台本概要

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タイトル STRAYSHEEP Ⅵ
作者名 紫音  (@Sion_kyo2)
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 『あなたみたいな人を――偽善者っていうんですよ』
最初から、何もかも間違いだったのかもしれない。償いの道を選んだことも、過去に背を向けたことも……太陽のように眩しい君と、一緒にいることを選んでしまったことも。
守りたかったはずのものが、目の前で壊れていく……答えは一体、どこにある?
――――――――――――――――――――――――――――――――
STRAYSHEEPシリーズ六作目になります。
時間は30分~40分を想定しています。
上演の際、お手数でなければお知らせいただけると嬉しいです。※必須ではないです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アデル 58 何でも屋。元殺し屋“デュアルバレット”。
チェルシー 66 何でも屋。元殺し屋“デュアルバレット”。
ジェイド 47 アデルとチェルシーの友人。街の教会で暮らしている青年。
スカーレット 47 バウンティハンター。殺し屋組織のトップ、シルバーを憎んでおり、そのかつての弟子だったアデルとチェルシーを殺そうとしている。
ルーカス 34 闇の便利屋。いつも薄ら笑いを浮かべていて本心が読めない。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:某所にて。 ルーカス:……お待たせしました……! スカーレット:……来たか。久しいな。 ルーカス:ええ、お久しぶりです。 ルーカス:すみません、遅れてしまって。結構待ちました? スカーレット:いや、構わん。こちらこそ急に呼び出してすまないな。 ルーカス:スカーレットさんに呼ばれたとあれば……僕はどこにいたって駆けつけますよ。 スカーレット:ふ、頼もしいな、ルーカス。 ルーカス:それで、僕に頼みっていうのは? スカーレット:ああ…… スカーレット:……私に、協力してくれないか。 ルーカス:……? スカーレット:やるべきことは決まっているんだ。だが、私一人では手が足りない。 スカーレット:だから……お前の力を借りたい。 ルーカス:ええと……話が読めませんが…… ルーカス:たしかスカーレットさん、他にもお仲間がいらっしゃいましたよね?えっと……ノエルさんとミッシェルさん、でしたっけ。 ルーカス:僕なんかより、そのお二人に…… スカーレット:あの二人とはもう……道が違ってしまったんだ。 スカーレット:利害が一致しなくなった。……だから、これ以上一緒にいる理由がない。 ルーカス:……なにか、あったんですか? スカーレット:……お前は知らなくていい。ただ、私に協力するか。イエスかノーで答えろ。 ルーカス:……。 スカーレット:……もちろん、答えがノーだったからと言って、どうしようという気もない。 スカーレット:ただ、今この状況で最も信頼できて、かつ腕の良い人間として……真っ先にお前が思い浮かんだ。 スカーレット:……闇の便利屋、ルーカス・レイモンド。お前ならばきっと……デュアルバレットにも、太刀打ちできるはずだ。 0:  0:  0:  0:何でも屋にて。 チェルシー:……あーあ、暇。 アデル:珍しく今日は依頼がゼロだからな。 チェルシー:うーん……これだけ暇だと食べる寝るくらいしかやることないからまた太っちゃう…… アデル:ダイエット中だって言ってなかったか、お前。 チェルシー:別に私の意志が弱いわけじゃないわよ、食べ物が美味しすぎるのがいけないの。 アデル:責任転嫁もいいところだろ…… 0:そのとき、インターホンが鳴る。 チェルシー:あら、誰か来たみたい。 アデル:俺が出る。 0:アデルがドアを開けると、そこに立っていたのはジェイドだった。 ジェイド:よ!邪魔するぜ! アデル:ああ、ジェイドか。どうした急に。 ジェイド:実はさー、教会の子ども達のおやつに焼いたクッキーが結構余っちまって……良かったらみんなで食おうかと。 チェルシー:わぁほんと!?ちょうどクッキー食べたいと思ってたのよねー! アデル:今までも散々食ってたろ…… アデル:つーかこれだけ余るって、お前どんだけ大量に作ったんだよ。 ジェイド:いやぁそんなに大量に作ったつもりはねぇんだけど……なんていうか……子ども達の食べっぷり悪かったっていうか…… チェルシー:まあとりあえず、せっかく持ってきてくれたんだから食べましょ!ね! ジェイド:だな!食おうぜ! 0:  0:  0:  0:某所にて。 ルーカス:……デュアルバレット、ですか。これはまた、随分大きな獲物が出てきましたね。 ルーカス:たしか、あなたの最終的な目標は……殺し屋組織のボス、シルバーでしたよね。 ルーカス:デュアルバレットはその元弟子……なるほど、少しでもシルバーと関係のある裏社会の人間は、みんな潰してしまおうということですか。 スカーレット:人手が必要なんだ。引き受けてくれないか、ルーカス。 ルーカス:……いやはや、参りましたね。これは今まで僕が引き受けてきた仕事の中でも、おそらくトップクラスに危険な仕事だ。 ルーカス:下手したら死んじゃいますね、僕。 スカーレット:だが、お前にしか頼めない。 ルーカス:ふ、僕はそれを言われると弱いっていうのもご存知ですよね、スカーレットさん。 スカーレット:もちろんタダ働きをさせるつもりはない。きちんと内容に見合った報酬は支払うつもりだ。 ルーカス:そうですねぇ……。 ルーカス:……と、いうかそういえば……デュアルバレットって死んだんじゃなかったでしたっけ?そんな噂を耳にした覚えがありますが。 スカーレット:生きていたらしい。今は殺しから足を洗って、何でも屋として生きているそうだがな。 ルーカス:へぇ、何でも屋に? ルーカス:こりゃあ驚いた、ハハ、僕と同業じゃないですか。 スカーレット:だが、おそらくその腕はまださほど鈍っていない。 ルーカス:うーん、なるほど。……裏社会から縁を切った殺し屋、ですか。 ルーカス:……ククッ、笑えませんよねぇ。デュアルバレットも、そんなところまで落ちましたか。 スカーレット:……ルーカス。 ルーカス:ええ、分かってます。質問の答えでしょう。 ルーカス:……そうですね、さすがに通常業務と危険度のレベルが違いすぎるので……いくらご依頼主がスカーレットさんであっても、それなりの報酬はいただきたいところではあります。 スカーレット:構わん。お前の希望通りで出そう。 ルーカス:ハハ、ありがたい。それだけ本気なんですね。 ルーカス:……まあ、そこをお約束してもらえるのであれば構いません。お引き受けしましょう……デュアルバレットの、抹殺を。 0:  0:  0:  0:何でも屋にて。 チェルシー:……しょっぱい。 アデル:……しょっぱいな。 アデル:ジェイド、お前これ自分で食ってみたか? ジェイド:え?いや、まだだけど……。 チェルシー:……食べてみな。 ジェイド:えー?そんなに変な味だったか…? ジェイド:ちゃんと分量通りで作ったんだけど…… 0:クッキーを口に放り込むジェイド。 0:直後、その顔が歪む。 