台本概要
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タイトル | 忘却のレプリカント。 |
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作者名 | すばら (@kou0204hei) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 70 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
長尺ダークファンタジー。叫びます、人外います。分岐します。詳しくは本篇をご参照ください。進行上、兼ね役が御座います。 翳→黒ローブの男→ラムダ→燈の分身(実態は悪魔ベルフェゴール。人外ではなく、人語を話します。一部を除いては。) 燈→グランドール(燈のもう一つの意識体、本文に記載あり。)→アスモデウス(人外、普通に演じるのがキツかったら、括弧の文字を読んでください。)→ベルゼブブ(人外、以下同文。) ⚠︎エンディングの分岐については近いうちにアップします⚠︎ 159 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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翳 | 男 | 181 | 普段はクールだが、戦闘になると豹変。愛用武器、魔剣タナトス。燈の恋人。30歳。 |
燈 | 女 | 224 | 面倒見が良く、とても頭の切れる聡明な女性。27歳。稀に無邪気になる一面も。人工肉体生成師の資格を持っている。愛用武器は治癒能力を付与したダガー。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:豊かな自然に囲まれた街、アルザース。その中心部に住む、若き二人。
翳:「第1界、歪な事象。」
燈:「もう、またテレビ付けっぱなしで寝てる!…翳!起きなさいー!!」
翳:「うおあ!?何だ、朝っぱらから騒がしい奴だな。起こすなら、起こすでもうちょっと静かに…」
燈:「その後に続くのは静かに起こしてくれっ!でしょ?言っとくけど、私はあなたの都合のいい召使いじゃないからね?」
翳:「ぐっ!わ、分かったから、その手に握ったアイスピックを離してくれ!物騒過ぎる。」
燈:「はぁ?これで翳を刺して人生を棒に振りたくなんてないわ。何をそんなに怯えているのよ?」
翳:「じゃあ、何でそんな物持ってんだよ?」
燈:「え?あ、ごめんなさい。まだ、言ってなかったわね。昨日、私の勤めている氷霊山で妙な物が掘り出されて。貰い手がいなかったかは、私が代わりに受け取ったんだけど。」
翳:「妙な物?」
燈:「これなんだけど…」
翳:「ん、この氷の中に入ってるのは何だ?目玉のように見えなくもないが。」
燈:「そう、翳も気になるよね?」
翳:「ああ、その鋭利なアイスピックを持ってた理由はそういう訳か。ん?待てよ?何で、氷が溶けてないんだ?!」
燈:「そこなの。私も不思議に思ってる。気温が25度もある蒸し暑い室内なのに、昨日発見した時とまったく形も変わらず、カチコチに凍ったままなのよ!」
翳:「んーー特殊な氷なのか?例えば人の力で人工的に作られた氷とか。」
燈:「分からない。でも、答えは”この中”にあると思うの。」
翳:「よし、割ってみるか。燈、お前は下がってろ。」
燈:「え?!大丈夫?昨夜、魔物に噛み付かれた右腕の傷が今でも疼くんじゃないの?」
翳:「ああ。少しヒリヒリするけど、村長から貰った薬のお陰で然程痛みは感じない。」
燈:「そう。無理はしないでね?…はい、アイスピック。」
翳:「ああ、ありがとう!いくぞ?」
燈:「うん。」
翳:「はぁーあ!せぇい!」
0:翳は神速の如き、アイスピックで氷を砕く。
燈:「凄い…氷が一瞬で砕けて、中身が露わになった!」
翳:「ふぅ、いい汗かいた。」
燈:「翳、これ何かな?マジマジと見ると気持ち悪い。」
翳:「ん、これは…不死の瞳?」
燈:「翳、これが何か分かるの?」
翳:「ああ、昔な親父に聞いた事があるんだ。これは、不死の呪具。そのパーツの目。通称、不死の瞳だよ。」
燈:「不死の呪具?じゃあ、この不死の瞳はパーツの一種に過ぎないって事?」
翳:「不死の呪具は全部で4種類。そこにある、不死の瞳。不死の鼻。不死の胴体。不死の脚。」
燈:「その4つ揃ったらどうなるの?まさか、文字通り…」
翳:「燈、お前が想像した通りだ。全て揃った暁には不死の肉体を得れるだろう。」
燈:「翳、私は永遠の生命なんて欲しくないよ?人はいつか、必ず死ぬ。それが世の摂理でしょ?」
翳:「…」
燈:「翳?」
翳:「ああ、そうだな。不死など望んだら世界は歪んでしまう。だけど、何で氷霊山にこんな物が…?」
燈:「その事なんだけど、アイツが来てからなの。氷霊山に異変が起きたのは。」
翳:「あいつ?」
燈:「うん、名前はラムダ。服装、喋り方からして私達とは別の世界からやってきた可能性があるわ。」
翳:「別の世界?異星人か。」
燈:「ええ。時折、異国の言語で何やら、ブツブツと呪文みたいに唱えてる事があるの。」
翳:「ふむ、それは気味が悪いな。」
燈:「とてもね。あいつと仕事をしている時は息が詰まりそうな思いよ!…ある日、氷霊山に見た事のない魔物が出現したの。」
翳:「魔物だと?トロールや、ゴブリンの類じゃなくてか?」
燈:「ううん、見た目は人の形をしているんだけど、機械的?と言うか、まるで人形のようなの。」
翳:「人形…封印されたはずの不死の呪具と何か関係があるのか?或いは…」
燈:「ねぇ翳、あなたにお願いしたい事があるの。」
翳:「改まってどうした?」
燈:「氷霊山の異変について、一緒に調べて欲しい。勿論、危険なのは承知の上よ!でも、このままじゃ…」
翳:「働きにくいし、悪化したら取り返しが付かなくなってしまうから…大方、こんなところか?」
燈:「凄い!まるで、私の心を読めるみたいに正確に当てていくね。」
翳:「いや、読みやすい気質をしてるからな。…いいぜ、付き合ってやる。」
燈:「翳、ありがとう!」
翳:「明日の出発は早いだろうから、もう寝るぞ?」
燈:「翳、ごめんなさい…もう一つだけワガママを聞いて欲しいの。」
翳:「……気が済むまで隣にいろ。」
燈:「…嬉しい。」
翳:「…」
0:翌朝。
燈:「第2界、迫り来る脅威。」
翳:「燈、お早う。」
燈:「んんう?…今、何時?」
翳:「朝の6時だな。気が済むまでとは言ったが、まさかお前と朝を迎える事になるなんてな。」
燈:「ごめんなさい…迷惑だった……?」
翳:「そんな事はない。そもそも迷惑なら、即追い出してる。」
燈:「あはは、翳らしいね。素直で不器用なところが好き。」
翳:「は?こんな朝から何吐かしてんだ。恥ずかしいヤツだな。」
燈:「ふふ、照れてる姿も追加しとこう。」
翳:「…やめろ。……さて、着替えて向かうか。」
燈:「うん。」
0:二人は正装に着替える。
翳:「あっちで何があるか分からない。念の為、武器を装備しておかなくちゃな。」
燈:「翳、その剣ってカッコいいよね。何て名前だっけ?」
翳:「魔剣タナトス。死を司る剣と称されている一級品だ。燈、試しに握ってみるか?」
燈:「え、遠慮しておくわ!私も護身用にダガーを持っていこうかな。」
翳:「燈のダガーは確か、治癒能力が備わっていたよな。薬草を切らしている、今の状況には有難い。」
燈:「そうそう!よく覚えてるね。2回しか翳の前では使ってないのに。」
翳:「その2回とも衝撃的な事柄だったからな。一つ目は、病床に臥していた、母親の件。もう二つ目は元恋人の錯乱した慎の件か。」
燈:「…っ!本当に凄い。まるで、自分が体験したかの様に詳細を話せるなんて…」
翳:「慎は兎も角、母親の件は申し訳ない。俺の腕がもっと良ければ…」
燈:「ううん、翳のせいじゃないから。いくら薬剤師の才能があるからって、奇病《パンデミック》までは治せないよ。結果、私の治癒力でも母は助からなかったけどね。慎は精神的な病だったから、徐々に回復してるよ。」
翳:「…っ。」
燈:「さぁ気持ちを切り替えて、氷霊山に向かいましょう!」
翳:「ああ、原因を突き止めなきゃな。」
0:二人は談笑を交わしながら、嶮しい道程を経て、やっとの思いで氷霊山に着く。
燈:「翳、大丈夫?着いたよ!」
翳:「はぁはぁ…何とかな。…燈、気をつけろ。魔物の気配を感じる。」
燈:「え?あれは…麓の方?」
翳:「何だ、あの形状は?牛・人・羊の頭とガチョウの足、毒蛇の尻尾を持ち、手には軍旗と槍を持って地獄の竜に跨り、口から火を噴くという太古の悪魔、伝承に伝わるアスモデウスみたいだ。」
燈:「他にも蝿に似た異形な悪魔が宙を舞っているようだけど…」
翳:「ああ、あれはベルゼブブだな。どれもこれも大昔に滅びた悪魔だぞ?どういう訳だ…?」
0:二人が困惑してる中、バトルスーツに身を覆った青年が現れる。
燈:「貴方は、ラムダ!!」
翳:「お前が元凶だな?」
ラムダ:「傀儡の者、言の葉を発するか。」
燈:「うっ…頭が割れるっ!!」
翳:「燈!大丈夫か?お前は何者だ?」
ラムダ:「散り逝く運命(さだめ)に答(こたえ)は不要。」
燈:「くぁああ!!」
翳:「燈!クソッ…!言葉が通じないのは厄介だ。」
ラムダ:「四の楔、解かれし時、輪郭が浮き彫りになりて。」
燈:「…」
翳:「少しお灸を据えないと、その減らず口も抑えられないみたいだな!」
ラムダ:「…っ!」
0:翳は魔剣タナトスを徐ろに構える。
ラムダ:「天(そら)より黒雨(こくう)が降り頻る時、冥界の番獣現れん。」
燈:「翳…に、逃げて……」
翳:「燈!しっかりしろ!くっ…完全に気絶したか。」
0:ラムダの詠唱後、異形な化け物が眼前に立ち尽くす。
アスモデウス:「どぅあああ!!(ラムダ様ここはワシにお任せを。)」
翳:「…っ!」
ラムダ:「傀儡の者、その魂を下位悪魔に奪われる様では所詮、矮小な器。」
0:ラムダはそう言い残すと、闇の中に消えていく。
翳:「はん、ラムダめ。好き勝手言ってくれるな。お生憎様、奪う趣味はあっても奪われる趣味は無いんでなッ!!」
アスモデウス:「がぁばぁむ!(ラムダ様に仇なす者よ、死ねぇ!!)」
翳:「戦える薬剤師を舐めるなよ!…踏み込みが甘いっ!…弾け飛べ!!爆散斬!(エクスプロージョン•スラッシュ)」
アスモデウス:「がぁあああ!?(このワシが膝を突くだと?!)」
翳:「翳印の特製爆薬の味はどうだ?もう一丁!!…爆烈吼ッ!!(イクスプロシヴ•ロア)」
0:魔剣タナトスに火薬を練り込み、当てた衝撃と共に爆発させる。
アスモデウス:「…!!(遊びはこれまでだ。)」
翳:「ヤツから、禍々しいオーラが!?…くっ!避け切れんか。」
アスモデウス:「がざばなあ!(ダークネスレイ!)」
翳:「ぐほぉ!!…ラムダの野郎は下位悪魔とか吐かしてたが、さすが悪魔王。一筋縄ではいかないか。」
アスモデウス:「ぬだるがあ!(消し炭になれ、ダークイラプション!)」
翳:「はぁはぁ…思いの外、消耗が激しい…くそっ!防御が間に合わな……」
燈:「…世の秩序を乱す太古の悪魔よ、滅せッ!!…ロスト・オリジン!!」
0:燈のダガーから生み出された闇光の混合色の塊がアスモデウスを翫ぶ。
アスモデウス:「ぐどぅああああ!!(ば、馬鹿な!人の子如きに扱える術では!)」
0:アスモデウスは塵になる。
翳:「はぁはぁ…あ、燈なのか?!」
燈:「……」
翳:「ぐっ…!身体中が痛ぇ…視界も霞む……瞼が重い…ダメだ…燈……」
翳:「……」
燈:「翳、翳!死なないでぇ!!…フェアリーキュア!(妖精の癒し)」
0:燈のダガーから優しい光が放たれ、翳を抱擁する。
翳:「…ん!傷が癒えてる?!」
燈:「翳!良かった!意識を取り戻したみたいだね。」
翳:「燈、お前が俺を助けてくれたのか。」
燈:「うん、危なかったけど。」
翳:「そうか。ありがとう!あっ!危ないと言えば…アスモデウスの脅威から救ってくれたのもお前だったんだよな?」
燈:「え?何の事??」
翳:「まさか、無意識だとでも言うのか?」
燈:「アスモデウスって、麓にいた魔物だよね?」
翳:「それも間違いじゃないんだが。ラムダを見た途端、お前は頭痛に苛まれて、そのまま気絶しちまったんだよ。」
燈:「ラムダ…!そう言えば、アイツはどこにいったの?」
翳:「ラムダは異国語で詠唱した後、アスモデウスを置き土産して消えたよ。」
翳:「アスモデウスと戦ったけど…あのザマだ。」
燈:「…それで瀕死だったんだね。つまり、ラムダは悪魔を操る能力を持っているって事?」
翳:「そういう事だ。それに妙な事も言ってたな。確か、傀儡の者がどうちゃらこうちゃらだったか。」
燈:「傀儡の者…」
翳:「燈?どうした?」
燈:「ううん、何でもない。それよりも先に進みましょう!」
翳:「ん?あ、ああ。」
翳:「…(燈のヤツ、何を隠しているんだ?)
