台本概要

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タイトル 恋と泡
作者名 とーげ  (@studioTOGE)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 人魚の肉を食べた少女の最後の恋の物語。
『リトル・マーメイド』『人魚姫』『八百比丘尼物語』等から着想を得て書きました

・20年前(回想)と現在のシーンがある
・人魚は少女の姿で800年ちかく生きている
→それらを声だけで表現するのにチャレンジしてもらえたら嬉しいです!

【人数】…男1女1(計2)
【時間】…20〜25分

こちらの台本を使用したアーカイブ動画(ラジオドラマ)があるので
ご参考までにYouTubeのURLを掲載します。

https://youtu.be/6qZXTxSYUnA


※商用利用時は、ご連絡お願いします。
※台本や動画の無断改変・無断転載などはご遠慮ください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
瑞樹 104 中学三年生(正体は800歳まで生きる人魚)
隼斗 100 中学三年生(20年前の回想)/中学教師(35歳)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
:タイトル『恋と泡』 瑞樹:(M)私には誰にも言えない秘密がある 0:学校のチャイムが校舎に鳴り響く 0:教室のざわめきの中、ドアが開く 0:中学教師の隼斗(35)が現れる 隼斗:(咳きこみ)お前ら早く席に付け。 隼斗:転校生を紹介するぞ 0:隼斗につづいて 0:瑞樹(15歳の姿)が教室に入る 瑞樹:みなさん、初めまして。 瑞樹:成瀬瑞樹。15歳です 瑞樹:短い間ですがよろしくお願いします 隼斗:ちょっと待て…成瀬瑞樹だと?  隼斗:(咳きこむ) 隼斗:聞いていた名前とは違うが… 瑞樹:自分の名前だから間違えませんよ 隼斗:いや、でも。 隼斗:成瀬瑞樹っていう君と同じ名前の… 隼斗:(目が合って)そんな、 隼斗:見た目もあの頃のままじゃないか… 瑞樹:久しぶりだね 隼斗くん 隼斗:冗談だろ… 瑞樹:(M)隼斗くんと最後に会ったのは 瑞樹:20年前だった 0:【回想】 0:縁日の露店が並ぶ参道を歩く 0:瑞樹(15歳の姿)と隼斗(15) 隼斗:やっぱり受験勉強の息抜きは 隼斗:祭りに限るよなー 瑞樹:来年は隼斗くんも高校生になるんだね 隼斗:何を他人事みたいに言ってるんだよ。 隼斗:瑞樹も同い年なんだから 隼斗:高校に進学だろ? 瑞樹:うん… 隼斗:そういえば瑞樹って、 隼斗:去年の暮れに宮古島からこの村に 隼斗:転校してきたんだよな。 隼斗:もしかして向こうの島に帰るのか? 瑞樹:ううん。 瑞樹:もともと私の生まれは この村だから。 瑞樹:隼斗くんと同じ地元の高校に行くよ 隼斗:(嬉しい)そっか 瑞樹:んんん?  瑞樹:さては私がいなくなったら 瑞樹:君は寂しいのかな? 隼斗:別に寂しくねーよ 瑞樹:えー… 隼斗:全っ然 平気 瑞樹:そうなんだ… 隼斗:でも、いなくなるなよ… 瑞樹:え? 隼斗:ずっとこの村にいるんだろ? 瑞樹:やっぱ寂しいんだ 隼斗:だから寂しくないって 瑞樹:本当に? 隼斗:当たり前じゃん 瑞樹:…ちぇ 隼斗:まぁ…ちょっとは寂しいかも 瑞樹:(笑って)へへへっ 隼斗:ちょっとな。 隼斗:ちょっとだけだからな 瑞樹:うん。 瑞樹:(呟き)でもね、 瑞樹:私のことは忘れていいから 隼斗:ん? なんか言ったか? 