台本概要

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タイトル STRAYSHEEP Ⅳ
作者名 紫音  (@Sion_kyo2)
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男2、女3)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 『ずっと友達っていう、約束——』
孤独な少年が、孤独な少女と出会った。光と影、交わらないはずの二人の、純粋な約束。そして、哀しく響いた銃声——。
これは、デュアルバレットが死んだ、あの日の記憶。
――――――――――――――――――――――――――――――――
STRAYSHEEPシリーズ四作目になります。
時間は30分~40分を想定しています。人数は五人ですが、途中少しだけ兼ね役(敵)があります。どなたが兼ねていただいても大丈夫です。
上演の際、お手数でなければお知らせいただけると嬉しいです。※必須ではないです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アデル 121 何でも屋。元殺し屋“デュアルバレット”。
チェルシー 46 何でも屋。元殺し屋“デュアルバレット”。
シルバー 35 殺し屋組織のトップ。アデル&チェルシーのかつての師。
ヒリス 34 殺し屋。アデル&チェルシーのかつての上司。
ユリア 70 怪我をしたアデルの手当てをする少女。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:暗い路地裏を歩いているシルバー。 0:急に立ち止まり、ちらりと背後を見る。 シルバー:……誰だ。 シルバー:そこにいるのは分かってる。出てこい。 アデル:……そう殺気立たないでくれないか。 0:物陰から出てきたアデル。 0:シルバーはアデルを睨み付け、腰のベルトの銃に手を伸ばす。 アデル:待てよ、やり合うつもりはねぇ。 シルバー:……お前になくても、こちらにはある アデル:その前に、話がしたい。……それくらいはいいだろ。 シルバー:……。 アデル:あんたが、俺を殺そうとする理由は分かってる。 アデル:けど……俺にも俺なりの理由があった。それだけは、聞いてほしい。 シルバー:……命乞いか。 アデル:……まあ、否定はしねぇよ。 アデル:俺は生きなくちゃいけない。約束があるんだ。 シルバー:……(ため息)。 0:銃に伸ばしかけていた手を下ろし、シルバーはアデルに背を向ける。 シルバー:……場所を変える。ついて来い。 0:  0:  0:  0:数年前。 0:廃れた街の中を、駆け抜けていく人影が複数。 チェルシー:……アデル!そっちに二人行った! アデル:ああ、見えてる。任せろ。 0:チェルシーとアデルは二手に分かれ、逃げる影を追っていく。 敵:チッ……“デュアルバレット”め……! チェルシー:そいつら結構強いよ、気を付けて! アデル:問題ない……すぐ片付ける。 0:逃げる影に、アデルが数発撃つ。 0:一人に弾が命中し倒れる。もう一人が振り返り、アデルに向けて発砲。 敵:くそ……ガキのくせに……ッ! アデル:……ぐッ……!? 弾がアデルの足を掠め、バランスを崩したアデルに敵が銃口を向ける。 敵:これで、終わりだ……!! アデル:……チッ……なめるなよ……! 0:銃声。 0:相手はゆっくりと倒れ、動かなくなる。 アデル:……ハァ……ハァ…… アデル:チッ……少し油断したか…… アデル:くそ……痛ぇな…… アデル:とにかく……チェルシーと合流しねぇと。 0:  0:足を引きずり歩くアデル。 0:その背後に、少女が声をかける。 ユリア:……ねぇあなた、どうしたの? アデル:……あ? ユリア:怪我してるわ。大丈夫? アデル:……。 0:足早に去ろうとするアデル。しかしそれをユリアが止める。 ユリア:待って。ダメよ、手当てしなくちゃ。 アデル:……俺に構うな。 ユリア:どうして? アデル:どうして……って ユリア:ほら、ここに座って。怪我、見てあげる。 0:アデルを座らせ、足の怪我の手当てを始めるユリア。 ユリア:まず止血しなくちゃ……少し痛いかもしれないけど、我慢してね。 アデル:……ぐッ…… ユリア:あ、ごめんね……! ユリア:もう少しだから、頑張って…… 0:手当てを終えるユリア。怪我の部分には可愛らしいハンカチが巻かれている。 ユリア:……はい、これでひとまずは大丈夫だけど…… ユリア:病院に行った方がいいわ。歩ける?一緒に―― アデル:……いい。俺に構うなって言ってるだろ。 アデル:誰だか知らないけど、勝手なことするなよ。 0:立ち上がり、立ち去ろうとするアデル。 ユリア:ねえあなた、この近くに住んでるの? アデル:……関係ないだろ、さっさと帰れよ。 0:そのままアデルは去っていく。 0:  0:  0:  0:現在。 0:とある薔薇園にて。 0:紅茶を片手に、赤薔薇を眺めているヒリス。 ヒリス:……あら、珍しいお客様ね。 ヒリス:こんな所まで何をしに来たのかしら?……チェルシー。 チェルシー:……ちゃんと覚えてたのね、私のこと。 ヒリス:ふふっ、当然でしょう? ヒリス:あなたがまだ新人だった頃……まだ“デュアルバレット”という名前もなかった頃が懐かしいわねぇ。 チェルシー:……苦い思い出よ。 ヒリス:今のあなたにとっては、そうかもしれないわね。 ヒリス:ところで……私になんの御用かしら? ヒリス:思い出話に花を咲かせに、というわけではないのでしょう? チェルシー:……そうね。そっちだって、穏やかに話す気はさらさらないんじゃない? チェルシー:あんな刺客を送ってくるくらいだしね。 ヒリス:……ふ、ルシアとロイドのことね。 ヒリス:あの二人をあなたたちの元へ送ったシルバーはともかく……私は別に、のんびりしても構わないわよ? ヒリス:こんなにも薔薇が綺麗に咲き誇る場所で、殺しなんて野暮でしょう? チェルシー:……そう。 ヒリス:ふふ、とりあえず座ったら?紅茶もケーキも、あなたの分を用意してあるから。 0:  0:  0:  0:数年前の回想に戻る。 0:ユリアと出会った場所に立っているアデル。 0:その手には、怪我の部分に巻かれていたハンカチがあった。 アデル:……さすがに、今日もこんなところにいるわけはねぇか。 アデル:くそ、このハンカチ……どうすりゃいい…… 0:その背後から、再びユリアが声をかける。 ユリア:……あら?あなた、昨日の…… アデル:……! ユリア:ふふ、また会えたわね!……怪我はもう大丈夫なの? アデル:……ああ、まあ。 アデル:その……これ。 0:アデルがハンカチを差し出すと、ユリアは目を丸くする。 アデル:借りっぱなしってのも、良くねぇから……返す。 ユリア:……わざわざ、返しに来てくれたの……? アデル:嫌いなんだよ、人から物借りるの。 ユリア:……ふふ、ありがとう。 0:ハンカチを受け取り、微笑むユリア。 アデル:じゃあ、俺は帰るから。 ユリア:ねぇ、待って。 アデル:……なんだよ。 ユリア:私たち、お友達になれる気がする。 アデル:は?……何言ってんだ、お前。 