台本概要
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タイトル | 星降る夜のテロリスト |
---|---|
作者名 | 神澤ゆうき (@yukingod) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 2人用台本(不問2) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
「あの空を取り戻すんだ」 空を覆うネオンから、星空を取り戻す一夜の冒険。それは褒められたものではないのかもしれないけど。でもぼくらにとったら、とてもとても大切なことだった。 キャラクターの性別は変えて演じてOK。語尾も変えてOK。 アドリブは世界観を壊さない程度であればOK。 404 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ミギワ | 不問 | 101 | 少し気弱な高校生。カズネとの出会いで、少しずつ大胆なことにも慣れていく。未知に対する好奇心が強め。 |
カズネ | 不問 | 104 | 元電子エネルギー研究所の職員。最年少の天才と言われていたが、その名誉を棄てて研究所を辞めてきた。未知に対する好奇心がすごく強い。少々ロマンチスト。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
カズネ:この光るLEDを全て消して。
ミギワ:空の暗さを、美しさを、もう一度取り戻す。
カズネ:決行は明日だ。覚悟はいいか?
ミギワ:任せて。私はもう躊躇わない。
カズネ:うん、いい返事。
ミギワ:キミの声だけを頼りに行くよ。
カズネ:…(頷く)。明日、俺たちは空を取り戻す。何も出来ずに眺めていろ。…世界の、美しさを。
:*
:*
:*
ミギワM:この国は数年のうちに大きな発展を遂げた。街には最新学習AIを搭載したアンドロイドがまるで人間のように溶け込み、人間には到底できっこないような仕事をいとも簡単にやってみせる。
ミギワM:そのおかげで機械工業が更に発展。伴って経済が潤った。潤沢に資金を手にする人間が増え、生活スタイルも変化。人間が肉体労働をすることはほとんどなくなり、代わって様々なAIやアンドロイドを開発。身の回りの世話をさせるようになった。
ミギワM:街には常にネオンが光る。眠らない街。いや、眠らないなんて生ぬるい。もはや、朝がいつか、夜がいつか…彼らは知らない。知らないままで、今日も同じ毎日を繰り返す。まるで、ロボットのように…———。
:*
:*
:*
カズネ:なあ、来てみろよ。
ミギワ:……。え、私?
カズネ:そう、アンタだ。こっち、来てみろって。
ミギワ:やだよ。ていうか、キミ、誰?
カズネ:んなことどーでもいいだろ。
ミギワ:ダメに決まってるじゃん。知り合いじゃない人からいきなり声をかけられて、警戒してるんだよ、こっちは!
カズネ:…ふ。警戒してるとか、警戒してる人間の前で言うか普通。
ミギワ:いいの!それで、キミ誰!
カズネ:…ははっ!こっち、来たら教えてやる。
ミギワ:じゃあ知りたくないのでケッコーです。
カズネ:はあ?勿体ねぇの。今からこの世とは思えない景色見せてやるっつってんのに。
ミギワ:(少し興味を惹かれ)………。でも、その先は灯りがない。迷子にでもなったらどうするの。
カズネ:そうしたら俺が連れ帰って来てやるよ。…心配すんな。俺の声は遠くまで届くんだ。
ミギワ:でも…。
カズネ:あーもう、煮え切らないヤツだな!来い、いいから。
ミギワ:ちょ、何なのキミ!?あ、引っ張らないでって…!!
カズネ:黙って着いて来いって。後悔はさせないさ。
:*
:*
:*
:———しばらく暗い道を歩いていく二人。
ミギワ:いい加減っ…!どこまで行くのよ!?
カズネ:っと…。まあこの辺でいいか。
ミギワ:「(モノマネ)この世のものとは思えない景色見せてやる」って何なの?!
カズネ:似てねぇよ。…まだだ。もうちょい。
ミギワ:あっそ。…じゃあその間に教えて。キミ、誰?
カズネ:俺はカズネ。電子エネルギー研究所、電子科所属の技術者。
ミギワ:電子エネルギー研究所!?国の最重要施設じゃない!
カズネ:…を、辞めてきた天才だよ。
ミギワ:……。ふーん。
カズネ:あ、信じてないな?
ミギワ:なんで着いてきちゃったんだろ。ここらで失礼します。
カズネ:まあ、待て待て。俺はアンタのこと、まだ聞いてない。
ミギワ:怪しいヤツには名乗っちゃダメって学校で教わりました。
カズネ:ふん。まだそんな説教じみたこと教える学校があるんだな。…怪しいヤツじゃないだろ?俺は天才だ。
ミギワ:天才かどうか見極めることは今の段階ではできないよ。
カズネ:めんどくさい。…アンタはミギワ。私立の学校に通っているが、今日はサボり。家庭は少し厳しめで、あまり友達がいない。
ミギワ:……っ!な、なんで……。
カズネ:っ…くく、あははッ!ダメだろ、そんなに表情に出しちゃ!全部正解ですって言ってるようなもん…!ッくく…。
ミギワ:……。
カズネ:ふは、そんな睨むな。余計笑えてくる。アンタの格好、皺のない制服、誰とも行動を共にしている様子のないところから、アタリを付けてみた。どう?正解?
ミギワ:………名前は。
カズネ:アンタのその鞄。名前書いてあるぜ。
ミギワ:………。
カズネ:…。やめろ、睨むな。
ミギワ:天才なのは三分の一くらい伝わってきました。で?この世のものとは思えない景色とやらはまだですか?
カズネ:敬語やめろ。…うん、そろそろだな。俺がいいと言ったら上を見上げて。
ミギワ:………?
カズネ:3カウントでいこう。3、2、1…。
ミギワ:…(上を見上げて)……っ!!
:———一面の夜空、星が流れている。
カズネ:……どうだ、………すごいだろ。
ミギワ:………。なに、これ。
カズネ:流れ星っていうんだ。
ミギワ:…ながれ、ぼし。
カズネ:そう。流れ星。
ミギワ:こんなの、見たこと…ない。あれは、どこに落ちてるの。
カズネ:あれは宇宙の屑が地球の大気の摩擦で燃えているんだ。だから……落ちることは無い。燃え尽きる。
ミギワ:…無くなるの。
カズネ:そうだ。あれは無くなる間際の、小さな抵抗。「ここにいるよ」って。
ミギワ:……ここに、いる。
カズネ:…ちなみに一つの流れ星が消えるまでに願い事を三回言うと叶うらしいぜ。
ミギワ:(しばらく見て)…………ムリだよ。速すぎる。
カズネ:やってみろよ。ムリかどうかなんて、声を届けてみなきゃ分からないだろ。
ミギワ:………変なひと。………でも、キミの声はあの星みたいね。
カズネ:は?
ミギワ:なんでか、耳を貸さずには居られない。…輝いているように聞こえる。
カズネ:…………。
ミギワ:羨ましいな。
カズネ:…ふ、バカだな。それより、やるの、やらないの?
ミギワ:やってみる。三回言うんだっけ。
カズネ:そう。
ミギワ:(息を吸って、早口で)また見られますように!また見られますように!また見られますように!
カズネ:…ふ、あはは!だろ、また見たいだろ!?
ミギワ:うん。また見たい。こんなに綺麗なものがあるんだね。
カズネ:だから俺は研究所を辞めた!こんな綺麗なモンを隠すような研究はもうやめだ!
カズネ:なあ、ミギワ。来年もここだ、ここに来よう。
ミギワ:うん。絶対ね。
カズネ:っははは!いいな、来年が明日来ればいいのに!
:*
:*
:*
ミギワM:けれど、「来年」が叶うことは、無かった。数少ない暗闇は、開発の波に飲まれ…あっという間にネオンが光る街へ変貌した。
:*
:*
:*
カズネ:あん時のミギワの声が小さ過ぎたんだろ。それか滑舌が悪すぎたか。
ミギワ:はー!?言ってないカズネには言われたくないわよ。
カズネ:とにかく、俺たちはどうにかして空を取り戻さなくちゃいけない。
ミギワ:でも…もうどこにも暗闇なんてないでしょ。
カズネ:だったら作り出せばいいんだ。
ミギワ:え、作り出す……って?
カズネ:なあミギワ。テロリストになる気はあるか?
ミギワ:はあ!?
カズネ:ま、俺たちは政治的な思惑がある訳じゃないから厳密にはテロリストじゃないんだが…他人の生活を脅かすって点ではテロリストに当たるのかもな。
ミギワ:いやいやいやいや。詳しく説明して。
カズネ:ん?ああ、一晩この街の電気止めてやろうかと。
ミギワ:えええ!?
カズネ:病院や高齢者施設なんかは非常用電源があるし、その他電気が止まったら大変なことになる場所にも大抵非常用電源があるから…。停電っていう体で。
ミギワ:い、いやいや!?いやいやいやいや!?
カズネ:何だよ。
ミギワ:だだ、ダメだよ!?それは!!
カズネ:何で。
ミギワ:いや、悪いことだからだよ!純粋な目でこっち見んな!停電って、だって、アンドロイド達もみんな止まっちゃうし、今や電気エネルギーは生活の全てみたいなところあるし?
カズネ:だから何だよ。たかが一晩だろ。
ミギワ:いやいやたかが一晩って。
カズネ:…。ミギワ、俺だって別に誰かを困らせようとして考えている訳じゃない。
ミギワ:…うん。
カズネ:ただ、知って欲しいんだ。俺たちは普段、どれだけのものを知らないのか。見ないようにしているのか。見えないようにしているのかを。
ミギワ:………。
カズネ:星たちの「ここにいるよ」って声を、知らないままでいていいのか?
ミギワ:……。でも…。
カズネ:……なあ、ミギワ。一年前みたいだな。
ミギワ:…?
カズネ:一年前、お前はずっと煮え切らずにいた。未知に踏み出す勇気が無かったからだ。でもどうだ?未知の物に会った感想は。
ミギワ:…………。すごく、綺麗で。ワクワク、した。
カズネ:うん。
ミギワ:あと、…何でか、泣きそうだった。
カズネ:何で。
ミギワ:…あの星の「ここにいるよ」を、誰かに見てもらえてるのかなって、想像して、寂しくなって。
カズネ:ん。
ミギワ:私が見られて、あの声を受け取れて、良かったな……って。
カズネ:そう。
ミギワ:………もう、届かないなんて、あっちゃいけないよね…。
カズネ:誰かが、あの声を受け取ってくれるように。な?
ミギワ:私たちが受け取れるように、ね。
カズネ:どう?乗る?乗らない?
ミギワ:………あーあ。相変わらずキミの声はあの星みたい。乗る乗る、乗ったわよ、カズネ。これでいいんでしょ。
カズネ:ははっ、さすがミギワ。いいか、決行は次の流星の日だ。
ミギワ:……うん。
カズネ:大丈夫、俺がついてる。必ず上手くいく。そう口に出せば星が叶えずとも俺が叶えてやるさ。
:*
:*
:*
カズネ:この光るLEDを全て消して。
ミギワ:空の暗さを、美しさを、もう一度取り戻す。
カズネ:決行は明日だ。覚悟はいいか?
ミギワ:任せて。私はもう躊躇わない。
カズネ:うん、いい返事。
ミギワ:キミの声だけを頼りに行くよ。
カズネ:…(頷く)。明日、俺たちは空を取り戻す。何も出来ずに眺めていろ。…世界の、美しさを。やるぞ、テロ。
ミギワ:テロ、なんて聞くと怖いなぁ。
カズネ:怖気付くなよ。
ミギワ:はいはい。覚悟は決めてあるからね。
:*
:*
:*
カズネ:侵入経路確保。
ミギワ:…手際良すぎじゃない?
カズネ:元職員だぜ?当たり前だろ。内部の脆い所なんて知り尽くしてる。
ミギワ:…あっそ…。
カズネ:それよりほら、ボーッとすんな。行くぞ。
ミギワ:あ、待ってカズネ!
:———施設の中を進む二人。
カズネ:街全体を停電させるには、ここのシステムを弄らなきゃならないんだが…証拠を残さないよう慎重にな。
ミギワ:その辺のことは任せるよ。
カズネ:ちなみにめちゃくちゃ高いところに登るんだけど平気?
ミギワ:へ?
カズネ:くっ…ははっ!!その顔いいな!冗談じゃなく高いところ。今からアンタも道連れ。
ミギワ:……後戻りできないところまで来て言うの卑怯じゃない?
カズネ:追い詰められた鼠みたいだぜ、ミギワ。
ミギワ:嬉しくない。ああもう、任せるよ。ここまで来たら私の命はカズネが握ってるんだもん。本当は願い事を星に届けたいけどね。
カズネ:ちなみに何て?
ミギワ:カズネくんだけバレて捕まって。
カズネ:はは!
ミギワ:嘘。成功しますように。
カズネ:俺の声は星なんだろ?なら俺が叶えてやるから。
ミギワ:うん。今度こそ私の声が届くといいなぁ。
カズネ:星は聞き届けたってさ。待ってろよ。
:*
:*
:*
:———電子エネルギー研究所の電波塔。
ミギワ:……あの。こっから落ちたら?
カズネ:落ちてる間に気を失えるから考えなくていーんじゃねぇの。
ミギワ:たまにカズネってバカだよね。
カズネ:いいか、俺が合図したらそっちのコードを抜け。手袋を忘れんなよ。素手で触ったら死ぬ。
ミギワ:そんな死に方したくない。
カズネ:なら忘れんな。その後は都度指示する。俺の声をよく聞けよ。
ミギワ:…分かった。
カズネ:手袋はしたか?
ミギワ:うん。
カズネ:決行だ。3カウントでいこう。3、2、1…。今だ!
ミギワ:っ!(コードを引き抜く)
ミギワM:瞬間、全てが闇になった。上も、下も、右も左も全て。私が今、どこにいるのかすら分からない。
ミギワ:カズネ…!!
カズネ:落ち着け。ゆっくり前へ進んで。
ミギワ:うんっ…!
ミギワM:停電に気づき始めた街がざわめき始める。それすら、私には闇の中で蠢く怪物のように思えた。
カズネ:次の鉄骨に左手が触れたら右だ。
ミギワM:私には、カズネの声しかない。あの、星のように輝く声だけを頼りに歩いていく。
カズネ:っ!止まれ!
ミギワ:(足が宙に浮く感覚がして)っ!?
カズネ:落ちるなよ。気を失えなかったら悲惨だからな。
ミギワ:ほんとカズネはバカ、だよね…!
ミギワM:カズネのあとを追って。カズネの声の通りに進んで。それで、それで。……気がつけば、施設からは随分離れたようだった。
カズネ:…よし。もういいだろ。飛べ、ミギワ。
ミギワ:はあ!?
カズネ:ジャンプだ、じゃーんーぷ。前へ飛ぶの。出来るだろ?
ミギワ:いや出来るけども!?
カズネ:飛べよ。それで、このテロは終わりだ。
ミギワ:……!
ミギワM:何故だか、そこにカズネが見えた気がした。カズネの姿が、声が、輝いたような気がした。だから私は、前へ……———。
ミギワ:(ジャンプをして、膝をついて大きく呼吸をする)っはぁ、はぁ、は…っ!
カズネ:と、ははっ!よし、大成功だ!
ミギワ:こ、こ、怖かった…!!
カズネ:よくやったミギワ!空は俺たちのモンだ!!
ミギワ:は、…あ、空…!
カズネ:見えるだろ!全部の星の「ここにいるよ」が聞こえるだろ!
ミギワ:……………。
カズネ:聞こえなかった声が聞こえる。見えなかったものが見える。俺たち、やったな!
ミギワ:……「ここにいるよ」。
カズネ:ん?
ミギワ:いや。私たちも、あの星に見えてるだろうから。「ここにいるよ」って伝えてみようかと。
カズネ:「ここにいるよ」。うん。此処に、居る。俺たちは、此処に在る。存在する。
ミギワ:……。本当に、カズネの声は星みたいだった。
カズネ:……ん。
ミギワ:暗闇の中でも光る、星だった。
カズネ:言っただろ。星は聞き届けたって。叶えてやったじゃん。
ミギワ:ねえ、見てるかな。この街の人達にも、星達の「ここにいるよ」は届いてるかな。
カズネ:きっと聞こえてんだろ。……あんなに、綺麗なんだから。
ミギワ:そっか……。そうだね。
カズネ:(息を吸って、早口で)また見られますように!また見られますように!また見られますように!
ミギワ:え、なに!?
カズネ:今度は俺が伝えてみた!これで届かなかったらお相子だな。
ミギワ:ふ、ふふっ!あはは!届くかな?
カズネ:届くだろ。なんたって俺の声は星なんだし?
ミギワM:隣で軽快に笑う星の人。例え一晩の奇跡だったとしても、ネオンの街で、多くの声を聞き届けられたこの夜を。私は一生忘れることはないだろう。
カズネ:この光るLEDを全て消して。
ミギワ:空の暗さを、美しさを、もう一度取り戻す。
カズネ:決行は明日だ。覚悟はいいか?
ミギワ:任せて。私はもう躊躇わない。
カズネ:うん、いい返事。
ミギワ:キミの声だけを頼りに行くよ。
カズネ:…(頷く)。明日、俺たちは空を取り戻す。何も出来ずに眺めていろ。…世界の、美しさを。
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ミギワM:この国は数年のうちに大きな発展を遂げた。街には最新学習AIを搭載したアンドロイドがまるで人間のように溶け込み、人間には到底できっこないような仕事をいとも簡単にやってみせる。
ミギワM:そのおかげで機械工業が更に発展。伴って経済が潤った。潤沢に資金を手にする人間が増え、生活スタイルも変化。人間が肉体労働をすることはほとんどなくなり、代わって様々なAIやアンドロイドを開発。身の回りの世話をさせるようになった。
ミギワM:街には常にネオンが光る。眠らない街。いや、眠らないなんて生ぬるい。もはや、朝がいつか、夜がいつか…彼らは知らない。知らないままで、今日も同じ毎日を繰り返す。まるで、ロボットのように…———。
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カズネ:なあ、来てみろよ。
ミギワ:……。え、私?
カズネ:そう、アンタだ。こっち、来てみろって。
ミギワ:やだよ。ていうか、キミ、誰?
カズネ:んなことどーでもいいだろ。
ミギワ:ダメに決まってるじゃん。知り合いじゃない人からいきなり声をかけられて、警戒してるんだよ、こっちは!
カズネ:…ふ。警戒してるとか、警戒してる人間の前で言うか普通。
ミギワ:いいの!それで、キミ誰!
カズネ:…ははっ!こっち、来たら教えてやる。
ミギワ:じゃあ知りたくないのでケッコーです。
カズネ:はあ?勿体ねぇの。今からこの世とは思えない景色見せてやるっつってんのに。
ミギワ:(少し興味を惹かれ)………。でも、その先は灯りがない。迷子にでもなったらどうするの。
カズネ:そうしたら俺が連れ帰って来てやるよ。…心配すんな。俺の声は遠くまで届くんだ。
ミギワ:でも…。
カズネ:あーもう、煮え切らないヤツだな!来い、いいから。
ミギワ:ちょ、何なのキミ!?あ、引っ張らないでって…!!
カズネ:黙って着いて来いって。後悔はさせないさ。
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:———しばらく暗い道を歩いていく二人。
ミギワ:いい加減っ…!どこまで行くのよ!?
カズネ:っと…。まあこの辺でいいか。
ミギワ:「(モノマネ)この世のものとは思えない景色見せてやる」って何なの?!
カズネ:似てねぇよ。…まだだ。もうちょい。
ミギワ:あっそ。…じゃあその間に教えて。キミ、誰?
カズネ:俺はカズネ。電子エネルギー研究所、電子科所属の技術者。
ミギワ:電子エネルギー研究所!?国の最重要施設じゃない!
カズネ:…を、辞めてきた天才だよ。
ミギワ:……。ふーん。
カズネ:あ、信じてないな?
ミギワ:なんで着いてきちゃったんだろ。ここらで失礼します。
カズネ:まあ、待て待て。俺はアンタのこと、まだ聞いてない。
ミギワ:怪しいヤツには名乗っちゃダメって学校で教わりました。
カズネ:ふん。まだそんな説教じみたこと教える学校があるんだな。…怪しいヤツじゃないだろ?俺は天才だ。
ミギワ:天才かどうか見極めることは今の段階ではできないよ。
カズネ:めんどくさい。…アンタはミギワ。私立の学校に通っているが、今日はサボり。家庭は少し厳しめで、あまり友達がいない。
ミギワ:……っ!な、なんで……。
カズネ:っ…くく、あははッ!ダメだろ、そんなに表情に出しちゃ!全部正解ですって言ってるようなもん…!ッくく…。
ミギワ:……。
カズネ:ふは、そんな睨むな。余計笑えてくる。アンタの格好、皺のない制服、誰とも行動を共にしている様子のないところから、アタリを付けてみた。どう?正解?
ミギワ:………名前は。
カズネ:アンタのその鞄。名前書いてあるぜ。
ミギワ:………。
カズネ:…。やめろ、睨むな。
ミギワ:天才なのは三分の一くらい伝わってきました。で?この世のものとは思えない景色とやらはまだですか?
カズネ:敬語やめろ。…うん、そろそろだな。俺がいいと言ったら上を見上げて。
ミギワ:………?
カズネ:3カウントでいこう。3、2、1…。
ミギワ:…(上を見上げて)……っ!!
:———一面の夜空、星が流れている。
カズネ:……どうだ、………すごいだろ。
ミギワ:………。なに、これ。
カズネ:流れ星っていうんだ。
ミギワ:…ながれ、ぼし。
カズネ:そう。流れ星。
ミギワ:こんなの、見たこと…ない。あれは、どこに落ちてるの。
カズネ:あれは宇宙の屑が地球の大気の摩擦で燃えているんだ。だから……落ちることは無い。燃え尽きる。
ミギワ:…無くなるの。
カズネ:そうだ。あれは無くなる間際の、小さな抵抗。「ここにいるよ」って。
ミギワ:……ここに、いる。
カズネ:…ちなみに一つの流れ星が消えるまでに願い事を三回言うと叶うらしいぜ。
ミギワ:(しばらく見て)…………ムリだよ。速すぎる。
カズネ:やってみろよ。ムリかどうかなんて、声を届けてみなきゃ分からないだろ。
ミギワ:………変なひと。………でも、キミの声はあの星みたいね。
カズネ:は?
ミギワ:なんでか、耳を貸さずには居られない。…輝いているように聞こえる。
カズネ:…………。
ミギワ:羨ましいな。
カズネ:…ふ、バカだな。それより、やるの、やらないの?
ミギワ:やってみる。三回言うんだっけ。
カズネ:そう。
ミギワ:(息を吸って、早口で)また見られますように!また見られますように!また見られますように!
カズネ:…ふ、あはは!だろ、また見たいだろ!?
ミギワ:うん。また見たい。こんなに綺麗なものがあるんだね。
カズネ:だから俺は研究所を辞めた!こんな綺麗なモンを隠すような研究はもうやめだ!
カズネ:なあ、ミギワ。来年もここだ、ここに来よう。
ミギワ:うん。絶対ね。
カズネ:っははは!いいな、来年が明日来ればいいのに!
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ミギワM:けれど、「来年」が叶うことは、無かった。数少ない暗闇は、開発の波に飲まれ…あっという間にネオンが光る街へ変貌した。
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カズネ:あん時のミギワの声が小さ過ぎたんだろ。それか滑舌が悪すぎたか。
ミギワ:はー!?言ってないカズネには言われたくないわよ。
カズネ:とにかく、俺たちはどうにかして空を取り戻さなくちゃいけない。
ミギワ:でも…もうどこにも暗闇なんてないでしょ。
カズネ:だったら作り出せばいいんだ。
ミギワ:え、作り出す……って?
カズネ:なあミギワ。テロリストになる気はあるか?
ミギワ:はあ!?
カズネ:ま、俺たちは政治的な思惑がある訳じゃないから厳密にはテロリストじゃないんだが…他人の生活を脅かすって点ではテロリストに当たるのかもな。
ミギワ:いやいやいやいや。詳しく説明して。
カズネ:ん?ああ、一晩この街の電気止めてやろうかと。
ミギワ:えええ!?
カズネ:病院や高齢者施設なんかは非常用電源があるし、その他電気が止まったら大変なことになる場所にも大抵非常用電源があるから…。停電っていう体で。
ミギワ:い、いやいや!?いやいやいやいや!?
カズネ:何だよ。
ミギワ:だだ、ダメだよ!?それは!!
カズネ:何で。
ミギワ:いや、悪いことだからだよ!純粋な目でこっち見んな!停電って、だって、アンドロイド達もみんな止まっちゃうし、今や電気エネルギーは生活の全てみたいなところあるし?
カズネ:だから何だよ。たかが一晩だろ。
ミギワ:いやいやたかが一晩って。
カズネ:…。ミギワ、俺だって別に誰かを困らせようとして考えている訳じゃない。
ミギワ:…うん。
カズネ:ただ、知って欲しいんだ。俺たちは普段、どれだけのものを知らないのか。見ないようにしているのか。見えないようにしているのかを。
ミギワ:………。
カズネ:星たちの「ここにいるよ」って声を、知らないままでいていいのか?
ミギワ:……。でも…。
カズネ:……なあ、ミギワ。一年前みたいだな。
ミギワ:…?
カズネ:一年前、お前はずっと煮え切らずにいた。未知に踏み出す勇気が無かったからだ。でもどうだ?未知の物に会った感想は。
ミギワ:…………。すごく、綺麗で。ワクワク、した。
カズネ:うん。
ミギワ:あと、…何でか、泣きそうだった。
カズネ:何で。
ミギワ:…あの星の「ここにいるよ」を、誰かに見てもらえてるのかなって、想像して、寂しくなって。
カズネ:ん。
ミギワ:私が見られて、あの声を受け取れて、良かったな……って。
カズネ:そう。
ミギワ:………もう、届かないなんて、あっちゃいけないよね…。
カズネ:誰かが、あの声を受け取ってくれるように。な?
ミギワ:私たちが受け取れるように、ね。
カズネ:どう?乗る?乗らない?
ミギワ:………あーあ。相変わらずキミの声はあの星みたい。乗る乗る、乗ったわよ、カズネ。これでいいんでしょ。
カズネ:ははっ、さすがミギワ。いいか、決行は次の流星の日だ。
ミギワ:……うん。
カズネ:大丈夫、俺がついてる。必ず上手くいく。そう口に出せば星が叶えずとも俺が叶えてやるさ。
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カズネ:この光るLEDを全て消して。
ミギワ:空の暗さを、美しさを、もう一度取り戻す。
カズネ:決行は明日だ。覚悟はいいか?
ミギワ:任せて。私はもう躊躇わない。
カズネ:うん、いい返事。
ミギワ:キミの声だけを頼りに行くよ。
カズネ:…(頷く)。明日、俺たちは空を取り戻す。何も出来ずに眺めていろ。…世界の、美しさを。やるぞ、テロ。
ミギワ:テロ、なんて聞くと怖いなぁ。
カズネ:怖気付くなよ。
ミギワ:はいはい。覚悟は決めてあるからね。
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カズネ:侵入経路確保。
ミギワ:…手際良すぎじゃない?
カズネ:元職員だぜ?当たり前だろ。内部の脆い所なんて知り尽くしてる。
ミギワ:…あっそ…。
カズネ:それよりほら、ボーッとすんな。行くぞ。
ミギワ:あ、待ってカズネ!
:———施設の中を進む二人。
カズネ:街全体を停電させるには、ここのシステムを弄らなきゃならないんだが…証拠を残さないよう慎重にな。
ミギワ:その辺のことは任せるよ。
カズネ:ちなみにめちゃくちゃ高いところに登るんだけど平気?
ミギワ:へ?
カズネ:くっ…ははっ!!その顔いいな!冗談じゃなく高いところ。今からアンタも道連れ。
ミギワ:……後戻りできないところまで来て言うの卑怯じゃない?
カズネ:追い詰められた鼠みたいだぜ、ミギワ。
ミギワ:嬉しくない。ああもう、任せるよ。ここまで来たら私の命はカズネが握ってるんだもん。本当は願い事を星に届けたいけどね。
カズネ:ちなみに何て?
ミギワ:カズネくんだけバレて捕まって。
カズネ:はは!
ミギワ:嘘。成功しますように。
カズネ:俺の声は星なんだろ?なら俺が叶えてやるから。
ミギワ:うん。今度こそ私の声が届くといいなぁ。
カズネ:星は聞き届けたってさ。待ってろよ。
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:———電子エネルギー研究所の電波塔。
ミギワ:……あの。こっから落ちたら?
カズネ:落ちてる間に気を失えるから考えなくていーんじゃねぇの。
ミギワ:たまにカズネってバカだよね。
カズネ:いいか、俺が合図したらそっちのコードを抜け。手袋を忘れんなよ。素手で触ったら死ぬ。
ミギワ:そんな死に方したくない。
カズネ:なら忘れんな。その後は都度指示する。俺の声をよく聞けよ。
ミギワ:…分かった。
カズネ:手袋はしたか?
ミギワ:うん。
カズネ:決行だ。3カウントでいこう。3、2、1…。今だ!
ミギワ:っ!(コードを引き抜く)
ミギワM:瞬間、全てが闇になった。上も、下も、右も左も全て。私が今、どこにいるのかすら分からない。
ミギワ:カズネ…!!
カズネ:落ち着け。ゆっくり前へ進んで。
ミギワ:うんっ…!
ミギワM:停電に気づき始めた街がざわめき始める。それすら、私には闇の中で蠢く怪物のように思えた。
カズネ:次の鉄骨に左手が触れたら右だ。
ミギワM:私には、カズネの声しかない。あの、星のように輝く声だけを頼りに歩いていく。
カズネ:っ!止まれ!
ミギワ:(足が宙に浮く感覚がして)っ!?
カズネ:落ちるなよ。気を失えなかったら悲惨だからな。
ミギワ:ほんとカズネはバカ、だよね…!
ミギワM:カズネのあとを追って。カズネの声の通りに進んで。それで、それで。……気がつけば、施設からは随分離れたようだった。
カズネ:…よし。もういいだろ。飛べ、ミギワ。
ミギワ:はあ!?
カズネ:ジャンプだ、じゃーんーぷ。前へ飛ぶの。出来るだろ?
ミギワ:いや出来るけども!?
カズネ:飛べよ。それで、このテロは終わりだ。
ミギワ:……!
ミギワM:何故だか、そこにカズネが見えた気がした。カズネの姿が、声が、輝いたような気がした。だから私は、前へ……———。
ミギワ:(ジャンプをして、膝をついて大きく呼吸をする)っはぁ、はぁ、は…っ!
カズネ:と、ははっ!よし、大成功だ!
ミギワ:こ、こ、怖かった…!!
カズネ:よくやったミギワ!空は俺たちのモンだ!!
ミギワ:は、…あ、空…!
カズネ:見えるだろ!全部の星の「ここにいるよ」が聞こえるだろ!
ミギワ:……………。
カズネ:聞こえなかった声が聞こえる。見えなかったものが見える。俺たち、やったな!
ミギワ:……「ここにいるよ」。
カズネ:ん?
ミギワ:いや。私たちも、あの星に見えてるだろうから。「ここにいるよ」って伝えてみようかと。
カズネ:「ここにいるよ」。うん。此処に、居る。俺たちは、此処に在る。存在する。
ミギワ:……。本当に、カズネの声は星みたいだった。
カズネ:……ん。
ミギワ:暗闇の中でも光る、星だった。
カズネ:言っただろ。星は聞き届けたって。叶えてやったじゃん。
ミギワ:ねえ、見てるかな。この街の人達にも、星達の「ここにいるよ」は届いてるかな。
カズネ:きっと聞こえてんだろ。……あんなに、綺麗なんだから。
ミギワ:そっか……。そうだね。
カズネ:(息を吸って、早口で)また見られますように!また見られますように!また見られますように!
ミギワ:え、なに!?
カズネ:今度は俺が伝えてみた!これで届かなかったらお相子だな。
ミギワ:ふ、ふふっ!あはは!届くかな?
カズネ:届くだろ。なんたって俺の声は星なんだし?
ミギワM:隣で軽快に笑う星の人。例え一晩の奇跡だったとしても、ネオンの街で、多くの声を聞き届けられたこの夜を。私は一生忘れることはないだろう。