台本概要

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タイトル 大切な人のために死を願う
作者名 鴉  (@krahe0320 )
ジャンル ミステリー
演者人数 4人用台本(男1、女2、不問1) ※兼役あり
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 死をテーマに書いてますので、苦手な方はやらないでください。

1.世界観を壊さないアドリブ可
2.キャスト様の性別は指定なし。キャラの性別はお守りください。
3.時間は大体の目安となっております
4.母・梓・子供の台詞が大体同じくらいなので兼ね役でやっていただいてもかまいません

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
俊平 71 大学生。田舎から出てきた
子供 不問 25 見た目7歳くらいの子供。母役もしくは梓役が兼ね役してもいい
20 俊平の母。台詞は福井弁っぽいのにしてますが、好きな方言に言い換えていただいたらいいです
23 俊平の彼女。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
俊平N:俺には好きな人がいる。だけど、この気持ちは伝えられない。理由は、フラれるのが怖いから。フラれて、この関係がなくなるぐらいなら、このまま片思いでいい。そう思ってこの関係に甘えていた。 俊平N:休日は一緒に出掛け、大学では一緒に講義を受ける。周りから「いい加減付き合えよ」と言われることもあったが、告白する勇気などなかった。そんなある日のことだった。 俊平N:休日、いつものように彼女と待ち合わせをしていた。母親から電話があって、話が長引き、待ち合わせ時間より少し遅れてしまった。俺を見て駆け寄る彼女。その瞬間だった。 俊平N:彼女が信号無視した車に轢かれた。彼女は即死だった。俺は憎んだ。 俊平N:運転手ではなく、自分を憎んだ。俺が母親の電話を途中で切って、時間通りに行っていれば、彼女は死ななかったのでは?彼女を殺したのは俺じゃないか…そう思うようになった。 俊平N:憎んで…憎んで…憎んで…心が疲れ切って…俺も死のうと思って、雑居ビルから飛び降りた。飛び降りる直前、見知らぬ子供の姿が見えた気がした。こんなとこで何をしてるんだろう? : 0:俊平の部屋 : 俊平N:目が覚めると、自分の部屋のベットにいた。俺は、確かにビルから飛び降りたはず。もし助かったとしても、病院で目が覚めていなければいけないはず。俺は枕元にあったスマホを見る。……驚いた。 俊平N:時間が、梓と待ち合わせした日になっていた。もしかして…今までのは悪い夢だったのか?俺はホッとして起き上がり、身支度をし始める。 俊平:それにしても悪い夢だったな…。 : 0:電話が鳴る : 俊平:えっ?…母さんからだ。 俊平N:夢と同じ時間に母親から電話がかかってきた。夢の中では確か…兄が結婚する話だった。 俊平:もしもし。 母:あっ、俊平。今いい? 俊平:いいよ。どうしたの? 母:ちょっとビックリするかもしれんけど聞いて。淳志が結婚するんよ。 俊平:えっ?……あっちゃん、結婚するの? 母:そうなのよ。しかもお腹には赤ちゃんがいるの。「普通は結婚してから子供やろ?」ってお母さん、淳志に言うたんだけど…お父さんったら「今の子とワシらの時代は違うんだ」って言うの! 母:うちだけ悪者みたいでねえ? 俊平M:夢と同じことを言っている。 俊平:で、でも…どっちもおめでたいことじゃん。顔合わせとかあるの?もしあるならバイト調整するから早めに教えて。 母:お嫁ちゃんのご両親が遠方やで、顔合わしぇいつになるかはわからんけど、決まったら言うわ。俊平は、淳志みたいに順番間違えたらあかんよ? 