台本概要
437 views
タイトル | STRAYSHEEP Ⅹ |
---|---|
作者名 | 紫音 (@Sion_kyo2) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 8人用台本(男3、女5) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
『あなたはあなたの、信じる道を。』 それぞれが背負った罪、償うために選んだ道。間違えたっていい。遠回りしたっていい。だってきっと、一人じゃないから――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― STRAYSHEEPシリーズ十作目になります。最終作です。 時間は20分~30分を想定しています。 上演の際、お手数でなければお知らせいただけると嬉しいです。※必須ではないです。 437 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
アデル | 男 | 18 | 何でも屋。元殺し屋“デュアルバレット”。 |
チェルシー | 女 | 15 | 何でも屋。元殺し屋“デュアルバレット”。 |
ルシア | 女 | 20 | 殺し屋。ロイドの相棒(バディ)。 |
ロイド | 男 | 20 | 殺し屋。ルシアの相棒(バディ)。ミッシェルの兄。 |
ノエル | 女 | 25 | 元バウンティハンター。 |
ミッシェル | 女 | 24 | 元バウンティハンター。ロイドの妹。 |
ジェイド | 男 | 14 | アデルとチェルシーの友人。街の教会で暮らしている青年。 |
ユリア | 女 | 11 | アデルの友達。故人。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:墓地にて。
0:ユリアの墓に花を手向けるアデル。
アデル:……久しぶりだな、ユリア。
アデル:ごめんな、ずっと顔見せに来てなくて。いつか来なきゃいけないと思ってたのに……気付いたらこんなに時間が経っちまってた。
ユリア:……ふふ、遅いよ、アデル。
ユリア:全然会いに来てくれないから、私待ちくたびれちゃった。
アデル:俺さ……お前に謝らなきゃいけないことがあるんだ。
ユリア:なぁに?
アデル:俺は……お前との約束を、守れてなかった。
アデル:お前のことを、忘れそうになってたんだ。
アデル:いや、ちょっと違うな。……忘れようと、してた。償うなんて言いながら、過去に蓋をしてた。
アデル:でも……俺はもう、見ないふりはしないから。お前とのことも……全部、忘れない。
アデル:だから……見守っててくれるか、ユリア。
ユリア:……ふふ。
ユリア:もちろんだよ、アデル。あなたが望む限りずっと、ここから見守ってる。
アデル:……俺は、相変わらず花はそんなに好きじゃないけど。
アデル:お前が好きだったフリージアは……ちょっとだけ、好きになったよ。
ユリア:えー、ちょっとだけなの?『大好き!』って言ってほしかったなー。
アデル:……約束だもんな、ユリア。ずっと友達っていう……約束。
ユリア:……うん。約束。
アデル:いつか……またお前に会えるかな。
ユリア:……だめだよ、アデル。
ユリア:あなたはまだ、こっちに来ちゃだめ。だってあなたの周りには、大切な人がたっくさんいるでしょ?
アデル:……きっと、まだ来ちゃだめだって言うんだろうな、お前は。
ユリア:うんうん、その通り。
アデル:でもさ……いつかまた会えたら……一緒に育てようか、フリージア。
ユリア:……!
ユリア:……うん。絶対ね!
ユリア:今度は約束、破らないでよ?
アデル:今度は約束、破らねぇから。
アデル:だから、もう少し待っててな。
ユリア:……うん。
アデル:じゃあ……また来る。
0:去っていくアデル。
0:誰の目にも映らないユリアは、アデルの背中に向かって微笑んだ。
ユリア:……ねえ、アデル。きっともう、大丈夫だね。
ユリア:今度はお友達も一緒に連れて、また会いにきて。……待ってるよ、アデル。
0:
0:
0:
0:某所にて。
0:壁にもたれかかり、腕時計をちらちらと気にするノエル。
ノエル:……(ため息)。
ノエル:遅ぇな、ミッシェルのやつ……何分待たせる気だよ……
ミッシェル:……ノエルさーん!!
ノエル:……!
0:息を切らして、ミッシェルが走ってくる。
ミッシェル:すみません、お待たせしてしまって……!
ノエル:遅い。遅すぎ。30分遅刻とかありえないです。
ミッシェル:あうう……すみません……
ノエル:ったく……どこで何してたんですか。
ミッシェル:あの……その……
ノエル:怒らないから言ってみろ。
ミッシェル:実は、これを……
0:恐る恐るミッシェルが差し出したのは、ドーナツ屋の袋。
0:なかにはぎっしりとドーナツが詰め込まれている。
ノエル:……なんですかこれ、ドーナツ?
