台本概要

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タイトル 闇の連鎖は永遠(とわ)へと続く
作者名 ふらん☆くりん  (@Frank_lin01)
ジャンル ファンタジー
演者人数 7人用台本(男3、女4)
時間 60 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【あらすじ】
常闇(とこやみ)の国「ダストフォール」の魂の不正取引に関する疑惑解明のため潜入した違法霊魂取締局ISEB(アイエスイービー)の特務調査員美咲と適正輪廻監視院ARSI(エーアールエスアイ)のエージェントさつきのその後の物語を描く。前作「暗き輪廻は永遠(とわ)へと続く」の続編がついにリリース!

【著作権について】
本作品の著作権は全て作者である「ふらん☆くりん」に帰属します。
また、いかなる場合であっても当方は著作権の放棄はいたしません。

【禁止事項】
●商業目的での利用
●台本の無断使用、無断転載、自作発言等
●過度なアドリブ、セリフの大幅な改変等

【ご利用に際してのお願い】
●台本の利用に際しては作者X(旧ツイッター)DMに連絡をお願いいたします。
●配信等で利用される場合は①作品名、②作者名、③台本掲載URLを掲示していただけると嬉しいです。
●たくさんの方の演技を聴きに行きたいので、可能であれば告知文にメンションを付けていただけると嬉しいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
玲奈 30 れな。違法霊魂取締局ISEB(アイエスイービー)の局長で美咲の直属の上司。40歳。冷静沈着で任務に対しては妥協を許さないが、誰よりも部下のことを大切にしている。
美咲 78 みさき。違法霊魂取締局ISEB(アイエスイービー)の特務調査員。26歳。男勝りな性格で思考よりも感情で行動する所がある。以前はさつきと組んでダストフォールの調査に当たっていた。
磯村 24 いそむら。適正輪廻監視院ARSI(エーアールエスアイ)の総司令官でさつきの直属の上司。50歳。さつきに対してはどことなく苦手意識を持っているが仕事に対しては真面目。さつきと話すといつも喧嘩になる。
さつき 81 適正輪廻監視院ARSI(エーアールエスアイ)のエージェント。15歳。おしとやかな性格とは裏腹にやるべき時は大胆な行動に出ることもある。以前は美咲と組んでダストフォールの調査に当たっていた。
賢悟 40 けんご。違法霊魂取締局ISEB(アイエスイービー)特殊エージェントの一人。27歳。明るくひょうきんな所があるが、仕事となると敵味方関係なく一切の妥協を許さない性格の持ち主。今回は美咲に同行してダストフォールの調査に来た。
40 かえで。違法霊魂取締局ISEB(アイエスイービー)特殊エージェントの一人。26歳。ひょうきんな賢悟とは反対にクールに仕事をこなすタイプ。回りくどいやり方を嫌い合理的に物事を判断する性格の持ち主。今回は賢悟と共に美咲に同行してダストフォールの調査に来た。
ルシウス 26 常闇(とこやみ)の国ダストフォール国王。一見紳士的で優しい性格のように見えるが、かなりの策士。心の奥底にどす黒い野望を持っている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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タイトル:闇の連鎖は*永遠《とわ》へと続く : 登場人物: 玲奈:れな。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEBの局長で美咲の直属の上司。40歳。冷静沈着で任務に対しては妥協を許さないが、誰よりも部下のことを大切にしている。 美咲:みさき。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》の特務調査員。26歳。男勝りな性格で思考よりも感情で行動する所がある。以前はさつきと組んでダストフォールの調査に当たっていた。 磯村:いそむら。*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIの総司令官でさつきの直属の上司。50歳。さつきに対してはどことなく苦手意識を持っているが仕事に対しては真面目。さつきと話すといつも喧嘩になる。 さつき:*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIのエージェント。15歳。おしとやかな性格とは裏腹にやるべき時は大胆な行動に出ることもある。以前は美咲と組んでダストフォールの調査に当たっていた。 賢悟:けんご。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB特殊エージェントの一人。27歳。明るくひょうきんな所があるが、仕事となると敵味方関係なく一切の妥協を許さない性格の持ち主。今回は美咲に同行してダストフォールの調査に来た。 楓:かえで。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB特殊エージェントの一人。26歳。ひょうきんな賢悟とは反対にクールに仕事をこなすタイプ。回りくどいやり方を嫌い合理的に物事を判断する性格の持ち主。今回は賢悟と共に美咲に同行してダストフォールの調査に来た。 ルシウス:*常闇《とこやみ》の国ダストフォール国王。一見紳士的で優しい性格のように見えるが、かなりの策士。心の奥底にどす黒い野望を持っている。 : :(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。 : : 本編: : 玲奈:(M)生きとし生ける者にいずれ等しく訪れる物…それが「死」である。死した魂は、輪廻の輪に乗って新たな転生の時を迎える。それが今までの生と死についての当然とも言える考え方だった。そう…今までは。 : :〈*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB局長室〉 美咲:認識番号G8051、特務調査員美咲、ただ今帰還いたしました。 玲奈:ご苦労様。それでは早速調査報告を。 美咲:はっ!調査対象「*常闇《とこやみ》の国ダストフォール」において、違法プラントと思われる加工工場ならびに魂の搬入ルートに潜入し、ジャッジメントチェッカーを使用して調査を行ないました。その結果、違法と思われる箇所は確認出来ませんでした。 玲奈:何ですって!そんなはずはないわ!あそこは前々からかなりの数の不正疑惑の声が寄せられていて、*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》が管理している魂の数と輪廻の輪に乗った数、そして燃料として納品された数を照らし合わせて見ても明らかに数が合わないことはあなたも資料で見て分かっていたでしょう? 美咲:ええ。私もこの事実には大変驚いています。今回の調査を行なうにあたり確実に黒であると踏んだ上で協力者と共に細部に至るまで綿密な調査を行ないました。ですが本当に何も出てこなかったのです。ちなみにこちらがその証拠データです。 玲奈:ウソ…本当に何もないわ。当局の中でもトップクラスの実力を誇るあなたでも証拠を掴むことが出来ないとなると…一体失われた魂はどこに行ったの? 美咲:局長、それについて一つ気になることがありまして。 玲奈:何?言ってごらんなさい。 美咲:はい。今回の潜入調査では確かに不審な点は確認出来ませんでした。ですが、行方不明の魂があるのもまた事実。私の見立てでは施設内に秘密の搬入ルートがあり、通常のルートとは別に極秘裏に搬入が行なわれているのではないかと考えています。ついては私をダストフォールの専属調査員として常駐させてはいただけないでしょうか? 玲奈:ふむ…確かに本件に関しては長期的な調査が必要ね。分かったわ。許可します。 美咲:ありがとうございます。 玲奈:ただし、長期調査を行なうにあたっては当局から特殊エージェントを2名同行させます。 美咲:特殊エージェントですか? 玲奈:ええ。決してあなたを疑うわけじゃないけれど、あなたの見立てが正しいのであればかなりの危険な任務になることが予想されます。美咲、大事なあなたをここで失うわけにはいかないの。不本意かもしれないけど我慢してくれるかしら? 美咲:我慢だなんてそんな…むしろ私の身を案じていただき感謝いたします。 玲奈:ありがとう。それから2名の特殊エージェントについては現地にて合流してもらえるかしら? 美咲:承知しました。 玲奈:美咲、あなたにはいつも損な役回りばかりさせてごめんなさいね。でもこの闇だけは何としても暴かないといけないの。 美咲:はい。承知しております。 玲奈:期待しているわ。くれぐれも無理しないでね。 美咲:はい。