台本概要

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タイトル 「行けたら行くわ。」結婚式ver.
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 20 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 夢や希望はあれど、パッとしない今日を生きるだけの現実を繰り返す田中のスマホに昔の知り合い「松本」から電話がかかってくる。弾む話と揺れる心。それは過ぎ去ったあの頃からの誘い。その言葉に田中はこう返す――「行けたら行くわ。」

◇備考◇
実験的に書いた「電話越し、短めの会話劇」です。
本作は「行けたら行くわ。」というタイトルの1人用台本の相手側を追加したものです。
今後別バージョンを作るかもしれませんが、二次創作(?)など自前で作っていただいても大丈夫です。
その際は、本作の『松本』の相手の『田中』側を考えていただいても大丈夫です。超ご自由に。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
田中 不問 113 自分でも「パッとしない人生を送ってるな」と思っているが、口に出したら終わりなんだと分かっている。
松本 不問 111 自分では「それなりの平凡な人生をしてる」と思っているが、口に出すことも無い。 ※(上司)を兼ねる。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:「行けたら行くわ。」結婚式ver. : 0:◆あらすじ◆ 0:夢や希望はあれど、パッとしない今日を生きるだけの現実を繰り返す田中のスマホに昔の知り合い「松本」から電話がかかってくる。弾む話と揺れる心。それは過ぎ去ったあの頃からの誘い。その言葉に田中はこう返す――「行けたら行くわ。」 : 0:◇登場人物◇ 田中:自分でも「パッとしない人生を送ってるな」と思っているが、口に出したら終わりなんだと分かっている。 松本:自分では「それなりの平凡な人生をしてる」と思っているが、口に出すことも無い。 松本:※(上司)を兼ねる。 : 0:◇◆◇ : 0:着信音。 0:少し間をあけて、電話に出る田中。 : 田中:はい、田中です。 松本:松本。 田中:……えっと。 松本:松本。 田中:え? 松本:松本。 : 0:間。 : 松本:松本。 田中:あ、もしかして……。 松本:皐月高校三年二組、出席番号二十七番、みんなのアイドル松本。 田中:マジで!? えー! 久しぶりじゃん! うわ、めっちゃ懐かしい! 松本:絶対忘れてただろ。 田中:いやほんと、声聞いただけであの頃に戻った気がする。 松本:適当言ってんじゃねぇし。 田中:いやいや、分かってたって、嘘じゃないし。 松本:ほんとか? 田中:ほんとほんと。 松本:絶対いたずらか詐欺だと思ってたじゃん。 田中:出た瞬間、頭の中で「あれ? なんか懐かしいな、この声ってもしかして……!」ってなってたから。 松本:声からも緊張感伝わってきてたのによく言うし。 田中:でもさ、だって、急に電話かかってくるとか思わないじゃん、やっぱ。 松本:人生って何があるか分かんないもんじゃね? 田中:いやまぁそうだけどさ。 松本:高校時代の同級生から電話かかってくるとか全然ある部類だし。 田中:あれからどんくらい経ったと思ってんの? 松本:声聞いて懐かしいって思うくらいには昔? 田中:うん。 松本:気が付けば輝いてた青春もロング・ロング・アゴー的な。 田中:時が経つのってあっという間だよな。 