台本概要
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タイトル | 奪われた船 【2:2:1】 -法外宙域ローヴァーゲイル #6 |
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作者名 | ろくしょうるり (@ruri6syo) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男2、女2、不問1) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
人類の惑星間移民が始まって200。 母星地球を中心に惑星間物流も活発に行われるようになり、多くの『宙運船』が行き交う宇宙。 そんな宙運航路と積み荷の安全を守る、宙運私警団、人呼んで『アブサード』 このシナリオはシリーズシナリオですが、どのシナリオからも読むことができます。 任意ですが、使っていただけたらツイートなどしてくださると嬉しいです 264 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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ナルミ | 女 | 83 | ヒシヤ・ナルミ ある事件でリリを保護した刑事 生真面目 |
若林 | 男 | 74 | ナルミと共にある事件でリリを保護した刑事 明るい性格の若い男性 |
リリ | 女 | 94 | 10歳少女 宙運私警団 ロジー班所属。 かつてある事件でナルミ達に保護された。 トラのぬいぐるみを抱いている |
ロジー | 男 | 133 | 26歳 宙運私警団調査班所属 |
フウガ | 不問 | 66 | 高性能なAI 途中、エキストラのセリフあり |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
フウガ:パーソナリティ・ナンバー AI-68CBC
フウガ:私はフウガ
フウガ:AI思考型クラス・ハイエンド
フウガ:現在、宙運私警団・調査部 ロジー班に所属。 インフィニティ型駆逐船を預かっています
フウガ:しかしながら、私は宇宙航行船舶制御のための機械頭脳ではありません
フウガ:私は、独立型AIです。人格を獲得した『いち個体』です
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リリ:法外宙域ローヴァーゲイル
ロジー:『奪われた船』
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ロジー:エデン本部から出発して今日で10日目かあ。久しぶりだなー、こうして航路を渡るのは。リリも船内活動に慣れてきたし、なんだかキャラバンにいた頃を思い出すよ
フウガ:ロジーは元々宙運キャラバン出身でしたね。私も、久しぶりの長距離航行でした。しかしあと28時間ほどで地球に到達見込みです。ロジー、ナリタ署との連絡は取れましたか?
ロジー:それがなあ。地球との通信圏に入ってから何度も打診してるんだが、どうにもうまくはぐらかされるんだよな
フウガ:宙運私警団に対する地上のイメージは、とても良くないと聞きます。もしこのままアポイントを取れない場合は、じかに訪ねるしかありませんね
ロジー:そんなことしたら余計に印象悪くするだろうなあ
フウガ:再三打診を繰り返す時点で、あちら側としては既に警戒を強めているとみて間違いないでしょうしね
ロジー:だよなぁー! はあ、フウガ、航路の様子はどうだ
フウガ:現在問題は何も発生していません。障害物、エマージェンシー信号、不審船の反応全て無し。運行中の貨物船、旅客船とも皆さん安全航行、順風満帆、リリは現在、よく眠っています
ロジー:そうかあ。平和で何より! あーあ、航路は順調なのに、到着は気が重いよ
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0: - 地球・ナリタ 警察署 -
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ナルミ:はあ、もう…
若林:お帰りなさい。あれ、熊取谷(ひしや)先輩どうかしたんですか
ナルミ:『アブサード』よ。宙運私警団
若林:えっ、また来るんですか。今度はどれが海賊案件です?最近の事件でそれっぽいの心当たりないですけど…
ナルミ:いいえ。そっちは大丈夫
若林:よかったー
ナルミ:宙運私警団、ステイションポートの宇宙港側への常時配備の件!
若林:え、いいじゃないですか。僕は賛成です。いきなり入ってきてこっちの案件を根こそぎ持ってかれたり。ほんとあれ、押し入り強盗です。そういうの減るって事でしょ?…あれ、先輩は反対派?
ナルミ:まさか!私だって早く彼らにポート常駐しにきてほしいわよ。宙運私警がいるってわかれば海賊だって今より大人しくなるはずよ。そうしたらポート内だけじゃなく、ポート近辺での犯罪率も下がる
ナルミ:でも上も、県警全体としてもほぼ反対なのよね。今日も部長に呼び出されて、どういうわけか私が叱られるの
若林:なんですかそれ
ナルミ:メリットあるの、ポート周辺を管轄してるうちの署くらいだからじゃないかしら。署長が上からせっつかれてるんだと思うわ。みんないらついてるのよ
若林:八つ当たり… うーん、できれば関わりたくないですからね。あの人たちとは。僕たちとは感覚が違いすぎるし。僕たちは関係が薄くなって万歳ですけど
ナルミ:まあ、ポート内分署なんかは反対するのはわかる。あの人達と毎日顔合わせるなんて嫌だもの
若林:それにしたって何で先輩が部長に叱られるんですか。ほこ先おかしくないですか?
ナルミ:それがね~… 最近、通信が入ってくるらしいのよ。私あてに
若林:ん、どこからですか?
ナルミ:『アブサード』から
若林:え、どうして
ナルミ:知らないわよ。まだこの署にいるのかって。受付で適当にあしらってくれているみたいだけど。はぁ…私、あの人達に何かしたかしら…
若林:うわっ なんだかおっかないですねそれ
ナルミ:そうなのよ~… ねえ、今まで、人が連れてかれた~、とか、なかったわよね?
若林:あー、映画かなんかでありませんでした? 記憶消されたりとか
ナルミ:いや、さすがにそれはないと思うけど
若林:・・・・僕、午後から外回りですけど…成田山でお守り買ってきましょうか
ナルミ:ちょっとユーセイ君?! 変なフラグ立てようとしないでよ …あーあ
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0: - 215時間前・フウガ船内 -
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リリ:くんれん?
ロジー:ああ。リリは長距離航行には慣れてないだろ
フウガ:そうですね。リリはまだ、宇宙に関わるようになって2年未満。うち、グラビティ変動のある環境、宇宙船内での長期航行経験はほぼ皆無
リリ:うう…
ロジー:どういうわけか本部内のライブラリから消えた『リリの事件』の資料。地球に聞き込みに行くついでに、リリにはもっと宇宙での活動に慣れといた方がいいんじゃないかと思ってる
ロジー:リリはその事件をきっかけに宙運私警に連れてこられたんだよな? それ以前はずっと地球にいたんだろう
リリ:ウン…たぶん、そうだと思う…ここにくるまえのこと、覚えてない…けど
ロジー:ふぅん。じゃ、この機会に本格的にここで活動訓練は必要だな。これから宇宙でやってくなら、いつでもアクティブパスで移動ってわけにもいかない
フウガ:肯定。それは良い提案です
ロジー:今回はアクティブパス航法を使わず高速航路で宙運業者の航行を巡視しながら地球に向かう。片道ざっと12日だな
リリ:12にち…
ロジー:おいおい。ここから地球まで2.9光年、光の速度でも2年10ヶ月ちょいだぞ?それがなんとたったの12日。ちっとも長くないだろ
リリ:うう…そう、だけど…けっこう、とおいんだね
ロジー:フウガのアクティブパスの射程は1光年ちょっとだが、連続ジャンプは負荷が大きすぎる。だから今回は宙運航路の巡視もかねて通常航行で行く。その間リリには宇宙に慣れてもらう。総括の許可も貰ってるぞ
フウガ:わかりました。では24時間ごとに2時間ほどの低グラビティ活動訓練の時間も設けましょう
ロジー:さすがフウガ。わかりが早くて助かる。リリ、こういうわけだ。トラちゃん抱っこしてたら低Gは危ないからな。常に両手は開けとくこと
リリ:うう…、わかった。かんばる。トラちゃんも、コーパイがんばって
フウガ:応援しています、リリ。しかしロジー
ロジー:ん?
フウガ:訓練はともかく、地球での聞き込みはどうでしょうか。対地回収班(たいちかいしゅうはん)により地球にはもう何も残されてはいないはずです
ロジー:確かにな。資料はなんにも残っちゃいないだろうが、まさか担当職員まで回収はしないだろ。まあ、話ができるかどうかは行ってみなけりゃなんとも言えないが
フウガ:私たち宙運私警団への地上でのイメージはたいそう良くないですから、ね
リリ:ごめんなさい…わたし、なにもおぼえてなくて
ロジー:リリ、別にお前だけの為じゃないんだ。なんで事件の資料が無いのかも調べなきゃいけないしな
フウガ:消された、ロックされている、もしくは元々無かった。この3つの可能性がありますが
ロジー:どちらにしても不自然だ。リリがここにいる以上、メイヤード総括がリリの存在をいつどうやって知ったのかって事だよ。普通、地球のただの小さい女の子を連れてくると思うか?
フウガ:そうですね。総括はあなたの過去とリリの何かを結びつけていると見ることができますからね
ロジー:総括を疑いたくはないけどな。何か思惑があるのは最初からわかってた。しかしおれの過去を結びつけてなんになる? それを隠すのはなぜだ?
リリ:『ローヴァーゲイルは…しね…』
ロジー:そう。総括はその、リリの背中に書かれた言葉を知っている。けど、おれのいたキャラバンと総括が元々懇意だったとは思えない
フウガ:現状確定できるものは何もないですが、そのリリの背に書かれた言葉とこの事件の詳細が何かしらのキーであると見ることができます
フウガ:わかっているのは日本・ナリタ署管内の事件である可能性が極めて高い、ということだけです。これはリリの出身地記載による見当地ですが
ロジー:よし、地球通信圏内に入ったら、ナリタ署とやらにアポイント取らなきゃな。うまくいくといいんだか
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若林:はい! 刑事部捜1(けいじぶ そういち)5班 …あ、はい。おります
若林:ヒシヤせんぱーい、内線2です
ナルミ:私? 誰から …って、まさか
若林:はい。宙運私警団からだそうです。 じゃ僕外回りに行ってきます! 成田山にも寄ってきます先輩
ナルミ:ちょちょ、ユーセイくーん?!
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リリ:うん、 うん じゃあ、あしたの、おひるすぎだったらいい? ありがとう、おねえさん じゃあ、またね!