燈:「翳、急に立ち止まってどうしたの?」
翳:「なぁ燈、あの”姿”は本当にお前じゃないんだな?」
燈:「あの姿?」
翳:「アスモデウスを倒した時のお前の姿だよ。異質な術を使っていた。」
燈:「うーん……ごめんなさい。記憶にないの。」
翳:「そうか。すまない!」
燈:「謝らないで。敵では無いのかな?」
翳:「どうだろうな。」
翳:「…(傀儡の者に対して、僅かに狼狽えた表情。そして、燈自身も知らない、もう一人の燈の存在…か。)」
0:気付けば翳は、怪訝な眼差しを燈に向けていた。
燈:「翳、見えてきた!」
翳:「ん?ああ。」
燈:「大丈夫?顔色が悪いよ?」
翳:「だ、大丈夫だ!少し歩き疲れたんだろう。」
燈:「私も氷霊山で働くようになって、最初の一ヶ月間は翳みたいに体調を崩してたなあ。」
翳:「はは!あの頃は毎晩、愚痴を聞いた気がするよ。今じゃ、弱音すら吐かないもんな?」
燈:「うん、嘘みたいに今は平気だけどね!」
翳:「さてさて、残りの魔物退治といくか。」
燈:「あれ?」
翳:「首を傾げたりして、どうかしたのか?」
燈:「おかしい。ラムダもいないし、中腹から見た、悪魔達も消えてる。」
翳:「確かに妙に静かだ。」
燈:「…え?」
翳:「今度は何だ?」
燈:「あの裂け目は何?」
0:氷霊山の麓から天を見上げると裂け目が出来ていた。
翳:「恐らく、この先がラムダの根城だな。」
燈:「ラムダの?!」
翳:「ああ。微かだが、この裂け目からアイツの気配を感じる。」
燈:「…っ!」
翳:「進むと引き返せなくなる可能性があるかもな。」
燈:「……」
翳:「燈、お前はここに残るか?俺はヤツに借りを返さなくちゃならないからな!」
燈:「正直怖いけど、独りよりマシ。…着いていくよ!」
翳:「そうか。無理はするなよ?」
燈:「大丈夫。行きましょう!」
翳:「よし、飛び込むぞ?」
燈:「うん。」
翳:「……よっと!」
燈:「きゃぁあああ!!」
0:二人は裂け目に飛び込む。
翳:「痛ぇ…!おい、燈!大丈夫か?しっかりしろ!」
燈:「……んん!?あれ??中に入れたの?」
翳:「ああ、道のりは氷霊山に登る時より、険しそうだけどな。」
燈:「翳、あれは何?」
翳:「…?何かを嵌め込むような窪みの空いた、台座が四つ?何を指してるんだ?」
燈:「翳!」
翳:「何だ?」
燈:「氷霊山で見つけた”不死の瞳”が宙を浮いてるの!」
翳:「なるほど…ラムダは不死の呪具を集めて、何かを企てているようだな。」
燈:「何故、ラムダが?!」
翳:「理由は解らないが、不死を欲しているんだろう。」
燈:「…」
翳:「不死の瞳が燈の手から擦り抜けて、台座に装着されたな。」
燈:「翳、実はあなたに黙っていた事があるの。」
翳:「ん?」
燈:「ラムダが翳に向かって、傀儡の者と言ってたでしょ?」
翳:「ああ、やはり知っていたか。」
燈:「うん、ごめんなさい。」
翳:「いや、構わない。お前にも事情と言うものがあるんだろう?」
燈:「翳、あなたは…傀儡の者、要するに抜け殻なの。」
翳:「は?何を言って…」
燈:「翳は私が創った模倣品(レプリカ)なの。」
翳:「う、嘘だろ…!?」
0:狼狽する翳。
燈:「翳、あなたは一度死んでいるの。」
翳:「…っ!」
燈:「首に下げているペンダントの中を見てみて。」
翳:「お前が俺の誕生日に贈ってくれたペンダントか。この中に真実があるんだな?」
燈:「うん、中に小さな窪みがあるから押してみて。」
翳:「ああ。」
0:燈に言われた通りに窪みを押す。
翳:「これは…!ホノグラムか?(次元像記憶媒体)」
燈:「うん、私がまだ人工肉体生成師だった時の記憶と翳が傀儡の者になる前の話。」
翳:「俺の記憶…」
翳:「第3界、色褪せない生命。」
0:回想。
燈:私の仕事は人工肉体生成師。所謂、一度失った命を複製と言う形で甦らせる技師の事だ。今夜の依頼は2件。隣町の神居逸17歳。死因は親に虐待され、当たりどころが悪く死亡。依頼主は逸くんのお兄さんの颯くん。もう一人は………恋人の翳。
0:1件目の依頼を終えて帰宅した燈。
燈:「はぁ……翳。」
0:2年前。
翳:「燈、一人で大丈夫か?」
燈:「大丈夫だよ!武器オークションにいくだけだから。」
翳:「そうか!それにしてもダガーに治癒能力が付与されてるのは珍しいよな。」
燈:「うん、欲しい!絶対落札してみせる!」
翳:「甘い話には必ず裏がある。気を付けろよ?」
燈:「もう、翳は心配症だなー!」
翳:「…」
燈:「行ってくるね!」
翳:「ああ、行ってらっしゃい!」
0:オークション会場。
燈:「わぁー!!凄い人集り!」
燈:「えっと…席は……」
黒ローブの男:「お嬢さん、困ってるのかい?」
燈:「え?」
黒ローブの男:「そんなに驚かないでくれ。決して怪しい者じゃない。それで、席の番号は?」
燈:「27番です。」
黒ローブの男:「27番なら右のテーブルの席だよ。」
燈:「ありがとうございます!」
0:燈はその場を後にする。
黒ローブの男:「…ん?あの紋様は始祖の民か。」
黒ローブの男:「クックック…今日は収穫ありだ。」
0:その頃、翳は…
翳:「燈が気になって後をつけてきたが、あの男はなんだ?異様な雰囲気だ。」
翳:「始祖の民?収穫?何の事を言ってるんだ?」
黒ローブの男:「そこの君、コソコソと何をしている?」
翳:「…(くっ…見つかったか。)」
黒ローブの男:「盗み聴きとは感心しないな。」
翳:「お前こそ、燈をどうする気だ?」
黒ローブの男:「燈?先程のお嬢さんの事か。…君には関係の無い事だよ。」
翳:「ふざけるな!…力尽でも吐かせるしかないようだな!」
黒ローブの男:「ほう?随分と肝が据わっている。」
翳:「はぁーあ!」
黒ローブの男:「…長剣を持つ手が震えてるよ?…闇羅(ヴァイト)」
翳:「ぐぁ!」
翳:「はぁ…はぁ……まだ、まだ…だ!!…必殺必中、翳狼!(シャドウ•ウルフ)」
黒ローブの男:「ぐぅっ…!痛いなあ!!…なんちゃってね♪」
翳:「…はぁ…はぁ…俺の技が…一切通じてない…だと?」
黒ローブの男:「ふふ!脆い…君みたいな小物を葬るのはやぶさかではないが…暗黒の走破!(リッシュ•ナッパー)」
0:「闇を帯びたビームが翳を貫く。
翳:「…ぐほぁ…燈……」
黒ローブの男:「……さて、計画続行と行こう。」
0:一方、燈は。
燈:「次は私の番ね!…今の価格は…48000ガルズ。よし…50000ガルズで!!」
0:見事落札を果たす。
燈:「やった〜!ダガーが手に入ったわ!」
燈:「早く帰って、翳に報告しなきゃ。」
0:燈はオークション会場を後にする。
燈:「ふんふん〜♪」
黒ローブの男:「ご機嫌だね、お嬢さん。」
0:入り口付近で黒ローブの男と鉢合わせる。
燈:「あなたは!はい、無事にお目当ての物を手に入りました♪」
黒ローブの男:「そうか。それは良かった。始祖の民。」
燈:「始祖の民?」
黒ローブの男:「君は自分が何者なのか理解していないんだね。それなら冥土の土産に教えてあげよう!君は零術(ゼロマジック)を操る者。始祖グランドールの末裔さ。」
燈:「零術?…うっうっ!!頭が…割れる…!」
燈:「ぁあああ!!」
黒ローブの男:「これは…力の奔流か。目醒めの時は近そうだ。」
燈:「ぐぁあああ!!」
黒ローブの男:「雰囲気が変わった?」
燈:「我が器を脅かすは貴様か?」
黒ローブの男:「君はグランドールかい?…この傷を見せれば解るかな?」
燈:「ふむ、貴様は邪神モレクの末裔か。」
黒ローブの男:「そうさ。」
燈:「我に敗れた廃徒(はいと)の民が何様だ?」
黒ローブの男:「知れた事、君にリベンジさ。」
燈:「ふん…余程、命が要らないと見える。…ならば、お望み通り…黄泉に送ってやろう!」
黒ローブの男:「それはどうかな?…暗鬱の雨よ降り注げ!!」
燈:「ほう、暗黒術か。…極寒の吹雪よ、仇なす者を凍らせよ。絶対零度!(アブソリュート•ゼロ)」
黒ローブの男:「黒雨!(ブラック•レイン)」
燈:「…」
黒ローブの男:「ぐあぁあ!!」
燈:「…永久(とこしえ)に眠れ。虚空の檻(ヴォイド•ケージ)」
0:燈の身体を使って、始祖グランドールは黒ローブの男を虚空の檻に幽閉した。
0:目が覚めた燈は、辺りを見回すと見慣れた顔が転がっていた。
燈:「んん?私は……え!?翳…?いや、嫌ぁああああ!!」
燈:「何で…翳が…こんな目に……ぐぅうああ!!」
0:その後、燈は肉体生成師の力で翳の複製を創る事に成功。
燈:「うん、我ながら良い出来ね!…完成!翳、おかえり!」
翳:「燈?俺は眠ってて…?いたた…思い出そうとすると頭が痛む。」
燈:「そう、あなたはとても永く眠っていたの。無理はしないで?まだ、病み上がりなんだから。」
翳:「そうか。」
燈:「そうだ!このペンダントあげる。だいぶ誕生日は過ぎちゃったけど、おめでとう翳!」
翳:「ああ、ありがとう。」
0:ホノグラムは役目を果たし機能を停止させる。
燈:「翳、これがあなたの本当の記憶と現在(いま)のあなたよ。」
翳:「…俺は……レプリカ…」
燈:「翳、ごめんなさい。私があの時、ダガーに拘ってなければ…あなたは死なずに…」
翳:「いや、燈が責任を負う必要はない。気にするな。」
燈:「ありがとう…ぅうぅ!!」
0:暫く、放心状態の翳だったが…
翳:「…先を進もう。」
燈:「ええ、でも…この先の…ラムダに続く扉は固く閉ざされているわ。どうするの?」
翳:「これは臆測だが、不死の鼻、不死の胴体、不死の脚を探す必要があるな。」