松本:なんつーか、……青春流れ星だな。 田中:いや、それを言うなら光陰矢の如しだろ。 松本:ゴーイング矢の如し、だな。 田中:ほんとそれな。 松本:強引ボケ殺し。 田中:でもこの一瞬であの頃に戻った感じするわ。 松本:フォーヱヴァ、あの頃のオカン。 田中:ていうか、今何してんの? 松本:んー……。呼吸? 田中:じゃなくて、仕事とか。 松本:だよなぁ、息してるだけじゃ生きてるって言えないか。ちなみにそっちは? 田中:こっちは……まぁ、普通に会社員、とか? 松本:それが普通っていうのもなんか、あの頃から考えると感慨深みある。 田中:うん、まぁ、色々あって。 松本:なるほど、わからん。 田中:というか、色々なかったのかも。 松本:でも、大人になると地味になるとかニホントカゲかよ。 田中:まぁ、そうかも。 松本:そういえば襟足青く染めてたっけ。いやぁ、青かったねあの頃は。 田中:そっちは? 松本:ヘイヘイボンヴォヤージュ。 田中:えー? 嘘だ、絶対なんかあるやつでしょそれ。 松本:生まれてこの方、餅と嘘と預金残高の底はついたことないんだけど? 田中:そう? まぁ、追々聞くか。 松本:う、嘘じゃないぞ? 127円までならあるけど……。 田中:ていうかさ。 松本:うん? 田中:なんかありがとな。 松本:なんで? 田中:なんでって、なんとなく? 松本:よく分らんけど。それはつまりどういうこと? 田中:こう、埋めたことも忘れてたタイムカプセルが、なんかの拍子にひょこっと出てきた。みたいな感覚? 松本:棚からぼたもち。みたいな? でもそれって実質時限爆弾よね。高確率でカビてるか、干からびてるし。 田中:嬉しくない? そういうの。今、嬉しいしだって。 松本:ふーん? よかったね。てか消費期限切れてなくて何より。 田中:だからありがとな。かけてきてくれて。いや、ちがうな。 松本:なんか掛け違ってた? 田中:まだ、憶えててくれて、かも。 松本:忘れる方が難しいかな。でしょ? 田中:はは。……まぁ、正直言うと、そう。 松本:あっそ。埋めたままの方が良かった? 田中:いや、ごめんって! 松本:思い出も化石になるかな? 田中:ごめんごめん。 松本:そんな良いもんじゃないか。 田中:あ、それで、なんか用事あったんじゃない? 松本:無いと言えば無いし、あると言えばまぁアルトバイエルン。 田中:そうでもないとかけてこないじゃん、実際。 松本:実際かけてるし。忘れかけてたかもだけど。 田中:こっちからかけることも、たぶんなんか用事なかったらないだろうし。 松本:ほんとにそう? 田中:それで、何の―― 松本:――結婚するんよ。 : 0:間。 : 松本:結婚するんよ。 田中:えっ? 松本:松本、結婚するんよ。 田中:……マジ?! 松本:マジマジ。てかマジ豆腐ぅ。 田中:え、え、えっ? 松本:一世一代、人生に勝負かけたその報告がてらかけてきたわけよ。 田中:うわ、うっそ、すげぇじゃん! 松本:結婚一擲、的な。 田中:そうなんだ……! 全然知らなかったわー! 松本:把握してたらそれはそれで怖いけど。戦いは始まる前から始まってっから。 田中:えー? そっか、ていうことはやっぱ……。 松本:それはもうロング・ロング・アゴーよ。 田中:あー、やっぱそう来る感じ? 松本:ぶっちゃけ、諦めそうになったこともあったけど。 田中:え? なになに? 松本:見上げる夜空は誰のものでもないからさ。 田中:あー、なるほどね。 松本:まぁ、青春流れ星ってこと。諦めなくて良かった感じ。 田中:ふーん、そんなことあったんだ。それでさっきちょっと隠したんだ。 松本:願い事って、大抵は胸の内にしまっておくのがベターだから。 