台本概要

 287 views 

タイトル 名探偵の低迷譚~祟りの証明~
作者名 よぉげるとサマー  (@gerutohoukai)
ジャンル ミステリー
演者人数 7人用台本(不問7)
時間 70 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 名探偵の低迷譚(ていめいたん)~祟り(たたり)の証明~

コメディ色の強いシリアス成分も配合されているミステリーです。
名探偵の低迷譚シリーズ2作目です。
1話完結なので、シリーズどこからやっても基本問題無いです。

3カウントと書いてる区切りは、3秒くらい待ってからやればちょうどいいんじゃない?
って意味です。

女2人不問5人台本です。
不問7人としても良いです、何も問題ないです。(面倒なので不問7で登録してます)
役性別イメージでやりたい場合は、キャラ説明参照してください。

役としての性別イメージ的には、女4 男3 です。
が、あまり気にせず。ご自由に。

劇の音声が残るようにしてくれる場合は、
「よぉげるとサマー」と作者名を、ポストとか配信名に記載してくれると嬉しいです。
是非、聴きたいです。
あと、感想もくれると喜びます。

 287 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
金田 不問 198 金田 一(かなだ はじめ)。名探偵?めんどくさがりな主人公。 役の性別イメージは、どちらかと言うと女。
明知 不問 165 明知 悟狼(めいち さとる)。名探偵? オカルト好きな主人公。 役の性別イメージは、どちらかと言うと男。
不問 121 轟 響(とどろき きょう)。上司。おっさん臭い江戸っ子もどき。 役の性別イメージは、どちらかと言うと女。
藤村 不問 82 藤村 海(ふじむら かい)。村人A。反語が唯一の武器。 役の性別イメージは、どちらかと言うと男。
多鍋 不問 78 多鍋 真音(たなべ まね)。村人B。パロディの塊。歌います。 役の性別イメージは、どちらかと言うと女。
宇陀 不問 88 宇陀 雪路(うだ ゆきじ) 村人C。うだぁ、と鳴きます。 役の性別イメージは、どちらかと言うと男。
祟り婆 不問 62 祟り婆(たたりばあ)。祟さん。ターターリージャー! 役の性別イメージは、どちらかと言うと女。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:プロローグ――― 轟:よぅし……わかった! 多鍋:え……? 藤村:なんです? 宇陀:わ、わかった、って……? 祟り婆:祟りじゃ……。 轟:犯人は……この中に、いる。 藤村:……っ!(えぇっ! みたいな感じ) 多鍋:……っ!(うそっ! みたいな感じ) 宇陀:……っ!(そんなっ! みたいな感じ) 祟り婆:……っ!(タタリじゃっ! みたいな感じ) 藤村:あ、あなた、何を言ってるのか、わかってるんですか! 多鍋:そ、そうよぉ、あたしらに、そんなこと出来るわけなぁいってぇ! 宇陀:ウチらには、アリバイがあるんですよっ? 何を馬鹿な……。 祟り婆:祟りじゃっ! これは……祟りなのじゃあぁぁ! たーたーりーじゃー! 轟:黙らっしゃいっ! 藤村:……っ。 田辺:……っ。 宇陀:……っ。 祟り婆:……タタリジャッ。(小声) 轟:……祟りなんぞ、存在しない。あるのは、ただ、ひとぉ―――つ。 金田:……はぁ。 明知:……ふぅ。 轟:……人間の、業(ごう)だけだ。 金田:……だー、そうで。 明知:……そうですか。 0:本編――― 金田:まーったく。どーして、実地研修ってーのは、大自然の中で、やらされるんだろーなー。 明知:知らん。だが、今回の研修テーマを思えば、この環境は完璧と言える。 金田:だからってー、マージで孤島に連れて来んなってーのー。 明知:仕方ないだろう。「孤島や隔離環境での警邏(けいら)」が主題の研修なんだ。そっくりそのままの環境があるなら、それに越したことは無い。 金田:だとしてもだー。てか、なーんだよー、その研修……。 明知:まぁ……内容もさることながら、ここまで片道10時間というのは……アホと言う他ないな。 金田:ぐぁー、もー! なーんでフェリーなんだよー! 明知:雑魚寝部屋での移動は……本当に辛かったな。 金田:船酔いもするしよー……最悪だってーのー! 轟:……文句ばっかり垂れなさんな、若けぇの。 明知:……轟(とどろき)さん。 金田:だーってー、ロキさーん。 轟:北欧神話の神さんみてぇに呼ぶんじゃねぇよ。船が合わねぇってのは、どうにもならん。さっぱり諦めて、三半規管(さんはんきかん)でも鍛えな。 金田:いや、なーんでそんな、まどろっこしーことしなきゃなんねーんだよー。 明知:まあ、私たちも、我が署の倹約家たちによる、涙ぐましい努力の賜物(たまもの)だとは、理解しています。 轟:……陰口と嫌味くらい許せってかぃ? 明知:えぇ。是非、寛大(かんだい)に。 轟:かははっ、明知(めいち)は相変わらず、生意気でやがる。 金田:そーですよねー。もーっと私みたーいにー、謙虚になれねーのかねー。 轟:お前さんの、どこら辺が謙虚だってんだ。 金田:うーん、謙虚すぎて言語化できなーい、ってとこかなー。 明知:意味が分からんぞ、アホ田(あほだ)。 金田:金田(かなだ)だっ! ボケ知(ぼけち)! 轟:たくっ……仲良しなのは良いけどよ。これも職務の一環だってこたぁ、忘れちゃなんねぇぞ? 金田:わーってますってー。でもー、もう最終日だしさー。最後くらーい、息抜かせてくれーって感じー。 明知:どちらの言葉にも同感です。恵まれた研修環境だとは思いますが……やはり、慣れない土地に長く居るのは……些か(いささか)疲れました。 轟:かははっ、だらしがねぇ。けど安心しな、ちゃあんとご褒美があるさ。 金田:まーじでー! 轟:応よ。今日の晩飯は、村長さん方が、ご馳走振舞ってくれるってよ。 金田:おー、慰労会(いろうかい)じゃーん! 明知:慰労って程のことはしていないだろ。 金田:だーとしてもだー。 明知:なにがだっ。 轟:何でも良いだろうに……あぁ、そういや慰労じゃ無いが……慰霊祭(いれいさい)ってやつが、もう少し先に行われるらしいなぁ。 明知:慰霊祭……もしかして、落武者の? 金田:落武者ぁー? 轟:そうだ……金田(かなだ)は聞いちゃいなかったな。 明知:地域の人の声を、よく聞くこと……研修で何を学んでたんだ、君は。 金田:うるせー、ばーか。 明知:馬鹿なだ(ばかなだ)。 金田:金田(かなだ)だっ! 轟:村の婆様(ばあさま)が言ってたろう……この島は昔、流刑地(るけいち)だったそうだ。 明知:戦(いくさ)に敗れた(やぶれた)武士たちが、罪人として、この島へ送られて来たそうだ。ここの島に住む人の多くは、流刑(るけい)にあった罪人たちの子孫らしい。 金田:へー。そんな話、聞いーたっけかー……。 轟:おめぇは聞く振りだけは、うめぇからな。 金田:まーねー。 轟:黙らっしゃい。……まぁ、良い。この島に流された、落武者たちの中にゃ、殺された主君の仇(かたき)を取ることを、諦められねぇのが少なくなかったそうだ。 明知:島で生きながら、いつかの為に準備を続けていた。 金田:準備ってーとー……仇討ちの? 明知:そうだ。だが……話は、そう簡単じゃ無かった。 轟:今生きていられんのは、お上(かみ)の慈悲があってこそ……世代が流れて、そう考える奴が増えていた。だから……。 明知:何か起こす前に、同じ島の罪人たちに……殺された。 金田:おーおー、先手必勝ってこったー。やるねー。 轟:そっから、島に疫病(えきびょう)が蔓延(まんえん)したりだとか。まるで斬り殺されたような不審死が起こったりだとか。落武者の祟り……みてぇなことが起きるようになった、って話さ。 金田:祟りねぇー……。 明知:まあ、眉唾物(まゆつばもの)の話ではあるがな。そういうことが起こらないよう、落武者たちを供養(くよう)する意図で始まったのが、その慰霊祭だそうだ。 轟:自分たちで蒔(ま)いた種を、自分たちで刈り取ってりゃ、世話ねぇけどよ。それが今でも、こうして残ってんだから、よっぽど反省したんだろうなぁ。 金田:どーだかー。ただ祭りで騒ぎたーい、だけじゃねーのー? 轟:かははっ、それでも良いんだよ。今を生きてる連中にゃ、関係の無いこった。 明知:……時の流れは、あらゆるモノを摩耗(まもう)させますからね。 金田:……それでも、無くなる訳じゃねーよ。 轟:……かははっ。なんか知らんが、辛気臭せーのは無しにしようや。ほらっ、そろそろ移動だ。 金田:……よっしゃー、打っち上げだー! 明知:はぁ……はしゃぐな、ラクダ(らくだ)。 金田:金田(かなだ)だーっ! 0:3カウント――― 多鍋:い、いやぁぁぁぁあ! あーあーあーあ―――ー! えんだあぁぁぁぁぁ! いやぁぁぁぁぁぁ! あーーあ―――あー! 藤村:なんです、この、歌うような悲鳴のような、怪獣のような叫び声は!  宇陀:う、うるっさぁ……え、あれ……多鍋(たなべ)さん? 藤村:あ、多鍋さんなの……? 人間の声だったの? えっ、こわっ……。 宇陀:さすが多鍋さん……。 藤村:いや、こんな感想を述べている場合だろうか? いやそんな場合ではない! 宇陀:反語(はんご)っ! 藤村:多鍋さんっ、どうしましたかっ!? 多鍋:いぇっ、いぇっ、ふぅっ! らっ、ららーらー! 藤村:ダメだ……完全に盛り上がっている! 宇陀:サビまでに話しかけられなかったか……くそっ! 轟:おやおや、やけに賑やかですね。 藤村:あ、お客さん方、どうも、こんばんは。 宇陀:す、すみませんっ、お迎えに行けず。 轟:いえ、そんな気を遣ってくれんで大丈夫ですよ。それより……彼女は、どうしたんで? 金田:すげーなんかー……なに? 明知:あぁ、あれは……なんだ? わからん。 藤村:いやぁ……彼女。多鍋さんは……何か取り乱したり、興奮したりすると……あぁなってまうんです。あぁやって、落ち着けてるんです、情熱を。 宇陀:さすがですよね……。 金田:なにが? 轟:確かあそこ、村長さんのお宅ですよねぇ……玄関前ですごい、激しく歌……歌って……暴れ、て……踊って、る? 藤村:そうですね。ダンシングオールナイトと言いましょうか。いや、言わない! 宇陀:反語っ? 明知:はんだ? 金田:金田(かなだ)だっ! 明知:えっ、あっ……うん。 轟:ともかく……いったん落ち着けねぇと。 藤村:そうなんですが、いったん、あぁなると……我々にできることは、多鍋さんの歌に酔いしれることくらいなんです。 宇陀:さすがですよね……。 轟:なにが? 金田:おーい……なんかさ、嫌ーな予感すんだけどー。 明知:あぁ……この場に村長さんが居ないってのが、また……いや、やめよう、フラグになる。 金田:もう、おせーってのー……。 多鍋:うぅっ、おれいっ! 藤村:あっ、フィニッシュだっ! 皆さん、拍手を! 宇陀:良かったです!(拍手) 轟:……なんなんでぇ。(拍手) 金田:ぱちぱちぱちぱちー。(拍手) 明知:はぁ……。(拍手) 多鍋:はぁ……はぁ…………はっ!(片腕を掲げて見せる) 宇陀:わあっ!(大きく早い拍手を次の宇陀の台詞まで継続) 藤村:あっ、ファンサですよ、これはっ、良かったですね皆さん! 金田:なんなんだよー、この島こええってー……。 明知:こんなとこだったのか……結構な日数いたんだけどな。 宇陀:さすがです、多鍋さん。 多鍋:まーねー。 明知:おい……。 金田:えーと……。 藤村:いや、違うんです! あの、多鍋 真音(たなべ まね)って、お名前なんです。 明知:だからなんだと言うんだ。 金田:唐突な自己紹介って方が、無理あんだろーよー。 宇陀:ち、違うんです! ここらへんには、多鍋さんって苗字は、クソ多いんですよ! だから、アイデンティティを保つ為、名前で呼べということなんだそうです! ねぇ、多鍋さん! 多鍋:まーねー。 轟:じゃあ、名前で呼んでやれよ……いや、いっかい置いとこう。それで、何があったんで? 多鍋:あ……そ、そうだぁ! お、恐ろしいことがぁ! う、うぅ、うーら、らー、ららーらー! 藤村:多鍋さんっ! 落ち着いて! 無限ループですよ! 宇陀:深呼吸して! すすすすすすははははははー! 多鍋:すすすすすすははははははー、ぐぁっ、げほっ! はぁ、はぁ……深呼吸じゃないよぉ、これぇ。 宇陀:まーねー。 多鍋:ふんぬぅっ! 宇陀:うだぁっ! 藤村:あぁっ! 多鍋さんの右フックが決まりましたよ! 金田:あの人、うぐっ、って表現が、うだぁっ、ってなるんだ……。 藤村:え? まあ、宇陀さんですからね。 金田:なーんで、当たり前でしょ? ってスタンスなんだよー。 明知:名前は大事だからな、それは君が一番知っているだろう。ウガンダ(うがんだ)。 金田:金田(かなだ)だっ! おめーが、一番名前を大事にしろーっ! 轟:お前ら、話が進まねぇから静かにしてろ。それで、多鍋さん、いったい何が? 多鍋:あ、はいぃ……ふぅ……あのぉ……村長さんがぁ……村長、さんがぁ……。 轟:……おい、お前ら。家の中、見てこい。 明知:承知しました。 金田:へーい。 多鍋:う、うらーらー! 轟:もう黙ってていいんで、落ち着いてくれ……。 明知:…………これは。 金田:あーあー……だから言うなっつったろーよー。フラグ回収、早すぎるってーのー。 明知:はぁ……轟さんっ、遺体が有ります。おそらく、これは……殺人事件です。 藤村:そんな……っ。 宇陀:そ、村長が……! 多鍋:……うぅ。 祟り婆:祟りじゃ……。 金田:…………ん? え、誰? 祟り婆:落武者様の! ターターリじゃー! 0:3カウント――― 轟:皆さん、落ち着いて状況を整理しましょう。不幸中の幸い、我々は警察官です。本島の応援が来るまで、皆さんの安全を守りつつ、犯人逮捕へ向けて、情報を集めさせて下さい。 藤村:は、はい。我々に協力出来ることでしたら。 宇陀:で、でも、ウチら、何もやってませんし……何も知らないですよ。 明知:些細な事でも、何か事件に関わっている可能性もあります。そういった小さなことを取りこぼさない為にも、お話を伺えればと思います。 宇陀:まあ……はい。 金田:……でー、あんたはどなたー? 祟り婆:タタリじゃ。 金田:いや、祟りかどうかは置いといてー、お名前はー? 祟り婆:タタリじゃっ。 金田:はー? 婆さん、ボケてんのー? 祟り婆:ターターリーじゃーっ! 金田:だーっ! でけぇ杖、振り回すなー! 藤村:あの……その人は、祟(たたり)さんって名前の方なんですよ。 金田:じゃーそう言えよ! 明知:ずっと言ってたろうが。 金田:わかんねーよー! 轟:すみませんね、ウチの若けぇのが。 祟り婆:ふんっ、アンタら余所者(よそもの)が、どんだけ調べたって変わらんよ。これは、落武者様の祟りじゃ。 轟:……どうして、そうお思いに? 祟り婆:奴は、落武者様の石碑を壊してしもうたんじゃ。 明知:石碑を? 多鍋:あれはぁっ、でもぉ、事故のような物だったでしょぉ。 藤村:そうですよ。それに、慰霊祭が終わった後には、きちんと修復するって……。 祟り婆:そもそも後回しというのがおかしいんじゃっ。そんな罰当たりな事しておいて、慰霊なんぞできる訳なかろう! 藤村:それは…….でも、スケジュールも決まってましたから。 宇陀:い、いや……それでも、どうだろう。村長……あそこに「流し素麺台を建てたい」って言ってたし……元の場所には戻さないつもりだったのかも。 多鍋:そぉんなぁ……じゃあ、仕方ないかぁ。 藤村:多鍋さん、素麺なら無限に食べれますもんね。 宇陀:さすがです。多鍋さん。 多鍋:まーねー。 轟:てぇことは……その石碑を修復せずに、祭りの準備を優先したってのが、気に食わねぇ……いや、失礼。それを良く思わない方も多かった……という事ですか? 祟り婆:それもそうじゃろうが……祟りじゃよ、アレは。 金田:なーんで、そんな祟りにしたがんだよー。 祟り婆:……刀じゃ。 明知:……それは、被害者の死因の話ですか? 祟り婆:違うっ! ……消えたんじゃ。落武者様の刀が。 藤村:えっ! それって、寺にある刀ですか? 祟り婆:そうじゃ。今日、掃除にいった時に見たら無くなっておった……だから、これは、ターターリーじゃー! 轟:祟りかどうかは置いといて、だ。確かに、遺体は刃物でメッタ斬り……みてぇに見えました。刀みてぇなもんがあんなら……そいつが凶器の可能性は、高けぇな。 金田:ただでさえ、盗まれたーってんならー。それがドンピシャな気はすんなー。 藤村:いや! それは……どうでしょう……。 明知:と、いうと? 藤村:あの刀……落武者様の刀は、模造刀とかでは無く、本物なんです。戦国時代からあるとされているんですけど……恐れ多くてか、あまり手入れされてきておらず……錆び(さび)だらけなんですよ。 宇陀:あっ、確かに……形で、何となく刀かな……って感じでしたね。 轟:てぇなると……殺傷能力は無さそうですね。 金田:じゃー、落武者でも無いんじゃねーの? サビサビの刀じゃー、なんも斬れねーだろー。 祟り婆:いや、落武者様の祟りじゃ! サビはきっと……なんかこう……霊的な力で、元の刀に戻して、なんか……えいやぁって、斬ったんじゃろうて! 金田:なーんだよ、霊的な力ってー……んなわけねーだろーよー。 明知:……わかんないじゃん。 金田:……えっ? 多鍋:もし、そんなこと出来るんならぁ……あたしらもぉ……殺されちゃうんじゃあ……。 宇陀:そ、そんなっ! ウチらは何もしてないじゃないですか! 藤村:いや……多鍋さんの懸念も、分かります。我々は、慰霊祭の実行委員……石碑の修復を、後回しにすることに……賛同している。 宇陀:ええっ!? そ、それは、でも……! 祟り婆:……石碑を修復せんとも、ワシらは落武者様を殺した一族の血縁……もう、許してなど貰えんのかも……しれん。あぁっ……ターターリーじゃー! 金田:あーあー……ゆーとりますけど、どーすんで? 轟:ふむ……バナナ(ばなな)。 金田:金田(かなだ)だっ! 轟:本当に、祟りなんてもんがあったとしてよぉ。じゃあ仕方ねぇや、って……警察が、とぼとぼ帰れると思うか? 金田:……へっ。警察がどーとかは、知らねーけどよー。そんなカッコわりーこと、ロキさんにゃ、出来っこねーよー。 轟:かははっ……分かったような口の利き方しやがる。 明知:どうせ、迎えは明日にならないと来ませんから。本島に戻るついでに、犯人も護送(ごそう)すれば、コストも削減出来るかと。 轟:なるほどな……。よぅし……わかった。 金田:へへっ。 明知:……ふっ。 轟:あまり警察を舐めて貰っちゃあ、困る。たとえ犯人が幽霊だろうと……人殺しを捕まえねぇ道理は……ありゃしねぇなぁ? 0:3カウント――― 金田:な―――ーんで、こんな雨降って来たってのにー、石碑の調査させられなきゃなんねーんだよー! 明知:知らん……つべこべ言う暇があったら、何か殺人の証拠を探せ。 金田:つーべも、こーべも、言ってねーってのー! はぁー……土でも掘って、しゃれこーべ、でも、見つけてやろうかー? 明知:これ以上、事件を増やそうとするな。 金田:やんねーよー。出たってどーせ、落武者の骨だろうしー。 明知:……落武者の祟り、なんて本当にあると思うか? 金田:あー? んなもんある訳ねーだろーよー……あー、おめーは、あって欲しいのかも知んねーけど。 明知:べつに……霊現象を肯定している訳じゃない。 金田:どーだかー。 明知:……石碑は、村長が壊した。だが、事故のようなもの。そう言っていたな。 金田:あー、祭りに使う資材置場を、そこら辺にしてたんだってなー。それが連日の雨でー、地盤が緩んで崩れたーって……運が無いねー。 明知:あぁ……それで資材が石碑へ直撃し……見事に真っ二つ。 金田:はっはー、なんちゃらスイッチみたーい。 明知:知らん、そんなスイッチ。 金田:でもよー、それがなーんで村長のせい、みたいに言われてんだよ。 明知:……例年の資材置場は別の所だったらしい。 金田:ほー? 明知:今年、資材置場をここに移動したのは、村長が決めたことだそうだ。 金田:なーんで、移動させたん? 明知:利便性を考えてのようだ。前の場所は、資材を使用する時に、運ぶ手間が少しかかったそうだ。 金田:なーるほどなー……それが、この結果ってかー。かわいそーに。 明知:そうだな……もっと事前に調べていれば、こんなこと起こらなかったんじゃないか、と。非難の声は少なく無かったそうだ。 金田:ひえー、良かれと思ってやったことがー、仇(あだ)となるの、きちー。 明知:何をするにも、事前準備や調査は肝要(かんよう)ということだな。 金田:せーやーなー……ところでさー。 明知:なんだ? 金田:資材がぶち当たったからってよー……こーんな綺麗に真っ二つになるもんかねぇ。 0:3カウント――― 轟:害者(がいしゃ)の損傷を見るに、刀で斬られたって言われりゃあ、それがしっくりくる……だが、肝心の凶器は見当たりゃせん。 祟り婆:そりゃあ、祟りじゃからな。 轟:……頭ごなしに否定したくはないですが、落武者の怨念なんて、信じられりゃしません。とりあえずは、人間による他殺の線で捜査させてくだせぇ。 祟り婆:ふんっ、好きにせぇ……祟りなのにっ! ふんっ! 多鍋:まぁまぁ、落ち着いてぇ。おせんべえ、食べますぅ? 宇陀:ど、どんな状況でも、気遣いできるなんて。さすがです、多鍋さん。 多鍋:まーねー。 轟:名前で呼んでやれよ……それで、皆さん以外の村民の方が、犯行に及んだ可能性は、無いんですかね? 村長に恨みを抱いてる方が居たとか、そういう心当たりは? 藤村:そういう話は、聞いたこと無いですね……それに、我々以外、ここの近くに住んでいません。慰霊祭の準備で、最近何人か来て貰ってますけど、今日は雨予報で休みでしたし……。 轟:てぇなると……あなた方4人が、容疑者として絞られしまいますねぇ。 宇陀:えぇっ! な、なんで、そうなるんですか! あなた達3人も、容疑者でしょ! 轟:かははっ、失敬失敬。こちらも勘定(かんじょう)にいれないと、平等じゃないですねぇ。 藤村:宇陀さん、身元もはっきりしてる警察の方々なんだ。しかも本島のだよ? 冷静に考えて、村長を殺す理由が無いだろう。 宇陀:そ、そんなの、ウチらにだって無いでしょうよ! 藤村:それはそうだが……何もしていないからこそ、堂々としていないと。 宇陀:うぅ……うだぁっ! 轟:くそっ、みたいな表現が、うだぁっ、ってなるんだね、この人。 藤村:え? まあ、宇陀さんですからね。 轟:なんで、当たり前だろ、みてぇな態度なんでぇ……。 多鍋:それにしてもぉ、雨が強くなって来たけどぉ、大丈夫なのかしらぁ、あの2人ぃ。 藤村:そう言えば、まだ戻って来ないですね。 宇陀:も、もしかして……村長を殺したの、実はあの人達で……島から逃げ出したんじゃ……。 轟:おおっと。そういう邪推(じゃすい)は、身内の前で言うもんじゃねぇなぁ? 宇陀:あ、す、すみません。 轟:……いや、申し訳ない。皆さんの不安なお気持ち、重々承知しとります。ですが、奴らも一端(いっぱし)の警察官です。難しいかもしれやせんが、信じて下さると助かります。 藤村:……すみません、轟さん。不愉快な思いをさせてしまいました。 轟:かははっ、お互い様ですよ……奴らはきっと、捜査に興(きょう)がのってるんでしょう。なんせ、署内屈指の……名探偵、ですからねぇ。 宇陀:……名、探偵? 轟:おっと……あー、でも、まぁ良いか。その方が、おもしれぇしなぁ……。 多鍋:警察なのにぃ……探偵なのぉ? 轟:……えぇ、奴ら、名前を……こう、書くんでさぁ。……見覚え、おありでは? 藤村:金田一(きんだいち)……! 宇陀:明智 小五郎(あけち こごろう)……! 多鍋:ってぇ……あの有名なぁっ! 祟り婆:名探偵のっ! 金田:ちっがーーーうっ! 明知:まったくの無名だぁっ! 轟:おう、お帰り。遅かったじゃねぇか。 金田:なーに、いけしゃあしゃあとしやがってんだー! デタラメ広めんじゃねーよ! 轟:何言ってやがんですかぁ。あっしは、字が下手なもんで、少ぉしばかり、読み間違えられちまうことがあるだけでさぁ。 明知:書道、師範代の資格持ってただろ、アンタ! 轟:かははっ、達筆なのも下手なのも、正しく伝わらなけりゃ、同じこった。 金田:真理みてーなこと言いやがってー! わざとやってりゃ世話ねーんだよー! 藤村:あの……金田一(きんだいち)さん、明智(あけち)さん。 金田:金田(かなだ)だっ! 明知:明知(めいち)ですっ! 藤村:石碑を調べていたということですが、何かわかりましたか? 金田:無視だー! いっつものパターンだー! 明知:どうして、名探偵と思い込まれると、誰も話を聞いてくれないんだ! 轟:そこらは良い加減、観念しちまいな。んで、どうだったんで? まさか、サボってた訳じゃあねぇよなぁ? 明知:はぁ……きちんと見てきましたよ。ですが、あまり大した証拠は、見つかりませんでした。 金田:雨降ってるしさー、電灯もろくにねーんだもん。なーにをどう捜査しろってんだっつーのー。 轟:そうかい。そんで、のこのこ帰って来やがったのかい。 金田:うるせー。室内で、ぬくぬくしてたくせによー。 轟:かははっ。まあ、いいや。わかったことを共有しようや。名探偵さん方。 明知:だからっ! 金田:ちげーってーのー! 0:3カウント――― 轟:午後4時過ぎ。多鍋 真音(たなべ まね)さんが、村長の死体を、村長宅の玄関で発見した。 多鍋:まーねー。 明知:その際に上げた悲鳴を聞きつけ、慰労会の準備に来ていた、藤村 海(ふじむら かい)さん。宇陀 雪路(うだ ゆきじ)さん。 藤村:はい。 宇陀:うだぁ。 金田:肯定する時、うだぁって、言ってなかったろーが。 藤村:いや、成長コンテンツなんですよ、宇陀さんは。 金田:意味わかんねーよー! たくっ……んでー、そこに私らがやってきてー、状況を把握。ついでにー、祟りの婆さんも来たー、と。 祟り婆:……刀が盗まれた事を伝えに来たんじゃ……だと言うのに、こんな事態になっておるとは……もう、これは、まさに、なんというか……ターターリーじゃー! 明知:うるさい……。 轟:そんで、お前らに見に行かせたら、村長さんが死んでた、と。 明知:凶器は、おそらく刃物。被害者の遺体には、複数の刺し傷があった。 金田:んでー、現場付近に、それらしい凶器は見つからずー、と。 祟り婆:じゃから、落武者様の祟りじゃて。 金田:だーからー、落武者の幽霊が、盗んだ刀で、ざしゅーっ、てやったにしちゃあ、血が吹き出てねーんだってーのー。 轟:いや、お前……テレビや芝居の見過ぎじゃねぇか? 刀だからって、盛大に血が飛び散るかどうかってのは置いといて、だ。刀にしちゃあ、傷が細かいかもなぁ。 明知:そうですね。ただ……体を貫通している箇所も、ひとつ有りました。 轟:ほぅ……突いたんかねぇ。 明知:床にも傷があったので、正確には断定出来ないですが、刃渡(はわたり)からして……刀のようだとは感じました。 轟:……なるほど、なぁ。だとすりゃあ、お寺さんから盗まれた刀ってぇのが、凶器の可能性は出て来たな。 藤村:でも、お伝えした通り、錆びが酷いんですよ、あれは。 祟り婆:そうじゃな……手入れをするのも、憚(はばか)られたのじゃろ。 金田:ふーん。でもさー、研いだりすりゃー、なんとかなんねーんかね。 多鍋:うぅん、包丁じゃあ無いんだからぁ。素人じゃあ……ねぇ? 宇陀:ん? あ、あぁ、そうですよ。そこらの砥石じゃ、どうしようも無いですよ、あの鯖びは。 金田:……へー。 轟:盗まれた刀ってのは、一本なんで? 祟り婆:寺に保管されていたのは、あの一振り(ひとふり)だけじゃ。 宇陀:……や、やっぱり、落武者の祟りなのかな。 藤村:いや、そんな……でも、私たちは、やっていないし。 多鍋:アリバイもぉ……皆あるわよねぇ……。 祟り婆:てことは……さん、はいっ! 藤村:ターターリーじゃー!(3人一緒に) 宇陀:ターターリーじゃー!(3人一緒に) 多鍋:ターターリーじゃー!(3人一緒に) 金田:うるせーよー! てか、こーの3人のアリバイってなんなんだよー、ロキさん! 轟:轟(とどろき)でい。……発見時、遺体は死後硬直しきっていなかった。だとすりゃ、いったん死亡推定時刻は……。 明知:発見時より、だいたい1、2時間以内。その時間帯に何をしていたか、確認した訳ですね。 轟:そうだ。まあ、確認済みにはなっちまいますが、メモに書き損じが無いかも、確認させて頂ければと思いますんで……。お一人ずつ、もう一度。その時間のアリバイを、お願いできますか? 藤村:はい……自分は、多鍋さんと二人で、皆さんの食事の用意をしていました。といっても、もうその頃は、あらかた調理が済んでいて、食器の配膳や、ちょっとした片付けをしてました。それから事件の30分前くらいに、宇陀さんが集会所に来て、少し話してましたね。 多鍋:あたしもぉ、藤村さんとぉ、同じ感じですぅ。ただぁ、村長が来ないからぁ、宇陀さんが来た後にぃ、呼びに行ったくらいでぇ……そしたらぁ……あんなぁ……あ、んなぁ……う、うららぁぁあー! 宇陀:た、多鍋さんっ、落ち着いて! ほーら、深呼吸ー! 多鍋:すぅー。(下の宇陀のリズムに合わせて吸う) 宇陀:吸っちゃってー吸っちゃってー、もーっと吸っちゃーってー、はいっ! 吸っちゃってー吸っちゃってー、もーっと吸っちゃーってー、はいっ! 多鍋:げほっ、ごぼっ、ぐばっ……はぁっ、はあっ……ふんぬぅっ! 宇陀:うだぁっ! 藤村:おぉ、右ブロー。 金田:ええてー……うだぁ、続けてくれー。 宇陀:うだぁ……う、ウチは、祭りの資材場を移転した関係で、遅れていた作業をしてました。それで、今日の慰労会に参加させて頂く予定だったので、見切りをつけて、集会所へ電話してから、車で来て……藤村さん、多鍋さんと合流しました。 金田:なーんか、ふんわりとしてんなー皆。 藤村:まあ……でも、宇陀さんは電話した後、すぐここへ来ましたし、我々も時間を気にしながら作業してましたから、節目での時間もわかってるんですよ。 轟:そうだ。祟(たたり)さんも、寺の掃除をしていて、刀が盗まれたことに気づき、村長の所に向かっている最中、宇陀さんの車を見てる。 祟り婆:そうじゃな……ふんっ、急いで車なんぞ飛ばしおって、誰も轢いとらんじゃろな? 宇陀:ひ、轢いてませんよ……。 轟:……さて、これが全員のアリバイだ。 金田:ふーん、じゃー、私らのアリバイも、発表しとくかー。 明知:……まあ、その方がフェア、か。 轟:へぇ、いいじゃねぇか。警官っぽいこって。 金田:ばーかにしやがってー。 明知:ではまず、轟さん、お願いします。 轟:おう。あっしは……と言っても、この二人も同じになっちまうが、最後の研修を終えて、片付けした後に、ここへ車で乗り付けて来たって感じに……なっちまいますねぇ。 藤村:……まあ、仕方なくはありますけど、それなら、我々と同じような形ですね。 多鍋:確実にぃ……犯行を行える人はぁ……いないってことぉ? 宇陀:そ、そうですよね……これじゃあ、本当に……。 祟り婆:落武者様の……ターターリー……! 金田:じゃー。 明知:無いな。 祟り婆:……じゃ? 多鍋:なぁい? 藤村:ですって? 宇陀:うだぁ? 轟:よぅし……わかった! 多鍋:え……? 藤村:なんです? 宇陀:わ、わかった、って……? 祟り婆:祟りじゃ……。 轟:犯人は……この中に、いる。 藤村:……っ!(えぇっ! みたいな感じ) 多鍋:……っ!(うそぉっ! みたいな感じ) 宇陀:……っ!(うだぁっ! みたいな感じ) 祟り婆:……っ!(タタリじゃっ! みたいな感じ) 金田:……んでー、冒頭に戻ると。 明知:……無駄に歴史を変えるな。金歯(きんば)。 金田:金田(かなだ)だっ! 0:3カウント――― 藤村:いったい、どういうことなんですか! この中に……犯人がいるだなんて。 多鍋:そぅよぉー! 仮に居たとしてもぉ、目星はちゃんとついてるのぉ? 宇陀:い、今までの話の流れからじゃ、てんで納得できませんよ! 祟り婆:祟りじゃって言ってんのに、マジだりぃー。 明知:どういうキャラなんだ……。 轟:まあまあ。なにも、格好つけたかったから、啖呵(たんか)切ったわけじゃあねぇでさ。 宇陀:あ、当たり前だ! そんな理由で、あんなこと言われたんなら、警察なんてもう信じられないですよ! 金田:そーだそーだー、なまぐさ警官(けいかーん)。 轟:黙らっしゃい。……まあ、すみません。調子は少し、乗らせて頂きやした。 明知:自制して下さいね。あなた、上司なんですから。 轟:ごほんっ、あー……それで、犯人はこの中にいる。その確証に至った理由を……話してやれい。 金田:……ん? 明知:……はい? 藤村:っ! まさか……名探偵のお二人には……! 多鍋:この事件の犯人がぁ……! 宇陀:わ、わかったんですか!? 祟り婆:え、祟りじゃ……? 金田:だーからっ、名探偵じゃーねーってのー! 明知:まったく、何度この扱いを受ければ良いんだっ! 金田:てか、なーんで、私らに振るんだよー! ロキさんが、わかったんじゃーねーんかーい! 轟:いや、まだわかっちゃあいねえよ。 明知:まだってなんだ、まだって。 轟:お前らのアリバイ……もとい、捜査で……これから、わかるんだ。 金田:うがーぎぎぎぎ! 明知:はぁ……。 多鍋:これからぁ……。 藤村:わかる……? 宇陀:い、いったい、どういう……? 祟り婆:あ、祟りだってわかるのかもっ。(小声) 轟:さて、先生方。死体発見後の、ざっと2時間程度。どこで、何をしていた? 金田:はぁー……先生じゃねぇよー。 明知:……随分、回りくどい推理ですね。 轟:かはは、盛り上がるだろう? 金田:私らは、萎えまくりだってーのー。はぁ……しゃーないなー。 明知:あぁ、ごねるのは、時間の無駄だ……では、その2時間。私たちのアリバイ……もとい、捜査結果を、報告させて頂きます。 金田:ご清聴くだせーい。 0:3カウント――― 明知:……どうだ? 金田:んー、へへっ……ここも、鍵かかってねーや。 明知:はぁ……考えられんな。 金田:田舎なんて、こんなもんだよー。島なら尚更なんじゃねー? 明知:人口が少ないとは言え、不用心が過ぎるだろう。 金田:あーだこーだ言っても、説得力ねーよー。不法侵入してんのはこっちだしー。 明知:……まったく、これで何も証拠が無かったら、どうする気だったんだ。 金田:知らねーよー。文句はロキさんに言えってーのー。 明知:はぁ……ここで最後とはいえ、やはり気が引けるな。 金田:なんだよー、紙ペラ一枚、あるか無いか程度の違いだろー? 明知:捜査令状を紙ペラ呼ばわりするな馬鹿。 金田:馬鹿っつった方が、バーカ。 明知:はぁ、それにしても……。ガレージ……と言うより、作業場(さぎょうば)だなここは。 金田:ここら辺で、唯一の板金屋(ばんきんや)っぽいとこらしいからなー。 明知:……にしては、小規模だな。 金田:まー、町の診療所ー、的な立ち位置だろー。出来ないことは、もーっとデカいとこへ、どーぞー、みたいな。 明知:そうか……栄えている港の方には、ここからだと少し遠いからな。 金田:それにー……周りに人があんまりいねー方が、やりやすいことってーのもー……あるみてーだしー? 明知:それは……砥石(といし)か? 金田:そーみてーだなー。鑢(やすり)も転がってんねー。 明知:こういう場所なら珍しくも無いんだろうが……まだ床に少し、削れた錆びが散らばってるな。 金田:こーいうのも調べりゃー、なーんか、わかるんかね? 明知:どうだろうな……だが、ハッタリは、利くかもしれん。 金田:へっへー……悪い奴ー。 明知:それで犯罪者を逮捕できるなら……悪くない。 金田:減っらずぐちぃー。 明知:うるさい……よし、見つけた。 金田:おーおー、ゲームの勇者様みてーだなー、人ん家の戸棚漁ってよー。 明知:さっきからお前もやっていただろうが。それにこれは、必要悪だ。 金田:そーですかー。んでー、まったく同じもん? 明知:あぁ……同じ名刺だ。 金田:ビーンゴー……だな。 0:3カウント――― 宇陀:ひ、他人ん家(ひとんち)に……勝手に入ったんですか!? 金田:人聞きが悪りーなー。あーくーまーでー、捜査の一環(いっかん)だー。 明知:事前告知も同意も無しに、侵入したことは謝罪します。申し訳ありません。 多鍋:ど、どどど、どうしてそんなぁ……! これが警察のやり方かぁー! 藤村:まさか……名探偵だから、許されるんですか!? 轟:そうだ。 金田:そうだ、じゃねーよー! 明知:名探偵でも許されんわ! 轟:細けえこたぁ良いんだよ。続けろ、ボサノバ(ぼさのば)。 金田:金田(かなだ)だっ! 明知:相手にしてるとキリがないぞ、サンバ(さんば)。 金田:金田(かなだ)だっ! 明知:さて……私たちは、落武者の石碑を調べた後、皆さんの家を回り、少し捜査させて頂きました。 祟り婆:……寺もか? 明知:えぇ、そちらもです。 祟り婆:……中に入ったんか? 金田:いんやー、残念ながら、きちーんと施錠されてて、侵入出来ーず。見れるとこだけだったなー。 祟り婆:ふんっ……盗みが入った後で、鍵をかけん馬鹿はおらんわ。 明知:被害に遭わなくとも、家を留守にする際は、施錠をして頂ければと。 金田:そーだぞー、防犯意識ってのが、大事だよなー。 轟:おろそかにすると……今回みたいな事にも、なりますからねぇ。 宇陀:うだぁっ、だからって、許されることじゃ無いでしょ! 多鍋:そ、そぉよぉ! あんたぁ、どうせあたしの下着とか盗んだでしょお! 明知:盗むかっ! 多鍋:盗みなさいよぉ! 藤村:静かにしてくださいっ! それで……そんな泥棒まがいな事をして……何か、わかったんですか? 探偵さん。 金田:探偵じゃねーよー、警察だ。 明知:遺憾ながらな。 金田:……石碑を調べた時に、事故で壊れたにしちゃー、割れ目が少ーし綺麗過ぎんなー、って思ったんだ。 明知:よく見ると、数カ所に小さな窪みがあった。おそらく……確実に石碑を割るために、楔(くさび)のような物を打ち込んだんだろう。 祟り婆:なんじゃと……それじゃあ、落武者様の石碑は、わざと壊されたんか!? 金田:そーなるなー。 藤村:そんなこと……何の為に。 轟:落武者の祟り。害者の死を、亡霊の仕業(しわざ)に見せかける為……でしょうや。 明知:この島には、落武者の祟りを信じ、恐れる方は多いですから。上手く行けば……祟りとして処理され、外部へ漏れずに済む。 宇陀:そ、そんな、都合良く行くわけ……。 轟:そうですよね。警察が研修で来ているのを知りながら、祟りに見せかけた殺人をやらかすなんざぁ……とんだ博打(ばくち)だ。 多鍋:普通ぅ……そんなことぉ、出来ないわよぉ。 金田:そーだなー。だから私らも、まだ祟りの可能性もあるー、つって、捜査範囲を広げた。 藤村:それで、不法侵入をした、と? 金田:した。まず、寺。 祟り婆:タタリじゃっ。 金田:多鍋。 多鍋:まーねー。 金田:宇陀。 宇陀:うだぁ……。 金田:藤村。 藤村:……。 金田:……え、なんかー、藤村は、その……鳴き声? みたいなの、無いの? 藤村:……無いんです。 金田:最初、反語とか言ってなかったかー? 藤村:いや……なんか、違うじゃないですか、あれは。 金田:まーねー。 多鍋:はい、でたぁー! すぐ面白いネタパクる奴ぅー! 明知:お願いだから、やめてくれ。色々、怖いから。 轟:話を戻してくれい。 明知:はい……順番に、捜査した結果を話すと。まず寺では、特に証拠のような物は発見出来ませんでした。鍵が掛けられていましたしね。 金田:たーだ、証拠が無いっていう証拠は見つかった……って言えるかもなー。 藤村:証拠が無いのに、証拠があると言えるだろうか? いや、言えない! 宇陀:反語っ! 金田:……良かったね。 藤村:……続けて下さい。 多鍋:結局ぅ、どういう意味なのぉ? 明知:誰かが盗みに入る為に、鍵や何かを壊したりなど、侵入した分かりやすい形跡が無かった。単に、その事実が分かった、というだけです。 宇陀:な、なんだ……何も分からなかったってことじゃないですか。 祟り婆:いや、落武者様が霊体を活かして持ち出した線が濃厚になったということじゃ。 轟:違いますね。 祟り婆:違わないもん! 轟:いや……幽霊なら壁や扉をすり抜けられるってぇ見解も出来ますが、あくまでも、人間の仕業と考えてますんで……。 多鍋:つまりぃ、その場合だとぉ……? 金田:鍵を壊したり、無理矢理侵入する必要が無かったー……ってこたぁー、鍵を持ってたんじゃねーのー? 宇陀:……えぇっ!? 多鍋:そ、それじゃあ、祟(たたり)さんの自演になっちゃうじゃない! 明知:確かにその可能性は高いです。 金田:頑なに祟りにしたがってるしなー。 祟り婆:わしじゃないよっ。落武者様の祟りだよっ。 轟:まあ、何にせよ。いったん、次の捜査結果を話して貰いましょうや。せっかく先生方が調べて下さったんですから、ねぇ? 金田:先生じゃねぇっ! もう悪意しか感じねーなー! 明知:……まあ、小出しにしても仕方ないので、残りはまとめてお話しします。 金田:そーだなー。大した捜査結果じゃねーしー。 明知:先に言っておきますが、皆さんの家を空き巣の如く、荒らした訳では無いです。あくまで捜査として、目に付いた所を少し見させて頂いただけです。動かした物は、極力元に戻してあります。 宇陀:そ、そんなこと言われても、訴えればこちらが勝てますからね! 多鍋:そうよぉ! あたしの全てを、いやらしい目で見たんでしょお! 明知:無理です。 多鍋:無理って何ぃ? 金田:だーいじょうぶだよー。本当、大して見て無い。だから、大した証拠も見つかってーない。 藤村:……それは、小さな証拠は、見つかったって、ことですか? 金田:おーおー、察しが良いねー。その通り。 宇陀:……いったい、何を、見つけたんですか? 多鍋:ねぇ、無理って何ぃ? 明知:無理ってこと。 金田:宇陀さー。家に色々仕事道具あったよなー? 宇陀:え、は、はい。 金田:見ても詳しく分かんなかったけどよー。金属とか、そーいうの加工したり、修理したりしてんだろーなー。 宇陀:えぇ……ちょっとした金物の修繕とか、村の建物とかの軽い補修とかも、やってます。 金田:あと……錆びついた刃物の研磨(けんま)……とかもだろ? 宇陀:……っ! 明知:直近でも、そういったお仕事をされていたようでしたね。床に少し散らばってましたよ、取った錆びが。 宇陀:い、いや、まあ……。 祟り婆:宇陀……まさか、刀を盗みおったのは……! 宇陀:ち、違うっ、違いますよっ! 包丁とか金物の錆び取りを受けることはありますよ! ただ、ろくに掃除してないから……床に落ちたままになってるだけです! 多鍋:そ、そうよぉ、宇陀さんが人殺しなんてぇ……そうだぁ、ちょっと前にぃ、あたしがずっと使ってなかった包丁の錆び取りして貰ったからぁ、それじゃない? 宇陀:え、あ、た、確かに! それですよきっと! 明知:そうかもしれません。けれど……そうじゃ無い、かもしれない。 多鍋:ちょ、ちょっとぉ、あたしが嘘ついてるって言うのぉ!? 轟:果たして、どこが嘘なのか、って話しになっちまいそうだなぁ、こりゃ。ただ、まだ証拠としては弱過ぎる。 金田:そもそも、仮説みたいな証拠しか見つかってねーんだよー。 明知:……ですから、皆さんに、ひとつお聞きして良いでしょうか? 宇陀:な、なんですか? 明知:四方山(よもやま)さん、という方をご存知ですか? 宇陀:……っ! 多鍋:……っ! 藤村:……っ! 祟り婆:……ダレジャッ!(小声) 金田:あれー? 知ってる反応だなー……てか、知ってるわなー、名刺持ってんだし。 明知:とある商社系列の方みたいですね。どんな接点があるのか、不思議でしたが……藤村さん、貴方の家で、ちょっとした資料を見つけました。 藤村:……でしょうね。今朝、ちょうど目を通して、テーブルに置いたままでしたから。 多鍋:……そ、そんなぁっ! 不用心よぉ! 宇陀:あ、あぁ……うだぁっ! 轟:おやおや……御三方(おさんかた)の取り乱し方を見るに……そりゃあ「大した証拠」なんじゃねぇんかい? 金田:パッと見じゃ関係性がわかんねーよー……この島のリゾート開発についての企画書なんて、なぁ? 明知:祟(たたり)さんは、この事を知っていましたか? 祟り婆:そんな罰当たりなこと……初耳じゃ。 明知:つまり、この事を知っているのは……藤村さん、多鍋さん、宇陀さん……そして、村長の4人ということですね。 金田:村長は……反対だったみてーだけどなー。 轟:ほう……ここら辺から砂浜まで、観光資源とする為に……なるほど、随分とデカい開発計画みてぇだ。 明知:計画の範囲には、落武者の無念塚(むねんづか)や石碑などが含まれている。それらの場所を移すことも、考慮されていたみたいですが……。 金田:祟りにビビる村長はー、首を縦に振らなかったー、って感じかねー……そこら辺、どーなん? 藤村:……おっしゃる通り、村長はその計画に反対していました。落武者様の祟りは、もちろんですが、この島の自然が、少なからず破壊されてしまうのを嫌っての事です。 祟り婆:当たり前じゃ! 塚も石碑も……荒らす事なぞ、許されん! 藤村:そうですね……なので残念ですが、この話は白紙となりました。 金田:ふーん、「残念」なんだなー? 藤村:……計画の内容が改善出来るなら、この島の為になる話だと思いましたから。そういう意味で、少々残念に思いましたよ。 多鍋:そぉよねぇ……いつまでもこのままだとぉ、人口も増えないしぃ……島に残ろうと思う人もぉ、居なくなっていくでしょうしねぇ……。 宇陀:イ、インフラだって、もう少し良くなっただろうし……残念ですよ。 轟:だから……殺した? 宇陀:……なっ!? 多鍋:やめてよぉ! そんな訳ぇ……! 轟:決定権が誰にあるか、あっしには、わかりやせん。けれど……その話を知っている中で、村長だけが反対していたとすりゃあ……。 藤村:村長が死ねば、計画を進められる、と? 轟:……考える事は、出来ます。 藤村:……そんな短絡的な事、したってしょうがないでしょう? 村長は、ここら辺の地主です。我々の所有する土地も少しあって、計画の範囲に含まれてましたが、大部分は村長の物。村長が死んだからと言って、我々が村長の土地を好きに出来る訳じゃない。 明知:村長さんに、他のご家族などは? 多鍋:息子さんがぁ、本島に居るってぇ、聞いてますぅ。 金田:じゃー、順当に行きゃあ、そいつが相続するんかねー。 宇陀:そ、そうなると思いますけど。 金田:なるほどねー……そいつを説得出来りゃー、万事丸く収まるってーこった。 藤村:……それは、こじ付けでは? 金田:そーだなー、戯言(たわごと)ってやつだ。 明知:馬鹿らしいでしょうが、しっかりとした科学捜査が行えない以上、私たちに出来るのは……荒唐無稽(こうとうむけい)な、探偵ごっこだけです。 金田:分かった事だけを繋ぎ合わせてー、ちぐはぐなピースで、ガタガタの絵を完成させるしかねーんだよ。名探偵でも、何でもねーんだからよー。 祟り婆:……それで、村長を殺したのは、誰なんじゃ? 宇陀:えっ!? ず、ずっと祟りだって言ってたじゃないですか! 多鍋:そうよぉ! どうして今更ぁ……。 祟り婆:……ここまで話を聞いて、落武者様がご自身で奴を殺したとは思えんじゃろう。そやつの言う通り……あるのは、人の業……ということじゃ。 多鍋:そんなぁ……! 宇陀:ま、まだ分からないじゃないですか……! 轟:宇陀さん……ここへ電話した時に、電話に出たのは、どなたで? 宇陀:えっ……そ、それは、多鍋さん……ですけど。 轟:藤村さん、確かですか? 藤村:……えぇ。 多鍋:そうだけどぉ……それがどうしたのよぉ! 明知:……コール音は? 多鍋:えぇ? 明知:藤村さん、電話のコール音は、聞きましたか? 藤村:…………聞いて、ません。 宇陀:……うだぁっ!(小声) 藤村:集会所の厨房で準備してる時……電話のある部屋から戻った多鍋さんから……宇陀さんから電話があったと……聞いた、だけ……です。 金田:宇陀はー、2人とは別行動で……後から来たんだよなー? 宇陀:……う、うだぁ。 金田:じゃあー……お前のアリバイを証明できる奴は……多鍋だけってー、わけだ。 多鍋:え、あ……で、でもぉ、電話はぁ、掛かってきたのよぉ! 明知:しかし、それを証明できるのは、貴方だけだ。 多鍋:そ、それはぁ……そんなぁ……! 藤村:つまり……多鍋さんと宇陀さん、2人が共謀(きょうぼう)して、犯行に及んだ……と、考えているんですか? 多鍋:ち、違うぅ! 宇陀:う、うだぁっ! 轟:うだぁ、言うなよ……。 金田:ぜーんぶ確定じゃねーけどよー。犯行動機、凶器の調達、アリバイ工作……とかとか。それを上手いこと組み合わせてみたらー……そうなるってこった。 宇陀:ぜ、全部、でたらめだ! そ、そんな……テキトーな……上手い話……っ! 多鍋:そうよぉ! そ、それにぃ、凶器の刀なんかぁ、見つかって無いじゃないぃ! 祟り婆:確かに……刀の錆びは上手くやれば取れるのかもしれんが、どうやって寺から盗み出したんじゃ? 保管場所には、鍵が掛けられていたはず。 明知:そうですね。あそこの鍵、建物と比べると比較的綺麗で新しいタイプの物でしたよね。 祟り婆:まあ、そうじゃな。 明知:ということは……ここ数年以内に取り替えていますよね? 祟り婆:そうじゃな……っ! そういうことか! 金田:鍵の新調、取り付けはもちろーん。 明知:宇陀さん。貴方が行いましたね? 宇陀:……あ……うあぁ……あぁあぁ……。 多鍋:ちょっと、宇陀ぁっ! しっかりしなさいよぉ! ……それでもぉ、殺した凶器は出て来てないじゃなぁい! 轟:そうですねぇ……ただ、それは後回しで良いんでさぁ。 多鍋:あ、後回しぃ!? 轟:今の環境じゃあ、これ以上はっきりした確証を得るこたぁ難しい。となりゃあ、後日きちんとした捜査を行うしかねぇ。 明知:明日の迎えが来るまで。私たちは貴方がたを、ここに軟禁(なんきん)し、本島で事情聴取を行わせて頂きます。 多鍋:軟禁っ!? 金田:そーすりゃー、少なくともここにいる奴らは小細工を行えねーしー。無実だってわかりゃー、ごめんなさーいって解放されるってーわけだ。その後は開発だのなんだの、好きにやってくれりゃー良い。 藤村:……何もしていないと言うのなら、多少の不服はあれど、それで納得出来るはず……ですね。 金田:そーそー。堂々としてりゃーいーんだよー。何もしてなきゃ、な。 多鍋:うぅうぅ……まーねー……。 宇陀:うだぁ……。 轟:……おい、先生方よ。 金田:だーから、ちげえーって! 明知:なんですか……。 轟:確定じゃあねぇけどよ。一発決めとこうや。 明知:何をですか? 轟:察しが悪りぃなぁ。おい、金田一(き、ん、だ、い、ち)。 金田:金田(か、な、だ)だっ! うるせーなー! はぁ…………この事件の犯人は、多鍋、宇陀……お前らだ! 藤村:……っ!(そんな……。みたいな感じ) 多鍋:……っ!(くそぅっ! みたいな感じ) 宇陀:……っ!(うだぁっ! みたいな感じ) 祟り婆:……っ!(タタリじゃなかった……。みたいな感じ) 明知:……こういうことね。 轟:かははっ、やっぱり、こうじゃねぇとなぁ! 金田:無駄に探偵ごっこやらすんじゃねーよー。 明知:その割に、楽しそうにしてたじゃないか。 金田:うるせぇ、明智(あけち)。 明知:明知(めいち)だっ! 0:3カウント――― 藤村:明日の11時に……港へ皆さんの迎えが来る予定でしたよね? 轟:そうです。それまで申し訳ないですが、集会所に皆さん居て貰いますし、我々が常に行動を共にします。窮屈(きゅうくつ)でしょうが、ご理解の程、よろしくお願いしやす。 多鍋:ねぇ、これぇ、お風呂も入れないのぉ? 宇陀:……入れる訳ないですよ。 明知:すみませんが、イレギュラーはトイレのみとさせて貰います。 宇陀:うだぁ……。 多鍋:ほらぁ……って、言いなさいよぉ、ちゃんとぉ。 金田:なーんか、暢気(のんき)だなー……本当に犯人じゃない説あるんかー? 轟:金田(かなだ)、明知(めいち)。これから本島に電話しに港へ行ってくるからよ。ここ頼むぞ。 金田:んー? ここの電話使えねーの? 明知:ここの電話は、この島内にしか通じないんだ。本島へは、港にある一部の施設からじゃないと通じないと……研修中にも言ってただろう。 金田:えー? そんな昔の話すんなよー。 轟:1週間も経ってねぇだろうが……とにかく、頼んだぜ。 明知:承知しました。 金田:へーい。 多鍋:はぁ……上手く行かないもんねぇ……人生ってぇ。 明知:それは、自白でしょうか? 多鍋:違うわよぉ……はぁー。 金田:図太(ずぶ)てー……。 藤村:……さすがです、多鍋さん。 多鍋:まーねー。 明知:こんな時にまでやるなよ……。 祟り婆:…………じゃ。(小声) 金田:んー? 婆さん、どしたー? あ……おーい? 祟り婆:……り、じゃ。 宇陀:……うだぁ? 祟り婆:……タ……り、じゃ。 多鍋:えぇ……なにぃ? 祟り婆:……っ、タァータァーリィーっ、じゃあぁぁ! 宇陀:……え、うぐっ……あ、あぁ……うだぁあぁあぁあぁ! 藤村:え……宇陀……さん? 明知:くっ……それは、刀? 金田:婆さんっ……それ、杖じゃねーのかよー! 宇陀:あ、あぁ……血、血ぃがぁ……! 多鍋:い、いぃ、いやぁぁぁぁぁあ! 金田:……っ、明知(めいち)! 確保だ! 明知:っ! はぁぁあっ! 祟り婆:どけぇっ! 明知:うぐぁっ……! 金田:明知(めいち)っ! たくっ、婆さんの蹴りの威力じゃねぇだろーよー! 祟り婆:タァータァー……リじゃぁぁあ! 多鍋:ぎゃあぁぁあ! ……あ、あぁ……る、るーるる……るるる……るーる……るぅ……。 祟り婆:はぁ……はぁ……はぁ……! 金田:おいおい……こりゃ、ドヤされるだけじゃ済まねーぞ……! 藤村:あ……あぁ……ど、どうして……。 祟り婆:……わかったじゃろう……はぁ……はぁ……! 明知:な、なにが……だっ。 祟り婆:これは…………タァータァーリィー、じゃあぁぁぁああ! うぐあっあっ……がっ……はっ……! 金田:婆さんっ、自分の、喉をっ! 藤村:あぁ……うぁぁぁぁぁあ! 明知:どうして、こんな……。 祟り婆:がっ……あっ……たぁ……た……り……じゃ……ぁ。 金田:……なんだ……こりゃあ……。 明知:……げほっ……はぁっ……くそっ! 金田:意味わかんねーよぉー! 0:エピローグ――― 明知:……散々だったな。 金田:……あー。最悪にも、程があったってーのー……はぁ。 明知:……結局、あの後に村長を殺した凶器が見つかって、あの2人による犯行だと分かったから……いや、もう、分かったからといって……何だって言うんだろうな。 金田:知らねーよー……分かってることは、私らが止めなきゃいけなかったのに……何も出来なかったってことだけだ。 明知:……あの見た目から繰り出された蹴りとは思えなかったけどな。 金田:だとしてもだろー。 明知:そうだな……実力不足にも程がある。 轟:……なぁに辛気臭せぇ面してんだよ、若けぇの。 明知:轟さん……。 金田:……柄にも無く、反省してたんですよーだ。 轟:へぇ? そいつぁ、感心なこって。 金田:でーしょー? 明知:……はぁ。 轟:かははっ……あんま思い詰めなさんな。生きてりゃ、どうにもならねぇこたぁ……山ほど出てくらぁ。 明知:……ありがとうございます。 金田:だとしても……今回のはー……んあー……堪えるんすよー。 轟:かははっ、真面目だねぇ……。確かに、中々、歯がゆい結末だったが……あの日言った通り、あっしの監督不足だ。お前らの失態じゃあねぇよ。 明知:……お気持ちは、嬉しいです。 轟:何だそりゃあ。あの時、お前らなりに、ベストを尽くしたんだろ? 手でも抜いたってぇのかい? 金田:……んなわけねーだろーよー。 轟:だろう? んじゃっ、あっしから出る言葉は変わんねぇよ……お前らは、良くやったさ。 明知:……。 金田:……。 轟:かははっ……さて、お前ら、今夜空いてるか? 明知:今夜……はい、特に予定は無いです。 金田:同じくー……なーんだよ、もう新しいヤマでも始まるってかー? 轟:ちげぇよ。お前らの慰労会、し損ねたままだっただろう? 奢ってやるから、明日からスパッと切り替えて、キリキリ働けるよう、リフレッシュと行こうや。 金田:おー! 奢りー! 明知:嬉しいですが……轟さんも、大変だったでしょうに。 轟:こら。あっしのこたぁ、お構い無しだ。それに、上司の誘いを断るってぇのは、逆に失礼だぞ。 金田:うわー、ロキさん、それパワハラってやつだってー。 轟:黙らっしゃい。文句言うなら、奢らねぇぞ。 金田:いえ、文句など有りませーん! であります! 轟:よろしい。じゃっ、また夜に……お疲れさん。 明知:……ありがとうございます、轟さん。お疲れ様です。 金田:おーつかれでーす。 明知:……良い人だな。 金田:……割となー。 明知:ふっ、失礼だぞ。 金田:笑ってんじゃねーかよー。へへっ。 明知:……さて、定時に上がれるよう、雑務を片付けるか。 金田:そーだなー、早くタダ飯食わねーとねー。 明知:君は本当に、言葉に気をつけないと、いつか酷い目にあうぞ? 金田:だとしてもだー。 明知:はぁ? ……駄目だ(だめだ)。意味が分からんぞ。 金田:金田(かなだ)だっ! ……え、今の名前いじりだよな? ……合ってた?(小声) 明知:……合ってる。(小声) 金田:いぇーい。(小声)……じゃないっ、人の名前で遊ぶなーっ!

0:プロローグ――― 轟:よぅし……わかった! 多鍋:え……? 藤村:なんです? 宇陀:わ、わかった、って……? 祟り婆:祟りじゃ……。 轟:犯人は……この中に、いる。 藤村:……っ!(えぇっ! みたいな感じ) 多鍋:……っ!(うそっ! みたいな感じ) 宇陀:……っ!(そんなっ! みたいな感じ) 祟り婆:……っ!(タタリじゃっ! みたいな感じ) 藤村:あ、あなた、何を言ってるのか、わかってるんですか! 多鍋:そ、そうよぉ、あたしらに、そんなこと出来るわけなぁいってぇ! 宇陀:ウチらには、アリバイがあるんですよっ? 何を馬鹿な……。 祟り婆:祟りじゃっ! これは……祟りなのじゃあぁぁ! たーたーりーじゃー! 轟:黙らっしゃいっ! 藤村:……っ。 田辺:……っ。 宇陀:……っ。 祟り婆:……タタリジャッ。(小声) 轟:……祟りなんぞ、存在しない。あるのは、ただ、ひとぉ―――つ。 金田:……はぁ。 明知:……ふぅ。 轟:……人間の、業(ごう)だけだ。 金田:……だー、そうで。 明知:……そうですか。 0:本編――― 金田:まーったく。どーして、実地研修ってーのは、大自然の中で、やらされるんだろーなー。 明知:知らん。だが、今回の研修テーマを思えば、この環境は完璧と言える。 金田:だからってー、マージで孤島に連れて来んなってーのー。 明知:仕方ないだろう。「孤島や隔離環境での警邏(けいら)」が主題の研修なんだ。そっくりそのままの環境があるなら、それに越したことは無い。 金田:だとしてもだー。てか、なーんだよー、その研修……。 明知:まぁ……内容もさることながら、ここまで片道10時間というのは……アホと言う他ないな。 金田:ぐぁー、もー! なーんでフェリーなんだよー! 明知:雑魚寝部屋での移動は……本当に辛かったな。 金田:船酔いもするしよー……最悪だってーのー! 轟:……文句ばっかり垂れなさんな、若けぇの。 明知:……轟(とどろき)さん。 金田:だーってー、ロキさーん。 轟:北欧神話の神さんみてぇに呼ぶんじゃねぇよ。船が合わねぇってのは、どうにもならん。さっぱり諦めて、三半規管(さんはんきかん)でも鍛えな。 金田:いや、なーんでそんな、まどろっこしーことしなきゃなんねーんだよー。 明知:まあ、私たちも、我が署の倹約家たちによる、涙ぐましい努力の賜物(たまもの)だとは、理解しています。 轟:……陰口と嫌味くらい許せってかぃ? 明知:えぇ。是非、寛大(かんだい)に。 轟:かははっ、明知(めいち)は相変わらず、生意気でやがる。 金田:そーですよねー。もーっと私みたーいにー、謙虚になれねーのかねー。 轟:お前さんの、どこら辺が謙虚だってんだ。 金田:うーん、謙虚すぎて言語化できなーい、ってとこかなー。 明知:意味が分からんぞ、アホ田(あほだ)。 金田:金田(かなだ)だっ! ボケ知(ぼけち)! 轟:たくっ……仲良しなのは良いけどよ。これも職務の一環だってこたぁ、忘れちゃなんねぇぞ? 金田:わーってますってー。でもー、もう最終日だしさー。最後くらーい、息抜かせてくれーって感じー。 明知:どちらの言葉にも同感です。恵まれた研修環境だとは思いますが……やはり、慣れない土地に長く居るのは……些か(いささか)疲れました。 轟:かははっ、だらしがねぇ。けど安心しな、ちゃあんとご褒美があるさ。 金田:まーじでー! 轟:応よ。今日の晩飯は、村長さん方が、ご馳走振舞ってくれるってよ。 金田:おー、慰労会(いろうかい)じゃーん! 明知:慰労って程のことはしていないだろ。 金田:だーとしてもだー。 明知:なにがだっ。 轟:何でも良いだろうに……あぁ、そういや慰労じゃ無いが……慰霊祭(いれいさい)ってやつが、もう少し先に行われるらしいなぁ。 明知:慰霊祭……もしかして、落武者の? 金田:落武者ぁー? 轟:そうだ……金田(かなだ)は聞いちゃいなかったな。 明知:地域の人の声を、よく聞くこと……研修で何を学んでたんだ、君は。 金田:うるせー、ばーか。 明知:馬鹿なだ(ばかなだ)。 金田:金田(かなだ)だっ! 轟:村の婆様(ばあさま)が言ってたろう……この島は昔、流刑地(るけいち)だったそうだ。 明知:戦(いくさ)に敗れた(やぶれた)武士たちが、罪人として、この島へ送られて来たそうだ。ここの島に住む人の多くは、流刑(るけい)にあった罪人たちの子孫らしい。 金田:へー。そんな話、聞いーたっけかー……。 轟:おめぇは聞く振りだけは、うめぇからな。 金田:まーねー。 轟:黙らっしゃい。……まぁ、良い。この島に流された、落武者たちの中にゃ、殺された主君の仇(かたき)を取ることを、諦められねぇのが少なくなかったそうだ。 明知:島で生きながら、いつかの為に準備を続けていた。 金田:準備ってーとー……仇討ちの? 明知:そうだ。だが……話は、そう簡単じゃ無かった。 轟:今生きていられんのは、お上(かみ)の慈悲があってこそ……世代が流れて、そう考える奴が増えていた。だから……。 明知:何か起こす前に、同じ島の罪人たちに……殺された。 金田:おーおー、先手必勝ってこったー。やるねー。 轟:そっから、島に疫病(えきびょう)が蔓延(まんえん)したりだとか。まるで斬り殺されたような不審死が起こったりだとか。落武者の祟り……みてぇなことが起きるようになった、って話さ。 金田:祟りねぇー……。 明知:まあ、眉唾物(まゆつばもの)の話ではあるがな。そういうことが起こらないよう、落武者たちを供養(くよう)する意図で始まったのが、その慰霊祭だそうだ。 轟:自分たちで蒔(ま)いた種を、自分たちで刈り取ってりゃ、世話ねぇけどよ。それが今でも、こうして残ってんだから、よっぽど反省したんだろうなぁ。 金田:どーだかー。ただ祭りで騒ぎたーい、だけじゃねーのー? 轟:かははっ、それでも良いんだよ。今を生きてる連中にゃ、関係の無いこった。 明知:……時の流れは、あらゆるモノを摩耗(まもう)させますからね。 金田:……それでも、無くなる訳じゃねーよ。 轟:……かははっ。なんか知らんが、辛気臭せーのは無しにしようや。ほらっ、そろそろ移動だ。 金田:……よっしゃー、打っち上げだー! 明知:はぁ……はしゃぐな、ラクダ(らくだ)。 金田:金田(かなだ)だーっ! 0:3カウント――― 多鍋:い、いやぁぁぁぁあ! あーあーあーあ―――ー! えんだあぁぁぁぁぁ! いやぁぁぁぁぁぁ! あーーあ―――あー! 藤村:なんです、この、歌うような悲鳴のような、怪獣のような叫び声は!  宇陀:う、うるっさぁ……え、あれ……多鍋(たなべ)さん? 藤村:あ、多鍋さんなの……? 人間の声だったの? えっ、こわっ……。 宇陀:さすが多鍋さん……。 藤村:いや、こんな感想を述べている場合だろうか? いやそんな場合ではない! 宇陀:反語(はんご)っ! 藤村:多鍋さんっ、どうしましたかっ!? 多鍋:いぇっ、いぇっ、ふぅっ! らっ、ららーらー! 藤村:ダメだ……完全に盛り上がっている! 宇陀:サビまでに話しかけられなかったか……くそっ! 轟:おやおや、やけに賑やかですね。 藤村:あ、お客さん方、どうも、こんばんは。 宇陀:す、すみませんっ、お迎えに行けず。 轟:いえ、そんな気を遣ってくれんで大丈夫ですよ。それより……彼女は、どうしたんで? 金田:すげーなんかー……なに? 明知:あぁ、あれは……なんだ? わからん。 藤村:いやぁ……彼女。多鍋さんは……何か取り乱したり、興奮したりすると……あぁなってまうんです。あぁやって、落ち着けてるんです、情熱を。 宇陀:さすがですよね……。 金田:なにが? 轟:確かあそこ、村長さんのお宅ですよねぇ……玄関前ですごい、激しく歌……歌って……暴れ、て……踊って、る? 藤村:そうですね。ダンシングオールナイトと言いましょうか。いや、言わない! 宇陀:反語っ? 明知:はんだ? 金田:金田(かなだ)だっ! 明知:えっ、あっ……うん。 轟:ともかく……いったん落ち着けねぇと。 藤村:そうなんですが、いったん、あぁなると……我々にできることは、多鍋さんの歌に酔いしれることくらいなんです。 宇陀:さすがですよね……。 轟:なにが? 金田:おーい……なんかさ、嫌ーな予感すんだけどー。 明知:あぁ……この場に村長さんが居ないってのが、また……いや、やめよう、フラグになる。 金田:もう、おせーってのー……。 多鍋:うぅっ、おれいっ! 藤村:あっ、フィニッシュだっ! 皆さん、拍手を! 宇陀:良かったです!(拍手) 轟:……なんなんでぇ。(拍手) 金田:ぱちぱちぱちぱちー。(拍手) 明知:はぁ……。(拍手) 多鍋:はぁ……はぁ…………はっ!(片腕を掲げて見せる) 宇陀:わあっ!(大きく早い拍手を次の宇陀の台詞まで継続) 藤村:あっ、ファンサですよ、これはっ、良かったですね皆さん! 金田:なんなんだよー、この島こええってー……。 明知:こんなとこだったのか……結構な日数いたんだけどな。 宇陀:さすがです、多鍋さん。 多鍋:まーねー。 明知:おい……。 金田:えーと……。 藤村:いや、違うんです! あの、多鍋 真音(たなべ まね)って、お名前なんです。 明知:だからなんだと言うんだ。 金田:唐突な自己紹介って方が、無理あんだろーよー。 宇陀:ち、違うんです! ここらへんには、多鍋さんって苗字は、クソ多いんですよ! だから、アイデンティティを保つ為、名前で呼べということなんだそうです! ねぇ、多鍋さん! 多鍋:まーねー。 轟:じゃあ、名前で呼んでやれよ……いや、いっかい置いとこう。それで、何があったんで? 多鍋:あ……そ、そうだぁ! お、恐ろしいことがぁ! う、うぅ、うーら、らー、ららーらー! 藤村:多鍋さんっ! 落ち着いて! 無限ループですよ! 宇陀:深呼吸して! すすすすすすははははははー! 多鍋:すすすすすすははははははー、ぐぁっ、げほっ! はぁ、はぁ……深呼吸じゃないよぉ、これぇ。 宇陀:まーねー。 多鍋:ふんぬぅっ! 宇陀:うだぁっ! 藤村:あぁっ! 多鍋さんの右フックが決まりましたよ! 金田:あの人、うぐっ、って表現が、うだぁっ、ってなるんだ……。 藤村:え? まあ、宇陀さんですからね。 金田:なーんで、当たり前でしょ? ってスタンスなんだよー。 明知:名前は大事だからな、それは君が一番知っているだろう。ウガンダ(うがんだ)。 金田:金田(かなだ)だっ! おめーが、一番名前を大事にしろーっ! 轟:お前ら、話が進まねぇから静かにしてろ。それで、多鍋さん、いったい何が? 多鍋:あ、はいぃ……ふぅ……あのぉ……村長さんがぁ……村長、さんがぁ……。 轟:……おい、お前ら。家の中、見てこい。 明知:承知しました。 金田:へーい。 多鍋:う、うらーらー! 轟:もう黙ってていいんで、落ち着いてくれ……。 明知:…………これは。 金田:あーあー……だから言うなっつったろーよー。フラグ回収、早すぎるってーのー。 明知:はぁ……轟さんっ、遺体が有ります。おそらく、これは……殺人事件です。 藤村:そんな……っ。 宇陀:そ、村長が……! 多鍋:……うぅ。 祟り婆:祟りじゃ……。 金田:…………ん? え、誰? 祟り婆:落武者様の! ターターリじゃー! 0:3カウント――― 轟:皆さん、落ち着いて状況を整理しましょう。不幸中の幸い、我々は警察官です。本島の応援が来るまで、皆さんの安全を守りつつ、犯人逮捕へ向けて、情報を集めさせて下さい。 藤村:は、はい。我々に協力出来ることでしたら。 宇陀:で、でも、ウチら、何もやってませんし……何も知らないですよ。 明知:些細な事でも、何か事件に関わっている可能性もあります。そういった小さなことを取りこぼさない為にも、お話を伺えればと思います。 宇陀:まあ……はい。 金田:……でー、あんたはどなたー? 祟り婆:タタリじゃ。 金田:いや、祟りかどうかは置いといてー、お名前はー? 祟り婆:タタリじゃっ。 金田:はー? 婆さん、ボケてんのー? 祟り婆:ターターリーじゃーっ! 金田:だーっ! でけぇ杖、振り回すなー! 藤村:あの……その人は、祟(たたり)さんって名前の方なんですよ。 金田:じゃーそう言えよ! 明知:ずっと言ってたろうが。 金田:わかんねーよー! 轟:すみませんね、ウチの若けぇのが。 祟り婆:ふんっ、アンタら余所者(よそもの)が、どんだけ調べたって変わらんよ。これは、落武者様の祟りじゃ。 轟:……どうして、そうお思いに? 祟り婆:奴は、落武者様の石碑を壊してしもうたんじゃ。 明知:石碑を? 多鍋:あれはぁっ、でもぉ、事故のような物だったでしょぉ。 藤村:そうですよ。それに、慰霊祭が終わった後には、きちんと修復するって……。 祟り婆:そもそも後回しというのがおかしいんじゃっ。そんな罰当たりな事しておいて、慰霊なんぞできる訳なかろう! 藤村:それは…….でも、スケジュールも決まってましたから。 宇陀:い、いや……それでも、どうだろう。村長……あそこに「流し素麺台を建てたい」って言ってたし……元の場所には戻さないつもりだったのかも。 多鍋:そぉんなぁ……じゃあ、仕方ないかぁ。 藤村:多鍋さん、素麺なら無限に食べれますもんね。 宇陀:さすがです。多鍋さん。 多鍋:まーねー。 轟:てぇことは……その石碑を修復せずに、祭りの準備を優先したってのが、気に食わねぇ……いや、失礼。それを良く思わない方も多かった……という事ですか? 祟り婆:それもそうじゃろうが……祟りじゃよ、アレは。 金田:なーんで、そんな祟りにしたがんだよー。 祟り婆:……刀じゃ。 明知:……それは、被害者の死因の話ですか? 祟り婆:違うっ! ……消えたんじゃ。落武者様の刀が。 藤村:えっ! それって、寺にある刀ですか? 祟り婆:そうじゃ。今日、掃除にいった時に見たら無くなっておった……だから、これは、ターターリーじゃー! 轟:祟りかどうかは置いといて、だ。確かに、遺体は刃物でメッタ斬り……みてぇに見えました。刀みてぇなもんがあんなら……そいつが凶器の可能性は、高けぇな。 金田:ただでさえ、盗まれたーってんならー。それがドンピシャな気はすんなー。 藤村:いや! それは……どうでしょう……。 明知:と、いうと? 藤村:あの刀……落武者様の刀は、模造刀とかでは無く、本物なんです。戦国時代からあるとされているんですけど……恐れ多くてか、あまり手入れされてきておらず……錆び(さび)だらけなんですよ。 宇陀:あっ、確かに……形で、何となく刀かな……って感じでしたね。 轟:てぇなると……殺傷能力は無さそうですね。 金田:じゃー、落武者でも無いんじゃねーの? サビサビの刀じゃー、なんも斬れねーだろー。 祟り婆:いや、落武者様の祟りじゃ! サビはきっと……なんかこう……霊的な力で、元の刀に戻して、なんか……えいやぁって、斬ったんじゃろうて! 金田:なーんだよ、霊的な力ってー……んなわけねーだろーよー。 明知:……わかんないじゃん。 金田:……えっ? 多鍋:もし、そんなこと出来るんならぁ……あたしらもぉ……殺されちゃうんじゃあ……。 宇陀:そ、そんなっ! ウチらは何もしてないじゃないですか! 藤村:いや……多鍋さんの懸念も、分かります。我々は、慰霊祭の実行委員……石碑の修復を、後回しにすることに……賛同している。 宇陀:ええっ!? そ、それは、でも……! 祟り婆:……石碑を修復せんとも、ワシらは落武者様を殺した一族の血縁……もう、許してなど貰えんのかも……しれん。あぁっ……ターターリーじゃー! 金田:あーあー……ゆーとりますけど、どーすんで? 轟:ふむ……バナナ(ばなな)。 金田:金田(かなだ)だっ! 轟:本当に、祟りなんてもんがあったとしてよぉ。じゃあ仕方ねぇや、って……警察が、とぼとぼ帰れると思うか? 金田:……へっ。警察がどーとかは、知らねーけどよー。そんなカッコわりーこと、ロキさんにゃ、出来っこねーよー。 轟:かははっ……分かったような口の利き方しやがる。 明知:どうせ、迎えは明日にならないと来ませんから。本島に戻るついでに、犯人も護送(ごそう)すれば、コストも削減出来るかと。 轟:なるほどな……。よぅし……わかった。 金田:へへっ。 明知:……ふっ。 轟:あまり警察を舐めて貰っちゃあ、困る。たとえ犯人が幽霊だろうと……人殺しを捕まえねぇ道理は……ありゃしねぇなぁ? 0:3カウント――― 金田:な―――ーんで、こんな雨降って来たってのにー、石碑の調査させられなきゃなんねーんだよー! 明知:知らん……つべこべ言う暇があったら、何か殺人の証拠を探せ。 金田:つーべも、こーべも、言ってねーってのー! はぁー……土でも掘って、しゃれこーべ、でも、見つけてやろうかー? 明知:これ以上、事件を増やそうとするな。 金田:やんねーよー。出たってどーせ、落武者の骨だろうしー。 明知:……落武者の祟り、なんて本当にあると思うか? 金田:あー? んなもんある訳ねーだろーよー……あー、おめーは、あって欲しいのかも知んねーけど。 明知:べつに……霊現象を肯定している訳じゃない。 金田:どーだかー。 明知:……石碑は、村長が壊した。だが、事故のようなもの。そう言っていたな。 金田:あー、祭りに使う資材置場を、そこら辺にしてたんだってなー。それが連日の雨でー、地盤が緩んで崩れたーって……運が無いねー。 明知:あぁ……それで資材が石碑へ直撃し……見事に真っ二つ。 金田:はっはー、なんちゃらスイッチみたーい。 明知:知らん、そんなスイッチ。 金田:でもよー、それがなーんで村長のせい、みたいに言われてんだよ。 明知:……例年の資材置場は別の所だったらしい。 金田:ほー? 明知:今年、資材置場をここに移動したのは、村長が決めたことだそうだ。 金田:なーんで、移動させたん? 明知:利便性を考えてのようだ。前の場所は、資材を使用する時に、運ぶ手間が少しかかったそうだ。 金田:なーるほどなー……それが、この結果ってかー。かわいそーに。 明知:そうだな……もっと事前に調べていれば、こんなこと起こらなかったんじゃないか、と。非難の声は少なく無かったそうだ。 金田:ひえー、良かれと思ってやったことがー、仇(あだ)となるの、きちー。 明知:何をするにも、事前準備や調査は肝要(かんよう)ということだな。 金田:せーやーなー……ところでさー。 明知:なんだ? 金田:資材がぶち当たったからってよー……こーんな綺麗に真っ二つになるもんかねぇ。 0:3カウント――― 轟:害者(がいしゃ)の損傷を見るに、刀で斬られたって言われりゃあ、それがしっくりくる……だが、肝心の凶器は見当たりゃせん。 祟り婆:そりゃあ、祟りじゃからな。 轟:……頭ごなしに否定したくはないですが、落武者の怨念なんて、信じられりゃしません。とりあえずは、人間による他殺の線で捜査させてくだせぇ。 祟り婆:ふんっ、好きにせぇ……祟りなのにっ! ふんっ! 多鍋:まぁまぁ、落ち着いてぇ。おせんべえ、食べますぅ? 宇陀:ど、どんな状況でも、気遣いできるなんて。さすがです、多鍋さん。 多鍋:まーねー。 轟:名前で呼んでやれよ……それで、皆さん以外の村民の方が、犯行に及んだ可能性は、無いんですかね? 村長に恨みを抱いてる方が居たとか、そういう心当たりは? 藤村:そういう話は、聞いたこと無いですね……それに、我々以外、ここの近くに住んでいません。慰霊祭の準備で、最近何人か来て貰ってますけど、今日は雨予報で休みでしたし……。 轟:てぇなると……あなた方4人が、容疑者として絞られしまいますねぇ。 宇陀:えぇっ! な、なんで、そうなるんですか! あなた達3人も、容疑者でしょ! 轟:かははっ、失敬失敬。こちらも勘定(かんじょう)にいれないと、平等じゃないですねぇ。 藤村:宇陀さん、身元もはっきりしてる警察の方々なんだ。しかも本島のだよ? 冷静に考えて、村長を殺す理由が無いだろう。 宇陀:そ、そんなの、ウチらにだって無いでしょうよ! 藤村:それはそうだが……何もしていないからこそ、堂々としていないと。 宇陀:うぅ……うだぁっ! 轟:くそっ、みたいな表現が、うだぁっ、ってなるんだね、この人。 藤村:え? まあ、宇陀さんですからね。 轟:なんで、当たり前だろ、みてぇな態度なんでぇ……。 多鍋:それにしてもぉ、雨が強くなって来たけどぉ、大丈夫なのかしらぁ、あの2人ぃ。 藤村:そう言えば、まだ戻って来ないですね。 宇陀:も、もしかして……村長を殺したの、実はあの人達で……島から逃げ出したんじゃ……。 轟:おおっと。そういう邪推(じゃすい)は、身内の前で言うもんじゃねぇなぁ? 宇陀:あ、す、すみません。 轟:……いや、申し訳ない。皆さんの不安なお気持ち、重々承知しとります。ですが、奴らも一端(いっぱし)の警察官です。難しいかもしれやせんが、信じて下さると助かります。 藤村:……すみません、轟さん。不愉快な思いをさせてしまいました。 轟:かははっ、お互い様ですよ……奴らはきっと、捜査に興(きょう)がのってるんでしょう。なんせ、署内屈指の……名探偵、ですからねぇ。 宇陀:……名、探偵? 轟:おっと……あー、でも、まぁ良いか。その方が、おもしれぇしなぁ……。 多鍋:警察なのにぃ……探偵なのぉ? 轟:……えぇ、奴ら、名前を……こう、書くんでさぁ。……見覚え、おありでは? 藤村:金田一(きんだいち)……! 宇陀:明智 小五郎(あけち こごろう)……! 多鍋:ってぇ……あの有名なぁっ! 祟り婆:名探偵のっ! 金田:ちっがーーーうっ! 明知:まったくの無名だぁっ! 轟:おう、お帰り。遅かったじゃねぇか。 金田:なーに、いけしゃあしゃあとしやがってんだー! デタラメ広めんじゃねーよ! 轟:何言ってやがんですかぁ。あっしは、字が下手なもんで、少ぉしばかり、読み間違えられちまうことがあるだけでさぁ。 明知:書道、師範代の資格持ってただろ、アンタ! 轟:かははっ、達筆なのも下手なのも、正しく伝わらなけりゃ、同じこった。 金田:真理みてーなこと言いやがってー! わざとやってりゃ世話ねーんだよー! 藤村:あの……金田一(きんだいち)さん、明智(あけち)さん。 金田:金田(かなだ)だっ! 明知:明知(めいち)ですっ! 藤村:石碑を調べていたということですが、何かわかりましたか? 金田:無視だー! いっつものパターンだー! 明知:どうして、名探偵と思い込まれると、誰も話を聞いてくれないんだ! 轟:そこらは良い加減、観念しちまいな。んで、どうだったんで? まさか、サボってた訳じゃあねぇよなぁ? 明知:はぁ……きちんと見てきましたよ。ですが、あまり大した証拠は、見つかりませんでした。 金田:雨降ってるしさー、電灯もろくにねーんだもん。なーにをどう捜査しろってんだっつーのー。 轟:そうかい。そんで、のこのこ帰って来やがったのかい。 金田:うるせー。室内で、ぬくぬくしてたくせによー。 轟:かははっ。まあ、いいや。わかったことを共有しようや。名探偵さん方。 明知:だからっ! 金田:ちげーってーのー! 0:3カウント――― 轟:午後4時過ぎ。多鍋 真音(たなべ まね)さんが、村長の死体を、村長宅の玄関で発見した。 多鍋:まーねー。 明知:その際に上げた悲鳴を聞きつけ、慰労会の準備に来ていた、藤村 海(ふじむら かい)さん。宇陀 雪路(うだ ゆきじ)さん。 藤村:はい。 宇陀:うだぁ。 金田:肯定する時、うだぁって、言ってなかったろーが。 藤村:いや、成長コンテンツなんですよ、宇陀さんは。 金田:意味わかんねーよー! たくっ……んでー、そこに私らがやってきてー、状況を把握。ついでにー、祟りの婆さんも来たー、と。 祟り婆:……刀が盗まれた事を伝えに来たんじゃ……だと言うのに、こんな事態になっておるとは……もう、これは、まさに、なんというか……ターターリーじゃー! 明知:うるさい……。 轟:そんで、お前らに見に行かせたら、村長さんが死んでた、と。 明知:凶器は、おそらく刃物。被害者の遺体には、複数の刺し傷があった。 金田:んでー、現場付近に、それらしい凶器は見つからずー、と。 祟り婆:じゃから、落武者様の祟りじゃて。 金田:だーからー、落武者の幽霊が、盗んだ刀で、ざしゅーっ、てやったにしちゃあ、血が吹き出てねーんだってーのー。 轟:いや、お前……テレビや芝居の見過ぎじゃねぇか? 刀だからって、盛大に血が飛び散るかどうかってのは置いといて、だ。刀にしちゃあ、傷が細かいかもなぁ。 明知:そうですね。ただ……体を貫通している箇所も、ひとつ有りました。 轟:ほぅ……突いたんかねぇ。 明知:床にも傷があったので、正確には断定出来ないですが、刃渡(はわたり)からして……刀のようだとは感じました。 轟:……なるほど、なぁ。だとすりゃあ、お寺さんから盗まれた刀ってぇのが、凶器の可能性は出て来たな。 藤村:でも、お伝えした通り、錆びが酷いんですよ、あれは。 祟り婆:そうじゃな……手入れをするのも、憚(はばか)られたのじゃろ。 金田:ふーん。でもさー、研いだりすりゃー、なんとかなんねーんかね。 多鍋:うぅん、包丁じゃあ無いんだからぁ。素人じゃあ……ねぇ? 宇陀:ん? あ、あぁ、そうですよ。そこらの砥石じゃ、どうしようも無いですよ、あの鯖びは。 金田:……へー。 轟:盗まれた刀ってのは、一本なんで? 祟り婆:寺に保管されていたのは、あの一振り(ひとふり)だけじゃ。 宇陀:……や、やっぱり、落武者の祟りなのかな。 藤村:いや、そんな……でも、私たちは、やっていないし。 多鍋:アリバイもぉ……皆あるわよねぇ……。 祟り婆:てことは……さん、はいっ! 藤村:ターターリーじゃー!(3人一緒に) 宇陀:ターターリーじゃー!(3人一緒に) 多鍋:ターターリーじゃー!(3人一緒に) 金田:うるせーよー! てか、こーの3人のアリバイってなんなんだよー、ロキさん! 轟:轟(とどろき)でい。……発見時、遺体は死後硬直しきっていなかった。だとすりゃ、いったん死亡推定時刻は……。 明知:発見時より、だいたい1、2時間以内。その時間帯に何をしていたか、確認した訳ですね。 轟:そうだ。まあ、確認済みにはなっちまいますが、メモに書き損じが無いかも、確認させて頂ければと思いますんで……。お一人ずつ、もう一度。その時間のアリバイを、お願いできますか? 藤村:はい……自分は、多鍋さんと二人で、皆さんの食事の用意をしていました。といっても、もうその頃は、あらかた調理が済んでいて、食器の配膳や、ちょっとした片付けをしてました。それから事件の30分前くらいに、宇陀さんが集会所に来て、少し話してましたね。 多鍋:あたしもぉ、藤村さんとぉ、同じ感じですぅ。ただぁ、村長が来ないからぁ、宇陀さんが来た後にぃ、呼びに行ったくらいでぇ……そしたらぁ……あんなぁ……あ、んなぁ……う、うららぁぁあー! 宇陀:た、多鍋さんっ、落ち着いて! ほーら、深呼吸ー! 多鍋:すぅー。(下の宇陀のリズムに合わせて吸う) 宇陀:吸っちゃってー吸っちゃってー、もーっと吸っちゃーってー、はいっ! 吸っちゃってー吸っちゃってー、もーっと吸っちゃーってー、はいっ! 多鍋:げほっ、ごぼっ、ぐばっ……はぁっ、はあっ……ふんぬぅっ! 宇陀:うだぁっ! 藤村:おぉ、右ブロー。 金田:ええてー……うだぁ、続けてくれー。 宇陀:うだぁ……う、ウチは、祭りの資材場を移転した関係で、遅れていた作業をしてました。それで、今日の慰労会に参加させて頂く予定だったので、見切りをつけて、集会所へ電話してから、車で来て……藤村さん、多鍋さんと合流しました。 金田:なーんか、ふんわりとしてんなー皆。 藤村:まあ……でも、宇陀さんは電話した後、すぐここへ来ましたし、我々も時間を気にしながら作業してましたから、節目での時間もわかってるんですよ。 轟:そうだ。祟(たたり)さんも、寺の掃除をしていて、刀が盗まれたことに気づき、村長の所に向かっている最中、宇陀さんの車を見てる。 祟り婆:そうじゃな……ふんっ、急いで車なんぞ飛ばしおって、誰も轢いとらんじゃろな? 宇陀:ひ、轢いてませんよ……。 轟:……さて、これが全員のアリバイだ。 金田:ふーん、じゃー、私らのアリバイも、発表しとくかー。 明知:……まあ、その方がフェア、か。 轟:へぇ、いいじゃねぇか。警官っぽいこって。 金田:ばーかにしやがってー。 明知:ではまず、轟さん、お願いします。 轟:おう。あっしは……と言っても、この二人も同じになっちまうが、最後の研修を終えて、片付けした後に、ここへ車で乗り付けて来たって感じに……なっちまいますねぇ。 藤村:……まあ、仕方なくはありますけど、それなら、我々と同じような形ですね。 多鍋:確実にぃ……犯行を行える人はぁ……いないってことぉ? 宇陀:そ、そうですよね……これじゃあ、本当に……。 祟り婆:落武者様の……ターターリー……! 金田:じゃー。 明知:無いな。 祟り婆:……じゃ? 多鍋:なぁい? 藤村:ですって? 宇陀:うだぁ? 轟:よぅし……わかった! 多鍋:え……? 藤村:なんです? 宇陀:わ、わかった、って……? 祟り婆:祟りじゃ……。 轟:犯人は……この中に、いる。 藤村:……っ!(えぇっ! みたいな感じ) 多鍋:……っ!(うそぉっ! みたいな感じ) 宇陀:……っ!(うだぁっ! みたいな感じ) 祟り婆:……っ!(タタリじゃっ! みたいな感じ) 金田:……んでー、冒頭に戻ると。 明知:……無駄に歴史を変えるな。金歯(きんば)。 金田:金田(かなだ)だっ! 0:3カウント――― 藤村:いったい、どういうことなんですか! この中に……犯人がいるだなんて。 多鍋:そぅよぉー! 仮に居たとしてもぉ、目星はちゃんとついてるのぉ? 宇陀:い、今までの話の流れからじゃ、てんで納得できませんよ! 祟り婆:祟りじゃって言ってんのに、マジだりぃー。 明知:どういうキャラなんだ……。 轟:まあまあ。なにも、格好つけたかったから、啖呵(たんか)切ったわけじゃあねぇでさ。 宇陀:あ、当たり前だ! そんな理由で、あんなこと言われたんなら、警察なんてもう信じられないですよ! 金田:そーだそーだー、なまぐさ警官(けいかーん)。 轟:黙らっしゃい。……まあ、すみません。調子は少し、乗らせて頂きやした。 明知:自制して下さいね。あなた、上司なんですから。 轟:ごほんっ、あー……それで、犯人はこの中にいる。その確証に至った理由を……話してやれい。 金田:……ん? 明知:……はい? 藤村:っ! まさか……名探偵のお二人には……! 多鍋:この事件の犯人がぁ……! 宇陀:わ、わかったんですか!? 祟り婆:え、祟りじゃ……? 金田:だーからっ、名探偵じゃーねーってのー! 明知:まったく、何度この扱いを受ければ良いんだっ! 金田:てか、なーんで、私らに振るんだよー! ロキさんが、わかったんじゃーねーんかーい! 轟:いや、まだわかっちゃあいねえよ。 明知:まだってなんだ、まだって。 轟:お前らのアリバイ……もとい、捜査で……これから、わかるんだ。 金田:うがーぎぎぎぎ! 明知:はぁ……。 多鍋:これからぁ……。 藤村:わかる……? 宇陀:い、いったい、どういう……? 祟り婆:あ、祟りだってわかるのかもっ。(小声) 轟:さて、先生方。死体発見後の、ざっと2時間程度。どこで、何をしていた? 金田:はぁー……先生じゃねぇよー。 明知:……随分、回りくどい推理ですね。 轟:かはは、盛り上がるだろう? 金田:私らは、萎えまくりだってーのー。はぁ……しゃーないなー。 明知:あぁ、ごねるのは、時間の無駄だ……では、その2時間。私たちのアリバイ……もとい、捜査結果を、報告させて頂きます。 金田:ご清聴くだせーい。 0:3カウント――― 明知:……どうだ? 金田:んー、へへっ……ここも、鍵かかってねーや。 明知:はぁ……考えられんな。 金田:田舎なんて、こんなもんだよー。島なら尚更なんじゃねー? 明知:人口が少ないとは言え、不用心が過ぎるだろう。 金田:あーだこーだ言っても、説得力ねーよー。不法侵入してんのはこっちだしー。 明知:……まったく、これで何も証拠が無かったら、どうする気だったんだ。 金田:知らねーよー。文句はロキさんに言えってーのー。 明知:はぁ……ここで最後とはいえ、やはり気が引けるな。 金田:なんだよー、紙ペラ一枚、あるか無いか程度の違いだろー? 明知:捜査令状を紙ペラ呼ばわりするな馬鹿。 金田:馬鹿っつった方が、バーカ。 明知:はぁ、それにしても……。ガレージ……と言うより、作業場(さぎょうば)だなここは。 金田:ここら辺で、唯一の板金屋(ばんきんや)っぽいとこらしいからなー。 明知:……にしては、小規模だな。 金田:まー、町の診療所ー、的な立ち位置だろー。出来ないことは、もーっとデカいとこへ、どーぞー、みたいな。 明知:そうか……栄えている港の方には、ここからだと少し遠いからな。 金田:それにー……周りに人があんまりいねー方が、やりやすいことってーのもー……あるみてーだしー? 明知:それは……砥石(といし)か? 金田:そーみてーだなー。鑢(やすり)も転がってんねー。 明知:こういう場所なら珍しくも無いんだろうが……まだ床に少し、削れた錆びが散らばってるな。 金田:こーいうのも調べりゃー、なーんか、わかるんかね? 明知:どうだろうな……だが、ハッタリは、利くかもしれん。 金田:へっへー……悪い奴ー。 明知:それで犯罪者を逮捕できるなら……悪くない。 金田:減っらずぐちぃー。 明知:うるさい……よし、見つけた。 金田:おーおー、ゲームの勇者様みてーだなー、人ん家の戸棚漁ってよー。 明知:さっきからお前もやっていただろうが。それにこれは、必要悪だ。 金田:そーですかー。んでー、まったく同じもん? 明知:あぁ……同じ名刺だ。 金田:ビーンゴー……だな。 0:3カウント――― 宇陀:ひ、他人ん家(ひとんち)に……勝手に入ったんですか!? 金田:人聞きが悪りーなー。あーくーまーでー、捜査の一環(いっかん)だー。 明知:事前告知も同意も無しに、侵入したことは謝罪します。申し訳ありません。 多鍋:ど、どどど、どうしてそんなぁ……! これが警察のやり方かぁー! 藤村:まさか……名探偵だから、許されるんですか!? 轟:そうだ。 金田:そうだ、じゃねーよー! 明知:名探偵でも許されんわ! 轟:細けえこたぁ良いんだよ。続けろ、ボサノバ(ぼさのば)。 金田:金田(かなだ)だっ! 明知:相手にしてるとキリがないぞ、サンバ(さんば)。 金田:金田(かなだ)だっ! 明知:さて……私たちは、落武者の石碑を調べた後、皆さんの家を回り、少し捜査させて頂きました。 祟り婆:……寺もか? 明知:えぇ、そちらもです。 祟り婆:……中に入ったんか? 金田:いんやー、残念ながら、きちーんと施錠されてて、侵入出来ーず。見れるとこだけだったなー。 祟り婆:ふんっ……盗みが入った後で、鍵をかけん馬鹿はおらんわ。 明知:被害に遭わなくとも、家を留守にする際は、施錠をして頂ければと。 金田:そーだぞー、防犯意識ってのが、大事だよなー。 轟:おろそかにすると……今回みたいな事にも、なりますからねぇ。 宇陀:うだぁっ、だからって、許されることじゃ無いでしょ! 多鍋:そ、そぉよぉ! あんたぁ、どうせあたしの下着とか盗んだでしょお! 明知:盗むかっ! 多鍋:盗みなさいよぉ! 藤村:静かにしてくださいっ! それで……そんな泥棒まがいな事をして……何か、わかったんですか? 探偵さん。 金田:探偵じゃねーよー、警察だ。 明知:遺憾ながらな。 金田:……石碑を調べた時に、事故で壊れたにしちゃー、割れ目が少ーし綺麗過ぎんなー、って思ったんだ。 明知:よく見ると、数カ所に小さな窪みがあった。おそらく……確実に石碑を割るために、楔(くさび)のような物を打ち込んだんだろう。 祟り婆:なんじゃと……それじゃあ、落武者様の石碑は、わざと壊されたんか!? 金田:そーなるなー。 藤村:そんなこと……何の為に。 轟:落武者の祟り。害者の死を、亡霊の仕業(しわざ)に見せかける為……でしょうや。 明知:この島には、落武者の祟りを信じ、恐れる方は多いですから。上手く行けば……祟りとして処理され、外部へ漏れずに済む。 宇陀:そ、そんな、都合良く行くわけ……。 轟:そうですよね。警察が研修で来ているのを知りながら、祟りに見せかけた殺人をやらかすなんざぁ……とんだ博打(ばくち)だ。 多鍋:普通ぅ……そんなことぉ、出来ないわよぉ。 金田:そーだなー。だから私らも、まだ祟りの可能性もあるー、つって、捜査範囲を広げた。 藤村:それで、不法侵入をした、と? 金田:した。まず、寺。 祟り婆:タタリじゃっ。 金田:多鍋。 多鍋:まーねー。 金田:宇陀。 宇陀:うだぁ……。 金田:藤村。 藤村:……。 金田:……え、なんかー、藤村は、その……鳴き声? みたいなの、無いの? 藤村:……無いんです。 金田:最初、反語とか言ってなかったかー? 藤村:いや……なんか、違うじゃないですか、あれは。 金田:まーねー。 多鍋:はい、でたぁー! すぐ面白いネタパクる奴ぅー! 明知:お願いだから、やめてくれ。色々、怖いから。 轟:話を戻してくれい。 明知:はい……順番に、捜査した結果を話すと。まず寺では、特に証拠のような物は発見出来ませんでした。鍵が掛けられていましたしね。 金田:たーだ、証拠が無いっていう証拠は見つかった……って言えるかもなー。 藤村:証拠が無いのに、証拠があると言えるだろうか? いや、言えない! 宇陀:反語っ! 金田:……良かったね。 藤村:……続けて下さい。 多鍋:結局ぅ、どういう意味なのぉ? 明知:誰かが盗みに入る為に、鍵や何かを壊したりなど、侵入した分かりやすい形跡が無かった。単に、その事実が分かった、というだけです。 宇陀:な、なんだ……何も分からなかったってことじゃないですか。 祟り婆:いや、落武者様が霊体を活かして持ち出した線が濃厚になったということじゃ。 轟:違いますね。 祟り婆:違わないもん! 轟:いや……幽霊なら壁や扉をすり抜けられるってぇ見解も出来ますが、あくまでも、人間の仕業と考えてますんで……。 多鍋:つまりぃ、その場合だとぉ……? 金田:鍵を壊したり、無理矢理侵入する必要が無かったー……ってこたぁー、鍵を持ってたんじゃねーのー? 宇陀:……えぇっ!? 多鍋:そ、それじゃあ、祟(たたり)さんの自演になっちゃうじゃない! 明知:確かにその可能性は高いです。 金田:頑なに祟りにしたがってるしなー。 祟り婆:わしじゃないよっ。落武者様の祟りだよっ。 轟:まあ、何にせよ。いったん、次の捜査結果を話して貰いましょうや。せっかく先生方が調べて下さったんですから、ねぇ? 金田:先生じゃねぇっ! もう悪意しか感じねーなー! 明知:……まあ、小出しにしても仕方ないので、残りはまとめてお話しします。 金田:そーだなー。大した捜査結果じゃねーしー。 明知:先に言っておきますが、皆さんの家を空き巣の如く、荒らした訳では無いです。あくまで捜査として、目に付いた所を少し見させて頂いただけです。動かした物は、極力元に戻してあります。 宇陀:そ、そんなこと言われても、訴えればこちらが勝てますからね! 多鍋:そうよぉ! あたしの全てを、いやらしい目で見たんでしょお! 明知:無理です。 多鍋:無理って何ぃ? 金田:だーいじょうぶだよー。本当、大して見て無い。だから、大した証拠も見つかってーない。 藤村:……それは、小さな証拠は、見つかったって、ことですか? 金田:おーおー、察しが良いねー。その通り。 宇陀:……いったい、何を、見つけたんですか? 多鍋:ねぇ、無理って何ぃ? 明知:無理ってこと。 金田:宇陀さー。家に色々仕事道具あったよなー? 宇陀:え、は、はい。 金田:見ても詳しく分かんなかったけどよー。金属とか、そーいうの加工したり、修理したりしてんだろーなー。 宇陀:えぇ……ちょっとした金物の修繕とか、村の建物とかの軽い補修とかも、やってます。 金田:あと……錆びついた刃物の研磨(けんま)……とかもだろ? 宇陀:……っ! 明知:直近でも、そういったお仕事をされていたようでしたね。床に少し散らばってましたよ、取った錆びが。 宇陀:い、いや、まあ……。 祟り婆:宇陀……まさか、刀を盗みおったのは……! 宇陀:ち、違うっ、違いますよっ! 包丁とか金物の錆び取りを受けることはありますよ! ただ、ろくに掃除してないから……床に落ちたままになってるだけです! 多鍋:そ、そうよぉ、宇陀さんが人殺しなんてぇ……そうだぁ、ちょっと前にぃ、あたしがずっと使ってなかった包丁の錆び取りして貰ったからぁ、それじゃない? 宇陀:え、あ、た、確かに! それですよきっと! 明知:そうかもしれません。けれど……そうじゃ無い、かもしれない。 多鍋:ちょ、ちょっとぉ、あたしが嘘ついてるって言うのぉ!? 轟:果たして、どこが嘘なのか、って話しになっちまいそうだなぁ、こりゃ。ただ、まだ証拠としては弱過ぎる。 金田:そもそも、仮説みたいな証拠しか見つかってねーんだよー。 明知:……ですから、皆さんに、ひとつお聞きして良いでしょうか? 宇陀:な、なんですか? 明知:四方山(よもやま)さん、という方をご存知ですか? 宇陀:……っ! 多鍋:……っ! 藤村:……っ! 祟り婆:……ダレジャッ!(小声) 金田:あれー? 知ってる反応だなー……てか、知ってるわなー、名刺持ってんだし。 明知:とある商社系列の方みたいですね。どんな接点があるのか、不思議でしたが……藤村さん、貴方の家で、ちょっとした資料を見つけました。 藤村:……でしょうね。今朝、ちょうど目を通して、テーブルに置いたままでしたから。 多鍋:……そ、そんなぁっ! 不用心よぉ! 宇陀:あ、あぁ……うだぁっ! 轟:おやおや……御三方(おさんかた)の取り乱し方を見るに……そりゃあ「大した証拠」なんじゃねぇんかい? 金田:パッと見じゃ関係性がわかんねーよー……この島のリゾート開発についての企画書なんて、なぁ? 明知:祟(たたり)さんは、この事を知っていましたか? 祟り婆:そんな罰当たりなこと……初耳じゃ。 明知:つまり、この事を知っているのは……藤村さん、多鍋さん、宇陀さん……そして、村長の4人ということですね。 金田:村長は……反対だったみてーだけどなー。 轟:ほう……ここら辺から砂浜まで、観光資源とする為に……なるほど、随分とデカい開発計画みてぇだ。 明知:計画の範囲には、落武者の無念塚(むねんづか)や石碑などが含まれている。それらの場所を移すことも、考慮されていたみたいですが……。 金田:祟りにビビる村長はー、首を縦に振らなかったー、って感じかねー……そこら辺、どーなん? 藤村:……おっしゃる通り、村長はその計画に反対していました。落武者様の祟りは、もちろんですが、この島の自然が、少なからず破壊されてしまうのを嫌っての事です。 祟り婆:当たり前じゃ! 塚も石碑も……荒らす事なぞ、許されん! 藤村:そうですね……なので残念ですが、この話は白紙となりました。 金田:ふーん、「残念」なんだなー? 藤村:……計画の内容が改善出来るなら、この島の為になる話だと思いましたから。そういう意味で、少々残念に思いましたよ。 多鍋:そぉよねぇ……いつまでもこのままだとぉ、人口も増えないしぃ……島に残ろうと思う人もぉ、居なくなっていくでしょうしねぇ……。 宇陀:イ、インフラだって、もう少し良くなっただろうし……残念ですよ。 轟:だから……殺した? 宇陀:……なっ!? 多鍋:やめてよぉ! そんな訳ぇ……! 轟:決定権が誰にあるか、あっしには、わかりやせん。けれど……その話を知っている中で、村長だけが反対していたとすりゃあ……。 藤村:村長が死ねば、計画を進められる、と? 轟:……考える事は、出来ます。 藤村:……そんな短絡的な事、したってしょうがないでしょう? 村長は、ここら辺の地主です。我々の所有する土地も少しあって、計画の範囲に含まれてましたが、大部分は村長の物。村長が死んだからと言って、我々が村長の土地を好きに出来る訳じゃない。 明知:村長さんに、他のご家族などは? 多鍋:息子さんがぁ、本島に居るってぇ、聞いてますぅ。 金田:じゃー、順当に行きゃあ、そいつが相続するんかねー。 宇陀:そ、そうなると思いますけど。 金田:なるほどねー……そいつを説得出来りゃー、万事丸く収まるってーこった。 藤村:……それは、こじ付けでは? 金田:そーだなー、戯言(たわごと)ってやつだ。 明知:馬鹿らしいでしょうが、しっかりとした科学捜査が行えない以上、私たちに出来るのは……荒唐無稽(こうとうむけい)な、探偵ごっこだけです。 金田:分かった事だけを繋ぎ合わせてー、ちぐはぐなピースで、ガタガタの絵を完成させるしかねーんだよ。名探偵でも、何でもねーんだからよー。 祟り婆:……それで、村長を殺したのは、誰なんじゃ? 宇陀:えっ!? ず、ずっと祟りだって言ってたじゃないですか! 多鍋:そうよぉ! どうして今更ぁ……。 祟り婆:……ここまで話を聞いて、落武者様がご自身で奴を殺したとは思えんじゃろう。そやつの言う通り……あるのは、人の業……ということじゃ。 多鍋:そんなぁ……! 宇陀:ま、まだ分からないじゃないですか……! 轟:宇陀さん……ここへ電話した時に、電話に出たのは、どなたで? 宇陀:えっ……そ、それは、多鍋さん……ですけど。 轟:藤村さん、確かですか? 藤村:……えぇ。 多鍋:そうだけどぉ……それがどうしたのよぉ! 明知:……コール音は? 多鍋:えぇ? 明知:藤村さん、電話のコール音は、聞きましたか? 藤村:…………聞いて、ません。 宇陀:……うだぁっ!(小声) 藤村:集会所の厨房で準備してる時……電話のある部屋から戻った多鍋さんから……宇陀さんから電話があったと……聞いた、だけ……です。 金田:宇陀はー、2人とは別行動で……後から来たんだよなー? 宇陀:……う、うだぁ。 金田:じゃあー……お前のアリバイを証明できる奴は……多鍋だけってー、わけだ。 多鍋:え、あ……で、でもぉ、電話はぁ、掛かってきたのよぉ! 明知:しかし、それを証明できるのは、貴方だけだ。 多鍋:そ、それはぁ……そんなぁ……! 藤村:つまり……多鍋さんと宇陀さん、2人が共謀(きょうぼう)して、犯行に及んだ……と、考えているんですか? 多鍋:ち、違うぅ! 宇陀:う、うだぁっ! 轟:うだぁ、言うなよ……。 金田:ぜーんぶ確定じゃねーけどよー。犯行動機、凶器の調達、アリバイ工作……とかとか。それを上手いこと組み合わせてみたらー……そうなるってこった。 宇陀:ぜ、全部、でたらめだ! そ、そんな……テキトーな……上手い話……っ! 多鍋:そうよぉ! そ、それにぃ、凶器の刀なんかぁ、見つかって無いじゃないぃ! 祟り婆:確かに……刀の錆びは上手くやれば取れるのかもしれんが、どうやって寺から盗み出したんじゃ? 保管場所には、鍵が掛けられていたはず。 明知:そうですね。あそこの鍵、建物と比べると比較的綺麗で新しいタイプの物でしたよね。 祟り婆:まあ、そうじゃな。 明知:ということは……ここ数年以内に取り替えていますよね? 祟り婆:そうじゃな……っ! そういうことか! 金田:鍵の新調、取り付けはもちろーん。 明知:宇陀さん。貴方が行いましたね? 宇陀:……あ……うあぁ……あぁあぁ……。 多鍋:ちょっと、宇陀ぁっ! しっかりしなさいよぉ! ……それでもぉ、殺した凶器は出て来てないじゃなぁい! 轟:そうですねぇ……ただ、それは後回しで良いんでさぁ。 多鍋:あ、後回しぃ!? 轟:今の環境じゃあ、これ以上はっきりした確証を得るこたぁ難しい。となりゃあ、後日きちんとした捜査を行うしかねぇ。 明知:明日の迎えが来るまで。私たちは貴方がたを、ここに軟禁(なんきん)し、本島で事情聴取を行わせて頂きます。 多鍋:軟禁っ!? 金田:そーすりゃー、少なくともここにいる奴らは小細工を行えねーしー。無実だってわかりゃー、ごめんなさーいって解放されるってーわけだ。その後は開発だのなんだの、好きにやってくれりゃー良い。 藤村:……何もしていないと言うのなら、多少の不服はあれど、それで納得出来るはず……ですね。 金田:そーそー。堂々としてりゃーいーんだよー。何もしてなきゃ、な。 多鍋:うぅうぅ……まーねー……。 宇陀:うだぁ……。 轟:……おい、先生方よ。 金田:だーから、ちげえーって! 明知:なんですか……。 轟:確定じゃあねぇけどよ。一発決めとこうや。 明知:何をですか? 轟:察しが悪りぃなぁ。おい、金田一(き、ん、だ、い、ち)。 金田:金田(か、な、だ)だっ! うるせーなー! はぁ…………この事件の犯人は、多鍋、宇陀……お前らだ! 藤村:……っ!(そんな……。みたいな感じ) 多鍋:……っ!(くそぅっ! みたいな感じ) 宇陀:……っ!(うだぁっ! みたいな感じ) 祟り婆:……っ!(タタリじゃなかった……。みたいな感じ) 明知:……こういうことね。 轟:かははっ、やっぱり、こうじゃねぇとなぁ! 金田:無駄に探偵ごっこやらすんじゃねーよー。 明知:その割に、楽しそうにしてたじゃないか。 金田:うるせぇ、明智(あけち)。 明知:明知(めいち)だっ! 0:3カウント――― 藤村:明日の11時に……港へ皆さんの迎えが来る予定でしたよね? 轟:そうです。それまで申し訳ないですが、集会所に皆さん居て貰いますし、我々が常に行動を共にします。窮屈(きゅうくつ)でしょうが、ご理解の程、よろしくお願いしやす。 多鍋:ねぇ、これぇ、お風呂も入れないのぉ? 宇陀:……入れる訳ないですよ。 明知:すみませんが、イレギュラーはトイレのみとさせて貰います。 宇陀:うだぁ……。 多鍋:ほらぁ……って、言いなさいよぉ、ちゃんとぉ。 金田:なーんか、暢気(のんき)だなー……本当に犯人じゃない説あるんかー? 轟:金田(かなだ)、明知(めいち)。これから本島に電話しに港へ行ってくるからよ。ここ頼むぞ。 金田:んー? ここの電話使えねーの? 明知:ここの電話は、この島内にしか通じないんだ。本島へは、港にある一部の施設からじゃないと通じないと……研修中にも言ってただろう。 金田:えー? そんな昔の話すんなよー。 轟:1週間も経ってねぇだろうが……とにかく、頼んだぜ。 明知:承知しました。 金田:へーい。 多鍋:はぁ……上手く行かないもんねぇ……人生ってぇ。 明知:それは、自白でしょうか? 多鍋:違うわよぉ……はぁー。 金田:図太(ずぶ)てー……。 藤村:……さすがです、多鍋さん。 多鍋:まーねー。 明知:こんな時にまでやるなよ……。 祟り婆:…………じゃ。(小声) 金田:んー? 婆さん、どしたー? あ……おーい? 祟り婆:……り、じゃ。 宇陀:……うだぁ? 祟り婆:……タ……り、じゃ。 多鍋:えぇ……なにぃ? 祟り婆:……っ、タァータァーリィーっ、じゃあぁぁ! 宇陀:……え、うぐっ……あ、あぁ……うだぁあぁあぁあぁ! 藤村:え……宇陀……さん? 明知:くっ……それは、刀? 金田:婆さんっ……それ、杖じゃねーのかよー! 宇陀:あ、あぁ……血、血ぃがぁ……! 多鍋:い、いぃ、いやぁぁぁぁぁあ! 金田:……っ、明知(めいち)! 確保だ! 明知:っ! はぁぁあっ! 祟り婆:どけぇっ! 明知:うぐぁっ……! 金田:明知(めいち)っ! たくっ、婆さんの蹴りの威力じゃねぇだろーよー! 祟り婆:タァータァー……リじゃぁぁあ! 多鍋:ぎゃあぁぁあ! ……あ、あぁ……る、るーるる……るるる……るーる……るぅ……。 祟り婆:はぁ……はぁ……はぁ……! 金田:おいおい……こりゃ、ドヤされるだけじゃ済まねーぞ……! 藤村:あ……あぁ……ど、どうして……。 祟り婆:……わかったじゃろう……はぁ……はぁ……! 明知:な、なにが……だっ。 祟り婆:これは…………タァータァーリィー、じゃあぁぁぁああ! うぐあっあっ……がっ……はっ……! 金田:婆さんっ、自分の、喉をっ! 藤村:あぁ……うぁぁぁぁぁあ! 明知:どうして、こんな……。 祟り婆:がっ……あっ……たぁ……た……り……じゃ……ぁ。 金田:……なんだ……こりゃあ……。 明知:……げほっ……はぁっ……くそっ! 金田:意味わかんねーよぉー! 0:エピローグ――― 明知:……散々だったな。 金田:……あー。最悪にも、程があったってーのー……はぁ。 明知:……結局、あの後に村長を殺した凶器が見つかって、あの2人による犯行だと分かったから……いや、もう、分かったからといって……何だって言うんだろうな。 金田:知らねーよー……分かってることは、私らが止めなきゃいけなかったのに……何も出来なかったってことだけだ。 明知:……あの見た目から繰り出された蹴りとは思えなかったけどな。 金田:だとしてもだろー。 明知:そうだな……実力不足にも程がある。 轟:……なぁに辛気臭せぇ面してんだよ、若けぇの。 明知:轟さん……。 金田:……柄にも無く、反省してたんですよーだ。 轟:へぇ? そいつぁ、感心なこって。 金田:でーしょー? 明知:……はぁ。 轟:かははっ……あんま思い詰めなさんな。生きてりゃ、どうにもならねぇこたぁ……山ほど出てくらぁ。 明知:……ありがとうございます。 金田:だとしても……今回のはー……んあー……堪えるんすよー。 轟:かははっ、真面目だねぇ……。確かに、中々、歯がゆい結末だったが……あの日言った通り、あっしの監督不足だ。お前らの失態じゃあねぇよ。 明知:……お気持ちは、嬉しいです。 轟:何だそりゃあ。あの時、お前らなりに、ベストを尽くしたんだろ? 手でも抜いたってぇのかい? 金田:……んなわけねーだろーよー。 轟:だろう? んじゃっ、あっしから出る言葉は変わんねぇよ……お前らは、良くやったさ。 明知:……。 金田:……。 轟:かははっ……さて、お前ら、今夜空いてるか? 明知:今夜……はい、特に予定は無いです。 金田:同じくー……なーんだよ、もう新しいヤマでも始まるってかー? 轟:ちげぇよ。お前らの慰労会、し損ねたままだっただろう? 奢ってやるから、明日からスパッと切り替えて、キリキリ働けるよう、リフレッシュと行こうや。 金田:おー! 奢りー! 明知:嬉しいですが……轟さんも、大変だったでしょうに。 轟:こら。あっしのこたぁ、お構い無しだ。それに、上司の誘いを断るってぇのは、逆に失礼だぞ。 金田:うわー、ロキさん、それパワハラってやつだってー。 轟:黙らっしゃい。文句言うなら、奢らねぇぞ。 金田:いえ、文句など有りませーん! であります! 轟:よろしい。じゃっ、また夜に……お疲れさん。 明知:……ありがとうございます、轟さん。お疲れ様です。 金田:おーつかれでーす。 明知:……良い人だな。 金田:……割となー。 明知:ふっ、失礼だぞ。 金田:笑ってんじゃねーかよー。へへっ。 明知:……さて、定時に上がれるよう、雑務を片付けるか。 金田:そーだなー、早くタダ飯食わねーとねー。 明知:君は本当に、言葉に気をつけないと、いつか酷い目にあうぞ? 金田:だとしてもだー。 明知:はぁ? ……駄目だ(だめだ)。意味が分からんぞ。 金田:金田(かなだ)だっ! ……え、今の名前いじりだよな? ……合ってた?(小声) 明知:……合ってる。(小声) 金田:いぇーい。(小声)……じゃないっ、人の名前で遊ぶなーっ!