それでは行ってまいります。 玲奈:ええ。気を付けて行ってらっしゃい。 : :〈*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSI指令室〉 磯村:それではさつき君、今回の調査結果について報告したまえ。 さつき:はい。今回私は前々から魂の不正搬入疑惑のあった「*常闇《とこやみ》の国ダストフォール」に潜入し、調査を行ないました。その結果、予想されていたような不正の事実は見つかりませんでした。 磯村:おいおい、さつき君。冗談はよしてくれ。そんなはずがないだろう?そもそも、失われた魂についてダストフォールが怪しいから調査に行かせてくれと言い出したのは君だったじゃないか。それなのに何もありませんでしたなんて報告がすんなり通るとでも思っているのか! さつき:大変申し訳ありません。 磯村:はぁ…。〈深い溜息〉もういい、下がれ。君のような子供に重要な任務を任せた私が間違っていたんだ。 さつき:お言葉ですが…。私はまだ*若輩者《じゃくはいもの》ですがそれなりの成果を残してきました。見た目や年齢だけで判断されるのは心外です。 磯村:ああ…すまない。つい頭に血が上って言い過ぎてしまった。今の言動は撤回する。 さつき:いいえ。その必要はありません。 磯村:何? さつき:その代わり、私にもう一度ダストフォールを調査させてください。 磯村:それはダメだ。君があそこに行くことは二度と許可しない。 さつき:そうですか…それなら私は先程の総司令官の言動を*統制倫理審査局《とうせいりんりしんさきょく》に報告するだけです。総司令官が部下の実力をろくに見ようともせず個人的な私見で評価していると…。 磯村:わ、分かった分かった!君は何かって言うといっつもこれだ。…ただし、再度派遣するにあたっては条件がある。 さつき:条件…ですか? 磯村:ああ、確実に黒である証拠を掴んでこい!それまでは帰還することを*厳《げん》に禁ずる。 さつき:分かりました。事実上の更迭措置と受け止めました。 磯村:〈小声で〉全く。これだから口の減らないガキは嫌いなんだよ…。 さつき:何か言いましたか? 磯村:いいや、何にも。分かったらさっさと行かんか! さつき:はい。それでは失礼いたします。 磯村:あー、ちょっと待て。 さつき:まだ何か? 磯村:一応今回も私の方から*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》に応援要請を出しておく。だから前回同様先方の調査員と協力して事に当たれ。それと、くれぐれも無茶すんじゃねぇぞ。まあなんだ…君にもしもの事があったらこっちも困るんだからよ。 さつき:心にもないお心遣い感謝いたします。それでは行って参ります。 磯村:おうおう、とっとと行ってこい!…ったく、可愛くないったらありゃしない。 : 美咲:〈通信〉さつき、そっちは上手くいった? さつき:〈通信〉ええ。問題ないわ。ありがたいことに証拠を掴むまで戻ってくるなとまで言われて追い出されたわ。 美咲:〈通信〉ふふ…それは何よりね。 さつき:〈通信〉美咲の方は? 美咲:〈通信〉こちらも上司を説得して再度調査に戻ることになったわ。ただ…。 さつき:〈通信〉どうしたの? 美咲:〈通信〉私の他に特殊エージェントが2名同行することになったの。現地で直接合流することになっているわ。 さつき:〈通信〉そう…それは少し厄介ね。 美咲:〈通信〉そうなの。それでね、さつきに一つお願いしたいことがあるんだけど。 さつき:〈通信〉何かしら? 美咲:〈通信〉先に現地に行ってこの事をあの方に伝えて指示を仰いで欲しいの。 さつき:〈通信〉分かったわ。お易い御用よ。 美咲:〈通信〉ありがとう。それじゃ、また現地で会いましょう! さつき:〈通信〉ええ。楽しみにしてるわ。〈通信切れる〉 : :〈常闇の国ダストフォール謁見の間〉 さつき:我が*主《あるじ》ルシウス様、*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIのエージェントさつき、ただいま戻って参りました。 ルシウス:さつき、ご苦労でしたね。それで?状況はどうでしたか? さつき:はっ!ルシウス様のご指示通りこの国に掛けられている嫌疑を晴らした上で再び専属調査員として派遣されて参りました。 ルシウス:それは何よりです。よくやりましたね、さつき。褒めて差し上げます。 さつき:勿体なきお言葉。ですが一つご報告したいことがありまして。 ルシウス:報告したいことですか?ふむ…何でしょう?遠慮せずに話してみてください。 さつき:ここに派遣される前、*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB特務調査員の美咲と通話にて情報交換をいたしました。彼女もルシウス様のご指示通りこちらに調査員として再度派遣されることになったのですが、その際に彼女とは別に特殊エージェントが2名同行することが決まったそうで、その事について事前にルシウス様へのご報告とご指示を仰ぎたいとの伝言を預かっております。また、その特殊エージェントとは現地にて美咲と合流する*手筈《てはず》になっているとの事です。 ルシウス:ほう。特殊エージェントが2名同行ですか…となると、こちらの嫌疑も完全に晴れたという訳ではなさそうですね。分かりました。それについては追って指示を出します。それからさつき、あなたには新たにこの特殊通信機を装着してもらいます。やり方はこのシール型注入器を首の後ろに貼り付ければ針を伝ってナノチップが直接体内に注入される仕組みになっています。あとは通信機が起動しさえすれば言葉を介すことなく脳内で会話をすることが可能になるはずです。やってみてください。〈シール型通信機を渡す〉 さつき:はい。…んっ。〈首の後ろに貼り付ける〉 ルシウス:よろしい。それでは通信テストを行ないます。今から脳内であなたに語りかけるので聞こえたら返事をしてください。 さつき:はい。分かりました。 ルシウス:〈脳内で〉(さつき、聞こえますか?) さつき:〈脳内で〉(はい、ルシウス様の声が頭の中で鮮明に聞こえます。) ルシウス:問題ないようですね。これでテストは終了です。それではさつきには美咲の分も渡しておきますので、彼女と合流次第、エージェントの隙を見て彼女に貼り付けてください。装着が完了次第こちらから指示を出します。よろしいですか? さつき:はっ!承知いたしました! : :〈ダストフォール合流ポイント〉 美咲:ようやく着いたわね。さて、局長が言っていた二人はどこにいるのかしら? 賢悟:〈背後から指を背中に突き付けて〉おい…動くな。そのままゆっくり両手を上げろ…。 美咲:なっ!〈ゆっくり手を上げる〉 楓:はぁ…〈溜息〉。賢悟、お遊びも大概にしなさい。ほら、美咲特務調査員もびっくりしてるじゃないの。美咲さん、こっちを向いても大丈夫よ。 美咲:〈ゆっくり振り返る〉あ、あの…本当に大丈夫ですか? 賢悟:バーン! 美咲:ひっ!! 楓:こら!だからあんまからかうなっての!ごめんね、コイツこういう性格だから許してあげて。 美咲:は、はぁ…。 楓:私は*楓《かえで》。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEBの特殊エージェントよ。よろしくね! 賢悟:同じく、*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEBの特殊エージェントの*賢悟《けんご》ってんだ。さっきはビビらせちまって悪かったな。 美咲:あ、アタイは*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEBの特務調査員の美咲です。よろしくお願いします…。 楓:ほらぁ。アンタがあんなことするから美咲さん緊張して声震えちゃってるじゃないの。 賢悟:だからごめんて。俺なりのほんの挨拶だからどうか気にしないでくれ。それより、せっかくチームになったんだ。仲良くやっていこうぜ。 美咲:は、はい!あ、それとあと一人協力者が来るはずなんですけど…あっ!来た来た! さつき:はぁ…はぁ…ごめんなさい遅れちゃって…。 賢悟:うひょー!この可愛ちゃんは誰かしらん? さつき:わ、私は*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIのエージェントでさつきって言います。 楓:えっ?ARSIって言ったら超エリートじゃん!へぇー…まさかこんな小さな女の子がねぇ…〈まじまじと見る〉 さつき:あ、あんまりじろじろ見ないでください。恥ずかしくなっちゃいますから…。 美咲:さつきは前回の調査でも協力者としてアタイと一緒に任務にあたっていたんです。アタイにとってはとても頼りになる相棒なんですよ。 さつき:やめてよ美咲。照れちゃうじゃん。 賢悟:ま、何にせよ。こんなかわい子ちゃん達に囲まれてお仕事出来るなんざ、俺としてはラッキー以外の何物でもねぇけどな! 楓:アンタねぇ。鼻の下伸ばしてないでちゃんと仕事しなさいよ。 賢悟:分かってるって。 美咲:うふふ…お二人は仲が良いんですね。 楓:仲が良いっていうか、腐れ縁って言うか…ね? 賢悟:まあ言ってみりゃ死の淵を共にくぐり抜けて来た戦友といった所かな? さつき:羨ましいです。私はずっと単独行動ばかりだったから信頼出来る相方がいるって憧れます。 美咲:あれぇ?アタイは違うの? さつき:も、もちろん美咲は私にとって初めて出来た相棒よ!だからこれからもよろしくね! 美咲:もう、調子良いんだから。 さつき:ふふふ!〈同時に〉 美咲:あはは!〈同時に〉 楓:さて、挨拶も済んだことだし、そろそろ状況を説明してくれないかしら? 賢悟:そうだな。この雰囲気…何も無いとはとても思えないぜ。 美咲:分かりました。事前にお渡しした前回の調査結果にもあるように、主要なポイントはさつきと二人で調査しましたが、それらしい証拠は何も掴めませんでした。 さつき:搬入されて来る魂も全て条件を満たした物ばかりでこちらとしても白と言わざるしか…。 賢悟:なるほどねぇ…。 楓:確かにこの資料を見る限りだと何もなさそうだけど…。 美咲:それではこうしませんか?これから二手に分かれて再度調査するというのはどうでしょう?そうですね…組み合わせはアタイと楓さん。さつきと賢悟さんでいかがでしょう? 賢悟:ひゅ~!良いねぇ!まさか可愛いさつきちゃんと組めるなんて夢のようだぜ!…と言いたい所だが、その意見は却下だ。 美咲:えっ?どうしてですか? さつき:少しでも現場のことを知っている人がいた方が良くないですか? 楓:確かにそうね。でもね、私も賢悟の意見に賛成よ。そもそも組み合わせ*云々《うんぬん》よりも二手に分かれるっていうこと自体、私は反対だわ。 美咲:えっ!でもそんなに大勢で行動していたら簡単に敵に見つかっちゃうじゃないですか。 賢悟:俺たちはプロだぜ。そんなヘマはしない。 楓:そうよ。それともう一つ。私達の調査対象にはあなた達も含まれてるってことを忘れないでね。 美咲:え…?アタイ達を疑ってるんですか…? さつき:仮にも私達は特務調査員とエージェントなんですよ! 賢悟:だからこそだよ。言っとくけどな、俺はここにいる誰一人信用しちゃいない。無論、楓でさえもな。 美咲:そんな…一番のパートナーなのに…。 楓:そうやって私達はこれまでもあらゆる死地をくぐり抜けて来たの。 美咲:そうですか…分かりました。 さつき:あなた方がそのつもりなら私達もお二人を信用しません。 楓:悪く思わないでね。それが私達の仕事なの。 さつき:(この二人、まるで隙がない。こんなに警戒されてたんじゃ美咲に通信機を貼り付けることなんて出来ないじゃない!) 賢悟:それじゃあまずはAルート搬入口から調査するぞ。 美咲:分かりました…。 : :〈Aルート搬入口〉 楓:着いたわね…さぁ…警備兵達にバレないように身を隠すわよ。 美咲:はい。おそらくここなら大丈夫だと思います。 賢悟:おっ!出てきたそ!ジャッジメントチェッカー起動!さぁて…どっちかなぁっと。 さつき:(搬入口に注意が向いている今なら行けるわ!えい!)〈美咲の首の後ろに通信機を貼り付ける〉 美咲:いっ! さつき:(美咲!声上げちゃダメ!!) 楓:あら?美咲さんどうしたの? 美咲:いえ、虫に刺されて…。 さつき:じゃあ絆創膏貼ってあげるわ。〈首の後ろを手の平で覆って貼ったフリをする〉 美咲:ありがとう、さつき。 賢悟:それより、さっきからチェッカーを見てはいるが、確かに違法らしい魂は検出されねぇな。 楓:ここじゃないのかしら? さつき:〈通信〉(ルシウス様、聞こえますか?) ルシウス:〈通信〉(はい、どうしました?) さつき:〈通信〉(先程美咲の首に通信機を貼り付ける事に成功しました。 ルシウス:〈通信〉(それはご苦労でしたね。) さつき:〈通信〉(ただ、美咲と一緒に来たエージェント二人にガッツリ監視されていて、通信機の説明をする余裕がありません。どうしたら良いでしょうか?) ルシウス:〈通信〉(分かりました。ならば私から直接美咲に伝えましょう。) さつき:〈通信〉(よろしくお願いします!) ルシウス:〈通信〉(美咲、聞こえますか?) 美咲:〈通信〉(えっ?この声はルシウス様?一体どこから?) ルシウス:〈通信〉(そのまま動かずに聞いてください。先程、君にはさつきの手によってマイクロ通信機を装着させてもらいました。) 美咲:〈通信〉(じゃあ…さっきの首の痛みはそのせいなんですか?) ルシウス:〈通信〉(そうです。この通信機は言葉を介さず脳内を通じ直接会話をすることが出来る優れものです。また、同様の物は既にさつきにも取り付けてあります。) 美咲:〈通信〉(さつきにも?分かりました。) ルシウス:〈通信〉(今後、私からの指示はこの通信機を通じて直接君達の脳内に送らせてもらいます。) 美咲:〈通信〉(承知しました。) ルシウス:〈通信〉(それでは早速ですが、君達に指令を与えます。今から警備兵をそちらに向かわせますので、君達は逃げるフリをして二人を連れてC地区の第3倉庫まで誘導してください。) 美咲:〈通信〉(承知しました。) さつき:〈通信〉(お任せください。) 美咲:楓さん!賢悟さん!警備兵が複数こちらに来ます!このままだと囲まれてしまいます!今すぐ私と一緒に来てください。 楓:いえ、むしろ今はまだ気付かれていない。あの程度の人数なら私と賢悟で無力化出来るわ。あなた達はそこで大人しくしてなさい。行くわよ賢悟! 賢悟:おう! :〈音もなく近付き敵を無力化していく〉 : 美咲:すごい…。 さつき:あっという間に倒しちゃった…。 賢悟:ただいま。 楓:ね!大丈夫だったでしょ? 美咲:あ、ああ…。 さつき:一瞬であの数を…。 楓:二人とも何て顔してんのよ。これくらいは普通よ、普通。さてと、バレないように倒した敵を隅に隠してと…。次はどうする?賢悟? 賢悟:そうだなぁ…俺的にはB地区のあの建物が怪しいんだが…。 美咲:(えっ?あそこは*神経兵器極秘製造《しんけいへいきごくひせいぞう》プラントの近くじゃない!まずいわ!) 美咲:〈通信〉(ルシウス様、緊急事態です!あの二人は警備兵を全て倒し、B地区にある*神経兵器極秘製造《しんけいへいきごくひせいぞう》プラントに向かっています!いかがいたしましょうか?) さつき:〈通信〉(しかも二人ともかなりの*手練《てだ》れです。このままでは違法現場が摘発されてしまいます!) ルシウス:〈通信〉(ふふふ…まあまあ二人とも落ち着いてください。) 美咲:〈通信〉(で、でも…) さつき:〈通信〉(どうしよう…) ルシウス〈通信〉(既に手は打ってありますから、君達は彼らの言う通り行動してください。) 美咲:〈通信〉(ルシウス様がそう仰るなら…) さつき:〈通信〉(我々はそれに従います。) ルシウス:〈通信〉(よろしい。よろしく頼みましたよ。) : 賢悟:〈足で地面を踏む〉ん?おい楓、ここの地面だけ踏んだ時に妙に響かないか? 楓:〈足で指定された場所を踏む〉確かに変ね。下が空洞になってるみたい。 賢悟:これはもしかして…よいしょっと!〈地面を覆っていた土をどかせる〉 賢悟:お!ビンゴ!地下に通じる扉が出てきたぞ! 楓:やったわね!賢悟!さあ二人とも中に入るわよ。 美咲:はい…。 さつき:分かりました…。 : :〈地下通路〉 賢悟:やけに長い通路だな。一体どこに繋がってるんだ? 楓:しかもかなり入り組んでるわね。 さつき:(この香りは…もしかして!)はぁ…はぁ…ちょ、ちょっと休憩しませんか? 美咲:さつき、大丈夫? 賢悟:はぁ…仕方ねぇな。これだからお子ちゃまは。 楓:ちょっと賢悟!それはいくら何でも言い過ぎよ!謝りなさい! さつき:い、いえ…別に私は…。 賢悟:へいへい。悪かったなお嬢ちゃん。確かに少し急ぎ過ぎた。時間はまだたっぷりあるんだ。そう焦ることもねぇだろうよ。 さつき:あ、ありがとうございます。 賢悟:そんじゃここらで少し休憩にしようぜ。よっこらせっと。〈道端に座り込む。〉 楓:じゃあ休憩ついでに少しお話しましょうか。 美咲:お話…ですか? 楓:ええ。お互いの事を信用していないとはいえ、同じ目的のために働くチームですもの。せめてタメ口で話せるくらいにはなりたいわ。 美咲:あっ…言われてみれば。 さつき:ずっと敬語で喋ってました。 賢悟:あはは!じゃあこっからは*無礼講《ぶれいこう》ってことでフランクに話そうぜ! 楓:じゃあまずは私からね。本名は明かせないけど、楓っていうコードネームは自分で付けたの。自分で言うのも何だけど結構気に入ってるんだ。私が特殊エージェントになったのは今から5年前だったかしら。元々は美咲と同じ特務調査員志望だったんだけど、途中から潜入捜査よりも直接的な強制力を行使できる仕事に憧れてね、それでこの道を目指したのよ。 美咲:へぇー、そうだったんだ。 賢悟:じゃあ次は俺の番だな!俺のコードネームは賢悟!何となくカッコ良さそうだったから付けたんだ!俺は楓と同期で毎日泥まみれになりながら訓練してたっけな。