台本概要

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タイトル ベテルギウスが泣き出す前に
作者名 神澤ゆうき  (@yukingod)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(不問2) ※兼役あり
時間 20 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 「だから俺は、間に合えばいいなと思う」

あの星はオリオンの涙なんじゃないかな。ここにいるよって。

キャラクターの性別は変えて演じてOK。語尾も変えてOK。
アドリブは世界観を壊さない程度であればOK。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アレク 不問 88 アレク:カズネのアンドロイド。カズネが生まれる前から一緒にいる、いわゆる旧型。廃棄の日が迫ってきている。
カズネ 不問 97 アレクのことを友達だと思っているが、近頃アレクの様子がおかしいことに気づく。気づいているが、気づかないフリをして、時間と向き合えないでいる。語尾や一人称、口調を変えて演じてよい。
ミギワ 不問 7 ミギワ:アレクと兼役。最近カズネにできた友達。語尾や一人称、口調を変えて演じてよい。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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アレク:いつか、あの星を見に、ボクはまた戻ってくル。 カズネ:っ……約束しろ! アレク:うん。約束。ボクはウソをつかないヨ。 カズネ:うそをついたら、今度は俺が空に迎えに行ってやる。あの、星降る空に。 アレク:(笑って)ええ?カズネにできるノ? カズネ:ったり前だろ……。俺は、天才なんだから。 アレク:(星降る空を見上げながら)そうだ。……キミは天才ダ。だからきっと、迎えに来てくれるって、ボクは信じてル……───。 :* :* :* カズネM:あんた達から見たら、遠い、遠い、未来。俺たちが住んでいる街は、発展し尽くしていた。「発展」というものがどのような定義かによる、って?まあ、そうだな。「発展」ってのは、人間が何も働かなくとも機械が全部やってくれて、エネルギーにも困らなくて、とりあえず幸せなこと、だそうだ。 カズネM:ま、この辺りは過去の誰かが説明をしてくれているかもしれないのでカットカット。俺が言いたいのは、要するに……発展したせいで、「人間のように動くロボットが誕生した」ということだ。総称してアンドロイド、という。 カズネM:どれだけ街が発展しようが、人の暮らしが豊かになろうが、流れる時は平等だ。いつも突然に終わりを告げる。時間とは、一瞬を駆けて消えてしまう、あの流星のようだ。だから、いつも俺は間に合えばいいと思う。───ベテルギウスが泣き出す前に。 :* :* :* 0:───夜、E区の丘 カズネ:あれがオリオン座っつー星座。 アレク:ううン…星が三つあるとこロ? カズネ:そうそう! アレク:オリオンって、ギリシャ神話のデータベースに名前があルけど……星三つじゃ人には見えないヨ? カズネ:あそこからこうやって…リボンみたいに広げて……んで、ここが手。ここが足。片足は折り曲げてんの。 アレク:人間の想像力は豊かだネ……。ボクにはアレが人には見えないよ。 カズネ:想像力は偉大だ!!あればあるほど俺は何にでもなれるし、何でもできる。アレクも養え、想像力。 アレク:アンドロイドに何求めてんだヨ。 カズネ:アンドロイドが想像力持って何が悪い。そんなアンドロイドが居たって良いだろ。 アレク:カズネは自由だね…。政府が非推奨だって知ってて言ってんノ? カズネ:アンドロイドが想像力を持つこと?それとも感情を持つことか? アレク:どっちモ。 カズネ:ハッ、バカだなアレク!人間であれアンドロイドであれ、この世に生まれたら生を謳歌しろ!!アレやっちゃだめ、コレやっちゃダメで楽しめるのか? アレク:はいはい……。(困ったように笑って)ボクが感情を持ったのも、カズネのせいだったもんネ。敵わなイよキミには。 カズネ:せいってなんだ、おかげだろ。 アレク:それで電子エネルギー研究所にストレートで入っちゃうんだから、天才だヨ、キミは。 カズネ:は、当たり前だろ。……なんだ、最近調子悪そうだったから心配してたけど、大丈夫そうだな。 アレク:調子は悪いヨー。この間なんか、買い物リストが頭からふっとんダ。 カズネ:はは。じゃあ今度から買い物は一緒に行けばいいだろ。 アレク:腕のパーツも、もう換えがないんだって。ギーギー言ってんのに。 カズネ:オイル垂らしてやる。……あんま気にすんなよ。 アレク:ん…。ねえ、カズネ。オリオンのちょうど肩のあたりにある星……、あの星やけに赤イね。 カズネ:ああ、ベテルギウスな。あれは、もうすぐ死ぬ星。 アレク:星って死ぬノ? カズネ:赤く、大きくなってるだろ。星の死が近い証拠。もうすぐ、ベテルギウスは死ぬ。…ま、それが今なのか、数百年後なのかは分からないけどな。 アレク:へぇぇ…星も死ぬのか……。 カズネ:生きとし生けるもの全て、生まれたら死ぬ。俺もお前も同じだ、アレク。例え人間だろうとアンドロイドだろうと、生まれたからには死ぬ。 アレク:いいね。星も死ぬのなら、親近感感じちゃウ。 カズネ:……アンドロイドのくせに星に関するデータが全然無いのは何なんだよ。 アレク:普段生活に必要なデータはカズネよりあるんだけド。不要なデータは蓄積しても無駄って判断されてんだろ。 カズネ:人生無駄なことなんて無いぜ。(ふと気づいたように)っと、いい時間。───灯りを消して。 アレク:アイ・アイっと……。 カズネ:よく見てろよ、アレク。 これから夜の間中、何百もの星が零れていくんだから。 アレク:うん………。 0:最初は静かに、そのうちにぽろぽろと星が流れていく アレク:わ…流れタ! カズネ:(嬉しそうに)な!流れたな。 アレク:うン……あ、また! カズネ:目が忙しいな。 0:しばらく静かに眺めている二人 アレク:泣いてる。 カズネ:は? アレク:ベテルギウスが泣いてるんだ。 カズネ:…アレク? アレク:カズネ。やっぱり寂しいよ。あの流れ星はきっと、ベテルギウスが泣いた涙なんだ。 カズネ:………。 アレク:ここにいるよ、……ううん。ここにいたよ、って。 カズネ:アレク……。 アレク:あの涙は誰にも届かないのにネ。 カズネ:(ふ、と笑って)……届いてんじゃん。 アレク:え? カズネ:届いてる。俺と、お前にさ。だからお前泣いてんだろ。 アレク:泣いてル?誰が?どっちの目からも水は出てない。 カズネ:はは!分からないなら分からないままでいろ、鈍感。 アレク:何だよ。(迷うように)……ねえカズネ、あの………さ………。 カズネ:ん? アレク:(たっぷり間を使ってください)…………………………っ。何でもなイ。 カズネ:………。ほんとに? アレク:……っ。ホント。 カズネ:そ。 アレク:……ん。 カズネ:(小さな声で)バカだな。 アレク:………カズネ。来年も、見たいナ。 カズネ:………長生きしろ。連れてきてやる。 アレク:うん。……ありがトウ。 カズネ:ほんと、バカだな。 :* :* :* 0:───1ヶ月後 カズネ:はぁ、はぁ、はっ………っ!!アレク!!! 0:家の扉を乱暴に開けるカズネ カズネ:アレク、アレク!!くそ、あいつ……ッ!! カズネM:俺の元に連絡が届いたのが、夕刻。仕事が終わって、携帯端末を見たらその文字があった。 カズネ:アレク、おい、出てこい!! カズネM:番号Al-X21(エーアイエックスにじゅういち)。廃棄に失敗しました。強制回収を行います──。 カズネ:アレク、アレク……!! カズネM:廃棄に失敗、強制回収。………強制回収って、なんだよ。 カズネ:はぁっ、はあ、はっ……いない……?どこに…………。(足で紙を踏む音)っ、手紙? アレク:「ゴメンね。ちょっと、頭冷やしてくる。ゴメン。ゴメンね、カズネ。」 カズネ:ッ………ホントにバカ!くそ……っ!!(立ち上がって、すぐに走り出す) :* :* :* 0:E区の丘 アレク:(自分の手を見つめるアレク)…………ボク、どうしちゃったんだろ……。分かってたじゃないか、もうすぐ廃棄だっテ。他の個体に比べて、随分長く稼働させてもらってるって。廃棄の方がいいって。分かってたのに……職員さんの手を取れなかっタ。変なノ。 カズネ:アレク!! アレク:!……カズネ。 カズネ:はっ、はぁ、はぁっ……! アレク:な、何でここが? カズネ:単純だからな、お前……。 アレク:………あ、あはは!カズネ、ゴメン!強制回収のこトで連絡行ったんでショ?迷惑かけて、ゴメン! カズネ:(息は上がっているが、喋らない)………。 アレク:迷惑かけるつもりは無かったんダ。 カズネ:(被せるように)回収業者への廃棄連絡は、誰がしたんだ。 アレク:………ボクだよ。 カズネ:自分でしたのか。 アレク:………うん。あ、ほら、そろそろだって分かってたじゃないカ。メーカー規定の10年はとっくに過ぎてたんだしサ! カズネ:それが理由? アレク:………それだけじゃないヨ。 カズネ:分かった。……思いつく限りの理由を並べてみろ。 アレク:……買い物リストが頭からふっとんダ。 カズネ:一緒に買い物行こうって言っただろ。 アレク:腕のパーツの換えがなイ。ギーギー言ってんのに。 カズネ:オイル垂らしてやる。 アレク:初期収録のレシピ、データが壊れた。 カズネ:手書きで渡してやる。 アレク:小さなことを思い出せなイ。 カズネ:俺に聞け。 アレク:たまにカズネの名前すら思い出せなくなっタ。 カズネ:何度でも覚えろ。カズネだ。 アレク:顔も。 カズネ:写真をやる。 アレク:声も…!思い出も…っ!! カズネ:俺の声を聞け…!聞いて覚えろ、思い出せ!! アレク:っ……それじゃダメなんだ!! カズネ:なんでだよ!? アレク:ボクは、カズネが隣にいない時間、ズットそれと戦っているんだ!! カズネ:じゃあずっと隣に居てやる! アレク:いやだ!カズネに迷惑をかけてるっていう罪悪感で、それこそ死にそうダ!! カズネ:じゃどうしたらいい!?俺に出来ることはなんでもやってやる、家族なんだからそうだろ?! アレク:家族なんて言わないで!!!ボクはただのアンドロイドだ!!! カズネ:ッ…………「ただの」なんて、言うな!!! アレク:「ただの」アンドロイドさ!!何度でも言ってやる。ボクはたまたまカズネの家に来た、ただのアンドロイド!!!メーカー規定が過ぎて、換えのパーツもなくなったから廃棄になった!それだけだ!! カズネ:アレク………。 アレク:っ!!……。 0:黙ってしまう二人 アレク:(ぽつりと)…………ボクが嫌なんだ。 カズネ:は…? アレク:役に立たなイ、役に立てないボクを、ボクが許せなくなっタ。 カズネ:…………。 アレク:でも、優しいカズネは、絶対ボクを廃棄してくれないダロ。 カズネ:…………っ。 アレク:だから、自分でした。……はずだったのに。手が取れなかったんダ。 カズネ:…………は、はははははっ…………!! アレク:なんで笑うノ。 カズネ:はは、は、俺が、優しい………あははっ……お前にそんな選択をさせて俺が優しいなんて、お前、やっぱり調子悪いだろ! アレク:カズネ……。 カズネ:気づかない訳ないだろ。お前の様子がおかしいことなんて。でも見ないフリをした。知らないフリをした。気づいたらお前を失くすことが分かってたからだ!!自分のためだ、全部。 アレク:…………。 カズネ:……ごめん。 アレク:何に対しての、謝罪なノ? カズネ:見て見ぬふりをしたこと。あとは………。 アレク:…………うん。 カズネ:感情を与えてしまったこと。 アレク:…………あはは! カズネ:お前が感情がない、「ただの」アンドロイドだったら……お前を失くすことに、こんなに怖がらずにいられたのかな。 アレク:感情がない「ただの」アンドロイドだったら、職員さんの手をすぐに取れたと思うヨ。 カズネ:お前が感情がない「ただの」アンドロイドだったら、思い出を失うことを怖がるはずが無い。 アレク:根に持ってル。 カズネ:お前が「ただの」アンドロイドじゃないから、俺たち家族になれたんだろ。 アレク:…………。 カズネ:なあ、アレク、お前ほんとにこれから…………。 アレク:(被せるように)寂しいよ。 カズネ:っ……。 アレク:寂しい、寂しいよ、寂しいよカズネ……ッ!! アレク:ボク、カズネと一緒に居られなくなることが、寂しくて寂しくて、すごく怖いんだ。 アレク:ボクは人間じゃないのに、今とても泣きたいよ。どうしたら泣けるんだろう。寂しくて、怖くて悲しくて、辛いのに、ボクがアンドロイドだから…………! カズネ:………ベテルギウスが泣いてるだろ。 アレク:っ……! カズネ:ここにいる、ここにいたって、泣いてるんだろ。じゃあ、お前だってここにいる。ここにいたって、毎日伝えに来い。 アレク:…………。 カズネ:やっぱりアレク、泣いてる。 アレク:……そう。ボクは、……。 カズネ:アレク……。 アレク:ねえカズネ。ボクが想像した、ボクの夢を聞いてくれないかな。 カズネ:…………なんだよ唐突に。 アレク:ボクはね、人間になって、カズネの友達になるんだ。 カズネ:は? アレク:カズネの方から声をかけてくれるの。カズネは天才だけど訳分からないから、最初は怖がったり訝しがったりするかも。 カズネ:失礼だな。 アレク:カズネと友達になるまでは…そうだな。あんまり友達作れないかもなー。でも、カズネと出会ってから毎日が楽しい。色がついたみたいになるんだ。 カズネ:…………。 アレク:星も見に行く。流星群がいい。 カズネ:………っ。 アレク:あ、冒険にも行きたい。ちょっとハラハラするやつ。 カズネ:………っああ。 アレク:それで、それで。「ここにいるよ」って叫ぶ。どう? カズネ:っ……いいんじゃない。 アレク:……うん。あ………ほら、カズネ。空を見上げて。 カズネ:っ………!!! 0:空から降り注ぐ、幾つもの星 アレク:いつか、あの星を見に、ボクはまた戻ってくル。 カズネ:っ……約束しろ! アレク:うん。約束。ボクはウソをつかないヨ。 カズネ:うそをついたら、今度は俺が空に迎えに行ってやる。あの、星降る空に。 アレク:(笑って)ええ?カズネにできるノ? カズネ:ったり前だろ……。俺は、天才なんだから。 アレク:(星降る空を見上げながら)そうだ。……キミは天才ダ。だからきっと、迎えに来てくれるって、ボクは信じてル……───。 :* :* :* ミギワ:……きて、起きて、起きてよ、カズネ! カズネ:………ん。 ミギワ:ソファでお昼寝したら身体痛めちゃうよ。って、え、えええええぇ泣いてる……!?!?か、か、カズネが泣いてる……!?!? カズネ:え。 ミギワ:っひぃ……カズネを泣かすなんてどんな夢だったのか気になるけど聞きたくない……。はい、ハンカチ……。 カズネ:泣いてる、……俺が。 ミギワ:やめて、やめて……今気づいた、みたいなそんな……いかにもありがちな反応しないで……。 カズネ:おい、ミギワ。結構酷いこと言ってるからな、それ。 ミギワ:うんうん、カズネにも色々あったんだよね、分かるよ。……な、泣き止んだ? カズネ:はは!……なぁ、今夜、久しぶりに星見に行かない? ミギワ:え?い、いいけど……。流星群あったっけ……。 カズネ:いや。今日はゆっくり星が見たい。ベテルギウスに会いに行こう。 ミギワ:ベテルギウス? カズネ:うん。ベテルギウスが生きてるうちに。 カズネ:ベテルギウスが、……泣き出す前に。

アレク:いつか、あの星を見に、ボクはまた戻ってくル。 カズネ:っ……約束しろ! アレク:うん。約束。ボクはウソをつかないヨ。 カズネ:うそをついたら、今度は俺が空に迎えに行ってやる。あの、星降る空に。 アレク:(笑って)ええ?カズネにできるノ? カズネ:ったり前だろ……。俺は、天才なんだから。 アレク:(星降る空を見上げながら)そうだ。……キミは天才ダ。だからきっと、迎えに来てくれるって、ボクは信じてル……───。 :* :* :* カズネM:あんた達から見たら、遠い、遠い、未来。俺たちが住んでいる街は、発展し尽くしていた。「発展」というものがどのような定義かによる、って?まあ、そうだな。「発展」ってのは、人間が何も働かなくとも機械が全部やってくれて、エネルギーにも困らなくて、とりあえず幸せなこと、だそうだ。 カズネM:ま、この辺りは過去の誰かが説明をしてくれているかもしれないのでカットカット。俺が言いたいのは、要するに……発展したせいで、「人間のように動くロボットが誕生した」ということだ。総称してアンドロイド、という。 カズネM:どれだけ街が発展しようが、人の暮らしが豊かになろうが、流れる時は平等だ。いつも突然に終わりを告げる。時間とは、一瞬を駆けて消えてしまう、あの流星のようだ。だから、いつも俺は間に合えばいいと思う。───ベテルギウスが泣き出す前に。 :* :* :* 0:───夜、E区の丘 カズネ:あれがオリオン座っつー星座。 アレク:ううン…星が三つあるとこロ? カズネ:そうそう! アレク:オリオンって、ギリシャ神話のデータベースに名前があルけど……星三つじゃ人には見えないヨ? カズネ:あそこからこうやって…リボンみたいに広げて……んで、ここが手。ここが足。片足は折り曲げてんの。 アレク:人間の想像力は豊かだネ……。ボクにはアレが人には見えないよ。 カズネ:想像力は偉大だ!!あればあるほど俺は何にでもなれるし、何でもできる。アレクも養え、想像力。 アレク:アンドロイドに何求めてんだヨ。 カズネ:アンドロイドが想像力持って何が悪い。そんなアンドロイドが居たって良いだろ。 アレク:カズネは自由だね…。政府が非推奨だって知ってて言ってんノ? カズネ:アンドロイドが想像力を持つこと?それとも感情を持つことか? アレク:どっちモ。 カズネ:ハッ、バカだなアレク!人間であれアンドロイドであれ、この世に生まれたら生を謳歌しろ!!アレやっちゃだめ、コレやっちゃダメで楽しめるのか? アレク:はいはい……。(困ったように笑って)ボクが感情を持ったのも、カズネのせいだったもんネ。敵わなイよキミには。 カズネ:せいってなんだ、おかげだろ。 アレク:それで電子エネルギー研究所にストレートで入っちゃうんだから、天才だヨ、キミは。 カズネ:は、当たり前だろ。……なんだ、最近調子悪そうだったから心配してたけど、大丈夫そうだな。 アレク:調子は悪いヨー。この間なんか、買い物リストが頭からふっとんダ。 カズネ:はは。じゃあ今度から買い物は一緒に行けばいいだろ。 アレク:腕のパーツも、もう換えがないんだって。ギーギー言ってんのに。 カズネ:オイル垂らしてやる。……あんま気にすんなよ。 アレク:ん…。ねえ、カズネ。オリオンのちょうど肩のあたりにある星……、あの星やけに赤イね。 カズネ:ああ、ベテルギウスな。あれは、もうすぐ死ぬ星。 アレク:星って死ぬノ? カズネ:赤く、大きくなってるだろ。星の死が近い証拠。もうすぐ、ベテルギウスは死ぬ。…ま、それが今なのか、数百年後なのかは分からないけどな。 アレク:へぇぇ…星も死ぬのか……。 カズネ:生きとし生けるもの全て、生まれたら死ぬ。俺もお前も同じだ、アレク。例え人間だろうとアンドロイドだろうと、生まれたからには死ぬ。 アレク:いいね。星も死ぬのなら、親近感感じちゃウ。 カズネ:……アンドロイドのくせに星に関するデータが全然無いのは何なんだよ。 アレク:普段生活に必要なデータはカズネよりあるんだけド。不要なデータは蓄積しても無駄って判断されてんだろ。 カズネ:人生無駄なことなんて無いぜ。(ふと気づいたように)っと、いい時間。───灯りを消して。 アレク:アイ・アイっと……。 カズネ:よく見てろよ、アレク。 これから夜の間中、何百もの星が零れていくんだから。 アレク:うん………。 0:最初は静かに、そのうちにぽろぽろと星が流れていく アレク:わ…流れタ! カズネ:(嬉しそうに)な!流れたな。 アレク:うン……あ、また! カズネ:目が忙しいな。 0:しばらく静かに眺めている二人 アレク:泣いてる。 カズネ:は? アレク:ベテルギウスが泣いてるんだ。 カズネ:…アレク? アレク:カズネ。やっぱり寂しいよ。あの流れ星はきっと、ベテルギウスが泣いた涙なんだ。 カズネ:………。 アレク:ここにいるよ、……ううん。ここにいたよ、って。 カズネ:アレク……。 アレク:あの涙は誰にも届かないのにネ。 カズネ:(ふ、と笑って)……届いてんじゃん。 アレク:え? カズネ:届いてる。俺と、お前にさ。だからお前泣いてんだろ。 アレク:泣いてル?誰が?どっちの目からも水は出てない。 カズネ:はは!分からないなら分からないままでいろ、鈍感。 アレク:何だよ。(迷うように)……ねえカズネ、あの………さ………。 カズネ:ん? アレク:(たっぷり間を使ってください)…………………………っ。何でもなイ。 カズネ:………。ほんとに? アレク:……っ。ホント。 カズネ:そ。 アレク:……ん。 カズネ:(小さな声で)バカだな。 アレク:………カズネ。来年も、見たいナ。 カズネ:………長生きしろ。連れてきてやる。 アレク:うん。……ありがトウ。 カズネ:ほんと、バカだな。 :* :* :* 0:───1ヶ月後 カズネ:はぁ、はぁ、はっ………っ!!アレク!!! 0:家の扉を乱暴に開けるカズネ カズネ:アレク、アレク!!くそ、あいつ……ッ!! カズネM:俺の元に連絡が届いたのが、夕刻。仕事が終わって、携帯端末を見たらその文字があった。 カズネ:アレク、おい、出てこい!! カズネM:番号Al-X21(エーアイエックスにじゅういち)。廃棄に失敗しました。強制回収を行います──。 カズネ:アレク、アレク……!! カズネM:廃棄に失敗、強制回収。………強制回収って、なんだよ。 カズネ:はぁっ、はあ、はっ……いない……?どこに…………。(足で紙を踏む音)っ、手紙? アレク:「ゴメンね。ちょっと、頭冷やしてくる。ゴメン。ゴメンね、カズネ。」 カズネ:ッ………ホントにバカ!くそ……っ!!(立ち上がって、すぐに走り出す) :* :* :* 0:E区の丘 アレク:(自分の手を見つめるアレク)…………ボク、どうしちゃったんだろ……。分かってたじゃないか、もうすぐ廃棄だっテ。他の個体に比べて、随分長く稼働させてもらってるって。廃棄の方がいいって。分かってたのに……職員さんの手を取れなかっタ。変なノ。 カズネ:アレク!! アレク:!……カズネ。 カズネ:はっ、はぁ、はぁっ……! アレク:な、何でここが? カズネ:単純だからな、お前……。 アレク:………あ、あはは!カズネ、ゴメン!強制回収のこトで連絡行ったんでショ?迷惑かけて、ゴメン! カズネ:(息は上がっているが、喋らない)………。 アレク:迷惑かけるつもりは無かったんダ。 カズネ:(被せるように)回収業者への廃棄連絡は、誰がしたんだ。 アレク:………ボクだよ。 カズネ:自分でしたのか。 アレク:………うん。あ、ほら、そろそろだって分かってたじゃないカ。メーカー規定の10年はとっくに過ぎてたんだしサ! カズネ:それが理由? アレク:………それだけじゃないヨ。 カズネ:分かった。……思いつく限りの理由を並べてみろ。 アレク:……買い物リストが頭からふっとんダ。 カズネ:一緒に買い物行こうって言っただろ。 アレク:腕のパーツの換えがなイ。ギーギー言ってんのに。 カズネ:オイル垂らしてやる。 アレク:初期収録のレシピ、データが壊れた。 カズネ:手書きで渡してやる。 アレク:小さなことを思い出せなイ。 カズネ:俺に聞け。 アレク:たまにカズネの名前すら思い出せなくなっタ。 カズネ:何度でも覚えろ。カズネだ。 アレク:顔も。 カズネ:写真をやる。 アレク:声も…!思い出も…っ!! カズネ:俺の声を聞け…!聞いて覚えろ、思い出せ!! アレク:っ……それじゃダメなんだ!! カズネ:なんでだよ!? アレク:ボクは、カズネが隣にいない時間、ズットそれと戦っているんだ!! カズネ:じゃあずっと隣に居てやる! アレク:いやだ!カズネに迷惑をかけてるっていう罪悪感で、それこそ死にそうダ!! カズネ:じゃどうしたらいい!?俺に出来ることはなんでもやってやる、家族なんだからそうだろ?! アレク:家族なんて言わないで!!!ボクはただのアンドロイドだ!!! カズネ:ッ…………「ただの」なんて、言うな!!! アレク:「ただの」アンドロイドさ!!何度でも言ってやる。ボクはたまたまカズネの家に来た、ただのアンドロイド!!!メーカー規定が過ぎて、換えのパーツもなくなったから廃棄になった!それだけだ!! カズネ:アレク………。 アレク:っ!!……。 0:黙ってしまう二人 アレク:(ぽつりと)…………ボクが嫌なんだ。 カズネ:は…? アレク:役に立たなイ、役に立てないボクを、ボクが許せなくなっタ。 カズネ:…………。 アレク:でも、優しいカズネは、絶対ボクを廃棄してくれないダロ。 カズネ:…………っ。 アレク:だから、自分でした。……はずだったのに。手が取れなかったんダ。 カズネ:…………は、はははははっ…………!! アレク:なんで笑うノ。 カズネ:はは、は、俺が、優しい………あははっ……お前にそんな選択をさせて俺が優しいなんて、お前、やっぱり調子悪いだろ! アレク:カズネ……。 カズネ:気づかない訳ないだろ。お前の様子がおかしいことなんて。でも見ないフリをした。知らないフリをした。気づいたらお前を失くすことが分かってたからだ!!自分のためだ、全部。 アレク:…………。 カズネ:……ごめん。 アレク:何に対しての、謝罪なノ? カズネ:見て見ぬふりをしたこと。あとは………。 アレク:…………うん。 カズネ:感情を与えてしまったこと。 アレク:…………あはは! カズネ:お前が感情がない、「ただの」アンドロイドだったら……お前を失くすことに、こんなに怖がらずにいられたのかな。 アレク:感情がない「ただの」アンドロイドだったら、職員さんの手をすぐに取れたと思うヨ。 カズネ:お前が感情がない「ただの」アンドロイドだったら、思い出を失うことを怖がるはずが無い。 アレク:根に持ってル。 カズネ:お前が「ただの」アンドロイドじゃないから、俺たち家族になれたんだろ。 アレク:…………。 カズネ:なあ、アレク、お前ほんとにこれから…………。 アレク:(被せるように)寂しいよ。 カズネ:っ……。 アレク:寂しい、寂しいよ、寂しいよカズネ……ッ!! アレク:ボク、カズネと一緒に居られなくなることが、寂しくて寂しくて、すごく怖いんだ。 アレク:ボクは人間じゃないのに、今とても泣きたいよ。どうしたら泣けるんだろう。寂しくて、怖くて悲しくて、辛いのに、ボクがアンドロイドだから…………! カズネ:………ベテルギウスが泣いてるだろ。 アレク:っ……! カズネ:ここにいる、ここにいたって、泣いてるんだろ。じゃあ、お前だってここにいる。ここにいたって、毎日伝えに来い。 アレク:…………。 カズネ:やっぱりアレク、泣いてる。 アレク:……そう。ボクは、……。 カズネ:アレク……。 アレク:ねえカズネ。ボクが想像した、ボクの夢を聞いてくれないかな。 カズネ:…………なんだよ唐突に。 アレク:ボクはね、人間になって、カズネの友達になるんだ。 カズネ:は? アレク:カズネの方から声をかけてくれるの。カズネは天才だけど訳分からないから、最初は怖がったり訝しがったりするかも。 カズネ:失礼だな。 アレク:カズネと友達になるまでは…そうだな。あんまり友達作れないかもなー。でも、カズネと出会ってから毎日が楽しい。色がついたみたいになるんだ。 カズネ:…………。 アレク:星も見に行く。流星群がいい。 カズネ:………っ。 アレク:あ、冒険にも行きたい。ちょっとハラハラするやつ。 カズネ:………っああ。 アレク:それで、それで。「ここにいるよ」って叫ぶ。どう? カズネ:っ……いいんじゃない。 アレク:……うん。あ………ほら、カズネ。空を見上げて。 カズネ:っ………!!! 0:空から降り注ぐ、幾つもの星 アレク:いつか、あの星を見に、ボクはまた戻ってくル。 カズネ:っ……約束しろ! アレク:うん。約束。ボクはウソをつかないヨ。 カズネ:うそをついたら、今度は俺が空に迎えに行ってやる。あの、星降る空に。 アレク:(笑って)ええ?カズネにできるノ? カズネ:ったり前だろ……。俺は、天才なんだから。 アレク:(星降る空を見上げながら)そうだ。……キミは天才ダ。だからきっと、迎えに来てくれるって、ボクは信じてル……───。 :* :* :* ミギワ:……きて、起きて、起きてよ、カズネ! カズネ:………ん。 ミギワ:ソファでお昼寝したら身体痛めちゃうよ。って、え、えええええぇ泣いてる……!?!?か、か、カズネが泣いてる……!?!? カズネ:え。 ミギワ:っひぃ……カズネを泣かすなんてどんな夢だったのか気になるけど聞きたくない……。はい、ハンカチ……。 カズネ:泣いてる、……俺が。 ミギワ:やめて、やめて……今気づいた、みたいなそんな……いかにもありがちな反応しないで……。 カズネ:おい、ミギワ。結構酷いこと言ってるからな、それ。 ミギワ:うんうん、カズネにも色々あったんだよね、分かるよ。……な、泣き止んだ? カズネ:はは!……なぁ、今夜、久しぶりに星見に行かない? ミギワ:え?い、いいけど……。流星群あったっけ……。 カズネ:いや。今日はゆっくり星が見たい。ベテルギウスに会いに行こう。 ミギワ:ベテルギウス? カズネ:うん。ベテルギウスが生きてるうちに。 カズネ:ベテルギウスが、……泣き出す前に。