田中:気持ちは分かる。 松本:口は軽くて、募る思いはヘビー級なんて碌でもないけど、並んで夜空見上げてたらポロっと零れて、気が付いたら夜通し話してて、そっからあれよあれよという間に……なんかね、人生何があるか分かんないよね。 田中:えー? いいと思うけどな。 松本:てか改めて言葉にすると恥ずい。 田中:田中的には全然あり。 松本:なしなし、今のナシ。 田中:でも、そっか。 松本:いや、なにが? 田中:まぁ、言われてみればそうかも。 松本:自己完結すんなし。 田中:ちなみにいつ? 松本:いつでもいいじゃん。 田中:いやいや、なんでそこでまた勿体ぶる? 松本:どうでもいいじゃん。 田中:そりゃ気になるって。 松本:あーあー聴こえない。電波の調子が……。 田中:重大発表されてカミングスーンとか言われると「いや、いつだよ!」ってなるでしょ。リニアモーターカーの開通ほんといつになるんだよくらい気になるわ。 松本:そんなの気にしてるやついないって。近所のやつしか興味ないでしょ、それ絶対。そういえばあの頃よく行ってた駅前のゲーセン、百均になったよ。 田中:へー、そうなんだ? 松本:あ、でもすぐにつぶれた。 田中:……じゃなくて、今あの店がどうなってるとかいいんだよ。 松本:大切な思い出の場所も、思い出そのものも、気付いたら他の何かがそこを埋めてるもんだよね。 田中:確かにそれはそう。近所のコンビニの跡地でなんかよくわからないマッサージ屋とか開業されてる並みにそう。 松本:ゲーセンは正にその流れ。諸行無常。 田中:そうそう。しかも、その後のも割とすぐ潰れるんだよな。 松本:兵どもが夢の跡。ってね。 田中:いやいやいや、だからもうその話は良いって。 松本:っち。折角いい感じにまとめたのに。 田中:それでいつ? 松本:来月。 田中:え、もうすぐじゃん! 松本:どうせ、前もって言ってても予定空けれないんでしょ。 田中:……あー、まぁ確かに? 松本:なら、直前くらいでいいかなって。だから電話したんじゃん? 田中:十年後二十年後の話はわざわざ電話してこないよな。手紙で十分っていうか。 松本:最近は紙の招待状も減ったらしいし。 田中:まぁ、最近手紙も全然出さないけどさ。 松本:てか住所とか知らん。それ以前にメールも怪しいくらいだよこちとら。 田中:分かる。仕事以外でメールとかしないよな。友達にメールとか特に。電話の方が早い。 松本:そう思うなら顔出せば? たまには。 田中:いや、悪かったって。電話どころか何も連絡とってなかったのはほんと。 松本:親にすらそんな感じでしょどうせ。 田中:それも仕方ないかなって。言い訳だけどさ。 松本:ま、ひと様のことは口出すつもりないけど、友達でしょ? それなりに気心も知れてたつもりなんだけど。 田中:お互い「忙しいかな」とか「迷惑じゃないかな」とか考えちゃうじゃん。やっぱ。 松本:遠慮しちゃうのはそう。ヤマアラシのジレンマじゃないけど、自分の針より怖いのは時計の針なんよ。 田中:そうそう「何時ごろなら平気かな?」って。仕事なら昼過ぎが良いよね、みたいな分かるけど。それも職種によるかもだけど。 松本:てか、今更だけど迷惑じゃなかった? 田中:うん。電話かかってきたらやっぱ嬉しいよ。 松本:実は自信なかったんだよね。おっかなびっくり。みたいな。 田中:なんていうかさ「自分がされて嬉しいことは、きっと相手も嬉しい筈」なんて、なかなか思えないっていうかさ。 松本:自分が何されたら嬉しいかなんてそもそもわかんないものじゃん? 田中:それもわかるけどね。 松本:分かってんだか分かってないんだか分かんないわ。 田中:結局、時間があけばあく程、連絡って取りにくくなるんだよ。 