ユリア:『お前』じゃないわ、ユリアよ。 アデル:……はぁ? ユリア:だから、私の名前。ユリアっていうの。 アデル:……知らねぇよ、そんなの。 ユリア:あなたの名前は? アデル:……。 ユリア:お願い、教えて? アデル:……(ため息)。 アデル:……アデル。 ユリア:アデルっていうのね。 ユリア:ねぇ、明日もまた、ここで会えるかしら。 アデル:……なんで。 ユリア:私が、あなたにまた会いたいから。 アデル:……意味わかんねぇ。なんで俺なんかと。 ユリア:うーん……上手く説明できないけど……あなたとは仲良くなれそうな気がする。 ユリア:だから、明日もまたここで会いましょ。 アデル:……勝手に決めんなよな。 アデル:お前……すげぇ変な奴。 0:  0:  0:  0:現在。 0:とある酒場にて。 シルバー:……大体の話は聞いている。殺しから足を洗ったらしいな。 アデル:……まあな。 シルバー:随分と、情けない顔をするようになった。 シルバー:昔のお前は……あの頃のお前は……もっと、鋭い目をしていたというのに。 シルバー:落ちぶれたな、アデル。 アデル:好きに言えよ。 0:僅かな沈黙が流れる。 シルバー:……チェルシーは。 シルバー:チェルシーは、元気にしているか。 アデル:……ああ、元気だよ。 アデル:あいつは、俺のせいで組織を抜けたようなもんだ。……あいつのことは怒らないでやってくれ。 シルバー:……人の心配より自分の心配をしろ、アデル。自分がどういうことをしたのか、分かっているのか。 アデル:……。 シルバー:アデル。 アデル:……分かってるよ。あんたが怒るのも当然だ。 アデル:けど、言っただろ。俺にだって……そこまでする理由があったんだよ。 0:  0:  0:  0:数年前の回想に戻る。 ユリア:アデルー! アデル:……! アデル:ばか、大声で名前呼ぶなっての……! ユリア:あ、ごめん…… アデル:……いや、まあ……いいけど。 ユリア:あのね、見せたいものがあるの、こっち来て! アデル:あ、おい、引っ張んなって……! 0:  アデル:(N)分からない。 アデル:(N)どうして毎日、なんとなくこいつに会いに来てしまうのか。 アデル:(N)うざくてうざくて仕方ないはずなのに。 アデル:(N)なんで……こんなにも。 アデル:(N)気になってしまうんだろう……。 0:  ユリア:こっちこっち!早くー! アデル:おいっ……早ぇよ、待てって……! ユリア:ほら、見て。 アデル:……あ? アデル:なんだこれ……花? ユリア:そう、私の好きな花。 ユリア:フリージアっていうの、綺麗でしょ? アデル:ふーん…… ユリア:……お花、嫌い? アデル:別に嫌いってわけじゃねぇけど……興味もない。 ユリア:どうして? アデル:……花なんて、いつか枯れるだろ。そんなもん愛でてどうすんだよ。 ユリア:たしかに、いつかは枯れちゃうものだけど……だからこそ、綺麗なんだと思うの。 アデル:はぁ? ユリア:今この一瞬を、一生懸命に咲き誇ってる。枯れてしまうまでの僅かな日々を、決して下を向くことなく、生きてる。 ユリア:だから私、花が好き。 アデル:……よく分かんねぇよ。 ユリア:ふふっ、これあげる。 アデル:……なんで。いいよ。 ユリア:だーめ、あげる。 アデル:だから……花に興味ねぇって…… ユリア:この花を見たら、私を思い出して。 アデル:……? ユリア:ずっと友達っていう、約束。 アデル:……約、束……? ユリア:うん。約束。 アデル:……。 アデル:……分かったよ。 アデル:約束、な。 0:  0:  0:  0:現在。 0:薔薇園にて。 ヒリス:こっちもいろいろと大変だったのよね。 ヒリス:どこぞのネズミが潜り込んできたのを、やっと捕まえたと思ったら逃がしちゃって。……少し相手を見くびってたわ。 チェルシー:……あなたにも、そんなことがあるのね。 ヒリス:当たり前よ、失敗しない人間なんてこの世にいないでしょう? ヒリス:大切なのは、その失敗から何を学ぶかっていうこと。 チェルシー:何を……学ぶか……。 ヒリス:……あら、何か思い当たることでもあるのかしら? チェルシー:相変わらず意地が悪いのね……全部分かってるくせに。 ヒリス:いいえ、全部なんて分からないわ。 ヒリス:私が知っているのは“事実”だけ。その内面は、あなたにしか分からない。 チェルシー:内、面…… ヒリス:そうよ、チェルシー。 ヒリス:あなたの内側の、その歪んだドロドロとしたものは……あなたにしか分からないの。 0:  0:  0:  0:数年前の回想に戻る。 アデル:……お前さ。 ユリア:ん? アデル:なんでずっと俺と一緒にいるんだよ。 アデル:俺なんかと友達になりたいとか……頭おかしいだろ。 ユリア:どうして?何がおかしいの? アデル:……いや、何がって…… ユリア:きっとね、私とアデルは似てるのよ。 アデル:似てる……? ユリア:そう。 ユリア:なんとなく、そんな気がするの。 アデル:……なんとなく、かよ。 0:  アデル:(N)実際、俺とこいつは似ている。 アデル:(N)早くに親を亡くして、親戚に引き取られることもなく、使用人たちと暮らす生活。 アデル:(N)一緒に遊ぶ友達も、話しかけてくれる人もいない……そんな、こいつと。 アデル:(N)生まれてから親の顔も知らず、真っ暗で埃まみれの場所で銃を握り始めた俺。 アデル:(N)そう……似ているんだ。 アデル:(N)ひとりぼっちだったんだ。 0:  ユリア:じゃあ、また明日ね、アデル。 アデル:……ああ。 ユリア:明日は晴れるかな、それとも雨かな。 アデル:……どっちでもいいけど。 ユリア:私は、晴れてる方が好き。お日様があったかいから。 アデル:……そうかよ。 アデル:俺は……太陽は嫌いだ。 ユリア:ふふ、私とアデルって正反対ね。 アデル:……当たり前だろ。 ユリア:なんで? アデル:……そんなの、別に知らなくていい。 ユリア:そっか……。 アデル:……じゃあな、ユリア。 ユリア:あ、今……。 アデル:なんだよ。 ユリア:……ふふ、アデル。 ユリア:やっと私のこと、名前で呼んでくれた。 アデル:……! アデル:ばッ……別に、たまたま……!! ユリア:ふふっ、ありがと。 アデル:……っるせぇよ、じゃあな! 0:  アデル:(N)なんでだよ、くそ。意味わかんねぇ。 アデル:(N)なんでこんなに顔が熱いんだよ……。 アデル:(N)あいつといると、調子が狂う。 アデル:(N)俺は……馬鹿か。 アデル:(N)……会いに行かなきゃ、いいのに。 アデル:(N)また、あの笑顔を見たいって……そう思ってしまう自分がいる。 アデル:(N)初めて、日の当たる場所から差し伸べられた、小さくて温かい手。 アデル:(N)この時間が、ずっと続けばいいのに……なんて。 アデル:(N)そんな呑気なことを……考えていられるうちは良かったんだ。 0:  0:  0:  シルバー:アデル、チェルシー。 シルバー:お前たちに新しい仕事だ。 チェルシー:新しい仕事? チェルシー:今度はどこの誰を殺ればいいわけ? シルバー:詳細はここにまとめてある。確認しろ。 チェルシー:……だってさ、アデル。 アデル:ふーん。 チェルシー:えーっと、次のマトは……っと。 