台本概要

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タイトル Spinal Code.
作者名 瀬川こゆ  (@hiina_segawa)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 竜園寺 葉月はツギハギだらけの怪物だ。
まるでフランケンシュタインみたいに。
でもフランケンシュタインとは博士の名前の事だ。
つまりは、佐々木 髓の方がフランケンシュタインと言う事なのか?

しかしてこれはただの序章であって或いはプロローグでしか無い訳で、つまりは何一つ分かる事は無いと言う意味だ。

※長台詞塗れを書きたかっただけの台本です。
後々いつかシリーズする予定なので、何も内容が無いです。

非商用時は連絡不要ですが、投げ銭機能のある配信媒体等で記録が残る場合はご一報と、概要欄等にクレジット表記をお願いします。

過度なアドリブ、改変、無許可での男女表記のあるキャラの性別変更は御遠慮ください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
141 佐々木 髓(ささき ずい)。葉月の死体を拾い集めて繋げ合わせた女。とんでもないお喋りで早口で話がち。
葉月 142 竜園寺 葉月(りゅうおんじ はづき)。髓に巻き込まれた男。名家の子息だった。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
髓:ねぇ知っているかい? 髓:*天鈿女《あまのうずめ》と言う神様が居て、 髓:彼女は古事記に出て来る女神なんだけれど、 髓:かの有名な*天照大御神《あまてらすおおみかみ》が、*天岩戸《あまのいわと》の向こう側に隠れてしまった時に、 髓:そこから引き摺り出すのに一役買った神様なんだ。 葉月:髓⋯⋯髓! 髓:そもそも*天照大御神《あまてらすおおみかみ》が*天岩戸《あまのいわと》に隠れちゃったのは、 髓:諸説あれど1番は弟の*須佐之男命《すさのおのみこと》が関係していて、 髓:まぁそこから話すってなるとだいぶ長くなっちゃうから、今回は言わないんだけど。 葉月:おい、おい髓!聞けって 髓:ともかく*天岩戸《あまのいわと》に引き篭った*天照大御神《あまてらすおおみかみ》は、 髓:やがて岩の外が騒がしい事に気付くんだ。 髓:「自分が居ないのに、どうしてみんなは楽しそうなの?」って。 髓:神様は元来、承認欲求が強いものだとボクは思っているから、 髓:やっぱりかの有名な*天照大御神《あまてらすおおみかみ》だって、 髓:自分抜きに周りがどんちゃん騒ぎしているのは面白くない訳で、 髓:気になっちゃうのも無理はないと思うけどね?ボクは。 葉月:駄目だこれ、聞こえてねぇ⋯⋯。 髓:さて岩の外で*天鈿女《あまのうずめ》が、結果的に*天照大御神《あまてらすおおみかみ》が、 髓:気になってつい様子を伺ってしまう程に周りを盛り上げた事なんだけれど、 髓:実際、何をしたかって言えば、 髓:どうやら彼女は踊ったらしいんだよ、舞をね。 葉月:すんません。 葉月:もう少しで終わると思うんで、はい。 髓:ただその舞って言うのがどうやら下品なもので、 髓:現代で言うところのストリップショーめいたものだったって説があるんだ。 髓:面白いよね? 髓:性行為って言うのはそもそも種を存続する為に、どの生物にも必要な行為ではあるのだけれど、 髓:ただ快楽を求める為に興ずる事もある訳で、大概それって人間がやっていて、 髓:つまりは他の生物から見た時にとっても無駄な行為なんだけれど、 髓:仮に観客が全て*男神《おがみ》だった場合でも、 髓:女神のストリップショーは大層愉快なものだったんだなぁってなったら、 髓:ボクはなんて神様は人間らしいのだろうと、ついそう思っちゃうんだ。 葉月:あ〜⋯⋯*飛《ふぇい》さん電話に出ねぇ。 葉月:何か察しただろ絶対。 髓:嗚呼そう言えば!性行為で思い出したんだけど。 髓:猫の交尾って物凄く痛いらしいね? 髓:雌に対しての負担が凄いんだって! 髓:なんでなんだろう?ってボクは気になったけれど、ボクはたまたま人間であって猫ではないから、 髓:そうなると人間のボクが猫にならない限り、ボクの疑問は正しく解消されない訳なんだ。 髓:でもボクは母と違ってマッドサイエンティストではないから、 髓:人間から猫になる手段なんて思い付きもしなくて、だから〜 葉月:(被せる) 葉月:おーわーりー!おしまい! 葉月:いい加減にしろ、髓。 髓:やぁ、葉月。 髓:どうしたんだい? 葉月:初見マシンガントークはやめろって、いつも言ってるだろ。 髓:そうは言われてもボクは、叔父さんと違ってお喋りが好きだからつい話したくなっちゃうんだ。 髓:葉月は聞いてくれないし〜。 葉月:聞かれてなくても問題ねぇだろ。 葉月:お前は話したいだけなんだからよ。 髓:まぁ確かに、それはそうだ。 葉月:はぁ〜⋯⋯。 葉月:嗚呼すんません急に呼び止めたのに、こんな下らない事に付き合わせちゃって。 髓:下らないとはなんだよ!心外だなぁ。 葉月:お前が思ってるよりも、お前の疑問は壮大じゃねぇんだ。 葉月:些細なんだよ、さ・さ・い! 髓:ボクはおかさんと違って学ぶ事が出来るから、知らない事がそのままなのは気持ち悪いんだ! 葉月:だからって知識を他人に押し付けんなって話をしてんだ、俺はな。 髓:それはだって⋯⋯。 髓:嗚呼でも、その通りかもしれないやぁ〜。 葉月:はいはい、やーっと落ち着きまちたねー。 葉月:そのまま黙って、大人しく良い子で居てくれ頼むから。 髓:具体的には何分くらい、ボクは黙っていればいいのかな? 葉月:そうだな、12時間くらいかな。 髓:半日黙れは流石に横暴だよ葉月! 葉月:うっっるせぇなぁ! 葉月:じゃあ、簡潔に! 葉月:細かく言えばひと言で済ませるなら! 葉月:話してもいい! 髓:分かった! 葉月:(小声) 葉月:どうせ無理だろうけど⋯⋯。 髓:それで? 髓:キミはどうしてこの人に話し掛けたの? 髓:ボク達が居るのは*香桜《かおう》学園って所で、まぁボクも葉月もこの学園の生徒なんだけれど、 髓:そもそもボクがここに通っているのは、おとさんから命令されたからであって、 髓:葉月が居るのはそれは葉月がボクの物だからなんだけど、 髓:嗚呼!葉月がボクの物って言うのは、 葉月:(被せる) 葉月:お前が自殺した俺の死体をひとつ残らず拾い集めて、 葉月:妙な力と到底そうとは思えない自称、科学の力で俺を蘇らせたから。 葉月:だから*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》は*佐々木 髓《ささき ずい》の所有物であって、 葉月:俺自身の所有権はとっくに消失している。 葉月:*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》の身体はツギハギだらけで、まるで怪物のフランケンシュタインみたいだ。 葉月:でもフランケンシュタインは博士の名前であるから、 葉月:つまりは*佐々木 髓《ささき ずい》がフランケンシュタインになると言う事なのか? 葉月:何故ならば*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》はツギハギだらけなのだから、だろ? 髓:凄いね葉月! 髓:ボクが言いたかった事が、どうして全部分かったの? 葉月:そんなん全く同じ事を誰かと知り合う度に必ず、どっかの誰かさんが言うからだ! 髓:ボクが知らない所でキミは仲のいいお友達が出来たようだ。 髓:なんだか妬けちゃうなぁ〜ぷぇ〜。 葉月:本気で自分じゃねぇって反応すんじゃねぇよ⋯⋯。 髓:? 葉月:あ〜⋯⋯嫌だ〜まじでめんどくせぇ〜。 葉月:なんなんだコイツ〜。 葉月:慣れねぇ〜嫌だ〜。 髓:でもボクを分かっているのは、他ならぬキミだけなんだ。 葉月:少しも嬉しくねぇ〜。 髓:少なくともボクはキミの種の存続の為の片棒くらいは、担いであげてもいいと思っているよ。 葉月:なに?お前遠回しに愛の告白した、いま? 髓:やだなぁ〜。 髓:ボクはおとさんと違って誰かを愛する事には向いていないし、 髓:ボクはおかさんと違って誰かに愛される才能も無いんだよ。 髓:土台無理な話を、ボクに求めないでくれるかな? 葉月:求めてないし、求める事もないです。 葉月:端からその点に関してお前のセンサーには、まっったく期待してないから安心しろ。 髓:まぁキミが愛して欲しいって言うのなら、愛す努力はしてあげるよ。 髓:嗚呼、でもその代わりボクの事は愛さないで欲しいな? 髓:だってボクはおかさんと違って、束縛されるのも執着されるのも苦手なんだ。 葉月:愛すなり愛さないなり好きにすればいいだろ。 葉月:どうせ俺はお前に生かされてるんだから。 髓:そうだね、それもそっか!ところで葉月。 葉月:なんですかー?ご主人様。 髓:それは何だかおとさんみたいで嫌だなぁ。 葉月:じゃあ、飼い主さん。 髓:犬は好き、隣の家のおじちゃんみたいだから。 葉月:わん! 髓:でもキミは隣の家のおじちゃんとは違うし、 髓:ボクは*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》は欲しいけど、犬は欲しくないからやめてくれないかな。 葉月:はいはい、ごめんなさい。 葉月:それで、言いかけてた事は? 髓:嗚呼そうだ、ねぇ葉月。 葉月:うん。 髓:ボク達はいったい何の話をしているの? 葉月:お前がそれ言っちゃったかー。 葉月:(以下、葉月M) 葉月:  葉月:*佐々木 髓《ささき ずい》、脊髄の髓。 葉月:本名不明。 葉月:こいつと俺が出会ったのは、到底、¨ひょんな¨とは言えない状況だった。 髓:「いらないならボクが貰ってもいいだろう?」 葉月:(以下、葉月M) 葉月:  葉月:隙に飲まれるとはこう言う事かと、当時の俺はそう思っていて。 葉月:その僅かな隙に飲まれた自分を、*現在《いま》の俺は後悔している。 葉月:  葉月:早い話、俺は死んだ。 葉月:駅のホームから飛び降りて。 葉月:  葉月:一瞬の苦痛と、けたたましいブレーキ音と、それから永遠の暗闇の中で。 葉月:  葉月:気まぐれの様に目を覚ませば、俺はこの女に生かされる。 葉月:それ以外の選択肢を失っていたのだ。 0:一拍。 髓:目を覚ました男は*呻《うめ》き声を漏らした後に、ふと辺りを見渡そうとして、 髓:それから指の先すら動かせない事に気が付いた。 葉月:⋯⋯は? 髓:男は思う。「ここはどこなんだ?」と。 髓:「俺はどうなったんだ?」と。 髓:それから、「あの女は誰なんだ?」とも。 葉月:⋯⋯。 髓:合ってるかい? 葉月:何が? 髓:だから、君の心境だよ。 髓:或いはモノローグ⋯⋯いや、ナレーションかな? 葉月:よく分かんねぇ。 髓:映画は観る方?洋画でも邦画でもいいよ。 葉月:洋画も邦画もあまり見ねぇ。 髓:じゃあ言ったところで無意味かな。 葉月:何が、 髓:映画ってさ、まぁ映画じゃなくても創作物ならなんでもいいんだけどさ。 髓:大概始まりは説明から入るんだよ。 葉月:説明? 髓:そう。 髓:例えば演者に言わせる場合、 髓:「俺は雑貨屋を経営しているしがない男だ。ところが昨日の晩、何者かに頭を殴られてからの記憶が無い!」 髓:「今は何年何月何日だ?なに?!カレンダーには遥か未来の日付が載っているじゃないか!これは夢なのか?いや、そんな筈は無い」とかね。 葉月:はぁ⋯⋯? 髓:文字で全てを表現するのは難しいんだ。 髓:詳細な情景なんか、書いてる本人にしか分からない。だから書かなきゃいけない。 髓:でも説明口調だと単調になっちゃうし、全てをいちいち説明してたらキリが無い。 葉月:何が言いたいんだ、お前。 髓:きっと訳も分からないままここに居る筈だから、君の代わりにボクが君の心境を言ってあげようと思って。 葉月:こ 髓:「ここはどこなんだ?」ここはボクのお家。 髓:或いはおとさんとおかさんのお家でもあるよ。 葉月:お 髓:「俺はどうなったんだ?」 髓:まぁ少なくとも死んではいないんじゃないかなぁ。 葉月:おま 髓:お前は、 葉月:うるせぇ、自分で言う。 髓:はぁーい。 葉月:⋯⋯。 髓:どうぞ、続けて? 葉月:なんか気に食わねぇけど⋯⋯。 葉月:はぁ、お前は誰だ? 髓:人に聞く前に自分から名乗るのが筋だって君は習わなかったのかい? 葉月:何なんだお前⋯⋯。 髓:うーん、これも駄目な事かもしれないなぁ。 髓:なんせボクはおかさんと違って、言葉数が多いから。 髓:でもおかさんは少な過ぎるとボクは思うけどね。 葉月:⋯⋯。 髓:あ、ごめん。どうも話し過ぎちゃうんだボクは。 髓:物事を簡潔に言えないと言うか、ほら今だって沢山話してるでしょう?この癖を直せって隣の家のおじちゃんは言ってくるんだけど、やっぱりどうしてもボクには難しくてさぁ。 髓:君もそう思うでしょう? 葉月:正直「お前は誰だ?」って聞いただけで、ここまで時間が掛かるとは思わなかった。 髓:でしょう?ボクと話すのは疲れるらしいんだ。 髓:おとさんはまだボクのお話を聞いてくれる方ではあるけど、それでも途中からなんだか疲れたような顔をしちゃうんだ。 葉月:まぁ疲れるとは思う。 髓:わぁ、どストレートだぁ。 髓:ボクの周りには正直者しか居ないから、君は問題なく馴染めそうだね。ねぇ*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》くん。 葉月:なんで俺の名前、 髓:だって君の身分を証明するもの一式、ボクが持ってきちゃったからねぇ。 髓:必要かなぁって思って、お節介だった? 葉月:いや⋯⋯。 髓:まぁお陰様で君は無駄死にしちゃったんだけど。 髓:君の身体も君の持ち物も、ボクが全部ここに持ってきちゃって、残ったのは夥しい量の血液だけ。 髓:あれ、もしかしてこれってボクが君の邪魔をした事になるのかな? 葉月:無駄死にって⋯⋯待て。 葉月:俺は確かに死んだ筈で……確か……俺は。 髓:電車での自殺は、手っ取り早く死ねるから選択する人が多いんだ。 葉月:……は? 髓:だけど賠償責任と言うものがあって、下手したら億まで行くほど、責任と称したお金を払わなきゃいけない。 葉月:おい。 髓:でも当の本人は死んでいるんだ。 髓:それならその責任は誰が取る? 髓:残された遺族しかいないよね。 葉月:聞いてるのか? 髓:噂によれば賠償責任に喘いで、結局、後追い自殺をする遺族も居るらしいよ? 髓:皮肉な話だけど。 葉月:おい、質問に答えろ。 髓:まぁ死のうとする時に残された者の事を考える余裕があるのなら、そもそもそいつは自死と言う手段は取らないんじゃないかって、ボクはそう思っているよ。 葉月:おい、無視するな。 葉月:なんだ?腕が動かない。 髓:後はそうだなぁ。 髓:条件が揃うとね、いくら電車に轢かれたところで生き残るパターンがあるんだ。 