台本概要
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タイトル | 僕たちの始まり |
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作者名 | 皐月健太 (@satukiburibura) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 4人用台本(男2、女2) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
自分が将来やりたいことはなんだろう・・・。そしてその夢が見つかった時、最初に伝えたい人は誰だろう。夢と恋が交差する青春ラブストーリー ※注意事項 ●過度なアドリブ、改変をしたい場合(キャラクターの性転換、セリフを丸々変える等)はご連絡ください。 ●男性が女性キャラを女性として、女性が男性キャラを男性として演じる際や語尾等の軽微な変更は可能とします。 ●配信等でご利用される場合は、可能であれば作者名、作品名、掲載サイトのURLを提示して頂けると幸いです。 その他について不明点などは下記URLのサイト利用規約を確認し、順守をお願いします。 https://buribura.amebaownd.com/ 300 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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礼人 | 男 | 180 | 育島礼人(いくしまれいと)。高校二年生。器用貧乏で何でも卒なくこなす。特にやりたいことがなく将来のことについて悩む。みんなのまとめ役。自分が誰のことを好きか分からないでいる。 |
夏海 | 女 | 116 | 春宮夏海(はるみやなつみ)。高校二年生。自分が思ったことをはっきり言うことがなかなかできない。少し引っ込み思案なところがある。礼人のことが好きであるが言葉にできないでいる。 |
千冬 | 男 | 135 | 秋山千冬(あきやまちふゆ)。高校二年生。中学校の頃に出会った恩師のおかげで将来は教師を目指しており成績優秀。一番周りを見ていておちゃけることもあるが面倒見がいい。実は晴空に想いを抱いている。 |
晴空 | 女 | 125 | 如月晴空(きさらぎそら)。高校二年生。なんでもはっきりと言い、めちゃくちゃアグレッシブ。礼人とは幼馴染で昔から礼人のことが好き。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:2年生2学期9月教室内
千冬:「今日から2学期だね~。みんな夏休みは楽しめた?」
礼人:「いや特にこれといった思い出っていうのはないよ。毎年恒例で親戚が集まってきて下の面倒見させられてたり、近所の人で集まってバーベキューをしたってくらい?」
千冬:「まあ高校2年の男子が作る夏の思い出にしちゃ、確かに青春っぽさはないな」
晴空:「ちょっと礼人!私と一緒にしたバーベキューが思い出になってないって言うの?!私の水着姿まで見たって言うのに?!」
礼人:「お前はただずっと食べてただけだろー。水着だって特に泳げそうな浅瀬の川なのにはりきって水着なんて着てきたのもお前だけだったじゃねえか」
晴空:「ふ~ん、そういう割には私の水着に見惚れて全身くまなく観察してたように見えたけど~?」
礼人:「ばっ!み、見てねえよ!!」
晴空:「ほんとに~?正直に言ってみ~。ほらほら~、だんだん私と付き合いたくもなってきてんじゃない~?」
礼人:「断じて見てない!そして付き合いたくもならん!」
晴空:「あそ。ちぇっ、もう少しだと思ったのになあ~」
千冬:「2人の関係性も特にこの夏では変わってないご様子ですなあ。いやしかし、うちのクラスどころか学年でも上位に可愛いと言われる如月の水着姿はぜひとも拝みたかったねえ」
晴空:「うわ、目超いやらし。冗談は存在だけにしてくれる?」
千冬:「そこまでいくか?!」
夏海:「今のは秋山君が悪いでしょ」
千冬:「あはは。あー、で春宮さんはどうだったの夏休み」
夏海:「私も特に何もなかったよ。ほとんど部屋で勉強か気分転換にカフェや図書館に行って勉強してたくらい」
千冬:「真面目だねえ」
夏海:「先生も言ってたから。大学受験は高2の夏からもうスタートだって」
礼人:「そっか。春宮はもう行きたい大学とかも決まってるんだっけ」
夏海:「うん、まあ親が大学までは出とけって言われてとりあえずって感じだけど」
千冬:「そういやみんなは書いてきた?夏休みの間に書いて提出しろって言われてた進路希望」
礼人:「あれね~、正直全然分かんねえ。まあ春宮みたいにとりあえず大学は目指すことになるんだろうけど、やりたいことがあるって訳じゃないしな」
晴空:「私は~、礼人のお嫁さん!!」
礼人:「それは進路でもなんでもないだろ!!」
晴空:「え~なんで~?高校出たらお互い結婚もできようになっているんだし結婚しようよ~」
礼人:「話が飛んでんだよな!そもそも付き合ってない!」
晴空:「じゃあまず私と付き合ってよ」
礼人:「断る!」
晴空:「え~」
夏海:「ま、まあ如月さんもその辺にしといてあげたら」
礼人:「春宮は大学行ってやりたいことも決まってるの?」
夏海:「ううん。まだどの学部にしようか迷ってるくらい。でも就職有利になるように少しでもいい大学出なさいって親が言ってるくらいかな」
礼人:「なんか春宮の家庭も大変だな」
夏海:「私のこと思って言ってくれてるのは分かってるんだけどね。それでも最後はちゃんと自分で全部決めてどこの大学に行くか決めようと思ってる」
礼人:「そっか。まあ春宮ならちゃんと自分で決めれるだろ」
夏海:「うん、ありがとう。ところで秋山君はもう進路決まってるの?」
千冬:「俺はもう決まってるよ」
夏海:「そうなんだ、やっぱり大学進学?」
千冬:「そ、行きたい大学も学部も決まってるで~ござる」
夏海:「へえ~すごいね」
礼人:「こいつとは中学から一緒だけど、その時から超がつくくらいの成績優秀で、正直なんでこんな平々凡々の高校にきたか分からないくらいだよ」
千冬:「お、それ言っちゃう~?一番の親友が同じ高校を選んであげたんじゃなーい」
晴空:「うわ~、キモいわね」
千冬:「いや如月だって礼人と一緒にいたいから同じ高校にしたんじゃ・・」
晴空:「秋山と一緒にしないでくれる。私のはもっと純粋よ!」
千冬:「いや俺だって別に不純って訳じゃ・・・」
晴空:「黙れ変態!」
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0:晴空に蹴りを入れられる千冬
0:
千冬:「ごっはあ!!」
夏海:「な、なんか改めて・・・育島君って大変だね」
礼人:「ああ、まあな」
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0:下校中
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千冬:「くあー、いてて。如月のやつあんなマジ蹴りしなくたって」
礼人:「からかいすぎなんだよお前は」
千冬:「ところで如月は?」
礼人:「あー、多分今日も放課後どなたかに愛の告白をされてるんじゃね」
千冬:「さすが学年上位のモテる女でござんすね」
礼人:「その上位の女をいつもからかってんだよ」
千冬:「へへ、ほーーーんのちょっとの遊び心なんでやんすがねえ」
礼人:「お前その喋り口調になる時は大抵ろくな事考えてねえよな」
千冬:「俺としちゃああんまりにベクトルが礼人だけに行くもんだから、遠回しに気づかせようとしてあげたんだけどねえ」
礼人:「その常に分かりきったような振る舞いが、却って反感買ってんだろうが」
千冬:「さすがにそんなつもりはないよ~?俺の勘違いって可能性もあるしな」
礼人:「で、晴空に何を気づかせようってしてたんだよ」
千冬:「それこそ確信してる訳でもないのに言えはしないぜ。まあただのお節介ってことにしといて」
礼人:「ほんっといい性格してるよ。あ、なあところでさ」
千冬:「ん?」
礼人:「さっきさ、進路はもう決まってるって言ってただろ。どうやって決められたんだ?」
千冬:「なんだよ急に」
礼人:「普通に参考までに聞きたいなって思って。どうして決められたんだろうなって」
千冬:「ん~、まあ隠すことでもないし礼人にならいいか。中学生の時にさ、佐々木先生っていただろ?」
礼人:「え、ああ、あの穏やかで人よさそうな美術の先生だろ?」
千冬:「その先生にさ、言われたことがあったんだ」
礼人:「なにを?」
千冬:「お前は学年で一番青春を損してるって」
礼人:「結構キツい言葉だな。でもお前中学も全然楽しそうにしてたじゃん」
千冬:「確かに毎日楽しかったよ。礼人とも他のやつとも馬鹿みたいなこともやってさ。でも心のどこかで、一歩引いてた自分がいたんだよな。あー俺も今こんなことして何してんだろうって」
礼人:「そう、だったのか」
千冬:「そんな俺を先生は見抜いたんだよな。それからさ、少し教師っていうのに興味湧いたんだ。この経験をした俺になら、もしかしたら将来似たように青春を損しそうな生徒に先生と同じことしてやれるんじゃないかって」
礼人:「じゃあ先生になるのか?」
千冬:「いや、先生は先生でも海外教師になろうかなって」
礼人:「海外教師?!今の流れからなんで」
千冬:「そのできごとからしばらくしてさ、テレビで見ちゃったんだよね。世界には学校に行きたくても行けない、授業を受けたくても受けれない子どもがいるって」
礼人:「そりゃたくさんいるだろうけど」
千冬:「で、思ったわけだ。これなんじゃないかって。俺のやりたいこと。青春を損してるどころかそもそも青春すらできない子どもたちに、青春ってこういうもんだって教えてやれる教師になる」
礼人:「・・・すごいな。ちゃんと夢とやりたいことあって」
千冬:「まあ俺の成績からして?海外の大学にでも全然いけそうでござるからな~」