ミッシェル:メイン通りに、今日新しくドーナツ屋さんがオープンしたんです。
ミッシェル:それがすごく美味しそうだったから、ノエルさんと一緒に食べようと思って……でもいざ買おうとして長い列に並んだら、私の目の前で売り切れてしまって……
ノエル:お、おう……それで?
ミッシェル:そうしたらお店の方が、新しく追加でドーナツを作ってくださるっていうから、それを待っていたらさらに時間がかかってしまいまして……
ノエル:な、なるほどな……。
ミッシェル:で、でも!おかげで揚げたてドーナツをこんなにたくさんゲット出来ました!だから一緒に食べましょう!ノエルさん!
ノエル:ていうか二人でこの量って普通に多くないか!?……いやでも、あんたそれなりに大食いだから大丈夫か……。
ノエル:でも、わざわざ私の分まで買ってこなくったっていいのに……
ミッシェル:だってノエルさん、ドーナツお好きでしょう?
ノエル:……え?
ミッシェル:前に私が作ったドーナツ、とっても美味しそうに食べてくださいましたから……てっきりそうなのかと。
ミッシェル:私の勘違いでした……?
ノエル:……いや、まあ……好きなのは本当ですけど。
ノエル:あんたが作ったドーナツだから旨かったっていうのも……あるかなって……
ミッシェル:……うふふっ。
ノエル:なんだよ。
ミッシェル:いえ……今度また、久しぶりにドーナツを作ろうかと。
ミッシェル:ノエルさんが喜んでくださるなら、何度でも、毎日でも作ります!
ノエル:毎日はさすがに飽きるって……。
ミッシェル:ねえ、ノエルさん。
ノエル:……なんですか。
ミッシェル:私、最初はノエルさんのこと、怖い人だと思ってました。
ノエル:……いや、なんだよ急に。
ミッシェル:でも、ノエルさんとの時間を重ねるうちに気付きました。……ノエルさんは不器用なだけで、思いやりにあふれた、優しい人なんだ、って。
ミッシェル:私、ノエルさんと出会えて本当に良かったです。守られてばかり、庇ってもらってばかりでしたけど……たくさんのことを、ノエルさんに教えてもらいました。
ミッシェル:まだまだ私は、強くならなきゃいけません。だから、これからも私は、ノエルさんについていきたいです。
ノエル:……おいおい……なんか、急にそんなこと言われるの……調子狂うだろ。
ミッシェル:でも!こういうのは言葉にしないと伝わらないではありませんか!
ノエル:いやそうだけど……唐突にそういう話されるとその、なんか、なんかあれなんだよ!
ミッシェル:あれってなんですか?
ノエル:えいやだから、その……あー説明むずい!
0:(少しの間)
ノエル:ていうか、ミッシェル。
ミッシェル:はい?
ノエル:その……『ついていく』っていうの、やめません?
ミッシェル:……え?
ノエル:私はあんたのこと……『友達』だって思ってるんですよ。
ノエル:『友達』ってさ、どっちが上とか下とか、前とか後ろとかないだろ。私があんたを引っ張り上げるわけでも、背中を押してやるわけでもない。
ノエル:『友達』だから……横に並んで、一緒に歩いてたいんですよ、私は。
ノエル:だから、その……『ついていく』んじゃなくて、ただ『一緒にいる』……じゃ、だめですかね。
ミッシェル:……ノエルさん……
ノエル:な、なんだよ、そんなにじっと見つめんなよ……
ミッシェル:……ふふ。
ミッシェル:そうですね。……ええ、そうでした。『友達』、です。私たちは。
ミッシェル:お約束します、ノエルさん。私は……これからもノエルさんの横を、一緒に歩きます。ぜひ、そうさせてください。
ノエル:……ま、グズグズ歩いてたら置いていきますけどね。
ミッシェル:大丈夫です!絶対追いつきますから!
ノエル:……ハハ、いい返事。
ノエル:さ、それじゃあとりあえず……ドーナツ食いながら今後のことでも考えましょうかね。
ミッシェル:はい!
ノエル:……ああ、そういえば……あんたのお兄さん、いつこっちに来るんですか?
ミッシェル:お兄様は、この後合流する予定みたいですよ。
ミッシェル:先にやることがある……って、言ってましたけど……。
0:
0:
0:
0:某所にて。
0:黙々と歩いていくロイド。
0:後方から走ってきたルシアが、それを呼び止める。
ルシア:……ロイド!
ロイド:ん?
