台本概要

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タイトル ステイション・ポートの幽霊【2:3:0】 -法外宙域ローヴァーゲイル #0
作者名 ろくしょうるり  (@ruri6syo)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(男2、女3) ※兼役あり
時間 60 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ※「少年」役以外全ての演者さんに兼ね役があります。

少年(女性)…兼ね役無し
男性警官1 …兼ね役「ウード」「父親」
男性警官2 …兼ね役「アーノルド」
女性警官 …兼ね役「アナウンス」
女児 …兼ね役「母親」

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人類の惑星間移民が始まって200。
母星地球を中心に惑星間物流も活発に行われるようになった世界。

【法外宙域ローヴァーゲイル】シリーズ #0

ナリタ・ステイションポートは日本の宇宙への玄関口。
多くの旅客宇宙便、そして宙運貨物船が出入りする。
その近くの民家で不可解な殺人事件が起きた

それは、全ての始まり

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
男性警官1 26 ナリタ署の若い警官 ※兼ね役【ウード】【父親】
ウード 27 壮年の男性。 宙運キャラバン船のキャプテンを務める気のいいおじさん ※【男性警官1】の方が演じてください
父親 21 【女児】の父親。 ガラの悪い男 ※【男性警官1】の方が演じてください
男性警官2 31 ナリタ署のベテラン刑事  ※兼ね役【アーノルド】
アーノルド 72 宙運キャラバンから独立し息子と共に新しい航路開発へ旅立とうとする若い父親 ※【男性警官2】の方が演じてください
女性警官 63 ナリタ署の刑事。以前はステイション・ポート内分署に勤務していた ※【ポート内のアナウンス】もお願いします。 「女性警官:(ポート内アナウンス)」と表記されています。(7カ所)
少年 125 7歳の少年。 父親のアーノルドと共に新航路開発に旅立とうとしている
女児 87 痩せてみすぼらしい、小さな女の子 ※兼ね役【母親】
母親 13 女児の母親。ガラの悪い女性 ※【女児】の方が演じてください
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:登場人物  :  少年:ラドル 6歳。スペースキャラバンの少年。  :  女児:山本リリ 8歳の女の子だが5歳ほどに見える。あまり言葉も知らずやせていて弱々しい。(兼ね役…母親) 母親:(女児と兼ね役)ヤマモト・ユウ 女児の母親。ガラの悪い女。  :  男性警官1:20代ナリタ・ステイション・ポート近隣の署員。男性警官2、女性警官と同じチーム。新米。(兼ね役…ウード/父親) ウード:(男性警官1と兼ね役1)年配の男。アーノルドの叔父。スペースキャラバン・ローヴァーゲイルの第一航路を預かっている。 父親:(男性警官1と兼ね役2)ヤマモト・ヨウジ 女児の父親。ガラの悪い暴力男。  :  男性警官2:30代。それなりに経験豊富。チームのまとめ役。(兼ね役…アーノルド) アーノルド:(男性警官2と兼ね役)息子と共にキャラバンから独立する若い父親。  :  女性警官:30代。このチームに配属される前はナリタ・ステイション・ポート内を担当していた。(兼ね役…アナウンス) 女性警官:(ポート内アナウンス)(女性警官と兼ね役)ステイション・ポート内のアナウンス。  :  0:~~ 法外宙域ローヴァーゲイル   :      ステイション・ポートの幽霊 ~~  :   :   :  ウード:(アバンN)幽霊を信じるかって?そりゃあ信じるさ。長年宙(そら)の上でやってりゃあ、よくわからねえいろんなこともあるもんだ。立証できっこねえ事をわからんまま否定したってはじまらねえ。 ウード:だが、誰にでも見えるって言うのはよ、違うと俺ぁあ思うね。そこにいるやつらが一人残らず見る。それはもうそいつはそこにいるってこった。  :   :  0:室内。凄惨な殺人現場。狭いリビングに両親とおぼしき男女が血を流して倒れている。  :  男性警官1:ひどいな。白昼のリビングで両親を殺害、 男性警官1:生き残ったのはあの女の子一人ですか。 男性警官2:ああ、強盗か怨恨か。どちらにしても子供だけでも無事でよかった。 男性警官2:かわいそうに…おもちゃの銃を抱きしめているんだって?勇気のある子だ。 男性警官2:両親守りたかったんだろうなあ。 女児:(おもちゃの銃を抱えて震えている)あ… あ… 女性警官:もう大丈夫よ、こっちに来て。 女児:ひっ! 女性警官:怖かったわね、お外に出ましょう… 女児:きゃっ!痛い! 女性警官:! ごめんなさい、けがをしているの?どこかしら…立てる? 女児:いたっ! …痛い! こわい… こないで… こないで 女性警官:大丈夫、だいじょうぶよ。何もしないわ。ここは危ないし、けがの手当もしなくちゃね… 女児:いやっ!やだ… いたいよぅ 男性警官2:おい、何やってる 女性警官:すみません。けがをしている可能性があります、触ろうとすると痛がるんです 男性警官2:そうか。おい、救急だ!子供がけがをしているぞ!お嬢ちゃん、名前。お名前教えてくれるかい? 女児:なま…え…? 男性警官2:そう、名前。言えるかい? 女児:・・・・・・  :   :(間)  :   :  アーノルド:法外宙域(ほうがいちゅういき)ローヴァーゲイル  少年:ステイション・ポートの幽霊  :   :  0:地球・日本。宇宙港(ステイション・ポート)  :  女性警官:(ポート内アナウンス)お疲れ様でした。ようこそ地球へ。ここはニッポン・ナリタ・ステイション・ポート、貨物搬入ゲートです…  :  ウード:じゃあ、しっかりな。アーノルド アーノルド:ああ、すっかり世話になって。今までありがとう、ウード ウード:お前もとうとう独立かあ。感慨深いもんだ。(アーノルドの肩をたたく)しっかれやれよ、がはははは! アーノルド:ああ、もちろんさ。ローヴァーゲイル・キャラバン・ファミリーの名に恥じぬ立派な ウード:(遮るように)違うだろうアーノルド。お前は父親なんだ。この子にしっかり見せてやれよ。男の背中ってやつを。(少年の頭をなでる)なあ 少年:ふふっ。ねえ!ウードおじさん、父さんの新しい船どこ?早く見たいよ! ウード:がははははは!ああ、そうだな。確か26番ドックと言ってたな。あっちだ アーノルド:こら。ちゃんと挨拶しないか。ウードおじさんやキャラバンのみんなとは、ここでお別れなんだぞ 少年:えっ?父さんの船、キャラバンのみんなと一緒じゃないの?またみんなの所に行くんだよね?ウードおじさん ウード:おい、ちゃんと話してないのか? アーノルド:まいったな… いいか?父さんはウードおじさんの船団から独立して、新しいローヴァーゲイル・ファミリーの一員になるんだ。だから、みんなとはしばらく会えなくなる 少年:ええっ、そんな…!じゃ、じゃあ、ロジー大兄ちゃんも? アーノルド:(頷く) 少年:ケン兄ちゃんも?…ナユも? … …そんな ウード:だいじょうぶだ。心配すんな。通信でいつでも会えるさ。 少年:…ウン… ウード:ほら、お前も立派な宙(そら)の男になるんだろう?そしたら、そんな顔しちゃダメだ。病気の母さんだって遠くからちゃんと見てるぞ? 少年:! う、うん!わかった! ウード:はっは、いい顔だ!いいか、お前は宙(そら)の男だ。いつでも忘れちゃなんねえぞ? 少年:は、はいっ! えと、あの、ありがとう、ウードおじさん…あっ、昨日のこれ!大事に ウード:おっと、(小声で)それはシー、だ アーノルド:ん? ウード:いいやなんでもないなんでもない。まあ、引き渡しやら荷積みの点検が終わるまではここにいるが、お別れだ。二人とも、達者でな。  :   :  0:再び殺人現場  :  男性警官1:遺体の身元がわかりました。ヤマモト・ヨウジ、ヤマモト・ユウ。この家の住人に間違いありません。ですが… 男性警官2:どうした 男性警官1:夫婦の戸籍に子供の届け出は出ていません。 男性警官2:なんだって? 女性警官:待ってください?ヤマモト・ヨウジ、ヤマモト・ユウ… …どこかで… (端末を操作する電子音)あっ、ありました。やっぱり。この夫婦、マエありです。 女性警官:いずれもナリタ・ステイション・ポートで。貨物埠頭での積み荷の窃盗、ドック不法利用、乱闘騒ぎなど数件… 子供に関するトラブルもあります 男性警官2:ふぅむ…  … (何かに気づいたように)っおい、転入者か?それとも地付(じづ)きか? 男性警官1:転入、ですね 女性警官:(落胆のため息)…やはり海賊がらみ…かもしれませんね 男性警官2:(頷く) 男性警官1:しかし、転入は12年前になっていますよ? 女性警官:彼らの典型的な手口なのよ。ありふれすぎている名前、定住者の顔は。もしそうなら、おそらくだけどずっとは住んでいないわ。偽装夫婦かもしれないわね 男性警官1:じゃあ…あの子は… 男性警官2:残念だが、両親を守りたかった、って感じではなさそうだな 女性警官:あっ、救急車来ました。 (女児に)…立てるかしら。お医者さんに行きましょうね 女児:…パパと…ママは? 女性警官:パパとママは…(言葉を濁す) 女児:(怯えて)おいしゃさん、いかない。おこられちゃうから、いかない 女性警官:大丈夫よ。パパとママは、怒らないわ 女児:うそ。だって、いっていいよって、きいてない 女性警官:… いま、パパとママに訊いてきてあげるから 女児:まって… (しばらく考えて)ううん。 …いく。おいしゃさん、いく 女性警官:いい子ね。