礼人:「ほんっと、途中までいい話だったのにな」
千冬:「ははは。でもそういうんじゃ礼人も教師結構むいてるんじゃない」
礼人:「え?」
千冬:「礼人は何でも卒なくできるし、成績もそこそこいいけど容量がいいってわけじゃない。まあ平たく言えば器用貧乏だけど、その分成績いい子も悪い子もどちらの気持ちも分かってやれてフラットに接してやれるんじゃないか?」
礼人:「教師ねえ。まあ参考までに候補には入れとくよ。話してくれてありがとう。じゃあな」
千冬:「おう」
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0:校舎裏
0:
晴空:「ごめんなさいね。私礼人が好きだから。あなたとは付き合えない。気持ち伝えてくれてありがとね。それじゃあ」
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0:振り返って少し歩く
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夏海:「如月さんはすごいね」
晴空:「あれ、見てたんだ。晴空でいいっていつも言ってるのに。で、なにが?」
夏海:「自分の気持ちを正直にまっすぐに言えて」
晴空:「そう?私にはこれが日常だけど」
夏海:「うん、それってすごいことだよ。誰にでもできることじゃない」
晴空:「私から見たら夏海の方がすごいよ。まだやりたいことが決まってるわけでもないのに親の言う通り勉強して。勉強なんていつかやりたいことができた時にすればいいかなって感じだもん」
夏海:「私のおじいちゃんがね、よく言ってたの。いつかやろうはバカやろうだって。自分がやりたいことができた時、すぐに動けるように準備はしとけって。だから自然と勉強はするようになったのかな」
晴空:「・・・・だって」
夏海:「え?」
晴空:「ううん、なんでもない。ね、アイス食べて帰らない?あんまり2人でちゃんと話したことも今までなかったし、ちょうどいい機会だし」
夏海:「そうね、食べにいこっか。確かに如月さんと一緒にいる時間長いけど、ちゃんと2人で話したこと今までなかったし」
晴空:「だから、そ~ら!」
夏海:「う、うん、晴空」
晴空:「それでよし!・・・ねえ、夏海はさ」
夏海:「ん、なに?」
晴空:「・・・あはは。これもなんでもなかった。行こ!」
夏海:「・・?え、ええ」
0:
0:1か月後
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礼人:「しかし今年の文化祭、まさか2年連続で喫茶店とはねえ」
夏海:「ふふ、私たちは去年も喫茶店だったもんね」
礼人:「2年連続になるのはちょっと予想外だよな」
夏海:「そうね、クラスは変わったから人は違うけどびっくりだね」
礼人:「まあでも、3年は受験があるからってことで文化祭は今年で最後だし、楽しまないとだよな~」
夏海:「夏休みも特に思い出なかったし?」
礼人:「痛いところをつくなよ(笑)それにこの話をしだすと晴空がどっかから振ってきそうだし」
夏海:「本当に仲良いよね」
礼人:「ただの腐れ縁ってだけだよ。幼馴染通りこして兄弟みたいな感じ」
夏海:「そうなんだ、あんまり仲が良いから、育島君なんだかんだ言いながら晴空のこと好きなのかなって」
礼人:「まさか。本当に好きだったらとっくに付き合ってるだろ。春宮は好きな人ととかいるの?」
夏海:「え?!い、いやいないよ」
礼人:「ふ~ん、そっか。そういやさ、春宮はあれからやりたいこととか、どこの大学行きたいかとか決まった?」
夏海:「ううん、まだ決めかねてる。育島君は?」
礼人:「いや、俺もあれからまだなんも進展なし。ほんと、千冬がすげえや」
夏海:「秋山君はもうやりたいこと決まってるもんね。何がしたいかって知ってるの?」
礼人:「あー。あいつは教師になりたいんだって」
夏海:「へえー、そうなんだ。まあ秋山君いつも周りの気配りとか上手いからね。案外教師向いてそう。育島君も面倒見とかいいし教師とか向いてそうだけど」
礼人:「それ、千冬にも言われたよ。それも考えてはみたんだけど、なんかちょっと違うのかなって。なんていうか、方向性は間違ってないんだけどそれじゃないなって。漠然としてしかないんだけど」
夏海:「そっか。でもとりあえず専門か大学とかの進学ってことにはなりそうなのかな」
礼人:「だな。まあ勉強だけはなんとなくずっとしてるから、そこで躓くってことはあまりなさそうかな」
夏海:「じゃあ文化祭終わったら、今度は勉強会でもする?」
礼人:「それいいかもな。お互いの得意科目も違うし」
夏海:「うん、お互い頑張んなきゃね」
礼人:「だな。よし、そろそろ交代だし一緒に見て回るか」
夏海:「うん、じゃあ廊下で待ってて」
礼人:「おう」
礼人:「あれ、晴空。交代か?」
晴空:「・・・なによ(小声)」
礼人:「え?」
晴空:「ううん、なんでもない」
0:体育館
夏海:「うわー、盛り上がってるね~」
礼人:「うちの高校、バンド結構すごいので有名らしいからな。観客も多いや」
夏海:「なんか」
礼人:「ん?」
夏海:「あ、いや。なんかみんな青春してるな~みたいな」
礼人:「なに年寄りくさいこと言ってんだよ」
夏海:「そんなつもりはないけど、みんな本当に心から楽しんでる。私、あーやって感情を全開!ってできないからなんか羨ましいなって」
礼人:「・・・・・」
夏海:「・・・・・」
礼人:「だったらさ、今少しその殻を破ろうぜ」
夏海:「え?」
礼人:「ほら、こっち向いて~、カメラ見て~」
夏海:「ちょちょ恥ずかしいよ」
礼人:「にっこり笑った自分の顔をさ、いつか見返した時に見たら、少しは青春してたって思えるんじゃない?」
夏海:「・・・そう、だね。じゃ、じゃあ一緒に撮ろ。一人だとぼっち青春だったって思いそうだし」
礼人:「それもそうか(笑)」
夏海:「うん」
礼人:「よし、じゃあこっちよって」
夏海:「うん。ねえ育島君」
礼人:「ん?」
夏海:「私、見つかったかも。やりたいこと」
礼人:「おう、そっか(笑)」
0:文化祭終了後
礼人:「ん~!文化祭も終わったな」
夏海:「交代の時間全然みんなと被らなかったね」
礼人:「そうだな~。最後の文化祭にしちゃ少し味気なかったな」
夏海:「だね」
礼人:「じゃあその分せめて打ち上げでも4人でいくか」
晴空:「私、今日はいいや」
礼人:「え、行かないのか」
晴空:「うん、あんまり体調よくないから」
礼人:「そっか。送ってくか?」
晴空:「ううん。みんなで楽しんできて」
礼人:「じゃあ、気をつけてな」
0:晴空立ち去る
夏海:「なんだか晴空元気なかったね」
礼人:「うん、なんか考えことしてたな」
夏海:「え、そういうの分かるの?」
礼人:「あいつが体調よくないって言う時、大抵は何か考えことしてて、他は頭に何も入ってこなーいって状態の時だからな」
夏海:「さすが幼馴染だね」
千冬:「でも、何を考えているかまでは分からないんじゃない?」
礼人:「千冬、おつかれ。まあ確かに何考えてるかまでは分かんないな」
千冬:「そうでしょうねえ」
夏海:「秋山君は分かるの?」
千冬:「断定はできないけどおおよそはね」
礼人:「なんなんだよ」
千冬:「憶測であまり言いたくないから今は控えるよ」
礼人:「?・・・そうか」
千冬:「で、今日はこれから打ち上げ?」
礼人:「ああ。4人でって思ってたけど、3人でかな」
千冬:「おう」
0:ファミレス内
千冬:「しっかし打ち上げがファミレスとはね~」
礼人:「仕方ないだろ、あんまり金ないし、これも学生っぽいだろ」
千冬:「てっきりカラオケで春宮さんの美声でも聞けるのかと」
夏海:「わ、私歌わないよ?!」
礼人:「歌っていうと晴空の専売特許だけどな。それこそ晴空がいないのにカラオケ行くのはちょっと気がひけてな」
千冬:「ん~、まあそれもそうか。そういうのがもっと広範囲で気づいてあげれてればねえ~」
礼人:「なんのことだよ」
千冬:「いやなんでもない。しかし、これからいよいよ受験一直線だね~」
礼人:「そうなるな~。学校の大きいイベントはほとんど終わったな」
夏海:「こうしてみんなと話すのも、少しずつ減っていくのかな」
千冬:「そうなってくんだろうねえ。でも大事なのは、お互いがお互いにそれでもつながっていたいかなんじゃない」
夏海:「え?」
千冬:「高校卒業しようと、大学が別になろうと、就職しようとさ、その人とちゃんと繋がっていたいって思えれば、自然とまた会ったり、連絡は取るもんでしょ。そうやって俺らは将来腐れ縁っていう仲になっていくんじゃない」
礼人:「さすが教師を目指してるやつは言うことが違うな~」
千冬:「お褒めに預かり光栄でやんす~」
礼人:「で、すぐこうなるもんな」
夏海:「照れ隠しってやつだね」
千冬:「ストレートに言われるとそれこそ照れるね」
礼人:「でもなんかさ、今ので俺も見つかったかも」
夏海:「それってやりたいこと?」
礼人:「ああ。千冬と一緒で何か人の為に役に立ちたいっていうかさ、助けになってあげれるような、そんなのをしたいって思ってて。でも千冬が目指してる教師っていうのはなんか違くてさ」
千冬:「で、今のやり取りで別のが見つかったと?」
礼人:「うん」
夏海:「それは何か聞いていいのかな」
礼人:「もちろん。心理カウンセラーがいいんじゃないかって今唐突に思った」
千冬:「心理カウンセラー?」
礼人:「そう、なんていうのかな。千冬が前に言ってたように、俺器用貧乏っていうかなんでもそこそこだろ。できない人の気持ちもできる人の気持ちも分かってあげれやすい。俺自身もそう思ってたし、それを活かせないかなってずっと考えてたんだけど・・・」
千冬:「発言した本人が言うのもなんだけど、そこまで良いこと言ったつもりじゃないけど」
礼人:「いいんだよ。俺の中で心のど真ん中にストレートになんかきたってだけ。ほんと、千冬が言ってた通り、なにがきかっけになるか分かんないな」
夏海:「そっか。でもおめでとう!これで夢に向かって頑張っていけるじゃない」