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リリ:やくそく、できたよ。あしたのおひるすぎだって
ロジー:ははぁー、最初からこうすればよかったのか
フウガ:そういうわけにもいかないでしょう
ロジー:それはまあ、そうなんだが。 しかし明日かー。それまではゲートを通過する船でも眺めてるか
フウガ:現在の所、不審船は … いえ、ロジー
ロジー:ん?どうした、フウガ
フウガ:宇宙軍船籍の大型母艦および小型のフリゲート、2隻です。前方11時。じきに目視できます
ロジー:宇宙軍の?なんでこんな所に…なにか告知出てるか?
フウガ:いいえ。航行、訓練とも告知はありません
ロジー:嫌な感じだな。小さい方の型式は?
フウガ:タイプA-02 FFD(エー オーツー エフエフディー)
ロジー:オーツーか
リリ:オーツーがた、たしか、ほかく、だほ(拿捕)がたフリゲート。なかでもFFDはトップスピードさいそく、こがたでこまわりがきいて…たしかつうしょう、『ハウンドラプター』
フウガ:よく勉強していますね、リリ。その通りです
ロジー:『狩る鷲(ワシ)』ねえ。こんなところで一体何を狩るつもりなんだか…
フウガ:そしてもう一隻は…
ロジー:見えてる。あれはわかる。…『ロードナイト』だ
フウガ:ですね。わたしたちの忌むべき船です
リリ:ロード、ナイト?
フウガ:いくら宇宙軍船籍であっても航路上の不審船です。ロジー、どうしますか?
ロジー:ああ、打診してくれ、フウガ
フウガ:了解しました
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リリ:あ… 消えちゃう… ロジー、『ロードナイト』、この空間からりだつするよ
フウガ:こちらの信号は遮蔽されました
ロジー:ちっ、他の巡視チームに報告しといてくれ
フウガ:了解 ハウンドラプターは無回答 動きに注意し航行します。15カウント秒後に左手側を通過しますよ。交差距離20キロ
リリ:ロジー、わたし、いってこようか?
ロジー:やめとけ。今は宇宙軍と事を構えないほうがいい
フウガ:通過します
ロジー:通り過ぎたらテールでも点滅させとけ
フウガ:了解 他、航行中の船舶に警戒エリア信号を発令しました
ロジー:ああ
リリ:フウガ、ロジー、『ロードナイト』って? 『いむべきふね』って?
フウガ:私の口からはそれを言うことができません。ロジー、お願いします
ロジー:フウガ…
フウガ:私はこの件を沈黙します
ロジー:はあ… わかったよ
ロジー:ロードナイト。あれは元々、こっちの船だったんだ
リリ:こっちの、ふね?
ロジー:ああ。宙運私警団の。宙運連が総力を挙げて開発、造船した大型母船。最高のAIが統括する、移動本部基地ともいえる多機能ステーションを備えた護衛船、になるはずだった
リリ:ちゅううんれんが、つくった… さいこうの、AI…
ロジー:そ。だけど、とられちまったのさ。あいつらに
リリ:どうして
ロジー:さあな。宇宙軍よりも強い船だったんじゃないか?ああして使ってる所を見ると。民間企業が武装しすぎるなって言いながら召し上げて行ったらしい
リリ:ひどい。かいぞくは、どんどん強くなっていくのに
ロジー:ああ
リリ:あっ
ロジー:ん、どうした
リリ:ハウンドラプターも、りだつしていくね…
フウガ:? リリ。わかるのですか
リリ:え? …ウン だって音が… する、でしょう?
ロジー:なんだって? 音?
フウガ:いいえ。音波は宇宙空間では伝達しません。外の空間は無音の世界です
リリ:そう、なの? ロジーもきこえない? おおきいアクティブパスが、ひらくおと
ロジー:あ、ああ。空気が無ければそもそも音は発生しないし、伝わることもないからな
フウガ:なるほど。これもまた『トラちゃん』の力なのでしょうね。それよりも通過したのちすぐに離脱。またしても不穏当ですね
ロジー:ああ。フウガ、警戒しとけ
フウガ:了解です
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ナルミ:驚いたわりりちゃん。宙運私警団にいたなんて
リリ:うん、ほら、トラちゃんもげんきだよ!
ナルミ:わあ、まだ持っててくれてたんだ、そのトラのぬいぐるみ
リリ:ウン、トラちゃんのおきにいりなの。わたしも、おきにいりだよ!
ナルミ:あら、嬉しいわ
ロジー:フウガ、そっちの様子はどうだ?
フウガ:異常なし。宇宙軍の艦影無し。警戒しつつゲート監視を続けます。そちらはいかがですか、ロジー
ロジー:あー… とてつもなくアウェーって感じだな。リリは警察のお姉さんと楽しそうだよ
フウガ:そうですか。それはよかったです
ナルミ:ちょっと、何をコソコソ喋ってるんですか!
ロジー:ひいっ 何でもないですよ。ポートゲートを監視している仲間と連絡を取っただけです
ナルミ:そもそも何のつもりですか、子供をダシにするなんて!
ロジー:ダシって… おーいリリ、こちらのお姉さん、なんか怖いんだが
リリ:だいじょうぶだよ、おねえさん。ロジーはわたしと、『かぞく』なの
ナルミ:家族?
リリ:そう。ロジーはわたしの、かぞくなの
ロジー:リリ…お前
ナルミ:あらー、そうだったの… お父さんができたのね。よかったわね、りりちゃん
リリ:おとう、さん…? ううん、ちがうよ? ロジーは、ちゅううんしけいだんで、かいぞくつぶしをやってる、かぞく
ナルミ:あ、そ、そうなの
ロジー:あー、宙運私警団、調査班のロジー・ガーウィンです。おれにとっちゃ、チームは家族と一緒ですよ
リリ:ふふ。トラちゃんもだよ!
若林:お茶お持ちしました。あ、あれ? ヒシヤ先輩、この子、あの時の?
ナルミ:そうよ。山本りりちゃん
若林:え、そう… ですか
ナルミ:何かおかしい?
若林:いや、全然変わってないなって。今10歳ですよね。確かにあの時よりは痩せた感じじゃなくなりましたけど
ナルミ:あー、そうね… でも
若林:あっ、ただ驚いただけです。親戚の子供なんか、3年もしたらびっくりするくらい大きくなってるから
リリ:! おにいさんもわたしをしってるの?
ナルミ:ええ、私と一緒にあなたを保護したおまわりさんよ。 それにしてもユーセイ君、年齢までよくはっきり覚えてたわね
若林:ヒシヤ先輩がりりちゃんと会うって聞いて、昨日からあの事件のメモを見返してたんですよ。なんだか懐かしい、っていうのもおかしいですけど
ロジー:え、メモがあるんですか?!
若林:わっ! はい。僕の初めての海賊案件だったので、アブサー…あ、宙運私警の人たちが捜査資料を全部持って行った後、覚え書きとして…
ロジー:(かぶせて)やった! それ、見せてもらえますか
若林:う、うわあっ、えっこれ、持ってかれちゃうやつですか?!
ナルミ:個人的な覚え書きは捜査資料と同様の内容です! そこまで取り上げなくてもいいでしょう?!
ロジー:あっつ! お茶こぼれ っ、いやいや、見せてくれるだけで充分ですよ、おれたち回収班じゃないんで!
リリ:あ、あのね、おねえさん、おにいさん
ナルミ:ん
リリ:わたし、わたしのことがしりたくて、きたの。だから…
ナルミ:そっか… 何も覚えてなかった、のよね
リリ:…ウン
若林:…だとしたら、これは見ない方がいいよ、りりちゃん。悲しいことがたくさん書いてあるから
リリ:しってる。でも、しりたい。なにか、おもいだせるかも、しれない
ロジー:そのメモ、おれにだけ見せてもらうこともできませんか? その事件について、どうしても調べなきゃいけないことがあるんです
ナルミ:っ、やっぱりダシじゃないですか! あなたは自分の目的のためにりりちゃんの辛い記憶を引き出そうとしてる。違いますか?!
ロジー:! それは
リリ:わたしが、わたしがしりたいの! ロジーの「かぞく」は、わたしのせいで…! だから
ロジー:いいんだリリ。 確かに …その通りだ。あなたの言うとおりです。おれは、おれの目的のためにリリの記憶を使おうとしてました。…こめんな、リリ
リリ:ロジー…
ロジー:ほら、帰るぞ
リリ:…いや
ロジー:リリが辛い思いをすることじゃない。また別の方面からアプローチできるさ
リリ:いや。かえらない。あのね、おねえさん、わたしね、わたしのことがしりたいの!
ロジー:リリ、無理するな
リリ:でも… わたし、ロジーのやくにたちたい!
ロジー:リリ
リリ:わたし、いっしょうけんめい、がんばるよ。でも… みんなのやくに、たてない。わたし、ロジーとフウガを、こまらせてばっかり。ロジー、わたしに、ごめんなっていってくれる
リリ:でも、わるいのは、わたし。…なにも、おぼえてないのも、そう
リリ:…ほんとは、できることがあるのに …おぼえて…ないから、…やくにたててない、まま
ロジー:そんな事ない。リリ、お前は
リリ:だからね、おねえさん、ロジーは、わたしをだしになんかしてないよ! だしにしてるのは、わたし… わたし、やっと、じぶんのことがしりたいって、おもえたの
リリ:ロジーのおかげだよ。せなかのこわいもじのこと、ちゃんとしりたいって
リリ:パパと… ママ… すんでたおうちを、みてみたい… まえだったら、こわかった。でも、いまは、ロジーと、フウガが、いてくれる、から
ナルミ:りりちゃん…
若林:いいじゃないですか!先輩!
ナルミ:ユーセイ君… て、何?! 泣いてんの
若林:ううっ、ぐすっ だって、あの時のあの子がですよ? こんなっ、精一杯! 前に進もうとしてるんですよ!? 先輩はあっ ぐすっ 何も思わないんですかああ!
