台本概要
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タイトル | 金魚鉢より愛を込めて |
---|---|
作者名 | ヒロタカノ (@hiro_takano) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 7人用台本(男3、女2、不問2) ※兼役あり |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
観光地系地元密着型ラジオDJとその馴染みの話 金魚鉢とはラジオ局でDJがしゃべる部屋のことです。 ガラス張りになってる部屋なので、金魚鉢という通称があるそうです ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー どこかなにかで使っていただけたら幸いです。 「使ったよ」とでもコメントいただけたらありがたいです。 いつかどこかで誰かのお役に立ちますように。 116 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
真太郎 | 男 | 30 | 朝田真太郎:漬物屋『朝田』の息子。『アサダラジオ』のパーソナリティ |
沙織 | 女 | 17 | 夕凪沙織:老舗の旅館「夕凪」の娘。高校生。 |
徳次郎 | 男 | 6 | 真太郎の父 |
美佐子 | 女 | 5 | 旅館の女将。沙織の母 |
茂雄 | 男 | 6 | 旅館の支配人。沙織の父 |
子どもA | 不問 | 3 | モブ役です(どなたか兼ね役で) |
子どもB | 不問 | 3 | モブ役です(どなたか兼ね役で) |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
人 物
朝田真太郎(6)…小学生
〃 (17)…漬物屋『朝田』の息子。『アサダラジオ』のパーソナリティ
夕凪沙織(7)…小学生
〃 (18)…老舗旅館「夕凪」の娘。高校生。
朝田徳治郎(45)…真太郎の父
夕凪芙佐子(50)…旅館の女将。沙織の母
夕凪茂雄(50)…旅館の支配人。沙織の父
子どもA
子どもB
○場面:駿河岳神社 境内(夕)
0:
0:夕凪沙織(7)を囲み騒ぐ子ども達。沙織はしゃがんで顔を伏せ泣いている。
0:
子どもA:「やーい、やーい!泣き虫沙織。花なんかに話しかけて変な奴だなー」
子どもB:「虫だけにどんだけ花が好きなのさ」
子どもA:「泣き虫沙織ー!赤ちゃんみたいにお花のお蜜吸うでちゅかー?」
0:
0:ゲラゲラ笑う子ども達。沙織は泣きじゃくりながら小さな声で、
0:
沙織:「…へ、変じゃないもん。…お花さん達はちゃんと返事してくれるもん…」
子どもB:「はぁ?声が小さくて聞こえねえ?言いたいことははっきり言えよー!」
0:
0:そこへ朝田真太郎(6)が拳を振り上げ駆けてきて、
0:
真太郎:「やめろー!よってたかって女をいじめるなんざ、駿河岳の男児じゃねえぞ!」
子どもA:「やべ、漬物屋のバカ大将だ!さっさと逃げようぜ」
真太郎:「だまれクソガキども!ぬか漬けにつけこむぞ!」
子どもB:「うわー!それ臭いとれないやつー!逃げろー!」
0:
0:蜘蛛の子を散らし逃げる子ども達。真太郎は沙織に近寄り肩で息をしながら、
0:
真太郎:「おう、沙織。平気か?」
沙織:「しんちゃん!ごめんね。いつも、ごめんね…」
真太郎:「いいってことよ、こんなの浅漬け前だってな!へへっ」
沙織:「真ちゃん、真ちゃぁん」
0:
0:沙織、涙をこぼし真太郎に抱きつく。
0:
○場面:旅館『夕凪』 ロビー(夕)
0:
0:木造で和風の館内。達筆な書道画や木彫りの彫り物が並ぶ。
0:
0:夕凪美佐子(50)が玄関に立つ。
0:向かいには座って靴を履く夕凪沙織(18)。美佐子は沙織を見下ろし、
0:
美佐子:「沙織、やっぱり駅まで見送ろうか?」
沙織:「いいよ。旅館そろそろ接客で一番忙しい時間帯でしょ?」
0:
0:沙織は旅行鞄の取っ手に手をかけると
0:
