リリ:あっ! あのおおきいふね、ようすがおかしい…パスゲートでにげるつもりかも! ロジー:ん、くそっ、向こうも量子変換ドライブ積んでるのか、逃がすかよ。フウガ、相殺(そうさい)できるか フウガ:試していますが、出力差が圧倒的です ロジー:なら、突っ込むぞ。向こうのパスが閉じる前に滑り込め フウガ:了解。アクティブパス起動。出現ポイントは リリ:フウガ! AIユニットはあいつのおなかのどまんなか! フウガ:了解! ロジー:うぇ?! ちょ! お二人さん?! 0:  0:  フウガ:AIユニット破壊。敵船、機能停止。パスゲートも消失しました ロジー:は、はは。フウガの船首で… 串刺し リリ:このまま、みんなでかえれば、いいよね ロジー:ちょっと待てリリ、回収班にれんら(く…) リリ:トラちゃん! ロジー:っあ 0:  0:  0: (間) 0:  0:  メイヤード:全く! 普通に帰還できないのかお前達は! ロジー:いやー、ははは。まったくごもっともで リリ:おこられちゃった フウガ:串刺しのままというのはさすがに不適切でしたね メイヤード:しかし、まあ、おかげで奪われた為替情報を取り戻すことはできた。他の班ではこうはいかなかっただろう。その点では、お前達を認めざるを得んな リリ:こんどは、ほめられた ロジー:ま、おれたちは『アブサード』ですから? メイヤード:自分で言うな! 宙運私警団に対するそのスラングを撤回するために私がどれだけ砕身しているかわからんか! わからんだろうな! リリ:また、おこられた… ロジー:ははーん、そう言ってる総括だって、アブサードな奴ら、嫌いじゃないでしょう? メイヤード:むむぅ… ロジー:とりあえず、終わり良ければ全てよしって事で。ところで総括、今回リリが倒れたことは既にご存じですよね メイヤード:む。ああ、そうだった。その事でお前達に見てほしいものがある。例のエアの分析結果だ ロジー:え、その分析結果にリリと何か関係が? メイヤード:まあ、まずこの画像を見ろ ロジー:うわっ、なんですかこれ リリ:なんかぐしゅぐしゅってしてる…きもちわるい フウガ:これは、ウイルス体ですか? ですがデータベースの中にこの形は該当しません メイヤード:そうだ。これは新種のウイルス。これがエアの中に大量に含まれていたのだ ロジー:これがエアの中に メイヤード:しかも恐ろしいことにこのウイルスは、AIに感染するプログラム情報を持ち、自ら増殖する能力を持っている。ラボの発表によれば、ウイルス型ナノ・ロボットであるとのことだ ロジー:ひええ。なんかおっかないですね メイヤード:そしてこれはリリの血液を調べたものだ リリ:わたし、の? メイヤード:すまんな、意識を失っている間にとらせてもらった。お前さん、入団時の健康診断がずっとできていないままだったからな リリ:うう、ごめん、なさい… メイヤード:いや。かまわんさ。それよりこれを見なさい。血液中から、その例のウイルスが検出されていた ロジー:ええっ、じゃあリリも感染してたって事? メイヤード:ニアミス事故の処理で船内に入る度、ウイルスを吸っていたのだろう。このウイルスは比重が重く、低い位置で漂いながらAIユニットまでたどり着くように設計されているらしい フウガ:なるほど。確かにAIユニットは後部船底に設計されている船が多いです。身長の低いリリはそのウイルスを含んだエアを吸い続けてしまっていた、というわけですね リリ:あたまがくらくらしたのは、そのせいだったんだね ロジー:もしかして、悪い夢もそのせいだったんじゃないのか? フウガ:その可能性も充分にあります。倒れる前、リリは何か私たちに聞こえない音を聞いていたようにも見えました。ウイルスに冒され、幻覚、幻聴を覚えていたのではありませんか? リリ:・・・ウン… そうかも、しれない。わたしをおこるこえが、ずっときこえてた。しらないおとこのひとと、おんなのひとのこえ… フウガ:私の記録によると、その時、リリは『パパ』『ママ』と声を発していました リリ:パパ … ママ … ロジー:っあー、フウガ。それはひとまずおいとこうぜ! それより完全ワクチンだ フウガ:そうでした。メイヤード総括、これは私が生成した完全ワクチンです フウガ:ウイルスに感染した宙運船AIは通常免疫機能によるワクチンが生成されるまでの僅かな間、AIの挙動が不安定になりニアミス事故を引き起こす原因となりました フウガ:ワクチンによりAIの動作は正常になります。しかし通常生成ワクチンではチップへの書き込みを防衛できず、為替情報の転移が起きました メイヤード:ふむ フウガ:この完全ワクチンならば、識別チップ操作のデータ埋め込みも完全に阻害します。運航する全ての宙運AIに処方すれば、当面の被害は抑えられるでしょう メイヤード:うむ。よくやった。やれやれ、これ以上このウイルス・ナノ・ロボットの変異種が開発されないことを願うばかりだな フウガ:そうですね。しかしこれは人体には適応不可です。リリだけでなく、幼い子供の乗る宙運船も多数運航しています メイヤード:ああ、人間用の対処についても対応が必要だな。リリ、しばらくは経過観察だ ロジー:そのことなんですがね、総括 0:  0:  0:  0: 総括室を出たロジー班・現場フロアへ向かう通路 0:  ロジー:はー!今回もつっかれたなぁー! ウイルスの侵入経路については別の班に渡すってさ ロジー:やれやれ。よかったよ。総括から長期の休暇もいただけたし今度こそ本物の休暇だあー! フウガ:リリ。現在の体調はいかがですか? リリ:ウン。だいじょうぶ。なんともないよ …あっ、フウガ フウガ:なんでしょう リリ:て、さわってみて、いい? すこしだけ フウガ:いいですよ リリ:・・・・ いたくない、ね。ふふっ フウガ:それはよかったです リリ:フウガ、この『ボディ』、さわられると、どんなかんじ、する? フウガ:どんな感じ…ですか。感じという感覚は私にはありません。場所と圧力、強さの測定値が入力され、視野情報と連結したデータとして蓄積されます リリ:そっか。ね、てをつないで、いい? おへやにかえるまで フウガ:ええ。いいですよ ロジー:お、良かったな、リリ リリ:ふふっ、ロジー、うらやましい? フウガ:おや。ではロジーも手を繋ぎますか? 私と ロジー:いいよ! なんでそうなるんだよ 0:  リリ:(M)フウガのにんげんのすがた、『アンスロノイド』 リリ:(M)さわっても、いたくない…からだ。 さわったことだけがわかる、からだ 0:  0:  リリ:いいな… 0:  0:  リリ:(M)フウガは、やくにたつために、うまれた リリ:(M)ひとにすかれるために、うまれた リリ:(M)わたしは… 0:  フウガ:リリ、どうしましたか? リリ:ううん、あのね フウガ:はい リリ:フウガ、あなたはいいAIね ロジー:ふふっ、なんだ急に フウガ:ええ、もちろんです、リリ。そしてなぜあなたが嬉しそうなんですか? ロジー ロジー:ええ? あれ、ふふ、何でだろうな? 0:  0:  リリ:(M)いたくない、フウガのて リリ:(M)でも、さっきのとは、ちがう。このては・・・あったかく、ない 0:  0:  0: ロジー、ベッドルームで一人。あるフォトグラフを眺めている 0:  ロジー:あーーー、なんとか休暇が取れてよかったなあ 0:  ロジー:ウードのおやっさん、みんな… 0:  ロジー:また、この時期が来たよ 0:  0:  0: 法外宙域ローヴァーゲイル 『わたしのいらないもの』 0: ~ 終 ~

0: 法外宙域ローヴァーゲイル #4 0: 『わたしのいらないもの』 60分 0:  0:  0:  メイヤード:人類の宇宙進出において最も大きな功績は、地上にはない新しい物質の獲得といえる メイヤード:中でも、莫大なエネルギーを内包する固体・『エナジーマテリアル』は人類の宇宙活動に大きな発展をもたらした メイヤード:時空を超える高速航行、疑似グラビティ、広域通信機能、そして量子変換ドライブ メイヤード:これらを実現したのは『エナジーマテリアル』と呼ばれる物質のたまものだ メイヤード:その中でひときわ大きなエネルギーを保有する結晶 メイヤード:いや、厳密には結晶ではない メイヤード:固化した光。『光子アモルファス』と呼ばれるその物質群は、これまでのエナジーマテリアルとは比較にならないという メイヤード:その中の一つ 『トラウィス』 0:  0:  メイヤード:若い頃私が偶然発見し、わけもわからず金に換えたそれは、今再び私の手に戻ってきた メイヤード:リリという少女と共に 0:  0:  メイヤード:なぜこの少女の手に渡ったのか メイヤード:実用どころか未だ研究段階であるそれを、どうして自在に扱えるのか メイヤード:そのカギを握るやもしれん言葉はただひとつ 0:  メイヤード:『ローヴァーゲイルは、死ね』 0:  0:  0:  0:  ロジー:法外宙域ローヴァーゲイル リリ:『わたしのいらないもの』 0:  0:  0:  0:  リリ:(すすり泣くリリ)ごめんなさい… ごめんなさい… ロジー:何やってる、お前 リリ:ごめんなさい… ごめんなさい… フウガ:何をさせてもろくでもない ロジー:こっちに来い リリ:(小さな悲鳴)あう… ごめんなさい… もうしません… フウガ:そこに立つんだよ 手は後ろ ロジー:言うことも!まともに!聞けやしないのか リリ:(痛がる悲鳴)…や! …や! ロジー:この役立たずめ リリ:パパ… ママ… ゆるして…  フウガ:ガキが ペッ 泣きゃあいいと思って リリ:(痛がる悲鳴)…いや! あう… ごめんなさ… ロジー:ごめんなさい? だからなんなんだ? フウガ:そんなのは聞き飽きたよ この恩知らずの役たたず リリ:(痛がる悲鳴)! …! リリ:(すすり泣き、小さく)うう… ラド…ル… たすけて… ラドル… フウガ:んん? ラドル? くっ、あのクソガキ! ロジー:その名前出すんじゃねえよ! ムカつく リリ:ぐふっ… ごほごほ フウガ:くくっ、いくら呼んだってあいつらは来ないよ 来るわけないだろ リリ:はぁ… はぁ… ううっ… ロジー:ふふっ、ああ、そうだ。あいつらは死ぬんだ。 ほら、消えないように書いてやっただろ …お前の背中に ロジー:『ローヴァーゲイルは、死ね』 リリ:! ロジー:あいつらは死んだよ、お前のせいで死んだんだよ ふふっ、はははは! フウガ:ははははは! リリ:ラドル… (泣く)ごめんなさい… ごめんなさい… 0:  0:  リリ:(深夜。ベッドの中で目を覚ます)…! リリ: …はあ… はあ… わたし… ゆめ… みてた? リリ:ううっ… どきどきする… すごく…いやなかんじ リリ:トラちゃん… ううん、 だいじょうぶ リリ:ロジーとフウガは、パパとママじゃ…ない 0:  0:  0:  0: 宙運私警団 ロジー班の居住スペース 0:  ロジー:ふぁ~あ フウガ:おはようございます、ロジー ロジー:っあー! 