礼人:「おう、ありがとう。ところでさ」
夏海:「ん?」
礼人:「自分が言ったからって訳じゃないけどさ、さっき体育館で言ってた春宮のやりたいことって?」
千冬:「おや?おやおやおや!なんと春宮さんも夢が見つかったの?それは節操も知りたいでござるな~」
夏海:「そんなふうに言われたら言いづらいよ~」
礼人:「茶化すなよ千冬」
千冬:「これは失敬。して教えてはござらんか~」
夏海:「なんか日本語変な気もするけど・・・。えっと、写真家・・カメラマンになりたいなって」
千冬:「これはまた意外!」
礼人:「それってさっきの?」
夏海:「うん。育島君の言葉で私も心のど真ん中にストレートにきたって感じかな。私自身あまり自分が写ってる写真ないけど、大人になっても色んな人の想い出の一瞬を残すお手伝いができたらなって」
礼人:「へえ~」
千冬:「春宮さんらしくていいんじゃない。なんにしてもこれでみんなの夢は決まったわけだ。にしてもお二人同じ日にやりたいこと決まるなんて今日はめでたいねえ~」
礼人:「確かにそんなことなかなかないよな」
夏海:「そうだね。でもこれで一緒に勉強する意欲も湧いてくるね」
礼人:「だな。みんなとりあえず大学に進学だろ。分からないところは教えあっていこうぜ。つっても千冬は必要なさそうだけど」
千冬:「そんなことはないさ。人に教えるっていうのも教師目指す上ではいい経験になるしね」
礼人:「なるほどな。しかしそうなるとあとは」
夏海:「何かあるの?」
礼人:「いや、晴空はどうすんのかなって。あいつ成績はいまいちだし、進学にするにしても今から結構頑張んないとだろ」
千冬:「そこはお節介やかずに、少し待ってあげたら」
礼人:「待つって何を?」
千冬:「彼女には今将来よりも、将来に関して一番叶えたいことがあるのさ。それは勉強よりも優先事項なんだよ。だから少し待ってみようって話」
礼人:「そう、なのか?全然気づかなかった」
夏海:「・・・・・・」
千冬:「だろうな。だから今はとりあえず、俺を信じて待ってあげてよ」
礼人:「・・・分かった」
千冬:「それじゃ今日のところはお開きにしますか」
礼人:「だな。春宮は遅いから気を付けて帰れよ。なんだったら送ろうか?」
夏海:「ううん、大丈夫。この時間なら全然まだバスあるし、塾の帰りよりも早いし」
礼人:「そっか。じゃあまたな」
夏海:「うん」
礼人:「千冬も」
千冬:「ああ、またね」
千冬:「・・・さて、待って上げたらとは言ったけど。俺は少し如月の背中押してやりますか」
0:2年生3学期2月
0:チャイムが鳴る
礼人:「さて、今日も図書館で勉強するとしますか」
夏海:「そうだね。今日は何やるの?」
礼人:「う~ん、現代文にしようかな。春宮は?」
夏海:「私は英語かな」
晴空:「毎日毎日飽きないわね」
礼人:「まあ一人だと集中力そがれたりするけど、誰かとやってるとやらなきゃってなれるな。晴空もやりたいこと決まってなくても、とりあえず勉強はしといたら?俺で教えられるところは教えるけど」
晴空:「考えとく。今日は帰るわ」
礼人:「そっか」
千冬:「俺も今日はちょっと用があるから帰るわ」
礼人:「おう。じゃあ今日は春宮と二人だな」
晴空:「!!」
礼人:「どうかした晴空?」
晴空:「なんでもない。じゃあね」
千冬:「じゃあ俺も」
礼人:「ああ」
0:下校中、帰り道
晴空:「なんでついてくるの?」
千冬:「いんや、ちょっとこっちの方向にある本屋に行きたくてね」
晴空:「本屋なら反対方向に大きいお店あるでしょ。なに?」
千冬:「いや、そんなずっと自分の気持ち伝えずにつんけんしてたって何も変わらないよって言いにきただけ」
晴空:「私のことなんでも知った風に言うわね」
千冬:「今の如月見てたら誰でも気づくと思うよ。少なくとも春宮さんも気づいてはいるみたいだしね。だからこそ、如月に遠慮して春宮さんも想いを伝えられずにいる」
晴空:「私のせいだっていうの」
千冬:「いや?それは春宮さんの問題であって、如月のせいって言うつもりはないよ」
晴空:「じゃあ何!?さっきから何が言いたいの!」
千冬:「如月は想いを伝えなくていいの?礼人にさ」
晴空:「伝えたわよ!何度も何度も!!アピールだってしてきた。夏休みの時だって、幼馴染としてじゃなく女性として意識してほしかったから水着にだってなった」
千冬:「礼人は十分意識はしてくれたんじゃない」
晴空:「そうね。意識はしてくれた。でもね、結局それも幼馴染の延長線上での意識なのよ。照れたり目は逸らしてくれても、それが礼人の中で恋に変わることはなかった。今までいろんなことしてきたけど、結果は全部一緒」
千冬:「それで諦めるって?」
晴空:「諦められてたらこんな風になってないでしょ。けど、夏海と毎日毎日一緒にいて、あんな楽しそうなのを見せつけられるのももう耐えられない」
千冬:「自分がやれることは全部やり切ったって?」
晴空:「そうよ。私にできるのはあの二人の仲に対して目を逸らすことだけ」
千冬:「春宮さんが嫌い?」
晴空:「嫌いになってればもっと楽だったかもね。でも、あの子はいい子よ。礼人が好きになるのも分かる」
千冬:「それはどうかな」
晴空:「何が」
千冬:「礼人が春宮さんに気が向いているのは間違いない。でもそれがまだ恋愛対象としてかは分からないよ」
晴空:「分かるわよ。礼人の女性に対するあんな目、今まで見たことなかった」
千冬:「そうだね。俺も見たことない」
晴空:「じゃあ!」
千冬:「でも俺は礼人がある人に対してだけにしか見せない目も知っている」
晴空:「誰よそれ」
千冬:「如月に決まってるだろ」
晴空:「そんなの、幼馴染だから兄弟みたいに見られてるだけでしょ」
千冬:「そうかな、案外自分自身に向けられている目がどんなのか、近すぎて分からないってこともあるんじゃない」
晴空:「そうだとしても、礼人が私を恋愛対象として見てはないじゃない」
千冬:「そう見てもらうかは如月しだいだよ」
晴空:「だから私にできることは!」
千冬:「まだ、1つ残ってるでしょ」
晴空:「え?」
千冬:「今のその想いを、その場の勢いとかじゃなくて、ちゃんと伝えるんだよ」
晴空:「で、でも」
千冬:「大丈夫だよ。たとえその恋が失敗に終わったとしても、幼馴染が終わることなんてない」
晴空:「・・・・」
千冬:「一番伝えなきゃいけないこと伝えないと、後悔するよ」
晴空:「・・・なんで、良くしてくれるの。本当は礼人に気づいてほしいのに」
千冬:「それはごめんよ。それに俺が気づけたのは、俺も似たような状況だから分かっただけだよ」
晴空:「秋山にも好きな人がいたんだ」
千冬:「そゆこと」
晴空:「あんたは想いを伝えないわけ?」
千冬:「今は伝えないかな」
晴空:「私にあれだけ言っといて?」
千冬:「如月の方は可能性はあるだろうけど、俺の方は想い伝えたところで可能性は今のままじゃゼロだから」
晴空:「そんなのそれこそ伝えてみなきゃ」
千冬:「俺の好きな人は、今幼馴染の異性にベタぼれ中だからさ」
晴空:「!」
千冬:「言ったろ?俺も似たような状況だって。だからとりあえず、如月の方の恋に決着がつかないと俺の方も進まないのさ」
晴空:「私が礼人と上手くいったらどうするのよ」
千冬:「その時は春宮の方にいくさ」
晴空:「最低ね」
千冬:「野暮なこと聞くからだろ」
晴空:「ごめん」
千冬:「いいよ。如月は自分のことにまっすぐ進んでいくのがいいとこだからさ。周りが見えてないことも含めて」
晴空:「何それ、バカにしてる?」
千冬:「ほんのさっきの仕返しさ」
晴空:「それはどうもありがとう!」
千冬:「(笑)」
晴空:「(笑)」
千冬:「さて、元気がでたようだし俺は帰るわ」
晴空:「なによ、やっぱり本屋に用なんてないじゃない」
千冬:「実はもう買ってたのを今思い出したところさー」
晴空:「都合のいい頭ね。でも、本当にありがとう」
千冬:「あいよ。じゃあな」
晴空:「うん、また」
晴空:「・・・これがラストチャンス、かな」
0:2月14日、ある公園
礼人:「こんなところに呼び出して、どうしたんだよ」
晴空:「ん~、なんか懐かしくてここに来たくなってね」
礼人:「子どもの頃はよく来てたからなこの公園」
晴空:「そうだね、あの頃はいっつも礼人と遊んでた」
礼人:「物心ついた時からいつも一緒だったからな。兄弟みたいなもんだよ」
晴空:「うん、そう思ってるだろうなって思ってここにしたんだ」
礼人:「え?」
晴空:「礼人、最後までちゃんと聞いてね」
礼人:「う、うん」
晴空:「礼人、私ね。ずっとずっと礼人のことが好きだった。子どもの頃からこの公園で一緒に遊んでた時からずっと」
礼人:「え、いやだって」
晴空:「お願い、最後まで聞いて」
礼人:「・・・・・」
晴空:「礼人はずっと兄弟のように接してたんだと思う。実際私もそういう風にしか見られてないなって感じてたから。いつも私が付き合う?って言っても冗談にしか聞こえてなかったんだと思う」
晴空:「でも、私は本気なの。今までも私なりに精一杯アピールしてきたつもりなの。幼馴染としてじゃなくて、女性として見てほしいって」
礼人:「・・・そうか」
晴空:「でもね、この間秋山に言われて気づいたの。一番肝心なことを、口に出して伝えなきゃ伝わらないこともあるって。だから、今日伝えることにした」
礼人:「・・・・・」
晴空:「私、礼人の夢応援する。協力できることがあったらする。礼人の支えになって見せるから、私を彼女にしてもらえないかな。私と礼人が付き合える可能性って全くないかな」
礼人:「・・・返事、してもいいか?それで伝えたいことは全部?」
晴空:「うん」
礼人:「ありがとう。想い伝えてくれて。晴空に言われるまで、自分が誰を好きなんだとかそういうの、あんまり考えたことなくて。考えないようにしてきた。きっとその感じだと、晴空も気づいてるんだろうけど、俺は晴空が好きなのか、春宮が好きなのか分からなかった」
晴空:「うん」
礼人:「どっちも好きは好きなんだと思う。それが女性として、恋なのかどうなのかって自分の中で判断できなくて・・・」
礼人:「でも晴空に対しては、今告白されて分かった。俺にとって晴空は大切な存在だよ」
晴空:「・・・・・」
礼人:「でもごめん。それはやっぱり幼馴染としてで、兄弟のようにしか見れないかな。俺だって晴空にやりたいことができたら応援したい。何か助けてやれたらって思うだろうけど、でもそれはやっぱり恋人としてではない、かな」
晴空:「・・・そっか。そっか」
礼人:「ごめん」
晴空:「ううん、正面から受け止めてくれてありがとう。あのさ、本当は成功して渡したかったんだけど、せめてこれは受け取ってくれない?」
礼人:「あ、そっか。今日バレンタインデー・・・」
晴空:「うん」
礼人:「ありがとう・・・」
0:礼人が受け取ろうとするが晴空が手を離さない
晴空:「・・・」
礼人:「晴空・・・」
晴空:「(泣きそうになりながら)ごめん、一つだけお願いしていいかな。少しだけだから」
礼人:「・・・うん」
晴空:「(大声でしばらく泣く)」
0:少しの間
礼人:「落ち着いた?」
晴空:「うん、ありがとう」
礼人:「そっか。じゃあ一緒に帰るか」
晴空:「ううん、今日は先に帰るね」
礼人:「そっか」
晴空:「明日からは!またいつもの私に戻るから。だから礼人もいつも通り接して」
礼人:「分かった」
晴空:「うん、じゃまたね」
礼人:「ああ」
0:翌日、学校の屋上
千冬:「で、如月はちゃんと伝えられたわけだ」
礼人:「ああ、まあな」
千冬:「見事にあの如月を振ったわりには浮かない顔してるね。後悔してんの?」
礼人:「振ったことには後悔してないよ。ただあいつが今まで俺にしてきたことに対して、俺はどれだけ誠実に応えられていただろうかって思うとな。今さらそんなこと考えたって仕方ないんだけど」
千冬:「仕方ないかどうかは、それを今後礼人が糧にしていけるかなんじゃないか」
礼人:「ほんと、教師にむいてんなお前は」
千冬:「それよりも、考えなきゃいけないことは他にもあるんじゃない」
礼人:「え・・」
千冬:「春宮さんのこと、どうすんの」
礼人:「わかんね。晴空への想いはハッキリしたけど、じゃあ春宮の方はって聞かれると、これが恋なのか分かんないわ」
千冬:「そうか、まあまだ時間はあるんだししばらくは考えていいんじゃない」
礼人:「ありがとう、そうするわ」
千冬:「でも夏からの留学の件も、ちゃんと考えとけよ」
礼人:「ああ、分かってる」
0:3年生1学期7月(夏休み前)、教室内
夏海:「え、夏休みからアメリカへ留学?」
礼人:「ああ。実は千冬からは今年の初めには誘われてたんだけど、最近まで行くか悩んでたんだ。でも心理カウンセラーについて学ぶならアメリカの方が進んでて、自分にもチャンスだと思ったから行くことにした。アメリカ行ってもとりあえず千冬は一緒にいるから生活もなんとかなりそうだしな」
千冬:「自分が向こうで世話になる知人がたまたま心理カウンセラーと知り合いでね。ついでに礼人もどうかなって思ったけどまさか本当に行くの決断するとはちょっと思わなかったよ」
礼人:「誘っといてよく言うよ」
夏海:「で、でもそれじゃあ!」
礼人:「ん?」
夏海:「あ、ううん。なんでもない。夏休みからってことは3日後には?」
礼人:「そうなるな。伝えるのギリギリになってごめん」
夏海:「ううん。向こうでも頑張ってきてね」
礼人:「おう、ありがとう」
夏海:「じゃあ私、今日は帰るね」
礼人:「あ、ああ」
0:夏海が立ち去る
千冬:「明らかに動揺してるねえ」
礼人:「だな」
千冬:「礼人の方は気持ちの整理ついたのかい?」
礼人:「いや、まだわかんね。夏休みに入るころにはもう全部に整理ができててスッキリしてるって思ったのにな」
千冬:「う~む」
礼人:「なんだよ」
千冬:「この後、ちょっと付き合えよ」
礼人:「ん?」
千冬:「まあ、ちょっとついて来いって」
礼人:「ああ」
千冬:「てな訳で、春宮さんの方は任したよ」
晴空:「なんで私に言うのよ」
千冬:「そりゃあ、春宮さんのことが心配で心配でしかたなーい!って顔してたから」
晴空:「し、してないわよそんな顔!」
千冬:「でも、これから追いかけに行くとこでしょ?」
晴空:「っ!!あんたのそういうところ、ほんと好きになれないわ」
千冬:「褒め言葉として受け取っておくよ」
晴空:「ふん!」
0:少しの間
礼人:「なあ、ここどこだよ」
千冬:「な、なんと!ここはこの町でもデートスポットとしても有名な夕日が綺麗に見える丘!」
礼人:「なんでそんなとこに連れてきたの!?」
千冬:「いや、ずっと考え込んでる礼人に、ちとアドバイスをば」
礼人:「お前のその時々変わる口調なんなの?」
千冬:「ここに来るなら誰と来たい?」
礼人:「え?」
千冬:「ここじゃなくてもいい、アメリカ留学が決まった時、夢が叶った時、最初に伝えたい人って誰だ?」
礼人:「あ・・・」
千冬:「俺か、如月か、それとも親か?」
礼人:「・・・春宮だな」
千冬:「それはどうしてだ?」
礼人:「どうしてって・・・」
千冬:「俺がアドバイスしてやれるのはここまでだ。あとはその辺を自分の中でよく考えてみろよ」
礼人:「・・・」
千冬:「じゃ、そんだけだから俺はこれで帰るわ。バイビー」
礼人:「あ、おい!・・・・どうして、か」
0:ある公園
夏海:「・・・なんで何も相談してくれ」
晴空:「なかったのって顔してるわね」
夏海:「晴空!」
晴空:「夏海はこのままでいいの?礼人、3日後には行っちゃうよ」
夏海:「晴空は留学のこと知ってたの?」
晴空:「まあ親同士も仲いいからね。嫌でも情報は入ってくるから」
夏海:「そっか・・・」
晴空:「で、いいの?」
夏海:「いいも何も、私がどうこう言える立場じゃないし。育島君が夢に向かって選んだ道だもの。止める理由がないわ」
晴空:「そうやってまた自分の気持ちを抑えるの?」
夏海:「え、抑えてなんかないよ。育島君が夢に向かって大きく進めそうで素直に嬉しいよ」
晴空:「そこに」
夏海:「え?」
晴空:「そこにあなたの気持ちはないじゃない!好きなんでしょ礼人のこと」
夏海:「す、好きだけどでもだからって行かないでなんて言えるわけない。礼人だって私のこと好きなわけじゃないだろうし、こんなタイミングで言われたってめいわ・・・」
晴空:「いい加減にして!」
夏海:「!!」
晴空:「礼人が夏海のこと好きじゃない?好きって言われて迷惑?ふざけないでよ・・・」
夏海:「そ、晴空?」
晴空:「あんたは!私が何をしても、どれだけ自分の想いを正直に伝えても、手に入れられないものを、一言言えば手に入るのに!それなのに逃げようとしている」
夏海:「何を言ってるの」
晴空:「ほんと、頭がおかしくなりそう」
夏海:「だから、何を言って・・・」
晴空:「いつか夏海は言ったよね。いつかやろうはバカやろうだって。恋だってそうなの!いつか伝えようとか、このタイミングがどうとかって。そんなので自分の気持ちから逃げないで!!」
夏海:「!!!」
晴空:「行きなさい。礼人のところへ、自分の気持ちを伝えに」
夏海:「で、でもどこにいるか」
晴空:「それならきっと、秋山からメールが来てるんじゃない」
夏海:「え・・・、あ、本当だ」
晴空:「あいつのああいうところ、ムカつくけどすごいよね」
夏海:「そうだね」
晴空:「この公園ね、子どもの頃よく礼人と遊んでた場所なの。そして私が礼人に振られた場所」
夏海:「そうなんだ・・・」
晴空:「私にここまで言わせたんだから、頑張ってきなさい。私と礼人の想い出はこの公園までなの」
夏海:「うん、晴空」
晴空:「なに?」
夏海:「ありがとう」
晴空:「バカ、早く行きなさいよ」
夏海:「うん、行ってきます」
0:少しの間
晴空:「そこにいるんでしょ、秋山」
千冬:「おっと、気づかれちまいやしたか」
晴空:「どこから聞いてたの?」
千冬:「いや、本当に今来たところだよ。この公園から走って出ていく春宮さん見てここだったんだなって分かった」
晴空:「そう、私たちも行きましょ」
千冬:「へ?それはさすがに野暮ってもんじゃ」
晴空:「そんな告白の一部始終を見ようって気はないわよ。全部終わった後、どうなったか見届けるくらいの権利はあるでしょ」
千冬:「なるほど」
晴空:「場所、案内しなさいよ。ゆっくりでいいわ」
千冬:「へーい」
0:夕日が綺麗に見える丘
夏海:「(呼吸を整えて)、育島君」
礼人:「春宮・・・」
夏海:「隣、いいかな」
礼人:「ああ」
夏海:「ありがとう」
礼人:「知ってるか?この場所この町じゃ有名なデートスポットなんだってさ」
夏海:「そうなんだ。全然知らなかった」
礼人:「だよな。俺も千冬にさっき教えてもらうまで知らなかった」
夏海:「(笑い声)」
礼人:「(笑い声)」
礼人:「さっきさ、千冬に聞かれたんだ」
夏海:「何を?」
礼人:「この場所に来たい人や、アメリカ留学決まった時や夢が叶った時、最初に伝えたい人は誰かって」
夏海:「うん」
礼人:「春宮だった。そう聞かれたらビックリするくらいすんなり最初に春宮が浮かんできた。で、千冬にそれはどうしてって聞かれて、今の今まで何でかここで考えてた」
夏海:「答えは出た?」
礼人:「ああ。春宮とならずっと一緒に、例え隣にいない時があっても自分たちの夢を支えあいながら進んでいけるんじゃないかって思ったんだ。そうして新しいことにも、二人なら挑んでいけるんじゃないかって」
夏海:「私もね、さっき晴空に言われたの」
礼人:「何を?」
夏海:「いつかやろうはバカやろうは、恋も一緒だって。自分の気持ちから逃げるなって。育島君が行く前にちゃんと伝えてこいって」
礼人:「そっか。・・・なあ春宮」
夏海:「なに?」
礼人:「伝えたいことがあるんだ」
夏海:「私も、育島君に伝えたいことがある」
礼人:「春宮のことが」
夏海:「育島君のことが」
礼人:「好きだ」
夏海:「好きです」
礼人:「ようやく、自分の気持ちに気づけたよ」
夏海:「私もようやく、自分の気持ちを伝えられた」
礼人:「お互い時間かかっちまったな」
夏海:「そうだね」
千冬:「おやおやまあまあ、この様子を見るに無事成功したようですなあ」
晴空:「ほんと、言い方」
礼人:「千冬!」
夏海:「晴空!」