沙織:「私は大丈夫。いつまでも泣き虫な子どもじゃないもの。それじゃあ、お母さん。今までありがとう。行って参ります」
○場面:漬け物屋「朝田」サテライトスタジオ(夕)
0:
0:漬物屋の一角にガラス張りの四畳間。
0:音声ミキサーやカセットデッキやマイクが並ぶ。
0:部屋の中では椅子に座り手書きの原稿を読む朝田真太郎(17)と
0:隣で腕を組み座る朝田徳治郎(45)
0:
徳治郎:「おお、真太郎、いいのかい?」
真太郎:「何がよ?ああ曲選かい?まかせとけって、インスタとエックスをリサーチした観光客向けのあれと地元のシェアをバランスよくミックスしたセットリストよ?」
徳治郎:「番組の話じゃねえよドアホ!沙織ちゃん、都会に行かせちまっていいのかい?」
真太郎:「…どこで聞いてた…デバガメ。しゃあねえだろ。俺が背中押してやんないと、あいつ延々と悩んじまう」
徳次郎「真太郎。お前がこの街を愛してくれるのは嬉しいがよ。俺がお前に残せるものなんてシケた漬物屋くらいだ。好きな女追いかけたって、俺はうらまねえよ」
0:
0:真太郎は徳次郎の話をさえぎるように窓ガラスをコツコツと叩き、
0:
真太郎:「親父よぉ?『駿河岳男子なら一度決めたことは最後までやり通せ』って躾けたのは誰よ?あんただろ?それに、こんな若造のためによ?こんなタダのしゃべりたがりやのためによ?こんな立派な金魚鉢、このラジオ番組が出来る放送ブース一式を作ってくれた街の人にも恩は返してやりてえ。さぁ、オンタイムだ、始めてくれや、でれくたー」
徳治郎:「…頑固者が。誰に似たんだか。コンプ強めにかけとくから弾き語り始める前にひとこえかけろ?ああと、カフスあげ忘れんなよ?」
0:
0:徳次郎はミキサーのフェードを上げ、カセットデッキの再生ボタンを押す。スピーカーから軽快な音楽が流れる。
0:
○場面:(回想)漬け物屋「朝田」 縁側(夜)
0:
0:木造の年期が入った一軒家。家の縁側に真太郎と沙織。
0:お互いに顔を見ようとせず、庭を眺めている。
0:二人の間には『毎日放送!盛り上げろ駿河岳!アサダラジオ。BY駿河岳観光協会』と
0:
0:印字された湯のみが二つとお茶菓子が盆にのせて置かれている。
0:湯のみは飲み干されて中身は空である。
0:奥の部屋の襖に隠れてこっそりと二人を見守る徳次郎。真太郎は大きく息を吸い、
0:
真太郎:「いいじゃねえか?大学。行って来いよ!」
0:
0:びっくりして真太郎の方を向く沙織。
0:
真太郎:「昔から花が好きなんだろ?なら迷うな。大学行って花の勉強して来いって」
沙織:「…真ちゃん…でも。私ね…私は…」
真太郎:「(会話をさえぎるように)ああ!わかってる!お前んちの旅館のことだろ?跡継ぎなんて後でなんとでもなるって!」
沙織:「…真ちゃん…それもあるの…それもあるけど…私ね…」
真太郎:「ああ!はいはい!もろもろふくめて駿河岳のことならまるっと俺にまかせておけ!お前の父さん母さんもまとめて面倒みてやらあ!」
沙織:「…真ちゃん…あの…」
真太郎:「なんだよ俺が今まで間違ったこと言ったことあるか?いいから行って来い!」
0:
0:何か言いたげだが、言葉に詰まる沙織。
0:
○場面:漬け物屋『朝田』 スタジオ前(夕)
0:街通りに浴衣を来た観光客達が歩く。窓ガラスで仕切られた部屋の中で、
0:大げさな身振り手振りでマイクに向かってしゃべる真太郎。
0:時々足を止め、物珍しげに真太郎を見物する観光客達。
0:
真太郎:「どうも!観光中の皆々様!ようこそ駿河岳温泉へ!この放送は駿河岳観光協会出資のもと、つぶれかけの漬物屋『朝田』の一角を間借りして、街中に仕掛けたスピーカーを発信先にお送りしております!なんちゃってラジオ局でございます」
徳次郎:「あほう!まだまだ潰れねえぞウチは!」
真太郎:「ああ!そうでしたね、親父デレクター!あんたみたいな漬物石よりも硬いガンコ親父が主人やってるかがいりにゃ、ぬか床に漬け込んでもガンコ臭は残るさね」
徳次郎:「たわけ、人を見てくれで判断するな!これでもワシは裏垢でブイチューバーやってるかんな!」
真太郎:「ぶ、ブイ!?おやじ、いつ、いつのまに!アカウントは?アバターは!?
徳次郎:「ほれ、これじゃ!」
真太郎:「えっ?うわあああああ!!!俺の最近の推しの娘、親父だったのかああああああ!!!だまされたああああ!!!プレミア登録しちまったーああーーー!!!」
徳次郎:「けけけ、お前の女子の好みなど把握済よ、けけけ」
0:
0:クスクスと笑う観光客達。
0:
○場面:老舗の旅館『夕凪』 事務所(夕)
0:のれんをくぐり部屋に入る美佐子。
0:夕凪茂雄(50)が机に足をのせ、腕を組んで座っている。
0:部屋の壁にはスピーカーがあり、真太郎の声が流れる。
美佐子:「…あれ?真太郎ちゃん、今日もラジオやってるのかい?てっきり沙織の見送りに行くのかと思った」
茂雄:「おい、旅館を継がねえ薄情娘の名前なんて口にすんじゃねえよ。まったく、沙織といいコイツといい、今時の駿河岳の若えもんは自分勝手なやつらばかりだぜ」
美佐子:「あんた…いい加減認めてやりなさいな。沙織も真太郎ちゃんも自分なりに一生懸命考えているのよ」
茂雄:「…ふんっ!」
真太郎:「(スピーカーから)今日の一曲目!…珍しいな、夕凪旅館のおっちゃんからのリクエストだ!…んっ?これ何て曲?親父ー?音源あるー?」
茂雄:「…ふんっ!そんなもん、やる前から調べとけ」
美佐子:「もう…ほんと、強情なんだから」
0:
0:演歌が流れる室内。そっぽを向いて頭をかく茂雄。くすりと笑う美佐子。
0:
真太郎:「…ああ、ちなみに夕凪旅館な、このご時世でもWiFi入ってない、キャリア圏外、今時黒電話だから宿泊するなら気を付けてくれよな」
茂雄:「けっ!観光地来たらスマホなんて使うんじゃねえよ」
真太郎:「ただ、この駿河岳温泉のこと誰よりも詳しい仙人みたいなおっさんがいるから宿泊客じゃなくても一度寄ってみるといいですよ?なんなら車出してくれるから!酒好きのおっさんが夜まで飲まないのはそれが理由だかんな、ここだけの話」
茂雄:「…ば!ばかやろう、まったく!よけいなことばかりボロボロと…」
○場面:駿河岳 お土産通り(夕方)
0:
0:土産物屋が並ぶ街中。車輪付きの旅行鞄を引き、道を歩く沙織。木製の電柱に設置されたスピーカーからは、軽快なBGMと真太郎の声が流れる。沙織は立ち止まり、スピーカーを見上げる。沙織の手には新幹線のチケット。
0:
沙織:「(M)私は今、もやもやしています。真ちゃんはいつだって私と真直ぐ向き合って、それから手も引っ張ってくれた。それは私のため?私が真ちゃんと同じ駿河岳の人だから?でもね、真ちゃん。真ちゃんはひとつ、真直ぐ向き合ってないことがあるよ?私はそれをハッキリさせたい…だって私も駿河岳の女だもの」
○場面:漬物屋『朝田』 スタジオ前(夕)
0:
0:店の前に何人か見物客。
0:ガラス張りのブースの中で大きな身振り手振りで話す真太郎。
0:スピーカーから流れる真太郎の話にあわせ見物客が笑う。
0:旅行鞄を引きづり沙織が歩いてくる。真太郎は沙織に気付くとしゃべるのをやめて、
真太郎:「さぁ、夕凪旅館の物知り親父のリクエスト、ありがとうございました。…さてさて、次のコーナーだな。次のコーナーは、いつものやつだな。ちょっと待ってくれよな…ん?」
沙織:「…真ちゃん」
真太郎:「…沙織?どうしてここにいるんだ?電車は?出ちまうぞ!」
0:
0:沙織は口に両手を当て、大きく息を吸うとガラス越しに真太郎に向かって、
0:
沙織:「真ちゃん!わたし!夕凪沙織は花が好きです!私の夢は学者さんになることです!だから、東京に行って!大学入って!勉強します!」
0:
沙織:「でもね…でも!真ちゃんは!真ちゃんはもっと好きです!自分の決めた道を迷わず進む真ちゃんが大好きです!だから私も真ちゃんを見習って突き進みます!今まで護ってくれてありがとう!好き!大好きです!行ってきます!」
○場面:老舗旅館『夕凪』 番頭(夕)
0:
0:お互い口をあけて顔を見合わす美佐子と茂雄。茂雄はスピーカーを覗き込み、
0:
茂雄:「おい…今の大声…沙織か?おい!あのラジオ局ガラス張りだろ?ガラス越しであんなに声って入るものか?」
0:
0:美佐子、にっこりと微笑んで、
0:
美佐子:「あの娘があんなにハッキリ物を言うなんてね…あたしたちの知らないところで子どもって成長していくのね」
○場面:漬物屋『朝田』サテライトスタジオ前(夕)
0:
0:沙織は肩を揺らしながら息を吐くと、
0:
沙織:「…はぁ、はぁ…。ああ、もう。言えた、やっと言えたぞ、わたし」
真太郎:「…沙織。沙織がこんなにはっきり自分の言いたいことが言えるようになったんだな。…もう、俺が守ってやる必要なんて、ないな。…行ってこい。」
沙織:「…ちがう。」
真太郎:「…ん?」
沙織:「真ちゃんは!いつもそうやって!かっこつけて!本当のことを言わない!言ってくれない!いつもいつも恥ずかしがって!かっこつけて本当のこと言わない!そこだけはモヤモヤした!私は言った!はっきり言った!だから、はっきり聞きたい!ラジオDJなら!リスナーにリクエストにまっすぐ答えなさい!!」
真太郎:「…沙織」
沙織:「(小声)(………んんん、もう恥ずかしい、顔赤い顔赤い、恥ずかしいい)(ここまで小声)………はあ!ああ!もう!すっきりした!これで思い残すこと、なし!じゃあね!真ちゃん!」
0:
0:鞄の取っ手を持つと振り返る。真太郎は立ち上がると、沙織に向かって叫ぶ
0:
真太郎:「…沙織、俺も、俺もな…お前が好きだ!大好きだ!」
0:
0:真太郎の声でビリビリと揺れる窓ガラス。真太郎の大声でスピーカーがキーンと鳴り、耳を塞ぐ観光客達。沙織は振り返ると、窓ガラスの前に立ち、ガラスに両手をついて真太郎を見つめる。
0:
真太郎:「でも、俺はこの街も好きだ!だから半端はできん。行けよ!行って来い!沙織」
0:
0:真太郎はガラス越しに沙織の手に手を重ね合わせ、沙織の手を掴もうとする。
0:
真太郎:「…けどな…本当は…寂しいよ…俺、すげーさみしいんだよ…沙織…好き…だ」
0:
0:うなだれて頭を垂れる真太郎。沙織は、
沙織:「真ちゃん、ありがとう…大丈夫、またね、また会おうね」
0:
0:顔を上げる真太郎。沙織は微笑み、窓ガラスに顔を近づけ目を閉じる。遅れて真太郎も顔を近づけ、ガ0:ラスを挟んで口づけを交わす。静かな曲が流れる。
0:
○場面:大学の研究室(朝)
0:
0:植物の標本が並ぶ部屋。デスクに座りパソコンを操作する白衣の女性の背中。モニタにはニュースが表示され、表彰状を掲げる真太郎と肩を組んで笑う徳次郎の画像。
0:『金魚鉢(ラジオ局)で町興し。駿河岳温泉の名物親子』という見出し。
0:
真太郎:「さあどうも!観光中の皆々様!ようこそ駿河岳温泉へ!この放送は駿河岳観光協会出資のもと、つぶれかけの漬物屋『朝田』の一角を間借りして、街中に仕掛けたスピーカーを発信先にお送りしております!なんちゃってラジオ局でございます。」
徳次郎:「つぶれかけは余計だよ。っていうか投資信託うまくいって割とウハウハだかんな、ウチ」
真太郎:「こいつ、いつのまに…。ええと。駿河岳温泉郷の名物といえばこのラジオ局と温泉、そして、最近テレビでも話題になっております一面の花畑でございます。実はこの花畑、とある大学の研究所が開発した肥料が使われております。この肥料、実はうちの温泉の成分から抽出した……ええと、なんて成分だったか……あはは、すませんね、俺自身には学がないもので…。」
徳次郎:「…惚れた女のやってることぐらい良く調べとけ、甲斐性なし」
真太郎:「あああ!!!言うな言うな!!!…まぁ今度、開発者のお嬢さんをゲストにお招きして、その辺のところを詳しくトークしてみましょうかね。……あいつ、なかなか恥ずかしがり屋なものでして、ラジオに出たがらないのですが…まっ、あいつもやるときはやるやつなので、期待して待ってましょうかね。どうぞ、お楽しみに!」
人 物
朝田真太郎(6)…小学生
〃 (17)…漬物屋『朝田』の息子。『アサダラジオ』のパーソナリティ
夕凪沙織(7)…小学生
〃 (18)…老舗旅館「夕凪」の娘。高校生。
朝田徳治郎(45)…真太郎の父
夕凪芙佐子(50)…旅館の女将。沙織の母
夕凪茂雄(50)…旅館の支配人。沙織の父
子どもA
子どもB
○場面:駿河岳神社 境内(夕)
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0:夕凪沙織(7)を囲み騒ぐ子ども達。沙織はしゃがんで顔を伏せ泣いている。
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子どもA:「やーい、やーい!泣き虫沙織。花なんかに話しかけて変な奴だなー」
子どもB:「虫だけにどんだけ花が好きなのさ」
子どもA:「泣き虫沙織ー!赤ちゃんみたいにお花のお蜜吸うでちゅかー?」
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0:ゲラゲラ笑う子ども達。沙織は泣きじゃくりながら小さな声で、
0:
沙織:「…へ、変じゃないもん。…お花さん達はちゃんと返事してくれるもん…」
子どもB:「はぁ?声が小さくて聞こえねえ?言いたいことははっきり言えよー!」
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0:そこへ朝田真太郎(6)が拳を振り上げ駆けてきて、
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真太郎:「やめろー!よってたかって女をいじめるなんざ、駿河岳の男児じゃねえぞ!」
子どもA:「やべ、漬物屋のバカ大将だ!さっさと逃げようぜ」
真太郎:「だまれクソガキども!ぬか漬けにつけこむぞ!」
子どもB:「うわー!それ臭いとれないやつー!逃げろー!」
0:
0:蜘蛛の子を散らし逃げる子ども達。真太郎は沙織に近寄り肩で息をしながら、
0:
真太郎:「おう、沙織。平気か?」
沙織:「しんちゃん!ごめんね。いつも、ごめんね…」
真太郎:「いいってことよ、こんなの浅漬け前だってな!へへっ」
沙織:「真ちゃん、真ちゃぁん」
0:
0:沙織、涙をこぼし真太郎に抱きつく。
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○場面:旅館『夕凪』 ロビー(夕)
0:
0:木造で和風の館内。達筆な書道画や木彫りの彫り物が並ぶ。
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0:夕凪美佐子(50)が玄関に立つ。
0:向かいには座って靴を履く夕凪沙織(18)。美佐子は沙織を見下ろし、
0:
美佐子:「沙織、やっぱり駅まで見送ろうか?」
沙織:「いいよ。旅館そろそろ接客で一番忙しい時間帯でしょ?」
0:
0:沙織は旅行鞄の取っ手に手をかけると
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沙織:「私は大丈夫。いつまでも泣き虫な子どもじゃないもの。それじゃあ、お母さん。今までありがとう。行って参ります」
○場面:漬け物屋「朝田」サテライトスタジオ(夕)
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0:漬物屋の一角にガラス張りの四畳間。
0:音声ミキサーやカセットデッキやマイクが並ぶ。
0:部屋の中では椅子に座り手書きの原稿を読む朝田真太郎(17)と
0:隣で腕を組み座る朝田徳治郎(45)
0:
徳治郎:「おお、真太郎、いいのかい?」
真太郎:「何がよ?ああ曲選かい?まかせとけって、インスタとエックスをリサーチした観光客向けのあれと地元のシェアをバランスよくミックスしたセットリストよ?」
徳治郎:「番組の話じゃねえよドアホ!沙織ちゃん、都会に行かせちまっていいのかい?」
真太郎:「…どこで聞いてた…デバガメ。しゃあねえだろ。俺が背中押してやんないと、あいつ延々と悩んじまう」
徳次郎「真太郎。お前がこの街を愛してくれるのは嬉しいがよ。俺がお前に残せるものなんてシケた漬物屋くらいだ。好きな女追いかけたって、俺はうらまねえよ」
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0:真太郎は徳次郎の話をさえぎるように窓ガラスをコツコツと叩き、
0:
真太郎:「親父よぉ?『駿河岳男子なら一度決めたことは最後までやり通せ』って躾けたのは誰よ?あんただろ?それに、こんな若造のためによ?こんなタダのしゃべりたがりやのためによ?こんな立派な金魚鉢、このラジオ番組が出来る放送ブース一式を作ってくれた街の人にも恩は返してやりてえ。さぁ、オンタイムだ、始めてくれや、でれくたー」
徳治郎:「…頑固者が。誰に似たんだか。コンプ強めにかけとくから弾き語り始める前にひとこえかけろ?ああと、カフスあげ忘れんなよ?」
0:
0:徳次郎はミキサーのフェードを上げ、カセットデッキの再生ボタンを押す。スピーカーから軽快な音楽が流れる。
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○場面:(回想)漬け物屋「朝田」 縁側(夜)
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0:木造の年期が入った一軒家。家の縁側に真太郎と沙織。
0:お互いに顔を見ようとせず、庭を眺めている。
0:二人の間には『毎日放送!盛り上げろ駿河岳!アサダラジオ。BY駿河岳観光協会』と
0:
0:印字された湯のみが二つとお茶菓子が盆にのせて置かれている。
0:湯のみは飲み干されて中身は空である。
0:奥の部屋の襖に隠れてこっそりと二人を見守る徳次郎。真太郎は大きく息を吸い、
0:
真太郎:「いいじゃねえか?大学。行って来いよ!」
0:
0:びっくりして真太郎の方を向く沙織。
0:
真太郎:「昔から花が好きなんだろ?なら迷うな。大学行って花の勉強して来いって」
沙織:「…真ちゃん…でも。私ね…私は…」
真太郎:「(会話をさえぎるように)ああ!わかってる!お前んちの旅館のことだろ?跡継ぎなんて後でなんとでもなるって!」
沙織:「…真ちゃん…それもあるの…それもあるけど…私ね…」
真太郎:「ああ!はいはい!もろもろふくめて駿河岳のことならまるっと俺にまかせておけ!お前の父さん母さんもまとめて面倒みてやらあ!」
沙織:「…真ちゃん…あの…」
真太郎:「なんだよ俺が今まで間違ったこと言ったことあるか?いいから行って来い!」
0:
0:何か言いたげだが、言葉に詰まる沙織。
0:
○場面:漬け物屋『朝田』 スタジオ前(夕)
0:街通りに浴衣を来た観光客達が歩く。窓ガラスで仕切られた部屋の中で、
0:大げさな身振り手振りでマイクに向かってしゃべる真太郎。
0:時々足を止め、物珍しげに真太郎を見物する観光客達。
0:
真太郎:「どうも!観光中の皆々様!ようこそ駿河岳温泉へ!この放送は駿河岳観光協会出資のもと、つぶれかけの漬物屋『朝田』の一角を間借りして、街中に仕掛けたスピーカーを発信先にお送りしております!なんちゃってラジオ局でございます」
徳次郎:「あほう!まだまだ潰れねえぞウチは!」
真太郎:「ああ!そうでしたね、親父デレクター!あんたみたいな漬物石よりも硬いガンコ親父が主人やってるかがいりにゃ、ぬか床に漬け込んでもガンコ臭は残るさね」
徳次郎:「たわけ、人を見てくれで判断するな!これでもワシは裏垢でブイチューバーやってるかんな!」
真太郎:「ぶ、ブイ!?おやじ、いつ、いつのまに!アカウントは?アバターは!?
徳次郎:「ほれ、これじゃ!」
真太郎:「えっ?うわあああああ!!!俺の最近の推しの娘、親父だったのかああああああ!!!だまされたああああ!!!プレミア登録しちまったーああーーー!!!」
徳次郎:「けけけ、お前の女子の好みなど把握済よ、けけけ」
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0:クスクスと笑う観光客達。
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○場面:老舗の旅館『夕凪』 事務所(夕)
0:のれんをくぐり部屋に入る美佐子。
0:夕凪茂雄(50)が机に足をのせ、腕を組んで座っている。
0:部屋の壁にはスピーカーがあり、真太郎の声が流れる。
美佐子:「…あれ?真太郎ちゃん、今日もラジオやってるのかい?てっきり沙織の見送りに行くのかと思った」
茂雄:「おい、旅館を継がねえ薄情娘の名前なんて口にすんじゃねえよ。まったく、沙織といいコイツといい、今時の駿河岳の若えもんは自分勝手なやつらばかりだぜ」
美佐子:「あんた…いい加減認めてやりなさいな。沙織も真太郎ちゃんも自分なりに一生懸命考えているのよ」
茂雄:「…ふんっ!」
真太郎:「(スピーカーから)今日の一曲目!…珍しいな、夕凪旅館のおっちゃんからのリクエストだ!…んっ?これ何て曲?親父ー?音源あるー?」
茂雄:「…ふんっ!そんなもん、やる前から調べとけ」
美佐子:「もう…ほんと、強情なんだから」
0:
0:演歌が流れる室内。そっぽを向いて頭をかく茂雄。くすりと笑う美佐子。
0:
真太郎:「…ああ、ちなみに夕凪旅館な、このご時世でもWiFi入ってない、キャリア圏外、今時黒電話だから宿泊するなら気を付けてくれよな」
茂雄:「けっ!観光地来たらスマホなんて使うんじゃねえよ」
真太郎:「ただ、この駿河岳温泉のこと誰よりも詳しい仙人みたいなおっさんがいるから宿泊客じゃなくても一度寄ってみるといいですよ?なんなら車出してくれるから!酒好きのおっさんが夜まで飲まないのはそれが理由だかんな、ここだけの話」
茂雄:「…ば!ばかやろう、まったく!よけいなことばかりボロボロと…」
○場面:駿河岳 お土産通り(夕方)
0:
0:土産物屋が並ぶ街中。車輪付きの旅行鞄を引き、道を歩く沙織。木製の電柱に設置されたスピーカーからは、軽快なBGMと真太郎の声が流れる。沙織は立ち止まり、スピーカーを見上げる。沙織の手には新幹線のチケット。
0:
沙織:「(M)私は今、もやもやしています。真ちゃんはいつだって私と真直ぐ向き合って、それから手も引っ張ってくれた。それは私のため?私が真ちゃんと同じ駿河岳の人だから?でもね、真ちゃん。真ちゃんはひとつ、真直ぐ向き合ってないことがあるよ?私はそれをハッキリさせたい…だって私も駿河岳の女だもの」
○場面:漬物屋『朝田』 スタジオ前(夕)
0:
0:店の前に何人か見物客。
0:ガラス張りのブースの中で大きな身振り手振りで話す真太郎。
0:スピーカーから流れる真太郎の話にあわせ見物客が笑う。
0:旅行鞄を引きづり沙織が歩いてくる。真太郎は沙織に気付くとしゃべるのをやめて、
真太郎:「さぁ、夕凪旅館の物知り親父のリクエスト、ありがとうございました。…さてさて、次のコーナーだな。次のコーナーは、いつものやつだな。ちょっと待ってくれよな…ん?」
沙織:「…真ちゃん」
真太郎:「…沙織?どうしてここにいるんだ?電車は?出ちまうぞ!」
0:
0:沙織は口に両手を当て、大きく息を吸うとガラス越しに真太郎に向かって、
0:
沙織:「真ちゃん!わたし!夕凪沙織は花が好きです!私の夢は学者さんになることです!だから、東京に行って!大学入って!勉強します!」
0:
沙織:「でもね…でも!真ちゃんは!真ちゃんはもっと好きです!自分の決めた道を迷わず進む真ちゃんが大好きです!だから私も真ちゃんを見習って突き進みます!今まで護ってくれてありがとう!好き!大好きです!行ってきます!」
○場面:老舗旅館『夕凪』 番頭(夕)
0:
0:お互い口をあけて顔を見合わす美佐子と茂雄。茂雄はスピーカーを覗き込み、
0:
茂雄:「おい…今の大声…沙織か?おい!あのラジオ局ガラス張りだろ?ガラス越しであんなに声って入るものか?」
0:
0:美佐子、にっこりと微笑んで、
0:
美佐子:「あの娘があんなにハッキリ物を言うなんてね…あたしたちの知らないところで子どもって成長していくのね」
○場面:漬物屋『朝田』サテライトスタジオ前(夕)
0:
0:沙織は肩を揺らしながら息を吐くと、
0:
沙織:「…はぁ、はぁ…。ああ、もう。言えた、やっと言えたぞ、わたし」
真太郎:「…沙織。沙織がこんなにはっきり自分の言いたいことが言えるようになったんだな。…もう、俺が守ってやる必要なんて、ないな。…行ってこい。」
沙織:「…ちがう。」
真太郎:「…ん?」
沙織:「真ちゃんは!いつもそうやって!かっこつけて!本当のことを言わない!言ってくれない!いつもいつも恥ずかしがって!かっこつけて本当のこと言わない!そこだけはモヤモヤした!私は言った!はっきり言った!だから、はっきり聞きたい!ラジオDJなら!リスナーにリクエストにまっすぐ答えなさい!!」
真太郎:「…沙織」
沙織:「(小声)(………んんん、もう恥ずかしい、顔赤い顔赤い、恥ずかしいい)(ここまで小声)………はあ!ああ!もう!すっきりした!これで思い残すこと、なし!じゃあね!真ちゃん!」
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0:鞄の取っ手を持つと振り返る。真太郎は立ち上がると、沙織に向かって叫ぶ
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真太郎:「…沙織、俺も、俺もな…お前が好きだ!大好きだ!」
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0:真太郎の声でビリビリと揺れる窓ガラス。真太郎の大声でスピーカーがキーンと鳴り、耳を塞ぐ観光客達。沙織は振り返ると、窓ガラスの前に立ち、ガラスに両手をついて真太郎を見つめる。
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真太郎:「でも、俺はこの街も好きだ!だから半端はできん。行けよ!行って来い!沙織」
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0:真太郎はガラス越しに沙織の手に手を重ね合わせ、沙織の手を掴もうとする。
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真太郎:「…けどな…本当は…寂しいよ…俺、すげーさみしいんだよ…沙織…好き…だ」
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0:うなだれて頭を垂れる真太郎。沙織は、
沙織:「真ちゃん、ありがとう…大丈夫、またね、また会おうね」
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0:顔を上げる真太郎。沙織は微笑み、窓ガラスに顔を近づけ目を閉じる。遅れて真太郎も顔を近づけ、ガ0:ラスを挟んで口づけを交わす。静かな曲が流れる。
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○場面:大学の研究室(朝)
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0:植物の標本が並ぶ部屋。デスクに座りパソコンを操作する白衣の女性の背中。モニタにはニュースが表示され、表彰状を掲げる真太郎と肩を組んで笑う徳次郎の画像。
0:『金魚鉢(ラジオ局)で町興し。駿河岳温泉の名物親子』という見出し。
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真太郎:「さあどうも!観光中の皆々様!ようこそ駿河岳温泉へ!この放送は駿河岳観光協会出資のもと、つぶれかけの漬物屋『朝田』の一角を間借りして、街中に仕掛けたスピーカーを発信先にお送りしております!なんちゃってラジオ局でございます。」
徳次郎:「つぶれかけは余計だよ。っていうか投資信託うまくいって割とウハウハだかんな、ウチ」
真太郎:「こいつ、いつのまに…。ええと。駿河岳温泉郷の名物といえばこのラジオ局と温泉、そして、最近テレビでも話題になっております一面の花畑でございます。実はこの花畑、とある大学の研究所が開発した肥料が使われております。この肥料、実はうちの温泉の成分から抽出した……ええと、なんて成分だったか……あはは、すませんね、俺自身には学がないもので…。」
徳次郎:「…惚れた女のやってることぐらい良く調べとけ、甲斐性なし」
真太郎:「あああ!!!言うな言うな!!!…まぁ今度、開発者のお嬢さんをゲストにお招きして、その辺のところを詳しくトークしてみましょうかね。……あいつ、なかなか恥ずかしがり屋なものでして、ラジオに出たがらないのですが…まっ、あいつもやるときはやるやつなので、期待して待ってましょうかね。どうぞ、お楽しみに!」