台本概要

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タイトル 枯木症
作者名 眞空  (@masora_kimama)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 人々が木のように動かなくなってしまい、やがて枯れていくように身体がボロボロと崩れていく奇病が発見された。

人々はそれを『枯木症』と呼び恐れられる。

徐々に感染者が増えていくが、依然として原因は判明しなかった。

各国が枯木症の研究に乗り出す中、いよいよ日本にもその牙が剥けられた。

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世界観の壊れない程度のアドリブ:〇
無理のない語尾の変更:〇

この作品を目に止めていただければ幸いです。
沢山の方に愛される台本でありますよう。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
不問 179 赤間 司(あかま つかさ)。会社員。日本人。男性だが、演者の性別不問。
リーフ 不問 180 リーフ・スティングレイ。司と同じ部署に勤める。顔が良い。男性だが、演者の性別不問。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
リーフ:「司、おはよう。いい朝だね。」 司:「ーーあぁ、リーフ。おはようさん。」 リーフ:「……どうしたんだい?朝から浮かない顔をして。」 司:「いや、なんでもない。気にすんな。」 リーフ:「そうかい?なら良いんだけども。」 司:「………ああ。………………はぁ。」 リーフ:「……ふふ、司。そうやって遠慮するのは、日本人の悪い癖クセだよ。それに、司。君は隠し事なんて出来ないだろう?」 司:「………そ、んなに、分かりやすかったか?」 リーフ:「あぁ、とっても。」 司:「…………はぁ、リーフにゃ敵わねぇな。」 リーフ:「それで、どうしたっていうんだい?」 司:「どうもこうもねぇよ……聞いてくれよ、リーフ。」 リーフ:「あぁ、どうしたんだい。昨日の飲み会の後、受付の柚木さんと一緒に帰っただろう?何かあったのかい?」 司:「………お前、しこたま飲んでたのに覚えてんのな………?」 リーフ:「ははは、僕は今まで、一度たりと酔っ払ったことはないよ。」 司:「ザルかよお前……外人ってのは皆こうなのか?」 リーフ:「それで?彼女と良い雰囲気だったじゃないか。」 司:「あぁ、それがよぉ。あの後、もう少し飲み直そうって話になったんだ。昨日の飲み屋から、駅を挟んで……少し離れたところにな、良いナイトカフェがあるんだ。」 リーフ:「へぇ、素敵じゃないか!」 司:「いざ店に入ろうとしたところで、俺の財布が無いことに気付いたんだ。」 リーフ:「えぇ?!たいへんだ!」 司:「そこからは飲み屋に連絡して、店に戻ったさ。……その後、柚木は終電逃すから、って帰ったけど。」 リーフ:「それは大変だったね……財布は見つかったのかい?柚木さんの家は遠いのだったかな?」 司:「あぁ、財布は現金もカードも無事だったよ。柚木は、たしか電車乗り継いで一時間半くらいかかるって言ってたかな。」 リーフ:「ひとまず、財布があって良かったね。」 司:「まぁ、一緒に店まで戻って、少し話せたのは良かったけど……あーもう……俺ダッセェー……。」 リーフ:「まぁまぁ、仕方ないじゃないか。彼女と話せたってことは、嫌われた訳では無いのだろう?」 司:「そりゃあ、そうなんだけど、さ。」 リーフ:「なんだい?洗いざらい吐いちゃいなよ。」 司:「………来週、ナイトカフェに行くことになった。」 リーフ:「……二人きりで?」 司:「……二人きりで。」 リーフ:「………………ぷっ、ははははは!」 司:「うるせぇうるせぇ!笑うなよ!」 リーフ:「くっふふふ……だって君、急にムズムズした顔してるのだもの!ふふふ、あはははは!」 司:「〜〜〜〜っ!」 リーフ:「いやぁ、司も隅に置けないねぇ。」 司:「うっせ!ほら仕事すんぞ!」 リーフ:「はいはい。来週の結果、聞かせなよ?」 司:「………………おぅ。」 リーフ:「ふふふ。」 0:数日後。 0: 0:【間】 リーフ:「やぁ司。おはよう。」 司:「……なんだリーフか。おはようさん。」 リーフ:「『なんだ』とはなんだい?随分と不機嫌じゃないか。」 司:「……。」 リーフ:「君はいつも浮かない顔をしているね?昨日はデートだったんだろう?」 司:「……。」 リーフ:「……おや。振られたのかい?」 司:「ちげぇよ。…………柚木、来なかったんだ。」 リーフ:「え?」 司:「……ちょうど俺が家を出ようとした時だった。柚木から連絡が来てな。体調が優れない、と。」 リーフ:「……そうか……それは残念だったね。でも、また約束して行けば良いじゃないか!まだ振られた(振られた訳じゃない。)」 司:「(被せて)柚木は!」 リーフ:「……っ。」 司:「………ゆ、ずき、は……。」 リーフ:「…………彼女が、どうかしたのかい?」 司:「……………………枯木症、になったんだ………。」 リーフ:「……かれき、しょ、う。」 司:「あぁ。お前も知ってるだろ。身体が動かなくなって……。」 リーフ:「あぁ……。」 司:「いずれは身体が枯れた木のようにボロボロに風化していく病だ……。」 リーフ:「人類にとって大変なことになってるねぇ……。」 司:「……柚木はなぁ……脚が動かないんだとよ……。」 リーフ:「そう、か……彼女が……。」 司:「……くそっ……。」 リーフ:「気の毒だけど……。枯木症の進行は人によって、かなり個人差があるんだろう?その間に特効薬ができるかもしれないじゃないか。」 司:「まだ枯木症の原因も分かってないのに、か?」 リーフ:「僕たちはただの商社の営業だ。研究がどれだけ進んでいるかは分からない。こうして話している間にも、原因が判明しているかもしれないだろう?」 司:「……リーフ……。」 リーフ:「希望を捨ててはいけないよ。」 司:「……。」 リーフ:「……はぁ。……俯いた顔は、君らしくないよ。」 司:「………………あぁ、そうだな。お前の言うとおりだ。」 リーフ:「君に似合うのは、パソコンに向かってるときの、しかめっ面さ!」 司:「おま……うるせぇよ!」 リーフ:「ふふふ、いつもの表情に戻ったじゃないか。」 司:「っ……悪ぃな。」 リーフ:「ふふ。柚木さんは?入院中かい?」 司:「あぁ、そうだよ。今朝、連絡がきてた。駅近くのでけぇ病院、あったろ?そこだよ。」 リーフ:「……ふぅん。