髓:そうなるともうその先は地獄だよ、生き地獄だ。 髓:だからテケテケなんて都市伝説が生まれるんだろうね? 葉月:そう言えば腕どころか足も……。 葉月:いや、首も身体のどこも動かない。 0:髓。葉月の方に近付いてくる。 髓:あれぇ知らなかった? 葉月:? 髓:テケテケ。 葉月:いや……知ってる。 髓:そう。 髓:じゃ、良かったね。 葉月:何が? 髓:生き残らなくて。 葉月:は? 髓:その状態で生き残っちゃったら、もう本当に生き地獄だったよ。 葉月:その状態って、何言ってるんだよお前。 髓:嗚呼そうか自分じゃ見れないんだ。 髓:うっかりしてたよ!ちょっと待ってて。 葉月:え?……あ、おい。 0:髓、大きな鏡を持ってこようとしながら。 髓:痛感と言うのは自覚しないと機能しない。 髓:流れ出る血を見て始めて、耐え難い痛みに襲われたりね。 髓:よいっしょ……重たいな。 葉月:さっきから言ってること訳分かんねぇんだけど。 髓:嗚呼でも安心して。 髓:キミの痛感は切ったし脳も少し弄ったから、キミは視認したところで痛みは感じないと思うよ。 葉月:はぁ? 髓:よいっしょ……よし。 髓:さぁ、この鏡で見てごらんよ。 髓:キミの"今"を。 0:葉月、切り離されてパーツごとに管に巻かれながら水槽に浮く自分の姿を鏡で見て驚く。 葉月:見るって……うわああああああああ!! 髓:苦労したんだよ? 髓:なんせキミはバラバラだったから。 髓:欠片の一つも残してはおけなかったし。 葉月:なっっ?!なん、これ、なんで!! 髓:ボクは母と違ってマッドサイエンティストでは無いから、急ごしらえでは一つ一つ動かすだけで手一杯だったんだ。 葉月:俺の腕……足も……。 葉月:いや、なんで俺はこんな……こんなバラバラで生きているんだ?! 髓:ちっちっちー不正解。 葉月:はぁ? 髓:正確にはキミは生きてなんかいないよ。 髓:正真正銘死んでいる。 髓:今頃キミの家族は、キミの死亡診断書を医者に書かせてるんじゃないかな? 葉月:どう言う事だよ?! 髓:嗚呼それとも感情の有る無いしを生と言うのなら、その意味ではキミは、まだ、ギリギリ、生きているんじゃないかな? 葉月:なんでこんなおぞましい事……。 髓:それはキミがキミ自身の命を手放したからだよ。 葉月:っっ?! 髓:キミの命はボクが貰った。 髓:キミはボクと契約を交わした。 髓:キミの所有者はもうキミではない。 髓:だからどうするかはボクの自由だ。 葉月:お前、線路で浮いてた奴か? 髓:うん、記憶回路は正常みたいだね。 葉月:なんで……。 髓:なんで? 髓:キミは何に対してなんでと言っているの? 髓:キミをバラバラにしたままくっ付けていない事? 髓:それとも、バラバラのキミを拾ってわざわざ生かした事? 髓:嗚呼それとも、時を止める能力があるのにも関わらず、わざわざ電車に轢かれるキミを見殺しにした事? 葉月:……全部だ。 髓:全部?欲深いなぁ。 髓:まぁいーや。 髓:頭から答えてあげる。 髓:だからその間にキミは、自分の現状を受け入れてもう少しだけ冷静になって。 葉月:………分かった。 髓:うん。 髓:ひとつめ、どうしてキミをバラバラのままにしているのか。 髓:これはさっきも言ったけど、ボクは母と違ってマッドサイエンティストでは無いから、切り離された足や手を、ひとつひとつ動かす方法しか急ごしらえでは出来なかったんだ。 髓:但し、ボクは母と違ってマッドサイエンティストでは無いけれど、パズルは得意ではあるから、この状態のキミをくっ付けるのは訳ないよ? 葉月:…………そう。 髓:だけどボクはきっと、ボクを理不尽だと思っているキミに対して、選択を残してあげたんだよ。 葉月:選択? 髓:うん。 髓:このまま機械の電源を落として、キミはバラバラのまま望み通り死ぬのか。 髓:それともツギハギだらけだけど、繋ぎ合わせて生きるのか。 髓:どっちがいい? 葉月:………………。 髓:まぁ自殺を実行したキミには、少しばかり酷な質問だったかな。 葉月:少し考える時間が欲しい。 髓:いいよ。 髓:じゃあこの答えは後に回そうか。 葉月:ありがとう。 髓:? 葉月:どうした? 髓:ううん、なんでもないよ。 髓:どういたしまして。 葉月:あ、嗚呼。 髓:ふたつめね。 髓:ふたつめは、どうしてバラバラのキミをわざわざ拾って生かしたのか。 葉月:ビジュアル最悪だけどな……。 髓:おや、ちょっと冷静になったね。 葉月:冷静と言うか……慣れた。 髓:ふぅん。 葉月:それで? 髓:ん? 葉月:それで、どうしてこの最悪のビジュアルのまま、お前は俺を生かそうとしてるんだ? 髓:キミは*Spinal code《すぴなる こーど》って知っているかい? 葉月:すぴなるこーど? 髓:うん。 髓:丁度ここからこのあたりくらいにまである、脊髄って言った方が馴染み深いかな? 葉月:脊髄がなんだよ。 髓:脊髄を英訳すると*Spinal code《すぴなる こーど》って言うんだけど、ボクの*Spinal code《すぴなる こーど》の丁度ここ。 髓:腰より少し上くらいの部分。 髓:ここに、とある組織が喉から手が出るほど欲しがっている、ある物が埋め込まれている。 葉月:ある物って、そんなところに? 葉月:なんだよそれ。 髓:さぁ? 髓:ボクにも全部は分からない。 髓:ただ、この埋め込まれた物のお陰で、 髓:ボクは少しばかり特殊な能力を使える事が出来るんだ。 葉月:宙を浮いたり時間を止めたり? 髓:うん。 葉月:それで? 髓:そう急かさないでよ。 髓:とりあえずボクはこの埋め込まれた物のせいで、各方面から狙われているんだ。 葉月:うん。 髓:だから逃げる為の駒が欲しくて。 葉月:それが、俺? 髓:そう。 髓:ここでみっつめの解答。 髓:ボクはキミが"死んだ"と言う確かな証拠を、キミの家族やあの時ホームに居た人々。 髓:色んな人の印象に残したかった。 髓:だから、助けられたけどあえて見殺しにした。 葉月:なるほどね。 葉月:確かに駒にするのなら生きてる人間よりも、死んだ人間の方が都合がいいか。 髓:物分かりがいいねキミ。 葉月:物分かりだけは、だけどな。 髓:うん。 髓:さて、キミの名前は*竜園寺《りゅうおんじ》。 髓:下は、葉、 葉月:葉月、*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》。 髓:なんか聞いた事があってずっと煮え切らないんだ。 葉月:どうせ父親の会社の事だろ。 髓:嗚呼、*竜園寺《りゅうおんじ》財閥? 髓:キミはあそこの息子かな? 葉月:そうだな、一応。 髓:そうか、だから電車だったんだ。 葉月:? 髓:大金持ちの息子なら、賠償責任を苦に後追いする事もないもん。 葉月:………金だけはあるからな。 葉月:まぁ、面目は潰れてて欲しいけど。 髓:遺書か何かを残したの? 葉月:いいや。 髓:嗚呼じゃあ揉み消されそうだね。 葉月:だろうな。 葉月:アイツらは世間体が何よりも大切だから。 髓:ふぅん。 葉月:お前は? 髓:何が? 葉月:名前。 髓:嗚呼、*佐々木 髓《ささき ずい》。 葉月:髓?変な名前だな。 髓:本名は違うけどね。 髓:でもボクは髓がいいから、髓なんだ。 葉月:ふーん。 髓:さて、葉月。 葉月:なに? 髓:キミは命を捨てて、その命はボクの物になった。 髓:どうせ死ぬのならボクを助けて、気持ちよくなってから死んでみない? 0:一拍。 葉月:(M) 葉月:俺は髓のその提案を受ける事にした。 葉月:もっとも、これみよがしに伸ばされた手は、ガラスが阻んで掴めなかったし。 