台本概要

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タイトル sucre雑貨店
作者名 雲依浮鳴  (@KATANATO13692 )
ジャンル ホラー
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 呪物を売る雑貨店のお話。

客役は“客”と“客M”(心の声)があります。

所要時間:約20分~25分


―役表―

客 不問:
店主 不問:

ーーーーーー

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
不問 69 客役の方はこちらをタップしてください。
店主 不問 72 店主役の方はこちらをタップしてください。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:※sucre雑貨店=すくれ雑貨店 客M:ここは町外れにある、寂れた商店街の一角。ほとんどの店が廃業している中、一店舗だけ営業している店がある。『sucre雑貨店』その名の通り、雑貨を取り扱っているが普通とは違う、ちょっと変わった分野の雑貨を取り扱っている珍しい店だ。 店主:「いらっしゃいませ」 客M:店内は普通だ。並べてある商品は海外から取り寄せた物だろうか?どれも見た事のない物ばかりだ。 店主:「今日は何をお探しですか?」 客:「あ、あの・・・」 店主:「はい、なんでしょうか?」 客:「かみ・・・」 店主:「?」 客:「かみが・・・」 店主:「紙をお探しですか?」 客:「カミガタタラルル」 店主:「・・・」 客:「・・・」 店主:「(ため息)久しぶりのお客様かと思えば、お目当てはそっちでしたか...」 客:「えっと、その・・・」 店主:「どうぞ奥に、お話はそちらでお聞きします。」 客:「はい」 客M:案内され店の奥まで進む。本来はスタッフルームであろう場所の前で足を止める。 店主:「こちらです。いいですか?この扉をくぐりましたら、その先のことは他言無用でお願いします。」 客:「はい、わかりました。」 店主:「そちらの席にお座りください。」 客M:中は薄暗く、目を凝らしてやっと、向かい合って座る相手の顔がうっすらと見えるくらいだった。 店主:「お話に入る前に、質問をしてもよろしいですか?」 客:「えぇ、どうぞ」 店主:「お客様はどのようにしてこの店の事をしりましたか?」 客:「噂です。ネットやオカルトの好きな友達からです。合言葉を言うまでは半信半疑でしたが・・・」 店主:「なるほどわかりました。ではお客様のお話を聞く前に、当店のルールをご説明いたしますね。」 客:「はい」 店主:「その1、先程も申しあげましたが、ここでの事は他言無用でお願いします。その2、一度のご来店で購入していただけるのは一品のみ。その3、購入なされた商品は私が説明した通りに扱ってください。その4、お店から一歩でも外に出ましたらもう二度と、ご来店しないでください。以上です。この4つの約束を守っていただけますか?」 客:「ここでの事は他言無用、一度の来店で購入できるのは一品のみ、購入した商品は説明通りに使う、二度目の来店は遠慮してほしい。」 店主:「守っていただけますか?」 客:「はい、守ります。」 店主:「では、商品の話に移りましょう。何かご希望の品はありますか?」 客:「いえ、この手の事に関しては全く無知でして。」 店主:「わかりました。ではお客様、相手はどんな方ですか?」 客:「え?何故ですか?」 店主:「話たくないのでしたら構いませんが、こちらはお客様に満足のいく一品を買っていただきたいので。」 客: 「つまり、それも必要な情報。という訳ですか?」 店主:「強制はいたしません。」 客:「・・・わかりました。この人です。」 店主:「写真ですか、助かります。ふーむ。なるほど、人望があり、大口を叩けるだけの実力もある。なにがあってもめげない強い心のお人ですね。」 客:「え?えぇっと・・・」 店主:「外れましたか?」 客:「いえ、その通りです。何故わかったのですか?」 店主:「私ぐらいになると、見ただけでわかるようになりますよ。」 