俊平:順番もなにも…彼女がおらんって。 母:そう言うて淳志も彼女いたでねぇ。別にいじめたりしぇんのやで、隠さんで紹介してよ。約束よ。 俊平:わかっとるよ。あっ!お母さん、ごめん!ちょっと待ち合わせしてるから切るよ。 母:デート? 俊平:そんなんじゃないから。じゃあね。 俊平N:夢と同じ流れで電話を切る。俺は慌てて家を出た。待ち合わせ時間に遅れる。このままいくと…夢のように梓が死んでしまう。どうか…あの事故だけは正夢になりませんように!俺は祈る気持ちで走った。 : 0:噴水広場 : 俊平:はぁ…はぁ…。 梓:あっ、俊平! 俊平N:彼女が、嬉しそうに横断歩道を渡ろうとする。夢と全く一緒。 俊平:梓、来るな! : 0:車のブレーキの音 : 梓:えっ? 俊平:梓ー! 俊平N:梓は…夢と同じように車に轢かれた。やっぱり…飛び降りたのは夢じゃなかったんだ。理由はわからないけど、あのビルから飛び降りたから…過去へ戻ったとしか考えられない。俺は同じビルから飛び降りた。 俊平N:もし過去へ戻れなかったとしても、俺が死ぬだけだから…恐いものはない。飛び降りる直前、また子供の姿が見えた。こちらを見ながら少し笑っているように見えた。この前は無表情だった気がする。 俊平:……君はなぜ笑っているの? : 0:俊平の部屋 : 俊平N:そして目が覚めると、自分の部屋のベットにいた。枕元のスマホを見ると、梓と待ち合わせした日だった。どういう仕組みかはわからないが、梓が生きている日に戻れたのだ。俺は、急いで梓に電話をする。 : 0:コール音 : 梓:俊平、どうしたの? 俊平:梓、ごめん。噴水広場へ行きたくない。 梓:えっ?なんで? 俊平:今日は、噴水広場じゃないとこで待ち合わせをしたい。 梓:だから…なんで? 俊平:噴水広場に行きたくない気分なんだ。今日は、違う映画館へ行こう。 梓:ダメだよ! 俊平:なんで? 梓:…噴水広場にある観覧車に行きたかったから。 俊平:観覧車? 梓:……観覧車に乗って、俊平に話したいことがあったの。 俊平:観覧車に乗らないとダメなの? 梓:…そう。だから、今日は噴水広場で待ち合わせなの。 俊平M:噴水広場の観覧車で告白すると、百%結ばれるっていうジンクスならあるけど…。梓、もしかして…。 俊平:梓、もしかして俺のことが好きなの? 梓:ええっ!? 俊平:……そんなことないか。ごめん。 梓:…最悪。 俊平:だから、ごめん。 梓:もういい!そうだよ!私、俊平のことが好きなの!だから、観覧車で告白しようとしていたの!悪い!? 俊平:……本当に? 梓:そうじゃなきゃ、毎週一緒に出掛けようなんて言わないわよ。この鈍感! 俊平:…俺も。 梓:えっ? 俊平:梓が好き。今まで、梓との関係が壊れるのが怖くて、臆病になっていた。ごめん。俺、梓と一緒にいると幸せな気持ちになれるんだ。……俺を彼氏にしてください。 梓:俊平。……いいよ。彼氏にしてあげる。 俊平:ありがとう。じゃあ、噴水広場は行かなくていいよな? 梓:そうだね。私、高所恐怖症だし。 俊平:高所恐怖症なのに、観覧車で告白しようとしてたの? 梓:そうだよ。えらいでしょ? 俊平:今日はどうする? 梓:じゃあ、安曇川(あどがわ)駅で待ち合わせして映画行かない? 俊平:そうだな。じゃあ、またあとで。 俊平M:噴水広場へ行かない。これで梓は死なない。 俊平:やった!未来を変えてやったぜ! : 0:電話が鳴る : 俊平:あ~。母さんから電話がかかってくるんだった。もしもし。 母:あっ、俊平。今いい? 俊平:いいよ。どうしたの? 母:ちょっとビックリするかもしれんけど聞いて。淳志が結婚するんよ。 俊平:あっちゃん、結婚するんだ。 母:しかもお腹には赤ちゃんがいるの。「普通は結婚してから子供やろ?」ってお母さん、淳志に言うたんだけど…お父さんったら「今の子とワシらの時代は違うんだ」って言うの!うちだけ悪者みたいでねえ? 