台本概要

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タイトル STRAYSHEEP Ⅶ
作者名 紫音  (@Sion_kyo2)
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男2、女3)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 『――終わらせるのは、お前だ』
ルシアに突き付けられた一つの真実。それはあまりにも残酷に、彼女の心を抉っていく。
しかし、悲しみに浸る時間すら与えずに鳴り響いた銃声。裁くのは、裁かれるのは、誰なのか――
――――――――――――――――――――――――――――――――
STRAYSHEEPシリーズ七作目になります。
時間は30分~40分を想定しています。
上演の際、お手数でなければお知らせいただけると嬉しいです。※必須ではないです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ルシア 64 殺し屋。ロイドの相棒(バディ)。シルバーを父親のように慕っている。
ロイド 64 殺し屋。ルシアの相棒(バディ)。
シルバー 59 殺し屋組織のトップ。ルシアやロイドからは「ボス」と呼ばれている。
スカーレット 52 バウンティハンター。父親を殺したシルバーを憎んでいる。
ノエル 55 元バウンティハンター。無愛想で雑な敬語を話す。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:とある病院にて。 0:ロイドが病室を出ると、廊下にシルバーが立っている。 シルバー:無事、退院か、ロイド。 ロイド:……あんたが見舞いとは珍しいじゃないか。普段ならそんな優しいことしないのに。 シルバー:……普段なら、な。 ロイド:……? シルバー:それよりも……妹の方は大丈夫なのか。彼女の方が重傷だったんだろう? ロイド:……ああ…… ロイド:幸い、命は助かったけどね。まだ眠ってる。……まあ、しばらく入院だよ。 シルバー:ここの医者の腕は俺も信頼している。心配せずとも大丈夫だろう。 ロイド:そうじゃなきゃ困る。 0:そのまま病院を出て行こうとするロイド。 シルバー:待て、ロイド。 ロイド:……なんだい? シルバー:どこに行くつもりだ。 ロイド:……。 シルバー:……やめておけ。 ロイド:まだ何も言ってないけど? シルバー:とにかく待て。……まずは俺の話を聞け。 0:振り返り、シルバーをじっと見つめるロイド。 ロイド:……へぇ、なるほどね。 ロイド:“普段なら”お見舞いなんて優しいことしないけど……今回のは“普段”とは違う。そういうことかい。 シルバー:……スカーレット。 シルバー:お前を撃った女は、間違いなくそう名乗ったんだな。 ロイド:ああ。ちゃーんとこの耳でそう聞いたよ。 シルバー:あれは……お前の敵う相手ではない。 ロイド:……あ?なんでだよ。 シルバー:バウンティハンターのスカーレット……またの名を、【女王(クイーン)】。 シルバー:一度狙った獲物は、地の果てまでも追いかけて、必ずその手で仕留める。どんな手段を使おうと、どれだけ時間をかけようと。 シルバー:ゆえに……簡単に倒れるような実力で挑んできてはいない。お前では勝てないぞ、ロイド。 ロイド:……。 ロイド:……だったら、なんだよ。 シルバー:……なに? ロイド:あの女がどれだけ強いかとか、何が目的かとか、そういうことはどうでもいいんだよ。 ロイド:俺にとって重要なのは……大事な妹が、あの女にボコボコにされたってことだけなんだよ。 ロイド:それ以外のことはどうでもいい。だからあんたがどう止めようと無駄だよ。 シルバー:……行ってどうするつもりだ。 ロイド:さあねぇ、まだどうするかは考えてないけど……とりあえず、散々痛い目に遭わせてくれたお礼だけはしてやらねぇと。 シルバー:……感情に走るか。お前にしては珍しい。 ロイド:そうかい?俺は割といつも感情で生きてるよ。 ロイド:それに、思い出したからさ。……こんな俺でも、あいつにとってのたった一人の兄貴なんだってこと。 シルバー:……そうか。 シルバー:止めても、無駄か。 ロイド:悪いね。まあ死ぬようなヘマはしないから安心しなよ。 ロイド:……あいつが目が覚めたときには、全部終わらせておいてやりたいからさ。 0:そのまま病院を出ていくロイド。 0:シルバーは黙って、その後ろ姿を見つめていた。 0:  0:  0:  0:某所にて。 0:スカーレット、誰かと通話をしている。 スカーレット:……そうか、分かった。 スカーレット:とにかくお前が無事で安心した、ルーカス。……いや、気にするな。タイミングが悪すぎたんだろう。 スカーレット:せめて私がアデル・クロウリーを始末できれば良かったが……やはりまだ、奴の腕は鈍っていないらしい。一筋縄ではいかないようだ。 スカーレット:……ああ、そうだな。今後のことについては―― ノエル:……スカーレット。 スカーレット:……。 0:見ると、いつの間にかそこにノエルが立っている。 0:その表情は死にきっており、光のない目がスカーレットを睨む。 ノエル:探しましたよ……どこにもいないもんだから。 スカーレット:……。 スカーレット:……ルーカス、またかけ直す。 0:通話を切り、スマートフォンをしまうスカーレット。 0:お互い正面から向き合い、静かに睨み合う。 ノエル:……ああすいません、電話中でした? スカーレット:いや……構わん。 スカーレット:お前の方こそ、今の今までどこに行っていた。『シルバーを追うのはやめる』などというメールだけをよこして、それきりだったじゃないか。 ノエル:はは、ちょっとね。……墓参りに、行ってたもんで。 スカーレット:……ノエル。 スカーレット:バウンティハンターの仕事だけなら、個人でも十分できる。私たちが組んでいたのは、“シルバーを追う”という共通の目的があったからだ。……だがそれが共通のものでなくなったとすれば。 ノエル:……ええ、そういうことですよ。 ノエル:私はもう、あんたと同じ場所は目指せない。私の中で、根本から覆っちゃったから。……ずっと滾ってた憎しみが、揺らいじゃったから。 ノエル:だからあんたとは多分、これっきりだ。もともと相性なんて、そんなに良くなかったですしね。 スカーレット:ならば……どうしてまた私の前に現れた。 ノエル:……聞きたいことがあるんですよ。 ノエル:あんた……ミッシェルに何したんだ。 スカーレット:……何? ノエル:ミッシェルが無事に逃げ切れたのか心配で、追いかけてみたら……見つけたんですよ。ミッシェルとあの殺し屋の男が、ボロ雑巾みたいになって倒れてるの。 ノエル:慌てて病院まで引きずっていきましたけど……あれ、やったのあんたでしょ? スカーレット:……それがどうした。 ノエル:なんでだよ、ミッシェルはあんたのこと、あんなに慕ってただろ、なのになんで…… スカーレット:ミッシェルは、シルバーの部下である兄の側についた。つまり私の敵だ。……その理由では、不足か? ノエル:相手がミッシェルでも……あんたは、自分の敵だと思ったら……殺せるのかよ。 スカーレット:……私が、どれほどの覚悟でここまで来たと思っている。 スカーレット:最初から、仲間など必要なかった。……ただの足手まといだ。 ノエル:……ああそうかよ。 ノエル:……ハハッ、逆に清々しましたよ、その答えが聞けて。 0:スカーレットに背を向け、歩いていくノエル。 ノエル:……私にとっては……ミッシェルは、大事な友達なんで。 ノエル:私はあんたを許せないし……きっと二度と、同じ道を歩くこともない。 スカーレット:宣戦布告か?結構だ。 