台本概要
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タイトル | 茜色のトンボ玉 |
---|---|
作者名 | 星海結月 (@sea_moon_hy) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
__夏の魔法にかけられた二人は、神社の縁日で互いに惹かれあってゆく。 お題:「縁日マジック」より 【利用規約】 ☆本作は、男性キャストが女性役を、女性キャストが男性役を演じても構いません。その場合は、必ずキャラクターの設定に準じた性別での上演をお願いします。なお、キャラクターの性別を変更して上演したい場合は、事前に作者までご相談ください。 ★本作品は、作品の世界観を損ねない程度の口調の変更、一人称などの変更、アドリブを許諾しています。台本の一部を修正した場合はその旨を概要欄へ記載、または口頭でのアナウンスをお願いします。台本を大きく改変すること、軽微な変更後の自作発言は固く禁じます。ご不明な場合は、TwitterのDMまでご相談をお寄せください。 ☆非商用利用時の際は使用許可等の連絡は不要ですが、いかなる媒体においても上演・配信等の際は、概要欄等に必ずシナリオの「作者名」と「作品名」、「URL」の明記をお願いします。明記が難しい場合は口頭での紹介も可です。(口頭のみの場合はURLは不要ですが、引用元のサイト様の紹介をお願いします。) 記載例:星海結月 「作品名」 作品URL ★商用利用時は星海結月TwitterのDMまで必ずご連絡ください。 ☆その他については当サイト・声劇台本置き場の利用規約に準じます。 114 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
優介 | 男 | 91 | たなかゆうすけ 不器用で冴えない男子 |
彩夏 | 女 | 90 | たけうちあやか 明るくて活発な女子 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
優介:たなかゆうすけ 不器用で冴えない男子
0:
彩夏:たけうちあやか 明るくて活発な女子
:
:
:
:
:
彩夏:「ねぇ、田中くん。今度の縁日、一緒に行かない?」
優介:「え……?」
優介:それは突然の誘いだった
彩夏:「ほら、浴衣着てさ。ちょっと憧れなんだよねぇ~。ね、どう?」
優介:竹内さんとは、同級生で座席順が近いというただそれだけの関係
彩夏:「え、興味ない?」
優介:……けど僕にとっては、憧れの存在
彩夏:「ねぇ、行くのー? 行かないのー?」
優介:しかし、一度もちゃんと喋ったことはない……
彩夏:「おい、たなかゆうすけ!」
優介:「はっ……行きます、いえ、行かせてください……!」
彩夏:「ふふっ……じゃあ、日曜日の六時、神社の前集合ね。遅れるなよっ!」
優介:「う、うん……!」
彩夏:「楽しみだなぁー!浴衣、何色着ようかなぁ~……」
優介:竹内さんの笑顔は明るくて、とても素敵で……かわいいなぁ
彩夏:「あ、まって私も帰るー! ……(小声で優介に向かって)じゃあね」
優介:「あ、うん……じゃあ、ね……」
優介:別れ際、手を振ったついでに右頬をつねったら、しっかりと痛かった
0:
優介:……浴衣ってどう着ればいいんだろ、というかどこで売ってるんだろう。……あ、貸し出しっていうのもあるのか
優介:浴衣なんて着たことが無い。こんな僕でも似合うだろうか……
優介:あ、あと縁日。……どうやって回ろうかな。射的とか金魚すくいとか僕、あまり得意じゃないんだよなぁ……
優介:竹内さんは何したいんだろうな……
優介:そもそも、竹内さんと何をしゃべればいいんだろう
優介:好きな食べ物? 趣味? 最近見た映画の話? ……好きな教科とか、部活動の話とか
優介:あ、僕帰宅部だ……。あとは、あとは……
優介:そういえば竹内さんのこと、何も知らない……かも
0:
優介:そして迎えた当日。僕は今、待ち合わせに遅刻している
0:
優介:「はぁっ……はぁっ……!! 何で今日に限って……!!」
優介:浴衣に草履の姿で、できる限りの全速力で走った。なけなしの体力は既に限界を超え、視界が若干ぼやけている
彩夏:「あ、おーい! こっちこっち!」
優介:「はぁっ……はぁっ……本当に、申し訳ございませんでした……!」
彩夏:「も~、女の子待たせるなんてどういうつもりー? はいそれでは、弁明をどうぞ」
優介:緊張のあまり一睡もできず、家を出る直前になってうたた寝をしてしまった。……なんて言えるはずない
優介:「ごめんなさい……本当に、ごめん……」
彩夏:「あはは、冗談だよ、冗談(笑) あーもう、髪ぼっさぼさだし、浴衣着崩れちゃってるし……あれ、眼鏡は?」
優介:「え……」
彩夏:「うそ、もしかしてコンタクト?」
優介:「いや……、忘れてきたみたい……」
彩夏:「あぁ~田中くんって意外とおっちょこちょいなんだ~」
優介:「……ご、ごめんなさい」
彩夏:「何でそこで謝るのよ(笑)……ふふっ、でも眼鏡ない方がちょっとかっこいいじゃん?」
優介:「そ、そんなことないでしょ……僕は、いつもと変わらないよ……」
彩夏:「ふふっ……どう? 私の浴衣姿は。似合ってる?」
優介:「うん、すごく似合ってる……。その色、綺麗だね」
彩夏:「……とかいって、本当はよく見えてないでしょ(笑)」
優介:「そ、それは……顔は正直、よく見えてないけど……でも、いつもと雰囲気が違うのは分かる、から」
彩夏:「ふふっ……そっか。ありがとう」
優介:「あ、あの」
彩夏:「ん、何?」
優介:「どうして、僕を誘ってくれたの……僕なんかで、良かったの?」
彩夏:「え、それ今聞く?(笑)」
優介:「ご、ごめん……」
彩夏:「ふふっ……田中くん“が”良かったの! ……ほら、行こっ」
優介:「う、うん……?」
0:彩夏 優介に向かって手を伸ばす。優介 手を繋ぐべきか否か迷う
彩夏:「……眼鏡掛けてない状態で人混み歩くの大変でしょ?」
優介:「そうだけど……」
彩夏:「ちょっと何よ、手差し出してるんだから繋ぎなさいよ」
優介:「あ、えと、……分かった」
彩夏:「ふふっ、行くよ」
:
:
:
:
彩夏:「ん~、何しようかなぁ……」
優介:縁日のざわめきに負けないくらい、鼓動がうるさく聞こえる。
優介:情けないが、僕は竹内さんの半歩後ろをついていくのがやっとだった。
優介:揺れて光るかんざし、鮮やかな浴衣の帯、まとめ上げられた長い髪。……正面からは分らなかったその後ろ姿にまたドキッとする。
彩夏:「縁日って言ったらやっぱり金魚すくいじゃない? 私得意なの!」
優介:「あ、そうなんだ……」
彩夏:「ね、やろ!」
優介:「う、うん」
彩夏:「すみませーん!」
優介:屋台のおじさんに三百円を渡して、ポイを受け取る。竹内さんは浴衣の袖をまくり、本気モードのようだった。
彩夏:「ふふっ、久しぶりだなぁ……よし……! よっ、……ほいっと」
優介:僕には金魚が随分と深いところを泳いでいる……ように見える。
優介:竹内さんは、久しぶりとは思えないほど慣れた手つきで次々と金魚をすくいあげていく。もはや、金魚がポイに吸い寄せられている。
優介:「よし、僕も……」
優介:見よう見まねでポイを水に浸し、金魚を追いかける。今だ。
0:優介 金魚をすくいあげるが、ポイが破けて肩を落とす
0:彩夏 ポイが破ける
彩夏:「あーぁ、破けちゃった……ま、こんなもんかな。えーと……一、二、三、四、…やった、五匹だ!
