台本概要

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タイトル STRAYSHEEP Ⅹ
作者名 紫音  (@Sion_kyo2)
ジャンル その他
演者人数 8人用台本(男3、女5)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 『あなたはあなたの、信じる道を。』
それぞれが背負った罪、償うために選んだ道。間違えたっていい。遠回りしたっていい。だってきっと、一人じゃないから――。
――――――――――――――――――――――――――――――――
STRAYSHEEPシリーズ十作目になります。最終作です。
時間は20分~30分を想定しています。
上演の際、お手数でなければお知らせいただけると嬉しいです。※必須ではないです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アデル 18 何でも屋。元殺し屋“デュアルバレット”。
チェルシー 15 何でも屋。元殺し屋“デュアルバレット”。
ルシア 20 殺し屋。ロイドの相棒(バディ)。
ロイド 20 殺し屋。ルシアの相棒(バディ)。ミッシェルの兄。
ノエル 25 元バウンティハンター。
ミッシェル 24 元バウンティハンター。ロイドの妹。
ジェイド 14 アデルとチェルシーの友人。街の教会で暮らしている青年。
ユリア 11 アデルの友達。故人。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:墓地にて。 0:ユリアの墓に花を手向けるアデル。 アデル:……久しぶりだな、ユリア。 アデル:ごめんな、ずっと顔見せに来てなくて。いつか来なきゃいけないと思ってたのに……気付いたらこんなに時間が経っちまってた。 ユリア:……ふふ、遅いよ、アデル。 ユリア:全然会いに来てくれないから、私待ちくたびれちゃった。 アデル:俺さ……お前に謝らなきゃいけないことがあるんだ。 ユリア:なぁに? アデル:俺は……お前との約束を、守れてなかった。 アデル:お前のことを、忘れそうになってたんだ。 アデル:いや、ちょっと違うな。……忘れようと、してた。償うなんて言いながら、過去に蓋をしてた。 アデル:でも……俺はもう、見ないふりはしないから。お前とのことも……全部、忘れない。 アデル:だから……見守っててくれるか、ユリア。 ユリア:……ふふ。 ユリア:もちろんだよ、アデル。あなたが望む限りずっと、ここから見守ってる。 アデル:……俺は、相変わらず花はそんなに好きじゃないけど。 アデル:お前が好きだったフリージアは……ちょっとだけ、好きになったよ。 ユリア:えー、ちょっとだけなの?『大好き!』って言ってほしかったなー。 アデル:……約束だもんな、ユリア。ずっと友達っていう……約束。 ユリア:……うん。約束。 アデル:いつか……またお前に会えるかな。 ユリア:……だめだよ、アデル。 ユリア:あなたはまだ、こっちに来ちゃだめ。だってあなたの周りには、大切な人がたっくさんいるでしょ? アデル:……きっと、まだ来ちゃだめだって言うんだろうな、お前は。 ユリア:うんうん、その通り。 アデル:でもさ……いつかまた会えたら……一緒に育てようか、フリージア。 ユリア:……! ユリア:……うん。絶対ね! ユリア:今度は約束、破らないでよ? アデル:今度は約束、破らねぇから。 アデル:だから、もう少し待っててな。 ユリア:……うん。 アデル:じゃあ……また来る。 0:去っていくアデル。 0:誰の目にも映らないユリアは、アデルの背中に向かって微笑んだ。 ユリア:……ねえ、アデル。きっともう、大丈夫だね。 ユリア:今度はお友達も一緒に連れて、また会いにきて。……待ってるよ、アデル。 0:  0:  0:  0:某所にて。 0:壁にもたれかかり、腕時計をちらちらと気にするノエル。 ノエル:……(ため息)。 ノエル:遅ぇな、ミッシェルのやつ……何分待たせる気だよ…… ミッシェル:……ノエルさーん!! ノエル:……! 0:息を切らして、ミッシェルが走ってくる。 ミッシェル:すみません、お待たせしてしまって……! ノエル:遅い。遅すぎ。30分遅刻とかありえないです。 