俊平:でも…どっちもおめでたいことじゃん。顔合わせとかあるの?もしあるならバイト調整するから早めに教えて。 母:お嫁ちゃんのご両親が遠方やで、顔合わしぇいつになるかはわからんけど、決まったら言うわ。俊平は、淳志みたいに順番間違えたらあかんよ? 俊平:彼女…今さっきできた。 母:えっ!?俊平、彼女できたの?名前は?性格は?どこで知り合うたの?芸能人やと誰に似てるの?今、一緒にいるの? 俊平:そんな一気に聞かないでよ。名前は前川梓。性格…母さんに似て優しいよ。大学で知り合った。芸能人…誰かな?今は一緒にいないけど、これから会うから誰に似ているか聞いてみる。 母:いや、おめでとう!本当に嬉しいわ!今度、梓ちゃん紹介してや。お母さん、料理頑張るで! 俊平:わかったよ。そろそろ切るよ。 母:はいはい。デート楽しんでね。 俊平N:電話を切り、待ち合わせ場所へ向かう。噴水広場より近いから待ち合わせ時間も遅れなかった。俺は、梓と楽しくデートをすることができた。とても幸せだった。 : 0:電話が鳴る : 梓:俊平、電話鳴ってるよ。 俊平:あっ、ごめん。母さんからだ。もしもし。 母:…俊平、デート中にごめん。 俊平:別にいいよ。どうしたの?あっちゃんの顔合わせ決まったの? 母:……。 俊平:どうしたの?元気ないじゃん。 母:……淳志、死いずんた。 俊平:はっ? 母:……出勤途中、車に轢かれた。……淳志におめでとうも言えんまま…淳志が死いずんた。赤ちゃんもお腹にいるのに…なんで?なんで淳志が死がなあかんかったの!? 俊平:(M)梓が死んだ時、あっちゃんは生きてた。車に轢かれたりしなかった。なんでだ?…もしかして。 俊平:あっちゃん、信号無視した車に轢かれたの? 母:…なんでわかるの? 俊平N:梓と同じ死に方を、あっちゃんはした。同じビルに飛び降りれば、過去をやり直せば…あっちゃんは助かる。でも、梓を救えば…あっちゃんが死ぬ…。 俊平M:どうすればいいんだよ。 俊平:家、帰る。母さん、俺が帰るまで家にいてよ。 母:…ありがとう。 梓:……大丈夫? 俊平:梓、ごめん。兄さんが死んだ。 梓:えっ!? 俊平:今日は帰る。デート、ごめんな。 梓:デートなんかいいよ。気を付けて帰って。 俊平:ありがとう。 俊平M:梓を助ければ、あっちゃんが死んだ。あっちゃんの婚約者には、新しい命がいる。あっちゃんを助ければ、梓が死ぬ。……一体どうすればいいんだ。 : 0:雑居ビル : 俊平:俺は…どうしたらいい? 子供:また時間を戻すの? 俊平:誰だ!? 子供:……。 俊平:なんだ、子供じゃないか。子供がこんなところにいたら危な……。 子供:どうしたの? 俊平:君、前もこの時間にここにいた?俺を見て笑ってたのは君じゃないか? 子供:……。 俊平:ごめん。わけわかんないよな。忘れてくれ。 子供:お兄さんと会うのは3回目だよ。この時間、この場所で。 俊平:えっ? 子供:何を驚いてるの? 俊平:君は? 子供:ここはね…願って飛び降りると、後悔した過去へ戻ることができるの。ただ願うだけじゃだめ。強い願いが込められていないと戻れないから、 誰でも飛び込めば叶うってわけじゃない。 子供:普通に死んでいった人も何人も見てきた。 俊平:やっぱり…過去へ戻っていたんだ。 子供:お兄さん、2回も過去へ戻ったのに失敗したの? 俊平:失敗…なのかな?助けたい人は助けることができたんだ。 子供:よかったね。じゃあ、もう飛び降りる必要ないんじゃないの? 俊平:…かわりに…兄が死んだ。 子供:あぁ。そりゃ仕方ないね。 俊平:なんで…仕方ないの? 子供:お兄さんの大切な人が死んだんだよね?その人を助けたいなら、違うお兄さんの大切な人を捧げなきゃいけない。だから、最初に死んだ人のかわりに死んだ。単純でしょ? 俊平:なんでだよ!?兄さんは結婚が決まってすごく幸せなんだ!兄さんが死ぬ必要ないだろ! 子供:またやり直す? 俊平:何度もやり直せば、誰も死なない未来にたどり着けるかもしれない。 子供:何度やり直しても、そんな未来は永久に来ないんだよ。 俊平:そんなのわかんないだろ。 子供:わかるんだよ。 俊平:君はなに?なんでそんなことが言えるの? 子供:なんでだろうね。 俊平:大人をからかうのもいい加減にしろ。俺は何度だってやり直す。 子供:やり直してもいいけど、お兄さんは誰なら死んでもいいの? 俊平:…誰も死なせたくない。 子供:できるわけないじゃん。というかさ、死んだのがお兄さんに関係ない人が死んでたら、やり直そうと思った? 俊平:えっ? 子供:お兄さんに関係ない人が死んで、自分の大切な人が生きていれば…お兄さんは過去をやり直そうとは思わなかったよね? 俊平:……。 子供:お兄さんに関係ない人には、家族や大切な人がいるとは思わない? 俊平:…いると思う。だけど。 子供:自分には関係ない。自分の大切な人が優先だ。 俊平:……俺。 子供:人間、いつか死ぬんだよ。お兄さんが誰を一番大切なのかは知らないけれど、自分が納得するまで過去をやり直す気? 俊平:……俺は。 子供:一番大切な人は助かったんだよね? 俊平:……あぁ。 子供:それでいいじゃない。それがお兄さんの望みだったんでしょ? 俊平M:梓を助けたら、あっちゃんが死んだ。梓の未来は守られた。だけど、あっちゃんの彼女と子供はどうなる?じゃあ、あっちゃんを今度は救うのか?もし、あっちゃんを助けて梓を助けても、誰かが死ぬ。 俊平M:……知らない人が死んだら俺はいいのか?……その人が死んで悲しむ人がいるのに?悲しむ人がいない人ならいいのか?いや、そうじゃない。命に死んでいいとかそんなもんない。 俊平:……もうイヤだ。 俊平M:こんな辛い想いをするのなら、やり直しができるって知らない方がよかった。 俊平:……そっか。 子供:お兄さん? 俊平M:これなら…もう苦しまなくていい。 : 0:俊平の実家 : 母:俊平…なんで死いでもたん? 梓:俊平…。どうして?なんで自殺なんてしたの? : 0:雑居ビル : 子供:……過去に戻って自分が死ぬ。そうすれば、お兄さんも助かり、恋人も助かる。考えたね。誰かが死ねば大切な人が生きられる。……お兄さんが死ねば大切な人はみんな生きられる。そうか。 子供:そうすればよかったのか。そしたらママは今も……ううん、そんなことしたら、ママに怒られちゃうよね。私はここから飛び降りる人を見ながら、答えのない答えをずっと探していくんだろうな。 子供:正しい答えなんてないのにね……。

俊平N:俺には好きな人がいる。だけど、この気持ちは伝えられない。理由は、フラれるのが怖いから。フラれて、この関係がなくなるぐらいなら、このまま片思いでいい。そう思ってこの関係に甘えていた。 俊平N:休日は一緒に出掛け、大学では一緒に講義を受ける。周りから「いい加減付き合えよ」と言われることもあったが、告白する勇気などなかった。そんなある日のことだった。 俊平N:休日、いつものように彼女と待ち合わせをしていた。母親から電話があって、話が長引き、待ち合わせ時間より少し遅れてしまった。俺を見て駆け寄る彼女。その瞬間だった。 俊平N:彼女が信号無視した車に轢かれた。彼女は即死だった。俺は憎んだ。 俊平N:運転手ではなく、自分を憎んだ。俺が母親の電話を途中で切って、時間通りに行っていれば、彼女は死ななかったのでは?彼女を殺したのは俺じゃないか…そう思うようになった。 俊平N:憎んで…憎んで…憎んで…心が疲れ切って…俺も死のうと思って、雑居ビルから飛び降りた。飛び降りる直前、見知らぬ子供の姿が見えた気がした。こんなとこで何をしてるんだろう? : 0:俊平の部屋 : 俊平N:目が覚めると、自分の部屋のベットにいた。俺は、確かにビルから飛び降りたはず。もし助かったとしても、病院で目が覚めていなければいけないはず。俺は枕元にあったスマホを見る。……驚いた。 俊平N:時間が、梓と待ち合わせした日になっていた。もしかして…今までのは悪い夢だったのか?俺はホッとして起き上がり、身支度をし始める。 俊平:それにしても悪い夢だったな…。 : 0:電話が鳴る : 俊平:えっ?…母さんからだ。 俊平N:夢と同じ時間に母親から電話がかかってきた。夢の中では確か…兄が結婚する話だった。 俊平:もしもし。 母:あっ、俊平。今いい? 俊平:いいよ。どうしたの? 母:ちょっとビックリするかもしれんけど聞いて。淳志が結婚するんよ。 俊平:えっ?……あっちゃん、結婚するの? 母:そうなのよ。しかもお腹には赤ちゃんがいるの。「普通は結婚してから子供やろ?」ってお母さん、淳志に言うたんだけど…お父さんったら「今の子とワシらの時代は違うんだ」って言うの! 母:うちだけ悪者みたいでねえ? 俊平M:夢と同じことを言っている。 俊平:で、でも…どっちもおめでたいことじゃん。顔合わせとかあるの?もしあるならバイト調整するから早めに教えて。 母:お嫁ちゃんのご両親が遠方やで、顔合わしぇいつになるかはわからんけど、決まったら言うわ。俊平は、淳志みたいに順番間違えたらあかんよ? 俊平:順番もなにも…彼女がおらんって。 母:そう言うて淳志も彼女いたでねぇ。別にいじめたりしぇんのやで、隠さんで紹介してよ。約束よ。 俊平:わかっとるよ。あっ!お母さん、ごめん!ちょっと待ち合わせしてるから切るよ。 母:デート? 俊平:そんなんじゃないから。じゃあね。 俊平N:夢と同じ流れで電話を切る。俺は慌てて家を出た。待ち合わせ時間に遅れる。このままいくと…夢のように梓が死んでしまう。どうか…あの事故だけは正夢になりませんように!俺は祈る気持ちで走った。 : 0:噴水広場 : 俊平:はぁ…はぁ…。 梓:あっ、俊平! 俊平N:彼女が、嬉しそうに横断歩道を渡ろうとする。夢と全く一緒。 俊平:梓、来るな! : 0:車のブレーキの音 : 梓:えっ? 俊平:梓ー! 俊平N:梓は…夢と同じように車に轢かれた。やっぱり…飛び降りたのは夢じゃなかったんだ。理由はわからないけど、あのビルから飛び降りたから…過去へ戻ったとしか考えられない。俺は同じビルから飛び降りた。 俊平N:もし過去へ戻れなかったとしても、俺が死ぬだけだから…恐いものはない。飛び降りる直前、また子供の姿が見えた。こちらを見ながら少し笑っているように見えた。この前は無表情だった気がする。 俊平:……君はなぜ笑っているの? : 0:俊平の部屋 : 俊平N:そして目が覚めると、自分の部屋のベットにいた。枕元のスマホを見ると、梓と待ち合わせした日だった。どういう仕組みかはわからないが、梓が生きている日に戻れたのだ。俺は、急いで梓に電話をする。 : 0:コール音 : 梓:俊平、どうしたの? 俊平:梓、ごめん。噴水広場へ行きたくない。 梓:えっ?なんで? 俊平:今日は、噴水広場じゃないとこで待ち合わせをしたい。 梓:だから…なんで? 俊平:噴水広場に行きたくない気分なんだ。今日は、違う映画館へ行こう。 梓:ダメだよ! 俊平:なんで? 梓:…噴水広場にある観覧車に行きたかったから。 俊平:観覧車? 梓:……観覧車に乗って、俊平に話したいことがあったの。 俊平:観覧車に乗らないとダメなの? 梓:…そう。だから、今日は噴水広場で待ち合わせなの。 俊平M:噴水広場の観覧車で告白すると、百%結ばれるっていうジンクスならあるけど…。梓、もしかして…。 俊平:梓、もしかして俺のことが好きなの? 梓:ええっ!? 俊平:……そんなことないか。ごめん。 梓:…最悪。 俊平:だから、ごめん。 梓:もういい!そうだよ!私、俊平のことが好きなの!だから、観覧車で告白しようとしていたの!悪い!? 俊平:……本当に? 梓:そうじゃなきゃ、毎週一緒に出掛けようなんて言わないわよ。この鈍感! 俊平:…俺も。 梓:えっ? 俊平:梓が好き。今まで、梓との関係が壊れるのが怖くて、臆病になっていた。ごめん。俺、梓と一緒にいると幸せな気持ちになれるんだ。……俺を彼氏にしてください。 梓:俊平。……いいよ。彼氏にしてあげる。 俊平:ありがとう。じゃあ、噴水広場は行かなくていいよな? 梓:そうだね。私、高所恐怖症だし。 俊平:高所恐怖症なのに、観覧車で告白しようとしてたの? 梓:そうだよ。えらいでしょ? 俊平:今日はどうする? 梓:じゃあ、安曇川(あどがわ)駅で待ち合わせして映画行かない? 俊平:そうだな。じゃあ、またあとで。 俊平M:噴水広場へ行かない。これで梓は死なない。 俊平:やった!未来を変えてやったぜ! : 0:電話が鳴る : 俊平:あ~。母さんから電話がかかってくるんだった。もしもし。 母:あっ、俊平。今いい? 俊平:いいよ。どうしたの? 母:ちょっとビックリするかもしれんけど聞いて。淳志が結婚するんよ。 俊平:あっちゃん、結婚するんだ。 母:しかもお腹には赤ちゃんがいるの。「普通は結婚してから子供やろ?」ってお母さん、淳志に言うたんだけど…お父さんったら「今の子とワシらの時代は違うんだ」って言うの!うちだけ悪者みたいでねえ? 俊平:でも…どっちもおめでたいことじゃん。顔合わせとかあるの?もしあるならバイト調整するから早めに教えて。 母:お嫁ちゃんのご両親が遠方やで、顔合わしぇいつになるかはわからんけど、決まったら言うわ。俊平は、淳志みたいに順番間違えたらあかんよ? 俊平:彼女…今さっきできた。 母:えっ!?俊平、彼女できたの?名前は?性格は?どこで知り合うたの?芸能人やと誰に似てるの?今、一緒にいるの? 俊平:そんな一気に聞かないでよ。名前は前川梓。性格…母さんに似て優しいよ。大学で知り合った。芸能人…誰かな?今は一緒にいないけど、これから会うから誰に似ているか聞いてみる。 母:いや、おめでとう!本当に嬉しいわ!今度、梓ちゃん紹介してや。お母さん、料理頑張るで! 俊平:わかったよ。そろそろ切るよ。 母:はいはい。デート楽しんでね。 俊平N:電話を切り、待ち合わせ場所へ向かう。噴水広場より近いから待ち合わせ時間も遅れなかった。俺は、梓と楽しくデートをすることができた。とても幸せだった。 : 0:電話が鳴る : 梓:俊平、電話鳴ってるよ。 俊平:あっ、ごめん。母さんからだ。もしもし。 母:…俊平、デート中にごめん。 俊平:別にいいよ。どうしたの?あっちゃんの顔合わせ決まったの? 母:……。 俊平:どうしたの?元気ないじゃん。 母:……淳志、死いずんた。 俊平:はっ? 母:……出勤途中、車に轢かれた。……淳志におめでとうも言えんまま…淳志が死いずんた。赤ちゃんもお腹にいるのに…なんで?なんで淳志が死がなあかんかったの!? 俊平:(M)梓が死んだ時、あっちゃんは生きてた。車に轢かれたりしなかった。なんでだ?…もしかして。 俊平:あっちゃん、信号無視した車に轢かれたの? 母:…なんでわかるの? 俊平N:梓と同じ死に方を、あっちゃんはした。同じビルに飛び降りれば、過去をやり直せば…あっちゃんは助かる。でも、梓を救えば…あっちゃんが死ぬ…。 俊平M:どうすればいいんだよ。 俊平:家、帰る。母さん、俺が帰るまで家にいてよ。 母:…ありがとう。 梓:……大丈夫? 俊平:梓、ごめん。兄さんが死んだ。 梓:えっ!? 俊平:今日は帰る。デート、ごめんな。 梓:デートなんかいいよ。気を付けて帰って。 俊平:ありがとう。 俊平M:梓を助ければ、あっちゃんが死んだ。あっちゃんの婚約者には、新しい命がいる。あっちゃんを助ければ、梓が死ぬ。……一体どうすればいいんだ。 : 0:雑居ビル : 俊平:俺は…どうしたらいい? 子供:また時間を戻すの? 俊平:誰だ!? 子供:……。 俊平:なんだ、子供じゃないか。子供がこんなところにいたら危な……。 子供:どうしたの? 俊平:君、前もこの時間にここにいた?俺を見て笑ってたのは君じゃないか? 子供:……。 俊平:ごめん。わけわかんないよな。忘れてくれ。 子供:お兄さんと会うのは3回目だよ。この時間、この場所で。 俊平:えっ? 子供:何を驚いてるの? 俊平:君は? 子供:ここはね…願って飛び降りると、後悔した過去へ戻ることができるの。ただ願うだけじゃだめ。強い願いが込められていないと戻れないから、 誰でも飛び込めば叶うってわけじゃない。 子供:普通に死んでいった人も何人も見てきた。 俊平:やっぱり…過去へ戻っていたんだ。 子供:お兄さん、2回も過去へ戻ったのに失敗したの? 俊平:失敗…なのかな?助けたい人は助けることができたんだ。 子供:よかったね。じゃあ、もう飛び降りる必要ないんじゃないの? 俊平:…かわりに…兄が死んだ。 子供:あぁ。そりゃ仕方ないね。 俊平:なんで…仕方ないの? 子供:お兄さんの大切な人が死んだんだよね?その人を助けたいなら、違うお兄さんの大切な人を捧げなきゃいけない。だから、最初に死んだ人のかわりに死んだ。単純でしょ? 俊平:なんでだよ!?兄さんは結婚が決まってすごく幸せなんだ!兄さんが死ぬ必要ないだろ! 子供:またやり直す? 俊平:何度もやり直せば、誰も死なない未来にたどり着けるかもしれない。 子供:何度やり直しても、そんな未来は永久に来ないんだよ。 俊平:そんなのわかんないだろ。 子供:わかるんだよ。 俊平:君はなに?なんでそんなことが言えるの? 子供:なんでだろうね。 俊平:大人をからかうのもいい加減にしろ。俺は何度だってやり直す。 子供:やり直してもいいけど、お兄さんは誰なら死んでもいいの? 俊平:…誰も死なせたくない。 子供:できるわけないじゃん。というかさ、死んだのがお兄さんに関係ない人が死んでたら、やり直そうと思った? 俊平:えっ? 子供:お兄さんに関係ない人が死んで、自分の大切な人が生きていれば…お兄さんは過去をやり直そうとは思わなかったよね? 俊平:……。 子供:お兄さんに関係ない人には、家族や大切な人がいるとは思わない? 俊平:…いると思う。だけど。 子供:自分には関係ない。自分の大切な人が優先だ。 俊平:……俺。 子供:人間、いつか死ぬんだよ。お兄さんが誰を一番大切なのかは知らないけれど、自分が納得するまで過去をやり直す気? 俊平:……俺は。 子供:一番大切な人は助かったんだよね? 俊平:……あぁ。 子供:それでいいじゃない。それがお兄さんの望みだったんでしょ? 俊平M:梓を助けたら、あっちゃんが死んだ。梓の未来は守られた。だけど、あっちゃんの彼女と子供はどうなる?じゃあ、あっちゃんを今度は救うのか?もし、あっちゃんを助けて梓を助けても、誰かが死ぬ。 俊平M:……知らない人が死んだら俺はいいのか?……その人が死んで悲しむ人がいるのに?悲しむ人がいない人ならいいのか?いや、そうじゃない。命に死んでいいとかそんなもんない。 俊平:……もうイヤだ。 俊平M:こんな辛い想いをするのなら、やり直しができるって知らない方がよかった。 俊平:……そっか。 子供:お兄さん? 俊平M:これなら…もう苦しまなくていい。 : 0:俊平の実家 : 母:俊平…なんで死いでもたん? 梓:俊平…。どうして?なんで自殺なんてしたの? : 0:雑居ビル : 子供:……過去に戻って自分が死ぬ。そうすれば、お兄さんも助かり、恋人も助かる。考えたね。誰かが死ねば大切な人が生きられる。……お兄さんが死ねば大切な人はみんな生きられる。そうか。 子供:そうすればよかったのか。そしたらママは今も……ううん、そんなことしたら、ママに怒られちゃうよね。私はここから飛び降りる人を見ながら、答えのない答えをずっと探していくんだろうな。 子供:正しい答えなんてないのにね……。