じゃあ、あっちに救急車きてるから、乗ろうね。お名前言えるかな。おとしはいくつ? 女児:・・・・・・(小さく)8さい  :   :  0:ナリタ・ステイション・ポート 26番ドック  :  アーノルド:オーラーイ!オーラーイ! 少年:(走ってくる)おとうさーん!おひるごはん、もらってきたよー アーノルド:危ない!吊り荷の下に入るな! 少年:! ごめんなさい! アーノルド:やれやれ。気をつけるんだぞ。もしあれが落ちてきたら、ペシャンコだ。(クレーン技師に)ああ!そこで!下ろしてくれ。ゆっくりな! 少年:はい。オニギリ、っていうんだって。ゆで卵もあるよ アーノルド:ゆで卵!そいつはごちそうだ 0:(間) 船のステップに腰掛けてオニギリを食べる父子。 少年:オバケがいるんだって! アーノルド:オバケ? 少年:オベントやさんのおねえちゃんが言ってた。 少年:女の子のオバケがね、出るんだって。誰もいない時にどこからかふらふらって出てきて、追いかけるとすぐにどこにもいなくなっちゃうんだって。ポートの警備員がいくら探しても、見つからないんだってさ アーノルド:なんか悪さするのか? 少年:んー…、ただ出てくるだけみたい。すごくぼろぼろで、やせてて、小さい女の子だって。なんだか、かわいそうだね。ぼく、会ってみたいな アーノルド:そうか。ふふっ、もしかしたら、吊り荷の下に入ってペシャンコにされた女の子かもしれないな? 少年:わっ、むぅ、もう気をつけるよぅ アーノルド:はっはっは。で?もしその女の子が見つかったら、お前はどうするんだ? 少年:うーん、…追いかけて、捕まえる! アーノルド:そうか。だがオバケでも女の子だ。優しくしてやるんだぞ 少年:…怖かったらどうしよう アーノルド:そしたら、逃げろ。追いかけてきたら、父さんの所につれておいで 少年:(嬉しそうに息を吸い込む)うん! (残りのオニギリを急いで食べる)卵、おいしかった!オニギリも! アーノルド:(微笑んで頷く) 少年:ごちさうさま!じゃあ、ぼく、早速探してくる!行ってきまあす! アーノルド:ああ、ほかのドックの邪魔をするんじゃないぞ 少年:はあい  :   :  0:警察署  :  女性警官:あの子、二人のことをパパとママ、と言っていましたが、本当でしょうか。気になります 男性警官2:物心つく前に連れ去られてきたとして、そう呼ぶようにしつけられいてた。か。親子鑑定させてみるか 女性警官:(言葉を濁す)それは… …まずは幼女連れ去りと、行方不明のリストから当たってみますね。 男性警官2:そうだな。そうしてくれ 男性警官1:(入ってくる)女の子の診断書です。あと、検死報告書も 男性警官2:どれ 男性警官1:まずは検死の方から。二人とも死因は頸動脈からの失血死。刃物ではなくエネルギー弾の貫通によるものだそうです 男性警官2:エネルギー弾?馬鹿な!そんなものが当たったら首ごと吹き飛ぶぞ 男性警官1:ですよね。それは監察医もそう言ってました。でも、エネルギー弾特有の血液凝固がみられ他の凶器では考えられないと。うーん、でも最も低い出力でよほどの接射でもこうなるかどうか… 女性警官:拘束もなしにそんな無抵抗で接射できるわけないじゃない。それだと犯人も相当返り血を浴びたはずよね。犯行は白昼堂々…でも、そんな目撃情報もない 男性警官:凶器については鑑識からの報告待ちだな。で、女の子のほうは 男性警官1:はい。特に怪我はしていないということなんですが、その…怪我だらけなんです 男性警官2:なんだ、どういうことだ 男性警官1:犯行当日に負った怪我はないんですけど 男性警官1:…日常的に、暴力にさらされていたようです。治癒した傷、やけど、打撲痕、肋骨や腕など多数の骨折痕、それに栄養不足による発育の遅れなど… 女性警官:まさか虐待?! ちょっと見せて …ひどい 男性警官2:7歳と言っていたが、とてもそうは見えなかったしな 男性警官1:でも、一番気になるのはこれなんです。見てください。この写真…背中に 女性警官:(息をのむ) 男性警官2:なんだこれは。…ローヴァーゲイルは…死ね…?一体なにで書いてあるんだ。火をつけたタバコの押しつけ…にしては、細かすぎるな 男性警官1:スタンガン…のようなもの、みたいです。医師の所見によると 女性警官:なんてことを… ああ! もしかしてショートクロウ?あれでリンチされた被害者のやけど跡。この写真とよく似ています 男性警官2:そんな…窃盗犯が指先にはめて電子ロックを壊すのによく使っているあれ、か 男性警官2:ああ、俺も見たことがある。言われてみれば、似ているな 女性警官:ローヴァーゲイルは死ね…これを書き上げるまで、一体何回… …むごい 男性警官1:ああ、それで触ろうとするだけであんなに痛がってたんでしょうか 女性警官:うん、指先が怖かった…そうかもしれない 男性警官2:それはともかくだ。ローヴァーゲイル…人物なのか…それとも隠語か…?なんにせよ子供の背に刻みつけるほどの恨みがあるとも言えるな 男性警官1:調べてみます 女性警官:女の子とは話ができそう?だったら、私は病院へ行ってきます  :   :  0:ステイション・ポート  :   :  女性警官:(ポート内アナウンス)これより先は、貨物ゲートです。タグをお持ちでない、一般のお客様の立ち入りは、ご遠慮くださいますよう、お願い申し上げます。万一、立ち入りを… 母親:ほら、行きな。いつものようにやるんだ。いいね 女児:…(怯えながら小さく頷く) 父親:合図したら戻れ。逃げるんじゃねえぞ  :  0:(間)  :  少年:また出たんだって!オバケ! アーノルド:(作業する音)ほぉー 少年:でも見つけられなかった アーノルド:そんな簡単にはいかないだろう。さて、これでよし、っと。んーっ(伸び)ああ、今日はこれで終わるか!よーし、今夜は外に出て、何か食いにいくか 少年:わあ!本当?ヤッター! 0:(出口に向かって歩く) ウード:だーかーら!積み荷が足りねえって言ってるだろ。何回言わせるんだ 少年:あれっ、ウードおじさんだ アーノルド:本当だ。あれは、何かあったな 少年:おーい!ウードおじさーん! ウード:んっ?アーノルドか アーノルド:何かあったのか? ウード:ああ、引き渡しの荷がな?足りてねえんだ アーノルド:そんな馬鹿な ウード:だろぉ? おい、こいつぁ俺と一緒に荷受け作業をしたんだ。その時には間違いなくあってたぜ。なあ、アーノルド アーノルド:ああ、一緒にチェックして、サインにも立ち会った。重量も1グラムの誤差なく確かにあっていた ウード:そうだ。数量と1G(ワンジー)基準秤量(ひょうりょう)が合わなきゃ、サインなんかしねえ。だが引き渡しの荷は…見ろ!1.26キロ足りねえ アーノルド:引き抜きか ウード:ここでやられた以外考えられんだろ!そう、その紙!さっさと出せ  :  0:(間)ウードと共に街に食事に来ている。  :  ウード:(テーブルをたたく)まったく、あいつら。被害届を渋りやがって。積み荷の価値がどれだけだ思ってるんだ。こちとら命がけで遠い星から運んでるっていうのによ アーノルド:ああ。上じゃ宙運私警(ちゅううんしけい)が頑張ってくれてるおかげで航行はずいぶん心配なくなったが…ポートのセキュリティがこれじゃあやりきれないな ウード:なんにもわからねえで、なーにが『コンテナ単位じゃなくてよかったですね~』だ!ここじゃ海賊でも飼っているのかって言ってやったぜ。それになんでも、女の子の幽霊が出るって噂じゃねえか 少年:! ウードおじさん、見たの? ウード:いやいや。ただの噂だ。見ちゃあいねえよ 少年:ウードおじさんの荷物、オバケのしわざかも。ぼく、絶対にみつけて、つかまえてやるんだからな ウード:(吹き出す)ふっ、がはははは。そりゃあ頼もしいな。頼んだぜ、相棒(少年の背を2回たたく) アーノルド:明日の朝、俺の請(う)け荷ももう一度秤量チェックしてみるよ ウード:ああ、その方がいい  :   :  0:病院  :  女性警官:病室は…ここね。ええと、『女児7歳』… 女性警官:(室内から女児の笑う声が聞こえてくる) 女児:うふふ。うふふ。くすくす 女性警官:笑っている? (ノックして)こんにちは 女児:! こ、こんにちは 女性警官:入っていい? 女児:…ウン 女性警官:具合はどう?痛いのはよくなった? 女児:えっ?いたい、の? 女性警官:よかった。元気そうね 女児:だあれ? 女性警官:あら、ごめんなさい。おねえさんは、警…おまわりさんよ。あなたが元気かなあって、見に来たの 女児:? どうして? 女性警官:ど、どうして…って… 女児:げんきだよ?おまわりさんのおねえさん、どうしたの? 女性警官:あっ、いいのよ。何でもないわ。(小声で)…覚えていないの…? 女性警官:そ、そうね。ねえ、その銃のおもちゃ、ずいぶんお気に入りなのね。ずっと抱っこして 女児:じゅ、う?この子のこと? 女児:(嬉しそうに笑う)うふふっ、この子はね、トラウィス、っていうの。うふふっ。とらちゃんはね、おともだちなの。わたしのかわりに、おこってくれるの。うふふっ、うふふっ、ずーっと一緒だよ  女性警官:… えっ? 女性警官:ねえ、トラウィスちゃん?のこと、おまわりさんのお姉さんにもちょっとだけ、見せてくれるかな 女児:いいよ! 女性警官:わあ、すてきね。 女性警官:・・・・・(小声で)弾薬やエネルギーパックをセットできそうもない…ちょっとレトロなデザインだけど、ただのバネ式のおもちゃの銃ね… 女性警官:…ありがとう、トラウィスちゃん、大事にしてね  :   :  0:女児の家  : 父親:おっ、豪勢な晩飯だな 母親:ああ、今日はいいもんが手に入ったからね 父親:(食べ始める)なんだ。まさか抜き取りか?アシがつくとやっかいだ(行儀悪く飲食する) 母親:いいや。サンプルだよ。奴らにデータを送ったらすぐさま食い付いた。即金さ(食べる) 父親:ちっ、こっちはすっからかんだ。ろくな収穫もねえ。ついてるな、お前。で、何だったんだ。ブツは 母親:そいつはお互い知りっこなしだ。わかってるだろ。この商売、信用第一だってね 父親:(飲食しながら)ああ、ああ。訊いてみただけだって 母親:(飲食しながら)ふん、どうだかね。だがあたしの金はあんたの金。あんたの金はあたしの金だ。どっちがどうつこうが、いいだろ 父親:(薄く笑う)へっ、愛してるぜ、相棒 母親:(薄く笑う)ふん 女児:…あ… 父親:(叩く) 女児:きゃっ!ごめんなさい! 父親:おいこらくそガキ、てめえなに手ぇ出してやがる 母親:あたしたちが食べてんのに、行儀の悪いガキだね!(叩く)黙ってそこに座ってろ!(叩く) 女児:う、…う… …ごめんなさい…  :   :  0:ステイション・ポート  :  少年:(外で体操している)おいっちにっ、さんし!おいっちにっ、さんし! アーノルド:(眠っていて、目覚める)ふああ…(伸び)ん?なんだ、あいつもう起きてるのか… 少年:おいっちにっ、さんし!おいっちにっ、さんし!(以下ずっと体操を続けながら) アーノルド:(遠くから)おはよう、やけに張り切ってるな! 少年:あ、父さん!(おいっちにっ、さんし!)朝ごはん、もうもらってきてあるよ!(おいっちにっ、さんし!)今日はぜったい!(おいっちにっ、さんし!)オバケ!見つけるんだからな!(おいっちにっ、さんし!)ふぅ~(体操おわり) アーノルド:はっはっは。それは頼もしいな。おっ、今朝はイングリッシュサンドか。うまそうだ 少年:コーヒーいれる? アーノルド:ああ、シナモンたっぷりな 少年:へへっ、母さんの香りだね アーノルド:ああ、母さんのコーヒーだ  :   :(間)  :  父親:おら、いけ。わかってるな 女児:…(小さく頷く) 母親:今日はあたしが右に行くよ 父親:ああ、いいぜ 女性警官:(ポート内アナウンス)これより先は、貨物ゲートです。タグをお持ちでない、一般のお客様の立ち入りは、ご遠慮くださいますよう、お願い申し上げます。万一、立ち入りを…  :   :(間)  :  少年:うーん、オベントやさんのおねえちゃんの話だといつもだいたいこっちのほうって…いったよな(探す) 少年:はあ、誰もいないなぁ…あ、そっか!誰かいたら、オバケでないのか…ん?じゃあ…んーっと…どっかいいところないかな(物陰に目をつける) 少年:あ、よし、あそこに隠れて様子見だ!… って、あ!(通路の向こうを女児が横切る)いたっ! 少年:はあ、はあ、はあ、はあ、たしかこっちに…(T字の左右を見渡す)あれっ、どこ行ったんだろ… 女児:(物を落とすような音) 少年:! こっちだ! (走る)ここ…らへんだったけど…まさかこの隙間のむこう…?うわっ、狭いなあ、通れるかな… えーーーい、しょ…っと!ふぅ… あっ…(女児と目が合う) 女児:(怯えて)あ…っ 女性警官:(警備員)確かにこっちに… まったく、どこ行ったのかしら 少年:あっ け! 女児:(泣きそうに少年の袖を引く)あ…っ 少年:っ うん(女児の顔を見て警備員を呼ぶのをやめる) 女児:… ううっ、ひっく…ひっく 少年:(小声で)ああああ、な、泣くなよぅ。どうしたんだ?迷子? 女児:(首を振る) 少年:え、じゃあどうしたの 女児:… … おしごと… 少年:おし、ごと? 女児:パパとママの…おしごと…まってる 少年:ははっ、なーんだ。じゃあぼくとおんなじだ。ねえ、どうして隠れてるの?一人でつまんなかったら、ぼくんちの船んとこに行こうよ 女児:(首を振る)…みつかっちゃ…だめ… 少年:? そうなの 女児:…ウン… 少年:そうなんだ…うん、わかった。誰にも言わないよ。それにしても、やせてるね 女児:(おなかが鳴る) 少年:おなかすいてるの?あ、そうだ。えーっと(ポケットを探る)あった!チョコ、食べる? 女児:ちょ、こ? (不思議そうに見つめる) 少年:たべたことないの? 女児:(頷く) 少年:はい、あまくて、おいしいよ 女児:(不思議そうに見つめて、包みのまま口に入れようとする) 少年:あっ、待って。紙とらなきゃ。(包みをひらく)ほら 女児:(口に入れる)… … ! あまい 少年:へへっ 女児:(嬉しそうにする) 少年:おいしい? 女児:ウン! 少年:へへっ 女児:! う、ううっ…!(突然苦しみ出す) 少年:えっ、どうしたの 女児:(苦しそうに)パパとママ…よんでる… 少年:えっ? 女児:ううっ…パパとママ…よんでる…はやく…行かなきゃ 少年:えっ、だいじょうぶ? あっ、そっちは奥だよ… 女児:でぐち…こっち… 少年:待って(少女の手を掴む) 女児:…ちょこ…あり、がと… 少年:あ、明日も!来るから! 女児:(嬉しそうに笑う)  :   :  0:警察署  : 女性警官:思い出しました。3年前くらいかしら。私が貨物ポートの警備を担当していたとき、幽霊騒ぎが起きたことがあったんです 男性警官1:幽霊騒ぎ?なんですかそれ 女性警官:みすぼらしい女の子の幽霊が出る、っていう。だいたい貨物ゲート付近でしたね。保護しようと追いかけるんですが、いつも同じところで消えてしまって。 女性警官:ゲート付近の担当は2名配置されているんですが、二人でいくら探しても見つからないんですよね 男性警官2:ほう、それで、それが何の関係があるんだ? 女性警官:被害者身元確認の際、殺されたヤマモト夫妻にはナリタ・ステイション・ポート内で前科があると言いましたよね。その犯行日、気になって調べ直したら、どれも幽霊騒ぎのあった日だったんです。 女性警官:到着までちゃんとしていた積み荷が夜に足りなくなったという被害届が何件か出て、あとで窃盗の容疑で逮捕されたんですけど…その被害に遭った宙運業者のひとつが… 男性警官2:ローヴァーゲイル…?だとしたら、そのみすぼらしい女の子の幽霊ってのが 女性警官:はい。おそらく…  :   :  0:ステイション・ポート  :  少年:(急いで食べる音)ごちそうさま! アーノルド:早いな。今日も探しに行くのか? 少年:ん、うん、いってきます!! アーノルド:待て待て。ゆで卵どうした。食べないのか? 少年:ん、あーーー、おなかすいたとき、あとで食べる アーノルド:そうか。カラ、散らかすんじゃないぞ 少年:うん、わかった!あっ、そうだ父さん。あと何日くらいでこの船飛べるの? アーノルド:そうだな。今日でだいたい作業は終わるが… 少年:えっ、明日で出発なの?! アーノルド:いいや。今新規の船舶申請、許可が降りるのを待ってる。明後日かな 少年:そっかあ。あさってかあ アーノルド:なんだ。嬉しくないのか?楽しみにしてたじゃないか 少年:! ううん! あっ、その… オバケ、みつけられるかなぁー、って アーノルド:ふふぅん? まあ、がんばれ。そうだ。ウードおじさんは今日出るって言ってたぞ。 少年:えっ、うそ!じゃ、ちょっといってくる!みんなにお手紙かいたんだった! アーノルド:ああ、いってこい。いってこい  :   :(間)  :  少年:じゃあ、ウードおじさん!みんなにわたしてね! ウード:ああ、たしかに!おじさんに任せろ 少年:さびしくなるけど、ぼく、がんばるよ。早く父さんと一緒に一人前の『そらのおとこ』になりたい! ウード:はっはっは。よしよし。『あれ』、大事にするんだぞ。お前の母さんからの大事な届け物だ。大人になっても、きっとお前の役に立つだろう。くれぐれも、父さんには内緒にしてくれよ?リリーシアとの約束だからな 少年:母さんとの約束…うんっ! あっ、ウードおじさん、(内緒話)どろぼうオバケのことなんだけど…あのね、オバケはドロボウじゃないみたいだよ! ウード:ほほう 少年:父さんにはないしょだよ! ウード:ほほう? よし。わかったわかった。約束する  :   :(間)  :  少年:(走ってくる)はあ、はあ、はあ、はあ(止まって呼吸を整える)ふぅ…(周囲を確認して)よし、誰もいないな。いるといいな。(隙間に体をねじ込ませる)んぐぐぐぐっ…っしょっ、と 女児:(嬉しそうに)! 少年:あっ、いた!よかったー、約束通り来たよ。ふふっ。今日は、いいもの持ってきたんだ。おなか、すいてるんだろ? 女児:ちょこ? 少年:んーん。もっといいもの!ぼくの大好物。へへっ、ゆでたまご!こうやってね、カラをむいて(コンコン!) 女性警官:あらっ、何の音? 少年:あっやば!もうちょっと頭引っ込めて!(リリの頭を押す) 女性警官:・・・・・・・・・・(隙間を気にして明かりを差し入れるが何も見つけられない) 女性警官:何もないようね… 少年:・・・・・・・・・っふーーーーー 女児:・・・・・・・(少年に押さえられた頭を気にしている) 少年:ごめんごめん。ほら、カラが割れた。ハンカチの上でね、ここからこうやってむいてね。うす皮があるからこうして…はい、むけた 女児:… … …はんぶんこ 少年:いいよ、ぼく、あとでまた食べられるもの。食べなよ 女児:はんぶんこ…(無理に割ろうとする) 少年:ああっ、たまご、こわれちゃうよ。待って。(髪の毛を一本引き抜く)いてっ へへっ。ゆでたまごは、こうやってね、細い糸で切るんだ!…糸がないからかみのけだけど。はい、きれいに切れた! 女児:はんぶんこ! 少年:へへっ、じゃあ、一緒に食べよ 女児:うんっ… (食べ始めるが、しばらくしてすすり泣き始める) … ぐすっ くすん 少年:…わっ えっ、どうしたの。泣いてるの? 女児:(食べながらすすり泣き続ける) 少年:またどこか痛いの?それとも卵、きらいだった? 女児:ううん…(すすり泣く)たまご、おいしい… いっしょ…おいしい… 少年:… そっかあ…  よし、よし 女児:…あったかい(すすり泣き続ける) 少年:そう? 女児:うん、おてて、あったかい…  :   :(間 楽しく談笑する二人)  :  女児:うふふっ くすくす 少年:それでね、ロジー大兄さんったらそこで後ろにひっくり返っちゃって… 女児:ふふふっ …! (突然苦しみ出す)ううっ! 