台本概要

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タイトル 魔法詠唱学。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 あるファンタジー世界に於ける魔法詠唱に関する学問。その講義。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
教授 不問 17 アルバート・ヒノクス・セルベリオ教授。魔法詠唱学の権威。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:『魔法詠唱学』 : 0:◇あらすじ◆ 0:魔法が存在する世界における、魔法詠唱の歴史と意義についての講義の一幕。 : 0:◆登場人物◇ 教授:アルバート・ヒノクス・セルベリオ教授。魔法詠唱学の権威。 : 0:◇◆◇ : 0:教壇にアルバート教授。 : 教授:ごきげんよう、諸君。 教授:アルバート・ヒノクス・セルベリオだ。 教授:魔法詠唱学の講義へようこそ。 : 教授:早速だが、諸君。 教授:魔法詠唱とは何か。分かる者はいるか? 教授:……魔法を発動する際に行う言語による魔法現象の固定化とルーティーンによる発動効果の安定。 教授:……では無い。巷にはそのような説もあるがな。 教授:さて、これは魔法詠唱学の前提であるが、 教授:今日我々が魔法を発動する際に行う大小様々な詠唱及び儀式的ジェスチャーに――特に意味は無い。 教授:ああ、不要だ。 : 教授:本来であれば、詠唱を行わずとも望んだ結果を得ることが可能だ。 教授:少なくとも、魔法発動の理論と感覚を理解していれば魔法の発動はできるし、それらを理解していなければ発動は難しい。 教授:また、詠唱を行うことで効果が増大したり、精度や展開速度が速まるというようなことはない。 教授:厳密には、詠唱することで高揚感や独特の集中力を生み出し、僅かに魔法効果が向上するといった例もあるにはあるが、詠唱を途中で失敗したことにより発動がめんどくさくなったり、意識が途切れて魔法そのものが失敗するケースさえある。 教授:酷い例では舌が七枚あると言われるエルダードラゴンになぞらえた、エルダードラゴン級と呼ばれる超絶高難度の長文高速詠唱に失敗した者が舌を噛み切って落命したという例もある。 教授:何か付与効果を狙いたいのなら、黙って瞑想を行うか、逆に雄叫びでも上げる方が手っ取り早いだろう。 : 教授:では、何故我々が魔法を行使するにあたり、言葉を用いた詠唱を必要としたのか。 教授:それを今から諸君に講義しよう。 : 教授:さて、魔法詠唱の起源は今から1500年前にあった『勇魔大戦』まで遡るのだが、 教授:知っての通り勇魔大戦は、『魔王』と呼ばれた魔人族の頭目と、人間族の代表であった『勇者』の戦いを主とした一連の戦だ。 教授:そして魔法詠唱学会では、魔法詠唱はその勇者を起源とする説がもっとも有力だ。 教授:また、それ以前にも詠唱を行う動きはあったとする説もある。 教授:27000年前の古エルフ族の文献、エルフェリオ詩集はまさしく、魔法を使用する際の文言が記載された書物だ。 教授:しかし一説には、これは詠唱では無く彼ら古エルフ族特有の、歌いながら魔法をぶっ放すという奇祭に使用された歌詞のようなもので、彼らの営みにおける魔法は、ごく淡々としていたとする向きが強い。 教授:余談だが、この歌詞や魔法というのもかなり出鱈目なもので、想いを寄せる人への愛を唄いながら魔法で森を吹き飛ばしたり、未来を憂いながら大洪水を引き起こす魔法を放ったりしていたそうだ。 教授:これは古エルフ族が滅んだ遠因とも言われるがさておき、この風習は途絶している為、今日の詠唱文化に大きな繋がりは無い。 : 教授:さて、今から1500年前のにあった勇魔大戦と、魔法詠唱を決定づけた勇者に話を戻すとしよう。 教授:勇者についてはお伽噺でほとんどの者が知っていることだろうが、凄まじい魔法の使い手だったとされている。 教授:それこそ、お話の中にも魔法詠唱や必殺技を叫ぶ描写が散見される。 教授:そして実際の勇者も、魔法を行使する際には、どんな些細な魔法現象でさえ全て口に出す人物だったと当時の魔王・ゼディオロヴァルメギウス氏が証言している。 