チェルシー:……うわ、見てこれ。 アデル:あ?なんだよ。 チェルシー:ほら、今回のマト。私たちと歳が変わらない。 アデル:……なに? 0:  アデル:(N)なぜか、嫌な予感がした。 アデル:(N)当たらないでほしかった。 アデル:(N)だけど…… 0:  チェルシー:ユリア・クリスフォード。……それが今回のマト。 チェルシー:……ま、さくっと終わらせましょ。私たちなら楽勝よ。 0:  0:  0:  0:現在。 0:酒場にて。 シルバー:デュアルバレットだった頃のお前は、常に冷静で、弾も正確で……本当に、自慢の弟子だった。 アデル:……あんたに助けてもらった恩は、忘れちゃいねぇよ。 シルバー:お前とチェルシーに任せておけば、何も不安はなかった。 シルバー:強さにも驕ることなく、常に強くなろうとする姿勢も……他の者たちに見せてやりたいと思うほどだった。 シルバー:お前たちなら、きっとどんな時でも、迷うことなく真っ直ぐにと……そう思っていたが、期待外れだった。 シルバー:……お前には、本当に失望した。 アデル:……分かってるよ。 シルバー:分かっていないだろう。 シルバー:お前は逃げているだけだ。贖罪などという言葉を盾にして、過去から目を背けているだけだ。 シルバー:お前は弱い。己の罪と向き合う覚悟など、最初からないのだろう。 アデル:……そんなこと…… シルバー:心が強くあるのなら、そもそも迷いなど生まれぬはずだ。 シルバー:だがお前は迷った。引き金を引くことをやめた。……そんな半端者を弟子にした覚えはない。 アデル:……あんたには、分からないだろ。 シルバー:なんだと? アデル:……あの時の俺の気持ち、あんたには分かんねぇだろ。 シルバー:……。 アデル:……じゃあ、教えてくれよ、シルバー。 アデル:あんたは、自分の大切な人を……殺したことあんのかよ……。 0:  0:  0:  0:回想に戻る。 0:無言で歩いていくアデルとチェルシー。 チェルシー:……ねぇちょっと、待ってよアデル。 アデル:……。 チェルシー:待ってってば! アデル:……なんだよ。 チェルシー:なんだよ、じゃないわよ。さっきから何を話しかけても無言だし、ずっと怖い顔してるし…… チェルシー:どうしたの?なんかあった? アデル:……別に。 チェルシー:隠し事はナシでしょ、アデル。 アデル:隠し事なんてしてない。 チェルシー:してる。 アデル:してない。 チェルシー:絶対してる! アデル:してないって! 0:真正面から睨み合う二人。 0:やがてアデルが、ため息とともにチェルシーに背を向ける。 アデル:……チェルシー。 チェルシー:なによ。 アデル:……この仕事は、俺一人でやる。 チェルシー:はぁ?何言ってんのよ。私たち二人の仕事でしょ? チェルシー:それともなに?私は足手まといだとでも言いたいわけ? アデル:違う。 アデル:違う……けど……これは、俺がやらなくちゃいけないんだ。 チェルシー:……アデル……? アデル:頼む、手を出さないでくれ、チェルシー。 チェルシー:……、……。 チェルシー:……分かった、わよ……。 0:  0:  0:  ユリア:……あ、アデル! アデル:……よ、ユリア。 ユリア:あのね、見て見て!育ててたお花が咲いたの! ユリア:ほら、すっごく綺麗……! アデル:……ああ。 0:少し離れたところから様子を見ているチェルシー。 チェルシー:(……どういうこと?) チェルシー:(アデルの……知り合い、なの……?) ユリア:……どうしたの、アデル。 アデル:なにが。 ユリア:……すっごく怖い顔してる。何かあった? アデル:……。 ユリア:友達に隠し事はダメだよ?アデル。 チェルシー:(友達……?) チェルシー:(あいつ、何言って……) アデル:……なあ、ユリア。 ユリア:ん? アデル:……俺たちはもう、友達ではいられない。 ユリア:え?……どうして? アデル:……ごめんな、ユリア。 アデル:全部、今日で終わりなんだ。 0:銃を構えるアデル。ユリアは驚いて動きを止める。 アデル:……俺はこれから……お前を殺さなくちゃいけない。 アデル:今までずっと隠してたけど……俺は、殺し屋だ。 0:  0:  0:  0:現在。 0:薔薇園にて。 ヒリス:慈しみか、嫉妬か。 チェルシー:……え? ヒリス:愛って恐ろしいわよね……っていう話。優しさにも、憎しみにもなれるんだから。 チェルシー:……なにそれ。 ヒリス:あなたの話よ、チェルシー。 ヒリス:まだ、引きずっているんでしょう?だから彼と……アデルと一緒にいる。 チェルシー:……私が、アデルを憎んでるとでも? ヒリス:いいえ、逆。 ヒリス:あなたの中には、底知れないアデルへの愛がある。 チェルシー:急に何の話よ。 ヒリス:まだ許せないんでしょう、あの子を……ユリアを。 ヒリス:それこそ憎しみ……嫉妬よね。 チェルシー:……確かにアデルのことは大事だけど、それは友達として、相棒としてよ。恋愛感情なんか持ってない。 ヒリス:でもあなた、アデルには自分だけだと思っていたでしょ? チェルシー:……それ、は。 ヒリス:お互い孤独だったところに出会って、二人で“デュアルバレット”という名を手にして。 ヒリス:彼にとって、『友達』なんて呼べるのは自分だけだって……そういう自負があった。 ヒリス:でも、そこにあの子が現れて、アデルの視線は彼女に釘付けになっていって…… チェルシー:違うわよ、ヒリス。 ヒリス:……違う? チェルシー:確かに、認めるわよ。私がユリアに憎しみを抱いていること。 チェルシー:でもそれは……アデルを取られたからとか、そういう子どもみたいな理由じゃない。 ヒリス:……なら、何だと言うの? チェルシー:……あの子のせいで、アデルがあんな風になったから。 チェルシー:一生背負わなくちゃいけない十字架を、あの子がアデルに背負わせたからよ。 0:  0:  0:  0:回想に戻る。 0:向かい合うアデルとユリア。 ユリア:アデ、ル…… アデル:……最初から、おかしかったんだよ。殺し屋の俺と、平穏な世界で生きてるお前が友達になるなんて。 アデル:言ってみりゃあ光と影だ……一緒にいて、ろくなことがあるわけがない。 アデル:……お前、馬鹿だよな。俺なんかに声かけなきゃ、こんな最期にならなかったかもしれねぇのに。 ユリア:……。 ユリア:……知ってた、よ。 アデル:……は、……? ユリア:私ね、知ってた。……アデルが殺し屋だってこと。 アデル:……! ユリア:アデルに初めて声かけたときね……私見てたんだ、アデルが人を撃ったところ。 アデル:……は、……じゃあ、なんで…… アデル:なんで……俺に、声かけたんだよ、お前…… ユリア:……分かんない。 ユリア:分かんないけど……友達になれそうな気がしたの。 ユリア:私とあなたは似てるって……そう思った。 アデル:なんだよ、それ……意味わかんねぇ…… ユリア:私ね、アデル。自分がいつか殺されちゃうことも知ってた。 ユリア:私のお父さんとお母さんは死んじゃう前に、私にたくさんお金を残してくれたんだけど……子どもが持つにはまだ早いからって、そのお金は親戚の叔父さんや叔母さんが代わりに貰うんだって。 ユリア:でも、そのためには私が死ななくちゃいけないの。