ジェイド:……うぇ、しょっぱ…… チェルシー:子ども達の食べっぷり悪かったのって、これが原因じゃないの……? アデル:分量通りに作ってなんでこうなるんだよ……。 ジェイド:……あ、もしかしてあれかも。 ジェイド:俺、砂糖と塩間違えたかも……。 アデル:……マジかよ。 チェルシー:そんな典型的な……。 ジェイド:……どうしよ、これ。 アデル:これ以上食べない方がいいだろうな……。 チェルシー:塩分摂りすぎで死ぬわよ。 ジェイド:マジかぁ……もったいない……。 アデル:まあ……仕方ねぇさ。次は気を付けろよ。 ジェイド:うぅ……ごめんな二人とも……。 アデル:まぁ気にすんな。 アデル:代わりに何か、甘いもの買ってきてやるよ。 チェルシー:なら私、いちごショート食べたい! ジェイド:あ!俺も! アデル:分かった分かった、買ってくるからちょっと待ってろ。 チェルシー:はーい、よろしくー! 0:アデル、出かけていく。 ジェイド:……あーあ、砂糖と塩間違えるって恐ろしいな……。 チェルシー:とりあえず、子ども達におやつとして出す前に、味見は必須ね。 ジェイド:だな……。 0:(少し間をおいて) ジェイド:……そういえば、さ。チェルシー。 チェルシー:ん?なぁに? ジェイド:あー……えっと…… チェルシー:なに、どうしたのよ。 ジェイド:……あのさ、ずっと……聞きたかったことがあって。 チェルシー:聞きたかったこと? ジェイド:……前にさ、猫探し、手伝ってくれたろ。 チェルシー:うん。 ジェイド:あの時にさ……俺……見ちゃったんだ。 チェルシー:……何を。 ジェイド:チェルシーが……誰かと、撃ち合ってるところ。 チェルシー:……ッ……! ジェイド:ごめん……なんて聞けばいいのか分かんなくて、今までずっと黙ってたんだけど…… ジェイド:殺し屋……とか……そういう言葉が聞こえてきたから……もしかしてチェルシー、なんか危ないことに巻き込まれてんのかなって……心配でさ。 チェルシー:……。 ジェイド:あのさ……きっと、俺なんかより、アデルの方がずっと……頭良いし、頼りになるし……かっこいい、し? ジェイド:だから……俺に話したってしょうがないって、思うかもしれないけどさ。 ジェイド:でも俺、チェルシーのこと……その……だ、大事な友達だって思ってるから。……だから、もしチェルシーが悩んでるなら……力になりたいんだ。 チェルシー:……ジェイド……。 0:少しの沈黙の後、チェルシーが口を開く。 チェルシー:……逆よ。 ジェイド:……え? チェルシー:あなたが頼りないとか、そういう風になんて思ってない。 チェルシー:むしろあなたは、私にとって……ううん、私たちにとって、光みたいなもんなの。 ジェイド:光……? チェルシー:……。 チェルシー:私は……私とアデルは……昔、殺し屋をやってた。 チェルシー:今までずっと隠してて……ごめん。 ジェイド:……、……。 チェルシー:今はもう、殺しはやってない。 チェルシー:二度とそういう仕事はしないって、アデルと二人で決めた。 チェルシー:……驚いたでしょ。 ジェイド:……何、が。 チェルシー:“大事な友達”だと思っていた相手が……人殺しだったなんて。 ジェイド:……。 チェルシー:分かってる。……私らみたいな人間が、善人みたいな顔して生きてること自体、間違ってるのよね。 チェルシー:……だから、本当は……あなたとこんなふうに一緒にいるのも……きっと間違ってる。 ジェイド:……なんで。 チェルシー:……私ね、あなたに初めて会ったとき、びっくりしたの。 チェルシー:こんなに優しくて、あったかくて……こんな、太陽みたいに眩しい笑顔で笑う人、この世界にいたんだ……って。 チェルシー:……同時に、怖くもなった。 チェルシー:もし、いつか……あなたを、こんな血生臭い世界に引きずり込むようなことになったら、って。 ジェイド:……チェルシー…… チェルシー:あなたには、普通の世界で、普通に暮らして……普通に、平穏に笑って、生きていてほしい。きっとアデルもそう思ってるはず。 チェルシー:あなたを、『こっち側』に巻き込みたくない。多分私たちは……本来出会うはずじゃなかったんだと思う。 ジェイド:……ッ…… ジェイド:そんな……こと…… 0:そのとき。 0:再びインターホンの音。 チェルシー:……はぁ、タイミング悪いわね、誰かしら。 0:チェルシーが席を立ち、扉を開ける。 0:そこに立っていたのは―― ルーカス:……ああ、どうも。突然すみませんね。 ルーカス:こちらは、何でも屋様ですか? チェルシー:そうですけど……ご依頼ですか? ルーカス:ええ、はい。そうです、依頼です。 ルーカス:……デュアルバレットというのは、あなたのことで? チェルシー:……ッ……!? 0:チェルシーが身構えるより早く、ルーカスがチェルシーに銃口を向ける。 ルーカス:初めまして、そして――……さようなら。 0:直後、銃声。 0:  0:  0:  0:その頃、メイン通りにて。 アデル:……ふぅ、こんだけ買っとけば満足だろ。 アデル:いちごショートと生チョコケーキと、モンブランとレアチーズと……って、少し買いすぎたか? アデル:ま、これくらいいいか。……ジェイドのやつ、結構落ち込んでたし。 アデル:あーあ、まーたチェルシーのダイエットが三日坊主になっちまうなぁ。……とりあえず、帰るか。 0:メイン通りを離れ、細い路地を通って帰ろうとするアデル。 0:しかしその行く手を、誰かが塞いでいた。 アデル:……ん? アデル:誰か……いる? 0:アデルが立ち止まる。 0:その相手が、口を開いた。 スカーレット:……なぜだ。 スカーレット:なぜお前がここにいる……アデル・クロウリー。 アデル:……あ? アデル:誰だ、お前。 スカーレット:ルーカスが仕留め損ねたのか……それとも、タイミング悪く入れ違ったのか……。 スカーレット:いずれにせよ……面倒だな。 アデル:何の話だ。 スカーレット:始末するなら二人まとめて……と思ったんだが。 スカーレット:どうやら……私が一人、引き受けなくてはいけなくなったらしい。 0:スカーレットが銃を構える。 アデル:……勘弁してくれよ、俺たちの始末はもう少し先にするって言ったろ、シルバー。 スカーレット:そのシルバーも、すぐに始末する。 アデル:……どういうことだ、それ。 アデル:シルバーの差し金じゃねぇってことかよ。 スカーレット:お前が詳しく知る必要はない。 スカーレット:ただ……ここで屍になれ。 アデル:……嫌だと言ったら? スカーレット:お前に選択肢など、あるわけがないだろう。 0:スカーレット、発砲。アデルは躱す。 アデル:……お前、何者だ。 スカーレット:名前など知ってどうする、冥土の土産にでもするか? アデル:頼むからこれ以上面倒事に巻き込まないでくれ、身内問題だけで十分だ。 スカーレット:随分と余裕だな……デュアルバレット。 アデル:……(ため息)。 アデル:その名前を知ってるってことは……俺たちに何か、恨みでもあんのか。 スカーレット:恨み……などと、そんな安っぽいものではない。 スカーレット:私は、自分の正義を貫くだけだ。 0:  0:  0:  0:回想。 0:十分間を置いてから、ジェイドナレーション。 ジェイド:(N)初めて彼女に出会ったのは、何年前だったっけ。 ジェイド:(N)たしか、うだるような暑さの、夏の日だった気がする。 