台本概要
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タイトル | わかるオッサンと見える少女と時々精霊 |
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作者名 | ハスキ (@e8E3z1ze9Yecxs2) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 3人用台本(男1、女1、不問1) ※兼役あり |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
魔物から瀕死の傷を負い倒れた冒険者のレオンは死を悟り眠りについた。しかしなぜか目を覚ましたレオンはミアという少女と偶然出会い、命を助けられた事を知る。それからミアの状況を聞いたレオンは偶然出会う事になった生意気な精霊と共にミアを助ける為に脱走劇をする事になるのだった⋯。
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
レオン | 男 | 142 | B級冒険者。スキル「マインドスキャン」を持つ。小さい頃から相手の心を読む能力の性で疎まれて育ってきた。口は悪いが根は良い奴。 |
ミア | 女 | 119 | 村娘。スキル「スピリットアイ」を持つ。小さい時に捨て子として村のおばさんに拾われて育てられた。悲惨な生い立ちがあるが、いつも明るく元気に振る舞うようにしている。 |
サラマンダー | 不問 | 33 | 火の精霊サラマンダー。愛称(ラマ)。伝説の存在である精霊だがドジ。放浪癖があり面白そうな旅人に着いて世界を回っていた。レオンが嫌い。※途中で名前がラマに変わります。 |
ラマ | 不問 | 42 | ミアが名付けたサラマンダーの愛称。※以降サラマンダー役の方はラマを演じて下さい。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
レオン:はぁ、はぁ、・・俺は、もうじき死ぬのか・・
レオンN:俺は先程の事を思い出していた。真夜中、次の街まで深い森を移動していた俺は、魔物の集団に出くわした。
レオンN:そんな事はいつもの事だったし、とくに注意を払っていなかった。しかし、物陰に潜んでいたもう一匹の魔物の遠距離攻撃に気付くのが遅れてしまったのが、運のつきだっだ。
レオン:ガハッ!はぁ、はぁ、・・もう、充分俺は頑張ったよな?もうこれ以上、苦しまなくて、いいよな?
レオンN:そこから俺の意識は暗い闇に溶け込むようにゆっくり、ゆっくりと沈んでいった。遠くで・・誰かの声が、聞こえた気がした。
:--間
レオン:う、あ、・・あれ?・・なんで、俺は生きてるんだ・・
ミア:あ、やっと起きた!良かった~、全然起きないから心配したんだよ〜?
レオン:そうか・・。俺は、また、生き延びてしまったか。
ミア:いや~、最初見た時はボロボロの布切れが落ちてるかと思ったけど、近づいて見たら人間だったから驚いちゃったよ!
レオン:・・
ミア:私も偶然用があって森に入ってたんだけど、君を見つけられて良かったよ~。
レオン:・・で、誰だお前?
ミア:誰だお前って、そんな言い方はないんじゃないかな~。せっかく安全なこの場所まで運んで来てあげたのに。言わば私は命の恩人よ?
レオン:助けてくれなんて頼んでない。むしろ、あのまま死んでも良かった。
ミア:・・まあ深くは聞かないけどさ。私はミアだよ!あ、こう見えてもうすぐ成人する歳なんだからね、ふふん。
レオンN:ミアとそう名乗った少女は見た目は明らかに子供くらいしかない身長だった。おまけに栄養がたりてないのか頬は少しこけ、腕や足も見るからに痩せていた。
ミア:ねぇ、ちょっと~?聞いてる?さっきからボーッとして、私質問してるんだけど。
レオン:なんだ?
ミア:やっぱり聞いてなかった~。だから、あなたの名前、教えてよ?
レオン:・・レオンだ。
ミア:レオンって言うんだ!レオン・・カッコイイ名前だね!
:--間
レオンN:それから俺とミアという少女の奇妙な関係は始まった。
レオンN:俺は目覚めた時、見知らぬ洞窟で寝かされていた。魔物に襲われた時の傷だろう、全身包帯だらけだった。後で分かった事だが、ミアは不器用なりに俺の治療をしに、何度も近くの街から通って来ていたそうだ。
ミア:お邪魔しまーす!レオン、来ちゃった☆
レオン:・・お前は俺の彼女か。
ミア:え!か、彼女ってそんな、まだ早いよ~えへへ~
レオン:アホか。・・お前、その頬の傷どうしたんだ?
ミア:お前じゃないよ、ミアだよ!これは、まぁーそのう⋯転んじゃったんだ。
レオン:・・なるほど、俺の為に包帯を勝手に持ち出してたのがおばさんにバレて殴られたのか。
ミア:えっ!?なんで?私なにも喋ってないのに・・
レオン:・・これは俺のスキルだ。ふー。俺は疲れたから寝る。これにこりたら二度とここへは来るな。
ミア:・・
:--間
レオン:で、なんでお前はまた来てるんだ?
ミア:お前じゃない、ミアだってば!なんでって、それはレオンがまだちゃんと治ってないからだよ。
レオン:お前、昨日の事忘れたのか?
ミア:昨日の事って・・えーと、おばさんに殴られた事?それともその事を喋ってないのにレオンにバレちゃったやつ?
レオン:⋯両方だ。
ミア:アハハッ、そんな事か~。
レオン:心を読まれたんだぞ?・・俺が気持ち悪くないのか?
ミア:うーん。ちょっとビックリしちゃったけど、なんかレオンって悪い人じゃ無さそうだし、大丈夫かなって。勘だけど。
レオン:勘って・・ふっ、なんだそれ。
ミア:あ、やった!レオンがやっと笑ってくれた~!ずっと怖い顔してたから笑えないんじゃないかと思ってた。可愛い~
レオン:・・寝る
ミア:あ~~!ちょ、うそうそ今の無し~!だから起きて~!
:--間
レオン:ん、来てたのか。・・お前、今日はやけに静かだが、なにかあったのか?
ミア:うん・・。レオンは、私が「お化け」が見えるって言ったら・・信じてくれる?
レオン:・・信じるよ。嘘は言ってないようだしな
ミア:そっか・・ありがとう。レオンには嘘はつけないもんね。でもこの話をみんなにしても誰も信じてくれないの
レオン:・・興味なんてまったくないが、その「お化け」とやらはどんやつだ、言ってみろ
ミア:え?どんなやつって・・その、実は今もレオンの横にいるんだけど、トカゲさん。
レオン:トカゲのお化け・・まさかな。そのトカゲは、ここにいるのか?
ミア:う、うん、そこにいるよ。
レオン:もっと詳しく教えろ。
ミア:え、え?えーと、体が火に包まれてて、頭にツノが生えてる可愛いトカゲさん
レオン:なっ!⋯。
ミア:え?どうしたのそんな難しい顔して?
レオン:⋯そいつはたぶん、「精霊」だ。
ミア:精霊?私が見てるお化けって、精霊なの?
レオン:ああ、おそらくだが俺が知ってる精霊の特徴とも一致している。
ミア:で、でも精霊ってあのおとぎ話とかに出てくるやつだよね?
レオン:・・一般的にはそういう風な認識になっている。だが、お前の見た物が真実なら、精霊は実在していたんだ。
ミア:えぇ~!?
レオン:俺は冒険者で世界各地を転々としていてな。古い書物に触れる機会もあった。その中に精霊に関する物もあってな。その時はただの作り話と一笑にふしたがな。
ミア:へー、レオンって冒険者だったんだ。どうりで体ががっちりしてると思ったよ。で、本にはなんて書いてあったの?
レオン:それによると昔、精霊は人の近くに当たり前に存在していたそうだ。それだけじゃなく交流もあり良き隣人だったようだ。
ミア:ほえ~、そうだったんだ。え、でもそれがホントならなんで今の人達は精霊が見えなくなったんだろ?
レオン:なんでもその時代の大国だった国の王が精霊の能力に目をつけて軍事利用する為に精霊を大量に捕らえて殺していたそうだ。
ミア:そんなひどい!せっかくお隣さんで仲良くしてたのに・・それって、精霊達も怒ったんじゃない?
レオン:あー、当然お前のように怒った精霊の王は仲間を救う為に世界に散らばる精霊達を集めて王国に攻め入った。王国は一夜にして滅び、その後精霊達も姿を消し二度と人間の前に姿を見せなくなったようだ。
ミア:ひどい・・自分達の利益の為だけになんの罪もない精霊を捕まえて殺すなんて。え、だったらなんで私だけ精霊が見えるんだろ?
レオン:これは俺の推測だが、別の書物に、とある部族の人間が精霊と共に聖戦を戦ったと記した物もあった。もしかしたら王国との戦いに精霊側で戦った人間がいて、その末裔が生き残ってて、それがお前の先祖なのかもしれんな。
ミア:そっか・・なんか私全部納得しちゃったな。
レオン:どういう意味だ?