少年:! また! どうしたの?具合悪いの? 女児:ううん?(首を振る)パパとママ…よんでる 少年:えっ 女児:パパとママ、呼んでる! 少年:まって!お父さんとお母さんが呼んでると、苦しくなるの? 女児:いたい…ううっ はやくいかなきゃ… 少年:あ…!(手を離す) 女児:あり、がと… … ねえ、あした…は? 少年:うん!また明日来るよ!絶対来るから 女児:たまご… いっしょ …うれしかった 少年:うん、ぼくも 女児:またね… またあした…ね  :   :(間)  :  アーノルド:喜べ!今日、航行許可が降りたぞ! 少年:(上の空)…うん アーノルド:明日になるかと思ってたが、早かった。明日はついに進水式だ! 少年:(上の空)…ふーん アーノルド:どうしたんだ?ぼーっとして 少年:! えっ、な、なに?父さん アーノルド:予定が早まって、明日、飛べるぞ! 少年:・・・・・・・ 少年:ええーーーーっ!  :   :(間 夜中)  :  アーノルド:うーーん…(ページを繰る音。分厚い操船リファレンスを読んでいる) 少年:(コトン、とコップを置く音) アーノルド:…ん、なんだ。眠れないのか? 少年:んん、お水飲みに来ただけ アーノルド:・・・・・・・(ページを繰る音) 少年:・・・・・・・・ アーノルド:飲まないのか 少年:…飲む アーノルド:・・・・・・・(ページを繰る音) 少年:・・・・・・・っ、あのさ アーノルド:(ほぼ同時に)離陸は夕方にしておいた 少年:! アーノルド:どうせドック使用料は一日分とられるしな。せっかくだ。明日は街に降りて好きな物でも買いに行… 少年:(かぶせて)ありがとうお父さん!おやすみなさい! アーノルド:ふぅ…  ふふっ  :   :(間)  :  少年:おはよう父さん、行ってきまーす! アーノルド:おい!朝飯は! 少年:もう食べた!父さんのそこにあるからー! アーノルド:昼前には戻れよー! …まったく お、今日もうまそうだな  :   :(間)  :  女児:ふわぁ…あかくて、きらきら…きれいな…いし! 少年:トラウィス、いっていうんだ。おまもりの石だよ 女児:とら、うぃす? 少年:そう、トラウィス。本当は大事にするって…ウードおじさんと約束してたんだけどさ。きみが持ってて! 女児:これ、ママ…よろこぶ、かな 少年:ダメだよ、これは、きみがしあわせになりますようにって、ぼくがねがいをこめたんだ。だから、ママじゃなくてきみが持ってて 女児:ママ…よろこんでくれたら … しあわせ 少年:んーっ、そうかもしれないけどさあ~ あっ、そういえば、まだ名前、知らなかったね。今日でお別れだけど、そしたらきみのこと思い出すとき、困っちゃうや  :   :(間)  :  アーノルド:んん、遅いなー、あいつ。ちょっと探してくるか 父親:おい、ガキ!どきやがれ! 少年:いやだっ! 父親:このっ、くそっ、しぶといな! 少年:ぐうっ、(痛がる)いたっ! アーノルド:! おいっ、俺の息子に何をするんだっ! 少年:父さんこいつら!悪党だよ! はやくっ!はやく誰か! 父親:ちっ! …なにが悪党だ。悪ガキめ。おいてめえ、こいつの父親か アーノルド:ああ、そうだが。俺の息子はあんたの足蹴にされるほどの何をやったって言うんだ? 父親:ああ、見ろ!こいつ、うちの娘をボコボコにしやがったん… アーノルド:娘?どこに 父親:なっ、いねえ!!くそ!ガキ!どこへやった! 少年:知らないよ!それにあの子をボコボコにしてたのはそっちじゃないか 母親:あんた、もういいよ。行こう 父親:てめえ、名前は アーノルド:アーノルド・ローヴァーゲイルだ 父親:覚えたぜ、ちくしょうめ  っ、くそ、離しやがれ アーノルド:さあ、行こう。あんたは俺と一緒にこっちだ。そっちの大きな鞄を引いてるのは奥さんかい? 父親:いいからお前、先帰ってろ 女性警官:駄目ですよ 母親:…くっ  :   :(間)  :  女性警官:鞄の中に子供を入れるなんて。それに一緒に入っていたこれは、あなたのものではありませんよね。被害届が出ているものと同じ型番ですよ 母親:知らないわよ。誰がいれたのかしら 父親:俺らは善良な市民だ、ちょっと搬入ゲートに迷い込んだだけでドロボウ呼ばわりか! 女性警官:ドロボウ呼ばわり以前に、善良な市民は子供入りのスーツケースを引きませんし他人の子供も蹴りつけませんよ 少年:あの子、大丈夫かな アーノルド:…ああ 少年:あのさ アーノルド:すみません。その子、このままうちで引き取らせてもらえませんか 女児:! 少年:父さん! 父親:ああ?! 母親:はあ?! 女性警官:すみません、規則上、それはできかねます アーノルド:…そうでしょうが、このままではこの子があまりにもかわいそうだ。時間がかかっても、養女にする手続きはできるのでしょう? 女性警官:現状、それも難しいかもしれません。お気持ちはわかりますが 少年:そんな! 女性警官:ですが、この子の件は行政の方にしっかり引き継いでいきますので アーノルド:…そうですか…でも、きっと。迎えに来るよ、必ずね 少年:うん!まってて! 少女:…うん、まって…る… 少年:(小声で)今度こそ、これ、大事にしてね。やくそく、だよ 少女:うん … やくそ…く…だいじに…する…(すすり泣く)  :   :  0:警察署  :  男性警官1:ローヴァーゲイル、確かに以前あった宙運(ちゅううん)業者の名前でした 男性警官2:ん?以前。今はどうしてる 男性警官1:ローヴァーゲイル・キャラバン。三つの船団を擁するキャラバンで規模はそこまで大きくなかったようですが、太陽系からフロンティア・エリアまで広域で幅広い商品を受けに荷していたようです。 男性警官1:が…3年前、キャラバン・ファミリーの各船団が相次いで襲撃され、…生存者も不明のまま、らしいです 男性警官2:…ふぅむ… (深いため息)…ローヴァーゲイルは死ね、か… まるで呪いだな 男性警官1:…あの子の背中に刻まれたとおりになった、ということですか 男性警官2:そうだ。ということはだ、ふぅむ、そうだな 男性警官1:どうしたんですか。難しい顔をして。まさか、本当に呪いだなんて言いませんよね 男性警官2:ああ!本当の呪いだ! いわゆる『呪い』よりももっと実効的な『呪い』だよ 男性警官1:えっ? 男性警官2:最初の現場でのことを覚えてるか?二人の身元を確認したときだ。ありふれすぎた名前、ポートでの前科、戸籍のない子供 男性警官1:…海賊がらみかって言ってましたよね 男性警官2:はあ、そう、海賊! おそらく二人はポートで積み荷の下調べをするいわゆる『ホシ屋』だったということさ。女の子をおとりにしてゲート職員の目を盗んじゃ侵入してたんだろうよ。 男性警官1:そしてヤマモトヨウジ、ヤマモトユウの二人は3年前のその時、ローヴァーゲイル・キャラバンと何らかのもめ事を起こし恨みを買った 男性警官1:同じ3年前! 男性警官2:そうだ。まあ、海賊がそこまで目をつけた原因がそれだけっていうのも動機としちゃあ薄い気がするが、とにかくその一件と何らかの関連があると推測できる。そうすると、だ… 男性警察2:つまりこれは俺たち地上の警察の案件じゃない。…あいつらのヤマ、ってことだ(頭を抱える)ああ、そのうち嗅ぎつけて迎えが来るだろうよ 女性警官:(ノック)コン、コン 女性警官:失礼します。ただいま戻りました。はあ(落胆のため息)早速ですが、来てますよ。下に。予想通りですね 男性警官2:もうか!くそっ…(一息ついて、手を叩き気合いを入れる)さあて、これから奴らに全部持ってかれるぞ。準備しろ!迎え撃たなければな! 男性警官1:えっ? えっ? 女性警官:海賊事件はあいつらのヤマよ。宙運連合私警団…世に言う、≪海賊屋≫アブサードのね 男性警官1:宙運連合私警団…アブサード、って、正式名称なんですか?デタラメとか、法外、って意味ですよね 男性警官2:んなわけあるか。隠語だよ。なんにせよ、あいつらはいろんな意味で『アブサード』なやつらだ  :(ノックの音) 男性警官2:そぅら、おいでなすった!  :   :  0:後日。病院  :  女性警官:こんにちは 女児:あっ、おねえさん! 女性警官:退院できるんだってね。おめでとう。じゃーん、これ、プレゼントよ 女児:わあ、かわいい!トラのぬいぐるみ!おまわりさんのおねえさん、ありがとう 女性警官:実はね、これ、こうやっておなかがあいて、ほら、中にものが入るようになってるのよ。あなたのお友達、なんていうんだっけ 女児:? トラウィスの、トラちゃん? 女性警官:そう!じゃあこのぬいぐるみは? 女児:あっ、トラ!トラちゃんとトラちゃん! 女性警官:トラちゃんのおなかの中に、あなたのトラちゃん、いれてごらん? 女児:わあ~。えへへへへっ トラちゃん、ふかふかになった!ぎゅーーーっ 女性警官:トラちゃん、そのまま抱っこしてるとみんながびっくりするから、その中にいたほうがずっとかわいいわ。気に入ってくれたかしら 女児:うん!トラちゃんもふわふわできもちいいって!ありがとう! 女性警官:退院したら、お別れね。あなたのおなまえ、知りたいわ。なんて言うのか教えてほしいな 女児:なまえ? … なまえ … …なまえ …? 少年:『ぼく、ラドル。きみ、名前、なんていうの?』 女児:『…?』 少年:『なまえ、わかる? ええと、父さんと母さんは、なんて呼ぶの?』 女児:『と、さん?…かあ…?』 少年:『まいったなあ。んんと…パパとママ』 女児:『…くそ、がき…? … てめえ…?』 少年:『えっ、えっと…そういうんじゃなくて… …いつもそうやってよばれるの?』 女児:『… … うん…』 少年:『そっかあ…』 女児:『… ごめん…なさ…』 少年:『じゃあ、リリ! 今日からきみのこと、リリって呼ぶね! へへっ、まあ、母さんの名前だけど』 女児:… 女性警官:ん?なあに? 少年:『そう、今からリリの名前は、リリだよ!』 女児:…!(大きく息を吸い、はっきりと)わたし、りりです!わたしのなまえは、山本りり、です!  :   :(間)  :  女性警官:あのとき、わたしには何かできることが…なかったのかしら  :   :  0:ステイション・ポート  :  女性警官:(ポート内アナウンス)離陸槽(そう)の準備がととのいました。26番ゲート機はすみやかに着水してください アーノルド:いよいよだな 少年:うんっ アーノルド:これからは父さんとお前の二人きりだ。頑張ろうな、ラドル 少年:うんっ アーノルド:26番機、着水完了。メインエンジン始動 女性警官:(ポート内アナウンス)離陸槽、水圧上昇します。シートにしっかり体を固定し、最終安全確認をしてください アーノルド:26番ゲート機了解。搭乗員ロック確認完了。機内気密確認完了。コンテナバランスグリーン。動力正常。各ユニット、システム・オールグリーン。これよりAI制御に切り替えます 女性警官:(ポート内アナウンス)射出までカウントダウン開始。3、2、1… アーノルド:かわいい子だったな 少年:…うん アーノルド:必ず、迎えにいこう。必ず。必ずだ 少年:ウン、やくそくだよ。待っててね…リリ 少年:おまもり石トラウィス…リリを守って…そしてまた会えるようにみちびいて…お願い、お願いします  :   :   ~ 幕 ~