だから、叔父さんや叔母さんは、私を…… アデル:……遺産のために、お前を……? ユリア:難しいことはよく分からないけど……私、生まれつき病気も持ってるし。どうせ、長くは生きられないってお医者さんにも言われてるから。 ユリア:だから私ね、死ぬのは全然怖くない。 アデル:……ユリア…… ユリア:でもひとりぼっちで死んじゃうのは嫌だったから……最後に友達ができて、私本当に良かった。 アデル:……やめろよ、馬鹿…… ユリア:私ね、今幸せなんだ。 ユリア:だから、アデル。……私を殺して。 ユリア:私に未来なんてないこと、分かってる。だったら……幸せな今のまま、終わらせて。 アデル:なんで……なんでそんなこと言うんだよ、馬鹿……ッ! ユリア:ね、お願い……どうせいつか誰かに殺されちゃうなら、私はアデルがいい。 アデル:……ッ……!! 0:銃を構えるも、引き金を引けないアデル。 0:それを離れた所から見ていたチェルシーが銃を構える。 チェルシー:(……埒が明かない) チェルシー:(今のアデルに、あいつを殺すのは無理……なら私が……!) ユリア:……アデル、撃って。 アデル:……く……ぅ…… ユリア:……ごめんね。 アデル:なんでお前が、謝るんだよ…… アデル:謝らなきゃいけないのは……俺の方……ッ ユリア:……アデル。 ユリア:友達になってくれて、ありがとう。 ユリア:私の分も、生きてね。 アデル:……ッ…… アデル:……ああ、くそ……ッ! 0:次の瞬間。 0:銃声が響いた。 0:  0:  0:  0:現在。 0:酒場にて。 シルバー:お前は、腐っても殺し屋だろう。標的に同情など言語道断。 アデル:同情なんかじゃない。……友達を、殺したくなかった。 シルバー:教えたはずだぞ、常に孤独でいろと。 シルバー:光に生きる者との繋がりなど……自身を滅ぼすだけだ。 アデル:それでも……それでもあいつは……俺の、大切な人だった。 シルバー:だからといって……お前が依頼人を皆殺しにしたことを正当化はできんぞ。 アデル:依頼人…… シルバー:あの少女からすれば、親戚にあたるか。 アデル:莫大な遺産の唯一の相続人であるユリアがいなくなれば、自分たちがその遺産を手にすることができる。 アデル:だから俺たちに、ユリアを殺せと依頼した……そんなクズ野郎共だろ。 シルバー:お前がやったことは、組織の信頼に関わることだぞ。後先も考えず、自分の憎しみの勢いで依頼人を殺すなど…… アデル:大馬鹿だって言いたいんだろ。……分かってるよ。 アデル:でもあのときの俺には……それしか考えられなかった。 シルバー:……組織として、お前を消すという判断に至るのは当然だろう。 シルバー:俺がトドメを刺したものだと思っていたが……どうやら急所を外していたらしい。死に損なったか。 アデル:……あいつの分まで生きるって約束したんだ。 アデル:もう、俺たちのことは放っておいてくれないか。殺し屋の俺は、もういない。……今の俺は、ただの何でも屋だ。 シルバー:……自分で葬ったつもりか。過去の己を。 シルバー:そんなことはできんぞ。お前が生きている限り。 アデル:……あ? シルバー:今のお前は、過去のお前がいたからこそ存在するのだということを忘れるな。過去は一生ついて回る。それを、自分で終わりにできるなどと思うな。 シルバー:そこまでの覚悟を持ち合わせていないのならば……そもそも銃など握るべきではない。だからお前は半端者だと言われるんだ。 アデル:……。 シルバー:贖罪とはな、アデル。 シルバー:罪を犯した己を、認めるところから始まる。 シルバー:過去から目を背けながらの償いなど、形だけの偽りの償いだ。それが分からんうちは、お前は何も変わらない。 アデル:罪を……認める……。 0:黙り込むアデル。シルバーは黙って席を立つ。 シルバー:……お前たちの始末は、もう少し先にする。 アデル:あ、おい…… シルバー:また会うときまでに……今度こそ本当の『覚悟』を決めておけ。進むのか、止まり続けるのかという覚悟をな。 シルバー:……それと、ついでだ。一つ教えておく。 シルバー:“女三人組のバウンティハンター”に気を付けろ。奴らはおそらく……お前たちのことも標的にしているぞ。 アデル:バウンティ、ハンター……? アデル:……分かった。気を付けておく。 アデル:……ありがとう。 0:シルバーはそのまま黙って酒場を出ていく。 0:アデルはその後ろ姿を、しばらく見つめていた。 0:  0:  0:  0:薔薇園にて。 ヒリス:……依頼人を皆殺しなんていう、とんでもないことをしてくれた後、アデルはシルバーに殺されて、あなたは組織を出ていった。 チェルシー:……アデルがいなくちゃ、デュアルバレットは成立しない。だから、アデルがいないあの組織に私がいる意味はない。 ヒリス:まあ実際のところ、アデルは運良く生きていたわけだけどね。 ヒリス:あなたは……デュアルバレットのままでいたかった。そうでしょう? チェルシー:……否定は、しない。 チェルシー:多分私は……あの頃のアデルが一番好きだった。 チェルシー:あ、別に恋愛感情じゃないわよ。そうじゃなくて……相棒として、よ。 チェルシー:でも……あの子が、ユリアがアデルを変えた。 チェルシー:あの子のことは確かに、可哀想だとは思う。周囲に裏切られて、自分の未来に希望も持てずに……死を望むなんて。 チェルシー:……でも、あの子さえ、アデルの前に現れなかったら……私たちは今でも、あの頃のまま…… チェルシー:……ほんと、めんどくさいわね、人間って。自分でも嫌になる。 ヒリス:……そうね。 ヒリス:でも、だからこそ人間って、美しいんじゃないかしら? ヒリス:自分のために、あるいは誰かのために……愛に縛られて、もがいて、ボロボロになって……そうやって生きていく生き物よ。 ヒリス:愛されなければ、愛さなければ、生きていけないのだから。 ヒリス:だから、あなたの抱えるそれは……とても人間らしくて美しいと、私は思うわ。 チェルシー:……どうかしらね。 チェルシー:あの子が死んで、すっかり暗くなったアデルに……前みたいに笑ってほしいって、私に頼ってほしいって思ってしがみついてる私は、美しくなんてないわよ。 ヒリス:……ふ、そう。 ヒリス:はい、これ。あなたにプレゼント。 0:ヒリスは一本の黄色い薔薇をチェルシーに差し出す。 チェルシー:なにこれ……黄色の、薔薇? ヒリス:今のあなたよ、チェルシー。 チェルシー:……? チェルシー:どういうことよ。 ヒリス:そうねぇ……ヒントは、花言葉。 チェルシー:花言葉……? ヒリス:それじゃ、私はこれで失礼するわ。 チェルシー:え、ちょ、帰るの? ヒリス:ええ、お茶会は終わり。 0:チェルシーを残して帰っていくヒリス。 ヒリス:……あなたはまだ、幸せ者よ、チェルシー。 ヒリス:どれほど愛していても、相手がもうそこに生きていなければ……ただ苦しいだけなのだから。 チェルシー:……。 チェルシー:……ヒリス、あなたって。 ヒリス:ん?なあに? チェルシー:……なくしたことがあるの、大切な人を。 ヒリス:……ふふ。 ヒリス:さあ……どうかしらね。 ヒリス:夕焼けが綺麗よ、チェルシー。……あなたも、早くお帰りなさい。 0:  0:  0:  0:某所にて。 シルバー:……遅かったな、ヒリス。 ヒリス:あら、あなたもでしょう、シルバー。久しぶりの愛弟子との再会はどうだった? シルバー:……愛弟子など、昔の話だ。 シルバー:お前こそ、チェルシーと話したんだろう。 ヒリス:……まあ、ね。 ヒリス:ふふ、嫌になるわ、本当に。 シルバー:何が。 ヒリス:人の過去を暴くのが嫌いなんて……人のこと言える立場じゃないわね、私は。 シルバー:……ともかくだ。俺たちは、目の前の課題を最優先すべきだろう。 ヒリス:ふ……そうね。 ヒリス:行きましょうか、動くなら早い方がいい。 シルバー:ああ……そうだな。 シルバー:……狩るぞ、バウンティハンターを。 0:  0:フリージア 0:【花言葉】……あどけなさ、純潔、親愛の情 0:黄色の薔薇 0:【花言葉】……献身、友情、嫉妬 0: 