ミア:私・・拾われた子なんだ。今は拾ってくれたおばさんの家でお世話になってるんだけど⋯。
レオン:・・
ミア:どうして私は捨てられたんだろうってずっと思ってたんだ。もしかしたら私のお母さんも、同じように精霊が見えてて普通の暮らしが出来なかったんじゃないかって。
レオン:・・だとしても子供を捨てていい理由にはならんだろ。
ミア:きっとなにか事情があったんだと思うんだ。昔おばさんに私を拾ってくれた時の話を聞いた事があったんだけど、その時に私と一緒に手紙が添えてあったみたいで、その手紙には私の名前と「この子に普通の幸せを」ってメモがあったんだって。
レオン:・・そうか。
ミア:だから・・ほんとのお母さんも・・今の私みたいに辛い思いをしてたんじゃないかって・・
レオン:・・
レオンN:俺は目をうるましだしたミアの頭に、なにげなく、ほんとになにげなく手を置いた、その時。
ミア:え?光が・・っ!?レオン、手が光ってるよ!?
レオン:な、なんだこれは!いったい何が起こっている!?手、手が離れないぞ!
サラマンダー:「おい」
レオン:っ!?誰だ!?
サラマンダー:「おい、そこのおっさん」
レオン:え⋯?お、お前はまさか!?
サラマンダー:お前って、誰にでも言うんだな。おいらの名前はサラマンダーってちゃんと名前があるんだぜ
レオン:おい、今目の前に居るこいつが喋ってるんだが、お前にもわかるか?
ミア:う、うん。さっきまで姿は見えても声はまったく聞こえなかったんだけど、レオンの手が私に触れた瞬間、急に聞こえるようになったよ!
レオン:なんてこった・・。待てよ、俺の能力は人間や魔物の思考を読み取る能力、そしてこいつの能力はたぶん、見えない者が見える能力・・二人の能力が合わさる事で見えない者の声が分かったって事か⋯?
サラマンダー:おーい?聞いてるのかそこの目つきの悪いオッサンよー。
レオン:レオンだ!誰が目つきの悪いオッサンだ!
サラマンダー:聞こえてるじゃないか。そんな事はどうでもいいんだけど、おいらの頼みを聞いてくれ。
レオン:突然の事にびっくりし過ぎて変な思考の世界に逃避しかけたが⋯精霊が俺にも見えるようになったんだな⋯。ん、頼みだと?
サラマンダー:そそ。おいらの頼みってのは、そこのミアに関する事なんだ。
ミア:え!わ、私の事なの!?
レオン:こいつがどうかしたのか?
ミア:こいつじゃないよ!ミアだよ!
サラマンダー:話はミアと出会うきっかけになった一ヶ月くらい前の事だ。おいらは気分良く森の中を散歩してたんだけど、夜ご飯何しようかな~って考えてたらうっかり足を滑らせて近くにあった池に落ちちゃったんだ
レオン:なんてドジな精霊なんだ。
サラマンダー:で、池に落ちて動けなくなってたんだけど、偶然そこに通りかかってきたミアに助けてもらったんだ
レオン:お前はいつも誰か助けてるんだな
ミア:ふふーん、私は困ってる人?がいたらほっとけなくって
サラマンダー:その時の恩返しをミアにしてあげたいんだけど・・おいらだけじゃ難しいから、レオンに協力して欲しいのさ!
レオン:協力・・って何をすればいいんだ?
サラマンダー:ミアを、連れ出してあげて欲しいんだ
ミア:っ!
レオン:連れ出すだと?それはどういう意味なんだ?
サラマンダー:ミアの事は聞いてて知ってると思うけど、今ミアはおばさんに拾われて一緒に暮らしている。
レオン:ああ。そう聞いてるな。
サラマンダー:ミアと出会ってから、おいらはミアについて家まで何度も行った事があるんだけど、ミアはおばさんから毎日ひどい仕打ちを受けてるんだ
ミア:あ、あの・・
サラマンダー:おばさんはミアに掃除、洗濯、料理なんかを一人で毎日やらして、自分はお酒を飲みながらただ見てるだけ。上手く出来てもなにか理由をつけてはミアを殴ってるんだ。
レオン:・・あの頬の傷はそういう事か。
サラマンダー:ミアがなんでこんな危険な森に何度も来てるかわかるかい?
レオン:・・わからん。たしかに疑問には思う、ここは女子供が一人で来るような場所じゃないからな
サラマンダー:ミアはおばさんにこの危険な森で薬草採取をさせられてるんだ
レオン:なっ!
サラマンダー:どうやらこの森の薬草は街で高く売れるみたいでね。それを売ってお金にしてるみたいだけど、ミアにはなにも買い与えず質素なご飯とボロ布を着させて、自分は美味しい物を食べたりお酒を買ったり好き放題してるみたいなんだ。
レオン:おい、ほんとなのか?
ミア:う、うん。でもね、おばさんも時々優しい時もあるんだよ!この間珍しい薬草を見つけた時はうんと褒めてくれたんだよ
レオン:・・
サラマンダー:このままじゃいつかミアは死んじゃうよ!ミアをその最低なおばさんの元から連れ出してあげたいんだけど、おいらだけじゃ力になれそうになんだ⋯。だからレオン、あんたの力を貸してくれ!
ミア:わ、私は今のままで平気だよ。おばさんは・・私を拾ってくれた恩人なんだから!
レオン:やめろ、俺はお前の本心がわかるんだ。だから、そんな下手な嘘はやめろ。
ミア:嘘じゃ・・ないもん・・
サラマンダー:ミア・・
レオン:そんなに嫌なのに、なんで逃げ出さないんだ?
ミア:逃げたよ!小さい時から何度も!でも駄目だった。そのたびにいっぱい殴られたんだ。周りの大人にも助けを求めたけど、やっぱり誰も助けてくれなかった・・
レオン:・・そう、だったのか。
サラマンダー:これでわかっただろ?ミアの今の状況を。
レオン:・・俺もなんだかんだ、助けられた恩はある。仕方ない、俺がなんとかしてやる。
ミア:えっ!
サラマンダー:おー!レオンほんとか!?やったなミア!
レオン:俺の体もそろそろ動けるようになって来たしな。ちょうど次の街に行こうと思ってたところだ。それはそうと、そろそろこの頭に置いた手をどけたいんだが、のけても大丈夫なのか?
サラマンダー:あーそれね。もう充分魔力の「ライン」は繋がったみたいだから手を離しても同じ効果が発動するはずだよ
レオン:・・おい、そういう事は早く言え!
ミア:え~頭なでなで嬉しかったのにー、残念
レオン:チッ、二度とするか!
:--間
サラマンダー:で、どうやって連れ出すんだ?
レオン:結局お前も着いて来るのか。簡単な話だ。今朝こいつが住んでる街に行ってこの馬を買ってきた
ミア:馬を買ってきたって、これ高かったんじゃない?あ、可愛い目。この子メス?
レオン:どうせ使うあてもなく無駄に貯めてた金だ。問題ない。ちなみにそいつはオスだ
サラマンダー:てことはこの馬でミアを連れて街から出るって事だな
レオン:そうだ。こいつの話を聞くかぎり普通に歩いて逃げてもきっとなんとかして探して連れ戻そうとしてくるだろう。だが、この馬の足なら逃げきれるだろう。それで、ちゃんと気持ちは決めたのか?
ミア:う、うん。私、もう自分に嘘はつかない。レオンに着いてくって決めたんだ
レオン:そうか、わかった。街を出る方法だが⋯確認の為に聞いとく、街からの出口はあの正面の門だけか?
ミア:うん、そうだよ。
レオン:⋯正面突破しかないな。
サラマンダー:森を抜けていけないのか?
ミア:この森は奥にいくほど危険な魔物が増えちゃうらしいから無理かな⋯。
レオン:作戦はこうだ、明日人が少ない時間に俺が馬でミアの家に向かう。ミアと荷物を回収したら全速力で門目掛けて正面突破で行く。
ミア:わ、わかった。
レオン:隣り町に行くルートは?
ミア:正面の門から出たら谷にかかった大きな橋があるから、それを渡らないと隣町には行けないの。
レオン:なるほど。じゃあ今日は早く寝て明日の早朝に作戦開始だ、おばさんに悟られるなよ。
ミア:うん、わかった。ありがとうレオン
レオン:まだ礼を言うには早い。無事に成功したらまた言ってくれ
:--間
サラマンダー:えーと⋯後ろはまだ誰も来てないみたいだよ。
レオン:よし、とりあえず順調に進んでるな。このまま橋まで飛ばすぞ!
ミア:レ、レオン~!これすごく揺れる~
レオン:少し我慢しろ、街を離れるまでの辛抱だ
サラマンダー:あ!二人とも、た、たいへんだ!