燈:「でもどうやって?」
翳:「……何かヒントになるような物は…ん?!燈!この石碑を見てくれ。」
燈:「え?…!」
0:勇敢な戦士は右に進み、魔の眷族から宝物を奪取せよ。可憐なる美姫は左に進み、己の闇に討ち、戦利品を手中に収めよ……その先は掠れていて読む事ができない。
燈:「翳、これって!」
翳:「ああ、勇敢な…から始まる文言は俺の事を指しているのだろうな。魔の眷族とやらを倒した暁には″不死が手に入る”」
燈:「それなら、可憐なる美姫…は私に向けた試練?」
翳:「恐らくはな。他にも辺りを探しては見たが、特にこれといった違和感は無かった。」
燈:「…この石碑が指し示す通りなら、ここは個人の闘いになるね。」
翳:「ああ、準備が整ったら向かうか。」
燈:「ええ。翳、気を付けてね!」
翳:「燈こそな。」
0:数時間、呼吸を置いた後、2人は試練へと臨む。
翳:「俺は右の扉を。」
燈:「私は左ね。」
翳:「燈…再び、この広間で落ち合おう!」
燈:「うん、必ずね!」
0:そう約束を交わした後、2人は別れた。
翳:「第4界、それぞれの葛藤。」
0:翳はひたすら、右に進んだ。入ると、そこは血生臭い怪物達(モンスター)の墓場だった。
翳:「うぷッ!噎せ返る血の臭い…長居はしたくない場所だな。」
翳:「はぁ…はぁ…長時間、留まってると気が狂いそうだ。とっとと済ませよう。…うぷッ!」
翳:「…気配がする!」
ベルゼブブ:「だがあらじゃあ!!(久しぶりの獲物だ、ヒヒヒ!)」
翳:「こいつは…!氷霊山の麓にいた悪魔…ベルゼブブか。」
ベルゼブブ:「なたまあかざあ!(ラムダ様の言ってた通りだ、”上等な肉”が時期に現れるって話は。)」
翳:「仕掛けてこないのか?随分と用心深い蠅だな。ならば、先手必勝…!」
翳:「はぁーあ!香ばしく焼き焦がしてやるよ!…爆散斬!(エクスプロージョン•スラッシュ)」
ベルゼブブ:「ぬたなからまあ!(俺様の能力はダメージを受けるほど、パワーアップする。ヒヒ、好きなだけ打ってこい。)」
翳:「お?立ってやがるか。この程度の火力じゃ、生焼けがいいところか。」
翳:「それなら更に火力を上げて、燃やし尽くしてやる!…はぁーあ!咆えろ、火狼(がろう)!…爆烈吼!!(イクスプロシヴ•ロア)」
翳:「はぁはぁ…!どうだ?今度は…ちゃんと火が通って……何!?」
ベルゼブブ:「ねわまあかた!(ヒヒヒッ!馬鹿な小僧だ。さぁ、そろそろ充填完了だな。満足に焼き方も知らねえ、ガキンチョに学ばせてやらぁ!…)」
翳:「…奴の羽根から何かが…?!」
ベルゼブブ:「さはかさなあ!!(気付くのが遅かったな…俺様の羽根は超高圧電流を”飼ってるのさ”焼き方ってのはこうやるんだよ!!…雷神降霊!(サンダーゴッド•スピリット))」
翳:「…光?いや、電流か…!くぉおおお!!…はぁはぁ…」
ベルゼブブ:「たたらさかはあ!(馬鹿めが。俺様の超高圧電流をもろに喰らって、生きていたヤツは誰一人といね……くそ!しぶてぇやつだ!)」
翳:「がはっ!…敢えて、ダメージを受けて力を溜めていたとはな。」
翳:「解ったぜ。お前のネックな部分は時間を掛けなきゃ攻撃が出来ない。…つまりは遠慮無しの高火力で調理させて貰う!!」
ベルゼブブ:「ぬだわまなは?!(しまった…一発で仕留めれると思って、物理攻撃を積んでねえ……くっ!万事休…いや、待てよ?ラムダ様から頂いた、この力を…!)」
翳:「ん?なんだ?さっきと雰囲気が…」
0:ベルゼブブはラムダから貰った不死の鼻で自強化を始めた。
ベルゼブブ:「オワリダァア!!」
翳:「奴の鼻!あれは、不死の鼻か!」
翳:「なるほどな。石碑に描かれていた意味はこの鬱陶しい蝿を倒して、”不死の鼻”を奪取しろって事か!」
ベルゼブブ:「シネェイィイ!!」
翳:「よっと…!危ねぇ。おい、蝿の王!形態を変える前の方が賢そうだった…ぞッ!!せぇいや!!」
ベルゼブブ:「グォオオオ!!」
翳:「お前、自我を保て無くなってるな?…不死の鼻を誤って使用した当然の報いだな。」
ベルゼブブ:「ガァァア!!」
翳:「どこを見ている?…単調な突撃攻撃なんざ、当たらねえ…よッ!!…そんなんじゃ、俺をお前の死体コレクションに加える事は出来ないぜ?」
ベルゼブブ:「ヌガァア!!!」
翳:「…楽にしてやる。…はぁーあ!…お望み通りの高火力だ!…超、爆散斬!!(スーパーエクスプロージョン•スラッシュ)」
ベルゼブブ:「ら、ムダサマァアア!!」
翳:「ふん…ラムダに飼われたら、最期…一巻の終わりだな。」
0:ベルゼブブは不死の鼻を落とした後、朽ちる。
翳:「不死の鼻は無事手に入ったが…消化液がねっとり付いてやがる…汚ねぇな。」
翳:「…燈の方は大丈夫だろうか?」
0:ベルゼブブを倒した翳は広間に戻る。
燈:「凄く、暗い場所ね。携帯していた蝋燭を頼りに手探りで進むしかないわね。」
0:燈は洞窟のような暗所に居た。
燈:「暗いし、妙に寒い…風邪を引く前に出なくっちゃ。」
燈:「僅かな、蝋燭の火を照らしながら奥まで進んできたけど…」
燈?:「ふふふ、ここは行き止まりよ?」
燈:「え?私がもう一人?!…疲れてるのかな?」
0:目の前に佇む、もう一人の自分。
燈?:「あらあら、同じ顔が怖いあまりの現実逃避?ふふ、滑稽ね。」
燈:「さっきから…なによ、あなた!」
燈?:「不死の胴体を探しているんでしょう?」
燈:「だったら何なの?」
燈?:「私を見事倒せたら、あげるわ。」
燈:「はあ?”私が私を倒す”?」
燈?:「いいわね、その困惑した表情。たまらないわ。」
燈?:「逃げても無駄よ?どの道、あなたは引き返せないわ。己自身と闘う運命にあるの。」
燈:「くっ…どうしろって言うの…?」
燈?:「仔犬の様に怯えてるところ悪いけど、殺らせて貰うわ、ねッ!!」
燈:「…きゃあああ!!」
燈?:「ふふふ、手加減しないわよ?」
燈:「…はぁはぁ!…やるしか、ないの?ダガー、力を貸して!」
燈?:「…?あら、ご立派な物を持ってるわね!」
0:ダガーを構える燈。
燈:「て、てぇやぁー!!」
燈?:「…うふふ!!そんな大振りな攻撃じゃ、当たらないわよ?」
燈:「…(翳と違って、戦闘経験なんて無いのにどう戦えば…?」
燈?:「敵に隙を見せたら、痛い目見るわ……よっ!!」
燈:「ぁぐ…!はぁはぁ…どうすれば…」
燈?:「はぁ……弱いわね、ラムダ様があなたみたいな小娘を一目置く理由が解らないわ。」
燈:「ラムダ?あなたラムダを知っているの?!…また…頭が…痛く…うぁああああ!!」
燈?:「え、何が起こったの?!…あの姿は始祖の…ヒィイ!!」
燈:「スゥゥウ…下賤な廃徒(はいと)の民よ、何故(なにゆえ)…我が器を脅かす…!」
燈?:「ラムダ様が危惧していたのは…この娘自身じゃなくて、この娘に眠る、始祖グランドール!!」
燈:「この代償は高く付くぞ?…我が化身よ、仇を為す、愚者に正義の鉄槌を!」
燈?:「…にげ、逃げぇえ!!」
燈:「…ハンマーオブ•ジャスティス!!」
燈?:「ぎゃあああ!!」
燈:「…」
燈?:「己ェェエ!!…ラムダ様、禁忌を破る事…どうかお許しを…!!…不死の胴体…力を…」
燈?:「…ゴァアアアア!!」
燈:「愚かな、我欲の為に身を滅ぼすとは……」
燈?:「ゴルァア!!!」
燈:「…無策に仕掛けてこようと、我に擦り傷一つ負わす事叶わぬ!…無へと帰(き)せ!…ロスト•オリジン!!」
燈?:「グァアアア!!!」
燈:「…」
0:燈に扮した、悪魔ベルフェゴールを倒す。
燈:「…んん?!あ、あれ?私は……?そこに落ちているのは…不死の胴体?」
燈:「一応は…クリアね?」
燈:「翳の方は問題なく片付いたかな?」
燈:「急いで戻りましょう。」
0:燈は翳の待つであろう広間へと戻る。
翳:「…燈はまだ戻ってないみたいだな。」
翳:「無事だといいが。」
翳:「眠い。少し仮眠を…zzZ」
0:翳が眠った、数十分後に燈が到着する。
燈:「ふぅー!疲れた。…やっと戻ってこれたみたいだけど、翳はいるかな?って!!寝てるぅ!!」
燈:「翳!翳ぇえ!!」
翳:「んん…燈、もう喰えないzzZ」
燈:「翳、何の夢見てるのよ。…お、起きろォオ!!」
翳:「…うぉああ!?」
燈:「おはよう、よく眠れた?」
翳:「ああー…燈!すまん、眠ってしまった。」
燈:「もう、緊張感が無いんだから…あはは!」
翳:「は、はは!」
燈:「翳、不死の胴体手に入れたよ。」
翳:「ああ、俺も不死の鼻を手に入れた。」
燈:「残りは…」
翳:「不死の脚のみだな。」
燈:「どこにあるんだろ…あ!また、勝手に台座に引き寄せられて!!」
翳:「後、一つ集めたら奴と…ラムダとのご対面は果たせるのだろうが。」
燈:「翳?何を悩んでるの?」
翳:「ん?ああ。不死の脚を入手し、四つ揃えたらどうなるのかを想定していた。」
燈:「…私たち、正しい事をしてるんだよね?」
翳:「……解らない。しかし、ここで黙って燻ってる訳にもいかないからな。」
燈:「…っ!…最後の不死、見付けよう!」
翳:「燈、その事なんだが、石碑を見てみろ。妙な文字が浮かび上がってきている。」
燈:「妙な文字?…こ、これは!!」
翳:「…」
0:石碑に触れると『どちらか一方の命を捧げし時、禁じられた扉は開かれよう。』と書かれている。
燈:「これって……」
翳:「ああ…この先に進みたければ、俺か燈の命を生贄にしろって事だな…」
燈:「そんな事って…ほ、他に方法があるはずよ!探しましょ…」
翳:「燈!時間は無い。こうしてる間にもラムダは何を企んでいるのか、解ったもんじゃない。」