客:「そ、そうなんですか・・・理由は説明した方がよろしですか?」 店主:「いえ、それは大丈夫です。皆さん目的は同じでも理由は様々ですから、魂とその器さえ判れば十分ですから。」 客:「魂?ですか・・・」 店主:「えぇ、私の流派では術をかける相手の魂が大きく影響しますから。少々お待ちくださいね、この方にあった品をご用意いたします。」 客M:そう言うと店主は暗闇の中へと消えて行ってしまった。ドアを開ける音は無かった。今自分の居る部屋は入る時に見渡した限りそこまで広くはない。店主は一体どこへ・・・ 店主:「お待たせいたしました。」 客M:そんな事を考えていると何時の間にかに戻って来ていた。 店主:「こちらが商品になります。」 客:「金槌に釘?」 店主:「この二点だけでもう何かおわかりですか?」 客:「まさか、藁人形に釘を打ち込む奴ですか?」 店主:「概ねその通りです。因みに名前は丑の刻参りと言います。」 客:「これで本当に効果はあるのですか?」 店主:「ただ打ち込むだけでは効果はありません。」 客:「では、どうしたら?」 店主:「術をかけたい相手の体の一部、それをこの藁人形の腹の中に入れて下さい。」 客:「体の一部ですか、それは髪の毛とかでも大丈夫ですか?」 店主:「はい、十分です。」 客:「わかりました。」 店主:「次は術の説明に移りますね。先程おっしゃられた通り。この五寸釘を藁人形に打ち込むだけです。その際に、この写真の方に対しての恨みや憎しみなどを込めて下さい。その感情が強ければ強いほど効果があります。」 客:「どこに打ち込めばいいとかはありますか?」 店主:「いえ、特にはありません。藁人形の真ん中、丁度この辺りに最初の一本を打ち込んでくれれば、残りはお客様の好きな場所に打ち込んでください。藁人形の心臓部分に五寸釘を打ち込みますと、藁人形とこの写真の方は感覚がリンクします。つまり一心同体になるわけです。残りの4本はお客様が痛めつけたい場所へ打ち込んでください。」 客:「痛めつけたい所・・・」 店主:「お客様?説明はまだ続きますよ?」 客:「(我に返ったように)は!す、すみません。」 店主:「続けますね。次はこれを行う場所と時間についてお話します。」 客:「丑の刻というぐらいですから、夜中の2時くらいですか?」 店主:「はい、あっています。ですが私の流派では夜更けの2時半から3時までの半刻。必ずこの間に行ってください。この時間外では効果はありません。」 客:「2時半から3時までの30分間だけですか。短くないですか?」 店主:「いえ、十分長い時間です。その間、五寸釘を打ち続けて下さい。最初に打った真ん中の一本を抜かなければ、他の五寸釘は何度打ち直しても構いません。」 客:「真ん中の釘さえ抜かなければいいんですね。」 店主:「そうです。それを1週間、一日も休まずに続けて下さい。場所の話ですが、神社の裏にある木であればどれでも構いません。お勧めすでしたら、出来るだけ奥の方で行ってください。」 客:「神木ではなくていいんですか?」 店主:「私の流派では神木でなくとも術は発動します。」 客:「わかりました。神社はどこでもいいのですか?」 店主:「えぇ、出来るだけ有名ではない場所をお勧めします。あまり人が寄り付かない場所が好ましいです。」 客:「ネットとかにもありましたけど、見られたらいけないんですよね?」 店主:「はい、術中に他の者に見られてはいけません。」 客:「見られたらどうなるんですか?」 店主:「今まで藁人形に打った分の呪いが自分に帰ってきます。」 客:「そ、そんな!?」 店主:「人を呪うと言う事はそういう事です。」 客:「もし見られたらどうすればいいんですか!?」 店主:「見られた場合ですか、あまりお勧めは出来ませんが...」 客:「(固唾を呑む)」 店主:「殺してください」 客:「え?」 店主:「目撃者を殺してください。出来ますよね?人を呪い殺そうとしているのですから。」 客M:今まで通り優しく説明してくれている店主だが、この時だけ、この時だけ違う何かだった。 客:「わ、わかりました。殺せばいいんですね・・・!」 店主:「まぁ、見られないように人の来ない場所でやるのが良いと思います。説明は以上です。