ミア:サラマンダーちゃんどうしたの?
サラマンダー:大勢の人間が凄い速さで迫ってきてるみたいなんだ!
レオン:ち、気づかれたか。しかも何人か腕っぷしの良い追っ手を雇ったみたいだな。フル装備で馬に乗った奴が追ってきてやがる
ミア:ど、どうしよう!?
レオン:く、このままじゃ橋を渡りきる前に追いつかれそうだ
サラマンダー:よし、おいらにいい考えがあるよ!
レオン:・・なるほど、それならやつらは追って来れなくなるな。
ミア:そ、それって、大丈夫かな?
レオン:かまわんだろ、ここは一つ、ど派手にやってくれ!
サラマンダー:よ~し!じゃあ二人とも、しっかりつかまっててよ!うっりゃ~~~!!
:--間
レオン:追っては・・どうやら来てないようだな
ミア:も、もうだいぶ街から離れれたみたいだね
レオン:ふー、だな。でもまさか本当にお前の炎であのでかい橋を焼き落としちまうとわな
サラマンダー:へへー。だから出来るって言ったでしょ?
レオンN:あれから馬を走らせ数刻は過ぎていた。すでにミアが住んでいた街は遠く見えなくなっていた。わずかに見える遠くの煙が、先程の事が現実に起こった事だと告げていた。
ミア:さっきの炎は凄かったね~。
サラマンダー:へっへーん、凄いでしょ~。
ミア:うん、あんな事が出来るなんてビックリしたよ。
レオン:たしかに少し驚いたがこいつがおとぎ話の中の存在だとするともうなんでもありな気がするが。
サラマンダー:あーまたこいつって、ちゃんと名前があるって言ってるだろ!
ミア:そうだよ、こいつなんてラマちゃんに失礼だよ!
サラマンダー:そうだそうだ!・・ってラマちゃんっておいらの名前?
ミア:そうだよ!なんかサラマンダーちゃんって呼び名だと長いから私ずっと良い呼び方を考えてたんだよ。
レオン:だからってお前、それはないだろ。普通サラとかだろうが。
ラマ:ラマ・・ラマ・・ラマ!いいね!おいら気に入ったぜ!今日からおいらはラマって名乗るぜ!
レオン:・・まじか。こいつのネーミングセンスも大概だが、この精霊もだいぶやばいな。
ミア:ところで、ラマちゃんは私達に着いて来て良かったの?森からだいぶ離れちゃったけど。
ラマ:あーそれなら問題ないよ。おいらとくに決まった住処はなくって、今まで面白そうな人間に着いて旅をしてたからね。一応故郷はあるけど⋯もう何年も帰ってないや。
レオン:精霊は放浪するもんなのか?
ラマ:いいや、故郷のみんなはあんまり外は危険だとか言って出たがらなかったかな。おいらが旅に出るって言った時もみんなから大反対されたし。おいら閉じこもってるのが嫌だったし、外の世界が見たくて飛び出して来たんだ
ミア:そっかー。ラマちゃんも住んでたところを飛び出して来たんだ。なんか私達似た者同士だね☆これからよろしくね!
ラマ:やったー!ミアと一緒、おそろいだ~!
レオン:・・能天気なやつらだな。勘違いしないように言っておくが、俺が一緒にいるのはお前を次の街に送り届けるまでだからな。
ミア:え、レオン・・居なくなっちゃうの?
レオン:当たり前だろ。俺は一度助けられた恩があるからお前を連れ出しただけだ。俺はお前の保護者じゃないんだぞ?
ミア:そ、そうだよね。連れ出してもらっただけでも、感謝しなきゃだよね・・
ラマ:レオンそこまで言う事ないだろー、ミアが可哀想ー。
レオン:うるさい。俺は厄介事を抱えるのはごめんなんだよ。ただでさえ人を避けて生きてるのに・・
ミア:え?レオン、それはどういう・・
レオン:っ!馬を止めるぞ!
ミア:きゃぁぁ!
ラマ:うわぁぁ!な、なんだ急に止まって。
レオン:・・ち、囲まれちまってるな。
ミア:え?なにが・・っ!あれって・・魔物?
レオン:あー、それもとびきりヤバいやつだ。
ミア:うぅ、なんか体がすごく大きくて目も鋭くて怖いんだけど⋯。
レオン:あいつらの名は「ダイヤウルフ」だ。あいつらは集団で獲物を襲う習性があって、一度狙った獲物は一晩中追い回しても諦めないしつこいやつらだ。
ラマ:おいレオン、あいつらなんか石みたいに硬そうだぞ?
レオン:あいつらは名前の由来にもなってる鋼鉄質な外皮を持っていてあらゆる攻撃を弾いてしまうんだ。く、動き出しやがった。降りて戦うからお前は下がってろ!
ミア:う、うんわかった。ラマちゃんは大丈夫?
ラマ:おいらは魔物には見えてないから大丈夫だよ。だからミアはおいらが守る!
ミア:ラマちゃん!うう・・ありがと~。
レオン:そういう漫才はよそでやってくれ。ち、早いな。動いてくれよ、俺の体。
ラマN:ダイヤウルフ達は集団の輪を縮めつつ迫って来ていて、その中の一匹がレオンに狙いを定めて突進してきた。レオンは背負っていた袋から剣を抜き出し構えた
レオン:うぉぉぉ!でやぁっ!
ラマN:レオンは動きの軌道を「読んで」向かって来ていたダイヤウルフ目掛けて剣を突き出した。そして狙い通りの場所を貫く。それは硬い外皮の中でも一番柔らかい、目だ。
ミア:す、すごい。早すぎて何をしたのか全然わからなかった
レオン:狙い通りだな。さあて後のやつも片付けるか・・ぐっ!
ミア:レオンどうしたの!どこか痛むの?
レオン:く・・体に力が入らない。まだ完全に治りきってないのに無茶させ過ぎたか。くそ!俺がおとりになる、お前は精霊と一緒に逃げろ!
ミア:ど、どうしよどうしよ。レオンが死んじゃう!そ、そうだラマちゃん!さっきの炎、また出せないかな!?
ラマ:ご、ごめんミア・・さっきのでおいら魔力を使い切っちゃったみたいなんだ。守るなんて言ったのにごめん⋯。
ミア:ううん、ラマちゃんは悪くないよ。なんの力もない、守ってもらうだけの弱い私の方が悪いよ。私にも、ラマちゃんみたいな力が使えたらレオンを助けられるのに・・
ラマ:力を使う・・そうだ!もしかしたらいけるかもしれない!ミア、今から僕と契約するんだ。
ミア:け、契約?
ラマ:詳しい話は後で、おいらの力をミアに貸すことが出来るから、レオンを助けるんだ!
ミア:っ!わ、わかった。私ラマちゃんを信じる!契約する!
ラマ:よし、繋がった!契約成立!
レオンN:精霊の発した契約成立の言葉が終わると同時に目を開けていられないほどの光が当たりを包む。魔物も警戒して足を止めて様子を伺っている。
ミア:光が、消えてく・・?なんだか、身体が熱い。
ラマ:よし、ミア。今からおいらの言う通りやってみるんだ。まず魔物に向かって手をかざして、それから念じるんだ。
ミア:え、こ、こうかな?えーと、ラマちゃん念じるってどうやるの?
レオン:おい!やつらが動き出したぞ、早く逃げないか!
ラマ:体の中の熱いモヤモヤを手の先から放出するイメージで、こう唱えるんだ「ファイアウォール」って!
ミア:むぅ~~・・
レオン:く、動けこのクソ体、危ないミア!
ミア:「ファイア・ウォール!!」
レオンN:突如ミアの手の先が炎に包まれたかと思ったら、瞬く間に炎は円形に広がり炎の壁を形成した。そこに勢いが乗った二匹の魔物が突っ込んできたが、炎の壁にぶつかった瞬間爆発し火だるまになった。
ミア:きゃあ!・・あれ?こっちは平気だ。
レオン:なっ、なんだこの炎の壁は!これをミアがやったと言うのか?
ラマ:そうだよ!火の精霊のおいらと契約をする事で、ミアは魔法を使ったんだよ。まあほんとに出来るかは賭けだったけど。
ミア:あ、駄目、もうすぐ消えちゃう。
レオン:く、やつらがどうなったかわからんがまた襲ってくるかもしれん。俺の後ろに隠れてろミア。
ラマ:あ、それはもう大丈夫だよ。ほら、見てみなよ。
ミア:壁が消えちゃった!・・あ!
レオン:っ!に、二匹とも死んでやがる⋯。
ラマ:だから言ったでしょ?でもまさかこんなにミアの魔法の威力がすごいとはおいら正直おどろいたよ。うーん、しかもおいらより魔力量もあるみたいだね。
ミア:うーん。よくわかんないけど、私ってすごいの?