ルシア:待ってください!どこに行くつもりですか……!
ロイド:どこって……そんなの俺の自由だろ。なんでわざわざ追いかけてくるんだい?
ルシア:なんでって……そんなの、こっちが聞きたいくらいです!
ルシア:どういうことですか、組織を抜けるって……!
ロイド:あー……なんだ、もう聞いたのか。
ルシア:答えてください!
ロイド:……そのまんまの意味。俺はこれ以上、お前らと一緒に殺しはしない。
ルシア:どうして……
ロイド:まあ……俺にもいろいろとあったんだよ。それこそお前に関係ないけどね。
ルシア:でも、バディである私に何も言わずになんて……!
ロイド:別に……言おうが言うまいが関係ないだろ。
ルシア:……え……?
ロイド:組織を抜ければ、頭の固いシルバーとも、腹の中で何考えてるか分かんないヒリスとも……真面目過ぎてつまんないお前とも、もう顔合わせなくて済む。
ルシア:……ロイ、ド……
ロイド:つまりバディは解消ってことだ。お前もさ、俺がいない方がやりやすいんじゃないかい?いっつもケンカばっかりだったもんねぇ、俺たち。
ロイド:俺みたいな不真面目で協調性の欠片もない奴じゃなくて、もっと一緒に組んでてやりやすい奴と、新しくバディを組みなよ。……まあ、お前は一人でも十分やっていけると思うけど。
ロイド:だから、俺のことなんかさっさと忘れて――
0:(ロイドの言葉が終わる前に)
ルシア:……私は!!
ルシア:私は……たしかに……貴方のことが、好きじゃありませんでした。いつも仕事が適当で、不真面目で、ボスからのお説教を私だけに押し付けたりもして……
ルシア:『この人とは合わない』、『どうしてこんな人とバディを組まなくてはいけないのか』と、最初こそ毎日思っていました。
ロイド:……だったら――
ルシア:だけど……嫌い、だったわけじゃありません……。
ルシア:私の足りないところを、うまい具合に貴方が補ってくれたり……私が挫けそうなときに、引っ張り上げてくれたり。貴方がいるだけで、心強かったのも事実です。
ルシア:だから……いない方がいい、なんて……そんな風には、私は……
ロイド:……。
0:少し黙り込んだ後、ロイドが重たいため息とともに、困ったように額に手を当てる。
ロイド:……参ったな。勘弁してくれ。
ルシア:ロイド……
ロイド:分かった、分かったよ。お前の気持ちは分かったから。
ロイド:だからそんな泣きそうな顔するなよ、お前らしくもない。……俺が泣かせたみたいで気まずいだろ。
ロイド:……(ため息)。
ルシア:……すみません、少し……感情的になってしまいました……。
ロイド:いや、その……なんていうか……悪かったよ、俺の言い方が少し、尖ってたから……。
ロイド:俺も別に……お前のこと、嫌いじゃなかったよ。真面目過ぎてつまんないと思ってたのは本当だけど……お前に助けられたことだって何度もあるしね。
ロイド:お前、強いからさ。見てて面白かったし。……だから、楽しかったって言っても嘘にはならないよ。
ロイド:まあ、その……なんていうかな。最後くらい、ちゃんと言っとくよ。……ありがとう。
ルシア:……いえ、こちらこそです。
ルシア:私も、ケンカばかりではありましたが……楽しかったですよ。貴方から学ぶことも、たくさんありました。
ロイド:ハハ、俺から学ぶことなんて、ろくでもないことばっかりだろうにね。
ロイド:……で、お前これからどうするんだい。
ルシア:それは……まだ、分かりません。
ルシア:でも私は、どんな道であったとしても……ボスについていこうと思います。
ロイド:……そうかい。
ロイド:あの爺さん、頭が固くて説教が長くて俺は苦手だったけど……お前がついてるなら大丈夫だろうね。ちゃんとそばで支えてやれよ。
ルシア:はい、もちろん。
ルシア:貴方は……妹さんと一緒に、行くんでしょう?
ロイド:……なんだよ、知ってたのか。
ルシア:ええ、まあ。
ルシア:これからは、別々の道になりますが……きっと貴方なら大丈夫だと、そう思います。
ロイド:だと、いいけどね。
ロイド:……さて、俺はそろそろ行くよ。
ルシア:ロイド。
ロイド:なんだい、ルシア。
ルシア:貴方が忘れてと言っても、多分私は……貴方のこと、忘れないと思います。
ルシア:いえ……忘れないと、約束します。
ロイド:ハハ、そうかい。
ロイド:俺も多分、忘れないよ、お前のことは。ちゃんと覚えておく。……これも約束だ。
ルシア:……はい。
ロイド:……じゃあね。また、いつか。
ルシア:ええ。……お元気で。
0:
0:
0:
0:病院にて。
0:中庭のベンチに座っているチェルシーのもとに、ジェイドが駆けてくる。
ジェイド:おーい!チェルシー!
チェルシー:……ジェイド!
ジェイド:悪い悪い、お待たせ!
チェルシー:ちょ、走ってこなくてもいいのに……また傷が開いたりしたらどうするのよ。
ジェイド:アハハ、大丈夫だって。……わざわざありがとな、退院したからって迎えに来てくれてさ。
チェルシー:当たり前よ。……あなたが怪我したの、私のせいでもあるし。
ジェイド:そんなことない。俺が飛び出したのが悪いんだからさ、気にすんなよ。
チェルシー:でも、私を守ろうとしてくれたんでしょ。
ジェイド:まあ、それはそうだけど。
チェルシー:……本当に、ごめんね、ジェイド。
ジェイド:もういいんだよ、チェルシー。これ以上謝らないでくれよ。逆に俺が申し訳なくなっちゃうだろ。
チェルシー:……。
ジェイド:……俺さ、チェルシー。
ジェイド:アデルのことも、チェルシーのことも……大事な友達だって思ってる。だから、お前らが何を抱えてたとしても俺は……全部受け入れるよ。
ジェイド:絶対に、何があっても、お前らの味方でいる。……それだけは、約束できる。
ジェイド:だからさ、チェルシー。これからも、俺……お前らと友達でいて、いいかな。
チェルシー:……ジェイド……。
チェルシー:ほんとに、あんたって……なんていうか、もう……
チェルシー:……私、あなたに出会えて、本当に良かった。
チェルシー:私もね、約束する。もう、あなたに嘘はつかない。隠し事もしない。
チェルシー:だから、これからも……今までみたいに、一緒にいてくれる?
ジェイド:あったりまえだ。
ジェイド:俺さ、アデルみたいに強くなるって決めたんだ。……チェルシーを泣かせるやつを、今度は俺がボコボコにしてやるから。
ジェイド:だから、大丈夫だよ。
チェルシー:……ふふ。ありがとう、ジェイド。
0:
0:
0:
0:(十分間を置いてから)
ユリア:(N)誰かを愛するとは、誰かを信じること。
ユリア:(N)誰かを受け入れること。
ユリア:(N)誰かを守りたいと思うこと。
ユリア:(N)だけど、そこに生まれる感情は、決して明るいものばかりじゃなくて。
ユリア:(N)嫉妬、怒り、悲しみ。……ドロドロになった感情が渦巻いていく。
ユリア:(N)すれ違って、間違えて、傷付け合って……ボロボロになりながらも、誰かと繋がるために、必死に手を伸ばす。
ユリア:(N)でもきっと、その手を掴んでくれる人は、必ずいるから。ひとりぼっちじゃ、ないから。
ユリア:(N)愛し方は、人それぞれ。不器用でもいい。遠回りでもいい。
ユリア:(N)忘れてはいけない言葉を、笑顔を、約束を……ひとつひとつ、胸に刻んで。
ユリア:(N)それはいつか必ず、花を咲かせて……あなたの道標となってくれるはずだから。
ユリア:(N)正解は一つじゃない。だから、あなたはあなたの、信じる道を――。
0:
0:
0:
0:事務所の電話が鳴る。
0:慌てて駆けてきたチェルシーがそれを取る。
チェルシー:お電話ありがとうございます、何でも屋です!
チェルシー:……はい、はい……分かりました!準備ができ次第、すぐに向かいますね!
0:電話を切るチェルシー。
アデル:新しい依頼か?
チェルシー:ええ、ペットの子犬が脱走しちゃって、探すのを手伝ってほしいんですって。
アデル:子犬、か……。
ジェイド:お、迷子探しか?それなら俺の得意分野だ!
チェルシー:ふふ、やる気十分ね、ジェイド。
アデル:お前、動物に好かれやすいもんな。頼りにしてるぞ、ジェイド。
ジェイド:おうよ!任せとけ!
0:支度の途中、ジェイドがふと思い出したように顔を上げる。
ジェイド:……なんかさ、懐かしいな。
アデル:何が?
ジェイド:前もさ、こうやってみんなで迷子探し、したよなって。
ジェイド:あの時は、逃げだしたのがうちの教会の子猫だったわけだけど。
チェルシー:ああ、そういえば……そうだったわね。
アデル:あれから、全部始まったんだよな。
チェルシー:……ええ、そうね。
ジェイド:でも……良かったんだよな、これで。少なくとも俺は、そう思ってるよ。
チェルシー:……うん、私も。
アデル:俺も、そう思う。きっと……もう間違えない。
0:
0:(少し間を置いてから)
0:
アデル:さあ、準備はいいか?チェルシー、ジェイド。
チェルシー:オッケーよ!
ジェイド:俺もだ!
アデル:よし……じゃあ、行くぞ!
0:
0:STRAYSHEEPシリーズ 完。
0:
0:ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
0:墓地にて。
0:ユリアの墓に花を手向けるアデル。
アデル:……久しぶりだな、ユリア。
アデル:ごめんな、ずっと顔見せに来てなくて。いつか来なきゃいけないと思ってたのに……気付いたらこんなに時間が経っちまってた。
ユリア:……ふふ、遅いよ、アデル。
ユリア:全然会いに来てくれないから、私待ちくたびれちゃった。
アデル:俺さ……お前に謝らなきゃいけないことがあるんだ。
ユリア:なぁに?
アデル:俺は……お前との約束を、守れてなかった。
アデル:お前のことを、忘れそうになってたんだ。
アデル:いや、ちょっと違うな。……忘れようと、してた。償うなんて言いながら、過去に蓋をしてた。
アデル:でも……俺はもう、見ないふりはしないから。お前とのことも……全部、忘れない。
アデル:だから……見守っててくれるか、ユリア。
ユリア:……ふふ。
ユリア:もちろんだよ、アデル。あなたが望む限りずっと、ここから見守ってる。
アデル:……俺は、相変わらず花はそんなに好きじゃないけど。
アデル:お前が好きだったフリージアは……ちょっとだけ、好きになったよ。
ユリア:えー、ちょっとだけなの?『大好き!』って言ってほしかったなー。
アデル:……約束だもんな、ユリア。ずっと友達っていう……約束。
ユリア:……うん。約束。
アデル:いつか……またお前に会えるかな。
ユリア:……だめだよ、アデル。
ユリア:あなたはまだ、こっちに来ちゃだめ。だってあなたの周りには、大切な人がたっくさんいるでしょ?
アデル:……きっと、まだ来ちゃだめだって言うんだろうな、お前は。
ユリア:うんうん、その通り。
アデル:でもさ……いつかまた会えたら……一緒に育てようか、フリージア。
ユリア:……!
ユリア:……うん。絶対ね!
ユリア:今度は約束、破らないでよ?
アデル:今度は約束、破らねぇから。
アデル:だから、もう少し待っててな。
ユリア:……うん。
アデル:じゃあ……また来る。
0:去っていくアデル。
0:誰の目にも映らないユリアは、アデルの背中に向かって微笑んだ。
ユリア:……ねえ、アデル。きっともう、大丈夫だね。
ユリア:今度はお友達も一緒に連れて、また会いにきて。……待ってるよ、アデル。
0:
0:
0:
0:某所にて。
0:壁にもたれかかり、腕時計をちらちらと気にするノエル。
ノエル:……(ため息)。
ノエル:遅ぇな、ミッシェルのやつ……何分待たせる気だよ……
ミッシェル:……ノエルさーん!!
ノエル:……!
0:息を切らして、ミッシェルが走ってくる。
ミッシェル:すみません、お待たせしてしまって……!
ノエル:遅い。遅すぎ。30分遅刻とかありえないです。
ミッシェル:あうう……すみません……
ノエル:ったく……どこで何してたんですか。
ミッシェル:あの……その……
ノエル:怒らないから言ってみろ。
ミッシェル:実は、これを……
0:恐る恐るミッシェルが差し出したのは、ドーナツ屋の袋。
0:なかにはぎっしりとドーナツが詰め込まれている。
ノエル:……なんですかこれ、ドーナツ?
ミッシェル:メイン通りに、今日新しくドーナツ屋さんがオープンしたんです。
ミッシェル:それがすごく美味しそうだったから、ノエルさんと一緒に食べようと思って……でもいざ買おうとして長い列に並んだら、私の目の前で売り切れてしまって……
ノエル:お、おう……それで?
ミッシェル:そうしたらお店の方が、新しく追加でドーナツを作ってくださるっていうから、それを待っていたらさらに時間がかかってしまいまして……
ノエル:な、なるほどな……。
ミッシェル:で、でも!おかげで揚げたてドーナツをこんなにたくさんゲット出来ました!だから一緒に食べましょう!ノエルさん!
ノエル:ていうか二人でこの量って普通に多くないか!?……いやでも、あんたそれなりに大食いだから大丈夫か……。
ノエル:でも、わざわざ私の分まで買ってこなくったっていいのに……
ミッシェル:だってノエルさん、ドーナツお好きでしょう?
ノエル:……え?
ミッシェル:前に私が作ったドーナツ、とっても美味しそうに食べてくださいましたから……てっきりそうなのかと。
ミッシェル:私の勘違いでした……?
ノエル:……いや、まあ……好きなのは本当ですけど。
ノエル:あんたが作ったドーナツだから旨かったっていうのも……あるかなって……
ミッシェル:……うふふっ。
ノエル:なんだよ。
ミッシェル:いえ……今度また、久しぶりにドーナツを作ろうかと。
ミッシェル:ノエルさんが喜んでくださるなら、何度でも、毎日でも作ります!
ノエル:毎日はさすがに飽きるって……。
ミッシェル:ねえ、ノエルさん。
ノエル:……なんですか。
ミッシェル:私、最初はノエルさんのこと、怖い人だと思ってました。
ノエル:……いや、なんだよ急に。
ミッシェル:でも、ノエルさんとの時間を重ねるうちに気付きました。……ノエルさんは不器用なだけで、思いやりにあふれた、優しい人なんだ、って。
ミッシェル:私、ノエルさんと出会えて本当に良かったです。守られてばかり、庇ってもらってばかりでしたけど……たくさんのことを、ノエルさんに教えてもらいました。
ミッシェル:まだまだ私は、強くならなきゃいけません。だから、これからも私は、ノエルさんについていきたいです。
ノエル:……おいおい……なんか、急にそんなこと言われるの……調子狂うだろ。
ミッシェル:でも!こういうのは言葉にしないと伝わらないではありませんか!
ノエル:いやそうだけど……唐突にそういう話されるとその、なんか、なんかあれなんだよ!
ミッシェル:あれってなんですか?
ノエル:えいやだから、その……あー説明むずい!
0:(少しの間)
ノエル:ていうか、ミッシェル。
ミッシェル:はい?
ノエル:その……『ついていく』っていうの、やめません?
ミッシェル:……え?
ノエル:私はあんたのこと……『友達』だって思ってるんですよ。
ノエル:『友達』ってさ、どっちが上とか下とか、前とか後ろとかないだろ。私があんたを引っ張り上げるわけでも、背中を押してやるわけでもない。
ノエル:『友達』だから……横に並んで、一緒に歩いてたいんですよ、私は。
ノエル:だから、その……『ついていく』んじゃなくて、ただ『一緒にいる』……じゃ、だめですかね。
ミッシェル:……ノエルさん……
ノエル:な、なんだよ、そんなにじっと見つめんなよ……
ミッシェル:……ふふ。
ミッシェル:そうですね。……ええ、そうでした。『友達』、です。私たちは。
ミッシェル:お約束します、ノエルさん。私は……これからもノエルさんの横を、一緒に歩きます。ぜひ、そうさせてください。
ノエル:……ま、グズグズ歩いてたら置いていきますけどね。
ミッシェル:大丈夫です!絶対追いつきますから!
ノエル:……ハハ、いい返事。
ノエル:さ、それじゃあとりあえず……ドーナツ食いながら今後のことでも考えましょうかね。
ミッシェル:はい!
ノエル:……ああ、そういえば……あんたのお兄さん、いつこっちに来るんですか?
ミッシェル:お兄様は、この後合流する予定みたいですよ。
ミッシェル:先にやることがある……って、言ってましたけど……。
0:
0:
0:
0:某所にて。
0:黙々と歩いていくロイド。
0:後方から走ってきたルシアが、それを呼び止める。
ルシア:……ロイド!
ロイド:ん?
ルシア:待ってください!どこに行くつもりですか……!
ロイド:どこって……そんなの俺の自由だろ。なんでわざわざ追いかけてくるんだい?
ルシア:なんでって……そんなの、こっちが聞きたいくらいです!
ルシア:どういうことですか、組織を抜けるって……!
ロイド:あー……なんだ、もう聞いたのか。
ルシア:答えてください!
ロイド:……そのまんまの意味。俺はこれ以上、お前らと一緒に殺しはしない。
ルシア:どうして……
ロイド:まあ……俺にもいろいろとあったんだよ。それこそお前に関係ないけどね。
ルシア:でも、バディである私に何も言わずになんて……!
ロイド:別に……言おうが言うまいが関係ないだろ。
ルシア:……え……?
ロイド:組織を抜ければ、頭の固いシルバーとも、腹の中で何考えてるか分かんないヒリスとも……真面目過ぎてつまんないお前とも、もう顔合わせなくて済む。
ルシア:……ロイ、ド……
ロイド:つまりバディは解消ってことだ。お前もさ、俺がいない方がやりやすいんじゃないかい?いっつもケンカばっかりだったもんねぇ、俺たち。
ロイド:俺みたいな不真面目で協調性の欠片もない奴じゃなくて、もっと一緒に組んでてやりやすい奴と、新しくバディを組みなよ。……まあ、お前は一人でも十分やっていけると思うけど。
ロイド:だから、俺のことなんかさっさと忘れて――
0:(ロイドの言葉が終わる前に)
ルシア:……私は!!
ルシア:私は……たしかに……貴方のことが、好きじゃありませんでした。いつも仕事が適当で、不真面目で、ボスからのお説教を私だけに押し付けたりもして……
ルシア:『この人とは合わない』、『どうしてこんな人とバディを組まなくてはいけないのか』と、最初こそ毎日思っていました。
ロイド:……だったら――
ルシア:だけど……嫌い、だったわけじゃありません……。
ルシア:私の足りないところを、うまい具合に貴方が補ってくれたり……私が挫けそうなときに、引っ張り上げてくれたり。貴方がいるだけで、心強かったのも事実です。
ルシア:だから……いない方がいい、なんて……そんな風には、私は……
ロイド:……。
0:少し黙り込んだ後、ロイドが重たいため息とともに、困ったように額に手を当てる。
ロイド:……参ったな。勘弁してくれ。
ルシア:ロイド……
ロイド:分かった、分かったよ。お前の気持ちは分かったから。
ロイド:だからそんな泣きそうな顔するなよ、お前らしくもない。……俺が泣かせたみたいで気まずいだろ。
ロイド:……(ため息)。
ルシア:……すみません、少し……感情的になってしまいました……。
ロイド:いや、その……なんていうか……悪かったよ、俺の言い方が少し、尖ってたから……。
ロイド:俺も別に……お前のこと、嫌いじゃなかったよ。真面目過ぎてつまんないと思ってたのは本当だけど……お前に助けられたことだって何度もあるしね。
ロイド:お前、強いからさ。見てて面白かったし。……だから、楽しかったって言っても嘘にはならないよ。
ロイド:まあ、その……なんていうかな。最後くらい、ちゃんと言っとくよ。……ありがとう。
ルシア:……いえ、こちらこそです。
ルシア:私も、ケンカばかりではありましたが……楽しかったですよ。貴方から学ぶことも、たくさんありました。
ロイド:ハハ、俺から学ぶことなんて、ろくでもないことばっかりだろうにね。
ロイド:……で、お前これからどうするんだい。
ルシア:それは……まだ、分かりません。
ルシア:でも私は、どんな道であったとしても……ボスについていこうと思います。
ロイド:……そうかい。
ロイド:あの爺さん、頭が固くて説教が長くて俺は苦手だったけど……お前がついてるなら大丈夫だろうね。ちゃんとそばで支えてやれよ。
ルシア:はい、もちろん。
ルシア:貴方は……妹さんと一緒に、行くんでしょう?
ロイド:……なんだよ、知ってたのか。
ルシア:ええ、まあ。
ルシア:これからは、別々の道になりますが……きっと貴方なら大丈夫だと、そう思います。
ロイド:だと、いいけどね。
ロイド:……さて、俺はそろそろ行くよ。
ルシア:ロイド。
ロイド:なんだい、ルシア。
ルシア:貴方が忘れてと言っても、多分私は……貴方のこと、忘れないと思います。
ルシア:いえ……忘れないと、約束します。
ロイド:ハハ、そうかい。
ロイド:俺も多分、忘れないよ、お前のことは。ちゃんと覚えておく。……これも約束だ。
ルシア:……はい。
ロイド:……じゃあね。また、いつか。
ルシア:ええ。……お元気で。
0:
0:
0:
0:病院にて。
0:中庭のベンチに座っているチェルシーのもとに、ジェイドが駆けてくる。
ジェイド:おーい!チェルシー!
チェルシー:……ジェイド!
ジェイド:悪い悪い、お待たせ!
チェルシー:ちょ、走ってこなくてもいいのに……また傷が開いたりしたらどうするのよ。
ジェイド:アハハ、大丈夫だって。……わざわざありがとな、退院したからって迎えに来てくれてさ。
チェルシー:当たり前よ。……あなたが怪我したの、私のせいでもあるし。
ジェイド:そんなことない。俺が飛び出したのが悪いんだからさ、気にすんなよ。
チェルシー:でも、私を守ろうとしてくれたんでしょ。
ジェイド:まあ、それはそうだけど。
チェルシー:……本当に、ごめんね、ジェイド。
ジェイド:もういいんだよ、チェルシー。これ以上謝らないでくれよ。逆に俺が申し訳なくなっちゃうだろ。
チェルシー:……。
ジェイド:……俺さ、チェルシー。
ジェイド:アデルのことも、チェルシーのことも……大事な友達だって思ってる。だから、お前らが何を抱えてたとしても俺は……全部受け入れるよ。
ジェイド:絶対に、何があっても、お前らの味方でいる。……それだけは、約束できる。
ジェイド:だからさ、チェルシー。これからも、俺……お前らと友達でいて、いいかな。
チェルシー:……ジェイド……。
チェルシー:ほんとに、あんたって……なんていうか、もう……
チェルシー:……私、あなたに出会えて、本当に良かった。
チェルシー:私もね、約束する。もう、あなたに嘘はつかない。隠し事もしない。
チェルシー:だから、これからも……今までみたいに、一緒にいてくれる?
ジェイド:あったりまえだ。
ジェイド:俺さ、アデルみたいに強くなるって決めたんだ。……チェルシーを泣かせるやつを、今度は俺がボコボコにしてやるから。
ジェイド:だから、大丈夫だよ。
チェルシー:……ふふ。ありがとう、ジェイド。
0:
0:
0:
0:(十分間を置いてから)
ユリア:(N)誰かを愛するとは、誰かを信じること。
ユリア:(N)誰かを受け入れること。
ユリア:(N)誰かを守りたいと思うこと。
ユリア:(N)だけど、そこに生まれる感情は、決して明るいものばかりじゃなくて。
ユリア:(N)嫉妬、怒り、悲しみ。……ドロドロになった感情が渦巻いていく。
ユリア:(N)すれ違って、間違えて、傷付け合って……ボロボロになりながらも、誰かと繋がるために、必死に手を伸ばす。
ユリア:(N)でもきっと、その手を掴んでくれる人は、必ずいるから。ひとりぼっちじゃ、ないから。
ユリア:(N)愛し方は、人それぞれ。不器用でもいい。遠回りでもいい。
ユリア:(N)忘れてはいけない言葉を、笑顔を、約束を……ひとつひとつ、胸に刻んで。
ユリア:(N)それはいつか必ず、花を咲かせて……あなたの道標となってくれるはずだから。
ユリア:(N)正解は一つじゃない。だから、あなたはあなたの、信じる道を――。
0:
0:
0:
0:事務所の電話が鳴る。
0:慌てて駆けてきたチェルシーがそれを取る。
チェルシー:お電話ありがとうございます、何でも屋です!
チェルシー:……はい、はい……分かりました!準備ができ次第、すぐに向かいますね!
0:電話を切るチェルシー。
アデル:新しい依頼か?
チェルシー:ええ、ペットの子犬が脱走しちゃって、探すのを手伝ってほしいんですって。
アデル:子犬、か……。
ジェイド:お、迷子探しか?それなら俺の得意分野だ!
チェルシー:ふふ、やる気十分ね、ジェイド。
アデル:お前、動物に好かれやすいもんな。頼りにしてるぞ、ジェイド。
ジェイド:おうよ!任せとけ!
0:支度の途中、ジェイドがふと思い出したように顔を上げる。
ジェイド:……なんかさ、懐かしいな。
アデル:何が?
ジェイド:前もさ、こうやってみんなで迷子探し、したよなって。
ジェイド:あの時は、逃げだしたのがうちの教会の子猫だったわけだけど。
チェルシー:ああ、そういえば……そうだったわね。
アデル:あれから、全部始まったんだよな。
チェルシー:……ええ、そうね。
ジェイド:でも……良かったんだよな、これで。少なくとも俺は、そう思ってるよ。
チェルシー:……うん、私も。
アデル:俺も、そう思う。きっと……もう間違えない。
0:
0:(少し間を置いてから)
0:
アデル:さあ、準備はいいか?チェルシー、ジェイド。
チェルシー:オッケーよ!
ジェイド:俺もだ!
アデル:よし……じゃあ、行くぞ!
0:
0:STRAYSHEEPシリーズ 完。
0:
0:ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。