松本:早く食べないと固くなる唐揚げみたいなもんだよね。 田中:わかってても、先送りしちゃう感じ。 松本:好きとか大切とかに優先順位、みたいなものができてるの、ちょっとやだよね。 田中:それで「まぁ、もう連絡しても遅いよな」って納得しちゃうんだよ。 松本:他の誰かの胃に納まるのを待ってるみたいな? 田中:ていうか、そうやって納得するために先送りしてたまであるかも。 松本:食べたらおいしいのは分かってるけど、今はそのクチじゃないんだ。って? 田中:なんとなく好きじゃないお土産をもらって「食べたくないなぁ」と思いながら「でも捨てるのもなぁ」って放置して、賞味期限来たら「ちょっと悪いけどこれはもう流石に……」って、申し訳なさそうにしてる感じ。 松本:感じ悪い感じを隠してる感じか。 田中:まぁ、ポーズだよな。 松本:失礼しちゃうね。 田中:あ、ごめんごめん。 松本:いいよ、別に。 田中:そんな話しても仕方ないよな。 松本:ま、無理ならいいんだけど。あと、具体的な日取りは送っといたから確認しといて。 田中:あー、ちょっと待って、その日は……。 松本:ま、期待はしてないから。人付き合いに於いて大事なのは何事も期待しすぎないことだって学んだからね。 田中:あっ、休みだ。 松本:そ。それは良かった。 田中:うん。行ける、と思う。 松本:無理しなくていいよ? でもあんがとね。 田中:いやいや、こっちこそありがとう! 松本:きっとどっちかが死ぬまで顔合わせることも無いんじゃないかって思ってたから。 田中:はは、そんな大袈裟な! 松本:結婚式はダメでも、葬式は出るくらいの友情だからさ。生きて会えるに越したことはないし……てか、葬式も来てくれる? 田中:いいよ、全然。 松本:やったぜ。……と、名残惜しくもそろそろお別れの時間が来てしまったようだ。 田中:え? あ、もうそんな時間か。 松本:ま、未来が明るかろうと暗かろうと、大人ってのは働かなきゃだから、まったくグローウィング矢の如しだね。 田中:ははは、だからそれを言うなら光陰矢の如し。 松本:このひとときも正にそんな感じだったけど、そろそろ切るわ。 田中:うん、わかった。 松本:あっさりしてるぅ。ま、引き留められても困るんだけど。じゃあ。 田中:じゃあ、また連絡するよ。今度はこっちから。 松本:約束な。 田中:うん、じゃあ。行けたら行くわ。 松本:それ、来ないやつぅ~。 田中:はは、冗談冗談。 松本:冗談じゃねぇって。 田中:じゃ、おやすみ。 松本:良い夢を。 : 0:通話を切る音。 : 田中:……ふぅ。久しぶりに、楽しかったな。 田中:あー、早く、来ないかなぁ。……楽しみだなぁ。 : 0:着信音。 : 田中:ん? なんだろ、なんか話し忘れたことでも――。 : 0:電話に出る田中。 0:電話の向こうは上司。 : 田中:はい、こちら田中。 松本:(上司)あぁ、田中君。橋本だ。夜分にすまないね。 田中:……え。あ、すみません、田中です……! はい、お疲れ様です……! 松本:(上司)普段より随分明るい声のようだったが、何かいいことでもあったかな? まぁいい。今メールを送ったから確認してほしい。 田中:え、あ、はい。 松本:(上司)というわけで、君に幹事をたのむよ。 田中:その日は休みですが……。 松本:(上司)だから何だ? 田中:え? 松本:(上司)ちょうどいいじゃないか。 田中:あ、あの! 松本:(上司)うん? 大きな声を出してどうした? 田中:いや、その日は、なんといいますか、その……。 松本:(上司)なんだ? 外せない用事でも? まぁ、どうしてもというなら仕方ない。他の者に頼むとするよ。