礼人:「まさか、全部聞いてたのか?」
晴空:「そんなことさすがにしないわよ。礼人まで秋山みたいなこと言うのね」
礼人:「いや、お前には過去に輝かしい実績が・・・」
晴空:「なんか言った?」
礼人:「いや、なんでもない。それと二人ともありがとう」
晴空:「私は別に何も」
夏海:「ううん、晴空が背中を押してくれなかったらきっと言えなかった」
千冬:「そうそう、ほんと如月はいわゆるツンデレ・・・」
晴空:「黙りなさい!!(腹蹴り)」
千冬:「ごっっっはぁ!!」
夏海:「にしても3日後には育島君も秋山君もアメリカかあ。寂しくなるね」
礼人:「まあな。でも夏休みの間だけだから」
夏海:「え?ずっとアメリカにいるんじゃ・・・」
礼人:「へ?いや夏休みの間だけだよ・・・って言ってなかったっけ?」
夏海:「・・・の」
礼人:「は、春宮?今まで感じたことないくらいに怖いんですけど・・・」
夏海:「礼人のバカーーーーー!!!(ビンタ)」
礼人:「いっったあーーー!!」
千冬:「はは、雨降って地固まるってやつかな」
晴空:「そうね、お腹大丈夫?」
千冬:「あんだけ腹にくらわしといてよく言う」
晴空:「ごめんごめん。・・・あんたもさ、もう少し待っててくれる?」
千冬:「へ?」
晴空:「今すぐって訳じゃないけど、私ももう少ししたら気持ちの整理できると思う。そしたら、秋山の・・・千冬のこと見れると思うから。今すぐだと礼人からすぐに乗り換え!って感じでそれも嫌だし」
千冬:「・・・ふふ」
晴空:「なによ」
千冬:「いや、そういうまっすぐなところは本当に好きだなあと。いくらでも待ちますぜ、晴空」
晴空:「・・・ふん!」
0:少しの間
夏海:「待て礼人~!もう一発――!!」
礼人:「ご、ごめんて夏海―――!」
終わり
0:2年生2学期9月教室内
千冬:「今日から2学期だね~。みんな夏休みは楽しめた?」
礼人:「いや特にこれといった思い出っていうのはないよ。毎年恒例で親戚が集まってきて下の面倒見させられてたり、近所の人で集まってバーベキューをしたってくらい?」
千冬:「まあ高校2年の男子が作る夏の思い出にしちゃ、確かに青春っぽさはないな」
晴空:「ちょっと礼人!私と一緒にしたバーベキューが思い出になってないって言うの?!私の水着姿まで見たって言うのに?!」
礼人:「お前はただずっと食べてただけだろー。水着だって特に泳げそうな浅瀬の川なのにはりきって水着なんて着てきたのもお前だけだったじゃねえか」
晴空:「ふ~ん、そういう割には私の水着に見惚れて全身くまなく観察してたように見えたけど~?」
礼人:「ばっ!み、見てねえよ!!」
晴空:「ほんとに~?正直に言ってみ~。ほらほら~、だんだん私と付き合いたくもなってきてんじゃない~?」
礼人:「断じて見てない!そして付き合いたくもならん!」
晴空:「あそ。ちぇっ、もう少しだと思ったのになあ~」
千冬:「2人の関係性も特にこの夏では変わってないご様子ですなあ。いやしかし、うちのクラスどころか学年でも上位に可愛いと言われる如月の水着姿はぜひとも拝みたかったねえ」
晴空:「うわ、目超いやらし。冗談は存在だけにしてくれる?」
千冬:「そこまでいくか?!」
夏海:「今のは秋山君が悪いでしょ」
千冬:「あはは。あー、で春宮さんはどうだったの夏休み」
夏海:「私も特に何もなかったよ。ほとんど部屋で勉強か気分転換にカフェや図書館に行って勉強してたくらい」
千冬:「真面目だねえ」
夏海:「先生も言ってたから。大学受験は高2の夏からもうスタートだって」
礼人:「そっか。春宮はもう行きたい大学とかも決まってるんだっけ」
夏海:「うん、まあ親が大学までは出とけって言われてとりあえずって感じだけど」
千冬:「そういやみんなは書いてきた?夏休みの間に書いて提出しろって言われてた進路希望」
礼人:「あれね~、正直全然分かんねえ。まあ春宮みたいにとりあえず大学は目指すことになるんだろうけど、やりたいことがあるって訳じゃないしな」
晴空:「私は~、礼人のお嫁さん!!」
礼人:「それは進路でもなんでもないだろ!!」
晴空:「え~なんで~?高校出たらお互い結婚もできようになっているんだし結婚しようよ~」
礼人:「話が飛んでんだよな!そもそも付き合ってない!」
晴空:「じゃあまず私と付き合ってよ」
礼人:「断る!」
晴空:「え~」
夏海:「ま、まあ如月さんもその辺にしといてあげたら」
礼人:「春宮は大学行ってやりたいことも決まってるの?」
夏海:「ううん。まだどの学部にしようか迷ってるくらい。でも就職有利になるように少しでもいい大学出なさいって親が言ってるくらいかな」
礼人:「なんか春宮の家庭も大変だな」
夏海:「私のこと思って言ってくれてるのは分かってるんだけどね。それでも最後はちゃんと自分で全部決めてどこの大学に行くか決めようと思ってる」
礼人:「そっか。まあ春宮ならちゃんと自分で決めれるだろ」
夏海:「うん、ありがとう。ところで秋山君はもう進路決まってるの?」
千冬:「俺はもう決まってるよ」
夏海:「そうなんだ、やっぱり大学進学?」
千冬:「そ、行きたい大学も学部も決まってるで~ござる」
夏海:「へえ~すごいね」
礼人:「こいつとは中学から一緒だけど、その時から超がつくくらいの成績優秀で、正直なんでこんな平々凡々の高校にきたか分からないくらいだよ」
千冬:「お、それ言っちゃう~?一番の親友が同じ高校を選んであげたんじゃなーい」
晴空:「うわ~、キモいわね」
千冬:「いや如月だって礼人と一緒にいたいから同じ高校にしたんじゃ・・」
晴空:「秋山と一緒にしないでくれる。私のはもっと純粋よ!」
千冬:「いや俺だって別に不純って訳じゃ・・・」
晴空:「黙れ変態!」
0:
0:晴空に蹴りを入れられる千冬
0:
千冬:「ごっはあ!!」
夏海:「な、なんか改めて・・・育島君って大変だね」
礼人:「ああ、まあな」
0:
0:下校中
0:
千冬:「くあー、いてて。如月のやつあんなマジ蹴りしなくたって」
礼人:「からかいすぎなんだよお前は」
千冬:「ところで如月は?」
礼人:「あー、多分今日も放課後どなたかに愛の告白をされてるんじゃね」
千冬:「さすが学年上位のモテる女でござんすね」
礼人:「その上位の女をいつもからかってんだよ」
千冬:「へへ、ほーーーんのちょっとの遊び心なんでやんすがねえ」
礼人:「お前その喋り口調になる時は大抵ろくな事考えてねえよな」
千冬:「俺としちゃああんまりにベクトルが礼人だけに行くもんだから、遠回しに気づかせようとしてあげたんだけどねえ」
礼人:「その常に分かりきったような振る舞いが、却って反感買ってんだろうが」
千冬:「さすがにそんなつもりはないよ~?俺の勘違いって可能性もあるしな」
礼人:「で、晴空に何を気づかせようってしてたんだよ」
千冬:「それこそ確信してる訳でもないのに言えはしないぜ。まあただのお節介ってことにしといて」
礼人:「ほんっといい性格してるよ。あ、なあところでさ」
千冬:「ん?」
礼人:「さっきさ、進路はもう決まってるって言ってただろ。どうやって決められたんだ?」
千冬:「なんだよ急に」
礼人:「普通に参考までに聞きたいなって思って。どうして決められたんだろうなって」
千冬:「ん~、まあ隠すことでもないし礼人にならいいか。中学生の時にさ、佐々木先生っていただろ?」
礼人:「え、ああ、あの穏やかで人よさそうな美術の先生だろ?」
千冬:「その先生にさ、言われたことがあったんだ」
礼人:「なにを?」
千冬:「お前は学年で一番青春を損してるって」
礼人:「結構キツい言葉だな。でもお前中学も全然楽しそうにしてたじゃん」
千冬:「確かに毎日楽しかったよ。礼人とも他のやつとも馬鹿みたいなこともやってさ。でも心のどこかで、一歩引いてた自分がいたんだよな。あー俺も今こんなことして何してんだろうって」
礼人:「そう、だったのか」
千冬:「そんな俺を先生は見抜いたんだよな。それからさ、少し教師っていうのに興味湧いたんだ。この経験をした俺になら、もしかしたら将来似たように青春を損しそうな生徒に先生と同じことしてやれるんじゃないかって」
礼人:「じゃあ先生になるのか?」
千冬:「いや、先生は先生でも海外教師になろうかなって」
礼人:「海外教師?!今の流れからなんで」
千冬:「そのできごとからしばらくしてさ、テレビで見ちゃったんだよね。世界には学校に行きたくても行けない、授業を受けたくても受けれない子どもがいるって」
礼人:「そりゃたくさんいるだろうけど」
千冬:「で、思ったわけだ。これなんじゃないかって。俺のやりたいこと。青春を損してるどころかそもそも青春すらできない子どもたちに、青春ってこういうもんだって教えてやれる教師になる」
礼人:「・・・すごいな。ちゃんと夢とやりたいことあって」
千冬:「まあ俺の成績からして?海外の大学にでも全然いけそうでござるからな~」
礼人:「ほんっと、途中までいい話だったのにな」
千冬:「ははは。でもそういうんじゃ礼人も教師結構むいてるんじゃない」
礼人:「え?」
千冬:「礼人は何でも卒なくできるし、成績もそこそこいいけど容量がいいってわけじゃない。まあ平たく言えば器用貧乏だけど、その分成績いい子も悪い子もどちらの気持ちも分かってやれてフラットに接してやれるんじゃないか?」
礼人:「教師ねえ。まあ参考までに候補には入れとくよ。話してくれてありがとう。じゃあな」
千冬:「おう」
0:
0:校舎裏
0:
晴空:「ごめんなさいね。私礼人が好きだから。あなたとは付き合えない。気持ち伝えてくれてありがとね。それじゃあ」
0:
0:振り返って少し歩く
0:
夏海:「如月さんはすごいね」
晴空:「あれ、見てたんだ。晴空でいいっていつも言ってるのに。で、なにが?」
夏海:「自分の気持ちを正直にまっすぐに言えて」
晴空:「そう?私にはこれが日常だけど」
夏海:「うん、それってすごいことだよ。誰にでもできることじゃない」
晴空:「私から見たら夏海の方がすごいよ。まだやりたいことが決まってるわけでもないのに親の言う通り勉強して。勉強なんていつかやりたいことができた時にすればいいかなって感じだもん」
夏海:「私のおじいちゃんがね、よく言ってたの。いつかやろうはバカやろうだって。自分がやりたいことができた時、すぐに動けるように準備はしとけって。だから自然と勉強はするようになったのかな」
晴空:「・・・・だって」
夏海:「え?」
晴空:「ううん、なんでもない。ね、アイス食べて帰らない?あんまり2人でちゃんと話したことも今までなかったし、ちょうどいい機会だし」
夏海:「そうね、食べにいこっか。確かに如月さんと一緒にいる時間長いけど、ちゃんと2人で話したこと今までなかったし」
晴空:「だから、そ~ら!」
夏海:「う、うん、晴空」
晴空:「それでよし!・・・ねえ、夏海はさ」
夏海:「ん、なに?」
晴空:「・・・あはは。これもなんでもなかった。行こ!」
夏海:「・・?え、ええ」
0:
0:1か月後
0:
礼人:「しかし今年の文化祭、まさか2年連続で喫茶店とはねえ」
夏海:「ふふ、私たちは去年も喫茶店だったもんね」
礼人:「2年連続になるのはちょっと予想外だよな」
夏海:「そうね、クラスは変わったから人は違うけどびっくりだね」
礼人:「まあでも、3年は受験があるからってことで文化祭は今年で最後だし、楽しまないとだよな~」
夏海:「夏休みも特に思い出なかったし?」
礼人:「痛いところをつくなよ(笑)それにこの話をしだすと晴空がどっかから振ってきそうだし」
夏海:「本当に仲良いよね」
礼人:「ただの腐れ縁ってだけだよ。幼馴染通りこして兄弟みたいな感じ」
夏海:「そうなんだ、あんまり仲が良いから、育島君なんだかんだ言いながら晴空のこと好きなのかなって」
礼人:「まさか。本当に好きだったらとっくに付き合ってるだろ。春宮は好きな人ととかいるの?」
夏海:「え?!い、いやいないよ」
礼人:「ふ~ん、そっか。そういやさ、春宮はあれからやりたいこととか、どこの大学行きたいかとか決まった?」
夏海:「ううん、まだ決めかねてる。育島君は?」
礼人:「いや、俺もあれからまだなんも進展なし。ほんと、千冬がすげえや」
夏海:「秋山君はもうやりたいこと決まってるもんね。何がしたいかって知ってるの?」
礼人:「あー。あいつは教師になりたいんだって」
夏海:「へえー、そうなんだ。まあ秋山君いつも周りの気配りとか上手いからね。案外教師向いてそう。育島君も面倒見とかいいし教師とか向いてそうだけど」
礼人:「それ、千冬にも言われたよ。それも考えてはみたんだけど、なんかちょっと違うのかなって。なんていうか、方向性は間違ってないんだけどそれじゃないなって。漠然としてしかないんだけど」
夏海:「そっか。でもとりあえず専門か大学とかの進学ってことにはなりそうなのかな」
礼人:「だな。まあ勉強だけはなんとなくずっとしてるから、そこで躓くってことはあまりなさそうかな」
夏海:「じゃあ文化祭終わったら、今度は勉強会でもする?」
礼人:「それいいかもな。お互いの得意科目も違うし」
夏海:「うん、お互い頑張んなきゃね」
礼人:「だな。よし、そろそろ交代だし一緒に見て回るか」
夏海:「うん、じゃあ廊下で待ってて」
礼人:「おう」
礼人:「あれ、晴空。交代か?」
晴空:「・・・なによ(小声)」
礼人:「え?」
晴空:「ううん、なんでもない」
0:体育館
夏海:「うわー、盛り上がってるね~」
礼人:「うちの高校、バンド結構すごいので有名らしいからな。観客も多いや」
夏海:「なんか」
礼人:「ん?」
夏海:「あ、いや。なんかみんな青春してるな~みたいな」
礼人:「なに年寄りくさいこと言ってんだよ」
夏海:「そんなつもりはないけど、みんな本当に心から楽しんでる。私、あーやって感情を全開!ってできないからなんか羨ましいなって」
礼人:「・・・・・」
夏海:「・・・・・」
礼人:「だったらさ、今少しその殻を破ろうぜ」
夏海:「え?」
礼人:「ほら、こっち向いて~、カメラ見て~」
夏海:「ちょちょ恥ずかしいよ」
礼人:「にっこり笑った自分の顔をさ、いつか見返した時に見たら、少しは青春してたって思えるんじゃない?」
夏海:「・・・そう、だね。じゃ、じゃあ一緒に撮ろ。一人だとぼっち青春だったって思いそうだし」
礼人:「それもそうか(笑)」
夏海:「うん」
礼人:「よし、じゃあこっちよって」
夏海:「うん。ねえ育島君」
礼人:「ん?」
夏海:「私、見つかったかも。やりたいこと」
礼人:「おう、そっか(笑)」
0:文化祭終了後
礼人:「ん~!文化祭も終わったな」
夏海:「交代の時間全然みんなと被らなかったね」
礼人:「そうだな~。最後の文化祭にしちゃ少し味気なかったな」
夏海:「だね」
礼人:「じゃあその分せめて打ち上げでも4人でいくか」
晴空:「私、今日はいいや」
礼人:「え、行かないのか」
晴空:「うん、あんまり体調よくないから」
礼人:「そっか。送ってくか?」
晴空:「ううん。みんなで楽しんできて」
礼人:「じゃあ、気をつけてな」
0:晴空立ち去る
夏海:「なんだか晴空元気なかったね」
礼人:「うん、なんか考えことしてたな」
夏海:「え、そういうの分かるの?」
礼人:「あいつが体調よくないって言う時、大抵は何か考えことしてて、他は頭に何も入ってこなーいって状態の時だからな」
夏海:「さすが幼馴染だね」
千冬:「でも、何を考えているかまでは分からないんじゃない?」
礼人:「千冬、おつかれ。まあ確かに何考えてるかまでは分かんないな」
千冬:「そうでしょうねえ」
夏海:「秋山君は分かるの?」
千冬:「断定はできないけどおおよそはね」
礼人:「なんなんだよ」
千冬:「憶測であまり言いたくないから今は控えるよ」
礼人:「?・・・そうか」
千冬:「で、今日はこれから打ち上げ?」
礼人:「ああ。4人でって思ってたけど、3人でかな」
千冬:「おう」
0:ファミレス内
千冬:「しっかし打ち上げがファミレスとはね~」
礼人:「仕方ないだろ、あんまり金ないし、これも学生っぽいだろ」
千冬:「てっきりカラオケで春宮さんの美声でも聞けるのかと」
夏海:「わ、私歌わないよ?!」
礼人:「歌っていうと晴空の専売特許だけどな。それこそ晴空がいないのにカラオケ行くのはちょっと気がひけてな」
千冬:「ん~、まあそれもそうか。そういうのがもっと広範囲で気づいてあげれてればねえ~」
礼人:「なんのことだよ」
千冬:「いやなんでもない。しかし、これからいよいよ受験一直線だね~」
礼人:「そうなるな~。学校の大きいイベントはほとんど終わったな」
夏海:「こうしてみんなと話すのも、少しずつ減っていくのかな」
千冬:「そうなってくんだろうねえ。でも大事なのは、お互いがお互いにそれでもつながっていたいかなんじゃない」
夏海:「え?」
千冬:「高校卒業しようと、大学が別になろうと、就職しようとさ、その人とちゃんと繋がっていたいって思えれば、自然とまた会ったり、連絡は取るもんでしょ。そうやって俺らは将来腐れ縁っていう仲になっていくんじゃない」
礼人:「さすが教師を目指してるやつは言うことが違うな~」
千冬:「お褒めに預かり光栄でやんす~」
礼人:「で、すぐこうなるもんな」
夏海:「照れ隠しってやつだね」
千冬:「ストレートに言われるとそれこそ照れるね」
礼人:「でもなんかさ、今ので俺も見つかったかも」
夏海:「それってやりたいこと?」
礼人:「ああ。千冬と一緒で何か人の為に役に立ちたいっていうかさ、助けになってあげれるような、そんなのをしたいって思ってて。でも千冬が目指してる教師っていうのはなんか違くてさ」
千冬:「で、今のやり取りで別のが見つかったと?」
礼人:「うん」
夏海:「それは何か聞いていいのかな」
礼人:「もちろん。心理カウンセラーがいいんじゃないかって今唐突に思った」
千冬:「心理カウンセラー?」
礼人:「そう、なんていうのかな。千冬が前に言ってたように、俺器用貧乏っていうかなんでもそこそこだろ。できない人の気持ちもできる人の気持ちも分かってあげれやすい。俺自身もそう思ってたし、それを活かせないかなってずっと考えてたんだけど・・・」
千冬:「発言した本人が言うのもなんだけど、そこまで良いこと言ったつもりじゃないけど」
礼人:「いいんだよ。俺の中で心のど真ん中にストレートになんかきたってだけ。ほんと、千冬が言ってた通り、なにがきかっけになるか分かんないな」
夏海:「そっか。でもおめでとう!これで夢に向かって頑張っていけるじゃない」
礼人:「おう、ありがとう。ところでさ」
夏海:「ん?」
礼人:「自分が言ったからって訳じゃないけどさ、さっき体育館で言ってた春宮のやりたいことって?」
千冬:「おや?おやおやおや!なんと春宮さんも夢が見つかったの?それは節操も知りたいでござるな~」
夏海:「そんなふうに言われたら言いづらいよ~」
礼人:「茶化すなよ千冬」
千冬:「これは失敬。して教えてはござらんか~」
夏海:「なんか日本語変な気もするけど・・・。えっと、写真家・・カメラマンになりたいなって」
千冬:「これはまた意外!」
礼人:「それってさっきの?」
夏海:「うん。育島君の言葉で私も心のど真ん中にストレートにきたって感じかな。私自身あまり自分が写ってる写真ないけど、大人になっても色んな人の想い出の一瞬を残すお手伝いができたらなって」
礼人:「へえ~」
千冬:「春宮さんらしくていいんじゃない。なんにしてもこれでみんなの夢は決まったわけだ。にしてもお二人同じ日にやりたいこと決まるなんて今日はめでたいねえ~」
礼人:「確かにそんなことなかなかないよな」
夏海:「そうだね。でもこれで一緒に勉強する意欲も湧いてくるね」
礼人:「だな。みんなとりあえず大学に進学だろ。分からないところは教えあっていこうぜ。つっても千冬は必要なさそうだけど」
千冬:「そんなことはないさ。人に教えるっていうのも教師目指す上ではいい経験になるしね」
礼人:「なるほどな。しかしそうなるとあとは」
夏海:「何かあるの?」
礼人:「いや、晴空はどうすんのかなって。あいつ成績はいまいちだし、進学にするにしても今から結構頑張んないとだろ」
千冬:「そこはお節介やかずに、少し待ってあげたら」
礼人:「待つって何を?」