瑞樹:ううん…あっ、 瑞樹:さっき何度もくじ引きやっていたけど 瑞樹:何が欲しかったの? 隼斗:最新のゲーム機だよ。 隼斗:でもあの紐、人気の景品には 隼斗:絶対につながってないんだぜ。 隼斗:ほら、見ろよ! 隼斗:屋台のオッサンの あのドヤ顔 瑞樹:オッサンって… 瑞樹:隼斗くんのお父さんでしょ 隼斗:ふん。 隼斗:あんな青白い顔しちゃってさ。 隼斗:(心配)家で寝てりゃ良いのに 瑞樹:おじさん、体調あまり良くないの? 隼斗:知らね。ウチの家系の男は代々 隼斗:命短いんだってよ。 隼斗:ばあちゃんがそう言ってた 瑞樹:じゃあ隼斗くんも… 0:両手をあげて喜ぶ子供が見える 0:隼斗の父親がハンドベルを鳴らしている 隼斗:なにー!? 隼斗:プレイステーションを当てただと!? 瑞樹:すごーい。 瑞樹:ねえ、おじさんも凄く嬉しそうだよ! 隼斗:なんだよ。俺には こんなのしか引かせなかったくせに… 瑞樹:どれどれ? 瑞樹:君は何を引いたのかな〜? 隼斗:これ… 瑞樹:わぁ! キレイ… 瑞樹:珊瑚の髪飾りだ 隼斗:みっ、瑞樹にやるよ 瑞樹:良いの!? 隼斗:男がこんな物を持っていても 隼斗:しょうがねーじゃん 瑞樹:そう? 瑞樹:隼斗くんから初めてもらったプレゼント 瑞樹:一生大切にする 隼斗:い、良いよそんなの。 隼斗:どうせハズレで引いた物なんだから 瑞樹:ふふふっ…(髪につける) 瑞樹:どう? 似合うかな? 隼斗:(嘆息)お、おぉ… 瑞樹:隼斗くん、大丈夫? 瑞樹:顔が真っ赤だよ 隼斗:はぁー!? そんなの、 隼斗:りんご飴食べたせいに決まってんだろ! 瑞樹:ええ?  瑞樹:りんご飴食べたら顔赤くなるの?  瑞樹:初耳だよ 隼斗:おれも、は、初耳だ!  隼斗:次は綿あめ食べるぞ 瑞樹:綿あめは さっき食べたじゃん 隼斗:うるせー。 隼斗:もう一回 食べたいんだよ! 0:瑞樹を置いて走りだす隼斗 瑞樹:隼斗くん待って!  瑞樹:きゃっ!? 0:追いかけようとして転ぶ瑞樹 瑞樹:いたたたっ… 隼斗:(戻って)大丈夫か!? 瑞樹:うん…つまづいただけだから 隼斗:つまづくって、 隼斗:こんな何もないところでか? 瑞樹:私ドジだよねー… 隼斗:ちょっと 足見せてみろ! 瑞樹:やっ… 隼斗:ケガは… 隼斗:(安堵)してないみたいだな。 隼斗:それにしても瑞樹ってよく転ぶよな 瑞樹:歩くのは苦手だから… 隼斗:(笑って)歩くのは苦手って、 隼斗:まるで人魚だな 瑞樹:(驚愕)人魚… 隼斗:瑞稀も知っているだろ? 隼斗:この村に伝わる『人魚伝説』 瑞樹:うん。人魚の肉を食べた人間は 瑞樹:どれだけ年月を重ねても 瑞樹:歳をとることなく 瑞樹:そのままの姿で生き続けるの… 隼斗:それで800歳になったら/ 瑞樹:(遮って)ねぇ! 瑞樹:私いくつに見える? 隼斗:はぁ? なんだよ急に。 隼斗:そうだなー…中学生、いや。 隼斗:小学生って言われても信じるけど 瑞樹:ひどーい 隼斗:じゃあ、いくつに見られたい? 隼斗:永遠の15歳とか? 瑞樹:780歳! 隼斗:780歳!? 瑞樹:そう。私は人魚だから 瑞樹:あと20年しか生きられないの。 瑞樹:これ内緒だからね 隼斗:(笑って)はいはい。 隼斗:馬鹿なこと言ってないで、ほらっ! 瑞樹:いっ、良いよ。 瑞樹:おんぶなんて恥ずかしい 隼斗:歩くのは苦手なんだろう?  隼斗:ほらっ、おぶってやるよ 人魚姫 瑞樹:…では、お言葉に甘えて 隼斗:1、2の3 瑞樹:ていっ(隼斗の背中へジャンプ) 隼斗:おっと(瑞樹を背中でキャッチ) 瑞樹:クンクン 隼斗くんの首もと… 隼斗:うわっ、汗臭いか? 瑞樹:ううん。 瑞樹:甘くてこうばしい香りがして落ち着く 隼斗:そっか。 隼斗:またこうして夏がきたんだな… 瑞樹:(呟き)もう何度目の夏なのかな 隼斗:え? 0:二人の頭上に花火があがる 隼斗:うぉぉぉ。たまやー! 瑞樹:隼斗くん、私、本当は… 隼斗:ん? 何、もう一回言って 瑞樹:ううん、なにも。 瑞樹:珊瑚の髪飾り ありがとう 隼斗:おぉ。た、た、たまやー! 瑞樹:(M)お祭りの翌朝。 瑞樹:私は誰にも別れを告げずに村を去った 瑞樹:何年たっても何百年たっても姿かたち 瑞樹:何一つ変わることのない私は、 瑞樹:転校と引越しを繰り返すことで 瑞樹:誰にも言えない秘密を守り続けていた 0:暗闇と静寂の海 0:人魚の姿で海上を飛び跳ねる瑞樹 瑞樹:(M)それが人魚になった宿命だった 0:【回想おわり】 0:波の音や、船の汽笛が聞こえる海辺を歩く 0:瑞樹(15歳の姿)と隼斗(35) 瑞樹:あの隼斗くんが 瑞樹:中学校の先生になっていたなんて、 瑞樹:びっくり! 隼斗:(咳きこみ)説明してくれ。 隼斗:一体何が どうなってるんだ? 瑞樹:この村にずっといた君なら、 瑞樹:気付いているはずだよ 隼斗:瑞樹は…人魚なのか? 瑞樹:うん 隼斗:信じられない。 隼斗:あれじゃないか、瑞樹の娘とか?  隼斗:そうだ 君は瑞樹の娘なんだろ! 隼斗:それなら瑞樹と瓜二つでもおかしくない 瑞樹:(笑う) 隼斗:違う?  隼斗:じゃあタイムスリップとか? 隼斗:それも違うっていうなら幽霊だろ? 瑞樹:幽霊!?  瑞樹:隼斗先生ー、 瑞樹:そっちの方がよっぽどおかしいです 隼斗:あー… 瑞樹:それに私のお母さんは、 瑞樹:もう何百年も前に亡くなりました 隼斗:…瑞樹は今、何歳なんだ? 瑞樹:いくつに見える? 隼斗:15歳の中学生にしか見えないから 隼斗:聞いてるんだ 瑞樹:隼斗くんだって変わらないよ 隼斗:そんなことはない。 隼斗:もうあれから20年たってんだ。 隼斗:体だって痩せ細っているし 隼斗:ほら、おれの顔よく見てみろ。 隼斗:あのときの親父と一緒 隼斗:青白い顔してるだろ? 瑞樹:…だ、大丈夫だよ。 瑞樹:私だって長生きしたんだから 隼斗:長生きって、どれくらい 瑞樹:もうすぐ800歳 隼斗:800歳って人魚の寿命…? 瑞樹:そう。だから最後に会いに来たの 瑞樹:ずっとこの村で暮らしてたんだね 隼斗:あぁ… 隼斗:瑞樹がいつか 隼斗:帰ってくる気がしてたからな… 瑞樹:え…? 隼斗:おかえり 瑞樹:(涙をこらえて)15歳のとき 瑞樹:人魚の肉を食べたの 隼斗:人魚の肉…? 瑞樹:うん、今からおよそ800年前の話。 瑞樹:漁師だった父が獲った魚の中に混ざっていた人魚の肉を 瑞樹:私だけが食べたみたい 隼斗:そんなことって… 瑞樹:それから元の人間に戻る方法を探して、 瑞樹:全国各地に伝わる人魚伝説や人魚に関する噂がある場所 瑞樹:全て巡ったけど…結局、 瑞樹:人魚の呪いを解くことはできなかった 隼斗:歳をとらない人魚の呪いか… 隼斗:伝説は実在したんだな 瑞樹:でも隼斗くんと出会ったことで 瑞樹:呪いじゃなくなったよ。 瑞樹:だって人魚じゃなかったら 瑞樹:こうして再会できなかったし、 瑞樹:助けることも出来なかった。 瑞樹:だから人魚になれて良かった 隼斗:…助けるって? 瑞樹:ねぇ、隼斗くん。 瑞樹:私を食べて 隼斗:え…? 瑞樹:私を食べて 隼斗:何を…言ってんだ… 瑞樹:人魚になった私の肉を食べて。 瑞樹:そしたら君も、 瑞樹:私と同じように長生きできるから… 隼斗:瑞樹…聞いてくれ。 隼斗:俺は…グァ!? 瑞樹:(M)私は隼斗くんと目線が合うように 瑞樹:力一杯 背伸びをして 瑞樹:右手の人差し指と中指と薬指を 瑞樹:彼の口の中に突っ込んだ 隼斗:瑞樹… 瑞樹:噛んで 隼斗:え… 瑞樹:噛んで 思いっきり! 瑞樹:肉も骨も全部たつくらい 瑞樹:何もかも噛み砕いて 飲み込んで! 隼斗:無理だ 瑞樹:良いから 噛めよ! 隼斗:やめてくれ 瑞樹:噛めー! 隼斗:(嗚咽) 瑞樹:(M)隼斗くんに長生きしてほしかった 瑞樹:大好きなこの人に 瑞樹:長い人生のなかで一番愛したこの人に 瑞樹:800歳まで生きてほしかった。 瑞樹:私が味わってきた怒りと苦しみを 瑞樹:君にも感じてもらいたかったから 隼斗:珊瑚の… 瑞樹:え…? 隼斗:それ… 隼斗:縁日で引いた髪飾りだろ? 瑞樹:!? 隼斗:(激しく咳き込む) 0:隼斗の口から瑞樹の指がぬける 0:隼斗、激しく咳き込み 涙をながす 瑞樹:訳わかんない。 瑞樹:なんで隼斗くんが泣くのよ 隼斗:分からない? 隼斗:瑞樹がいなくなって寂しかったから 隼斗:また会えて凄く嬉しい。 隼斗:だけど誰も想像できない壮絶な人生を 隼斗:瑞樹が送ってきたかと思うと 隼斗:なんていうか言葉が見つからない… 隼斗:すまない 0:瑞樹をのこして歩きだす隼斗 瑞樹:待って…行かないで…… 瑞樹:待って………隼斗くん!! きゃっ 0:転ぶ瑞樹 隼斗:(戻って)大丈夫か!? 瑞樹:うん。つまづいただけだから 瑞樹:(驚愕)あぁ… 隼斗:瑞樹…あ、足が…!? 瑞樹:見ないで! 隼斗:ごめん! 瑞樹:(M)隼斗くんが背中を向けた。 瑞樹:私の足はつま先から太ももにかけて 瑞樹:あっと言う間に魚の尾ひれの形に変わり 瑞樹:歩くどころか もう立ち上がることすらできなかった 隼斗:大丈夫か!?  隼斗:もしまた転んでも 隼斗:おれがおぶってやるからな 瑞樹:あの日。 瑞樹:ハズレをくれた時みたいにかな…? 隼斗:縁日の紐クジ? 瑞樹:りんご飴みたいな 瑞樹:隼斗くんの真っ赤な顔 隼斗:そんなことまで覚えているのか… 瑞樹:覚えているよ。 瑞樹:私は八百年生きたけど、 瑞樹:最後に恋をしたのが君だって言ったら 瑞樹:笑う? 隼斗:ううん。だって今… 隼斗:俺の顔 青白くないと思うからさ 瑞樹:りんご飴みたい? 隼斗:そうかもしれない 瑞樹:君は…長生きしたくないの? 隼斗:長生きしたいよ 瑞樹:じゃあなんで? 隼斗:おれは王子様だから 隼斗:人魚じゃない 瑞樹:え? 隼斗:瑞樹が人魚姫なら、 隼斗:さしずめおれは王子様で良いよな? 瑞樹:イヤだよ、そんな 瑞樹:今にも死にそうな顔した王子様なんて 隼斗:やめろよ。照れるだろ 瑞樹:ほめてないよ 隼斗:だって瑞稀も今、 隼斗:りんご飴みたいな顔してるからさ 瑞樹:してないよ 隼斗:してるよ。耳まで真っ赤だろ 瑞樹:うそ。 瑞樹:背中向けて見えるはずないのに 瑞樹:適当なこと言わないでよ 隼斗:見ないでも分かるよ 瑞樹:私、800歳だよ? 隼斗:だから何?  隼斗:今の時代だと年の差婚って 隼斗:言うみたいだな。 隼斗:いや、何言ってんだか。おれ… 瑞樹:ちょっと。自分で言っといて 瑞樹:恥ずかしがらないでよ! 隼斗:うるせー。 隼斗:あーもう、ほらっ! 瑞樹:(M)隼斗くんはあの時と同じように 瑞樹:背中を向けた状態で膝を曲げ、 瑞樹:両手を後ろにそった。 瑞樹:すると潮の香りに混じって 瑞樹:かすかに甘く香ばしい風がふきよせた 隼斗:ん? どうした? 瑞樹:だから! 瑞樹:こっちだって恥ずかしいんだよ… 隼斗:ほらっ!  隼斗:早くしろよ、人魚姫 瑞樹:うーん… 隼斗:ほらっ! 瑞樹:じゃあ…お言葉に甘えて… 隼斗:1、2の3 瑞樹:隼斗くん、大好き! 0:ジャンプする瑞樹 瑞樹:(M)私は最後の力を振りしぼり 瑞樹:隼斗くんの背中を目がけて 瑞樹:思いっきり跳ねた。 瑞樹:もう一度だけ君に 瑞樹:おんぶしてもらおうと思ったから。 瑞樹:だけど… 0:「ドボンッ!」と、 0:人魚の姿で海に落ちる瑞樹 0:海面にブクブクと泡がわきだす 隼斗:瑞樹…瑞樹!?  隼斗:あ…珊瑚の髪飾り(泣き崩れる) 瑞樹:(M)きっと隼斗くんが 瑞樹:振り向いたときには、 瑞樹:縁日でもらった珊瑚の髪飾りだけが 瑞樹:海に浮いているはず。 瑞樹:800歳になり 瑞樹:寿命を全うした私の体は、 瑞樹:跡形もなく泡となって海に消えたのだ 0:(了)

:タイトル『恋と泡』 瑞樹:(M)私には誰にも言えない秘密がある 0:学校のチャイムが校舎に鳴り響く 0:教室のざわめきの中、ドアが開く 0:中学教師の隼斗(35)が現れる 隼斗:(咳きこみ)お前ら早く席に付け。 隼斗:転校生を紹介するぞ 0:隼斗につづいて 0:瑞樹(15歳の姿)が教室に入る 瑞樹:みなさん、初めまして。 瑞樹:成瀬瑞樹。15歳です 瑞樹:短い間ですがよろしくお願いします 隼斗:ちょっと待て…成瀬瑞樹だと?  隼斗:(咳きこむ) 隼斗:聞いていた名前とは違うが… 瑞樹:自分の名前だから間違えませんよ 隼斗:いや、でも。 隼斗:成瀬瑞樹っていう君と同じ名前の… 隼斗:(目が合って)そんな、 隼斗:見た目もあの頃のままじゃないか… 瑞樹:久しぶりだね 隼斗くん 隼斗:冗談だろ… 瑞樹:(M)隼斗くんと最後に会ったのは 瑞樹:20年前だった 0:【回想】 0:縁日の露店が並ぶ参道を歩く 0:瑞樹(15歳の姿)と隼斗(15) 隼斗:やっぱり受験勉強の息抜きは 隼斗:祭りに限るよなー 瑞樹:来年は隼斗くんも高校生になるんだね 隼斗:何を他人事みたいに言ってるんだよ。 隼斗:瑞樹も同い年なんだから 隼斗:高校に進学だろ? 瑞樹:うん… 隼斗:そういえば瑞樹って、 隼斗:去年の暮れに宮古島からこの村に 隼斗:転校してきたんだよな。 隼斗:もしかして向こうの島に帰るのか? 瑞樹:ううん。 瑞樹:もともと私の生まれは この村だから。 瑞樹:隼斗くんと同じ地元の高校に行くよ 隼斗:(嬉しい)そっか 瑞樹:んんん?  瑞樹:さては私がいなくなったら 瑞樹:君は寂しいのかな? 隼斗:別に寂しくねーよ 瑞樹:えー… 隼斗:全っ然 平気 瑞樹:そうなんだ… 隼斗:でも、いなくなるなよ… 瑞樹:え? 隼斗:ずっとこの村にいるんだろ? 瑞樹:やっぱ寂しいんだ 隼斗:だから寂しくないって 瑞樹:本当に? 隼斗:当たり前じゃん 瑞樹:…ちぇ 隼斗:まぁ…ちょっとは寂しいかも 瑞樹:(笑って)へへへっ 隼斗:ちょっとな。 隼斗:ちょっとだけだからな 瑞樹:うん。 瑞樹:(呟き)でもね、 瑞樹:私のことは忘れていいから 隼斗:ん? なんか言ったか? 瑞樹:ううん…あっ、 瑞樹:さっき何度もくじ引きやっていたけど 瑞樹:何が欲しかったの? 隼斗:最新のゲーム機だよ。 隼斗:でもあの紐、人気の景品には 隼斗:絶対につながってないんだぜ。 隼斗:ほら、見ろよ! 隼斗:屋台のオッサンの あのドヤ顔 瑞樹:オッサンって… 瑞樹:隼斗くんのお父さんでしょ 隼斗:ふん。 隼斗:あんな青白い顔しちゃってさ。 隼斗:(心配)家で寝てりゃ良いのに 瑞樹:おじさん、体調あまり良くないの? 隼斗:知らね。ウチの家系の男は代々 隼斗:命短いんだってよ。 隼斗:ばあちゃんがそう言ってた 瑞樹:じゃあ隼斗くんも… 0:両手をあげて喜ぶ子供が見える 0:隼斗の父親がハンドベルを鳴らしている 隼斗:なにー!? 隼斗:プレイステーションを当てただと!? 瑞樹:すごーい。 瑞樹:ねえ、おじさんも凄く嬉しそうだよ! 隼斗:なんだよ。俺には こんなのしか引かせなかったくせに… 瑞樹:どれどれ? 瑞樹:君は何を引いたのかな〜? 隼斗:これ… 瑞樹:わぁ! キレイ… 瑞樹:珊瑚の髪飾りだ 隼斗:みっ、瑞樹にやるよ 瑞樹:良いの!? 隼斗:男がこんな物を持っていても 隼斗:しょうがねーじゃん 瑞樹:そう? 瑞樹:隼斗くんから初めてもらったプレゼント 瑞樹:一生大切にする 隼斗:い、良いよそんなの。 隼斗:どうせハズレで引いた物なんだから 瑞樹:ふふふっ…(髪につける) 瑞樹:どう? 似合うかな? 隼斗:(嘆息)お、おぉ… 瑞樹:隼斗くん、大丈夫? 瑞樹:顔が真っ赤だよ 隼斗:はぁー!? そんなの、 隼斗:りんご飴食べたせいに決まってんだろ! 瑞樹:ええ?  瑞樹:りんご飴食べたら顔赤くなるの?  瑞樹:初耳だよ 隼斗:おれも、は、初耳だ!  隼斗:次は綿あめ食べるぞ 瑞樹:綿あめは さっき食べたじゃん 隼斗:うるせー。 隼斗:もう一回 食べたいんだよ! 0:瑞樹を置いて走りだす隼斗 瑞樹:隼斗くん待って!  瑞樹:きゃっ!? 0:追いかけようとして転ぶ瑞樹 瑞樹:いたたたっ… 隼斗:(戻って)大丈夫か!? 瑞樹:うん…つまづいただけだから 隼斗:つまづくって、 隼斗:こんな何もないところでか? 瑞樹:私ドジだよねー… 隼斗:ちょっと 足見せてみろ! 瑞樹:やっ… 隼斗:ケガは… 隼斗:(安堵)してないみたいだな。 隼斗:それにしても瑞樹ってよく転ぶよな 瑞樹:歩くのは苦手だから… 隼斗:(笑って)歩くのは苦手って、 隼斗:まるで人魚だな 瑞樹:(驚愕)人魚… 隼斗:瑞稀も知っているだろ? 隼斗:この村に伝わる『人魚伝説』 瑞樹:うん。人魚の肉を食べた人間は 瑞樹:どれだけ年月を重ねても 瑞樹:歳をとることなく 瑞樹:そのままの姿で生き続けるの… 隼斗:それで800歳になったら/ 瑞樹:(遮って)ねぇ! 瑞樹:私いくつに見える? 隼斗:はぁ? なんだよ急に。 隼斗:そうだなー…中学生、いや。 隼斗:小学生って言われても信じるけど 瑞樹:ひどーい 隼斗:じゃあ、いくつに見られたい? 隼斗:永遠の15歳とか? 瑞樹:780歳! 隼斗:780歳!? 瑞樹:そう。私は人魚だから 瑞樹:あと20年しか生きられないの。 瑞樹:これ内緒だからね 隼斗:(笑って)はいはい。 隼斗:馬鹿なこと言ってないで、ほらっ! 瑞樹:いっ、良いよ。 瑞樹:おんぶなんて恥ずかしい 隼斗:歩くのは苦手なんだろう?  隼斗:ほらっ、おぶってやるよ 人魚姫 瑞樹:…では、お言葉に甘えて 隼斗:1、2の3 瑞樹:ていっ(隼斗の背中へジャンプ) 隼斗:おっと(瑞樹を背中でキャッチ) 瑞樹:クンクン 隼斗くんの首もと… 隼斗:うわっ、汗臭いか? 瑞樹:ううん。 瑞樹:甘くてこうばしい香りがして落ち着く 隼斗:そっか。 隼斗:またこうして夏がきたんだな… 瑞樹:(呟き)もう何度目の夏なのかな 隼斗:え? 0:二人の頭上に花火があがる 隼斗:うぉぉぉ。たまやー! 瑞樹:隼斗くん、私、本当は… 隼斗:ん? 何、もう一回言って 瑞樹:ううん、なにも。 瑞樹:珊瑚の髪飾り ありがとう 隼斗:おぉ。た、た、たまやー! 瑞樹:(M)お祭りの翌朝。 瑞樹:私は誰にも別れを告げずに村を去った 瑞樹:何年たっても何百年たっても姿かたち 瑞樹:何一つ変わることのない私は、 瑞樹:転校と引越しを繰り返すことで 瑞樹:誰にも言えない秘密を守り続けていた 0:暗闇と静寂の海 0:人魚の姿で海上を飛び跳ねる瑞樹 瑞樹:(M)それが人魚になった宿命だった 0:【回想おわり】 0:波の音や、船の汽笛が聞こえる海辺を歩く 0:瑞樹(15歳の姿)と隼斗(35) 瑞樹:あの隼斗くんが 瑞樹:中学校の先生になっていたなんて、 瑞樹:びっくり! 隼斗:(咳きこみ)説明してくれ。 隼斗:一体何が どうなってるんだ? 瑞樹:この村にずっといた君なら、 瑞樹:気付いているはずだよ 隼斗:瑞樹は…人魚なのか? 瑞樹:うん 隼斗:信じられない。 隼斗:あれじゃないか、瑞樹の娘とか?  隼斗:そうだ 君は瑞樹の娘なんだろ! 隼斗:それなら瑞樹と瓜二つでもおかしくない 瑞樹:(笑う) 隼斗:違う?  隼斗:じゃあタイムスリップとか? 隼斗:それも違うっていうなら幽霊だろ? 瑞樹:幽霊!?  瑞樹:隼斗先生ー、 瑞樹:そっちの方がよっぽどおかしいです 隼斗:あー… 瑞樹:それに私のお母さんは、 瑞樹:もう何百年も前に亡くなりました 隼斗:…瑞樹は今、何歳なんだ? 瑞樹:いくつに見える? 隼斗:15歳の中学生にしか見えないから 隼斗:聞いてるんだ 瑞樹:隼斗くんだって変わらないよ 隼斗:そんなことはない。 隼斗:もうあれから20年たってんだ。 隼斗:体だって痩せ細っているし 隼斗:ほら、おれの顔よく見てみろ。 隼斗:あのときの親父と一緒 隼斗:青白い顔してるだろ? 瑞樹:…だ、大丈夫だよ。 瑞樹:私だって長生きしたんだから 隼斗:長生きって、どれくらい 瑞樹:もうすぐ800歳 隼斗:800歳って人魚の寿命…? 瑞樹:そう。だから最後に会いに来たの 瑞樹:ずっとこの村で暮らしてたんだね 隼斗:あぁ… 隼斗:瑞樹がいつか 隼斗:帰ってくる気がしてたからな… 瑞樹:え…? 隼斗:おかえり 瑞樹:(涙をこらえて)15歳のとき 瑞樹:人魚の肉を食べたの 隼斗:人魚の肉…? 瑞樹:うん、今からおよそ800年前の話。 瑞樹:漁師だった父が獲った魚の中に混ざっていた人魚の肉を 瑞樹:私だけが食べたみたい 隼斗:そんなことって… 瑞樹:それから元の人間に戻る方法を探して、 瑞樹:全国各地に伝わる人魚伝説や人魚に関する噂がある場所 瑞樹:全て巡ったけど…結局、 瑞樹:人魚の呪いを解くことはできなかった 隼斗:歳をとらない人魚の呪いか… 隼斗:伝説は実在したんだな 瑞樹:でも隼斗くんと出会ったことで 瑞樹:呪いじゃなくなったよ。 瑞樹:だって人魚じゃなかったら 瑞樹:こうして再会できなかったし、 瑞樹:助けることも出来なかった。 瑞樹:だから人魚になれて良かった 隼斗:…助けるって? 瑞樹:ねぇ、隼斗くん。 瑞樹:私を食べて 隼斗:え…? 瑞樹:私を食べて 隼斗:何を…言ってんだ… 瑞樹:人魚になった私の肉を食べて。 瑞樹:そしたら君も、 瑞樹:私と同じように長生きできるから… 隼斗:瑞樹…聞いてくれ。 隼斗:俺は…グァ!? 瑞樹:(M)私は隼斗くんと目線が合うように 瑞樹:力一杯 背伸びをして 瑞樹:右手の人差し指と中指と薬指を 瑞樹:彼の口の中に突っ込んだ 隼斗:瑞樹… 瑞樹:噛んで 隼斗:え… 瑞樹:噛んで 思いっきり! 瑞樹:肉も骨も全部たつくらい 瑞樹:何もかも噛み砕いて 飲み込んで! 隼斗:無理だ 瑞樹:良いから 噛めよ! 隼斗:やめてくれ 瑞樹:噛めー! 隼斗:(嗚咽) 瑞樹:(M)隼斗くんに長生きしてほしかった 瑞樹:大好きなこの人に 瑞樹:長い人生のなかで一番愛したこの人に 瑞樹:800歳まで生きてほしかった。 瑞樹:私が味わってきた怒りと苦しみを 瑞樹:君にも感じてもらいたかったから 隼斗:珊瑚の… 瑞樹:え…? 隼斗:それ… 隼斗:縁日で引いた髪飾りだろ? 瑞樹:!? 隼斗:(激しく咳き込む) 0:隼斗の口から瑞樹の指がぬける 0:隼斗、激しく咳き込み 涙をながす 瑞樹:訳わかんない。 瑞樹:なんで隼斗くんが泣くのよ 隼斗:分からない? 隼斗:瑞樹がいなくなって寂しかったから 隼斗:また会えて凄く嬉しい。 隼斗:だけど誰も想像できない壮絶な人生を 隼斗:瑞樹が送ってきたかと思うと 隼斗:なんていうか言葉が見つからない… 隼斗:すまない 0:瑞樹をのこして歩きだす隼斗 瑞樹:待って…行かないで…… 瑞樹:待って………隼斗くん!! きゃっ 0:転ぶ瑞樹 隼斗:(戻って)大丈夫か!? 瑞樹:うん。つまづいただけだから 瑞樹:(驚愕)あぁ… 隼斗:瑞樹…あ、足が…!? 瑞樹:見ないで! 隼斗:ごめん! 瑞樹:(M)隼斗くんが背中を向けた。 瑞樹:私の足はつま先から太ももにかけて 瑞樹:あっと言う間に魚の尾ひれの形に変わり 瑞樹:歩くどころか もう立ち上がることすらできなかった 隼斗:大丈夫か!?  隼斗:もしまた転んでも 隼斗:おれがおぶってやるからな 瑞樹:あの日。 瑞樹:ハズレをくれた時みたいにかな…? 隼斗:縁日の紐クジ? 瑞樹:りんご飴みたいな 瑞樹:隼斗くんの真っ赤な顔 隼斗:そんなことまで覚えているのか… 瑞樹:覚えているよ。 瑞樹:私は八百年生きたけど、 瑞樹:最後に恋をしたのが君だって言ったら 瑞樹:笑う? 隼斗:ううん。だって今… 隼斗:俺の顔 青白くないと思うからさ 瑞樹:りんご飴みたい? 隼斗:そうかもしれない 瑞樹:君は…長生きしたくないの? 隼斗:長生きしたいよ 瑞樹:じゃあなんで? 隼斗:おれは王子様だから 隼斗:人魚じゃない 瑞樹:え? 隼斗:瑞樹が人魚姫なら、 隼斗:さしずめおれは王子様で良いよな? 瑞樹:イヤだよ、そんな 瑞樹:今にも死にそうな顔した王子様なんて 隼斗:やめろよ。照れるだろ 瑞樹:ほめてないよ 隼斗:だって瑞稀も今、 隼斗:りんご飴みたいな顔してるからさ 瑞樹:してないよ 隼斗:してるよ。耳まで真っ赤だろ 瑞樹:うそ。 瑞樹:背中向けて見えるはずないのに 瑞樹:適当なこと言わないでよ 隼斗:見ないでも分かるよ 瑞樹:私、800歳だよ? 隼斗:だから何?  隼斗:今の時代だと年の差婚って 隼斗:言うみたいだな。 隼斗:いや、何言ってんだか。おれ… 瑞樹:ちょっと。自分で言っといて 瑞樹:恥ずかしがらないでよ! 隼斗:うるせー。 隼斗:あーもう、ほらっ! 瑞樹:(M)隼斗くんはあの時と同じように 瑞樹:背中を向けた状態で膝を曲げ、 瑞樹:両手を後ろにそった。 瑞樹:すると潮の香りに混じって 瑞樹:かすかに甘く香ばしい風がふきよせた 隼斗:ん? どうした? 瑞樹:だから! 瑞樹:こっちだって恥ずかしいんだよ… 隼斗:ほらっ!  隼斗:早くしろよ、人魚姫 瑞樹:うーん… 隼斗:ほらっ! 瑞樹:じゃあ…お言葉に甘えて… 隼斗:1、2の3 瑞樹:隼斗くん、大好き! 0:ジャンプする瑞樹 瑞樹:(M)私は最後の力を振りしぼり 瑞樹:隼斗くんの背中を目がけて 瑞樹:思いっきり跳ねた。 瑞樹:もう一度だけ君に 瑞樹:おんぶしてもらおうと思ったから。 瑞樹:だけど… 0:「ドボンッ!」と、 0:人魚の姿で海に落ちる瑞樹 0:海面にブクブクと泡がわきだす 隼斗:瑞樹…瑞樹!?  隼斗:あ…珊瑚の髪飾り(泣き崩れる) 瑞樹:(M)きっと隼斗くんが 瑞樹:振り向いたときには、 瑞樹:縁日でもらった珊瑚の髪飾りだけが 瑞樹:海に浮いているはず。 瑞樹:800歳になり 瑞樹:寿命を全うした私の体は、 瑞樹:跡形もなく泡となって海に消えたのだ 0:(了)