ミッシェル:あうう……すみません…… ノエル:ったく……どこで何してたんですか。 ミッシェル:あの……その…… ノエル:怒らないから言ってみろ。 ミッシェル:実は、これを…… 0:恐る恐るミッシェルが差し出したのは、ドーナツ屋の袋。 0:なかにはぎっしりとドーナツが詰め込まれている。 ノエル:……なんですかこれ、ドーナツ? ミッシェル:メイン通りに、今日新しくドーナツ屋さんがオープンしたんです。 ミッシェル:それがすごく美味しそうだったから、ノエルさんと一緒に食べようと思って……でもいざ買おうとして長い列に並んだら、私の目の前で売り切れてしまって…… ノエル:お、おう……それで? ミッシェル:そうしたらお店の方が、新しく追加でドーナツを作ってくださるっていうから、それを待っていたらさらに時間がかかってしまいまして…… ノエル:な、なるほどな……。 ミッシェル:で、でも!おかげで揚げたてドーナツをこんなにたくさんゲット出来ました!だから一緒に食べましょう!ノエルさん! ノエル:ていうか二人でこの量って普通に多くないか!?……いやでも、あんたそれなりに大食いだから大丈夫か……。 ノエル:でも、わざわざ私の分まで買ってこなくったっていいのに…… ミッシェル:だってノエルさん、ドーナツお好きでしょう? ノエル:……え? ミッシェル:前に私が作ったドーナツ、とっても美味しそうに食べてくださいましたから……てっきりそうなのかと。 ミッシェル:私の勘違いでした……? ノエル:……いや、まあ……好きなのは本当ですけど。 ノエル:あんたが作ったドーナツだから旨かったっていうのも……あるかなって…… ミッシェル:……うふふっ。 ノエル:なんだよ。 ミッシェル:いえ……今度また、久しぶりにドーナツを作ろうかと。 ミッシェル:ノエルさんが喜んでくださるなら、何度でも、毎日でも作ります! ノエル:毎日はさすがに飽きるって……。 ミッシェル:ねえ、ノエルさん。 ノエル:……なんですか。 ミッシェル:私、最初はノエルさんのこと、怖い人だと思ってました。 ノエル:……いや、なんだよ急に。 ミッシェル:でも、ノエルさんとの時間を重ねるうちに気付きました。……ノエルさんは不器用なだけで、思いやりにあふれた、優しい人なんだ、って。 ミッシェル:私、ノエルさんと出会えて本当に良かったです。守られてばかり、庇ってもらってばかりでしたけど……たくさんのことを、ノエルさんに教えてもらいました。 ミッシェル:まだまだ私は、強くならなきゃいけません。だから、これからも私は、ノエルさんについていきたいです。 ノエル:……おいおい……なんか、急にそんなこと言われるの……調子狂うだろ。 ミッシェル:でも!こういうのは言葉にしないと伝わらないではありませんか! ノエル:いやそうだけど……唐突にそういう話されるとその、なんか、なんかあれなんだよ! ミッシェル:あれってなんですか? ノエル:えいやだから、その……あー説明むずい! 0:(少しの間) ノエル:ていうか、ミッシェル。 ミッシェル:はい? ノエル:その……『ついていく』っていうの、やめません? ミッシェル:……え? ノエル:私はあんたのこと……『友達』だって思ってるんですよ。 ノエル:『友達』ってさ、どっちが上とか下とか、前とか後ろとかないだろ。私があんたを引っ張り上げるわけでも、背中を押してやるわけでもない。 ノエル:『友達』だから……横に並んで、一緒に歩いてたいんですよ、私は。 ノエル:だから、その……『ついていく』んじゃなくて、ただ『一緒にいる』……じゃ、だめですかね。 ミッシェル:……ノエルさん…… ノエル:な、なんだよ、そんなにじっと見つめんなよ…… ミッシェル:……ふふ。 ミッシェル:そうですね。……ええ、そうでした。『友達』、です。私たちは。 ミッシェル:お約束します、ノエルさん。私は……これからもノエルさんの横を、一緒に歩きます。ぜひ、そうさせてください。 ノエル:……ま、グズグズ歩いてたら置いていきますけどね。 ミッシェル:大丈夫です!絶対追いつきますから! ノエル:……ハハ、いい返事。 ノエル:さ、それじゃあとりあえず……ドーナツ食いながら今後のことでも考えましょうかね。 ミッシェル:はい! ノエル:……ああ、そういえば……あんたのお兄さん、いつこっちに来るんですか? ミッシェル:お兄様は、この後合流する予定みたいですよ。 ミッシェル:先にやることがある……って、言ってましたけど……。 0:  0:  0:  0:某所にて。 0:黙々と歩いていくロイド。 0:後方から走ってきたルシアが、それを呼び止める。 ルシア:……ロイド! ロイド:ん? ルシア:待ってください!どこに行くつもりですか……! ロイド:どこって……そんなの俺の自由だろ。なんでわざわざ追いかけてくるんだい? ルシア:なんでって……そんなの、こっちが聞きたいくらいです! ルシア:どういうことですか、組織を抜けるって……! ロイド:あー……なんだ、もう聞いたのか。 ルシア:答えてください! ロイド:……そのまんまの意味。俺はこれ以上、お前らと一緒に殺しはしない。 ルシア:どうして…… ロイド:まあ……俺にもいろいろとあったんだよ。それこそお前に関係ないけどね。 ルシア:でも、バディである私に何も言わずになんて……! ロイド:別に……言おうが言うまいが関係ないだろ。 ルシア:……え……? ロイド:組織を抜ければ、頭の固いシルバーとも、腹の中で何考えてるか分かんないヒリスとも……真面目過ぎてつまんないお前とも、もう顔合わせなくて済む。 ルシア:……ロイ、ド…… ロイド:つまりバディは解消ってことだ。お前もさ、俺がいない方がやりやすいんじゃないかい?いっつもケンカばっかりだったもんねぇ、俺たち。 ロイド:俺みたいな不真面目で協調性の欠片もない奴じゃなくて、もっと一緒に組んでてやりやすい奴と、新しくバディを組みなよ。……まあ、お前は一人でも十分やっていけると思うけど。 ロイド:だから、俺のことなんかさっさと忘れて―― 0:(ロイドの言葉が終わる前に) ルシア:……私は!! ルシア:私は……たしかに……貴方のことが、好きじゃありませんでした。いつも仕事が適当で、不真面目で、ボスからのお説教を私だけに押し付けたりもして…… ルシア:『この人とは合わない』、『どうしてこんな人とバディを組まなくてはいけないのか』と、最初こそ毎日思っていました。 ロイド:……だったら―― ルシア:だけど……嫌い、だったわけじゃありません……。 ルシア:私の足りないところを、うまい具合に貴方が補ってくれたり……私が挫けそうなときに、引っ張り上げてくれたり。貴方がいるだけで、心強かったのも事実です。 ルシア:だから……いない方がいい、なんて……そんな風には、私は…… ロイド:……。 0:少し黙り込んだ後、ロイドが重たいため息とともに、困ったように額に手を当てる。 ロイド:……参ったな。勘弁してくれ。 ルシア:ロイド…… ロイド:分かった、分かったよ。お前の気持ちは分かったから。 ロイド:だからそんな泣きそうな顔するなよ、お前らしくもない。……俺が泣かせたみたいで気まずいだろ。 ロイド:……(ため息)。 ルシア:……すみません、少し……感情的になってしまいました……。 ロイド:いや、その……なんていうか……悪かったよ、俺の言い方が少し、尖ってたから……。 ロイド:俺も別に……お前のこと、嫌いじゃなかったよ。真面目過ぎてつまんないと思ってたのは本当だけど……お前に助けられたことだって何度もあるしね。 ロイド:お前、強いからさ。見てて面白かったし。……だから、楽しかったって言っても嘘にはならないよ。 ロイド:まあ、その……なんていうかな。最後くらい、ちゃんと言っとくよ。……ありがとう。 ルシア:……いえ、こちらこそです。 ルシア:私も、ケンカばかりではありましたが……楽しかったですよ。貴方から学ぶことも、たくさんありました。 ロイド:ハハ、俺から学ぶことなんて、ろくでもないことばっかりだろうにね。 ロイド:……で、お前これからどうするんだい。 ルシア:それは……まだ、分かりません。 ルシア:でも私は、どんな道であったとしても……ボスについていこうと思います。 ロイド:……そうかい。 ロイド:あの爺さん、頭が固くて説教が長くて俺は苦手だったけど……お前がついてるなら大丈夫だろうね。ちゃんとそばで支えてやれよ。 ルシア:はい、もちろん。 ルシア:貴方は……妹さんと一緒に、行くんでしょう? ロイド:……なんだよ、知ってたのか。 ルシア:ええ、まあ。 ルシア:これからは、別々の道になりますが……きっと貴方なら大丈夫だと、そう思います。 ロイド:だと、いいけどね。 ロイド:……さて、俺はそろそろ行くよ。 ルシア:ロイド。 ロイド:なんだい、ルシア。 ルシア:貴方が忘れてと言っても、多分私は……貴方のこと、忘れないと思います。 ルシア:いえ……忘れないと、約束します。 ロイド:ハハ、そうかい。 ロイド:俺も多分、忘れないよ、お前のことは。ちゃんと覚えておく。……これも約束だ。 ルシア:……はい。 ロイド:……じゃあね。また、いつか。 ルシア:ええ。……お元気で。 0:  0:  0:  0:病院にて。 0:中庭のベンチに座っているチェルシーのもとに、ジェイドが駆けてくる。 ジェイド:おーい!チェルシー! チェルシー:……ジェイド! ジェイド:悪い悪い、お待たせ! チェルシー:ちょ、走ってこなくてもいいのに……また傷が開いたりしたらどうするのよ。 ジェイド:アハハ、大丈夫だって。……わざわざありがとな、退院したからって迎えに来てくれてさ。 チェルシー:当たり前よ。……あなたが怪我したの、私のせいでもあるし。 ジェイド:そんなことない。俺が飛び出したのが悪いんだからさ、気にすんなよ。 チェルシー:でも、私を守ろうとしてくれたんでしょ。 ジェイド:まあ、それはそうだけど。 チェルシー:……本当に、ごめんね、ジェイド。 ジェイド:もういいんだよ、チェルシー。これ以上謝らないでくれよ。逆に俺が申し訳なくなっちゃうだろ。 チェルシー:……。 ジェイド:……俺さ、チェルシー。 ジェイド:アデルのことも、チェルシーのことも……大事な友達だって思ってる。だから、お前らが何を抱えてたとしても俺は……全部受け入れるよ。 ジェイド:絶対に、何があっても、お前らの味方でいる。……それだけは、約束できる。 ジェイド:だからさ、チェルシー。これからも、俺……お前らと友達でいて、いいかな。 チェルシー:……ジェイド……。 チェルシー:ほんとに、あんたって……なんていうか、もう…… チェルシー:……私、あなたに出会えて、本当に良かった。 チェルシー:私もね、約束する。もう、あなたに嘘はつかない。隠し事もしない。 チェルシー:だから、これからも……今までみたいに、一緒にいてくれる? ジェイド:あったりまえだ。 ジェイド:俺さ、アデルみたいに強くなるって決めたんだ。……チェルシーを泣かせるやつを、今度は俺がボコボコにしてやるから。 ジェイド:だから、大丈夫だよ。 チェルシー:……ふふ。ありがとう、ジェイド。 0:  0:  0:  0:(十分間を置いてから) ユリア:(N)誰かを愛するとは、誰かを信じること。 ユリア:(N)誰かを受け入れること。 ユリア:(N)誰かを守りたいと思うこと。 ユリア:(N)だけど、そこに生まれる感情は、決して明るいものばかりじゃなくて。 ユリア:(N)嫉妬、怒り、悲しみ。……ドロドロになった感情が渦巻いていく。 ユリア:(N)すれ違って、間違えて、傷付け合って……ボロボロになりながらも、誰かと繋がるために、必死に手を伸ばす。 ユリア:(N)でもきっと、その手を掴んでくれる人は、必ずいるから。ひとりぼっちじゃ、ないから。 ユリア:(N)愛し方は、人それぞれ。不器用でもいい。遠回りでもいい。 ユリア:(N)忘れてはいけない言葉を、笑顔を、約束を……ひとつひとつ、胸に刻んで。 ユリア:(N)それはいつか必ず、花を咲かせて……あなたの道標となってくれるはずだから。 ユリア:(N)正解は一つじゃない。だから、あなたはあなたの、信じる道を――。 0:  0:  0:  0:事務所の電話が鳴る。 0:慌てて駆けてきたチェルシーがそれを取る。 チェルシー:お電話ありがとうございます、何でも屋です! チェルシー:……はい、はい……分かりました!準備ができ次第、すぐに向かいますね! 0:電話を切るチェルシー。 アデル:新しい依頼か? チェルシー:ええ、ペットの子犬が脱走しちゃって、探すのを手伝ってほしいんですって。 アデル:子犬、か……。 ジェイド:お、迷子探しか?それなら俺の得意分野だ! チェルシー:ふふ、やる気十分ね、ジェイド。 アデル:お前、動物に好かれやすいもんな。頼りにしてるぞ、ジェイド。 ジェイド:おうよ!任せとけ! 0:支度の途中、ジェイドがふと思い出したように顔を上げる。 ジェイド:……なんかさ、懐かしいな。 アデル:何が? ジェイド:前もさ、こうやってみんなで迷子探し、したよなって。 ジェイド:あの時は、逃げだしたのがうちの教会の子猫だったわけだけど。 チェルシー:ああ、そういえば……そうだったわね。 アデル:あれから、全部始まったんだよな。 チェルシー:……ええ、そうね。 ジェイド:でも……良かったんだよな、これで。少なくとも俺は、そう思ってるよ。 チェルシー:……うん、私も。 アデル:俺も、そう思う。きっと……もう間違えない。 0:  0:(少し間を置いてから) 0:  アデル:さあ、準備はいいか?チェルシー、ジェイド。 チェルシー:オッケーよ! ジェイド:俺もだ! アデル:よし……じゃあ、行くぞ! 0:  0:STRAYSHEEPシリーズ 完。 0:  0:ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

0:墓地にて。 0:ユリアの墓に花を手向けるアデル。 アデル:……久しぶりだな、ユリア。 アデル:ごめんな、ずっと顔見せに来てなくて。いつか来なきゃいけないと思ってたのに……気付いたらこんなに時間が経っちまってた。 ユリア:……ふふ、遅いよ、アデル。 ユリア:全然会いに来てくれないから、私待ちくたびれちゃった。 アデル:俺さ……お前に謝らなきゃいけないことがあるんだ。 ユリア:なぁに? アデル:俺は……お前との約束を、守れてなかった。 アデル:お前のことを、忘れそうになってたんだ。 アデル:いや、ちょっと違うな。……忘れようと、してた。償うなんて言いながら、過去に蓋をしてた。 アデル:でも……俺はもう、見ないふりはしないから。お前とのことも……全部、忘れない。 アデル:だから……見守っててくれるか、ユリア。 ユリア:……ふふ。 ユリア:もちろんだよ、アデル。あなたが望む限りずっと、ここから見守ってる。 アデル:……俺は、相変わらず花はそんなに好きじゃないけど。 アデル:お前が好きだったフリージアは……ちょっとだけ、好きになったよ。 ユリア:えー、ちょっとだけなの?『大好き!』って言ってほしかったなー。 アデル:……約束だもんな、ユリア。ずっと友達っていう……約束。 ユリア:……うん。約束。 アデル:いつか……またお前に会えるかな。 ユリア:……だめだよ、アデル。 ユリア:あなたはまだ、こっちに来ちゃだめ。だってあなたの周りには、大切な人がたっくさんいるでしょ? アデル:……きっと、まだ来ちゃだめだって言うんだろうな、お前は。 ユリア:うんうん、その通り。 アデル:でもさ……いつかまた会えたら……一緒に育てようか、フリージア。 ユリア:……! ユリア:……うん。絶対ね! ユリア:今度は約束、破らないでよ? アデル:今度は約束、破らねぇから。 アデル:だから、もう少し待っててな。 ユリア:……うん。 アデル:じゃあ……また来る。 0:去っていくアデル。 0:誰の目にも映らないユリアは、アデルの背中に向かって微笑んだ。 ユリア:……ねえ、アデル。きっともう、大丈夫だね。 ユリア:今度はお友達も一緒に連れて、また会いにきて。……待ってるよ、アデル。 0:  0:  0:  0:某所にて。 0:壁にもたれかかり、腕時計をちらちらと気にするノエル。 ノエル:……(ため息)。 ノエル:遅ぇな、ミッシェルのやつ……何分待たせる気だよ…… ミッシェル:……ノエルさーん!! ノエル:……! 0:息を切らして、ミッシェルが走ってくる。 ミッシェル:すみません、お待たせしてしまって……! ノエル:遅い。遅すぎ。30分遅刻とかありえないです。 ミッシェル:あうう……すみません…… ノエル:ったく……どこで何してたんですか。 ミッシェル:あの……その…… ノエル:怒らないから言ってみろ。 ミッシェル:実は、これを…… 0:恐る恐るミッシェルが差し出したのは、ドーナツ屋の袋。 0:なかにはぎっしりとドーナツが詰め込まれている。 ノエル:……なんですかこれ、ドーナツ? ミッシェル:メイン通りに、今日新しくドーナツ屋さんがオープンしたんです。 ミッシェル:それがすごく美味しそうだったから、ノエルさんと一緒に食べようと思って……でもいざ買おうとして長い列に並んだら、私の目の前で売り切れてしまって…… ノエル:お、おう……それで? ミッシェル:そうしたらお店の方が、新しく追加でドーナツを作ってくださるっていうから、それを待っていたらさらに時間がかかってしまいまして…… ノエル:な、なるほどな……。 ミッシェル:で、でも!おかげで揚げたてドーナツをこんなにたくさんゲット出来ました!だから一緒に食べましょう!ノエルさん! ノエル:ていうか二人でこの量って普通に多くないか!?……いやでも、あんたそれなりに大食いだから大丈夫か……。 ノエル:でも、わざわざ私の分まで買ってこなくったっていいのに…… ミッシェル:だってノエルさん、ドーナツお好きでしょう? ノエル:……え? ミッシェル:前に私が作ったドーナツ、とっても美味しそうに食べてくださいましたから……てっきりそうなのかと。 ミッシェル:私の勘違いでした……? ノエル:……いや、まあ……好きなのは本当ですけど。 ノエル:あんたが作ったドーナツだから旨かったっていうのも……あるかなって…… ミッシェル:……うふふっ。 ノエル:なんだよ。 ミッシェル:いえ……今度また、久しぶりにドーナツを作ろうかと。 ミッシェル:ノエルさんが喜んでくださるなら、何度でも、毎日でも作ります! ノエル:毎日はさすがに飽きるって……。 ミッシェル:ねえ、ノエルさん。 ノエル:……なんですか。 ミッシェル:私、最初はノエルさんのこと、怖い人だと思ってました。 ノエル:……いや、なんだよ急に。 ミッシェル:でも、ノエルさんとの時間を重ねるうちに気付きました。……ノエルさんは不器用なだけで、思いやりにあふれた、優しい人なんだ、って。 ミッシェル:私、ノエルさんと出会えて本当に良かったです。守られてばかり、庇ってもらってばかりでしたけど……たくさんのことを、ノエルさんに教えてもらいました。 ミッシェル:まだまだ私は、強くならなきゃいけません。だから、これからも私は、ノエルさんについていきたいです。 ノエル:……おいおい……なんか、急にそんなこと言われるの……調子狂うだろ。 ミッシェル:でも!こういうのは言葉にしないと伝わらないではありませんか! ノエル:いやそうだけど……唐突にそういう話されるとその、なんか、なんかあれなんだよ! ミッシェル:あれってなんですか? ノエル:えいやだから、その……あー説明むずい! 0:(少しの間) ノエル:ていうか、ミッシェル。 ミッシェル:はい? ノエル:その……『ついていく』っていうの、やめません? ミッシェル:……え? ノエル:私はあんたのこと……『友達』だって思ってるんですよ。 ノエル:『友達』ってさ、どっちが上とか下とか、前とか後ろとかないだろ。私があんたを引っ張り上げるわけでも、背中を押してやるわけでもない。 ノエル:『友達』だから……横に並んで、一緒に歩いてたいんですよ、私は。 ノエル:だから、その……『ついていく』んじゃなくて、ただ『一緒にいる』……じゃ、だめですかね。 ミッシェル:……ノエルさん…… ノエル:な、なんだよ、そんなにじっと見つめんなよ…… ミッシェル:……ふふ。 ミッシェル:そうですね。……ええ、そうでした。『友達』、です。私たちは。 ミッシェル:お約束します、ノエルさん。私は……これからもノエルさんの横を、一緒に歩きます。ぜひ、そうさせてください。 ノエル:……ま、グズグズ歩いてたら置いていきますけどね。 ミッシェル:大丈夫です!絶対追いつきますから! ノエル:……ハハ、いい返事。 ノエル:さ、それじゃあとりあえず……ドーナツ食いながら今後のことでも考えましょうかね。 ミッシェル:はい! ノエル:……ああ、そういえば……あんたのお兄さん、いつこっちに来るんですか? ミッシェル:お兄様は、この後合流する予定みたいですよ。 ミッシェル:先にやることがある……って、言ってましたけど……。 0:  0:  0:  0:某所にて。 0:黙々と歩いていくロイド。 0:後方から走ってきたルシアが、それを呼び止める。 ルシア:……ロイド! ロイド:ん? ルシア:待ってください!どこに行くつもりですか……! ロイド:どこって……そんなの俺の自由だろ。なんでわざわざ追いかけてくるんだい? ルシア:なんでって……そんなの、こっちが聞きたいくらいです! ルシア:どういうことですか、組織を抜けるって……! ロイド:あー……なんだ、もう聞いたのか。 ルシア:答えてください! ロイド:……そのまんまの意味。俺はこれ以上、お前らと一緒に殺しはしない。 ルシア:どうして…… ロイド:まあ……俺にもいろいろとあったんだよ。それこそお前に関係ないけどね。 ルシア:でも、バディである私に何も言わずになんて……! ロイド:別に……言おうが言うまいが関係ないだろ。 ルシア:……え……? ロイド:組織を抜ければ、頭の固いシルバーとも、腹の中で何考えてるか分かんないヒリスとも……真面目過ぎてつまんないお前とも、もう顔合わせなくて済む。 ルシア:……ロイ、ド…… ロイド:つまりバディは解消ってことだ。お前もさ、俺がいない方がやりやすいんじゃないかい?いっつもケンカばっかりだったもんねぇ、俺たち。 ロイド:俺みたいな不真面目で協調性の欠片もない奴じゃなくて、もっと一緒に組んでてやりやすい奴と、新しくバディを組みなよ。……まあ、お前は一人でも十分やっていけると思うけど。 ロイド:だから、俺のことなんかさっさと忘れて―― 0:(ロイドの言葉が終わる前に) ルシア:……私は!! ルシア:私は……たしかに……貴方のことが、好きじゃありませんでした。いつも仕事が適当で、不真面目で、ボスからのお説教を私だけに押し付けたりもして…… ルシア:『この人とは合わない』、『どうしてこんな人とバディを組まなくてはいけないのか』と、最初こそ毎日思っていました。 ロイド:……だったら―― ルシア:だけど……嫌い、だったわけじゃありません……。 ルシア:私の足りないところを、うまい具合に貴方が補ってくれたり……私が挫けそうなときに、引っ張り上げてくれたり。貴方がいるだけで、心強かったのも事実です。 ルシア:だから……いない方がいい、なんて……そんな風には、私は…… ロイド:……。 0:少し黙り込んだ後、ロイドが重たいため息とともに、困ったように額に手を当てる。 ロイド:……参ったな。勘弁してくれ。 ルシア:ロイド…… ロイド:分かった、分かったよ。お前の気持ちは分かったから。 ロイド:だからそんな泣きそうな顔するなよ、お前らしくもない。……俺が泣かせたみたいで気まずいだろ。 ロイド:……(ため息)。 ルシア:……すみません、少し……感情的になってしまいました……。 ロイド:いや、その……なんていうか……悪かったよ、俺の言い方が少し、尖ってたから……。 ロイド:俺も別に……お前のこと、嫌いじゃなかったよ。真面目過ぎてつまんないと思ってたのは本当だけど……お前に助けられたことだって何度もあるしね。 ロイド:お前、強いからさ。見てて面白かったし。……だから、楽しかったって言っても嘘にはならないよ。 ロイド:まあ、その……なんていうかな。最後くらい、ちゃんと言っとくよ。……ありがとう。 ルシア:……いえ、こちらこそです。 ルシア:私も、ケンカばかりではありましたが……楽しかったですよ。貴方から学ぶことも、たくさんありました。 ロイド:ハハ、俺から学ぶことなんて、ろくでもないことばっかりだろうにね。 ロイド:……で、お前これからどうするんだい。 ルシア:それは……まだ、分かりません。 ルシア:でも私は、どんな道であったとしても……ボスについていこうと思います。 ロイド:……そうかい。 ロイド:あの爺さん、頭が固くて説教が長くて俺は苦手だったけど……お前がついてるなら大丈夫だろうね。ちゃんとそばで支えてやれよ。 ルシア:はい、もちろん。 ルシア:貴方は……妹さんと一緒に、行くんでしょう? ロイド:……なんだよ、知ってたのか。 ルシア:ええ、まあ。 ルシア:これからは、別々の道になりますが……きっと貴方なら大丈夫だと、そう思います。 ロイド:だと、いいけどね。 ロイド:……さて、俺はそろそろ行くよ。 ルシア:ロイド。 ロイド:なんだい、ルシア。 ルシア:貴方が忘れてと言っても、多分私は……貴方のこと、忘れないと思います。 ルシア:いえ……忘れないと、約束します。 ロイド:ハハ、そうかい。 ロイド:俺も多分、忘れないよ、お前のことは。ちゃんと覚えておく。……これも約束だ。 ルシア:……はい。 ロイド:……じゃあね。また、いつか。 ルシア:ええ。……お元気で。 0:  0:  0:  0:病院にて。 0:中庭のベンチに座っているチェルシーのもとに、ジェイドが駆けてくる。 ジェイド:おーい!チェルシー! チェルシー:……ジェイド! ジェイド:悪い悪い、お待たせ! チェルシー:ちょ、走ってこなくてもいいのに……また傷が開いたりしたらどうするのよ。 ジェイド:アハハ、大丈夫だって。……わざわざありがとな、退院したからって迎えに来てくれてさ。 チェルシー:当たり前よ。……あなたが怪我したの、私のせいでもあるし。 ジェイド:そんなことない。俺が飛び出したのが悪いんだからさ、気にすんなよ。 チェルシー:でも、私を守ろうとしてくれたんでしょ。 ジェイド:まあ、それはそうだけど。 チェルシー:……本当に、ごめんね、ジェイド。 ジェイド:もういいんだよ、チェルシー。これ以上謝らないでくれよ。逆に俺が申し訳なくなっちゃうだろ。 チェルシー:……。 ジェイド:……俺さ、チェルシー。 ジェイド:アデルのことも、チェルシーのことも……大事な友達だって思ってる。だから、お前らが何を抱えてたとしても俺は……全部受け入れるよ。 ジェイド:絶対に、何があっても、お前らの味方でいる。……それだけは、約束できる。 ジェイド:だからさ、チェルシー。これからも、俺……お前らと友達でいて、いいかな。 チェルシー:……ジェイド……。 チェルシー:ほんとに、あんたって……なんていうか、もう…… チェルシー:……私、あなたに出会えて、本当に良かった。 チェルシー:私もね、約束する。もう、あなたに嘘はつかない。隠し事もしない。 チェルシー:だから、これからも……今までみたいに、一緒にいてくれる? ジェイド:あったりまえだ。 ジェイド:俺さ、アデルみたいに強くなるって決めたんだ。……チェルシーを泣かせるやつを、今度は俺がボコボコにしてやるから。 ジェイド:だから、大丈夫だよ。 チェルシー:……ふふ。ありがとう、ジェイド。 0:  0:  0:  0:(十分間を置いてから) ユリア:(N)誰かを愛するとは、誰かを信じること。 ユリア:(N)誰かを受け入れること。 ユリア:(N)誰かを守りたいと思うこと。 ユリア:(N)だけど、そこに生まれる感情は、決して明るいものばかりじゃなくて。 ユリア:(N)嫉妬、怒り、悲しみ。……ドロドロになった感情が渦巻いていく。 ユリア:(N)すれ違って、間違えて、傷付け合って……ボロボロになりながらも、誰かと繋がるために、必死に手を伸ばす。 ユリア:(N)でもきっと、その手を掴んでくれる人は、必ずいるから。ひとりぼっちじゃ、ないから。 ユリア:(N)愛し方は、人それぞれ。不器用でもいい。遠回りでもいい。 ユリア:(N)忘れてはいけない言葉を、笑顔を、約束を……ひとつひとつ、胸に刻んで。 ユリア:(N)それはいつか必ず、花を咲かせて……あなたの道標となってくれるはずだから。 ユリア:(N)正解は一つじゃない。だから、あなたはあなたの、信じる道を――。 0:  0:  0:  0:事務所の電話が鳴る。 0:慌てて駆けてきたチェルシーがそれを取る。 チェルシー:お電話ありがとうございます、何でも屋です! チェルシー:……はい、はい……分かりました!準備ができ次第、すぐに向かいますね! 0:電話を切るチェルシー。 アデル:新しい依頼か? チェルシー:ええ、ペットの子犬が脱走しちゃって、探すのを手伝ってほしいんですって。 アデル:子犬、か……。 ジェイド:お、迷子探しか?それなら俺の得意分野だ! チェルシー:ふふ、やる気十分ね、ジェイド。 アデル:お前、動物に好かれやすいもんな。頼りにしてるぞ、ジェイド。 ジェイド:おうよ!任せとけ! 0:支度の途中、ジェイドがふと思い出したように顔を上げる。 ジェイド:……なんかさ、懐かしいな。 アデル:何が? ジェイド:前もさ、こうやってみんなで迷子探し、したよなって。 ジェイド:あの時は、逃げだしたのがうちの教会の子猫だったわけだけど。 チェルシー:ああ、そういえば……そうだったわね。 アデル:あれから、全部始まったんだよな。 チェルシー:……ええ、そうね。 ジェイド:でも……良かったんだよな、これで。少なくとも俺は、そう思ってるよ。 チェルシー:……うん、私も。 アデル:俺も、そう思う。きっと……もう間違えない。 0:  0:(少し間を置いてから) 0:  アデル:さあ、準備はいいか?チェルシー、ジェイド。 チェルシー:オッケーよ! ジェイド:俺もだ! アデル:よし……じゃあ、行くぞ! 0:  0:STRAYSHEEPシリーズ 完。 0:  0:ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。