燈:「…い、嫌よ…せっかく甦えらせたのに、また離れ離れになるなんて…」
0:現実を受け止められず号泣する燈。
翳:「俺は…君から二度も生(せい)を貰い、充分満たされた。…ありがとう。」
燈:「翳の馬鹿!くっ…私が犠牲になれば…」
0:『これより先はあなた(プレイヤー)の選択肢によって、結末が変わります』
0:燈を生かす。
翳:「燈、二度も三度も然程、変わらない。俺がいく!」
燈:「翳っ!」
翳:「燈、ありがとう…再び、平和な世が戻ってくる事を願っている。」
燈:「…翳!翳ー!!ぅぁあああん!!」
翳:「…ラムダ、俺の命をくれてやる!はぁーあ!!うっ…!!」
0:翳が自害した事により、不死の脚が生成される。
燈:「これが…不死の脚!…翳、ありがとう。あなたの想いは無駄にはしないわ!!」
燈:「…ラムダ!」
0:掛け替えのない恋人を二度も失った燈は涙を拭い、台座に手を掛ける。
燈:「…最後の不死が台座に嵌ったわね。」
燈:「綺麗…この燦然たる輝きは…まるで、翳の涙のようやね。ぐす…いつまでも、悔やんでても翳は浮かばれないわ。行かなくちゃ!!」
0:燈は決意を固め、開いた先のラムダが鎮座する深層へと足を踏み入れる。
燈:「最終界、涙を超えた先に。」
ラムダ:「時は満ち、全ての不死は揃った。私は”永遠を得た”」
ラムダ:「…ウッ!!グァア!?」
ラムダ:「素晴らしい!!これが不死の能力か…!…それに加えて、本来の言語機能が戻ったようだ。」
ラムダ:「グランドール、貴様への積年の怨み、ここに果たそうじゃないか!クククッ!」
燈:「…一本道の様だけど、途方もないわね。」
0:一心不乱にひたすら進む燈。
燈:「はぁはぁ……ようやく最奥に辿り着いたみたいね。」
燈:「この頑丈な扉の先にラムダが…!」
0:扉に手を掛け、中に入る燈。
燈:「ラムダ!!」
ラムダ:「おやぁ?やはり、君が来たか。燈、いや、始祖グランドール。」
ラムダ:「傀儡は字のごとく、”人形化”しちゃったのかな?クッハハハ!!」
燈:「ラムダ、あなただけは…赦さないッ!!てぇやぁー!!」
ラムダ:「はっ!…ヌルいね。そのダガー、懐かしいねえ。あの時も、私が彼を物言わぬ木偶(でく)へと変えてあげたんだよ?クククク!」
燈:「ラムダ、あなたはまさか?!」
ラムダ:「あー今更気付いたの?そう、遠い昔の話、オークション会場で君に話し掛けたのは紛れもなく、この私だよ。けど、あの時は未だ不完全で始祖グランドールにやられて、幽閉されちゃったけどね。」
燈:「な、なんですって?あの時の黒ローブの男!」
ラムダ:「そうそう、思い出せたようで何よりだ。でも、その記憶もこの後、失われてしまうけどね。」
燈:「くっ…!舐めないで貰いたいわね!」
ラムダ:「あの時はそんな目を見ることは無かったから、何だか新鮮だなあ?ねぇーッ!!」
燈:「うっ…!」
ラムダ:「クッハハハ!!君に用は無い。君の中に眠る神秘、謂わば始祖グランドールに用があるんだ。」
ラムダ:「さぁ、早く目醒めて!…黒雨!(ブラック•レイン)」
燈:「きゃあああ!!」
燈:「…はぁはぁ…!さっきから、始祖グランドールって何の話よ?」
ラムダ:「あれぇ?まさか、自分の体内に飼ってる”化け物”を把握出来て無かったの?前回、教えたと思うんだけどなあ?」
燈:「こ、答えなさい!あなたは何を言っているの?」
ラムダ:「忘れちゃっただね。仕方がない、今回限りの出血大サービスだよ?……君は術を初めて習得した始祖、グランドール…またの名を零術師(ゼロマジシャン)と言う。そのグランドールの末裔なんだ。」
燈:「私が始祖グランドールの末裔?!」
ラムダ:「驚くのも無理はない、”彼女は君には断りなく、無断で入ってしまっている”からね。」
ラムダ:「太古の偉人は器が無いと意識を保てないのさ。どんなに鈍感でも、そろそろ答えが見えてきただろう?クク。」
燈:「つまり、私はグランドールの器って事?!」
ラムダ:「そう。恨むなら、君の血筋を怨みなよ?」
燈:「…」
ラムダ:「そして、私は遥か昔に滅びた邪神モレクの末裔。要するに因縁って訳さ。理解出来たかな?」
燈:「吐き気がする執念ね!」
ラムダ:「クッハハハ!!言い得て、妙だ。さて、歓談はこの辺にして…」
0:ラムダは異質なオーラを放ち、宙を浮く。
燈:「翳…見守っていて!」
ラムダ:「届くはずのない、壊れた玩具に祈祷かい?クッハハハ!!」
燈:「…天より來りて、地へと還らん!!」
ラムダ:「こ、これは?ついに来ましたかあ!グランドールさまぁ!!クッハハハ!!」
燈:「また貴様か。性懲りも無く、骸になりに来たか?」
ラムダ:「おおーお!相変わらずの大言壮語を吐き散らかしますねえ!!その自信…挫いてあげるよ!…ひゃっはーー!!」
燈:「ぐぅっ!!何?!…以前と比べるとまるで、別人の様だ。」
ラムダ:「クッハハハ!!器を護る事だけに時を費やし、自身の強化はして来なかったみたいだなあ!!…積年の怨み、ここに晴らしてやるよ!!…虚空より、黄泉がえりし、太古の邪神よ!!此処に顕現せよっ!!」
燈:「ば、馬鹿な!?その詠唱は…!」
ラムダ:「クッハハハ!!てめぇは終わりだ!!グランドール!あー言い忘れていた♪邪神モレク様の復活の手助けをしてくれた君の器には感謝しておかないとね。」
燈:「くっ…モレク!!」
ラムダ:「…ぐぉああ!!頭が割れ…る!!」
燈:「…」
0:ラムダの身体に入り込んだ邪神モレクが口を開く。
ラムダ:「…スゥゥウ!久しいな、グランドール。」
燈:「モレク!!」
ラムダ:「感動の再会を祝したいのは山々だが、そうも言っていられない状況でな。」
燈:「何が云いたい?」
ラムダ:「貴様とて刻限が一刻、一刻と迫っておろう。器である余の忠実なる下僕、ラムダにはこれからも生を実感して貰わねばな。」
燈:「互いに限りがあると云う訳か。なれば、早々に滅してくれよう!」
ラムダ:「相も変わらないな、グランドールよ。今度こそ、貴様を葬ってくれよう。」
ラムダ:「…闇羅刹!(ダーク•ラークシャサ)」
燈:「効かぬッ!!…防御膜!(ハード•プロテクション)」
ラムダ:「流石だ、グランドール。」
燈:「…再び、幽閉してやろう!!モレク!!…失楽園!(ロスト•エデン)」
ラムダ:「ぐっ!…油断したか。…グランドール、あの頃の余と思ってるようだが、格の違いをその目に焼き付かせてやろう!」
燈:「…禁忌術!?」
ラムダ:「フハハ、驚くのも無理はないな。グランドールよ、貴様が尤(もっと)も欲していた術なのだからな。」
ラムダ:「終いにしよう。グランドール、虚無へ還れ!!…どぅーあ!!…殲滅の光!(エクスターミネイト•レイ)」
燈:「…防御膜!(ハード•プロテクション)」
ラムダ:「無駄だ!!」
燈:「我の結界が敗れ…!…ぐぁあああ!!」
ラムダ:「ふん…他愛も無い。最期だ…ヘル、」
燈:「…はぁはぁ!…貴様は過去に何を学んだ?…ロスト・オリジン!!」
ラムダ:「なっ!?ば、馬鹿な!!余の術が確かに貴様を貫いて!!…貴様は再び、余を絶望の檻(ケージオブ・デスパイヤー)に幽閉すると謂うのかぁあ!!ぐぉああああ!!」
燈:「モレクよ、我も時期に逝こう。」
0:永き戦闘の末、ラムダとその中に眠るモレクの魂も消えた。
燈:「我が半身よ、強く、気高く生きよ。…このグランドールを失望させてくれるなよ……」
0:そう言い残し、燈に眠っていたグランドールの意識は完全に消滅した。
燈:「んん…!私は確か、ラムダと戦ってて…あれ?」
0:燈は何かを悟ったように…
燈:「…ふふ。グランドール、いつも助けてくれてありがとう!そして、さよなら。」
燈:「翳、この世界は守ったよ!…殆ど、私の先祖様のお陰だけどね。」
0:大きく背伸びをする。
燈:「…さぁて、帰りますか!」
0:『Aエンド。平和な夜明け。完』
0:豊かな自然に囲まれた街、アルザース。その中心部に住む、若き二人。
翳:「第1界、歪な事象。」
燈:「もう、またテレビ付けっぱなしで寝てる!…翳!起きなさいー!!」
翳:「うおあ!?何だ、朝っぱらから騒がしい奴だな。起こすなら、起こすでもうちょっと静かに…」
燈:「その後に続くのは静かに起こしてくれっ!でしょ?言っとくけど、私はあなたの都合のいい召使いじゃないからね?」
翳:「ぐっ!わ、分かったから、その手に握ったアイスピックを離してくれ!物騒過ぎる。」
燈:「はぁ?これで翳を刺して人生を棒に振りたくなんてないわ。何をそんなに怯えているのよ?」
翳:「じゃあ、何でそんな物持ってんだよ?」
燈:「え?あ、ごめんなさい。まだ、言ってなかったわね。昨日、私の勤めている氷霊山で妙な物が掘り出されて。貰い手がいなかったかは、私が代わりに受け取ったんだけど。」
翳:「妙な物?」
燈:「これなんだけど…」
翳:「ん、この氷の中に入ってるのは何だ?目玉のように見えなくもないが。」
燈:「そう、翳も気になるよね?」
翳:「ああ、その鋭利なアイスピックを持ってた理由はそういう訳か。ん?待てよ?何で、氷が溶けてないんだ?!」
燈:「そこなの。私も不思議に思ってる。気温が25度もある蒸し暑い室内なのに、昨日発見した時とまったく形も変わらず、カチコチに凍ったままなのよ!」
翳:「んーー特殊な氷なのか?例えば人の力で人工的に作られた氷とか。」
燈:「分からない。でも、答えは”この中”にあると思うの。」
翳:「よし、割ってみるか。燈、お前は下がってろ。」