0:登場人物  :  少年:ラドル 6歳。スペースキャラバンの少年。  :  女児:山本リリ 8歳の女の子だが5歳ほどに見える。あまり言葉も知らずやせていて弱々しい。(兼ね役…母親) 母親:(女児と兼ね役)ヤマモト・ユウ 女児の母親。ガラの悪い女。  :  男性警官1:20代ナリタ・ステイション・ポート近隣の署員。男性警官2、女性警官と同じチーム。新米。(兼ね役…ウード/父親) ウード:(男性警官1と兼ね役1)年配の男。アーノルドの叔父。スペースキャラバン・ローヴァーゲイルの第一航路を預かっている。 父親:(男性警官1と兼ね役2)ヤマモト・ヨウジ 女児の父親。ガラの悪い暴力男。  :  男性警官2:30代。それなりに経験豊富。チームのまとめ役。(兼ね役…アーノルド) アーノルド:(男性警官2と兼ね役)息子と共にキャラバンから独立する若い父親。  :  女性警官:30代。このチームに配属される前はナリタ・ステイション・ポート内を担当していた。(兼ね役…アナウンス) 女性警官:(ポート内アナウンス)(女性警官と兼ね役)ステイション・ポート内のアナウンス。  :  0:~~ 法外宙域ローヴァーゲイル   :      ステイション・ポートの幽霊 ~~  :   :   :  ウード:(アバンN)幽霊を信じるかって?そりゃあ信じるさ。長年宙(そら)の上でやってりゃあ、よくわからねえいろんなこともあるもんだ。立証できっこねえ事をわからんまま否定したってはじまらねえ。 ウード:だが、誰にでも見えるって言うのはよ、違うと俺ぁあ思うね。そこにいるやつらが一人残らず見る。それはもうそいつはそこにいるってこった。  :   :  0:室内。凄惨な殺人現場。狭いリビングに両親とおぼしき男女が血を流して倒れている。  :  男性警官1:ひどいな。白昼のリビングで両親を殺害、 男性警官1:生き残ったのはあの女の子一人ですか。 男性警官2:ああ、強盗か怨恨か。どちらにしても子供だけでも無事でよかった。 男性警官2:かわいそうに…おもちゃの銃を抱きしめているんだって?勇気のある子だ。 男性警官2:両親守りたかったんだろうなあ。 女児:(おもちゃの銃を抱えて震えている)あ… あ… 女性警官:もう大丈夫よ、こっちに来て。 女児:ひっ! 女性警官:怖かったわね、お外に出ましょう… 女児:きゃっ!痛い! 女性警官:! ごめんなさい、けがをしているの?どこかしら…立てる? 女児:いたっ! …痛い! こわい… こないで… こないで 女性警官:大丈夫、だいじょうぶよ。何もしないわ。ここは危ないし、けがの手当もしなくちゃね… 女児:いやっ!やだ… いたいよぅ 男性警官2:おい、何やってる 女性警官:すみません。けがをしている可能性があります、触ろうとすると痛がるんです 男性警官2:そうか。おい、救急だ!子供がけがをしているぞ!お嬢ちゃん、名前。お名前教えてくれるかい? 女児:なま…え…? 男性警官2:そう、名前。言えるかい? 女児:・・・・・・  :   :(間)  :   :  アーノルド:法外宙域(ほうがいちゅういき)ローヴァーゲイル  少年:ステイション・ポートの幽霊  :   :  0:地球・日本。宇宙港(ステイション・ポート)  :  女性警官:(ポート内アナウンス)お疲れ様でした。ようこそ地球へ。ここはニッポン・ナリタ・ステイション・ポート、貨物搬入ゲートです…  :  ウード:じゃあ、しっかりな。アーノルド アーノルド:ああ、すっかり世話になって。今までありがとう、ウード ウード:お前もとうとう独立かあ。感慨深いもんだ。(アーノルドの肩をたたく)しっかれやれよ、がはははは! アーノルド:ああ、もちろんさ。ローヴァーゲイル・キャラバン・ファミリーの名に恥じぬ立派な ウード:(遮るように)違うだろうアーノルド。お前は父親なんだ。この子にしっかり見せてやれよ。男の背中ってやつを。(少年の頭をなでる)なあ 少年:ふふっ。ねえ!ウードおじさん、父さんの新しい船どこ?早く見たいよ! ウード:がははははは!ああ、そうだな。確か26番ドックと言ってたな。あっちだ アーノルド:こら。ちゃんと挨拶しないか。ウードおじさんやキャラバンのみんなとは、ここでお別れなんだぞ 少年:えっ?父さんの船、キャラバンのみんなと一緒じゃないの?またみんなの所に行くんだよね?ウードおじさん ウード:おい、ちゃんと話してないのか? アーノルド:まいったな… いいか?父さんはウードおじさんの船団から独立して、新しいローヴァーゲイル・ファミリーの一員になるんだ。だから、みんなとはしばらく会えなくなる 少年:ええっ、そんな…!じゃ、じゃあ、ロジー大兄ちゃんも? アーノルド:(頷く) 少年:ケン兄ちゃんも?…ナユも? … …そんな ウード:だいじょうぶだ。心配すんな。通信でいつでも会えるさ。 少年:…ウン… ウード:ほら、お前も立派な宙(そら)の男になるんだろう?そしたら、そんな顔しちゃダメだ。病気の母さんだって遠くからちゃんと見てるぞ? 少年:! う、うん!わかった! ウード:はっは、いい顔だ!いいか、お前は宙(そら)の男だ。いつでも忘れちゃなんねえぞ? 少年:は、はいっ! えと、あの、ありがとう、ウードおじさん…あっ、昨日のこれ!大事に ウード:おっと、(小声で)それはシー、だ アーノルド:ん? ウード:いいやなんでもないなんでもない。まあ、引き渡しやら荷積みの点検が終わるまではここにいるが、お別れだ。二人とも、達者でな。  :   :  0:再び殺人現場  :  男性警官1:遺体の身元がわかりました。ヤマモト・ヨウジ、ヤマモト・ユウ。この家の住人に間違いありません。ですが… 男性警官2:どうした 男性警官1:夫婦の戸籍に子供の届け出は出ていません。 男性警官2:なんだって? 女性警官:待ってください?ヤマモト・ヨウジ、ヤマモト・ユウ… …どこかで… (端末を操作する電子音)あっ、ありました。やっぱり。この夫婦、マエありです。 女性警官:いずれもナリタ・ステイション・ポートで。貨物埠頭での積み荷の窃盗、ドック不法利用、乱闘騒ぎなど数件… 子供に関するトラブルもあります 男性警官2:ふぅむ…  … (何かに気づいたように)っおい、転入者か?それとも地付(じづ)きか? 男性警官1:転入、ですね 女性警官:(落胆のため息)…やはり海賊がらみ…かもしれませんね 男性警官2:(頷く) 男性警官1:しかし、転入は12年前になっていますよ? 女性警官:彼らの典型的な手口なのよ。ありふれすぎている名前、定住者の顔は。もしそうなら、おそらくだけどずっとは住んでいないわ。偽装夫婦かもしれないわね 男性警官1:じゃあ…あの子は… 男性警官2:残念だが、両親を守りたかった、って感じではなさそうだな 女性警官:あっ、救急車来ました。 (女児に)…立てるかしら。お医者さんに行きましょうね 女児:…パパと…ママは? 女性警官:パパとママは…(言葉を濁す) 女児:(怯えて)おいしゃさん、いかない。おこられちゃうから、いかない 女性警官:大丈夫よ。パパとママは、怒らないわ 女児:うそ。だって、いっていいよって、きいてない 女性警官:… いま、パパとママに訊いてきてあげるから 女児:まって… (しばらく考えて)ううん。 …いく。おいしゃさん、いく 女性警官:いい子ね。じゃあ、あっちに救急車きてるから、乗ろうね。お名前言えるかな。おとしはいくつ? 女児:・・・・・・(小さく)8さい  :   :  0:ナリタ・ステイション・ポート 26番ドック  :  アーノルド:オーラーイ!オーラーイ! 少年:(走ってくる)おとうさーん!おひるごはん、もらってきたよー アーノルド:危ない!吊り荷の下に入るな! 少年:! ごめんなさい! アーノルド:やれやれ。気をつけるんだぞ。もしあれが落ちてきたら、ペシャンコだ。(クレーン技師に)ああ!そこで!下ろしてくれ。ゆっくりな! 少年:はい。オニギリ、っていうんだって。ゆで卵もあるよ アーノルド:ゆで卵!そいつはごちそうだ 0:(間) 船のステップに腰掛けてオニギリを食べる父子。 少年:オバケがいるんだって! アーノルド:オバケ? 少年:オベントやさんのおねえちゃんが言ってた。 少年:女の子のオバケがね、出るんだって。誰もいない時にどこからかふらふらって出てきて、追いかけるとすぐにどこにもいなくなっちゃうんだって。ポートの警備員がいくら探しても、見つからないんだってさ アーノルド:なんか悪さするのか? 少年:んー…、ただ出てくるだけみたい。すごくぼろぼろで、やせてて、小さい女の子だって。なんだか、かわいそうだね。ぼく、会ってみたいな アーノルド:そうか。ふふっ、もしかしたら、吊り荷の下に入ってペシャンコにされた女の子かもしれないな? 少年:わっ、むぅ、もう気をつけるよぅ アーノルド:はっはっは。で?もしその女の子が見つかったら、お前はどうするんだ? 少年:うーん、…追いかけて、捕まえる! アーノルド:そうか。だがオバケでも女の子だ。優しくしてやるんだぞ 少年:…怖かったらどうしよう アーノルド:そしたら、逃げろ。追いかけてきたら、父さんの所につれておいで 少年:(嬉しそうに息を吸い込む)うん! (残りのオニギリを急いで食べる)卵、おいしかった!オニギリも! アーノルド:(微笑んで頷く) 少年:ごちさうさま!じゃあ、ぼく、早速探してくる!行ってきまあす! アーノルド:ああ、ほかのドックの邪魔をするんじゃないぞ 少年:はあい  :   :  0:警察署  :  女性警官:あの子、二人のことをパパとママ、と言っていましたが、本当でしょうか。気になります 男性警官2:物心つく前に連れ去られてきたとして、そう呼ぶようにしつけられいてた。か。親子鑑定させてみるか 女性警官:(言葉を濁す)それは… …まずは幼女連れ去りと、行方不明のリストから当たってみますね。 男性警官2:そうだな。そうしてくれ 男性警官1:(入ってくる)女の子の診断書です。あと、検死報告書も 男性警官2:どれ 男性警官1:まずは検死の方から。二人とも死因は頸動脈からの失血死。刃物ではなくエネルギー弾の貫通によるものだそうです 男性警官2:エネルギー弾?馬鹿な!そんなものが当たったら首ごと吹き飛ぶぞ 男性警官1:ですよね。それは監察医もそう言ってました。でも、エネルギー弾特有の血液凝固がみられ他の凶器では考えられないと。うーん、でも最も低い出力でよほどの接射でもこうなるかどうか… 女性警官:拘束もなしにそんな無抵抗で接射できるわけないじゃない。それだと犯人も相当返り血を浴びたはずよね。犯行は白昼堂々…でも、そんな目撃情報もない 男性警官:凶器については鑑識からの報告待ちだな。で、女の子のほうは 男性警官1:はい。特に怪我はしていないということなんですが、その…怪我だらけなんです 男性警官2:なんだ、どういうことだ 男性警官1:犯行当日に負った怪我はないんですけど 男性警官1:…日常的に、暴力にさらされていたようです。治癒した傷、やけど、打撲痕、肋骨や腕など多数の骨折痕、それに栄養不足による発育の遅れなど… 女性警官:まさか虐待?! ちょっと見せて …ひどい 男性警官2:7歳と言っていたが、とてもそうは見えなかったしな 男性警官1:でも、一番気になるのはこれなんです。見てください。この写真…背中に 女性警官:(息をのむ) 男性警官2:なんだこれは。…ローヴァーゲイルは…死ね…?一体なにで書いてあるんだ。火をつけたタバコの押しつけ…にしては、細かすぎるな 男性警官1:スタンガン…のようなもの、みたいです。医師の所見によると 女性警官:なんてことを… ああ! もしかしてショートクロウ?あれでリンチされた被害者のやけど跡。この写真とよく似ています 男性警官2:そんな…窃盗犯が指先にはめて電子ロックを壊すのによく使っているあれ、か 男性警官2:ああ、俺も見たことがある。言われてみれば、似ているな 女性警官:ローヴァーゲイルは死ね…これを書き上げるまで、一体何回… …むごい 男性警官1:ああ、それで触ろうとするだけであんなに痛がってたんでしょうか 女性警官:うん、指先が怖かった…そうかもしれない 男性警官2:それはともかくだ。ローヴァーゲイル…人物なのか…それとも隠語か…?なんにせよ子供の背に刻みつけるほどの恨みがあるとも言えるな 男性警官1:調べてみます 女性警官:女の子とは話ができそう?だったら、私は病院へ行ってきます  :   :  0:ステイション・ポート  :   :  女性警官:(ポート内アナウンス)これより先は、貨物ゲートです。タグをお持ちでない、一般のお客様の立ち入りは、ご遠慮くださいますよう、お願い申し上げます。万一、立ち入りを… 母親:ほら、行きな。いつものようにやるんだ。いいね 女児:…(怯えながら小さく頷く) 父親:合図したら戻れ。逃げるんじゃねえぞ  :  0:(間)  :  少年:また出たんだって!オバケ! アーノルド:(作業する音)ほぉー 少年:でも見つけられなかった アーノルド:そんな簡単にはいかないだろう。さて、これでよし、っと。んーっ(伸び)ああ、今日はこれで終わるか!よーし、今夜は外に出て、何か食いにいくか 少年:わあ!本当?ヤッター! 0:(出口に向かって歩く) ウード:だーかーら!積み荷が足りねえって言ってるだろ。何回言わせるんだ 少年:あれっ、ウードおじさんだ アーノルド:本当だ。あれは、何かあったな 少年:おーい!ウードおじさーん! ウード:んっ?アーノルドか アーノルド:何かあったのか? ウード:ああ、引き渡しの荷がな?足りてねえんだ アーノルド:そんな馬鹿な ウード:だろぉ? おい、こいつぁ俺と一緒に荷受け作業をしたんだ。その時には間違いなくあってたぜ。なあ、アーノルド アーノルド:ああ、一緒にチェックして、サインにも立ち会った。重量も1グラムの誤差なく確かにあっていた ウード:そうだ。数量と1G(ワンジー)基準秤量(ひょうりょう)が合わなきゃ、サインなんかしねえ。だが引き渡しの荷は…見ろ!1.26キロ足りねえ アーノルド:引き抜きか ウード:ここでやられた以外考えられんだろ!そう、その紙!さっさと出せ  :  0:(間)ウードと共に街に食事に来ている。  :  ウード:(テーブルをたたく)まったく、あいつら。被害届を渋りやがって。積み荷の価値がどれだけだ思ってるんだ。こちとら命がけで遠い星から運んでるっていうのによ アーノルド:ああ。上じゃ宙運私警(ちゅううんしけい)が頑張ってくれてるおかげで航行はずいぶん心配なくなったが…ポートのセキュリティがこれじゃあやりきれないな ウード:なんにもわからねえで、なーにが『コンテナ単位じゃなくてよかったですね~』だ!ここじゃ海賊でも飼っているのかって言ってやったぜ。それになんでも、女の子の幽霊が出るって噂じゃねえか 少年:! ウードおじさん、見たの? ウード:いやいや。ただの噂だ。見ちゃあいねえよ 少年:ウードおじさんの荷物、オバケのしわざかも。ぼく、絶対にみつけて、つかまえてやるんだからな ウード:(吹き出す)ふっ、がはははは。そりゃあ頼もしいな。頼んだぜ、相棒(少年の背を2回たたく) アーノルド:明日の朝、俺の請(う)け荷ももう一度秤量チェックしてみるよ ウード:ああ、その方がいい  :   :  0:病院  :  女性警官:病室は…ここね。ええと、『女児7歳』… 女性警官:(室内から女児の笑う声が聞こえてくる) 女児:うふふ。うふふ。くすくす 女性警官:笑っている? (ノックして)こんにちは 女児:! こ、こんにちは 女性警官:入っていい? 女児:…ウン 女性警官:具合はどう?痛いのはよくなった? 女児:えっ?いたい、の? 女性警官:よかった。元気そうね 女児:だあれ? 女性警官:あら、ごめんなさい。おねえさんは、警…おまわりさんよ。あなたが元気かなあって、見に来たの 女児:? どうして? 女性警官:ど、どうして…って… 女児:げんきだよ?おまわりさんのおねえさん、どうしたの? 女性警官:あっ、いいのよ。何でもないわ。(小声で)…覚えていないの…? 女性警官:そ、そうね。ねえ、その銃のおもちゃ、ずいぶんお気に入りなのね。ずっと抱っこして 女児:じゅ、う?この子のこと? 女児:(嬉しそうに笑う)うふふっ、この子はね、トラウィス、っていうの。うふふっ。とらちゃんはね、おともだちなの。わたしのかわりに、おこってくれるの。うふふっ、うふふっ、ずーっと一緒だよ  女性警官:… えっ? 女性警官:ねえ、トラウィスちゃん?のこと、おまわりさんのお姉さんにもちょっとだけ、見せてくれるかな 女児:いいよ! 女性警官:わあ、すてきね。 女性警官:・・・・・(小声で)弾薬やエネルギーパックをセットできそうもない…ちょっとレトロなデザインだけど、ただのバネ式のおもちゃの銃ね… 女性警官:…ありがとう、トラウィスちゃん、大事にしてね  :   :  0:女児の家  : 父親:おっ、豪勢な晩飯だな 母親:ああ、今日はいいもんが手に入ったからね 父親:(食べ始める)なんだ。まさか抜き取りか?アシがつくとやっかいだ(行儀悪く飲食する) 母親:いいや。サンプルだよ。奴らにデータを送ったらすぐさま食い付いた。即金さ(食べる) 父親:ちっ、こっちはすっからかんだ。ろくな収穫もねえ。ついてるな、お前。で、何だったんだ。ブツは 母親:そいつはお互い知りっこなしだ。わかってるだろ。この商売、信用第一だってね 父親:(飲食しながら)ああ、ああ。訊いてみただけだって 母親:(飲食しながら)ふん、どうだかね。だがあたしの金はあんたの金。あんたの金はあたしの金だ。どっちがどうつこうが、いいだろ 父親:(薄く笑う)へっ、愛してるぜ、相棒 母親:(薄く笑う)ふん 女児:…あ… 父親:(叩く) 女児:きゃっ!ごめんなさい! 父親:おいこらくそガキ、てめえなに手ぇ出してやがる 母親:あたしたちが食べてんのに、行儀の悪いガキだね!(叩く)黙ってそこに座ってろ!(叩く) 女児:う、…う… …ごめんなさい…  :   :  0:ステイション・ポート  :  少年:(外で体操している)おいっちにっ、さんし!おいっちにっ、さんし! アーノルド:(眠っていて、目覚める)ふああ…(伸び)ん?なんだ、あいつもう起きてるのか… 少年:おいっちにっ、さんし!おいっちにっ、さんし!(以下ずっと体操を続けながら) アーノルド:(遠くから)おはよう、やけに張り切ってるな! 少年:あ、父さん!(おいっちにっ、さんし!)朝ごはん、もうもらってきてあるよ!(おいっちにっ、さんし!)今日はぜったい!(おいっちにっ、さんし!)オバケ!見つけるんだからな!(おいっちにっ、さんし!)ふぅ~(体操おわり) アーノルド:はっはっは。それは頼もしいな。おっ、今朝はイングリッシュサンドか。うまそうだ 少年:コーヒーいれる? アーノルド:ああ、シナモンたっぷりな 少年:へへっ、母さんの香りだね アーノルド:ああ、母さんのコーヒーだ  :   :(間)  :  父親:おら、いけ。わかってるな 女児:…(小さく頷く) 母親:今日はあたしが右に行くよ 父親:ああ、いいぜ 女性警官:(ポート内アナウンス)これより先は、貨物ゲートです。タグをお持ちでない、一般のお客様の立ち入りは、ご遠慮くださいますよう、お願い申し上げます。万一、立ち入りを…  :   :(間)  :  少年:うーん、オベントやさんのおねえちゃんの話だといつもだいたいこっちのほうって…いったよな(探す) 少年:はあ、誰もいないなぁ…あ、そっか!誰かいたら、オバケでないのか…ん?じゃあ…んーっと…どっかいいところないかな(物陰に目をつける) 少年:あ、よし、あそこに隠れて様子見だ!… って、あ!(通路の向こうを女児が横切る)いたっ! 少年:はあ、はあ、はあ、はあ、たしかこっちに…(T字の左右を見渡す)あれっ、どこ行ったんだろ… 女児:(物を落とすような音) 少年:! こっちだ! (走る)ここ…らへんだったけど…まさかこの隙間のむこう…?うわっ、狭いなあ、通れるかな… えーーーい、しょ…っと!ふぅ… あっ…(女児と目が合う) 女児:(怯えて)あ…っ 女性警官:(警備員)確かにこっちに… まったく、どこ行ったのかしら 少年:あっ け! 女児:(泣きそうに少年の袖を引く)あ…っ 少年:っ うん(女児の顔を見て警備員を呼ぶのをやめる) 女児:… ううっ、ひっく…ひっく 少年:(小声で)ああああ、な、泣くなよぅ。どうしたんだ?迷子? 女児:(首を振る) 少年:え、じゃあどうしたの 女児:… … おしごと… 少年:おし、ごと? 女児:パパとママの…おしごと…まってる 少年:ははっ、なーんだ。じゃあぼくとおんなじだ。ねえ、どうして隠れてるの?一人でつまんなかったら、ぼくんちの船んとこに行こうよ 女児:(首を振る)…みつかっちゃ…だめ… 少年:? そうなの 女児:…ウン… 少年:そうなんだ…うん、わかった。誰にも言わないよ。それにしても、やせてるね 女児:(おなかが鳴る) 少年:おなかすいてるの?あ、そうだ。えーっと(ポケットを探る)あった!チョコ、食べる? 女児:ちょ、こ? (不思議そうに見つめる) 少年:たべたことないの? 女児:(頷く) 少年:はい、あまくて、おいしいよ 女児:(不思議そうに見つめて、包みのまま口に入れようとする) 少年:あっ、待って。紙とらなきゃ。(包みをひらく)ほら 女児:(口に入れる)… … ! あまい 少年:へへっ 女児:(嬉しそうにする) 少年:おいしい? 女児:ウン! 少年:へへっ 女児:! う、ううっ…!(突然苦しみ出す) 少年:えっ、どうしたの 女児:(苦しそうに)パパとママ…よんでる… 少年:えっ? 女児:ううっ…パパとママ…よんでる…はやく…行かなきゃ 少年:えっ、だいじょうぶ? あっ、そっちは奥だよ… 女児:でぐち…こっち… 少年:待って(少女の手を掴む) 女児:…ちょこ…あり、がと… 少年:あ、明日も!来るから! 女児:(嬉しそうに笑う)  :   :  0:警察署  : 女性警官:思い出しました。3年前くらいかしら。私が貨物ポートの警備を担当していたとき、幽霊騒ぎが起きたことがあったんです 男性警官1:幽霊騒ぎ?なんですかそれ 女性警官:みすぼらしい女の子の幽霊が出る、っていう。だいたい貨物ゲート付近でしたね。保護しようと追いかけるんですが、いつも同じところで消えてしまって。 女性警官:ゲート付近の担当は2名配置されているんですが、二人でいくら探しても見つからないんですよね 男性警官2:ほう、それで、それが何の関係があるんだ? 女性警官:被害者身元確認の際、殺されたヤマモト夫妻にはナリタ・ステイション・ポート内で前科があると言いましたよね。その犯行日、気になって調べ直したら、どれも幽霊騒ぎのあった日だったんです。 女性警官:到着までちゃんとしていた積み荷が夜に足りなくなったという被害届が何件か出て、あとで窃盗の容疑で逮捕されたんですけど…その被害に遭った宙運業者のひとつが… 男性警官2:ローヴァーゲイル…?だとしたら、そのみすぼらしい女の子の幽霊ってのが 女性警官:はい。おそらく…  :   :  0:ステイション・ポート  :  少年:(急いで食べる音)ごちそうさま! アーノルド:早いな。今日も探しに行くのか? 少年:ん、うん、いってきます!! アーノルド:待て待て。ゆで卵どうした。食べないのか? 少年:ん、あーーー、おなかすいたとき、あとで食べる アーノルド:そうか。カラ、散らかすんじゃないぞ 少年:うん、わかった!あっ、そうだ父さん。あと何日くらいでこの船飛べるの? アーノルド:そうだな。今日でだいたい作業は終わるが… 少年:えっ、明日で出発なの?! アーノルド:いいや。今新規の船舶申請、許可が降りるのを待ってる。明後日かな 少年:そっかあ。あさってかあ アーノルド:なんだ。嬉しくないのか?楽しみにしてたじゃないか 少年:! ううん! あっ、その… オバケ、みつけられるかなぁー、って アーノルド:ふふぅん? まあ、がんばれ。そうだ。ウードおじさんは今日出るって言ってたぞ。 少年:えっ、うそ!じゃ、ちょっといってくる!みんなにお手紙かいたんだった! アーノルド:ああ、いってこい。いってこい  :   :(間)  :  少年:じゃあ、ウードおじさん!みんなにわたしてね! ウード:ああ、たしかに!おじさんに任せろ 少年:さびしくなるけど、ぼく、がんばるよ。早く父さんと一緒に一人前の『そらのおとこ』になりたい! ウード:はっはっは。よしよし。『あれ』、大事にするんだぞ。お前の母さんからの大事な届け物だ。大人になっても、きっとお前の役に立つだろう。くれぐれも、父さんには内緒にしてくれよ?リリーシアとの約束だからな 少年:母さんとの約束…うんっ! あっ、ウードおじさん、(内緒話)どろぼうオバケのことなんだけど…あのね、オバケはドロボウじゃないみたいだよ! ウード:ほほう 少年:父さんにはないしょだよ! ウード:ほほう? よし。わかったわかった。約束する  :   :(間)  :  少年:(走ってくる)はあ、はあ、はあ、はあ(止まって呼吸を整える)ふぅ…(周囲を確認して)よし、誰もいないな。いるといいな。(隙間に体をねじ込ませる)んぐぐぐぐっ…っしょっ、と 女児:(嬉しそうに)! 少年:あっ、いた!よかったー、約束通り来たよ。ふふっ。今日は、いいもの持ってきたんだ。おなか、すいてるんだろ? 女児:ちょこ? 少年:んーん。もっといいもの!ぼくの大好物。へへっ、ゆでたまご!こうやってね、カラをむいて(コンコン!) 女性警官:あらっ、何の音? 少年:あっやば!もうちょっと頭引っ込めて!(リリの頭を押す) 女性警官:・・・・・・・・・・(隙間を気にして明かりを差し入れるが何も見つけられない) 女性警官:何もないようね… 少年:・・・・・・・・・っふーーーーー 女児:・・・・・・・(少年に押さえられた頭を気にしている) 少年:ごめんごめん。ほら、カラが割れた。ハンカチの上でね、ここからこうやってむいてね。うす皮があるからこうして…はい、むけた 女児:… … …はんぶんこ 少年:いいよ、ぼく、あとでまた食べられるもの。食べなよ 女児:はんぶんこ…(無理に割ろうとする) 少年:ああっ、たまご、こわれちゃうよ。待って。(髪の毛を一本引き抜く)いてっ へへっ。ゆでたまごは、こうやってね、細い糸で切るんだ!…糸がないからかみのけだけど。はい、きれいに切れた! 女児:はんぶんこ! 少年:へへっ、じゃあ、一緒に食べよ 女児:うんっ… (食べ始めるが、しばらくしてすすり泣き始める) … ぐすっ くすん 少年:…わっ えっ、どうしたの。泣いてるの? 女児:(食べながらすすり泣き続ける) 少年:またどこか痛いの?それとも卵、きらいだった? 女児:ううん…(すすり泣く)たまご、おいしい… いっしょ…おいしい… 少年:… そっかあ…  よし、よし 女児:…あったかい(すすり泣き続ける) 少年:そう? 女児:うん、おてて、あったかい…  :   :(間 楽しく談笑する二人)  :  女児:うふふっ くすくす 少年:それでね、ロジー大兄さんったらそこで後ろにひっくり返っちゃって… 女児:ふふふっ …! (突然苦しみ出す)ううっ! 少年:! また! どうしたの?具合悪いの? 女児:ううん?(首を振る)パパとママ…よんでる 少年:えっ 女児:パパとママ、呼んでる! 少年:まって!お父さんとお母さんが呼んでると、苦しくなるの? 女児:いたい…ううっ はやくいかなきゃ… 少年:あ…!(手を離す) 女児:あり、がと… … ねえ、あした…は? 少年:うん!また明日来るよ!絶対来るから 女児:たまご… いっしょ …うれしかった 少年:うん、ぼくも 女児:またね… またあした…ね  :   :(間)  :  アーノルド:喜べ!今日、航行許可が降りたぞ! 少年:(上の空)…うん アーノルド:明日になるかと思ってたが、早かった。明日はついに進水式だ! 少年:(上の空)…ふーん アーノルド:どうしたんだ?ぼーっとして 少年:! えっ、な、なに?父さん アーノルド:予定が早まって、明日、飛べるぞ! 少年:・・・・・・・ 少年:ええーーーーっ!  :   :(間 夜中)  :  アーノルド:うーーん…(ページを繰る音。分厚い操船リファレンスを読んでいる) 少年:(コトン、とコップを置く音) アーノルド:…ん、なんだ。眠れないのか? 少年:んん、お水飲みに来ただけ アーノルド:・・・・・・・(ページを繰る音) 少年:・・・・・・・・ アーノルド:飲まないのか 少年:…飲む アーノルド:・・・・・・・(ページを繰る音) 少年:・・・・・・・っ、あのさ アーノルド:(ほぼ同時に)離陸は夕方にしておいた 少年:! アーノルド:どうせドック使用料は一日分とられるしな。せっかくだ。明日は街に降りて好きな物でも買いに行… 少年:(かぶせて)ありがとうお父さん!おやすみなさい! アーノルド:ふぅ…  ふふっ  :   :(間)  :  少年:おはよう父さん、行ってきまーす! アーノルド:おい!朝飯は! 少年:もう食べた!父さんのそこにあるからー! アーノルド:昼前には戻れよー! …まったく お、今日もうまそうだな  :   :(間)  :  女児:ふわぁ…あかくて、きらきら…きれいな…いし! 少年:トラウィス、いっていうんだ。おまもりの石だよ 女児:とら、うぃす? 少年:そう、トラウィス。本当は大事にするって…ウードおじさんと約束してたんだけどさ。きみが持ってて! 女児:これ、ママ…よろこぶ、かな 少年:ダメだよ、これは、きみがしあわせになりますようにって、ぼくがねがいをこめたんだ。だから、ママじゃなくてきみが持ってて 女児:ママ…よろこんでくれたら … しあわせ 少年:んーっ、そうかもしれないけどさあ~ あっ、そういえば、まだ名前、知らなかったね。今日でお別れだけど、そしたらきみのこと思い出すとき、困っちゃうや  :   :(間)  :  アーノルド:んん、遅いなー、あいつ。ちょっと探してくるか 父親:おい、ガキ!どきやがれ! 少年:いやだっ! 父親:このっ、くそっ、しぶといな! 少年:ぐうっ、(痛がる)いたっ! アーノルド:! おいっ、俺の息子に何をするんだっ! 少年:父さんこいつら!悪党だよ! はやくっ!はやく誰か! 父親:ちっ! …なにが悪党だ。悪ガキめ。おいてめえ、こいつの父親か アーノルド:ああ、そうだが。俺の息子はあんたの足蹴にされるほどの何をやったって言うんだ? 父親:ああ、見ろ!こいつ、うちの娘をボコボコにしやがったん… アーノルド:娘?どこに 父親:なっ、いねえ!!くそ!ガキ!どこへやった! 少年:知らないよ!それにあの子をボコボコにしてたのはそっちじゃないか 母親:あんた、もういいよ。行こう 父親:てめえ、名前は アーノルド:アーノルド・ローヴァーゲイルだ 父親:覚えたぜ、ちくしょうめ  っ、くそ、離しやがれ アーノルド:さあ、行こう。あんたは俺と一緒にこっちだ。そっちの大きな鞄を引いてるのは奥さんかい? 父親:いいからお前、先帰ってろ 女性警官:駄目ですよ 母親:…くっ  :   :(間)  :  女性警官:鞄の中に子供を入れるなんて。それに一緒に入っていたこれは、あなたのものではありませんよね。被害届が出ているものと同じ型番ですよ 母親:知らないわよ。誰がいれたのかしら 父親:俺らは善良な市民だ、ちょっと搬入ゲートに迷い込んだだけでドロボウ呼ばわりか! 女性警官:ドロボウ呼ばわり以前に、善良な市民は子供入りのスーツケースを引きませんし他人の子供も蹴りつけませんよ 少年:あの子、大丈夫かな アーノルド:…ああ 少年:あのさ アーノルド:すみません。その子、このままうちで引き取らせてもらえませんか 女児:! 少年:父さん! 父親:ああ?! 母親:はあ?! 女性警官:すみません、規則上、それはできかねます アーノルド:…そうでしょうが、このままではこの子があまりにもかわいそうだ。時間がかかっても、養女にする手続きはできるのでしょう? 女性警官:現状、それも難しいかもしれません。お気持ちはわかりますが 少年:そんな! 女性警官:ですが、この子の件は行政の方にしっかり引き継いでいきますので アーノルド:…そうですか…でも、きっと。迎えに来るよ、必ずね 少年:うん!まってて! 少女:…うん、まって…る… 少年:(小声で)今度こそ、これ、大事にしてね。やくそく、だよ 少女:うん … やくそ…く…だいじに…する…(すすり泣く)  :   :  0:警察署  :  男性警官1:ローヴァーゲイル、確かに以前あった宙運(ちゅううん)業者の名前でした 男性警官2:ん?以前。今はどうしてる 男性警官1:ローヴァーゲイル・キャラバン。三つの船団を擁するキャラバンで規模はそこまで大きくなかったようですが、太陽系からフロンティア・エリアまで広域で幅広い商品を受けに荷していたようです。 男性警官1:が…3年前、キャラバン・ファミリーの各船団が相次いで襲撃され、…生存者も不明のまま、らしいです 男性警官2:…ふぅむ… (深いため息)…ローヴァーゲイルは死ね、か… まるで呪いだな 男性警官1:…あの子の背中に刻まれたとおりになった、ということですか 男性警官2:そうだ。ということはだ、ふぅむ、そうだな 男性警官1:どうしたんですか。難しい顔をして。まさか、本当に呪いだなんて言いませんよね 男性警官2:ああ!本当の呪いだ! いわゆる『呪い』よりももっと実効的な『呪い』だよ 男性警官1:えっ? 男性警官2:最初の現場でのことを覚えてるか?二人の身元を確認したときだ。ありふれすぎた名前、ポートでの前科、戸籍のない子供 男性警官1:…海賊がらみかって言ってましたよね 男性警官2:はあ、そう、海賊! おそらく二人はポートで積み荷の下調べをするいわゆる『ホシ屋』だったということさ。女の子をおとりにしてゲート職員の目を盗んじゃ侵入してたんだろうよ。 男性警官1:そしてヤマモトヨウジ、ヤマモトユウの二人は3年前のその時、ローヴァーゲイル・キャラバンと何らかのもめ事を起こし恨みを買った 男性警官1:同じ3年前! 男性警官2:そうだ。まあ、海賊がそこまで目をつけた原因がそれだけっていうのも動機としちゃあ薄い気がするが、とにかくその一件と何らかの関連があると推測できる。そうすると、だ… 男性警察2:つまりこれは俺たち地上の警察の案件じゃない。…あいつらのヤマ、ってことだ(頭を抱える)ああ、そのうち嗅ぎつけて迎えが来るだろうよ 女性警官:(ノック)コン、コン 女性警官:失礼します。ただいま戻りました。はあ(落胆のため息)早速ですが、来てますよ。下に。予想通りですね 男性警官2:もうか!くそっ…(一息ついて、手を叩き気合いを入れる)さあて、これから奴らに全部持ってかれるぞ。準備しろ!迎え撃たなければな! 男性警官1:えっ? えっ? 女性警官:海賊事件はあいつらのヤマよ。宙運連合私警団…世に言う、≪海賊屋≫アブサードのね 男性警官1:宙運連合私警団…アブサード、って、正式名称なんですか?デタラメとか、法外、って意味ですよね 男性警官2:んなわけあるか。隠語だよ。なんにせよ、あいつらはいろんな意味で『アブサード』なやつらだ  :(ノックの音) 男性警官2:そぅら、おいでなすった!  :   :  0:後日。病院  :  女性警官:こんにちは 女児:あっ、おねえさん! 女性警官:退院できるんだってね。おめでとう。じゃーん、これ、プレゼントよ 女児:わあ、かわいい!トラのぬいぐるみ!おまわりさんのおねえさん、ありがとう 女性警官:実はね、これ、こうやっておなかがあいて、ほら、中にものが入るようになってるのよ。あなたのお友達、なんていうんだっけ 女児:? トラウィスの、トラちゃん? 女性警官:そう!じゃあこのぬいぐるみは? 女児:あっ、トラ!トラちゃんとトラちゃん! 女性警官:トラちゃんのおなかの中に、あなたのトラちゃん、いれてごらん? 女児:わあ~。えへへへへっ トラちゃん、ふかふかになった!ぎゅーーーっ 女性警官:トラちゃん、そのまま抱っこしてるとみんながびっくりするから、その中にいたほうがずっとかわいいわ。気に入ってくれたかしら 女児:うん!トラちゃんもふわふわできもちいいって!ありがとう! 女性警官:退院したら、お別れね。あなたのおなまえ、知りたいわ。なんて言うのか教えてほしいな 女児:なまえ? … なまえ … …なまえ …? 少年:『ぼく、ラドル。きみ、名前、なんていうの?』 女児:『…?』 少年:『なまえ、わかる? ええと、父さんと母さんは、なんて呼ぶの?』 女児:『と、さん?…かあ…?』 少年:『まいったなあ。んんと…パパとママ』 女児:『…くそ、がき…? … てめえ…?』 少年:『えっ、えっと…そういうんじゃなくて… …いつもそうやってよばれるの?』 女児:『… … うん…』 少年:『そっかあ…』 女児:『… ごめん…なさ…』 少年:『じゃあ、リリ! 今日からきみのこと、リリって呼ぶね! へへっ、まあ、母さんの名前だけど』 女児:… 女性警官:ん?なあに? 少年:『そう、今からリリの名前は、リリだよ!』 女児:…!(大きく息を吸い、はっきりと)わたし、りりです!わたしのなまえは、山本りり、です!  :   :(間)  :  女性警官:あのとき、わたしには何かできることが…なかったのかしら  :   :  0:ステイション・ポート  :  女性警官:(ポート内アナウンス)離陸槽(そう)の準備がととのいました。26番ゲート機はすみやかに着水してください アーノルド:いよいよだな 少年:うんっ アーノルド:これからは父さんとお前の二人きりだ。頑張ろうな、ラドル 少年:うんっ アーノルド:26番機、着水完了。メインエンジン始動 女性警官:(ポート内アナウンス)離陸槽、水圧上昇します。シートにしっかり体を固定し、最終安全確認をしてください アーノルド:26番ゲート機了解。搭乗員ロック確認完了。機内気密確認完了。コンテナバランスグリーン。動力正常。各ユニット、システム・オールグリーン。これよりAI制御に切り替えます 女性警官:(ポート内アナウンス)射出までカウントダウン開始。3、2、1… アーノルド:かわいい子だったな 少年:…うん アーノルド:必ず、迎えにいこう。必ず。必ずだ 少年:ウン、やくそくだよ。待っててね…リリ 少年:おまもり石トラウィス…リリを守って…そしてまた会えるようにみちびいて…お願い、お願いします  :   :   ~ 幕 ~