台本概要
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タイトル | 名探偵の低迷譚〜偽りの仮面〜 |
---|---|
作者名 | よぉげるとサマー (@gerutohoukai) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 4人用台本(不問4) ※兼役あり |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
名探偵の低迷譚〜偽りの仮面〜 コメディ色の強いシリアス成分も配合されているミステリーです。 名探偵の低迷譚シリーズ3作目です。 1話完結なので、シリーズどこからやっても基本問題無いです。 3カウントと書いてる区切りは、3秒くらい待ってからやればちょうどいいんじゃない? って意味です。 不問4人台本です。 役性別イメージでやりたい場合は、キャラ説明参照してください。 役としての性別イメージ的には、女2 男2 です。 が、あまり気にせず。ご自由に。 劇の音声が残るようにしてくれる場合は、 「よぉげるとサマー」と作者名を、ポストとか配信名に記載してくれると嬉しいです。 是非、聴きたいです。 あと、感想もくれると喜びます。 271 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
金田 | 不問 | 77 | 金田 一(かなだ はじめ)。名探偵? 気付くタイプの主人公。 役の性別イメージは、どちらかと言うと女。 |
明知 | 不問 | 111 | 明知 悟狼(めいち さとる)。名探偵? 見破るタイプの主人公。 役の性別イメージは、どちらかと言うと男。 |
古林 | 不問 | 26 | 古林 少大(こばやし しょうた)。部下 犬系男子な明知のファン。 役の性別イメージは、どちらかと言うと男。 |
橋場 | 不問 | 22 | 橋場 梁(はしば りょう)部下 やれやれ系の真面目さん。 役の性別イメージは、どちらかと言うと男。今回は古林と兼役推奨。 |
仮面 | 不問 | 65 | 仮面 麗音(かつら れね)。怪盗 ワンオペタイプの盗人。 役の性別イメージは、どちらかと言うと女。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:プロローグ―――
仮面:さて、もう良いだろう? カードを引きたく無いなら……教えておくれよ。保管庫のパスコードを。
明知:…………言わない。
仮面:ふふん……強情な奴。嫌いじゃあ無いけどね。でも、良いのかい? カードを引くので。
明知:いや……カードを引く気も無い。
仮面:はぁ……困ったもんだよ。そんなのが通ると思っているのかい? 君が引かないのなら、私がランダムに選ぶだけだよ、何も変わらない。
明知:……変わらない、か。
仮面:うん?
明知:ひとつ、質問をして良いか?
仮面:……そっちは答えないのにかい?
明知:答えない、という答えを出しているだろう。
仮面:あぁ、そうかい……それじゃあ、答えたくなる質問だったら、答えようじゃないか。それと、その質問の後、必ず一枚カードを引く。それでも良いなら、言ってご覧。
明知:…………どうして貴様は、カメレオンの振りをしてるんだ?
0:本編―――
金田:いやさー、別に派手な仕事ってーのが、したい訳じゃねーよ?
明知:そうだな。
金田:でもさー、私らも年相応、てかー、勤続年数相応ーに、ある程度のことは下に任せりゃえーじゃん、ってポジションにつきてーんだってーの。
明知:流石にそこまでのポジションになれる実績も年数も経ってないけどな。
金田:だからってー……なーんで、宝石の警備なーんて、やらされなきゃいけねーんだよー!
明知:……一応、警備の配置と状況を見る立場ではあるだろう。
金田:だとしてもだー! はぁ……性(しょう)に合わねーんだよー……こう、なんか……待ち構えるみたいなー、そういうの。
明知:気持ちは分かるけどな……ただ、これも仕事だ。大事な、な。
金田:分かってるってーのー。でもよー……なーんだって、犯行予告して、盗みに来るんだよ。
明知:自己顕示欲じゃないか? 君と同じで、派手なのが好きなんだろ。
金田:だーから、私はべつに、派手なのが良いわけじゃねーんだってー。
古林:俺は派手なの、結構好きですよ!
金田:あー?
明知:古林(こばやし)君……来たのか。
古林:明知(めいち)さんっ! 来ましたよぉ! 会いたかったっす!
金田:はぁー、うるっせぇ明知(めいち)ファンが来やがったよー。
明知:やめろ。ファンじゃない。
古林:ファンっすよ!
金田:ファンじゃねーか。
明知:ファンだ(ふぁんだ)。
金田:金田(かなだ)だっ!
古林:さっすがぁ! 認めたく無いことでも、茶化す為なら言っちゃうんすねぇ!
明知:いや、単なる条件反射だ。
金田:なお悪りぃわー!
明知:……で、持ち場を離れて何しに来たんだ?
古林:いやいや、きちんと代理立てて来てますって!
金田:代理立ててまで、サボりに来たってかー?
古林:嫌だなー、金田(かねだ)さん、単なる息抜きっすよー!
金田:金田(かなだ)だっ! 地味な間違え方すんなっ!
明知:それに、息抜きもサボりも一緒だ。
古林:まあまあ、鬼の居ぬ間に散策(おにのいぬまにさんさく)って事っすよ!
明知:……散策してどうするんだ。洗濯しろ。
古林:はいっ! 善処しますっ!
金田:返事だけは良いけどよー、微塵も改める気はねーぞー、こいつ。
明知:はぁ……困ったものだ。
古林:あっ、そうだ、忘れてたっ! ついでに聞きたいことも、ちゃんと持って来たんすよっ。
金田:いや、聞きたいことがある時だけ来いってーのー。
明知:まあ良い。なんだ?
古林:さすが明知(めいち)さん! 懐(ふところ)バカ広ーいっ!
金田:ぷぷっ、バカって言われてんぞー。
明知:ははっ、バーカ。
金田:あぁーん?
古林:まあまあ、明知(めいち)さんよりは、バカだって事っすよ。
金田:バカじゃねーしっ! てかそれ、フォローでも何でもねーよっ!
古林:ははっ。あ、それで、明知(めいち)さん、聞きたいんですけどー。
金田:鼻で笑いやがった……こいつ、バカにしやがりまくりやがってー! そこに直れーっ! 粛清してやるっ!
古林:警備の配置について、気になるところがあるんですよ。
明知:配置? どこのだ?
古林:えっと、ここなんですけど。出入口に対して、位置が微妙じゃないですか?