千冬:「彼女には今将来よりも、将来に関して一番叶えたいことがあるのさ。それは勉強よりも優先事項なんだよ。だから少し待ってみようって話」
礼人:「そう、なのか?全然気づかなかった」
夏海:「・・・・・・」
千冬:「だろうな。だから今はとりあえず、俺を信じて待ってあげてよ」
礼人:「・・・分かった」
千冬:「それじゃ今日のところはお開きにしますか」
礼人:「だな。春宮は遅いから気を付けて帰れよ。なんだったら送ろうか?」
夏海:「ううん、大丈夫。この時間なら全然まだバスあるし、塾の帰りよりも早いし」
礼人:「そっか。じゃあまたな」
夏海:「うん」
礼人:「千冬も」
千冬:「ああ、またね」
千冬:「・・・さて、待って上げたらとは言ったけど。俺は少し如月の背中押してやりますか」
0:2年生3学期2月
0:チャイムが鳴る
礼人:「さて、今日も図書館で勉強するとしますか」
夏海:「そうだね。今日は何やるの?」
礼人:「う~ん、現代文にしようかな。春宮は?」
夏海:「私は英語かな」
晴空:「毎日毎日飽きないわね」
礼人:「まあ一人だと集中力そがれたりするけど、誰かとやってるとやらなきゃってなれるな。晴空もやりたいこと決まってなくても、とりあえず勉強はしといたら?俺で教えられるところは教えるけど」
晴空:「考えとく。今日は帰るわ」
礼人:「そっか」
千冬:「俺も今日はちょっと用があるから帰るわ」
礼人:「おう。じゃあ今日は春宮と二人だな」
晴空:「!!」
礼人:「どうかした晴空?」
晴空:「なんでもない。じゃあね」
千冬:「じゃあ俺も」
礼人:「ああ」
0:下校中、帰り道
晴空:「なんでついてくるの?」
千冬:「いんや、ちょっとこっちの方向にある本屋に行きたくてね」
晴空:「本屋なら反対方向に大きいお店あるでしょ。なに?」
千冬:「いや、そんなずっと自分の気持ち伝えずにつんけんしてたって何も変わらないよって言いにきただけ」
晴空:「私のことなんでも知った風に言うわね」
千冬:「今の如月見てたら誰でも気づくと思うよ。少なくとも春宮さんも気づいてはいるみたいだしね。だからこそ、如月に遠慮して春宮さんも想いを伝えられずにいる」
晴空:「私のせいだっていうの」
千冬:「いや?それは春宮さんの問題であって、如月のせいって言うつもりはないよ」
晴空:「じゃあ何!?さっきから何が言いたいの!」
千冬:「如月は想いを伝えなくていいの?礼人にさ」
晴空:「伝えたわよ!何度も何度も!!アピールだってしてきた。夏休みの時だって、幼馴染としてじゃなく女性として意識してほしかったから水着にだってなった」
千冬:「礼人は十分意識はしてくれたんじゃない」
晴空:「そうね。意識はしてくれた。でもね、結局それも幼馴染の延長線上での意識なのよ。照れたり目は逸らしてくれても、それが礼人の中で恋に変わることはなかった。今までいろんなことしてきたけど、結果は全部一緒」
千冬:「それで諦めるって?」
晴空:「諦められてたらこんな風になってないでしょ。けど、夏海と毎日毎日一緒にいて、あんな楽しそうなのを見せつけられるのももう耐えられない」
千冬:「自分がやれることは全部やり切ったって?」
晴空:「そうよ。私にできるのはあの二人の仲に対して目を逸らすことだけ」
千冬:「春宮さんが嫌い?」
晴空:「嫌いになってればもっと楽だったかもね。でも、あの子はいい子よ。礼人が好きになるのも分かる」
千冬:「それはどうかな」
晴空:「何が」
千冬:「礼人が春宮さんに気が向いているのは間違いない。でもそれがまだ恋愛対象としてかは分からないよ」
晴空:「分かるわよ。礼人の女性に対するあんな目、今まで見たことなかった」
千冬:「そうだね。俺も見たことない」
晴空:「じゃあ!」
千冬:「でも俺は礼人がある人に対してだけにしか見せない目も知っている」
晴空:「誰よそれ」
千冬:「如月に決まってるだろ」
晴空:「そんなの、幼馴染だから兄弟みたいに見られてるだけでしょ」
千冬:「そうかな、案外自分自身に向けられている目がどんなのか、近すぎて分からないってこともあるんじゃない」
晴空:「そうだとしても、礼人が私を恋愛対象として見てはないじゃない」
千冬:「そう見てもらうかは如月しだいだよ」
晴空:「だから私にできることは!」
千冬:「まだ、1つ残ってるでしょ」
晴空:「え?」
千冬:「今のその想いを、その場の勢いとかじゃなくて、ちゃんと伝えるんだよ」
晴空:「で、でも」
千冬:「大丈夫だよ。たとえその恋が失敗に終わったとしても、幼馴染が終わることなんてない」
晴空:「・・・・」
千冬:「一番伝えなきゃいけないこと伝えないと、後悔するよ」
晴空:「・・・なんで、良くしてくれるの。本当は礼人に気づいてほしいのに」
千冬:「それはごめんよ。それに俺が気づけたのは、俺も似たような状況だから分かっただけだよ」
晴空:「秋山にも好きな人がいたんだ」
千冬:「そゆこと」
晴空:「あんたは想いを伝えないわけ?」
千冬:「今は伝えないかな」
晴空:「私にあれだけ言っといて?」
千冬:「如月の方は可能性はあるだろうけど、俺の方は想い伝えたところで可能性は今のままじゃゼロだから」
晴空:「そんなのそれこそ伝えてみなきゃ」
千冬:「俺の好きな人は、今幼馴染の異性にベタぼれ中だからさ」
晴空:「!」
千冬:「言ったろ?俺も似たような状況だって。だからとりあえず、如月の方の恋に決着がつかないと俺の方も進まないのさ」
晴空:「私が礼人と上手くいったらどうするのよ」
千冬:「その時は春宮の方にいくさ」
晴空:「最低ね」
千冬:「野暮なこと聞くからだろ」
晴空:「ごめん」
千冬:「いいよ。如月は自分のことにまっすぐ進んでいくのがいいとこだからさ。周りが見えてないことも含めて」
晴空:「何それ、バカにしてる?」
千冬:「ほんのさっきの仕返しさ」
晴空:「それはどうもありがとう!」
千冬:「(笑)」
晴空:「(笑)」
千冬:「さて、元気がでたようだし俺は帰るわ」
晴空:「なによ、やっぱり本屋に用なんてないじゃない」
千冬:「実はもう買ってたのを今思い出したところさー」
晴空:「都合のいい頭ね。でも、本当にありがとう」
千冬:「あいよ。じゃあな」
晴空:「うん、また」
晴空:「・・・これがラストチャンス、かな」
0:2月14日、ある公園
礼人:「こんなところに呼び出して、どうしたんだよ」
晴空:「ん~、なんか懐かしくてここに来たくなってね」
礼人:「子どもの頃はよく来てたからなこの公園」
晴空:「そうだね、あの頃はいっつも礼人と遊んでた」
礼人:「物心ついた時からいつも一緒だったからな。兄弟みたいなもんだよ」
晴空:「うん、そう思ってるだろうなって思ってここにしたんだ」
礼人:「え?」
晴空:「礼人、最後までちゃんと聞いてね」
礼人:「う、うん」
晴空:「礼人、私ね。ずっとずっと礼人のことが好きだった。子どもの頃からこの公園で一緒に遊んでた時からずっと」
礼人:「え、いやだって」
晴空:「お願い、最後まで聞いて」
礼人:「・・・・・」
晴空:「礼人はずっと兄弟のように接してたんだと思う。実際私もそういう風にしか見られてないなって感じてたから。いつも私が付き合う?って言っても冗談にしか聞こえてなかったんだと思う」
晴空:「でも、私は本気なの。今までも私なりに精一杯アピールしてきたつもりなの。幼馴染としてじゃなくて、女性として見てほしいって」
礼人:「・・・そうか」
晴空:「でもね、この間秋山に言われて気づいたの。一番肝心なことを、口に出して伝えなきゃ伝わらないこともあるって。だから、今日伝えることにした」
礼人:「・・・・・」
晴空:「私、礼人の夢応援する。協力できることがあったらする。礼人の支えになって見せるから、私を彼女にしてもらえないかな。私と礼人が付き合える可能性って全くないかな」
礼人:「・・・返事、してもいいか?それで伝えたいことは全部?」
晴空:「うん」
礼人:「ありがとう。想い伝えてくれて。晴空に言われるまで、自分が誰を好きなんだとかそういうの、あんまり考えたことなくて。考えないようにしてきた。きっとその感じだと、晴空も気づいてるんだろうけど、俺は晴空が好きなのか、春宮が好きなのか分からなかった」
晴空:「うん」
礼人:「どっちも好きは好きなんだと思う。それが女性として、恋なのかどうなのかって自分の中で判断できなくて・・・」
礼人:「でも晴空に対しては、今告白されて分かった。俺にとって晴空は大切な存在だよ」
晴空:「・・・・・」
礼人:「でもごめん。それはやっぱり幼馴染としてで、兄弟のようにしか見れないかな。俺だって晴空にやりたいことができたら応援したい。何か助けてやれたらって思うだろうけど、でもそれはやっぱり恋人としてではない、かな」
晴空:「・・・そっか。そっか」
礼人:「ごめん」
晴空:「ううん、正面から受け止めてくれてありがとう。あのさ、本当は成功して渡したかったんだけど、せめてこれは受け取ってくれない?」
礼人:「あ、そっか。今日バレンタインデー・・・」
晴空:「うん」
礼人:「ありがとう・・・」
0:礼人が受け取ろうとするが晴空が手を離さない
晴空:「・・・」
礼人:「晴空・・・」
晴空:「(泣きそうになりながら)ごめん、一つだけお願いしていいかな。少しだけだから」
礼人:「・・・うん」
晴空:「(大声でしばらく泣く)」
0:少しの間
礼人:「落ち着いた?」
晴空:「うん、ありがとう」
礼人:「そっか。じゃあ一緒に帰るか」
晴空:「ううん、今日は先に帰るね」
礼人:「そっか」
晴空:「明日からは!またいつもの私に戻るから。だから礼人もいつも通り接して」
礼人:「分かった」
晴空:「うん、じゃまたね」
礼人:「ああ」
0:翌日、学校の屋上
千冬:「で、如月はちゃんと伝えられたわけだ」
礼人:「ああ、まあな」
千冬:「見事にあの如月を振ったわりには浮かない顔してるね。後悔してんの?」
礼人:「振ったことには後悔してないよ。ただあいつが今まで俺にしてきたことに対して、俺はどれだけ誠実に応えられていただろうかって思うとな。今さらそんなこと考えたって仕方ないんだけど」
千冬:「仕方ないかどうかは、それを今後礼人が糧にしていけるかなんじゃないか」