0:暗い路地裏を歩いているシルバー。 0:急に立ち止まり、ちらりと背後を見る。 シルバー:……誰だ。 シルバー:そこにいるのは分かってる。出てこい。 アデル:……そう殺気立たないでくれないか。 0:物陰から出てきたアデル。 0:シルバーはアデルを睨み付け、腰のベルトの銃に手を伸ばす。 アデル:待てよ、やり合うつもりはねぇ。 シルバー:……お前になくても、こちらにはある アデル:その前に、話がしたい。……それくらいはいいだろ。 シルバー:……。 アデル:あんたが、俺を殺そうとする理由は分かってる。 アデル:けど……俺にも俺なりの理由があった。それだけは、聞いてほしい。 シルバー:……命乞いか。 アデル:……まあ、否定はしねぇよ。 アデル:俺は生きなくちゃいけない。約束があるんだ。 シルバー:……(ため息)。 0:銃に伸ばしかけていた手を下ろし、シルバーはアデルに背を向ける。 シルバー:……場所を変える。ついて来い。 0:  0:  0:  0:数年前。 0:廃れた街の中を、駆け抜けていく人影が複数。 チェルシー:……アデル!そっちに二人行った! アデル:ああ、見えてる。任せろ。 0:チェルシーとアデルは二手に分かれ、逃げる影を追っていく。 敵:チッ……“デュアルバレット”め……! チェルシー:そいつら結構強いよ、気を付けて! アデル:問題ない……すぐ片付ける。 0:逃げる影に、アデルが数発撃つ。 0:一人に弾が命中し倒れる。もう一人が振り返り、アデルに向けて発砲。 敵:くそ……ガキのくせに……ッ! アデル:……ぐッ……!? 弾がアデルの足を掠め、バランスを崩したアデルに敵が銃口を向ける。 敵:これで、終わりだ……!! アデル:……チッ……なめるなよ……! 0:銃声。 0:相手はゆっくりと倒れ、動かなくなる。 アデル:……ハァ……ハァ…… アデル:チッ……少し油断したか…… アデル:くそ……痛ぇな…… アデル:とにかく……チェルシーと合流しねぇと。 0:  0:足を引きずり歩くアデル。 0:その背後に、少女が声をかける。 ユリア:……ねぇあなた、どうしたの? アデル:……あ? ユリア:怪我してるわ。大丈夫? アデル:……。 0:足早に去ろうとするアデル。しかしそれをユリアが止める。 ユリア:待って。ダメよ、手当てしなくちゃ。 アデル:……俺に構うな。 ユリア:どうして? アデル:どうして……って ユリア:ほら、ここに座って。怪我、見てあげる。 0:アデルを座らせ、足の怪我の手当てを始めるユリア。 ユリア:まず止血しなくちゃ……少し痛いかもしれないけど、我慢してね。 アデル:……ぐッ…… ユリア:あ、ごめんね……! ユリア:もう少しだから、頑張って…… 0:手当てを終えるユリア。怪我の部分には可愛らしいハンカチが巻かれている。 ユリア:……はい、これでひとまずは大丈夫だけど…… ユリア:病院に行った方がいいわ。歩ける?一緒に―― アデル:……いい。俺に構うなって言ってるだろ。 アデル:誰だか知らないけど、勝手なことするなよ。 0:立ち上がり、立ち去ろうとするアデル。 ユリア:ねえあなた、この近くに住んでるの? アデル:……関係ないだろ、さっさと帰れよ。 0:そのままアデルは去っていく。 0:  0:  0:  0:現在。 0:とある薔薇園にて。 0:紅茶を片手に、赤薔薇を眺めているヒリス。 ヒリス:……あら、珍しいお客様ね。 ヒリス:こんな所まで何をしに来たのかしら?……チェルシー。 チェルシー:……ちゃんと覚えてたのね、私のこと。 ヒリス:ふふっ、当然でしょう? ヒリス:あなたがまだ新人だった頃……まだ“デュアルバレット”という名前もなかった頃が懐かしいわねぇ。 チェルシー:……苦い思い出よ。 ヒリス:今のあなたにとっては、そうかもしれないわね。 ヒリス:ところで……私になんの御用かしら? ヒリス:思い出話に花を咲かせに、というわけではないのでしょう? チェルシー:……そうね。そっちだって、穏やかに話す気はさらさらないんじゃない? チェルシー:あんな刺客を送ってくるくらいだしね。 ヒリス:……ふ、ルシアとロイドのことね。 ヒリス:あの二人をあなたたちの元へ送ったシルバーはともかく……私は別に、のんびりしても構わないわよ? ヒリス:こんなにも薔薇が綺麗に咲き誇る場所で、殺しなんて野暮でしょう? チェルシー:……そう。 ヒリス:ふふ、とりあえず座ったら?紅茶もケーキも、あなたの分を用意してあるから。 0:  0:  0:  0:数年前の回想に戻る。 0:ユリアと出会った場所に立っているアデル。 0:その手には、怪我の部分に巻かれていたハンカチがあった。 アデル:……さすがに、今日もこんなところにいるわけはねぇか。 アデル:くそ、このハンカチ……どうすりゃいい…… 0:その背後から、再びユリアが声をかける。 ユリア:……あら?あなた、昨日の…… アデル:……! ユリア:ふふ、また会えたわね!……怪我はもう大丈夫なの? アデル:……ああ、まあ。 アデル:その……これ。 0:アデルがハンカチを差し出すと、ユリアは目を丸くする。 アデル:借りっぱなしってのも、良くねぇから……返す。 ユリア:……わざわざ、返しに来てくれたの……? アデル:嫌いなんだよ、人から物借りるの。 ユリア:……ふふ、ありがとう。 0:ハンカチを受け取り、微笑むユリア。 アデル:じゃあ、俺は帰るから。 ユリア:ねぇ、待って。 アデル:……なんだよ。 ユリア:私たち、お友達になれる気がする。 アデル:は?……何言ってんだ、お前。 ユリア:『お前』じゃないわ、ユリアよ。 アデル:……はぁ? ユリア:だから、私の名前。ユリアっていうの。 アデル:……知らねぇよ、そんなの。 ユリア:あなたの名前は? アデル:……。 ユリア:お願い、教えて? アデル:……(ため息)。 アデル:……アデル。 ユリア:アデルっていうのね。 ユリア:ねぇ、明日もまた、ここで会えるかしら。 アデル:……なんで。 ユリア:私が、あなたにまた会いたいから。 アデル:……意味わかんねぇ。なんで俺なんかと。 ユリア:うーん……上手く説明できないけど……あなたとは仲良くなれそうな気がする。 ユリア:だから、明日もまたここで会いましょ。 アデル:……勝手に決めんなよな。 アデル:お前……すげぇ変な奴。 0:  0:  0:  0:現在。 0:とある酒場にて。 シルバー:……大体の話は聞いている。