明知:あぁ、それは、ここに監視カメラがあるのと……。
金田:うー……聞けよっ!
明知:うるさいぞ……暇なら巡回して来い。
金田:ぐぐぐぐぅーっ……へんっ! 邪魔者扱いしやがってー! 行ってきてやるっ! 30分くらい戻ってこねーかんなー!
明知:長すぎだ(ながすぎだ)。
金田:金田(かなだ)だぁ―――っ!
古林:あー……行っちゃいましたね。金田(かねだ)さん。
明知:気にしなくて良い。あと……金田(かなだ)だ。
0:3カウント―――
金田:くっそー……大してやることねーってー……。てーか、普通に扉から警備かいくぐって来るんかねー?
橋場:……どうなんでしょう。怪人カメレオンは、いつの間にか侵入し、まるで消えるように去って行く、と……事前に聞いてましたけどね。
金田:変装の名人でー、色んな薬品使って警備の意識飛ばしたりー、機械警備の突破もお手のもの……ってー、これぜーんぶ実績あるってさー……無理なんじゃねーのー?
橋場:そうですね、ここまで怪盗のスペシャリストみたいなことをされてしまうと……。
金田:いやー……橋場(はしば)くーん。犯人検挙率100%の、君なら余裕だよねぇー?
橋場:いや、なんですかそれ。100%とか捏造しないで下さい。
金田:えー? あ、まさか……おりゃっ。
橋場:いででででっ! いだい、いだい、いだいっ!
金田:うーん、ただの皮膚かぁー。
橋場:痛ったぁ……いきなり顔を引っ張らないで下さいよ……。
金田:いやー、すまんすまん。よくあるじゃんかー、漫画とかでさー。変装がビリビリーってなるやつー。
橋場:いや……フィクションの見過ぎですよって。
金田:でもさー、特殊メイクってそんな感じじゃんかー。
橋場:そうかもしれないですけど……。
金田:お前もさ、誰か来たら頬でもつねっといてくれよー。私の指示ってことにして良いからさー。
橋場:えぇ……嫌なんですけど。
金田:でも実際さー、そこまでやらんと分からないってー。
橋場:それは……え、本気でやります?
金田:うん、本気でやろう。
橋場:……はぁ、分かりました。けど、そんなので、変装を見破れるんですかね?
金田:知らん。けど、また変装するまでの時間は稼げるんじゃねー?
橋場:確かに……?
金田:他にもさ、なーんか良い方法思い付いたら試してみてくれよー。
橋場:分かりましたから、そろそろ戻った方が良いんじゃないですか? もう、犯行予告の時間、迫ってますよ。
金田:あー、そうだなー……戻るかー、古林(こばやし)のバカも、もう居ないだろーし。
橋場:古林(こばやし)? あいつ、また明知(めいち)さんのとこ行ってたんですか?
金田:そーだよー、もー、うぜーのなんの。
橋場:はぁ……警備中なのに……ん、あれ?
金田:あー? どしたー?
橋場:いや……古林(こばやし)の配置って、向こうの部屋を挟んだところの廊下でしたよね?
金田:えっとー……あー、そうだな。
橋場:……それだと、可笑しくないですか?
金田:……何が?
橋場:配置図見せて下さい。
金田:ほらよ。
橋場:……古林(こばやし)の位置から、金田(かなだ)さん達のところへ行くには、基本的にここを通るしか無いですよね。
金田:……あー、そうだな。ここの扉は施錠されてるしー……ここは展示品で塞がれてる……おい、まさか、お前。
橋場:はい。古林(こばやし)は、必ず自分が居る廊下を通らないといけないのに……自分は古林(こばやし)の姿を見ていません。
0:3カウント―――
明知:……うぅっ……あ……こ、ここは?
仮面:……お目覚めかい?
明知:……っ、誰だ?
仮面:ふふん。当ててご覧よ。名・探・偵・さん。
明知:違うっ! ぐっ……くそっ。
仮面:おやおや、薬がまだ残ってるみたいだね。まあ、もうすぐ抜けるだろうから、安心しな。
明知:貴、様……はぁ……っ、カメレオン、か。
仮面:んー……まっ、正解。
明知:その顔……仮面を、付けているのか?
仮面:まだ視界も悪いみたいだねぇ。そうだよ、仮面さ。怪盗が素顔を晒す訳無いだろう?
明知:……こちらでは、怪人と呼ばれているけどな。
仮面:そうそう……なんで、そんなカッコ悪く呼ぶのかねぇ……後で怪盗に変えるように言っておくれよ。
明知:……それをお願いする為に、私を連れて来たのか?
仮面:まさか、本題はもちろん……今日のお仕事についてだよ。
明知:……犯罪の片棒を、担(かつ)ぐ気は無い。
仮面:連れないねぇ……誰にも言わないからさぁ、協力しておくれよ。
明知:信じられるかっ。
仮面:教えられる範囲で良いからさぁ。
明知:貴様に教えられる事なんて、無い。
仮面:……まあ、そうだろうねぇ……でさ、この保管庫なんだけど。
明知:話を進めるなっ! というか、何故その配置図を持っているんだ!
仮面:やだねぇ、あんたが持ってた物だよ、これ。あっ、お借りしてまぁす。
明知:ダメだ、お借りするな。
仮面:はい。それで、ここなんだけど。
明知:聞けよっ!
仮面:保管庫のパスコードが、どうしても掠め盗れなくてさ。
明知:……教えて欲しい、と?
仮面:教えて……くれるかい?
明知:馬鹿か、貴様はぁ!
仮面:うわっ、うるさぁい……突然、怒鳴らないでおくれよぉ……場所が誰かにバレたらどうするんだい?
明知:バレて欲しいね! うるさくすれば、ここがバレるんなら、大声で喋り続けてやるさ!
仮面:それは、ご免(めん)だねぇ……まあ、落ち着いて周りをご覧なさいよ。
明知:周り? ……ここは……まさかっ……保管庫かっ!
仮面:ふふん……大当たりぃ。
明知:……どうやって、ここまで。
仮面:それは、企業秘密……で、ここまでは上手く行った訳。だけど……あんたの後ろにある扉がねぇ……?
明知:……最先端のセキュリティシステムを突破するのは、怪人カメレオンでも難しかったということか。
仮面:ねぇ、その『怪人カメレオン』って呼び方、やめておくれよ……特撮物の敵みたいじゃないか。
明知:『怪盗』だったら、お気に召すのか?
仮面:妥協点ではあるけどねぇ……もう少し他に、良い呼び名があるんじゃないかい? 例えば……そう、『怪盗百面相(かいとう ひゃくめんそう)』とかさ。
明知:……貴様、あの『怪人十二面相(かいじん じゅうにめんそう)』の模倣犯(もほうはん)か?
仮面:模倣犯か……それは正しい認識じゃ無いねぇ。
明知:……どういう意味だ。
仮面:ふふん……かの名探偵、明智 幸四郎(あけち こうしろう)によって逮捕された『怪人十二面相』は……私の父だ。
0:3カウント―――
金田:おいっ、明知(めいち)っ!
明知:ん? どうしたんだ、そんなに走ると転ぶぞ……頼むから美術品を壊すなよ、鳥獣戯画田(ちょうじゅうぎがだ)。
金田:金田(かなだ)だっ! なっげぇーよっ!
橋場:……明知(めいち)さん、古林(こばやし)は?
明知:古林か? さっき持ち場に戻ると去って行ったが……すれ違わなかったのか?
金田:誰にも会ってねーよ……やっぱり、カメレオンは、古林に化けてんだっ!
明知:なにっ、どういうことだ!
橋場:古林が持ち場からここへ来るには、自分の前を通る必要があるのですが……古林の姿を、自分は一度も見ていないんです。
明知:何だと……っ、こちら明智っ、全班に告ぐっ! カメレオンは古林刑事に変装している可能性が高いっ、ただちに警備状況を確認っ! そして、古林の捜索に当たれ!
橋場:はいっ! 自分も、古林の持ち場など、確認して来ます!
金田:……おい、明知(めいち)。監視カメラの映像と、実地での確認。どっちに行く?
明知:そうだな……じゃあ、私が監視カメラで、君が実地で宝石の状況を確認、にしよう。
金田:りょーかい。
明知:任せたぞっ!
金田:…………こりゃあ……めんどーなことに、なっちまったかなー。
0:3カウント―――
明知:……あいつに、子供が居たとはな。
仮面:おや、あんまり驚かないんだねぇ?
明知:多少は驚いているさ……まさか、本当に私を明智(あけち)と勘違いしていたりするのか?
仮面:ふふん……え、違うのかい?
明知:なんだとぉ……?
仮面:ふははっ、冗談さぁ……明智 悟狼(めいち さとる)君。
明知:……茶番が好きな奴だ。
仮面:あぁ、カモミールティーの次に好きだねぇ。
明知:……そうかい。
仮面:さ、て。それじゃあ、明知(めいち)君。父の手練手管(てれんてくだ)を受け継いだ、この私にも解けない、最後の扉を開ける鍵を……教えておくれよ。
明知:はっ……誰が教えるか。
仮面:めぇいちぃ、くん。聞いただけで答えて貰えるとは、私も思っちゃいないよぉ。だから……これは実のところ、交渉の様な物だよ?
明知:……と言うと?
仮面:君の可愛い後輩。古林(こばやし)君の身柄(みがら)を、こちらで預かっていてね。
明知:……そうか、貴様、古林に変装していたのか。
仮面:そういうことさ。もし、君との交渉が決裂して、そこから捕まりそうになったとしても、古林君の身柄と交換で、私はこの場から逃げることも出来るんだよ。
明知:……じゃあ、最悪そうしろ。古林を盾にされても、私が保管庫の解除コードを教えることは無い。
仮面:そうかい……それは、残念だよ。じゃあ、このカードを引いておくれ。
明知:……何のつもりだ? というか、縛られて居るから、引けないが?
仮面:あぁ、うっかりしていたよ。じゃあ、声で指示してくれるだけで……って、あぁ、落としてしまった。
明知:……っ、おい、その……カードに書いてある言葉の意味は何だ?
仮面:あぁ……見えてしまったねぇ。この……『右足』のカードが。
明知:……どういう意味だと、聞いている。
仮面:興味が凄いねぇ。べつに、そのままだよ? 例えば、この『右足』を、君が選んでいたら……古林君の右足が、無くなる。それだけだよ。
明知:貴様っ……!
仮面:なんだいなんだい、怖い顔しちゃってぇ……良いじゃないか、命までは盗らないんだからさぁ。
明知:良い訳無いだろうっ!
仮面:ふふん……明知(めいち)君。私は殺人鬼じゃ無い。だけど、怪盗だ。言い換えれば、犯罪者という者さ。だからこそ……無闇に命は奪わないけれど……計画の為なら、手段は選ばないんだよ。
明知:……クズがっ。
仮面:そうだねぇ……けれど、そうなると分かって居ながら、パスコードを教えないのも……同じ穴の狸(たぬき)って奴じゃないかい?
明知:……それを言うなら、狸じゃなくて狢(むじな)だ。……それでも、お前程じゃ無いさ。
仮面:ふふん、五、六歩百歩(ご、ろっぽ ひゃっぽ)だよ。
明知:……なに?
仮面:それで、私としては、名探偵では無く、警察であり、部下思いの明知(めいち)君には……誠実な受け答えをして頂きたいのだけれど……どうだい?
明知:…………その程度の脅し、私には、ぬかに釘、だ。
仮面:いや、その程度って……これ、結構な脅しだと思うんだけどねぇ……。
明知:なあ……ぬかに釘、と同じような意味のことわざを知っているか?
仮面:えぇ……なんだい急に。えぇっと……あれかい? 簾に腕押し(すだれにうでおし)。
明知:……暖簾(のれん)だ。
仮面:あれ? ……良いだろう、べつに。似てるし。
明知:……ははっ。
仮面:笑うなっ! ふん……さて、もう良いだろう? カードを引きたく無いなら……教えておくれよ。保管庫のパスコードを。
明知:…………言わない。
仮面:ふふん……強情な奴。嫌いじゃあ無いけどね。でも、良いのかい? カードを引くので。
明知:いや……カードを引く気も無い。
仮面:はぁ……困ったもんだよ。そんなのが通ると思っているのかい? 君が引かないのなら、私がランダムに選ぶだけだよ、何も変わらない。
明知:……変わらない、か。
仮面:うん?
明知:ひとつ、質問をして良いか?
仮面:……そっちは答えないのにかい?
明知:答えない、という答えを出しているだろう。
仮面:あぁ、そうかい……それじゃあ、答えたくなる質問だったら、答えようじゃないか。それと、その質問の後、必ず一枚カードを引く。それでも良いなら、言ってご覧。
明知:…………どうして貴様は、カメレオンの振りをしてるんだ? 古林(こばやし)。
0:3カウント―――
金田:……おーい、何か分かったかー?
明知:いや……金田(かなだ)、早くないか? こっちはまだ全然見終わって無いぞ。
金田:えー、おせーってー。
明知:いいや、明らかに君が早過ぎるんだ。こんな時に、手を抜いたんじゃあるまいな?
金田:いや、ちゃーんと見て来たってーよー。特に異常無かったわー。
明知:いや……保管庫の中まで見に行ったのか?
金田:……いいや?
明知:おい……カスが(かすが)。
金田:金田(かなだ)だっ! てか、ここのカメラで見りゃーいーだろーがよー!
明知:それが……そこだけカメラの映像が細工されているんだ。数秒毎に少しアングルが変わるはずなのに、それが無い。
金田:えー……。
明知:嫌そうにするな。ここの映像が固定されているってことは……宝石に何かあったということだろう。
金田:そーだなー……で、気付いたのに、なーんで自分で行かねーんだよ。
明知:いや、君が行ってるはずだったろうがっ! 何の為の役割分担だっ!
金田:そーだよなー……何の為に、役割を分担したんだよ、お前。
明知:はぁ?
金田:お前がカメラを見る、そんで私が現場に向かう。どーして、別々に?
明知:はぁ……一体なんなんだ……その方が効率が良いだろう?
金田:そーかもな。でもよー……明知(めいち)は、そんな事しないね。
明知:……何?
金田:あいつはよー、私をぜんっぜん信用してねーんだよっ! だから……あいつなら、カメラ見るのなんて橋場(はしば)に任せて、私と二人で現場に突撃するってーのー。しかも、我先にな。
明知:……場合によるんだよ。そういう判断をする時はするが、今回のような犯人が古林(こばやし)や身内に変装している場合なら、カメラを確認するのも有効だろう?
金田:へへっ……理屈は分かるよ。けどなー……そうしない……出来ねーのが、明知(めいち)なんだよ。
明知:……どういう意味だ?
金田:意味も何もねーよ。単に……明知(めいち)は、機械オンチなんだよぉー! あのバカ、格好付けてる癖にっ、ぜーんぜん、機械いじれねーんだよぉー! ぷぷぷー!
明知:……っ、そんな……っ!
仮面:そんなデータ、私の調べでは無かったよ!
金田:正体現しやがったな……へへっ、そりゃそうだろうよー、そんなん……。
明知:嘘八百億(うそはっぴゃくおく)だからっ、なぁ!
金田:いでぇっ! こいつ、殴りやがったなー!
仮面:明知(めいち)君っ……。君、どうやってあそこから抜け出したんだい?
明知:ふんっ、寝ていた古林(こばやし)君を、起こしただけだ。
古林:明知(めいち)さんっ、本当にすみませんでしたーっ! この汚名は……コイツを逮捕して、天井させますっ!
金田:それだと、汚名がカンストするんじゃねーかー?
明知:返上してくれ、頼むから……。
仮面:ふふん……どうやって、催眠を解いたのやら……っ、君たちを、甘く見過ぎていたってことだねぇ……。
明知:催眠程度じゃ、馬鹿は直らないってことだな。運が悪かったと諦めて、牢屋で父親に孝行(こうこう)してこい。
金田:何だか知らねーけど、怪人カメレオン。お前の負けだ。
仮面:ふ、ふふ……ふふふふははははっ!
古林:笑うなっ! 明知(めいち)さんに馬鹿って言われて傷付いてんだよ、こっちは!
仮面:ふふふん……いや、失敬。馬鹿につける薬は無い……もとい、馬鹿につける仮面は無かったようだねぇ。私も、まだまだ、だよ。
明知:……やけに、余裕だな。
金田:あぁ……なんかありそうだな。
仮面:いや……私はそこら辺の、低俗な犯罪者とは違う。これまでは、警察との勝負に勝って、逃げおおせて来たんだ。負けた時は、素直にお縄につくさ……それがフェアってもんだろう?
古林:ぐぬぬ……敵ながら、あっぱれ。
金田:……気色悪りーな……何考えてやがる?
仮面:……勘繰り(かんぐり)過ぎだよ。私は君たち警察に、敬意を持って挑んでいる……ただそれだけさ。
明知:……怪人カメレオン……もとい、『怪盗百面相(かいとう ひゃくめんそう)』……貴様を、逮捕する。
仮面:ふふん……ありがとう、明知(めいち)君。
0:3カウント―――
古林:いや、マジで……今回は申し訳無かったです……。
明知:いや、仕方ないさ。私に変装して現れた奴に、薬品で昏倒(こんとう)させられたんだろう?
古林:はい……でも……よりによって……明知(めいち)さんの偽物を、見抜けないなんて……ぐぬぬぬぬっ……うぁあぁ……。
金田:きめーよ……。
明知:ま、まあ……変装の質は見事だった。見破れなくとも仕方ない。
古林:……俺がまだまだ、未熟だったってことですね。頑張ります。
金田:何を頑張ろーとしてんだかー……。
古林:あ、気を取り直して……カメレオンの護送(ごそう)、行って来ますね!
明知:あぁ、よろしく頼む。
金田:逃すなよー。
古林:うすっ! では、またっ! お疲れ様ですっ!
明知:……ふぅ。
金田:……『怪盗百面相』、ねぇ。
明知:その名の通りだったよ。
金田:親子で怪盗なんてよー、ろくでもねーけど……なんかちょっと格好良い気もするよなー。
明知:分からなくも無いが、心の中に留めておけよ。敵を作るぞ。
金田:へーい……なーんか、これもさ、名探偵どもの尻拭い感あったよなー。
明知:まぁ……だけど、そう言ってやるには、今回は少し可哀想だろう。
金田:まーなー。知らんわな、親子二代に渡って盗みするなんてなー。
明知:あぁ……まったく、ひょうたんから駒だな。
金田:……なに? 最近、ことわざにハマってんの?
明知:まあ……鬼に金棒(かなぼう)とかな。
金田:んー? ……あ、え? もしかしてそれ、名前いじり?
明知:そうだ。
金田:そうだ、って……そんな雑な……。
明知:鬼に金棒(かなぼう)、はいっ、せーのっ。
金田:金田(かなだ)だーっ! って、なんだこれー!
0:エピローグ―――
仮面:……すまないね。
古林:……いいよ。失敗は成功の元。って言うだろ?
仮面:……いや、道化を演じて貰って、って話さ。
古林:うん? あははっ……そんなの、君が変装してるようなもんだよ。アレが古林 少大(こばやし しょうた)なんだ。道化なんて言い方しないでくれよ。
仮面:……ふふん、悪かったよ。
古林:あぁ、本当に……悪い奴だ。
0:プロローグ―――
仮面:さて、もう良いだろう? カードを引きたく無いなら……教えておくれよ。保管庫のパスコードを。
明知:…………言わない。
仮面:ふふん……強情な奴。嫌いじゃあ無いけどね。でも、良いのかい? カードを引くので。
明知:いや……カードを引く気も無い。
仮面:はぁ……困ったもんだよ。そんなのが通ると思っているのかい? 君が引かないのなら、私がランダムに選ぶだけだよ、何も変わらない。
明知:……変わらない、か。
仮面:うん?
明知:ひとつ、質問をして良いか?
仮面:……そっちは答えないのにかい?
明知:答えない、という答えを出しているだろう。
仮面:あぁ、そうかい……それじゃあ、答えたくなる質問だったら、答えようじゃないか。それと、その質問の後、必ず一枚カードを引く。それでも良いなら、言ってご覧。
明知:…………どうして貴様は、カメレオンの振りをしてるんだ?
0:本編―――
金田:いやさー、別に派手な仕事ってーのが、したい訳じゃねーよ?
明知:そうだな。
金田:でもさー、私らも年相応、てかー、勤続年数相応ーに、ある程度のことは下に任せりゃえーじゃん、ってポジションにつきてーんだってーの。
明知:流石にそこまでのポジションになれる実績も年数も経ってないけどな。
金田:だからってー……なーんで、宝石の警備なーんて、やらされなきゃいけねーんだよー!
明知:……一応、警備の配置と状況を見る立場ではあるだろう。
金田:だとしてもだー! はぁ……性(しょう)に合わねーんだよー……こう、なんか……待ち構えるみたいなー、そういうの。
明知:気持ちは分かるけどな……ただ、これも仕事だ。大事な、な。
金田:分かってるってーのー。でもよー……なーんだって、犯行予告して、盗みに来るんだよ。
明知:自己顕示欲じゃないか? 君と同じで、派手なのが好きなんだろ。
金田:だーから、私はべつに、派手なのが良いわけじゃねーんだってー。
古林:俺は派手なの、結構好きですよ!
金田:あー?
明知:古林(こばやし)君……来たのか。
古林:明知(めいち)さんっ! 来ましたよぉ! 会いたかったっす!
金田:はぁー、うるっせぇ明知(めいち)ファンが来やがったよー。
明知:やめろ。ファンじゃない。
古林:ファンっすよ!
金田:ファンじゃねーか。
明知:ファンだ(ふぁんだ)。
金田:金田(かなだ)だっ!
古林:さっすがぁ! 認めたく無いことでも、茶化す為なら言っちゃうんすねぇ!
明知:いや、単なる条件反射だ。
金田:なお悪りぃわー!
明知:……で、持ち場を離れて何しに来たんだ?
古林:いやいや、きちんと代理立てて来てますって!
金田:代理立ててまで、サボりに来たってかー?
古林:嫌だなー、金田(かねだ)さん、単なる息抜きっすよー!
金田:金田(かなだ)だっ! 地味な間違え方すんなっ!
明知:それに、息抜きもサボりも一緒だ。
古林:まあまあ、鬼の居ぬ間に散策(おにのいぬまにさんさく)って事っすよ!
明知:……散策してどうするんだ。洗濯しろ。
古林:はいっ! 善処しますっ!
金田:返事だけは良いけどよー、微塵も改める気はねーぞー、こいつ。
明知:はぁ……困ったものだ。
古林:あっ、そうだ、忘れてたっ! ついでに聞きたいことも、ちゃんと持って来たんすよっ。
金田:いや、聞きたいことがある時だけ来いってーのー。
明知:まあ良い。なんだ?
古林:さすが明知(めいち)さん! 懐(ふところ)バカ広ーいっ!
金田:ぷぷっ、バカって言われてんぞー。
明知:ははっ、バーカ。
金田:あぁーん?
古林:まあまあ、明知(めいち)さんよりは、バカだって事っすよ。
金田:バカじゃねーしっ! てかそれ、フォローでも何でもねーよっ!
古林:ははっ。あ、それで、明知(めいち)さん、聞きたいんですけどー。
金田:鼻で笑いやがった……こいつ、バカにしやがりまくりやがってー! そこに直れーっ! 粛清してやるっ!
古林:警備の配置について、気になるところがあるんですよ。
明知:配置? どこのだ?
古林:えっと、ここなんですけど。出入口に対して、位置が微妙じゃないですか?
明知:あぁ、それは、ここに監視カメラがあるのと……。
金田:うー……聞けよっ!
明知:うるさいぞ……暇なら巡回して来い。
金田:ぐぐぐぐぅーっ……へんっ! 邪魔者扱いしやがってー! 行ってきてやるっ! 30分くらい戻ってこねーかんなー!
明知:長すぎだ(ながすぎだ)。
金田:金田(かなだ)だぁ―――っ!
古林:あー……行っちゃいましたね。金田(かねだ)さん。
明知:気にしなくて良い。あと……金田(かなだ)だ。
0:3カウント―――
金田:くっそー……大してやることねーってー……。てーか、普通に扉から警備かいくぐって来るんかねー?
橋場:……どうなんでしょう。怪人カメレオンは、いつの間にか侵入し、まるで消えるように去って行く、と……事前に聞いてましたけどね。
金田:変装の名人でー、色んな薬品使って警備の意識飛ばしたりー、機械警備の突破もお手のもの……ってー、これぜーんぶ実績あるってさー……無理なんじゃねーのー?
橋場:そうですね、ここまで怪盗のスペシャリストみたいなことをされてしまうと……。
金田:いやー……橋場(はしば)くーん。犯人検挙率100%の、君なら余裕だよねぇー?
橋場:いや、なんですかそれ。100%とか捏造しないで下さい。
金田:えー? あ、まさか……おりゃっ。
橋場:いででででっ! いだい、いだい、いだいっ!
金田:うーん、ただの皮膚かぁー。
橋場:痛ったぁ……いきなり顔を引っ張らないで下さいよ……。
金田:いやー、すまんすまん。よくあるじゃんかー、漫画とかでさー。変装がビリビリーってなるやつー。
橋場:いや……フィクションの見過ぎですよって。
金田:でもさー、特殊メイクってそんな感じじゃんかー。
橋場:そうかもしれないですけど……。
金田:お前もさ、誰か来たら頬でもつねっといてくれよー。私の指示ってことにして良いからさー。
橋場:えぇ……嫌なんですけど。
金田:でも実際さー、そこまでやらんと分からないってー。
橋場:それは……え、本気でやります?
金田:うん、本気でやろう。
橋場:……はぁ、分かりました。けど、そんなので、変装を見破れるんですかね?
金田:知らん。けど、また変装するまでの時間は稼げるんじゃねー?
橋場:確かに……?
金田:他にもさ、なーんか良い方法思い付いたら試してみてくれよー。
橋場:分かりましたから、そろそろ戻った方が良いんじゃないですか? もう、犯行予告の時間、迫ってますよ。
金田:あー、そうだなー……戻るかー、古林(こばやし)のバカも、もう居ないだろーし。
橋場:古林(こばやし)? あいつ、また明知(めいち)さんのとこ行ってたんですか?
金田:そーだよー、もー、うぜーのなんの。
橋場:はぁ……警備中なのに……ん、あれ?
金田:あー? どしたー?
橋場:いや……古林(こばやし)の配置って、向こうの部屋を挟んだところの廊下でしたよね?
金田:えっとー……あー、そうだな。
橋場:……それだと、可笑しくないですか?
金田:……何が?
橋場:配置図見せて下さい。
金田:ほらよ。
橋場:……古林(こばやし)の位置から、金田(かなだ)さん達のところへ行くには、基本的にここを通るしか無いですよね。
金田:……あー、そうだな。ここの扉は施錠されてるしー……ここは展示品で塞がれてる……おい、まさか、お前。
橋場:はい。古林(こばやし)は、必ず自分が居る廊下を通らないといけないのに……自分は古林(こばやし)の姿を見ていません。
0:3カウント―――
明知:……うぅっ……あ……こ、ここは?
仮面:……お目覚めかい?
明知:……っ、誰だ?
仮面:ふふん。当ててご覧よ。名・探・偵・さん。
明知:違うっ! ぐっ……くそっ。
仮面:おやおや、薬がまだ残ってるみたいだね。まあ、もうすぐ抜けるだろうから、安心しな。
明知:貴、様……はぁ……っ、カメレオン、か。
仮面:んー……まっ、正解。
明知:その顔……仮面を、付けているのか?
仮面:まだ視界も悪いみたいだねぇ。そうだよ、仮面さ。怪盗が素顔を晒す訳無いだろう?
明知:……こちらでは、怪人と呼ばれているけどな。
仮面:そうそう……なんで、そんなカッコ悪く呼ぶのかねぇ……後で怪盗に変えるように言っておくれよ。
明知:……それをお願いする為に、私を連れて来たのか?
仮面:まさか、本題はもちろん……今日のお仕事についてだよ。
明知:……犯罪の片棒を、担(かつ)ぐ気は無い。
仮面:連れないねぇ……誰にも言わないからさぁ、協力しておくれよ。
明知:信じられるかっ。
仮面:教えられる範囲で良いからさぁ。
明知:貴様に教えられる事なんて、無い。
仮面:……まあ、そうだろうねぇ……でさ、この保管庫なんだけど。
明知:話を進めるなっ! というか、何故その配置図を持っているんだ!
仮面:やだねぇ、あんたが持ってた物だよ、これ。あっ、お借りしてまぁす。
明知:ダメだ、お借りするな。
仮面:はい。それで、ここなんだけど。
明知:聞けよっ!
仮面:保管庫のパスコードが、どうしても掠め盗れなくてさ。
明知:……教えて欲しい、と?
仮面:教えて……くれるかい?
明知:馬鹿か、貴様はぁ!
仮面:うわっ、うるさぁい……突然、怒鳴らないでおくれよぉ……場所が誰かにバレたらどうするんだい?
明知:バレて欲しいね! うるさくすれば、ここがバレるんなら、大声で喋り続けてやるさ!
仮面:それは、ご免(めん)だねぇ……まあ、落ち着いて周りをご覧なさいよ。
明知:周り? ……ここは……まさかっ……保管庫かっ!
仮面:ふふん……大当たりぃ。
明知:……どうやって、ここまで。
仮面:それは、企業秘密……で、ここまでは上手く行った訳。だけど……あんたの後ろにある扉がねぇ……?
明知:……最先端のセキュリティシステムを突破するのは、怪人カメレオンでも難しかったということか。
仮面:ねぇ、その『怪人カメレオン』って呼び方、やめておくれよ……特撮物の敵みたいじゃないか。
明知:『怪盗』だったら、お気に召すのか?
仮面:妥協点ではあるけどねぇ……もう少し他に、良い呼び名があるんじゃないかい? 例えば……そう、『怪盗百面相(かいとう ひゃくめんそう)』とかさ。
明知:……貴様、あの『怪人十二面相(かいじん じゅうにめんそう)』の模倣犯(もほうはん)か?
仮面:模倣犯か……それは正しい認識じゃ無いねぇ。
明知:……どういう意味だ。
仮面:ふふん……かの名探偵、明智 幸四郎(あけち こうしろう)によって逮捕された『怪人十二面相』は……私の父だ。
0:3カウント―――
金田:おいっ、明知(めいち)っ!
明知:ん? どうしたんだ、そんなに走ると転ぶぞ……頼むから美術品を壊すなよ、鳥獣戯画田(ちょうじゅうぎがだ)。
金田:金田(かなだ)だっ! なっげぇーよっ!
橋場:……明知(めいち)さん、古林(こばやし)は?
明知:古林か? さっき持ち場に戻ると去って行ったが……すれ違わなかったのか?
金田:誰にも会ってねーよ……やっぱり、カメレオンは、古林に化けてんだっ!
明知:なにっ、どういうことだ!
橋場:古林が持ち場からここへ来るには、自分の前を通る必要があるのですが……古林の姿を、自分は一度も見ていないんです。
明知:何だと……っ、こちら明智っ、全班に告ぐっ! カメレオンは古林刑事に変装している可能性が高いっ、ただちに警備状況を確認っ! そして、古林の捜索に当たれ!
橋場:はいっ! 自分も、古林の持ち場など、確認して来ます!
金田:……おい、明知(めいち)。監視カメラの映像と、実地での確認。どっちに行く?
明知:そうだな……じゃあ、私が監視カメラで、君が実地で宝石の状況を確認、にしよう。
金田:りょーかい。
明知:任せたぞっ!
金田:…………こりゃあ……めんどーなことに、なっちまったかなー。
0:3カウント―――
明知:……あいつに、子供が居たとはな。
仮面:おや、あんまり驚かないんだねぇ?
明知:多少は驚いているさ……まさか、本当に私を明智(あけち)と勘違いしていたりするのか?
仮面:ふふん……え、違うのかい?
明知:なんだとぉ……?
仮面:ふははっ、冗談さぁ……明智 悟狼(めいち さとる)君。
明知:……茶番が好きな奴だ。
仮面:あぁ、カモミールティーの次に好きだねぇ。
明知:……そうかい。
仮面:さ、て。それじゃあ、明知(めいち)君。父の手練手管(てれんてくだ)を受け継いだ、この私にも解けない、最後の扉を開ける鍵を……教えておくれよ。
明知:はっ……誰が教えるか。
仮面:めぇいちぃ、くん。聞いただけで答えて貰えるとは、私も思っちゃいないよぉ。だから……これは実のところ、交渉の様な物だよ?
明知:……と言うと?
仮面:君の可愛い後輩。古林(こばやし)君の身柄(みがら)を、こちらで預かっていてね。
明知:……そうか、貴様、古林に変装していたのか。
仮面:そういうことさ。もし、君との交渉が決裂して、そこから捕まりそうになったとしても、古林君の身柄と交換で、私はこの場から逃げることも出来るんだよ。
明知:……じゃあ、最悪そうしろ。古林を盾にされても、私が保管庫の解除コードを教えることは無い。
仮面:そうかい……それは、残念だよ。じゃあ、このカードを引いておくれ。
明知:……何のつもりだ? というか、縛られて居るから、引けないが?
仮面:あぁ、うっかりしていたよ。じゃあ、声で指示してくれるだけで……って、あぁ、落としてしまった。
明知:……っ、おい、その……カードに書いてある言葉の意味は何だ?
仮面:あぁ……見えてしまったねぇ。この……『右足』のカードが。
明知:……どういう意味だと、聞いている。
仮面:興味が凄いねぇ。べつに、そのままだよ? 例えば、この『右足』を、君が選んでいたら……古林君の右足が、無くなる。それだけだよ。
明知:貴様っ……!
仮面:なんだいなんだい、怖い顔しちゃってぇ……良いじゃないか、命までは盗らないんだからさぁ。
明知:良い訳無いだろうっ!
仮面:ふふん……明知(めいち)君。私は殺人鬼じゃ無い。だけど、怪盗だ。言い換えれば、犯罪者という者さ。だからこそ……無闇に命は奪わないけれど……計画の為なら、手段は選ばないんだよ。
明知:……クズがっ。
仮面:そうだねぇ……けれど、そうなると分かって居ながら、パスコードを教えないのも……同じ穴の狸(たぬき)って奴じゃないかい?
明知:……それを言うなら、狸じゃなくて狢(むじな)だ。……それでも、お前程じゃ無いさ。
仮面:ふふん、五、六歩百歩(ご、ろっぽ ひゃっぽ)だよ。
明知:……なに?
仮面:それで、私としては、名探偵では無く、警察であり、部下思いの明知(めいち)君には……誠実な受け答えをして頂きたいのだけれど……どうだい?
明知:…………その程度の脅し、私には、ぬかに釘、だ。
仮面:いや、その程度って……これ、結構な脅しだと思うんだけどねぇ……。
明知:なあ……ぬかに釘、と同じような意味のことわざを知っているか?
仮面:えぇ……なんだい急に。えぇっと……あれかい? 簾に腕押し(すだれにうでおし)。
明知:……暖簾(のれん)だ。
仮面:あれ? ……良いだろう、べつに。似てるし。
明知:……ははっ。
仮面:笑うなっ! ふん……さて、もう良いだろう? カードを引きたく無いなら……教えておくれよ。保管庫のパスコードを。
明知:…………言わない。
仮面:ふふん……強情な奴。嫌いじゃあ無いけどね。でも、良いのかい? カードを引くので。
明知:いや……カードを引く気も無い。
仮面:はぁ……困ったもんだよ。そんなのが通ると思っているのかい? 君が引かないのなら、私がランダムに選ぶだけだよ、何も変わらない。
明知:……変わらない、か。
仮面:うん?
明知:ひとつ、質問をして良いか?
仮面:……そっちは答えないのにかい?
明知:答えない、という答えを出しているだろう。
仮面:あぁ、そうかい……それじゃあ、答えたくなる質問だったら、答えようじゃないか。それと、その質問の後、必ず一枚カードを引く。それでも良いなら、言ってご覧。
明知:…………どうして貴様は、カメレオンの振りをしてるんだ? 古林(こばやし)。
0:3カウント―――
金田:……おーい、何か分かったかー?
明知:いや……金田(かなだ)、早くないか? こっちはまだ全然見終わって無いぞ。
金田:えー、おせーってー。
明知:いいや、明らかに君が早過ぎるんだ。こんな時に、手を抜いたんじゃあるまいな?
金田:いや、ちゃーんと見て来たってーよー。特に異常無かったわー。
明知:いや……保管庫の中まで見に行ったのか?
金田:……いいや?
明知:おい……カスが(かすが)。
金田:金田(かなだ)だっ! てか、ここのカメラで見りゃーいーだろーがよー!
明知:それが……そこだけカメラの映像が細工されているんだ。数秒毎に少しアングルが変わるはずなのに、それが無い。
金田:えー……。
明知:嫌そうにするな。ここの映像が固定されているってことは……宝石に何かあったということだろう。
金田:そーだなー……で、気付いたのに、なーんで自分で行かねーんだよ。
明知:いや、君が行ってるはずだったろうがっ! 何の為の役割分担だっ!
金田:そーだよなー……何の為に、役割を分担したんだよ、お前。
明知:はぁ?
金田:お前がカメラを見る、そんで私が現場に向かう。どーして、別々に?
明知:はぁ……一体なんなんだ……その方が効率が良いだろう?
金田:そーかもな。でもよー……明知(めいち)は、そんな事しないね。
明知:……何?
金田:あいつはよー、私をぜんっぜん信用してねーんだよっ! だから……あいつなら、カメラ見るのなんて橋場(はしば)に任せて、私と二人で現場に突撃するってーのー。しかも、我先にな。
明知:……場合によるんだよ。そういう判断をする時はするが、今回のような犯人が古林(こばやし)や身内に変装している場合なら、カメラを確認するのも有効だろう?
金田:へへっ……理屈は分かるよ。けどなー……そうしない……出来ねーのが、明知(めいち)なんだよ。
明知:……どういう意味だ?
金田:意味も何もねーよ。単に……明知(めいち)は、機械オンチなんだよぉー! あのバカ、格好付けてる癖にっ、ぜーんぜん、機械いじれねーんだよぉー! ぷぷぷー!
明知:……っ、そんな……っ!
仮面:そんなデータ、私の調べでは無かったよ!
金田:正体現しやがったな……へへっ、そりゃそうだろうよー、そんなん……。
明知:嘘八百億(うそはっぴゃくおく)だからっ、なぁ!
金田:いでぇっ! こいつ、殴りやがったなー!
仮面:明知(めいち)君っ……。君、どうやってあそこから抜け出したんだい?
明知:ふんっ、寝ていた古林(こばやし)君を、起こしただけだ。
古林:明知(めいち)さんっ、本当にすみませんでしたーっ! この汚名は……コイツを逮捕して、天井させますっ!
金田:それだと、汚名がカンストするんじゃねーかー?
明知:返上してくれ、頼むから……。
仮面:ふふん……どうやって、催眠を解いたのやら……っ、君たちを、甘く見過ぎていたってことだねぇ……。
明知:催眠程度じゃ、馬鹿は直らないってことだな。運が悪かったと諦めて、牢屋で父親に孝行(こうこう)してこい。
金田:何だか知らねーけど、怪人カメレオン。お前の負けだ。
仮面:ふ、ふふ……ふふふふははははっ!
古林:笑うなっ! 明知(めいち)さんに馬鹿って言われて傷付いてんだよ、こっちは!
仮面:ふふふん……いや、失敬。馬鹿につける薬は無い……もとい、馬鹿につける仮面は無かったようだねぇ。私も、まだまだ、だよ。
明知:……やけに、余裕だな。
金田:あぁ……なんかありそうだな。
仮面:いや……私はそこら辺の、低俗な犯罪者とは違う。これまでは、警察との勝負に勝って、逃げおおせて来たんだ。負けた時は、素直にお縄につくさ……それがフェアってもんだろう?
古林:ぐぬぬ……敵ながら、あっぱれ。
金田:……気色悪りーな……何考えてやがる?
仮面:……勘繰り(かんぐり)過ぎだよ。私は君たち警察に、敬意を持って挑んでいる……ただそれだけさ。
明知:……怪人カメレオン……もとい、『怪盗百面相(かいとう ひゃくめんそう)』……貴様を、逮捕する。
仮面:ふふん……ありがとう、明知(めいち)君。
0:3カウント―――
古林:いや、マジで……今回は申し訳無かったです……。
明知:いや、仕方ないさ。私に変装して現れた奴に、薬品で昏倒(こんとう)させられたんだろう?
古林:はい……でも……よりによって……明知(めいち)さんの偽物を、見抜けないなんて……ぐぬぬぬぬっ……うぁあぁ……。
金田:きめーよ……。
明知:ま、まあ……変装の質は見事だった。見破れなくとも仕方ない。
古林:……俺がまだまだ、未熟だったってことですね。頑張ります。
金田:何を頑張ろーとしてんだかー……。
古林:あ、気を取り直して……カメレオンの護送(ごそう)、行って来ますね!
明知:あぁ、よろしく頼む。
金田:逃すなよー。
古林:うすっ! では、またっ! お疲れ様ですっ!
明知:……ふぅ。
金田:……『怪盗百面相』、ねぇ。
明知:その名の通りだったよ。
金田:親子で怪盗なんてよー、ろくでもねーけど……なんかちょっと格好良い気もするよなー。
明知:分からなくも無いが、心の中に留めておけよ。敵を作るぞ。
金田:へーい……なーんか、これもさ、名探偵どもの尻拭い感あったよなー。
明知:まぁ……だけど、そう言ってやるには、今回は少し可哀想だろう。
金田:まーなー。知らんわな、親子二代に渡って盗みするなんてなー。
明知:あぁ……まったく、ひょうたんから駒だな。
金田:……なに? 最近、ことわざにハマってんの?
明知:まあ……鬼に金棒(かなぼう)とかな。
金田:んー? ……あ、え? もしかしてそれ、名前いじり?
明知:そうだ。
金田:そうだ、って……そんな雑な……。
明知:鬼に金棒(かなぼう)、はいっ、せーのっ。
金田:金田(かなだ)だーっ! って、なんだこれー!
0:エピローグ―――
仮面:……すまないね。
古林:……いいよ。失敗は成功の元。って言うだろ?
仮面:……いや、道化を演じて貰って、って話さ。
古林:うん? あははっ……そんなの、君が変装してるようなもんだよ。アレが古林 少大(こばやし しょうた)なんだ。道化なんて言い方しないでくれよ。
仮面:……ふふん、悪かったよ。
古林:あぁ、本当に……悪い奴だ。