ノエル:ここから先、私がどんな選択をしようと……文句言わないでくださいね、スカーレット。 ノエル:……私は、あんたを敵に回す覚悟も、とっくに決めてきましたから。 0:  0:  0:  0:とある墓地にて。 0:誰かの墓の前に佇んでいるシルバー。 0:その背後に、ルシアが声をかける。 ルシア:……ボス。 シルバー:……来たか、ルシア。 シルバー:突然呼び出して、すまないな。 ルシア:いえ……。 ルシア:……あの、なんですか?大事な話、というのは。 シルバー:……。 0:黙って墓標を見つめるシルバー。 0:供えられた花が、風に揺れる。 ルシア:……ボス? ルシア:その墓は……一体…… シルバー:……この墓はな。 シルバー:お前の……両親の墓だ、ルシア。 ルシア:……え、……? ルシア:私の……両、親……? シルバー:両親が死んだとき……お前はまだ十歳だった。 シルバー:裸足のままで、クマのぬいぐるみを抱えて……小さく震えていた。 ルシア:ま……待ってください。 ルシア:私は……幼い頃、両親に捨てられて……そこを、ボスに拾ってもらって…… ルシア:……両親は……亡くなっているんですか……? シルバー:……本当はな、ルシア。 シルバー:お前は、親に捨てられてなどいないんだよ。 ルシア:……え? シルバー:お前の両親は……お前の目の前で死んだんだ。 シルバー:幼いお前の目の前で……殺されたんだ。 ルシア:……ッ…… ルシア:どう、して……どうしてそんなことを、貴方が知って…… シルバー:……それは…… シルバー:……。 シルバー:……それはな、ルシア。 0:(シルバー、一呼吸おいてから、ゆっくりと) シルバー:お前の両親を殺したのが…………この俺だからだ。 ルシア:……え、……? シルバー:……あの日は、雨だった。 シルバー:俺は依頼を受けて、とある夫婦を殺めた。……その夫婦の死を、誰が、どんな理由で望んだのか。今となっては思い出せん。 シルバー:俺はいつものように引き金に指をかけて、息を吸うのと同じように……その夫婦を殺めた。 シルバー:……だが知らなかったんだ……その夫婦に、まだ十歳の、幼い一人娘がいたことを……。 ルシア:……うそ…………まさ……か…… シルバー:……そう。それがお前だ、ルシア。 シルバー:十歳のお前は、血の海に沈んだ両親を見て……糸が切れたように、気を失って、その場に倒れ込んだ。 シルバー:……本当なら、そのときに殺してしまうべきだったんだ。 ルシア:……ッ。 シルバー:だが、なぜだか分からない……そのときの俺は……お前を殺せなかった。……殺してはいけないような、気がした。 シルバー:目が覚めたお前は、ショックからなのか、両親が死ぬ前後の一切の記憶を失っていて……そんなお前に、真実を伝える勇気のなかった俺は……お前を殺し屋として育てることを決めた。 ルシア:……じゃあ……私の……捨てられたっていう、記憶は…… シルバー:おそらく欠落した記憶を、自分の思い込みで埋めてしまったんだろう。……あるいは、思い出さないように蓋をしていたか。 シルバー:……だが、これだけは、伝えさせてくれ。 シルバー:命が尽きる直前まで……必死にお前の名を呼び続けていた、お前の両親は……お前を、心の底から……愛していたはずだ。 シルバー:だから……両親を憎まないでくれ。憎むなら俺を憎め。お前から、お前たちから、何もかもを奪った……この俺を。 ルシア:……今まで。 ルシア:今までずっと……騙して、いたんですか……私の、ことを…… シルバー:……そうだ。 ルシア:……どうして…… ルシア:私は、ずっと……貴方のことを……信じて…… シルバー:……終わらせるのは、お前だ、ルシア。 シルバー:両親の……仇を取れ。 ルシア:……。 0:静かに銃を構えるルシア。 0:ゆっくりと、銃口をシルバーに向ける。 ルシア:……私は……貴方を……許せません…… シルバー:……ああ、分かっている。 シルバー:お前の気が済むように……やりなさい。 ルシア:……ッ…… 0:引き金に指をかけるルシア。 0:しかし―― ルシア:……。 ルシア:……私……には……でき、ない…… 0:手から銃が滑り落ち、ルシアは膝から崩れ落ちる。 シルバー:……ルシア……。 ルシア:……分からない…… ルシア:どうすればいいのかなんて……私には……ッ…… 0:立ち上がれないルシア。立ちすくむシルバー。 0:しばらくの静寂の後―― シルバー:……ッ! 0:シルバーが何かに気付いたように顔を上げる。 0:そして―― シルバー:――ルシア!!伏せろッッ!! ルシア:……ッ……!? 0:直後、銃声。 0:ルシアを庇ったシルバーは、肩に銃弾を受ける。 シルバー:……ぐッ……!? ルシア:……ボス!? スカーレット:……チッ、余計なことを……。 0:ルシアの背後に現れたスカーレット。手には銃が握られている。 シルバー:……スカー、レット…… スカーレット:ふ、私の名を知っていたか、シルバー。 0:シルバーの盾になりつつ、すぐに銃を構えるルシア。 ルシア:……何者ですか。 スカーレット:その鋭い眼光……先ほどまであれほどか弱く震えていたのが嘘のようだな。 スカーレット:……お前を殺してから、ゆっくりとシルバーを痛めつけてやるつもりだったのだが。 ルシア:答えなさい。何者ですか。 スカーレット:……知る必要などない。 ルシア:……では、名乗らなくても結構です。 ルシア:貴女が誰であったとしても……敵であるならば、やることは一つですから。 0:  0:  0:  0:その頃。 ロイド:……(ため息)。 ロイド:どこに行けば見つかるかねぇ、あの女。なるべく早く見つけ出して蜂の巣にしてやりたいんだけど…… ロイド:……ん? 0:向かい側から歩いてくる人影を見つけ、立ち止まるロイド。 0:その人影も、ロイドを見て立ち止まった。 ノエル:……あ。 ロイド:お前……! 0:銃を構えようとするロイドに、慌てて両手を上げるノエル。 ノエル:ちょ、ストップストップストップ!!待ってくださいよ私今敵じゃないんで!! ロイド:……は?そんな言葉信用できるとでも? ロイド:お前、嘘つくのは得意だもんなぁ、使えねぇ新人くん? ノエル:(少し投げやりっぽく)あーその節はどうも!とりあえずめんどくさいんで無駄な説明省きますけど! ノエル:……今の私に、あんたらを敵にする理由、ないんですよ。いろいろとあったんで。 ロイド:へえ、そうかい。……随分勝手な言い分だねぇ。 ノエル:とりあえず銃下ろしてもらっていいですか。 ロイド:お前を信用できる材料が何もない。 ノエル:……一つだけ言わせてもらうと。 ノエル:あんたとミッシェルを病院に運んでやったの、私なんですけど。 ロイド:……は? ロイド:おい、つまんない嘘も大概にしておけよ。 ノエル:嘘じゃねぇよこの恩知らず。ほんとだっての。なんなら病院の人に証言してもらいましょうか? ロイド:……マジかい。 ノエル:マジです。しかもちゃんと普通の病院じゃなくて、闇医者のいる病院まで運んでやったんだから感謝しろよ。 ロイド:……ていうかお前そんなキャラだったっけ? ノエル:ああ、前みたいな喋り方の方が良かったですか? ノエル:(軽く咳払い後、きゃぴきゃぴしながら)……ロイド兄さーん!お久しぶりですー! ロイド:やめろ、それはそれでうざい、虫唾が走る! 0:少し考えた後、そっと銃を下ろすロイド。 ロイド:……まあ、少なくとも今は、敵意はないんだろうね。何があったのかなんて知らないけど。 ノエル:あの……聞いてもいいですか。 ロイド:なんだい。 ノエル:ミッシェルは?……ミッシェルは、大丈夫だったんですか? ロイド:……。 0:驚いたようにノエルを見て黙り込むロイド。 ノエル:……あの、まさか……。 ロイド:ああいや……あいつは生きてるよ、大丈夫。まだ眠ってるけどね。 ノエル:ほ、ほんとですか……良かった……。 