殺しから足を洗ったらしいな。 アデル:……まあな。 シルバー:随分と、情けない顔をするようになった。 シルバー:昔のお前は……あの頃のお前は……もっと、鋭い目をしていたというのに。 シルバー:落ちぶれたな、アデル。 アデル:好きに言えよ。 0:僅かな沈黙が流れる。 シルバー:……チェルシーは。 シルバー:チェルシーは、元気にしているか。 アデル:……ああ、元気だよ。 アデル:あいつは、俺のせいで組織を抜けたようなもんだ。……あいつのことは怒らないでやってくれ。 シルバー:……人の心配より自分の心配をしろ、アデル。自分がどういうことをしたのか、分かっているのか。 アデル:……。 シルバー:アデル。 アデル:……分かってるよ。あんたが怒るのも当然だ。 アデル:けど、言っただろ。俺にだって……そこまでする理由があったんだよ。 0:  0:  0:  0:数年前の回想に戻る。 ユリア:アデルー! アデル:……! アデル:ばか、大声で名前呼ぶなっての……! ユリア:あ、ごめん…… アデル:……いや、まあ……いいけど。 ユリア:あのね、見せたいものがあるの、こっち来て! アデル:あ、おい、引っ張んなって……! 0:  アデル:(N)分からない。 アデル:(N)どうして毎日、なんとなくこいつに会いに来てしまうのか。 アデル:(N)うざくてうざくて仕方ないはずなのに。 アデル:(N)なんで……こんなにも。 アデル:(N)気になってしまうんだろう……。 0:  ユリア:こっちこっち!早くー! アデル:おいっ……早ぇよ、待てって……! ユリア:ほら、見て。 アデル:……あ? アデル:なんだこれ……花? ユリア:そう、私の好きな花。 ユリア:フリージアっていうの、綺麗でしょ? アデル:ふーん…… ユリア:……お花、嫌い? アデル:別に嫌いってわけじゃねぇけど……興味もない。 ユリア:どうして? アデル:……花なんて、いつか枯れるだろ。そんなもん愛でてどうすんだよ。 ユリア:たしかに、いつかは枯れちゃうものだけど……だからこそ、綺麗なんだと思うの。 アデル:はぁ? ユリア:今この一瞬を、一生懸命に咲き誇ってる。枯れてしまうまでの僅かな日々を、決して下を向くことなく、生きてる。 ユリア:だから私、花が好き。 アデル:……よく分かんねぇよ。 ユリア:ふふっ、これあげる。 アデル:……なんで。いいよ。 ユリア:だーめ、あげる。 アデル:だから……花に興味ねぇって…… ユリア:この花を見たら、私を思い出して。 アデル:……? ユリア:ずっと友達っていう、約束。 アデル:……約、束……? ユリア:うん。約束。 アデル:……。 アデル:……分かったよ。 アデル:約束、な。 0:  0:  0:  0:現在。 0:薔薇園にて。 ヒリス:こっちもいろいろと大変だったのよね。 ヒリス:どこぞのネズミが潜り込んできたのを、やっと捕まえたと思ったら逃がしちゃって。……少し相手を見くびってたわ。 チェルシー:……あなたにも、そんなことがあるのね。 ヒリス:当たり前よ、失敗しない人間なんてこの世にいないでしょう? ヒリス:大切なのは、その失敗から何を学ぶかっていうこと。 チェルシー:何を……学ぶか……。 ヒリス:……あら、何か思い当たることでもあるのかしら? チェルシー:相変わらず意地が悪いのね……全部分かってるくせに。 ヒリス:いいえ、全部なんて分からないわ。 ヒリス:私が知っているのは“事実”だけ。その内面は、あなたにしか分からない。 チェルシー:内、面…… ヒリス:そうよ、チェルシー。 ヒリス:あなたの内側の、その歪んだドロドロとしたものは……あなたにしか分からないの。 0:  0:  0:  0:数年前の回想に戻る。 アデル:……お前さ。 ユリア:ん? アデル:なんでずっと俺と一緒にいるんだよ。 アデル:俺なんかと友達になりたいとか……頭おかしいだろ。 ユリア:どうして?何がおかしいの? アデル:……いや、何がって…… ユリア:きっとね、私とアデルは似てるのよ。 アデル:似てる……? ユリア:そう。 ユリア:なんとなく、そんな気がするの。 アデル:……なんとなく、かよ。 0:  アデル:(N)実際、俺とこいつは似ている。 アデル:(N)早くに親を亡くして、親戚に引き取られることもなく、使用人たちと暮らす生活。 アデル:(N)一緒に遊ぶ友達も、話しかけてくれる人もいない……そんな、こいつと。 アデル:(N)生まれてから親の顔も知らず、真っ暗で埃まみれの場所で銃を握り始めた俺。 アデル:(N)そう……似ているんだ。 アデル:(N)ひとりぼっちだったんだ。 0:  ユリア:じゃあ、また明日ね、アデル。 アデル:……ああ。 ユリア:明日は晴れるかな、それとも雨かな。 アデル:……どっちでもいいけど。 ユリア:私は、晴れてる方が好き。お日様があったかいから。 アデル:……そうかよ。 アデル:俺は……太陽は嫌いだ。 ユリア:ふふ、私とアデルって正反対ね。 アデル:……当たり前だろ。 ユリア:なんで? アデル:……そんなの、別に知らなくていい。 ユリア:そっか……。 アデル:……じゃあな、ユリア。 ユリア:あ、今……。 アデル:なんだよ。 ユリア:……ふふ、アデル。 ユリア:やっと私のこと、名前で呼んでくれた。 アデル:……! アデル:ばッ……別に、たまたま……!! ユリア:ふふっ、ありがと。 アデル:……っるせぇよ、じゃあな! 0:  アデル:(N)なんでだよ、くそ。意味わかんねぇ。 アデル:(N)なんでこんなに顔が熱いんだよ……。 アデル:(N)あいつといると、調子が狂う。 アデル:(N)俺は……馬鹿か。 アデル:(N)……会いに行かなきゃ、いいのに。 アデル:(N)また、あの笑顔を見たいって……そう思ってしまう自分がいる。 アデル:(N)初めて、日の当たる場所から差し伸べられた、小さくて温かい手。 アデル:(N)この時間が、ずっと続けばいいのに……なんて。 アデル:(N)そんな呑気なことを……考えていられるうちは良かったんだ。 0:  0:  0:  シルバー:アデル、チェルシー。 シルバー:お前たちに新しい仕事だ。 チェルシー:新しい仕事? チェルシー:今度はどこの誰を殺ればいいわけ? シルバー:詳細はここにまとめてある。確認しろ。 チェルシー:……だってさ、アデル。 アデル:ふーん。 チェルシー:えーっと、次のマトは……っと。 チェルシー:……うわ、見てこれ。 アデル:あ?なんだよ。 チェルシー:ほら、今回のマト。私たちと歳が変わらない。 アデル:……なに? 0:  アデル:(N)なぜか、嫌な予感がした。 アデル:(N)当たらないでほしかった。 アデル:(N)だけど…… 0:  チェルシー:ユリア・クリスフォード。……それが今回のマト。 チェルシー:……ま、さくっと終わらせましょ。私たちなら楽勝よ。 0:  0:  0:  0:現在。 0:酒場にて。 シルバー:デュアルバレットだった頃のお前は、常に冷静で、弾も正確で……本当に、自慢の弟子だった。 アデル:……あんたに助けてもらった恩は、忘れちゃいねぇよ。 シルバー:お前とチェルシーに任せておけば、何も不安はなかった。 シルバー:強さにも驕ることなく、常に強くなろうとする姿勢も……他の者たちに見せてやりたいと思うほどだった。 