何か質問はありますか?」 客:「えっと、その、服装とかはどうしたらいいいですか?」 店主:「特に指定はありません。」 客:「終わった後、この藁人形はどうしたらいいですか?」 店主:「好きなようにしてください。そのまま置いていくのもいいですし、捨てるのも、燃やしてしまうのも自由です。」 客:「わかりました。」 店主:「他にありますか?」 客:「あの、お金の話なのですが...」 店主:「あぁ、そちらは無料で差し上げます。」 客:「え?いいんですか?」 店主:「えぇ、噂を信じ、ここまで来て下さった。それだけで十分です。」 客:「ありがとうございます」 店主:「お礼を言われるようなことはしておりませんよ。むしろ私の方が感謝しているのですから。」 客:「何にですか?」 店主:「足を運んでくださった事に対してですよ。久しぶりのお客様でしたから。それよりも、ここのルールは覚えていらっしゃいますね?」 客:「えぇ、ここでの事は他言無用、一度の来店で購入できるのは一品のみ、購入した商品は説明通りに使う、二度目の来店は遠慮してほしい。」 店主:「結構です。」 客:「では、失礼します。」 店主:「はい、当店のご利用、誠にありがとうございました。」 客M:奥の部屋を後にし、店から出ようとした時だった。店主に呼び止められた。 店主:「一つ言い忘れてました。」 客:「なんでしょうか?」 店主:「人を呪わば穴二つ。覚えておいてくださいね。」 客:「は、はい。わかりました。」 店主:「では、またのご来店心よりお待ちしております。」 客M:店主が言っている事の意味は理解できなかった。いや、言っている意味はわかった。だが、その裏に隠された本当の意味は全く理解していなかった。店を出た後は寄り道をせずに家に帰り、その夜から近くの神社で丑の刻参りを始めたのだった。 0:―14日後― 客M:あれから2週間が過ぎた。言われた通り1週間の間、2時半から3時までの間、神社裏の雑木林で藁人形に釘を打った。幸いにも誰かに見られる事もなく呪いは成功し、相手を呪い殺す事に成功したのだが、未だに実感が持てずにいた。 客:「本当に死んだんだよな?夢じゃないよな?」 客M:何度も不安になっては呪いが成功した日、つまり相手を呪い殺した日に報道されたニュースを見直した。 客「・・・死因は心臓麻痺、発見された時にはもう亡くなっていた。・・・はは、やったんだ。私は殺したんだ。呪いだがら捕まる事もない、ははは・・・」 客M:何度も何度もニュースを見返しては殺してやったぞと言う優越感に浸っていた。 客:「はは、ははは、・・・・・・え?」 客M:空耳かもしれない、いや空耳だと思いたい。今、微かだが自分の笑い声に混じって、自分じゃない誰かの笑い声が聞こえた 客:「だ、誰かいるのか?・・・・・・これは、何で?どうして外に出てるんだ?1週間前にタンスの一番奥に入れてたのに・・・なんで?なんで?どうして?」 客M:しばらく躊躇した後。箱を開ける事にした。 0:恐る恐る蓋を開け、中身を確認する客 客:「金槌に釘が1、2、3...4?あれ?おかしいな5本あったはずなのに・・・ない・・・無い・・・無い・・・っ!?だ、誰だ!?なんで声が?誰かいるのか!?あ、痛い・・・頭がぁあ、あぁあ、あぁあああぁぁ、ああぁあぁぁぁああああ!!!」 客M:今度はハッキリとだった。そしてその声には聞き覚えがあった。そう、自分が呪い殺した相手だった。人を呪わば穴二つ、あの時店主が言っていた意味を理解出来た。だがそれと同時に気が気でなくなるほどの恐怖と絶望に襲われた。人を呪い殺した人間だ。どうやって呪い殺されるかは想像が出来きた。 客:「いやだ、いやだ!いやだぁぁっぁぁあ!!!」 客M:街外れにある寂れた商店街の一角。そこに『sucre雑貨店』という不気味な店がある。気が付けば私はまたその扉をくぐっていた。 店主:「いらっしゃいませ」 客:「(震えている様子)」 店主:「おや、2週間ぶりですね。元気にされていましたか?」 客:「あ・・・あ・・あ・・・あ」 店主:「どうなされました?」 客:「こ、声が、声が聞こえて、あぁ・・・」 店主:「これはこれは、もう呪い返しが始まっているようですね。」 客:「だ、誰なんだ?何人いる?」 店主:「自ら足をお運びいただき誠に感謝しております。迎えに上がる手間が省けました。」 客:「痛い、頭が割れる・・・!助けて・・・」 店主:「それは別でしてお客様、当店のルールは覚えておいでですか?」 客:「お願いします、助けて下さい。」 店主:「お店から一歩でも外に出ましたらもう二度とご来店しないでください。そう申し上げたはずですが・・・」 客:「痛い、痛い、痛い」 店主:「お客様このルールを破ると言う事はどういう事かご存知ですか?」 客:「あぁ、ああ!頭が・・・!」 店主:「・・・もう聞こえていないようですね。」 客:「助けてください。お願いします!」 店主:「お客様、ここはご存知の通りsucre雑貨店ですよ。呪いを祓う場所ではありません。ここに来るのではなく、然るべき場所に行くべきでしたね。」 客:「あぁ、なんで、なんでこんなことに!!」 店主:「なんでこんなことに、はぁ、お客様。前にもご説明いたしました通り、人を呪わば穴二つ。人を呪うと言う事は自分自身を呪うと言う事でもあるんですよ。それに、お客様は藁人形を取ってらっしゃった。ここで購入出来るのは一品のみ。記念にとっておきたいお気持ちはわかりますが、呪術に使った道具を清めもせず取っておくのは、自殺行為にもほどがあります。それでは自分を呪ってくれと言っているようなものですよ。まだまだありますよ、お客様は・・・」 客M:無数のうめき声が頭に響き、自分の中の何かが崩れ落ちていく感覚が、薄れゆく意識の中でぼんやりとあった。次第に視界は歪み、店主の声も遠のいていく。あぁ、このまま死ぬのだと生まれて初めてそう思った。 店主:「わかりましたでしょうか?ん?お客様?おや、もう逝かれてしまいましたか。安心してください。器は用意しております。安心してお休みください。・・・ここは『sucre雑貨店』またの名を『curse (カース)雑貨店』。少し変わったものを取り扱っているお店です。皆様の恨みや妬み、憎しみを大いに歓迎しております。意趣遺恨の為に力をお貸しします。少しばかりの対価はいただきますが、そこはご了承下さいませ。新規のお客様が訪ねて来こられる事を、心よりお待ちしております。あなたもお1つどうですか?あまりお勧めはしませんがね。それでは、当店へ足を運んでくださるその日・・・」 客:「(被せて)いやだ!ここから出してくれ!」 店主:「おっと、邪魔が入ってしまいました。なんと生きの良い魂なんでしょうか。  いえ、こちらの話です。では改めまして、またのご来店心よりお待ちしております。」 0:―CLOSE(END)―

0:※sucre雑貨店=すくれ雑貨店 客M:ここは町外れにある、寂れた商店街の一角。ほとんどの店が廃業している中、一店舗だけ営業している店がある。『sucre雑貨店』その名の通り、雑貨を取り扱っているが普通とは違う、ちょっと変わった分野の雑貨を取り扱っている珍しい店だ。 店主:「いらっしゃいませ」 客M:店内は普通だ。並べてある商品は海外から取り寄せた物だろうか?どれも見た事のない物ばかりだ。 店主:「今日は何をお探しですか?」 客:「あ、あの・・・」 店主:「はい、なんでしょうか?」 客:「かみ・・・」 店主:「?」 客:「かみが・・・」 店主:「紙をお探しですか?」 客:「カミガタタラルル」 店主:「・・・」 客:「・・・」 店主:「(ため息)久しぶりのお客様かと思えば、お目当てはそっちでしたか...」 客:「えっと、その・・・」 店主:「どうぞ奥に、お話はそちらでお聞きします。」 客:「はい」 客M:案内され店の奥まで進む。本来はスタッフルームであろう場所の前で足を止める。 店主:「こちらです。いいですか?この扉をくぐりましたら、その先のことは他言無用でお願いします。」 客:「はい、わかりました。」 店主:「そちらの席にお座りください。」 客M:中は薄暗く、目を凝らしてやっと、向かい合って座る相手の顔がうっすらと見えるくらいだった。 店主:「お話に入る前に、質問をしてもよろしいですか?」 客:「えぇ、どうぞ」 店主:「お客様はどのようにしてこの店の事をしりましたか?」 客:「噂です。ネットやオカルトの好きな友達からです。合言葉を言うまでは半信半疑でしたが・・・」 店主:「なるほどわかりました。ではお客様のお話を聞く前に、当店のルールをご説明いたしますね。」 客:「はい」 店主:「その1、先程も申しあげましたが、ここでの事は他言無用でお願いします。その2、一度のご来店で購入していただけるのは一品のみ。その3、購入なされた商品は私が説明した通りに扱ってください。その4、お店から一歩でも外に出ましたらもう二度と、ご来店しないでください。以上です。この4つの約束を守っていただけますか?」 客:「ここでの事は他言無用、一度の来店で購入できるのは一品のみ、購入した商品は説明通りに使う、二度目の来店は遠慮してほしい。」 店主:「守っていただけますか?」 客:「はい、守ります。」 店主:「では、商品の話に移りましょう。何かご希望の品はありますか?」 客:「いえ、この手の事に関しては全く無知でして。」 店主:「わかりました。ではお客様、相手はどんな方ですか?」 客:「え?何故ですか?」 店主:「話たくないのでしたら構いませんが、こちらはお客様に満足のいく一品を買っていただきたいので。」 客: 「つまり、それも必要な情報。という訳ですか?」 店主:「強制はいたしません。」 客:「・・・わかりました。この人です。」 店主:「写真ですか、助かります。ふーむ。なるほど、人望があり、大口を叩けるだけの実力もある。なにがあってもめげない強い心のお人ですね。」 客:「え?えぇっと・・・」 店主:「外れましたか?」 客:「いえ、その通りです。何故わかったのですか?」 店主:「私ぐらいになると、見ただけでわかるようになりますよ。」 客:「そ、そうなんですか・・・理由は説明した方がよろしですか?」 店主:「いえ、それは大丈夫です。皆さん目的は同じでも理由は様々ですから、魂とその器さえ判れば十分ですから。」 客:「魂?ですか・・・」 店主:「えぇ、私の流派では術をかける相手の魂が大きく影響しますから。少々お待ちくださいね、この方にあった品をご用意いたします。」 客M:そう言うと店主は暗闇の中へと消えて行ってしまった。ドアを開ける音は無かった。今自分の居る部屋は入る時に見渡した限りそこまで広くはない。店主は一体どこへ・・・ 店主:「お待たせいたしました。」 客M:そんな事を考えていると何時の間にかに戻って来ていた。 店主:「こちらが商品になります。」 客:「金槌に釘?」 店主:「この二点だけでもう何かおわかりですか?」 客:「まさか、藁人形に釘を打ち込む奴ですか?」 店主:「概ねその通りです。因みに名前は丑の刻参りと言います。」 客:「これで本当に効果はあるのですか?」 店主:「ただ打ち込むだけでは効果はありません。」 客:「では、どうしたら?」 店主:「術をかけたい相手の体の一部、それをこの藁人形の腹の中に入れて下さい。」 客:「体の一部ですか、それは髪の毛とかでも大丈夫ですか?」 店主:「はい、十分です。」 客:「わかりました。」 店主:「次は術の説明に移りますね。先程おっしゃられた通り。この五寸釘を藁人形に打ち込むだけです。その際に、この写真の方に対しての恨みや憎しみなどを込めて下さい。その感情が強ければ強いほど効果があります。」 客:「どこに打ち込めばいいとかはありますか?」 店主:「いえ、特にはありません。藁人形の真ん中、丁度この辺りに最初の一本を打ち込んでくれれば、残りはお客様の好きな場所に打ち込んでください。藁人形の心臓部分に五寸釘を打ち込みますと、藁人形とこの写真の方は感覚がリンクします。つまり一心同体になるわけです。残りの4本はお客様が痛めつけたい場所へ打ち込んでください。」 客:「痛めつけたい所・・・」 店主:「お客様?説明はまだ続きますよ?」 客:「(我に返ったように)は!す、すみません。」 店主:「続けますね。次はこれを行う場所と時間についてお話します。」 客:「丑の刻というぐらいですから、夜中の2時くらいですか?」 店主:「はい、あっています。ですが私の流派では夜更けの2時半から3時までの半刻。必ずこの間に行ってください。この時間外では効果はありません。」 客:「2時半から3時までの30分間だけですか。短くないですか?」 店主:「いえ、十分長い時間です。その間、五寸釘を打ち続けて下さい。最初に打った真ん中の一本を抜かなければ、他の五寸釘は何度打ち直しても構いません。」 客:「真ん中の釘さえ抜かなければいいんですね。」 店主:「そうです。それを1週間、一日も休まずに続けて下さい。場所の話ですが、神社の裏にある木であればどれでも構いません。お勧めすでしたら、出来るだけ奥の方で行ってください。」 客:「神木ではなくていいんですか?」 店主:「私の流派では神木でなくとも術は発動します。」 客:「わかりました。神社はどこでもいいのですか?」 店主:「えぇ、出来るだけ有名ではない場所をお勧めします。あまり人が寄り付かない場所が好ましいです。」 客:「ネットとかにもありましたけど、見られたらいけないんですよね?」 店主:「はい、術中に他の者に見られてはいけません。」 客:「見られたらどうなるんですか?」 店主:「今まで藁人形に打った分の呪いが自分に帰ってきます。」 客:「そ、そんな!?」 店主:「人を呪うと言う事はそういう事です。」 客:「もし見られたらどうすればいいんですか!?」 店主:「見られた場合ですか、あまりお勧めは出来ませんが...」 客:「(固唾を呑む)」 店主:「殺してください」 客:「え?」 店主:「目撃者を殺してください。出来ますよね?人を呪い殺そうとしているのですから。」 客M:今まで通り優しく説明してくれている店主だが、この時だけ、この時だけ違う何かだった。 客:「わ、わかりました。殺せばいいんですね・・・!」 店主:「まぁ、見られないように人の来ない場所でやるのが良いと思います。説明は以上です。何か質問はありますか?」 客:「えっと、その、服装とかはどうしたらいいいですか?」 店主:「特に指定はありません。」 客:「終わった後、この藁人形はどうしたらいいですか?」 店主:「好きなようにしてください。そのまま置いていくのもいいですし、捨てるのも、燃やしてしまうのも自由です。」 客:「わかりました。」 店主:「他にありますか?」 客:「あの、お金の話なのですが...」 店主:「あぁ、そちらは無料で差し上げます。」 客:「え?いいんですか?」 店主:「えぇ、噂を信じ、ここまで来て下さった。それだけで十分です。」 客:「ありがとうございます」 店主:「お礼を言われるようなことはしておりませんよ。むしろ私の方が感謝しているのですから。」 客:「何にですか?」 店主:「足を運んでくださった事に対してですよ。久しぶりのお客様でしたから。それよりも、ここのルールは覚えていらっしゃいますね?」 客:「えぇ、ここでの事は他言無用、一度の来店で購入できるのは一品のみ、購入した商品は説明通りに使う、二度目の来店は遠慮してほしい。」 店主:「結構です。」 客:「では、失礼します。」 店主:「はい、当店のご利用、誠にありがとうございました。」 客M:奥の部屋を後にし、店から出ようとした時だった。店主に呼び止められた。 店主:「一つ言い忘れてました。」 客:「なんでしょうか?」 店主:「人を呪わば穴二つ。覚えておいてくださいね。」 客:「は、はい。わかりました。」 店主:「では、またのご来店心よりお待ちしております。」 客M:店主が言っている事の意味は理解できなかった。いや、言っている意味はわかった。だが、その裏に隠された本当の意味は全く理解していなかった。店を出た後は寄り道をせずに家に帰り、その夜から近くの神社で丑の刻参りを始めたのだった。 0:―14日後― 客M:あれから2週間が過ぎた。言われた通り1週間の間、2時半から3時までの間、神社裏の雑木林で藁人形に釘を打った。幸いにも誰かに見られる事もなく呪いは成功し、相手を呪い殺す事に成功したのだが、未だに実感が持てずにいた。 客:「本当に死んだんだよな?夢じゃないよな?」 客M:何度も不安になっては呪いが成功した日、つまり相手を呪い殺した日に報道されたニュースを見直した。 客「・・・死因は心臓麻痺、発見された時にはもう亡くなっていた。・・・はは、やったんだ。私は殺したんだ。呪いだがら捕まる事もない、ははは・・・」 客M:何度も何度もニュースを見返しては殺してやったぞと言う優越感に浸っていた。 客:「はは、ははは、・・・・・・え?」 客M:空耳かもしれない、いや空耳だと思いたい。今、微かだが自分の笑い声に混じって、自分じゃない誰かの笑い声が聞こえた 客:「だ、誰かいるのか?・・・・・・これは、何で?どうして外に出てるんだ?1週間前にタンスの一番奥に入れてたのに・・・なんで?なんで?どうして?」 客M:しばらく躊躇した後。箱を開ける事にした。 0:恐る恐る蓋を開け、中身を確認する客 客:「金槌に釘が1、2、3...4?あれ?おかしいな5本あったはずなのに・・・ない・・・無い・・・無い・・・っ!?だ、誰だ!?なんで声が?誰かいるのか!?あ、痛い・・・頭がぁあ、あぁあ、あぁあああぁぁ、ああぁあぁぁぁああああ!!!」 客M:今度はハッキリとだった。そしてその声には聞き覚えがあった。そう、自分が呪い殺した相手だった。人を呪わば穴二つ、あの時店主が言っていた意味を理解出来た。だがそれと同時に気が気でなくなるほどの恐怖と絶望に襲われた。人を呪い殺した人間だ。どうやって呪い殺されるかは想像が出来きた。 客:「いやだ、いやだ!いやだぁぁっぁぁあ!!!」 客M:街外れにある寂れた商店街の一角。そこに『sucre雑貨店』という不気味な店がある。気が付けば私はまたその扉をくぐっていた。 店主:「いらっしゃいませ」 客:「(震えている様子)」 店主:「おや、2週間ぶりですね。元気にされていましたか?」 客:「あ・・・あ・・あ・・・あ」 店主:「どうなされました?」 客:「こ、声が、声が聞こえて、あぁ・・・」 店主:「これはこれは、もう呪い返しが始まっているようですね。」 客:「だ、誰なんだ?何人いる?」 店主:「自ら足をお運びいただき誠に感謝しております。迎えに上がる手間が省けました。」 客:「痛い、頭が割れる・・・!助けて・・・」 店主:「それは別でしてお客様、当店のルールは覚えておいでですか?」 客:「お願いします、助けて下さい。」 店主:「お店から一歩でも外に出ましたらもう二度とご来店しないでください。そう申し上げたはずですが・・・」 客:「痛い、痛い、痛い」 店主:「お客様このルールを破ると言う事はどういう事かご存知ですか?」 客:「あぁ、ああ!頭が・・・!」 店主:「・・・もう聞こえていないようですね。」 客:「助けてください。お願いします!」 店主:「お客様、ここはご存知の通りsucre雑貨店ですよ。呪いを祓う場所ではありません。ここに来るのではなく、然るべき場所に行くべきでしたね。」 客:「あぁ、なんで、なんでこんなことに!!」 店主:「なんでこんなことに、はぁ、お客様。前にもご説明いたしました通り、人を呪わば穴二つ。人を呪うと言う事は自分自身を呪うと言う事でもあるんですよ。それに、お客様は藁人形を取ってらっしゃった。ここで購入出来るのは一品のみ。記念にとっておきたいお気持ちはわかりますが、呪術に使った道具を清めもせず取っておくのは、自殺行為にもほどがあります。それでは自分を呪ってくれと言っているようなものですよ。まだまだありますよ、お客様は・・・」 客M:無数のうめき声が頭に響き、自分の中の何かが崩れ落ちていく感覚が、薄れゆく意識の中でぼんやりとあった。次第に視界は歪み、店主の声も遠のいていく。あぁ、このまま死ぬのだと生まれて初めてそう思った。 店主:「わかりましたでしょうか?ん?お客様?おや、もう逝かれてしまいましたか。安心してください。器は用意しております。安心してお休みください。・・・ここは『sucre雑貨店』またの名を『curse (カース)雑貨店』。少し変わったものを取り扱っているお店です。皆様の恨みや妬み、憎しみを大いに歓迎しております。意趣遺恨の為に力をお貸しします。少しばかりの対価はいただきますが、そこはご了承下さいませ。新規のお客様が訪ねて来こられる事を、心よりお待ちしております。あなたもお1つどうですか?あまりお勧めはしませんがね。それでは、当店へ足を運んでくださるその日・・・」 客:「(被せて)いやだ!ここから出してくれ!」 店主:「おっと、邪魔が入ってしまいました。なんと生きの良い魂なんでしょうか。  いえ、こちらの話です。では改めまして、またのご来店心よりお待ちしております。」 0:―CLOSE(END)―