ただ、君に何かを頼むことはもう二度とないがね。 田中:いや、そんな! 松本:(上司)どうする? 引き受けてくれると、私としては助かるが。 田中:…………分かり、ました。 松本:(上司)そう、ありがとね。 田中:はい……。 松本:(上司)うん。じゃあ、夜遅くにごめんね。お疲れ様。 田中:はい……、おつかれ、さまです。 : 0:通話を切る音。 : 田中:声、聞いただけで元に戻っちゃったな。 田中:……はぁ。 田中:辞めたいなぁ……。 田中:パッとしない人生。 田中:でもきっと、 田中:もう、遅いよなってなるんだろうな。 田中:結局、どこにも行けないんだろうな。 田中:短い夢と、長い現実。 田中:いけないどころか、そもそも居場所すらないんだから。 田中:はは、冗談。 田中:どころか、嘘吐きだ。 : 0:◆◇◆

0:「行けたら行くわ。」結婚式ver. : 0:◆あらすじ◆ 0:夢や希望はあれど、パッとしない今日を生きるだけの現実を繰り返す田中のスマホに昔の知り合い「松本」から電話がかかってくる。弾む話と揺れる心。それは過ぎ去ったあの頃からの誘い。その言葉に田中はこう返す――「行けたら行くわ。」 : 0:◇登場人物◇ 田中:自分でも「パッとしない人生を送ってるな」と思っているが、口に出したら終わりなんだと分かっている。 松本:自分では「それなりの平凡な人生をしてる」と思っているが、口に出すことも無い。 松本:※(上司)を兼ねる。 : 0:◇◆◇ : 0:着信音。 0:少し間をあけて、電話に出る田中。 : 田中:はい、田中です。 松本:松本。 田中:……えっと。 松本:松本。 田中:え? 松本:松本。 : 0:間。 : 松本:松本。 田中:あ、もしかして……。 松本:皐月高校三年二組、出席番号二十七番、みんなのアイドル松本。 田中:マジで!? えー! 久しぶりじゃん! うわ、めっちゃ懐かしい! 松本:絶対忘れてただろ。 田中:いやほんと、声聞いただけであの頃に戻った気がする。 松本:適当言ってんじゃねぇし。 田中:いやいや、分かってたって、嘘じゃないし。 松本:ほんとか? 田中:ほんとほんと。 松本:絶対いたずらか詐欺だと思ってたじゃん。 田中:出た瞬間、頭の中で「あれ? なんか懐かしいな、この声ってもしかして……!」ってなってたから。 松本:声からも緊張感伝わってきてたのによく言うし。 田中:でもさ、だって、急に電話かかってくるとか思わないじゃん、やっぱ。 松本:人生って何があるか分かんないもんじゃね? 田中:いやまぁそうだけどさ。 松本:高校時代の同級生から電話かかってくるとか全然ある部類だし。 田中:あれからどんくらい経ったと思ってんの? 松本:声聞いて懐かしいって思うくらいには昔? 田中:うん。 松本:気が付けば輝いてた青春もロング・ロング・アゴー的な。 田中:時が経つのってあっという間だよな。 松本:なんつーか、……青春流れ星だな。 田中:いや、それを言うなら光陰矢の如しだろ。 松本:ゴーイング矢の如し、だな。 田中:ほんとそれな。 松本:強引ボケ殺し。 田中:でもこの一瞬であの頃に戻った感じするわ。 松本:フォーヱヴァ、あの頃のオカン。 田中:ていうか、今何してんの? 松本:んー……。呼吸? 田中:じゃなくて、仕事とか。 松本:だよなぁ、息してるだけじゃ生きてるって言えないか。ちなみにそっちは? 田中:こっちは……まぁ、普通に会社員、とか? 松本:それが普通っていうのもなんか、あの頃から考えると感慨深みある。 田中:うん、まぁ、色々あって。 松本:なるほど、わからん。 田中:というか、色々なかったのかも。 松本:でも、大人になると地味になるとかニホントカゲかよ。 田中:まぁ、そうかも。 松本:そういえば襟足青く染めてたっけ。いやぁ、青かったねあの頃は。 田中:そっちは? 松本:ヘイヘイボンヴォヤージュ。 田中:えー? 嘘だ、絶対なんかあるやつでしょそれ。 松本:生まれてこの方、餅と嘘と預金残高の底はついたことないんだけど? 田中:そう? まぁ、追々聞くか。 松本:う、嘘じゃないぞ? 127円までならあるけど……。 田中:ていうかさ。 松本:うん? 田中:なんかありがとな。 松本:なんで? 田中:なんでって、なんとなく? 松本:よく分らんけど。それはつまりどういうこと? 田中:こう、埋めたことも忘れてたタイムカプセルが、なんかの拍子にひょこっと出てきた。みたいな感覚? 松本:棚からぼたもち。みたいな? でもそれって実質時限爆弾よね。高確率でカビてるか、干からびてるし。 田中:嬉しくない? そういうの。今、嬉しいしだって。 松本:ふーん? よかったね。てか消費期限切れてなくて何より。 田中:だからありがとな。かけてきてくれて。いや、ちがうな。 松本:なんか掛け違ってた? 田中:まだ、憶えててくれて、かも。 松本:忘れる方が難しいかな。でしょ? 田中:はは。……まぁ、正直言うと、そう。 松本:あっそ。埋めたままの方が良かった? 田中:いや、ごめんって! 松本:思い出も化石になるかな? 田中:ごめんごめん。 松本:そんな良いもんじゃないか。 田中:あ、それで、なんか用事あったんじゃない? 松本:無いと言えば無いし、あると言えばまぁアルトバイエルン。 田中:そうでもないとかけてこないじゃん、実際。 松本:実際かけてるし。忘れかけてたかもだけど。 田中:こっちからかけることも、たぶんなんか用事なかったらないだろうし。 松本:ほんとにそう? 田中:それで、何の―― 松本:――結婚するんよ。 : 0:間。 : 松本:結婚するんよ。 田中:えっ? 松本:松本、結婚するんよ。 田中:……マジ?! 松本:マジマジ。てかマジ豆腐ぅ。 田中:え、え、えっ? 松本:一世一代、人生に勝負かけたその報告がてらかけてきたわけよ。 田中:うわ、うっそ、すげぇじゃん! 松本:結婚一擲、的な。 田中:そうなんだ……! 全然知らなかったわー! 松本:把握してたらそれはそれで怖いけど。戦いは始まる前から始まってっから。 田中:えー? そっか、ていうことはやっぱ……。 松本:それはもうロング・ロング・アゴーよ。 田中:あー、やっぱそう来る感じ? 松本:ぶっちゃけ、諦めそうになったこともあったけど。 田中:え? なになに? 松本:見上げる夜空は誰のものでもないからさ。 田中:あー、なるほどね。 松本:まぁ、青春流れ星ってこと。諦めなくて良かった感じ。 田中:ふーん、そんなことあったんだ。それでさっきちょっと隠したんだ。 松本:願い事って、大抵は胸の内にしまっておくのがベターだから。 田中:気持ちは分かる。 松本:口は軽くて、募る思いはヘビー級なんて碌でもないけど、並んで夜空見上げてたらポロっと零れて、気が付いたら夜通し話してて、そっからあれよあれよという間に……なんかね、人生何があるか分かんないよね。 田中:えー? いいと思うけどな。 松本:てか改めて言葉にすると恥ずい。 田中:田中的には全然あり。 松本:なしなし、今のナシ。 田中:でも、そっか。 松本:いや、なにが? 田中:まぁ、言われてみればそうかも。 松本:自己完結すんなし。 田中:ちなみにいつ? 松本:いつでもいいじゃん。 田中:いやいや、なんでそこでまた勿体ぶる? 松本:どうでもいいじゃん。 田中:そりゃ気になるって。 松本:あーあー聴こえない。電波の調子が……。 田中:重大発表されてカミングスーンとか言われると「いや、いつだよ!」