ナルミ:え、あ、あの、ユーセイ君落ち着いて?
若林:ロジーさん、ぐしゅっ このメモ、ぜひつかってくださあああい(号泣)
ロジー:うわっ! あ、ありがとう、ございます あの、大丈夫ですか?
若林:だいじょうぶでええす(号泣)
ロジー:あー、ええっとー、元気出して、な、鼻かむか?
若林:うう゛っ ずみまぜ!
ナルミ:ロジーとフウガがいてくれるから、か …そうね、わかったわ。りりちゃん、おうち、行ってみる?
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リリ:… ここ?
ナルミ:ええ、そうよ
リリ:・・・・・
ロジー:リリ、何か感じるか?
リリ:ううん。なんにも。でも、わたし、ここに…いたんだね。なか、はいっても、いい?
ナルミ:ええ、いいわよ
リリ:… おうち。 ここがわたしの、おうち。トラちゃんは、おぼえてる? ねるへや… だいどころ… ここ…は…?
若林:奥の小さい納戸…
ナルミ:ドアにカギがつけられてる、わね
リリ:わからない、けど、ここがきっと… わたしのいた、へや… だよね… トラちゃん
ナルミ:りりちゃん…
若林:あれ、ロジーさんは?
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ロジー:ここでリリの両親が、か それにしても…うーん
若林:ロジーさん、ここにいたんですね
ロジー:ああ、早速メモを活用させてもらってる。ここで、リリの両親が倒れていたので間違いないか?
若林:はい。この部屋に二人とも。頸動脈をエネルギーガンで撃ち抜かれてたって言うんですけど…そんなことってできますかね
ロジー:エネルギーガンで撃たれて? 家の壁がぶち抜かれたようには見えないな
若林:ですよね
ロジー:それはそうと、宙運連の調査班、誰が来てた?
若林:誰…って言われても… ちょっと名前までは。事件発生の5日後くらいに、5人だか6人? 突然来て資料と物証を全部持って行ったんですよね…
ロジー:その後現場見に来なかった?
若林:いえ。僕は知らないです
ロジー:そう、か やっぱり …うーん
若林:どうしたんですか?
ロジー:例えばそこの棚に缶みたいなものが置いてあるだろう?
若林:あー、はい。あの丸い、うすべったいやつですか?
ロジー:あれは、特殊な信号を発する通信システムの端末なんだ。裏取引の奴らがよく利用してる。対地監査部ってところがこういう地上の事件を担当してるんだが、彼らがあれを見落とすとは思えない。
ロジー:他にも普通なら回収するべきものがそのままになってる。つまり、宙運私警団が調査に入ったようには見えないんだ
若林:そう、なんですね…ってあれ? 誰も調べに来ないって、おかしいですよね? 調べるために、こっちから洗いざらい持って行ったんでしょう?
ロジー:ああ。特に、リリの両親のような『ホシ屋』の取引網は、宙運船と取引先にとって重要な情報だ。そのために回収班は地上の皆さんに嫌われてもがんばってくれてるんだ。調べないわけがない
若林:あ、嫌われてる自覚、あったんですね
ロジー:はは。対地監査部は正直、おれも苦手なんだよなぁー! いつもピリピリしてる。ま、彼らも仕事に一生懸命なだけなんだ。勘弁してやってくれ
若林:ええっと… こういう時、なんて言うんでしたっけ。 …善処します
ロジー:参ったね。おれからも伝えとくよ。もうちょっとソフトにできないかって
若林:それは、もしできるならよろしくお願いします
ロジー:(それにしてもおかしい…資料を持ってったのは本当にうちの回収班か? しかしメイヤード総括は恐らくこの事件の詳細を知っている。でなればリリがここにいるはずがない)
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ナルミ:なに、ここ… ここがりりちゃんのいた…部屋? トランク… 工具…? いえ、盗みの道具ね… そして、これは…ショートクロウ…
リリ:・・・・・ なにか、わかる? トラちゃん…
ロジー:リリ、どうだ? 何か思い出せたか?
リリ:あ、ロジー… ううん… なんにも… でも、たぶん… ここがわたしのいたへや、だとおもう
ロジー:そっか
リリ:ロジー… ごめんなさい
ロジー:いや。そうでもないさ。リリが思い出せなくても、この家のほうがいろんな事を覚えてる。おかげで少し、真実に近づけそうだ
リリ:そう、なの… ・・・あっ!
ロジー:どうした、リリ!
リリ:フウガ、きこえる?! よけてっ!
ロジー:なな、なんだ突然?! リリ、どうしたって
リリ:パスゲートがちかくでひらくよ!
ナルミ:りりちゃん、急にどうしたの?!
リリ:おねえさん、ありがとう。わたし、かえるね!
ナルミ:えっ、えっ?りりちゃん?
ロジー:待て待てリリ、フウガとは常に交信状態だ
フウガ:そうですよ。今機内に戻るのは危険です。お二人はそこで待っていてください
リリ:フウガ!
フウガ:危ないところでした。リリが教えてくれなければ捉えられていたでしょう
リリ:よかった
ロジー:どうしたフウガ、何があった
フウガ:わたしは現在、日本上空でハウンドラプターに襲撃されています
ロジー:何だって?!
フウガ:先ほどハウンドラプターからのロードアウト・アタックを仕掛けられ、現在正面で対峙中。ロードナイトに信号を出したのは軽率でしたね。この機体が私であると解析されたのでしょう。私の判断ミスでした
ロジー:ちいっ すまん、フウガ
ナルミ:一体なんなんですか、急に
ロジー:すみません、上に残してきた仲間が襲撃を受けています
若林:襲撃?!
ロジー:リリ、とりあえず外に出るぞ!
リリ:ウン!
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ロジー:うおっ、すごいな
ナルミ:なに、この空… こんな色、見たことない…
若林:うわあ、写真撮ろ
ロジー:アクティブパスが大気に干渉してるのか? フウガ大丈夫か、高度が低すぎないか?!
フウガ:私ではありません。ハウンドラプトルが大出力でロードアウト・アタックを繰り返しています。なんとか回避していますが、こちらからは手を出せないのでいかんともしがたいですね
ロジー:なんでわざわざロードアウト・アタック… 普通に攻撃しては来ないのか?
フウガ:恐らく、事故に偽装したいのでしょう。なんとしてでも… くっ!
リリ:フウガ わっ!
ナルミ:きゃっ、雷
若林:違います、多分攻撃が当たったんですよ
ロジー:おいフウガ、…おいっ
リリ:今すごいおとがしたよ! ぶつかった?!
フウガ:左側面に軽微な損傷。大丈夫、かすり傷です。航行には支障ありません。が、腹が立ちますね!
ナルミ:一体何がどうなってるんですか、襲撃って、海賊でしょう? 仲間には一旦地球上空から離れてもらえないんですか
若林:そうですよ、また攻撃が当たって墜落でもしたら…
ロジー:(頷く)フウガ! 一旦離脱だ!フルパワーで最大ジャンプ
フウガ:そうしたいのはやまやまなのですが ! だめです。こちらのパスゲートは相殺されます
リリ:だめ… ゲートがひらくおとがおおきすぎて、ハウンドラプターがどこからでてくるのかわからなくなっちゃった… うう、がんばって、フウガ…
若林:ハウンドラプター?! って、国連宇宙軍の?!
ナルミ:え?! 宇宙軍?
若林:エー オーツー エフエフディー 拿捕装備型フリゲート艦の中で最速、槍のような黒いボディがカッコいいんですよぉー!
ナルミ:ユーセイくん、そういうの好きだったんだ… で、なんで宇宙軍に追われてるんですか。何かかやらかしたんじゃないんですか
ロジー:いやいや、やらかしてるのは完全にあっちですって
ナルミ:逮捕します
ロジー:ええー!
リリ:おねえさん、どうして!
ナルミ:国連宇宙軍が拿捕しようとするって、そういうことでしょう。ロジー・ガーウィンさん、あなたを逮捕し宇宙軍に引き渡します
若林:やっばりアブサード…なんですね… ロジーさん、ちょっといい人だと思ったのに
ナルミ:そうね… 残念だわ
ロジー:ちょ、ちょちょッ! それはないでしょう!
リリ:そうだよ、ひどいよ! フウガもロジーも、なんにも悪いことしてない!
ナルミ:りりちゃん、だまされちゃだめよ。宇宙軍は、何もしてない人を捕まえたりしない。それに、宇宙軍に抵抗して今、ここを危険にさらしているのは事実なのよ
ロジー:おれたちは、…宙運連は、宇宙軍に捕まるわけにはいかないんです。詳しく話せませんがこれはおれたちがどうこうじゃなく、宙運連と宇宙軍、組織同士の問題なんです
ナルミ:そんなこと言われても、今それを証明できなければ
フウガ:くっ、いけません! ハウンドラプターは私を大気圏内に追い込む作戦に切り替えたようです
フウガ:たった今、ハウンドラプターからのアクティブパスゲートに捕まりましたが、なんとか相殺して脱出。しかし高度が1000km以上降下しました
ロジー:なんだって?!
ナルミ:何を話してるんですか!
ロジー:その『宇宙軍』は、うちの機体を『ここに堕とす』気満々だそうですよ。大気圏内に向かい追い立てられているそうです
若林:ええっ
リリ:たいきけんにはいると、フウガ、どうなっちゃうの?
ロジー:フウガの機体は飛行機みたいな翼は無い。真空を飛ぶ宇宙専用機なんだ。つまり
若林:地球の重力に捕まってしまったら、空中での揚力を得られないで… 墜落する?!
リリ:! でも、でもフウガには疑似グラビティがあるよね?!
ロジー:地上でフウガが浮いていられるような疑似グラビティを発生させたら、それこそ街は滅茶苦茶だ
ナルミ:そんな! 嘘でしょ、宇宙軍はどうしてそんな危険な…!
ロジー:だから言ってるでしょう。組織間の問題だからです。どうしてもこちらの事故、過失に仕立てなければならない事情が向こうにはあるし、こっちはこっちで応戦できない
ロジー:お互い、そんな事をしたら宇宙戦争が始まっちまうってわかってるんですよ、わかるでしょう
ナルミ:そんな …でも!