将来の夢は…そうだなぁ、不正なんてもんを働く*輩《やから》を全員成敗するってとこかな?へへ…まあ現実はそう上手くはいかねぇけどな。 さつき:でも、とってもかっこいいわ!素敵な夢ね! 賢悟:ありがとよ!さつき! 美咲:じゃあ次はアタイの番だな!アタイはとにかく悪い奴が大っ嫌いでさ!まだ現世で生きてた頃は悪をやっつけるヒーローに憧れて警察官なんて職業に就いてたんだ。だけど、ある時強盗集団とやり合った際に撃たれちまってさ。そのまま殉職しちゃったんだ。あれはマジで無念だったなぁ。それでそのまま転生すんのかと思ったらまさかの*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》に引き抜かれてさ!あん時はめっちゃ嬉しかったよ!それで現世での熱い思いを胸に頑張って特務調査員になったってわけ。 楓:いっぱい努力したんだね。美咲は偉いよ。 美咲:えへへ…楓、ありがとう。 さつき:じゃあ最後は私ね。私は現世では普通の女の子として生活してたんどけどね、ある日突然車に轢かれて死んじゃったの。それで輪廻の輪に向かっている途中で私と同じような魂をたくさん見かけてね、一つ一つ数えてたの。ひとーつ、ふたーつ、みーっつ…ほらみんなも一緒に数えて… 楓:よーっつ、いつーっつ、むーっつ…(あれ…何だろう…急に体が重くなって来たわ…) 賢悟:ななーっつ、やーっつ、ここのーっつ、とおー…(頭がクラクラする…それに何だこの妙な香りは…気力がごっそり持って行かれる…) 美咲:そうよ…みんなその調子…さつきと一緒に数を数えていきましょう…そのまま続けて… 楓:じゅういーち、じゅうにー…じゅう…さん…(あぁ…このまま眠ってしまいたい…) 賢悟:じゅうよーん…じゅう…ご…(ダメだ…もう何も考えられねぇ…) さつき:〈通信〉(美咲、そろそろ良いかしら?) 美咲:〈通信〉(ええ、仕上げよ。) さつき:さぁ二人とも、大きく息を吸ってぇ… 楓:すぅ……〈大きく息を吸う〉 賢悟:すぅ……〈大きく息を吸う〉 美咲:さて、あなた達はどなたかしら? 楓:… 賢悟:… さつき:ふふふ…少し手こずったけど上手くいったようね。 美咲:一時はどうなることかと思ったけどね。 美咲:〈通信〉(ルシウス様、こちら美咲です。たった今、特殊エージェントの楓、賢悟両名の人形化が完了しました。今からそちらに運びますので例の処置をお願いします。) ルシウス:〈通信〉(了解しました。二人ともご苦労でしたね。すぐにそちらに応援を向かわせます。) 美咲:〈通信〉(はっ!) さつき:〈通信〉(ありがとうございます!) : :〈王宮の間〉 ルシウス:改めて、二人ともよくやりましたね。 美咲:ありがとうございます。それではこの二人も既に… さつき:私達と同じルシウス様の忠実な*下僕《しもべ》に? ルシウス:いえ、この二人にはまだ例の処置は施しておりません。 美咲:えっ?何故ですか?このままですと*夢幻香《むげんこう》の効果が切れて正気に戻ってしまうのでは? さつき:ルシウス様!早く例の処置を! ルシウス:まあそう慌てないでください。実はこのたび新兵器を開発しましてね、あなた達に打ち込んだ*傀儡入魂鋲《くぐつにゅうこんびょう》は確かに良い製品なのですが、正確に打ち込むためには高度な技術と時間が必要になります。そこで誰でも確実に対象を忠実な人形にできる兵器を開発しました。それがこちらの「*操霊針《そうれいしん》」です。 さつき:そうれいしん?どうやって使うんですか? ルシウス:まあ見ててください。まず*夢幻香《むげんこう》で人形化した状態で対象の首筋にこれを直接注入すれば処置は完了です。それでは行きますよ。 :〈ルシウス、楓の首筋に操霊針を注入する〉 :〈ルシウス、賢悟の首筋に操霊針を注入する〉 ルシウス:これで処置は終わりました。 さつき:そんな簡単な方法で? 美咲:一体どうなるんだろう…。 楓:んっ…んん…。〈楓、目が覚める〉 賢悟:う…うう…。〈賢悟、目が覚める〉 ルシウス:二人ともおはようございます。 楓:…おはようございます。ルシウス様。私はこのたび貴方様の忠実な人形となりました楓と申します。何なりとお申し付けください。 賢悟:…おはようございます。ルシウス様。私も同じく貴方様の忠実な人形となりました賢悟と申します。この命が消える瞬間まで貴方様のために尽くします。 美咲:まぁ!ルシウス様!素晴らしいですわ! さつき:これで全ての世界はルシウス様の物ですね! ルシウス:そうですね。でもこれではまだ生ぬるいです。本当の仕上げはこれからですよ…ふふふ。 : :〈*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB局長室〉 玲奈〈通信〉はい。こちら*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB局長室。 楓:〈通信〉こちら特殊エージェントの楓です。局長、緊急事態です! 玲奈:〈通信〉楓、何があったの? 楓:〈通信〉調査中に特務調査員の美咲さんが敵の銃撃を受け重症を負いました。 玲奈:〈通信〉何ですって! 賢悟:〈通信〉賢悟です。すみません、俺達が傍に着いていながらこんなことになるなんて… 玲奈:〈通信〉状況は分かりました。今は悔やんでも仕方がありません。それで、美咲は今どこにいるの? 賢悟:〈通信〉とりあえず敵に見つからない場所まで移動して応急処置はしました。ですがあまり長くは持ちそうにありません。 玲奈:〈通信〉分かったわ!私も今すぐそちらに向かいます!くれぐれも美咲の事をよろしく頼みます! 楓:〈通信〉承知しました。〈通信切れる〉 玲奈:(待ってて美咲!あなたを決して死なせはしない!) : :〈*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSI指令室〉 さつき:〈コンコン〉失礼します。 磯村:何だ、さつき君じゃないか?何故君がここにいるんだ?決定的な証拠を掴むまで帰って来るなと言ったではないか。 さつき:ですから、その証拠を掴んだのでお見せするために帰還いたしました。 磯村:な、何だと?それでは早くその証拠とやらを見せんか!馬鹿者! さつき:はい。既に別室にて準備が出来ておりますのでこちらへどうぞ。 磯村:お、おう。(ん?やけに今日は素直だな?さては俺の熱意ある指導のおかげで少しは改心したか?) さつき:こちらです。どうぞお掛けください。 磯村:ああ。 さつき:それではこれから調査報告並びに証拠映像を流しますのでご覧下さい。 : :〈ダストフォール隠れ家〉 玲奈:美咲!美咲はどこ? 楓:局長!こちらです! 美咲:すぅ…すぅ… 玲奈:美咲の容態はどうなの? 楓:何とか峠は越えたようで今は安定しています。 玲奈:ふぅ…それは良かったわ。 玲奈:それでは特殊エージェント賢悟、今回起きた事態について状況を説明しなさい。 賢悟:はっ!*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIの協力者を含めた我々4人でAルート搬入口における魂の調査を行なっていた際、突然複数の警備兵に囲まれました。私と楓で大半は無力化したのですが、残存警備兵が協力者に向けて撃った弾丸を美咲特務調査員が身を*挺《てい》して*庇《かば》い、このような結果に…。 玲奈:それで、美咲が*庇《かば》ったその協力者は今どこにいるの? 賢悟:それは…。 美咲:う…うう! 玲奈:美咲!しっかりしなさい!私よ!玲奈よ! 美咲:き、局長…どうしてここに? 玲奈:あなたが重症を負ったって聞いて慌てて駆け付けて来たのよ! 美咲:そう…なんですね。ありがとうござ…います。 玲奈:もう喋らなくて良いから。ゆっくり寝てなさい。 美咲:局長…一つお願いが…。 玲奈:何?何でも言いなさい。 美咲:さつきが…私の親友が書いてくれた手紙が机の上にあるの…それを読んで聞かせて…ください。 玲奈:手紙?ああ…これね。分かったわ。じゃあ読むわね。 玲奈:「親愛なる美咲へ。私のために身を*挺《てい》してまで庇ってくれたのに最後まで一緒に居られなくてごめんなさい。あなたと任務を遂行出来て本当に楽しかったわ。美咲は覚えているかしら?辺りはしんと静まり返った真っ暗な隠れ家の中で二人で数を数え合ったあの夜の事を。寂しさと心細さで押しつぶされそうな私の心を救ってくれたのは間違いなく数を数え続けるあなたの声だったわ。そう…こんなふうに。いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく…」 : :〈*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSI会議室〉 さつき:…ということで、ここには違法な上位ランクの魂が多数保管されていることが分かりました。 磯村:これは…!何という事だ!これこそ我々が求めていた決定的証拠じゃないか!さつき君、でかしたぞ! さつき:ちなみに、倉庫から押収した違法物資のリストがこちらの画面になります。総司令官、お手数ですが上から順に読み上げてはもらえませんか? 磯村:ああ、分かった。製品番号1、ネオリズム20キロ。製品番号2、タンザニウム10キロ… : :〈ダストフォール隠れ家〉 玲奈:「にじゅーいち…にじゅーに…にじゅーさん…」(あれ…?何だろうこの感覚…数字を読んでいるだけなのに…どんどん気力が吸い取られていく…) 楓:局長…だんだん疲れて来たでしょ?少しお休みしましょう。それにほら、この部屋の空気を嗅いでみてください。とっても素敵な香りがしませんか? 玲奈:素敵な香り?(くんくん)ああ…ほんとだわ… 賢悟:さあ…遠慮せずに胸いっぱいに吸い込んでください… 玲奈:すぅ……(何これ…頭の中がどんどん白で埋め尽くされていく…ああ…気持ち良い…) : :〈*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSI会議室〉 磯村:製品番号7、マクドリアム…15キロ…製品番号8…(やばい…意識が飛びそうだ…。部下の前で…そんな失態を晒すわけには…) さつき:あら?総司令官。だいぶお疲れのようですね。一度休憩しましょうか?深呼吸でもすればスッキリしますよ。 磯村:あ、ああ…そうだな。 さつき:それに、今日は総司令官のために特別なお香を焚(た)いておきましたから。 磯村:おお…そうか、気が利くな。(くんくん)…ほんとだ。なんて落ち着く香りなんだ… さつき:さあ磯村総司令官、思いっきり吸い込んでハッピーになりましょ♡ 磯村:すぅ……(ああ…全てが真っ白になっていく…) : :------------------- 美咲:うふふふ… さつき:あははは! : 美咲:ねぇ…あなたはだぁれ?〈同時に〉 さつき:ねぇ…あなたはだぁれ?〈同時に〉 : :~完~

タイトル:闇の連鎖は*永遠《とわ》へと続く : 登場人物: 玲奈:れな。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEBの局長で美咲の直属の上司。40歳。冷静沈着で任務に対しては妥協を許さないが、誰よりも部下のことを大切にしている。 美咲:みさき。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》の特務調査員。26歳。男勝りな性格で思考よりも感情で行動する所がある。以前はさつきと組んでダストフォールの調査に当たっていた。 磯村:いそむら。*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIの総司令官でさつきの直属の上司。50歳。さつきに対してはどことなく苦手意識を持っているが仕事に対しては真面目。さつきと話すといつも喧嘩になる。 さつき:*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIのエージェント。15歳。おしとやかな性格とは裏腹にやるべき時は大胆な行動に出ることもある。以前は美咲と組んでダストフォールの調査に当たっていた。 賢悟:けんご。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB特殊エージェントの一人。27歳。明るくひょうきんな所があるが、仕事となると敵味方関係なく一切の妥協を許さない性格の持ち主。今回は美咲に同行してダストフォールの調査に来た。 楓:かえで。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB特殊エージェントの一人。26歳。ひょうきんな賢悟とは反対にクールに仕事をこなすタイプ。回りくどいやり方を嫌い合理的に物事を判断する性格の持ち主。今回は賢悟と共に美咲に同行してダストフォールの調査に来た。 ルシウス:*常闇《とこやみ》の国ダストフォール国王。一見紳士的で優しい性格のように見えるが、かなりの策士。心の奥底にどす黒い野望を持っている。 : :(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。 : : 本編: : 玲奈:(M)生きとし生ける者にいずれ等しく訪れる物…それが「死」である。死した魂は、輪廻の輪に乗って新たな転生の時を迎える。それが今までの生と死についての当然とも言える考え方だった。そう…今までは。 : :〈*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB局長室〉 美咲:認識番号G8051、特務調査員美咲、ただ今帰還いたしました。 玲奈:ご苦労様。それでは早速調査報告を。 美咲:はっ!調査対象「*常闇《とこやみ》の国ダストフォール」において、違法プラントと思われる加工工場ならびに魂の搬入ルートに潜入し、ジャッジメントチェッカーを使用して調査を行ないました。その結果、違法と思われる箇所は確認出来ませんでした。 玲奈:何ですって!そんなはずはないわ!あそこは前々からかなりの数の不正疑惑の声が寄せられていて、*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》が管理している魂の数と輪廻の輪に乗った数、そして燃料として納品された数を照らし合わせて見ても明らかに数が合わないことはあなたも資料で見て分かっていたでしょう? 美咲:ええ。私もこの事実には大変驚いています。今回の調査を行なうにあたり確実に黒であると踏んだ上で協力者と共に細部に至るまで綿密な調査を行ないました。ですが本当に何も出てこなかったのです。ちなみにこちらがその証拠データです。 玲奈:ウソ…本当に何もないわ。当局の中でもトップクラスの実力を誇るあなたでも証拠を掴むことが出来ないとなると…一体失われた魂はどこに行ったの? 美咲:局長、それについて一つ気になることがありまして。 玲奈:何?言ってごらんなさい。 美咲:はい。今回の潜入調査では確かに不審な点は確認出来ませんでした。ですが、行方不明の魂があるのもまた事実。私の見立てでは施設内に秘密の搬入ルートがあり、通常のルートとは別に極秘裏に搬入が行なわれているのではないかと考えています。ついては私をダストフォールの専属調査員として常駐させてはいただけないでしょうか? 玲奈:ふむ…確かに本件に関しては長期的な調査が必要ね。分かったわ。許可します。 美咲:ありがとうございます。 玲奈:ただし、長期調査を行なうにあたっては当局から特殊エージェントを2名同行させます。 美咲:特殊エージェントですか? 玲奈:ええ。決してあなたを疑うわけじゃないけれど、あなたの見立てが正しいのであればかなりの危険な任務になることが予想されます。美咲、大事なあなたをここで失うわけにはいかないの。不本意かもしれないけど我慢してくれるかしら? 美咲:我慢だなんてそんな…むしろ私の身を案じていただき感謝いたします。 玲奈:ありがとう。それから2名の特殊エージェントについては現地にて合流してもらえるかしら? 美咲:承知しました。 玲奈:美咲、あなたにはいつも損な役回りばかりさせてごめんなさいね。でもこの闇だけは何としても暴かないといけないの。 美咲:はい。承知しております。 玲奈:期待しているわ。くれぐれも無理しないでね。 美咲:はい。それでは行ってまいります。 玲奈:ええ。気を付けて行ってらっしゃい。 : :〈*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSI指令室〉 磯村:それではさつき君、今回の調査結果について報告したまえ。 さつき:はい。今回私は前々から魂の不正搬入疑惑のあった「*常闇《とこやみ》の国ダストフォール」に潜入し、調査を行ないました。その結果、予想されていたような不正の事実は見つかりませんでした。 磯村:おいおい、さつき君。冗談はよしてくれ。そんなはずがないだろう?そもそも、失われた魂についてダストフォールが怪しいから調査に行かせてくれと言い出したのは君だったじゃないか。それなのに何もありませんでしたなんて報告がすんなり通るとでも思っているのか! さつき:大変申し訳ありません。 磯村:はぁ…。〈深い溜息〉もういい、下がれ。君のような子供に重要な任務を任せた私が間違っていたんだ。 さつき:お言葉ですが…。私はまだ*若輩者《じゃくはいもの》ですがそれなりの成果を残してきました。見た目や年齢だけで判断されるのは心外です。 磯村:ああ…すまない。つい頭に血が上って言い過ぎてしまった。今の言動は撤回する。 さつき:いいえ。その必要はありません。 磯村:何? さつき:その代わり、私にもう一度ダストフォールを調査させてください。 磯村:それはダメだ。君があそこに行くことは二度と許可しない。 さつき:そうですか…それなら私は先程の総司令官の言動を*統制倫理審査局《とうせいりんりしんさきょく》に報告するだけです。総司令官が部下の実力をろくに見ようともせず個人的な私見で評価していると…。 磯村:わ、分かった分かった!君は何かって言うといっつもこれだ。…ただし、再度派遣するにあたっては条件がある。 さつき:条件…ですか? 磯村:ああ、確実に黒である証拠を掴んでこい!それまでは帰還することを*厳《げん》に禁ずる。 さつき:分かりました。事実上の更迭措置と受け止めました。 磯村:〈小声で〉全く。これだから口の減らないガキは嫌いなんだよ…。 さつき:何か言いましたか? 磯村:いいや、何にも。分かったらさっさと行かんか! さつき:はい。それでは失礼いたします。 磯村:あー、ちょっと待て。 さつき:まだ何か? 磯村:一応今回も私の方から*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》に応援要請を出しておく。だから前回同様先方の調査員と協力して事に当たれ。それと、くれぐれも無茶すんじゃねぇぞ。まあなんだ…君にもしもの事があったらこっちも困るんだからよ。 さつき:心にもないお心遣い感謝いたします。それでは行って参ります。 磯村:おうおう、とっとと行ってこい!…ったく、可愛くないったらありゃしない。 : 美咲:〈通信〉さつき、そっちは上手くいった? さつき:〈通信〉ええ。問題ないわ。ありがたいことに証拠を掴むまで戻ってくるなとまで言われて追い出されたわ。 美咲:〈通信〉ふふ…それは何よりね。 さつき:〈通信〉美咲の方は? 美咲:〈通信〉こちらも上司を説得して再度調査に戻ることになったわ。ただ…。 さつき:〈通信〉どうしたの? 美咲:〈通信〉私の他に特殊エージェントが2名同行することになったの。現地で直接合流することになっているわ。 さつき:〈通信〉そう…それは少し厄介ね。 美咲:〈通信〉そうなの。それでね、さつきに一つお願いしたいことがあるんだけど。 さつき:〈通信〉何かしら? 美咲:〈通信〉先に現地に行ってこの事をあの方に伝えて指示を仰いで欲しいの。 さつき:〈通信〉分かったわ。お易い御用よ。 美咲:〈通信〉ありがとう。それじゃ、また現地で会いましょう! さつき:〈通信〉ええ。楽しみにしてるわ。〈通信切れる〉 : :〈常闇の国ダストフォール謁見の間〉 さつき:我が*主《あるじ》ルシウス様、*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIのエージェントさつき、ただいま戻って参りました。 ルシウス:さつき、ご苦労でしたね。それで?状況はどうでしたか? さつき:はっ!ルシウス様のご指示通りこの国に掛けられている嫌疑を晴らした上で再び専属調査員として派遣されて参りました。 ルシウス:それは何よりです。よくやりましたね、さつき。褒めて差し上げます。 さつき:勿体なきお言葉。ですが一つご報告したいことがありまして。 ルシウス:報告したいことですか?ふむ…何でしょう?遠慮せずに話してみてください。 さつき:ここに派遣される前、*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB特務調査員の美咲と通話にて情報交換をいたしました。彼女もルシウス様のご指示通りこちらに調査員として再度派遣されることになったのですが、その際に彼女とは別に特殊エージェントが2名同行することが決まったそうで、その事について事前にルシウス様へのご報告とご指示を仰ぎたいとの伝言を預かっております。また、その特殊エージェントとは現地にて美咲と合流する*手筈《てはず》になっているとの事です。 ルシウス:ほう。特殊エージェントが2名同行ですか…となると、こちらの嫌疑も完全に晴れたという訳ではなさそうですね。分かりました。それについては追って指示を出します。それからさつき、あなたには新たにこの特殊通信機を装着してもらいます。やり方はこのシール型注入器を首の後ろに貼り付ければ針を伝ってナノチップが直接体内に注入される仕組みになっています。あとは通信機が起動しさえすれば言葉を介すことなく脳内で会話をすることが可能になるはずです。やってみてください。〈シール型通信機を渡す〉 さつき:はい。…んっ。〈首の後ろに貼り付ける〉 ルシウス:よろしい。それでは通信テストを行ないます。今から脳内であなたに語りかけるので聞こえたら返事をしてください。 さつき:はい。分かりました。 ルシウス:〈脳内で〉(さつき、聞こえますか?) さつき:〈脳内で〉(はい、ルシウス様の声が頭の中で鮮明に聞こえます。) ルシウス:問題ないようですね。これでテストは終了です。それではさつきには美咲の分も渡しておきますので、彼女と合流次第、エージェントの隙を見て彼女に貼り付けてください。装着が完了次第こちらから指示を出します。よろしいですか? さつき:はっ!承知いたしました! : :〈ダストフォール合流ポイント〉 美咲:ようやく着いたわね。さて、局長が言っていた二人はどこにいるのかしら? 賢悟:〈背後から指を背中に突き付けて〉おい…動くな。そのままゆっくり両手を上げろ…。 美咲:なっ!〈ゆっくり手を上げる〉 楓:はぁ…〈溜息〉。賢悟、お遊びも大概にしなさい。ほら、美咲特務調査員もびっくりしてるじゃないの。美咲さん、こっちを向いても大丈夫よ。 美咲:〈ゆっくり振り返る〉あ、あの…本当に大丈夫ですか? 賢悟:バーン! 美咲:ひっ!! 楓:こら!だからあんまからかうなっての!ごめんね、コイツこういう性格だから許してあげて。 美咲:は、はぁ…。 楓:私は*楓《かえで》。*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEBの特殊エージェントよ。よろしくね! 賢悟:同じく、*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEBの特殊エージェントの*賢悟《けんご》ってんだ。さっきはビビらせちまって悪かったな。 美咲:あ、アタイは*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEBの特務調査員の美咲です。よろしくお願いします…。 楓:ほらぁ。アンタがあんなことするから美咲さん緊張して声震えちゃってるじゃないの。 賢悟:だからごめんて。俺なりのほんの挨拶だからどうか気にしないでくれ。それより、せっかくチームになったんだ。仲良くやっていこうぜ。 美咲:は、はい!あ、それとあと一人協力者が来るはずなんですけど…あっ!来た来た! さつき:はぁ…はぁ…ごめんなさい遅れちゃって…。 賢悟:うひょー!この可愛ちゃんは誰かしらん? さつき:わ、私は*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIのエージェントでさつきって言います。 楓:えっ?ARSIって言ったら超エリートじゃん!へぇー…まさかこんな小さな女の子がねぇ…〈まじまじと見る〉 さつき:あ、あんまりじろじろ見ないでください。恥ずかしくなっちゃいますから…。 美咲:さつきは前回の調査でも協力者としてアタイと一緒に任務にあたっていたんです。アタイにとってはとても頼りになる相棒なんですよ。 さつき:やめてよ美咲。照れちゃうじゃん。 賢悟:ま、何にせよ。こんなかわい子ちゃん達に囲まれてお仕事出来るなんざ、俺としてはラッキー以外の何物でもねぇけどな! 楓:アンタねぇ。鼻の下伸ばしてないでちゃんと仕事しなさいよ。 賢悟:分かってるって。 美咲:うふふ…お二人は仲が良いんですね。 楓:仲が良いっていうか、腐れ縁って言うか…ね? 賢悟:まあ言ってみりゃ死の淵を共にくぐり抜けて来た戦友といった所かな? さつき:羨ましいです。私はずっと単独行動ばかりだったから信頼出来る相方がいるって憧れます。 美咲:あれぇ?アタイは違うの? さつき:も、もちろん美咲は私にとって初めて出来た相棒よ!だからこれからもよろしくね! 美咲:もう、調子良いんだから。 さつき:ふふふ!〈同時に〉 美咲:あはは!〈同時に〉 楓:さて、挨拶も済んだことだし、そろそろ状況を説明してくれないかしら? 賢悟:そうだな。この雰囲気…何も無いとはとても思えないぜ。 美咲:分かりました。事前にお渡しした前回の調査結果にもあるように、主要なポイントはさつきと二人で調査しましたが、それらしい証拠は何も掴めませんでした。 さつき:搬入されて来る魂も全て条件を満たした物ばかりでこちらとしても白と言わざるしか…。 賢悟:なるほどねぇ…。 楓:確かにこの資料を見る限りだと何もなさそうだけど…。 美咲:それではこうしませんか?これから二手に分かれて再度調査するというのはどうでしょう?そうですね…組み合わせはアタイと楓さん。さつきと賢悟さんでいかがでしょう? 賢悟:ひゅ~!良いねぇ!まさか可愛いさつきちゃんと組めるなんて夢のようだぜ!…と言いたい所だが、その意見は却下だ。 美咲:えっ?どうしてですか? さつき:少しでも現場のことを知っている人がいた方が良くないですか? 楓:確かにそうね。でもね、私も賢悟の意見に賛成よ。