シルバー:お前たちなら、きっとどんな時でも、迷うことなく真っ直ぐにと……そう思っていたが、期待外れだった。 シルバー:……お前には、本当に失望した。 アデル:……分かってるよ。 シルバー:分かっていないだろう。 シルバー:お前は逃げているだけだ。贖罪などという言葉を盾にして、過去から目を背けているだけだ。 シルバー:お前は弱い。己の罪と向き合う覚悟など、最初からないのだろう。 アデル:……そんなこと…… シルバー:心が強くあるのなら、そもそも迷いなど生まれぬはずだ。 シルバー:だがお前は迷った。引き金を引くことをやめた。……そんな半端者を弟子にした覚えはない。 アデル:……あんたには、分からないだろ。 シルバー:なんだと? アデル:……あの時の俺の気持ち、あんたには分かんねぇだろ。 シルバー:……。 アデル:……じゃあ、教えてくれよ、シルバー。 アデル:あんたは、自分の大切な人を……殺したことあんのかよ……。 0:  0:  0:  0:回想に戻る。 0:無言で歩いていくアデルとチェルシー。 チェルシー:……ねぇちょっと、待ってよアデル。 アデル:……。 チェルシー:待ってってば! アデル:……なんだよ。 チェルシー:なんだよ、じゃないわよ。さっきから何を話しかけても無言だし、ずっと怖い顔してるし…… チェルシー:どうしたの?なんかあった? アデル:……別に。 チェルシー:隠し事はナシでしょ、アデル。 アデル:隠し事なんてしてない。 チェルシー:してる。 アデル:してない。 チェルシー:絶対してる! アデル:してないって! 0:真正面から睨み合う二人。 0:やがてアデルが、ため息とともにチェルシーに背を向ける。 アデル:……チェルシー。 チェルシー:なによ。 アデル:……この仕事は、俺一人でやる。 チェルシー:はぁ?何言ってんのよ。私たち二人の仕事でしょ? チェルシー:それともなに?私は足手まといだとでも言いたいわけ? アデル:違う。 アデル:違う……けど……これは、俺がやらなくちゃいけないんだ。 チェルシー:……アデル……? アデル:頼む、手を出さないでくれ、チェルシー。 チェルシー:……、……。 チェルシー:……分かった、わよ……。 0:  0:  0:  ユリア:……あ、アデル! アデル:……よ、ユリア。 ユリア:あのね、見て見て!育ててたお花が咲いたの! ユリア:ほら、すっごく綺麗……! アデル:……ああ。 0:少し離れたところから様子を見ているチェルシー。 チェルシー:(……どういうこと?) チェルシー:(アデルの……知り合い、なの……?) ユリア:……どうしたの、アデル。 アデル:なにが。 ユリア:……すっごく怖い顔してる。何かあった? アデル:……。 ユリア:友達に隠し事はダメだよ?アデル。 チェルシー:(友達……?) チェルシー:(あいつ、何言って……) アデル:……なあ、ユリア。 ユリア:ん? アデル:……俺たちはもう、友達ではいられない。 ユリア:え?……どうして? アデル:……ごめんな、ユリア。 アデル:全部、今日で終わりなんだ。 0:銃を構えるアデル。ユリアは驚いて動きを止める。 アデル:……俺はこれから……お前を殺さなくちゃいけない。 アデル:今までずっと隠してたけど……俺は、殺し屋だ。 0:  0:  0:  0:現在。 0:薔薇園にて。 ヒリス:慈しみか、嫉妬か。 チェルシー:……え? ヒリス:愛って恐ろしいわよね……っていう話。優しさにも、憎しみにもなれるんだから。 チェルシー:……なにそれ。 ヒリス:あなたの話よ、チェルシー。 ヒリス:まだ、引きずっているんでしょう?だから彼と……アデルと一緒にいる。 チェルシー:……私が、アデルを憎んでるとでも? ヒリス:いいえ、逆。 ヒリス:あなたの中には、底知れないアデルへの愛がある。 チェルシー:急に何の話よ。 ヒリス:まだ許せないんでしょう、あの子を……ユリアを。 ヒリス:それこそ憎しみ……嫉妬よね。 チェルシー:……確かにアデルのことは大事だけど、それは友達として、相棒としてよ。恋愛感情なんか持ってない。 ヒリス:でもあなた、アデルには自分だけだと思っていたでしょ? チェルシー:……それ、は。 ヒリス:お互い孤独だったところに出会って、二人で“デュアルバレット”という名を手にして。 ヒリス:彼にとって、『友達』なんて呼べるのは自分だけだって……そういう自負があった。 ヒリス:でも、そこにあの子が現れて、アデルの視線は彼女に釘付けになっていって…… チェルシー:違うわよ、ヒリス。 ヒリス:……違う? チェルシー:確かに、認めるわよ。私がユリアに憎しみを抱いていること。 チェルシー:でもそれは……アデルを取られたからとか、そういう子どもみたいな理由じゃない。 ヒリス:……なら、何だと言うの? チェルシー:……あの子のせいで、アデルがあんな風になったから。 チェルシー:一生背負わなくちゃいけない十字架を、あの子がアデルに背負わせたからよ。 0:  0:  0:  0:回想に戻る。 0:向かい合うアデルとユリア。 ユリア:アデ、ル…… アデル:……最初から、おかしかったんだよ。殺し屋の俺と、平穏な世界で生きてるお前が友達になるなんて。 アデル:言ってみりゃあ光と影だ……一緒にいて、ろくなことがあるわけがない。 アデル:……お前、馬鹿だよな。俺なんかに声かけなきゃ、こんな最期にならなかったかもしれねぇのに。 ユリア:……。 ユリア:……知ってた、よ。 アデル:……は、……? ユリア:私ね、知ってた。……アデルが殺し屋だってこと。 アデル:……! ユリア:アデルに初めて声かけたときね……私見てたんだ、アデルが人を撃ったところ。 アデル:……は、……じゃあ、なんで…… アデル:なんで……俺に、声かけたんだよ、お前…… ユリア:……分かんない。 ユリア:分かんないけど……友達になれそうな気がしたの。 ユリア:私とあなたは似てるって……そう思った。 アデル:なんだよ、それ……意味わかんねぇ…… ユリア:私ね、アデル。自分がいつか殺されちゃうことも知ってた。 ユリア:私のお父さんとお母さんは死んじゃう前に、私にたくさんお金を残してくれたんだけど……子どもが持つにはまだ早いからって、そのお金は親戚の叔父さんや叔母さんが代わりに貰うんだって。 ユリア:でも、そのためには私が死ななくちゃいけないの。だから、叔父さんや叔母さんは、私を…… アデル:……遺産のために、お前を……? ユリア:難しいことはよく分からないけど……私、生まれつき病気も持ってるし。どうせ、長くは生きられないってお医者さんにも言われてるから。 ユリア:だから私ね、死ぬのは全然怖くない。 アデル:……ユリア…… ユリア:でもひとりぼっちで死んじゃうのは嫌だったから……最後に友達ができて、私本当に良かった。 アデル:……やめろよ、馬鹿…… ユリア:私ね、今幸せなんだ。 ユリア:だから、アデル。……私を殺して。 ユリア:私に未来なんてないこと、分かってる。だったら……幸せな今のまま、終わらせて。 アデル:なんで……なんでそんなこと言うんだよ、馬鹿……ッ! ユリア:ね、お願い……どうせいつか誰かに殺されちゃうなら、私はアデルがいい。 アデル:……ッ……!! 