フウガ:ナリタ・ステイション・ポート管制室に落下物警報準備を通達しました。墜ちるつもりはないですがね
リリ:フウガ、がんばって!
ロジー:とにかく! まずは住人を避難させてくれ。おれたちはなんとしても墜落を阻止する。万一墜ちたとしてもなるだけ被害のない外洋に
リリ:おねえさん、おにいさん! フウガはかならずなんとかするから
ナルミ:…っ
若林:先輩、行きましょう
ナルミ:わかったわ
ロジー:(二人を見送る間)っと!
ロジー:さて、どうするかな!
フウガ:ここは逃げの一手を打ちたいところですが
ロジー:しかしどうやって
リリ:そうだフウガ …おちて!
ロジー:墜ちろって、どういうことだよリリ!
フウガ:! なるほど、ハウンドラプターは大気圏に墜落する私を追ってはこられない
ロジー:そうか! 大気中で飛べないのはあっちも同じ
リリ:うん、そしたらアクティブパス、じゃまされない、でひらける!
ロジー:なるほど。一旦向こうの思惑通り墜落したと見せかけて、そこから遠くに脱出ってわけか
フウガ:考えましたね。しかしそれには問題があります
ロジー:なんだ
フウガ:大気圏内、気密状態でない空間でアクティブパスを使用した場合、周囲の大気そのものをゲート内に吸引します。するとそのポイントで爆発的な気圧低下が起き、地上では巨大竜巻が発生するおそれがあります
ロジー:それは、まずいな。地上で大災害が起きるならそのまま墜落するのと変わらない
リリ:ううっ… まって。かんがえる… フウガだけが、アクティブパスくうかんに… はいれれば…
ロジー:リリ?
リリ:うん、トラちゃん… それなら … こう、 かな … うん! いける! …フウガ、『おとす』よ! トラちゃん、お願い
フウガ:『堕とす』? わたしを、ですか?
リリ:ウン! トラちゃんといっしょにね!
ロジー:リリ! 何を…ってええ?! トラちゃんぬいぐるみのおなかが破けた! て、そ、それは… え、 銃…、のおもちゃ…?
リリ:うん。これがわたしの… 『トラちゃん』
ロジー:中にそんなものが入ってたのか… で、そのおもちゃの銃で何するつもりだ、リリ
リリ:フウガを… うつ!
ロジー:いくらなんでもリリ、それは
リリ:だいじょうぶ… フウガとトラちゃんは、もうつながってる。はずさないよ
ロジー:リリ、いくら何でも無理だ、フウガ墜ちるな!
リリ:リ・レイ・アチャ・ノウラ…
フウガ:フウガ機、機体とAIユニットの操舵(そうだ)連携が突然解除されました。現在機体はコントロールを失っています
リリ:ひかりのいとでむすばれしものよ…
ロジー:なんだって?! フウガ、高度は
フウガ:現在距離735キロメートル。まだこの機体が地球へ落下する高度ではありません、が
ロジー:が?
フウガ:第一宇宙速度で大気圏へ猛接近中
ロジー:第一宇宙速度だって?!
フウガ:このままでは92秒後に地表へ衝突します。落下物警報Eを発動。世界規模のアラートです
ロジー:せ、世界規模
リリ:だいじょうぶ
ロジー:リリ! やめてくれ、このままじゃ
リリ:おねがい、ロジー、フウガ、しんじて。 …むかえにいって! ぬいぐるみのトラちゃん!
ロジー:迎えに? って、ぬいぐるみが空に打ち上がったぁ?!
0:
ナルミ:っ! 緊急避難アラート!
若林:先輩、空が!
ナルミ:な、なにあれ… 空全体が…燃えてるみたい
0:
リリ:フウガ、わたしのばしょ、わかる? とうたつまでのカウント、だして!
フウガ:通信端末の位置は常に補足しています。おや、ロジーと随分… いえ、了解しました あと32秒
リリ:わかった。ロジー、めをつぶってしゅうちゅうして… フウガといっしょにカウントして!
ロジー:あ、ああ
リリ:ぜったいに、めをあけちゃだめだよ!
0:
若林:見てくださいあの光の球! 墜ちてくるんだ…いくらアブサードって言ったって、やっぱり宇宙軍の… ハウンドラプター相手に逃げ切るなんて…
ナルミ:大気圏に突入した?! 光がどんどん大きくなってく…!
若林:すごい早さで墜ちてきてるんです… これじゃ、もう
ナルミ:なによ、外洋に堕とすんじゃなかったの?! ぜんっぜんダメじゃない
0:
フウガ:ポイント到達まで、あと10秒
ロジー:…8、 7、 6、 5、 4、 3、 2 …
リリ:フウガ、いくよ、トラちゃん!!
0:
若林:… あ、あれじゃ外洋に堕としたって… どこに隠れたって生き残れるかどうか… はっ、お守り、成田山のお守り!!
ナルミ:な、なに言ってるのよ、ユーセイ君! 私たちがしっかりしなきゃ
若林:先輩だってお守り、スッゴい勢いで握りしめてるじゃないですかあっ!!
0:(間)
0:(間)
ナルミ:・・・・・
若林:・・・・・
ナルミ:あ、あれ
若林:なんとも…ない…
ナルミ:え?
若林:え?
ナルミ:え?
若林:え?
ナルミ:まさか
若林:お守りの
ナルミ:力?
若林:いや
ナルミ:まさかねー…
0:
ロジー:…っ な、なんだ? 静かになっ…
リリ:ロジー! ぬいぐるみのトラちゃん、うけとめて!
ロジー:う、うわ、空からトラちゃんがあ?! もふっ
リリ:ロジー、ナイスキャッチ
ロジー:リリ、一体何が起きたんだ。フウガは
リリ:ウン、いそいでフウガのところにもどるよ、ロジー!
ロジー:あ、ああ?
リリ:トラちゃん!
0:
リリ:ただいまフウガ! だいじょうぶ?
ロジー:フウガ無事か! ハウンドラプターは って、あ、あれ。宙運航路の入り口ゲートが見える…ここ、もといたゲートの近くなのか?!
リリ:ウン、この『トラちゃん』でね、パスゲートをだんがんにしてうちだして、フウガをここにひきもどしたの
フウガ:おや、それは。見たところ原始的な構造の簡素なモデルガンのようですが
ロジー:おもちゃっていったほうがいいぜ、フウガ。これが、『トラちゃん』なんだってさ
リリ:そう。『トラウィス』。トラちゃんだよ。いつもは、ぬいぐるみのトラちゃんのおなかにしまってるの。それよりフウガ、ハウンドラプターはまだちかくにいるはず。だからはやくいまのうちに…
フウガ:ああ、それならば大丈夫です。ハウンドラプターなら、今頃ナリタ沖200kmほどの海上にゆったりと浮かんでいることでしょう
リリ:えっ
ロジー:ど、どういうことだ?
フウガ:リリが私を『堕とした』際、ハウンドラプターのアクティブパスのエネルギー圧が僅かな間、相殺されたのです。リリの力なのかははっきりと言えませんが
ロジー:おお
フウガ:その隙に、私を追跡してくるハウンドラプターの正面にパスゲートを開き、そっと海の上に浮かべてあげました。咄嗟の判断でしたが、我ながらよくできました
リリ:ふわぁ…
フウガ:アラートも派手に出しましたし、これで墜落は宇宙軍のハウンドラプトルと認識されます。あれだけ派手な天空スペクタクルを見せておいて、何もなかったでは逆に不審がられるでしょう?
ロジー:あ、ああ… フウガ、お前・・・・・
ロジー:こわ!!
フウガ:いいえ。怖いのはこれからですよ、ロジー。私たちは帰って、この件を総括に報告しなければなりません
ロジー:ああああ。そうだったああああ
リリ:また、おこられるかも
フウガ:しかし私は、とても嬉しいです。私は、このチームでよかった。でなければ、今頃私は宇宙軍に囚われ、この上ない屈辱を受けていたことでしょう
ロジー:フウガ…
フウガ:私はここが好きです
フウガ:ロジー、リリ、あなたたちと共にある私が、その日常が、とても好きです。私をただの道具として見ない、扱わない、宙運私警団のAIであること。それが、今の私をかたちづくる誇り、なのです
リリ:フウガ、よかったね
フウガ:ええ。だから、これからもよろしくお願いしますよ、二人とも
ロジー:はは。なんだかこそばゆいな
リリ:わたしも。 …わたしもすきだよ! ここにいるわたし。ロジーとフウガといっしょにいるまいにち。だから、わたしもよろしくね!
0:
0: - 数日後 ナリタ署-
0:
若林:見ました? 宇宙軍の謝罪会見
ナルミ:墜ちたのは、宇宙軍の軍艦の方だったなんてね。しかも、沖合200キロ。津波の発生も無し。被害ゼロ。あの状況で平穏な日常に戻れたなんて。あの時はもうおしまいかと思ったわ
若林:あの人達、一体何をどうしたんですかね。ロジーさんのお仲間は宇宙軍より強かった、って事ですよね
ナルミ:でも、本当によかった
若林:そうですね… そういえば、先輩、知ってます?
ナルミ:何を?
若林:僕たちはあの瞬間、つい訓練通り頭を護る姿勢を取ってて何も見てないですけど
ナルミ:ええ。 しかもお守り握ってね
若林:(笑)で、その僕らがお守り握ってうずくまってるまさにその時! 黒い稲妻が天に向かって迸(ほとばし)るのを見た、っていう人が何人もいるんです
ナルミ:黒い稲妻?