そもそも組み合わせ*云々《うんぬん》よりも二手に分かれるっていうこと自体、私は反対だわ。 美咲:えっ!でもそんなに大勢で行動していたら簡単に敵に見つかっちゃうじゃないですか。 賢悟:俺たちはプロだぜ。そんなヘマはしない。 楓:そうよ。それともう一つ。私達の調査対象にはあなた達も含まれてるってことを忘れないでね。 美咲:え…?アタイ達を疑ってるんですか…? さつき:仮にも私達は特務調査員とエージェントなんですよ! 賢悟:だからこそだよ。言っとくけどな、俺はここにいる誰一人信用しちゃいない。無論、楓でさえもな。 美咲:そんな…一番のパートナーなのに…。 楓:そうやって私達はこれまでもあらゆる死地をくぐり抜けて来たの。 美咲:そうですか…分かりました。 さつき:あなた方がそのつもりなら私達もお二人を信用しません。 楓:悪く思わないでね。それが私達の仕事なの。 さつき:(この二人、まるで隙がない。こんなに警戒されてたんじゃ美咲に通信機を貼り付けることなんて出来ないじゃない!) 賢悟:それじゃあまずはAルート搬入口から調査するぞ。 美咲:分かりました…。 : :〈Aルート搬入口〉 楓:着いたわね…さぁ…警備兵達にバレないように身を隠すわよ。 美咲:はい。おそらくここなら大丈夫だと思います。 賢悟:おっ!出てきたそ!ジャッジメントチェッカー起動!さぁて…どっちかなぁっと。 さつき:(搬入口に注意が向いている今なら行けるわ!えい!)〈美咲の首の後ろに通信機を貼り付ける〉 美咲:いっ! さつき:(美咲!声上げちゃダメ!!) 楓:あら?美咲さんどうしたの? 美咲:いえ、虫に刺されて…。 さつき:じゃあ絆創膏貼ってあげるわ。〈首の後ろを手の平で覆って貼ったフリをする〉 美咲:ありがとう、さつき。 賢悟:それより、さっきからチェッカーを見てはいるが、確かに違法らしい魂は検出されねぇな。 楓:ここじゃないのかしら? さつき:〈通信〉(ルシウス様、聞こえますか?) ルシウス:〈通信〉(はい、どうしました?) さつき:〈通信〉(先程美咲の首に通信機を貼り付ける事に成功しました。 ルシウス:〈通信〉(それはご苦労でしたね。) さつき:〈通信〉(ただ、美咲と一緒に来たエージェント二人にガッツリ監視されていて、通信機の説明をする余裕がありません。どうしたら良いでしょうか?) ルシウス:〈通信〉(分かりました。ならば私から直接美咲に伝えましょう。) さつき:〈通信〉(よろしくお願いします!) ルシウス:〈通信〉(美咲、聞こえますか?) 美咲:〈通信〉(えっ?この声はルシウス様?一体どこから?) ルシウス:〈通信〉(そのまま動かずに聞いてください。先程、君にはさつきの手によってマイクロ通信機を装着させてもらいました。) 美咲:〈通信〉(じゃあ…さっきの首の痛みはそのせいなんですか?) ルシウス:〈通信〉(そうです。この通信機は言葉を介さず脳内を通じ直接会話をすることが出来る優れものです。また、同様の物は既にさつきにも取り付けてあります。) 美咲:〈通信〉(さつきにも?分かりました。) ルシウス:〈通信〉(今後、私からの指示はこの通信機を通じて直接君達の脳内に送らせてもらいます。) 美咲:〈通信〉(承知しました。) ルシウス:〈通信〉(それでは早速ですが、君達に指令を与えます。今から警備兵をそちらに向かわせますので、君達は逃げるフリをして二人を連れてC地区の第3倉庫まで誘導してください。) 美咲:〈通信〉(承知しました。) さつき:〈通信〉(お任せください。) 美咲:楓さん!賢悟さん!警備兵が複数こちらに来ます!このままだと囲まれてしまいます!今すぐ私と一緒に来てください。 楓:いえ、むしろ今はまだ気付かれていない。あの程度の人数なら私と賢悟で無力化出来るわ。あなた達はそこで大人しくしてなさい。行くわよ賢悟! 賢悟:おう! :〈音もなく近付き敵を無力化していく〉 : 美咲:すごい…。 さつき:あっという間に倒しちゃった…。 賢悟:ただいま。 楓:ね!大丈夫だったでしょ? 美咲:あ、ああ…。 さつき:一瞬であの数を…。 楓:二人とも何て顔してんのよ。これくらいは普通よ、普通。さてと、バレないように倒した敵を隅に隠してと…。次はどうする?賢悟? 賢悟:そうだなぁ…俺的にはB地区のあの建物が怪しいんだが…。 美咲:(えっ?あそこは*神経兵器極秘製造《しんけいへいきごくひせいぞう》プラントの近くじゃない!まずいわ!) 美咲:〈通信〉(ルシウス様、緊急事態です!あの二人は警備兵を全て倒し、B地区にある*神経兵器極秘製造《しんけいへいきごくひせいぞう》プラントに向かっています!いかがいたしましょうか?) さつき:〈通信〉(しかも二人ともかなりの*手練《てだ》れです。このままでは違法現場が摘発されてしまいます!) ルシウス:〈通信〉(ふふふ…まあまあ二人とも落ち着いてください。) 美咲:〈通信〉(で、でも…) さつき:〈通信〉(どうしよう…) ルシウス〈通信〉(既に手は打ってありますから、君達は彼らの言う通り行動してください。) 美咲:〈通信〉(ルシウス様がそう仰るなら…) さつき:〈通信〉(我々はそれに従います。) ルシウス:〈通信〉(よろしい。よろしく頼みましたよ。) : 賢悟:〈足で地面を踏む〉ん?おい楓、ここの地面だけ踏んだ時に妙に響かないか? 楓:〈足で指定された場所を踏む〉確かに変ね。下が空洞になってるみたい。 賢悟:これはもしかして…よいしょっと!〈地面を覆っていた土をどかせる〉 賢悟:お!ビンゴ!地下に通じる扉が出てきたぞ! 楓:やったわね!賢悟!さあ二人とも中に入るわよ。 美咲:はい…。 さつき:分かりました…。 : :〈地下通路〉 賢悟:やけに長い通路だな。一体どこに繋がってるんだ? 楓:しかもかなり入り組んでるわね。 さつき:(この香りは…もしかして!)はぁ…はぁ…ちょ、ちょっと休憩しませんか? 美咲:さつき、大丈夫? 賢悟:はぁ…仕方ねぇな。これだからお子ちゃまは。 楓:ちょっと賢悟!それはいくら何でも言い過ぎよ!謝りなさい! さつき:い、いえ…別に私は…。 賢悟:へいへい。悪かったなお嬢ちゃん。確かに少し急ぎ過ぎた。時間はまだたっぷりあるんだ。そう焦ることもねぇだろうよ。 さつき:あ、ありがとうございます。 賢悟:そんじゃここらで少し休憩にしようぜ。よっこらせっと。〈道端に座り込む。〉 楓:じゃあ休憩ついでに少しお話しましょうか。 美咲:お話…ですか? 楓:ええ。お互いの事を信用していないとはいえ、同じ目的のために働くチームですもの。せめてタメ口で話せるくらいにはなりたいわ。 美咲:あっ…言われてみれば。 さつき:ずっと敬語で喋ってました。 賢悟:あはは!じゃあこっからは*無礼講《ぶれいこう》ってことでフランクに話そうぜ! 楓:じゃあまずは私からね。本名は明かせないけど、楓っていうコードネームは自分で付けたの。自分で言うのも何だけど結構気に入ってるんだ。私が特殊エージェントになったのは今から5年前だったかしら。元々は美咲と同じ特務調査員志望だったんだけど、途中から潜入捜査よりも直接的な強制力を行使できる仕事に憧れてね、それでこの道を目指したのよ。 美咲:へぇー、そうだったんだ。 賢悟:じゃあ次は俺の番だな!俺のコードネームは賢悟!何となくカッコ良さそうだったから付けたんだ!俺は楓と同期で毎日泥まみれになりながら訓練してたっけな。将来の夢は…そうだなぁ、不正なんてもんを働く*輩《やから》を全員成敗するってとこかな?へへ…まあ現実はそう上手くはいかねぇけどな。 さつき:でも、とってもかっこいいわ!素敵な夢ね! 賢悟:ありがとよ!さつき! 美咲:じゃあ次はアタイの番だな!アタイはとにかく悪い奴が大っ嫌いでさ!まだ現世で生きてた頃は悪をやっつけるヒーローに憧れて警察官なんて職業に就いてたんだ。だけど、ある時強盗集団とやり合った際に撃たれちまってさ。そのまま殉職しちゃったんだ。あれはマジで無念だったなぁ。それでそのまま転生すんのかと思ったらまさかの*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》に引き抜かれてさ!あん時はめっちゃ嬉しかったよ!それで現世での熱い思いを胸に頑張って特務調査員になったってわけ。 楓:いっぱい努力したんだね。美咲は偉いよ。 美咲:えへへ…楓、ありがとう。 さつき:じゃあ最後は私ね。私は現世では普通の女の子として生活してたんどけどね、ある日突然車に轢かれて死んじゃったの。それで輪廻の輪に向かっている途中で私と同じような魂をたくさん見かけてね、一つ一つ数えてたの。ひとーつ、ふたーつ、みーっつ…ほらみんなも一緒に数えて… 楓:よーっつ、いつーっつ、むーっつ…(あれ…何だろう…急に体が重くなって来たわ…) 賢悟:ななーっつ、やーっつ、ここのーっつ、とおー…(頭がクラクラする…それに何だこの妙な香りは…気力がごっそり持って行かれる…) 美咲:そうよ…みんなその調子…さつきと一緒に数を数えていきましょう…そのまま続けて… 楓:じゅういーち、じゅうにー…じゅう…さん…(あぁ…このまま眠ってしまいたい…) 賢悟:じゅうよーん…じゅう…ご…(ダメだ…もう何も考えられねぇ…) さつき:〈通信〉(美咲、そろそろ良いかしら?) 美咲:〈通信〉(ええ、仕上げよ。) さつき:さぁ二人とも、大きく息を吸ってぇ… 楓:すぅ……〈大きく息を吸う〉 賢悟:すぅ……〈大きく息を吸う〉 美咲:さて、あなた達はどなたかしら? 楓:… 賢悟:… さつき:ふふふ…少し手こずったけど上手くいったようね。 美咲:一時はどうなることかと思ったけどね。 美咲:〈通信〉(ルシウス様、こちら美咲です。たった今、特殊エージェントの楓、賢悟両名の人形化が完了しました。今からそちらに運びますので例の処置をお願いします。) ルシウス:〈通信〉(了解しました。二人ともご苦労でしたね。すぐにそちらに応援を向かわせます。) 美咲:〈通信〉(はっ!) さつき:〈通信〉(ありがとうございます!) : :〈王宮の間〉 ルシウス:改めて、二人ともよくやりましたね。 美咲:ありがとうございます。それではこの二人も既に… さつき:私達と同じルシウス様の忠実な*下僕《しもべ》に? ルシウス:いえ、この二人にはまだ例の処置は施しておりません。 美咲:えっ?何故ですか?このままですと*夢幻香《むげんこう》の効果が切れて正気に戻ってしまうのでは? さつき:ルシウス様!早く例の処置を! ルシウス:まあそう慌てないでください。実はこのたび新兵器を開発しましてね、あなた達に打ち込んだ*傀儡入魂鋲《くぐつにゅうこんびょう》は確かに良い製品なのですが、正確に打ち込むためには高度な技術と時間が必要になります。そこで誰でも確実に対象を忠実な人形にできる兵器を開発しました。それがこちらの「*操霊針《そうれいしん》」です。 さつき:そうれいしん?どうやって使うんですか? ルシウス:まあ見ててください。まず*夢幻香《むげんこう》で人形化した状態で対象の首筋にこれを直接注入すれば処置は完了です。それでは行きますよ。 :〈ルシウス、楓の首筋に操霊針を注入する〉 :〈ルシウス、賢悟の首筋に操霊針を注入する〉 ルシウス:これで処置は終わりました。 さつき:そんな簡単な方法で? 美咲:一体どうなるんだろう…。 楓:んっ…んん…。〈楓、目が覚める〉 賢悟:う…うう…。〈賢悟、目が覚める〉 ルシウス:二人ともおはようございます。 楓:…おはようございます。ルシウス様。私はこのたび貴方様の忠実な人形となりました楓と申します。何なりとお申し付けください。 賢悟:…おはようございます。ルシウス様。私も同じく貴方様の忠実な人形となりました賢悟と申します。この命が消える瞬間まで貴方様のために尽くします。 美咲:まぁ!ルシウス様!素晴らしいですわ! さつき:これで全ての世界はルシウス様の物ですね! ルシウス:そうですね。でもこれではまだ生ぬるいです。本当の仕上げはこれからですよ…ふふふ。 : :〈*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB局長室〉 玲奈〈通信〉はい。こちら*違法霊魂取締局《いほうれいこんとりしまりきょく》ISEB局長室。 楓:〈通信〉こちら特殊エージェントの楓です。局長、緊急事態です! 玲奈:〈通信〉楓、何があったの? 楓:〈通信〉調査中に特務調査員の美咲さんが敵の銃撃を受け重症を負いました。 玲奈:〈通信〉何ですって! 賢悟:〈通信〉賢悟です。すみません、俺達が傍に着いていながらこんなことになるなんて… 玲奈:〈通信〉状況は分かりました。今は悔やんでも仕方がありません。それで、美咲は今どこにいるの? 賢悟:〈通信〉とりあえず敵に見つからない場所まで移動して応急処置はしました。ですがあまり長くは持ちそうにありません。 玲奈:〈通信〉分かったわ!私も今すぐそちらに向かいます!くれぐれも美咲の事をよろしく頼みます! 楓:〈通信〉承知しました。〈通信切れる〉 玲奈:(待ってて美咲!あなたを決して死なせはしない!) : :〈*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSI指令室〉 さつき:〈コンコン〉失礼します。 磯村:何だ、さつき君じゃないか?何故君がここにいるんだ?決定的な証拠を掴むまで帰って来るなと言ったではないか。 さつき:ですから、その証拠を掴んだのでお見せするために帰還いたしました。 磯村:な、何だと?それでは早くその証拠とやらを見せんか!馬鹿者! さつき:はい。既に別室にて準備が出来ておりますのでこちらへどうぞ。 磯村:お、おう。(ん?やけに今日は素直だな?さては俺の熱意ある指導のおかげで少しは改心したか?) さつき:こちらです。どうぞお掛けください。 磯村:ああ。 さつき:それではこれから調査報告並びに証拠映像を流しますのでご覧下さい。 : :〈ダストフォール隠れ家〉 玲奈:美咲!美咲はどこ? 楓:局長!こちらです! 美咲:すぅ…すぅ… 玲奈:美咲の容態はどうなの? 楓:何とか峠は越えたようで今は安定しています。 玲奈:ふぅ…それは良かったわ。 玲奈:それでは特殊エージェント賢悟、今回起きた事態について状況を説明しなさい。 賢悟:はっ!*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSIの協力者を含めた我々4人でAルート搬入口における魂の調査を行なっていた際、突然複数の警備兵に囲まれました。私と楓で大半は無力化したのですが、残存警備兵が協力者に向けて撃った弾丸を美咲特務調査員が身を*挺《てい》して*庇《かば》い、このような結果に…。 玲奈:それで、美咲が*庇《かば》ったその協力者は今どこにいるの? 賢悟:それは…。 美咲:う…うう! 玲奈:美咲!しっかりしなさい!私よ!玲奈よ! 美咲:き、局長…どうしてここに? 玲奈:あなたが重症を負ったって聞いて慌てて駆け付けて来たのよ! 美咲:そう…なんですね。ありがとうござ…います。 玲奈:もう喋らなくて良いから。ゆっくり寝てなさい。 美咲:局長…一つお願いが…。 玲奈:何?何でも言いなさい。 美咲:さつきが…私の親友が書いてくれた手紙が机の上にあるの…それを読んで聞かせて…ください。 玲奈:手紙?ああ…これね。分かったわ。じゃあ読むわね。 玲奈:「親愛なる美咲へ。私のために身を*挺《てい》してまで庇ってくれたのに最後まで一緒に居られなくてごめんなさい。あなたと任務を遂行出来て本当に楽しかったわ。美咲は覚えているかしら?辺りはしんと静まり返った真っ暗な隠れ家の中で二人で数を数え合ったあの夜の事を。寂しさと心細さで押しつぶされそうな私の心を救ってくれたのは間違いなく数を数え続けるあなたの声だったわ。そう…こんなふうに。いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく…」 : :〈*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSI会議室〉 さつき:…ということで、ここには違法な上位ランクの魂が多数保管されていることが分かりました。 磯村:これは…!何という事だ!これこそ我々が求めていた決定的証拠じゃないか!さつき君、でかしたぞ! さつき:ちなみに、倉庫から押収した違法物資のリストがこちらの画面になります。総司令官、お手数ですが上から順に読み上げてはもらえませんか? 磯村:ああ、分かった。製品番号1、ネオリズム20キロ。製品番号2、タンザニウム10キロ… : :〈ダストフォール隠れ家〉 玲奈:「にじゅーいち…にじゅーに…にじゅーさん…」(あれ…?何だろうこの感覚…数字を読んでいるだけなのに…どんどん気力が吸い取られていく…) 楓:局長…だんだん疲れて来たでしょ?少しお休みしましょう。それにほら、この部屋の空気を嗅いでみてください。とっても素敵な香りがしませんか? 玲奈:素敵な香り?(くんくん)ああ…ほんとだわ… 賢悟:さあ…遠慮せずに胸いっぱいに吸い込んでください… 玲奈:すぅ……(何これ…頭の中がどんどん白で埋め尽くされていく…ああ…気持ち良い…) : :〈*適正輪廻監視院《てきせいりんねかんしいん》ARSI会議室〉 磯村:製品番号7、マクドリアム…15キロ…製品番号8…(やばい…意識が飛びそうだ…。部下の前で…そんな失態を晒すわけには…) さつき:あら?総司令官。だいぶお疲れのようですね。一度休憩しましょうか?深呼吸でもすればスッキリしますよ。 磯村:あ、ああ…そうだな。 さつき:それに、今日は総司令官のために特別なお香を焚(た)いておきましたから。 磯村:おお…そうか、気が利くな。(くんくん)…ほんとだ。なんて落ち着く香りなんだ… さつき:さあ磯村総司令官、思いっきり吸い込んでハッピーになりましょ♡ 磯村:すぅ……(ああ…全てが真っ白になっていく…) : :------------------- 美咲:うふふふ… さつき:あははは! : 美咲:ねぇ…あなたはだぁれ?〈同時に〉 さつき:ねぇ…あなたはだぁれ?〈同時に〉 : :~完~