葉月:そもそも切り離された右手も左手も動かせやしなかったから、ガラスが無くても結果は同じだったが。 葉月:髓は機械を操作して、俺のちぎれた身体を一つずつくっ付けていった。 葉月:途中、 髓:なんだかフランケンシュタインみたいだね。 髓:まぁフランケンシュタインって怪物の名前じゃなくて、怪物を作り出した博士の方だけど。 髓:そうなるとボクがフランケンシュタインなのかな? 髓:ツギハギだらけの怪物はキミだし。 髓:でもボクは母と違ってマッドサイエンティストじゃないんだけどな。 葉月:(M) 葉月: 葉月:なんて事をブツブツと呟いていたが、どうにもこの髓と言う人間は独り言が長いタイプらしい。 葉月:俺の返答なんて気にも止めずに、鼻歌交じりに機械を操作する。 葉月:そんな姿に少しだけ、俺は薄ら寒い恐怖を感じていた。 葉月:表面的な怪物に成り果てようとしている俺よりも、この女の方がいっそ怪物のようだと、俺は四肢を繋ぎ合わせられながらそう考えていた。 0:一拍。 髓:さぁ、出来たよ。 髓:ちゃんと動くか確認してね。 葉月:あ、嗚呼。 髓:その間にボクは隣の家の兄ちゃんから、全裸のキミの服を借りてくるよ。 髓:なんせボクはおとさんと違って、裁縫が得意ではないからね。 葉月:え?あ、そうか。 葉月:制服もバラバラなのか。 髓:うん。 髓:生憎家にはキミに合った服を着る人はいない。 髓:おとさんは着物ばかりだし。 髓:少しだけある洋服もキミには少し大き過ぎるから。 葉月:さっきから言っているおとさんってなんだ? 髓:おとさんはおとさんだよ。 葉月:父親? 髓:そんな感じ。 髓:おとさんの他にはもう、おかさんと妹。 髓:そしてボクと、みんな向いてないから、 髓:ボクはやっぱり隣の家の兄ちゃんから、キミが着れそうな服を借りるしかない。 葉月:あ、嗚呼。 髓:キミはその間にリハビリかねて、身体を動かしているといいよ。 葉月:分かった。 髓:あ、でも。 葉月:? 髓:動くのはこの部屋だけ。 髓:二階に上がっちゃいけないよ? 髓:二階にはおとさんの宝物が居るから、ボクでも妹でも許可無しに入ると怒られるんだ。 葉月:流石に他人の家をそこまで探るつもりはないから、この部屋の中に居るよ。 髓:ホラー映画なら徘徊するところだけど? 葉月:触らぬ神に祟りなし。 髓:神、ねぇ。 髓:なかなか面白い表現だね。 葉月:よくある言葉だと思うけどな。 髓:そう?そうだね、うん、そうだ。 葉月:? 髓:じゃあ行ってきまーす。 葉月:よろしく。 0:一拍。 葉月:(M) 葉月:  葉月:球体関節人形ように、俺は綺麗に関節ごとに繋ぎ合わされた。 葉月:幸いな事に顔は綺麗に残っていたらしく、フランケンシュタインの怪物のように、見るからにツギハギだらけではない。 葉月:服を纏えば隠れるせいか、パッと見は普通の人間と変わらなかった。 0:一拍。 髓:隣の家の兄ちゃんは私服が派手な色が多いんだ。 0:一拍。 葉月:(M) 葉月: 葉月:そう言って借りてきたと言うパーカーは、確かに鮮やかな緑色をしていた。 葉月:物と化した俺の命の、所有権はこいつの手の中で無遠慮に握られている。 0:一拍。 髓:作戦会議を練ろう、葉月。 葉月:嗚呼、分かったよ髓。 0:一拍。 葉月:(M) 葉月: 葉月:やがて俺はこいつに跪き、手足となって動く駒と言う名のペットになるのだろう。 葉月:飼い殺されても構わない。 葉月:元よりこの命は、俺の手の中から零れ落ちているのだから。 0:一拍。 髓:やぁ、おかさん。今日の調子はどうかな? 髓:ボクはね、久方ぶりに一人では無くなったよ。 髓:おとさんは隣の家のおじちゃんと何かを話に言って、*涼《すず》ちゃんは隣の家の兄ちゃんが迎えに行った。 髓:叔父さんはおーちゃんの所。 髓:ボクは……。 髓:大丈夫、盗られないよ。 髓:その為にボクは生かされた。 髓:…………審判の時は近い。 0:一拍。 葉月:ってな訳で、俺達はある目的を持ってこの学園に居る。 葉月:或いは*飛《ふぇい》さんの言う通りに、木を隠すのなら森の中だ。 葉月:こいつの残念なところは四つある。 葉月:一つは性格、くそ程お喋り。 葉月:話し始めたら止まらないのは、今さっき聞いたばかりだろう? 髓:そんなにボクは話してただろうか? 葉月:嗚呼、勿論だともご主人様! 髓:だからそれは嫌だって! 葉月:さてさて二つ目。 葉月:二つ目はどうにも自分を客観視出来ないところだ。 葉月:どうにもこいつは自分を、ただの一般人だと思い込んでいる。 葉月:何故ならこいつの周りは、揃いも揃って人外化け物だらけだからだ。 葉月:かく言う俺もその化け物の一員ではあるけれど、それについては説明しただろう? 髓:ボクは誰とも違って普通の人間さ。 葉月:お黙りくださいませ、ご主人様。 髓:もう! 葉月:はてさて三つ目、残念な事に、こいつはとある組織に狙われている。 葉月:それはこいつが持っていてはいけない物の番人だからだ。 葉月:そしてこいつを狙う哀れな愚者共は、やはり揃いも揃って人外化け物だらけな訳で、 葉月:つまりは目には目を歯には歯を、化け物には化け物を。 葉月:そう言う目的で俺は怪物フランケンシュタインなのさ。 髓:フランケンシュタインは、 葉月:こうやってフランケンシュタインの話を持ち出すと、決まって話したがるんだ俺のお喋りなご主人様は。 髓:いい加減にしてよ! 葉月:もう一度言ってあげるよ。 葉月:*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》の身体はツギハギだらけで、まるで怪物のフランケンシュタインみたいだ。 葉月:でもフランケンシュタインは博士の名前であるから、 葉月:つまりは*佐々木 髓《ささき ずい》がフランケンシュタインになると言う事なのか? 葉月:何故ならば*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》はツギハギだらけなのだから。 髓:葉月はボクを時々いじめるんだ。 髓:ほらこうやって、ボクの口を開かせないようにするんだよ。 葉月:そろそろ話やがり過ぎですよ。 葉月:耳かっぽじってもう一度よーく聞きやがれ。 葉月:お黙りくださいませ、さぁご主人様。 髓:キミなんて大嫌いだ、勿論今だけだよ。 葉月:それはなんておあつらえ向きの地獄だか。 髓:あはは。 葉月:急に話かけられて、しかも開口一番マシンガントークで、そろそろ耳が疲れているだろう。 葉月:でも安心して、そろそろ終わるよ。 葉月:だって俺達は、お前を殺しに来たんだから。 葉月:なんでかって言えばさ、お前が俺達を殺しに来たからだ。 葉月:哀れな愚者は哀れなままに死ぬべきだ。 葉月:なんせ*Spinal code《すぴなる こーど》は渡せないんだ。 葉月:勿論、何一つとして分かる事も無いままだ。 葉月:何故ならば残念な事に、 葉月:フランケンシュタインは博士の名前であって、怪物の名前では無いからさ。 0:一拍。 髓:(M) 髓:  髓:生きたくても生きられなかった者達よ 髓:ボクは自分の不運を嘆いて今日も無意味に生きています 髓:皮の下には骨と肉が詰まり 髓:繰り返し動く衝動が巡回しながら僕の手足を動かしている 髓:ただの粒子の寄せ集め 髓:息をするだけの人形です 髓:自分で命を手放すのが罪と言うのなら 髓:ボクはキリストの足元には下りません 髓:ニルヴァーナなんて夢の先 髓:だから仏の足元にも下りません 髓:神なんていない 髓:どこにもいない 髓:だから八百万の神々にもボクは頭を垂れたりなどしないのです 髓:生きたくても生きられなかった者達よ 髓:出来る事ならば 髓:  髓:ボクと変わってくれませんか? 0:一拍。 髓:「自分がいつか必ず死ぬ事を忘れる事なかれ」 葉月:なに? 髓:「メメント・モリ」知らない? 葉月:お前、キリストの足元には下らないんじゃなかったっけ? 髓:下らないよ? 髓:ボクは全ての神を信じているから、全ての神を信じないんだ。 葉月:神なんていない? 髓:そう。 髓:ボクは知っているんだ。 髓:神に振り回された人達の事を、身近に。 葉月:なら、なんでこんな学園に居るんだよ。 髓:木を隠すなら森の中って、おとさんが言ったからだよ。 0:一拍。 葉月:エリ、エリ、レマ、サバクタニ。

髓:ねぇ知っているかい? 髓:*天鈿女《あまのうずめ》と言う神様が居て、 髓:彼女は古事記に出て来る女神なんだけれど、 髓:かの有名な*天照大御神《あまてらすおおみかみ》が、*天岩戸《あまのいわと》の向こう側に隠れてしまった時に、 髓:そこから引き摺り出すのに一役買った神様なんだ。 葉月:髓⋯⋯髓! 髓:そもそも*天照大御神《あまてらすおおみかみ》が*天岩戸《あまのいわと》に隠れちゃったのは、 髓:諸説あれど1番は弟の*須佐之男命《すさのおのみこと》が関係していて、 髓:まぁそこから話すってなるとだいぶ長くなっちゃうから、今回は言わないんだけど。 葉月:おい、おい髓!聞けって 髓:ともかく*天岩戸《あまのいわと》に引き篭った*天照大御神《あまてらすおおみかみ》は、 髓:やがて岩の外が騒がしい事に気付くんだ。 髓:「自分が居ないのに、どうしてみんなは楽しそうなの?」って。 髓:神様は元来、承認欲求が強いものだとボクは思っているから、 髓:やっぱりかの有名な*天照大御神《あまてらすおおみかみ》だって、 髓:自分抜きに周りがどんちゃん騒ぎしているのは面白くない訳で、 髓:気になっちゃうのも無理はないと思うけどね?ボクは。 葉月:駄目だこれ、聞こえてねぇ⋯⋯。 髓:さて岩の外で*天鈿女《あまのうずめ》が、結果的に*天照大御神《あまてらすおおみかみ》が、 髓:気になってつい様子を伺ってしまう程に周りを盛り上げた事なんだけれど、 髓:実際、何をしたかって言えば、 髓:どうやら彼女は踊ったらしいんだよ、舞をね。 葉月:すんません。 葉月:もう少しで終わると思うんで、はい。 髓:ただその舞って言うのがどうやら下品なもので、 髓:現代で言うところのストリップショーめいたものだったって説があるんだ。 髓:面白いよね? 髓:性行為って言うのはそもそも種を存続する為に、どの生物にも必要な行為ではあるのだけれど、 髓:ただ快楽を求める為に興ずる事もある訳で、大概それって人間がやっていて、 髓:つまりは他の生物から見た時にとっても無駄な行為なんだけれど、 髓:仮に観客が全て*男神《おがみ》だった場合でも、 髓:女神のストリップショーは大層愉快なものだったんだなぁってなったら、 髓:ボクはなんて神様は人間らしいのだろうと、ついそう思っちゃうんだ。 葉月:あ〜⋯⋯*飛《ふぇい》さん電話に出ねぇ。 葉月:何か察しただろ絶対。 髓:嗚呼そう言えば!性行為で思い出したんだけど。 髓:猫の交尾って物凄く痛いらしいね? 髓:雌に対しての負担が凄いんだって! 髓:なんでなんだろう?ってボクは気になったけれど、ボクはたまたま人間であって猫ではないから、 髓:そうなると人間のボクが猫にならない限り、ボクの疑問は正しく解消されない訳なんだ。 髓:でもボクは母と違ってマッドサイエンティストではないから、 髓:人間から猫になる手段なんて思い付きもしなくて、だから〜 葉月:(被せる) 葉月:おーわーりー!おしまい! 葉月:いい加減にしろ、髓。 髓:やぁ、葉月。 髓:どうしたんだい? 葉月:初見マシンガントークはやめろって、いつも言ってるだろ。 髓:そうは言われてもボクは、叔父さんと違ってお喋りが好きだからつい話したくなっちゃうんだ。 髓:葉月は聞いてくれないし〜。 葉月:聞かれてなくても問題ねぇだろ。 葉月:お前は話したいだけなんだからよ。 髓:まぁ確かに、それはそうだ。 葉月:はぁ〜⋯⋯。 葉月:嗚呼すんません急に呼び止めたのに、こんな下らない事に付き合わせちゃって。 髓:下らないとはなんだよ!心外だなぁ。 葉月:お前が思ってるよりも、お前の疑問は壮大じゃねぇんだ。 葉月:些細なんだよ、さ・さ・い! 髓:ボクはおかさんと違って学ぶ事が出来るから、知らない事がそのままなのは気持ち悪いんだ! 葉月:だからって知識を他人に押し付けんなって話をしてんだ、俺はな。 髓:それはだって⋯⋯。 髓:嗚呼でも、その通りかもしれないやぁ〜。 葉月:はいはい、やーっと落ち着きまちたねー。 葉月:そのまま黙って、大人しく良い子で居てくれ頼むから。 髓:具体的には何分くらい、ボクは黙っていればいいのかな? 葉月:そうだな、12時間くらいかな。 髓:半日黙れは流石に横暴だよ葉月! 葉月:うっっるせぇなぁ! 葉月:じゃあ、簡潔に! 葉月:細かく言えばひと言で済ませるなら! 葉月:話してもいい! 髓:分かった! 葉月:(小声) 葉月:どうせ無理だろうけど⋯⋯。 髓:それで? 髓:キミはどうしてこの人に話し掛けたの? 髓:ボク達が居るのは*香桜《かおう》学園って所で、まぁボクも葉月もこの学園の生徒なんだけれど、 髓:そもそもボクがここに通っているのは、おとさんから命令されたからであって、 髓:葉月が居るのはそれは葉月がボクの物だからなんだけど、 髓:嗚呼!葉月がボクの物って言うのは、 葉月:(被せる) 葉月:お前が自殺した俺の死体をひとつ残らず拾い集めて、 葉月:妙な力と到底そうとは思えない自称、科学の力で俺を蘇らせたから。 葉月:だから*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》は*佐々木 髓《ささき ずい》の所有物であって、 葉月:俺自身の所有権はとっくに消失している。 葉月:*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》の身体はツギハギだらけで、まるで怪物のフランケンシュタインみたいだ。 葉月:でもフランケンシュタインは博士の名前であるから、 葉月:つまりは*佐々木 髓《ささき ずい》がフランケンシュタインになると言う事なのか? 葉月:何故ならば*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》はツギハギだらけなのだから、だろ? 髓:凄いね葉月! 髓:ボクが言いたかった事が、どうして全部分かったの? 葉月:そんなん全く同じ事を誰かと知り合う度に必ず、どっかの誰かさんが言うからだ! 髓:ボクが知らない所でキミは仲のいいお友達が出来たようだ。 髓:なんだか妬けちゃうなぁ〜ぷぇ〜。 葉月:本気で自分じゃねぇって反応すんじゃねぇよ⋯⋯。 髓:? 葉月:あ〜⋯⋯嫌だ〜まじでめんどくせぇ〜。 葉月:なんなんだコイツ〜。 葉月:慣れねぇ〜嫌だ〜。 髓:でもボクを分かっているのは、他ならぬキミだけなんだ。 葉月:少しも嬉しくねぇ〜。 髓:少なくともボクはキミの種の存続の為の片棒くらいは、担いであげてもいいと思っているよ。 葉月:なに?お前遠回しに愛の告白した、いま? 髓:やだなぁ〜。 髓:ボクはおとさんと違って誰かを愛する事には向いていないし、 髓:ボクはおかさんと違って誰かに愛される才能も無いんだよ。 髓:土台無理な話を、ボクに求めないでくれるかな? 葉月:求めてないし、求める事もないです。 葉月:端からその点に関してお前のセンサーには、まっったく期待してないから安心しろ。 髓:まぁキミが愛して欲しいって言うのなら、愛す努力はしてあげるよ。 髓:嗚呼、でもその代わりボクの事は愛さないで欲しいな? 髓:だってボクはおかさんと違って、束縛されるのも執着されるのも苦手なんだ。 葉月:愛すなり愛さないなり好きにすればいいだろ。 葉月:どうせ俺はお前に生かされてるんだから。 髓:そうだね、それもそっか!ところで葉月。 葉月:なんですかー?ご主人様。 髓:それは何だかおとさんみたいで嫌だなぁ。 葉月:じゃあ、飼い主さん。 髓:犬は好き、隣の家のおじちゃんみたいだから。 葉月:わん! 髓:でもキミは隣の家のおじちゃんとは違うし、 髓:ボクは*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》は欲しいけど、犬は欲しくないからやめてくれないかな。 葉月:はいはい、ごめんなさい。 葉月:それで、言いかけてた事は? 髓:嗚呼そうだ、ねぇ葉月。 葉月:うん。 髓:ボク達はいったい何の話をしているの? 葉月:お前がそれ言っちゃったかー。 葉月:(以下、葉月M) 葉月:  葉月:*佐々木 髓《ささき ずい》、脊髄の髓。 葉月:本名不明。 葉月:こいつと俺が出会ったのは、到底、¨ひょんな¨とは言えない状況だった。 髓:「いらないならボクが貰ってもいいだろう?」 葉月:(以下、葉月M) 葉月:  葉月:隙に飲まれるとはこう言う事かと、当時の俺はそう思っていて。 葉月:その僅かな隙に飲まれた自分を、*現在《いま》の俺は後悔している。 葉月:  葉月:早い話、俺は死んだ。 葉月:駅のホームから飛び降りて。 葉月:  葉月:一瞬の苦痛と、けたたましいブレーキ音と、それから永遠の暗闇の中で。 葉月:  葉月:気まぐれの様に目を覚ませば、俺はこの女に生かされる。 葉月:それ以外の選択肢を失っていたのだ。 0:一拍。 髓:目を覚ました男は*呻《うめ》き声を漏らした後に、ふと辺りを見渡そうとして、 髓:それから指の先すら動かせない事に気が付いた。 葉月:⋯⋯は? 髓:男は思う。「ここはどこなんだ?」と。 髓:「俺はどうなったんだ?」と。 髓:それから、「あの女は誰なんだ?」とも。 葉月:⋯⋯。 髓:合ってるかい? 葉月:何が? 髓:だから、君の心境だよ。 髓:或いはモノローグ⋯⋯いや、ナレーションかな? 葉月:よく分かんねぇ。 髓:映画は観る方?洋画でも邦画でもいいよ。 葉月:洋画も邦画もあまり見ねぇ。 髓:じゃあ言ったところで無意味かな。 葉月:何が、 髓:映画ってさ、まぁ映画じゃなくても創作物ならなんでもいいんだけどさ。 髓:大概始まりは説明から入るんだよ。 葉月:説明? 髓:そう。 髓:例えば演者に言わせる場合、 髓:「俺は雑貨屋を経営しているしがない男だ。ところが昨日の晩、何者かに頭を殴られてからの記憶が無い!」 髓:「今は何年何月何日だ?なに?!カレンダーには遥か未来の日付が載っているじゃないか!これは夢なのか?いや、そんな筈は無い」とかね。 葉月:はぁ⋯⋯? 髓:文字で全てを表現するのは難しいんだ。 髓:詳細な情景なんか、書いてる本人にしか分からない。だから書かなきゃいけない。 髓:でも説明口調だと単調になっちゃうし、全てをいちいち説明してたらキリが無い。 葉月:何が言いたいんだ、お前。 髓:きっと訳も分からないままここに居る筈だから、君の代わりにボクが君の心境を言ってあげようと思って。 葉月:こ 髓:「ここはどこなんだ?」ここはボクのお家。 髓:或いはおとさんとおかさんのお家でもあるよ。 葉月:お 髓:「俺はどうなったんだ?」 髓:まぁ少なくとも死んではいないんじゃないかなぁ。 葉月:おま 髓:お前は、 葉月:うるせぇ、自分で言う。 髓:はぁーい。 葉月:⋯⋯。 髓:どうぞ、続けて? 葉月:なんか気に食わねぇけど⋯⋯。 葉月:はぁ、お前は誰だ? 髓:人に聞く前に自分から名乗るのが筋だって君は習わなかったのかい? 葉月:何なんだお前⋯⋯。 髓:うーん、これも駄目な事かもしれないなぁ。 髓:なんせボクはおかさんと違って、言葉数が多いから。 髓:でもおかさんは少な過ぎるとボクは思うけどね。 葉月:⋯⋯。 髓:あ、ごめん。どうも話し過ぎちゃうんだボクは。 髓:物事を簡潔に言えないと言うか、ほら今だって沢山話してるでしょう?この癖を直せって隣の家のおじちゃんは言ってくるんだけど、やっぱりどうしてもボクには難しくてさぁ。 髓:君もそう思うでしょう? 葉月:正直「お前は誰だ?」って聞いただけで、ここまで時間が掛かるとは思わなかった。 髓:でしょう?ボクと話すのは疲れるらしいんだ。 髓:おとさんはまだボクのお話を聞いてくれる方ではあるけど、それでも途中からなんだか疲れたような顔をしちゃうんだ。 葉月:まぁ疲れるとは思う。 髓:わぁ、どストレートだぁ。 髓:ボクの周りには正直者しか居ないから、君は問題なく馴染めそうだね。ねぇ*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》くん。 葉月:なんで俺の名前、 髓:だって君の身分を証明するもの一式、ボクが持ってきちゃったからねぇ。 髓:必要かなぁって思って、お節介だった? 葉月:いや⋯⋯。 髓:まぁお陰様で君は無駄死にしちゃったんだけど。 髓:君の身体も君の持ち物も、ボクが全部ここに持ってきちゃって、残ったのは夥しい量の血液だけ。 髓:あれ、もしかしてこれってボクが君の邪魔をした事になるのかな? 葉月:無駄死にって⋯⋯待て。 葉月:俺は確かに死んだ筈で……確か……俺は。 髓:電車での自殺は、手っ取り早く死ねるから選択する人が多いんだ。 葉月:……は? 髓:だけど賠償責任と言うものがあって、下手したら億まで行くほど、責任と称したお金を払わなきゃいけない。 葉月:おい。 髓:でも当の本人は死んでいるんだ。 髓:それならその責任は誰が取る? 髓:残された遺族しかいないよね。 葉月:聞いてるのか? 髓:噂によれば賠償責任に喘いで、結局、後追い自殺をする遺族も居るらしいよ? 髓:皮肉な話だけど。 葉月:おい、質問に答えろ。 髓:まぁ死のうとする時に残された者の事を考える余裕があるのなら、そもそもそいつは自死と言う手段は取らないんじゃないかって、ボクはそう思っているよ。 葉月:おい、無視するな。 葉月:なんだ?腕が動かない。 髓:後はそうだなぁ。 髓:条件が揃うとね、いくら電車に轢かれたところで生き残るパターンがあるんだ。 髓:そうなるともうその先は地獄だよ、生き地獄だ。 髓:だからテケテケなんて都市伝説が生まれるんだろうね? 葉月:そう言えば腕どころか足も……。 葉月:いや、首も身体のどこも動かない。 0:髓。葉月の方に近付いてくる。 髓:あれぇ知らなかった? 葉月:? 髓:テケテケ。 葉月:いや……知ってる。 髓:そう。 髓:じゃ、良かったね。 葉月:何が? 髓:生き残らなくて。 葉月:は? 髓:その状態で生き残っちゃったら、もう本当に生き地獄だったよ。 葉月:その状態って、何言ってるんだよお前。 髓:嗚呼そうか自分じゃ見れないんだ。 髓:うっかりしてたよ!ちょっと待ってて。 葉月:え?……あ、おい。 0:髓、大きな鏡を持ってこようとしながら。 髓:痛感と言うのは自覚しないと機能しない。 髓:流れ出る血を見て始めて、耐え難い痛みに襲われたりね。 髓:よいっしょ……重たいな。 葉月:さっきから言ってること訳分かんねぇんだけど。 髓:嗚呼でも安心して。 髓:キミの痛感は切ったし脳も少し弄ったから、キミは視認したところで痛みは感じないと思うよ。 葉月:はぁ? 髓:よいっしょ……よし。 髓:さぁ、この鏡で見てごらんよ。 髓:キミの"今"を。 0:葉月、切り離されてパーツごとに管に巻かれながら水槽に浮く自分の姿を鏡で見て驚く。 葉月:見るって……うわああああああああ!! 髓:苦労したんだよ? 髓:なんせキミはバラバラだったから。 髓:欠片の一つも残してはおけなかったし。 葉月:なっっ?!なん、これ、なんで!! 髓:ボクは母と違ってマッドサイエンティストでは無いから、急ごしらえでは一つ一つ動かすだけで手一杯だったんだ。 葉月:俺の腕……足も……。 葉月:いや、なんで俺はこんな……こんなバラバラで生きているんだ?! 髓:ちっちっちー不正解。 葉月:はぁ? 髓:正確にはキミは生きてなんかいないよ。 髓:正真正銘死んでいる。 髓:今頃キミの家族は、キミの死亡診断書を医者に書かせてるんじゃないかな? 葉月:どう言う事だよ?! 髓:嗚呼それとも感情の有る無いしを生と言うのなら、その意味ではキミは、まだ、ギリギリ、生きているんじゃないかな? 葉月:なんでこんなおぞましい事……。 髓:それはキミがキミ自身の命を手放したからだよ。 葉月:っっ?! 髓:キミの命はボクが貰った。 髓:キミはボクと契約を交わした。 髓:キミの所有者はもうキミではない。 髓:だからどうするかはボクの自由だ。 葉月:お前、線路で浮いてた奴か? 髓:うん、記憶回路は正常みたいだね。 葉月:なんで……。 髓:なんで? 髓:キミは何に対してなんでと言っているの? 髓:キミをバラバラにしたままくっ付けていない事? 髓:それとも、バラバラのキミを拾ってわざわざ生かした事? 髓:嗚呼それとも、時を止める能力があるのにも関わらず、わざわざ電車に轢かれるキミを見殺しにした事? 葉月:……全部だ。 髓:全部?欲深いなぁ。 髓:まぁいーや。 髓:頭から答えてあげる。 髓:だからその間にキミは、自分の現状を受け入れてもう少しだけ冷静になって。 葉月:………分かった。 髓:うん。 髓:ひとつめ、どうしてキミをバラバラのままにしているのか。 髓:これはさっきも言ったけど、ボクは母と違ってマッドサイエンティストでは無いから、切り離された足や手を、ひとつひとつ動かす方法しか急ごしらえでは出来なかったんだ。 髓:但し、ボクは母と違ってマッドサイエンティストでは無いけれど、パズルは得意ではあるから、この状態のキミをくっ付けるのは訳ないよ? 葉月:…………そう。 髓:だけどボクはきっと、ボクを理不尽だと思っているキミに対して、選択を残してあげたんだよ。 葉月:選択? 髓:うん。 髓:このまま機械の電源を落として、キミはバラバラのまま望み通り死ぬのか。 髓:それともツギハギだらけだけど、繋ぎ合わせて生きるのか。 髓:どっちがいい? 葉月:………………。 髓:まぁ自殺を実行したキミには、少しばかり酷な質問だったかな。 葉月:少し考える時間が欲しい。 髓:いいよ。 髓:じゃあこの答えは後に回そうか。 葉月:ありがとう。 髓:? 葉月:どうした? 髓:ううん、なんでもないよ。 髓:どういたしまして。 葉月:あ、嗚呼。 髓:ふたつめね。 髓:ふたつめは、どうしてバラバラのキミをわざわざ拾って生かしたのか。 葉月:ビジュアル最悪だけどな……。 髓:おや、ちょっと冷静になったね。 葉月:冷静と言うか……慣れた。 髓:ふぅん。 葉月:それで? 髓:ん? 葉月:それで、どうしてこの最悪のビジュアルのまま、お前は俺を生かそうとしてるんだ? 髓:キミは*Spinal code《すぴなる こーど》って知っているかい? 葉月:すぴなるこーど? 髓:うん。 髓:丁度ここからこのあたりくらいにまである、脊髄って言った方が馴染み深いかな? 葉月:脊髄がなんだよ。 髓:脊髄を英訳すると*Spinal code《すぴなる こーど》って言うんだけど、ボクの*Spinal code《すぴなる こーど》の丁度ここ。 髓:腰より少し上くらいの部分。 髓:ここに、とある組織が喉から手が出るほど欲しがっている、ある物が埋め込まれている。 葉月:ある物って、そんなところに? 葉月:なんだよそれ。 髓:さぁ? 髓:ボクにも全部は分からない。 髓:ただ、この埋め込まれた物のお陰で、 髓:ボクは少しばかり特殊な能力を使える事が出来るんだ。 葉月:宙を浮いたり時間を止めたり? 髓:うん。 葉月:それで? 髓:そう急かさないでよ。 髓:とりあえずボクはこの埋め込まれた物のせいで、各方面から狙われているんだ。 葉月:うん。 髓:だから逃げる為の駒が欲しくて。 葉月:それが、俺? 髓:そう。 髓:ここでみっつめの解答。 髓:ボクはキミが"死んだ"と言う確かな証拠を、キミの家族やあの時ホームに居た人々。 髓:色んな人の印象に残したかった。 髓:だから、助けられたけどあえて見殺しにした。 葉月:なるほどね。 葉月:確かに駒にするのなら生きてる人間よりも、死んだ人間の方が都合がいいか。 髓:物分かりがいいねキミ。 葉月:物分かりだけは、だけどな。 髓:うん。 髓:さて、キミの名前は*竜園寺《りゅうおんじ》。 髓:下は、葉、 葉月:葉月、*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》。 髓:なんか聞いた事があってずっと煮え切らないんだ。 葉月:どうせ父親の会社の事だろ。 髓:嗚呼、*竜園寺《りゅうおんじ》財閥? 髓:キミはあそこの息子かな? 葉月:そうだな、一応。 髓:そうか、だから電車だったんだ。 葉月:? 髓:大金持ちの息子なら、賠償責任を苦に後追いする事もないもん。 葉月:………金だけはあるからな。 葉月:まぁ、面目は潰れてて欲しいけど。 髓:遺書か何かを残したの? 葉月:いいや。 髓:嗚呼じゃあ揉み消されそうだね。 葉月:だろうな。 葉月:アイツらは世間体が何よりも大切だから。 髓:ふぅん。 葉月:お前は? 髓:何が? 葉月:名前。 髓:嗚呼、*佐々木 髓《ささき ずい》。 葉月:髓?変な名前だな。 髓:本名は違うけどね。 髓:でもボクは髓がいいから、髓なんだ。 葉月:ふーん。 髓:さて、葉月。 葉月:なに? 髓:キミは命を捨てて、その命はボクの物になった。 髓:どうせ死ぬのならボクを助けて、気持ちよくなってから死んでみない? 0:一拍。 葉月:(M) 葉月:俺は髓のその提案を受ける事にした。 葉月:もっとも、これみよがしに伸ばされた手は、ガラスが阻んで掴めなかったし。 葉月:そもそも切り離された右手も左手も動かせやしなかったから、ガラスが無くても結果は同じだったが。 葉月:髓は機械を操作して、俺のちぎれた身体を一つずつくっ付けていった。 葉月:途中、 髓:なんだかフランケンシュタインみたいだね。 髓:まぁフランケンシュタインって怪物の名前じゃなくて、怪物を作り出した博士の方だけど。 髓:そうなるとボクがフランケンシュタインなのかな? 髓:ツギハギだらけの怪物はキミだし。 髓:でもボクは母と違ってマッドサイエンティストじゃないんだけどな。 葉月:(M) 葉月: 葉月:なんて事をブツブツと呟いていたが、どうにもこの髓と言う人間は独り言が長いタイプらしい。 葉月:俺の返答なんて気にも止めずに、鼻歌交じりに機械を操作する。 葉月:そんな姿に少しだけ、俺は薄ら寒い恐怖を感じていた。 葉月:表面的な怪物に成り果てようとしている俺よりも、この女の方がいっそ怪物のようだと、俺は四肢を繋ぎ合わせられながらそう考えていた。 0:一拍。 髓:さぁ、出来たよ。 髓:ちゃんと動くか確認してね。 葉月:あ、嗚呼。 髓:その間にボクは隣の家の兄ちゃんから、全裸のキミの服を借りてくるよ。 髓:なんせボクはおとさんと違って、裁縫が得意ではないからね。 葉月:え?あ、そうか。 葉月:制服もバラバラなのか。 髓:うん。 髓:生憎家にはキミに合った服を着る人はいない。 髓:おとさんは着物ばかりだし。 髓:少しだけある洋服もキミには少し大き過ぎるから。 葉月:さっきから言っているおとさんってなんだ? 髓:おとさんはおとさんだよ。 葉月:父親? 髓:そんな感じ。 髓:おとさんの他にはもう、おかさんと妹。 髓:そしてボクと、みんな向いてないから、 髓:ボクはやっぱり隣の家の兄ちゃんから、キミが着れそうな服を借りるしかない。 葉月:あ、嗚呼。 髓:キミはその間にリハビリかねて、身体を動かしているといいよ。 葉月:分かった。 髓:あ、でも。 葉月:? 髓:動くのはこの部屋だけ。 髓:二階に上がっちゃいけないよ? 髓:二階にはおとさんの宝物が居るから、ボクでも妹でも許可無しに入ると怒られるんだ。 葉月:流石に他人の家をそこまで探るつもりはないから、この部屋の中に居るよ。 髓:ホラー映画なら徘徊するところだけど? 葉月:触らぬ神に祟りなし。 髓:神、ねぇ。 髓:なかなか面白い表現だね。 葉月:よくある言葉だと思うけどな。 髓:そう?そうだね、うん、そうだ。 葉月:? 髓:じゃあ行ってきまーす。 葉月:よろしく。 0:一拍。 葉月:(M) 葉月:  葉月:球体関節人形ように、俺は綺麗に関節ごとに繋ぎ合わされた。 葉月:幸いな事に顔は綺麗に残っていたらしく、フランケンシュタインの怪物のように、見るからにツギハギだらけではない。 葉月:服を纏えば隠れるせいか、パッと見は普通の人間と変わらなかった。 0:一拍。 髓:隣の家の兄ちゃんは私服が派手な色が多いんだ。 0:一拍。 葉月:(M) 葉月: 葉月:そう言って借りてきたと言うパーカーは、確かに鮮やかな緑色をしていた。 葉月:物と化した俺の命の、所有権はこいつの手の中で無遠慮に握られている。 0:一拍。 髓:作戦会議を練ろう、葉月。 葉月:嗚呼、分かったよ髓。 0:一拍。 葉月:(M) 葉月: 葉月:やがて俺はこいつに跪き、手足となって動く駒と言う名のペットになるのだろう。 葉月:飼い殺されても構わない。 葉月:元よりこの命は、俺の手の中から零れ落ちているのだから。 0:一拍。 髓:やぁ、おかさん。今日の調子はどうかな? 髓:ボクはね、久方ぶりに一人では無くなったよ。 髓:おとさんは隣の家のおじちゃんと何かを話に言って、*涼《すず》ちゃんは隣の家の兄ちゃんが迎えに行った。 髓:叔父さんはおーちゃんの所。 髓:ボクは……。 髓:大丈夫、盗られないよ。 髓:その為にボクは生かされた。 髓:…………審判の時は近い。 0:一拍。 葉月:ってな訳で、俺達はある目的を持ってこの学園に居る。 葉月:或いは*飛《ふぇい》さんの言う通りに、木を隠すのなら森の中だ。 葉月:こいつの残念なところは四つある。 葉月:一つは性格、くそ程お喋り。 葉月:話し始めたら止まらないのは、今さっき聞いたばかりだろう? 髓:そんなにボクは話してただろうか? 葉月:嗚呼、勿論だともご主人様! 髓:だからそれは嫌だって! 葉月:さてさて二つ目。 葉月:二つ目はどうにも自分を客観視出来ないところだ。 葉月:どうにもこいつは自分を、ただの一般人だと思い込んでいる。 葉月:何故ならこいつの周りは、揃いも揃って人外化け物だらけだからだ。 葉月:かく言う俺もその化け物の一員ではあるけれど、それについては説明しただろう? 髓:ボクは誰とも違って普通の人間さ。 葉月:お黙りくださいませ、ご主人様。 髓:もう! 葉月:はてさて三つ目、残念な事に、こいつはとある組織に狙われている。 葉月:それはこいつが持っていてはいけない物の番人だからだ。 葉月:そしてこいつを狙う哀れな愚者共は、やはり揃いも揃って人外化け物だらけな訳で、 葉月:つまりは目には目を歯には歯を、化け物には化け物を。 葉月:そう言う目的で俺は怪物フランケンシュタインなのさ。 髓:フランケンシュタインは、 葉月:こうやってフランケンシュタインの話を持ち出すと、決まって話したがるんだ俺のお喋りなご主人様は。 髓:いい加減にしてよ! 葉月:もう一度言ってあげるよ。 葉月:*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》の身体はツギハギだらけで、まるで怪物のフランケンシュタインみたいだ。 葉月:でもフランケンシュタインは博士の名前であるから、 葉月:つまりは*佐々木 髓《ささき ずい》がフランケンシュタインになると言う事なのか? 葉月:何故ならば*竜園寺 葉月《りゅうおんじ はづき》はツギハギだらけなのだから。 髓:葉月はボクを時々いじめるんだ。 髓:ほらこうやって、ボクの口を開かせないようにするんだよ。 葉月:そろそろ話やがり過ぎですよ。 葉月:耳かっぽじってもう一度よーく聞きやがれ。 葉月:お黙りくださいませ、さぁご主人様。 髓:キミなんて大嫌いだ、勿論今だけだよ。 葉月:それはなんておあつらえ向きの地獄だか。 髓:あはは。 葉月:急に話かけられて、しかも開口一番マシンガントークで、そろそろ耳が疲れているだろう。 葉月:でも安心して、そろそろ終わるよ。 葉月:だって俺達は、お前を殺しに来たんだから。 葉月:なんでかって言えばさ、お前が俺達を殺しに来たからだ。 葉月:哀れな愚者は哀れなままに死ぬべきだ。 葉月:なんせ*Spinal code《すぴなる こーど》は渡せないんだ。 葉月:勿論、何一つとして分かる事も無いままだ。 葉月:何故ならば残念な事に、 葉月:フランケンシュタインは博士の名前であって、怪物の名前では無いからさ。 0:一拍。 髓:(M) 髓:  髓:生きたくても生きられなかった者達よ 髓:ボクは自分の不運を嘆いて今日も無意味に生きています 髓:皮の下には骨と肉が詰まり 髓:繰り返し動く衝動が巡回しながら僕の手足を動かしている 髓:ただの粒子の寄せ集め 髓:息をするだけの人形です 髓:自分で命を手放すのが罪と言うのなら 髓:ボクはキリストの足元には下りません 髓:ニルヴァーナなんて夢の先 髓:だから仏の足元にも下りません 髓:神なんていない 髓:どこにもいない 髓:だから八百万の神々にもボクは頭を垂れたりなどしないのです 髓:生きたくても生きられなかった者達よ 髓:出来る事ならば 髓:  髓:ボクと変わってくれませんか? 0:一拍。 髓:「自分がいつか必ず死ぬ事を忘れる事なかれ」 葉月:なに? 髓:「メメント・モリ」知らない? 葉月:お前、キリストの足元には下らないんじゃなかったっけ? 髓:下らないよ? 髓:ボクは全ての神を信じているから、全ての神を信じないんだ。 葉月:神なんていない? 髓:そう。 髓:ボクは知っているんだ。 髓:神に振り回された人達の事を、身近に。 葉月:なら、なんでこんな学園に居るんだよ。 髓:木を隠すなら森の中って、おとさんが言ったからだよ。 0:一拍。 葉月:エリ、エリ、レマ、サバクタニ。