ロイド:お前、ミッシェルとどんな関係なんだい? ノエル:あー……まあ、仕事仲間っていうか……友達、ですかね。 ロイド:……ふ。 ロイド:……そっか……友達か……。 ノエル:……え? ロイド:いや、なんでもないよ。独り言。 ロイド:とにかく、まあ……ちょっと癪に障るけど……助けてもらった礼は言わないといけないか。……助かったよ、ありがとう。 ノエル:……え、いや……べ、別に……あんたなんか、ミッシェルのついでなんで。 ロイド:……前言撤回。やっぱり礼なんか言うんじゃなかった。 0:(少し間を置く) ロイド:……そういえばお前、スカーレットって女、知ってるはずだよね。 ノエル:スカーレットが……どうかしたんですか。 ロイド:いやあ、ボコボコにしてくれたお礼に、一発お見舞いしてやりにいこうと思っててねぇ。 ノエル:やり合うつもりですか、スカーレットと。 ロイド:まあそうなっても仕方ないだろうね。 ノエル:あいつ、強いですよ。 ロイド:ハッ、どいつもこいつも口揃えて言うこと同じかい……そんなバケモノなのかよ、あの女。 ノエル:下手したら死にますよ。冗談抜きで。 ロイド:……それでも行くって言ったら? ノエル:……。 0:しばらくロイドを見てじっと考え込んでいたノエル。 0:やがて踵を返す。 ノエル:……ついてきな、こっち。 ロイド:……? ノエル:それ、私も乗りますよ。 ノエル:ミッシェルをやられて腹立ってるのは……私も同じなんで。 ロイド:……寝返るのかい、こっち側に。 ノエル:違う。勘違いすんな。お前たちの味方になりたいわけじゃない。 ノエル:私はまだ……自分がどうするべきなのかは見えてない。でも今、自分が何をしたいのかは見えてる。だったら素直に、それに従うべきかなって思うんですよ。 ノエル:だから……一緒にぶん殴ってやりましょう、スカーレットを。 0:  0:  0:  0:その頃。 0:墓地にて。ルシアとスカーレットの銃撃戦。 スカーレット:……なるほど、それほど手はかからないだろうと思っていたが、これは…… ルシア:ガラ空きですよ。 スカーレット:……ッ! 0:ルシアの銃弾をギリギリで躱すスカーレット。 ルシア:貴女の目的は何なんですか。 スカーレット:……悪を、裁くこと。 ルシア:裁く……? スカーレット:今度はそちらがガラ空きだぞ。 ルシア:……ッ! 0:スカーレットの銃弾がルシアの頬を掠める。 シルバー:……ルシ、ア…… ルシア:大丈夫です、ボス。すぐに片付きますから。 スカーレット:なぜ庇う。その男は、お前の両親を殺したうえ……今の今まで、それを隠し続けてきた人間だろう。 スカーレット:そんな男を守ってどうする、お前にとってもそいつは―― ルシア:貴女には関係のないことです。 ルシア:これは、私とボスの問題ですから。……貴女が、邪魔をしないでください……ッ! スカーレット:チッ……! 0:お互いに一歩も譲らない。 スカーレット:……お前、名前はなんだったか。 ルシア:これから死ぬ人間に……名乗ったところで意味がないでしょう。 スカーレット:ふん、言ってくれる。 スカーレット:だが……あまり自惚れるなよ、小娘ごときが……! ルシア:……ッ! 0:とてつもないスピードで、距離を縮めてきたスカーレット。 0:ルシアは器用に身体を捻り、その攻撃を回避する。 スカーレット:……遅い。 ルシア:くッ……!? 0:しかしその動きをも先読みされ、足蹴りをくらったルシアの身体が飛ぶ。 0:起き上がろうとするルシアの頭に、スカーレットが銃口を突き付けた。 スカーレット:……もらった。 シルバー:……ルシア……ッ! ルシア:……ッ!! 0:銃声、そして――――スカーレットの手元から、銃が弾かれる。 スカーレット:……なッ…… スカーレット:誰だ……!? ロイド:……悪かったねぇ、お待たせして。 0:銃を手にしたロイドとノエルが現れる。 ルシア:ろ、ロイド…………と、ノエル……!? ノエル:どうも、お久しぶりです。 ルシア:どうして、貴女がここに……! ノエル:ちょ、怖い顔して銃構えないでくださいって! ノエル:そりゃ信用できないってのは分かりますけど、今は勘弁してください、後でちゃんと説明するんで! ロイド:……大丈夫だよルシア、こいつは敵じゃない。まあ、だからって味方ってわけでもないけど。 ルシア:でも…… ロイド:それより今は、この女どうにかするんじゃないのかい。 ロイド:ほら、立ちなよ。この程度にやられるお前じゃないだろ。 ルシア:……当たり前です。 0:立ち上がり、銃を構えるルシア。 スカーレット:……チッ。 スカーレット:たかが数人増えたところで何が変わる。全員地獄に叩き落してやる。 ロイド:地獄に落としてやりてぇのは俺の方なんだけどねぇ……うちの妹がいろいろとお世話になったもんで。 スカーレット:息の根は止めたと思っていたんだがな、二人とも存外しぶとかったらしい。 ロイド:……お前、怒らせちゃいけない相手を敵に回した自覚、あるかい? ロイド:女王様だかなんだか知らねぇけどさ……蜂の巣にしてやるよ。 スカーレット:ほう、面白い……お手並み拝見といこうか。 ロイド:やるぞ、ルシア。 ルシア:言われなくても、そのつもりです。 0:三人の銃撃戦が始まる。 0:(少しの間) ノエル:……さてと、その間にあんたは、ちょっと安全なところに避難。 シルバー:……ノエル……。 ノエル:なんですか、その情けない面。ボスともあろう人が、こんなザマじゃ笑えませんよ。 シルバー:……なぜ、だ……お前は…… ノエル:スカーレットの仲間じゃないのか、でしょ。……いろいろあったもんで。 ノエル:私の母親……昔あんたに、お世話になってたみたいですし。 シルバー:……お前の、母親が……? ノエル:ま、覚えてないかもしれませんけどね。もう何年も前ですし。 シルバー:……いや。 シルバー:お前、まさか……カミラの…… ノエル:……ハハ、なんだ、ちゃんと覚えてるんですか。 シルバー:カミラは…… ノエル:……知ってます。もう死んでるんでしょ。 ノエル:だから……ちゃんと墓参りして、謝ってきましたよ。……親不孝な娘でごめんって。 シルバー:……。 ノエル:とりあえず、傷の手当てするんでじっとしててくださいよ。 ノエル:スパイだったとはいえ、私も一応、あんたにお世話になった身だ。……絶対、死なせないんで。 ノエル:それで……元気になったら、聞かせてもらえません?母が、どんな人だったのかって。 ノエル:私は、自分の歪んだレンズを通して見た母の姿しか、覚えてないんで。 シルバー:……ああ……分かった。 ノエル:……よし、約束ですからね。 0:(少しの間) スカーレット:二人合わせてその程度か?つまらんな。 ロイド:でかい口叩いていられるのも今のうちだよ……! スカーレット:……見えているぞ。 0:ロイドの銃弾を躱すスカーレット。 0:その背後にルシアが迫る。 ルシア:……背後が隙だらけですよ。 スカーレット:それも、見えている……! 0:二人の攻撃を容易く躱し続けるスカーレット。 ロイド:ハッ、逃げてばかりじゃ仕方ないだろうに。 スカーレット:……これでは物足りないか。ならば―― 0:一瞬で体勢を立て直し、ロイドに向けて発砲するスカーレット。 0:腕を銃弾が掠めていく。 ロイド:……ッ! ルシア:ロイド! スカーレット:余所見か? ルシア:……くッ……! 0:飛んできた銃弾を間一髪で躱すルシア。 0:一度スカーレットから距離を取る二人。 スカーレット:哀れな女だな。自分の両親を殺され、平穏な人生を奪われたことも知らず……殺し屋としての道を歩かされ、両親の仇に忠誠を誓っていたなどと。 ロイド:……なんの話だい。 ルシア:ロイド……今は、いいです。それよりも。 ルシア:もう一度問います。貴女の目的は何ですか。 スカーレット:さっきも言っただろう……裁き。断罪だ。 ルシア:要領を得ません。……誰を裁くというのですか。 スカーレット:……悪を。 ロイド:……悪? スカーレット:数えきれないほどの人間を殺め、その人生を狂わせておきながら……裁かれることなく闇の中に生き続けている、お前たちのような人間。 ルシア:……。 ロイド:……。 0:スカーレット、シルバーの方を睨む。 スカーレット:シルバー……お前は覚えていないだろう。お前に殺された、一人の男のことなど…… スカーレット:優しくて、穏やかで……貧しいながらも懸命に生きて、たった一人の娘の食べる物のために必死で働いていた……そんな男のことなど、お前はきっと覚えていないのだろう……! シルバー:……、……。 スカーレット:……お前にとっては、どこにでもいるような男だったんだろう。 スカーレット:だが私にとっては……!!たった一人の父だった……ッ!! ルシア:……父……。 スカーレット:シルバー、お前は……悪の根源だ。 スカーレット:……お前が生きている限り、私のこの怒りが、憎しみが、消えることはない。 スカーレット:だから、お前を消す。私のこの手で。……そしてお前に味方する人間も、全てだ。 0:再びルシアとロイドに銃口を向ける。 スカーレット:お前たちを始末して、シルバーは最後だ。何もかもを奪われる絶望を、シルバーにも味わわせてやる。 シルバー:……つまり、俺への、復讐か……。 スカーレット:……そうだ。お前を潰すために、私は…… シルバー:……すまない……お前の父親を、俺は……殺めて、いたのか…… スカーレット:きっとお前は……何も覚えていないのだろう。 シルバー:覚えて…………いない………… シルバー:だが……スカーレット。 シルバー:殺すのは……お前の手で裁くのは……俺一人にしろ……ルシアや、ロイドは……関係ないんだ…… ロイド:……(舌打ち)。 ロイド:……おいボス、何勝手に自分だけで―― スカーレット:お前の願いなど、聞き入れてやると思うか? スカーレット:全てを失う苦しみ……大事な人間を目の前で殺される苦痛、そこで味わえ。 シルバー:……スカー、レット…… ルシア:私には……少しだけ、分かる気がします。 ロイド:……ルシア? ルシア:……大切な人を奪われる、怒りが、憎しみが、悔しさが。 ルシア:こんなにも……息ができなくなるほどに、苦しいものだということ。 ルシア:手が震えて、心臓の音がうるさくなって、頭が真っ白になって……何も見えなくなる。何も聞こえなくなる。……何も、信じられなくなる。 ルシア:……貴女が、彼に……復讐したいと思う気持ちは……理解、できます。 シルバー:……ルシ、ア…… ルシア:……だけど、それでもやっぱり私は……貴女を、とめなくてはいけません。 ルシア:貴女にとって悪だったとしても……私にとっては、やっぱり…… スカーレット:……戯言を。 ルシア:戯言でも構いません。自分の愚かさは……自分が一番良く分かっています。 スカーレット:……ならば、愚かなまま散れ……ッ!! 0:銃を構えたスカーレットだが――その手元めがけて、ノエルが引き金を引く。 ノエル:させねぇよ……ッ!! スカーレット:……ッ……! 0:ノエルの銃弾がスカーレットの手を掠め、その手から銃が零れ落ちる。 ノエル:……ロイド!!! 0:ノエルの合図とともにロイドが飛び出した。 ロイド:……せめて“さん”を付けろ。 スカーレット:……ぐぁッ……!? 0:ロイドに蹴りを叩き込まれたスカーレットは倒れる。 0:そしてその額に―― ルシア:……動かないでください。 0:ルシアが銃口を突き付けた。 スカーレット:……ッ…… スカーレット:く、そ…… ルシア:貴女の負けです。 スカーレット:……私、は…… ロイド:諦めなよ、そこから動こうもんなら三ヶ所から一気に銃弾が飛んでくる。 ノエル:三対一じゃ、さすがに不利ですよ。スカーレット。 スカーレット:……私は……私は、まだ……ッ! 0:直後、スカーレットが懐から取り出した何かを投げる。 ノエル:……あれは……! ロイド:……! ロイド:ルシア!!下がれ!! ルシア:……ッ! 0:数秒後、爆発音とともに煙。 0:  0:  0:  ノエル:……ゲホッ……ゲホッ…… ロイド:くそ……発煙弾かよ…… ロイド:おいルシア!!大丈夫か!! ルシア:……ケホッ……ええ、なんとか…… ルシア:スカーレットは…… 0:振り返るが、スカーレットの姿はない。 ノエル:……逃げた、みたいですね。 ロイド:チッ……蜂の巣にしてやりたかったのに…… ルシア:……! ルシア:ボス……! 0:シルバーに駆け寄るルシア。 0:息はしているが、意識がない。 ルシア:ボス、しっかりしてください、ボス……! ロイド:……落ち着けルシア。とりあえず連れて帰るしかない。 ロイド:こんなんで死ぬ男じゃないだろ、ボスは。 ルシア:……そう……です、ね……。 0:一瞬、両親の墓標を見るルシア。 0:シルバーを抱え、墓地を後にしようとする二人。 ロイド:お前はどうするんだい、ノエル。 ノエル:……私は…… ロイド:このままあの女を追うのかい、それとも―― ノエル:……まだ、分かんないです。本当は、一発ぶん殴ってやれたら、って思ってたんですけど。 ノエル:ここから先は……私は踏み込んじゃいけないような気もします。 ノエル:だから……しばらくぶらぶらしてますよ。バウンティハンターの仕事だってあるし。 ロイド:……そうかい。 ロイド:一つだけ、頼んでいいかな。 ノエル:……なんですか。 ロイド:ミッシェルのとこに、寄ってやってくれるかい。あいつきっと、お前が顔見せてくれたら……喜ぶだろうから。 ノエル:……。 ノエル:……最初から、そのつもりでしたよ。 ロイド:ハハ、そうか。……じゃあ、頼んだよ。 0:  0:  0:  0:(十分間を置いてから) シルバー:(N)己の愚かさは……痛いほどに分かっている。 シルバー:(N)真実を告げる勇気すらなかった、醜くてちっぽけな男。 シルバー:(N)あの子自身の手で、この身を裁いてもらおうなどと……そんな綺麗事を言って、本当は。 シルバー:(N)この嘘から、真実から、弱い自分から……逃げ出したかっただけだった。 0:(間) シルバー:……ん。 ルシア:……気が付きましたか、ボス。 シルバー:ルシア…… 0:部屋のベッドに寝ているシルバー。そばにルシアが寄り添っている。 ルシア:幸い、傷はそこまで深くなかったみたいです。ノエルも、迅速な手当てをしてくれましたし。 シルバー:……ルシア。 ルシア:はい、ボス。 シルバー:……なぜだ。憎まないのか、俺のことを。 ルシア:……。 シルバー:俺を、殺せば……お前は、両親の仇を…… ルシア:……ボス。 ルシア:そうやって、“死”に逃げるのはやめてください。……死ぬことが、必ずしも償いだとは限らないと思います。 シルバー:……。 ルシア:確かに、私は今、貴方に怒りを覚えています。それは事実です。……何も知らなかった自分自身にも、腹が立っています。 ルシア:でも、それ以上に私は……貴方に、恩義を感じています。 ルシア:私を、本当の娘のように育ててくれたこと……いろいろなことを教えてくれて、褒めてくれて、叱ってくれて…… ルシア:……それは、きっと……嘘じゃなかったって……思うから…………だから………… シルバー:……ルシア…… ルシア:だから……本当に、貴方が償いを望むなら。 ルシア:死ぬことではなく……生きることを選んでください。 ルシア:私の両親を殺めたその記憶を、胸に刻んで、決して忘れることなく……貴方が奪った彼らの人生を、背負って生きてください。 ルシア:それが、私が貴方に望む償いです。死ぬことなんて……私が許しません。 シルバー:……、……。 シルバー:……俺は……どうしようもないほど……お前に…… シルバー:お前に……救われてしまう…… シルバー:…………ルシア…………すまなかった………… 0:  0:  0:  ルシア:(N)誰も、何も信じるなと……その人はいつも、口癖のように言っていて。 ルシア:(N)でもそれはきっと、その人が、自分を守るための言葉であると同時に、私を守ろうとしていたのだと……今になって思う。 ルシア:(N)信じていたものが崩れるときは、本当に一瞬で……すべてがモノクロになったように、世界から色が消えていく。どうしようもなく寂しくて、不安で、哀しくて…… ルシア:(N)だからこそ……やっぱり、人間は、弱いんだ。 ルシア:(N)どんなに裏切られても、傷付けられても……手を、伸ばしてしまうのだから。 ルシア:(N)自分の見ていた世界は、愛していた世界は、きっとどこかに、正解があったはずだと。……そう思わずには、いられないのだから。 0: 

0:とある病院にて。 0:ロイドが病室を出ると、廊下にシルバーが立っている。 シルバー:無事、退院か、ロイド。 ロイド:……あんたが見舞いとは珍しいじゃないか。普段ならそんな優しいことしないのに。 シルバー:……普段なら、な。 ロイド:……? シルバー:それよりも……妹の方は大丈夫なのか。彼女の方が重傷だったんだろう? ロイド:……ああ…… ロイド:幸い、命は助かったけどね。まだ眠ってる。……まあ、しばらく入院だよ。 シルバー:ここの医者の腕は俺も信頼している。心配せずとも大丈夫だろう。 ロイド:そうじゃなきゃ困る。 0:そのまま病院を出て行こうとするロイド。 シルバー:待て、ロイド。 ロイド:……なんだい? シルバー:どこに行くつもりだ。 ロイド:……。 シルバー:……やめておけ。 ロイド:まだ何も言ってないけど? シルバー:とにかく待て。……まずは俺の話を聞け。 0:振り返り、シルバーをじっと見つめるロイド。 ロイド:……へぇ、なるほどね。 ロイド:“普段なら”お見舞いなんて優しいことしないけど……今回のは“普段”とは違う。そういうことかい。 シルバー:……スカーレット。 シルバー:お前を撃った女は、間違いなくそう名乗ったんだな。 ロイド:ああ。ちゃーんとこの耳でそう聞いたよ。 シルバー:あれは……お前の敵う相手ではない。 ロイド:……あ?なんでだよ。 シルバー:バウンティハンターのスカーレット……またの名を、【女王(クイーン)】。 シルバー:一度狙った獲物は、地の果てまでも追いかけて、必ずその手で仕留める。どんな手段を使おうと、どれだけ時間をかけようと。 シルバー:ゆえに……簡単に倒れるような実力で挑んできてはいない。お前では勝てないぞ、ロイド。 ロイド:……。 ロイド:……だったら、なんだよ。 シルバー:……なに? ロイド:あの女がどれだけ強いかとか、何が目的かとか、そういうことはどうでもいいんだよ。 ロイド:俺にとって重要なのは……大事な妹が、あの女にボコボコにされたってことだけなんだよ。 ロイド:それ以外のことはどうでもいい。だからあんたがどう止めようと無駄だよ。 シルバー:……行ってどうするつもりだ。 ロイド:さあねぇ、まだどうするかは考えてないけど……とりあえず、散々痛い目に遭わせてくれたお礼だけはしてやらねぇと。 シルバー:……感情に走るか。お前にしては珍しい。 ロイド:そうかい?俺は割といつも感情で生きてるよ。 ロイド:それに、思い出したからさ。……こんな俺でも、あいつにとってのたった一人の兄貴なんだってこと。 シルバー:……そうか。 シルバー:止めても、無駄か。 ロイド:悪いね。まあ死ぬようなヘマはしないから安心しなよ。 ロイド:……あいつが目が覚めたときには、全部終わらせておいてやりたいからさ。 0:そのまま病院を出ていくロイド。 0:シルバーは黙って、その後ろ姿を見つめていた。 0:  0:  0:  0:某所にて。 0:スカーレット、誰かと通話をしている。 スカーレット:……そうか、分かった。 スカーレット:とにかくお前が無事で安心した、ルーカス。……いや、気にするな。タイミングが悪すぎたんだろう。 スカーレット:せめて私がアデル・クロウリーを始末できれば良かったが……やはりまだ、奴の腕は鈍っていないらしい。一筋縄ではいかないようだ。 スカーレット:……ああ、そうだな。今後のことについては―― ノエル:……スカーレット。 スカーレット:……。 0:見ると、いつの間にかそこにノエルが立っている。 0:その表情は死にきっており、光のない目がスカーレットを睨む。 ノエル:探しましたよ……どこにもいないもんだから。 スカーレット:……。 スカーレット:……ルーカス、またかけ直す。 0:通話を切り、スマートフォンをしまうスカーレット。 0:お互い正面から向き合い、静かに睨み合う。 ノエル:……ああすいません、電話中でした? スカーレット:いや……構わん。 スカーレット:お前の方こそ、今の今までどこに行っていた。『シルバーを追うのはやめる』などというメールだけをよこして、それきりだったじゃないか。 ノエル:はは、ちょっとね。……墓参りに、行ってたもんで。 スカーレット:……ノエル。 スカーレット:バウンティハンターの仕事だけなら、個人でも十分できる。私たちが組んでいたのは、“シルバーを追う”という共通の目的があったからだ。……だがそれが共通のものでなくなったとすれば。 ノエル:……ええ、そういうことですよ。 ノエル:私はもう、あんたと同じ場所は目指せない。私の中で、根本から覆っちゃったから。……ずっと滾ってた憎しみが、揺らいじゃったから。 ノエル:だからあんたとは多分、これっきりだ。もともと相性なんて、そんなに良くなかったですしね。 スカーレット:ならば……どうしてまた私の前に現れた。 ノエル:……聞きたいことがあるんですよ。 ノエル:あんた……ミッシェルに何したんだ。 スカーレット:……何? ノエル:ミッシェルが無事に逃げ切れたのか心配で、追いかけてみたら……見つけたんですよ。ミッシェルとあの殺し屋の男が、ボロ雑巾みたいになって倒れてるの。 ノエル:慌てて病院まで引きずっていきましたけど……あれ、やったのあんたでしょ? スカーレット:……それがどうした。 ノエル:なんでだよ、ミッシェルはあんたのこと、あんなに慕ってただろ、なのになんで…… スカーレット:ミッシェルは、シルバーの部下である兄の側についた。つまり私の敵だ。……その理由では、不足か? ノエル:相手がミッシェルでも……あんたは、自分の敵だと思ったら……殺せるのかよ。 スカーレット:……私が、どれほどの覚悟でここまで来たと思っている。 スカーレット:最初から、仲間など必要なかった。……ただの足手まといだ。 ノエル:……ああそうかよ。 ノエル:……ハハッ、逆に清々しましたよ、その答えが聞けて。 0:スカーレットに背を向け、歩いていくノエル。 ノエル:……私にとっては……ミッシェルは、大事な友達なんで。 ノエル:私はあんたを許せないし……きっと二度と、同じ道を歩くこともない。 スカーレット:宣戦布告か?結構だ。 ノエル:ここから先、私がどんな選択をしようと……文句言わないでくださいね、スカーレット。 ノエル:……私は、あんたを敵に回す覚悟も、とっくに決めてきましたから。 0:  0:  0:  0:とある墓地にて。 0:誰かの墓の前に佇んでいるシルバー。 0:その背後に、ルシアが声をかける。 ルシア:……ボス。 シルバー:……来たか、ルシア。 シルバー:突然呼び出して、すまないな。 ルシア:いえ……。 ルシア:……あの、なんですか?大事な話、というのは。 シルバー:……。 0:黙って墓標を見つめるシルバー。 0:供えられた花が、風に揺れる。 ルシア:……ボス? ルシア:その墓は……一体…… シルバー:……この墓はな。 シルバー:お前の……両親の墓だ、ルシア。 ルシア:……え、……? ルシア:私の……両、親……? シルバー:両親が死んだとき……お前はまだ十歳だった。 シルバー:裸足のままで、クマのぬいぐるみを抱えて……小さく震えていた。 ルシア:ま……待ってください。 ルシア:私は……幼い頃、両親に捨てられて……そこを、ボスに拾ってもらって…… ルシア:……両親は……亡くなっているんですか……? シルバー:……本当はな、ルシア。 シルバー:お前は、親に捨てられてなどいないんだよ。 ルシア:……え? シルバー:お前の両親は……お前の目の前で死んだんだ。 シルバー:幼いお前の目の前で……殺されたんだ。 ルシア:……ッ…… ルシア:どう、して……どうしてそんなことを、貴方が知って…… シルバー:……それは…… シルバー:……。 シルバー:……それはな、ルシア。 0:(シルバー、一呼吸おいてから、ゆっくりと) シルバー:お前の両親を殺したのが…………この俺だからだ。 ルシア:……え、……? シルバー:……あの日は、雨だった。 シルバー:俺は依頼を受けて、とある夫婦を殺めた。……その夫婦の死を、誰が、どんな理由で望んだのか。今となっては思い出せん。 シルバー:俺はいつものように引き金に指をかけて、息を吸うのと同じように……その夫婦を殺めた。 シルバー:……だが知らなかったんだ……その夫婦に、まだ十歳の、幼い一人娘がいたことを……。 ルシア:……うそ…………まさ……か…… シルバー:……そう。それがお前だ、ルシア。 シルバー:十歳のお前は、血の海に沈んだ両親を見て……糸が切れたように、気を失って、その場に倒れ込んだ。 シルバー:……本当なら、そのときに殺してしまうべきだったんだ。 ルシア:……ッ。 シルバー:だが、なぜだか分からない……そのときの俺は……お前を殺せなかった。……殺してはいけないような、気がした。 シルバー:目が覚めたお前は、ショックからなのか、両親が死ぬ前後の一切の記憶を失っていて……そんなお前に、真実を伝える勇気のなかった俺は……お前を殺し屋として育てることを決めた。 ルシア:……じゃあ……私の……捨てられたっていう、記憶は…… シルバー:おそらく欠落した記憶を、自分の思い込みで埋めてしまったんだろう。……あるいは、思い出さないように蓋をしていたか。 シルバー:……だが、これだけは、伝えさせてくれ。 シルバー:命が尽きる直前まで……必死にお前の名を呼び続けていた、お前の両親は……お前を、心の底から……愛していたはずだ。 シルバー:だから……両親を憎まないでくれ。憎むなら俺を憎め。お前から、お前たちから、何もかもを奪った……この俺を。 ルシア:……今まで。 ルシア:今までずっと……騙して、いたんですか……私の、ことを…… シルバー:……そうだ。 ルシア:……どうして…… ルシア:私は、ずっと……貴方のことを……信じて…… シルバー:……終わらせるのは、お前だ、ルシア。 シルバー:両親の……仇を取れ。 ルシア:……。 0:静かに銃を構えるルシア。 0:ゆっくりと、銃口をシルバーに向ける。 ルシア:……私は……貴方を……許せません…… シルバー:……ああ、分かっている。 シルバー:お前の気が済むように……やりなさい。 ルシア:……ッ…… 0:引き金に指をかけるルシア。 0:しかし―― ルシア:……。 ルシア:……私……には……でき、ない…… 0:手から銃が滑り落ち、ルシアは膝から崩れ落ちる。 シルバー:……ルシア……。 ルシア:……分からない…… ルシア:どうすればいいのかなんて……私には……ッ…… 0:立ち上がれないルシア。立ちすくむシルバー。 0:しばらくの静寂の後―― シルバー:……ッ! 0:シルバーが何かに気付いたように顔を上げる。 0:そして―― シルバー:――ルシア!!伏せろッッ!! ルシア:……ッ……!? 0:直後、銃声。 0:ルシアを庇ったシルバーは、肩に銃弾を受ける。 シルバー:……ぐッ……!? ルシア:……ボス!? スカーレット:……チッ、余計なことを……。 0:ルシアの背後に現れたスカーレット。手には銃が握られている。 シルバー:……スカー、レット…… スカーレット:ふ、私の名を知っていたか、シルバー。 0:シルバーの盾になりつつ、すぐに銃を構えるルシア。 ルシア:……何者ですか。 スカーレット:その鋭い眼光……先ほどまであれほどか弱く震えていたのが嘘のようだな。 スカーレット:……お前を殺してから、ゆっくりとシルバーを痛めつけてやるつもりだったのだが。 ルシア:答えなさい。何者ですか。 スカーレット:……知る必要などない。 ルシア:……では、名乗らなくても結構です。 ルシア:貴女が誰であったとしても……敵であるならば、やることは一つですから。 0:  0:  0:  0:その頃。 ロイド:……(ため息)。 ロイド:どこに行けば見つかるかねぇ、あの女。なるべく早く見つけ出して蜂の巣にしてやりたいんだけど…… ロイド:……ん? 0:向かい側から歩いてくる人影を見つけ、立ち止まるロイド。 0:その人影も、ロイドを見て立ち止まった。 ノエル:……あ。 ロイド:お前……! 0:銃を構えようとするロイドに、慌てて両手を上げるノエル。 ノエル:ちょ、ストップストップストップ!!待ってくださいよ私今敵じゃないんで!! ロイド:……は?そんな言葉信用できるとでも? ロイド:お前、嘘つくのは得意だもんなぁ、使えねぇ新人くん? ノエル:(少し投げやりっぽく)あーその節はどうも!とりあえずめんどくさいんで無駄な説明省きますけど! ノエル:……今の私に、あんたらを敵にする理由、ないんですよ。いろいろとあったんで。 ロイド:へえ、そうかい。……随分勝手な言い分だねぇ。 ノエル:とりあえず銃下ろしてもらっていいですか。 ロイド:お前を信用できる材料が何もない。 ノエル:……一つだけ言わせてもらうと。 ノエル:あんたとミッシェルを病院に運んでやったの、私なんですけど。 ロイド:……は? ロイド:おい、つまんない嘘も大概にしておけよ。 ノエル:嘘じゃねぇよこの恩知らず。ほんとだっての。なんなら病院の人に証言してもらいましょうか? ロイド:……マジかい。 ノエル:マジです。しかもちゃんと普通の病院じゃなくて、闇医者のいる病院まで運んでやったんだから感謝しろよ。 ロイド:……ていうかお前そんなキャラだったっけ? ノエル:ああ、前みたいな喋り方の方が良かったですか? ノエル:(軽く咳払い後、きゃぴきゃぴしながら)……ロイド兄さーん!お久しぶりですー! ロイド:やめろ、それはそれでうざい、虫唾が走る! 0:少し考えた後、そっと銃を下ろすロイド。 ロイド:……まあ、少なくとも今は、敵意はないんだろうね。何があったのかなんて知らないけど。 ノエル:あの……聞いてもいいですか。 ロイド:なんだい。 ノエル:ミッシェルは?……ミッシェルは、大丈夫だったんですか? ロイド:……。 0:驚いたようにノエルを見て黙り込むロイド。 ノエル:……あの、まさか……。 ロイド:ああいや……あいつは生きてるよ、大丈夫。まだ眠ってるけどね。 ノエル:ほ、ほんとですか……良かった……。 ロイド:お前、ミッシェルとどんな関係なんだい? ノエル:あー……まあ、仕事仲間っていうか……友達、ですかね。 ロイド:……ふ。 ロイド:……そっか……友達か……。 ノエル:……え? ロイド:いや、なんでもないよ。独り言。 ロイド:とにかく、まあ……ちょっと癪に障るけど……助けてもらった礼は言わないといけないか。……助かったよ、ありがとう。 ノエル:……え、いや……べ、別に……あんたなんか、ミッシェルのついでなんで。 ロイド:……前言撤回。やっぱり礼なんか言うんじゃなかった。 0:(少し間を置く) ロイド:……そういえばお前、スカーレットって女、知ってるはずだよね。 ノエル:スカーレットが……どうかしたんですか。 ロイド:いやあ、ボコボコにしてくれたお礼に、一発お見舞いしてやりにいこうと思っててねぇ。 ノエル:やり合うつもりですか、スカーレットと。 ロイド:まあそうなっても仕方ないだろうね。 ノエル:あいつ、強いですよ。 ロイド:ハッ、どいつもこいつも口揃えて言うこと同じかい……そんなバケモノなのかよ、あの女。 ノエル:下手したら死にますよ。冗談抜きで。 ロイド:……それでも行くって言ったら? ノエル:……。 0:しばらくロイドを見てじっと考え込んでいたノエル。 0:やがて踵を返す。 ノエル:……ついてきな、こっち。 ロイド:……? ノエル:それ、私も乗りますよ。 ノエル:ミッシェルをやられて腹立ってるのは……私も同じなんで。 ロイド:……寝返るのかい、こっち側に。 ノエル:違う。勘違いすんな。お前たちの味方になりたいわけじゃない。 ノエル:私はまだ……自分がどうするべきなのかは見えてない。でも今、自分が何をしたいのかは見えてる。だったら素直に、それに従うべきかなって思うんですよ。 ノエル:だから……一緒にぶん殴ってやりましょう、スカーレットを。 0:  0:  0:  0:その頃。 0:墓地にて。ルシアとスカーレットの銃撃戦。 スカーレット:……なるほど、それほど手はかからないだろうと思っていたが、これは…… ルシア:ガラ空きですよ。 スカーレット:……ッ! 0:ルシアの銃弾をギリギリで躱すスカーレット。 ルシア:貴女の目的は何なんですか。 スカーレット:……悪を、裁くこと。 ルシア:裁く……? スカーレット:今度はそちらがガラ空きだぞ。 ルシア:……ッ! 0:スカーレットの銃弾がルシアの頬を掠める。 シルバー:……ルシ、ア…… ルシア:大丈夫です、ボス。すぐに片付きますから。 スカーレット:なぜ庇う。その男は、お前の両親を殺したうえ……今の今まで、それを隠し続けてきた人間だろう。 スカーレット:そんな男を守ってどうする、お前にとってもそいつは―― ルシア:貴女には関係のないことです。 ルシア:これは、私とボスの問題ですから。……貴女が、邪魔をしないでください……ッ! スカーレット:チッ……! 0:お互いに一歩も譲らない。 スカーレット:……お前、名前はなんだったか。 ルシア:これから死ぬ人間に……名乗ったところで意味がないでしょう。 スカーレット:ふん、言ってくれる。 スカーレット:だが……あまり自惚れるなよ、小娘ごときが……! ルシア:……ッ! 0:とてつもないスピードで、距離を縮めてきたスカーレット。 0:ルシアは器用に身体を捻り、その攻撃を回避する。 スカーレット:……遅い。 ルシア:くッ……!? 0:しかしその動きをも先読みされ、足蹴りをくらったルシアの身体が飛ぶ。 0:起き上がろうとするルシアの頭に、スカーレットが銃口を突き付けた。 スカーレット:……もらった。 シルバー:……ルシア……ッ! ルシア:……ッ!! 0:銃声、そして――――スカーレットの手元から、銃が弾かれる。 スカーレット:……なッ…… スカーレット:誰だ……!? ロイド:……悪かったねぇ、お待たせして。 0:銃を手にしたロイドとノエルが現れる。 ルシア:ろ、ロイド…………と、ノエル……!? ノエル:どうも、お久しぶりです。 ルシア:どうして、貴女がここに……! ノエル:ちょ、怖い顔して銃構えないでくださいって! ノエル:そりゃ信用できないってのは分かりますけど、今は勘弁してください、後でちゃんと説明するんで! ロイド:……大丈夫だよルシア、こいつは敵じゃない。まあ、だからって味方ってわけでもないけど。 ルシア:でも…… ロイド:それより今は、この女どうにかするんじゃないのかい。 ロイド:ほら、立ちなよ。この程度にやられるお前じゃないだろ。 ルシア:……当たり前です。 0:立ち上がり、銃を構えるルシア。 スカーレット:……チッ。 スカーレット:たかが数人増えたところで何が変わる。全員地獄に叩き落してやる。 ロイド:地獄に落としてやりてぇのは俺の方なんだけどねぇ……うちの妹がいろいろとお世話になったもんで。 スカーレット:息の根は止めたと思っていたんだがな、二人とも存外しぶとかったらしい。 ロイド:……お前、怒らせちゃいけない相手を敵に回した自覚、あるかい? ロイド:女王様だかなんだか知らねぇけどさ……蜂の巣にしてやるよ。 スカーレット:ほう、面白い……お手並み拝見といこうか。 ロイド:やるぞ、ルシア。 ルシア:言われなくても、そのつもりです。 0:三人の銃撃戦が始まる。 0:(少しの間) ノエル:……さてと、その間にあんたは、ちょっと安全なところに避難。 シルバー:……ノエル……。 ノエル:なんですか、その情けない面。ボスともあろう人が、こんなザマじゃ笑えませんよ。 シルバー:……なぜ、だ……お前は…… ノエル:スカーレットの仲間じゃないのか、でしょ。……いろいろあったもんで。 ノエル:私の母親……昔あんたに、お世話になってたみたいですし。 シルバー:……お前の、母親が……? ノエル:ま、覚えてないかもしれませんけどね。もう何年も前ですし。 シルバー:……いや。 シルバー:お前、まさか……カミラの…… ノエル:……ハハ、なんだ、ちゃんと覚えてるんですか。 シルバー:カミラは…… ノエル:……知ってます。もう死んでるんでしょ。 ノエル:だから……ちゃんと墓参りして、謝ってきましたよ。……親不孝な娘でごめんって。 シルバー:……。 ノエル:とりあえず、傷の手当てするんでじっとしててくださいよ。 ノエル:スパイだったとはいえ、私も一応、あんたにお世話になった身だ。……絶対、死なせないんで。 ノエル:それで……元気になったら、聞かせてもらえません?母が、どんな人だったのかって。 ノエル:私は、自分の歪んだレンズを通して見た母の姿しか、覚えてないんで。 シルバー:……ああ……分かった。 ノエル:……よし、約束ですからね。 0:(少しの間) スカーレット:二人合わせてその程度か?つまらんな。 ロイド:でかい口叩いていられるのも今のうちだよ……! スカーレット:……見えているぞ。 0:ロイドの銃弾を躱すスカーレット。 0:その背後にルシアが迫る。 ルシア:……背後が隙だらけですよ。 スカーレット:それも、見えている……! 0:二人の攻撃を容易く躱し続けるスカーレット。 ロイド:ハッ、逃げてばかりじゃ仕方ないだろうに。 スカーレット:……これでは物足りないか。ならば―― 0:一瞬で体勢を立て直し、ロイドに向けて発砲するスカーレット。 0:腕を銃弾が掠めていく。 ロイド:……ッ! ルシア:ロイド! スカーレット:余所見か? ルシア:……くッ……! 0:飛んできた銃弾を間一髪で躱すルシア。 0:一度スカーレットから距離を取る二人。 スカーレット:哀れな女だな。自分の両親を殺され、平穏な人生を奪われたことも知らず……殺し屋としての道を歩かされ、両親の仇に忠誠を誓っていたなどと。 ロイド:……なんの話だい。 ルシア:ロイド……今は、いいです。それよりも。 ルシア:もう一度問います。貴女の目的は何ですか。 スカーレット:さっきも言っただろう……裁き。断罪だ。 ルシア:要領を得ません。……誰を裁くというのですか。 スカーレット:……悪を。 ロイド:……悪? スカーレット:数えきれないほどの人間を殺め、その人生を狂わせておきながら……裁かれることなく闇の中に生き続けている、お前たちのような人間。 ルシア:……。 ロイド:……。 0:スカーレット、シルバーの方を睨む。 スカーレット:シルバー……お前は覚えていないだろう。お前に殺された、一人の男のことなど…… スカーレット:優しくて、穏やかで……貧しいながらも懸命に生きて、たった一人の娘の食べる物のために必死で働いていた……そんな男のことなど、お前はきっと覚えていないのだろう……! シルバー:……、……。 スカーレット:……お前にとっては、どこにでもいるような男だったんだろう。 スカーレット:だが私にとっては……!!たった一人の父だった……ッ!! ルシア:……父……。 スカーレット:シルバー、お前は……悪の根源だ。 スカーレット:……お前が生きている限り、私のこの怒りが、憎しみが、消えることはない。 スカーレット:だから、お前を消す。私のこの手で。……そしてお前に味方する人間も、全てだ。 0:再びルシアとロイドに銃口を向ける。 スカーレット:お前たちを始末して、シルバーは最後だ。何もかもを奪われる絶望を、シルバーにも味わわせてやる。 シルバー:……つまり、俺への、復讐か……。 スカーレット:……そうだ。お前を潰すために、私は…… シルバー:……すまない……お前の父親を、俺は……殺めて、いたのか…… スカーレット:きっとお前は……何も覚えていないのだろう。 シルバー:覚えて…………いない………… シルバー:だが……スカーレット。 シルバー:殺すのは……お前の手で裁くのは……俺一人にしろ……ルシアや、ロイドは……関係ないんだ…… ロイド:……(舌打ち)。 ロイド:……おいボス、何勝手に自分だけで―― スカーレット:お前の願いなど、聞き入れてやると思うか? スカーレット:全てを失う苦しみ……大事な人間を目の前で殺される苦痛、そこで味わえ。 シルバー:……スカー、レット…… ルシア:私には……少しだけ、分かる気がします。 ロイド:……ルシア? ルシア:……大切な人を奪われる、怒りが、憎しみが、悔しさが。 ルシア:こんなにも……息ができなくなるほどに、苦しいものだということ。 ルシア:手が震えて、心臓の音がうるさくなって、頭が真っ白になって……何も見えなくなる。何も聞こえなくなる。……何も、信じられなくなる。 ルシア:……貴女が、彼に……復讐したいと思う気持ちは……理解、できます。 シルバー:……ルシ、ア…… ルシア:……だけど、それでもやっぱり私は……貴女を、とめなくてはいけません。 ルシア:貴女にとって悪だったとしても……私にとっては、やっぱり…… スカーレット:……戯言を。 ルシア:戯言でも構いません。自分の愚かさは……自分が一番良く分かっています。 スカーレット:……ならば、愚かなまま散れ……ッ!! 0:銃を構えたスカーレットだが――その手元めがけて、ノエルが引き金を引く。 ノエル:させねぇよ……ッ!! スカーレット:……ッ……! 0:ノエルの銃弾がスカーレットの手を掠め、その手から銃が零れ落ちる。 ノエル:……ロイド!!! 0:ノエルの合図とともにロイドが飛び出した。 ロイド:……せめて“さん”を付けろ。 スカーレット:……ぐぁッ……!? 0:ロイドに蹴りを叩き込まれたスカーレットは倒れる。 0:そしてその額に―― ルシア:……動かないでください。 0:ルシアが銃口を突き付けた。 スカーレット:……ッ…… スカーレット:く、そ…… ルシア:貴女の負けです。 スカーレット:……私、は…… ロイド:諦めなよ、そこから動こうもんなら三ヶ所から一気に銃弾が飛んでくる。 ノエル:三対一じゃ、さすがに不利ですよ。スカーレット。 スカーレット:……私は……私は、まだ……ッ! 0:直後、スカーレットが懐から取り出した何かを投げる。 ノエル:……あれは……! ロイド:……! ロイド:ルシア!!下がれ!! ルシア:……ッ! 0:数秒後、爆発音とともに煙。 0:  0:  0:  ノエル:……ゲホッ……ゲホッ…… ロイド:くそ……発煙弾かよ…… ロイド:おいルシア!!大丈夫か!! ルシア:……ケホッ……ええ、なんとか…… ルシア:スカーレットは…… 0:振り返るが、スカーレットの姿はない。 ノエル:……逃げた、みたいですね。 ロイド:チッ……蜂の巣にしてやりたかったのに…… ルシア:……! ルシア:ボス……! 0:シルバーに駆け寄るルシア。 0:息はしているが、意識がない。 ルシア:ボス、しっかりしてください、ボス……! ロイド:……落ち着けルシア。とりあえず連れて帰るしかない。 ロイド:こんなんで死ぬ男じゃないだろ、ボスは。 ルシア:……そう……です、ね……。 0:一瞬、両親の墓標を見るルシア。 0:シルバーを抱え、墓地を後にしようとする二人。 ロイド:お前はどうするんだい、ノエル。 ノエル:……私は…… ロイド:このままあの女を追うのかい、それとも―― ノエル:……まだ、分かんないです。本当は、一発ぶん殴ってやれたら、って思ってたんですけど。 ノエル:ここから先は……私は踏み込んじゃいけないような気もします。 ノエル:だから……しばらくぶらぶらしてますよ。バウンティハンターの仕事だってあるし。 ロイド:……そうかい。 ロイド:一つだけ、頼んでいいかな。 ノエル:……なんですか。 ロイド:ミッシェルのとこに、寄ってやってくれるかい。あいつきっと、お前が顔見せてくれたら……喜ぶだろうから。 ノエル:……。 ノエル:……最初から、そのつもりでしたよ。 ロイド:ハハ、そうか。……じゃあ、頼んだよ。 0:  0:  0:  0:(十分間を置いてから) シルバー:(N)己の愚かさは……痛いほどに分かっている。 シルバー:(N)真実を告げる勇気すらなかった、醜くてちっぽけな男。 シルバー:(N)あの子自身の手で、この身を裁いてもらおうなどと……そんな綺麗事を言って、本当は。 シルバー:(N)この嘘から、真実から、弱い自分から……逃げ出したかっただけだった。 0:(間) シルバー:……ん。 ルシア:……気が付きましたか、ボス。 シルバー:ルシア…… 0:部屋のベッドに寝ているシルバー。そばにルシアが寄り添っている。 ルシア:幸い、傷はそこまで深くなかったみたいです。ノエルも、迅速な手当てをしてくれましたし。 シルバー:……ルシア。 ルシア:はい、ボス。 シルバー:……なぜだ。憎まないのか、俺のことを。 ルシア:……。 シルバー:俺を、殺せば……お前は、両親の仇を…… ルシア:……ボス。 ルシア:そうやって、“死”に逃げるのはやめてください。……死ぬことが、必ずしも償いだとは限らないと思います。 シルバー:……。 ルシア:確かに、私は今、貴方に怒りを覚えています。それは事実です。……何も知らなかった自分自身にも、腹が立っています。 ルシア:でも、それ以上に私は……貴方に、恩義を感じています。 ルシア:私を、本当の娘のように育ててくれたこと……いろいろなことを教えてくれて、褒めてくれて、叱ってくれて…… ルシア:……それは、きっと……嘘じゃなかったって……思うから…………だから………… シルバー:……ルシア…… ルシア:だから……本当に、貴方が償いを望むなら。 ルシア:死ぬことではなく……生きることを選んでください。 ルシア:私の両親を殺めたその記憶を、胸に刻んで、決して忘れることなく……貴方が奪った彼らの人生を、背負って生きてください。 ルシア:それが、私が貴方に望む償いです。死ぬことなんて……私が許しません。 シルバー:……、……。 シルバー:……俺は……どうしようもないほど……お前に…… シルバー:お前に……救われてしまう…… シルバー:…………ルシア…………すまなかった………… 0:  0:  0:  ルシア:(N)誰も、何も信じるなと……その人はいつも、口癖のように言っていて。 ルシア:(N)でもそれはきっと、その人が、自分を守るための言葉であると同時に、私を守ろうとしていたのだと……今になって思う。 ルシア:(N)信じていたものが崩れるときは、本当に一瞬で……すべてがモノクロになったように、世界から色が消えていく。どうしようもなく寂しくて、不安で、哀しくて…… ルシア:(N)だからこそ……やっぱり、人間は、弱いんだ。 ルシア:(N)どんなに裏切られても、傷付けられても……手を、伸ばしてしまうのだから。 ルシア:(N)自分の見ていた世界は、愛していた世界は、きっとどこかに、正解があったはずだと。……そう思わずには、いられないのだから。 0: