台本概要
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タイトル | STRAYSHEEP Ⅷ |
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作者名 | 紫音 (@Sion_kyo2) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
『誰かを愛するって、そんなに簡単なことじゃないけれど……きっと、“愛”って繋がっていくと思うから』 自分の醜さは自覚した。今、何をどうするべきか……その答えはまだ、完全には見えないけれど。 二度と嘘をつかないために、二度と裏切らないために――覚悟と決意を胸に、チェルシーは再び銃を握る。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― STRAYSHEEPシリーズ八作目になります。 時間は30分~40分を想定しています。 上演の際、お手数でなければお知らせいただけると嬉しいです。※必須ではないです。 211 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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チェルシー | 女 | 67 | 何でも屋。元殺し屋“デュアルバレット”。 |
ロイド | 男 | 66 | 殺し屋。ミッシェルの兄。 |
ジェイド | 男 | 31 | チェルシーの友人。教会で暮らしている青年。 |
ミッシェル | 女 | 49 | 元バウンティハンター。現在怪我で入院中。ロイドの妹。 |
ルーカス | 男 | 49 | 闇の便利屋。依頼によりチェルシーの命を狙う。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:病院にて。
0:チェルシーが病室のドアを開ける。
0:二つ並んだベッドのうち手前のベッドに、まだ意識の戻らないジェイドが寝ている。
0:イスに腰掛けるチェルシー。
チェルシー:……ジェイド。
チェルシー:アデルも、あなたのこと心配してる。……お願いだから、早く目を覚まして。
チェルシー:このままあなたに会えなくなったりなんてしたら……私きっと、一生後悔するから……
チェルシー:お願い…………
ミッシェル:……きっと、大丈夫ですよ。
チェルシー:……え?
0:奥のベッドにいたミッシェルが、チェルシーに声をかける。
ミッシェル:あ……すみません、突然……。
ミッシェル:でも、あの……きっと、信じていれば、目を覚ましてくれると思います。だから……そんなに悲しそうにしないでください……。
ミッシェル:余計なお世話だったら、すみません……。
チェルシー:……。
チェルシー:ううん……全然そんなことない。
チェルシー:……そうよね、きっと、大丈夫。……私が信じてなきゃ……。
チェルシー:ありがとう。……ちょっと、前向きになれた。
ミッシェル:……良かったです。
ミッシェル:なんだか、見ていて放っておけなくなってしまって……突然声をかけてしまってすみません。
チェルシー:……ふふ、優しいのね。あなたも怪我で入院?
ミッシェル:ええ。多分もうすぐ……兄が、お見舞いに。
チェルシー:そっか……お大事にね。
ミッシェル:はい。……ありがとうございます。
チェルシー:……さてと。私はそろそろ行かないと。
チェルシー:早く退院できるといいわね。いろいろ、ありがと。
ミッシェル:いえ……こちらこそ。
0:チェルシーが病室を出て行く。
0:
0:
0:
0:病院の廊下を歩いていくチェルシー。
チェルシー:……(ため息)。
チェルシー:これから……どうしたらいいんだろ、私……
チェルシー:……ん?
0:ふと、向かい側から歩いてきた人物を見て、立ち止まる。
ロイド:……うわ、なんか見たことあると思ったら……
チェルシー:あんた、あのときの……!
ロイド:やあ久しぶり。……それじゃあ失礼。
0:チェルシーの横を通り過ぎてそのまま去っていこうとするロイド。
チェルシー:ちょ、待ちなさいよ。
ロイド:……なにかな。
チェルシー:こんなとこに何の用があんのよ、あんた。まさか誰か殺しに……
ロイド:……悪いけどここで銃を抜くつもりはないね。
チェルシー:……じゃあなんなのよ。
ロイド:……なにって……
ロイド:身内の見舞い。……何か問題でも?
チェルシー:あ……お見、舞い……
チェルシー:……えっと、その…………ごめん……
ロイド:……別に。
ロイド:あんたこそ何してるんだい?こんなとこで……そんな死にそうな、やつれた顔して。
チェルシー:……え、うそ、そんなひどい顔してる?私……
ロイド:かなりね。幽霊でも歩いてきたかと思ったよ。鏡見てきたらどうだい?
チェルシー:……。
ロイド:この前会ったときも、随分情けない顔した女だと思ったけど、今日はさらに輪をかけてひどいじゃないか。……よっぽど、何かあったらしい。
チェルシー:……。
チェルシー:……あんたの、言う通りだったのかも。
チェルシー:私の言ってることなんて、所詮寝言みたいなもので……綺麗事でしかなかったのかもしれない。
ロイド:……なんだい急に。
チェルシー:もうとっくに私の手は、どす黒く汚れてて……それをなかったことになんて、できるわけなくて……
チェルシー:……でも、償えるはずだって……そう、思ってた、けど……そんなに、簡単なことじゃ……なくて……
ロイド:……(小さくため息)。
ロイド:……そうやって下向いて震えてるうちは、何もできるわけないだろうね。
チェルシー:……ッ。
ロイド:……その程度の覚悟だったってことだろ、結局は。
ロイド:まあ……俺もどうこう言える立場じゃないけど。
チェルシー:……私……どうしたら、いいのか……
ロイド:そんなの……俺に聞かれたって分かんないよ。
ロイド:あんたが今、何をどうすべきなのかなんて、それはあんたが考えるしかないだろ。立ち止まってたって時間は止まってくれないよ。
0:そのまま立ち去っていくロイド。
チェルシー:……は、……
チェルシー:まさかあいつに……ド正論言われる日が来るなんて思わなかった……
チェルシー:……『時間は止まってくれない』……か。
チェルシー:……だったら………
0:
0:
0:
0:病室のドアを開けるロイド。
0:ベッドのミッシェルが微笑む。
ミッシェル:……あ、お兄様!
ロイド:……や、ミッシェル。具合はどうだい。
ミッシェル:もうすっかり元気ですよ。今すぐ退院しても大丈夫なくらいです!
ミッシェル:休んでいる期間があまりにも長いと体が鈍ってしまうので、できれば外で運動したいのですが……
ロイド:ハハ、その様子じゃもう心配なさそうだねぇ、安心したよ。
ロイド:だけど、動くのはもう少し我慢かな。無理して動いて傷が開いたら大変だろ。
ミッシェル:うぅ……そうですね……。
0:(少し間を置いて)
ロイド:……ミッシェル。
ミッシェル:なんですか?お兄様。
ロイド:……ごめんな。
ミッシェル:……え?
ロイド:お前にこんな怪我させたのも……もとはと言えば俺のせいだし。
ロイド:……お前のためなんて言って俺は……お前のこと傷付けてばっかりで……ろくでもない兄貴で、ごめんな。
ミッシェル:お兄様……
ロイド:俺が、道を踏み外すようなことしなきゃ……きっとお前が『こっち側』に巻き込まれることもなかったのに。
ロイド:……最初から、俺なんかがいなきゃこんな――
0:(ミッシェル、ロイドのセリフに被せる)
ミッシェル:お兄様。
ミッシェル:それ以上言ったら怒りますよ。
ロイド:……。
ミッシェル:これは、私自身の選択の結果です。……私は、自分が望んで『こっち側』に踏み込んだんです。
ミッシェル:……だって、強くなりたかったから。お兄様に守られてばかりじゃなくて、今度は私がお兄様を守れるくらいに強くなりたかったから。
ミッシェル:そして二度と……お兄様を裏切りたくなかったから。
ロイド:……ミッシェル……
ミッシェル:やっと、また会えたんですよ。もっと嬉しそうな顔してくださいな。
ミッシェル:今度はもう、離れませんし、絶対離しません。……私は、お兄様に生きていてほしい。
ミッシェル:だから……『自分がいなければ』なんて、もう言わないでください。
ミッシェル:お兄様がいたから、私がいるんです。私は誰になんと言われようと……お兄様の妹で良かったって、心の底からそう言えます。
ロイド:…………ハハ、……参ったな……
ロイド:お前には…………敵わないらしい。
ロイド:……昔からそうだ……底抜けに優しいね、お前は。
ミッシェル:ふふ、お兄様だって優しいです。
ロイド:俺は……優しくなんかない。
0:席を立つロイド。
ロイド:……また来るよ。今度はなにか、甘いものでも持ってくる。
ミッシェル:あ、私マカロンが食べたいです!
ロイド:ハハッ、マカロンね。分かった、買ってくるよ。
ロイド:……ミッシェル。
ミッシェル:はい?
ロイド:……ありがとう。
ミッシェル:……ふふっ。
ミッシェル:こちらこそ、ですよ。お兄様。
0:
0:
0:
0:某所にて。
0:イライラした様子でスマートフォンを操作するルーカス。
ルーカス:あーあーあ……本当に面倒なことになってますね。
ルーカス:さくっとデュアルバレットを殺って報酬貰って終わりと思ってたのに……なかなか上手くいかない。
ルーカス:スカーレットさんも一向に折り返しの電話をくれないし……どいつもこいつも勘弁してくださいよ全く……
ルーカス:どうしたもんですかねぇ、やっぱりデュアルバレットは二人まとめての方が……いやでも、一人ずつの方が負担は少ない……うーん……
ルーカス:ああ面倒だ面倒だ……
チェルシー:……あら、何かお悩み?話聞いてあげましょうか?
ルーカス:……。
0:表情を消して、ルーカスが振り返る。
0:ひらひらと手を振りながらチェルシーが立っている。
チェルシー:ふふ、この間はどうも。私のこと覚えてるかしら?
ルーカス:……おやおや、いつからお悩み相談室なんて始めたんです?
チェルシー:そりゃあ何でも屋だもの、お悩み相談でもなんでもお任せあれよ。
ルーカス:ハハ……それじゃあ一つ、僕の悩みも聞いてほしいんですけど……
0:銃口をチェルシーに向けるルーカス。
ルーカス:……どうやったらあなた死んでくれます?チェルシーさん。
チェルシー:そうねぇ……そもそも私、死ぬつもりないから無理。
0:同じく銃口を向けるチェルシー。
ルーカス:報酬金、欲しいんですよね。結構多額なので。あなたかアデルさんか、どっちかだけでも死んでくれません?
チェルシー:お金のためだったら平気で殺すのね、あなた。
ルーカス:あなたも同じだったんでしょうに。何を今さら善人ぶってるんだか。
チェルシー:……そうね。同じだった。……いえ、今だって何も変わってない。
チェルシー:私の頭の中にあるのは、いつだって自分のことばかりだもの。誰かのためなんて言って本当は、全部自分のためだった。自分のためでしか、なかった。
チェルシー:あんたの言う通りよ。……私は偽善者。私がやってたのは、ただの善人ごっこ。
チェルシー:勝手に勘違いして、勝手に悲劇のヒロインぶってただけ。
ルーカス:……それを認めて、どうします。大人しく死んでくれるんですか?
チェルシー:それは嫌。絶対嫌。
チェルシー:こんな私が……生きることにしがみつくなんて、おこがましいのかもしれないけど。
チェルシー:今度こそ、本当の意味での、贖罪を選びたい。……罪を背負って、私は生きなくちゃいけない。
チェルシー:でもその前に……ジェイドをあんな目に遭わせたあんたは許さない。あんたと決着をつけて……これで全部、終わらせるわ。
0:
0:
0:
0:その頃。
0:病室にて、ジェイドが目を覚ます。
ジェイド:……ん……
ジェイド:(……あれ、ここは……どこだ……?)
ジェイド:(俺は……たしか、チェルシーを助けようとして……撃たれて……)
ジェイド:……もしかして俺って……死んだのか!?
ジェイド:あいっ……ててててて……
0:ベッドから跳ね起きるも、痛んだ腹を押さえるジェイド。
ミッシェル:……あ、気が付いたんですね!!
ジェイド:……え?
0:横のベッドにいたミッシェルがジェイドを見ている。
ミッシェル:良かったぁ、目が覚めて……
ジェイド:へ、……あ……えっと……
ジェイド:……い、生きてんのか……俺……
ミッシェル:はい!
ジェイド:ここ、天国とかじゃないよな!?
ミッシェル:はい、病院です!
ジェイド:よ……良かったぁ……俺……生きてるぅ……
ジェイド:ありがとう、なんかよく分かんないけどとりあえずありがとう!
ミッシェル:ふふ……あなたのお友達も、すっごく心配されてましたよ。
ジェイド:友達……?
ミッシェル:女性の方でした。さっき、あなたのお見舞いに来ていらしたので、ちょっとだけお話して……
ジェイド:……チェルシー、か……
ジェイド:……。
ミッシェル:……どうかされました?
ジェイド:あ……いや……ちょっと、いろいろあって……
ジェイド:……。
ジェイド:……俺、さ。……どうしたらいいのかなぁって。
ジェイド:友達なのに……何の役にも立てなくてさ……足引っ張ってばっかりっていうか……あいつらが抱えてるものなんて全然知らなくて……一緒に背負ってやることだって……
ミッシェル:……。
ジェイド:あ、ごめん……いきなりこんな話されても困るよな……
ミッシェル:……いえ。
ミッシェル:私で良ければ……お話、聞かせてください。
ジェイド:……え?
ミッシェル:もしかしたら、私たちは……ちょっと、似てるかもしれません。
0:
0:
0:
0:その頃。
0:チェルシーとルーカス、銃撃戦。
ルーカス:……ハハ、随分と生温い銃弾だ。本当にデュアルバレットですか?あなた。
チェルシー:……だった、の方が正しいけどね。
ルーカス:人間って恐ろしいですよねぇ。どんなに手に馴染んでいたものでも、しばらく触れないと感覚を忘れてしまう。
チェルシー:……ほんとそう。だからぶっちゃけ、怖いのよ。引き金を引く感覚が……!
ルーカス:お……っと、危ない。
0:チェルシーの銃弾を躱すルーカス。
ルーカス:まあでも……鈍っていてくれる方がありがたいですけどね。さすがに、現役の頃と実力の変わらないあなた方を敵にして、生きて帰れると思いませんから。
チェルシー:……随分臆病ね。自分は躊躇なく殺すくせに、自分が殺されるのは怖いわけ?
ルーカス:当たり前じゃないですか。痛いのは嫌だし、死ぬのは怖い。人間なんてそんなもんですよ。
ルーカス:自分のことが一番かわいくて、一番大事なんです。……あなたもさっき言ってたじゃないですか。自分のことばかりって。他人のために自分を犠牲にするなんて愚かでしょう?
チェルシー:……そうね。でも私は、そんな……あんたのいう“愚か”な人に、救われた。
チェルシー:自分のことばかりで、自分が一番かわいくて……自分勝手な理由で、私はいつも周りの人を振り回してた。
チェルシー:でも、そんな私を照らしてくれた彼は……本当に心配になるくらいにお人好しで、優しくて、太陽みたいに眩しくてあったかくて。自分を犠牲にしても、周りの人の笑顔のために頑張っちゃうような、そんな人。
チェルシー:きっと彼は……こんな醜い私の、お腹に抱え込んだ闇ごと、許して受け入れてくれちゃうんだと思う。
チェルシー:……だから、そんな彼に、噓偽りで固めまくった自分でしか向き合わなかった私が……友達だなんて言いながら、何一つ見せてなかった自分が、今一番許せないし……そんな彼を傷付けたあんたも許せない。
チェルシー:ずっと裏切り続けてた。……もう同じ過ちは繰り返さない。
ルーカス:いいですねぇ、そういうの。……ほんと、面白過ぎて泣けてきます。
ルーカス:馬鹿は馬鹿同士でよろしくやっててくださいよ。僕はあなたたちみたいな愚かな生き方はしたくないです。
ルーカス:自分と他人を天秤にかければ、誰だって自分の方が大切だと思うのは当然の心理ですよ。自分が安全に生きるために他人を蹴落とすのが人間ってもんでしょう?
ルーカス:そこに、倫理とか人情とか、そういう教科書に書いてあるような、俗に言う“正論”なんて必要ないんですよ。
ルーカス:だって、そんなもんに縋りつく人間ほど、真っ先に自分を滅ぼすから。……ここはそういう世界でしょう。
ルーカス:他人に足を引っ張られて自滅なんて、僕は絶対に嫌です。自分の世話さえ自分でできればあとはどうでもいい。
チェルシー:きっと、それが賢い生き方なんでしょうね。
チェルシー:でも、結局人間って弱いから。……誰かと繋がりたいって思ってしまう。ときに、自分よりその誰かを優先しても、よ。
ルーカス:それが美徳だなんて思い込んで、愛とか優しさとかっていうそれっぽい名前を付けて……やってることは仲良しごっこですよね。
ルーカス:本当に……くだらない。
チェルシー:……ッ……!?
0:ルーカスの銃弾がチェルシーの手を掠めていく。
0:そのまま銃がチェルシーの手から零れ落ち、膝をつくチェルシー。
ルーカス:結局それって、自己満足の世界じゃないですか。自分を犠牲にしても他人を守っている自分……それを客観視して悦に浸る。
ルーカス:だからどいつもこいつも偽善者だって言うんですよ。
0:チェルシーの額に銃口を突き付けるルーカス。
ルーカス:あなたも、あなたを庇って死にかけたあの男も、可哀想な程に愚かだ。デュアルバレットが、こんな偽善だらけの社会に毒されて落ちぶれたかと思うと……哀れでなりませんね。
ルーカス:……さ、お別れしましょうか、チェルシーさん。
ロイド:……待ちな。
ルーカス:……!?
0:いつの間にか、ルーカスの背後に現れたロイド。
0:ルーカスの後頭部に銃口を突き付ける。
ロイド:悪いけど……そいつを殺っていいのは俺だけだ。余所者が手出すんじゃない。
チェルシー:……ッ!
チェルシー:あんた、なんで……!?
ロイド:さぁね。……第三者に勝手な真似されるとどうにも腹が立つ。
ルーカス:……誰ですか、あなた。
ロイド:『これから死ぬ人間に、名乗ったところで意味がないだろ』?
ロイド:……ハハ、一回言ってみたかったんだよねぇ、これ。
ルーカス:もしかして……僕今、ケンカ売られてます?
ルーカス:あなたこそ余所者でしょう。勝手に入ってこないでくれません?大事なところなんですよ、今。
ロイド:そんなの知ったこっちゃないよ。とにかく離れな、そいつは俺が殺る。
ルーカス:はい分かりましたどうぞどうぞ……って、素直に僕が引き下がるとでもお思いで?
ルーカス:こっちも仕事なんですよ。報酬金がかかってるんです。横取りされたらたまったもんじゃないですよ。
ロイド:だからそんなの知らねぇって言ってんだろ、いいからどけよ。
ルーカス:ハハ、怖いなぁ。……ええいいですよ、それならこうしましょう。
0:ロイドに向けて銃口を構えるルーカス。
ルーカス:……あなたも殺ってしまえばいい。弾の無駄にはなりますけども。
ロイド:舐められたもんだねぇ。……お前ごときが俺に敵うと思うかい?
ルーカス:……僕ね、今とっても機嫌が悪いんですよ。計画通りになかなか進まないわ戯言を延々聞かされるわ邪魔は入るわで……ああもう本当にかったるい。
ルーカス:弾が無駄になろうとなんだろうと……このイライラを鎮めるためなら惜しくはないですね。
ロイド:ハハ、そうかい。じゃあ勝手にキレてろよ。
ロイド:……で?あんたはいつまでそこに座り込んでるつもりだい?
チェルシー:あ、……
ロイド:せっかく助太刀に入ってやるって言ってんだから立ちなよ。
チェルシー:……敵なんだか味方なんだか分かんないわよ、あんた……
ロイド:たまにはいいんじゃないかい?こういうのもさ。せっかくだ、楽しもうよ。
チェルシー:……(ため息)。
0:チェルシー、銃を拾い立ち上がると、ロイドの隣に並んで立つ。
チェルシー:まさか……こんな日が来ると思わなかった。
ロイド:足は引っ張らないでくれよ。
チェルシー:うるさいわね、その言葉そのまま返してあげるわよ。
チェルシー:……こんなの、今だけかもしれないけど……頼りにしてるから。
ロイド:上等だ。……さあ、やろうか。
0:
0:
0:
0:病室にて。
ジェイド:……似てる?俺と、キミが?
ミッシェル:……ええ。なんとなーく、ですけど……そんな気がします。
ジェイド:……そっか。
ジェイド:……。
0:(少し間を置いてから、ジェイドが話し始める)
ジェイド:……あのさ。もしも、だよ。
ジェイド:自分の身近な人が……殺し屋だったとしたら、どう思う……っていうか、どうする?
ミッシェル:……殺し屋……ですか。
ジェイド:あ、その……もしもの話だよ。本当にそうってわけじゃ……あ、いや、えっと……
ジェイド:……とにかく、キミだったらどうする?
ミッシェル:どうするか、というのは……受け入れられるか、受け入れられないか、ということですか?
ジェイド:……そういう、ことかな……
ミッシェル:でしたら、私は…………はっきりと、どうするかは言えません。きっと、相手によると思います。
ミッシェル:もしもその人が、自分にとって本当に本当に大切で、どんなものを抱えていたとしても、それも含めて全て抱きしめられる覚悟があるなら……私は、その人を受け入れられると思います。
ミッシェル:世間一般的な善悪の概念を無視してでも……その人が自分にとって大切なら、きっと……
ジェイド:……そ……っか……。
ミッシェル:……すみません、あまり答えになっていなかったかもしれませんね……。
ジェイド:いや……全然そんなことないよ。
ジェイド:……じゃあさ、もういっこ聞いてもいい?その人のために、何をどうしてあげればいいと思う?
ジェイド:罪を償うことを望むその人のために……自分の過去を、あるいは自分の存在すら後悔してるかもしれないその人のために……何ができると思う?
ミッシェル:そうですね……私なら……
ミッシェル:……ただ、そばにいるだけだと思います。
ジェイド:……そばに、いるだけ……?
ミッシェル:はい。
ミッシェル:……その人の過去も、罪も、その償いも……その人の代わりに背負うことはできません。だってそれは、その人自身が紡いできた、その人の歩いてきた道だから。その人の望む贖罪を私が代行してしまったら、それは意味のないものになってしまう。
ミッシェル:だったら私は……その人の歩く道を、隣で一緒に歩くことしかできないんだと思います。
ミッシェル:せめて私にできるのは、誰に何を言われても、その人にとっての一番の味方でいること。その人を受け入れて、認めて、抱きしめてあげること。……それだけなのかもしれません。
ジェイド:……、……。
ミッシェル:これはあくまでも私の考えなので、お力になれているかどうかは分かりませんが……一番必要なのは、その人が大切だという気持ちがそこにあることではないかと、私は思います。
ジェイド:……その人が……大切……
ジェイド:そっか…………
ジェイド:……うん、なんか……すっきりしたかも。ありがとな。
ミッシェル:ふふ、お役に立てたなら良かったです。
ジェイド:……やっぱりさ、俺たちが似てるっていうの……なんとなく分かる気がする。
ジェイド:きっと、同じだよな、俺たち。
ミッシェル:そうですね……そんな気がします。
ジェイド:俺さ、一目惚れしちゃった人が……昔、殺し屋だったんだって。
ジェイド:でさ……その人に……俺たちは本当は出会うべきじゃなかったのかもしれないって、言われちゃって……
ジェイド:その言葉を否定したかったのに……上手い言葉が見つからなかったっていうか、なんて言えばいいのか分かんなくて……ていうかそもそも、一緒にいたいとか思っちまうのも、俺のワガママなんじゃないかとか……俺はあいつの邪魔になっちゃってるんじゃないかとか……
ジェイド:その言葉を否定することが、正しいことなのかって……なんか、自分に自信なくなっちまってさ。
ジェイド:だから……キミの考えが聞けて良かった。
ジェイド:……正しいか間違ってるか……もちろんそれも大事だけどさ。俺が一緒にいたい、このまま友達でいたい……その気持ちを、素直にぶつけても、いいのかな。
ミッシェル:その人が……あなたの全てを捨ててでも、守りたいと……一緒にいたいと思える人なのかどうか。それ次第ではないでしょうか。
ジェイド:……思えるよ。この気持ちは絶対変わらない。だから……
ミッシェル:……そうですね。それで、いいと思います。
ミッシェル:やっぱり、私たちは同じですね。私にも……それくらい大事に思う人が、いますから。
ジェイド:……そっか、同じか。
ジェイド:ハハ、だから初対面なのに、こんなに話しやすいのかな。
ミッシェル:ふふっ、そうかもしれませんね。
ジェイド:……お互いさ、なんていうか……上手くいくといいな。
ミッシェル:そうですね。きっと……大丈夫ですよ。
0:
0:
0:
0:その頃。
0:ルーカスとチェルシー、ロイド。
ルーカス:どこの誰だか知りませんけど……チェルシーさんよりは銃に慣れてるみたいですね。
ロイド:当たり前だよ、現役引退した奴と一緒にしないでほしいね。
チェルシー:……ほんと、なにこの状況……冷静に考えたら意味わかんないんだけど……
ロイド:そんな暇あるのかい?ほら来るよ、構えな。
チェルシー:言われなくても……分かってるわよッ……!
ルーカス:お……っと、危ない危ない。
0:チェルシーの弾を躱すルーカス。
ロイド:チッ……ちょこまかとよく逃げ回るねぇ……。
ルーカス:簡単に撃ち抜ける的じゃつまらないでしょ?それとも、あなた方には難易度が高すぎました?もう少し易しめにしてもいいですよ。
ロイド:へぇ、言ってくれるじゃないか。随分余裕だね。
ルーカス:……あなたも、同じですか?
ロイド:……何の話だい?
ルーカス:あなたもそこの彼女と同じ、愚かな人間なんでしょうかね。
ロイド:悪いけど、俺はめんどくさくて小難しい話は嫌いだよ。
ルーカス:あなたは今何のために銃を握ってるんですか?どうして僕に怒りを覚える?
ルーカス:チェルシーさんを、守るためですか?
ロイド:……。
ルーカス:あなたもきっと、返り血塗れの人間なんでしょう?……分かりますよ。あなたの一挙手一投足に、血の匂いがこびりついてる。
ルーカス:でもどこかで、赦しが欲しいから……目の前のチェルシーさんを守って、それを客観視して、自分は『善』の人間だって錯覚して……
ルーカス:あなたも、偽善に片足を突っ込んでる。違いますか?……少なくとも僕には、そう見えてますよ。
ロイド:ハハッ、そりゃあ面白い。俺が、この女を守る?……笑わせるなよ、有り得ないね。
ロイド:さっきも言ったろ、俺はただ自分の獲物を取られるのが気に食わないだけだ。
ロイド:それに俺は生憎と……『善』って言葉が嫌いなんだ。そんなもんに縋りたいとも、縋れるとも思ってないよ。
ロイド:だいたい、俺が今この女を守ったところで……一体誰がそんな俺を『赦す』っていうんだい?お前か、この女か、それとも天の上の神様とかいうやつか……はたまたどこの誰かもわからないやつなのか。
ロイド:いずれにせよ俺は……“俺のことを知りもしない人間”から与えられる赦しなんていらないんだよ。そんなもの意味がない。
ロイド:俺を赦してくれるのは、世界でたった一人だけだ。俺の何もかもを知っても、こんな俺でいいと言ってくれた、たった一人だけだよ。
ルーカス:へぇ、そうですか……。
ルーカス:……ハ、やっぱりくだらないな。結局形は違えど……同じじゃないですか。
ルーカス:本当に……反吐が出る。だから弱いんですよ、だから脆いんだ。
チェルシー:……でもそれが人間よ。
チェルシー:弱いのよ、脆いの。……完璧で間違いのない人間なんてきっといない。
チェルシー:愛とか優しさがなくちゃ生きていけない。だって、それがなくなっちゃった世界なんて……きっと、ものすごく寂しくて、しんどくて、耐えられないと思うから。
チェルシー:人間なんて本当は、ものすごく我儘で、自分勝手で、醜い生き物。……私も含めてね。
チェルシー:弱いから、脆いから、醜いから……それを埋める何かを、自分以外の誰かに求めてしまうのよ。……そうしていかなきゃ、生きていけないの。
ルーカス:……馬鹿馬鹿しいんですよ、そういうの。
ルーカス:弱い人間ほど群がって、傷を舐め合って、自分たちを美化して正当化するんです。……最後には結局、自分が一番かわいいくせにね。
ルーカス:それなら最初から一人でいる方が利口でしょう?……馬鹿に毒されて落ちぶれるなんて間抜けですよ。
ロイド:……だけどね。
ロイド:自分は弱くなんかないと過信して強がってる人間より、自分の弱さを認めた人間の方が、絶対に強い。
ロイド:つまりどういうことか分かるかい?……お前より、俺たちの方が上だってことだよ!
ルーカス:ぐぁッ……!?
0:ロイドの銃弾がルーカスの右腕を貫く。
ロイド:覚悟があるんだよ、こっちには。それはお前が嘲笑って踏み潰せるようなもんじゃない。
ルーカス:……チッ…………!!
ロイド:……終わりだよ。
ルーカス:……ぐッ……!?
0:膝をつきながらも銃を構えるルーカスだったが、ロイドがさらにルーカスの左腕を撃ち抜く。
ロイド:……両手使えなきゃ動けないだろ、諦めな。
ルーカス:……く、そ……ッ……
ロイド:ほら、お膳立てはしてやったよ。……あとは好きにしな。
チェルシー:……、……。
0:ゆっくりと、ルーカスの額に銃口を向けるチェルシー。
ルーカス:……は、殺すんですか、僕を。……いいですよ、もう……好きにしたらいい……
チェルシー:……私は……
ルーカス:……ほら、早くしろよ……引き金を引くだけですよ、簡単だ……
チェルシー:……私、は……
ルーカス:どうしたんですか、早く撃てばいいでしょう……!!
チェルシー:……嫌、よ。
チェルシー:…………私は、撃たない。
ロイド:……。
ルーカス:……は?何、言ってるんですか?
チェルシー:ここであんたを撃ったら……ジェイドに会わせる顔がなくなる。
チェルシー:もう殺しはしないって決めた。二度とジェイドに嘘はつかないし、隠し事もしない。だから……私はあんたを殺さない。
ルーカス:な……そんな、の……
チェルシー:……それともなによ、死にたいわけ?あんなに死ぬのは怖いって言ってたくせに。
ルーカス:……そんなわけ、ないじゃないですか。
チェルシー:だったらいいじゃない。……もうこれで終わりにしましょう。
チェルシー:言っとくけど、あんたに情けをかけてるわけじゃないわよ。……私は、自分のためにこの選択をするの。
ルーカス:……、……。
ロイド:……だってさ。
ロイド:まあ俺にも、お前を殺すまでの理由はないし……今日はここで失礼するよ。
ルーカス:……温いんだよ、どいつもこいつも……意味が分からない……
ルーカス:僕を生かしておいて……後悔しませんか……
ルーカス:あなたや、あなたの友人を……また傷付けるかもしれませんよ。
チェルシー:……そのときは、あんたをまたボッコボコにしてやるから。
チェルシー:それに……ジェイドのことは、もう二度と、誰にも傷付けさせない。
ルーカス:ああ……そうですか。
ルーカス:……そうやって……勝手に醜く生きればいいですよ……僕はあなた達みたいに、弱い生き方なんて御免だ。
チェルシー:あなたはあなたの好きなようにしたらいいわよ。私はもう迷わない。
チェルシー:でもね、一つだけ……これだけは言わせて。
ルーカス:……なんですか。
チェルシー:ひとりぼっちってね……結構、寂しいのよ。
チェルシー:強いだけじゃ、人って……生きていけないんだと思う。
ルーカス:……。
ルーカス:……僕には、分かりませんよ。
チェルシー:……そうよね。
0:そのまま去っていくチェルシーとロイド。
0:残されたルーカスが、独り言のように呟く。
ルーカス:……分からないですよ、何一つ……僕には……理解が…………
0:
0:
0:
0:病院にて。
ジェイド:俺、捨て子でさ。教会に引き取られて、そこで育ったんだけど……昔、神父様に言われたことがあるんだ。
ジェイド:『誰かに、愛を与えられる人になりなさい』って。
ミッシェル:……愛、ですか?
ジェイド:そう。……それは、自分の都合の良いときだけのものでも、見返りを求めるものでもなくて……どんなときでも、誰にでも平等に与えられるものなんだって。
ジェイド:俺はいろんな人に支えられて、助けられてきたからさ。いろんな人に、そういう愛を与えられる人になりたいなって。
ジェイド:でもまずは……自分の一番近くにいる、一番大事な人たちを、愛せるように。
ミッシェル:ふふ……すごく、素敵だと思います。
ミッシェル:……私は、今までいろんな人に、守られてばかりだったので。自分のことを自分で守れるように……そして、周りの人も守れるように、強くなりたいんです。
ジェイド:なんか、なんていうのかな……もう十分キミは、強いと思うよ。
ミッシェル:あなたも……とっても、愛に溢れた人だと思います。
ミッシェル:誰かを愛するって、そんなに簡単なことじゃないですけど……でもきっと、“愛”って、繋がっていくと思うから。
ミッシェル:綺麗事って言われちゃうかもしれませんけどね。
ジェイド:それでも、それが俺たちにできる唯一のことなら……誰になんて言われたって、貫くしかないよな。
ミッシェル:ええ、そう思います。愛し方だって、人それぞれですから。……私たちは私たちのやり方で、大切な人たちを、愛していけばいいんです、きっと。
ジェイド:あのさ……退院した後も、どっかで会えたらいいな、俺たち。
ミッシェル:ふふ、きっと会えますよ。こうしてお話できたのだって、何かの縁ですから。
ジェイド:そうだよな。
ジェイド:……よーし、早く怪我治して、二人とも無事に退院しようぜ!
ミッシェル:はい!
0:
0:
0:
0:歩いているチェルシーとロイド。
チェルシー:……ねえ。
ロイド:なんだい?
チェルシー:どういうつもりなの、あんた。
ロイド:なにが。
チェルシー:私のこと殺さないの?……自分の獲物、取られたくなかったんでしょ?
ロイド:あー……そんなこと言ったっけ?俺。
チェルシー:はぁ!?なにそれ!?
ロイド:いちいち自分の言ったことなんて覚えてないよ。
チェルシー:いやいや、つい数十分前のことくらい覚えてるでしょ!?
チェルシー:……ほんっとになんなのこいつ、やっぱり意味わかんない……
ロイド:……俺は。
チェルシー:……え?
ロイド:割と、そのときの感情で生きてる人間なんだよ。
チェルシー:……えっと、どういうこと?
ロイド:自分でも分からない。なんであの時、助太刀に入ろうと思ったのか。……でもなぜか、そうするべきだと思った。
ロイド:なんでだろうねぇ。……あんたになら、分かるのかな?
チェルシー:……、……。
チェルシー:……分かんないわよ、そんなの……あんたのことは、あんたにしか分からないでしょ。
ロイド:……ハハ、そうだね、そうだった。
ロイド:でもね、これだけは分かる。……あんたは、今まで俺が“獲物”として始末してきたどの人間とも違う。
ロイド:最初こそ、何を甘えたことを言ってるんだってムカついたけどね。……今はこう思うよ。
ロイド:俺も、あんたと同じだった。
チェルシー:……同じ……?
ロイド:誰に何を言われようと、愛とか善とか、そういう言葉は吐き気がするほど嫌いだ。だけど……“赦し”の意味は、きっと今なら分かる。
ロイド:あんたとは、出会うべくして出会ったのかもしれない。
チェルシー:……なに、それ。
ロイド:だから……俺にだってよく分からないって言ってるだろ。
ロイド:とにかく安心しなよ。あんたをここで殺すつもりはない。……あんたはあんたのやるべきことをやりなよ。
ロイド:ただ、いつかどこかで会ったときに、あんたがまた前みたいな腑抜けた面してたら……そのときは脳天ぶち抜いてやるかもしれないけどね。
ロイド:まあ精々頑張りなよ。
チェルシー:……あっそ、頑張るわよ。
チェルシー:でもきっと……もう会わない方がいいんでしょうね。
ロイド:……そうだね。
ロイド:じゃあ、俺はこの辺で。
0:チェルシーに背を向け歩き出すロイド。
チェルシー:あ、待って。
ロイド:なんだい。
チェルシー:えっと……なんていうか、その、いろいろあったけど。
チェルシー:……助けてくれて、ありがと。
ロイド:……別に、助けたわけじゃない。
チェルシー:なによ、素直じゃないわね。
ロイド:うるさいよ。……じゃあな。
0:
0:
0:
チェルシー:(N)きっと、何も変わっていない。
チェルシー:(N)私が偽善者であることも、過去の罪も……何一つ変わっていない。
チェルシー:(N)だけど……その自分の現実を、はっきりと知れたこと。そして、ずっとそばにいてくれた光に、気付けたこと。
チェルシー:(N)これから、何をどうすべきか。その正解が、きちんと見えたわけではないけど……少なくとも、今まで見たいに、自分を、周りを、騙し続けながら生きていくことは、もうないと思う。
チェルシー:(N)全部、受け入れて、背負って、認めて……そうやって生きていくって、決めたから。
0:
0:病院にて。
0:チェルシーが病室のドアを開ける。
0:二つ並んだベッドのうち手前のベッドに、まだ意識の戻らないジェイドが寝ている。
0:イスに腰掛けるチェルシー。
チェルシー:……ジェイド。
チェルシー:アデルも、あなたのこと心配してる。……お願いだから、早く目を覚まして。
チェルシー:このままあなたに会えなくなったりなんてしたら……私きっと、一生後悔するから……
チェルシー:お願い…………
ミッシェル:……きっと、大丈夫ですよ。
チェルシー:……え?
0:奥のベッドにいたミッシェルが、チェルシーに声をかける。
ミッシェル:あ……すみません、突然……。
ミッシェル:でも、あの……きっと、信じていれば、目を覚ましてくれると思います。だから……そんなに悲しそうにしないでください……。
ミッシェル:余計なお世話だったら、すみません……。
チェルシー:……。
チェルシー:ううん……全然そんなことない。
チェルシー:……そうよね、きっと、大丈夫。……私が信じてなきゃ……。
チェルシー:ありがとう。……ちょっと、前向きになれた。
ミッシェル:……良かったです。
ミッシェル:なんだか、見ていて放っておけなくなってしまって……突然声をかけてしまってすみません。
チェルシー:……ふふ、優しいのね。あなたも怪我で入院?
ミッシェル:ええ。多分もうすぐ……兄が、お見舞いに。
チェルシー:そっか……お大事にね。
ミッシェル:はい。……ありがとうございます。
チェルシー:……さてと。私はそろそろ行かないと。
チェルシー:早く退院できるといいわね。いろいろ、ありがと。
ミッシェル:いえ……こちらこそ。
0:チェルシーが病室を出て行く。
0:
0:
0:
0:病院の廊下を歩いていくチェルシー。
チェルシー:……(ため息)。
チェルシー:これから……どうしたらいいんだろ、私……
チェルシー:……ん?
0:ふと、向かい側から歩いてきた人物を見て、立ち止まる。
ロイド:……うわ、なんか見たことあると思ったら……
チェルシー:あんた、あのときの……!
ロイド:やあ久しぶり。……それじゃあ失礼。
0:チェルシーの横を通り過ぎてそのまま去っていこうとするロイド。
チェルシー:ちょ、待ちなさいよ。
ロイド:……なにかな。
チェルシー:こんなとこに何の用があんのよ、あんた。まさか誰か殺しに……
ロイド:……悪いけどここで銃を抜くつもりはないね。
チェルシー:……じゃあなんなのよ。
ロイド:……なにって……
ロイド:身内の見舞い。……何か問題でも?
チェルシー:あ……お見、舞い……
チェルシー:……えっと、その…………ごめん……
ロイド:……別に。
ロイド:あんたこそ何してるんだい?こんなとこで……そんな死にそうな、やつれた顔して。
チェルシー:……え、うそ、そんなひどい顔してる?私……
ロイド:かなりね。幽霊でも歩いてきたかと思ったよ。鏡見てきたらどうだい?
チェルシー:……。
ロイド:この前会ったときも、随分情けない顔した女だと思ったけど、今日はさらに輪をかけてひどいじゃないか。……よっぽど、何かあったらしい。
チェルシー:……。
チェルシー:……あんたの、言う通りだったのかも。
チェルシー:私の言ってることなんて、所詮寝言みたいなもので……綺麗事でしかなかったのかもしれない。
ロイド:……なんだい急に。
チェルシー:もうとっくに私の手は、どす黒く汚れてて……それをなかったことになんて、できるわけなくて……
チェルシー:……でも、償えるはずだって……そう、思ってた、けど……そんなに、簡単なことじゃ……なくて……
ロイド:……(小さくため息)。
ロイド:……そうやって下向いて震えてるうちは、何もできるわけないだろうね。
チェルシー:……ッ。
ロイド:……その程度の覚悟だったってことだろ、結局は。
ロイド:まあ……俺もどうこう言える立場じゃないけど。
チェルシー:……私……どうしたら、いいのか……
ロイド:そんなの……俺に聞かれたって分かんないよ。
ロイド:あんたが今、何をどうすべきなのかなんて、それはあんたが考えるしかないだろ。立ち止まってたって時間は止まってくれないよ。
0:そのまま立ち去っていくロイド。
チェルシー:……は、……
チェルシー:まさかあいつに……ド正論言われる日が来るなんて思わなかった……
チェルシー:……『時間は止まってくれない』……か。
チェルシー:……だったら………
0:
0:
0:
0:病室のドアを開けるロイド。
0:ベッドのミッシェルが微笑む。
ミッシェル:……あ、お兄様!
ロイド:……や、ミッシェル。具合はどうだい。
ミッシェル:もうすっかり元気ですよ。今すぐ退院しても大丈夫なくらいです!
ミッシェル:休んでいる期間があまりにも長いと体が鈍ってしまうので、できれば外で運動したいのですが……
ロイド:ハハ、その様子じゃもう心配なさそうだねぇ、安心したよ。
ロイド:だけど、動くのはもう少し我慢かな。無理して動いて傷が開いたら大変だろ。
ミッシェル:うぅ……そうですね……。
0:(少し間を置いて)
ロイド:……ミッシェル。
ミッシェル:なんですか?お兄様。
ロイド:……ごめんな。
ミッシェル:……え?
ロイド:お前にこんな怪我させたのも……もとはと言えば俺のせいだし。
ロイド:……お前のためなんて言って俺は……お前のこと傷付けてばっかりで……ろくでもない兄貴で、ごめんな。
ミッシェル:お兄様……
ロイド:俺が、道を踏み外すようなことしなきゃ……きっとお前が『こっち側』に巻き込まれることもなかったのに。
ロイド:……最初から、俺なんかがいなきゃこんな――
0:(ミッシェル、ロイドのセリフに被せる)
ミッシェル:お兄様。
ミッシェル:それ以上言ったら怒りますよ。
ロイド:……。
ミッシェル:これは、私自身の選択の結果です。……私は、自分が望んで『こっち側』に踏み込んだんです。
ミッシェル:……だって、強くなりたかったから。お兄様に守られてばかりじゃなくて、今度は私がお兄様を守れるくらいに強くなりたかったから。
ミッシェル:そして二度と……お兄様を裏切りたくなかったから。
ロイド:……ミッシェル……
ミッシェル:やっと、また会えたんですよ。もっと嬉しそうな顔してくださいな。
ミッシェル:今度はもう、離れませんし、絶対離しません。……私は、お兄様に生きていてほしい。
ミッシェル:だから……『自分がいなければ』なんて、もう言わないでください。
ミッシェル:お兄様がいたから、私がいるんです。私は誰になんと言われようと……お兄様の妹で良かったって、心の底からそう言えます。
ロイド:…………ハハ、……参ったな……
ロイド:お前には…………敵わないらしい。
ロイド:……昔からそうだ……底抜けに優しいね、お前は。
ミッシェル:ふふ、お兄様だって優しいです。
ロイド:俺は……優しくなんかない。
0:席を立つロイド。
ロイド:……また来るよ。今度はなにか、甘いものでも持ってくる。
ミッシェル:あ、私マカロンが食べたいです!
ロイド:ハハッ、マカロンね。分かった、買ってくるよ。
ロイド:……ミッシェル。
ミッシェル:はい?
ロイド:……ありがとう。
ミッシェル:……ふふっ。
ミッシェル:こちらこそ、ですよ。お兄様。
0:
0:
0:
0:某所にて。
0:イライラした様子でスマートフォンを操作するルーカス。
ルーカス:あーあーあ……本当に面倒なことになってますね。
ルーカス:さくっとデュアルバレットを殺って報酬貰って終わりと思ってたのに……なかなか上手くいかない。
ルーカス:スカーレットさんも一向に折り返しの電話をくれないし……どいつもこいつも勘弁してくださいよ全く……
ルーカス:どうしたもんですかねぇ、やっぱりデュアルバレットは二人まとめての方が……いやでも、一人ずつの方が負担は少ない……うーん……
ルーカス:ああ面倒だ面倒だ……
チェルシー:……あら、何かお悩み?話聞いてあげましょうか?
ルーカス:……。
0:表情を消して、ルーカスが振り返る。
0:ひらひらと手を振りながらチェルシーが立っている。
チェルシー:ふふ、この間はどうも。私のこと覚えてるかしら?
ルーカス:……おやおや、いつからお悩み相談室なんて始めたんです?
チェルシー:そりゃあ何でも屋だもの、お悩み相談でもなんでもお任せあれよ。
ルーカス:ハハ……それじゃあ一つ、僕の悩みも聞いてほしいんですけど……
0:銃口をチェルシーに向けるルーカス。
ルーカス:……どうやったらあなた死んでくれます?チェルシーさん。
チェルシー:そうねぇ……そもそも私、死ぬつもりないから無理。
0:同じく銃口を向けるチェルシー。
ルーカス:報酬金、欲しいんですよね。結構多額なので。あなたかアデルさんか、どっちかだけでも死んでくれません?
チェルシー:お金のためだったら平気で殺すのね、あなた。
ルーカス:あなたも同じだったんでしょうに。何を今さら善人ぶってるんだか。
チェルシー:……そうね。同じだった。……いえ、今だって何も変わってない。
チェルシー:私の頭の中にあるのは、いつだって自分のことばかりだもの。誰かのためなんて言って本当は、全部自分のためだった。自分のためでしか、なかった。
チェルシー:あんたの言う通りよ。……私は偽善者。私がやってたのは、ただの善人ごっこ。
チェルシー:勝手に勘違いして、勝手に悲劇のヒロインぶってただけ。
ルーカス:……それを認めて、どうします。大人しく死んでくれるんですか?
チェルシー:それは嫌。絶対嫌。
チェルシー:こんな私が……生きることにしがみつくなんて、おこがましいのかもしれないけど。
チェルシー:今度こそ、本当の意味での、贖罪を選びたい。……罪を背負って、私は生きなくちゃいけない。
チェルシー:でもその前に……ジェイドをあんな目に遭わせたあんたは許さない。あんたと決着をつけて……これで全部、終わらせるわ。
0:
0:
0:
0:その頃。
0:病室にて、ジェイドが目を覚ます。
ジェイド:……ん……
ジェイド:(……あれ、ここは……どこだ……?)
ジェイド:(俺は……たしか、チェルシーを助けようとして……撃たれて……)
ジェイド:……もしかして俺って……死んだのか!?
ジェイド:あいっ……ててててて……
0:ベッドから跳ね起きるも、痛んだ腹を押さえるジェイド。
ミッシェル:……あ、気が付いたんですね!!
ジェイド:……え?
0:横のベッドにいたミッシェルがジェイドを見ている。
ミッシェル:良かったぁ、目が覚めて……
ジェイド:へ、……あ……えっと……
ジェイド:……い、生きてんのか……俺……
ミッシェル:はい!
ジェイド:ここ、天国とかじゃないよな!?
ミッシェル:はい、病院です!
ジェイド:よ……良かったぁ……俺……生きてるぅ……
ジェイド:ありがとう、なんかよく分かんないけどとりあえずありがとう!
ミッシェル:ふふ……あなたのお友達も、すっごく心配されてましたよ。
ジェイド:友達……?
ミッシェル:女性の方でした。さっき、あなたのお見舞いに来ていらしたので、ちょっとだけお話して……
ジェイド:……チェルシー、か……
ジェイド:……。
ミッシェル:……どうかされました?
ジェイド:あ……いや……ちょっと、いろいろあって……
ジェイド:……。
ジェイド:……俺、さ。……どうしたらいいのかなぁって。
ジェイド:友達なのに……何の役にも立てなくてさ……足引っ張ってばっかりっていうか……あいつらが抱えてるものなんて全然知らなくて……一緒に背負ってやることだって……
ミッシェル:……。
ジェイド:あ、ごめん……いきなりこんな話されても困るよな……
ミッシェル:……いえ。
ミッシェル:私で良ければ……お話、聞かせてください。
ジェイド:……え?
ミッシェル:もしかしたら、私たちは……ちょっと、似てるかもしれません。
0:
0:
0:
0:その頃。
0:チェルシーとルーカス、銃撃戦。
ルーカス:……ハハ、随分と生温い銃弾だ。本当にデュアルバレットですか?あなた。
チェルシー:……だった、の方が正しいけどね。
ルーカス:人間って恐ろしいですよねぇ。どんなに手に馴染んでいたものでも、しばらく触れないと感覚を忘れてしまう。
チェルシー:……ほんとそう。だからぶっちゃけ、怖いのよ。引き金を引く感覚が……!
ルーカス:お……っと、危ない。
0:チェルシーの銃弾を躱すルーカス。
ルーカス:まあでも……鈍っていてくれる方がありがたいですけどね。さすがに、現役の頃と実力の変わらないあなた方を敵にして、生きて帰れると思いませんから。
チェルシー:……随分臆病ね。自分は躊躇なく殺すくせに、自分が殺されるのは怖いわけ?
ルーカス:当たり前じゃないですか。痛いのは嫌だし、死ぬのは怖い。人間なんてそんなもんですよ。
ルーカス:自分のことが一番かわいくて、一番大事なんです。……あなたもさっき言ってたじゃないですか。自分のことばかりって。他人のために自分を犠牲にするなんて愚かでしょう?
チェルシー:……そうね。でも私は、そんな……あんたのいう“愚か”な人に、救われた。
チェルシー:自分のことばかりで、自分が一番かわいくて……自分勝手な理由で、私はいつも周りの人を振り回してた。
チェルシー:でも、そんな私を照らしてくれた彼は……本当に心配になるくらいにお人好しで、優しくて、太陽みたいに眩しくてあったかくて。自分を犠牲にしても、周りの人の笑顔のために頑張っちゃうような、そんな人。
チェルシー:きっと彼は……こんな醜い私の、お腹に抱え込んだ闇ごと、許して受け入れてくれちゃうんだと思う。
チェルシー:……だから、そんな彼に、噓偽りで固めまくった自分でしか向き合わなかった私が……友達だなんて言いながら、何一つ見せてなかった自分が、今一番許せないし……そんな彼を傷付けたあんたも許せない。
チェルシー:ずっと裏切り続けてた。……もう同じ過ちは繰り返さない。
ルーカス:いいですねぇ、そういうの。……ほんと、面白過ぎて泣けてきます。
ルーカス:馬鹿は馬鹿同士でよろしくやっててくださいよ。僕はあなたたちみたいな愚かな生き方はしたくないです。
ルーカス:自分と他人を天秤にかければ、誰だって自分の方が大切だと思うのは当然の心理ですよ。自分が安全に生きるために他人を蹴落とすのが人間ってもんでしょう?
ルーカス:そこに、倫理とか人情とか、そういう教科書に書いてあるような、俗に言う“正論”なんて必要ないんですよ。
ルーカス:だって、そんなもんに縋りつく人間ほど、真っ先に自分を滅ぼすから。……ここはそういう世界でしょう。
ルーカス:他人に足を引っ張られて自滅なんて、僕は絶対に嫌です。自分の世話さえ自分でできればあとはどうでもいい。
チェルシー:きっと、それが賢い生き方なんでしょうね。
チェルシー:でも、結局人間って弱いから。……誰かと繋がりたいって思ってしまう。ときに、自分よりその誰かを優先しても、よ。
ルーカス:それが美徳だなんて思い込んで、愛とか優しさとかっていうそれっぽい名前を付けて……やってることは仲良しごっこですよね。
ルーカス:本当に……くだらない。
チェルシー:……ッ……!?
0:ルーカスの銃弾がチェルシーの手を掠めていく。
0:そのまま銃がチェルシーの手から零れ落ち、膝をつくチェルシー。
ルーカス:結局それって、自己満足の世界じゃないですか。自分を犠牲にしても他人を守っている自分……それを客観視して悦に浸る。
ルーカス:だからどいつもこいつも偽善者だって言うんですよ。
0:チェルシーの額に銃口を突き付けるルーカス。
ルーカス:あなたも、あなたを庇って死にかけたあの男も、可哀想な程に愚かだ。デュアルバレットが、こんな偽善だらけの社会に毒されて落ちぶれたかと思うと……哀れでなりませんね。
ルーカス:……さ、お別れしましょうか、チェルシーさん。
ロイド:……待ちな。
ルーカス:……!?
0:いつの間にか、ルーカスの背後に現れたロイド。
0:ルーカスの後頭部に銃口を突き付ける。
ロイド:悪いけど……そいつを殺っていいのは俺だけだ。余所者が手出すんじゃない。
チェルシー:……ッ!
チェルシー:あんた、なんで……!?
ロイド:さぁね。……第三者に勝手な真似されるとどうにも腹が立つ。
ルーカス:……誰ですか、あなた。
ロイド:『これから死ぬ人間に、名乗ったところで意味がないだろ』?
ロイド:……ハハ、一回言ってみたかったんだよねぇ、これ。
ルーカス:もしかして……僕今、ケンカ売られてます?
ルーカス:あなたこそ余所者でしょう。勝手に入ってこないでくれません?大事なところなんですよ、今。
ロイド:そんなの知ったこっちゃないよ。とにかく離れな、そいつは俺が殺る。
ルーカス:はい分かりましたどうぞどうぞ……って、素直に僕が引き下がるとでもお思いで?
ルーカス:こっちも仕事なんですよ。報酬金がかかってるんです。横取りされたらたまったもんじゃないですよ。
ロイド:だからそんなの知らねぇって言ってんだろ、いいからどけよ。
ルーカス:ハハ、怖いなぁ。……ええいいですよ、それならこうしましょう。
0:ロイドに向けて銃口を構えるルーカス。
ルーカス:……あなたも殺ってしまえばいい。弾の無駄にはなりますけども。
ロイド:舐められたもんだねぇ。……お前ごときが俺に敵うと思うかい?
ルーカス:……僕ね、今とっても機嫌が悪いんですよ。計画通りになかなか進まないわ戯言を延々聞かされるわ邪魔は入るわで……ああもう本当にかったるい。
ルーカス:弾が無駄になろうとなんだろうと……このイライラを鎮めるためなら惜しくはないですね。
ロイド:ハハ、そうかい。じゃあ勝手にキレてろよ。
ロイド:……で?あんたはいつまでそこに座り込んでるつもりだい?
チェルシー:あ、……
ロイド:せっかく助太刀に入ってやるって言ってんだから立ちなよ。
チェルシー:……敵なんだか味方なんだか分かんないわよ、あんた……
ロイド:たまにはいいんじゃないかい?こういうのもさ。せっかくだ、楽しもうよ。
チェルシー:……(ため息)。
0:チェルシー、銃を拾い立ち上がると、ロイドの隣に並んで立つ。
チェルシー:まさか……こんな日が来ると思わなかった。
ロイド:足は引っ張らないでくれよ。
チェルシー:うるさいわね、その言葉そのまま返してあげるわよ。
チェルシー:……こんなの、今だけかもしれないけど……頼りにしてるから。
ロイド:上等だ。……さあ、やろうか。
0:
0:
0:
0:病室にて。
ジェイド:……似てる?俺と、キミが?
ミッシェル:……ええ。なんとなーく、ですけど……そんな気がします。
ジェイド:……そっか。
ジェイド:……。
0:(少し間を置いてから、ジェイドが話し始める)
ジェイド:……あのさ。もしも、だよ。
ジェイド:自分の身近な人が……殺し屋だったとしたら、どう思う……っていうか、どうする?
ミッシェル:……殺し屋……ですか。
ジェイド:あ、その……もしもの話だよ。本当にそうってわけじゃ……あ、いや、えっと……
ジェイド:……とにかく、キミだったらどうする?
ミッシェル:どうするか、というのは……受け入れられるか、受け入れられないか、ということですか?
ジェイド:……そういう、ことかな……
ミッシェル:でしたら、私は…………はっきりと、どうするかは言えません。きっと、相手によると思います。
ミッシェル:もしもその人が、自分にとって本当に本当に大切で、どんなものを抱えていたとしても、それも含めて全て抱きしめられる覚悟があるなら……私は、その人を受け入れられると思います。
ミッシェル:世間一般的な善悪の概念を無視してでも……その人が自分にとって大切なら、きっと……
ジェイド:……そ……っか……。
ミッシェル:……すみません、あまり答えになっていなかったかもしれませんね……。
ジェイド:いや……全然そんなことないよ。
ジェイド:……じゃあさ、もういっこ聞いてもいい?その人のために、何をどうしてあげればいいと思う?
ジェイド:罪を償うことを望むその人のために……自分の過去を、あるいは自分の存在すら後悔してるかもしれないその人のために……何ができると思う?
ミッシェル:そうですね……私なら……
ミッシェル:……ただ、そばにいるだけだと思います。
ジェイド:……そばに、いるだけ……?
ミッシェル:はい。
ミッシェル:……その人の過去も、罪も、その償いも……その人の代わりに背負うことはできません。だってそれは、その人自身が紡いできた、その人の歩いてきた道だから。その人の望む贖罪を私が代行してしまったら、それは意味のないものになってしまう。
ミッシェル:だったら私は……その人の歩く道を、隣で一緒に歩くことしかできないんだと思います。
ミッシェル:せめて私にできるのは、誰に何を言われても、その人にとっての一番の味方でいること。その人を受け入れて、認めて、抱きしめてあげること。……それだけなのかもしれません。
ジェイド:……、……。
ミッシェル:これはあくまでも私の考えなので、お力になれているかどうかは分かりませんが……一番必要なのは、その人が大切だという気持ちがそこにあることではないかと、私は思います。
ジェイド:……その人が……大切……
ジェイド:そっか…………
ジェイド:……うん、なんか……すっきりしたかも。ありがとな。
ミッシェル:ふふ、お役に立てたなら良かったです。
ジェイド:……やっぱりさ、俺たちが似てるっていうの……なんとなく分かる気がする。
ジェイド:きっと、同じだよな、俺たち。
ミッシェル:そうですね……そんな気がします。
ジェイド:俺さ、一目惚れしちゃった人が……昔、殺し屋だったんだって。
ジェイド:でさ……その人に……俺たちは本当は出会うべきじゃなかったのかもしれないって、言われちゃって……
ジェイド:その言葉を否定したかったのに……上手い言葉が見つからなかったっていうか、なんて言えばいいのか分かんなくて……ていうかそもそも、一緒にいたいとか思っちまうのも、俺のワガママなんじゃないかとか……俺はあいつの邪魔になっちゃってるんじゃないかとか……
ジェイド:その言葉を否定することが、正しいことなのかって……なんか、自分に自信なくなっちまってさ。
ジェイド:だから……キミの考えが聞けて良かった。
ジェイド:……正しいか間違ってるか……もちろんそれも大事だけどさ。俺が一緒にいたい、このまま友達でいたい……その気持ちを、素直にぶつけても、いいのかな。
ミッシェル:その人が……あなたの全てを捨ててでも、守りたいと……一緒にいたいと思える人なのかどうか。それ次第ではないでしょうか。
ジェイド:……思えるよ。この気持ちは絶対変わらない。だから……
ミッシェル:……そうですね。それで、いいと思います。
ミッシェル:やっぱり、私たちは同じですね。私にも……それくらい大事に思う人が、いますから。
ジェイド:……そっか、同じか。
ジェイド:ハハ、だから初対面なのに、こんなに話しやすいのかな。
ミッシェル:ふふっ、そうかもしれませんね。
ジェイド:……お互いさ、なんていうか……上手くいくといいな。
ミッシェル:そうですね。きっと……大丈夫ですよ。
0:
0:
0:
0:その頃。
0:ルーカスとチェルシー、ロイド。
ルーカス:どこの誰だか知りませんけど……チェルシーさんよりは銃に慣れてるみたいですね。
ロイド:当たり前だよ、現役引退した奴と一緒にしないでほしいね。
チェルシー:……ほんと、なにこの状況……冷静に考えたら意味わかんないんだけど……
ロイド:そんな暇あるのかい?ほら来るよ、構えな。
チェルシー:言われなくても……分かってるわよッ……!
ルーカス:お……っと、危ない危ない。
0:チェルシーの弾を躱すルーカス。
ロイド:チッ……ちょこまかとよく逃げ回るねぇ……。
ルーカス:簡単に撃ち抜ける的じゃつまらないでしょ?それとも、あなた方には難易度が高すぎました?もう少し易しめにしてもいいですよ。
ロイド:へぇ、言ってくれるじゃないか。随分余裕だね。
ルーカス:……あなたも、同じですか?
ロイド:……何の話だい?
ルーカス:あなたもそこの彼女と同じ、愚かな人間なんでしょうかね。
ロイド:悪いけど、俺はめんどくさくて小難しい話は嫌いだよ。
ルーカス:あなたは今何のために銃を握ってるんですか?どうして僕に怒りを覚える?
ルーカス:チェルシーさんを、守るためですか?
ロイド:……。
ルーカス:あなたもきっと、返り血塗れの人間なんでしょう?……分かりますよ。あなたの一挙手一投足に、血の匂いがこびりついてる。
ルーカス:でもどこかで、赦しが欲しいから……目の前のチェルシーさんを守って、それを客観視して、自分は『善』の人間だって錯覚して……
ルーカス:あなたも、偽善に片足を突っ込んでる。違いますか?……少なくとも僕には、そう見えてますよ。
ロイド:ハハッ、そりゃあ面白い。俺が、この女を守る?……笑わせるなよ、有り得ないね。
ロイド:さっきも言ったろ、俺はただ自分の獲物を取られるのが気に食わないだけだ。
ロイド:それに俺は生憎と……『善』って言葉が嫌いなんだ。そんなもんに縋りたいとも、縋れるとも思ってないよ。
ロイド:だいたい、俺が今この女を守ったところで……一体誰がそんな俺を『赦す』っていうんだい?お前か、この女か、それとも天の上の神様とかいうやつか……はたまたどこの誰かもわからないやつなのか。
ロイド:いずれにせよ俺は……“俺のことを知りもしない人間”から与えられる赦しなんていらないんだよ。そんなもの意味がない。
ロイド:俺を赦してくれるのは、世界でたった一人だけだ。俺の何もかもを知っても、こんな俺でいいと言ってくれた、たった一人だけだよ。
ルーカス:へぇ、そうですか……。
ルーカス:……ハ、やっぱりくだらないな。結局形は違えど……同じじゃないですか。
ルーカス:本当に……反吐が出る。だから弱いんですよ、だから脆いんだ。
チェルシー:……でもそれが人間よ。
チェルシー:弱いのよ、脆いの。……完璧で間違いのない人間なんてきっといない。
チェルシー:愛とか優しさがなくちゃ生きていけない。だって、それがなくなっちゃった世界なんて……きっと、ものすごく寂しくて、しんどくて、耐えられないと思うから。
チェルシー:人間なんて本当は、ものすごく我儘で、自分勝手で、醜い生き物。……私も含めてね。
チェルシー:弱いから、脆いから、醜いから……それを埋める何かを、自分以外の誰かに求めてしまうのよ。……そうしていかなきゃ、生きていけないの。
ルーカス:……馬鹿馬鹿しいんですよ、そういうの。
ルーカス:弱い人間ほど群がって、傷を舐め合って、自分たちを美化して正当化するんです。……最後には結局、自分が一番かわいいくせにね。
ルーカス:それなら最初から一人でいる方が利口でしょう?……馬鹿に毒されて落ちぶれるなんて間抜けですよ。
ロイド:……だけどね。
ロイド:自分は弱くなんかないと過信して強がってる人間より、自分の弱さを認めた人間の方が、絶対に強い。
ロイド:つまりどういうことか分かるかい?……お前より、俺たちの方が上だってことだよ!
ルーカス:ぐぁッ……!?
0:ロイドの銃弾がルーカスの右腕を貫く。
ロイド:覚悟があるんだよ、こっちには。それはお前が嘲笑って踏み潰せるようなもんじゃない。
ルーカス:……チッ…………!!
ロイド:……終わりだよ。
ルーカス:……ぐッ……!?
0:膝をつきながらも銃を構えるルーカスだったが、ロイドがさらにルーカスの左腕を撃ち抜く。
ロイド:……両手使えなきゃ動けないだろ、諦めな。
ルーカス:……く、そ……ッ……
ロイド:ほら、お膳立てはしてやったよ。……あとは好きにしな。
チェルシー:……、……。
0:ゆっくりと、ルーカスの額に銃口を向けるチェルシー。
ルーカス:……は、殺すんですか、僕を。……いいですよ、もう……好きにしたらいい……
チェルシー:……私は……
ルーカス:……ほら、早くしろよ……引き金を引くだけですよ、簡単だ……
チェルシー:……私、は……
ルーカス:どうしたんですか、早く撃てばいいでしょう……!!
チェルシー:……嫌、よ。
チェルシー:…………私は、撃たない。
ロイド:……。
ルーカス:……は?何、言ってるんですか?
チェルシー:ここであんたを撃ったら……ジェイドに会わせる顔がなくなる。
チェルシー:もう殺しはしないって決めた。二度とジェイドに嘘はつかないし、隠し事もしない。だから……私はあんたを殺さない。
ルーカス:な……そんな、の……
チェルシー:……それともなによ、死にたいわけ?あんなに死ぬのは怖いって言ってたくせに。
ルーカス:……そんなわけ、ないじゃないですか。
チェルシー:だったらいいじゃない。……もうこれで終わりにしましょう。
チェルシー:言っとくけど、あんたに情けをかけてるわけじゃないわよ。……私は、自分のためにこの選択をするの。
ルーカス:……、……。
ロイド:……だってさ。
ロイド:まあ俺にも、お前を殺すまでの理由はないし……今日はここで失礼するよ。
ルーカス:……温いんだよ、どいつもこいつも……意味が分からない……
ルーカス:僕を生かしておいて……後悔しませんか……
ルーカス:あなたや、あなたの友人を……また傷付けるかもしれませんよ。
チェルシー:……そのときは、あんたをまたボッコボコにしてやるから。
チェルシー:それに……ジェイドのことは、もう二度と、誰にも傷付けさせない。
ルーカス:ああ……そうですか。
ルーカス:……そうやって……勝手に醜く生きればいいですよ……僕はあなた達みたいに、弱い生き方なんて御免だ。
チェルシー:あなたはあなたの好きなようにしたらいいわよ。私はもう迷わない。
チェルシー:でもね、一つだけ……これだけは言わせて。
ルーカス:……なんですか。
チェルシー:ひとりぼっちってね……結構、寂しいのよ。
チェルシー:強いだけじゃ、人って……生きていけないんだと思う。
ルーカス:……。
ルーカス:……僕には、分かりませんよ。
チェルシー:……そうよね。
0:そのまま去っていくチェルシーとロイド。
0:残されたルーカスが、独り言のように呟く。
ルーカス:……分からないですよ、何一つ……僕には……理解が…………
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0:病院にて。
ジェイド:俺、捨て子でさ。教会に引き取られて、そこで育ったんだけど……昔、神父様に言われたことがあるんだ。
ジェイド:『誰かに、愛を与えられる人になりなさい』って。
ミッシェル:……愛、ですか?
ジェイド:そう。……それは、自分の都合の良いときだけのものでも、見返りを求めるものでもなくて……どんなときでも、誰にでも平等に与えられるものなんだって。
ジェイド:俺はいろんな人に支えられて、助けられてきたからさ。いろんな人に、そういう愛を与えられる人になりたいなって。
ジェイド:でもまずは……自分の一番近くにいる、一番大事な人たちを、愛せるように。
ミッシェル:ふふ……すごく、素敵だと思います。
ミッシェル:……私は、今までいろんな人に、守られてばかりだったので。自分のことを自分で守れるように……そして、周りの人も守れるように、強くなりたいんです。
ジェイド:なんか、なんていうのかな……もう十分キミは、強いと思うよ。
ミッシェル:あなたも……とっても、愛に溢れた人だと思います。
ミッシェル:誰かを愛するって、そんなに簡単なことじゃないですけど……でもきっと、“愛”って、繋がっていくと思うから。
ミッシェル:綺麗事って言われちゃうかもしれませんけどね。
ジェイド:それでも、それが俺たちにできる唯一のことなら……誰になんて言われたって、貫くしかないよな。
ミッシェル:ええ、そう思います。愛し方だって、人それぞれですから。……私たちは私たちのやり方で、大切な人たちを、愛していけばいいんです、きっと。
ジェイド:あのさ……退院した後も、どっかで会えたらいいな、俺たち。
ミッシェル:ふふ、きっと会えますよ。こうしてお話できたのだって、何かの縁ですから。
ジェイド:そうだよな。
ジェイド:……よーし、早く怪我治して、二人とも無事に退院しようぜ!
ミッシェル:はい!
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0:歩いているチェルシーとロイド。
チェルシー:……ねえ。
ロイド:なんだい?
チェルシー:どういうつもりなの、あんた。
ロイド:なにが。
チェルシー:私のこと殺さないの?……自分の獲物、取られたくなかったんでしょ?
ロイド:あー……そんなこと言ったっけ?俺。
チェルシー:はぁ!?なにそれ!?
ロイド:いちいち自分の言ったことなんて覚えてないよ。
チェルシー:いやいや、つい数十分前のことくらい覚えてるでしょ!?
チェルシー:……ほんっとになんなのこいつ、やっぱり意味わかんない……
ロイド:……俺は。
チェルシー:……え?
ロイド:割と、そのときの感情で生きてる人間なんだよ。
チェルシー:……えっと、どういうこと?
ロイド:自分でも分からない。なんであの時、助太刀に入ろうと思ったのか。……でもなぜか、そうするべきだと思った。
ロイド:なんでだろうねぇ。……あんたになら、分かるのかな?
チェルシー:……、……。
チェルシー:……分かんないわよ、そんなの……あんたのことは、あんたにしか分からないでしょ。
ロイド:……ハハ、そうだね、そうだった。
ロイド:でもね、これだけは分かる。……あんたは、今まで俺が“獲物”として始末してきたどの人間とも違う。
ロイド:最初こそ、何を甘えたことを言ってるんだってムカついたけどね。……今はこう思うよ。
ロイド:俺も、あんたと同じだった。
チェルシー:……同じ……?
ロイド:誰に何を言われようと、愛とか善とか、そういう言葉は吐き気がするほど嫌いだ。だけど……“赦し”の意味は、きっと今なら分かる。
ロイド:あんたとは、出会うべくして出会ったのかもしれない。
チェルシー:……なに、それ。
ロイド:だから……俺にだってよく分からないって言ってるだろ。
ロイド:とにかく安心しなよ。あんたをここで殺すつもりはない。……あんたはあんたのやるべきことをやりなよ。
ロイド:ただ、いつかどこかで会ったときに、あんたがまた前みたいな腑抜けた面してたら……そのときは脳天ぶち抜いてやるかもしれないけどね。
ロイド:まあ精々頑張りなよ。
チェルシー:……あっそ、頑張るわよ。
チェルシー:でもきっと……もう会わない方がいいんでしょうね。
ロイド:……そうだね。
ロイド:じゃあ、俺はこの辺で。
0:チェルシーに背を向け歩き出すロイド。
チェルシー:あ、待って。
ロイド:なんだい。
チェルシー:えっと……なんていうか、その、いろいろあったけど。
チェルシー:……助けてくれて、ありがと。
ロイド:……別に、助けたわけじゃない。
チェルシー:なによ、素直じゃないわね。
ロイド:うるさいよ。……じゃあな。
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チェルシー:(N)きっと、何も変わっていない。
チェルシー:(N)私が偽善者であることも、過去の罪も……何一つ変わっていない。
チェルシー:(N)だけど……その自分の現実を、はっきりと知れたこと。そして、ずっとそばにいてくれた光に、気付けたこと。
チェルシー:(N)これから、何をどうすべきか。その正解が、きちんと見えたわけではないけど……少なくとも、今まで見たいに、自分を、周りを、騙し続けながら生きていくことは、もうないと思う。
チェルシー:(N)全部、受け入れて、背負って、認めて……そうやって生きていくって、決めたから。
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