教授:余談だが氏は健在で、今はニシュリオテ霊山でヒメクラテス草を発酵させたヒメクラ茶農家をされているそうで、氏のお茶はとても美味だ。 : 教授:ところで、勇者なのだが元々はこの世界の住人でなかったとの記録があり、これが詠唱文化が始まる切っ掛けともなっている。 教授:勇者はこの世界を救うために女神様に導かれた存在という伝承が囁かれ、昨年までは教科書にもそう記載されていた。 教授:しかしこれについては、訂正が必要か。 教授:手違いにより異世界から転移させられてきた青年を、巧みな言葉で勇者にまつり上げることで、女神様が不祥事の隠蔽を謀ったという汚職が、大戦後の内部告発によって明らかになり、女神様による拉致及び不当な戦争従事に事件性が認められ、先日47代に渡る不屈の裁判の末に見事勇者子孫側が勝利したのは記憶に新しいな。 : 教授:さておき、勇者は異邦人であり、魔法ネイティブで無かった。 教授:その為、魔法理論を一度口に出して言語に置換しなければ魔法を発動できなかったとの記録がある。 : 教授:冒頭に話した、魔法詠唱学の前提「魔法詠唱は不要」という話に戻るが、我々魔法ネイティブは魔法を呼吸のように自然に出来る。少なくとも大戦以前はそれが一般的だった。 教授:その為、わざわざ口に出すという発想すら無く、寧ろ彼の行為は新鮮に映った訳だな。 教授:この違和感は、喩えるなら呼吸しますと宣言しながら呼吸をしていたようなものなのだが、これが存外民衆にウケたと、当時最も勢いのあった国家、ミスディオールの王国史にも記述されている程で、反響は推して知るべしだな。 教授:面白がられたことは言うに及ばずなのだが、それを差し引いても勇者は段違いに高い魔法適正や戦闘技能を持ち、地図を書き換えるほどの絶大な魔法を行使できた為、同時に憧れや畏敬を集めたとされている。 教授:他にも四字熟語や故事成語、シェイクスピア―なる異界の劇作などから引用したとされる決め台詞の数々は、彼によってこの世界に持ち込まれた文化であるが、その中でもごく一般的に大衆に広く受け入れられたのは魔法詠唱と必殺技だ。 : 教授:魔法詠唱と同様に、戦いの最中、事前に考えておいた技名或いは突発的に思いついた技名を叫ぶというのは、それまでの価値観には存在せず、当時の人々が信じられ無いほどの衝撃を受けたことは想像に難くない。 教授:もちろん、技名を叫ぶことにもまた、特に意味は無く、勢い余って舌を噛み千切るリスクや、必要なときに食いしばれず力が出ないといったデメリットも生じるのだが、やはりなんだかんだで評判となった。 教授:例えば、彼が得意としたとされる雷撃魔法と十字斬りを掛け合わせたサンダークロスなる奥義は、当時の剣士のトレンドになり、サンダークロスを軸とした剣技、サンダークロス道の人気は未だ根強く、かの雷帝が治めた西レーザンガルド帝国において国技となっているのは諸君も知っての通りだ。 教授:こちらは、文化必殺技学の分野なので、詳しく知りたい者はソレ・エモイ教授の講義を受講すると良いだろう。なかなかに興味深いぞ。 : 教授:さて、そうした勇者の力強さや格好良さにあやかろうと、真似をする者が現れるのに然程時間はかからなかった。 教授:勇者の堂々とした振るまいが「魔法を詠唱するのは不自然」「攻撃を行う際に自分で考えた技名を叫ぶのは恥ずかしい」という既存の概念を覆し、それはクールで力強い様であると信じさせた。 : 教授:これが俗に言う『勇者△効果』だ。 : 教授:まとめると、勇者へのリスペクトとして、この詠唱文化は浸透したということだな。 教授:ちなみに魔王・ゼディオロヴァルメギウス氏もこの動きを推進した一人で、魔人族に魔法詠唱の文化が定着したのは氏の活動の影響が大きいとされている。 教授:氏は、世界の命運をかけた一騎打ちにおいて、如何にも真面目な顔で5分間にも及ぶ絶大な魔法詠唱を一言一句噛むこと無く行った勇者に感銘を受けたと当時のことを語っている。 教授:そして氏の心を動かした勇者の魔法詠唱は、終わり無き勇魔大戦に幕を下ろすに至り、その結果として今日の平和があり、魔法を行使する際に囁かれる魔法詠唱とはつまるところ、平和の祝詞でもあるのだ。 : 教授:それと、これはあくまで私見だが。 教授:強力な魔法の名手である勇者の行使した真の魔法は、本来彼にしか意味のなかった筈の行為によって、人々の心を、世界を変革し、平和に導いた『魔法詠唱』なのだろうな。 : 教授:と、魔法詠唱学の起源については以上だ。 教授:こうして魔法詠唱学の門を叩いた諸君には、その歴史と文化と実践的な詠唱を学ぶと共に、ぜひとも、かの勇者のように平和を愛する心を持ってもらいたい。 : 教授:本日の講義はこれまで。 教授:では、来週までに本講義の感想と諸君の考えた最強の魔法詠唱についてのレポートを提出するように。

0:『魔法詠唱学』 : 0:◇あらすじ◆ 0:魔法が存在する世界における、魔法詠唱の歴史と意義についての講義の一幕。 : 0:◆登場人物◇ 教授:アルバート・ヒノクス・セルベリオ教授。魔法詠唱学の権威。 : 0:◇◆◇ : 0:教壇にアルバート教授。 : 教授:ごきげんよう、諸君。 教授:アルバート・ヒノクス・セルベリオだ。 教授:魔法詠唱学の講義へようこそ。 : 教授:早速だが、諸君。 教授:魔法詠唱とは何か。分かる者はいるか? 教授:……魔法を発動する際に行う言語による魔法現象の固定化とルーティーンによる発動効果の安定。 教授:……では無い。巷にはそのような説もあるがな。 教授:さて、これは魔法詠唱学の前提であるが、 教授:今日我々が魔法を発動する際に行う大小様々な詠唱及び儀式的ジェスチャーに――特に意味は無い。 教授:ああ、不要だ。 : 教授:本来であれば、詠唱を行わずとも望んだ結果を得ることが可能だ。 教授:少なくとも、魔法発動の理論と感覚を理解していれば魔法の発動はできるし、それらを理解していなければ発動は難しい。 教授:また、詠唱を行うことで効果が増大したり、精度や展開速度が速まるというようなことはない。 教授:厳密には、詠唱することで高揚感や独特の集中力を生み出し、僅かに魔法効果が向上するといった例もあるにはあるが、詠唱を途中で失敗したことにより発動がめんどくさくなったり、意識が途切れて魔法そのものが失敗するケースさえある。 教授:酷い例では舌が七枚あると言われるエルダードラゴンになぞらえた、エルダードラゴン級と呼ばれる超絶高難度の長文高速詠唱に失敗した者が舌を噛み切って落命したという例もある。 教授:何か付与効果を狙いたいのなら、黙って瞑想を行うか、逆に雄叫びでも上げる方が手っ取り早いだろう。 : 教授:では、何故我々が魔法を行使するにあたり、言葉を用いた詠唱を必要としたのか。 教授:それを今から諸君に講義しよう。 : 教授:さて、魔法詠唱の起源は今から1500年前にあった『勇魔大戦』まで遡るのだが、 教授:知っての通り勇魔大戦は、『魔王』と呼ばれた魔人族の頭目と、人間族の代表であった『勇者』の戦いを主とした一連の戦だ。 教授:そして魔法詠唱学会では、魔法詠唱はその勇者を起源とする説がもっとも有力だ。 教授:また、それ以前にも詠唱を行う動きはあったとする説もある。 教授:27000年前の古エルフ族の文献、エルフェリオ詩集はまさしく、魔法を使用する際の文言が記載された書物だ。 教授:しかし一説には、これは詠唱では無く彼ら古エルフ族特有の、歌いながら魔法をぶっ放すという奇祭に使用された歌詞のようなもので、彼らの営みにおける魔法は、ごく淡々としていたとする向きが強い。 教授:余談だが、この歌詞や魔法というのもかなり出鱈目なもので、想いを寄せる人への愛を唄いながら魔法で森を吹き飛ばしたり、未来を憂いながら大洪水を引き起こす魔法を放ったりしていたそうだ。 教授:これは古エルフ族が滅んだ遠因とも言われるがさておき、この風習は途絶している為、今日の詠唱文化に大きな繋がりは無い。 : 教授:さて、今から1500年前のにあった勇魔大戦と、魔法詠唱を決定づけた勇者に話を戻すとしよう。 教授:勇者についてはお伽噺でほとんどの者が知っていることだろうが、凄まじい魔法の使い手だったとされている。 教授:それこそ、お話の中にも魔法詠唱や必殺技を叫ぶ描写が散見される。 教授:そして実際の勇者も、魔法を行使する際には、どんな些細な魔法現象でさえ全て口に出す人物だったと当時の魔王・ゼディオロヴァルメギウス氏が証言している。 教授:余談だが氏は健在で、今はニシュリオテ霊山でヒメクラテス草を発酵させたヒメクラ茶農家をされているそうで、氏のお茶はとても美味だ。 : 教授:ところで、勇者なのだが元々はこの世界の住人でなかったとの記録があり、これが詠唱文化が始まる切っ掛けともなっている。 教授:勇者はこの世界を救うために女神様に導かれた存在という伝承が囁かれ、昨年までは教科書にもそう記載されていた。 教授:しかしこれについては、訂正が必要か。 教授:手違いにより異世界から転移させられてきた青年を、巧みな言葉で勇者にまつり上げることで、女神様が不祥事の隠蔽を謀ったという汚職が、大戦後の内部告発によって明らかになり、女神様による拉致及び不当な戦争従事に事件性が認められ、先日47代に渡る不屈の裁判の末に見事勇者子孫側が勝利したのは記憶に新しいな。 : 教授:さておき、勇者は異邦人であり、魔法ネイティブで無かった。 教授:その為、魔法理論を一度口に出して言語に置換しなければ魔法を発動できなかったとの記録がある。 : 教授:冒頭に話した、魔法詠唱学の前提「魔法詠唱は不要」という話に戻るが、我々魔法ネイティブは魔法を呼吸のように自然に出来る。少なくとも大戦以前はそれが一般的だった。 教授:その為、わざわざ口に出すという発想すら無く、寧ろ彼の行為は新鮮に映った訳だな。 教授:この違和感は、喩えるなら呼吸しますと宣言しながら呼吸をしていたようなものなのだが、これが存外民衆にウケたと、当時最も勢いのあった国家、ミスディオールの王国史にも記述されている程で、反響は推して知るべしだな。 教授:面白がられたことは言うに及ばずなのだが、それを差し引いても勇者は段違いに高い魔法適正や戦闘技能を持ち、地図を書き換えるほどの絶大な魔法を行使できた為、同時に憧れや畏敬を集めたとされている。 教授:他にも四字熟語や故事成語、シェイクスピア―なる異界の劇作などから引用したとされる決め台詞の数々は、彼によってこの世界に持ち込まれた文化であるが、その中でもごく一般的に大衆に広く受け入れられたのは魔法詠唱と必殺技だ。 : 教授:魔法詠唱と同様に、戦いの最中、事前に考えておいた技名或いは突発的に思いついた技名を叫ぶというのは、それまでの価値観には存在せず、当時の人々が信じられ無いほどの衝撃を受けたことは想像に難くない。 教授:もちろん、技名を叫ぶことにもまた、特に意味は無く、勢い余って舌を噛み千切るリスクや、必要なときに食いしばれず力が出ないといったデメリットも生じるのだが、やはりなんだかんだで評判となった。 教授:例えば、彼が得意としたとされる雷撃魔法と十字斬りを掛け合わせたサンダークロスなる奥義は、当時の剣士のトレンドになり、サンダークロスを軸とした剣技、サンダークロス道の人気は未だ根強く、かの雷帝が治めた西レーザンガルド帝国において国技となっているのは諸君も知っての通りだ。 教授:こちらは、文化必殺技学の分野なので、詳しく知りたい者はソレ・エモイ教授の講義を受講すると良いだろう。なかなかに興味深いぞ。 : 教授:さて、そうした勇者の力強さや格好良さにあやかろうと、真似をする者が現れるのに然程時間はかからなかった。 教授:勇者の堂々とした振るまいが「魔法を詠唱するのは不自然」「攻撃を行う際に自分で考えた技名を叫ぶのは恥ずかしい」という既存の概念を覆し、それはクールで力強い様であると信じさせた。 : 教授:これが俗に言う『勇者△効果』だ。 : 教授:まとめると、勇者へのリスペクトとして、この詠唱文化は浸透したということだな。 教授:ちなみに魔王・ゼディオロヴァルメギウス氏もこの動きを推進した一人で、魔人族に魔法詠唱の文化が定着したのは氏の活動の影響が大きいとされている。 教授:氏は、世界の命運をかけた一騎打ちにおいて、如何にも真面目な顔で5分間にも及ぶ絶大な魔法詠唱を一言一句噛むこと無く行った勇者に感銘を受けたと当時のことを語っている。 教授:そして氏の心を動かした勇者の魔法詠唱は、終わり無き勇魔大戦に幕を下ろすに至り、その結果として今日の平和があり、魔法を行使する際に囁かれる魔法詠唱とはつまるところ、平和の祝詞でもあるのだ。 : 教授:それと、これはあくまで私見だが。 教授:強力な魔法の名手である勇者の行使した真の魔法は、本来彼にしか意味のなかった筈の行為によって、人々の心を、世界を変革し、平和に導いた『魔法詠唱』なのだろうな。 : 教授:と、魔法詠唱学の起源については以上だ。 教授:こうして魔法詠唱学の門を叩いた諸君には、その歴史と文化と実践的な詠唱を学ぶと共に、ぜひとも、かの勇者のように平和を愛する心を持ってもらいたい。 : 教授:本日の講義はこれまで。 教授:では、来週までに本講義の感想と諸君の考えた最強の魔法詠唱についてのレポートを提出するように。