ジェイド:(N)俺はたしか、子ども達と一緒に公園で遊んでいて…… ジェイド:(N)誰かが、ラジコン飛行機を木に引っかけちまったもんだから、木登りが得意な俺は軽々と登っていって、ラジコン飛行機を取ってやって……そこまでは良かったんだけど。 ジェイド:(N)まさかそこで、足を滑らせると思わなくて……俺はとんでもなく派手な音を立てて、地面に落ちた。 0:  ジェイド:いっ……てててて…… チェルシー:……大丈夫? ジェイド:……え? 0:  ジェイド:(N)多分……一目惚れだったんじゃないかな。 ジェイド:(N)俺に手を差し伸べてくれたその人は……なんていうか、こう……すごく綺麗に、俺には見えた。 ジェイド:(N)女神様でも降りてきたんじゃないかって、一瞬本気で思ったくらいだ。 0:  チェルシー:平気?立てる? ジェイド:あ、えっと、へ、平気…………あ痛ッ! チェルシー:ちょ、大丈夫!? ジェイド:うぐ……だ、大丈夫…… チェルシー:ちょっと見せて。 チェルシー:……腫れてはいないけど、軽く捻ったみたいね。 ジェイド:うぇ、まじか…… チェルシー:そこ座って。しばらく安静にしておいた方がいいわ。 チェルシー:私、氷貰ってくるから。それで少し冷やしましょ。ちょっと待っててね。 0:  ジェイド:(N)その人は、すごく慣れた様子でテキパキと俺の手当をしてくれて……看護師さんなのかなってちょっと思ったけど、実際聞いてみたらそうじゃないらしい。 0:  ジェイド:……何でも屋? チェルシー:そう。部屋の掃除とか買い物代行とか、引越しの手伝い、ペットのお散歩……たまーに、変わった依頼とかも来るけど、基本なんでも引き受けてるわよ。 ジェイド:へぇ……すげー……。 ジェイド:でも大変そうだな、何でもやるってさ。 チェルシー:うーん、まあたしかに……大変じゃないって言えば嘘になっちゃうけど……でも、それで喜んでくれる人がいるなら、私はどんな仕事でも頑張れちゃうかなって。 ジェイド:……ふーん。 0:  ジェイド:(N)そう語ってる彼女の横顔が、すごく輝いて見えて……ああこの人はきっと、めちゃくちゃ優しい人なんだろうなぁって、ぼんやり思った。 ジェイド:(N)そんなことがあってから俺たちは、いつの間にか仲良くなっていて、俺はしょっちゅう何でも屋に顔を出すようになっていた。 ジェイド:(N)そこで出会ったアデルって奴はチェルシーとは正反対で、ちょっと無愛想で感じ悪そうな奴だったけど、でも根は優しいんだって、すぐに分かった。 ジェイド:(N)アデルとチェルシーはめちゃくちゃ仲良くて……俺は多分……アデルには一生敵わないんだろうなって、何度も思ったけど。 ジェイド:(N)でも、もしチェルシーが困ってたりしたら、辛い思いしてたりしたら……俺は俺なりのやり方で、チェルシーを守るんだって……いつも、心のどこかで、決めていた。 0:  0:  0:  0:ルーカスの撃った銃弾はチェルシーではなく、チェルシーを押しのける形で飛び出した、ジェイドに命中した。 ジェイド:……ぐッ……! チェルシー:……ッ……!!! 0:そのまま倒れ込むジェイド。 チェルシー:……う、そ…… チェルシー:嘘、……ジェイド……ッ!! ルーカス:……おやおや……面倒なことになりましたねぇこれは……。 チェルシー:ジェイド!!しっかりして、ジェイド……ッ!!! ジェイド:……う、………… チェルシー:ど、どうしよ……とにかく、止血……!!! ジェイド:……あの……さ……チェルシー…… チェルシー:喋っちゃダメよジェイド……! ジェイド:アデルと、チェルシーと……俺が……一緒にいるのが、間違ってるなんて……俺、思えねぇんだ…… ジェイド:だって、さ……俺、知ってるよ……チェルシーが、すげぇ優しくて……笑うと可愛くて……料理、上手で…… チェルシー:喋っちゃ……ダメだってば…… ジェイド:俺は……チェルシーが……どんな過去を、背負ってたと、しても……チェルシーのことが……大切、だから…… ジェイド:だから……出会うはずじゃ、なかったなんて……そんな悲しいこと……言うなよ…… 0:そのままジェイドが意識を失う。 チェルシー:やだ……やめてよジェイド…… チェルシー:死んじゃダメ……絶対ダメ……ッ!! ルーカス:……は、お涙頂戴ですか。結構ですね。 ルーカス:まあ、生憎と僕はそういうのが好みでないので……すみませんけど、さっさと死んでもらえますかね、チェルシーさん。 チェルシー:…………。 チェルシー:………ふざ、けんな……… ルーカス:……ん?何か仰いました? チェルシー:ふざッけんな……ッ!! 0:チェルシーがルーカスに向けて銃を構える。 チェルシー:なんでよ……なんでなのよ……なんでジェイドが撃たれなきゃいけないのよ……ッ!! ルーカス:そんなの、僕に言われても困りますよ、僕が撃ちたくて撃ったんじゃありませんし。飛び出してきたのはそこの彼の方でしょう? ルーカス:てっきり、一緒にいるのはアデルさんだと思ったんですが……あーあ、本当に本当に面倒だ。関係ない人間がしゃしゃり出て来ないで欲しいんですけどね。 チェルシー:あんたなんなの、名乗りなさいよ……ッ! ルーカス:別に名乗るほどの者でもありませんが……そうですね、あなた方と同じ、便利屋ですよ。 ルーカス:ただし私は……あなた方が逃げ出した、『こちら側』の社会の人間、ですがね。 0:  0:  0:  0:その頃。 0:スカーレットと睨み合うアデル。 アデル:……正義だとかなんだとか、言ってる意味はよく分からねぇが。 アデル:とにかく敵……っていう認識でいいんだな。 スカーレット:……温いな。 アデル:……あ? スカーレット:銃口を向けられているというのに、銃を構えることすらしないとは。 アデル:……。 スカーレット:お前からは殺気の欠片も感じない。本当に殺し屋だったのかと問いかけたくなるほどに。……ぬるま湯に浸かりすぎてのぼせたか。 アデル:お前に関係な…… 0:直後、既にアデルの目の前へと移動しているスカーレット。 アデル:……ッ……!? アデル:(速い……ッ……!?) スカーレット:……地獄に落ちろ。 0:スカーレットがそのまま銃口をアデルの額に突き付け、引き金に指をかける。 アデル:……く、そ……ッ……!! 0:しかしアデルは素早くその腕を掴み、銃口を上空へと逸らした。 0:銃声。 スカーレット:……なるほど、反応は素早いな。 アデル:お前、本当になんなんだよ。 スカーレット:……名は、スカーレット。お前たちのような罪人を、白日の下で裁く者だ。 アデル:……ッ……!! 0:スカーレットの蹴りを躱し、距離をとるアデル。 アデル:(……こいつ……強い……) スカーレット:……そちらからは来ないのか。 アデル:殺し合いがしてぇのかよ。 スカーレット:まさか。多少腕が鈍っていてくれる方が……こちらとしては好都合だ。 0:再び銃を構えるスカーレット。 アデル:悪ぃが……鈍ってるわけじゃねぇよ。 0:次の瞬間、アデルが銃を抜き、引き金を引く。 0:銃弾がスカーレットの銃を弾き飛ばした。 スカーレット:……ッ…… アデル:帰れよ。お前の相手してる暇はねぇ。 アデル:俺は二度と殺しはしない。……お前と争う理由もない。 スカーレット:……二度としない、だと? スカーレット:そんな言葉で……罪を赦してもらおうとでも思っているのか。 アデル:……。 スカーレット:それにだ。