若林:写真撮った人もいて、ウェブに上がってるんですけど…
ナルミ:どれどれ。あ、これね。 うわ、すごい… よく撮ったわねこの人
若林:すごいですよね~。で、ここ、稲妻のてっぺんのちょっと上、なんかちっちゃい点があるでしょ
ナルミ:あるわね
若林:なんだろなー、と思って僕、拡大して画像処理してみたんですよね
ナルミ:あなた暇ねえ。職務はどうしたの
若林:で、これなんですけど…
ナルミ:え
若林:ね、これ、アレですよね
ナルミ:ええ… たしかに、アレ、だわ
若林:ここは、せーの、で言いましょうか
ナルミ:そうね。じゃ、私がせーのって言うわよ
若林:はい
ナルミ:せーの!
若林:『トラのぬいぐるみ』!
ナルミ:『トラのぬいぐるみ』!
0:
0: -法外宙域ローヴァーゲイル『奪われた船』 ・ 終 -
0:
フウガ:パーソナリティ・ナンバー AI-68CBC
フウガ:私はフウガ
フウガ:AI思考型クラス・ハイエンド
フウガ:現在、宙運私警団・調査部 ロジー班に所属。 インフィニティ型駆逐船を預かっています
フウガ:しかしながら、私は宇宙航行船舶制御のための機械頭脳ではありません
フウガ:私は、独立型AIです。人格を獲得した『いち個体』です
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リリ:法外宙域ローヴァーゲイル
ロジー:『奪われた船』
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ロジー:エデン本部から出発して今日で10日目かあ。久しぶりだなー、こうして航路を渡るのは。リリも船内活動に慣れてきたし、なんだかキャラバンにいた頃を思い出すよ
フウガ:ロジーは元々宙運キャラバン出身でしたね。私も、久しぶりの長距離航行でした。しかしあと28時間ほどで地球に到達見込みです。ロジー、ナリタ署との連絡は取れましたか?
ロジー:それがなあ。地球との通信圏に入ってから何度も打診してるんだが、どうにもうまくはぐらかされるんだよな
フウガ:宙運私警団に対する地上のイメージは、とても良くないと聞きます。もしこのままアポイントを取れない場合は、じかに訪ねるしかありませんね
ロジー:そんなことしたら余計に印象悪くするだろうなあ
フウガ:再三打診を繰り返す時点で、あちら側としては既に警戒を強めているとみて間違いないでしょうしね
ロジー:だよなぁー! はあ、フウガ、航路の様子はどうだ
フウガ:現在問題は何も発生していません。障害物、エマージェンシー信号、不審船の反応全て無し。運行中の貨物船、旅客船とも皆さん安全航行、順風満帆、リリは現在、よく眠っています
ロジー:そうかあ。平和で何より! あーあ、航路は順調なのに、到着は気が重いよ
0:
0: - 地球・ナリタ 警察署 -
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ナルミ:はあ、もう…
若林:お帰りなさい。あれ、熊取谷(ひしや)先輩どうかしたんですか
ナルミ:『アブサード』よ。宙運私警団
若林:えっ、また来るんですか。今度はどれが海賊案件です?最近の事件でそれっぽいの心当たりないですけど…
ナルミ:いいえ。そっちは大丈夫
若林:よかったー
ナルミ:宙運私警団、ステイションポートの宇宙港側への常時配備の件!
若林:え、いいじゃないですか。僕は賛成です。いきなり入ってきてこっちの案件を根こそぎ持ってかれたり。ほんとあれ、押し入り強盗です。そういうの減るって事でしょ?…あれ、先輩は反対派?
ナルミ:まさか!私だって早く彼らにポート常駐しにきてほしいわよ。宙運私警がいるってわかれば海賊だって今より大人しくなるはずよ。そうしたらポート内だけじゃなく、ポート近辺での犯罪率も下がる
ナルミ:でも上も、県警全体としてもほぼ反対なのよね。今日も部長に呼び出されて、どういうわけか私が叱られるの
若林:なんですかそれ
ナルミ:メリットあるの、ポート周辺を管轄してるうちの署くらいだからじゃないかしら。署長が上からせっつかれてるんだと思うわ。みんないらついてるのよ
若林:八つ当たり… うーん、できれば関わりたくないですからね。あの人たちとは。僕たちとは感覚が違いすぎるし。僕たちは関係が薄くなって万歳ですけど
ナルミ:まあ、ポート内分署なんかは反対するのはわかる。あの人達と毎日顔合わせるなんて嫌だもの
若林:それにしたって何で先輩が部長に叱られるんですか。ほこ先おかしくないですか?
ナルミ:それがね~… 最近、通信が入ってくるらしいのよ。私あてに
若林:ん、どこからですか?
ナルミ:『アブサード』から
若林:え、どうして
ナルミ:知らないわよ。まだこの署にいるのかって。受付で適当にあしらってくれているみたいだけど。はぁ…私、あの人達に何かしたかしら…
若林:うわっ なんだかおっかないですねそれ
ナルミ:そうなのよ~… ねえ、今まで、人が連れてかれた~、とか、なかったわよね?
若林:あー、映画かなんかでありませんでした? 記憶消されたりとか
ナルミ:いや、さすがにそれはないと思うけど
若林:・・・・僕、午後から外回りですけど…成田山でお守り買ってきましょうか
ナルミ:ちょっとユーセイ君?! 変なフラグ立てようとしないでよ …あーあ
0:
0: - 215時間前・フウガ船内 -
0:
リリ:くんれん?
ロジー:ああ。リリは長距離航行には慣れてないだろ
フウガ:そうですね。リリはまだ、宇宙に関わるようになって2年未満。うち、グラビティ変動のある環境、宇宙船内での長期航行経験はほぼ皆無
リリ:うう…
ロジー:どういうわけか本部内のライブラリから消えた『リリの事件』の資料。地球に聞き込みに行くついでに、リリにはもっと宇宙での活動に慣れといた方がいいんじゃないかと思ってる
ロジー:リリはその事件をきっかけに宙運私警に連れてこられたんだよな? それ以前はずっと地球にいたんだろう
リリ:ウン…たぶん、そうだと思う…ここにくるまえのこと、覚えてない…けど
ロジー:ふぅん。じゃ、この機会に本格的にここで活動訓練は必要だな。これから宇宙でやってくなら、いつでもアクティブパスで移動ってわけにもいかない
フウガ:肯定。それは良い提案です
ロジー:今回はアクティブパス航法を使わず高速航路で宙運業者の航行を巡視しながら地球に向かう。片道ざっと12日だな
リリ:12にち…
ロジー:おいおい。ここから地球まで2.9光年、光の速度でも2年10ヶ月ちょいだぞ?それがなんとたったの12日。ちっとも長くないだろ
リリ:うう…そう、だけど…けっこう、とおいんだね
ロジー:フウガのアクティブパスの射程は1光年ちょっとだが、連続ジャンプは負荷が大きすぎる。だから今回は宙運航路の巡視もかねて通常航行で行く。その間リリには宇宙に慣れてもらう。総括の許可も貰ってるぞ
フウガ:わかりました。では24時間ごとに2時間ほどの低グラビティ活動訓練の時間も設けましょう
ロジー:さすがフウガ。わかりが早くて助かる。リリ、こういうわけだ。トラちゃん抱っこしてたら低Gは危ないからな。常に両手は開けとくこと
リリ:うう…、わかった。かんばる。トラちゃんも、コーパイがんばって
フウガ:応援しています、リリ。しかしロジー
ロジー:ん?
フウガ:訓練はともかく、地球での聞き込みはどうでしょうか。対地回収班(たいちかいしゅうはん)により地球にはもう何も残されてはいないはずです
ロジー:確かにな。資料はなんにも残っちゃいないだろうが、まさか担当職員まで回収はしないだろ。まあ、話ができるかどうかは行ってみなけりゃなんとも言えないが
フウガ:私たち宙運私警団への地上でのイメージはたいそう良くないですから、ね
リリ:ごめんなさい…わたし、なにもおぼえてなくて
ロジー:リリ、別にお前だけの為じゃないんだ。なんで事件の資料が無いのかも調べなきゃいけないしな
フウガ:消された、ロックされている、もしくは元々無かった。この3つの可能性がありますが
ロジー:どちらにしても不自然だ。リリがここにいる以上、メイヤード総括がリリの存在をいつどうやって知ったのかって事だよ。普通、地球のただの小さい女の子を連れてくると思うか?
フウガ:そうですね。総括はあなたの過去とリリの何かを結びつけていると見ることができますからね
ロジー:総括を疑いたくはないけどな。何か思惑があるのは最初からわかってた。しかしおれの過去を結びつけてなんになる? それを隠すのはなぜだ?
リリ:『ローヴァーゲイルは…しね…』
ロジー:そう。総括はその、リリの背中に書かれた言葉を知っている。けど、おれのいたキャラバンと総括が元々懇意だったとは思えない
フウガ:現状確定できるものは何もないですが、そのリリの背に書かれた言葉とこの事件の詳細が何かしらのキーであると見ることができます
フウガ:わかっているのは日本・ナリタ署管内の事件である可能性が極めて高い、ということだけです。これはリリの出身地記載による見当地ですが
ロジー:よし、地球通信圏内に入ったら、ナリタ署とやらにアポイント取らなきゃな。うまくいくといいんだか
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若林:はい! 刑事部捜1(けいじぶ そういち)5班 …あ、はい。おります
若林:ヒシヤせんぱーい、内線2です
ナルミ:私? 誰から …って、まさか
若林:はい。宙運私警団からだそうです。 じゃ僕外回りに行ってきます! 成田山にも寄ってきます先輩
ナルミ:ちょちょ、ユーセイくーん?!
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リリ:うん、 うん じゃあ、あしたの、おひるすぎだったらいい? ありがとう、おねえさん じゃあ、またね!
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リリ:やくそく、できたよ。あしたのおひるすぎだって
ロジー:ははぁー、最初からこうすればよかったのか
フウガ:そういうわけにもいかないでしょう
ロジー:それはまあ、そうなんだが。 しかし明日かー。それまではゲートを通過する船でも眺めてるか
フウガ:現在の所、不審船は … いえ、ロジー
ロジー:ん?どうした、フウガ
フウガ:宇宙軍船籍の大型母艦および小型のフリゲート、2隻です。前方11時。じきに目視できます
ロジー:宇宙軍の?なんでこんな所に…なにか告知出てるか?