ってなるでしょ。リニアモーターカーの開通ほんといつになるんだよくらい気になるわ。 松本:そんなの気にしてるやついないって。近所のやつしか興味ないでしょ、それ絶対。そういえばあの頃よく行ってた駅前のゲーセン、百均になったよ。 田中:へー、そうなんだ? 松本:あ、でもすぐにつぶれた。 田中:……じゃなくて、今あの店がどうなってるとかいいんだよ。 松本:大切な思い出の場所も、思い出そのものも、気付いたら他の何かがそこを埋めてるもんだよね。 田中:確かにそれはそう。近所のコンビニの跡地でなんかよくわからないマッサージ屋とか開業されてる並みにそう。 松本:ゲーセンは正にその流れ。諸行無常。 田中:そうそう。しかも、その後のも割とすぐ潰れるんだよな。 松本:兵どもが夢の跡。ってね。 田中:いやいやいや、だからもうその話は良いって。 松本:っち。折角いい感じにまとめたのに。 田中:それでいつ? 松本:来月。 田中:え、もうすぐじゃん! 松本:どうせ、前もって言ってても予定空けれないんでしょ。 田中:……あー、まぁ確かに? 松本:なら、直前くらいでいいかなって。だから電話したんじゃん? 田中:十年後二十年後の話はわざわざ電話してこないよな。手紙で十分っていうか。 松本:最近は紙の招待状も減ったらしいし。 田中:まぁ、最近手紙も全然出さないけどさ。 松本:てか住所とか知らん。それ以前にメールも怪しいくらいだよこちとら。 田中:分かる。仕事以外でメールとかしないよな。友達にメールとか特に。電話の方が早い。 松本:そう思うなら顔出せば? たまには。 田中:いや、悪かったって。電話どころか何も連絡とってなかったのはほんと。 松本:親にすらそんな感じでしょどうせ。 田中:それも仕方ないかなって。言い訳だけどさ。 松本:ま、ひと様のことは口出すつもりないけど、友達でしょ? それなりに気心も知れてたつもりなんだけど。 田中:お互い「忙しいかな」とか「迷惑じゃないかな」とか考えちゃうじゃん。やっぱ。 松本:遠慮しちゃうのはそう。ヤマアラシのジレンマじゃないけど、自分の針より怖いのは時計の針なんよ。 田中:そうそう「何時ごろなら平気かな?」って。仕事なら昼過ぎが良いよね、みたいな分かるけど。それも職種によるかもだけど。 松本:てか、今更だけど迷惑じゃなかった? 田中:うん。電話かかってきたらやっぱ嬉しいよ。 松本:実は自信なかったんだよね。おっかなびっくり。みたいな。 田中:なんていうかさ「自分がされて嬉しいことは、きっと相手も嬉しい筈」なんて、なかなか思えないっていうかさ。 松本:自分が何されたら嬉しいかなんてそもそもわかんないものじゃん? 田中:それもわかるけどね。 松本:分かってんだか分かってないんだか分かんないわ。 田中:結局、時間があけばあく程、連絡って取りにくくなるんだよ。 松本:早く食べないと固くなる唐揚げみたいなもんだよね。 田中:わかってても、先送りしちゃう感じ。 松本:好きとか大切とかに優先順位、みたいなものができてるの、ちょっとやだよね。 田中:それで「まぁ、もう連絡しても遅いよな」って納得しちゃうんだよ。 松本:他の誰かの胃に納まるのを待ってるみたいな? 田中:ていうか、そうやって納得するために先送りしてたまであるかも。 松本:食べたらおいしいのは分かってるけど、今はそのクチじゃないんだ。って? 田中:なんとなく好きじゃないお土産をもらって「食べたくないなぁ」と思いながら「でも捨てるのもなぁ」って放置して、賞味期限来たら「ちょっと悪いけどこれはもう流石に……」って、申し訳なさそうにしてる感じ。 松本:感じ悪い感じを隠してる感じか。 田中:まぁ、ポーズだよな。 松本:失礼しちゃうね。 田中:あ、ごめんごめん。 松本:いいよ、別に。 田中:そんな話しても仕方ないよな。 松本:ま、無理ならいいんだけど。あと、具体的な日取りは送っといたから確認しといて。 田中:あー、ちょっと待って、その日は……。 松本:ま、期待はしてないから。人付き合いに於いて大事なのは何事も期待しすぎないことだって学んだからね。 田中:あっ、休みだ。 松本:そ。それは良かった。 田中:うん。行ける、と思う。 松本:無理しなくていいよ? でもあんがとね。 田中:いやいや、こっちこそありがとう! 松本:きっとどっちかが死ぬまで顔合わせることも無いんじゃないかって思ってたから。 田中:はは、そんな大袈裟な! 松本:結婚式はダメでも、葬式は出るくらいの友情だからさ。生きて会えるに越したことはないし……てか、葬式も来てくれる? 田中:いいよ、全然。 松本:やったぜ。……と、名残惜しくもそろそろお別れの時間が来てしまったようだ。 田中:え? あ、もうそんな時間か。 松本:ま、未来が明るかろうと暗かろうと、大人ってのは働かなきゃだから、まったくグローウィング矢の如しだね。 田中:ははは、だからそれを言うなら光陰矢の如し。 松本:このひとときも正にそんな感じだったけど、そろそろ切るわ。 田中:うん、わかった。 松本:あっさりしてるぅ。ま、引き留められても困るんだけど。じゃあ。 田中:じゃあ、また連絡するよ。今度はこっちから。 松本:約束な。 田中:うん、じゃあ。行けたら行くわ。 松本:それ、来ないやつぅ~。 田中:はは、冗談冗談。 松本:冗談じゃねぇって。 田中:じゃ、おやすみ。 松本:良い夢を。 : 0:通話を切る音。 : 田中:……ふぅ。久しぶりに、楽しかったな。 田中:あー、早く、来ないかなぁ。……楽しみだなぁ。 : 0:着信音。 : 田中:ん? なんだろ、なんか話し忘れたことでも――。 : 0:電話に出る田中。 0:電話の向こうは上司。 : 田中:はい、こちら田中。 松本:(上司)あぁ、田中君。橋本だ。夜分にすまないね。 田中:……え。あ、すみません、田中です……! はい、お疲れ様です……! 松本:(上司)普段より随分明るい声のようだったが、何かいいことでもあったかな? まぁいい。今メールを送ったから確認してほしい。 田中:え、あ、はい。 松本:(上司)というわけで、君に幹事をたのむよ。 田中:その日は休みですが……。 松本:(上司)だから何だ? 田中:え? 松本:(上司)ちょうどいいじゃないか。 田中:あ、あの! 松本:(上司)うん? 大きな声を出してどうした? 田中:いや、その日は、なんといいますか、その……。 松本:(上司)なんだ? 外せない用事でも? まぁ、どうしてもというなら仕方ない。他の者に頼むとするよ。ただ、君に何かを頼むことはもう二度とないがね。 田中:いや、そんな! 松本:(上司)どうする? 引き受けてくれると、私としては助かるが。 田中:…………分かり、ました。 松本:(上司)そう、ありがとね。 田中:はい……。 松本:(上司)うん。じゃあ、夜遅くにごめんね。お疲れ様。 田中:はい……、おつかれ、さまです。 : 0:通話を切る音。 : 田中:声、聞いただけで元に戻っちゃったな。 田中:……はぁ。 田中:辞めたいなぁ……。 田中:パッとしない人生。 田中:でもきっと、 田中:もう、遅いよなってなるんだろうな。 田中:結局、どこにも行けないんだろうな。 田中:短い夢と、長い現実。 田中:いけないどころか、そもそも居場所すらないんだから。 田中:はは、冗談。 田中:どころか、嘘吐きだ。 : 0:◆◇◆