私はお前と『争う』ために来たのではない。お前を『裁く』ために来た。 アデル:……裁く? スカーレット:お前の重ねてきた罪、数え切れぬほど奪ってきた命。……それはお前の勝手な感情で、なかったことにしていいものなどではない。 スカーレット:お前は、お前たちは、死ぬまでデュアルバレットだ。その名は消せん。そしてその罪は、誰かが裁かなくてはいけない。 アデル:……違う。 アデル:デュアルバレットは、もう死んでる。俺はもう……デュアルバレットじゃ、ない。 スカーレット:戯言を言うな。己の罪を見て見ぬふりなど…… アデル:お前が……分かったようなこと言うんじゃねぇよ。 アデル:何が分かるんだよ……お前に、俺の、何が。 スカーレット:……過去から目を背け、綺麗事を並べ立てて……善人のような顔をして生きて、己の今を正当化する。 スカーレット:それがお前か、アデル・クロウリー。……私が思っていたよりも弱い人間だな。 アデル:……うるせぇよ。上から目線で知ったふうに言うな。 スカーレット:弱い犬ほどよく吠える。 スカーレット:お前のその眼光に、もはや鋭さなど皆無。デュアルバレットが、聞いて呆れる。 アデル:……そろそろ黙れよ。 0:スカーレットが懐から別の銃を取り出し、アデルに向けて引き金を引く。 0:アデルは横に飛び、壁を足場としてスカーレットの背後に回り、そのまま足を払う。 スカーレット:……くッ……!!? 0:バランスを崩して倒れるスカーレット。その額に銃口を突き付けるアデル。 アデル:言ったろ、お前と無駄話してる暇なんてこっちにはねぇんだよ。 スカーレット:……。 アデル:俺たちはもう『そっち側』に絡まれるのは御免なんだよ。……頼むからもう関わらないでくれ。 スカーレット:……本当に、救いようのないほどに……脆弱だな。 アデル:……勝手に言ってろよ。誰になんと言われようが、これは俺が決めた償いの道だ。俺はもう、あの頃の俺には戻らない。 スカーレット:……そんな大層なことをほざいて、お前が前を向いて歩き出したとして、だ。 スカーレット:そのときお前の手によって奪われた命は、一体どうなる? アデル:……、……。 スカーレット:お前の記憶から消し去られれば、それでお終いか? スカーレット:お前の中で、勝手に暗い過去として封印され、彼方に追いやられて……たったそれだけで、その一つ一つの命はなかったことにされていくのか? アデル:……それ、は スカーレット:甘えたことを言うなよ、お前のような人間が、償いなどという言葉を軽々しく口にするな。 スカーレット:その言葉を盾にして、お前は過去から逃げているだけだろう。そんなことを一体、誰が許すというんだ。 アデル:……。 アデル:俺、は………… アデル:…………分かってる…………くそ…………。 0:銃をしまい、足早に路地から去っていくアデル。 スカーレット:……少なくとも私は……そんなことは許さない。 0:立ち上がり、アデルが去っていった方を睨むスカーレット。 スカーレット:次会う時は、お前が死ぬ時だ……アデル・クロウリー。 0:  0:  0:  0:ルーカスが発砲。チェルシーの右腕に命中する。 チェルシー:……ぐッ……!? 0:膝から崩れ落ちるチェルシーの手から、拳銃が滑り落ちる。 ルーカス:本当に、落ちるところまで落ちたんですねぇ、デュアルバレットは。 ルーカス:これくらいの弾、現役の頃のあなたなら簡単に避けられたんでしょうに。感情に走るからこうなる。……哀れですね。 チェルシー:……うる、さい…… ルーカス:何があなたをそこまで変えたんでしょう?どうしてあなたからは、殺しを生業とする者の鋭さが消えたんでしょうか? ルーカス:良心が痛んだから……そんな美しい理由なんかではないでしょうに。 ルーカス:罪滅ぼしと称して人助けなんてして、平和ボケした社会に溶け込んで……自分は“普通の”人間だとでも勘違いしちゃったんですかね。 ルーカス:その根っこは、どうやったって変えられない……腐りきった人殺しだっていうのに。 チェルシー:……うるさい……ッ!! チェルシー:あんたなんかに……あんたなんかに、何が分かるっていうのよ……ッ!! ルーカス:ええ、分かりませんよ。一ミリも理解できません。 ルーカス:だから僕の目には……あなたがどうしようもない愚か者に映ってしまう。 ルーカス:何がしたいんですかね、あなた方は。こんな生温い世界にぬくぬくと浸って、善人ごっこして、それで自分の血みどろの手を少しでも清めたつもりですか。……ハハ、反吐が出ますね、本当に。 ルーカス:あなたみたいな人、なんていうか知ってます? ルーカス:……“偽善者”。 チェルシー:……ッ……!! ルーカス:偽善に酔った挙句に、大事なお友達まで巻き込んじゃったんじゃ世話ないですよね、可哀想に。 ルーカス:……あなたのせいで死んじゃうんですかね、彼。 チェルシー:うるさい……わよ……ッ! ルーカス:ハハ、そろそろ現実見るのが苦しくなってきちゃいました? ルーカス:じゃあ、もういいですよ。……黙って、おやすみなさい。 アデル:……いや。 アデル:黙るのはテメェだよ。 0:直後。 0:銃声とともに倒れたのは、ルーカスの体だった。 ルーカス:なッ…… チェルシー:……あ……アデ、ル……! アデル:……なにが、どうなってんだよ。 アデル:なんで……なんでジェイドが…… 0:倒れているジェイドを見て拳を震わせるアデル。 ルーカス:……うッわ……本当に、サイアクだ…… ルーカス:タイミングが悪いにも……程がある……これ……僕がスカーレットさんに……怒られちゃうパターンでしょ……絶対…… アデル:スカーレット……お前、さっきの女の仲間かよ。 ルーカス:ああ、なんだ……既に会ってたんですか……痛ッ…… ルーカス:なんで……計画通りに、進んでくれないんですかね全く…… ルーカス:せめてアデルさん……チェルシーさんを殺ったあとに、来てくれれば良かったのに……あーもう…… アデル:……まだ喋るかよ。 0:銃口を突き付け、恐ろしいほど冷ややかにルーカスを見下ろすアデル。 ルーカス:ああもう……勘弁してくださいよ本当に……僕は別に、死にに来たんじゃ、ないんで…… ルーカス:くそ……こんなはずじゃ、なかったんですけどね…… 0:よろよろと立ち上がるルーカス。そのまま出口へと向かう。 チェルシー:……ちょっと、待ちなさいよあんた……ッ! ルーカス:いや、ここは帰らせてもらいますよ……この状況で、僕に勝ち目ないですから…… ルーカス:また、出直します……そのときは思う存分……楽しみましょうよ、デュアルバレット……! 0:去っていくルーカス。 0:握りしめた拳を震わせるアデル。血の滲む右腕を押さえながら俯くチェルシー。 0:  0:  0:  0:(十分間を置いてから) 0:病院にて。 チェルシー:……ごめん、アデル…… チェルシー:私のせいだ……私のせいで、ジェイド…… アデル:……お前が謝ることじゃない。 アデル:大丈夫だ、ジェイドは生きてる。目を覚ますのを待とう。 チェルシー:……でも…… アデル:落ち着けチェルシー。お前のせいじゃない。……俺が、もっと早く…… アデル:俺が……もっと…… 0:しばらく無言の両者。 アデル:……やっぱり チェルシー:……え? アデル:……やっぱり、間違ってたのかもな。 チェルシー:……何、が? アデル:俺みたいな人間がさ、善人みたいな顔して、普通の社会で生きてることが。 チェルシー:……。 アデル:……償えるわけ、なかったのかもしれない。そんな簡単なことじゃないって、分かってたつもりだったけど…… アデル:何でも屋なんて、ただの自己満足で……誰かの役に立ってる自分を客観視して、そんな自分を……自分で無理やり赦そうとしただけなのかもしれない。 アデル:俺……今まで何やってたんだろうな…… チェルシー:……アデル…… アデル:……悪いチェルシー、ちょっと外の空気吸ってくる。 チェルシー:……あ、……うん……。 0:外に出ていくアデル。 0:チェルシーはその後ろ姿を見て、苦しげに呟く。 チェルシー:……なんで、かな。 チェルシー:私は、ただ…… チェルシー:アデルに、二度とあんな顔してほしくなかっただけなのに…… チェルシー:……間違ってたのは……私の方、なのかな…… 0: 