燈:「え?!大丈夫?昨夜、魔物に噛み付かれた右腕の傷が今でも疼くんじゃないの?」
翳:「ああ。少しヒリヒリするけど、村長から貰った薬のお陰で然程痛みは感じない。」
燈:「そう。無理はしないでね?…はい、アイスピック。」
翳:「ああ、ありがとう!いくぞ?」
燈:「うん。」
翳:「はぁーあ!せぇい!」
0:翳は神速の如き、アイスピックで氷を砕く。
燈:「凄い…氷が一瞬で砕けて、中身が露わになった!」
翳:「ふぅ、いい汗かいた。」
燈:「翳、これ何かな?マジマジと見ると気持ち悪い。」
翳:「ん、これは…不死の瞳?」
燈:「翳、これが何か分かるの?」
翳:「ああ、昔な親父に聞いた事があるんだ。これは、不死の呪具。そのパーツの目。通称、不死の瞳だよ。」
燈:「不死の呪具?じゃあ、この不死の瞳はパーツの一種に過ぎないって事?」
翳:「不死の呪具は全部で4種類。そこにある、不死の瞳。不死の鼻。不死の胴体。不死の脚。」
燈:「その4つ揃ったらどうなるの?まさか、文字通り…」
翳:「燈、お前が想像した通りだ。全て揃った暁には不死の肉体を得れるだろう。」
燈:「翳、私は永遠の生命なんて欲しくないよ?人はいつか、必ず死ぬ。それが世の摂理でしょ?」
翳:「…」
燈:「翳?」
翳:「ああ、そうだな。不死など望んだら世界は歪んでしまう。だけど、何で氷霊山にこんな物が…?」
燈:「その事なんだけど、アイツが来てからなの。氷霊山に異変が起きたのは。」
翳:「あいつ?」
燈:「うん、名前はラムダ。服装、喋り方からして私達とは別の世界からやってきた可能性があるわ。」
翳:「別の世界?異星人か。」
燈:「ええ。時折、異国の言語で何やら、ブツブツと呪文みたいに唱えてる事があるの。」
翳:「ふむ、それは気味が悪いな。」
燈:「とてもね。あいつと仕事をしている時は息が詰まりそうな思いよ!…ある日、氷霊山に見た事のない魔物が出現したの。」
翳:「魔物だと?トロールや、ゴブリンの類じゃなくてか?」
燈:「ううん、見た目は人の形をしているんだけど、機械的?と言うか、まるで人形のようなの。」
翳:「人形…封印されたはずの不死の呪具と何か関係があるのか?或いは…」
燈:「ねぇ翳、あなたにお願いしたい事があるの。」
翳:「改まってどうした?」
燈:「氷霊山の異変について、一緒に調べて欲しい。勿論、危険なのは承知の上よ!でも、このままじゃ…」
翳:「働きにくいし、悪化したら取り返しが付かなくなってしまうから…大方、こんなところか?」
燈:「凄い!まるで、私の心を読めるみたいに正確に当てていくね。」
翳:「いや、読みやすい気質をしてるからな。…いいぜ、付き合ってやる。」
燈:「翳、ありがとう!」
翳:「明日の出発は早いだろうから、もう寝るぞ?」
燈:「翳、ごめんなさい…もう一つだけワガママを聞いて欲しいの。」
翳:「……気が済むまで隣にいろ。」
燈:「…嬉しい。」
翳:「…」
0:翌朝。
燈:「第2界、迫り来る脅威。」
翳:「燈、お早う。」
燈:「んんう?…今、何時?」
翳:「朝の6時だな。気が済むまでとは言ったが、まさかお前と朝を迎える事になるなんてな。」
燈:「ごめんなさい…迷惑だった……?」
翳:「そんな事はない。そもそも迷惑なら、即追い出してる。」
燈:「あはは、翳らしいね。素直で不器用なところが好き。」
翳:「は?こんな朝から何吐かしてんだ。恥ずかしいヤツだな。」
燈:「ふふ、照れてる姿も追加しとこう。」
翳:「…やめろ。……さて、着替えて向かうか。」
燈:「うん。」
0:二人は正装に着替える。
翳:「あっちで何があるか分からない。念の為、武器を装備しておかなくちゃな。」
燈:「翳、その剣ってカッコいいよね。何て名前だっけ?」
翳:「魔剣タナトス。死を司る剣と称されている一級品だ。燈、試しに握ってみるか?」
燈:「え、遠慮しておくわ!私も護身用にダガーを持っていこうかな。」
翳:「燈のダガーは確か、治癒能力が備わっていたよな。薬草を切らしている、今の状況には有難い。」
燈:「そうそう!よく覚えてるね。2回しか翳の前では使ってないのに。」
翳:「その2回とも衝撃的な事柄だったからな。一つ目は、病床に臥していた、母親の件。もう二つ目は元恋人の錯乱した慎の件か。」
燈:「…っ!本当に凄い。まるで、自分が体験したかの様に詳細を話せるなんて…」
翳:「慎は兎も角、母親の件は申し訳ない。俺の腕がもっと良ければ…」
燈:「ううん、翳のせいじゃないから。いくら薬剤師の才能があるからって、奇病《パンデミック》までは治せないよ。結果、私の治癒力でも母は助からなかったけどね。慎は精神的な病だったから、徐々に回復してるよ。」
翳:「…っ。」
燈:「さぁ気持ちを切り替えて、氷霊山に向かいましょう!」
翳:「ああ、原因を突き止めなきゃな。」
0:二人は談笑を交わしながら、嶮しい道程を経て、やっとの思いで氷霊山に着く。
燈:「翳、大丈夫?着いたよ!」
翳:「はぁはぁ…何とかな。…燈、気をつけろ。魔物の気配を感じる。」
燈:「え?あれは…麓の方?」
翳:「何だ、あの形状は?牛・人・羊の頭とガチョウの足、毒蛇の尻尾を持ち、手には軍旗と槍を持って地獄の竜に跨り、口から火を噴くという太古の悪魔、伝承に伝わるアスモデウスみたいだ。」
燈:「他にも蝿に似た異形な悪魔が宙を舞っているようだけど…」
翳:「ああ、あれはベルゼブブだな。どれもこれも大昔に滅びた悪魔だぞ?どういう訳だ…?」
0:二人が困惑してる中、バトルスーツに身を覆った青年が現れる。
燈:「貴方は、ラムダ!!」
翳:「お前が元凶だな?」
ラムダ:「傀儡の者、言の葉を発するか。」
燈:「うっ…頭が割れるっ!!」
翳:「燈!大丈夫か?お前は何者だ?」
ラムダ:「散り逝く運命(さだめ)に答(こたえ)は不要。」
燈:「くぁああ!!」
翳:「燈!クソッ…!言葉が通じないのは厄介だ。」
ラムダ:「四の楔、解かれし時、輪郭が浮き彫りになりて。」
燈:「…」
翳:「少しお灸を据えないと、その減らず口も抑えられないみたいだな!」
ラムダ:「…っ!」
0:翳は魔剣タナトスを徐ろに構える。
ラムダ:「天(そら)より黒雨(こくう)が降り頻る時、冥界の番獣現れん。」
燈:「翳…に、逃げて……」
翳:「燈!しっかりしろ!くっ…完全に気絶したか。」
0:ラムダの詠唱後、異形な化け物が眼前に立ち尽くす。
アスモデウス:「どぅあああ!!(ラムダ様ここはワシにお任せを。)」
翳:「…っ!」
ラムダ:「傀儡の者、その魂を下位悪魔に奪われる様では所詮、矮小な器。」
0:ラムダはそう言い残すと、闇の中に消えていく。
翳:「はん、ラムダめ。好き勝手言ってくれるな。お生憎様、奪う趣味はあっても奪われる趣味は無いんでなッ!!」
アスモデウス:「がぁばぁむ!(ラムダ様に仇なす者よ、死ねぇ!!)」
翳:「戦える薬剤師を舐めるなよ!…踏み込みが甘いっ!…弾け飛べ!!爆散斬!(エクスプロージョン•スラッシュ)」
アスモデウス:「がぁあああ!?(このワシが膝を突くだと?!)」
翳:「翳印の特製爆薬の味はどうだ?もう一丁!!…爆烈吼ッ!!(イクスプロシヴ•ロア)」
0:魔剣タナトスに火薬を練り込み、当てた衝撃と共に爆発させる。
アスモデウス:「…!!(遊びはこれまでだ。)」
翳:「ヤツから、禍々しいオーラが!?…くっ!避け切れんか。」
アスモデウス:「がざばなあ!(ダークネスレイ!)」
翳:「ぐほぉ!!…ラムダの野郎は下位悪魔とか吐かしてたが、さすが悪魔王。一筋縄ではいかないか。」
アスモデウス:「ぬだるがあ!(消し炭になれ、ダークイラプション!)」
翳:「はぁはぁ…思いの外、消耗が激しい…くそっ!防御が間に合わな……」
燈:「…世の秩序を乱す太古の悪魔よ、滅せッ!!…ロスト・オリジン!!」
0:燈のダガーから生み出された闇光の混合色の塊がアスモデウスを翫ぶ。
アスモデウス:「ぐどぅああああ!!(ば、馬鹿な!人の子如きに扱える術では!)」
0:アスモデウスは塵になる。
翳:「はぁはぁ…あ、燈なのか?!」
燈:「……」
翳:「ぐっ…!身体中が痛ぇ…視界も霞む……瞼が重い…ダメだ…燈……」
翳:「……」
燈:「翳、翳!死なないでぇ!!…フェアリーキュア!(妖精の癒し)」
0:燈のダガーから優しい光が放たれ、翳を抱擁する。
翳:「…ん!傷が癒えてる?!」
燈:「翳!良かった!意識を取り戻したみたいだね。」
翳:「燈、お前が俺を助けてくれたのか。」
燈:「うん、危なかったけど。」
翳:「そうか。ありがとう!あっ!危ないと言えば…アスモデウスの脅威から救ってくれたのもお前だったんだよな?」
燈:「え?何の事??」
翳:「まさか、無意識だとでも言うのか?」
燈:「アスモデウスって、麓にいた魔物だよね?」
翳:「それも間違いじゃないんだが。ラムダを見た途端、お前は頭痛に苛まれて、そのまま気絶しちまったんだよ。」
燈:「ラムダ…!そう言えば、アイツはどこにいったの?」
翳:「ラムダは異国語で詠唱した後、アスモデウスを置き土産して消えたよ。」
翳:「アスモデウスと戦ったけど…あのザマだ。」
燈:「…それで瀕死だったんだね。つまり、ラムダは悪魔を操る能力を持っているって事?」
翳:「そういう事だ。それに妙な事も言ってたな。確か、傀儡の者がどうちゃらこうちゃらだったか。」
燈:「傀儡の者…」
翳:「燈?どうした?」
燈:「ううん、何でもない。それよりも先に進みましょう!」
翳:「ん?あ、ああ。」
翳:「…(燈のヤツ、何を隠しているんだ?)
燈:「翳、急に立ち止まってどうしたの?」
翳:「なぁ燈、あの”姿”は本当にお前じゃないんだな?」
燈:「あの姿?」
翳:「アスモデウスを倒した時のお前の姿だよ。異質な術を使っていた。」
燈:「うーん……ごめんなさい。記憶にないの。」
翳:「そうか。すまない!」
燈:「謝らないで。敵では無いのかな?」
翳:「どうだろうな。」
翳:「…(傀儡の者に対して、僅かに狼狽えた表情。そして、燈自身も知らない、もう一人の燈の存在…か。)」
0:気付けば翳は、怪訝な眼差しを燈に向けていた。
燈:「翳、見えてきた!」
翳:「ん?ああ。」
燈:「大丈夫?顔色が悪いよ?」
翳:「だ、大丈夫だ!少し歩き疲れたんだろう。」
燈:「私も氷霊山で働くようになって、最初の一ヶ月間は翳みたいに体調を崩してたなあ。」
翳:「はは!あの頃は毎晩、愚痴を聞いた気がするよ。今じゃ、弱音すら吐かないもんな?」
燈:「うん、嘘みたいに今は平気だけどね!」
翳:「さてさて、残りの魔物退治といくか。」
燈:「あれ?」
翳:「首を傾げたりして、どうかしたのか?」
燈:「おかしい。ラムダもいないし、中腹から見た、悪魔達も消えてる。」
翳:「確かに妙に静かだ。」
燈:「…え?」
翳:「今度は何だ?」
燈:「あの裂け目は何?」
0:氷霊山の麓から天を見上げると裂け目が出来ていた。
翳:「恐らく、この先がラムダの根城だな。」
燈:「ラムダの?!」
翳:「ああ。微かだが、この裂け目からアイツの気配を感じる。」
燈:「…っ!」
翳:「進むと引き返せなくなる可能性があるかもな。」
燈:「……」
翳:「燈、お前はここに残るか?俺はヤツに借りを返さなくちゃならないからな!」
燈:「正直怖いけど、独りよりマシ。…着いていくよ!」
翳:「そうか。無理はするなよ?」
燈:「大丈夫。行きましょう!」
翳:「よし、飛び込むぞ?」
燈:「うん。」
翳:「……よっと!」
燈:「きゃぁあああ!!」
0:二人は裂け目に飛び込む。
翳:「痛ぇ…!おい、燈!大丈夫か?しっかりしろ!」
燈:「……んん!?あれ??中に入れたの?」
翳:「ああ、道のりは氷霊山に登る時より、険しそうだけどな。」
燈:「翳、あれは何?」
翳:「…?何かを嵌め込むような窪みの空いた、台座が四つ?何を指してるんだ?」
燈:「翳!」
翳:「何だ?」
燈:「氷霊山で見つけた”不死の瞳”が宙を浮いてるの!」
翳:「なるほど…ラムダは不死の呪具を集めて、何かを企てているようだな。」
燈:「何故、ラムダが?!」
翳:「理由は解らないが、不死を欲しているんだろう。」
燈:「…」
翳:「不死の瞳が燈の手から擦り抜けて、台座に装着されたな。」
燈:「翳、実はあなたに黙っていた事があるの。」
翳:「ん?」
燈:「ラムダが翳に向かって、傀儡の者と言ってたでしょ?」
翳:「ああ、やはり知っていたか。」
燈:「うん、ごめんなさい。」
翳:「いや、構わない。お前にも事情と言うものがあるんだろう?」
燈:「翳、あなたは…傀儡の者、要するに抜け殻なの。」
翳:「は?何を言って…」
燈:「翳は私が創った模倣品(レプリカ)なの。」
翳:「う、嘘だろ…!?」
0:狼狽する翳。
燈:「翳、あなたは一度死んでいるの。」
翳:「…っ!」
燈:「首に下げているペンダントの中を見てみて。」
翳:「お前が俺の誕生日に贈ってくれたペンダントか。この中に真実があるんだな?」
燈:「うん、中に小さな窪みがあるから押してみて。」
翳:「ああ。」
0:燈に言われた通りに窪みを押す。
翳:「これは…!ホノグラムか?(次元像記憶媒体)」
燈:「うん、私がまだ人工肉体生成師だった時の記憶と翳が傀儡の者になる前の話。」
翳:「俺の記憶…」
翳:「第3界、色褪せない生命。」
0:回想。
燈:私の仕事は人工肉体生成師。所謂、一度失った命を複製と言う形で甦らせる技師の事だ。今夜の依頼は2件。隣町の神居逸17歳。死因は親に虐待され、当たりどころが悪く死亡。依頼主は逸くんのお兄さんの颯くん。もう一人は………恋人の翳。
0:1件目の依頼を終えて帰宅した燈。
燈:「はぁ……翳。」
0:2年前。
翳:「燈、一人で大丈夫か?」
燈:「大丈夫だよ!武器オークションにいくだけだから。」
翳:「そうか!それにしてもダガーに治癒能力が付与されてるのは珍しいよな。」
燈:「うん、欲しい!絶対落札してみせる!」
翳:「甘い話には必ず裏がある。気を付けろよ?」
燈:「もう、翳は心配症だなー!」
翳:「…」
燈:「行ってくるね!」
翳:「ああ、行ってらっしゃい!」
0:オークション会場。
燈:「わぁー!!凄い人集り!」
燈:「えっと…席は……」
黒ローブの男:「お嬢さん、困ってるのかい?」
燈:「え?」
黒ローブの男:「そんなに驚かないでくれ。決して怪しい者じゃない。それで、席の番号は?」
燈:「27番です。」
黒ローブの男:「27番なら右のテーブルの席だよ。」
燈:「ありがとうございます!」
0:燈はその場を後にする。
黒ローブの男:「…ん?あの紋様は始祖の民か。」
黒ローブの男:「クックック…今日は収穫ありだ。」
0:その頃、翳は…
翳:「燈が気になって後をつけてきたが、あの男はなんだ?異様な雰囲気だ。」
翳:「始祖の民?収穫?何の事を言ってるんだ?」
黒ローブの男:「そこの君、コソコソと何をしている?」
翳:「…(くっ…見つかったか。)」
黒ローブの男:「盗み聴きとは感心しないな。」
翳:「お前こそ、燈をどうする気だ?」
黒ローブの男:「燈?先程のお嬢さんの事か。…君には関係の無い事だよ。」
翳:「ふざけるな!…力尽でも吐かせるしかないようだな!」
黒ローブの男:「ほう?随分と肝が据わっている。」
翳:「はぁーあ!」
黒ローブの男:「…長剣を持つ手が震えてるよ?…闇羅(ヴァイト)」
翳:「ぐぁ!」
翳:「はぁ…はぁ……まだ、まだ…だ!!…必殺必中、翳狼!(シャドウ•ウルフ)」
黒ローブの男:「ぐぅっ…!痛いなあ!!…なんちゃってね♪」
翳:「…はぁ…はぁ…俺の技が…一切通じてない…だと?」
黒ローブの男:「ふふ!脆い…君みたいな小物を葬るのはやぶさかではないが…暗黒の走破!(リッシュ•ナッパー)」
0:「闇を帯びたビームが翳を貫く。
翳:「…ぐほぁ…燈……」
黒ローブの男:「……さて、計画続行と行こう。」
0:一方、燈は。
燈:「次は私の番ね!…今の価格は…48000ガルズ。よし…50000ガルズで!!」
0:見事落札を果たす。
燈:「やった〜!ダガーが手に入ったわ!」
燈:「早く帰って、翳に報告しなきゃ。」
0:燈はオークション会場を後にする。
燈:「ふんふん〜♪」
黒ローブの男:「ご機嫌だね、お嬢さん。」
0:入り口付近で黒ローブの男と鉢合わせる。
燈:「あなたは!はい、無事にお目当ての物を手に入りました♪」
黒ローブの男:「そうか。それは良かった。始祖の民。」
燈:「始祖の民?」
黒ローブの男:「君は自分が何者なのか理解していないんだね。それなら冥土の土産に教えてあげよう!君は零術(ゼロマジック)を操る者。始祖グランドールの末裔さ。」
燈:「零術?…うっうっ!!頭が…割れる…!」
燈:「ぁあああ!!」
黒ローブの男:「これは…力の奔流か。目醒めの時は近そうだ。」
燈:「ぐぁあああ!!」
黒ローブの男:「雰囲気が変わった?」
燈:「我が器を脅かすは貴様か?」
黒ローブの男:「君はグランドールかい?…この傷を見せれば解るかな?」
燈:「ふむ、貴様は邪神モレクの末裔か。」
黒ローブの男:「そうさ。」
燈:「我に敗れた廃徒(はいと)の民が何様だ?」
黒ローブの男:「知れた事、君にリベンジさ。」
燈:「ふん…余程、命が要らないと見える。…ならば、お望み通り…黄泉に送ってやろう!」
黒ローブの男:「それはどうかな?…暗鬱の雨よ降り注げ!!」
燈:「ほう、暗黒術か。…極寒の吹雪よ、仇なす者を凍らせよ。絶対零度!(アブソリュート•ゼロ)」
黒ローブの男:「黒雨!(ブラック•レイン)」
燈:「…」
黒ローブの男:「ぐあぁあ!!」
燈:「…永久(とこしえ)に眠れ。虚空の檻(ヴォイド•ケージ)」
0:燈の身体を使って、始祖グランドールは黒ローブの男を虚空の檻に幽閉した。
0:目が覚めた燈は、辺りを見回すと見慣れた顔が転がっていた。
燈:「んん?私は……え!?翳…?いや、嫌ぁああああ!!」
燈:「何で…翳が…こんな目に……ぐぅうああ!!」
0:その後、燈は肉体生成師の力で翳の複製を創る事に成功。
燈:「うん、我ながら良い出来ね!…完成!翳、おかえり!」
翳:「燈?俺は眠ってて…?いたた…思い出そうとすると頭が痛む。」
燈:「そう、あなたはとても永く眠っていたの。無理はしないで?まだ、病み上がりなんだから。」
翳:「そうか。」
燈:「そうだ!このペンダントあげる。だいぶ誕生日は過ぎちゃったけど、おめでとう翳!」
翳:「ああ、ありがとう。」
0:ホノグラムは役目を果たし機能を停止させる。
燈:「翳、これがあなたの本当の記憶と現在(いま)のあなたよ。」
翳:「…俺は……レプリカ…」
燈:「翳、ごめんなさい。私があの時、ダガーに拘ってなければ…あなたは死なずに…」
翳:「いや、燈が責任を負う必要はない。気にするな。」
燈:「ありがとう…ぅうぅ!!」
0:暫く、放心状態の翳だったが…
翳:「…先を進もう。」
燈:「ええ、でも…この先の…ラムダに続く扉は固く閉ざされているわ。どうするの?」
翳:「これは臆測だが、不死の鼻、不死の胴体、不死の脚を探す必要があるな。」
燈:「でもどうやって?」
翳:「……何かヒントになるような物は…ん?!燈!この石碑を見てくれ。」
燈:「え?…!」
0:勇敢な戦士は右に進み、魔の眷族から宝物を奪取せよ。可憐なる美姫は左に進み、己の闇に討ち、戦利品を手中に収めよ……その先は掠れていて読む事ができない。
燈:「翳、これって!」
翳:「ああ、勇敢な…から始まる文言は俺の事を指しているのだろうな。魔の眷族とやらを倒した暁には″不死が手に入る”」
燈:「それなら、可憐なる美姫…は私に向けた試練?」
翳:「恐らくはな。他にも辺りを探しては見たが、特にこれといった違和感は無かった。」
燈:「…この石碑が指し示す通りなら、ここは個人の闘いになるね。」
翳:「ああ、準備が整ったら向かうか。」
燈:「ええ。翳、気を付けてね!」
翳:「燈こそな。」
0:数時間、呼吸を置いた後、2人は試練へと臨む。
翳:「俺は右の扉を。」
燈:「私は左ね。」
翳:「燈…再び、この広間で落ち合おう!」
燈:「うん、必ずね!」
0:そう約束を交わした後、2人は別れた。
翳:「第4界、それぞれの葛藤。」
0:翳はひたすら、右に進んだ。入ると、そこは血生臭い怪物達(モンスター)の墓場だった。
翳:「うぷッ!噎せ返る血の臭い…長居はしたくない場所だな。」
翳:「はぁ…はぁ…長時間、留まってると気が狂いそうだ。とっとと済ませよう。…うぷッ!」
翳:「…気配がする!」
ベルゼブブ:「だがあらじゃあ!!(久しぶりの獲物だ、ヒヒヒ!)」
翳:「こいつは…!氷霊山の麓にいた悪魔…ベルゼブブか。」
ベルゼブブ:「なたまあかざあ!(ラムダ様の言ってた通りだ、”上等な肉”が時期に現れるって話は。)」
翳:「仕掛けてこないのか?随分と用心深い蠅だな。ならば、先手必勝…!」
翳:「はぁーあ!香ばしく焼き焦がしてやるよ!…爆散斬!(エクスプロージョン•スラッシュ)」
ベルゼブブ:「ぬたなからまあ!(俺様の能力はダメージを受けるほど、パワーアップする。ヒヒ、好きなだけ打ってこい。)」
翳:「お?立ってやがるか。この程度の火力じゃ、生焼けがいいところか。」
翳:「それなら更に火力を上げて、燃やし尽くしてやる!…はぁーあ!咆えろ、火狼(がろう)!…爆烈吼!!(イクスプロシヴ•ロア)」
翳:「はぁはぁ…!どうだ?今度は…ちゃんと火が通って……何!?」
ベルゼブブ:「ねわまあかた!(ヒヒヒッ!馬鹿な小僧だ。さぁ、そろそろ充填完了だな。満足に焼き方も知らねえ、ガキンチョに学ばせてやらぁ!…)」
翳:「…奴の羽根から何かが…?!」
ベルゼブブ:「さはかさなあ!!(気付くのが遅かったな…俺様の羽根は超高圧電流を”飼ってるのさ”焼き方ってのはこうやるんだよ!!…雷神降霊!(サンダーゴッド•スピリット))」
翳:「…光?いや、電流か…!くぉおおお!!…はぁはぁ…」
ベルゼブブ:「たたらさかはあ!(馬鹿めが。俺様の超高圧電流をもろに喰らって、生きていたヤツは誰一人といね……くそ!しぶてぇやつだ!)」
翳:「がはっ!…敢えて、ダメージを受けて力を溜めていたとはな。」
翳:「解ったぜ。お前のネックな部分は時間を掛けなきゃ攻撃が出来ない。…つまりは遠慮無しの高火力で調理させて貰う!!」
ベルゼブブ:「ぬだわまなは?!(しまった…一発で仕留めれると思って、物理攻撃を積んでねえ……くっ!万事休…いや、待てよ?ラムダ様から頂いた、この力を…!)」
翳:「ん?なんだ?さっきと雰囲気が…」
0:ベルゼブブはラムダから貰った不死の鼻で自強化を始めた。
ベルゼブブ:「オワリダァア!!」
翳:「奴の鼻!あれは、不死の鼻か!」
翳:「なるほどな。石碑に描かれていた意味はこの鬱陶しい蝿を倒して、”不死の鼻”を奪取しろって事か!」
ベルゼブブ:「シネェイィイ!!」
翳:「よっと…!危ねぇ。おい、蝿の王!形態を変える前の方が賢そうだった…ぞッ!!せぇいや!!」
ベルゼブブ:「グォオオオ!!」
翳:「お前、自我を保て無くなってるな?…不死の鼻を誤って使用した当然の報いだな。」
ベルゼブブ:「ガァァア!!」
翳:「どこを見ている?…単調な突撃攻撃なんざ、当たらねえ…よッ!!…そんなんじゃ、俺をお前の死体コレクションに加える事は出来ないぜ?」
ベルゼブブ:「ヌガァア!!!」
翳:「…楽にしてやる。…はぁーあ!…お望み通りの高火力だ!…超、爆散斬!!(スーパーエクスプロージョン•スラッシュ)」
ベルゼブブ:「ら、ムダサマァアア!!」
翳:「ふん…ラムダに飼われたら、最期…一巻の終わりだな。」
0:ベルゼブブは不死の鼻を落とした後、朽ちる。
翳:「不死の鼻は無事手に入ったが…消化液がねっとり付いてやがる…汚ねぇな。」
翳:「…燈の方は大丈夫だろうか?」
0:ベルゼブブを倒した翳は広間に戻る。
燈:「凄く、暗い場所ね。携帯していた蝋燭を頼りに手探りで進むしかないわね。」
0:燈は洞窟のような暗所に居た。
燈:「暗いし、妙に寒い…風邪を引く前に出なくっちゃ。」
燈:「僅かな、蝋燭の火を照らしながら奥まで進んできたけど…」
燈?:「ふふふ、ここは行き止まりよ?」
燈:「え?私がもう一人?!…疲れてるのかな?」
0:目の前に佇む、もう一人の自分。
燈?:「あらあら、同じ顔が怖いあまりの現実逃避?ふふ、滑稽ね。」
燈:「さっきから…なによ、あなた!」
燈?:「不死の胴体を探しているんでしょう?」
燈:「だったら何なの?」
燈?:「私を見事倒せたら、あげるわ。」
燈:「はあ?”私が私を倒す”?」
燈?:「いいわね、その困惑した表情。たまらないわ。」
燈?:「逃げても無駄よ?どの道、あなたは引き返せないわ。己自身と闘う運命にあるの。」
燈:「くっ…どうしろって言うの…?」
燈?:「仔犬の様に怯えてるところ悪いけど、殺らせて貰うわ、ねッ!!」
燈:「…きゃあああ!!」
燈?:「ふふふ、手加減しないわよ?」
燈:「…はぁはぁ!…やるしか、ないの?ダガー、力を貸して!」
燈?:「…?あら、ご立派な物を持ってるわね!」
0:ダガーを構える燈。
燈:「て、てぇやぁー!!」
燈?:「…うふふ!!そんな大振りな攻撃じゃ、当たらないわよ?」
燈:「…(翳と違って、戦闘経験なんて無いのにどう戦えば…?」
燈?:「敵に隙を見せたら、痛い目見るわ……よっ!!」
燈:「ぁぐ…!はぁはぁ…どうすれば…」
燈?:「はぁ……弱いわね、ラムダ様があなたみたいな小娘を一目置く理由が解らないわ。」
燈:「ラムダ?あなたラムダを知っているの?!…また…頭が…痛く…うぁああああ!!」
燈?:「え、何が起こったの?!…あの姿は始祖の…ヒィイ!!」
燈:「スゥゥウ…下賤な廃徒(はいと)の民よ、何故(なにゆえ)…我が器を脅かす…!」
燈?:「ラムダ様が危惧していたのは…この娘自身じゃなくて、この娘に眠る、始祖グランドール!!」
燈:「この代償は高く付くぞ?…我が化身よ、仇を為す、愚者に正義の鉄槌を!」
燈?:「…にげ、逃げぇえ!!」
燈:「…ハンマーオブ•ジャスティス!!」
燈?:「ぎゃあああ!!」
燈:「…」
燈?:「己ェェエ!!…ラムダ様、禁忌を破る事…どうかお許しを…!!…不死の胴体…力を…」
燈?:「…ゴァアアアア!!」
燈:「愚かな、我欲の為に身を滅ぼすとは……」
燈?:「ゴルァア!!!」
燈:「…無策に仕掛けてこようと、我に擦り傷一つ負わす事叶わぬ!…無へと帰(き)せ!…ロスト•オリジン!!」
燈?:「グァアアア!!!」
燈:「…」
0:燈に扮した、悪魔ベルフェゴールを倒す。
燈:「…んん?!あ、あれ?私は……?そこに落ちているのは…不死の胴体?」
燈:「一応は…クリアね?」
燈:「翳の方は問題なく片付いたかな?」
燈:「急いで戻りましょう。」
0:燈は翳の待つであろう広間へと戻る。
翳:「…燈はまだ戻ってないみたいだな。」
翳:「無事だといいが。」
翳:「眠い。少し仮眠を…zzZ」
0:翳が眠った、数十分後に燈が到着する。
燈:「ふぅー!疲れた。…やっと戻ってこれたみたいだけど、翳はいるかな?って!!寝てるぅ!!」
燈:「翳!翳ぇえ!!」
翳:「んん…燈、もう喰えないzzZ」
燈:「翳、何の夢見てるのよ。…お、起きろォオ!!」
翳:「…うぉああ!?」
燈:「おはよう、よく眠れた?」
翳:「ああー…燈!すまん、眠ってしまった。」
燈:「もう、緊張感が無いんだから…あはは!」
翳:「は、はは!」
燈:「翳、不死の胴体手に入れたよ。」
翳:「ああ、俺も不死の鼻を手に入れた。」
燈:「残りは…」
翳:「不死の脚のみだな。」
燈:「どこにあるんだろ…あ!また、勝手に台座に引き寄せられて!!」
翳:「後、一つ集めたら奴と…ラムダとのご対面は果たせるのだろうが。」
燈:「翳?何を悩んでるの?」
翳:「ん?ああ。不死の脚を入手し、四つ揃えたらどうなるのかを想定していた。」
燈:「…私たち、正しい事をしてるんだよね?」
翳:「……解らない。しかし、ここで黙って燻ってる訳にもいかないからな。」
燈:「…っ!…最後の不死、見付けよう!」
翳:「燈、その事なんだが、石碑を見てみろ。妙な文字が浮かび上がってきている。」
燈:「妙な文字?…こ、これは!!」
翳:「…」
0:石碑に触れると『どちらか一方の命を捧げし時、禁じられた扉は開かれよう。』と書かれている。
燈:「これって……」
翳:「ああ…この先に進みたければ、俺か燈の命を生贄にしろって事だな…」
燈:「そんな事って…ほ、他に方法があるはずよ!探しましょ…」
翳:「燈!時間は無い。こうしてる間にもラムダは何を企んでいるのか、解ったもんじゃない。」
燈:「…い、嫌よ…せっかく甦えらせたのに、また離れ離れになるなんて…」
0:現実を受け止められず号泣する燈。
翳:「俺は…君から二度も生(せい)を貰い、充分満たされた。…ありがとう。」
燈:「翳の馬鹿!くっ…私が犠牲になれば…」
0:『これより先はあなた(プレイヤー)の選択肢によって、結末が変わります』
0:燈を生かす。
翳:「燈、二度も三度も然程、変わらない。俺がいく!」
燈:「翳っ!」
翳:「燈、ありがとう…再び、平和な世が戻ってくる事を願っている。」
燈:「…翳!翳ー!!ぅぁあああん!!」
翳:「…ラムダ、俺の命をくれてやる!はぁーあ!!うっ…!!」
0:翳が自害した事により、不死の脚が生成される。
燈:「これが…不死の脚!…翳、ありがとう。あなたの想いは無駄にはしないわ!!」
燈:「…ラムダ!」
0:掛け替えのない恋人を二度も失った燈は涙を拭い、台座に手を掛ける。
燈:「…最後の不死が台座に嵌ったわね。」
燈:「綺麗…この燦然たる輝きは…まるで、翳の涙のようやね。ぐす…いつまでも、悔やんでても翳は浮かばれないわ。行かなくちゃ!!」
0:燈は決意を固め、開いた先のラムダが鎮座する深層へと足を踏み入れる。
燈:「最終界、涙を超えた先に。」
ラムダ:「時は満ち、全ての不死は揃った。私は”永遠を得た”」
ラムダ:「…ウッ!!グァア!?」
ラムダ:「素晴らしい!!これが不死の能力か…!…それに加えて、本来の言語機能が戻ったようだ。」
ラムダ:「グランドール、貴様への積年の怨み、ここに果たそうじゃないか!クククッ!」
燈:「…一本道の様だけど、途方もないわね。」
0:一心不乱にひたすら進む燈。
燈:「はぁはぁ……ようやく最奥に辿り着いたみたいね。」
燈:「この頑丈な扉の先にラムダが…!」
0:扉に手を掛け、中に入る燈。
燈:「ラムダ!!」
ラムダ:「おやぁ?やはり、君が来たか。燈、いや、始祖グランドール。」
ラムダ:「傀儡は字のごとく、”人形化”しちゃったのかな?クッハハハ!!」
燈:「ラムダ、あなただけは…赦さないッ!!てぇやぁー!!」
ラムダ:「はっ!…ヌルいね。そのダガー、懐かしいねえ。あの時も、私が彼を物言わぬ木偶(でく)へと変えてあげたんだよ?クククク!」
燈:「ラムダ、あなたはまさか?!」
ラムダ:「あー今更気付いたの?そう、遠い昔の話、オークション会場で君に話し掛けたのは紛れもなく、この私だよ。けど、あの時は未だ不完全で始祖グランドールにやられて、幽閉されちゃったけどね。」
燈:「な、なんですって?あの時の黒ローブの男!」
ラムダ:「そうそう、思い出せたようで何よりだ。でも、その記憶もこの後、失われてしまうけどね。」
燈:「くっ…!舐めないで貰いたいわね!」
ラムダ:「あの時はそんな目を見ることは無かったから、何だか新鮮だなあ?ねぇーッ!!」
燈:「うっ…!」
ラムダ:「クッハハハ!!君に用は無い。君の中に眠る神秘、謂わば始祖グランドールに用があるんだ。」
ラムダ:「さぁ、早く目醒めて!…黒雨!(ブラック•レイン)」
燈:「きゃあああ!!」
燈:「…はぁはぁ…!さっきから、始祖グランドールって何の話よ?」
ラムダ:「あれぇ?まさか、自分の体内に飼ってる”化け物”を把握出来て無かったの?前回、教えたと思うんだけどなあ?」
燈:「こ、答えなさい!あなたは何を言っているの?」
ラムダ:「忘れちゃっただね。仕方がない、今回限りの出血大サービスだよ?……君は術を初めて習得した始祖、グランドール…またの名を零術師(ゼロマジシャン)と言う。そのグランドールの末裔なんだ。」
燈:「私が始祖グランドールの末裔?!」
ラムダ:「驚くのも無理はない、”彼女は君には断りなく、無断で入ってしまっている”からね。」
ラムダ:「太古の偉人は器が無いと意識を保てないのさ。どんなに鈍感でも、そろそろ答えが見えてきただろう?クク。」
燈:「つまり、私はグランドールの器って事?!」
ラムダ:「そう。恨むなら、君の血筋を怨みなよ?」
燈:「…」
ラムダ:「そして、私は遥か昔に滅びた邪神モレクの末裔。要するに因縁って訳さ。理解出来たかな?」
燈:「吐き気がする執念ね!」
ラムダ:「クッハハハ!!言い得て、妙だ。さて、歓談はこの辺にして…」
0:ラムダは異質なオーラを放ち、宙を浮く。
燈:「翳…見守っていて!」
ラムダ:「届くはずのない、壊れた玩具に祈祷かい?クッハハハ!!」
燈:「…天より來りて、地へと還らん!!」
ラムダ:「こ、これは?ついに来ましたかあ!グランドールさまぁ!!クッハハハ!!」
燈:「また貴様か。性懲りも無く、骸になりに来たか?」
ラムダ:「おおーお!相変わらずの大言壮語を吐き散らかしますねえ!!その自信…挫いてあげるよ!…ひゃっはーー!!」
燈:「ぐぅっ!!何?!…以前と比べるとまるで、別人の様だ。」
ラムダ:「クッハハハ!!器を護る事だけに時を費やし、自身の強化はして来なかったみたいだなあ!!…積年の怨み、ここに晴らしてやるよ!!…虚空より、黄泉がえりし、太古の邪神よ!!此処に顕現せよっ!!」
燈:「ば、馬鹿な!?その詠唱は…!」
ラムダ:「クッハハハ!!てめぇは終わりだ!!グランドール!あー言い忘れていた♪邪神モレク様の復活の手助けをしてくれた君の器には感謝しておかないとね。」
燈:「くっ…モレク!!」
ラムダ:「…ぐぉああ!!頭が割れ…る!!」
燈:「…」
0:ラムダの身体に入り込んだ邪神モレクが口を開く。
ラムダ:「…スゥゥウ!久しいな、グランドール。」
燈:「モレク!!」
ラムダ:「感動の再会を祝したいのは山々だが、そうも言っていられない状況でな。」
燈:「何が云いたい?」
ラムダ:「貴様とて刻限が一刻、一刻と迫っておろう。器である余の忠実なる下僕、ラムダにはこれからも生を実感して貰わねばな。」
燈:「互いに限りがあると云う訳か。なれば、早々に滅してくれよう!」
ラムダ:「相も変わらないな、グランドールよ。今度こそ、貴様を葬ってくれよう。」
ラムダ:「…闇羅刹!(ダーク•ラークシャサ)」
燈:「効かぬッ!!…防御膜!(ハード•プロテクション)」
ラムダ:「流石だ、グランドール。」
燈:「…再び、幽閉してやろう!!モレク!!…失楽園!(ロスト•エデン)」
ラムダ:「ぐっ!…油断したか。…グランドール、あの頃の余と思ってるようだが、格の違いをその目に焼き付かせてやろう!」
燈:「…禁忌術!?」
ラムダ:「フハハ、驚くのも無理はないな。グランドールよ、貴様が尤(もっと)も欲していた術なのだからな。」
ラムダ:「終いにしよう。グランドール、虚無へ還れ!!…どぅーあ!!…殲滅の光!(エクスターミネイト•レイ)」
燈:「…防御膜!(ハード•プロテクション)」
ラムダ:「無駄だ!!」
燈:「我の結界が敗れ…!…ぐぁあああ!!」
ラムダ:「ふん…他愛も無い。最期だ…ヘル、」
燈:「…はぁはぁ!…貴様は過去に何を学んだ?…ロスト・オリジン!!」
ラムダ:「なっ!?ば、馬鹿な!!余の術が確かに貴様を貫いて!!…貴様は再び、余を絶望の檻(ケージオブ・デスパイヤー)に幽閉すると謂うのかぁあ!!ぐぉああああ!!」
燈:「モレクよ、我も時期に逝こう。」
0:永き戦闘の末、ラムダとその中に眠るモレクの魂も消えた。
燈:「我が半身よ、強く、気高く生きよ。…このグランドールを失望させてくれるなよ……」
0:そう言い残し、燈に眠っていたグランドールの意識は完全に消滅した。
燈:「んん…!私は確か、ラムダと戦ってて…あれ?」
0:燈は何かを悟ったように…
燈:「…ふふ。グランドール、いつも助けてくれてありがとう!そして、さよなら。」
燈:「翳、この世界は守ったよ!…殆ど、私の先祖様のお陰だけどね。」
0:大きく背伸びをする。
燈:「…さぁて、帰りますか!」
0:『Aエンド。平和な夜明け。完』