彩夏:あ、田中くんはどうだったー? ……え、どしたの」
優介:「……一匹もすくえませんでした」
彩夏:「あらら……けど、そんなに落ち込む?(笑)」
優介:「すごいね、なんでそんなに上手なの」
彩夏:「うーん、私も分かんない。……無心」
優介:「無心……」
彩夏:「そう、金魚を、無心で、待つ」
優介:「なるほど……」
彩夏:「ふふっ、参考になった?(笑) ……じゃ、気を取り直して、次行こ!」
優介:「あ、待って~……!」
0:
彩夏:「でも、田中くんのかっこいいところちょっと期待しちゃったなぁ……」
優介:「……ご期待に添えず、面目ありません」
彩夏:「ふふっ(笑) あ、そうだ。かっこいいと言えば……射的じゃない?」
優介:「射的、ですか」
彩夏:「射的やろ!」
優介:「う、うん」
優介:とはいえ、視力0.1以下の世界に生きる僕にとって、数メートル先の的を狙うことは至難の業である。
優介:鉄砲から勢いよく放たれた弾は、次々に明後日の方向へ飛んで行った。
彩夏:「あー惜しい!って……そうか。もしかして、的よく見えてないでしょ」
優介:「はい……」
彩夏:「構えている姿は最高にかっこいいんだけどねぇ……あ、もうちょっと右じゃない?」
優介:「右?」
彩夏:「あー行き過ぎ! もうちょい左!」
優介:「ひ、左?」
彩夏:「うん、あー……それで、もうちょっと上」
優介:「うえ……」
彩夏:「よしそこだっ!」
優介:竹内さんの合図とともに引き金を引く。すると、何かにあたった音がした。
彩夏:「やった!」
優介:「何にあたった?」
彩夏:「何だろ……あ、ココアシガレットだ!」
優介:「それ、……あ、あげるよ」
彩夏:「え、いいの?」
優介:「うん、竹内さんのおかげで獲れたし、すごい景品、っていうわけじゃないけど……」
彩夏:「いやいや、田中くんが取ってくれたんだもん。すごく嬉しいよ! ありがとう!」
優介:「はは、いいとこ見せれて良かった……」
彩夏:「ふふっ、田中くんのかっこいいところ、やっと見れた気がする」
優介:「や、やっと……」
彩夏:「ん-、お腹空いたなぁ~! なんか食べよ!」
優介:「そうだね、……竹内さんは、好きな食べ物、ある?」
彩夏:「うーん、どれも捨てがたいけど……やっぱり、たこ焼きとりんご飴は外せないかも!」
優介:「たこ焼きと、りんご飴、ね……」
彩夏:「え、なになに、どうしたの?」
優介:「いや……あの、勘違いだったら申し訳ない……んだけど、竹内さん、足痛いんじゃない?」
彩夏:「ありゃ……バレてました?」
優介:「草履って、履き慣れてないから、さ……疲れちゃうよね」
彩夏:「あはは……、心配かけたくないから黙ってたんだけど……よく気が付いたね」
優介:「ずっと後ろくっついてるから、かな。……あ、あのベンチでちょっと座って待ってて。僕、買ってくるよ」
彩夏:「じゃあ……そうさせてもらおうかな、ありがとね」
0:
彩夏:私と田中くんは、同じクラスで、席が近い。ただそれだけの関係。
彩夏:……けど、私にとって田中くんはちょっぴり憧れの存在。
彩夏:何を考えているのか、まったくわからないけど、その雰囲気に惹かれて、いつしかそんな風に思うようになった。
彩夏:でも、まともにしゃべったことなんて、まだ、一度もなくて。
彩夏:……強引だけど、思い切って縁日に誘ってみた。
彩夏:田中くんは不器用で、無口で、少し変わってる人で……、
彩夏:優しくて、面白くて、少しの時間だけど今日一緒にいて、不思議と心地よかった。
彩夏:……そして、今日。私は田中くんに伝えなくちゃいけないことがある。
優介:「……ごめん、お待たせ」
彩夏:「わーありがとう!」
優介:「りんご飴と、たこ焼き……あと、それから。こ、これ」
彩夏:「え、なにそれ、すごくきれい……かわいい…!」
優介:「トンボ玉っていうんだって、ブレスレット。竹内さんに似合うかなぁと思って……」
彩夏:「私に……? いいの……?」
優介:「うん、ココアシガレットだけじゃ、ね……(笑)」
彩夏:「ふふっ……どっちも嬉しいよ。本当に、ありがとう」
優介:竹内さんはブレスレットを身に付けると、提灯明りに照らしてしばらく眺めていた。