0:銃を構えるも、引き金を引けないアデル。 0:それを離れた所から見ていたチェルシーが銃を構える。 チェルシー:(……埒が明かない) チェルシー:(今のアデルに、あいつを殺すのは無理……なら私が……!) ユリア:……アデル、撃って。 アデル:……く……ぅ…… ユリア:……ごめんね。 アデル:なんでお前が、謝るんだよ…… アデル:謝らなきゃいけないのは……俺の方……ッ ユリア:……アデル。 ユリア:友達になってくれて、ありがとう。 ユリア:私の分も、生きてね。 アデル:……ッ…… アデル:……ああ、くそ……ッ! 0:次の瞬間。 0:銃声が響いた。 0:  0:  0:  0:現在。 0:酒場にて。 シルバー:お前は、腐っても殺し屋だろう。標的に同情など言語道断。 アデル:同情なんかじゃない。……友達を、殺したくなかった。 シルバー:教えたはずだぞ、常に孤独でいろと。 シルバー:光に生きる者との繋がりなど……自身を滅ぼすだけだ。 アデル:それでも……それでもあいつは……俺の、大切な人だった。 シルバー:だからといって……お前が依頼人を皆殺しにしたことを正当化はできんぞ。 アデル:依頼人…… シルバー:あの少女からすれば、親戚にあたるか。 アデル:莫大な遺産の唯一の相続人であるユリアがいなくなれば、自分たちがその遺産を手にすることができる。 アデル:だから俺たちに、ユリアを殺せと依頼した……そんなクズ野郎共だろ。 シルバー:お前がやったことは、組織の信頼に関わることだぞ。後先も考えず、自分の憎しみの勢いで依頼人を殺すなど…… アデル:大馬鹿だって言いたいんだろ。……分かってるよ。 アデル:でもあのときの俺には……それしか考えられなかった。 シルバー:……組織として、お前を消すという判断に至るのは当然だろう。 シルバー:俺がトドメを刺したものだと思っていたが……どうやら急所を外していたらしい。死に損なったか。 アデル:……あいつの分まで生きるって約束したんだ。 アデル:もう、俺たちのことは放っておいてくれないか。殺し屋の俺は、もういない。……今の俺は、ただの何でも屋だ。 シルバー:……自分で葬ったつもりか。過去の己を。 シルバー:そんなことはできんぞ。お前が生きている限り。 アデル:……あ? シルバー:今のお前は、過去のお前がいたからこそ存在するのだということを忘れるな。過去は一生ついて回る。それを、自分で終わりにできるなどと思うな。 シルバー:そこまでの覚悟を持ち合わせていないのならば……そもそも銃など握るべきではない。だからお前は半端者だと言われるんだ。 アデル:……。 シルバー:贖罪とはな、アデル。 シルバー:罪を犯した己を、認めるところから始まる。 シルバー:過去から目を背けながらの償いなど、形だけの偽りの償いだ。それが分からんうちは、お前は何も変わらない。 アデル:罪を……認める……。 0:黙り込むアデル。シルバーは黙って席を立つ。 シルバー:……お前たちの始末は、もう少し先にする。 アデル:あ、おい…… シルバー:また会うときまでに……今度こそ本当の『覚悟』を決めておけ。進むのか、止まり続けるのかという覚悟をな。 シルバー:……それと、ついでだ。一つ教えておく。 シルバー:“女三人組のバウンティハンター”に気を付けろ。奴らはおそらく……お前たちのことも標的にしているぞ。 アデル:バウンティ、ハンター……? アデル:……分かった。気を付けておく。 アデル:……ありがとう。 0:シルバーはそのまま黙って酒場を出ていく。 0:アデルはその後ろ姿を、しばらく見つめていた。 0:  0:  0:  0:薔薇園にて。 ヒリス:……依頼人を皆殺しなんていう、とんでもないことをしてくれた後、アデルはシルバーに殺されて、あなたは組織を出ていった。 チェルシー:……アデルがいなくちゃ、デュアルバレットは成立しない。だから、アデルがいないあの組織に私がいる意味はない。 ヒリス:まあ実際のところ、アデルは運良く生きていたわけだけどね。 ヒリス:あなたは……デュアルバレットのままでいたかった。そうでしょう? チェルシー:……否定は、しない。 チェルシー:多分私は……あの頃のアデルが一番好きだった。 チェルシー:あ、別に恋愛感情じゃないわよ。そうじゃなくて……相棒として、よ。 チェルシー:でも……あの子が、ユリアがアデルを変えた。 チェルシー:あの子のことは確かに、可哀想だとは思う。周囲に裏切られて、自分の未来に希望も持てずに……死を望むなんて。 チェルシー:……でも、あの子さえ、アデルの前に現れなかったら……私たちは今でも、あの頃のまま…… チェルシー:……ほんと、めんどくさいわね、人間って。自分でも嫌になる。 ヒリス:……そうね。 ヒリス:でも、だからこそ人間って、美しいんじゃないかしら? ヒリス:自分のために、あるいは誰かのために……愛に縛られて、もがいて、ボロボロになって……そうやって生きていく生き物よ。 ヒリス:愛されなければ、愛さなければ、生きていけないのだから。 ヒリス:だから、あなたの抱えるそれは……とても人間らしくて美しいと、私は思うわ。 チェルシー:……どうかしらね。 チェルシー:あの子が死んで、すっかり暗くなったアデルに……前みたいに笑ってほしいって、私に頼ってほしいって思ってしがみついてる私は、美しくなんてないわよ。 ヒリス:……ふ、そう。 ヒリス:はい、これ。あなたにプレゼント。 0:ヒリスは一本の黄色い薔薇をチェルシーに差し出す。 チェルシー:なにこれ……黄色の、薔薇? ヒリス:今のあなたよ、チェルシー。 チェルシー:……? チェルシー:どういうことよ。 ヒリス:そうねぇ……ヒントは、花言葉。 チェルシー:花言葉……? ヒリス:それじゃ、私はこれで失礼するわ。 チェルシー:え、ちょ、帰るの? ヒリス:ええ、お茶会は終わり。 0:チェルシーを残して帰っていくヒリス。 ヒリス:……あなたはまだ、幸せ者よ、チェルシー。 ヒリス:どれほど愛していても、相手がもうそこに生きていなければ……ただ苦しいだけなのだから。 チェルシー:……。 チェルシー:……ヒリス、あなたって。 ヒリス:ん?なあに? チェルシー:……なくしたことがあるの、大切な人を。 ヒリス:……ふふ。 ヒリス:さあ……どうかしらね。 ヒリス:夕焼けが綺麗よ、チェルシー。……あなたも、早くお帰りなさい。 0:  0:  0:  0:某所にて。 シルバー:……遅かったな、ヒリス。 ヒリス:あら、あなたもでしょう、シルバー。久しぶりの愛弟子との再会はどうだった? シルバー:……愛弟子など、昔の話だ。 シルバー:お前こそ、チェルシーと話したんだろう。 ヒリス:……まあ、ね。 ヒリス:ふふ、嫌になるわ、本当に。 シルバー:何が。 ヒリス:人の過去を暴くのが嫌いなんて……人のこと言える立場じゃないわね、私は。 シルバー:……ともかくだ。俺たちは、目の前の課題を最優先すべきだろう。 ヒリス:ふ……そうね。 ヒリス:行きましょうか、動くなら早い方がいい。 シルバー:ああ……そうだな。 シルバー:……狩るぞ、バウンティハンターを。 0:  0:フリージア 0:【花言葉】……あどけなさ、純潔、親愛の情 0:黄色の薔薇 0:【花言葉】……献身、友情、嫉妬 0: