台本概要
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タイトル | 何者にもならない |
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作者名 | よぉげるとサマー (@gerutohoukai) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(女2) |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
夜間学校の生徒と、昼間の学校の生徒のお話。 Mはモノローグです。心の声とかです。 あんまり詳しくないというか、ノリで書いたので、夜間学校について解釈が違っている場合もありますが、生暖かい目で見て下されば嬉しいです。 劇の音声が残るようにしてくれる場合は、 「よぉげるとサマー」と作者名を、ポストとか配信名に記載してくれると嬉しいです。 是非、聴きたいです。 あと、感想もくれると喜びます。 144 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
よしか | 女 | 198 | 高校三年生。未来が怖い。 |
みつき | 女 | 222 | 夜間学校生。現在が怖い。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
みつき:こんにちは。
よしか:……え?
みつき:ふふっ……夕陽に照らされて、絵になるなぁ……って、思って。
よしかM:思い出す、はじまりを。
みつき:つい……声かけちゃった。
よしか:はぁ……そうです、か。
みつきM:この先、この記憶を。何度も思い出す。
みつき:……で、帰らないの? 君。
よしかM:何者にもなれない。
みつきM:私たちの出会いを。
よしか:まだ……。
0:3カウント―――
よしか:……え? なに?
みつき:だからー、潮干狩りって、行ったことある?
よしか:あー、んー……ない、かな。
みつき:記憶にない、と。
よしか:ないね。物心には。
みつき:ははっ、なんだそりゃ。
よしか:物心ついた時ー、みたいなやつだよ。
みつき:ふふっ、わかるよー、わかるけどさぁ。それ、使い方間違ってるって。
よしか:そっか……でも、伝われば良くない?
みつき:まね。
よしか:……潮干狩りは?
みつき:え?
よしか:いや、聞いたじゃん。
みつき:あぁ、そっか。まぁ、行ったことないんでしょ?
よしか:うん。
みつき:うん。
よしか:……うん、じゃなくない?
みつき:え?
よしか:それで終わり?
みつき:……ふふっ。
よしか:いや、おーい。その会話、中身も外身も無いぞー。
みつき:じゃあ、広げてくださいよ。
よしか:え、丸投げ。
みつき:知ってる? 会話ってさ、キャッチボールなんだよ。
よしか:あんたがやってんのは、ドッジボールだよ。
みつき:上手くキャッチしてくれれば、キャッチボールになるって。
よしか:めっちゃ、だるい。
みつき:だるいって、言わなーい。
よしか:あんたが言わせてんだっての。
みつき:ふふ……潮干狩り、行く?
よしか:え、突然?
みつき:いやぁ、いま話してたじゃん。
よしか:そうだけど、話戻すの急すぎだって。
みつき:いや、今しかなかったね、戻すタイミング。
よしか:はぁ……何するものなん?
みつき:潮干狩り?
よしか:そう。
みつき:……貝を砂から掘り出すんだよ。
よしか:あー、そうか。
みつき:……え、潮干狩り、そんな知らん?
よしか:いや、わかるよ。でもなんか、やったことないからさ。思ってるのと違うかもって。
みつき:貝掘って、持ち帰って食べる。終わり。
よしか:あー、そうよね。
みつき:あってた?
よしか:あってたわ。
みつき:良かった。で、行く?
よしか:んー……なんかさ、それやるの、親子連ればっかじゃないの?
みつき:あぁー、否めない。
よしか:ちょっと、そこの場で女二人じゃ、楽しめる自信がないなぁ。
みつき:なるほどねぇ……私も、得意ではないなぁ。
よしか:人混み?
みつき:うーん、というよりは……ふふ、アットホーム感が、ね。
0:3カウント―――
みつきM:ここは、どこなんだろうな。と、教室の中で思った。
よしかM:授業の内容が、どこか遠くから聞こえている。
みつきM:集中できない訳じゃないけど。なんて言うか。居づらい、とか、帰りたい、とか、そういうのじゃなくて。
よしかM:……無重力感。
みつきM:いや……宇宙って訳でもあるまいに。
よしかM:……浮遊感?
みつきM:……そう、そんな、疎外感とも違って、べつにマイナスなことだけじゃないような。
よしかM:不思議な……いや、不思議だった。
みつきM:ただただ……不確かだった。
よしかM:漂うような、彷徨う(さまよう)ような。
みつきM:不安な。不安定感。
よしかM:いま、こうして居るのは、自分が決めたことなのに。
みつきM:どうしても、私は……私を信じられずに居た。
0:3カウント―――
みつき:よ。
よしか:んー。
みつき:なに、黄昏(たそがれ)てんの?
よしか:べつに、黄昏てないし。
みつき:えぇー、窓辺で夕陽見てたら、黄昏てるんじゃないの?
よしか:だとしたら、黄昏てないことの方が少ないわ。
みつき:ふふっ、確かに。
よしか:……でかいカバン。
みつき:なによ、いつものことでしょ。
よしか:そんな要らんでしょ、持ち歩く物(もん)。
みつき:いやいや、要る物しか入っとらんよー。
よしか:たとえば?
みつき:えぇー、財布とか手帳とかぁ。
よしか:普通やん。
みつき:……でしょー。あと、飲み物と……グミっ。
よしか:え、それグミなの中身? でっか……なんで、缶で持ち歩いてんの?
みつき:いや、好きなんだぁ、グミ。
よしか:んー……だからって、大量に持ち歩くことないでしょ。
みつき:だーって、その時の気分ってのがあるじゃん?
よしか:なに、気分で食べる味、決めるくらい種類入れてんの?
みつき:ふふーん、見て。じゃんっ……パカーっ。
よしか:うわぁ、めっちゃ入ってるし、なんか種類で仕切ってある……薬入れみたい。
みつき:ちょっとー、可愛くない例えやめて。
よしか:でも将来、薬の管理出来て良いかもね。
みつき:だーから、薬入れにしません。薬から離れてっ。
よしか:几帳面だなって、言いたかったの。
みつき:えぇー、年寄りだって言われてるみたいでしたけどー。
よしか:年寄りみたいだとは思ったよ。
みつき:はぁー?
よしか:ははっ、冗談だって。若いじゃん、まだまだ。
みつき:……あんたに言われてもさ、それもまた嫌味って感じだけどー。
よしか:わー、めんどくさー。
みつき:いや、あんたが悪いからねっ。
よしか:へい、すみませんでした。
みつき:もー、めんどくさくなるなっ。
よしか:……グミ、なんか一個ちょうだい。
みつき:……ずうずうしいなぁ。何味が良いのだ。
よしか:んー……すっぱいやつ。
みつき:……ごめん、すっぱいの苦手だから無い。
よしか:へー……じゃ、なんでもいい。
みつき:では……コーラ味。
よしか:なんか、果物とかじゃないのか。
みつき:若者は好きでしょ。
よしか:べつに、若者でなくとも。
みつき:いーやっ、私が好きだから、そうなんよ。
よしか:……なるほどね。
みつき:はい、どーぞ。……すっぱいのも入れとくね、今度。
よしか:ありがと。
0:3カウント―――
よしかM:自動的に、人生が進んでいるような。そんな感覚を抱くことが、増えた。
みつきM:あとどれくらい、人生の残りがあって。いまどれくらい、人生が終わったのか。わからないけれど。
よしかM:足元を見て、後ろを振り返って、前を向き直して。それでも、自分には、人生に敷かれたレールというのが、見えてこなかった。
みつきM:じゃあ、どうやってここまで来たのだろう。
よしかM:すべて、自分で決めて来たなんて、思えるわけがない。
みつきM:けれど、どこを探しても、レールなんてない。
よしかM:きっと、自分には、そんな物、存在しないんだ。
みつきM:それは、幸せなことなのだろうか。
よしかM:相対的な話をされたって、鬱陶しいだけだ。
みつきM:大事なのは、納得できるかだと思う。
よしかM:たぶん……飲み込めるか、とも言えるんだろうな。
みつきM:夕陽が沈むのが、今日もまた、早くなる。
よしかM:進む。勝手に。容赦無く。
みつきM:私も。選びながら。決めながら。進んできたはずだ。
よしかM:だけど、この先はもっと、そうして行かないといけない。気がする。
みつきM:目を凝らしても、この先の道も、レールも、見えはしない。
よしかM:足元を見る。
みつきM:不細工な自分の足が、ぽつんとあるだけ。
よしかM:もう座ってしまいたいと、思っているんだろうけど。
みつきM:ただ、ずっと。
よしかM:いまは、立ち尽くしている。
0:3カウント―――
よしか:あれ?
みつき:よ。
よしか:……はやいじゃん。
みつき:ふふっ、おそいじゃーん。
よしか:いや、こっちはいつも通りだわ。
みつき:あら、そうだっけ。
よしか:なんかあったの?
みつき:うーん? 別にー。ちょっと、先生とお話しがあっただけ。
よしか:ふーん……進路、とか?
みつき:……えー、そっちじゃあるまいし。違うよ。
よしか:そうなん?
みつき:いや、ある人は、あるかもだけどね。私は……違う。
よしか:……大学、行きたいんじゃなかったっけ?
みつき:まー……行きたいか。
よしか:行きたいやん。
みつき:うん……でも、まー、現実的ではないかな。いまは。
よしか:……あら。
みつき:ふふっ……あらあら。
よしか:……お金、ですか。
みつき:うーん、それもそうかもー……かもー……かもー。
よしか:やまびこ、だ。
みつき:ふっ、山じゃないけどね。
よしか:そうだよ。
みつき:ふふふっ。
よしか:……山登ったことある?
みつき:えー、なーい。ハイキングならあるけど。
よしか:学校行事とか?
みつき:うーん、たぶんね。覚えてないや。
よしか:めっちゃ昔か。
みつき:ちょっと、それ年寄り扱いしてない?
よしか:……敏感すぎだって。
みつき:いーやっ、悪意があったよ。
よしか:んー、ちょっとね。
みつき:ほらぁ、さいてー。
よしか:ごめんて。
みつき:……そっちは、山登ったことあんの?
よしか:あるよ。富士山。
みつき:え、すごいじゃん。
よしか:一回きりだよ。
みつき:でも、すごいって。なんか。
よしか:まあ、ハイキングと比べたら、そう。
みつき:おい、バカにすんな。
よしか:してないよ。
みつき:してます。
よしか:してました。
みつき:してるじゃんっ。
よしか:ごめんて。
みつき:はぁ……許すっ。
0:3カウント―――
みつきM:ふと、考えないように、深く沈めていたことが。
よしかM:どうしてか。ぷかりと、浮かび上がって来てしまうことが、ある。
みつきM:食器を洗っている時。
よしかM:下を向いて歩いている時。
みつきM:洗濯物を干す時。
よしかM:夕陽を眺めている時
みつきM:ひとりで、いる時。
よしかM:軽率に、自傷する言葉がせり上がるのを、心の中だけに留める。
みつきM:続いていく。この時も、これからも。
よしかM:だから、何度もこの気持ちの悪さを、繰り返すことになる。
みつきM:どう生きたら、こんな辛い思いをせずに済むんだろう。
よしかM:どう生きれば、幸せな思いばかりを数えていけるんだろう。
みつきM:いまでも、答えが出ないのなら、そんなの。
よしかM:一生、わかるはずがないんだろうな。
みつきM:幸せじゃない、訳じゃない。
よしかM:辛いことばかりな、いままでじゃない。
みつきM:ただ、ずっと現在(いま)が。
よしかM:ただ、ずっと未来が。
みつきM:私を不安にさせて。
よしかM:怖がらせて。
みつきM:どうしようもないんだ。
0:3カウント―――
みつき:……あれ。
よしか:……あ、来た。
みつき:えー、なにー? 待っててくれたの?
よしか:んー……まぁ、そう。
みつき:……え、なにその感じ? なんかのついで、ってこと?
よしか:いやいや、お待ちしておりました。
みつき:ふーん、そうですか。どうかしたの?
よしか:大したことじゃないんだけど……これ、あげようと、思い。
みつき:……お守り?
よしか:交通安全。
みつき:な、なぜ?
よしか:いや……運転するじゃん。
みつき:そうだけれども……あ、なんかどっかの神社行って来たの?
よしか:そう、あれだから。
みつき:あれ?
よしか:あー……受験。
みつき:おぉ、そうじゃん! 大きくなって、まぁ。
よしか:なんそれ、おばさんっぽい。
みつき:ふふっ、おばさんって言うな!
よしか:いや、そっちが言わせたでしょ。
みつき:直接言えなんて言ってない。まあ……自分ののついでに買って来てくれたのね。
よしか:そーなる。
みつき:ふふっ、ありがとうございます。これで事故らないわ。
よしか:無病息災(むびょう そくさい)と迷ったけど、まあ、そっちかなって。
みつき:うん、ありがと。体調管理は自分で頑張る。
よしか:よろしく。
みつき:はいー。私帰るけど、そっちは?
よしか:うん、帰るよ。
みつき:おー、じゃあ駐車場まで行こうよ。
よしか:いいよ、てか、駅までで良いよ。
みつき:え……乗ってくの?
よしか:そりゃ、何の為にお守りあげたのさって話。
みつき:そんな裏があったのか……てか、それ実質、自分の交通安全祈願じゃん。
よしか:いやいや、ついでだから。
みつき:はぁ……なにがついでなんだかー。
よしか:…………あー、寒い。
みつき:……そうだよ、冬は寒いのだ。
よしか:いや、そうだけどさ。寒い。
みつき:ふふっ……おーけー、寒がりさんに、あったかい物をやろう。
よしか:あったかい物?
みつき:じゃんっ、ててーん、ほっかいろー。
よしか:わぁ……物持ちが良い。
みつき:……なんか年寄りくさいって思ってない?
よしか:…………いや、めっちゃ被害妄想。
みつき:じゃあ何なんだ、その間は!
よしか:気にしすぎ……寒いから、レスポンスも遅くなんの。
みつき:ほー……ま、そう言うことにしてやろう。ほいっ。
よしか:ありがとうございます。
みつき:はーい。
よしか:……ぬくい。
みつき:ふふっ。
よしか:……なんか不思議だわ。
みつき:なにが?
よしか:少し前まで、すごい暑かったのに、って。
みつき:あー、そうだねー。今年はすごい暑かったわ。
よしか:うん、それがもう……こんなに寒いって、わけわからん。
みつき:わかる。けど……毎年言ってる気がするんだよねー、私。
よしか:……私も。
みつき:だよね? ふふっ。
よしか:……あっという間だな。
みつき:……そだね。あっ……という間に、車まで到着ー。
よしか:うん……寒っ。
みつき:……よいしょっ。どうぞー、シートベルトを忘れずにっ。
よしか:へーい。お邪魔します……おや?
みつき:……あ、ごめん、それ後ろにどかしちゃって。
よしか:りょー。ははっ、ぬいぐるみ好きじゃん。
みつき:まぁねぇ。ひとりで運転するの寂しいし。
よしか:わー、キャラ通り。
みつき:なんだキャラって。べっつに普通ですー。
よしか:いーじゃん。かわいいよ。そういうの。
みつき:どういうのさ……まぁ、出発しちゃいますよぉ。
よしか:お願いしまーす。
みつき:GOー!
0:3カウント―――
よしかM:出会ってから、どれだけも、時間が経っていない。そんなふうに思っていたのに。
みつき:……もう、一年経つのかぁ。
よしかM:こんなにも、はやく、時間は流れてしまった。
みつき:はやいねぇ……ついこの間じゃなかったっけ? 私たちが、はじめましてー、ってしたの。
よしかM:思い出す。夕陽が落ちる途中。廊下の窓の向こう。
みつき:なぁんか……その時からさぁ、ずっと黄昏てたよね?
よしかM:遠くを、見ていただけだ。どこかに飛んで行く鳥の群れを。停滞する夕雲を。ぼやける、夜と昼の色彩を。
みつき:なぁんか、気になって……あんま良くない気もしたけどさぁ……声かけちゃったんだよねぇ。
よしか:学校で、私服の大人に話しかけられたことなかったから、少しビビった。
みつきM:別に、大人って言える存在なんかじゃ、ない。
よしか:不審者かなー、とか考えたけど。ウチが夜間学校やってんのも知ってたし、あそこの教室使ってるのも知ってたし。あー、そっちかなって。
みつきM:退屈していた訳じゃない。友達が居なかった訳でもない。
よしか:なんとなく興味わいて、そっちの授業始まる前に少しだけ話すようになったね……。
みつきM:似てないけど、なんとなく……似てるような。そんな、懐かしさみたいな感覚を……あの日、感じたっけ。
よしか:なんか……歳の差があるなんて、変な感じ。
みつきM:流れて行く夜の町並み。私たちは、今だけ、同じ速度で進んでいるんだろうな。
みつき:ねぇ……何者にもなれない。って。
よしか:……え?
みつき:みたいな言葉……聞いたことある?
よしか:……なんかの、映画とかのやつ?
みつき:そう……だった気がするなぁ。
よしか:なにそれ……聞いたことないよ、たぶん。
みつき:そっか……私もあんまり、よく覚えてないんだけどさぁ……その言葉だけ、妙にこびりついてるんだよねぇ。
よしか:……なんか、ネガティブな感じだしね。
みつき:ふふっ……そうだねぇ。
よしかM:何者にも、なれない。
みつき:私、それって、自分のことだなって、思っちゃったんだ。
よしかM:なんて、悲しい言葉だろう。
みつき:「普通」ってさぁ、生き方があるとして。そこからほんのちょっとだけ……私は、外れちゃって。
よしかM:これまで、自分の話は、避けてきていたのに。
みつき:ゆっくりと「普通」、ってところまで戻って来たつもりだったのに……なぁんか、気づいたら、学校とか通っちゃってさ。
よしかM:曖昧に、だけど、丁寧に。
みつき:何がしたいのやらって感じ……自分が選んで、ここまで来たはずなのに……。
よしかM:私に、心を開いて見せる。
みつき:……私、高校中退して、働かないといけなかったんだよね。家の……ううん、親の都合ってやつで。……まぁ、深くは、言わないけどさ。
よしか:……うん。
みつき:最初は、あんまり、どこも長く続けられなくて、色んなとこ点々としてたなぁ……学(がく)も無いし、ガキだし……上手く人と……社会と、付き合っていけなくてさぁ……嫌だったなぁ、生きるの。
よしか:……なんか……比べるのも、あれだけど。私も、短期バイトした時、社会で上手くやれる気しなかった。
みつき:ふふっ……下手そうだもんね、働くの。
よしか:……突然、めっちゃ失礼。
みつき:ごめんごめん。でも……同じだと思うよ。その、バイトした時の感覚。
よしか:……そう?
みつき:うん。特別なことじゃない、そんなの。誰だって、同じように感じるもんだよ……自分で、自分を守らないといけないんだって……理解しないといけない時は、ね。
よしかM:頑張って、と。その言葉に、突き放された気分になった時のことを、思い出す。
みつき:初めてのことをする時って、怖い? それとも、ワクワクする?
よしか:……ものによる。
みつき:せーかいっ……それが、自分の好きなこととか、やりたいこととか……責任がないことならさぁ……気楽に楽しめるんだけどねぇ。
よしか:仕事とかって話なら……不安が大きいかもね。
みつき:そうだよぉ、大変だよ……自分の好きでもなんでもない、やりたくもない……そんなことをやらないといけないのは……怖いんだぁ……。暗闇の中で、自分しか見えないみたいな……そんな感じ。
よしかM:いま見えている未来の方向が、より深い霧で、塗り潰されていくような気がした。
みつき:……だけどね、それでも、出来ることを増やして行くのは、楽しいんだよ。
よしか:……できること。
みつき:うん……小さい灯(あかり)で、少しずつ周りを照らしながら進む、みたいに。ちょっとずつ、失敗しながら、出来るようになっていくの。
よしか:……普通に、しんどそうだけど。
みつき:ふふっ……バレたか。
よしか:……しんどいんじゃん。
みつき:そりゃそうだよ。ただ、自分の成長を実感した時だけ……ほんのちょっと、自分を褒めてあげられるなぁって……そんだけなんだから。
よしかM:それは、決して希望なんかじゃないと思う。
みつき:出来なきゃいけないことを、出来るようになる。それでいて、上手く出来るように、努力する。なんか……それが「普通」なんだってさ……社会とか、生きるとか……そう言うのは。
よしか:……なんとなく、わかるけど、ね。
みつき:でもさ……つらいよ、そんなの。
よしかM:色が滲むような。そんな声で。
みつき:自分の為だけにさぁ、生きていたいじゃん……それって、「普通」じゃないのかなぁ……。
よしかM:グミでは、まぎらわせないくらいの、苦しみを吐き出す。
みつき:あーあ、ごめんねぇ……なんか、こんなこと言いたいんじゃないのにな……ははっ……どうしたんだー、私ー。
よしか:……きっと、それ「夢」、とか、なんじゃない?
みつき:……夢?
よしか:……こうなりたい、こうしたい、って、そういう……「普通」って、よくわからないけどさ……私からしたら……もう、普通だよ。
みつきM:その言葉は。ただの呪いだと思っていた。
よしか:だって……そういう、何かになりたくて、努力して…… 色んなことに悩んで、傷ついて、さ……それって普通じゃない? 私だって……同じだよ。
みつきM:どうしてこんな簡単に、救いのように感じてしまうのだろう。
よしか:おわっ……え、停めるの?
みつき:ふふっ……ごめん、このまま運転してたら……ちょっと、危ない気がしたからね。
よしか:……そういうとこも、普通で、良いじゃん。
みつき:……良識があるってことね。
よしか:……うん。
みつき:…………一緒にいる時。
よしか:ん?
みつき:……2人でいる時は……「普通」でいれるような気がしてたんだ……なんか、ただの友達と……普通に……楽しく喋ってられた。
よしか:…….普段のまんまじゃん。
みつき:ふふっ……普通だったでしょ、私。
よしか:……知らんよ。変なとこもあるし。
みつき:それは、そこも含めて、私ってだけだからっ。
よしか:……そうかもね。
みつき:そうだよ……だから、ありがとう。
よしか:……なんの、ありがとう、なのさ。
みつき:これまでの、私たちの友情に……とか?
よしか:なにそれ。クサイ台詞。
みつき:なにさ、こういうのが良いんじゃん。本当に伝えたいことっていうのは、クサイ台詞に聞こえるもんだよ。
よしか:……たしかに。さっきまで、ずっと、クサイ台詞みたいだったかもね……私たち。
みつき:うん……ねぇ、ついでにもう少し、クサイこと言っていい?
よしか:……なんか嫌な感じだけど……いいよ。
みつき:ふふっ…………未来は、怖いだけじゃない。
よしかM:わかりきったことを、彼女は言葉でくれた。
みつき:考えた分だけ、恐怖も憧れも、なんでもかんでも、大きくなっていくからさぁ……何が正しいかとか、間違いじゃないのか、とか。
よしかM:ネオンライトが、車内を淡く照らす。
みつき:……現在(いま)は、考えなくていいよ。遠い未来に……お任せしちゃお。
よしか:…………なんだそれ。
みつき:ふふっ、経験談、的なー……若者への激励の言葉。
よしか:……結局なんか、気にするなってことじゃん。
みつき:そうなのよー……結局、そんなもんだよ。
よしか:……そっか。
みつき:そうよ。
よしか:……なるほど。それでいま、そちらは考えないといけない未来に、居るのか。
みつき:はぁ……そうなんだよねぇ。だから、ほどほどに、かなぁ。私みたいだと……ふふっ、大変だからね。
よしか:また、難しいじゃん……裏技とか教えてくれないの?
みつき:いやぁ、あるわけないじゃん。あったら、こんなことになっとらんです。
よしか:ふふっ……そうですか。
みつき:そうじゃ。ふぁっふぁっふぁっ。
よしか:いきなり老いるじゃん。
みつき:ふぁっふぁっふぁっ……でも、本当、いきなり老いるんだろうな、きっと。
よしか:……いいじゃん。たぶん、それも……素敵だよ。
みつき:……そういうもんかなぁ。
よしか:うん……たぶんね。
みつき:……そっか。
よしかM:思い出す。ひとりで、窓の外を眺めていた時を。
みつき:なら……。
よしかM:振り返る。もうひとりを待つようになった日を。
みつき:……素敵に、生きないとなぁ。
よしか:べつに、普通で……そのままでいいよ。
みつきM:思い出す。憧れを、義務に変えた日を。
よしか:私から見たら、充分……素敵だって。
みつきM:振り返る。自分の足跡だらけの、ここまでを。
よしか:……ねぇ、何者にもなれない、ってやつ。
みつき:……うん。
よしか:……何者にもならなくていいよね。
みつき:……たしかに。
よしか:……ふふっ。
みつき:ふふふっ。
よしかM:この先の、何も見えない未来で。
みつき:うん……じゃあ……。
よしかM:きっと、少し前の方で、あなたは時々、私に手を振って振り返ってくれるのだろう。
みつき:……私。何者(誰か)には、ならない。
よしかM:どんな暗闇だろうと、あなただとしか分からないくらい……素敵な笑顔で。
0:3カウント―――
よしか:ありがとね、送ってくれて。
みつき:ううん、大丈夫。てか、逆に時間かかっちゃったし、ごめんねー。
よしか:いやいや……大事だったじゃん、あの時間も。
みつき:まあね……ん? も?
よしか:も。
みつき:え、どゆこと?
よしか:ふっ……あの時間も、だし。これまでも、大事だったじゃん、ってこと。
みつき:うわぁ……青臭いよ。
よしか:照れてるからって、言葉のチョイス悪くしないで。
みつき:照ーれーてーまーせーん。
よしか:そうですか……ふふっ。
みつき:もー……アオハルビームやめてよね。
よしか:何それ。出して無いって、そんなん。
みつき:いーや、放ってたね。お姉さんには、わかるよっ。
よしか:へー、さすが年の功。
みつき:おいっ、お姉さんだって言ってるでしょ!
よしか:ふふっ、はいはい…………あのさ。
みつき:なんだよっ。
よしか:……これ、渡し忘れ。
みつき:ん? なになに?
よしか:大した物じゃないよ。
みつき:えー、沢山くれるじゃん。ありがとー。
よしか:うん……じゃ、もう電車来るから、またね。
みつき:あ、うんっ、またぁ……ね、かな……。
よしか:……みつき。
みつき:えっ?
よしか:またね、だよ。
みつき:……そう、なんだ。
よしか:……じゃね。
みつき:うん……あーあ、行っちゃった。……私は、ほんのちょっと後に、あんたを見送ることになるんだけどなぁ……。
よしかM:あのさ、たぶん……大丈夫。
みつき:……あ、そういや何くれたんだろ。
よしかM:この寂しさは。人生で、ほんのちょっとだけしか覚えてないよ。
みつき:どれどれぇ……ん?
よしかM:忘れられるし、すぐ諦めがつく。
みつき:……これ。
よしかM:だから、大丈夫。
みつき:……ははっ……なんでよ。
よしかM:いまは、別々に、未来に向かおう。
みつき:学業成就って……ははっ……。
よしかM:時々、振り返れば。不細工な過去(足跡)が、沢山見える。
みつき:……置いてかれる、なんて……そんなことなかったんだ。
よしかM:その、どんな遠回りも、どんな間違いも。現在(ここ)に続いているから……大丈夫。
みつき:……うん……大丈夫。
よしかM:未来(この先)で、また会おうね。
みつき:……またね。
0:3カウント―――
みつき:……よ。
よしか:……来たんだ。
みつき:えぇ……来てみた。
よしか:ふふっ、お洒落しちゃって。
みつき:いや、流石に普段の格好じゃ来れないでしょ。
よしか:気にしなくて良いのに。
みつき:気にしますー。
よしか:まぁ……それが、普通か。
みつき:ふふっ……嫌味かーい?
よしか:いーえ、違いまーす。
みつき:まったく……そうだ、食べる?
よしか:ん、グミ?
みつき:そう。すっぱいやつ。
よしか:え……苦手だって言ってなかった?
みつき:そうだよー。でも、卒業式だし……お祝い用。
よしか:ふふっ……お祝いが、グミかぁ。
みつき:良いでしょ別にっ、もう可愛くないなー……はいっ、青春のぉ、レモン味ぃ。
よしか:だから、そういうのが、おばさんみたいなんだって……ありがと。
みつき:お姉さん、だから。
よしか:はいはい。
みつき:……あのさ。
よしか:ん?
みつき:……大学、頑張ってみることにした。
よしか:……へぇ。良いじゃん。
みつき:……良いでしょ?
よしか:うん、めっちゃ良い。
みつき:……ねぇ、ハグしよう。
よしか:はい?
みつき:ハグ。しません?
よしか:んー、どうして?
みつき:なんか、したくなったの。なんか。
よしか:ふーん……よし、ハグしますか。
みつき:ふふっ、えー、いいのー?
よしか:良いよ、来い。
みつき:なんかワイルドだなぁ……おいで、って言ってよぉ。
よしか:無駄にこだわるじゃん……はぁ……おいで。
みつき:きゃー、はぐっ。
よしか:はぐっ、って言うな。
みつき:……ねぇ。
よしか:何?
みつき:私たち……親友かな。
よしか:……そうだよ。
みつき:ふふっ……今度どっか行こうか。
よしか:……潮干狩りにでも行く?
みつき:行かなーい。
よしか:ふふっ、行かないじゃん。
みつき:……ねぇ、親友。
よしか:……何よ、親友。
みつき:……卒業、おめでとう。
みつき:こんにちは。
よしか:……え?
みつき:ふふっ……夕陽に照らされて、絵になるなぁ……って、思って。
よしかM:思い出す、はじまりを。
みつき:つい……声かけちゃった。
よしか:はぁ……そうです、か。
みつきM:この先、この記憶を。何度も思い出す。
みつき:……で、帰らないの? 君。
よしかM:何者にもなれない。
みつきM:私たちの出会いを。
よしか:まだ……。
0:3カウント―――
よしか:……え? なに?
みつき:だからー、潮干狩りって、行ったことある?
よしか:あー、んー……ない、かな。
みつき:記憶にない、と。
よしか:ないね。物心には。
みつき:ははっ、なんだそりゃ。
よしか:物心ついた時ー、みたいなやつだよ。
みつき:ふふっ、わかるよー、わかるけどさぁ。それ、使い方間違ってるって。
よしか:そっか……でも、伝われば良くない?
みつき:まね。
よしか:……潮干狩りは?
みつき:え?
よしか:いや、聞いたじゃん。
みつき:あぁ、そっか。まぁ、行ったことないんでしょ?
よしか:うん。
みつき:うん。
よしか:……うん、じゃなくない?
みつき:え?
よしか:それで終わり?
みつき:……ふふっ。
よしか:いや、おーい。その会話、中身も外身も無いぞー。
みつき:じゃあ、広げてくださいよ。
よしか:え、丸投げ。
みつき:知ってる? 会話ってさ、キャッチボールなんだよ。
よしか:あんたがやってんのは、ドッジボールだよ。
みつき:上手くキャッチしてくれれば、キャッチボールになるって。
よしか:めっちゃ、だるい。
みつき:だるいって、言わなーい。
よしか:あんたが言わせてんだっての。
みつき:ふふ……潮干狩り、行く?
よしか:え、突然?
みつき:いやぁ、いま話してたじゃん。
よしか:そうだけど、話戻すの急すぎだって。
みつき:いや、今しかなかったね、戻すタイミング。
よしか:はぁ……何するものなん?
みつき:潮干狩り?
よしか:そう。
みつき:……貝を砂から掘り出すんだよ。
よしか:あー、そうか。
みつき:……え、潮干狩り、そんな知らん?
よしか:いや、わかるよ。でもなんか、やったことないからさ。思ってるのと違うかもって。
みつき:貝掘って、持ち帰って食べる。終わり。
よしか:あー、そうよね。
みつき:あってた?
よしか:あってたわ。
みつき:良かった。で、行く?
よしか:んー……なんかさ、それやるの、親子連ればっかじゃないの?
みつき:あぁー、否めない。
よしか:ちょっと、そこの場で女二人じゃ、楽しめる自信がないなぁ。
みつき:なるほどねぇ……私も、得意ではないなぁ。
よしか:人混み?
みつき:うーん、というよりは……ふふ、アットホーム感が、ね。
0:3カウント―――
みつきM:ここは、どこなんだろうな。と、教室の中で思った。
よしかM:授業の内容が、どこか遠くから聞こえている。
みつきM:集中できない訳じゃないけど。なんて言うか。居づらい、とか、帰りたい、とか、そういうのじゃなくて。
よしかM:……無重力感。
みつきM:いや……宇宙って訳でもあるまいに。
よしかM:……浮遊感?
みつきM:……そう、そんな、疎外感とも違って、べつにマイナスなことだけじゃないような。
よしかM:不思議な……いや、不思議だった。
みつきM:ただただ……不確かだった。
よしかM:漂うような、彷徨う(さまよう)ような。
みつきM:不安な。不安定感。
よしかM:いま、こうして居るのは、自分が決めたことなのに。
みつきM:どうしても、私は……私を信じられずに居た。
0:3カウント―――
みつき:よ。
よしか:んー。
みつき:なに、黄昏(たそがれ)てんの?
よしか:べつに、黄昏てないし。
みつき:えぇー、窓辺で夕陽見てたら、黄昏てるんじゃないの?
よしか:だとしたら、黄昏てないことの方が少ないわ。
みつき:ふふっ、確かに。
よしか:……でかいカバン。
みつき:なによ、いつものことでしょ。
よしか:そんな要らんでしょ、持ち歩く物(もん)。
みつき:いやいや、要る物しか入っとらんよー。
よしか:たとえば?
みつき:えぇー、財布とか手帳とかぁ。
よしか:普通やん。
みつき:……でしょー。あと、飲み物と……グミっ。
よしか:え、それグミなの中身? でっか……なんで、缶で持ち歩いてんの?
みつき:いや、好きなんだぁ、グミ。
よしか:んー……だからって、大量に持ち歩くことないでしょ。
みつき:だーって、その時の気分ってのがあるじゃん?
よしか:なに、気分で食べる味、決めるくらい種類入れてんの?
みつき:ふふーん、見て。じゃんっ……パカーっ。
よしか:うわぁ、めっちゃ入ってるし、なんか種類で仕切ってある……薬入れみたい。
みつき:ちょっとー、可愛くない例えやめて。
よしか:でも将来、薬の管理出来て良いかもね。
みつき:だーから、薬入れにしません。薬から離れてっ。
よしか:几帳面だなって、言いたかったの。
みつき:えぇー、年寄りだって言われてるみたいでしたけどー。
よしか:年寄りみたいだとは思ったよ。
みつき:はぁー?
よしか:ははっ、冗談だって。若いじゃん、まだまだ。
みつき:……あんたに言われてもさ、それもまた嫌味って感じだけどー。
よしか:わー、めんどくさー。
みつき:いや、あんたが悪いからねっ。
よしか:へい、すみませんでした。
みつき:もー、めんどくさくなるなっ。
よしか:……グミ、なんか一個ちょうだい。
みつき:……ずうずうしいなぁ。何味が良いのだ。
よしか:んー……すっぱいやつ。
みつき:……ごめん、すっぱいの苦手だから無い。
よしか:へー……じゃ、なんでもいい。
みつき:では……コーラ味。
よしか:なんか、果物とかじゃないのか。
みつき:若者は好きでしょ。
よしか:べつに、若者でなくとも。
みつき:いーやっ、私が好きだから、そうなんよ。
よしか:……なるほどね。
みつき:はい、どーぞ。……すっぱいのも入れとくね、今度。
よしか:ありがと。
0:3カウント―――
よしかM:自動的に、人生が進んでいるような。そんな感覚を抱くことが、増えた。
みつきM:あとどれくらい、人生の残りがあって。いまどれくらい、人生が終わったのか。わからないけれど。
よしかM:足元を見て、後ろを振り返って、前を向き直して。それでも、自分には、人生に敷かれたレールというのが、見えてこなかった。
みつきM:じゃあ、どうやってここまで来たのだろう。
よしかM:すべて、自分で決めて来たなんて、思えるわけがない。
みつきM:けれど、どこを探しても、レールなんてない。
よしかM:きっと、自分には、そんな物、存在しないんだ。
みつきM:それは、幸せなことなのだろうか。
よしかM:相対的な話をされたって、鬱陶しいだけだ。
みつきM:大事なのは、納得できるかだと思う。
よしかM:たぶん……飲み込めるか、とも言えるんだろうな。
みつきM:夕陽が沈むのが、今日もまた、早くなる。
よしかM:進む。勝手に。容赦無く。
みつきM:私も。選びながら。決めながら。進んできたはずだ。
よしかM:だけど、この先はもっと、そうして行かないといけない。気がする。
みつきM:目を凝らしても、この先の道も、レールも、見えはしない。
よしかM:足元を見る。
みつきM:不細工な自分の足が、ぽつんとあるだけ。
よしかM:もう座ってしまいたいと、思っているんだろうけど。
みつきM:ただ、ずっと。
よしかM:いまは、立ち尽くしている。
0:3カウント―――
よしか:あれ?
みつき:よ。
よしか:……はやいじゃん。
みつき:ふふっ、おそいじゃーん。
よしか:いや、こっちはいつも通りだわ。
みつき:あら、そうだっけ。
よしか:なんかあったの?
みつき:うーん? 別にー。ちょっと、先生とお話しがあっただけ。
よしか:ふーん……進路、とか?
みつき:……えー、そっちじゃあるまいし。違うよ。
よしか:そうなん?
みつき:いや、ある人は、あるかもだけどね。私は……違う。
よしか:……大学、行きたいんじゃなかったっけ?
みつき:まー……行きたいか。
よしか:行きたいやん。
みつき:うん……でも、まー、現実的ではないかな。いまは。
よしか:……あら。
みつき:ふふっ……あらあら。
よしか:……お金、ですか。
みつき:うーん、それもそうかもー……かもー……かもー。
よしか:やまびこ、だ。
みつき:ふっ、山じゃないけどね。
よしか:そうだよ。
みつき:ふふふっ。
よしか:……山登ったことある?
みつき:えー、なーい。ハイキングならあるけど。
よしか:学校行事とか?
みつき:うーん、たぶんね。覚えてないや。
よしか:めっちゃ昔か。
みつき:ちょっと、それ年寄り扱いしてない?
よしか:……敏感すぎだって。
みつき:いーやっ、悪意があったよ。
よしか:んー、ちょっとね。
みつき:ほらぁ、さいてー。
よしか:ごめんて。
みつき:……そっちは、山登ったことあんの?
よしか:あるよ。富士山。
みつき:え、すごいじゃん。
よしか:一回きりだよ。
みつき:でも、すごいって。なんか。
よしか:まあ、ハイキングと比べたら、そう。
みつき:おい、バカにすんな。
よしか:してないよ。
みつき:してます。
よしか:してました。
みつき:してるじゃんっ。
よしか:ごめんて。
みつき:はぁ……許すっ。
0:3カウント―――
みつきM:ふと、考えないように、深く沈めていたことが。
よしかM:どうしてか。ぷかりと、浮かび上がって来てしまうことが、ある。
みつきM:食器を洗っている時。
よしかM:下を向いて歩いている時。
みつきM:洗濯物を干す時。
よしかM:夕陽を眺めている時
みつきM:ひとりで、いる時。
よしかM:軽率に、自傷する言葉がせり上がるのを、心の中だけに留める。
みつきM:続いていく。この時も、これからも。
よしかM:だから、何度もこの気持ちの悪さを、繰り返すことになる。
みつきM:どう生きたら、こんな辛い思いをせずに済むんだろう。
よしかM:どう生きれば、幸せな思いばかりを数えていけるんだろう。
みつきM:いまでも、答えが出ないのなら、そんなの。
よしかM:一生、わかるはずがないんだろうな。
みつきM:幸せじゃない、訳じゃない。
よしかM:辛いことばかりな、いままでじゃない。
みつきM:ただ、ずっと現在(いま)が。
よしかM:ただ、ずっと未来が。
みつきM:私を不安にさせて。
よしかM:怖がらせて。
みつきM:どうしようもないんだ。
0:3カウント―――
みつき:……あれ。
よしか:……あ、来た。
みつき:えー、なにー? 待っててくれたの?
よしか:んー……まぁ、そう。
みつき:……え、なにその感じ? なんかのついで、ってこと?
よしか:いやいや、お待ちしておりました。
みつき:ふーん、そうですか。どうかしたの?
よしか:大したことじゃないんだけど……これ、あげようと、思い。
みつき:……お守り?
よしか:交通安全。
みつき:な、なぜ?
よしか:いや……運転するじゃん。
みつき:そうだけれども……あ、なんかどっかの神社行って来たの?
よしか:そう、あれだから。
みつき:あれ?
よしか:あー……受験。
みつき:おぉ、そうじゃん! 大きくなって、まぁ。
よしか:なんそれ、おばさんっぽい。
みつき:ふふっ、おばさんって言うな!
よしか:いや、そっちが言わせたでしょ。
みつき:直接言えなんて言ってない。まあ……自分ののついでに買って来てくれたのね。
よしか:そーなる。
みつき:ふふっ、ありがとうございます。これで事故らないわ。
よしか:無病息災(むびょう そくさい)と迷ったけど、まあ、そっちかなって。
みつき:うん、ありがと。体調管理は自分で頑張る。
よしか:よろしく。
みつき:はいー。私帰るけど、そっちは?
よしか:うん、帰るよ。
みつき:おー、じゃあ駐車場まで行こうよ。
よしか:いいよ、てか、駅までで良いよ。
みつき:え……乗ってくの?
よしか:そりゃ、何の為にお守りあげたのさって話。
みつき:そんな裏があったのか……てか、それ実質、自分の交通安全祈願じゃん。
よしか:いやいや、ついでだから。
みつき:はぁ……なにがついでなんだかー。
よしか:…………あー、寒い。
みつき:……そうだよ、冬は寒いのだ。
よしか:いや、そうだけどさ。寒い。
みつき:ふふっ……おーけー、寒がりさんに、あったかい物をやろう。
よしか:あったかい物?
みつき:じゃんっ、ててーん、ほっかいろー。
よしか:わぁ……物持ちが良い。
みつき:……なんか年寄りくさいって思ってない?
よしか:…………いや、めっちゃ被害妄想。
みつき:じゃあ何なんだ、その間は!
よしか:気にしすぎ……寒いから、レスポンスも遅くなんの。
みつき:ほー……ま、そう言うことにしてやろう。ほいっ。
よしか:ありがとうございます。
みつき:はーい。
よしか:……ぬくい。
みつき:ふふっ。
よしか:……なんか不思議だわ。
みつき:なにが?
よしか:少し前まで、すごい暑かったのに、って。
みつき:あー、そうだねー。今年はすごい暑かったわ。
よしか:うん、それがもう……こんなに寒いって、わけわからん。
みつき:わかる。けど……毎年言ってる気がするんだよねー、私。
よしか:……私も。
みつき:だよね? ふふっ。
よしか:……あっという間だな。
みつき:……そだね。あっ……という間に、車まで到着ー。
よしか:うん……寒っ。
みつき:……よいしょっ。どうぞー、シートベルトを忘れずにっ。
よしか:へーい。お邪魔します……おや?
みつき:……あ、ごめん、それ後ろにどかしちゃって。
よしか:りょー。ははっ、ぬいぐるみ好きじゃん。
みつき:まぁねぇ。ひとりで運転するの寂しいし。
よしか:わー、キャラ通り。
みつき:なんだキャラって。べっつに普通ですー。
よしか:いーじゃん。かわいいよ。そういうの。
みつき:どういうのさ……まぁ、出発しちゃいますよぉ。
よしか:お願いしまーす。
みつき:GOー!
0:3カウント―――
よしかM:出会ってから、どれだけも、時間が経っていない。そんなふうに思っていたのに。
みつき:……もう、一年経つのかぁ。
よしかM:こんなにも、はやく、時間は流れてしまった。
みつき:はやいねぇ……ついこの間じゃなかったっけ? 私たちが、はじめましてー、ってしたの。
よしかM:思い出す。夕陽が落ちる途中。廊下の窓の向こう。
みつき:なぁんか……その時からさぁ、ずっと黄昏てたよね?
よしかM:遠くを、見ていただけだ。どこかに飛んで行く鳥の群れを。停滞する夕雲を。ぼやける、夜と昼の色彩を。
みつき:なぁんか、気になって……あんま良くない気もしたけどさぁ……声かけちゃったんだよねぇ。
よしか:学校で、私服の大人に話しかけられたことなかったから、少しビビった。
みつきM:別に、大人って言える存在なんかじゃ、ない。
よしか:不審者かなー、とか考えたけど。ウチが夜間学校やってんのも知ってたし、あそこの教室使ってるのも知ってたし。あー、そっちかなって。
みつきM:退屈していた訳じゃない。友達が居なかった訳でもない。
よしか:なんとなく興味わいて、そっちの授業始まる前に少しだけ話すようになったね……。
みつきM:似てないけど、なんとなく……似てるような。そんな、懐かしさみたいな感覚を……あの日、感じたっけ。
よしか:なんか……歳の差があるなんて、変な感じ。
みつきM:流れて行く夜の町並み。私たちは、今だけ、同じ速度で進んでいるんだろうな。
みつき:ねぇ……何者にもなれない。って。
よしか:……え?
みつき:みたいな言葉……聞いたことある?
よしか:……なんかの、映画とかのやつ?
みつき:そう……だった気がするなぁ。
よしか:なにそれ……聞いたことないよ、たぶん。
みつき:そっか……私もあんまり、よく覚えてないんだけどさぁ……その言葉だけ、妙にこびりついてるんだよねぇ。
よしか:……なんか、ネガティブな感じだしね。
みつき:ふふっ……そうだねぇ。
よしかM:何者にも、なれない。
みつき:私、それって、自分のことだなって、思っちゃったんだ。
よしかM:なんて、悲しい言葉だろう。
みつき:「普通」ってさぁ、生き方があるとして。そこからほんのちょっとだけ……私は、外れちゃって。
よしかM:これまで、自分の話は、避けてきていたのに。
みつき:ゆっくりと「普通」、ってところまで戻って来たつもりだったのに……なぁんか、気づいたら、学校とか通っちゃってさ。
よしかM:曖昧に、だけど、丁寧に。
みつき:何がしたいのやらって感じ……自分が選んで、ここまで来たはずなのに……。
よしかM:私に、心を開いて見せる。
みつき:……私、高校中退して、働かないといけなかったんだよね。家の……ううん、親の都合ってやつで。……まぁ、深くは、言わないけどさ。
よしか:……うん。
みつき:最初は、あんまり、どこも長く続けられなくて、色んなとこ点々としてたなぁ……学(がく)も無いし、ガキだし……上手く人と……社会と、付き合っていけなくてさぁ……嫌だったなぁ、生きるの。
よしか:……なんか……比べるのも、あれだけど。私も、短期バイトした時、社会で上手くやれる気しなかった。
みつき:ふふっ……下手そうだもんね、働くの。
よしか:……突然、めっちゃ失礼。
みつき:ごめんごめん。でも……同じだと思うよ。その、バイトした時の感覚。
よしか:……そう?
みつき:うん。特別なことじゃない、そんなの。誰だって、同じように感じるもんだよ……自分で、自分を守らないといけないんだって……理解しないといけない時は、ね。
よしかM:頑張って、と。その言葉に、突き放された気分になった時のことを、思い出す。
みつき:初めてのことをする時って、怖い? それとも、ワクワクする?
よしか:……ものによる。
みつき:せーかいっ……それが、自分の好きなこととか、やりたいこととか……責任がないことならさぁ……気楽に楽しめるんだけどねぇ。
よしか:仕事とかって話なら……不安が大きいかもね。
みつき:そうだよぉ、大変だよ……自分の好きでもなんでもない、やりたくもない……そんなことをやらないといけないのは……怖いんだぁ……。暗闇の中で、自分しか見えないみたいな……そんな感じ。
よしかM:いま見えている未来の方向が、より深い霧で、塗り潰されていくような気がした。
みつき:……だけどね、それでも、出来ることを増やして行くのは、楽しいんだよ。
よしか:……できること。
みつき:うん……小さい灯(あかり)で、少しずつ周りを照らしながら進む、みたいに。ちょっとずつ、失敗しながら、出来るようになっていくの。
よしか:……普通に、しんどそうだけど。
みつき:ふふっ……バレたか。
よしか:……しんどいんじゃん。
みつき:そりゃそうだよ。ただ、自分の成長を実感した時だけ……ほんのちょっと、自分を褒めてあげられるなぁって……そんだけなんだから。
よしかM:それは、決して希望なんかじゃないと思う。
みつき:出来なきゃいけないことを、出来るようになる。それでいて、上手く出来るように、努力する。なんか……それが「普通」なんだってさ……社会とか、生きるとか……そう言うのは。
よしか:……なんとなく、わかるけど、ね。
みつき:でもさ……つらいよ、そんなの。
よしかM:色が滲むような。そんな声で。
みつき:自分の為だけにさぁ、生きていたいじゃん……それって、「普通」じゃないのかなぁ……。
よしかM:グミでは、まぎらわせないくらいの、苦しみを吐き出す。
みつき:あーあ、ごめんねぇ……なんか、こんなこと言いたいんじゃないのにな……ははっ……どうしたんだー、私ー。
よしか:……きっと、それ「夢」、とか、なんじゃない?
みつき:……夢?
よしか:……こうなりたい、こうしたい、って、そういう……「普通」って、よくわからないけどさ……私からしたら……もう、普通だよ。
みつきM:その言葉は。ただの呪いだと思っていた。
よしか:だって……そういう、何かになりたくて、努力して…… 色んなことに悩んで、傷ついて、さ……それって普通じゃない? 私だって……同じだよ。
みつきM:どうしてこんな簡単に、救いのように感じてしまうのだろう。
よしか:おわっ……え、停めるの?
みつき:ふふっ……ごめん、このまま運転してたら……ちょっと、危ない気がしたからね。
よしか:……そういうとこも、普通で、良いじゃん。
みつき:……良識があるってことね。
よしか:……うん。
みつき:…………一緒にいる時。
よしか:ん?
みつき:……2人でいる時は……「普通」でいれるような気がしてたんだ……なんか、ただの友達と……普通に……楽しく喋ってられた。
よしか:…….普段のまんまじゃん。
みつき:ふふっ……普通だったでしょ、私。
よしか:……知らんよ。変なとこもあるし。
みつき:それは、そこも含めて、私ってだけだからっ。
よしか:……そうかもね。
みつき:そうだよ……だから、ありがとう。
よしか:……なんの、ありがとう、なのさ。
みつき:これまでの、私たちの友情に……とか?
よしか:なにそれ。クサイ台詞。
みつき:なにさ、こういうのが良いんじゃん。本当に伝えたいことっていうのは、クサイ台詞に聞こえるもんだよ。
よしか:……たしかに。さっきまで、ずっと、クサイ台詞みたいだったかもね……私たち。
みつき:うん……ねぇ、ついでにもう少し、クサイこと言っていい?
よしか:……なんか嫌な感じだけど……いいよ。
みつき:ふふっ…………未来は、怖いだけじゃない。
よしかM:わかりきったことを、彼女は言葉でくれた。
みつき:考えた分だけ、恐怖も憧れも、なんでもかんでも、大きくなっていくからさぁ……何が正しいかとか、間違いじゃないのか、とか。
よしかM:ネオンライトが、車内を淡く照らす。
みつき:……現在(いま)は、考えなくていいよ。遠い未来に……お任せしちゃお。
よしか:…………なんだそれ。
みつき:ふふっ、経験談、的なー……若者への激励の言葉。
よしか:……結局なんか、気にするなってことじゃん。
みつき:そうなのよー……結局、そんなもんだよ。
よしか:……そっか。
みつき:そうよ。
よしか:……なるほど。それでいま、そちらは考えないといけない未来に、居るのか。
みつき:はぁ……そうなんだよねぇ。だから、ほどほどに、かなぁ。私みたいだと……ふふっ、大変だからね。
よしか:また、難しいじゃん……裏技とか教えてくれないの?
みつき:いやぁ、あるわけないじゃん。あったら、こんなことになっとらんです。
よしか:ふふっ……そうですか。
みつき:そうじゃ。ふぁっふぁっふぁっ。
よしか:いきなり老いるじゃん。
みつき:ふぁっふぁっふぁっ……でも、本当、いきなり老いるんだろうな、きっと。
よしか:……いいじゃん。たぶん、それも……素敵だよ。
みつき:……そういうもんかなぁ。
よしか:うん……たぶんね。
みつき:……そっか。
よしかM:思い出す。ひとりで、窓の外を眺めていた時を。
みつき:なら……。
よしかM:振り返る。もうひとりを待つようになった日を。
みつき:……素敵に、生きないとなぁ。
よしか:べつに、普通で……そのままでいいよ。
みつきM:思い出す。憧れを、義務に変えた日を。
よしか:私から見たら、充分……素敵だって。
みつきM:振り返る。自分の足跡だらけの、ここまでを。
よしか:……ねぇ、何者にもなれない、ってやつ。
みつき:……うん。
よしか:……何者にもならなくていいよね。
みつき:……たしかに。
よしか:……ふふっ。
みつき:ふふふっ。
よしかM:この先の、何も見えない未来で。
みつき:うん……じゃあ……。
よしかM:きっと、少し前の方で、あなたは時々、私に手を振って振り返ってくれるのだろう。
みつき:……私。何者(誰か)には、ならない。
よしかM:どんな暗闇だろうと、あなただとしか分からないくらい……素敵な笑顔で。
0:3カウント―――
よしか:ありがとね、送ってくれて。
みつき:ううん、大丈夫。てか、逆に時間かかっちゃったし、ごめんねー。
よしか:いやいや……大事だったじゃん、あの時間も。
みつき:まあね……ん? も?
よしか:も。
みつき:え、どゆこと?
よしか:ふっ……あの時間も、だし。これまでも、大事だったじゃん、ってこと。
みつき:うわぁ……青臭いよ。
よしか:照れてるからって、言葉のチョイス悪くしないで。
みつき:照ーれーてーまーせーん。
よしか:そうですか……ふふっ。
みつき:もー……アオハルビームやめてよね。
よしか:何それ。出して無いって、そんなん。
みつき:いーや、放ってたね。お姉さんには、わかるよっ。
よしか:へー、さすが年の功。
みつき:おいっ、お姉さんだって言ってるでしょ!
よしか:ふふっ、はいはい…………あのさ。
みつき:なんだよっ。
よしか:……これ、渡し忘れ。
みつき:ん? なになに?
よしか:大した物じゃないよ。
みつき:えー、沢山くれるじゃん。ありがとー。
よしか:うん……じゃ、もう電車来るから、またね。
みつき:あ、うんっ、またぁ……ね、かな……。
よしか:……みつき。
みつき:えっ?
よしか:またね、だよ。
みつき:……そう、なんだ。
よしか:……じゃね。
みつき:うん……あーあ、行っちゃった。……私は、ほんのちょっと後に、あんたを見送ることになるんだけどなぁ……。
よしかM:あのさ、たぶん……大丈夫。
みつき:……あ、そういや何くれたんだろ。
よしかM:この寂しさは。人生で、ほんのちょっとだけしか覚えてないよ。
みつき:どれどれぇ……ん?
よしかM:忘れられるし、すぐ諦めがつく。
みつき:……これ。
よしかM:だから、大丈夫。
みつき:……ははっ……なんでよ。
よしかM:いまは、別々に、未来に向かおう。
みつき:学業成就って……ははっ……。
よしかM:時々、振り返れば。不細工な過去(足跡)が、沢山見える。
みつき:……置いてかれる、なんて……そんなことなかったんだ。
よしかM:その、どんな遠回りも、どんな間違いも。現在(ここ)に続いているから……大丈夫。
みつき:……うん……大丈夫。
よしかM:未来(この先)で、また会おうね。
みつき:……またね。
0:3カウント―――
みつき:……よ。
よしか:……来たんだ。
みつき:えぇ……来てみた。
よしか:ふふっ、お洒落しちゃって。
みつき:いや、流石に普段の格好じゃ来れないでしょ。
よしか:気にしなくて良いのに。
みつき:気にしますー。
よしか:まぁ……それが、普通か。
みつき:ふふっ……嫌味かーい?
よしか:いーえ、違いまーす。
みつき:まったく……そうだ、食べる?
よしか:ん、グミ?
みつき:そう。すっぱいやつ。
よしか:え……苦手だって言ってなかった?
みつき:そうだよー。でも、卒業式だし……お祝い用。
よしか:ふふっ……お祝いが、グミかぁ。
みつき:良いでしょ別にっ、もう可愛くないなー……はいっ、青春のぉ、レモン味ぃ。
よしか:だから、そういうのが、おばさんみたいなんだって……ありがと。
みつき:お姉さん、だから。
よしか:はいはい。
みつき:……あのさ。
よしか:ん?
みつき:……大学、頑張ってみることにした。
よしか:……へぇ。良いじゃん。
みつき:……良いでしょ?
よしか:うん、めっちゃ良い。
みつき:……ねぇ、ハグしよう。
よしか:はい?
みつき:ハグ。しません?
よしか:んー、どうして?
みつき:なんか、したくなったの。なんか。
よしか:ふーん……よし、ハグしますか。
みつき:ふふっ、えー、いいのー?
よしか:良いよ、来い。
みつき:なんかワイルドだなぁ……おいで、って言ってよぉ。
よしか:無駄にこだわるじゃん……はぁ……おいで。
みつき:きゃー、はぐっ。
よしか:はぐっ、って言うな。
みつき:……ねぇ。
よしか:何?
みつき:私たち……親友かな。
よしか:……そうだよ。
みつき:ふふっ……今度どっか行こうか。
よしか:……潮干狩りにでも行く?
みつき:行かなーい。
よしか:ふふっ、行かないじゃん。
みつき:……ねぇ、親友。
よしか:……何よ、親友。
みつき:……卒業、おめでとう。