優介:トンボ玉を見つめる竹内さんの横顔に、僕は思わず息をのんだ。
彩夏:「あのさ」(同時)
優介:「あのさ」(同時)
優介:「あ……どうぞ」
彩夏:「ふふっ……あのね、今日は本当に楽しかった。……ありがとう」
優介:「いや。こちらこそ……僕も、楽しかった」
彩夏:「実はさ……実は、ね。私、一学期が終わったら転校するの」
優介:「えっ……そうなの……?」
彩夏:「うん。明日、みんなに言うんだ。だから……今日は最後の、最高の思い出になった」
優介:「そっか……」
彩夏:「けどね、誰かと思い出作りがしたくて、たまたま近くにいた田中くんと来たんじゃないの。田中くんと、一緒にどこかに行きたかったの」
優介:「どうして……?」
彩夏:「どうしてって、それはきっと田中くんも同じなんじゃないかなぁ……」
優介:「竹内さん……?」
彩夏:「私ね、私……田中くんのこと……」
優介:「待って! ……僕、の話。聞いて」
彩夏:「うん」
優介:「僕、ずっと、竹内さんとは同じクラスの一人、っていう関係だと思ってた」
彩夏:「お、奇遇だねぇ。私もそう思ってた」
優介:「僕、こんな感じだからさ。クラスにもうまく馴染めなくて……でも、こんな僕に突然、話しかけてくれた。
優介:……縁日に行こうって。最初はすごくびっくりした。授業中、たまに竹内さんのこと見てるの、バレたのかな、って思って……」
彩夏:「うん、バレバレ(笑)」
優介:「ば、バレてた……!? あ、恥ずかしい……」
彩夏:「うん、でもちゃんと言ってほしかったから」
優介:「竹内さんの笑顔を見た時からずっと、もっと話してみたいと思った。……もっと、たくさん笑顔を見たいと思った」
彩夏:「うん……」
優介:「僕、まだ竹内さんのこと、全然知らないし、気持ち悪がられるかもしれないけど……」
彩夏:「……けど?」
優介:「(深呼吸)……僕は、竹内さんと友達になりたい」
彩夏:「友達で、いいの?」
優介:「えっ……?」
彩夏:「本当に、友達でいいの?」
優介:「今は、まだ……その、勇気が出ない、から……。その、僕、竹内さんとお似合いだねって言われるように、頑張るから……! だから来年もまた一緒に、この縁日に来ませんか……?」
彩夏:「……っ! ……うん」
優介:「それで……その時に、ちゃんともう一回、僕から伝えさせてほしい……いいかな」
彩夏:「……うんっ! ふふっ、もう、泣かせるなよ~……」
優介:「はぁ……緊張したぁ~……」
彩夏:「……よっ、優介! よく言えたっ!!」
0:彩夏 優介の髪を雑に撫でる
優介:「ちょっ、やめてよ……!(笑)」
彩夏:「ふふっ(笑)」
優介:「僕、竹内さんとこんな時間を過ごせるなんて……思ってなかった」
彩夏:「私もだよ。……今後とも、よろしくね」
優介:「こちらこそ、よろしくお願いします」
彩夏:「じゃあ、一年後、日曜日の六時、神社の前に集合ね! ……今度こそ遅れないでよ~?」
優介:「ふふっ、……分かった」
:
:
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:
優介:一年後、僕はあの神社で彼女を待っていた。
優介:……あの時、当時持ち合わせていた精一杯の勇気を振り絞って、今日の縁日に誘った。
優介:あれから時々、互いに連絡を取り合ってはいたが……。冷静に考えてみれば、一年も待たせておいて、彼女がここに来る確証はまったくない。
優介:一年前、僕は待ち合わせに遅刻した。だから、今度こそは彼女を待たせてはならないという一心で、……早く着きすぎてしまった。
優介:先に境内に入って、神頼みしてこようかと思ったその時、向こうから人影が、見えた。
彩夏:「あーごめん、優介くん!! お待たせ!」
優介:「……っ! ううん、大丈夫だよ」
彩夏:「やだ、今度は私が遅刻しちゃったよ~……」
優介:「大丈夫、全然待ってないからさ……あれ、なんか、大人っぽくなったね」
彩夏:「えぇー、そうかなぁ?」
優介:「うん、可愛いというか、綺麗」
彩夏:「え、何? すごい素直に褒めてくれじゃん……」
優介:「ははっ……僕も少しは変われたかな」