フウガ:いいえ。航行、訓練とも告知はありません
ロジー:嫌な感じだな。小さい方の型式は?
フウガ:タイプA-02 FFD(エー オーツー エフエフディー)
ロジー:オーツーか
リリ:オーツーがた、たしか、ほかく、だほ(拿捕)がたフリゲート。なかでもFFDはトップスピードさいそく、こがたでこまわりがきいて…たしかつうしょう、『ハウンドラプター』
フウガ:よく勉強していますね、リリ。その通りです
ロジー:『狩る鷲(ワシ)』ねえ。こんなところで一体何を狩るつもりなんだか…
フウガ:そしてもう一隻は…
ロジー:見えてる。あれはわかる。…『ロードナイト』だ
フウガ:ですね。わたしたちの忌むべき船です
リリ:ロード、ナイト?
フウガ:いくら宇宙軍船籍であっても航路上の不審船です。ロジー、どうしますか?
ロジー:ああ、打診してくれ、フウガ
フウガ:了解しました
0:
リリ:あ… 消えちゃう… ロジー、『ロードナイト』、この空間からりだつするよ
フウガ:こちらの信号は遮蔽されました
ロジー:ちっ、他の巡視チームに報告しといてくれ
フウガ:了解 ハウンドラプターは無回答 動きに注意し航行します。15カウント秒後に左手側を通過しますよ。交差距離20キロ
リリ:ロジー、わたし、いってこようか?
ロジー:やめとけ。今は宇宙軍と事を構えないほうがいい
フウガ:通過します
ロジー:通り過ぎたらテールでも点滅させとけ
フウガ:了解 他、航行中の船舶に警戒エリア信号を発令しました
ロジー:ああ
リリ:フウガ、ロジー、『ロードナイト』って? 『いむべきふね』って?
フウガ:私の口からはそれを言うことができません。ロジー、お願いします
ロジー:フウガ…
フウガ:私はこの件を沈黙します
ロジー:はあ… わかったよ
ロジー:ロードナイト。あれは元々、こっちの船だったんだ
リリ:こっちの、ふね?
ロジー:ああ。宙運私警団の。宙運連が総力を挙げて開発、造船した大型母船。最高のAIが統括する、移動本部基地ともいえる多機能ステーションを備えた護衛船、になるはずだった
リリ:ちゅううんれんが、つくった… さいこうの、AI…
ロジー:そ。だけど、とられちまったのさ。あいつらに
リリ:どうして
ロジー:さあな。宇宙軍よりも強い船だったんじゃないか?ああして使ってる所を見ると。民間企業が武装しすぎるなって言いながら召し上げて行ったらしい
リリ:ひどい。かいぞくは、どんどん強くなっていくのに
ロジー:ああ
リリ:あっ
ロジー:ん、どうした
リリ:ハウンドラプターも、りだつしていくね…
フウガ:? リリ。わかるのですか
リリ:え? …ウン だって音が… する、でしょう?
ロジー:なんだって? 音?
フウガ:いいえ。音波は宇宙空間では伝達しません。外の空間は無音の世界です
リリ:そう、なの? ロジーもきこえない? おおきいアクティブパスが、ひらくおと
ロジー:あ、ああ。空気が無ければそもそも音は発生しないし、伝わることもないからな
フウガ:なるほど。これもまた『トラちゃん』の力なのでしょうね。それよりも通過したのちすぐに離脱。またしても不穏当ですね
ロジー:ああ。フウガ、警戒しとけ
フウガ:了解です
0:
0:
ナルミ:驚いたわりりちゃん。宙運私警団にいたなんて
リリ:うん、ほら、トラちゃんもげんきだよ!
ナルミ:わあ、まだ持っててくれてたんだ、そのトラのぬいぐるみ
リリ:ウン、トラちゃんのおきにいりなの。わたしも、おきにいりだよ!
ナルミ:あら、嬉しいわ
ロジー:フウガ、そっちの様子はどうだ?
フウガ:異常なし。宇宙軍の艦影無し。警戒しつつゲート監視を続けます。そちらはいかがですか、ロジー
ロジー:あー… とてつもなくアウェーって感じだな。リリは警察のお姉さんと楽しそうだよ
フウガ:そうですか。それはよかったです
ナルミ:ちょっと、何をコソコソ喋ってるんですか!
ロジー:ひいっ 何でもないですよ。ポートゲートを監視している仲間と連絡を取っただけです
ナルミ:そもそも何のつもりですか、子供をダシにするなんて!
ロジー:ダシって… おーいリリ、こちらのお姉さん、なんか怖いんだが
リリ:だいじょうぶだよ、おねえさん。ロジーはわたしと、『かぞく』なの
ナルミ:家族?
リリ:そう。ロジーはわたしの、かぞくなの
ロジー:リリ…お前
ナルミ:あらー、そうだったの… お父さんができたのね。よかったわね、りりちゃん
リリ:おとう、さん…? ううん、ちがうよ? ロジーは、ちゅううんしけいだんで、かいぞくつぶしをやってる、かぞく
ナルミ:あ、そ、そうなの
ロジー:あー、宙運私警団、調査班のロジー・ガーウィンです。おれにとっちゃ、チームは家族と一緒ですよ
リリ:ふふ。トラちゃんもだよ!
若林:お茶お持ちしました。あ、あれ? ヒシヤ先輩、この子、あの時の?
ナルミ:そうよ。山本りりちゃん
若林:え、そう… ですか
ナルミ:何かおかしい?
若林:いや、全然変わってないなって。今10歳ですよね。確かにあの時よりは痩せた感じじゃなくなりましたけど
ナルミ:あー、そうね… でも
若林:あっ、ただ驚いただけです。親戚の子供なんか、3年もしたらびっくりするくらい大きくなってるから
リリ:! おにいさんもわたしをしってるの?
ナルミ:ええ、私と一緒にあなたを保護したおまわりさんよ。 それにしてもユーセイ君、年齢までよくはっきり覚えてたわね
若林:ヒシヤ先輩がりりちゃんと会うって聞いて、昨日からあの事件のメモを見返してたんですよ。なんだか懐かしい、っていうのもおかしいですけど
ロジー:え、メモがあるんですか?!
若林:わっ! はい。僕の初めての海賊案件だったので、アブサー…あ、宙運私警の人たちが捜査資料を全部持って行った後、覚え書きとして…
ロジー:(かぶせて)やった! それ、見せてもらえますか
若林:う、うわあっ、えっこれ、持ってかれちゃうやつですか?!
ナルミ:個人的な覚え書きは捜査資料と同様の内容です! そこまで取り上げなくてもいいでしょう?!
ロジー:あっつ! お茶こぼれ っ、いやいや、見せてくれるだけで充分ですよ、おれたち回収班じゃないんで!
リリ:あ、あのね、おねえさん、おにいさん
ナルミ:ん
リリ:わたし、わたしのことがしりたくて、きたの。だから…
ナルミ:そっか… 何も覚えてなかった、のよね
リリ:…ウン
若林:…だとしたら、これは見ない方がいいよ、りりちゃん。悲しいことがたくさん書いてあるから
リリ:しってる。でも、しりたい。なにか、おもいだせるかも、しれない
ロジー:そのメモ、おれにだけ見せてもらうこともできませんか? その事件について、どうしても調べなきゃいけないことがあるんです
ナルミ:っ、やっぱりダシじゃないですか! あなたは自分の目的のためにりりちゃんの辛い記憶を引き出そうとしてる。違いますか?!
ロジー:! それは
リリ:わたしが、わたしがしりたいの! ロジーの「かぞく」は、わたしのせいで…! だから
ロジー:いいんだリリ。 確かに …その通りだ。あなたの言うとおりです。おれは、おれの目的のためにリリの記憶を使おうとしてました。…こめんな、リリ
リリ:ロジー…
ロジー:ほら、帰るぞ
リリ:…いや
ロジー:リリが辛い思いをすることじゃない。また別の方面からアプローチできるさ
リリ:いや。かえらない。あのね、おねえさん、わたしね、わたしのことがしりたいの!
ロジー:リリ、無理するな
リリ:でも… わたし、ロジーのやくにたちたい!
ロジー:リリ
リリ:わたし、いっしょうけんめい、がんばるよ。でも… みんなのやくに、たてない。わたし、ロジーとフウガを、こまらせてばっかり。ロジー、わたしに、ごめんなっていってくれる
リリ:でも、わるいのは、わたし。…なにも、おぼえてないのも、そう
リリ:…ほんとは、できることがあるのに …おぼえて…ないから、…やくにたててない、まま
ロジー:そんな事ない。リリ、お前は
リリ:だからね、おねえさん、ロジーは、わたしをだしになんかしてないよ! だしにしてるのは、わたし… わたし、やっと、じぶんのことがしりたいって、おもえたの
リリ:ロジーのおかげだよ。せなかのこわいもじのこと、ちゃんとしりたいって
リリ:パパと… ママ… すんでたおうちを、みてみたい… まえだったら、こわかった。でも、いまは、ロジーと、フウガが、いてくれる、から
ナルミ:りりちゃん…
若林:いいじゃないですか!先輩!
ナルミ:ユーセイ君… て、何?! 泣いてんの
若林:ううっ、ぐすっ だって、あの時のあの子がですよ? こんなっ、精一杯! 前に進もうとしてるんですよ!? 先輩はあっ ぐすっ 何も思わないんですかああ!
ナルミ:え、あ、あの、ユーセイ君落ち着いて?
若林:ロジーさん、ぐしゅっ このメモ、ぜひつかってくださあああい(号泣)
ロジー:うわっ! あ、ありがとう、ございます あの、大丈夫ですか?
若林:だいじょうぶでええす(号泣)
ロジー:あー、ええっとー、元気出して、な、鼻かむか?
若林:うう゛っ ずみまぜ!
ナルミ:ロジーとフウガがいてくれるから、か …そうね、わかったわ。りりちゃん、おうち、行ってみる?
0:
0:
0:
リリ:… ここ?
ナルミ:ええ、そうよ
リリ:・・・・・
ロジー:リリ、何か感じるか?
リリ:ううん。なんにも。でも、わたし、ここに…いたんだね。なか、はいっても、いい?
ナルミ:ええ、いいわよ
リリ:… おうち。 ここがわたしの、おうち。トラちゃんは、おぼえてる? ねるへや… だいどころ… ここ…は…?
若林:奥の小さい納戸…
ナルミ:ドアにカギがつけられてる、わね
リリ:わからない、けど、ここがきっと… わたしのいた、へや… だよね… トラちゃん
ナルミ:りりちゃん…
若林:あれ、ロジーさんは?
0:
ロジー:ここでリリの両親が、か それにしても…うーん
若林:ロジーさん、ここにいたんですね
ロジー:ああ、早速メモを活用させてもらってる。ここで、リリの両親が倒れていたので間違いないか?
若林:はい。この部屋に二人とも。頸動脈をエネルギーガンで撃ち抜かれてたって言うんですけど…そんなことってできますかね
ロジー:エネルギーガンで撃たれて? 家の壁がぶち抜かれたようには見えないな
若林:ですよね
ロジー:それはそうと、宙運連の調査班、誰が来てた?
若林:誰…って言われても… ちょっと名前までは。事件発生の5日後くらいに、5人だか6人? 突然来て資料と物証を全部持って行ったんですよね…
ロジー:その後現場見に来なかった?
若林:いえ。僕は知らないです
ロジー:そう、か やっぱり …うーん
若林:どうしたんですか?
ロジー:例えばそこの棚に缶みたいなものが置いてあるだろう?
若林:あー、はい。あの丸い、うすべったいやつですか?
ロジー:あれは、特殊な信号を発する通信システムの端末なんだ。裏取引の奴らがよく利用してる。対地監査部ってところがこういう地上の事件を担当してるんだが、彼らがあれを見落とすとは思えない。
ロジー:他にも普通なら回収するべきものがそのままになってる。つまり、宙運私警団が調査に入ったようには見えないんだ
若林:そう、なんですね…ってあれ? 誰も調べに来ないって、おかしいですよね? 調べるために、こっちから洗いざらい持って行ったんでしょう?
ロジー:ああ。特に、リリの両親のような『ホシ屋』の取引網は、宙運船と取引先にとって重要な情報だ。そのために回収班は地上の皆さんに嫌われてもがんばってくれてるんだ。調べないわけがない
若林:あ、嫌われてる自覚、あったんですね
ロジー:はは。対地監査部は正直、おれも苦手なんだよなぁー! いつもピリピリしてる。ま、彼らも仕事に一生懸命なだけなんだ。勘弁してやってくれ
若林:ええっと… こういう時、なんて言うんでしたっけ。 …善処します
ロジー:参ったね。おれからも伝えとくよ。もうちょっとソフトにできないかって
若林:それは、もしできるならよろしくお願いします
ロジー:(それにしてもおかしい…資料を持ってったのは本当にうちの回収班か? しかしメイヤード総括は恐らくこの事件の詳細を知っている。でなればリリがここにいるはずがない)
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ナルミ:なに、ここ… ここがりりちゃんのいた…部屋? トランク… 工具…? いえ、盗みの道具ね… そして、これは…ショートクロウ…
リリ:・・・・・ なにか、わかる? トラちゃん…
ロジー:リリ、どうだ? 何か思い出せたか?
リリ:あ、ロジー… ううん… なんにも… でも、たぶん… ここがわたしのいたへや、だとおもう
ロジー:そっか
リリ:ロジー… ごめんなさい
ロジー:いや。そうでもないさ。リリが思い出せなくても、この家のほうがいろんな事を覚えてる。おかげで少し、真実に近づけそうだ
リリ:そう、なの… ・・・あっ!
ロジー:どうした、リリ!
リリ:フウガ、きこえる?! よけてっ!
ロジー:なな、なんだ突然?! リリ、どうしたって
リリ:パスゲートがちかくでひらくよ!
ナルミ:りりちゃん、急にどうしたの?!
リリ:おねえさん、ありがとう。わたし、かえるね!
ナルミ:えっ、えっ?りりちゃん?
ロジー:待て待てリリ、フウガとは常に交信状態だ
フウガ:そうですよ。今機内に戻るのは危険です。お二人はそこで待っていてください
リリ:フウガ!
フウガ:危ないところでした。リリが教えてくれなければ捉えられていたでしょう
リリ:よかった
ロジー:どうしたフウガ、何があった
フウガ:わたしは現在、日本上空でハウンドラプターに襲撃されています
ロジー:何だって?!
フウガ:先ほどハウンドラプターからのロードアウト・アタックを仕掛けられ、現在正面で対峙中。ロードナイトに信号を出したのは軽率でしたね。この機体が私であると解析されたのでしょう。私の判断ミスでした
ロジー:ちいっ すまん、フウガ
ナルミ:一体なんなんですか、急に
ロジー:すみません、上に残してきた仲間が襲撃を受けています
若林:襲撃?!
ロジー:リリ、とりあえず外に出るぞ!
リリ:ウン!
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ロジー:うおっ、すごいな
ナルミ:なに、この空… こんな色、見たことない…
若林:うわあ、写真撮ろ
ロジー:アクティブパスが大気に干渉してるのか? フウガ大丈夫か、高度が低すぎないか?!
フウガ:私ではありません。ハウンドラプトルが大出力でロードアウト・アタックを繰り返しています。なんとか回避していますが、こちらからは手を出せないのでいかんともしがたいですね
ロジー:なんでわざわざロードアウト・アタック… 普通に攻撃しては来ないのか?
フウガ:恐らく、事故に偽装したいのでしょう。なんとしてでも… くっ!
リリ:フウガ わっ!
ナルミ:きゃっ、雷
若林:違います、多分攻撃が当たったんですよ
ロジー:おいフウガ、…おいっ
リリ:今すごいおとがしたよ! ぶつかった?!
フウガ:左側面に軽微な損傷。大丈夫、かすり傷です。航行には支障ありません。が、腹が立ちますね!
ナルミ:一体何がどうなってるんですか、襲撃って、海賊でしょう? 仲間には一旦地球上空から離れてもらえないんですか
若林:そうですよ、また攻撃が当たって墜落でもしたら…
ロジー:(頷く)フウガ! 一旦離脱だ!フルパワーで最大ジャンプ
フウガ:そうしたいのはやまやまなのですが ! だめです。こちらのパスゲートは相殺されます
リリ:だめ… ゲートがひらくおとがおおきすぎて、ハウンドラプターがどこからでてくるのかわからなくなっちゃった… うう、がんばって、フウガ…
若林:ハウンドラプター?! って、国連宇宙軍の?!
ナルミ:え?! 宇宙軍?
若林:エー オーツー エフエフディー 拿捕装備型フリゲート艦の中で最速、槍のような黒いボディがカッコいいんですよぉー!
ナルミ:ユーセイくん、そういうの好きだったんだ… で、なんで宇宙軍に追われてるんですか。何かかやらかしたんじゃないんですか
ロジー:いやいや、やらかしてるのは完全にあっちですって
ナルミ:逮捕します
ロジー:ええー!
リリ:おねえさん、どうして!
ナルミ:国連宇宙軍が拿捕しようとするって、そういうことでしょう。ロジー・ガーウィンさん、あなたを逮捕し宇宙軍に引き渡します
若林:やっばりアブサード…なんですね… ロジーさん、ちょっといい人だと思ったのに
ナルミ:そうね… 残念だわ
ロジー:ちょ、ちょちょッ! それはないでしょう!
リリ:そうだよ、ひどいよ! フウガもロジーも、なんにも悪いことしてない!
ナルミ:りりちゃん、だまされちゃだめよ。宇宙軍は、何もしてない人を捕まえたりしない。それに、宇宙軍に抵抗して今、ここを危険にさらしているのは事実なのよ
ロジー:おれたちは、…宙運連は、宇宙軍に捕まるわけにはいかないんです。詳しく話せませんがこれはおれたちがどうこうじゃなく、宙運連と宇宙軍、組織同士の問題なんです
ナルミ:そんなこと言われても、今それを証明できなければ
フウガ:くっ、いけません! ハウンドラプターは私を大気圏内に追い込む作戦に切り替えたようです
フウガ:たった今、ハウンドラプターからのアクティブパスゲートに捕まりましたが、なんとか相殺して脱出。しかし高度が1000km以上降下しました
ロジー:なんだって?!
ナルミ:何を話してるんですか!
ロジー:その『宇宙軍』は、うちの機体を『ここに堕とす』気満々だそうですよ。大気圏内に向かい追い立てられているそうです
若林:ええっ
リリ:たいきけんにはいると、フウガ、どうなっちゃうの?
ロジー:フウガの機体は飛行機みたいな翼は無い。真空を飛ぶ宇宙専用機なんだ。つまり
若林:地球の重力に捕まってしまったら、空中での揚力を得られないで… 墜落する?!
リリ:! でも、でもフウガには疑似グラビティがあるよね?!
ロジー:地上でフウガが浮いていられるような疑似グラビティを発生させたら、それこそ街は滅茶苦茶だ
ナルミ:そんな! 嘘でしょ、宇宙軍はどうしてそんな危険な…!
ロジー:だから言ってるでしょう。組織間の問題だからです。どうしてもこちらの事故、過失に仕立てなければならない事情が向こうにはあるし、こっちはこっちで応戦できない
ロジー:お互い、そんな事をしたら宇宙戦争が始まっちまうってわかってるんですよ、わかるでしょう
ナルミ:そんな …でも!
フウガ:ナリタ・ステイション・ポート管制室に落下物警報準備を通達しました。墜ちるつもりはないですがね
リリ:フウガ、がんばって!
ロジー:とにかく! まずは住人を避難させてくれ。おれたちはなんとしても墜落を阻止する。万一墜ちたとしてもなるだけ被害のない外洋に
リリ:おねえさん、おにいさん! フウガはかならずなんとかするから
ナルミ:…っ
若林:先輩、行きましょう
ナルミ:わかったわ
ロジー:(二人を見送る間)っと!
ロジー:さて、どうするかな!
フウガ:ここは逃げの一手を打ちたいところですが
ロジー:しかしどうやって
リリ:そうだフウガ …おちて!
ロジー:墜ちろって、どういうことだよリリ!
フウガ:! なるほど、ハウンドラプターは大気圏に墜落する私を追ってはこられない
ロジー:そうか! 大気中で飛べないのはあっちも同じ
リリ:うん、そしたらアクティブパス、じゃまされない、でひらける!
ロジー:なるほど。一旦向こうの思惑通り墜落したと見せかけて、そこから遠くに脱出ってわけか
フウガ:考えましたね。しかしそれには問題があります
ロジー:なんだ
フウガ:大気圏内、気密状態でない空間でアクティブパスを使用した場合、周囲の大気そのものをゲート内に吸引します。するとそのポイントで爆発的な気圧低下が起き、地上では巨大竜巻が発生するおそれがあります
ロジー:それは、まずいな。地上で大災害が起きるならそのまま墜落するのと変わらない
リリ:ううっ… まって。かんがえる… フウガだけが、アクティブパスくうかんに… はいれれば…
ロジー:リリ?
リリ:うん、トラちゃん… それなら … こう、 かな … うん! いける! …フウガ、『おとす』よ! トラちゃん、お願い
フウガ:『堕とす』? わたしを、ですか?
リリ:ウン! トラちゃんといっしょにね!
ロジー:リリ! 何を…ってええ?! トラちゃんぬいぐるみのおなかが破けた! て、そ、それは… え、 銃…、のおもちゃ…?
リリ:うん。これがわたしの… 『トラちゃん』
ロジー:中にそんなものが入ってたのか… で、そのおもちゃの銃で何するつもりだ、リリ
リリ:フウガを… うつ!
ロジー:いくらなんでもリリ、それは
リリ:だいじょうぶ… フウガとトラちゃんは、もうつながってる。はずさないよ
ロジー:リリ、いくら何でも無理だ、フウガ墜ちるな!
リリ:リ・レイ・アチャ・ノウラ…
フウガ:フウガ機、機体とAIユニットの操舵(そうだ)連携が突然解除されました。現在機体はコントロールを失っています
リリ:ひかりのいとでむすばれしものよ…
ロジー:なんだって?! フウガ、高度は
フウガ:現在距離735キロメートル。まだこの機体が地球へ落下する高度ではありません、が
ロジー:が?
フウガ:第一宇宙速度で大気圏へ猛接近中
ロジー:第一宇宙速度だって?!
フウガ:このままでは92秒後に地表へ衝突します。落下物警報Eを発動。世界規模のアラートです
ロジー:せ、世界規模
リリ:だいじょうぶ
ロジー:リリ! やめてくれ、このままじゃ
リリ:おねがい、ロジー、フウガ、しんじて。 …むかえにいって! ぬいぐるみのトラちゃん!
ロジー:迎えに? って、ぬいぐるみが空に打ち上がったぁ?!
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ナルミ:っ! 緊急避難アラート!
若林:先輩、空が!
ナルミ:な、なにあれ… 空全体が…燃えてるみたい
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リリ:フウガ、わたしのばしょ、わかる? とうたつまでのカウント、だして!
フウガ:通信端末の位置は常に補足しています。おや、ロジーと随分… いえ、了解しました あと32秒
リリ:わかった。ロジー、めをつぶってしゅうちゅうして… フウガといっしょにカウントして!
ロジー:あ、ああ
リリ:ぜったいに、めをあけちゃだめだよ!
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若林:見てくださいあの光の球! 墜ちてくるんだ…いくらアブサードって言ったって、やっぱり宇宙軍の… ハウンドラプター相手に逃げ切るなんて…
ナルミ:大気圏に突入した?! 光がどんどん大きくなってく…!
若林:すごい早さで墜ちてきてるんです… これじゃ、もう
ナルミ:なによ、外洋に堕とすんじゃなかったの?! ぜんっぜんダメじゃない
0:
フウガ:ポイント到達まで、あと10秒
ロジー:…8、 7、 6、 5、 4、 3、 2 …
リリ:フウガ、いくよ、トラちゃん!!
0:
若林:… あ、あれじゃ外洋に堕としたって… どこに隠れたって生き残れるかどうか… はっ、お守り、成田山のお守り!!
ナルミ:な、なに言ってるのよ、ユーセイ君! 私たちがしっかりしなきゃ
若林:先輩だってお守り、スッゴい勢いで握りしめてるじゃないですかあっ!!
0:(間)
0:(間)
ナルミ:・・・・・
若林:・・・・・
ナルミ:あ、あれ
若林:なんとも…ない…
ナルミ:え?
若林:え?
ナルミ:え?
若林:え?
ナルミ:まさか
若林:お守りの
ナルミ:力?
若林:いや
ナルミ:まさかねー…
0:
ロジー:…っ な、なんだ? 静かになっ…
リリ:ロジー! ぬいぐるみのトラちゃん、うけとめて!
ロジー:う、うわ、空からトラちゃんがあ?! もふっ
リリ:ロジー、ナイスキャッチ
ロジー:リリ、一体何が起きたんだ。フウガは
リリ:ウン、いそいでフウガのところにもどるよ、ロジー!
ロジー:あ、ああ?
リリ:トラちゃん!
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リリ:ただいまフウガ! だいじょうぶ?
ロジー:フウガ無事か! ハウンドラプターは って、あ、あれ。宙運航路の入り口ゲートが見える…ここ、もといたゲートの近くなのか?!
リリ:ウン、この『トラちゃん』でね、パスゲートをだんがんにしてうちだして、フウガをここにひきもどしたの
フウガ:おや、それは。見たところ原始的な構造の簡素なモデルガンのようですが
ロジー:おもちゃっていったほうがいいぜ、フウガ。これが、『トラちゃん』なんだってさ
リリ:そう。『トラウィス』。トラちゃんだよ。いつもは、ぬいぐるみのトラちゃんのおなかにしまってるの。それよりフウガ、ハウンドラプターはまだちかくにいるはず。だからはやくいまのうちに…
フウガ:ああ、それならば大丈夫です。ハウンドラプターなら、今頃ナリタ沖200kmほどの海上にゆったりと浮かんでいることでしょう
リリ:えっ
ロジー:ど、どういうことだ?
フウガ:リリが私を『堕とした』際、ハウンドラプターのアクティブパスのエネルギー圧が僅かな間、相殺されたのです。リリの力なのかははっきりと言えませんが
ロジー:おお
フウガ:その隙に、私を追跡してくるハウンドラプターの正面にパスゲートを開き、そっと海の上に浮かべてあげました。咄嗟の判断でしたが、我ながらよくできました
リリ:ふわぁ…
フウガ:アラートも派手に出しましたし、これで墜落は宇宙軍のハウンドラプトルと認識されます。あれだけ派手な天空スペクタクルを見せておいて、何もなかったでは逆に不審がられるでしょう?
ロジー:あ、ああ… フウガ、お前・・・・・
ロジー:こわ!!
フウガ:いいえ。怖いのはこれからですよ、ロジー。私たちは帰って、この件を総括に報告しなければなりません
ロジー:ああああ。そうだったああああ
リリ:また、おこられるかも
フウガ:しかし私は、とても嬉しいです。私は、このチームでよかった。でなければ、今頃私は宇宙軍に囚われ、この上ない屈辱を受けていたことでしょう
ロジー:フウガ…
フウガ:私はここが好きです
フウガ:ロジー、リリ、あなたたちと共にある私が、その日常が、とても好きです。私をただの道具として見ない、扱わない、宙運私警団のAIであること。それが、今の私をかたちづくる誇り、なのです
リリ:フウガ、よかったね
フウガ:ええ。だから、これからもよろしくお願いしますよ、二人とも
ロジー:はは。なんだかこそばゆいな
リリ:わたしも。 …わたしもすきだよ! ここにいるわたし。ロジーとフウガといっしょにいるまいにち。だから、わたしもよろしくね!
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0: - 数日後 ナリタ署-
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若林:見ました? 宇宙軍の謝罪会見
ナルミ:墜ちたのは、宇宙軍の軍艦の方だったなんてね。しかも、沖合200キロ。津波の発生も無し。被害ゼロ。あの状況で平穏な日常に戻れたなんて。あの時はもうおしまいかと思ったわ
若林:あの人達、一体何をどうしたんですかね。ロジーさんのお仲間は宇宙軍より強かった、って事ですよね
ナルミ:でも、本当によかった
若林:そうですね… そういえば、先輩、知ってます?
ナルミ:何を?
若林:僕たちはあの瞬間、つい訓練通り頭を護る姿勢を取ってて何も見てないですけど
ナルミ:ええ。 しかもお守り握ってね
若林:(笑)で、その僕らがお守り握ってうずくまってるまさにその時! 黒い稲妻が天に向かって迸(ほとばし)るのを見た、っていう人が何人もいるんです
ナルミ:黒い稲妻?
若林:写真撮った人もいて、ウェブに上がってるんですけど…
ナルミ:どれどれ。あ、これね。 うわ、すごい… よく撮ったわねこの人
若林:すごいですよね~。で、ここ、稲妻のてっぺんのちょっと上、なんかちっちゃい点があるでしょ
ナルミ:あるわね
若林:なんだろなー、と思って僕、拡大して画像処理してみたんですよね
ナルミ:あなた暇ねえ。職務はどうしたの
若林:で、これなんですけど…
ナルミ:え
若林:ね、これ、アレですよね
ナルミ:ええ… たしかに、アレ、だわ
若林:ここは、せーの、で言いましょうか
ナルミ:そうね。じゃ、私がせーのって言うわよ
若林:はい
ナルミ:せーの!
若林:『トラのぬいぐるみ』!
ナルミ:『トラのぬいぐるみ』!
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0: -法外宙域ローヴァーゲイル『奪われた船』 ・ 終 -
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