0:某所にて。 ルーカス:……お待たせしました……! スカーレット:……来たか。久しいな。 ルーカス:ええ、お久しぶりです。 ルーカス:すみません、遅れてしまって。結構待ちました? スカーレット:いや、構わん。こちらこそ急に呼び出してすまないな。 ルーカス:スカーレットさんに呼ばれたとあれば……僕はどこにいたって駆けつけますよ。 スカーレット:ふ、頼もしいな、ルーカス。 ルーカス:それで、僕に頼みっていうのは? スカーレット:ああ…… スカーレット:……私に、協力してくれないか。 ルーカス:……? スカーレット:やるべきことは決まっているんだ。だが、私一人では手が足りない。 スカーレット:だから……お前の力を借りたい。 ルーカス:ええと……話が読めませんが…… ルーカス:たしかスカーレットさん、他にもお仲間がいらっしゃいましたよね?えっと……ノエルさんとミッシェルさん、でしたっけ。 ルーカス:僕なんかより、そのお二人に…… スカーレット:あの二人とはもう……道が違ってしまったんだ。 スカーレット:利害が一致しなくなった。……だから、これ以上一緒にいる理由がない。 ルーカス:……なにか、あったんですか? スカーレット:……お前は知らなくていい。ただ、私に協力するか。イエスかノーで答えろ。 ルーカス:……。 スカーレット:……もちろん、答えがノーだったからと言って、どうしようという気もない。 スカーレット:ただ、今この状況で最も信頼できて、かつ腕の良い人間として……真っ先にお前が思い浮かんだ。 スカーレット:……闇の便利屋、ルーカス・レイモンド。お前ならばきっと……デュアルバレットにも、太刀打ちできるはずだ。 0:  0:  0:  0:何でも屋にて。 チェルシー:……あーあ、暇。 アデル:珍しく今日は依頼がゼロだからな。 チェルシー:うーん……これだけ暇だと食べる寝るくらいしかやることないからまた太っちゃう…… アデル:ダイエット中だって言ってなかったか、お前。 チェルシー:別に私の意志が弱いわけじゃないわよ、食べ物が美味しすぎるのがいけないの。 アデル:責任転嫁もいいところだろ…… 0:そのとき、インターホンが鳴る。 チェルシー:あら、誰か来たみたい。 アデル:俺が出る。 0:アデルがドアを開けると、そこに立っていたのはジェイドだった。 ジェイド:よ!邪魔するぜ! アデル:ああ、ジェイドか。どうした急に。 ジェイド:実はさー、教会の子ども達のおやつに焼いたクッキーが結構余っちまって……良かったらみんなで食おうかと。 チェルシー:わぁほんと!?ちょうどクッキー食べたいと思ってたのよねー! アデル:今までも散々食ってたろ…… アデル:つーかこれだけ余るって、お前どんだけ大量に作ったんだよ。 ジェイド:いやぁそんなに大量に作ったつもりはねぇんだけど……なんていうか……子ども達の食べっぷり悪かったっていうか…… チェルシー:まあとりあえず、せっかく持ってきてくれたんだから食べましょ!ね! ジェイド:だな!食おうぜ! 0:  0:  0:  0:某所にて。 ルーカス:……デュアルバレット、ですか。これはまた、随分大きな獲物が出てきましたね。 ルーカス:たしか、あなたの最終的な目標は……殺し屋組織のボス、シルバーでしたよね。 ルーカス:デュアルバレットはその元弟子……なるほど、少しでもシルバーと関係のある裏社会の人間は、みんな潰してしまおうということですか。 スカーレット:人手が必要なんだ。引き受けてくれないか、ルーカス。 ルーカス:……いやはや、参りましたね。これは今まで僕が引き受けてきた仕事の中でも、おそらくトップクラスに危険な仕事だ。 ルーカス:下手したら死んじゃいますね、僕。 スカーレット:だが、お前にしか頼めない。 ルーカス:ふ、僕はそれを言われると弱いっていうのもご存知ですよね、スカーレットさん。 スカーレット:もちろんタダ働きをさせるつもりはない。きちんと内容に見合った報酬は支払うつもりだ。 ルーカス:そうですねぇ……。 ルーカス:……と、いうかそういえば……デュアルバレットって死んだんじゃなかったでしたっけ?そんな噂を耳にした覚えがありますが。 スカーレット:生きていたらしい。今は殺しから足を洗って、何でも屋として生きているそうだがな。 ルーカス:へぇ、何でも屋に? ルーカス:こりゃあ驚いた、ハハ、僕と同業じゃないですか。 スカーレット:だが、おそらくその腕はまださほど鈍っていない。 ルーカス:うーん、なるほど。……裏社会から縁を切った殺し屋、ですか。 ルーカス:……ククッ、笑えませんよねぇ。デュアルバレットも、そんなところまで落ちましたか。 スカーレット:……ルーカス。 ルーカス:ええ、分かってます。質問の答えでしょう。 ルーカス:……そうですね、さすがに通常業務と危険度のレベルが違いすぎるので……いくらご依頼主がスカーレットさんであっても、それなりの報酬はいただきたいところではあります。 スカーレット:構わん。お前の希望通りで出そう。 ルーカス:ハハ、ありがたい。それだけ本気なんですね。 ルーカス:……まあ、そこをお約束してもらえるのであれば構いません。お引き受けしましょう……デュアルバレットの、抹殺を。 0:  0:  0:  0:何でも屋にて。 チェルシー:……しょっぱい。 アデル:……しょっぱいな。 アデル:ジェイド、お前これ自分で食ってみたか? ジェイド:え?いや、まだだけど……。 チェルシー:……食べてみな。 ジェイド:えー?そんなに変な味だったか…? ジェイド:ちゃんと分量通りで作ったんだけど…… 0:クッキーを口に放り込むジェイド。 0:直後、その顔が歪む。 ジェイド:……うぇ、しょっぱ…… チェルシー:子ども達の食べっぷり悪かったのって、これが原因じゃないの……? アデル:分量通りに作ってなんでこうなるんだよ……。 ジェイド:……あ、もしかしてあれかも。 ジェイド:俺、砂糖と塩間違えたかも……。 アデル:……マジかよ。 チェルシー:そんな典型的な……。 ジェイド:……どうしよ、これ。 アデル:これ以上食べない方がいいだろうな……。 チェルシー:塩分摂りすぎで死ぬわよ。 ジェイド:マジかぁ……もったいない……。 アデル:まあ……仕方ねぇさ。次は気を付けろよ。 ジェイド:うぅ……ごめんな二人とも……。 アデル:まぁ気にすんな。 アデル:代わりに何か、甘いもの買ってきてやるよ。 チェルシー:なら私、いちごショート食べたい! ジェイド:あ!俺も! アデル:分かった分かった、買ってくるからちょっと待ってろ。 