彩夏:「変わったよ~! ……って、まさか、また眼鏡忘れたの?」
優介:「そんなわけないじゃないか(笑) コンタクトに変えたよ」
彩夏:「えーうそー! ……やだ、超かっこいいじゃん。モテた?」
優介:「……と、思うじゃん。それが全然反応薄くてさぁ~、そんなこと言ってくれる人いなかったよ」
彩夏:「えぇ~見る目無いなぁ。周囲の人々はまだ、優介くんのポテンシャルに気がついてないわけだ。はぁー、もったいない」
優介:「ははっ(笑) 僕は別にモテたいわけじゃないからさ、……モテたら、困るでしょ?」
彩夏:「あーそうだね、ふふふっ……(笑)」
優介:口を押さえて笑う彼女の手首には、見覚えのあるブレスレットが輝いていた。
優介:「そのブレスレット……」
彩夏:「……ふふ、気付いた? ……綺麗でしょ」
優介:「うん、すごく似合ってる」
彩夏:「……あ、ありがとう」
優介:「よし、じゃあ行こうか……。彩夏」
0:優介 彩夏に手を差し出す
彩夏:「……うん!」
優介:たなかゆうすけ 不器用で冴えない男子
0:
彩夏:たけうちあやか 明るくて活発な女子
:
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彩夏:「ねぇ、田中くん。今度の縁日、一緒に行かない?」
優介:「え……?」
優介:それは突然の誘いだった
彩夏:「ほら、浴衣着てさ。ちょっと憧れなんだよねぇ~。ね、どう?」
優介:竹内さんとは、同級生で座席順が近いというただそれだけの関係
彩夏:「え、興味ない?」
優介:……けど僕にとっては、憧れの存在
彩夏:「ねぇ、行くのー? 行かないのー?」
優介:しかし、一度もちゃんと喋ったことはない……
彩夏:「おい、たなかゆうすけ!」
優介:「はっ……行きます、いえ、行かせてください……!」
彩夏:「ふふっ……じゃあ、日曜日の六時、神社の前集合ね。遅れるなよっ!」
優介:「う、うん……!」
彩夏:「楽しみだなぁー!浴衣、何色着ようかなぁ~……」
優介:竹内さんの笑顔は明るくて、とても素敵で……かわいいなぁ
彩夏:「あ、まって私も帰るー! ……(小声で優介に向かって)じゃあね」
優介:「あ、うん……じゃあ、ね……」
優介:別れ際、手を振ったついでに右頬をつねったら、しっかりと痛かった
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優介:……浴衣ってどう着ればいいんだろ、というかどこで売ってるんだろう。……あ、貸し出しっていうのもあるのか
優介:浴衣なんて着たことが無い。こんな僕でも似合うだろうか……
優介:あ、あと縁日。……どうやって回ろうかな。射的とか金魚すくいとか僕、あまり得意じゃないんだよなぁ……
優介:竹内さんは何したいんだろうな……
優介:そもそも、竹内さんと何をしゃべればいいんだろう
優介:好きな食べ物? 趣味? 最近見た映画の話? ……好きな教科とか、部活動の話とか
優介:あ、僕帰宅部だ……。あとは、あとは……
優介:そういえば竹内さんのこと、何も知らない……かも
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優介:そして迎えた当日。僕は今、待ち合わせに遅刻している
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優介:「はぁっ……はぁっ……!! 何で今日に限って……!!」
優介:浴衣に草履の姿で、できる限りの全速力で走った。なけなしの体力は既に限界を超え、視界が若干ぼやけている
彩夏:「あ、おーい! こっちこっち!」
優介:「はぁっ……はぁっ……本当に、申し訳ございませんでした……!」
彩夏:「も~、女の子待たせるなんてどういうつもりー? はいそれでは、弁明をどうぞ」
優介:緊張のあまり一睡もできず、家を出る直前になってうたた寝をしてしまった。……なんて言えるはずない
優介:「ごめんなさい……本当に、ごめん……」
彩夏:「あはは、冗談だよ、冗談(笑) あーもう、髪ぼっさぼさだし、浴衣着崩れちゃってるし……あれ、眼鏡は?」
優介:「え……」
彩夏:「うそ、もしかしてコンタクト?」
優介:「いや……、忘れてきたみたい……」
彩夏:「あぁ~田中くんって意外とおっちょこちょいなんだ~」
優介:「……ご、ごめんなさい」
彩夏:「何でそこで謝るのよ(笑)……ふふっ、でも眼鏡ない方がちょっとかっこいいじゃん?」
優介:「そ、そんなことないでしょ……僕は、いつもと変わらないよ……」
彩夏:「ふふっ……どう? 私の浴衣姿は。似合ってる?」
優介:「うん、すごく似合ってる……。その色、綺麗だね」
彩夏:「……とかいって、本当はよく見えてないでしょ(笑)」
優介:「そ、それは……顔は正直、よく見えてないけど……でも、いつもと雰囲気が違うのは分かる、から」
彩夏:「ふふっ……そっか。ありがとう」
優介:「あ、あの」
彩夏:「ん、何?」
優介:「どうして、僕を誘ってくれたの……僕なんかで、良かったの?」
彩夏:「え、それ今聞く?(笑)」
優介:「ご、ごめん……」
彩夏:「ふふっ……田中くん“が”良かったの! ……ほら、行こっ」
優介:「う、うん……?」
0:彩夏 優介に向かって手を伸ばす。優介 手を繋ぐべきか否か迷う
彩夏:「……眼鏡掛けてない状態で人混み歩くの大変でしょ?」
優介:「そうだけど……」
彩夏:「ちょっと何よ、手差し出してるんだから繋ぎなさいよ」
優介:「あ、えと、……分かった」
彩夏:「ふふっ、行くよ」
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彩夏:「ん~、何しようかなぁ……」
優介:縁日のざわめきに負けないくらい、鼓動がうるさく聞こえる。
優介:情けないが、僕は竹内さんの半歩後ろをついていくのがやっとだった。
優介:揺れて光るかんざし、鮮やかな浴衣の帯、まとめ上げられた長い髪。……正面からは分らなかったその後ろ姿にまたドキッとする。
彩夏:「縁日って言ったらやっぱり金魚すくいじゃない? 私得意なの!」
優介:「あ、そうなんだ……」
彩夏:「ね、やろ!」
優介:「う、うん」
彩夏:「すみませーん!」
優介:屋台のおじさんに三百円を渡して、ポイを受け取る。竹内さんは浴衣の袖をまくり、本気モードのようだった。
彩夏:「ふふっ、久しぶりだなぁ……よし……! よっ、……ほいっと」
優介:僕には金魚が随分と深いところを泳いでいる……ように見える。
優介:竹内さんは、久しぶりとは思えないほど慣れた手つきで次々と金魚をすくいあげていく。もはや、金魚がポイに吸い寄せられている。
優介:「よし、僕も……」
優介:見よう見まねでポイを水に浸し、金魚を追いかける。今だ。
0:優介 金魚をすくいあげるが、ポイが破けて肩を落とす
0:彩夏 ポイが破ける
彩夏:「あーぁ、破けちゃった……ま、こんなもんかな。えーと……一、二、三、四、…やった、五匹だ!
彩夏:あ、田中くんはどうだったー? ……え、どしたの」
優介:「……一匹もすくえませんでした」
彩夏:「あらら……けど、そんなに落ち込む?(笑)」
優介:「すごいね、なんでそんなに上手なの」
彩夏:「うーん、私も分かんない。……無心」
優介:「無心……」
彩夏:「そう、金魚を、無心で、待つ」
優介:「なるほど……」
彩夏:「ふふっ、参考になった?(笑) ……じゃ、気を取り直して、次行こ!」
優介:「あ、待って~……!」
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彩夏:「でも、田中くんのかっこいいところちょっと期待しちゃったなぁ……」
優介:「……ご期待に添えず、面目ありません」
彩夏:「ふふっ(笑) あ、そうだ。かっこいいと言えば……射的じゃない?」
優介:「射的、ですか」
彩夏:「射的やろ!」
優介:「う、うん」
優介:とはいえ、視力0.1以下の世界に生きる僕にとって、数メートル先の的を狙うことは至難の業である。
優介:鉄砲から勢いよく放たれた弾は、次々に明後日の方向へ飛んで行った。
彩夏:「あー惜しい!って……そうか。もしかして、的よく見えてないでしょ」
優介:「はい……」
彩夏:「構えている姿は最高にかっこいいんだけどねぇ……あ、もうちょっと右じゃない?」
優介:「右?」
彩夏:「あー行き過ぎ! もうちょい左!」
優介:「ひ、左?」
彩夏:「うん、あー……それで、もうちょっと上」
優介:「うえ……」
彩夏:「よしそこだっ!」
優介:竹内さんの合図とともに引き金を引く。すると、何かにあたった音がした。
彩夏:「やった!」
優介:「何にあたった?」
彩夏:「何だろ……あ、ココアシガレットだ!」
優介:「それ、……あ、あげるよ」
彩夏:「え、いいの?」
優介:「うん、竹内さんのおかげで獲れたし、すごい景品、っていうわけじゃないけど……」
彩夏:「いやいや、田中くんが取ってくれたんだもん。すごく嬉しいよ! ありがとう!」
優介:「はは、いいとこ見せれて良かった……」
彩夏:「ふふっ、田中くんのかっこいいところ、やっと見れた気がする」
優介:「や、やっと……」
彩夏:「ん-、お腹空いたなぁ~! なんか食べよ!」
優介:「そうだね、……竹内さんは、好きな食べ物、ある?」
彩夏:「うーん、どれも捨てがたいけど……やっぱり、たこ焼きとりんご飴は外せないかも!」
優介:「たこ焼きと、りんご飴、ね……」
彩夏:「え、なになに、どうしたの?」
優介:「いや……あの、勘違いだったら申し訳ない……んだけど、竹内さん、足痛いんじゃない?」
彩夏:「ありゃ……バレてました?」
優介:「草履って、履き慣れてないから、さ……疲れちゃうよね」
彩夏:「あはは……、心配かけたくないから黙ってたんだけど……よく気が付いたね」
優介:「ずっと後ろくっついてるから、かな。……あ、あのベンチでちょっと座って待ってて。僕、買ってくるよ」
彩夏:「じゃあ……そうさせてもらおうかな、ありがとね」
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彩夏:私と田中くんは、同じクラスで、席が近い。ただそれだけの関係。
彩夏:……けど、私にとって田中くんはちょっぴり憧れの存在。
彩夏:何を考えているのか、まったくわからないけど、その雰囲気に惹かれて、いつしかそんな風に思うようになった。
彩夏:でも、まともにしゃべったことなんて、まだ、一度もなくて。
彩夏:……強引だけど、思い切って縁日に誘ってみた。
彩夏:田中くんは不器用で、無口で、少し変わってる人で……、
彩夏:優しくて、面白くて、少しの時間だけど今日一緒にいて、不思議と心地よかった。
彩夏:……そして、今日。私は田中くんに伝えなくちゃいけないことがある。
優介:「……ごめん、お待たせ」
彩夏:「わーありがとう!」
優介:「りんご飴と、たこ焼き……あと、それから。こ、これ」
彩夏:「え、なにそれ、すごくきれい……かわいい…!」
優介:「トンボ玉っていうんだって、ブレスレット。竹内さんに似合うかなぁと思って……」
彩夏:「私に……? いいの……?」
優介:「うん、ココアシガレットだけじゃ、ね……(笑)」
彩夏:「ふふっ……どっちも嬉しいよ。本当に、ありがとう」
優介:竹内さんはブレスレットを身に付けると、提灯明りに照らしてしばらく眺めていた。
優介:トンボ玉を見つめる竹内さんの横顔に、僕は思わず息をのんだ。
彩夏:「あのさ」(同時)
優介:「あのさ」(同時)
優介:「あ……どうぞ」
彩夏:「ふふっ……あのね、今日は本当に楽しかった。……ありがとう」
優介:「いや。こちらこそ……僕も、楽しかった」
彩夏:「実はさ……実は、ね。私、一学期が終わったら転校するの」
優介:「えっ……そうなの……?」
彩夏:「うん。明日、みんなに言うんだ。だから……今日は最後の、最高の思い出になった」
優介:「そっか……」
彩夏:「けどね、誰かと思い出作りがしたくて、たまたま近くにいた田中くんと来たんじゃないの。田中くんと、一緒にどこかに行きたかったの」
優介:「どうして……?」
彩夏:「どうしてって、それはきっと田中くんも同じなんじゃないかなぁ……」
優介:「竹内さん……?」
彩夏:「私ね、私……田中くんのこと……」
優介:「待って! ……僕、の話。聞いて」
彩夏:「うん」
優介:「僕、ずっと、竹内さんとは同じクラスの一人、っていう関係だと思ってた」
彩夏:「お、奇遇だねぇ。私もそう思ってた」
優介:「僕、こんな感じだからさ。クラスにもうまく馴染めなくて……でも、こんな僕に突然、話しかけてくれた。
優介:……縁日に行こうって。最初はすごくびっくりした。授業中、たまに竹内さんのこと見てるの、バレたのかな、って思って……」
彩夏:「うん、バレバレ(笑)」
優介:「ば、バレてた……!? あ、恥ずかしい……」
彩夏:「うん、でもちゃんと言ってほしかったから」
優介:「竹内さんの笑顔を見た時からずっと、もっと話してみたいと思った。……もっと、たくさん笑顔を見たいと思った」
彩夏:「うん……」
優介:「僕、まだ竹内さんのこと、全然知らないし、気持ち悪がられるかもしれないけど……」
彩夏:「……けど?」
優介:「(深呼吸)……僕は、竹内さんと友達になりたい」
彩夏:「友達で、いいの?」
優介:「えっ……?」
彩夏:「本当に、友達でいいの?」
優介:「今は、まだ……その、勇気が出ない、から……。その、僕、竹内さんとお似合いだねって言われるように、頑張るから……! だから来年もまた一緒に、この縁日に来ませんか……?」
彩夏:「……っ! ……うん」
優介:「それで……その時に、ちゃんともう一回、僕から伝えさせてほしい……いいかな」
彩夏:「……うんっ! ふふっ、もう、泣かせるなよ~……」
優介:「はぁ……緊張したぁ~……」
彩夏:「……よっ、優介! よく言えたっ!!」
0:彩夏 優介の髪を雑に撫でる
優介:「ちょっ、やめてよ……!(笑)」
彩夏:「ふふっ(笑)」
優介:「僕、竹内さんとこんな時間を過ごせるなんて……思ってなかった」
彩夏:「私もだよ。……今後とも、よろしくね」
優介:「こちらこそ、よろしくお願いします」
彩夏:「じゃあ、一年後、日曜日の六時、神社の前に集合ね! ……今度こそ遅れないでよ~?」
優介:「ふふっ、……分かった」
:
:
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:
:
優介:一年後、僕はあの神社で彼女を待っていた。
優介:……あの時、当時持ち合わせていた精一杯の勇気を振り絞って、今日の縁日に誘った。
優介:あれから時々、互いに連絡を取り合ってはいたが……。冷静に考えてみれば、一年も待たせておいて、彼女がここに来る確証はまったくない。
優介:一年前、僕は待ち合わせに遅刻した。だから、今度こそは彼女を待たせてはならないという一心で、……早く着きすぎてしまった。
優介:先に境内に入って、神頼みしてこようかと思ったその時、向こうから人影が、見えた。
彩夏:「あーごめん、優介くん!! お待たせ!」
優介:「……っ! ううん、大丈夫だよ」
彩夏:「やだ、今度は私が遅刻しちゃったよ~……」
優介:「大丈夫、全然待ってないからさ……あれ、なんか、大人っぽくなったね」
彩夏:「えぇー、そうかなぁ?」
優介:「うん、可愛いというか、綺麗」
彩夏:「え、何? すごい素直に褒めてくれじゃん……」
優介:「ははっ……僕も少しは変われたかな」
彩夏:「変わったよ~! ……って、まさか、また眼鏡忘れたの?」
優介:「そんなわけないじゃないか(笑) コンタクトに変えたよ」
彩夏:「えーうそー! ……やだ、超かっこいいじゃん。モテた?」
優介:「……と、思うじゃん。それが全然反応薄くてさぁ~、そんなこと言ってくれる人いなかったよ」
彩夏:「えぇ~見る目無いなぁ。周囲の人々はまだ、優介くんのポテンシャルに気がついてないわけだ。はぁー、もったいない」
優介:「ははっ(笑) 僕は別にモテたいわけじゃないからさ、……モテたら、困るでしょ?」
彩夏:「あーそうだね、ふふふっ……(笑)」
優介:口を押さえて笑う彼女の手首には、見覚えのあるブレスレットが輝いていた。
優介:「そのブレスレット……」
彩夏:「……ふふ、気付いた? ……綺麗でしょ」
優介:「うん、すごく似合ってる」
彩夏:「……あ、ありがとう」
優介:「よし、じゃあ行こうか……。彩夏」
0:優介 彩夏に手を差し出す
彩夏:「……うん!」