ガードの固いことで有名な柚木さんが、連絡、ねぇ。」 司:「な、なんだよ。」 リーフ:「いやぁ?飲み会後に2人で飲み直そうとしたり、入院の連絡がきたり。君たち、随分と仲が良いじゃないか。」 司:「お……お前な……。」 リーフ:「ふふふ。仕事が終わったら、一緒にお見舞いに行こうか。幸いにも、今日はノー残業デーだし。」 司:「……そうだな。感染症ってわけじゃないらしいから、面会も禁止されてる訳じゃないしな。車をトバせば面会時間にもギリ間に合うだろ。」 リーフ:「決まりだね!」 司:「あぁ。………その、ありがとうな、リーフ。」 リーフ:「……ん?何か言ったかい?」 司:「……なんでもねーよ。聞こえてねぇならいい。」 リーフ:「司、君はいま、『ありがとう』って言ったのかい?」 司:「……っ!聞こえてんじゃねぇか!!」 リーフ:「あははは!さぁ今日も張り切って仕事していこうー!」 司:「あっ!オイ!お前逃げんな!!」 0:数日後。 0: 0:【間】 リーフ:「……司!司ぁ!!」 司:「んだよ、朝からうるせぇな……。廊下まで聞こえてたぞ?」 リーフ:「はぁ……はぁ……。」 司:「一旦落ち着けよ。そんなに慌ててどうしたんだよ?」 リーフ:「はぁっ……ふぅー!今朝のニュース、見たかい?!」 司:「ニュース?いや、見てねぇけど……。」 リーフ:「これ!!これ、見て!!」 司:「あん?……!!……おい、これって……!!」 リーフ:「うん!!症状を止める薬が国内で完成して、昨日のうちに量産できることがわかったみたい!!しかも、柚木さんが居る病院の近くの研究所だって!!」 司:「はは……ははは……。」 リーフ:「まだ治るわけじゃないけど、ここから特効薬の研究が進められるかもね!」 司:「……ははは……よかった……ホントによかっ………ううっ……。」 リーフ:「良かったね、司!」 司:「ぐすっ……あぁ……!」 リーフ:「……ふふふ、今日もお見舞い、行くかい?」 司:「……当たり前だ。」 リーフ:「ふふふ。……おや、司のスマホ、鳴ってない?」 司:「ん?……柚木からだ……。……!!」 リーフ:「そんなに驚いた顔をして、どうしたんだい……?」 司:「……特効薬……柚木にも投与できるってよ……!」 リーフ:「本当かい?!」 司:「あぁ!」 リーフ:「奇跡だ……ふふ、こんなことってあるんだね。」 司:「あぁ……ホントに、夢みたいだ……。」 リーフ:「司、しっかり支えてあげなよ。」 司:「あぁ、当然だ」 リーフ:「さぁ、今日も張り切って仕事しようか!」 司:「……あぁ!」 0:数日後。 0: 0:【間】 司:「……リーフ。ちょっといいか。」 リーフ:「どうしたんだい司ぁ。僕は課長に頼まれた、この山のような資料を片付けるので手一、杯、だ……どうしたんだい司?!」 司:「………………柚木が。」 リーフ:「柚木さんがどうしたの?!」 司:「……ゆず、きが……。」 リーフ:「落ち着いて。ゆっくりでいい。」 司:「……柚木が、意識、失ったって……。」 リーフ:「……え?」 司:「……特効薬……意味ねぇのかよ……?」 リーフ:「……あぁ、なんてことだ……。」 司:「……なんでだよ……。」 リーフ:「司……。」 司:「……俺さぁ、死ぬ気で仕事してさぁ、毎日定時上がりしてさぁ、毎日、柚木にさぁ、会いに行ってたんだよ……。」 リーフ:「……うん。知ってるよ。」 司:「病室で、柚木の親父さんとも会ってさぁ、そのときに連絡先交換してたんだよ。実家が遠いからさぁ、『なかなか来れないから、支えてやってくれ』ってさぁ、親父さんに言われてたんだよ……。」 リーフ:「うん……。」 司:「俺、親父さんに『任せてください』、って言ったのに……。」 リーフ:「……。」 司:「……くそ……なんであいつが……くっそ……!」 リーフ:「司……。」 司:「……っ…………。」 リーフ:「……。」 0:司は声を殺して涙を浮かべる。 リーフ:「…………司。」 司:「……。」 リーフ:「司!!」 司:「…………なんだよ……。」 リーフ:「司がそんな顔してどうする?!柚木さんはそれを喜ぶのか?!」 司:「っ!」 リーフ:「彼女が死ぬと決まった訳じゃないだろう?!」 司:「それは……。」 リーフ:「君はいつも近くで、柚木さんを見てきたじゃないか。いつも元気で明るい彼女が、簡単に病に負けるとでも思っているのか?!」 司:「……。」 リーフ:「司。君が回復を信じなくてどうする?!」 司:「……。」 リーフ:「……信じよう。」 司:「……。」 リーフ:「ね?司。」 司:「……あぁ、そうだな。あいつは大丈夫だ。きっと。」 リーフ:「ふふ。そうさ。柚木さんのことを信じないと。」 司:「……悪ぃ。もう大丈夫だ。」 リーフ:「いいんだよ。僕と司の仲じゃないか。」 司:「帰りに見舞い、付き合ってくれるか?」 リーフ:「あぁ!もちろんさ!」 司:「サンキュな。さぁ、今日も頑張るか!」 リーフ:「あぁ!」 0:数日後。 0: 0:【間】 リーフ:「おはよう司!」 司:「リーフ!(おはようさん。)」 リーフ:「(被せて)メッセージ見たよ!柚木さん、意識が戻ったんだって?!」 司:「あぁ!昨日、見舞いに行ったらな、病室に親父さんが居たんだ。」 リーフ:「うん。」 司:「親父さん、めちゃくちゃ泣いてるから、柚木に何かあったのかと思ったんだけどよ……そのときにはもう、柚木が起きててさ。」 リーフ:「そっか!」 司:「あぁ。まだ目覚めたばっかだからさ、うまく声は出ねぇし、まだ足も動かねぇらしいんだけどよ、上半身は起こせるし、笑って筆談もできる。」 リーフ:「ふふふ、良かったね。」 司:「あぁ。特効薬、ちゃんと効いたみたいだ。」 リーフ:「彼女が意識を失ったと言っていた君の顔を、今の君に見せてあげたいよ。」 司:「ん?」 リーフ:「そりゃあもう、ひっどい顔をしていたさ!」 司:「うっせ!あれは、その……。」 リーフ:「ふふふ。柚木さんを愛してるんだねぇ。」 司:「っ!お前……よく臆面もなく言えるな?!」 リーフ:「そういうところが日本人のいけないところだよ、ワトソンくん。」 司:「誰がワトソンだ誰が!はっ、悪ぃな。俺は生粋の日本人なもんで!」 リーフ:「愛情はちゃーんと言葉にして伝えないと!」 司:「……。」 リーフ:「……おやぁ?司くぅん?耳まで真っ赤だぞぅ?」 司:「……るっせぇよ……。」 リーフ:「もしかして、愛の告白をするシーンを想像しちゃったのかなぁ??」 司:「っだー!もー!うるせぇ!!さっさとデスクに行け!!」 リーフ:「あはははは!」 司:「……おい。佐藤、高橋。何見てんだ。……課長まで!勘弁してくださいよ……!」 リーフ:「ぷっくくく……。」 司:「〜〜〜〜っ!」 リーフ:「ふふふふ……さぁ!今日も忙しいぞぉ!」 司:「アイツ!……ったく……。……ありがとうな、リーフ……。」 0:数日後。 0: 0:【間】 リーフ:「おはよう司!今日もいい朝だね!」 司:「……あぁ。おはようさん……。」 リーフ:「……どうしたんだい?元気がないじゃないか。」 司:「……柚木の親父さんな……連絡が取れねぇんだ……。」 リーフ:「……え?」 司:「なぁ、リーフ。枯木症は、感染しないんだよな?」 リーフ:「テレビで専門家がそう言っていたね。」 司:「……。」 リーフ:「司……?」 司:「……嫌な予感がする。」 リーフ:「嫌な予感?」 司:「……悪ぃ。今日は帰る。」 リーフ:「え?」 司:「……。」 リーフ:「司?どうしたっていうんだ?」 司:「……あ、すんません課長。腹ぁ痛いんで帰らしてください。……はい……はい……すんません。」 リーフ:「お、おい。」 司:「悪ぃな、リーフ。あとは頼んだ。」 リーフ:「え?司?」 司:「……。」 リーフ:「……。あ、課長。……はい……はい……柚木さんのお父さんと、連絡がとれないって……。……はい。僕にも何がなんだか……え?いやいや!そんなまさか!……はい……。」 0:その日の夜。 0: 0:【間】 リーフ:「……はい……ええ。ではそのスケジュールで進めます。ありがとうございます、五十嵐さん。」 0:(リーフの携帯電話が鳴る) リーフ:「ーー……ん……司から?……もしもし。どうしたんだい?みんな心配していたよ。司の様子がおかしいって。」 司:「……。」 リーフ:「大丈夫かい?相当お腹が(痛かったんだね。)」 司:「(被せて)……ってた……。」 リーフ:「……ん?」 司:「……親父さんが……。」 リーフ:「柚木さんのお父さん?」 司:「……枯木症……。」 リーフ:「え。」 司:「……枯木症になってたんだよ……親父さんが!親父さんの!身体が!!もう、くず、れ……ううっ……。」 リーフ:「司。落ち着いてくれ。」 司:「……なんで、こんな……。」 リーフ:(M)司が、辛うじて言葉を絞り出してくれて分かったのは、柚木さんのお父さんが、枯木症によって亡くなったということだった。 司:「……うっ……くそ……くっそ…………。」 リーフ:(M)嗚咽を漏らしながら泣き続ける司を、僕は宥めることしか出来なかった。 司:「……なんで……なんでだよ……。」 リーフ:「……。」 司:「……この間まで……元気だったんだよ……なのに……。」 リーフ:「司……。」 司:「……くそ……くっそぉぉぉ!!!」 0:数日後。 0: 0:【間】 司:「……おはようさん……。」 リーフ:「司!……その……何と言ったら良いか……。」 司:「リーフ……しばらく休んじまって悪かったな……。」 リーフ:「いや……僕たちのことより、彼女は……柚木さんは平気かい……?」 司:「……ショックを受けていたよ……。」 リーフ:「……そう、だよね……。」 司:「『このご時世だし、こうなっても仕方ないよ』ってさ……そのあと、ずっと泣いてた。」 リーフ:「そっか……。」 司:「あぁ……受け入れられないよな……。」 リーフ:「お父さんの枯木症は、進行速度が段違いだったんだね……。」 司:「そうだな……それにしたって、こんな急に進行するなんてな……個人差があるっていったって、限度があるだろ……。」 リーフ:「……。」 司:「……柚木は、俺が支える。親父さんと……柚木と、約束したからな。」 リーフ:「……彼女とも約束したんだね。そっか。約束は守らないと、だね。」 司:「あぁ……俺がいつまでも落ち込んでる訳にはいかないよな……。」 リーフ:「……うん、そうだね。」 司:「リーフ、今日も帰り、付き合え。」 リーフ:「……ふふ、あぁ。もちろんさ。」 司:「ありがとうな。」 リーフ:「……ところで。」 司:「ん?」 リーフ:「司はいつまで『柚木』って呼ぶんだい?」 司:「……え。」 リーフ:「彼女を支えるだなんて約束をしたんだ、いい加減、愛の告白はしたんだろう?」 司:「……まぁ、そ……れは、その……。」 リーフ:「……まさか、まだ告白していないのかい?」 司:「したよ!!したけ、ど……あ。」 リーフ:「……へーーーぇ?」 司:「っ……。何だよその顔は……。」 リーフ:「いやぁ?……それで?その様子だと恋人になったんだろう?」 司:「……外人ってのは皆こうなのか……?」 リーフ:「日本人が奥ゆかしいだけだよ。」 司:「お前の国ではどうなん……。リーフ、どこ出身だったっけ……?」 リーフ:「どこだっていいだろう?それで、恋人同士になったのかい?」 司:「……あぁ、そうだよ。付き合うことになったよ。」 リーフ:「……ふふふ、やっと言ってくれた。おめでとう、司!」 司:「や、でも、な……勢いで告白しちまったんだ……親父さんを利用したみたいで、さ……。」 リーフ:「……後ろめたい?」 司:「……あぁ……。」 リーフ:「……君は、お父さんに『支えてくれ』って言われたんだろう?君は『任せてください』って言ったんだろう?」 司:「……。」 リーフ:「きっとお父さんは、司になら任せられると思ったんじゃないかな。だから、利用している、だなんて言わないでくれ。」 司:「……そう、だな。」 リーフ:「……ほら、そんな顔しない!彼女を支えるんだろう?」 司:「……あぁ。いつもサンキュな。」 リーフ:「……君、段々と素直になってきたね?」 司:「はっ、成長ってやつだよ。」 リーフ:「その調子で、ぜひ彼女を『琴音』って呼んでくれよ。」 司:「ぐっ……善処……する……。」 リーフ:「ふふふ。頑張れ、司。」 0:数日後。 0: 0:【間】 司:「ーー……ん…………ぁ、……ってぇ……。」 司: 司:(M)全身の痛みで目が覚めた。日はすっかり落ちて、月明かりが窓から差し込む。 司:ここはーー。病院、だろうか。耳が痛くなるほどの静寂。 司:ーー少しずつ、記憶を辿る。 司:俺は、確かーー。 司:……そうだ。俺は定時で仕事を終わらせ、いつも通り琴音の見舞いに来たのだ。 司:いつの間にか、寝てしまっていたのだろうか……? 司: 司:「……悪ぃ、琴音。いつの間にか寝てたみた、い、だ……。」 司: 司:(M)そこには、いつもの琴音の姿はなく。 司:白いベッドに、1本の樹が横たわっていた。 司: 司:「……ぁ。…………あ、ぁぁああ……!」 司 司:(M)その樹を一目見たとき、俺は。 司:『それ』が、琴音であるのだと、分かってしまった。 0:【間】 0: リーフ:「……あぁ。美しい……。」 リーフ: リーフ:(M)スーパームーン。 リーフ:月が地球に接近することで、通常よりも大きく、明るく見える満月を指す。 リーフ:灯りのない道を、月だけが照らしている。 リーフ: リーフ:「たまには本社ビルの屋上から、街を一望するのも良いね。」 リーフ: リーフ:(M)街灯りが無くとも、月さえあれば幻想的な景色は見られるのだ。 リーフ:いっそ、この世界に人工物は要らないのかもしれない。 リーフ: リーフ:「……とは思わないかな?ねぇ、司。」 0:司、肩で息をしている 司:「……リーフ……。」 リーフ:「よくここが分かったね。まぁ僕が誘導したのだけど。」 司:「……ぐっ……っ……。」 リーフ:「おやおや、どうしたんだい?随分と苦しそうじゃないか。」 司:「リーフ……琴音が……街が、たいへん、なんだ……。」 リーフ:「あぁ、知っているとも。ここから街を見ていたからね。」 司:「……どうなって、るんだよ……。お前は、なんともない、のか……?」 リーフ:「見ての通り。もちろんさ。」 司:「そ、うか……良かった……。」 リーフ:「ぷっくくく……『良かった』。良かった、かぁ。……ふふふ。」 司:「……なんで、笑ってる、んだよ……たいへんなことに、なってるんだよ!!」 リーフ:「ふふふふ……だって、これは僕たちがしたことだからね!」 司:「……………………は……?」 リーフ:「なんとも、呆けた顔だねぇ。」 司:「いや……いやいやいや、だって、おかしいだろ……おまえは、故郷の村が、みんな、みんな枯木症を(患って)」 リーフ:「(被せて)僕の故郷って、どこだったかなぁ?」 司:「…………え……?」 リーフ:「僕は今まで、ただの一言も、故郷の話はしたことがないよ?」 司:「……そん、な、こと……。」 リーフ:「それだけじゃない。僕が故郷の村からこの日本に来たというのなら、僕はいつ、この会社に入った?」 司:「……ぇ……それ、は、…………。」 リーフ:「……くふふふふふ……『分からない』。そうだろう?」 司:「……いや……だって、お前とは、何年も前から一緒に、仕事を……何度も……一緒に、お前と、飲みに……お前…………『お前は誰だ』……?」 リーフ:「くっははははははは!!!!『善い』!!!!善い表情だ!!!!」 司:「なん、で…………なんで、『お前』が、わからない……?!」 リーフ:「あらためて、初めまして。赤間 司くん。僕はこの星を衛る者。……そうだな……君たち人間で言うところの、天使、かな。」 司:「な、にを……いっ、てるんだ……。」 リーフ:「『リーフ・スティングレイ』は、僕が偶々降り立ったアクアリウムで見つけた、適当な名前さ。神に使える僕に、固有名詞などない。」 司:「……ぐ、……あし、が……いっ……!」 リーフ:「おやぁ?司くぅん。君もようやく、といったところだね。」 司:「がっ……ぐぁ……!」 リーフ:「見てご覧よ、君の脚を。随分と月夜に映える『みてくれ』になったじゃないか。」 司:「なん、……このあし、は……おまえ、は……なんなんだよ……!」 リーフ:「『善い』ね……。善い!!……おっと……。 リーフ:……こほん。説明しよう! リーフ:僕たち天使は、この星の守護者。我らが主は、この星の存続を憂いている。 リーフ:……あぁ、君たち人間は、とても非道い。 リーフ:増えすぎた君たちは、自分達の種の存続の為に、この星を壊そうとしている。」 司:「……っ。」 リーフ:「我らが主は、たいへん悩まれた……。 リーフ:考えて、考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて。 リーフ:……そうして考え抜いた末に、一つの結論を出されたんだ。 リーフ:『そうだ、増えすぎた人間を、樹に変えてしまおう!』……ってね!」 司:「……は、……ま、さか……!」 リーフ:「そう!察しが良いね!! リーフ:僕達が『枯木症』をバラ撒いていたんだ!」 司:「……!!」 リーフ:「いやぁー。大変だったよ? リーフ:人間の中でも、取り分け、他者と交流がない者。 リーフ:そういう人間をちまちま変えていったんだけどさ。 リーフ:あ、ほら。基本、僕たちは存在を明かせないから。 リーフ:だけどね、やっぱ効率悪いよねー、って話になって。 リーフ:じゃあさ。人間の中でも、信心深い人とかさ。 リーフ:多くの人間の信頼を集めている人をさ。 リーフ:『特異点』にすることで、一気にやっちゃおう! リーフ:……てな訳さ。 リーフ:でもビックリしたよ、特効薬だなんて。 リーフ:ま、取るに足らないモノだったけどね! リーフ:……あ。どうやって『特異点』にするかは、企業秘密、ってことで!」 司:「……なん、だよ……それ……。」 リーフ:「『特異点』にするのは、ほら。あの。なんだっけ? リーフ:君が恋人になった、っていうオンナノコの。お父さん! リーフ:人間の歴史上、稀に見る、民衆からの多くの信頼を得た『元総理大臣』! リーフ:日本国民だけでなく、海外からの信頼も厚い……。 リーフ:いやぁー、国の発展だけじゃなく。 リーフ:今度はこの星の存続に貢献できるなんて。 リーフ:ほんっと!使える人間だったよ!! リーフ:僕が閃いたんだよ?あの人を『特異点』にしたの! リーフ:ふふふふふ!!完っ璧でしょ?僕たちの計画!!」 司:「…………ける、な……。」 リーフ:「ん?どうしたんだい、司くん?」 司:「……ふっざけんな!!!親父さん、誰もが憧れた人なんだぞ!!!琴音の、たいせつな、たった一人の家族だったんだぞ!!!それを……それをお前は!!!!!」 リーフ:「……相当痛いだろうに、まだこんなに叫ぶ元気があるのか。 リーフ:……ふふふ、すごいねぇ。でも……。」 司:「……ぐ、ぅ…………ぇせよ……。」 リーフ:「そろそろ、限界。かなぁ??」 司:「……か、えせよ!!!琴音、も!!!!親父さんも!!!!!」 リーフ:「残念だけど、だぁめ。 リーフ:『特異点』にしてしまった以上、無理だよ。 リーフ:『特異点』と魂の繫りが深かった、オンナノコも無理。」 司:「……ぅ……ぐ…………。」 リーフ:「司ぁ。君と過ごした時間はとてもワクワクして。 リーフ:ドキドキして。ゾクゾクして。 リーフ:とーーーーーっても!!楽しかったよ。だから……。」 司:「………が…………ぁぐ…………。」 リーフ:「『最期』にね。この美しい景色を君と見たかったんだぁ。」 司:「ぉぁ…………ご………ぐぐ…………。」 リーフ:「……もう喋れないねぇ。 リーフ:ほら。もう樹になったところから崩れてる。 リーフ:……ふふ、じゃあね。司。 リーフ:その魂が、迷うこと無く、主の元へ辿り着きますよう。」 司:「……あ、……あぁあ………ぁぁあああああぁぁぁぁぁああぁ!!!」 リーフ:「バイバイ。」 0:【間】 0: 司:(M)その日、人類のおよそ半分が消滅した。 司:文字通り、消滅したのだ。 司:今まで日本と呼ばれていた先進国は、一夜にして森林の海に沈んだ。 司:その近隣の国も、同じだ。 司:その怪異から免れた国が原因調査に乗り出したが、結果は芳しくないようだ。 司: 司:幸か不幸か、枯木症の新規感染者は一人も出なくなった。 司:噂では、神の裁きだとか、天使を見たとか、宇宙人の仕業だったとか。 司:何はともあれ、ほぼ機能しなくなった経済と、日に日に廃れていく街の中で、人間たちは生きていくしかないのだ。 司: 司:事の真相は、誰にも分からない。 0:END. 0:

リーフ:「司、おはよう。いい朝だね。」 司:「ーーあぁ、リーフ。おはようさん。」 リーフ:「……どうしたんだい?朝から浮かない顔をして。」 司:「いや、なんでもない。気にすんな。」 リーフ:「そうかい?なら良いんだけども。」 司:「………ああ。………………はぁ。」 リーフ:「……ふふ、司。そうやって遠慮するのは、日本人の悪い癖クセだよ。それに、司。君は隠し事なんて出来ないだろう?」 司:「………そ、んなに、分かりやすかったか?」 リーフ:「あぁ、とっても。」 司:「…………はぁ、リーフにゃ敵わねぇな。」 リーフ:「それで、どうしたっていうんだい?」 司:「どうもこうもねぇよ……聞いてくれよ、リーフ。」 リーフ:「あぁ、どうしたんだい。昨日の飲み会の後、受付の柚木さんと一緒に帰っただろう?何かあったのかい?」 司:「………お前、しこたま飲んでたのに覚えてんのな………?」 リーフ:「ははは、僕は今まで、一度たりと酔っ払ったことはないよ。」 司:「ザルかよお前……外人ってのは皆こうなのか?」 リーフ:「それで?彼女と良い雰囲気だったじゃないか。」 司:「あぁ、それがよぉ。あの後、もう少し飲み直そうって話になったんだ。昨日の飲み屋から、駅を挟んで……少し離れたところにな、良いナイトカフェがあるんだ。」 リーフ:「へぇ、素敵じゃないか!」 司:「いざ店に入ろうとしたところで、俺の財布が無いことに気付いたんだ。」 リーフ:「えぇ?!たいへんだ!」 司:「そこからは飲み屋に連絡して、店に戻ったさ。……その後、柚木は終電逃すから、って帰ったけど。」 リーフ:「それは大変だったね……財布は見つかったのかい?柚木さんの家は遠いのだったかな?」 司:「あぁ、財布は現金もカードも無事だったよ。柚木は、たしか電車乗り継いで一時間半くらいかかるって言ってたかな。」 リーフ:「ひとまず、財布があって良かったね。」 司:「まぁ、一緒に店まで戻って、少し話せたのは良かったけど……あーもう……俺ダッセェー……。」 リーフ:「まぁまぁ、仕方ないじゃないか。彼女と話せたってことは、嫌われた訳では無いのだろう?」 司:「そりゃあ、そうなんだけど、さ。」 リーフ:「なんだい?洗いざらい吐いちゃいなよ。」 司:「………来週、ナイトカフェに行くことになった。」 リーフ:「……二人きりで?」 司:「……二人きりで。」 リーフ:「………………ぷっ、ははははは!」 司:「うるせぇうるせぇ!笑うなよ!」 リーフ:「くっふふふ……だって君、急にムズムズした顔してるのだもの!ふふふ、あはははは!」 司:「〜〜〜〜っ!」 リーフ:「いやぁ、司も隅に置けないねぇ。」 司:「うっせ!ほら仕事すんぞ!」 リーフ:「はいはい。来週の結果、聞かせなよ?」 司:「………………おぅ。」 リーフ:「ふふふ。」 0:数日後。 0: 0:【間】 リーフ:「やぁ司。おはよう。」 司:「……なんだリーフか。おはようさん。」 リーフ:「『なんだ』とはなんだい?随分と不機嫌じゃないか。」 司:「……。」 リーフ:「君はいつも浮かない顔をしているね?昨日はデートだったんだろう?」 司:「……。」 リーフ:「……おや。振られたのかい?」 司:「ちげぇよ。…………柚木、来なかったんだ。」 リーフ:「え?」 司:「……ちょうど俺が家を出ようとした時だった。柚木から連絡が来てな。体調が優れない、と。」 リーフ:「……そうか……それは残念だったね。でも、また約束して行けば良いじゃないか!まだ振られた(振られた訳じゃない。)」 司:「(被せて)柚木は!」 リーフ:「……っ。」 司:「………ゆ、ずき、は……。」 リーフ:「…………彼女が、どうかしたのかい?」 司:「……………………枯木症、になったんだ………。」 リーフ:「……かれき、しょ、う。」 司:「あぁ。お前も知ってるだろ。身体が動かなくなって……。」 リーフ:「あぁ……。」 司:「いずれは身体が枯れた木のようにボロボロに風化していく病だ……。」 リーフ:「人類にとって大変なことになってるねぇ……。」 司:「……柚木はなぁ……脚が動かないんだとよ……。」 リーフ:「そう、か……彼女が……。」 司:「……くそっ……。」 リーフ:「気の毒だけど……。枯木症の進行は人によって、かなり個人差があるんだろう?その間に特効薬ができるかもしれないじゃないか。」 司:「まだ枯木症の原因も分かってないのに、か?」 リーフ:「僕たちはただの商社の営業だ。研究がどれだけ進んでいるかは分からない。こうして話している間にも、原因が判明しているかもしれないだろう?」 司:「……リーフ……。」 リーフ:「希望を捨ててはいけないよ。」 司:「……。」 リーフ:「……はぁ。……俯いた顔は、君らしくないよ。」 司:「………………あぁ、そうだな。お前の言うとおりだ。」 リーフ:「君に似合うのは、パソコンに向かってるときの、しかめっ面さ!」 司:「おま……うるせぇよ!」 リーフ:「ふふふ、いつもの表情に戻ったじゃないか。」 司:「っ……悪ぃな。」 リーフ:「ふふ。柚木さんは?入院中かい?」 司:「あぁ、そうだよ。今朝、連絡がきてた。駅近くのでけぇ病院、あったろ?そこだよ。」 リーフ:「……ふぅん。ガードの固いことで有名な柚木さんが、連絡、ねぇ。」 司:「な、なんだよ。」 リーフ:「いやぁ?飲み会後に2人で飲み直そうとしたり、入院の連絡がきたり。君たち、随分と仲が良いじゃないか。」 司:「お……お前な……。」 リーフ:「ふふふ。仕事が終わったら、一緒にお見舞いに行こうか。幸いにも、今日はノー残業デーだし。」 司:「……そうだな。感染症ってわけじゃないらしいから、面会も禁止されてる訳じゃないしな。車をトバせば面会時間にもギリ間に合うだろ。」 リーフ:「決まりだね!」 司:「あぁ。………その、ありがとうな、リーフ。」 リーフ:「……ん?何か言ったかい?」 司:「……なんでもねーよ。聞こえてねぇならいい。」 リーフ:「司、君はいま、『ありがとう』って言ったのかい?」 司:「……っ!聞こえてんじゃねぇか!!」 リーフ:「あははは!さぁ今日も張り切って仕事していこうー!」 司:「あっ!オイ!お前逃げんな!!」 0:数日後。 0: 0:【間】 リーフ:「……司!司ぁ!!」 司:「んだよ、朝からうるせぇな……。廊下まで聞こえてたぞ?」 リーフ:「はぁ……はぁ……。」 司:「一旦落ち着けよ。そんなに慌ててどうしたんだよ?」 リーフ:「はぁっ……ふぅー!今朝のニュース、見たかい?!」 司:「ニュース?いや、見てねぇけど……。」 リーフ:「これ!!これ、見て!!」 司:「あん?……!!……おい、これって……!!」 リーフ:「うん!!症状を止める薬が国内で完成して、昨日のうちに量産できることがわかったみたい!!しかも、柚木さんが居る病院の近くの研究所だって!!」 司:「はは……ははは……。」 リーフ:「まだ治るわけじゃないけど、ここから特効薬の研究が進められるかもね!」 司:「……ははは……よかった……ホントによかっ………ううっ……。」 リーフ:「良かったね、司!」 司:「ぐすっ……あぁ……!」 リーフ:「……ふふふ、今日もお見舞い、行くかい?」 司:「……当たり前だ。」 リーフ:「ふふふ。……おや、司のスマホ、鳴ってない?」 司:「ん?……柚木からだ……。……!!」 リーフ:「そんなに驚いた顔をして、どうしたんだい……?」 司:「……特効薬……柚木にも投与できるってよ……!」 リーフ:「本当かい?!」 司:「あぁ!」 リーフ:「奇跡だ……ふふ、こんなことってあるんだね。」 司:「あぁ……ホントに、夢みたいだ……。」 リーフ:「司、しっかり支えてあげなよ。」 司:「あぁ、当然だ」 リーフ:「さぁ、今日も張り切って仕事しようか!」 司:「……あぁ!」 0:数日後。 0: 0:【間】 司:「……リーフ。ちょっといいか。」 リーフ:「どうしたんだい司ぁ。僕は課長に頼まれた、この山のような資料を片付けるので手一、杯、だ……どうしたんだい司?!」 司:「………………柚木が。」 リーフ:「柚木さんがどうしたの?!」 司:「……ゆず、きが……。」 リーフ:「落ち着いて。ゆっくりでいい。」 司:「……柚木が、意識、失ったって……。」 リーフ:「……え?」 司:「……特効薬……意味ねぇのかよ……?」 リーフ:「……あぁ、なんてことだ……。」 司:「……なんでだよ……。」 リーフ:「司……。」 司:「……俺さぁ、死ぬ気で仕事してさぁ、毎日定時上がりしてさぁ、毎日、柚木にさぁ、会いに行ってたんだよ……。」 リーフ:「……うん。知ってるよ。」 司:「病室で、柚木の親父さんとも会ってさぁ、そのときに連絡先交換してたんだよ。実家が遠いからさぁ、『なかなか来れないから、支えてやってくれ』ってさぁ、親父さんに言われてたんだよ……。」 リーフ:「うん……。」 司:「俺、親父さんに『任せてください』、って言ったのに……。」 リーフ:「……。」 司:「……くそ……なんであいつが……くっそ……!」 リーフ:「司……。」 司:「……っ…………。」 リーフ:「……。」 0:司は声を殺して涙を浮かべる。 リーフ:「…………司。」 司:「……。」 リーフ:「司!!」 司:「…………なんだよ……。」 リーフ:「司がそんな顔してどうする?!柚木さんはそれを喜ぶのか?!」 司:「っ!」 リーフ:「彼女が死ぬと決まった訳じゃないだろう?!」 司:「それは……。」 リーフ:「君はいつも近くで、柚木さんを見てきたじゃないか。いつも元気で明るい彼女が、簡単に病に負けるとでも思っているのか?!」 司:「……。」 リーフ:「司。君が回復を信じなくてどうする?!」 司:「……。」 リーフ:「……信じよう。」 司:「……。」 リーフ:「ね?司。」 司:「……あぁ、そうだな。あいつは大丈夫だ。きっと。」 リーフ:「ふふ。そうさ。柚木さんのことを信じないと。」 司:「……悪ぃ。もう大丈夫だ。」 リーフ:「いいんだよ。僕と司の仲じゃないか。」 司:「帰りに見舞い、付き合ってくれるか?」 リーフ:「あぁ!もちろんさ!」 司:「サンキュな。さぁ、今日も頑張るか!」 リーフ:「あぁ!」 0:数日後。 0: 0:【間】 リーフ:「おはよう司!」 司:「リーフ!(おはようさん。)」 リーフ:「(被せて)メッセージ見たよ!柚木さん、意識が戻ったんだって?!」 司:「あぁ!昨日、見舞いに行ったらな、病室に親父さんが居たんだ。」 リーフ:「うん。」 司:「親父さん、めちゃくちゃ泣いてるから、柚木に何かあったのかと思ったんだけどよ……そのときにはもう、柚木が起きててさ。」 リーフ:「そっか!」 司:「あぁ。まだ目覚めたばっかだからさ、うまく声は出ねぇし、まだ足も動かねぇらしいんだけどよ、上半身は起こせるし、笑って筆談もできる。」 リーフ:「ふふふ、良かったね。」 司:「あぁ。特効薬、ちゃんと効いたみたいだ。」 リーフ:「彼女が意識を失ったと言っていた君の顔を、今の君に見せてあげたいよ。」 司:「ん?」 リーフ:「そりゃあもう、ひっどい顔をしていたさ!」 司:「うっせ!あれは、その……。」 リーフ:「ふふふ。柚木さんを愛してるんだねぇ。」 司:「っ!お前……よく臆面もなく言えるな?!」 リーフ:「そういうところが日本人のいけないところだよ、ワトソンくん。」 司:「誰がワトソンだ誰が!はっ、悪ぃな。俺は生粋の日本人なもんで!」 リーフ:「愛情はちゃーんと言葉にして伝えないと!」 司:「……。」 リーフ:「……おやぁ?司くぅん?耳まで真っ赤だぞぅ?」 司:「……るっせぇよ……。」 リーフ:「もしかして、愛の告白をするシーンを想像しちゃったのかなぁ??」 司:「っだー!もー!うるせぇ!!さっさとデスクに行け!!」 リーフ:「あはははは!」 司:「……おい。佐藤、高橋。何見てんだ。……課長まで!勘弁してくださいよ……!」 リーフ:「ぷっくくく……。」 司:「〜〜〜〜っ!」 リーフ:「ふふふふ……さぁ!今日も忙しいぞぉ!」 司:「アイツ!……ったく……。……ありがとうな、リーフ……。」 0:数日後。 0: 0:【間】 リーフ:「おはよう司!今日もいい朝だね!」 司:「……あぁ。おはようさん……。」 リーフ:「……どうしたんだい?元気がないじゃないか。」 司:「……柚木の親父さんな……連絡が取れねぇんだ……。」 リーフ:「……え?」 司:「なぁ、リーフ。枯木症は、感染しないんだよな?」 リーフ:「テレビで専門家がそう言っていたね。」 司:「……。」 リーフ:「司……?」 司:「……嫌な予感がする。」 リーフ:「嫌な予感?」 司:「……悪ぃ。今日は帰る。」 リーフ:「え?」 司:「……。」 リーフ:「司?どうしたっていうんだ?」 司:「……あ、すんません課長。腹ぁ痛いんで帰らしてください。……はい……はい……すんません。」 リーフ:「お、おい。」 司:「悪ぃな、リーフ。あとは頼んだ。」 リーフ:「え?司?」 司:「……。」 リーフ:「……。あ、課長。……はい……はい……柚木さんのお父さんと、連絡がとれないって……。……はい。僕にも何がなんだか……え?いやいや!そんなまさか!……はい……。」 0:その日の夜。 0: 0:【間】 リーフ:「……はい……ええ。ではそのスケジュールで進めます。ありがとうございます、五十嵐さん。」 0:(リーフの携帯電話が鳴る) リーフ:「ーー……ん……司から?……もしもし。どうしたんだい?みんな心配していたよ。司の様子がおかしいって。」 司:「……。」 リーフ:「大丈夫かい?相当お腹が(痛かったんだね。)」 司:「(被せて)……ってた……。」 リーフ:「……ん?」 司:「……親父さんが……。」 リーフ:「柚木さんのお父さん?」 司:「……枯木症……。」 リーフ:「え。」 司:「……枯木症になってたんだよ……親父さんが!親父さんの!身体が!!もう、くず、れ……ううっ……。」 リーフ:「司。落ち着いてくれ。」 司:「……なんで、こんな……。」 リーフ:(M)司が、辛うじて言葉を絞り出してくれて分かったのは、柚木さんのお父さんが、枯木症によって亡くなったということだった。 司:「……うっ……くそ……くっそ…………。」 リーフ:(M)嗚咽を漏らしながら泣き続ける司を、僕は宥めることしか出来なかった。 司:「……なんで……なんでだよ……。」 リーフ:「……。」 司:「……この間まで……元気だったんだよ……なのに……。」 リーフ:「司……。」 司:「……くそ……くっそぉぉぉ!!!」 0:数日後。 0: 0:【間】 司:「……おはようさん……。」 リーフ:「司!……その……何と言ったら良いか……。」 司:「リーフ……しばらく休んじまって悪かったな……。」 リーフ:「いや……僕たちのことより、彼女は……柚木さんは平気かい……?」 司:「……ショックを受けていたよ……。」 リーフ:「……そう、だよね……。」 司:「『このご時世だし、こうなっても仕方ないよ』ってさ……そのあと、ずっと泣いてた。」 リーフ:「そっか……。」 司:「あぁ……受け入れられないよな……。」 リーフ:「お父さんの枯木症は、進行速度が段違いだったんだね……。」 司:「そうだな……それにしたって、こんな急に進行するなんてな……個人差があるっていったって、限度があるだろ……。」 リーフ:「……。」 司:「……柚木は、俺が支える。親父さんと……柚木と、約束したからな。」 リーフ:「……彼女とも約束したんだね。そっか。約束は守らないと、だね。」 司:「あぁ……俺がいつまでも落ち込んでる訳にはいかないよな……。」 リーフ:「……うん、そうだね。」 司:「リーフ、今日も帰り、付き合え。」 リーフ:「……ふふ、あぁ。もちろんさ。」 司:「ありがとうな。」 リーフ:「……ところで。」 司:「ん?」 リーフ:「司はいつまで『柚木』って呼ぶんだい?」 司:「……え。」 リーフ:「彼女を支えるだなんて約束をしたんだ、いい加減、愛の告白はしたんだろう?」 司:「……まぁ、そ……れは、その……。」 リーフ:「……まさか、まだ告白していないのかい?」 司:「したよ!!したけ、ど……あ。」 リーフ:「……へーーーぇ?」 司:「っ……。何だよその顔は……。」 リーフ:「いやぁ?……それで?その様子だと恋人になったんだろう?」 司:「……外人ってのは皆こうなのか……?」 リーフ:「日本人が奥ゆかしいだけだよ。」 司:「お前の国ではどうなん……。リーフ、どこ出身だったっけ……?」 リーフ:「どこだっていいだろう?それで、恋人同士になったのかい?」 司:「……あぁ、そうだよ。付き合うことになったよ。」 リーフ:「……ふふふ、やっと言ってくれた。おめでとう、司!」 司:「や、でも、な……勢いで告白しちまったんだ……親父さんを利用したみたいで、さ……。」 リーフ:「……後ろめたい?」 司:「……あぁ……。」 リーフ:「……君は、お父さんに『支えてくれ』って言われたんだろう?君は『任せてください』って言ったんだろう?」 司:「……。」 リーフ:「きっとお父さんは、司になら任せられると思ったんじゃないかな。だから、利用している、だなんて言わないでくれ。」 司:「……そう、だな。」 リーフ:「……ほら、そんな顔しない!彼女を支えるんだろう?」 司:「……あぁ。いつもサンキュな。」 リーフ:「……君、段々と素直になってきたね?」 司:「はっ、成長ってやつだよ。」 リーフ:「その調子で、ぜひ彼女を『琴音』って呼んでくれよ。」 司:「ぐっ……善処……する……。」 リーフ:「ふふふ。頑張れ、司。」 0:数日後。 0: 0:【間】 司:「ーー……ん…………ぁ、……ってぇ……。」 司: 司:(M)全身の痛みで目が覚めた。日はすっかり落ちて、月明かりが窓から差し込む。 司:ここはーー。病院、だろうか。耳が痛くなるほどの静寂。 司:ーー少しずつ、記憶を辿る。 司:俺は、確かーー。 司:……そうだ。俺は定時で仕事を終わらせ、いつも通り琴音の見舞いに来たのだ。 司:いつの間にか、寝てしまっていたのだろうか……? 司: 司:「……悪ぃ、琴音。いつの間にか寝てたみた、い、だ……。」 司: 司:(M)そこには、いつもの琴音の姿はなく。 司:白いベッドに、1本の樹が横たわっていた。 司: 司:「……ぁ。…………あ、ぁぁああ……!」 司 司:(M)その樹を一目見たとき、俺は。 司:『それ』が、琴音であるのだと、分かってしまった。 0:【間】 0: リーフ:「……あぁ。美しい……。」 リーフ: リーフ:(M)スーパームーン。 リーフ:月が地球に接近することで、通常よりも大きく、明るく見える満月を指す。 リーフ:灯りのない道を、月だけが照らしている。 リーフ: リーフ:「たまには本社ビルの屋上から、街を一望するのも良いね。」 リーフ: リーフ:(M)街灯りが無くとも、月さえあれば幻想的な景色は見られるのだ。 リーフ:いっそ、この世界に人工物は要らないのかもしれない。 リーフ: リーフ:「……とは思わないかな?ねぇ、司。」 0:司、肩で息をしている 司:「……リーフ……。」 リーフ:「よくここが分かったね。まぁ僕が誘導したのだけど。」 司:「……ぐっ……っ……。」 リーフ:「おやおや、どうしたんだい?随分と苦しそうじゃないか。」 司:「リーフ……琴音が……街が、たいへん、なんだ……。」 リーフ:「あぁ、知っているとも。ここから街を見ていたからね。」 司:「……どうなって、るんだよ……。お前は、なんともない、のか……?」 リーフ:「見ての通り。もちろんさ。」 司:「そ、うか……良かった……。」 リーフ:「ぷっくくく……『良かった』。良かった、かぁ。……ふふふ。」 司:「……なんで、笑ってる、んだよ……たいへんなことに、なってるんだよ!!」 リーフ:「ふふふふ……だって、これは僕たちがしたことだからね!」 司:「……………………は……?」 リーフ:「なんとも、呆けた顔だねぇ。」 司:「いや……いやいやいや、だって、おかしいだろ……おまえは、故郷の村が、みんな、みんな枯木症を(患って)」 リーフ:「(被せて)僕の故郷って、どこだったかなぁ?」 司:「…………え……?」 リーフ:「僕は今まで、ただの一言も、故郷の話はしたことがないよ?」 司:「……そん、な、こと……。」 リーフ:「それだけじゃない。僕が故郷の村からこの日本に来たというのなら、僕はいつ、この会社に入った?」 司:「……ぇ……それ、は、…………。」 リーフ:「……くふふふふふ……『分からない』。そうだろう?」 司:「……いや……だって、お前とは、何年も前から一緒に、仕事を……何度も……一緒に、お前と、飲みに……お前…………『お前は誰だ』……?」 リーフ:「くっははははははは!!!!『善い』!!!!善い表情だ!!!!」 司:「なん、で…………なんで、『お前』が、わからない……?!」 リーフ:「あらためて、初めまして。赤間 司くん。僕はこの星を衛る者。……そうだな……君たち人間で言うところの、天使、かな。」 司:「な、にを……いっ、てるんだ……。」 リーフ:「『リーフ・スティングレイ』は、僕が偶々降り立ったアクアリウムで見つけた、適当な名前さ。神に使える僕に、固有名詞などない。」 司:「……ぐ、……あし、が……いっ……!」 リーフ:「おやぁ?司くぅん。君もようやく、といったところだね。」 司:「がっ……ぐぁ……!」 リーフ:「見てご覧よ、君の脚を。随分と月夜に映える『みてくれ』になったじゃないか。」 司:「なん、……このあし、は……おまえ、は……なんなんだよ……!」 リーフ:「『善い』ね……。善い!!……おっと……。 リーフ:……こほん。説明しよう! リーフ:僕たち天使は、この星の守護者。我らが主は、この星の存続を憂いている。 リーフ:……あぁ、君たち人間は、とても非道い。 リーフ:増えすぎた君たちは、自分達の種の存続の為に、この星を壊そうとしている。」 司:「……っ。」 リーフ:「我らが主は、たいへん悩まれた……。 リーフ:考えて、考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて。 リーフ:……そうして考え抜いた末に、一つの結論を出されたんだ。 リーフ:『そうだ、増えすぎた人間を、樹に変えてしまおう!』……ってね!」 司:「……は、……ま、さか……!」 リーフ:「そう!察しが良いね!! リーフ:僕達が『枯木症』をバラ撒いていたんだ!」 司:「……!!」 リーフ:「いやぁー。大変だったよ? リーフ:人間の中でも、取り分け、他者と交流がない者。 リーフ:そういう人間をちまちま変えていったんだけどさ。 リーフ:あ、ほら。基本、僕たちは存在を明かせないから。 リーフ:だけどね、やっぱ効率悪いよねー、って話になって。 リーフ:じゃあさ。人間の中でも、信心深い人とかさ。 リーフ:多くの人間の信頼を集めている人をさ。 リーフ:『特異点』にすることで、一気にやっちゃおう! リーフ:……てな訳さ。 リーフ:でもビックリしたよ、特効薬だなんて。 リーフ:ま、取るに足らないモノだったけどね! リーフ:……あ。どうやって『特異点』にするかは、企業秘密、ってことで!」 司:「……なん、だよ……それ……。」 リーフ:「『特異点』にするのは、ほら。あの。なんだっけ? リーフ:君が恋人になった、っていうオンナノコの。お父さん! リーフ:人間の歴史上、稀に見る、民衆からの多くの信頼を得た『元総理大臣』! リーフ:日本国民だけでなく、海外からの信頼も厚い……。 リーフ:いやぁー、国の発展だけじゃなく。 リーフ:今度はこの星の存続に貢献できるなんて。 リーフ:ほんっと!使える人間だったよ!! リーフ:僕が閃いたんだよ?あの人を『特異点』にしたの! リーフ:ふふふふふ!!完っ璧でしょ?僕たちの計画!!」 司:「…………ける、な……。」 リーフ:「ん?どうしたんだい、司くん?」 司:「……ふっざけんな!!!親父さん、誰もが憧れた人なんだぞ!!!琴音の、たいせつな、たった一人の家族だったんだぞ!!!それを……それをお前は!!!!!」 リーフ:「……相当痛いだろうに、まだこんなに叫ぶ元気があるのか。 リーフ:……ふふふ、すごいねぇ。でも……。」 司:「……ぐ、ぅ…………ぇせよ……。」 リーフ:「そろそろ、限界。かなぁ??」 司:「……か、えせよ!!!琴音、も!!!!親父さんも!!!!!」 リーフ:「残念だけど、だぁめ。 リーフ:『特異点』にしてしまった以上、無理だよ。 リーフ:『特異点』と魂の繫りが深かった、オンナノコも無理。」 司:「……ぅ……ぐ…………。」 リーフ:「司ぁ。君と過ごした時間はとてもワクワクして。 リーフ:ドキドキして。ゾクゾクして。 リーフ:とーーーーーっても!!楽しかったよ。だから……。」 司:「………が…………ぁぐ…………。」 リーフ:「『最期』にね。この美しい景色を君と見たかったんだぁ。」 司:「ぉぁ…………ご………ぐぐ…………。」 リーフ:「……もう喋れないねぇ。 リーフ:ほら。もう樹になったところから崩れてる。 リーフ:……ふふ、じゃあね。司。 リーフ:その魂が、迷うこと無く、主の元へ辿り着きますよう。」 司:「……あ、……あぁあ………ぁぁあああああぁぁぁぁぁああぁ!!!」 リーフ:「バイバイ。」 0:【間】 0: 司:(M)その日、人類のおよそ半分が消滅した。 司:文字通り、消滅したのだ。 司:今まで日本と呼ばれていた先進国は、一夜にして森林の海に沈んだ。 司:その近隣の国も、同じだ。 司:その怪異から免れた国が原因調査に乗り出したが、結果は芳しくないようだ。 司: 司:幸か不幸か、枯木症の新規感染者は一人も出なくなった。 司:噂では、神の裁きだとか、天使を見たとか、宇宙人の仕業だったとか。 司:何はともあれ、ほぼ機能しなくなった経済と、日に日に廃れていく街の中で、人間たちは生きていくしかないのだ。 司: 司:事の真相は、誰にも分からない。 0:END. 0: