台本概要

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タイトル 降りやまない雨の唄(バラッド) 【1:1:0】 ~法外宙域ローヴァーゲイル #5
作者名 ろくしょうるり  (@ruri6syo)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 人類の惑星間移民が始まって200。
母星地球を中心に惑星間物流も活発に行われるようになり、多くの『宙運船』が行き交う宇宙。
そんな宙運航路と積み荷の安全を守る、宙運私警団、人呼んで『アブサード』

タイトルは 「ふりやまない あめのばらっど」 とお読みください

-バラッド-
口伝えで伝承されていく唄のこと


このシナリオはシリーズシナリオですが、どのシナリオからも読むことができます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
リリ 110 10歳少女。 暗い過去を持つが記憶は失われている。 トラのぬいぐるみを抱いている。
ロジー 112 26歳男性。 滅ぼされた宇宙キャラバン「ローヴァーゲイル・キャラバン・ファミリー」の生き残り
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:このシナリオはシリーズシナリオですが、どこからでも読むことができます。 0:ピースを集めるように、物語を楽しんでいただけたら、嬉しく思います。  :   :登場人物 リリ:ヤマモト・リリ。10歳。呪われた少女。ロジーのチームに配属された宙運私警の調査員見習い。  :  ロジー:ロジー・ガーウィン。25歳。宙運私警で宇宙船AIのフウガと組んで調査員をしている。  :  0:~ 法外宙域ローヴァーゲイル 降りやまない雨の唄(バラッド) ~  :   :  リリ:8さいのとき。気がついたらびょういんにいた。 リリ:その前のことは、なにもしらない。 リリ:言えるのは、いくつかのなまえだけ。 リリ:リリ。…ヤマモト・リリ。わたしのなまえ。 リリ:…トラウィス。わたしのともだち。とらのぬいぐるみ。 リリ:体にきざまれた、消えないきず。『ローヴァーゲイルは、死ね』 リリ:知らないなまえ。だれがかいたのかも、しらない。 リリ:でも、わたしのせなかには、『ローヴァーゲイルは、死ね』 リリ:そう、のろいがこめられている。  :   :  ロジー:セカンドフロンティア・エルーシオ。 ロジー:厚い雲に覆われたその惑星は、ほとんど常に雨が降る。 ロジー:スペース・キャラバンで生まれた子供は、地上の雨を不思議に思う。 ロジー:水が空からおちてくる。 ロジー:サアア、という静かな音。 ロジー:優しい音だ、と本能が感じる。 ロジー:弟分のケントレットも、幼いナユも、雨に打たれてはしゃいでいたあの日。 ロジー:おれも心地よい雨に濡れながら、二人を見守っていた。  :   :  リリ:法外宙域ローヴァーゲイル ロジー:『降りやまない雨の唄(バラッド)』  : リリ:ほら、トラちゃん、そろそろ成層圏をぬけるよ。  ロジー:リリ、本当にいつもそのトラのぬいぐるみチャンと一緒だな。 リリ:うん。トラちゃん、おいていけない。大事なともだち、だから。 ロジー:それにしても、別についてこなくてよかったんだぞ?今回は仕事じゃないんだし。 リリ:ううん、べつにやりたいこともないし、ちょっと来てみたかった。ほかのフロンティア・スペース。 ロジー:そうか。リリはファースト・フロンティア以外は初めてか。 リリ:うん。 ロジー:セカンド・フロンティア・エルーシオ。3つの衛星があるバイオスフィア惑星だ。地球やエデンより少し大きくてGも強いから、体が重いぞ。 リリ:そっか。それでこの船、疑似グラビティがだんだん強くなってってたんだね。 ロジー:お、よく気がついたな。体を徐々に慣らすように、目的地のGに合わせてグラデーションしていくのさ。 ロジー:着陸までにもうちょっと上がるぞ。地上は1.28Gだ。たった0.28と思うかもしれないが、体重約3割増しだからな? リリ:ふぅん?じゃあ、体が大きいロジーのほうが、たいへんだね。ここでうんどうしたら、ちょっとやせるよ?おなかのにく。 ロジー:そんなにないっての。これでも毎日鍛えてるんだぞ。腹筋割れてるんだからな?少しだけだけども。 ロジー:というか、お前はちゃんと飯食べろ。大きくなれないぞ?だいたい、いつどこで食べてるんだか。 リリ:わ、トラちゃんみてみて!雲がいっぱい。あっ、雨がふってる。ひさしぶり。 ロジー:ここんとこずっと小惑星基地内か宇宙船だもんなあ。この星はな、大体降ってる。一応普通に真水の雨だが、傘買うか? リリ:(嬉しそうに)ううん、いらない。雨にふられて歩きたい。 ロジー:だよな。おれもだ。 ロジー:(以降独白) ロジー:たったの10歳で宙運連合私警団に入ってきた少女。リリ。 ロジー:実年齢よりずっと幼い見た目で、幼い見た目と実年齢よりずっと聡明で、感情を表に出すことはめったにない。 ロジー:おれのチームに入ってから、普通の子供なら泣いて暴れまわりそうな目に遭ったことなど一度や二度じゃないが、怯えたり泣いたりしたことは、まだない。 ロジー:もらった資料によれば、ただならぬ状況を経験し、今ここにいるらしいから、そのせいなのだろう。 ロジー:が、今宇宙船の窓に当たる雨粒に目を輝かせている横顔は、珍しく年相応に見える。 ロジー:その顔が、あの日のナユの横顔を思い出させる。  :  リリ:ロジー、なんかにやにやしてる… ロジー:いや、楽しそうだなーと思って。 リリ:…おか、しい? ロジー:いいや?珍しく10歳らしくて安心してる。  :   :  リリ:んんー!旅客船(りょかくせん)のいす、ちょうどよくふわふわでのりごこちがよかった! ロジー:おいおい、フウガには言うなよ?あいつ結構負けず嫌いだからな。 リリ:フウガののりごこちも、すきだよ? ロジー:まあな、椅子の座り心地以外は俺たちの船が勝ってる…って、うわぁー、思ったより土砂降りだな、こりゃ。 リリ:そうだね。でも、ロジー、お花なんか買って、どこいくの?もしかして、わたし、いっしょじゃないほうがいいところ? ロジー:んあ? リリ:・・・・・・・・ ロジー:(苦笑)なんだよ、そんな目で見るなって。ただの墓参りだよ。 リリ:おはか・・・・ ロジー:そうそう。この時期にはな、いつも来るんだ。 リリ:…わたし、どっかでまってる。 ロジー:待て待て。どこにも行くな。ついでだから一緒に来い。 リリ:しらないひとのおはか、ついてってもしょうがない… ロジー:そう言うなって。今じゃお前も一応おれの家族だからな。 リリ:・・・・・かぞく…? ロジー:ああ。宙(そら)で生きる奴らは、同じ船に乗ってりゃあ、みんな家族なのさ。 ロジー:ほら、あんまり降ってるから、頭からこれでもかぶってろ。おれの上着だけども。 リリ:あう。いいよ… ロジー:トラちゃんも濡れちゃうだろ。 リリ:そで、下についてる… ロジー:はははっ、それはお前がちびっこすぎるからだろ。気にしてくれるならちゃんと飯食って早く育て。  ロジー:ほら、こうやって首元で縛っときゃちょうどいいだろ。 リリ:・・・・・・・・・ リリ:・・・へんなにおい、する… ロジー:そいつは、悪かったな。  :  : リリ:雨、すごい、おっきなみずたまりいっぱい。ばしゃっ、ばしゃっ、うふふ ロジー:本当、子供は水たまり好きだよな。ほら、もう少し。あのちょっとした丘の上に、大きな石碑が建ってるだろ。東屋がそばにある。 リリ:あれが、おはか?きねんひみたい。 ロジー:ああ、そうだな。お墓、じゃないな。慰霊碑だ。 リリ:いれいひ? ロジー:この、セカンド・フロンティアの宙(そら)で散った者の、な。 リリ:…そっか。 リリ:・・・・・・ロジーの「かぞく」…も? ロジー:…ああ。  :  リリ:ああ…ロジーのうわぎ、びしょびしょになっちゃった。でも、気持ちよかったね。 ロジー:あーあー、ずぶ濡れだなあ。屋根の下なら、脱いでていいぞ。そのへんに引っかけといてくれ。 リリ:ウン…ありがと…ロジーもびしょくた。 ロジー:ははっ、いいなあ雨は。ここに来ると楽しい気持ちになるな。雨のおかげで花も元気だ。 …よっ、と。ふう。 リリ:いれいひ…いっぱい名前がほってある。みんな、みんな宙で…いなくなったんだね。…お花でいっぱい。きれい。だけど、さびしい。 ロジー:そうだな、襲撃、事故、いろいろある。減ることはないから仕方ないが、来るたびに増えるな。名前。 リリ:減ることは、ない・・・・・・そうだね。 ロジー:へへ。今年もまた来たよ、ウードのおやっさん。おかげさんで、まだ生きてる。 リリ:・・・・・ ロジー:ケントレット、ナユ・・・・みんな。 リリ:・・・・・・ ロジー:こいつは、リリ。ついこないだ、おれの家族になった。 リリ:・・・・・かぞく… ロジー:宙運私警団で、おれのチームに入ったのさ。ナユと同じくらいに見えるが、どっこい、なかなかの… リリ:・かぞく…じゃ…ない… ロジー:ん? リリ:わたし、ロジーとかぞくしゃない。かぞくなんて、リリにはいらない… ロジー:…リリ リリ:わたし、ひとりで、いいの。 リリ:わたしは、みんなといられない。さわれないし、いっしょにごはんもたべられない。 リリ:みんなとなかよくできない。なかよくしない、なかよくない…ほうが…いい。 ロジー:ふぅん(ため息)…リリ、家族、嫌いか? リリ:ううん、きらいじゃ、ない。 ロジー:なら リリ:でも…かぞくは、わたしを…きらい。だから。 リリ:ロジーのかぞくは、いいかぞく。でも、いろんな、かぞくが・・・・いる。 ロジー:・・・・・ ロジー:そうだな、確かに、いろんな家族がいるな。 ロジー:じゃあ、リリ。リリはどうなんだ? リリ:わた、し? ロジー:お前にも、いつか必ず「家族」ができる。それも、そう遠くない未来だ。 ロジー:お前がいくら一人がよくても、必ず誰かと組むときが来る。おれのとこに、リリが来たように。 ロジー:その時、お前はどうする?どんな「家族」にしたい? リリ:…それは… ロジー:今おれに言ったように、そいつを突っぱねて、遠ざけるのか? リリ:・・・・・ ロジー:今のお前にとって、家族ってのは保護者、親、そういう関係かもしれない。まだ子供だし、兄弟もないし。 ロジー:でもな、「どんな家族にしたいか」ってのにはな、そんな年の差なんか、関係ないんだよな。 リリ:・・・・・どんな…かぞくに、したいか・・・・ ロジー:さっき、リリはおれの家族のみんなを、「いい家族」と言ってくれた。でもな ロジー:子供だろうが大人だろうが、それはみんなが自分で作り上げるんだよ、少なくとも、宙の上で命を預け合う「家族」とはそうだった。 リリ:・・・・・・・・ ロジー:おれは今、リリ、お前におれの命を預けているし、お前の命も、おれが預かっていて、宙運私警団で海賊潰しをやっている。 ロジー:だから、リリは今おれの家族だ。お前がどう思っていようと。 リリ:…ロジー… ロジー:っ、とと。悪い。説教するところじゃなかったな。そうそう、これだ。雨もちょうどよく、ザーザー降ってるし。 リリ:…なに、それ。ちっちゃいコップ…ぜんぶおおきさが、ちがう。 ロジー:へへっ、見てな。これにこうして、水をためて…リリ、献花台の隅っこに並べてくれ。雨よけから雨だれが落ちてくるとこにな。 リリ:こう? ロジー:そうそう、順番はとくに考えなくていいぞ。うん、それもうちょっと右に、雨だれの位置に合わせてな? リリ:あっ… ロジー:ふふっ、どうだ? リリ:雨粒がおちて…いろんな、おと。おんがくみたい… ロジー:レインハープ、っていうんだ。ま、おれたちが勝手に呼んでただけだけど。 リリ:レイン、ハープ ロジー:ま、座ってゆっくり聞くか。 リリ:・・・・・・ふしぎ。リズムも、メロディもばらばら…なのに、なんだかほっとする。 ロジー:・・・・ナユも、同じことを言ってた。 リリ:ナユ? ロジー:おれは、宙運私警団に入るまでは、スペース・キャラバンにいた。 ロジー:キャラバン船の中にはさ、船の中で生まれ育った子供たちもいてな?一番小さい女の子がナユだった。 ロジー:見た目リリくらいのな。ま、歳はもっと小さかったけど。 リリ:ふぅん ロジー:船のなかじゃ、雨なんてないからな、ここに来るとそりゃあみんなはしゃいだもんだ。ふふっ。 ロジー:あるとき、ナユはカップに落ちる水の音が、大きさによって違うことに気がついたんだな。 ロジー:いつしか、ナユはここに来たらカップを並べる係になってた。 ロジー:不思議と落ち着くんだよな。みんな、ナユが並べるカップの音が心のどこかで好きだった。 ロジー:それで、キャラバンのキャプテン・ウードがそれを、「レインハープ」と呼んだのさ。 リリ:これが、そのときのカップ? ロジー:いいや。船はばらばらになっちまったからな。今頃、アステロイドに混じってどこかに漂ってるだろうよ。 リリ:そっか・・・・ ロジー:だけど、ここに来たらいつもこうして、この音を奏でるのさ。それが、生き残っちまったおれの…仕事、かな。 リリ:いき、のこった… ロジー:ああ。 リリ:・・・・・かいぞく? ロジー:・・・・ああ。 ロジー:船にいた者はみんな殺された。クルーも、その家族も。子供たちも。 ロジー:おれはちょうど、キャプテン・ウードにちょっとしたお使いを頼まれて、小型機で戻るとこだった。 ロジー:真っ暗い宙の中で…おれが戻るための船が…爆散した炎が…見えた。 リリ:ロジー、宙運私警にはいったのは…かたきうち? ロジー:(軽いため息)この業界、「生き残り」には厳しいんだよ。厄がつくってな。 ロジー:行くところがなかったから、ここに来た。 ロジー:つまり、リリと同じさ。 リリ:陸のしごと?は? ロジー:ははっ、考えたことなかった。おれたちキャラバン生まれは、宙がふるさとなのさ。上に行かない暮らしなんて、想像もできないな。 リリ:ふぅん… ロジー:…ん、雨、小降りになっちまったな。さてっ、レインハープもおわりか。 リリ:ロジー ロジー:なんだ? リリ:わたし、ロジーと…かぞくになる、よ。 ロジー:おお?なんだ、急に。 リリ:・・・・・だめ? ロジー:おいおい、駄目も何も、さっき言ったろ。リリがどう思おうと、もうお前はおれの「家族」だ、ってな。 ロジー:っとと。いけね。つい頭撫でたくなるな。 リリ:それは、やめて… ロジー:ははあ。本当に。お前の家族って一体どんな奴らだったんだ?人と一緒に飯を食べられない、手で触られるのが恐怖で激痛を感じる…とはね。 リリ:それは、わたしも、しりたくない。だから、きっと…わすれてる。 ロジー:そうだな。いやなことは忘れとけ。ま、今までもずいぶん助けてもらったけど、改めて頼むぜ、リリ。 リリ:うん、こちらこそ、よろしくね。ロジー。 リリ:ね、ロジーのキャラバン、なんて名前、だったの? ロジー:ああ、それなら。石碑に書いてある。たしか…このあたりだったかな…あ、ほらこれだ。 ロジー:『ローヴァーゲイル』。『ローヴァーゲイル・キャラバン・ファミリー』。小さいけどいい(キャラバン) リリ:(「いい」のところでかぶせて)ローヴァー…ゲイル…? ロジー:ん、そう。ローヴァーゲイル… リリ:・・・・うそ… うそ… ロジー:ん? リリ:ローヴァーゲイル… ローヴァーゲイル、なの?ロジー…(震え出す) ロジー:おお?!な、なんだあ?!おま、なに急に泣きそうに リリ:ロジー… ロジーは、… ロジー:… ちょ、まて、なんかあるのか?お前とローヴァーゲイル… リリ:・・・・ローヴァーゲイルは…しね… ロジー:?! リリ:わたしの、せなか…かいて… ある リリ:ローヴァーゲイルはしねって… だから…だから…きっと… リリ:(泣き出す)わたしの、せいだ… ごめ、なさ… ロジ… ごめ… っなさ…っ(泣く) ロジー:な、なな、なんだって?背中に書いてある?言ってることがさっぱりわからん。 リリ:(泣いている)  : (間)  :  ロジー:そろそろ落ち着いたか? リリ:(ぐすっ)…ウン… ロジー:もう一回整理するぞ? リリ:(ぐすっ)…ウン… ロジー:リリの背中には、なぜか「ローヴァーゲイルは死ね」と書かれている。 リリ:(ぐすっ)…ウン… ロジー:それで、リリはおれたちのキャラバンが襲われたのは、そのせいだ、と思っている、と。 リリ:(ぐすっ)…ウン… ロジー:リリ、言いたいことと気持ちはわかるが、それはないと思うぞ? ロジー:おれたちのキャラバンは当時4つの航路と船団を持ってたが、全部やられた。 ロジー:海賊がそこまでするからには、そんな個人的な恨みじゃない。何か…重大な狙いがあったと考えるのが妥当だ。わかるか? リリ:…でも… ロジー:しかし、これでおれたちが組まされた理由がわかったな。総括は理由はないとかとぼけてたが…そういうことか。 ロジー:どちらにせよ、ローヴァーゲイル・キャラバン連続襲撃事件とお前の背中のやつには直接関係はないが、有力な手がかりってことは確かだ。 ロジー:誰かがリリの背中に「ローヴァーゲイルは死ね」と書いた。そいつは、おれたちのキャラバンの誰かと接触し、何かトラブルになった。そこそこ深刻な、だ。 ロジー:それはいつで、どこの誰だ?…おそらく、殺されたリリの両親… 誰にやられた? リリ:ロジー… ロジー:ああ、悪い。怖いこと思い出させちまったな。 ロジー:しかし、正直本部に残ってる資料だけじゃ手詰まりしてたおれとしては、今ここで小躍りしたいくらいだ。ありがとな、リリ。 リリ:あ、りが、と…? ロジー:うし、じゃあ宿に入ってさっぱりしたものに着替えるか! ロジー:せっかくだし数日滞在しようと思ってたが明日戻ろう。 ロジー:これはもう、おれ一人のものじゃない。チームの案件だな。フウガも待ってる。 リリ:ウン!  :  ロジー:じゃ、みんな。いってくるわ。次に来るときには、いい報せを持ってくるよ。 リリ:あ…レインハープ、おいていくの? ロジー:ああ。新しい仕事ができたしな。それにきっとみんな、この音が好きだよ。この星で、ここで雨に打たれた船乗りはみんな。 リリ:雨の…うた。 ロジー:そう。雨の。降りやまない雨の。 ロジー:・・・っとっと、おれの上着、忘れるとこだった。 ロジー:雨の中歩くにはちょうどいい降り方だな。もうかぶらなくていいか。 リリ:そうだね。 ロジー:かといって、袖を通すのも濡れすぎなんだよなあ。 リリ:ん、…ね、ロジー ロジー:ん? リリ:やっぱり、それ、かぶっていい? ロジー:んあ?かまわないけど、逆に変にびしょびしょだぞ? リリ:いいの。 ロジー:じゃ、・・・・ほら。 リリ:ふふっ リリ:・・・・・へんなにおい、する。 ロジー:ふ、そりゃあ、・・・よかったな。  :   :  ロジー:くぁーーー!さっぱりしたなぁ。おい、リリ。晩飯どうす… リリ:すぅ・・・・(眠っている)…ん… ロジー:なんだ、寝ちまったのか。まあ、疲れたろうしな リリ:・・・・・・や… …(寝言) ロジー:ん? リリ:(軽くうなされながら)うう… うう… …け… て… ロジー:涙…? っ、まいったな。さっきはやなこと思い出させちまったし。やっぱ子供だもんなぁ。 ロジー:おい、リ… リリ:…けて… ラドル… ロジー:ラドル? リリ:(泣きながら)ラドル …たすけに … きて… ラドル ロジー:ラドル?! ロジー:リリ、ラドルを知ってるのか?!おい、おいリリ! リリ:ん…っいたっ!  うう・・・・・なあに?ロジー…どうしたの?すくらんぶる? ロジー:っあ、すまん、つい触っちまった。 ロジー:今、うなされてたからさ。リリ、ラドルを知っているのか? リリ:ラドル? ・・・・・ううん、しらない ロジー:・・なんの夢見てた? リリ:ん・・・んん? わからない。ゆめ…みてた? ロジー:そう…か。 リリ:どうしたの?ラドル、ロジーのしってるなまえ? ロジー:あー…(少し考えて)いや、いい。忘れろ。 で、どうする?晩飯。 リリ:ロジー、すきにたべて。わたし ロジー:ああ、わかってる。一緒にメシ、食べられないんだもんな。俺は外行ってくるが、なんか買ってくる。何がいい。 リリ:… ゆで… たまご… …ある? はんぶん。 ロジー:ゆでたまご…  ・・・・あのさ、もうちょっと食べないか?  :   :(5秒以上の間)  :  ロジー:ふー、本部もフウガの機内も、なんだかんだで落ち着くな。エルーシオから帰ってきて忙しくなるぞ、リリ。 リリ:(端末を操作する音・キーボード等)… んーーーー… ロジー:おっ。なんだ、早速捜し物か? リリ:ロジー、ききたいことがある。 リリ:しりょうは、ここの…本部のデータけんさくに出てくるので全部? ロジー:…ああ。…んー、あとは、サードフロンティアの向こう、かな。 リリ:サード…フロンティア?の、むこう? ロジー:ああサード・フロンティア・スペースは一番新しいが距離も遠いし広いからな。 リリ:3つのわくせいを経由して…いちばん遠い星まで、15光年。 ロジー:うん、アクティブパス航法が7光年エリアまでってことは知ってるよな? リリ:ウン ロジー:だからデータや資料の移動もそこで区切りなのさ。そこから先は、ここと一切のデータのやりとりはない。 リリ:なんで? ロジー:アクティブパス航法、だよ。そいつのデータを向こうに持って行きたくないのさ。だから、そこでシャットアウトされてる。 リリ:ふぅん…よく、わからない。 ロジー:まあ、ともかくだ。7光年エリアまでの資料はここに上がってるけど、それより向こうで起きたことは、正直わからん。 ロジー:だから、そういう意味で、あるとしたら、そこだ。 リリ:…そう。・・・・・でも、いい。たぶん、サード・フロンティア・スペースには関係ない。 ロジー:うーん?何探してるんだ?ワードを変えてみたらどうだ。どれ リリ:わ、みちゃ、だめ! ロジー:ヤマモト・リリ…・・・・・・・ リリ:ううー… ロジー:え、・・・・・エゴサ?  :『法外宙域ローヴァーゲイル 降りやまない雨の唄(バラッド)』 / 了    : 

0:このシナリオはシリーズシナリオですが、どこからでも読むことができます。 0:ピースを集めるように、物語を楽しんでいただけたら、嬉しく思います。  :   :登場人物 リリ:ヤマモト・リリ。10歳。呪われた少女。ロジーのチームに配属された宙運私警の調査員見習い。  :  ロジー:ロジー・ガーウィン。25歳。宙運私警で宇宙船AIのフウガと組んで調査員をしている。  :  0:~ 法外宙域ローヴァーゲイル 降りやまない雨の唄(バラッド) ~  :   :  リリ:8さいのとき。気がついたらびょういんにいた。 リリ:その前のことは、なにもしらない。 リリ:言えるのは、いくつかのなまえだけ。 リリ:リリ。…ヤマモト・リリ。わたしのなまえ。 リリ:…トラウィス。わたしのともだち。とらのぬいぐるみ。 リリ:体にきざまれた、消えないきず。『ローヴァーゲイルは、死ね』 リリ:知らないなまえ。だれがかいたのかも、しらない。 リリ:でも、わたしのせなかには、『ローヴァーゲイルは、死ね』 リリ:そう、のろいがこめられている。  :   :  ロジー:セカンドフロンティア・エルーシオ。 ロジー:厚い雲に覆われたその惑星は、ほとんど常に雨が降る。 ロジー:スペース・キャラバンで生まれた子供は、地上の雨を不思議に思う。 ロジー:水が空からおちてくる。 ロジー:サアア、という静かな音。 ロジー:優しい音だ、と本能が感じる。 ロジー:弟分のケントレットも、幼いナユも、雨に打たれてはしゃいでいたあの日。 ロジー:おれも心地よい雨に濡れながら、二人を見守っていた。  :   :  リリ:法外宙域ローヴァーゲイル ロジー:『降りやまない雨の唄(バラッド)』  : リリ:ほら、トラちゃん、そろそろ成層圏をぬけるよ。  ロジー:リリ、本当にいつもそのトラのぬいぐるみチャンと一緒だな。 リリ:うん。トラちゃん、おいていけない。大事なともだち、だから。 ロジー:それにしても、別についてこなくてよかったんだぞ?今回は仕事じゃないんだし。 リリ:ううん、べつにやりたいこともないし、ちょっと来てみたかった。ほかのフロンティア・スペース。 ロジー:そうか。リリはファースト・フロンティア以外は初めてか。 リリ:うん。 ロジー:セカンド・フロンティア・エルーシオ。3つの衛星があるバイオスフィア惑星だ。地球やエデンより少し大きくてGも強いから、体が重いぞ。 リリ:そっか。それでこの船、疑似グラビティがだんだん強くなってってたんだね。 ロジー:お、よく気がついたな。体を徐々に慣らすように、目的地のGに合わせてグラデーションしていくのさ。 ロジー:着陸までにもうちょっと上がるぞ。地上は1.28Gだ。たった0.28と思うかもしれないが、体重約3割増しだからな? リリ:ふぅん?じゃあ、体が大きいロジーのほうが、たいへんだね。ここでうんどうしたら、ちょっとやせるよ?おなかのにく。 ロジー:そんなにないっての。これでも毎日鍛えてるんだぞ。腹筋割れてるんだからな?少しだけだけども。 ロジー:というか、お前はちゃんと飯食べろ。大きくなれないぞ?だいたい、いつどこで食べてるんだか。 リリ:わ、トラちゃんみてみて!雲がいっぱい。あっ、雨がふってる。ひさしぶり。 ロジー:ここんとこずっと小惑星基地内か宇宙船だもんなあ。この星はな、大体降ってる。一応普通に真水の雨だが、傘買うか? リリ:(嬉しそうに)ううん、いらない。雨にふられて歩きたい。 ロジー:だよな。おれもだ。 ロジー:(以降独白) ロジー:たったの10歳で宙運連合私警団に入ってきた少女。リリ。 ロジー:実年齢よりずっと幼い見た目で、幼い見た目と実年齢よりずっと聡明で、感情を表に出すことはめったにない。 ロジー:おれのチームに入ってから、普通の子供なら泣いて暴れまわりそうな目に遭ったことなど一度や二度じゃないが、怯えたり泣いたりしたことは、まだない。 ロジー:もらった資料によれば、ただならぬ状況を経験し、今ここにいるらしいから、そのせいなのだろう。 ロジー:が、今宇宙船の窓に当たる雨粒に目を輝かせている横顔は、珍しく年相応に見える。 ロジー:その顔が、あの日のナユの横顔を思い出させる。  :  リリ:ロジー、なんかにやにやしてる… ロジー:いや、楽しそうだなーと思って。 リリ:…おか、しい? ロジー:いいや?珍しく10歳らしくて安心してる。  :   :  リリ:んんー!旅客船(りょかくせん)のいす、ちょうどよくふわふわでのりごこちがよかった! ロジー:おいおい、フウガには言うなよ?あいつ結構負けず嫌いだからな。 リリ:フウガののりごこちも、すきだよ? ロジー:まあな、椅子の座り心地以外は俺たちの船が勝ってる…って、うわぁー、思ったより土砂降りだな、こりゃ。 リリ:そうだね。でも、ロジー、お花なんか買って、どこいくの?もしかして、わたし、いっしょじゃないほうがいいところ? ロジー:んあ? リリ:・・・・・・・・ ロジー:(苦笑)なんだよ、そんな目で見るなって。ただの墓参りだよ。 リリ:おはか・・・・ ロジー:そうそう。この時期にはな、いつも来るんだ。 リリ:…わたし、どっかでまってる。 ロジー:待て待て。どこにも行くな。ついでだから一緒に来い。 リリ:しらないひとのおはか、ついてってもしょうがない… ロジー:そう言うなって。今じゃお前も一応おれの家族だからな。 リリ:・・・・・かぞく…? ロジー:ああ。宙(そら)で生きる奴らは、同じ船に乗ってりゃあ、みんな家族なのさ。 ロジー:ほら、あんまり降ってるから、頭からこれでもかぶってろ。おれの上着だけども。 リリ:あう。いいよ… ロジー:トラちゃんも濡れちゃうだろ。 リリ:そで、下についてる… ロジー:はははっ、それはお前がちびっこすぎるからだろ。気にしてくれるならちゃんと飯食って早く育て。  ロジー:ほら、こうやって首元で縛っときゃちょうどいいだろ。 リリ:・・・・・・・・・ リリ:・・・へんなにおい、する… ロジー:そいつは、悪かったな。  :  : リリ:雨、すごい、おっきなみずたまりいっぱい。ばしゃっ、ばしゃっ、うふふ ロジー:本当、子供は水たまり好きだよな。ほら、もう少し。あのちょっとした丘の上に、大きな石碑が建ってるだろ。東屋がそばにある。 リリ:あれが、おはか?きねんひみたい。 ロジー:ああ、そうだな。お墓、じゃないな。慰霊碑だ。 リリ:いれいひ? ロジー:この、セカンド・フロンティアの宙(そら)で散った者の、な。 リリ:…そっか。 リリ:・・・・・・ロジーの「かぞく」…も? ロジー:…ああ。  :  リリ:ああ…ロジーのうわぎ、びしょびしょになっちゃった。でも、気持ちよかったね。 ロジー:あーあー、ずぶ濡れだなあ。屋根の下なら、脱いでていいぞ。そのへんに引っかけといてくれ。 リリ:ウン…ありがと…ロジーもびしょくた。 ロジー:ははっ、いいなあ雨は。ここに来ると楽しい気持ちになるな。雨のおかげで花も元気だ。 …よっ、と。ふう。 リリ:いれいひ…いっぱい名前がほってある。みんな、みんな宙で…いなくなったんだね。…お花でいっぱい。きれい。だけど、さびしい。 ロジー:そうだな、襲撃、事故、いろいろある。減ることはないから仕方ないが、来るたびに増えるな。名前。 リリ:減ることは、ない・・・・・・そうだね。 ロジー:へへ。今年もまた来たよ、ウードのおやっさん。おかげさんで、まだ生きてる。 リリ:・・・・・ ロジー:ケントレット、ナユ・・・・みんな。 リリ:・・・・・・ ロジー:こいつは、リリ。ついこないだ、おれの家族になった。 リリ:・・・・・かぞく… ロジー:宙運私警団で、おれのチームに入ったのさ。ナユと同じくらいに見えるが、どっこい、なかなかの… リリ:・かぞく…じゃ…ない… ロジー:ん? リリ:わたし、ロジーとかぞくしゃない。かぞくなんて、リリにはいらない… ロジー:…リリ リリ:わたし、ひとりで、いいの。 リリ:わたしは、みんなといられない。さわれないし、いっしょにごはんもたべられない。 リリ:みんなとなかよくできない。なかよくしない、なかよくない…ほうが…いい。 ロジー:ふぅん(ため息)…リリ、家族、嫌いか? リリ:ううん、きらいじゃ、ない。 ロジー:なら リリ:でも…かぞくは、わたしを…きらい。だから。 リリ:ロジーのかぞくは、いいかぞく。でも、いろんな、かぞくが・・・・いる。 ロジー:・・・・・ ロジー:そうだな、確かに、いろんな家族がいるな。 ロジー:じゃあ、リリ。リリはどうなんだ? リリ:わた、し? ロジー:お前にも、いつか必ず「家族」ができる。それも、そう遠くない未来だ。 ロジー:お前がいくら一人がよくても、必ず誰かと組むときが来る。おれのとこに、リリが来たように。 ロジー:その時、お前はどうする?どんな「家族」にしたい? リリ:…それは… ロジー:今おれに言ったように、そいつを突っぱねて、遠ざけるのか? リリ:・・・・・ ロジー:今のお前にとって、家族ってのは保護者、親、そういう関係かもしれない。まだ子供だし、兄弟もないし。 ロジー:でもな、「どんな家族にしたいか」ってのにはな、そんな年の差なんか、関係ないんだよな。 リリ:・・・・・どんな…かぞくに、したいか・・・・ ロジー:さっき、リリはおれの家族のみんなを、「いい家族」と言ってくれた。でもな ロジー:子供だろうが大人だろうが、それはみんなが自分で作り上げるんだよ、少なくとも、宙の上で命を預け合う「家族」とはそうだった。 リリ:・・・・・・・・ ロジー:おれは今、リリ、お前におれの命を預けているし、お前の命も、おれが預かっていて、宙運私警団で海賊潰しをやっている。 ロジー:だから、リリは今おれの家族だ。お前がどう思っていようと。 リリ:…ロジー… ロジー:っ、とと。悪い。説教するところじゃなかったな。そうそう、これだ。雨もちょうどよく、ザーザー降ってるし。 リリ:…なに、それ。ちっちゃいコップ…ぜんぶおおきさが、ちがう。 ロジー:へへっ、見てな。これにこうして、水をためて…リリ、献花台の隅っこに並べてくれ。雨よけから雨だれが落ちてくるとこにな。 リリ:こう? ロジー:そうそう、順番はとくに考えなくていいぞ。うん、それもうちょっと右に、雨だれの位置に合わせてな? リリ:あっ… ロジー:ふふっ、どうだ? リリ:雨粒がおちて…いろんな、おと。おんがくみたい… ロジー:レインハープ、っていうんだ。ま、おれたちが勝手に呼んでただけだけど。 リリ:レイン、ハープ ロジー:ま、座ってゆっくり聞くか。 リリ:・・・・・・ふしぎ。リズムも、メロディもばらばら…なのに、なんだかほっとする。 ロジー:・・・・ナユも、同じことを言ってた。 リリ:ナユ? ロジー:おれは、宙運私警団に入るまでは、スペース・キャラバンにいた。 ロジー:キャラバン船の中にはさ、船の中で生まれ育った子供たちもいてな?一番小さい女の子がナユだった。 ロジー:見た目リリくらいのな。ま、歳はもっと小さかったけど。 リリ:ふぅん ロジー:船のなかじゃ、雨なんてないからな、ここに来るとそりゃあみんなはしゃいだもんだ。ふふっ。 ロジー:あるとき、ナユはカップに落ちる水の音が、大きさによって違うことに気がついたんだな。 ロジー:いつしか、ナユはここに来たらカップを並べる係になってた。 ロジー:不思議と落ち着くんだよな。みんな、ナユが並べるカップの音が心のどこかで好きだった。 ロジー:それで、キャラバンのキャプテン・ウードがそれを、「レインハープ」と呼んだのさ。 リリ:これが、そのときのカップ? ロジー:いいや。船はばらばらになっちまったからな。今頃、アステロイドに混じってどこかに漂ってるだろうよ。 リリ:そっか・・・・ ロジー:だけど、ここに来たらいつもこうして、この音を奏でるのさ。それが、生き残っちまったおれの…仕事、かな。 リリ:いき、のこった… ロジー:ああ。 リリ:・・・・・かいぞく? ロジー:・・・・ああ。 ロジー:船にいた者はみんな殺された。クルーも、その家族も。子供たちも。 ロジー:おれはちょうど、キャプテン・ウードにちょっとしたお使いを頼まれて、小型機で戻るとこだった。 ロジー:真っ暗い宙の中で…おれが戻るための船が…爆散した炎が…見えた。 リリ:ロジー、宙運私警にはいったのは…かたきうち? ロジー:(軽いため息)この業界、「生き残り」には厳しいんだよ。厄がつくってな。 ロジー:行くところがなかったから、ここに来た。 ロジー:つまり、リリと同じさ。 リリ:陸のしごと?は? ロジー:ははっ、考えたことなかった。おれたちキャラバン生まれは、宙がふるさとなのさ。上に行かない暮らしなんて、想像もできないな。 リリ:ふぅん… ロジー:…ん、雨、小降りになっちまったな。さてっ、レインハープもおわりか。 リリ:ロジー ロジー:なんだ? リリ:わたし、ロジーと…かぞくになる、よ。 ロジー:おお?なんだ、急に。 リリ:・・・・・だめ? ロジー:おいおい、駄目も何も、さっき言ったろ。リリがどう思おうと、もうお前はおれの「家族」だ、ってな。 ロジー:っとと。いけね。つい頭撫でたくなるな。 リリ:それは、やめて… ロジー:ははあ。本当に。お前の家族って一体どんな奴らだったんだ?人と一緒に飯を食べられない、手で触られるのが恐怖で激痛を感じる…とはね。 リリ:それは、わたしも、しりたくない。だから、きっと…わすれてる。 ロジー:そうだな。いやなことは忘れとけ。ま、今までもずいぶん助けてもらったけど、改めて頼むぜ、リリ。 リリ:うん、こちらこそ、よろしくね。ロジー。 リリ:ね、ロジーのキャラバン、なんて名前、だったの? ロジー:ああ、それなら。石碑に書いてある。たしか…このあたりだったかな…あ、ほらこれだ。 ロジー:『ローヴァーゲイル』。『ローヴァーゲイル・キャラバン・ファミリー』。小さいけどいい(キャラバン) リリ:(「いい」のところでかぶせて)ローヴァー…ゲイル…? ロジー:ん、そう。ローヴァーゲイル… リリ:・・・・うそ… うそ… ロジー:ん? リリ:ローヴァーゲイル… ローヴァーゲイル、なの?ロジー…(震え出す) ロジー:おお?!な、なんだあ?!おま、なに急に泣きそうに リリ:ロジー… ロジーは、… ロジー:… ちょ、まて、なんかあるのか?お前とローヴァーゲイル… リリ:・・・・ローヴァーゲイルは…しね… ロジー:?! リリ:わたしの、せなか…かいて… ある リリ:ローヴァーゲイルはしねって… だから…だから…きっと… リリ:(泣き出す)わたしの、せいだ… ごめ、なさ… ロジ… ごめ… っなさ…っ(泣く) ロジー:な、なな、なんだって?背中に書いてある?言ってることがさっぱりわからん。 リリ:(泣いている)  : (間)  :  ロジー:そろそろ落ち着いたか? リリ:(ぐすっ)…ウン… ロジー:もう一回整理するぞ? リリ:(ぐすっ)…ウン… ロジー:リリの背中には、なぜか「ローヴァーゲイルは死ね」と書かれている。 リリ:(ぐすっ)…ウン… ロジー:それで、リリはおれたちのキャラバンが襲われたのは、そのせいだ、と思っている、と。 リリ:(ぐすっ)…ウン… ロジー:リリ、言いたいことと気持ちはわかるが、それはないと思うぞ? ロジー:おれたちのキャラバンは当時4つの航路と船団を持ってたが、全部やられた。 ロジー:海賊がそこまでするからには、そんな個人的な恨みじゃない。何か…重大な狙いがあったと考えるのが妥当だ。わかるか? リリ:…でも… ロジー:しかし、これでおれたちが組まされた理由がわかったな。総括は理由はないとかとぼけてたが…そういうことか。 ロジー:どちらにせよ、ローヴァーゲイル・キャラバン連続襲撃事件とお前の背中のやつには直接関係はないが、有力な手がかりってことは確かだ。 ロジー:誰かがリリの背中に「ローヴァーゲイルは死ね」と書いた。そいつは、おれたちのキャラバンの誰かと接触し、何かトラブルになった。そこそこ深刻な、だ。 ロジー:それはいつで、どこの誰だ?…おそらく、殺されたリリの両親… 誰にやられた? リリ:ロジー… ロジー:ああ、悪い。怖いこと思い出させちまったな。 ロジー:しかし、正直本部に残ってる資料だけじゃ手詰まりしてたおれとしては、今ここで小躍りしたいくらいだ。ありがとな、リリ。 リリ:あ、りが、と…? ロジー:うし、じゃあ宿に入ってさっぱりしたものに着替えるか! ロジー:せっかくだし数日滞在しようと思ってたが明日戻ろう。 ロジー:これはもう、おれ一人のものじゃない。チームの案件だな。フウガも待ってる。 リリ:ウン!  :  ロジー:じゃ、みんな。いってくるわ。次に来るときには、いい報せを持ってくるよ。 リリ:あ…レインハープ、おいていくの? ロジー:ああ。新しい仕事ができたしな。それにきっとみんな、この音が好きだよ。この星で、ここで雨に打たれた船乗りはみんな。 リリ:雨の…うた。 ロジー:そう。雨の。降りやまない雨の。 ロジー:・・・っとっと、おれの上着、忘れるとこだった。 ロジー:雨の中歩くにはちょうどいい降り方だな。もうかぶらなくていいか。 リリ:そうだね。 ロジー:かといって、袖を通すのも濡れすぎなんだよなあ。 リリ:ん、…ね、ロジー ロジー:ん? リリ:やっぱり、それ、かぶっていい? ロジー:んあ?かまわないけど、逆に変にびしょびしょだぞ? リリ:いいの。 ロジー:じゃ、・・・・ほら。 リリ:ふふっ リリ:・・・・・へんなにおい、する。 ロジー:ふ、そりゃあ、・・・よかったな。  :   :  ロジー:くぁーーー!さっぱりしたなぁ。おい、リリ。晩飯どうす… リリ:すぅ・・・・(眠っている)…ん… ロジー:なんだ、寝ちまったのか。まあ、疲れたろうしな リリ:・・・・・・や… …(寝言) ロジー:ん? リリ:(軽くうなされながら)うう… うう… …け… て… ロジー:涙…? っ、まいったな。さっきはやなこと思い出させちまったし。やっぱ子供だもんなぁ。 ロジー:おい、リ… リリ:…けて… ラドル… ロジー:ラドル? リリ:(泣きながら)ラドル …たすけに … きて… ラドル ロジー:ラドル?! ロジー:リリ、ラドルを知ってるのか?!おい、おいリリ! リリ:ん…っいたっ!  うう・・・・・なあに?ロジー…どうしたの?すくらんぶる? ロジー:っあ、すまん、つい触っちまった。 ロジー:今、うなされてたからさ。リリ、ラドルを知っているのか? リリ:ラドル? ・・・・・ううん、しらない ロジー:・・なんの夢見てた? リリ:ん・・・んん? わからない。ゆめ…みてた? ロジー:そう…か。 リリ:どうしたの?ラドル、ロジーのしってるなまえ? ロジー:あー…(少し考えて)いや、いい。忘れろ。 で、どうする?晩飯。 リリ:ロジー、すきにたべて。わたし ロジー:ああ、わかってる。一緒にメシ、食べられないんだもんな。俺は外行ってくるが、なんか買ってくる。何がいい。 リリ:… ゆで… たまご… …ある? はんぶん。 ロジー:ゆでたまご…  ・・・・あのさ、もうちょっと食べないか?  :   :(5秒以上の間)  :  ロジー:ふー、本部もフウガの機内も、なんだかんだで落ち着くな。エルーシオから帰ってきて忙しくなるぞ、リリ。 リリ:(端末を操作する音・キーボード等)… んーーーー… ロジー:おっ。なんだ、早速捜し物か? リリ:ロジー、ききたいことがある。 リリ:しりょうは、ここの…本部のデータけんさくに出てくるので全部? ロジー:…ああ。…んー、あとは、サードフロンティアの向こう、かな。 リリ:サード…フロンティア?の、むこう? ロジー:ああサード・フロンティア・スペースは一番新しいが距離も遠いし広いからな。 リリ:3つのわくせいを経由して…いちばん遠い星まで、15光年。 ロジー:うん、アクティブパス航法が7光年エリアまでってことは知ってるよな? リリ:ウン ロジー:だからデータや資料の移動もそこで区切りなのさ。そこから先は、ここと一切のデータのやりとりはない。 リリ:なんで? ロジー:アクティブパス航法、だよ。そいつのデータを向こうに持って行きたくないのさ。だから、そこでシャットアウトされてる。 リリ:ふぅん…よく、わからない。 ロジー:まあ、ともかくだ。7光年エリアまでの資料はここに上がってるけど、それより向こうで起きたことは、正直わからん。 ロジー:だから、そういう意味で、あるとしたら、そこだ。 リリ:…そう。・・・・・でも、いい。たぶん、サード・フロンティア・スペースには関係ない。 ロジー:うーん?何探してるんだ?ワードを変えてみたらどうだ。どれ リリ:わ、みちゃ、だめ! ロジー:ヤマモト・リリ…・・・・・・・ リリ:ううー… ロジー:え、・・・・・エゴサ?  :『法外宙域ローヴァーゲイル 降りやまない雨の唄(バラッド)』 / 了    :