ラマ:うん、ミアは魔法の素質があるよ!
レオン:・・まさか魔法なんてもんがほんとに実在していたとわはな。
ミア:え、レオンは魔法って知ってるの?
レオン:ああ、多少だがな。とりあえず、また襲われたらたまらん、安全な場所まで移動しよう。・・すまんがミア、少し手を貸してくれ。
ミア:あ!
レオン:な、なんだ!また魔物の襲撃か!?
ミア:名前!
レオン:名前?
ミア:私の事、お前じゃなくてミアって呼んでくれてる!
レオン:あ、あー・・そうだな。
ミア:やっと名前呼んでくれた!ありがとレオン。
レオン:ちっ、ほら危ないから行くぞ!
ミア:は~い
ラマ:レオンってめんどくさい性格してるよなー。
レオン:なんか言ったか精霊!
ラマ:やば、逃げろ~!
ミア:あはは~(笑)
:--間
レオン:よし、ここなら魔物の目につきにくいだろう。
ミア:で、結局魔法ってなんなの?
レオン:魔法に関してはそこの精霊の方が詳しいだろうが、一般的に魔法ってのは精霊と同じくらいおとぎ話の中の存在だ。俺が見た書物には大昔の人間は当たり前のように魔法が使えたらしいがな。
ミア:い、今みたいなのを昔は当たり前に出来たなんて⋯なんだかちょっと怖いね。
レオン:分かっていると思うが今の人間は魔法なんてもんは使えない。まあそのかわり人間は「スキル」を持っているがな。
ラマ:「スキル」ってなんなんだ?
ミア:あ、私も実はよくわからないんだよね。
レオン:ミアまで知らないのか、まったく。
レオン:スキルってのは人間一人一人に神から与えられた能力とされていて、ミアみたいに生まれながら先天的に身に付いてる場合や行動や経験によって後天的に発現する場合の二通りがある。
ミア:あ!まさか私やレオンの能力も?
レオン:そうだ。俺のは相手の思考を読むスキルの能力で、ミアのはたぶん精霊が見えるようになるスキルだろう。
ラマ:なるほどー。二人ともなにか不思議な力を持ってるなーって思ったけど、そういう事かー。
レオン:お前偉そうにラインが繋がった、とかほざいてたがよく分かってなかったんだな。
ラマ:まあ二人の繋がりは今も見えてるから嘘じゃないよ。でもその繋がりとして見えてたのがスキルってやつだったんだね。
レオン:スキルは様々な種類があって中には炎を操れる能力もあるが⋯ミアが出したさっきみたいな威力のものは見た事がない。⋯しかしまずい事になったな。
ミア:え?どうして?私が炎を出せるようになると何かまずいの?
レオン:⋯神から与えられるスキルは、一人に付き一つしか授(さず)けられない。これがどういう意味かわかるか?
ミア:え、えーと。どういうこと?
レオン:ミアの事が知れ渡ったら、スキルは神から一つだけ授けられるという常識が覆される事になる。
ラマ:それって、なにかまずいのか?
レオン:まずいだろ。これが王国のやつらにバレたらミアは捕らえられて研究機関で解剖されるか、神をバカ正直に信じてる教会関係者が事実を隠したくて一生幽閉するか、最悪処分されるかもしれん。
ミア:え!そんな、私閉じ込められたり体をいじられたりなんて絶対嫌だ!
ラマ:な、なんとか出来ないのかレオン?
レオン:・・あるにはある。だがこれは相当無茶で大変なやり方になる。最悪、死ぬかもしれん。それでも聞くか?
ミア:⋯どうせ捕まって死んじゃうかもしれないなら⋯その方法に私は賭ける!だから教えてレオン。
レオン:⋯分かった。その方法とは、「A級冒険者」になる事だ。
ミア:え、A級冒険者!?・・ってなに?
ラマ:て、ミア知らないのかい!
レオン:まあスキルの事も知らないくらいだから、そう来るとは思ったぞ
ミア:えへへー
ラマ:多分、褒められてないよミア⋯。
レオン:俺が冒険者で世界を点々としていると前に言ったが、その冒険者にもランクがある。
レオン:駆け出しの初心者のN級から始まり、ギルド依頼をこなしながらその達成ポイントに応じてランクが上がっていく。D級、C級、B級、そして一番上のA級がある。昔はS級なんて物もあったらしいが、その辺はよくわからん。
ミア:へ~、なんだかすごそうだけど、A級冒険者になったらどうなるの?
レオン:冒険者ギルドってのは世界中のどの国にもあるが、冒険者ギルドは国に縛られない独立した組織なんだ。その中でもA級冒険者は国や教会トップなどにも縛られない力を持つ冒険者ギルドが認めた特別なランクなんだ。
ラマ:え!まさかレオン、このミアにそのA級冒険者になれって事なのかい!?
ミア:ラマちゃん、このは余計だよ!
レオン:そうだ。国の研究機関や教会も冒険者ギルドとA級冒険者を敵に回したくないからな。何をしてこようがA級冒険者になれば、もはやミアを捕まえる事も拘束する事も出来ないからだ。
ラマ:おいら人間の世界はよく分からないけど、そのA級冒険者になるのが簡単じゃないって事くらいはわかるぞ。ほんとにミアがなれるのか?
ミア:ラマちゃんの言う通りだよね。たしかに私冒険者ってよくわからないけど、さっきみたいな魔物とかと戦わないといけないなら、とても私一人じゃ無理だと思う・・
レオン:ま、普通はどう足掻いてもミア一人じゃA級冒険者になるのは無理がある。ちなみに俺の冒険者ランクでもB級だ。
ミア:あんなに強かったレオンでもB級なの!?じゃあ⋯私じゃ絶対無理だよ!
レオン:話は最後まで聞け。誰がミア一人でA級冒険者になれって言った。
ミア:え、どういう事⋯?
レオン:冒険者ランクってのは基本個人に向けたものだが、他に固定メンバーによるパーティー単位での評価で冒険者ランクを上げる事が出来るんだ
ミア:そんな方法があるんだ!・・え、でも私他の街に知り合いなんて誰もいないよ?協力してくれる人なんて・・
レオン:それは、俺が・・
ラマ:あ!わかったぞ、ここでおいらの助けがいるってわけだな。もちろん面白そうだしこのままミアに着いてくってのは嫌じゃないよー。ん?レオンなんか言ったか?
レオン:おいクソ精霊、今の絶対わざとだろ!
ラマ:えー?おいらなんの事かわからないやー
ミア:ははは、ちゃんと聞こえてたよ。レオン、ほんとにいいの?
レオン:・・まあ正直最初はめんどうだし、ほっとくかと思ってたんだがな。しかし、結局二度もミアに命を救われた。俺は別に死んでもいいと思ってたんだが、借りを作ったままじゃ死んでもしにきれん。・・ただそれだけだ
ラマ:素直じゃないよね、レオンって。
レオン:おい精霊!お前頭から水ぶっかけてやろうか?
ラマ:に、逃げろ~!!ピュー
レオン:ち、逃げ足だけは早いなあのやろー
ミア:あんまりラマちゃんいじめちゃ駄目だよレオン
レオン:あんなくされ精霊に情けは無用だ。⋯まあなんだ、もちろんA級冒険者はミアが思ってる以上に簡単になれるもんじゃないし、死と隣り合わせな依頼もこなさないといけない。
ミア:う、うん⋯。
ラマ:そこでおいらの出番ってわけだね!
レオン:まだいたのか駄精霊。
ラマ:誰が駄精霊だ!まあ、でもおいらがいればミアの助けになるのは間違いないよ
レオン:ん?
ミア:あ、ラマちゃんもしかしてさっきのって・・
ラマ:うん、そのミアの考えであってるよ。ミアがさっき出した魔法の力はおいらとの契約の力を通して発動したものだからね
レオン:それは⋯お前がいないとミアは魔法が使えないって事か?
ラマ:そうだね。魔法って本来、精霊語の呪文詠唱って工程をへて術者の魔力が魔法に変換されるんだけど、人間単体では魔力を魔法に変換出来ないみたいなんだ。
ラマ:でもおいらを通してミアの魔力を魔法に変換すればミアは魔法を使えるってわけなんだ。ちなみにこのやり方はおいらが見えて言葉が分かる相手にしか出来ない芸当だね
レオン:はっ!じ、じゃあ俺もその、魔法が使えるのか⋯?
ラマ:あ、残念だけどレオンは魔力が全然ないから魔法変換は無理だね。
レオン:くっ・・いや、悲しくなんてないぞ。俺には、剣があるから・・
ミア:あはは⋯。あ、じゃあラマちゃんもこれから一緒にいてくれるって事?