久しぶりによく寝たなー! っととっ! フウガ:ロジー、何してるんですか。そんなところにトランクを出しっぱなしにして ロジー:いやフウガ、おれじゃないって! 誰だ?ったく… ん 0:ガタッ … ガタタッ … ロジー:な、なんだ?! フウガ:動いています。ロジー、警戒を。爆発物かもしれません ロジー:…っ 0:ゴト… ゴト ロジー:・・・・ フウガ:ロジー、距離をとって ロジー:あ、ああ 0:ガタン! ロジー:! リリ: …ん… んん… ふぅ… おはよ、 ロジー、フウガ…  ロジー:あ? リリ:ふぁ…  …ん… どうしたの? かくれん、ぼ…? ロジー:んな! リリ?! フウガ:・・・・・ふ、ふふっ ロジー:だああ! フウガ?! お前なあっ! リリ:(目をこすりながら)…どう、したの? ロジー… フウガ:おはようございます、リリ。 すみませんロジー、悪ふざけが過ぎたようです ロジー:ったくもー… フウガ? AIとして優秀過ぎるのもちょっと考えものだぞ? あー、不審物にお前が気がつかないわけないもんなあ! フウガ:肯定。もちろんですとも。お褒めいただきありがとうございます ロジー:褒めてないっての! で、リリもリリでなんでトランクから出てくるわけなの リリ:あ… う、ご、ごめんなさ… ロジー:あー、いや 怒ってない。怒ってない。ただ驚いただけ ロジー:いや、一体いつから隠れてたんだよ フウガ:リリは入眠から2時間後、起き出してきてここに入りました。そのまま再び睡眠状態になったことを感知しています ロジー:寝る所なの?ここ! リリ:うん… ベッドふわふわでねごこちがいい、けど …でも、こっちのほうが、いい 0:  リリ:だれも、いたくしないから 0:  ロジー:そうか。触られると痛いんだよな。はー、つまりはその中なら、誰かにうっかり触られることもない、と リリ:うん…  リリ:ゆうべは、おぼえてないけど …いたくて、どきどきして… めがさめて… たぶん・・・ゆめ、みてた フウガ:確かに、起き出す前、リリはうなされていたようでしたね リリ:ここでねむったのは、ごめん…なさい… ロジー、これ、おへやにもっていっても …いい? ロジー:あ、ああ フウガ:さあ。ではこの話はここまでです。今朝はお二人が揃ったら総括室に出頭するように連絡が来ています ロジー:ええ?! また? おれたち、最近何かしたっけ? フウガ:さあ どうでしょうか 0:  0:  0:  0:  0: 総括室 0:  0:  メイヤード:来たか ロジー:ロジー班、出頭しました! えーと、俺らまたなんかやらかしました? メイヤード:ふむ。 まあ心当たりが多すぎるだろうからな、お前達は ロジー:いやいや! 無いから訊いてるんですよ! 最近は宙運船の小規模事故の案件をいくつか処理しただけで、特に何もしてませんて メイヤード:今日はその、小規模事故の案件とやらのことだ ロジー:え メイヤード:お前達、最近の事故をどう感じる ロジー:はあ、脅かさないでくださいよ、総括。 そうですね。ここんとこ、宙運船同士のニアミス事故が増えてます。大きな衝突事故には至りませんが フウガ:船体に僅かな傷がつく程度のごく軽い接触がほとんどですね フウガ:高速航路ではほぼ全ての船がAI制御による自動航行を選択し、現在調査中の接触事故も全ての宙運船で航行はAI制御下にあったことを確認しています ロジー:互いにAI制御の船同士、普通はぶつからない。なのになぜかニアミスを起こす。原因はまださっぱりですよ。おれが気になるのはこんなとこですかね メイヤード:リリ、お前はどうだ リリ:・・・・・ ロジー:ん、どうした? リリ。なんだかボーッとしてるな リリ:! …ごめんなさい メイヤード:ふぅむ。まあいい メイヤード:この事態については宙運連からも色々と報告が上がってきていてな。みなの意見を聞いていたんだ。お前達のところもやはり同じか ロジー:ですね。他の班も同じ違和感を抱いてると思いますよ。じゃあリリ、仕切り直しだ。最近のニアミス事故調査をまとめてみてわかったこと、総括に教えてやってくれ リリ:あっ えっと…はい!(深呼吸) リリ:えと、あの、あのね、じこをおこしてるふね、ぜんぶ『かもつ』 りょかくせんは、いっけんも、なし… リリ:じこちてんは、ばらばらだけど… かならず『ちきゅうでかもつをおろす』よていだった、ふね メイヤード:なるほど。で、その後貨物はどうなった フウガ:船体の擦り傷程度の事故ですから、問題なく荷下ろしされています リリ:あと… メイヤード:うん? リリ:・・・・ メイヤード:どうした リリ:ううん、まちがい メイヤード:そうか …ふぅむ ロジー:あれ、総括のその感じ。事故以上に何かあるっぽいですね 宙運連からですか? メイヤード:うむ ロジー:やっぱり リリ:うん フウガ:ええ。これで私たちの仮説に一つ確信が得られましたね メイヤード:ほう? どういうことだ ロジー:はい。おれたちが思うに、このニアミス事故の増加は地球エリアを中心に起きている。ここだけじゃなくセカンドやサードフロンティア便でも ロジー:積み荷はひとまず正常にポートに搬入される、が、その後にも何らかの問題が起きてて、そのことで宙運連から何か言われてるんじゃないですか? メイヤード:ほう、なぜそう思った ロジー:事故の起き方が明らかにおかしい。どうやってそんな事をやってのけるのかはわかりませんが ロジー:ニアミスは何者かに意図的に起こされている。『地球で荷下ろしする貨物』しか起こさない事故が、たまたまって範疇を超えた頻度で偶発するわけがない ロジー:で、事故を起こした船の下ろした『貨物』のほうに、何か問題が起きてるんじゃないか。と、おれたちはそう踏んでるわけです メイヤード:なるほど リリ:だけど…それだと、『たいちかんさぶ(対地監査部)』から、ほうこくがある、はず。だから、まだかくしょうが、もてない…  リリ:ね、ロジー、『ちゅううんれん』からほうこくがきてるとしたら メイヤード:ふぅむ? リリ:かもつじゃなくて… もんだいがおきてるのは、ふねのほう… でも、こうろをみまわってくれてるみんなが、もんだいにきがつかなくて… ちゅううんれんにれんらくがいくこと… ロジー:っ、まさか為替…か? メイヤード:ほほう(拍手) いや驚いたな メイヤード:そう。宙運連からの話はまさにそれだ。荷下ろしをした宙運業者に、為替情報が入らない事態が起きている ロジー:ええ?! システムエラーでなく? メイヤード:ああ。システムには問題ないことは確認済みだ。ではこの件はお前達任せるか。何が起きているのか調べてくれ。頼んだぞ ロジー:了解! 0:  0:  0:  0:  0:  リリ:(N)じこせんのちょうさにいったとき、なんだかへんなかんじがした。あたまがくらくらするような、おかしなかんじ… リリ:(N)じこせんの、どのふねのなかも、おなじかんじかしたの 0:  0:  メイヤード:リリは 0:  0: (間) 0:  ロジー:どうした メイヤード:なぜ答えない フウガ:わからないんですか? 0:  0: (間) 0:  ロジー:こんなことも答えられないのか フウガ:やれやれです メイヤード:もういい 0:  0:  リリ:… ごめんなさい 0:  0:  0:  0: 総括室を出たロジー班・現場フロアに向かう通路 0:  リリ:(ため息) ロジー:ふー、やっぱ緊張するよなー、総括室は! フウガ:あなたはとてもそんな風には見えませんでしたよ? ロジー ロジー:そうかあ? そうでもないんだけどなあ フウガ:はあ。そうですか。それはそうとリリ リリ:! フウガ:先ほどのあなたは、とても素晴らしかったです リリ:・・・・・! え、っ …わた、し? フウガ:ええ。よく気がつきましたね。問題が起きていたのは貨物ではなく船だということに ロジー:おおっ、そうだぞリリ。おかげで為替のことに行き着けた リリ:え… え… ? ロジー:ほんと、よくやったよ リリ:・・・・・・・ フウガ:では、私たちはこれから宙運連本部に向かいますか ロジー:そうだな。問題が起きた船の識別チップのデータ、集めないとな フウガ:了解 リリ:ロジー ロジー:ん? リリ:ちゅううんぎょうしゃは、にもつをおろすと、ふねの『しきべつチップ』に、とりひきじょうほうが、かきこまれるんだよね? ロジー:ん? あ、ああ 0:  メイヤード:(男の声)でしゃばるなよ、ガキが 0:  リリ:…えっ 0:  ロジー:ん リリ:えっと… あの、あのね? ロジー:リリ、今日なんかおかしいぞ? リリ:ううん、だいじょうぶ… ロジー:ほんとかぁ? フウガ:無理はいけませんよ、リリ。良くない夢のせいかもしれませんが、今日のあなたには元気がない ロジー:そうかぁ、夢のせいか。話すとすっきりするんじゃないか? どれ、どんな夢だったんだ? リリ:だいじょうぶ。それに、ゆめ、おぼえて、ない… ロジー:あー、覚えてないんじゃ仕方ないか リリ:うん、だいじょうぶ… ロジー:そうか? じゃ ロジー:宙運船はポートの搬入ゲートを出入りするとき、船体重量と取引品の重量、取引先の荷受け情報とが照らし合わされて、自動でチップに書き込まれるようになってる 0:  メイヤード:(男の声)余計な口を挟むんじゃねえよ、クソガキが 0:  リリ:う… 0:  フウガ:運行中の取引情報は、その都度宙運船の売上金として入力されます。逆に、補給物資など購入したものがあればそこから差し引かれます。それが『為替情報』です 0:  メイヤード:(男の声)痛い目見たいのか? 0:  リリ:あ…の… じ、じゃあ、にもつをはこんだおかねが、はいらない、ってこと? 0:  メイヤード:(男の声)お前は黙って言うとおりにしてりゃいいんだ リリ:(女の声)役ただすのくせに 0:  リリ:・・・・あ… あ… (震え出す) 0:  ロジー:ああそうだ。許せないよな。しかしそれだと識別チップの情報が盗まれてるか乗っ取られてるかって事になるよな 0:  リリ:はぁ … はぁ … う… 0:  フウガ:となれば、これはとても大きな問題です。現状、それは限りなく不可能な技術です 0:  リリ:…や …や… (荒い息) 0:  ロジー:そうなんだよなあー! 一体どんなカラクリなんだか、おれにはサッパリわからん! 0:  リリ:や… パ…パ… マ…   …マ… (荒い息) 0:  フウガ:では、識別チップのシステムを制作したラボにも … リリ? どうかしましたか ロジー:ん? リリ:はぁ… はぁ… ロジー:うわっ、どうしたリリ、真っ青だぞ リリ:あ… あ… !  フウガ:リリのバイタルが異常です、このままでは リリ:;はぁ、はぁ… ロジー:おぁっ!リリ、倒れ…! フウガ:ロジー、触れては駄目です! 私が ロジー:! ・・・・・ふー、サンキュ、フウガ。 リリ、しっかりしろ!大丈夫か?! フウガ:リリは意識を失いました。クリニックルームへ運びましょう ロジー:ああ。しかしフウガのそのボディじゃそこまでは運べないし、俺は直接触れないし、どうすりゃいいんだ… あ フウガ:どうしたんですかロジー、ジャケットを脱いで ロジー:いいか悪いかわからないが、ひとまず肌に触れないようにこうやって包んで俺が抱いていく。フウガ、リリは一体どうしちまったんだ? フウガ:わかりません。ですが状態から分析するところ、心因性のショックである可能性が高いです ロジー:心因性ショック フウガ:リリにとっては大きく環境も変わりましたし、疲れていたのかもしれませんね ロジー:そうか。頑張ってたもんなーリリ。結局ろくな休みも無かったし、確かに子供にはきつかったかも 0:  0:  リリ:(なに…? なんだか、あったかい…) 0:  リリ:(ラドル … ラドル、 … なの?) 0:  リリ:(それとも … トラ … ちゃん …?) 0:  リリ:(あったかい … なぁ …) 0:  0:  0:  0:  0:  メイヤード:リリが倒れた  メイヤード:そうか。何か異変のようなことはあったか? … いや、ならいい メイヤード:わかった。ああ、採血できたか。では検査結果が出たらこちらに回してくれ メイヤード:で、原因は …なるほど。 …ああ、ありがとう。これからもよろしく頼む 0:  メイヤード:…ふぅ 0:  メイヤード:彼女の中で何らかのフラッシュバックが起きた可能性…か。 メイヤード:リリを私の元へ引き取って約2年、今までそのようなことは起きていない  メイヤード:『ローヴァーゲイル・キャラバン』の生き残り、ロジーとの関わりの中で何かが引き起こされたか メイヤード:むう…考えすぎか。いやしかし… メイヤード:ふぅむ 0:  0:  0:  0:  0:  リリ:…ん… リリ:(ここ、どこ?) リリ:(パパと… ママは…?) リリ:(おうち… じゃない) リリ:(… おうち?) リリ:(ここは、『ちゅううんしけいだん』 『エデン ほんぶ』 …)  リリ:! ロジー、フウガ! …いない  リリ:トラちゃん… わたし、おいてかれちゃった…? 0:  0:  0:  0:  0: ロジーとフウガが入ってくる 0:  ロジー:お、リリ。起きたか フウガ:調子はどうですか? リリ:ロジー! フウガ! ロジー:おはよう、リリ リリ:おは、よう? ロジー:リリ、めし、ちゃんと食った? リリ:…ウン ロジー:いつ リリ:メイヤードのところに、いく、まえ… ロジー:総括に貰ったお前の資料に書いてあったからまあ、その、今まで黙ってたんだが… リリ、お前が何か食ってる所、見たことないんだよな リリ:それは… ロジー:はぁ、ほら リリ:わ ロジー:パンと牛乳! ドクターに食べなすぎだって言われたぞ? ったく  リリ:…ごめんなさい リリ:・・・・・ リリ:たべて、いいの? ロジー:当たり前だろ、てか、食べろ リリ:・・・・・ フウガ:私たちはゲート使用手続きをしていますから、リリはゆっくり食べて。その後はこの通路の先のゲートロビーで待っていてください。さあロジー、行きますよ ロジー:お、おお。フウガ、押すなって フウガ:リリ、そのパンの袋と牛乳パックはあとで回収します。きちんと残さず食べてくださいね 0:  0:  0:  0:  0:  メイヤード:5年前。宙運キャラバン・ローヴァーゲイル・キャラバン・ファミリー、セカンドフロンティア航路船が何者かに襲撃される メイヤード:その後相次いでファーストフロンティア航路船、サードフロンティア航路開拓船が襲撃を受けキャラバンは壊滅 メイヤード:キャラバンはその数ヶ月前、地球、ナリタ・ステイション・ポートで積み荷の盗難被害に遭っている メイヤード:盗難犯として逮捕されたのはヤマモト・ヨウジ、ヤマモト・ユウ。海賊どもに積み荷情報を流す『ホシ屋』だった。 …リリの両親 メイヤード:盗難されたのはセカンドフロンティア、エルーシオ産のレアマテリアル1.26kg。そして…E57シリンダパーツが1つ。これはありふれた機械部品だが… メイヤード:この盗難事件がきっかけとなり、ローヴァーゲイル・キャラバンは殲滅されたとみていいだろう、が メイヤード:そのレアマテリアルがキャラバン・ファミリーが所持する全ての貨物母船を襲撃する理由たり得るとは思えん。エルーシオ便なら同じ積み荷を扱う船はいくらでもある メイヤード:そしてシリンダパーツ。なぜ、こんなものを 0:  0:  0:  0: 宙運連本部・聞き取りを終えたロジー班 0: 差し止められた被害船が並ぶ格納ドック内 0:  ロジー:がはぁー! 疲れた! リリ:ちゅううんれんほんぶのおじさん、すごくおこってた ロジー:まあ、ピリピリするのはわかるよ。事態が事態だからな フウガ:識別チップを解析する技術が海賊に流出しているとしたら、現行の物流システムを根底から揺るがす大問題です。一時的とはいえ為替情報の入力システムを全面停止した宙運連の措置は正しいと思いますよ ロジー:しかし猶予は2日かあ。全く無茶言いなさんなっての リリ:でもおかげで、ひがいにあったふね、ぜんぶうんこうがとまってて、よかったね ロジー:メイヤード総括の指示だろうなー、運行差し止めは。ほんと、現場をわかってらっしゃる。こうして被害船に直接、識別チップを調べに来られる。フウガ、頼んだぞ フウガ:はい。お任せください。ここに並んだ14隻、片っ端から調べていきますよ ロジー:AIユニットで、船のAIキーとお前のAIキーを差し替えればいいんだな? 個人業者の専用AIを抜き差しするなんてかなり反則っぽい気もするが フウガ:いいえ。外から解析するより直接見た方が早いですし、同時にAIの挙動ログにもアクセスできますから、これが最適解と判断しました ロジー:はぁー…、前回の件で悪いこと覚えたよなあ、フウガ フウガ:ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと始めてください、ロジー ロジー:はいはい リリ:・・・・ ロジー:ん、リリ。何か気になるのか? リリ:ロジー、このふね、このまえじこをおこして、わたしたちがはいった、ふねだよね? ロジー:ああ。そうだな リリ:… ううん、きのせい、かも 0:  0:  0: 数時間後 0:  0:  ロジー:くあぁー! 次の船で最後だあー! フウガ:はあ。なぜあなたが疲れているんですか。あなたはキーを抜き差ししているだけでしょう? ロジー ロジー:そうだけど、なんか疲れるんだよ。単調すぎて フウガ:要するに暇で疲れている、と。それはさておき、今までの所、為替情報が書き込まれると同時に、AIがその為替をゼロに戻している、という痕跡が一致しています ロジー:つまり、一度はちゃんと入っている。で、AIがそれをゼロに…ということは、その為替情報分の買い入れ取引がされているって事か フウガ:そういうことになりますね。しかし、買い入れ情報は入力されていません ロジー:ふぅん? フウガ:詳細を入力されない送金、というほうが正しいかもしれません。ということは識別チップの信号を乗っ取り、直接盗みられている可能性は低くなりました ロジー:最後の船は、荷下ろし後に入力システムが停止されたって船か。ニアミスを起こしたのは昨日。荷下ろしはちょうどおれたちが総括室にいた頃で、その後すぐ為替入力システムが停止した、って話だが フウガ:為替情報が入る前の状態、AIに仕掛けの痕跡が残っているかもしれませんね。そしてリリは、ずっと難しい顔をしている。やはり何か気になりますか? リリ リリ:あっ、ううん? どのふねも、じこしょりのときのかんじと、ちがうなあって ロジー:違うって? リリ:じこしょりにはいったとき、どのふねも… なんかへんなかんじが…したの。あたまがぽわんって、くらくらするみたいな ロジー:それはリリ、お前貧血でめまいでも起こしてたんじゃないか? さっきドクターに注意されてたろ。食べなすぎだって リリ:う、それは… そう、かも フウガ:今回はしっかり、パンと牛乳が入りましたからね。では最後の船、何が出るのでしょうか ロジー:何かしらカラクリがわかるといいな リリ:ウン …あっ ロジー:どうした リリ:この、感じ… そう。 ロジー、フウガ、このかんじ、だよ。ね、トラちゃん フウガ:ロジー、あなたは何か感じていますか? ロジー:え、いや、何も フウガ:このボディには異物を検知する機能はありません。が、ロジー、試してみてください。リリと同じ目線にかがんで ロジー:なるほど。それならこの高さあたりのエアを採取してみるか フウガ:お願いします。逆にリリは高い所に登ってみてください リリ:あ、へんなのが、ちょっとよくなった …みたい フウガ:吸い込んでしまったので、すぐには回復しないでしょう。エアの中に何かしらの物質があるとして、それも今回の件と関係しているかもしれませんね ロジー:ああ。リリがいなきゃわからなかったな。これは。さて、AIユニットは、と フウガ:待ってください。わたしは… なに、か … おか …い ・・で ロジー:フウガ?! リリ:フウガ、どうしたの?! ロジー:一旦出るぞ、フウガ、歩けるか リリ:フウガ、ふらふらしてる フウガ:すみ せ… ん わ、し… … す、 かん … ま …た ロジー:何言ってるかわからん! とにかくヤバいことはわかったから、なんとか早く船外に出てくれ リリ:えっと、えっと… トラちゃん! 0:  0:  0:  0: トラウィスの力で船外に転移 0:  ロジー:はー、ありがとな、リリ リリ:フウガ、だいじょうぶ? フウガ:ずこし、おぢづいテ きまじタ ロジー:いやまだだいぶおかしいから フウガ:いいえ。ウイルスに対するワクチンが生成されました。もう大丈夫です ロジー:ウイルス? フウガ:ロジー、船内のエアを採取できましたか? ロジー:ああ。 フウガ:うかつでした。まさか物理的に感染させられるとは想定外でしたね。しかしこれでニアミスの原因と為替情報の書き換えの手口がわかりましたよ ロジー:本当か?! って… よく見たらここ、いつものおれたちの部屋じゃないか! リリ:ごめん…なさい。あわてたら、ここにもどってきちゃった フウガ:いいえ。ちょうど良かったです。リリ。まずは総括に採取した船内のエアを預けましょう。エアに混入した微物についてラボで詳しく調べられるはずです ロジー:AIウイルスがこのエアに混入してるって事か。あ、じゃあ今フウガが作ったワクチンがあれば、被害が防げるって事じゃないか? フウガ:いえ。それはまだです。現在自動生成されたウイルスは、多くのAIが持っている自己免疫機能によるものです。これまで被害に遭った全ての船は感染後、すぐにワクチンが生成され機能は回復しているはずです リリ:えっ、じゃあ、みんな、なおってるの? フウガ:いいえ。AIの動作に支障が出るプログラムは駆除されましたが、回復してはいません ロジー:どういうことだ? フウガ:私の中に書き込まれたデータが残っています。為替データ受け取り時の処理、情報の転移先、私の中にしっかりと書き込まれています ロジー:うおっ、ということは フウガ:ええ、あとは叩くだけ、です ロジー:よっしゃ! フウガ機で出るぞ 0:  0:  0:  0:  0:  フウガ:反応を補足。11時30度上方、距離4000。見えますか? ロジー:ああ。やっぱり航路の外側にいやがったのか リリ:おおきい… フウガ、あのふね? フウガ:ええ。そうです。あの船に搭載された識別チップに為替情報を移動する情報が私の中に書き込まれています ロジー:うまく回収できるといいんだがな フウガ:警告を出します。 …信号は拒否されました リリ:あっ、みて! うごきだした! フウガ:アサルト機3機出現 ロジー:交戦はやむなしか。フウガ、頼んだ フウガ:了解です。アサルト機A、B、C、ラベリング完了。さて、インフィニティ型駆逐船・フウガの実力をようやくリリにお披露目できますね! ロジー:たはは。地味に気にしてたんだ。がんばれー、フウガ リリ:わっ、おっきいふねから小さい粒がいっぱい飛んできてる! ロジー:粒状機雷! まるで散弾だな、しかし フウガ:私には通用しませんよ! 疑似グラビティを船外に展開。機雷を弾きます リリ:すごい… よーしわたしも! トラちゃん… あの機雷をまとめて… ロジー:リリチャン、トラチャンと何する気?! 今までの予想からしておれ微妙に怖い予感がするんだけど?! リリ:えっと…えっと… あそこにする! リリ:ブリッジのすぐうしろ! きらい、まとめてどかどかどかーん! ロジー:わひー! フウガ:メインセンサー部を狙うとは考えましたね リリ:ふふっ あっ、フウガ、うえ! フウガ:承知していますよ、さあ。罠へようこそ リリ:えっ、きえた フウガ:死角になる部分は狙われやすいですからね。パスゲートを準備しておきました。そして、出口は ロジー:フウガの主砲の正面 フウガ:電子砲、ゼロ距離射撃です ロジー:アサルト機A機能停止、1機撃破っと! リリ:あれっ、あたったのに、むきず? フウガ:ええ。この主砲は真空を進む電子波形ですが、エアのある空洞に到達すると特殊な音波に変換され電子機器に甚大な損傷を与えます。あくまでも相手の船の動力を奪うのが目的なのですよ リリ:ふぅん ロジー:中の奴らは拿捕しないといけないしな。リリも気をつけてやってくれよ? リリ:わかった! フウガ:次も逃がしません。スピードで私に敵うと思ったら大間違いです。ロジー、C機が後方より接近、そちらは頼みましたよ ロジー:よーし。砲手は任せろ! おりゃあああ! フウガ:さすがです。アサルト機B、C、機能停止 ロジー:へへっ。どうだリリ、ちゃんと見てたか? リリ:あっ! あのおおきいふね、ようすがおかしい…パスゲートでにげるつもりかも! ロジー:ん、くそっ、向こうも量子変換ドライブ積んでるのか、逃がすかよ。フウガ、相殺(そうさい)できるか フウガ:試していますが、出力差が圧倒的です ロジー:なら、突っ込むぞ。向こうのパスが閉じる前に滑り込め フウガ:了解。アクティブパス起動。出現ポイントは リリ:フウガ! AIユニットはあいつのおなかのどまんなか! フウガ:了解! ロジー:うぇ?! ちょ! お二人さん?! 0:  0:  フウガ:AIユニット破壊。敵船、機能停止。パスゲートも消失しました ロジー:は、はは。フウガの船首で… 串刺し リリ:このまま、みんなでかえれば、いいよね ロジー:ちょっと待てリリ、回収班にれんら(く…) リリ:トラちゃん! ロジー:っあ 0:  0:  0: (間) 0:  0:  メイヤード:全く! 普通に帰還できないのかお前達は! ロジー:いやー、ははは。まったくごもっともで リリ:おこられちゃった フウガ:串刺しのままというのはさすがに不適切でしたね メイヤード:しかし、まあ、おかげで奪われた為替情報を取り戻すことはできた。他の班ではこうはいかなかっただろう。その点では、お前達を認めざるを得んな リリ:こんどは、ほめられた ロジー:ま、おれたちは『アブサード』ですから? メイヤード:自分で言うな! 宙運私警団に対するそのスラングを撤回するために私がどれだけ砕身しているかわからんか! わからんだろうな! リリ:また、おこられた… ロジー:ははーん、そう言ってる総括だって、アブサードな奴ら、嫌いじゃないでしょう? メイヤード:むむぅ… ロジー:とりあえず、終わり良ければ全てよしって事で。ところで総括、今回リリが倒れたことは既にご存じですよね メイヤード:む。ああ、そうだった。その事でお前達に見てほしいものがある。例のエアの分析結果だ ロジー:え、その分析結果にリリと何か関係が? メイヤード:まあ、まずこの画像を見ろ ロジー:うわっ、なんですかこれ リリ:なんかぐしゅぐしゅってしてる…きもちわるい フウガ:これは、ウイルス体ですか? ですがデータベースの中にこの形は該当しません メイヤード:そうだ。これは新種のウイルス。これがエアの中に大量に含まれていたのだ ロジー:これがエアの中に メイヤード:しかも恐ろしいことにこのウイルスは、AIに感染するプログラム情報を持ち、自ら増殖する能力を持っている。ラボの発表によれば、ウイルス型ナノ・ロボットであるとのことだ ロジー:ひええ。なんかおっかないですね メイヤード:そしてこれはリリの血液を調べたものだ リリ:わたし、の? メイヤード:すまんな、意識を失っている間にとらせてもらった。お前さん、入団時の健康診断がずっとできていないままだったからな リリ:うう、ごめん、なさい… メイヤード:いや。かまわんさ。それよりこれを見なさい。血液中から、その例のウイルスが検出されていた ロジー:ええっ、じゃあリリも感染してたって事? メイヤード:ニアミス事故の処理で船内に入る度、ウイルスを吸っていたのだろう。このウイルスは比重が重く、低い位置で漂いながらAIユニットまでたどり着くように設計されているらしい フウガ:なるほど。確かにAIユニットは後部船底に設計されている船が多いです。身長の低いリリはそのウイルスを含んだエアを吸い続けてしまっていた、というわけですね リリ:あたまがくらくらしたのは、そのせいだったんだね ロジー:もしかして、悪い夢もそのせいだったんじゃないのか? フウガ:その可能性も充分にあります。倒れる前、リリは何か私たちに聞こえない音を聞いていたようにも見えました。ウイルスに冒され、幻覚、幻聴を覚えていたのではありませんか? リリ:・・・ウン… そうかも、しれない。わたしをおこるこえが、ずっときこえてた。しらないおとこのひとと、おんなのひとのこえ… フウガ:私の記録によると、その時、リリは『パパ』『ママ』と声を発していました リリ:パパ … ママ … ロジー:っあー、フウガ。それはひとまずおいとこうぜ! それより完全ワクチンだ フウガ:そうでした。メイヤード総括、これは私が生成した完全ワクチンです フウガ:ウイルスに感染した宙運船AIは通常免疫機能によるワクチンが生成されるまでの僅かな間、AIの挙動が不安定になりニアミス事故を引き起こす原因となりました フウガ:ワクチンによりAIの動作は正常になります。しかし通常生成ワクチンではチップへの書き込みを防衛できず、為替情報の転移が起きました メイヤード:ふむ フウガ:この完全ワクチンならば、識別チップ操作のデータ埋め込みも完全に阻害します。運航する全ての宙運AIに処方すれば、当面の被害は抑えられるでしょう メイヤード:うむ。よくやった。やれやれ、これ以上このウイルス・ナノ・ロボットの変異種が開発されないことを願うばかりだな フウガ:そうですね。しかしこれは人体には適応不可です。リリだけでなく、幼い子供の乗る宙運船も多数運航しています メイヤード:ああ、人間用の対処についても対応が必要だな。リリ、しばらくは経過観察だ ロジー:そのことなんですがね、総括 0:  0:  0:  0: 総括室を出たロジー班・現場フロアへ向かう通路 0:  ロジー:はー!今回もつっかれたなぁー! ウイルスの侵入経路については別の班に渡すってさ ロジー:やれやれ。よかったよ。総括から長期の休暇もいただけたし今度こそ本物の休暇だあー! フウガ:リリ。現在の体調はいかがですか? リリ:ウン。だいじょうぶ。なんともないよ …あっ、フウガ フウガ:なんでしょう リリ:て、さわってみて、いい? すこしだけ フウガ:いいですよ リリ:・・・・ いたくない、ね。ふふっ フウガ:それはよかったです リリ:フウガ、この『ボディ』、さわられると、どんなかんじ、する? フウガ:どんな感じ…ですか。感じという感覚は私にはありません。場所と圧力、強さの測定値が入力され、視野情報と連結したデータとして蓄積されます リリ:そっか。ね、てをつないで、いい? おへやにかえるまで フウガ:ええ。いいですよ ロジー:お、良かったな、リリ リリ:ふふっ、ロジー、うらやましい? フウガ:おや。ではロジーも手を繋ぎますか? 私と ロジー:いいよ! なんでそうなるんだよ 0:  リリ:(M)フウガのにんげんのすがた、『アンスロノイド』 リリ:(M)さわっても、いたくない…からだ。 さわったことだけがわかる、からだ 0:  0:  リリ:いいな… 0:  0:  リリ:(M)フウガは、やくにたつために、うまれた リリ:(M)ひとにすかれるために、うまれた リリ:(M)わたしは… 0:  フウガ:リリ、どうしましたか? リリ:ううん、あのね フウガ:はい リリ:フウガ、あなたはいいAIね ロジー:ふふっ、なんだ急に フウガ:ええ、もちろんです、リリ。そしてなぜあなたが嬉しそうなんですか? ロジー ロジー:ええ? あれ、ふふ、何でだろうな? 0:  0:  リリ:(M)いたくない、フウガのて リリ:(M)でも、さっきのとは、ちがう。このては・・・あったかく、ない 0:  0:  0: ロジー、ベッドルームで一人。あるフォトグラフを眺めている 0:  ロジー:あーーー、なんとか休暇が取れてよかったなあ 0:  ロジー:ウードのおやっさん、みんな… 0:  ロジー:また、この時期が来たよ 0:  0:  0: 法外宙域ローヴァーゲイル 『わたしのいらないもの』 0: ~ 終 ~