礼人:「ほんと、教師にむいてんなお前は」
千冬:「それよりも、考えなきゃいけないことは他にもあるんじゃない」
礼人:「え・・」
千冬:「春宮さんのこと、どうすんの」
礼人:「わかんね。晴空への想いはハッキリしたけど、じゃあ春宮の方はって聞かれると、これが恋なのか分かんないわ」
千冬:「そうか、まあまだ時間はあるんだししばらくは考えていいんじゃない」
礼人:「ありがとう、そうするわ」
千冬:「でも夏からの留学の件も、ちゃんと考えとけよ」
礼人:「ああ、分かってる」
0:3年生1学期7月(夏休み前)、教室内
夏海:「え、夏休みからアメリカへ留学?」
礼人:「ああ。実は千冬からは今年の初めには誘われてたんだけど、最近まで行くか悩んでたんだ。でも心理カウンセラーについて学ぶならアメリカの方が進んでて、自分にもチャンスだと思ったから行くことにした。アメリカ行ってもとりあえず千冬は一緒にいるから生活もなんとかなりそうだしな」
千冬:「自分が向こうで世話になる知人がたまたま心理カウンセラーと知り合いでね。ついでに礼人もどうかなって思ったけどまさか本当に行くの決断するとはちょっと思わなかったよ」
礼人:「誘っといてよく言うよ」
夏海:「で、でもそれじゃあ!」
礼人:「ん?」
夏海:「あ、ううん。なんでもない。夏休みからってことは3日後には?」
礼人:「そうなるな。伝えるのギリギリになってごめん」
夏海:「ううん。向こうでも頑張ってきてね」
礼人:「おう、ありがとう」
夏海:「じゃあ私、今日は帰るね」
礼人:「あ、ああ」
0:夏海が立ち去る
千冬:「明らかに動揺してるねえ」
礼人:「だな」
千冬:「礼人の方は気持ちの整理ついたのかい?」
礼人:「いや、まだわかんね。夏休みに入るころにはもう全部に整理ができててスッキリしてるって思ったのにな」
千冬:「う~む」
礼人:「なんだよ」
千冬:「この後、ちょっと付き合えよ」
礼人:「ん?」
千冬:「まあ、ちょっとついて来いって」
礼人:「ああ」
千冬:「てな訳で、春宮さんの方は任したよ」
晴空:「なんで私に言うのよ」
千冬:「そりゃあ、春宮さんのことが心配で心配でしかたなーい!って顔してたから」
晴空:「し、してないわよそんな顔!」
千冬:「でも、これから追いかけに行くとこでしょ?」
晴空:「っ!!あんたのそういうところ、ほんと好きになれないわ」
千冬:「褒め言葉として受け取っておくよ」
晴空:「ふん!」
0:少しの間
礼人:「なあ、ここどこだよ」
千冬:「な、なんと!ここはこの町でもデートスポットとしても有名な夕日が綺麗に見える丘!」
礼人:「なんでそんなとこに連れてきたの!?」
千冬:「いや、ずっと考え込んでる礼人に、ちとアドバイスをば」
礼人:「お前のその時々変わる口調なんなの?」
千冬:「ここに来るなら誰と来たい?」
礼人:「え?」
千冬:「ここじゃなくてもいい、アメリカ留学が決まった時、夢が叶った時、最初に伝えたい人って誰だ?」
礼人:「あ・・・」
千冬:「俺か、如月か、それとも親か?」
礼人:「・・・春宮だな」
千冬:「それはどうしてだ?」
礼人:「どうしてって・・・」
千冬:「俺がアドバイスしてやれるのはここまでだ。あとはその辺を自分の中でよく考えてみろよ」
礼人:「・・・」
千冬:「じゃ、そんだけだから俺はこれで帰るわ。バイビー」
礼人:「あ、おい!・・・・どうして、か」
0:ある公園
夏海:「・・・なんで何も相談してくれ」
晴空:「なかったのって顔してるわね」
夏海:「晴空!」
晴空:「夏海はこのままでいいの?礼人、3日後には行っちゃうよ」
夏海:「晴空は留学のこと知ってたの?」
晴空:「まあ親同士も仲いいからね。嫌でも情報は入ってくるから」
夏海:「そっか・・・」
晴空:「で、いいの?」
夏海:「いいも何も、私がどうこう言える立場じゃないし。育島君が夢に向かって選んだ道だもの。止める理由がないわ」
晴空:「そうやってまた自分の気持ちを抑えるの?」
夏海:「え、抑えてなんかないよ。育島君が夢に向かって大きく進めそうで素直に嬉しいよ」
晴空:「そこに」
夏海:「え?」
晴空:「そこにあなたの気持ちはないじゃない!好きなんでしょ礼人のこと」
夏海:「す、好きだけどでもだからって行かないでなんて言えるわけない。礼人だって私のこと好きなわけじゃないだろうし、こんなタイミングで言われたってめいわ・・・」
晴空:「いい加減にして!」
夏海:「!!」
晴空:「礼人が夏海のこと好きじゃない?好きって言われて迷惑?ふざけないでよ・・・」
夏海:「そ、晴空?」
晴空:「あんたは!私が何をしても、どれだけ自分の想いを正直に伝えても、手に入れられないものを、一言言えば手に入るのに!それなのに逃げようとしている」
夏海:「何を言ってるの」
晴空:「ほんと、頭がおかしくなりそう」
夏海:「だから、何を言って・・・」
晴空:「いつか夏海は言ったよね。いつかやろうはバカやろうだって。恋だってそうなの!いつか伝えようとか、このタイミングがどうとかって。そんなので自分の気持ちから逃げないで!!」
夏海:「!!!」
晴空:「行きなさい。礼人のところへ、自分の気持ちを伝えに」
夏海:「で、でもどこにいるか」
晴空:「それならきっと、秋山からメールが来てるんじゃない」
夏海:「え・・・、あ、本当だ」
晴空:「あいつのああいうところ、ムカつくけどすごいよね」
夏海:「そうだね」
晴空:「この公園ね、子どもの頃よく礼人と遊んでた場所なの。そして私が礼人に振られた場所」
夏海:「そうなんだ・・・」
晴空:「私にここまで言わせたんだから、頑張ってきなさい。私と礼人の想い出はこの公園までなの」
夏海:「うん、晴空」
晴空:「なに?」
夏海:「ありがとう」
晴空:「バカ、早く行きなさいよ」
夏海:「うん、行ってきます」
0:少しの間
晴空:「そこにいるんでしょ、秋山」
千冬:「おっと、気づかれちまいやしたか」
晴空:「どこから聞いてたの?」
千冬:「いや、本当に今来たところだよ。この公園から走って出ていく春宮さん見てここだったんだなって分かった」
晴空:「そう、私たちも行きましょ」
千冬:「へ?それはさすがに野暮ってもんじゃ」
晴空:「そんな告白の一部始終を見ようって気はないわよ。全部終わった後、どうなったか見届けるくらいの権利はあるでしょ」
千冬:「なるほど」
晴空:「場所、案内しなさいよ。ゆっくりでいいわ」
千冬:「へーい」
0:夕日が綺麗に見える丘
夏海:「(呼吸を整えて)、育島君」
礼人:「春宮・・・」
夏海:「隣、いいかな」
礼人:「ああ」
夏海:「ありがとう」
礼人:「知ってるか?この場所この町じゃ有名なデートスポットなんだってさ」
夏海:「そうなんだ。全然知らなかった」
礼人:「だよな。俺も千冬にさっき教えてもらうまで知らなかった」
夏海:「(笑い声)」
礼人:「(笑い声)」
礼人:「さっきさ、千冬に聞かれたんだ」
夏海:「何を?」
礼人:「この場所に来たい人や、アメリカ留学決まった時や夢が叶った時、最初に伝えたい人は誰かって」
夏海:「うん」
礼人:「春宮だった。そう聞かれたらビックリするくらいすんなり最初に春宮が浮かんできた。で、千冬にそれはどうしてって聞かれて、今の今まで何でかここで考えてた」
夏海:「答えは出た?」
礼人:「ああ。春宮とならずっと一緒に、例え隣にいない時があっても自分たちの夢を支えあいながら進んでいけるんじゃないかって思ったんだ。そうして新しいことにも、二人なら挑んでいけるんじゃないかって」
夏海:「私もね、さっき晴空に言われたの」
礼人:「何を?」
夏海:「いつかやろうはバカやろうは、恋も一緒だって。自分の気持ちから逃げるなって。育島君が行く前にちゃんと伝えてこいって」
礼人:「そっか。・・・なあ春宮」
夏海:「なに?」
礼人:「伝えたいことがあるんだ」
夏海:「私も、育島君に伝えたいことがある」
礼人:「春宮のことが」
夏海:「育島君のことが」
礼人:「好きだ」
夏海:「好きです」
礼人:「ようやく、自分の気持ちに気づけたよ」
夏海:「私もようやく、自分の気持ちを伝えられた」
礼人:「お互い時間かかっちまったな」
夏海:「そうだね」
千冬:「おやおやまあまあ、この様子を見るに無事成功したようですなあ」
晴空:「ほんと、言い方」
礼人:「千冬!」
夏海:「晴空!」
礼人:「まさか、全部聞いてたのか?」
晴空:「そんなことさすがにしないわよ。礼人まで秋山みたいなこと言うのね」
礼人:「いや、お前には過去に輝かしい実績が・・・」
晴空:「なんか言った?」
礼人:「いや、なんでもない。それと二人ともありがとう」
晴空:「私は別に何も」
夏海:「ううん、晴空が背中を押してくれなかったらきっと言えなかった」
千冬:「そうそう、ほんと如月はいわゆるツンデレ・・・」
晴空:「黙りなさい!!(腹蹴り)」
千冬:「ごっっっはぁ!!」
夏海:「にしても3日後には育島君も秋山君もアメリカかあ。寂しくなるね」
礼人:「まあな。でも夏休みの間だけだから」
夏海:「え?ずっとアメリカにいるんじゃ・・・」
礼人:「へ?いや夏休みの間だけだよ・・・って言ってなかったっけ?」
夏海:「・・・の」
礼人:「は、春宮?今まで感じたことないくらいに怖いんですけど・・・」
夏海:「礼人のバカーーーーー!!!(ビンタ)」
礼人:「いっったあーーー!!」
千冬:「はは、雨降って地固まるってやつかな」
晴空:「そうね、お腹大丈夫?」
千冬:「あんだけ腹にくらわしといてよく言う」
晴空:「ごめんごめん。・・・あんたもさ、もう少し待っててくれる?」
千冬:「へ?」
晴空:「今すぐって訳じゃないけど、私ももう少ししたら気持ちの整理できると思う。そしたら、秋山の・・・千冬のこと見れると思うから。今すぐだと礼人からすぐに乗り換え!って感じでそれも嫌だし」
千冬:「・・・ふふ」
晴空:「なによ」
千冬:「いや、そういうまっすぐなところは本当に好きだなあと。いくらでも待ちますぜ、晴空」
晴空:「・・・ふん!」
0:少しの間
夏海:「待て礼人~!もう一発――!!」
礼人:「ご、ごめんて夏海―――!」
終わり