ラマ:もっちろん!おいらミアには助けてもらった恩があるしそれにミアの事気に入ったから着いてくよ。ミアがA級冒険者ってやつになるのも楽しみだしね。レオンは⋯どうでもいいけど。
レオン:よし、ミア。今からそいつを湖に沈め直してくる。
ラマ:そ、それだけは勘弁してー!ピュー
ミア:二人ともすっかり仲良しさんだね☆
レオン:どこがだ!(一緒に)
ラマ:どこがだい!(一緒に)
:--間
レオンN:色々あったが、こうしてミアをA級冒険者にさせるという無謀とも言える旅が、今始まるのだった⋯。
:終わり
レオン:はぁ、はぁ、・・俺は、もうじき死ぬのか・・
レオンN:俺は先程の事を思い出していた。真夜中、次の街まで深い森を移動していた俺は、魔物の集団に出くわした。
レオンN:そんな事はいつもの事だったし、とくに注意を払っていなかった。しかし、物陰に潜んでいたもう一匹の魔物の遠距離攻撃に気付くのが遅れてしまったのが、運のつきだっだ。
レオン:ガハッ!はぁ、はぁ、・・もう、充分俺は頑張ったよな?もうこれ以上、苦しまなくて、いいよな?
レオンN:そこから俺の意識は暗い闇に溶け込むようにゆっくり、ゆっくりと沈んでいった。遠くで・・誰かの声が、聞こえた気がした。
:--間
レオン:う、あ、・・あれ?・・なんで、俺は生きてるんだ・・
ミア:あ、やっと起きた!良かった~、全然起きないから心配したんだよ〜?
レオン:そうか・・。俺は、また、生き延びてしまったか。
ミア:いや~、最初見た時はボロボロの布切れが落ちてるかと思ったけど、近づいて見たら人間だったから驚いちゃったよ!
レオン:・・
ミア:私も偶然用があって森に入ってたんだけど、君を見つけられて良かったよ~。
レオン:・・で、誰だお前?
ミア:誰だお前って、そんな言い方はないんじゃないかな~。せっかく安全なこの場所まで運んで来てあげたのに。言わば私は命の恩人よ?
レオン:助けてくれなんて頼んでない。むしろ、あのまま死んでも良かった。
ミア:・・まあ深くは聞かないけどさ。私はミアだよ!あ、こう見えてもうすぐ成人する歳なんだからね、ふふん。
レオンN:ミアとそう名乗った少女は見た目は明らかに子供くらいしかない身長だった。おまけに栄養がたりてないのか頬は少しこけ、腕や足も見るからに痩せていた。
ミア:ねぇ、ちょっと~?聞いてる?さっきからボーッとして、私質問してるんだけど。
レオン:なんだ?
ミア:やっぱり聞いてなかった~。だから、あなたの名前、教えてよ?
レオン:・・レオンだ。
ミア:レオンって言うんだ!レオン・・カッコイイ名前だね!
:--間
レオンN:それから俺とミアという少女の奇妙な関係は始まった。
レオンN:俺は目覚めた時、見知らぬ洞窟で寝かされていた。魔物に襲われた時の傷だろう、全身包帯だらけだった。後で分かった事だが、ミアは不器用なりに俺の治療をしに、何度も近くの街から通って来ていたそうだ。
ミア:お邪魔しまーす!レオン、来ちゃった☆
レオン:・・お前は俺の彼女か。
ミア:え!か、彼女ってそんな、まだ早いよ~えへへ~
レオン:アホか。・・お前、その頬の傷どうしたんだ?
ミア:お前じゃないよ、ミアだよ!これは、まぁーそのう⋯転んじゃったんだ。
レオン:・・なるほど、俺の為に包帯を勝手に持ち出してたのがおばさんにバレて殴られたのか。
ミア:えっ!?なんで?私なにも喋ってないのに・・
レオン:・・これは俺のスキルだ。ふー。俺は疲れたから寝る。これにこりたら二度とここへは来るな。
ミア:・・
:--間
レオン:で、なんでお前はまた来てるんだ?
ミア:お前じゃない、ミアだってば!なんでって、それはレオンがまだちゃんと治ってないからだよ。
レオン:お前、昨日の事忘れたのか?
ミア:昨日の事って・・えーと、おばさんに殴られた事?それともその事を喋ってないのにレオンにバレちゃったやつ?
レオン:⋯両方だ。
ミア:アハハッ、そんな事か~。
レオン:心を読まれたんだぞ?・・俺が気持ち悪くないのか?
ミア:うーん。ちょっとビックリしちゃったけど、なんかレオンって悪い人じゃ無さそうだし、大丈夫かなって。勘だけど。
レオン:勘って・・ふっ、なんだそれ。
ミア:あ、やった!レオンがやっと笑ってくれた~!ずっと怖い顔してたから笑えないんじゃないかと思ってた。可愛い~
レオン:・・寝る
ミア:あ~~!ちょ、うそうそ今の無し~!だから起きて~!
:--間
レオン:ん、来てたのか。・・お前、今日はやけに静かだが、なにかあったのか?
ミア:うん・・。レオンは、私が「お化け」が見えるって言ったら・・信じてくれる?
レオン:・・信じるよ。嘘は言ってないようだしな
ミア:そっか・・ありがとう。レオンには嘘はつけないもんね。でもこの話をみんなにしても誰も信じてくれないの
レオン:・・興味なんてまったくないが、その「お化け」とやらはどんやつだ、言ってみろ
ミア:え?どんなやつって・・その、実は今もレオンの横にいるんだけど、トカゲさん。
レオン:トカゲのお化け・・まさかな。そのトカゲは、ここにいるのか?
ミア:う、うん、そこにいるよ。
レオン:もっと詳しく教えろ。
ミア:え、え?えーと、体が火に包まれてて、頭にツノが生えてる可愛いトカゲさん
レオン:なっ!⋯。
ミア:え?どうしたのそんな難しい顔して?
レオン:⋯そいつはたぶん、「精霊」だ。
ミア:精霊?私が見てるお化けって、精霊なの?
レオン:ああ、おそらくだが俺が知ってる精霊の特徴とも一致している。
ミア:で、でも精霊ってあのおとぎ話とかに出てくるやつだよね?
レオン:・・一般的にはそういう風な認識になっている。だが、お前の見た物が真実なら、精霊は実在していたんだ。
ミア:えぇ~!?
レオン:俺は冒険者で世界各地を転々としていてな。古い書物に触れる機会もあった。その中に精霊に関する物もあってな。その時はただの作り話と一笑にふしたがな。
ミア:へー、レオンって冒険者だったんだ。どうりで体ががっちりしてると思ったよ。で、本にはなんて書いてあったの?
レオン:それによると昔、精霊は人の近くに当たり前に存在していたそうだ。それだけじゃなく交流もあり良き隣人だったようだ。
ミア:ほえ~、そうだったんだ。え、でもそれがホントならなんで今の人達は精霊が見えなくなったんだろ?
レオン:なんでもその時代の大国だった国の王が精霊の能力に目をつけて軍事利用する為に精霊を大量に捕らえて殺していたそうだ。
ミア:そんなひどい!せっかくお隣さんで仲良くしてたのに・・それって、精霊達も怒ったんじゃない?
レオン:あー、当然お前のように怒った精霊の王は仲間を救う為に世界に散らばる精霊達を集めて王国に攻め入った。王国は一夜にして滅び、その後精霊達も姿を消し二度と人間の前に姿を見せなくなったようだ。
ミア:ひどい・・自分達の利益の為だけになんの罪もない精霊を捕まえて殺すなんて。え、だったらなんで私だけ精霊が見えるんだろ?
レオン:これは俺の推測だが、別の書物に、とある部族の人間が精霊と共に聖戦を戦ったと記した物もあった。もしかしたら王国との戦いに精霊側で戦った人間がいて、その末裔が生き残ってて、それがお前の先祖なのかもしれんな。
ミア:そっか・・なんか私全部納得しちゃったな。
レオン:どういう意味だ?
ミア:私・・拾われた子なんだ。今は拾ってくれたおばさんの家でお世話になってるんだけど⋯。
レオン:・・
ミア:どうして私は捨てられたんだろうってずっと思ってたんだ。もしかしたら私のお母さんも、同じように精霊が見えてて普通の暮らしが出来なかったんじゃないかって。
レオン:・・だとしても子供を捨てていい理由にはならんだろ。
ミア:きっとなにか事情があったんだと思うんだ。昔おばさんに私を拾ってくれた時の話を聞いた事があったんだけど、その時に私と一緒に手紙が添えてあったみたいで、その手紙には私の名前と「この子に普通の幸せを」ってメモがあったんだって。
レオン:・・そうか。
ミア:だから・・ほんとのお母さんも・・今の私みたいに辛い思いをしてたんじゃないかって・・
レオン:・・
レオンN:俺は目をうるましだしたミアの頭に、なにげなく、ほんとになにげなく手を置いた、その時。
ミア:え?光が・・っ!?レオン、手が光ってるよ!?
レオン:な、なんだこれは!いったい何が起こっている!?手、手が離れないぞ!
サラマンダー:「おい」
レオン:っ!?誰だ!?
サラマンダー:「おい、そこのおっさん」
レオン:え⋯?お、お前はまさか!?
サラマンダー:お前って、誰にでも言うんだな。おいらの名前はサラマンダーってちゃんと名前があるんだぜ
レオン:おい、今目の前に居るこいつが喋ってるんだが、お前にもわかるか?
ミア:う、うん。さっきまで姿は見えても声はまったく聞こえなかったんだけど、レオンの手が私に触れた瞬間、急に聞こえるようになったよ!
レオン:なんてこった・・。待てよ、俺の能力は人間や魔物の思考を読み取る能力、そしてこいつの能力はたぶん、見えない者が見える能力・・二人の能力が合わさる事で見えない者の声が分かったって事か⋯?
サラマンダー:おーい?聞いてるのかそこの目つきの悪いオッサンよー。
レオン:レオンだ!誰が目つきの悪いオッサンだ!
サラマンダー:聞こえてるじゃないか。そんな事はどうでもいいんだけど、おいらの頼みを聞いてくれ。
レオン:突然の事にびっくりし過ぎて変な思考の世界に逃避しかけたが⋯精霊が俺にも見えるようになったんだな⋯。ん、頼みだと?
サラマンダー:そそ。おいらの頼みってのは、そこのミアに関する事なんだ。
ミア:え!わ、私の事なの!?
レオン:こいつがどうかしたのか?
ミア:こいつじゃないよ!ミアだよ!
サラマンダー:話はミアと出会うきっかけになった一ヶ月くらい前の事だ。おいらは気分良く森の中を散歩してたんだけど、夜ご飯何しようかな~って考えてたらうっかり足を滑らせて近くにあった池に落ちちゃったんだ
レオン:なんてドジな精霊なんだ。
サラマンダー:で、池に落ちて動けなくなってたんだけど、偶然そこに通りかかってきたミアに助けてもらったんだ
レオン:お前はいつも誰か助けてるんだな
ミア:ふふーん、私は困ってる人?がいたらほっとけなくって
サラマンダー:その時の恩返しをミアにしてあげたいんだけど・・おいらだけじゃ難しいから、レオンに協力して欲しいのさ!
レオン:協力・・って何をすればいいんだ?
サラマンダー:ミアを、連れ出してあげて欲しいんだ
ミア:っ!
レオン:連れ出すだと?それはどういう意味なんだ?
サラマンダー:ミアの事は聞いてて知ってると思うけど、今ミアはおばさんに拾われて一緒に暮らしている。
レオン:ああ。そう聞いてるな。
サラマンダー:ミアと出会ってから、おいらはミアについて家まで何度も行った事があるんだけど、ミアはおばさんから毎日ひどい仕打ちを受けてるんだ
ミア:あ、あの・・
サラマンダー:おばさんはミアに掃除、洗濯、料理なんかを一人で毎日やらして、自分はお酒を飲みながらただ見てるだけ。上手く出来てもなにか理由をつけてはミアを殴ってるんだ。
レオン:・・あの頬の傷はそういう事か。
サラマンダー:ミアがなんでこんな危険な森に何度も来てるかわかるかい?
レオン:・・わからん。たしかに疑問には思う、ここは女子供が一人で来るような場所じゃないからな
サラマンダー:ミアはおばさんにこの危険な森で薬草採取をさせられてるんだ
レオン:なっ!
サラマンダー:どうやらこの森の薬草は街で高く売れるみたいでね。それを売ってお金にしてるみたいだけど、ミアにはなにも買い与えず質素なご飯とボロ布を着させて、自分は美味しい物を食べたりお酒を買ったり好き放題してるみたいなんだ。
レオン:おい、ほんとなのか?
ミア:う、うん。でもね、おばさんも時々優しい時もあるんだよ!この間珍しい薬草を見つけた時はうんと褒めてくれたんだよ
レオン:・・
サラマンダー:このままじゃいつかミアは死んじゃうよ!ミアをその最低なおばさんの元から連れ出してあげたいんだけど、おいらだけじゃ力になれそうになんだ⋯。だからレオン、あんたの力を貸してくれ!
ミア:わ、私は今のままで平気だよ。おばさんは・・私を拾ってくれた恩人なんだから!
レオン:やめろ、俺はお前の本心がわかるんだ。だから、そんな下手な嘘はやめろ。
ミア:嘘じゃ・・ないもん・・
サラマンダー:ミア・・
レオン:そんなに嫌なのに、なんで逃げ出さないんだ?
ミア:逃げたよ!小さい時から何度も!でも駄目だった。そのたびにいっぱい殴られたんだ。周りの大人にも助けを求めたけど、やっぱり誰も助けてくれなかった・・
レオン:・・そう、だったのか。
サラマンダー:これでわかっただろ?ミアの今の状況を。
レオン:・・俺もなんだかんだ、助けられた恩はある。仕方ない、俺がなんとかしてやる。
ミア:えっ!
サラマンダー:おー!レオンほんとか!?やったなミア!
レオン:俺の体もそろそろ動けるようになって来たしな。ちょうど次の街に行こうと思ってたところだ。それはそうと、そろそろこの頭に置いた手をどけたいんだが、のけても大丈夫なのか?
サラマンダー:あーそれね。もう充分魔力の「ライン」は繋がったみたいだから手を離しても同じ効果が発動するはずだよ
レオン:・・おい、そういう事は早く言え!
ミア:え~頭なでなで嬉しかったのにー、残念
レオン:チッ、二度とするか!
:--間
サラマンダー:で、どうやって連れ出すんだ?
レオン:結局お前も着いて来るのか。簡単な話だ。今朝こいつが住んでる街に行ってこの馬を買ってきた
ミア:馬を買ってきたって、これ高かったんじゃない?あ、可愛い目。この子メス?
レオン:どうせ使うあてもなく無駄に貯めてた金だ。問題ない。ちなみにそいつはオスだ
サラマンダー:てことはこの馬でミアを連れて街から出るって事だな
レオン:そうだ。こいつの話を聞くかぎり普通に歩いて逃げてもきっとなんとかして探して連れ戻そうとしてくるだろう。だが、この馬の足なら逃げきれるだろう。それで、ちゃんと気持ちは決めたのか?
ミア:う、うん。私、もう自分に嘘はつかない。レオンに着いてくって決めたんだ
レオン:そうか、わかった。街を出る方法だが⋯確認の為に聞いとく、街からの出口はあの正面の門だけか?
ミア:うん、そうだよ。
レオン:⋯正面突破しかないな。
サラマンダー:森を抜けていけないのか?
ミア:この森は奥にいくほど危険な魔物が増えちゃうらしいから無理かな⋯。
レオン:作戦はこうだ、明日人が少ない時間に俺が馬でミアの家に向かう。ミアと荷物を回収したら全速力で門目掛けて正面突破で行く。
ミア:わ、わかった。
レオン:隣り町に行くルートは?
ミア:正面の門から出たら谷にかかった大きな橋があるから、それを渡らないと隣町には行けないの。
レオン:なるほど。じゃあ今日は早く寝て明日の早朝に作戦開始だ、おばさんに悟られるなよ。
ミア:うん、わかった。ありがとうレオン
レオン:まだ礼を言うには早い。無事に成功したらまた言ってくれ
:--間
サラマンダー:えーと⋯後ろはまだ誰も来てないみたいだよ。
レオン:よし、とりあえず順調に進んでるな。このまま橋まで飛ばすぞ!
ミア:レ、レオン~!これすごく揺れる~
レオン:少し我慢しろ、街を離れるまでの辛抱だ
サラマンダー:あ!二人とも、た、たいへんだ!
ミア:サラマンダーちゃんどうしたの?
サラマンダー:大勢の人間が凄い速さで迫ってきてるみたいなんだ!
レオン:ち、気づかれたか。しかも何人か腕っぷしの良い追っ手を雇ったみたいだな。フル装備で馬に乗った奴が追ってきてやがる
ミア:ど、どうしよう!?
レオン:く、このままじゃ橋を渡りきる前に追いつかれそうだ
サラマンダー:よし、おいらにいい考えがあるよ!
レオン:・・なるほど、それならやつらは追って来れなくなるな。
ミア:そ、それって、大丈夫かな?
レオン:かまわんだろ、ここは一つ、ど派手にやってくれ!
サラマンダー:よ~し!じゃあ二人とも、しっかりつかまっててよ!うっりゃ~~~!!
:--間
レオン:追っては・・どうやら来てないようだな
ミア:も、もうだいぶ街から離れれたみたいだね
レオン:ふー、だな。でもまさか本当にお前の炎であのでかい橋を焼き落としちまうとわな
サラマンダー:へへー。だから出来るって言ったでしょ?
レオンN:あれから馬を走らせ数刻は過ぎていた。すでにミアが住んでいた街は遠く見えなくなっていた。わずかに見える遠くの煙が、先程の事が現実に起こった事だと告げていた。
ミア:さっきの炎は凄かったね~。
サラマンダー:へっへーん、凄いでしょ~。
ミア:うん、あんな事が出来るなんてビックリしたよ。
レオン:たしかに少し驚いたがこいつがおとぎ話の中の存在だとするともうなんでもありな気がするが。
サラマンダー:あーまたこいつって、ちゃんと名前があるって言ってるだろ!
ミア:そうだよ、こいつなんてラマちゃんに失礼だよ!
サラマンダー:そうだそうだ!・・ってラマちゃんっておいらの名前?
ミア:そうだよ!なんかサラマンダーちゃんって呼び名だと長いから私ずっと良い呼び方を考えてたんだよ。
レオン:だからってお前、それはないだろ。普通サラとかだろうが。
ラマ:ラマ・・ラマ・・ラマ!いいね!おいら気に入ったぜ!今日からおいらはラマって名乗るぜ!
レオン:・・まじか。こいつのネーミングセンスも大概だが、この精霊もだいぶやばいな。
ミア:ところで、ラマちゃんは私達に着いて来て良かったの?森からだいぶ離れちゃったけど。
ラマ:あーそれなら問題ないよ。おいらとくに決まった住処はなくって、今まで面白そうな人間に着いて旅をしてたからね。一応故郷はあるけど⋯もう何年も帰ってないや。
レオン:精霊は放浪するもんなのか?
ラマ:いいや、故郷のみんなはあんまり外は危険だとか言って出たがらなかったかな。おいらが旅に出るって言った時もみんなから大反対されたし。おいら閉じこもってるのが嫌だったし、外の世界が見たくて飛び出して来たんだ
ミア:そっかー。ラマちゃんも住んでたところを飛び出して来たんだ。なんか私達似た者同士だね☆これからよろしくね!
ラマ:やったー!ミアと一緒、おそろいだ~!
レオン:・・能天気なやつらだな。勘違いしないように言っておくが、俺が一緒にいるのはお前を次の街に送り届けるまでだからな。
ミア:え、レオン・・居なくなっちゃうの?
レオン:当たり前だろ。俺は一度助けられた恩があるからお前を連れ出しただけだ。俺はお前の保護者じゃないんだぞ?
ミア:そ、そうだよね。連れ出してもらっただけでも、感謝しなきゃだよね・・
ラマ:レオンそこまで言う事ないだろー、ミアが可哀想ー。
レオン:うるさい。俺は厄介事を抱えるのはごめんなんだよ。ただでさえ人を避けて生きてるのに・・
ミア:え?レオン、それはどういう・・
レオン:っ!馬を止めるぞ!
ミア:きゃぁぁ!
ラマ:うわぁぁ!な、なんだ急に止まって。
レオン:・・ち、囲まれちまってるな。
ミア:え?なにが・・っ!あれって・・魔物?
レオン:あー、それもとびきりヤバいやつだ。
ミア:うぅ、なんか体がすごく大きくて目も鋭くて怖いんだけど⋯。
レオン:あいつらの名は「ダイヤウルフ」だ。あいつらは集団で獲物を襲う習性があって、一度狙った獲物は一晩中追い回しても諦めないしつこいやつらだ。
ラマ:おいレオン、あいつらなんか石みたいに硬そうだぞ?
レオン:あいつらは名前の由来にもなってる鋼鉄質な外皮を持っていてあらゆる攻撃を弾いてしまうんだ。く、動き出しやがった。降りて戦うからお前は下がってろ!
ミア:う、うんわかった。ラマちゃんは大丈夫?
ラマ:おいらは魔物には見えてないから大丈夫だよ。だからミアはおいらが守る!
ミア:ラマちゃん!うう・・ありがと~。
レオン:そういう漫才はよそでやってくれ。ち、早いな。動いてくれよ、俺の体。
ラマN:ダイヤウルフ達は集団の輪を縮めつつ迫って来ていて、その中の一匹がレオンに狙いを定めて突進してきた。レオンは背負っていた袋から剣を抜き出し構えた
レオン:うぉぉぉ!でやぁっ!
ラマN:レオンは動きの軌道を「読んで」向かって来ていたダイヤウルフ目掛けて剣を突き出した。そして狙い通りの場所を貫く。それは硬い外皮の中でも一番柔らかい、目だ。
ミア:す、すごい。早すぎて何をしたのか全然わからなかった
レオン:狙い通りだな。さあて後のやつも片付けるか・・ぐっ!
ミア:レオンどうしたの!どこか痛むの?
レオン:く・・体に力が入らない。まだ完全に治りきってないのに無茶させ過ぎたか。くそ!俺がおとりになる、お前は精霊と一緒に逃げろ!
ミア:ど、どうしよどうしよ。レオンが死んじゃう!そ、そうだラマちゃん!さっきの炎、また出せないかな!?
ラマ:ご、ごめんミア・・さっきのでおいら魔力を使い切っちゃったみたいなんだ。守るなんて言ったのにごめん⋯。
ミア:ううん、ラマちゃんは悪くないよ。なんの力もない、守ってもらうだけの弱い私の方が悪いよ。私にも、ラマちゃんみたいな力が使えたらレオンを助けられるのに・・
ラマ:力を使う・・そうだ!もしかしたらいけるかもしれない!ミア、今から僕と契約するんだ。
ミア:け、契約?
ラマ:詳しい話は後で、おいらの力をミアに貸すことが出来るから、レオンを助けるんだ!
ミア:っ!わ、わかった。私ラマちゃんを信じる!契約する!
ラマ:よし、繋がった!契約成立!
レオンN:精霊の発した契約成立の言葉が終わると同時に目を開けていられないほどの光が当たりを包む。魔物も警戒して足を止めて様子を伺っている。
ミア:光が、消えてく・・?なんだか、身体が熱い。
ラマ:よし、ミア。今からおいらの言う通りやってみるんだ。まず魔物に向かって手をかざして、それから念じるんだ。
ミア:え、こ、こうかな?えーと、ラマちゃん念じるってどうやるの?
レオン:おい!やつらが動き出したぞ、早く逃げないか!
ラマ:体の中の熱いモヤモヤを手の先から放出するイメージで、こう唱えるんだ「ファイアウォール」って!
ミア:むぅ~~・・
レオン:く、動けこのクソ体、危ないミア!
ミア:「ファイア・ウォール!!」
レオンN:突如ミアの手の先が炎に包まれたかと思ったら、瞬く間に炎は円形に広がり炎の壁を形成した。そこに勢いが乗った二匹の魔物が突っ込んできたが、炎の壁にぶつかった瞬間爆発し火だるまになった。
ミア:きゃあ!・・あれ?こっちは平気だ。
レオン:なっ、なんだこの炎の壁は!これをミアがやったと言うのか?
ラマ:そうだよ!火の精霊のおいらと契約をする事で、ミアは魔法を使ったんだよ。まあほんとに出来るかは賭けだったけど。
ミア:あ、駄目、もうすぐ消えちゃう。
レオン:く、やつらがどうなったかわからんがまた襲ってくるかもしれん。俺の後ろに隠れてろミア。
ラマ:あ、それはもう大丈夫だよ。ほら、見てみなよ。
ミア:壁が消えちゃった!・・あ!
レオン:っ!に、二匹とも死んでやがる⋯。
ラマ:だから言ったでしょ?でもまさかこんなにミアの魔法の威力がすごいとはおいら正直おどろいたよ。うーん、しかもおいらより魔力量もあるみたいだね。
ミア:うーん。よくわかんないけど、私ってすごいの?
ラマ:うん、ミアは魔法の素質があるよ!
レオン:・・まさか魔法なんてもんがほんとに実在していたとわはな。
ミア:え、レオンは魔法って知ってるの?
レオン:ああ、多少だがな。とりあえず、また襲われたらたまらん、安全な場所まで移動しよう。・・すまんがミア、少し手を貸してくれ。
ミア:あ!
レオン:な、なんだ!また魔物の襲撃か!?
ミア:名前!
レオン:名前?
ミア:私の事、お前じゃなくてミアって呼んでくれてる!
レオン:あ、あー・・そうだな。
ミア:やっと名前呼んでくれた!ありがとレオン。
レオン:ちっ、ほら危ないから行くぞ!
ミア:は~い
ラマ:レオンってめんどくさい性格してるよなー。
レオン:なんか言ったか精霊!
ラマ:やば、逃げろ~!
ミア:あはは~(笑)
:--間
レオン:よし、ここなら魔物の目につきにくいだろう。
ミア:で、結局魔法ってなんなの?
レオン:魔法に関してはそこの精霊の方が詳しいだろうが、一般的に魔法ってのは精霊と同じくらいおとぎ話の中の存在だ。俺が見た書物には大昔の人間は当たり前のように魔法が使えたらしいがな。
ミア:い、今みたいなのを昔は当たり前に出来たなんて⋯なんだかちょっと怖いね。
レオン:分かっていると思うが今の人間は魔法なんてもんは使えない。まあそのかわり人間は「スキル」を持っているがな。
ラマ:「スキル」ってなんなんだ?
ミア:あ、私も実はよくわからないんだよね。
レオン:ミアまで知らないのか、まったく。
レオン:スキルってのは人間一人一人に神から与えられた能力とされていて、ミアみたいに生まれながら先天的に身に付いてる場合や行動や経験によって後天的に発現する場合の二通りがある。
ミア:あ!まさか私やレオンの能力も?
レオン:そうだ。俺のは相手の思考を読むスキルの能力で、ミアのはたぶん精霊が見えるようになるスキルだろう。
ラマ:なるほどー。二人ともなにか不思議な力を持ってるなーって思ったけど、そういう事かー。
レオン:お前偉そうにラインが繋がった、とかほざいてたがよく分かってなかったんだな。
ラマ:まあ二人の繋がりは今も見えてるから嘘じゃないよ。でもその繋がりとして見えてたのがスキルってやつだったんだね。
レオン:スキルは様々な種類があって中には炎を操れる能力もあるが⋯ミアが出したさっきみたいな威力のものは見た事がない。⋯しかしまずい事になったな。
ミア:え?どうして?私が炎を出せるようになると何かまずいの?
レオン:⋯神から与えられるスキルは、一人に付き一つしか授(さず)けられない。これがどういう意味かわかるか?
ミア:え、えーと。どういうこと?
レオン:ミアの事が知れ渡ったら、スキルは神から一つだけ授けられるという常識が覆される事になる。
ラマ:それって、なにかまずいのか?
レオン:まずいだろ。これが王国のやつらにバレたらミアは捕らえられて研究機関で解剖されるか、神をバカ正直に信じてる教会関係者が事実を隠したくて一生幽閉するか、最悪処分されるかもしれん。
ミア:え!そんな、私閉じ込められたり体をいじられたりなんて絶対嫌だ!
ラマ:な、なんとか出来ないのかレオン?
レオン:・・あるにはある。だがこれは相当無茶で大変なやり方になる。最悪、死ぬかもしれん。それでも聞くか?
ミア:⋯どうせ捕まって死んじゃうかもしれないなら⋯その方法に私は賭ける!だから教えてレオン。
レオン:⋯分かった。その方法とは、「A級冒険者」になる事だ。
ミア:え、A級冒険者!?・・ってなに?
ラマ:て、ミア知らないのかい!
レオン:まあスキルの事も知らないくらいだから、そう来るとは思ったぞ
ミア:えへへー
ラマ:多分、褒められてないよミア⋯。
レオン:俺が冒険者で世界を点々としていると前に言ったが、その冒険者にもランクがある。
レオン:駆け出しの初心者のN級から始まり、ギルド依頼をこなしながらその達成ポイントに応じてランクが上がっていく。D級、C級、B級、そして一番上のA級がある。昔はS級なんて物もあったらしいが、その辺はよくわからん。
ミア:へ~、なんだかすごそうだけど、A級冒険者になったらどうなるの?
レオン:冒険者ギルドってのは世界中のどの国にもあるが、冒険者ギルドは国に縛られない独立した組織なんだ。その中でもA級冒険者は国や教会トップなどにも縛られない力を持つ冒険者ギルドが認めた特別なランクなんだ。
ラマ:え!まさかレオン、このミアにそのA級冒険者になれって事なのかい!?
ミア:ラマちゃん、このは余計だよ!
レオン:そうだ。国の研究機関や教会も冒険者ギルドとA級冒険者を敵に回したくないからな。何をしてこようがA級冒険者になれば、もはやミアを捕まえる事も拘束する事も出来ないからだ。
ラマ:おいら人間の世界はよく分からないけど、そのA級冒険者になるのが簡単じゃないって事くらいはわかるぞ。ほんとにミアがなれるのか?
ミア:ラマちゃんの言う通りだよね。たしかに私冒険者ってよくわからないけど、さっきみたいな魔物とかと戦わないといけないなら、とても私一人じゃ無理だと思う・・
レオン:ま、普通はどう足掻いてもミア一人じゃA級冒険者になるのは無理がある。ちなみに俺の冒険者ランクでもB級だ。
ミア:あんなに強かったレオンでもB級なの!?じゃあ⋯私じゃ絶対無理だよ!
レオン:話は最後まで聞け。誰がミア一人でA級冒険者になれって言った。
ミア:え、どういう事⋯?
レオン:冒険者ランクってのは基本個人に向けたものだが、他に固定メンバーによるパーティー単位での評価で冒険者ランクを上げる事が出来るんだ
ミア:そんな方法があるんだ!・・え、でも私他の街に知り合いなんて誰もいないよ?協力してくれる人なんて・・
レオン:それは、俺が・・
ラマ:あ!わかったぞ、ここでおいらの助けがいるってわけだな。もちろん面白そうだしこのままミアに着いてくってのは嫌じゃないよー。ん?レオンなんか言ったか?
レオン:おいクソ精霊、今の絶対わざとだろ!
ラマ:えー?おいらなんの事かわからないやー
ミア:ははは、ちゃんと聞こえてたよ。レオン、ほんとにいいの?
レオン:・・まあ正直最初はめんどうだし、ほっとくかと思ってたんだがな。しかし、結局二度もミアに命を救われた。俺は別に死んでもいいと思ってたんだが、借りを作ったままじゃ死んでもしにきれん。・・ただそれだけだ
ラマ:素直じゃないよね、レオンって。
レオン:おい精霊!お前頭から水ぶっかけてやろうか?
ラマ:に、逃げろ~!!ピュー
レオン:ち、逃げ足だけは早いなあのやろー
ミア:あんまりラマちゃんいじめちゃ駄目だよレオン
レオン:あんなくされ精霊に情けは無用だ。⋯まあなんだ、もちろんA級冒険者はミアが思ってる以上に簡単になれるもんじゃないし、死と隣り合わせな依頼もこなさないといけない。
ミア:う、うん⋯。
ラマ:そこでおいらの出番ってわけだね!
レオン:まだいたのか駄精霊。
ラマ:誰が駄精霊だ!まあ、でもおいらがいればミアの助けになるのは間違いないよ
レオン:ん?
ミア:あ、ラマちゃんもしかしてさっきのって・・
ラマ:うん、そのミアの考えであってるよ。ミアがさっき出した魔法の力はおいらとの契約の力を通して発動したものだからね
レオン:それは⋯お前がいないとミアは魔法が使えないって事か?
ラマ:そうだね。魔法って本来、精霊語の呪文詠唱って工程をへて術者の魔力が魔法に変換されるんだけど、人間単体では魔力を魔法に変換出来ないみたいなんだ。
ラマ:でもおいらを通してミアの魔力を魔法に変換すればミアは魔法を使えるってわけなんだ。ちなみにこのやり方はおいらが見えて言葉が分かる相手にしか出来ない芸当だね
レオン:はっ!じ、じゃあ俺もその、魔法が使えるのか⋯?
ラマ:あ、残念だけどレオンは魔力が全然ないから魔法変換は無理だね。
レオン:くっ・・いや、悲しくなんてないぞ。俺には、剣があるから・・
ミア:あはは⋯。あ、じゃあラマちゃんもこれから一緒にいてくれるって事?
ラマ:もっちろん!おいらミアには助けてもらった恩があるしそれにミアの事気に入ったから着いてくよ。ミアがA級冒険者ってやつになるのも楽しみだしね。レオンは⋯どうでもいいけど。
レオン:よし、ミア。今からそいつを湖に沈め直してくる。
ラマ:そ、それだけは勘弁してー!ピュー
ミア:二人ともすっかり仲良しさんだね☆
レオン:どこがだ!(一緒に)
ラマ:どこがだい!(一緒に)
:--間
レオンN:色々あったが、こうしてミアをA級冒険者にさせるという無謀とも言える旅が、今始まるのだった⋯。
:終わり