チェルシー:はーい、よろしくー! 0:アデル、出かけていく。 ジェイド:……あーあ、砂糖と塩間違えるって恐ろしいな……。 チェルシー:とりあえず、子ども達におやつとして出す前に、味見は必須ね。 ジェイド:だな……。 0:(少し間をおいて) ジェイド:……そういえば、さ。チェルシー。 チェルシー:ん?なぁに? ジェイド:あー……えっと…… チェルシー:なに、どうしたのよ。 ジェイド:……あのさ、ずっと……聞きたかったことがあって。 チェルシー:聞きたかったこと? ジェイド:……前にさ、猫探し、手伝ってくれたろ。 チェルシー:うん。 ジェイド:あの時にさ……俺……見ちゃったんだ。 チェルシー:……何を。 ジェイド:チェルシーが……誰かと、撃ち合ってるところ。 チェルシー:……ッ……! ジェイド:ごめん……なんて聞けばいいのか分かんなくて、今までずっと黙ってたんだけど…… ジェイド:殺し屋……とか……そういう言葉が聞こえてきたから……もしかしてチェルシー、なんか危ないことに巻き込まれてんのかなって……心配でさ。 チェルシー:……。 ジェイド:あのさ……きっと、俺なんかより、アデルの方がずっと……頭良いし、頼りになるし……かっこいい、し? ジェイド:だから……俺に話したってしょうがないって、思うかもしれないけどさ。 ジェイド:でも俺、チェルシーのこと……その……だ、大事な友達だって思ってるから。……だから、もしチェルシーが悩んでるなら……力になりたいんだ。 チェルシー:……ジェイド……。 0:少しの沈黙の後、チェルシーが口を開く。 チェルシー:……逆よ。 ジェイド:……え? チェルシー:あなたが頼りないとか、そういう風になんて思ってない。 チェルシー:むしろあなたは、私にとって……ううん、私たちにとって、光みたいなもんなの。 ジェイド:光……? チェルシー:……。 チェルシー:私は……私とアデルは……昔、殺し屋をやってた。 チェルシー:今までずっと隠してて……ごめん。 ジェイド:……、……。 チェルシー:今はもう、殺しはやってない。 チェルシー:二度とそういう仕事はしないって、アデルと二人で決めた。 チェルシー:……驚いたでしょ。 ジェイド:……何、が。 チェルシー:“大事な友達”だと思っていた相手が……人殺しだったなんて。 ジェイド:……。 チェルシー:分かってる。……私らみたいな人間が、善人みたいな顔して生きてること自体、間違ってるのよね。 チェルシー:……だから、本当は……あなたとこんなふうに一緒にいるのも……きっと間違ってる。 ジェイド:……なんで。 チェルシー:……私ね、あなたに初めて会ったとき、びっくりしたの。 チェルシー:こんなに優しくて、あったかくて……こんな、太陽みたいに眩しい笑顔で笑う人、この世界にいたんだ……って。 チェルシー:……同時に、怖くもなった。 チェルシー:もし、いつか……あなたを、こんな血生臭い世界に引きずり込むようなことになったら、って。 ジェイド:……チェルシー…… チェルシー:あなたには、普通の世界で、普通に暮らして……普通に、平穏に笑って、生きていてほしい。きっとアデルもそう思ってるはず。 チェルシー:あなたを、『こっち側』に巻き込みたくない。多分私たちは……本来出会うはずじゃなかったんだと思う。 ジェイド:……ッ…… ジェイド:そんな……こと…… 0:そのとき。 0:再びインターホンの音。 チェルシー:……はぁ、タイミング悪いわね、誰かしら。 0:チェルシーが席を立ち、扉を開ける。 0:そこに立っていたのは―― ルーカス:……ああ、どうも。突然すみませんね。 ルーカス:こちらは、何でも屋様ですか? チェルシー:そうですけど……ご依頼ですか? ルーカス:ええ、はい。そうです、依頼です。 ルーカス:……デュアルバレットというのは、あなたのことで? チェルシー:……ッ……!? 0:チェルシーが身構えるより早く、ルーカスがチェルシーに銃口を向ける。 ルーカス:初めまして、そして――……さようなら。 0:直後、銃声。 0:  0:  0:  0:その頃、メイン通りにて。 アデル:……ふぅ、こんだけ買っとけば満足だろ。 アデル:いちごショートと生チョコケーキと、モンブランとレアチーズと……って、少し買いすぎたか? アデル:ま、これくらいいいか。……ジェイドのやつ、結構落ち込んでたし。 アデル:あーあ、まーたチェルシーのダイエットが三日坊主になっちまうなぁ。……とりあえず、帰るか。 0:メイン通りを離れ、細い路地を通って帰ろうとするアデル。 0:しかしその行く手を、誰かが塞いでいた。 アデル:……ん? アデル:誰か……いる? 0:アデルが立ち止まる。 0:その相手が、口を開いた。 スカーレット:……なぜだ。 スカーレット:なぜお前がここにいる……アデル・クロウリー。 アデル:……あ? アデル:誰だ、お前。 スカーレット:ルーカスが仕留め損ねたのか……それとも、タイミング悪く入れ違ったのか……。 スカーレット:いずれにせよ……面倒だな。 アデル:何の話だ。 スカーレット:始末するなら二人まとめて……と思ったんだが。 スカーレット:どうやら……私が一人、引き受けなくてはいけなくなったらしい。 0:スカーレットが銃を構える。 アデル:……勘弁してくれよ、俺たちの始末はもう少し先にするって言ったろ、シルバー。 スカーレット:そのシルバーも、すぐに始末する。 アデル:……どういうことだ、それ。 アデル:シルバーの差し金じゃねぇってことかよ。 スカーレット:お前が詳しく知る必要はない。 スカーレット:ただ……ここで屍になれ。 アデル:……嫌だと言ったら? スカーレット:お前に選択肢など、あるわけがないだろう。 0:スカーレット、発砲。アデルは躱す。 アデル:……お前、何者だ。 スカーレット:名前など知ってどうする、冥土の土産にでもするか? アデル:頼むからこれ以上面倒事に巻き込まないでくれ、身内問題だけで十分だ。 スカーレット:随分と余裕だな……デュアルバレット。 アデル:……(ため息)。 アデル:その名前を知ってるってことは……俺たちに何か、恨みでもあんのか。 スカーレット:恨み……などと、そんな安っぽいものではない。 スカーレット:私は、自分の正義を貫くだけだ。 0:  0:  0:  0:回想。 0:十分間を置いてから、ジェイドナレーション。 ジェイド:(N)初めて彼女に出会ったのは、何年前だったっけ。 ジェイド:(N)たしか、うだるような暑さの、夏の日だった気がする。 ジェイド:(N)俺はたしか、子ども達と一緒に公園で遊んでいて…… ジェイド:(N)誰かが、ラジコン飛行機を木に引っかけちまったもんだから、木登りが得意な俺は軽々と登っていって、ラジコン飛行機を取ってやって……そこまでは良かったんだけど。 ジェイド:(N)まさかそこで、足を滑らせると思わなくて……俺はとんでもなく派手な音を立てて、地面に落ちた。 0:  ジェイド:いっ……てててて…… チェルシー:……大丈夫? ジェイド:……え? 0:  ジェイド:(N)多分……一目惚れだったんじゃないかな。 ジェイド:(N)俺に手を差し伸べてくれたその人は……なんていうか、こう……すごく綺麗に、俺には見えた。 ジェイド:(N)女神様でも降りてきたんじゃないかって、一瞬本気で思ったくらいだ。 0:  チェルシー:平気?立てる? ジェイド:あ、えっと、へ、平気…………あ痛ッ! チェルシー:ちょ、大丈夫!? ジェイド:うぐ……だ、大丈夫…… チェルシー:ちょっと見せて。 チェルシー:……腫れてはいないけど、軽く捻ったみたいね。 ジェイド:うぇ、まじか…… チェルシー:そこ座って。しばらく安静にしておいた方がいいわ。 チェルシー:私、氷貰ってくるから。それで少し冷やしましょ。ちょっと待っててね。 0:  ジェイド:(N)その人は、すごく慣れた様子でテキパキと俺の手当をしてくれて……看護師さんなのかなってちょっと思ったけど、実際聞いてみたらそうじゃないらしい。 0:  ジェイド:……何でも屋? チェルシー:そう。部屋の掃除とか買い物代行とか、引越しの手伝い、ペットのお散歩……たまーに、変わった依頼とかも来るけど、基本なんでも引き受けてるわよ。 ジェイド:へぇ……すげー……。 ジェイド:でも大変そうだな、何でもやるってさ。 チェルシー:うーん、まあたしかに……大変じゃないって言えば嘘になっちゃうけど……でも、それで喜んでくれる人がいるなら、私はどんな仕事でも頑張れちゃうかなって。 ジェイド:……ふーん。 0:  ジェイド:(N)そう語ってる彼女の横顔が、すごく輝いて見えて……ああこの人はきっと、めちゃくちゃ優しい人なんだろうなぁって、ぼんやり思った。 ジェイド:(N)そんなことがあってから俺たちは、いつの間にか仲良くなっていて、俺はしょっちゅう何でも屋に顔を出すようになっていた。 ジェイド:(N)そこで出会ったアデルって奴はチェルシーとは正反対で、ちょっと無愛想で感じ悪そうな奴だったけど、でも根は優しいんだって、すぐに分かった。 ジェイド:(N)アデルとチェルシーはめちゃくちゃ仲良くて……俺は多分……アデルには一生敵わないんだろうなって、何度も思ったけど。 ジェイド:(N)でも、もしチェルシーが困ってたりしたら、辛い思いしてたりしたら……俺は俺なりのやり方で、チェルシーを守るんだって……いつも、心のどこかで、決めていた。 0:  0:  0:  0:ルーカスの撃った銃弾はチェルシーではなく、チェルシーを押しのける形で飛び出した、ジェイドに命中した。 ジェイド:……ぐッ……! チェルシー:……ッ……!!! 0:そのまま倒れ込むジェイド。 チェルシー:……う、そ…… チェルシー:嘘、……ジェイド……ッ!! ルーカス:……おやおや……面倒なことになりましたねぇこれは……。 チェルシー:ジェイド!!しっかりして、ジェイド……ッ!!! ジェイド:……う、………… チェルシー:ど、どうしよ……とにかく、止血……!!! ジェイド:……あの……さ……チェルシー…… チェルシー:喋っちゃダメよジェイド……! ジェイド:アデルと、チェルシーと……俺が……一緒にいるのが、間違ってるなんて……俺、思えねぇんだ…… ジェイド:だって、さ……俺、知ってるよ……チェルシーが、すげぇ優しくて……笑うと可愛くて……料理、上手で…… チェルシー:喋っちゃ……ダメだってば…… ジェイド:俺は……チェルシーが……どんな過去を、背負ってたと、しても……チェルシーのことが……大切、だから…… ジェイド:だから……出会うはずじゃ、なかったなんて……そんな悲しいこと……言うなよ…… 0:そのままジェイドが意識を失う。 チェルシー:やだ……やめてよジェイド…… チェルシー:死んじゃダメ……絶対ダメ……ッ!! ルーカス:……は、お涙頂戴ですか。結構ですね。 ルーカス:まあ、生憎と僕はそういうのが好みでないので……すみませんけど、さっさと死んでもらえますかね、チェルシーさん。 チェルシー:…………。 チェルシー:………ふざ、けんな……… ルーカス:……ん?何か仰いました? チェルシー:ふざッけんな……ッ!! 0:チェルシーがルーカスに向けて銃を構える。 チェルシー:なんでよ……なんでなのよ……なんでジェイドが撃たれなきゃいけないのよ……ッ!! ルーカス:そんなの、僕に言われても困りますよ、僕が撃ちたくて撃ったんじゃありませんし。飛び出してきたのはそこの彼の方でしょう? ルーカス:てっきり、一緒にいるのはアデルさんだと思ったんですが……あーあ、本当に本当に面倒だ。関係ない人間がしゃしゃり出て来ないで欲しいんですけどね。 チェルシー:あんたなんなの、名乗りなさいよ……ッ! ルーカス:別に名乗るほどの者でもありませんが……そうですね、あなた方と同じ、便利屋ですよ。 ルーカス:ただし私は……あなた方が逃げ出した、『こちら側』の社会の人間、ですがね。 0:  0:  0:  0:その頃。 0:スカーレットと睨み合うアデル。 アデル:……正義だとかなんだとか、言ってる意味はよく分からねぇが。 アデル:とにかく敵……っていう認識でいいんだな。 スカーレット:……温いな。 アデル:……あ? スカーレット:銃口を向けられているというのに、銃を構えることすらしないとは。 アデル:……。 スカーレット:お前からは殺気の欠片も感じない。本当に殺し屋だったのかと問いかけたくなるほどに。……ぬるま湯に浸かりすぎてのぼせたか。 アデル:お前に関係な…… 0:直後、既にアデルの目の前へと移動しているスカーレット。 アデル:……ッ……!? アデル:(速い……ッ……!?) スカーレット:……地獄に落ちろ。 0:スカーレットがそのまま銃口をアデルの額に突き付け、引き金に指をかける。 アデル:……く、そ……ッ……!! 0:しかしアデルは素早くその腕を掴み、銃口を上空へと逸らした。 0:銃声。 スカーレット:……なるほど、反応は素早いな。 アデル:お前、本当になんなんだよ。 スカーレット:……名は、スカーレット。お前たちのような罪人を、白日の下で裁く者だ。 アデル:……ッ……!! 0:スカーレットの蹴りを躱し、距離をとるアデル。 アデル:(……こいつ……強い……) スカーレット:……そちらからは来ないのか。 アデル:殺し合いがしてぇのかよ。 スカーレット:まさか。多少腕が鈍っていてくれる方が……こちらとしては好都合だ。 0:再び銃を構えるスカーレット。 アデル:悪ぃが……鈍ってるわけじゃねぇよ。 0:次の瞬間、アデルが銃を抜き、引き金を引く。 0:銃弾がスカーレットの銃を弾き飛ばした。 スカーレット:……ッ…… アデル:帰れよ。お前の相手してる暇はねぇ。 アデル:俺は二度と殺しはしない。……お前と争う理由もない。 スカーレット:……二度としない、だと? スカーレット:そんな言葉で……罪を赦してもらおうとでも思っているのか。 アデル:……。 スカーレット:それにだ。私はお前と『争う』ために来たのではない。お前を『裁く』ために来た。 アデル:……裁く? スカーレット:お前の重ねてきた罪、数え切れぬほど奪ってきた命。……それはお前の勝手な感情で、なかったことにしていいものなどではない。 スカーレット:お前は、お前たちは、死ぬまでデュアルバレットだ。その名は消せん。そしてその罪は、誰かが裁かなくてはいけない。 アデル:……違う。 アデル:デュアルバレットは、もう死んでる。俺はもう……デュアルバレットじゃ、ない。 スカーレット:戯言を言うな。己の罪を見て見ぬふりなど…… アデル:お前が……分かったようなこと言うんじゃねぇよ。 アデル:何が分かるんだよ……お前に、俺の、何が。 スカーレット:……過去から目を背け、綺麗事を並べ立てて……善人のような顔をして生きて、己の今を正当化する。 スカーレット:それがお前か、アデル・クロウリー。……私が思っていたよりも弱い人間だな。 アデル:……うるせぇよ。上から目線で知ったふうに言うな。 スカーレット:弱い犬ほどよく吠える。 スカーレット:お前のその眼光に、もはや鋭さなど皆無。デュアルバレットが、聞いて呆れる。 アデル:……そろそろ黙れよ。 0:スカーレットが懐から別の銃を取り出し、アデルに向けて引き金を引く。 0:アデルは横に飛び、壁を足場としてスカーレットの背後に回り、そのまま足を払う。 スカーレット:……くッ……!!? 0:バランスを崩して倒れるスカーレット。その額に銃口を突き付けるアデル。 アデル:言ったろ、お前と無駄話してる暇なんてこっちにはねぇんだよ。 スカーレット:……。 アデル:俺たちはもう『そっち側』に絡まれるのは御免なんだよ。……頼むからもう関わらないでくれ。 スカーレット:……本当に、救いようのないほどに……脆弱だな。 アデル:……勝手に言ってろよ。誰になんと言われようが、これは俺が決めた償いの道だ。俺はもう、あの頃の俺には戻らない。 スカーレット:……そんな大層なことをほざいて、お前が前を向いて歩き出したとして、だ。 スカーレット:そのときお前の手によって奪われた命は、一体どうなる? アデル:……、……。 スカーレット:お前の記憶から消し去られれば、それでお終いか? スカーレット:お前の中で、勝手に暗い過去として封印され、彼方に追いやられて……たったそれだけで、その一つ一つの命はなかったことにされていくのか? アデル:……それ、は スカーレット:甘えたことを言うなよ、お前のような人間が、償いなどという言葉を軽々しく口にするな。 スカーレット:その言葉を盾にして、お前は過去から逃げているだけだろう。そんなことを一体、誰が許すというんだ。 アデル:……。 アデル:俺、は………… アデル:…………分かってる…………くそ…………。 0:銃をしまい、足早に路地から去っていくアデル。 スカーレット:……少なくとも私は……そんなことは許さない。 0:立ち上がり、アデルが去っていった方を睨むスカーレット。 スカーレット:次会う時は、お前が死ぬ時だ……アデル・クロウリー。 0:  0:  0:  0:ルーカスが発砲。チェルシーの右腕に命中する。 チェルシー:……ぐッ……!? 0:膝から崩れ落ちるチェルシーの手から、拳銃が滑り落ちる。 ルーカス:本当に、落ちるところまで落ちたんですねぇ、デュアルバレットは。 ルーカス:これくらいの弾、現役の頃のあなたなら簡単に避けられたんでしょうに。感情に走るからこうなる。……哀れですね。 チェルシー:……うる、さい…… ルーカス:何があなたをそこまで変えたんでしょう?どうしてあなたからは、殺しを生業とする者の鋭さが消えたんでしょうか? ルーカス:良心が痛んだから……そんな美しい理由なんかではないでしょうに。 ルーカス:罪滅ぼしと称して人助けなんてして、平和ボケした社会に溶け込んで……自分は“普通の”人間だとでも勘違いしちゃったんですかね。 ルーカス:その根っこは、どうやったって変えられない……腐りきった人殺しだっていうのに。 チェルシー:……うるさい……ッ!! チェルシー:あんたなんかに……あんたなんかに、何が分かるっていうのよ……ッ!! ルーカス:ええ、分かりませんよ。一ミリも理解できません。 ルーカス:だから僕の目には……あなたがどうしようもない愚か者に映ってしまう。 ルーカス:何がしたいんですかね、あなた方は。こんな生温い世界にぬくぬくと浸って、善人ごっこして、それで自分の血みどろの手を少しでも清めたつもりですか。……ハハ、反吐が出ますね、本当に。 ルーカス:あなたみたいな人、なんていうか知ってます? ルーカス:……“偽善者”。 チェルシー:……ッ……!! ルーカス:偽善に酔った挙句に、大事なお友達まで巻き込んじゃったんじゃ世話ないですよね、可哀想に。 ルーカス:……あなたのせいで死んじゃうんですかね、彼。 チェルシー:うるさい……わよ……ッ! ルーカス:ハハ、そろそろ現実見るのが苦しくなってきちゃいました? ルーカス:じゃあ、もういいですよ。……黙って、おやすみなさい。 アデル:……いや。 アデル:黙るのはテメェだよ。 0:直後。 0:銃声とともに倒れたのは、ルーカスの体だった。 ルーカス:なッ…… チェルシー:……あ……アデ、ル……! アデル:……なにが、どうなってんだよ。 アデル:なんで……なんでジェイドが…… 0:倒れているジェイドを見て拳を震わせるアデル。 ルーカス:……うッわ……本当に、サイアクだ…… ルーカス:タイミングが悪いにも……程がある……これ……僕がスカーレットさんに……怒られちゃうパターンでしょ……絶対…… アデル:スカーレット……お前、さっきの女の仲間かよ。 ルーカス:ああ、なんだ……既に会ってたんですか……痛ッ…… ルーカス:なんで……計画通りに、進んでくれないんですかね全く…… ルーカス:せめてアデルさん……チェルシーさんを殺ったあとに、来てくれれば良かったのに……あーもう…… アデル:……まだ喋るかよ。 0:銃口を突き付け、恐ろしいほど冷ややかにルーカスを見下ろすアデル。 ルーカス:ああもう……勘弁してくださいよ本当に……僕は別に、死にに来たんじゃ、ないんで…… ルーカス:くそ……こんなはずじゃ、なかったんですけどね…… 0:よろよろと立ち上がるルーカス。そのまま出口へと向かう。 チェルシー:……ちょっと、待ちなさいよあんた……ッ! ルーカス:いや、ここは帰らせてもらいますよ……この状況で、僕に勝ち目ないですから…… ルーカス:また、出直します……そのときは思う存分……楽しみましょうよ、デュアルバレット……! 0:去っていくルーカス。 0:握りしめた拳を震わせるアデル。血の滲む右腕を押さえながら俯くチェルシー。 0:  0:  0:  0:(十分間を置いてから) 0:病院にて。 チェルシー:……ごめん、アデル…… チェルシー:私のせいだ……私のせいで、ジェイド…… アデル:……お前が謝ることじゃない。 アデル:大丈夫だ、ジェイドは生きてる。目を覚ますのを待とう。 チェルシー:……でも…… アデル:落ち着けチェルシー。お前のせいじゃない。……俺が、もっと早く…… アデル:俺が……もっと…… 0:しばらく無言の両者。 アデル:……やっぱり チェルシー:……え? アデル:……やっぱり、間違ってたのかもな。 チェルシー:……何、が? アデル:俺みたいな人間がさ、善人みたいな顔して、普通の社会で生きてることが。 チェルシー:……。 アデル:……償えるわけ、なかったのかもしれない。そんな簡単なことじゃないって、分かってたつもりだったけど…… アデル:何でも屋なんて、ただの自己満足で……誰かの役に立ってる自分を客観視して、そんな自分を……自分で無理やり赦そうとしただけなのかもしれない。 アデル:俺……今まで何やってたんだろうな…… チェルシー:……アデル…… アデル:……悪いチェルシー、ちょっと外の空気吸ってくる。 チェルシー:……あ、……うん……。 0:外に出ていくアデル。 0:チェルシーはその後ろ姿を見て、苦しげに呟く。 チェルシー:……なんで、かな。 チェルシー:私は、ただ…… チェルシー:アデルに、二度とあんな顔してほしくなかっただけなのに…… チェルシー:……間違ってたのは……私の方、なのかな…… 0: